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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109401
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20240806BHJP
   G01N 27/419 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
G01N27/416 311G
G01N27/419
G01N27/419 327B
G01N27/419 327K
G01N27/419 327Z
G01N27/419 327N
G01N27/416 311J
G01N27/419 327G
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014172
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100561
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100219690
【弁理士】
【氏名又は名称】堀坂 純美子
(72)【発明者】
【氏名】後呂 洋平
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 靖昌
(57)【要約】
【課題】被測定ガス中の複数の測定対象ガスを測定可能なガスセンサを提供する。
【解決手段】 センサ素子101と、制御装置90とを含み、センサ素子101は、第1のイオン種を伝導させる第1の固体電解質61と、前記第1のイオン種とは異なる第2のイオン種を伝導させる第2の固体電解質62とを含む固体電解質層6を備える長尺板状の基体部102と、被測定ガス流通空所15内の第1の固体電解質61上及び第2の固体電解質62上にまたがって配設された空所内共用電極65、及び、基体部102の被測定ガス流通空所15内とは異なる位置に配設された空所外共用電極67を含む、共用ポンプセル21と、を含み、制御装置90に含まれるポンプ制御部92は、第1の固体電解質61を介して共用ポンプセル21に第1電流を流す第1ポンプ制御と、第2の固体電解質62を介して共用ポンプセル21に第2電流を流す第2ポンプ制御とを切り替えて行う、ガスセンサ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ素子と、前記センサ素子を制御する制御装置とを含み、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するガスセンサであって、
前記センサ素子は、
第1のイオン種を伝導させるイオン伝導性の第1の固体電解質と、前記第1のイオン種とは異なる第2のイオン種を伝導させる第2の固体電解質とを含む固体電解質層を備える、長尺板状の基体部と、
前記基体部の長手方向の一方の端部から形成され、前記固体電解質層の前記第1の固体電解質及び前記第2の固体電解質が内表面に存在している被測定ガス流通空所と、
前記被測定ガス流通空所内の、前記第1の固体電解質上及び前記第2の固体電解質上にまたがって配設された空所内共用電極、及び、前記基体部の前記被測定ガス流通空所内とは異なる位置において、前記第1の固体電解質上及び前記第2の固体電解質上にまたがって配設された空所外共用電極を含む、共用ポンプセルと、
を含み、
前記制御装置は、
前記共用ポンプセルの動作を制御するポンプ制御部を含み、
前記ポンプ制御部は、
前記第1のイオン種を前記第1の固体電解質を介して前記被測定ガス流通空所から汲み出すように、前記共用ポンプセルの前記空所内共用電極と前記空所外共用電極との間に所定の電圧を印加して、前記共用ポンプセルに第1電流を流す第1ポンプ制御と、
前記第2のイオン種を前記第2の固体電解質を介して前記被測定ガス流通空所から汲み出すように、前記共用ポンプセルの前記空所内共用電極と前記空所外共用電極との間に所定の電圧を印加して、前記共用ポンプセルに第2電流を流す第2ポンプ制御とを切り替えて行う、ガスセンサ。
【請求項2】
前記固体電解質層において、前記長手方向と前記長手方向に直交する前記基体部の幅方向とを含む平面に見て、前記第1の固体電解質の領域と、前記第2の固体電解質の領域とが接している、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記固体電解質層において、前記長手方向と前記幅方向を含む平面に見て、前記第2の固体電解質の前記領域が、前記第1の固体電解質の前記領域に囲まれている、請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記第2のイオン種は、前記第1のイオン種とはイオンの極性が異なり、
前記ポンプ制御部は、前記第2ポンプ制御においては、前記共用ポンプセルの前記空所内共用電極と前記空所外共用電極との間に、前記第1ポンプ制御における前記所定の電圧とは逆向きの前記第2ポンプ制御における前記所定の電圧を印加する、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記第1ポンプ制御における前記所定の電圧の印加時間と、前記第2ポンプ制御における前記所定の電圧の印加時間とが異なる、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記空所外共用電極が、被測定ガスに接するように配設されている、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記空所外共用電極が、基準ガスに接するように配設されている、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記共用ポンプセルにおいて、前記空所内共用電極の温度と前記空所外共用電極の温度とが異なる、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項9】
