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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109378
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】電力分配回路、及び、電力合成回路
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/12 20060101AFI20240806BHJP
   H01P 3/12 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01P5/12 B
H01P3/12 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014135
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優
【テーマコード(参考)】
5J014
【Fターム(参考)】
5J014DA01
(57)【要約】
【課題】複数の出力ポートに分配されて出力される電波同士の電力の差を抑制した電力分配回路を提供する。
【解決手段】電力分配回路は、第1ポートと、複数の第2ポートと、前記第1ポートに接続される第1導波路であって前記複数の第2ポート側に設けられる拡幅部を有する第1導波路と、前記第1導波路に接続され前記複数の第2ポートまで延在する複数の第2導波路と、前記複数の第2導波路を仕切る仕切壁とを有する、TE10モード用の導波管と、前記仕切壁のうちの前記複数の第2導波路のうちの少なくとも1つに面する仕切壁に設けられ、前記第1ポートから前記第1導波路及び前記複数の第2導波路を経て前記複数の第2ポートまで伝搬する電波の位相差が少なくなる方向に、前記少なくとも1つの第2導波路を伝搬する電波の位相を調整する誘電体とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ポートと、
複数の第2ポートと、
前記第1ポートに接続される第1導波路であって前記複数の第2ポート側に設けられる拡幅部を有する第1導波路と、
前記第1導波路に接続され前記複数の第2ポートまで延在する複数の第2導波路と、
前記複数の第2導波路を仕切る仕切壁と
を有する、TE10モード用の導波管と、
前記仕切壁のうちの前記複数の第2導波路のうちの少なくとも1つに面する仕切壁に設けられ、前記第1ポートから前記第1導波路及び前記複数の第2導波路を経て前記複数の第2ポートまで伝搬する電波の位相差が少なくなる方向に、前記少なくとも1つの第2導波路を伝搬する電波の位相を調整する誘電体と
を含む、電力分配回路。
【請求項2】
前記仕切壁は、前記複数の第2導波路の平面視において、前記拡幅部側にテーパ部を有する、請求項1に記載の電力分配回路。
【請求項3】
前記導波管の延在方向における前記テーパ部の長さは、前記電波の波長の電気長に相当する長さである、請求項2に記載の電力分配回路。
【請求項4】
前記拡幅部は、前記複数の第2導波路の平面視において、前記第1ポート側と前記複数の第2導波路との間において連続的な曲線形状で拡幅されている、請求項1に記載の電力分配回路。
【請求項5】
前記拡幅部の連続的な曲線形状は、正弦波の曲線形状である、請求項4に記載の電力分配回路。
【請求項6】
前記複数の第2導波路は3本以上あり、
前記導波管の延在方向における前記誘電体の長さは、前記複数の第2導波路のうちの中央側に位置する第2導波路に設けられる誘電体ほど長い、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電力分配回路。
【請求項7】
第1ポートと、
複数の第2ポートと、
前記第1ポートに接続される第1導波路であって前記複数の第2ポート側に設けられる拡幅部を有する第1導波路と、
前記第1導波路に接続され前記複数の第2ポートまで延在する複数の第2導波路と、
前記複数の第2導波路を仕切る仕切壁と
を有する、TE10モード用の導波管と、
前記仕切壁のうちの前記複数の第2導波路のうちの少なくとも1つに面する仕切壁に設けられ、前記複数の第2ポートから前記複数の第2導波路及び前記第1導波路を経て前記第1ポートまで伝搬する電波の位相差が少なくなる方向に、前記少なくとも1つの第2導波路を伝搬する電波の位相を調整する誘電体と
