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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109373
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】蓄電装置、及び蓄電装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240806BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240806BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240806BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240806BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0585
H01M10/0567
H01M4/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014127
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 希世奈
(72)【発明者】
【氏名】荒川 俊也
(72)【発明者】
【氏名】岩田 寛
(72)【発明者】
【氏名】河合 智之
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ07
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL18
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ17
5H029CJ16
5H029CJ28
5H029HJ18
5H050AA13
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB29
5H050FA03
5H050GA18
5H050HA18
(57)【要約】
【課題】バイポーラ電極を介して直列に接続された複数の蓄電セルを備える蓄電装置に関して、金属異物の混入が抑制され、かつ金属異物の混入の有無を検査する工程における過充電による劣化が抑制された蓄電装置を提供する。
【解決手段】蓄電装置20は、正極活物質層31及び負極活物質層32を有するバイポーラ電極を介して直列に接続された複数の蓄電セル29を備える。正極活物質層31は、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が4.2V以下である正極活物質を含有する。蓄電セル29には、正極活物質よりも酸化・還元電位の高いレドックスシャトル剤を含む電解液Lが収容されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層及び負極活物質層を有するバイポーラ電極を介して直列に接続された複数の蓄電セルを備える蓄電装置であって、
前記正極活物質層は、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が4.2V以下である正極活物質を含有し、
前記蓄電セルの各々には、前記正極活物質よりも酸化・還元電位の高いレドックスシャトル剤を含む電解液が収容されていることを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
前記電解液における前記レドックスシャトル剤の含有量は、0.01M以上0.1M以下である請求項1に記載の蓄電装置。
【請求項3】
前記正極活物質は、一般式LiFeh1h2POで表されるオリビン型構造を有するポリアニオン系化合物(Mは、Mn、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te、Moからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、h1,h2は、0<h1かつ0<h1+h2<2を満足する数値である。)である請求項1に記載の蓄電装置。
【請求項4】
検査前の蓄電装置を製造する製造工程と、前記検査前の蓄電装置を検査する異物検査工程とを有する蓄電装置の製造方法であって、
前記検査前の蓄電装置は、
正極活物質層及び負極活物質層を有するバイポーラ電極を介して直列に接続された複数の蓄電セルを備え、
前記正極活物質層は、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が4.2V以下である正極活物質を含有し、
前記蓄電セルの各々には、前記正極活物質よりも酸化・還元電位の高いレドックスシャトル剤を含む電解液が収容されており、
前記異物検査工程は、
前記検査前の蓄電装置に対して直列に電流を流すことにより、全ての前記蓄電セルが満充電になるまで充電する充電工程と、
前記充電工程において溶融した金属異物に起因する内部微短絡の発生の有無を検出する検出工程とを有することを特徴とする蓄電装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイポーラ電極を備える蓄電装置、及び蓄電装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイポーラ電極を用いた蓄電装置に関する研究が行われている。バイポーラ電極は、正極集電体及び負極集電体を備えるバイポーラ集電体と、正極集電体の表面に設けられた正極活物質層と、負極集電体の表面に設けられた負極活物質層とを備える。バイポーラ電極を用いた蓄電装置は、体積エネルギー密度及び出力の向上の観点において他の蓄電装置よりも優位であることが期待されている。
【0003】
特許文献1は、アルミニウム箔と銅箔を圧延加工してなるクラッド材をバイポーラ集電体に用いたバイポーラ電極を開示している。また、特許文献1に開示される蓄電装置は、複数のバイポーラ電極を、電解質及びセパレータを間に挟んで積層することにより、複数の蓄電セルが形成されている。上記蓄電装置において、隣接する蓄電セルは、一つのバイポーラ電極を共有するとともに、そのバイポーラ電極によって直列に接続されている。この場合、バイポーラ電極を通じて蓄電セルの積層方向に電流が流れる。そのため、上記蓄電装置は、各蓄電セルから引き出されたタブを通じて各蓄電セルが直列に接続される構造の蓄電装置と比較して、通電路の面積を広く確保できる結果、より高い出力を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-007926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蓄電セルを有する蓄電装置の製造工程中に、正極活物質層内に金属異物が混入する場合がある。金属異物が混入した蓄電装置を発見するための異物検出工程として、蓄電セルの正極電位が、金属異物が溶解する電位以上となるように蓄電セルを充電した後、溶融した金属異物に起因する内部微短絡の発生の有無に基づいて金属異物を検出する方法が知られている。