を含む、電力合成回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力分配回路、及び、電力合成回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、1個の方形導波管と複数に積み重ねられた方形導波管との間でTE10モードのマイクロ波電力を分配又は合成する2つの出入口を有する電力分配テーパ導波管がある。複数の方形導波管は、短辺寸法をそれぞれの電力比の平方根に比例して積み重ねられており、前記2つの出入口の一方はその内寸法が前記一個の方形導波管の内寸法に等しい。他方の出入口は、内寸法が前記複数に積み重ねられた方形導波管の合計の内寸法に等しく、かつ先端部が薄い複数個の整合板が取り付けられており、整合板の長さを管内波長の約4分の1として空間を前記複数に積み重ねられた方形導波管の短辺に比例して分割した電力分配テーパ導波管がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平05-65103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の電力分配テーパ導波管(電力分配回路)は、入力ポートと、複数の出力ポートとの間の経路の長さが異なる。このため、複数の出力ポートから出力される電波の位相差が大きく、分配された電波同士の電力の差が大きい。また、電力分配回路の入出力を逆にして電力合成回路として用いると、合成される電力同士が位相差を有することで、合成された電波の電力が低減する。
【0005】
そこで、複数の出力ポートに分配されて出力される電波同士の電力の差を抑制した電力分配回路を提供することを目的とする。また、複数の入力ポートから入力されて合成される電波同士の位相差を低減することで、合成された電波の電力を増大可能な電力合成回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態の電力分配回路は、第1ポートと、複数の第2ポートと、前記第1ポートに接続される第1導波路であって前記複数の第2ポート側に設けられる拡幅部を有する第1導波路と、前記第1導波路に接続され前記複数の第2ポートまで延在する複数の第2導波路と、前記複数の第2導波路を仕切る仕切壁とを有する、TE10モード用の導波管と、前記仕切壁のうちの前記複数の第2導波路のうちの少なくとも1つに面する仕切壁に設けられ、前記第1ポートから前記第1導波路及び前記複数の第2導波路を経て前記複数の第2ポートまで伝搬する電波の位相差が少なくなる方向に、前記少なくとも1つの第2導波路を伝搬する電波の位相を調整する誘電体とを含む。
【0007】
本開示の実施形態の電力合成回路は、第1ポートと、複数の第2ポートと、前記第1ポートに接続される第1導波路であって前記複数の第2ポート側に設けられる拡幅部を有する第1導波路と、前記第1導波路に接続され前記複数の第2ポートまで延在する複数の第2導波路と、前記複数の第2導波路を仕切る仕切壁とを有する、TE10モード用の導波管と、前記仕切壁のうちの前記複数の第2導波路のうちの少なくとも1つに面する仕切壁に設けられ、前記複数の第2ポートから前記複数の第2導波路及び前記第1導波路を経て前記第1ポートまで伝搬する電波の位相差が少なくなる方向に、前記少なくとも1つの第2導波路を伝搬する電波の位相を調整する誘電体とを含む。
【発明の効果】
【0008】
複数の出力ポートに分配されて出力される電波同士の電力の差を抑制した電力分配回路を提供することができる。また、複数の入力ポートから入力されて合成される電波同士の位相差を低減することで、合成された電波の電力を増大可能な電力合成回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の電力分配回路100の構成の一例を示す図である。
図2】比較用の電力分配回路10の構成の一例を示す図である。
図3A】比較用の電力分配回路10についてのシミュレーション(パート1)の結果の一例を示す図である。
図3B】比較用の電力分配回路10についてのシミュレーション(パート1)の結果の一例を示す図である。
図4A】比較用の電力分配回路10についてのシミュレーション(パート2)の結果の一例を示す図である。
図4B】比較用の電力分配回路10についてのシミュレーション(パート2)の結果の一例を示す図である。
図5】比較用の電力分配回路10についてのシミュレーション(パート3)の結果の一例を示す図である。
図6】実施形態の電力分配回路100についてのシミュレーション結果の一例を示す図である。
図7】実施形態の変形例の電力分配回路100Mの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の電力分配回路、及び、電力合成回路を適用した実施形態について説明する。以下では、同一の要素に同一の符号を付して、重複する説明を省略する場合がある。
【0011】
以下では、XYZ座標系を定義して説明する。X軸に平行な方向(X方向)、Y軸に平行な方向(Y方向)、Z軸に平行な方向(Z方向)は、互いに直交する。また、また、平面視とはXZ面視することをいう。また、以下では構成が分かりやすくなるように各部の長さ、太さ、厚さ等を誇張して示す場合がある。また、平行、直角、直交、水平、垂直、上下等の文言は、実施形態の効果を損なわない程度のずれを許容するものとする。
【0012】
<実施形態>
<電力分配回路100の構成>
図1は、実施形態の電力分配回路100の構成の一例を示す図である。電力分配回路100は、TE10モード用の導波管110、及び、誘電体120を含む。
【0013】
<導波管110>
導波管110は、TE10モード用の方形導波管であり、入力ポート111Pと、複数の出力ポート112Pと、第1導波路111と、複数の第2導波路112と、仕切壁113とを有する。入力ポート111Pは、第1入力ポートの一例であり、複数の出力ポート112Pは、複数の第2ポートの一例である。導波管110は、金属製である。導波管110の延在方向は、Z方向である。
【0014】
図1には導波管110の内部構造を透過的に示すが、導波管110は、入力ポート111Pと複数の出力ポート112Pとの間において、導波管110の±X方向側の外縁に沿って延在する一対の壁部110Wと、-Y方向側でXZ平面に平行な壁部111Yと、+Y方向側でXZ平面に平行な壁部とを有する。図1には壁部111Yを示すが、導波管110は、+Y方向側でXZ平面に平行な壁部を省略する。+Y方向側でXZ平面に平行な壁部の形状は、壁部111Yの形状と等しい。第1導波路111、及び、複数の第2導波路112は、±X方向側の外縁に沿って延在する一対の壁部110Wと、±Y方向側でXZ平面に平行な壁部111Yとによって囲まれている。
【0015】
また、複数の出力ポート112Pと、複数の第2導波路112との数は等しく、図1では一例として4個である。なお、出力ポート112P及び第2導波路112は、3個以上あればよい。
【0016】
<入力ポート111P>
入力ポート111Pは、電波が入力される入力端子である。電波の周波数は、一例として、5GHz~20GHzである。入力ポート111Pには第1導波路111が接続される。入力ポート111Pに入力される電波の励振方向は、±X方向であり、電波の励振方向は、入力ポート111Pから複数の出力ポート112Pまで同一である。
【0017】
<第1導波路111>
第1導波路111は、複数の出力ポート112Pが位置する+Z方向側に設けられる拡幅部111Aを有する。拡幅部111Aは、両矢印で示す区間A内に存在する。拡幅部111Aは、第1導波路111よりもX方向の幅が広い第2導波路112に接続される部分であり、+Z方向側に向かうにつれて幅が徐々に広げられている。±X方向側の壁部111Wは、拡幅部111Aのある区間A内において、平面視(XZ面視)で連続的な曲線形状を有する。壁部111Wは、平面視(XZ面視)で連続的な曲線形状で拡幅されている。より具体的には、±X方向側の壁部111Wは、拡幅部111Aのある区間A内において、正弦波の曲線形状を有する。平面視(XZ面視)は、複数の第2導波路112の平面視である。
【0018】
<第2導波路112及び仕切壁113>
第2導波路112は、複数あり、第1導波路111の+Z方向側に接続され、複数の出力ポート112Pまで延在している。複数の第2導波路112は、複数の仕切壁113によってX方向において仕切られている(分断されている)。4本の第2導波路112のうちのX方向における両端側の2本の第2導波路112は、X方向において、壁部111Wと仕切壁113とによって挟まれている。4本の第2導波路112のうちのX方向における中央側の2本の第2導波路112は、X方向において、壁部111Wによって挟まれている。
【0019】
<仕切壁113>
仕切壁113は、拡幅部111Aよりも+Z方向側において、±X方向側の壁部111Wの間において、複数の第2導波路112の間に設けられている。すなわち、仕切壁113は、第2導波路112に面している。仕切壁113の数は、第2導波路112の本数よりも1つ少ないため、図1には3本の仕切壁113を示す。
【0020】
仕切壁113は、複数の第2導波路112の平面視において、拡幅部111A側に設けられるテーパ部113Aを有する。テーパ部113Aは、導波管110の延在方向(Z方向)における長さが、導波管110を伝搬する電波の波長λの電気長λeに相当する長さである。すなわち、テーパ部113AのZ方向の長さは、λeである。テーパ部113AのZ方向の長さをλe(電波の波長λの電気長)に設定するのは、λeの長さを有するテーパ部113Aにおいて、第1導波路111から伝搬する電波を4つに分離することで、安定的に分離された電波が得られるからである。
【0021】