【0006】
ここで、複数の蓄電セルを備える蓄電装置の場合、個々の蓄電セルの容量に僅かなばらつきが生じる。蓄電セルの容量にばらつきがあると、バイポーラ電極を通じて複数の蓄電セルに直列に電流を流して充電する際に、蓄電セルごとに満充電になるタイミングにもばらつきが生じる。このタイミングのばらつきに起因して、以下に記載する問題が生じる。
【0007】
上記異物検出工程の初期充電として、バイポーラ電極を通じて複数の蓄電セルに直列に電流を流して充電する際には、一つの蓄電セル、例えば、最も容量が小さい蓄電セルが満充電になったタイミングで充電を止める必要がある。充電を止めずに全ての蓄電セルが満充電になるまで充電すると、先に満充電になった蓄電セルは、満充電後も電流が供給され続けることにより過充電となる。この場合、過充電となった蓄電セルにおいて、正極活物質層を構成する物質及びバイポーラ電極間に収容された電解液が分解することがある。したがって、検出工程後の蓄電装置は、一部の蓄電セルが過充電により劣化したものになるおそれがある。
【0008】
一方、上記タイミングで充電を止めると、その他の蓄電セルは、満充電まで充電されないことになる。そのため、満充電まで充電されない一部の蓄電セル、例えば、最も容量が大きい蓄電は、正極電位が上記特定電位まで上がらない。正極電位が特定電位まで上がらない蓄電セルの正極活物質層内に、溶融電位の近傍で溶融する金属異物が混入していた場合、初期充電により金属異物が溶融させることができないため、続く検出工程において、
溶融した金属異物に起因する内部微短絡を検出できなくなる。したがって、上記の検出工程後の蓄電装置は、一部の蓄電セルについて、金属異物の混入の検査が正常にできていないものになるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する蓄電装置は、正極活物質層及び負極活物質層を有するバイポーラ電極を介して直列に接続された複数の蓄電セルを備える蓄電装置であって、前記正極活物質層は、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が4.2V以下である正極活物質を含有し、前記蓄電セルの各々には、前記正極活物質よりも酸化・還元電位の高いレドックスシャトル剤を含む電解液が収容されている。
【0010】
上記蓄電装置において、前記電解液における前記レドックスシャトル剤の含有量は、0.01M以上0.1M以下であることが好ましい。
上記蓄電装置において、前記正極活物質は、一般式LiFeh1h2POで表されるオリビン型構造を有するポリアニオン系化合物(Mは、Mn、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te、Moからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、h1,h2は、0<h1かつ0<h1+h2<2を満足する数値である。)であることが好ましい。
【0011】
上記課題を解決する蓄電装置の製造方法は、検査前の蓄電装置を製造する製造工程と、前記検査前の蓄電装置を検査する異物検査工程とを有する蓄電装置の製造方法であって、前記検査前の蓄電装置は、正極活物質層及び負極活物質層を有するバイポーラ電極を介して直列に接続された複数の蓄電セルを備え、前記正極活物質層は、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が4.2V以下である正極活物質を含有し、前記蓄電セルの各々には、前記正極活物質よりも酸化・還元電位の高いレドックスシャトル剤を含む電解液が収容されており、前記異物検査工程は、前記検査前の蓄電装置に対して直列に電流を流すことにより、全ての前記蓄電セルが満充電になるまで充電する充電工程と、前記充電工程において溶融した金属異物に起因する内部微短絡の発生の有無を検出する検出工程とを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バイポーラ電極を介して直列に接続された複数の蓄電セルを備える蓄電装置に関して、金属異物の混入が抑制され、かつ金属異物の混入の有無を検査する工程における過充電による劣化が抑制された蓄電装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、蓄電装置の断面図である。
図2図2は、バイポーラ電極の断面図である。
図3図3は、実施例1及び比較例1の過充電試験の結果を示すグラフである。
図4図4は、実施例2~6及び比較例1の過充電試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面にしたがって説明する。
本実施形態の蓄電装置20は、リチウムイオン二次電池である。蓄電装置20は、例えば、フォークリフト、ハイブリッド自動車、電気自動車等の各種車両のバッテリに用いられる蓄電モジュールである。なお、蓄電装置20は、電気二重層キャパシタであってもよい。
【0015】
<蓄電装置>
図1に示すように、蓄電装置20は、積層体21と、シール部材22と、電解液Lとを備える。積層体21は、複数のバイポーラ電極23と、正極終端電極24と、負極終端電極25と、複数のセパレータ26とを有する。
【0016】
(バイポーラ電極)
図1及び図2に示すように、バイポーラ電極23は、バイポーラ集電体30と、正極活物質層31と、負極活物質層32とを備える。
【0017】
[バイポーラ集電体]
バイポーラ集電体30は、蓄電装置20の放電又は充電の間、正極活物質層31及び負極活物質層32に電流を流し続けるための化学的に不活性な電気伝導体である。バイポーラ集電体30は、第1主面30a及び第2主面30bを有する。第1主面30a及び第2主面30bは、バイポーラ集電体30の厚さ方向に垂直な面である。第2主面30bは、バイポーラ集電体30の厚さ方向において、第1主面30aの反対に位置している。以下に記載する平面視は、バイポーラ集電体30の厚さ方向に視ることを意味する。
【0018】
図2に示すように、バイポーラ集電体30は、シート状の正極集電体33と、シート状の負極集電体34とが厚さ方向に一体に接合されてなる積層体である。バイポーラ集電体30の第1主面30aは、正極集電体33により形成されている。バイポーラ集電体30の第2主面30bは、負極集電体34により形成されている。バイポーラ集電体30は、例えば、平面視矩形状である。なお、図1においては、バイポーラ集電体30を簡略化して図示している。
【0019】
正極集電体33は、蓄電装置20の放電又は充電の間、正極活物質層31に電流を流し続けるための化学的に不活性な電気伝導体である。正極集電体33の一例は、第1主面30aとなる表面がアルミニウムにより構成されるアルミニウム集電体である。アルミニウム集電体は、全体がアルミニウムにより構成された単体物であってもよいし、アルミニウムにより構成される部分とアルミニウム以外の材料により構成される部分とを有する複合体であってもよい。上記単体物としては、例えば、アルミニウム箔が挙げられる。上記複合体としては、第1主面30aを構成する層がアルミニウム層である多層構造体、第1主面30aを含む表面がアルミニウム膜によって被覆された基材が挙げられる。