テーパ部113Aの+Z方向側の端部におけるX方向の幅は、仕切壁113のうちのテーパ部113A以外の部分のX方向の幅と等しく、第1導波路111側に向かってX方向における幅が徐々に細くなっている。テーパ部113Aは、X方向の幅の中心を通りZ方向に平行な直線を対称軸として線対称な形状を有する。すなわち、テーパ部113Aは、平面視で二等辺三角形の形状を有する。
【0022】
<誘電体120>
誘電体120は、4本の第2導波路112の各々に設けられている。導波管110は、-Z方向側の約半分が第1導波路111であり、+Z方向側の約半分が複数の第2導波路112であるため、入力ポート111Pと、複数の出力ポート112Pとの間の経路の長さは異なる。図1では、出力ポート112Pは4個あり、導波管110は、X方向の中心を通りZ方向に平行な直線を対称軸として線対称な形状を有する。
【0023】
このため、入力ポート111Pと、+X方向の端の出力ポート112Pとの間の経路の長さと、入力ポート111Pと、+X方向の端から2番目の出力ポート112Pとの間の経路の長さとは異なる。入力ポート111Pと、X方向の両端の2個の出力ポート112Pとの間の距離は互いに等しく、入力ポート111Pと、X方向の中央側の2個の出力ポート112Pとの間の距離は互いに等しい。
【0024】
入力ポート111Pと、+X方向の両端の2個の出力ポート112Pとの間の距離は、入力ポート111Pと、X方向の中央側の2個の出力ポート112Pとの間の距離よりも長い。
【0025】
誘電体120は、入力ポート111Pから第1導波路111及び複数の第2導波路112を経て複数の出力ポート112Pまで伝搬する電波の位相差が少なくなる方向に、第2導波路112を伝搬する電波の位相を調整する。誘電体120の比誘電率は1よりも大きいため、波長の短縮効果によって位相が調整される。
【0026】
ここで、+X方向の両端の2本の第2導波路112に設けられる誘電体120を誘電体120Aと称し、入力ポート111Pと、X方向の中央側の2本の第2導波路112に設けられる誘電体120を誘電体120Bと称す。以下では、誘電体120A及び120Bを特に区別しない場合には、単に誘電体120と称す。
【0027】
+X方向の端の第2導波路112に設けられる誘電体120Aは、一例として、+X方向の端の第2導波路112の-X方向側に位置する仕切壁113のYZ平面に平行な側面に設けられている。誘電体120Aの+Z方向側の端は、出力ポート112Pの位置と合わせられている。出力ポート112Pから電波を放射する直前に位相を調整するためである。仕切壁113のYZ平面に平行な側面に誘電体120Aを設けるのは、電界の励振方向が±X方向だからである。これは、他の第2導波路112においても同様である。
【0028】
X方向の中央側の2本の第2導波路112に設けられる誘電体120Bは、一例として、X方向の中央側の2本の第2導波路112の-X方向側に位置する仕切壁113のYZ平面に平行な側面に設けられている。誘電体120Bの+Z方向側の端は、出力ポート112Pの位置と合わせられている。
【0029】
-X方向の端の第2導波路112に設けられる誘電体120Aは、一例として、-X方向の端の第2導波路112の-X方向側に位置する壁部111WのYZ平面に平行な側面に設けられている。
【0030】
誘電体120A及び120Bは、一例としてYZ平面に平行な薄板状の誘電体であり、一例として配線基板を用いてもよい。第2導波路112のY方向の幅は限られているが、Z方向の長さは十分にあるため、誘電体120Aよりも誘電体120BのZ方向の長さを長くすることにより、中央側の2本の導波路(第1導波路111+中央側の2本の第2導波路112)を伝搬する電波の位相と、両端側の2本の導波路(第1導波路111+両端の2本の第2導波路112)を伝搬する電波の位相との位相差が少なくなる方向に調整することができる。
【0031】
なお、実施形態の電力分配回路100は、上述のような誘電体120A及び120Bを有していればよく、拡幅部111Aは連続的な曲線形状を有さなくてもよい。また、実施形態の電力分配回路100は、上述のような誘電体120A及び120Bを有していればよく、仕切壁113はテーパ部113Aを有さなくてもよい。
【0032】
<比較用の電力分配回路10>
図2は、比較用の電力分配回路10の構成の一例を示す図である。比較用の電力分配回路10は、入力ポート11P(#1)、第1導波路11、4個の出力ポート12P(#2~#5)、4本の第2導波路12を含む。4個の出力ポート12Pには、+X方向側から-X方向側にかけて#2~#5の番号を割り振る。
【0033】