【0020】
上記アルミニウム以外の材料としては、例えば、金属材料、導電性樹脂材料、導電性無機材料が挙げられる。上記金属材料としては、例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼(例えばJIS G 4305:2015にて規定されるSUS304、SUS316、SUS301、SUS304等)が挙げられる。上記導電性樹脂材料としては、例えば、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂等が挙げられる。正極集電体33の厚さは、例えば、1~100μmである。
【0021】
負極集電体34は、蓄電装置20の放電又は充電の間、負極活物質層32に電流を流し続けるための化学的に不活性な電気伝導体である。負極集電体34の一例は、第2主面30bとなる表面が銅により構成される銅集電体である。銅集電体は、全体が銅により構成された単体物であってもよいし、銅により構成される部分と銅以外の材料により構成される部分とを有する複合体であってもよい。上記単体物としては、例えば、銅箔が挙げられる。上記複合体としては、第2主面30bを構成する層が銅層である多層構造体、第2主面30bを含む表面が銅膜によって被覆された基材が挙げられる。
【0022】
上記銅以外の材料としては、例えば、金属材料、導電性樹脂材料、導電性無機材料が挙げられる。上記金属材料としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼(例えばJIS G 4305:2015にて規定されるSUS304、SUS316、SUS301、SUS304等)が挙げられる。上記導電性樹脂材料としては、例えば、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂等が挙げられる。負極集電体34の厚さは、例えば、1~100μmである。
【0023】
正極集電体33及び負極集電体34の好ましい組み合わせの一例としては、正極集電体33をアルミニウム箔により構成するとともに、負極集電体34を銅箔により構成した場合が挙げられる。また、バイポーラ集電体30としては、例えば、アルミニウム箔同士を貼り合せた集電体、アルミニウム箔と銅箔とを貼り合せた集電体、アルミニウム箔の表面に銅をメッキした集電体が挙げられる。
【0024】
[正極活物質層]
正極活物質層31は、バイポーラ集電体30の第1主面30aに設けられている。正極活物質層31の厚さは、例えば、100~500μmである。また、正極活物質層31の密度、及び目付量は特に限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照され得る。
【0025】
正極活物質層31は、例えば、平面視矩形状である。正極活物質層31の外形は、バイポーラ集電体30の外形よりも一回り小さい。図1に示すように、バイポーラ集電体30の第1主面30aは、第1未塗工領域30cを含む。第1未塗工領域30cは、正極活物質層31が設けられていない領域である。第1未塗工領域30cは、第1主面30aの周縁部に位置している。
【0026】
正極活物質層31は、正極活物質を含む。正極活物質は、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出可能である。正極活物質は、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位(vs.Li/Li)が4.2V以下の化合物である。正極活物質の上記酸化・還元電位(P1)は、例えば、3.3V以上であり、好ましくは3.4V以上である。また、上記酸化・還元電位(P1)は、好ましくは3.75以下であり、より好ましくは3.5V以下である。
【0027】
ここで、正極活物質の上記酸化・還元電位(P1)が「数値X」V以下であることは、対象となる正極活物質を単独で用いた電極について、4.5V(vs.Li/Li)まで定電圧充電を行った後、0.1CmA以下の電流で閉回路が2.0V以下となるまで放電させたとき(以下、「上記放電試験を行ったとき」と記載する。)、全放電容量に対する、「数値X」V(vs.Li/Li)を超える電位領域における放電容量の割合が1%以下であることを意味する。また、正極活物質の上記酸化・還元電位(P1)が「数値X」V以上であることは、対象となる正極活物質を単独で用いた電極について、上記放電試験を行ったとき、全放電容量に対する、「数値X」V(vs.Li/Li)未満の電位領域における放電容量の割合が1%以下である正極活物質を意味する。
【0028】
正極活物質は、例えば、一般式LiFeh1h2POで表されるオリビン型構造を有するポリアニオン系化合物である。一般式LiFeh1h2POにおけるMは、Mn、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te、Moからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、h1,h2は、0<h1かつ0<h1+h2<2を満足する数値である。オリビン型構造正極活物質としては、例えば、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)やオリビン型リン酸マンガン鉄リチウム(LiMnFePO)が挙げられる。正極活物質は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
正極活物質層31は、必要に応じて、正極活物質以外のその他成分を含んでいてもよい。その他成分としては、例えば、電気伝導性を高めるための導電助剤、結着剤、電解質(ポリマーマトリクス、イオン伝導性ポリマー、液体電解質等)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)等が挙げられる。正極活物質層31に含まれるその他成分の種類、及びその他成分の配合比は特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照され得る。
【0030】
導電助剤は、バイポーラ電極23の導電性を高めるために添加される。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0031】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド及びポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、及びデンプン-アクリル酸グラフト重合体等を例示することができる。これらの結着剤は、単独で又は複数で用いられ得る。
【0032】
[負極活物質層]