一例として、第1導波路11のうちの入力ポート11Pに接続される直線状の部分の長さは50mmであり、第1導波路11の拡幅部11Aは、連続的な曲線形状ではなく、拡幅部11Aの-Z方向側では角度θで屈曲している。また、拡幅部11Aの+Z方向側においても連続的な曲線形状ではなく、屈曲している。また、第2導波路12のX方向の幅は10mmである。仕切壁13のZ方向の長さは150mmであり、X方向の幅は10.1mmである。仕切壁13は、テーパ部113A(図1参照)を有さず、-Z方向側の端から+Z方向側の端までX方向の幅は一定である。
【0034】
すなわち、比較用の電力分配回路10は、図1に示す電力分配回路100の連続的な曲線形状の拡幅部111Aを連続的な曲線形状ではない拡幅部11Aに置き換え、テーパ部113Aを有する仕切壁113をテーパ部113A(図1参照)を有さない仕切壁13に置き換え、さらに、誘電体120を省いた構成を有する。
【0035】
<比較用の電力分配回路10についてのシミュレーション(パート1)>
図3Aは、比較用の電力分配回路10についてのシミュレーション(パート1)の結果(透過電力解析結果)の一例を示す図である。図3Aには、比較用の電力分配回路10において、拡幅部11Aの角度θを15度、30度、及び45度に設定した場合のS21パラメータ及びS51パラメータと、S31パラメータ及びS41パラメータとの周波数特性(透過電力解析結果)の一例を示す。
【0036】
S21パラメータは、入力ポート11P(#1)に入力され#2の出力ポート12Pから出力される電波の伝達係数である。S31パラメータは、入力ポート11P(#1)に入力され#3の出力ポート12Pから出力される電波の伝達係数である。S41パラメータは、入力ポート11P(#1)に入力され#4の出力ポート12Pから出力される電波の伝達係数である。S51パラメータは、入力ポート11P(#1)に入力され#5の出力ポート12Pから出力される電波の伝達係数である。
【0037】
これらのSパラメータは、電磁界シミュレーションで計算したものである。なお、電力分配回路10の対称性から、S21パラメータ及びS51パラメータは等しく、S31パラメータ及びS41パラメータは等しい。
【0038】
図3Aの(1)~(3)に示すように、角度θを15度、30度、及び45度のいずれに設定しても、S21パラメータ及びS51パラメータと、S31パラメータ及びS41パラメータとの差は大きい。角度θが30度及び45度と大きい場合はSパラメータ同士の振幅の差が大きい。また、角度θが15度の場合は-6dB±1dBであるが、周波数に対して平坦でないという問題がある。
【0039】
図3Bは、比較用の電力分配回路10についてのシミュレーション(パート1)の結果(位相差解析結果)の一例を示す図である。図3Bには、比較用の電力分配回路10において、拡幅部11Aの角度θを15度、30度、及び45度に設定して入力ポート11P(#1)に電波を入力した場合に、#2及び#5の出力ポート12Pから出力される電波の位相と、#3及び#4の出力ポート12Pから出力される電波の位相との位相差の周波数特性(位相差解析結果)の一例を示す。ここでは、位相差をPulse Imbalance (deg)として示す。
【0040】
図3Bの(1)~(3)に示すように、角度θを15度、30度、及び45度のいずれに設定しても、位相は大きく、位相差は周波数の増大に伴って大きく変化している。
【0041】
以上のように、比較用の電力分配回路10では、X方向の両端側の#2及び#5の出力ポート12Pと、X方向の中央側の#3及び#4の出力ポート12Pとにおける電波の伝送特性には大きな差があり、位相差にも大きな差がある。
【0042】
<比較用の電力分配回路10についてのシミュレーション(パート2)>
図4Aは、比較用の電力分配回路10についてのシミュレーション(パート2)の結果(透過電力解析結果)の一例を示す図である。図4Aには、比較用の電力分配回路10において、拡幅部11Aの角度θを15度に設定した場合のS21パラメータ及びS51パラメータと、S31パラメータ及びS41パラメータとの周波数特性(透過電力解析結果)の一例を示す。図4Aの(1)には、図3Aの(1)と同一の特性を示し、図4Aの(2)には、図2に示す電力分配回路10に、テーパ部113Aを追加した比較用の電力分配回路10におけるS21パラメータ及びS51パラメータとS31パラメータ及びS41パラメータとの周波数特性の一例を示す。なお、テーパ部113AのZ方向の長さを65.9mmに設定した。
【0043】
図4Aの(2)に示すS21パラメータ及びS51パラメータとS31パラメータ及びS41パラメータとの周波数特性は、図4Aの(1)に示すS21パラメータ及びS51パラメータとS31パラメータ及びS41パラメータとの周波数特性に比べて差が少なくなっており、入力ポート11Pに入力した電波を4個の出力ポート12Pに分けるために4分割した場合に、出力ポート112Pで得られる透過電力の出力の理想値である6dBに近づいた。
【0044】
図4Bは、比較用の電力分配回路10についてのシミュレーション(パート2)の結果(位相差解析結果)の一例を示す図である。図4Bには、#2及び#5の出力ポート12Pから出力される電波の位相と、#3及び#4の出力ポート12Pから出力される電波の位相との位相差の周波数特性(位相差解析結果)の一例とを示す図である。図4Bの(1)には、図3Bの(1)と同一の位相差の周波数特性を示し、図4Bの(2)には、図2に示す電力分配回路10に、テーパ部113Aを追加した比較用の電力分配回路10における位相差の周波数特性の一例を示す。なお、テーパ部113AのZ方向の長さを65.9mmに設定した。
【0045】
図4Bにおいて、(2)の周波数特性は、(1)の周波数特性よりも位相差が小さくなり、リップルも小さくなっていることを確認できた。
【0046】
以上より、テーパ部113Aを設けることで、X方向の両端側の#2及び#5の出力ポート12Pと、X方向の中央側の#3及び#4の出力ポート12Pとの透過電力の差は少なくなり、位相差も少なくなることを確認できた。しかしながら、図4Aの(2)に示す透過電力は、理想値(6dB)との差が大きく、位相差も大きいため、実用には適さないことが分かった。
【0047】
<比較用の電力分配回路10についてのシミュレーション(パート3)>
図5は、比較用の電力分配回路10についてのシミュレーション(パート3)の結果(透過電力解析結果)の一例を示す図である。図5には、比較用の電力分配回路10において、拡幅部11Aの代わりに連続的な曲線形状を有する拡幅部111Aを含むとともに、テーパ部113Aを含む比較用の電力分配回路10について計算したS21パラメータ及びS51パラメータとS31パラメータ及びS41パラメータとの周波数特性(透過電力解析結果)の一例を示す。
【0048】
拡幅部111Aの連続的な曲線は、Acosθ(θ=0~π)という関数を当て嵌め、係数Aの値を6mm、8mm、及び10mmに設定して、Sパラメータを求めた。なお、テーパ部113Aのサイズは、パート2のシミュレーションと同一である。
【0049】
図5の(1)~(3)に、係数Aを6mm、8mm、及び10mmに設定して得たS21パラメータ及びS51パラメータとS31パラメータ及びS41パラメータとの周波数特性の一例を示す。
【0050】
図5の(1)~(3)に示すように、S21パラメータ及びS51パラメータとS31パラメータ及びS41パラメータとの値は、図4Aの(2)に示す値よりも理想値(6dB)にさらに近づき、リップルも小さくなることを確認できた。
【0051】
以上より、連続的な曲線の形状を有する拡幅部111Aを設けることで、X方向の両端側の#2及び#5の出力ポート12Pと、X方向の中央側の#3及び#4の出力ポート12Pとの透過電力の差は少なくなることを確認できた。しかしながら、図5の(1)~(3)に示すS21パラメータ及びS51パラメータとS31パラメータ及びS41パラメータとは、理想値(6dB)との差が大きい周波数帯域があるため、実用には適さないことが分かった。なお、図5には示さないが、X方向の両端側の#2及び#5の出力ポート12Pと、X方向の中央側の#3及び#4の出力ポート12Pとの位相差も実用には適さないレベルであった。位相差が十分に小さくならないために、図5に示すSパラメータの値が理想値(6dB)に及ばない結果になったと考えられる。
【0052】
<実施形態の電力分配回路100についてのシミュレーション>
図6は、実施形態の電力分配回路100についてのシミュレーション結果(位相差解析結果及び透過電力解析結果)の一例を示す図である。実施の形態の電力分配回路100は、シミュレーションのパート3で用いた比較用の電力分配回路(図2に示す比較用の電力分配回路10に、拡幅部111Aとテーパ部113Aを追加した電力分配回路)に対して、誘電体120Aを追加した構成を有する。
【0053】
図6の(1)には、#2及び#5の出力ポート112Pから出力される電波の位相と、#3及び#4の出力ポート112Pから出力される電波の位相との位相差の周波数特性(位相差解析結果)の一例を示す。図6の(2)には、S21パラメータ及びS51パラメータとS31パラメータ及びS41パラメータとの周波数特性(透過電力解析結果)の一例を示す。なお、図6の(1)の縦軸のスケールは、図3B(0度~-100度)及び図4B(0度~-60度)とは異なり、±20度の範囲を示す。
【0054】
図6の(1)に示すように、#2及び#5の出力ポート112Pから出力される電波の位相と、#3及び#4の出力ポート112Pから出力される電波の位相との位相差は、0度を跨ぐ±10度の範囲内に略入っており、実用に適する結果が得られた。