負極活物質層32は、バイポーラ集電体30の第2主面30bに設けられている。負極活物質層32の厚さは、例えば、100~500μmである。また、負極活物質層32の密度、及び目付量は特に限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照され得る。
【0033】
負極活物質層32は、例えば、平面視矩形状である。負極活物質層32の外形は、バイポーラ集電体30の外形よりも一回り小さい。バイポーラ集電体30の第2主面30bは、第2未塗工領域30dを含む。第2未塗工領域30dは、負極活物質層32が設けられていない領域である。第2未塗工領域30dは、第2主面30bの周縁部に位置している。
【0034】
負極活物質層32は、負極活物質を含む。負極活物質は、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出可能である。負極活物質は、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出可能である単体、合金、又は化合物であれば特に限定はなく使用可能である。負極活物質としては、例えば、Li、又は、炭素、金属化合物、リチウムと合金化可能な元素もしくはその化合物等が挙げられる。炭素としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)、ソフトカーボン(易黒鉛化性炭素)が挙げられる。人造黒鉛としては、例えば、高配向性グラファイト、メソカーボンマイクロビーズが挙げられる。リチウムと合金化可能な元素としては、例えば、シリコン(ケイ素)及びスズが挙げられる。負極活物質は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。また、負極活物質は、例えば、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位(vs.Li/Li)が1.0V以下の化合物であることが好ましい。
【0035】
負極活物質層32は、必要に応じて、負極活物質以外のその他成分を含んでいてもよい。その他成分としては、正極活物質層31について記載したものと同様の成分を用いることができる。負極活物質層32に含まれるその他成分の種類、及びその他成分の配合比は特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照され得る。
【0036】
(シール部材)
シール部材22は、絶縁性の樹脂からなる。シール部材22の材料としては、酸変性ポリエチレン、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、酸変性ポリプロピレン(酸変性PP)、ABS樹脂、及びAS樹脂等の種々の樹脂材料を用いることができる。
【0037】
シール部材22は、複数の第1シール部27と、1つの第2シール部28とを有する。第1シール部27は、四角枠状である。第1シール部27は、第1シール面27a及び第2シール面27bを有する。第1シール面27a及び第2シール面27bは、第1シール部27の厚さ方向に垂直な面である。第2シール面27bは、第1シール部27の厚さ方向において、第1シール面27aの反対側に位置している。第2シール部28は、例えば、四角枠状である。
【0038】
(積層体)
積層体21は、複数のバイポーラ電極23と、正極終端電極24と、負極終端電極25と、複数のセパレータ26とが積層されることにより形成されている。複数のバイポーラ電極23、正極終端電極24、負極終端電極25、及び複数のセパレータ26が積層される方向を積層方向とする。
【0039】
セパレータ26は、例えば、液体電解質を吸収保持するポリマーを含む多孔性シート又は不織布である。セパレータ26を構成する材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリエステルなどが挙げられる。セパレータ26は、単層構造又は多層構造を有してもよい。多層構造は、例えば、接着層、耐熱層としてのセラミック層等を有してもよい。
【0040】
バイポーラ電極23とセパレータ26とは、正極終端電極24と負極終端電極25との間において交互に積層されている。積層方向に隣り合う2つのバイポーラ電極23において、一方のバイポーラ電極23の正極活物質層31は、他方のバイポーラ電極23の負極活物質層32とセパレータ26を間に挟んで向かい合っている。
【0041】
正極終端電極24は、シート状の終端正極集電体24aと、終端正極集電体24aの一方の主面に設けられた終端正極活物質層24bとを含む。終端正極集電体24aとしては、正極集電体33について記載したものを適用できる。終端正極活物質層24bとしては、正極活物質層31について記載したものを適用できる。
【0042】
負極終端電極25は、シート状の終端負極集電体25aと、終端負極集電体25aの一方の主面に設けられた終端負極活物質層25bとを含む。終端負極集電体25aとしては、負極集電体34について記載したものを適用できる。終端負極活物質層25bとしては、負極活物質層32について記載したものを適用できる。
【0043】
積層方向に隣り合う2つのバイポーラ電極23のバイポーラ集電体30の間には、第1シール部27が配置されている。第1シール部27は、積層方向に隣り合う2つのバイポーラ電極23について、一方のバイポーラ電極23の正極活物質層31と、他方のバイポーラ電極23の負極活物質層32とを取り囲んでいる。第1シール部27の第1シール面27aは、バイポーラ集電体30の第1主面30aの第1未塗工領域30cに溶着されている。第1シール部27の第2シール面27bは、バイポーラ集電体30の第2主面30bの第2未塗工領域30dに溶着されている。バイポーラ集電体30に対する第1シール部27の溶着方法としては、例えば、熱溶着、超音波溶着又は赤外線溶着など、公知の溶着方法が挙げられる。
【0044】
積層方向一方側の末端に位置するバイポーラ電極23と正極終端電極24との間、及び積層方向他方側の末端に位置するバイポーラ電極23と負極終端電極25との間には、隣り合うバイポーラ電極23間と同様に第1シール部27が配置されている。
【0045】
第2シール部28は、積層体21を取り囲むように配置されている。第2シール部28は、複数の第1シール部27を取り囲むように位置する部分と、積層方向に隣り合う第1シール部27との間に介在する部分とを有する。
【0046】
(電解液)
電解液Lは、積層方向に隣り合う2つのバイポーラ電極23のバイポーラ集電体30と、この2つのバイポーラ集電体30との間に位置する第1シール部27とによって区画された空間に収容されている。また、電解液Lは、バイポーラ電極23と、正極終端電極24と、これらの間に位置する第1シール部27とによって区画された空間、及びバイポーラ電極23と、負極終端電極25と、これらの間に位置する第1シール部27とによって区画された空間に収容されている。
【0047】