【0055】
また、図6の(2)に示すように、S21パラメータ及びS51パラメータとS31パラメータ及びS41パラメータとの周波数特性は、図5の(1)~(3)に示す周波数特性よりも、さらに理想値(6dB)に近い値が得られ、リップルも小さくなっていることを確認できた。このように、実施形態の電力分配回路100についてのシミュレーションでは、Sパラメータについても、実用に適する結果が得られた。
【0056】
図6の(1)に示すように、実施形態の電力分配回路100では、#2及び#5の出力ポート112Pから出力される電波の位相と、#3及び#4の出力ポート112Pから出力される電波の位相との位相差が小さい。このため、図6の(2)に示すように、理想値(6dB)に近いSパラメータの透過電力の特性が得られたことと考えられる。S21パラメータ及びS51パラメータとS31パラメータ及びS41パラメータとの周波数特性は、図5の(1)~(3)に示す周波数特性よりも、さらに理想値(6dB)に近い値が得られることを確認できた。
【0057】
以上より、実施形態の電力分配回路100では、複数の出力ポート112Pに分配されて出力される電波同士の電力の差を抑制することができることが確認できた。
【0058】
また、図3A図3B図4A図4B、及び図5のシミュレーション結果から、拡幅部111A及びテーパ部113Aを有することによっても、複数の出力ポート112Pに分配されて出力される電波同士の電力の差を抑制できることが確認できた。
【0059】
<変形例>
図7は、実施形態の変形例の電力分配回路100Mの構成の一例を示す図である。電力分配回路100Mは、5本の第2導波路112と、5個の出力ポート112Pとを有し、X方向の両端の第2導波路112には誘電体120が設けられておらず、+X方向側から2本目と4本目の第2導波路112に誘電体120Aが設けられ、X方向における中央の第2導波路112に誘電体120Bが設けられている点が、図1に示す電力分配回路100と異なる。電力分配回路100Mは、仕切壁113を4個含む。
【0060】
電力分配回路100Mでは、X方向の両端(1本目と5本目)の第2導波路112には誘電体120を設けず、2本目と4本目の第2導波路112に短い誘電体120Aを設け、中央の第2導波路112に誘電体120Bを設けることで、5個の出力ポート112Pにおける電波の位相差が少なくなるようにしている。
【0061】
このように、出力ポート112Pの数が5個の場合には、X方向の中央に位置する第2導波路112ほど長い誘電体120を設ければよい。これは、出力ポート112Pの数が6個以上の場合においても同様である。なお、図7において、X方向の両端(1本目と5本目)の第2導波路112に、誘電体120Aよりも短い誘電体120Aを設けてもよい。
【0062】
また、出力ポート112Pの数は3個であってもよい。この場合には、X方向の両端(1本目と3本目)の第2導波路112に誘電体120Aを設け、中央の第2導波路112に誘電体120Bを設ければよい。また、X方向の両端(1本目と3本目)の第2導波路112に誘電体120を設けずに、中央の第2導波路112に誘電体120を設けてもよい。以上より、出力ポート112P及び第2導波路112の数は、3個以上であればよい。また、誘電体120は、複数の第2導波路112のうちの少なくとも1つに設ければよい。
【0063】
また、以上では、第1ポートの一例としての入力ポート111Pと、複数の第2ポートの一例としての複数の出力ポート112Pとを含み、入力ポート111Pから入力される電力を分配して複数の出力ポート112Pから出力する電力分配回路100について説明した。しかしながら、電力分配回路100は、第1ポート(111P)を出力ポートとして用い、複数の第2ポート(112P)を複数の入力ポートとして用いれば、複数の入力ポートから入力される電力を合成して1つの出力ポートから出力する電力合成回路として利用可能である。
【0064】
電力合成回路は、電力分配回路100の構成を変更することなく、電力分配回路100の入出力を逆に用いる。すなわち、実施形態の電力合成回路の回路構成は、電力分配回路100の回路構成と等しい。実施形態の電力合成回路において、4個の第2ポート(112P)には、位相の等しい電力が入力され、誘電体120A及び120Bによって、4個の第2ポート(112P)と、第1ポート(111P)との間の経路の長さの違いによって生じる位相差が調整される。そして、拡幅部111Aにおいて位相差が少ない電波同士が合成されることで、第1ポート(111P)から出力される電波の電力を増大させることができる。
【0065】
このため、複数の入力ポート(112P)から入力されて合成される電波同士の位相差を低減することで、合成された電波の電力を増大可能な電力合成回路を提供することができる。