電解液Lは、例えば、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む電解液が挙げられる。電解質塩としては、例えば、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO等の公知のリチウム塩が挙げられる。また、非水溶媒としては、例えば、環状カーボネート類、環状エステル類、鎖状カーボネート類、鎖状エステル類、エーテル類等の公知の溶媒が挙げられる。なお、これら公知の溶媒材料を二種以上組合せて用いてもよい。
【0048】
電解液Lは、特定のレドックスシャトル剤を含む。レドックスシャトル剤は、レドックスシャトル剤自体の酸化還元反応によって、電池の電圧が所定の値以上となることを抑制する機能を有する化合物である。レドックスシャトル剤の詳細については後述する。
【0049】
電解液Lの粘度は、例えば、3.0cp以下であり、好ましくは2.5cp以下である。電解液Lの粘度を低くすることにより、電解液L中において、レドックスシャトル剤の拡散性が向上する。電極間をレドックスシャトル剤が移動しやすくなることにより、レドックスシャトル剤による電池の電圧上昇を抑制する機能が向上する。また、電解液Lの粘度は、例えば、2.4cp以下である。
【0050】
(蓄電セル)
蓄電装置20は、積層体21の積層方向に積層された複数の蓄電セル29を含んで構成されている。複数の蓄電セル29は、積層体21、シール部材22、及び電解液Lにより形成されている。積層方向に隣り合う二つの蓄電セル29同士は、一つのバイポーラ電極23を共有するとともに、共有するバイポーラ電極23を介して直列に接続されている。したがって、蓄電装置20は、バイポーラ電極23を介して直列に接続された複数の蓄電セル29を備えている。
【0051】
蓄電装置20に含まれる蓄電セル29の数は、2以上である。
一例として、蓄電セル29の各々は、SOC(State of charge)95%のときの正極電位が3.4V以下、かつSOC100%(満充電)のときの正極電位が3.4Vを超え、3.75V以下になるように構成されている。また、別の一例として、蓄電セル29の各々は、SOC(State of charge)95%のときの正極電位が3.75V以下、かつSOC100%(満充電)のときの正極電位が3.75Vを超え、4.2V以下になるように構成されている。上記正極電位は、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位(vs.Li/Li)を意味する。また、蓄電セル29の各々は、例えば、SOC0%のときの負極電位が1.0V以下になるように構成されている。
【0052】
ここで、蓄電装置20に含まれる各蓄電セル29は、同じ容量になるように製造されている。しかし、正極活物質層31の目付量の製造誤差などによって、蓄電装置20に含まれる各蓄電セル29は、容量のばらつきを有する。一例として、複数の蓄電セル29のうち、容量が最も小さい蓄電セル29の容量(Cmin)を100%とする。この場合、容量が最も大きい蓄電セル29の容量(Cmax)は、例えば、102%以上、103%以上、又は105%以上である。また、容量(Cmax)は、例えば、200%以下である。
【0053】
(レドックスシャトル剤の詳細)
電解液Lに含まれるレドックスシャトル剤は、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位(vs.Li/Li)が正極活物質よりも高い化合物である。レドックスシャトル剤の上記酸化・還元電位(P2)と正極活物質の上記酸化・還元電位(P1)との差(P2-P1)は、例えば、0.2V以上であり、好ましくは0.4V以上である。上記差(P2-P1)は、例えば、0.9V以下であり、好ましくは0.7V以下である。また、レドックスシャトル剤の上記酸化・還元電位(P2)は、例えば、3.75V以上であり、好ましくは3.80V以上であり、より好ましくは3.83V以上である。また、レドックスシャトル剤の上記酸化・還元電位(P2)は、例えば、4.3V以下であり、好ましくは4.2V以下である。
【0054】
ここで、レドックスシャトル剤の上記酸化・還元電位(P2)は、対象となるレドックスシャトル剤を0.02M以上添加した電解液を使用したリチウムイオン二次電池を4.5Vまで0.01C、25℃にて定電圧充電を行ったときの、dQ/dVが10以上となる最小の電圧を意味する。
【0055】
また、レドックスシャトル剤の上記酸化・還元電位(P2)が正極活物質の上記酸化・還元電位(P1)よりも高いことは、対象となる正極活物質を単独で用いた電極について、上記放電試験を行ったとき、全放電容量に対する、上記酸化・還元電位(P2)以上の電位領域における放電容量の割合が1%以下であることを意味する。また、上記差(P2-P1)が「数値Y」V以上であることは、正極活物質の上記酸化・還元電位(P1)が、レドックスシャトル剤の上記酸化・還元電位(P2)から「数値Y」を減算した値以下であることを意味する。上記差(P2-P1)が「数値Y」V以下であることは、正極活物質の上記酸化・還元電位(P1)が、レドックスシャトル剤の上記酸化・還元電位(P2)から「数値Y」を減算した値以上であることを意味する。
【0056】
レドックスシャトル剤としては、例えば、ジアルコキシベンゼン(以下、上記ジアルコキシベンゼンと記載する。)が挙げられる。上記ジアルコキシベンゼンのアルコキシは、例えば、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1~3のアルコキシ基である。上記ジアルコキシベンゼンの二つのアルコキシ基は、互いにパラ位であることが好ましい。また、上記ジアルコキシベンゼンのベンゼン環を構成する炭素原子には、tert-ブチル基等の炭素数1~5の炭化水素基が結合していることが好ましい。上記炭化水素基の数は、例えば、1~2である。上記炭化水素基の数が2である場合、二つの炭化水素基は、互いにパラ位であることが好ましい。
【0057】
上記ジアルコキシベンゼンの具体例としては、1,4-ジ-tert-ブチル-2,5-ジメトキシベンゼン(3.92~4.10V)、1,4-ジメトキシベンゼン(3.90~4.10V)、4-アリル-1,2-ジメトキシベンゼン(3.90V)、4-フルオロ-1,2-ジメトキシベンゼン(4.10V)、1,4-ジエトキシベンゼン(3.95~4.05V)が挙げられる。また、上記ジアルコキシベンゼン以外のレドックスシャトル剤としては、例えば、3-メトキシ-1,2-ベンゼンジオール(3.90V)が挙げられる。なお、上記の括弧内の数値は、各化合物の上記酸化・還元電位である。これらの化合物のなかでも、1,4-ジ-tert-ブチル-2,5-ジメトキシベンゼン、1,4-ジメトキシベンゼン、4-アリル-1,2-ジメトキシベンゼン、4-フルオロ-1,2-ジメトキシベンゼン、1,4-ジエトキシベンゼンが好ましく、1,4-ジ-tert-ブチル-2,5-ジメトキシベンゼンが特に好ましい。なお、レドックスシャトル剤は、一種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