【0066】
<効果>
電力分配回路100は、入力ポート111Pと、複数の出力ポート112Pと、入力ポート111Pに接続される第1導波路111であって複数の出力ポート112P側に設けられる拡幅部111Aを有する第1導波路111と、第1導波路111に接続され複数の出力ポート112Pまで延在する複数の第2導波路112と、複数の第2導波路112を仕切る仕切壁113とを有する、TE10モード用の導波管110と、仕切壁113のうちの複数の第2導波路112のうちの少なくとも1つに面する仕切壁113に設けられ、入力ポート111Pから第1導波路111及び複数の第2導波路112を経て複数の出力ポート112Pまで伝搬する電波の位相差が少なくなる方向に、少なくとも1つの第2導波路112を伝搬する電波の位相を調整する誘電体120とを含む。
【0067】
したがって、複数の出力ポート112Pに分配されて出力される電波同士の電力の差を抑制した電力分配回路100を提供することができる。
【0068】
また、仕切壁113は、複数の第2導波路112の平面視において、拡幅部111A側に設けられるテーパ部113Aを有していてもよい。このため、複数の出力ポート112Pに伝搬する電波の位相差をより低減でき、複数の出力ポート112Pに分配されて出力される電波同士の電力の差をより抑制した電力分配回路100を提供することができる。
【0069】
また、導波管110の延在方向におけるテーパ部113Aの長さは、電波の波長の電気長に相当する長さであってもよい。このため、安定的に分離された電波が得られることで、複数の出力ポート112Pに伝搬する電波の位相差をより効果的に低減でき、複数の出力ポート112Pに分配されて出力される電波同士の電力の差をより効果的に抑制した電力分配回路100を提供することができる。
【0070】
また、拡幅部111Aは、複数の第2導波路112の平面視において、入力ポート111P側と複数の第2導波路112との間において連続的な曲線形状で拡幅されていてもよい。このため、複数の出力ポート112Pに伝搬する電波の位相差をより低減でき、複数の出力ポート112Pに分配されて出力される電波同士の電力の差をより抑制した電力分配回路100を提供することができる。
【0071】
また、拡幅部111Aの連続的な曲線形状は、正弦波の曲線形状であってもよい。このため、複数の出力ポート112Pに伝搬する電波の位相差をより効果的に低減でき、複数の出力ポート112Pに分配されて出力される電波同士の電力の差をより効果的に抑制した電力分配回路100を提供することができる。
【0072】
また、複数の第2導波路112は3本以上あり、導波管110の延在方向における誘電体120の長さは、複数の第2導波路112のうちの中央側に位置する第2導波路112に設けられる誘電体120ほど長くてもよい。このため、複数の出力ポート112Pに伝搬する電波の位相差をさらに効果的に低減でき、複数の出力ポート112Pに分配されて出力される電波同士の電力の差をさらに効果的に抑制した電力分配回路100を提供することができる。
【0073】
電力合成回路は、出力ポート(111P)と、複数の入力ポート(112P)と、出力ポート(111P)に接続される第1導波路111であって複数の入力ポート(112P)側に設けられる拡幅部111Aを有する第1導波路111と、第1導波路111に接続され複数の入力ポート(112P)まで延在する複数の第2導波路112と、複数の第2導波路112を仕切る仕切壁113とを有する、TE10モード用の導波管110と、仕切壁113のうちの複数の第2導波路112のうちの少なくとも1つに面する仕切壁113に設けられ、複数の入力ポート(112P)から複数の第2導波路112及び第1導波路111を経て出力ポート(111P)まで伝搬する電波の位相差が少なくなる方向に、少なくとも1つの第2導波路112を伝搬する電波の位相を調整する誘電体120とを含む。
【0074】
したがって、複数の入力ポート(112P)から入力されて合成される電波同士の位相差を低減することで、合成された電波の電力を増大可能な電力合成回路を提供することができる。
【0075】
以上、本開示の例示的な実施形態の電力分配回路、及び、電力合成回路について説明したが、本開示は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0076】
100 電力分配回路
110 導波管
111P 入力ポート
112P 複数の出力ポート
111 第1導波路
111A 拡幅部
112 複数の第2導波路
113 仕切壁
113A テーパ部
120、120A、120B 誘電体
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7