電解液Lに含まれるレドックスシャトル剤の含有量は、例えば、0.01M以上であり、好ましくは0.02M以上である。また、上記含有量は、例えば、0.1M以下であり、好ましくは、0.05M以下である。なお、蓄電装置20が低温環境で使用されるものである場合、電解液Lにおけるレドックスシャトル剤の析出を抑制する観点から、上記含有量は、0.05M以下であることが好ましい。参考試験として、非水溶媒が、エチレンカーボネート及びメチルプロピオネートを体積比15:85で混合した混合液であり、レドックスシャトル剤が1,4-ジ-tert-ブチル-2,5-ジメトキシベンゼンである電解液Lについて、-40℃の低温環境に曝す試験を行った。その結果、上記含有量が0.05M以下の場合には、レドックスシャトル剤の析出が確認されなかった。一方、上記含有量が0.1Mの場合には、レドックスシャトル剤の析出が確認された。電解液L中にレドックスシャトル剤が析出すると、溶解状態のレドックスシャトル剤の濃度が低下することにより、レドックスシャトル剤による電池の電圧上昇を抑制する機能が低下する場合がある。
【0059】
<蓄電装置の検査方法>
次に、蓄電装置20の異物検査方法について説明する。
蓄電装置20には、正極活物質層31に金属粉等の金属異物が混入していないことを確認するための異物検査が行われる。
【0060】
蓄電装置20の検査方法は、蓄電装置20を充電する充電工程と、充電された蓄電装置20における内部微短絡を検出する検出工程とを有する。充電工程は、正極活物質層31に混入している金属異物を溶解させるための工程である。検出工程は、充電工程にて溶解した金属異物に起因する内部微短絡を検出することにより、金属異物の有無を検査する工程である。
【0061】
ここで、異物検査では、金属異物として、溶融電位が蓄電セル29のSOC95%のときの正極電位以上、SOC100%のとき(満充電時)の正極電位以下であるものを想定する。溶融電位が上記範囲にある金属異物の検出が可能であれば、溶融電位が上記範囲以下の金属異物も同様に検出できる。
【0062】
蓄電セル29の一例は、SOC95%のときの正極電位が3.4V以下、かつSOC100%のときの正極電位が3.4Vを超え、3.75V以下である蓄電セルである。この場合に想定する金属異物の一例は、銅の金属異物である。銅は、3.42V(vs.Li/Li)以上の電位において溶融して銅イオンになる。
【0063】
蓄電セル29の別の一例は、SOC95%のときの正極電位が3.75V以下、かつSOC100%のときの正極電位が3.75Vを超え、4.2V以下である蓄電セルである。この場合に想定する金属異物の一例は、SUSの金属異物である。SUSは、3.83V(vs.Li/Li)以上の電位において溶融して鉄イオン、クロムイオン、ニッケルイオン等になる。
【0064】
充電工程は、蓄電装置20の複数の蓄電セル29に対して直列に電流を流すことにより、全ての蓄電セル29が満充電になるまで充電する工程である。充電工程におけるCレートは、例えば、0.01C以上であり、好ましくは0.02C以上である。また、上記Cレートは、例えば、0.10C以下であり、好ましくは0.05C以下である。
【0065】
直列に電流を流して蓄電装置20の各蓄電セル29を充電した場合、各蓄電セル29間の容量のばらつきに起因して、満充電になるタイミングにもばらつきが生じる。この充電工程では、一つの蓄電セル29が満充電になったタイミング以降も、全ての蓄電セル29が満充電になるタイミングまで充電(電流の供給)が継続される。全ての蓄電セル29が満充電になるまで充電が継続されることにより、全ての蓄電セル29の正極電位を満充電時の電位以上にできる。なお、全ての蓄電セル29が満充電になるタイミングは、例えば、蓄電セル29ごとにSOCをモニタリングすることにより把握できる。
【0066】
ここで、蓄電セル29の正極活物質層31内に金属異物が混入していた場合、充電工程によって、その金属異物が溶融する。つまり、充電工程によって、蓄電セル29の正極電位が高くなることにより、溶融電位が満充電時の電位よりも低い金属異物が溶融する。充電工程では、全ての蓄電セル29が満充電になるまで充電されるため、全ての蓄電セル29において、金属異物を溶融させることができる。
【0067】
そして、金属異物が溶融してなる金属イオンは、負極側にて析出することにより、内部微短絡を生じさせる。検出工程は、この内部微短絡、即ち、充電工程において溶融した金属異物に起因する内部微短絡の発生の有無を検出することに基づいて、金属異物の混入の有無を検出する工程である。内部微短絡の発生を検出する方法は特に限定されるものでなく、公知の検出方法を適用できる。例えば、蓄電装置20を開回路状態で放置し、放置中の自己放電の大きさに基づいて内部微短絡を検出することができる。
【0068】
上記の検出工程は、例えば、蓄電モジュールを充放電するコンディショニング工程中に行うことができる。この場合、検出工程の充電工程は、コンディショニング工程における充電工程を兼ねることができる。また、検出工程は、コンディショニング工程とは別に行ってもよい。
【0069】
<蓄電装置の製造方法>
蓄電装置の製造方法は、検査前の蓄電装置20を製造する製造工程と、検査前の蓄電装置20を検査する異物検査工程とを有する。
【0070】
製造工程は特に限定されるものでなく、リチウムイオン二次電池を製造する従来公知の方法を適用できる。
異物検査工程では、上記の検査方法に基づいて、正極活物質層31に金属異物が混入していないことを確認する異物検査が行われる。異物検査工程は、蓄電装置20の複数の蓄電セル29に対して直列に電流を流すことにより、全ての蓄電セル29が満充電になるまで充電する充電工程と、充電工程において溶融した金属異物に起因する内部微短絡の発生の有無を検出する検出工程とを有する。異物検査工程の充電工程及び検出工程は、上記の検査方法における充電工程及び検出工程と同じである。
【0071】
<作用>
次に、本実施形態の作用について説明する。
蓄電装置20には、正極活物質層31に金属異物が混入していないことを確認するために、上記の検査方法による検査が行われる。
【0072】
当該検査の上記充電工程において、全ての蓄電セル29が満充電になるまで充電が継続される。このとき、先に満充電になった蓄電セル29については、満充電になった後も電流の供給が継続されることにより過充電状態となるため、正極電位が満充電時の電位よりも高くなってしまう。
【0073】
ここで、蓄電装置20の電解液Lには、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が正極活物質よりも高いレドックスシャトル剤が含まれている。そのため、満充電になった蓄電セル29の正極電位がレドックスシャトル剤の酸化・還元電位を超えて上昇することが抑制される。
【0074】
つまり、満充電になった蓄電セル29に対して、蓄電セル29を充電する電流が供給され続けた場合、蓄電セル29の正極電位は、満充電時の電位を超えて上昇する。そして、蓄電セル29の正極電位がレドックスシャトル剤の酸化・還元電位に達すると、蓄電セル29に供給されている電流は、レドックスシャトル剤自体の酸化還元反応により消費される。具体的には、レドックスシャトル剤は、正極側にて電子を失って酸化された状態になる。酸化されたレドックスシャトル剤は、電解液L中を負極側へと移動し、電子を受け取って還元されることにより元の状態に戻る。こうしたレドックスシャトル剤の酸化還元反応が、レドックスシャトル剤の酸化・還元電位にて連続的に繰り返されることにより、蓄電セル29の正極電位が、レドックスシャトル剤の酸化・還元電位付近で安定化する。これにより、満充電になった蓄電セル29の正極電位がレドックスシャトル剤の酸化・還元電位を超えて更に上昇することが抑制される。
【0075】
その結果、満充電になった蓄電セル29の正極電位の過度な上昇による蓄電セル29の劣化が抑制される。蓄電セル29の劣化としては、例えば、電解液Lに含まれている物質の分解、正極活物質層31を構成する決着剤などの物質の分解が挙げられる。こうした蓄電セル29の劣化は、充電後の蓄電セル29の電池性能の低下、例えば、出力低下の原因になる。
【0076】
このように、蓄電装置20によれば、バイポーラ電極23を介して直列に接続された複数の蓄電セル29に対して直列に電流を流す上記充電工程において、先に満充電になった蓄電セル29の過度な正極電位の上昇(過充電)を抑制しつつ、全ての蓄電セル29を満充電の状態にできる。そして、全ての蓄電セル29が満充電の状態になることにより、全ての蓄電セル29において、検査対象となる金属異物を溶解させることができる。これにより、上記充電工程に続く上記検出工程において、全ての蓄電セル29に対して金属異物の混入の検出を正常に行うことができる。つまり、一部の蓄電セル29において、金属異物が溶融しない状態のまま、上記検出工程が行われてしまうことを抑制できる。したがって、上記検出工程後の蓄電装置20は、金属異物の混入が抑制され、かつ金属異物の混入の有無を検査する異物検査工程における過充電による劣化が抑制されたものになる。
【0077】
<効果>
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)蓄電装置20は、正極活物質層31及び負極活物質層32を有するバイポーラ電極を介して直列に接続された複数の蓄電セル29を備える。正極活物質層31は、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が4.2V以下である正極活物質を含有する。蓄電セル29には、正極活物質よりも酸化・還元電位の高いレドックスシャトル剤を含む電解液Lが収容されている。上記構成によれば、金属異物の混入が抑制され、かつ金属異物の混入の有無を検査する異物検査工程における過充電による劣化が抑制された蓄電装置20が得られる。
【0078】
<効果>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0079】
○上記実施形態では、電解液L中にレドックスシャトル剤を含有させていたが、電解液L中に加えて、正極活物質層31中及び負極活物質層32中の一方又は両方にもレドックスシャトル剤を含有させてもよい。
【実施例0080】
以下に、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
<リチウムイオン二次電池の作製>
(実施例1)
アルミニウム箔の片側の主面に正極合材を塗布した。塗布した正極合材を乾燥させることにより、正極集電体の片側の主面に正極活物質層が形成された正極を作製した。正極合材としては、LiFePO(正極活物質)、カーボンナノチューブ(導電助剤)、カルボキシメチルセルロース(結着剤)、及びスチレン-ブタジエンゴム(結着剤)を、固形分質量比98.25:0.05:0.4:1.3の割合で含有し、水を溶媒とするスラリーを用いた。
【0081】
銅箔の片側の主面に負極合材を塗布した。塗布した負極合材を乾燥させることにより、負極集電体の片側の主面に負極活物質層が形成された負極を作製した。負極合材としては、黒鉛(負極活物質)、カーボンナノチューブ(導電助剤)、カルボキシメチルセルロース(結着剤)、及びスチレン-ブタジエンゴム(結着剤)を固形分質量比96.99:0.01:0.4:2.6の割合で含有し、水を溶媒とするスラリーを用いた。
【0082】
エチレンカーボネート及びメチルプロピオネートを体積比15:85で混合した母液を調製した。母液中に1.4Mの濃度となる量のLiPF、1質量%となる量のビニレンカーボネート、及び0.1Mの濃度となる量のレドックスシャトル剤を添加することにより電解液を調製した。レドックスシャトル剤としては、1,4-ジ-tert-ブチル-2,5-ジメトキシベンゼンを用いた。
【0083】
作製した正極及び負極と、セパレータとを組合せることにより電極体電池とした。電池ケース内に、電極体電池を収容するとともに、調製した電解液を注入して、電池ケースを密閉することにより、単セルのリチウムイオン二次電池を得た。このリチウムイオン二次電池を実施例1とした。セパレータとしては、ポリエチレンからなるセパレータを用いた。なお、実施例1のリチウムイオン二次電池は、SOC100%(満充電)時の正極電位が3.75Vであり、SOC0%時の負極電位が1.0Vとなるように設計されている。
【0084】
(比較例1)
エチレンカーボネート及びメチルプロピオネートを体積比15:85で混合した母液を調製した。母液中に1.4Mの濃度となる量のLiPF、1質量%となる量のビニレンカーボネートを添加することにより、レドックスシャトル剤を含まない電解液を調製した。レドックスシャトル剤を含まない上記電解液を用いた点を除いて、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を得た。このリチウムイオン二次電池を比較例2とした。
【0085】
<過充電試験及び出力特性の評価>
実施例1及び比較例1の二次電池について、SOC80%の充電状態で1C、2C、3C、4Cのレートで10秒放電したときの電圧低下の傾きから2.23Vに到達するまでの出力を算出することにより、電池出力を測定した。ここで、得られた電池出力を初期電池出力B1とする。
【0086】
次いで、正極電位が3Vから3.75Vになるまで0.05Cで定電圧(CV)充電することにより、満充電状態(SOC100%)とした。その後、0.05Cでの定電圧(CV)充電を継続することにより、SOCを3%上昇させるために必要な電流を供給する過充電処理を行った。過充電処理中における正極電位の変化を図3のグラフに示す。図3のグラフの横軸は、過充電処理中に供給された電流量をSOCで換算した数値である。
【0087】
なお、上記の過充電処理は、実施形態に記載した充電工程において、蓄電装置20を構成する複数の蓄電セル29のうち、先に満充電になった蓄電セル29に対して電流の供給が継続されている状況に相当する。例えば、図3において、SOC103%のときの正極電位は、容量が100である蓄電セル29に対して、容量が103である蓄電セル29を満充電にするために必要な電流が供給されたときの正極電位に相当する。
【0088】
過充電処理後、上記と同様にして、電池出力を測定した。ここで、得られた電池出力を過充電後電池出力B2とする。過充電後電池出力B2を初期電池出力B1で除算することにより、出力維持率(B2/B1)を求めた。その結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
図3のグラフに示すように、比較例1は、過充電処理において、SOCが増加するにしたがって、つまり、電流が供給され続けることによって、正極電位が、満充電状態の正極電位よりも大きく上昇している。具体的には、比較例1の正極電位は、満充電状態の3.75Vから、SOC102%相当の電流が供給されたタイミングで4.3V以上にまで上昇している。
【0090】
一方、実施例1の正極電位は、SOCが増加するにしたがって、3.9Vまでは徐々に上昇し、以降は3.9Vにて一定になっている。実施例1は、電解液として、酸化・還元電位が3.92~4.10Vであるレドックスシャトル剤を含む電解液を用いている。そのため、上記の結果は、過充電処理中において、正極電位が3.9Vの前後に達したところで、レドックスシャトル剤自体の酸化還元反応が生じたことにより、それ以上の正極電位の上昇が抑制されていることを示している。この結果から、特定のレドックスシャトル剤を含む電解液を用いることにより、過充電処理時における正極電位の上昇を抑制できることが分かる。
【0091】
また、表1に示すように、比較例1は、過充電処理の前後における出力維持率が0.92であり、過充電処理によって電池出力が10%程度低下している。この出力低下は、過充電処理による正極電位の過度な上昇により、電解液中の成分及び正極活物質層中の成分の一方又は両方が分解したことに起因すると考えられる。一方、実施例1は、過充電処理の前後における出力維持率が1以上であり、過充電処理後も電池出力が維持されている。この結果から、特定のレドックスシャトル剤を含む電解液を用いることにより、過充電処理に起因する出力低下を抑制できることが分かる。
【0092】
なお、詳細な説明は省略するが、実施例1について、SOC200%相当の電流が供給する過充電処理を行った。この場合においても、図3に示す結果と同様に、正極電位が3.9Vで一定である状態が維持されることが確認できた。また、この過充電処理の前後の電池出力を測定した結果、過充電処理後も電池出力が維持されることが確認できた。
【0093】
<リチウムイオン二次電池の作製>
(実施例2~5)
エチレンカーボネート及びメチルプロピオネートを体積比15:85で混合した母液を調製した。母液中に1.4Mの濃度となる量のLiPF、1質量%となる量のビニレンカーボネート、及び0.1Mの濃度となる量のレドックスシャトル剤を添加することにより、レドックスシャトル剤を含む電解液を調製した。レドックスシャトル剤は、下記の表2に示す化合物を用いた。調製した電解液を用いて、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を得た。これらのリチウムイオン二次電池を実施例2~5とした。
【0094】
【表2】
<過充電試験>
実施例2~5の二次電池について、上記と同様の過充電処理を行った。過充電処理中における正極電位の変化を図4のグラフに示す。また、図4のグラフには、比較例1の結果を重ねて示している。
【0095】
図4のグラフに示すように、実施例1と異なるレドックスシャトル剤を用いた実施例2~5においても、過充電処理時における正極電位の上昇を抑制する効果を確認できた。具体的には、SOC103%相当の電流が供給されたタイミングにおいても、正極電位が4.3V以下に抑えられている。
【0096】
また、実施例1~5の結果から、正極電位の上昇を抑制する効果は、実施例1が最も高く、次いで実施例2~5が高い結果であった。この結果から、レドックスシャトル剤として、1,4-ジ-tert-ブチル-2,5-ジメトキシベンゼン、1,4-ジメトキシベンゼン、4-アリル-1,2-ジメトキシベンゼン、4-フルオロ-1,2-ジメトキシベンゼン、1,4-ジエトキシベンゼンを用いることが好ましく、1,4-ジ-tert-ブチル-2,5-ジメトキシベンゼンを用いることが特に好ましいことが分かる。
【0097】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
[態様1]
正極活物質層及び負極活物質層を有するバイポーラ電極を介して直列に接続された複数の蓄電セルを備える蓄電装置であって、前記正極活物質層は、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が4.2V以下である正極活物質を含有し、前記蓄電セルの各々には、前記正極活物質よりも酸化・還元電位の高いレドックスシャトル剤を含む電解液が収容されていることを特徴とする蓄電装置。
【0098】
[態様2]
前記電解液における前記レドックスシャトル剤の含有量は、0.01M以上0.1M以下である[態様1]に記載の蓄電装置。
【0099】
[態様3]
前記正極活物質は、一般式LiFeh1h2POで表されるオリビン型構造を有するポリアニオン系化合物(Mは、Mn、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te、Moからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、h1,h2は、0<h1かつ0<h1+h2<2を満足する数値である。)である[態様1]又は[態様2]に記載の蓄電装置。
【0100】
[態様4]
前記正極活物質は、ジアルコキシベンゼンであり、
前記ジアルコキシベンゼンの二つのアルコキシは、炭素数1~3のアルコキシ基である[態様1]~[態様3]のいずれか1つに記載の蓄電装置。
【0101】
[態様5]
前記ジアルコキシベンゼンのベンゼン環を構成する炭素原子には、炭素数1~5の炭化水素基が結合している[態様4]に記載の蓄電装置。
【0102】
[態様6]
検査前の蓄電装置を製造する製造工程と、前記検査前の蓄電装置を検査する異物検査工程とを有する蓄電装置の製造方法であって、前記検査前の蓄電装置は、正極活物質層及び負極活物質層を有するバイポーラ電極を介して直列に接続された複数の蓄電セルを備え、前記正極活物質層は、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が4.2V以下である正極活物質を含有し、前記蓄電セルの各々には、前記正極活物質よりも酸化・還元電位の高いレドックスシャトル剤を含む電解液が収容されており、前記異物検査工程は、前記検査前の蓄電装置に対して直列に電流を流すことにより、全ての前記蓄電セルが満充電になるまで充電する充電工程と、前記充電工程において溶融した金属異物に起因する内部微短絡の発生の有無を検出する検出工程とを有することを特徴とする蓄電装置の製造方法。
【符号の説明】
【0103】
L…電解液、20…蓄電装置、21…積層体、22…シール部材、23…バイポーラ電極、29…蓄電セル、30…バイポーラ集電体、31…正極活物質層、32…負極活物質層。
図1
図2
図3
図4