前記固体電解質層について、前記長手方向に直交する前記基体部の厚み方向において、前記第1の固体電解質及び/又は前記第2の固体電解質は、緻密な領域と多孔質の領域とを含む、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項10】
前記固体電解質層について、前記厚み方向において、前記第1の固体電解質及び/又は前記第2の固体電解質は、前記空所内共用電極に接して形成された前記緻密な領域と、前記空所外共用電極に接して形成された前記緻密な領域と、前記緻密な両領域に挟まれた前記多孔質の領域とを含む、請求項9に記載のガスセンサ。
【請求項11】
前記センサ素子は、前記空所外共用電極上に形成された拡散抵抗体を含む、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項12】
前記拡散抵抗体は、前記空所外共用電極を覆うように形成された多孔質拡散抵抗層である、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項13】
前記多孔質拡散抵抗層は、触媒活性を有する貴金属を含む、請求項12に記載のガスセンサ。
【請求項14】
前記空所内共用電極は、前記第1の固体電解質上に配設された空所内第1電極と、前記第2の固体電解質上に配設された空所内第2電極と、前記空所内第1電極と前記空所内第2電極とを連結する導電体とを含み、前記空所内第1電極と前記空所内第2電極とが前記導電体で連結されることにより電気的に一体化された電極として形成されており、及び/又は、
前記空所外共用電極は、前記第1の固体電解質上に配設された空所外第1電極と、前記第2の固体電解質上に配設された空所外第2電極と、前記空所外第1電極と前記空所外第2電極とを連結する導電体とを含み、前記空所外第1電極と前記空所外第2電極とが前記導電体で連結されることにより電気的に一体化された電極として形成されている、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項15】
前記空所内共用電極は、前記第1の固体電解質上に配設された空所内第1電極と、前記第2の固体電解質上に配設された空所内第2電極とを含み、前記空所内第1電極の少なくとも一部と前記空所内第2電極の少なくとも一部とが互いに重なり合うことにより電気的に一体化された電極として形成されており、及び/又は、
前記空所外共用電極は、前記第1の固体電解質上に配設された空所外第1電極と、前記第2の固体電解質上に配設された空所外第2電極とを含み、前記空所外第1電極の少なくとも一部と前記空所外第2電極の少なくとも一部とが互いに重なり合うことにより電気的に一体化された電極として形成されている、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項16】
固体電解質により少なくとも一部が囲まれ、且つ、少なくとも一部が開口されて形成されたガス空所を含み、
前記ガス空所には、少なくとも2種の成分を含むガスが導入され、
前記ガス空所の内表面の少なくとも一部には、第1のイオン種を伝導させるイオン伝導性の第1の固体電解質と、前記第1のイオン種とは異なる第2のイオン種を伝導させるイオン伝導性の第2の固体電解質とが存在し、
前記ガス空所内の、前記第1の固体電解質上及び前記第2の固体電解質上にまたがって配設された空所内共用電極、及び、前記ガス空所内とは異なる位置において、前記第1の固体電解質上及び前記第2の固体電解質上にまたがって配設された空所外共用電極を含む、共用ポンプセルと、
前記共用ポンプセルの動作を制御するポンプ制御部とを含み、
前記ポンプ制御部は、
前記第1のイオン種を前記第1の固体電解質を介して前記ガス空所から汲み出すように、前記共用ポンプセルの前記空所内共用電極と前記空所外共用電極との間に所定の電圧を印加して、前記共用ポンプセルに第1電流を流す第1ポンプ制御と、
前記第2のイオン種を前記第2の固体電解質を介して前記ガス空所から汲み出すように、前記共用ポンプセルの前記空所内共用電極と前記空所外共用電極との間に所定の電圧を印加して、前記共用ポンプセルに第2電流を流す第2ポンプ制御とを切り替えて行う、ガスポンピング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性の固体電解質を用いたセンサ素子を含むガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン等の内燃機関の燃焼制御や排気ガス制御、環境制御、医療、バイオテクノロジー、農工業等の種々の分野において、被測定ガス中の対象とするガス成分(酸素O、水蒸気HO、二酸化炭素CO、窒素酸化物NOx、アンモニアNH、炭化水素HC等)の濃度を測定することが求められる。
【0003】
濃度の測定には、種々の測定機器が用いられるが、その一例として、ジルコニア(ZrO)等の酸素イオン伝導性の固体電解質を用いた、限界電流方式のガスセンサが知られている(例えば、特許第3050781号公報)。
【0004】
また、例えば、特開2018-146346号公報には、プロトン導電性固体電解質を用いた、アンモニアセンサが開示されている。
【0005】
特開2020-067432号公報には、センサ素子と制御ユニットを備える二酸化炭素検出装置が開示されている。センサ素子の実施形態の1つとして、酸素イオンを伝導させるイオン伝導体、水素プロトンを伝導させるプロトン伝導体、及び、前記イオン伝導体と前記プロトン伝導体との間に形成されたガス室を含むセンサ素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3050781号公報
【特許文献2】特開2018-146346号公報
【特許文献3】特開2020-067432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のガスセンサにおいては、通常、1種類の固体電解質(例えば、酸素イオン伝導性の固体電解質)が用いられることが多い。このようなガスセンサにおいては、複数のガス種について、同時に濃度を検出することが困難である。例えば、酸素イオン伝導性の固体電解質を用いたガスセンサにおいて、被測定ガス中の酸素濃度と水蒸気濃度とを同時に測定しようとする場合、固体電解質には、酸素ガス由来の酸素イオンと水蒸気由来の酸素イオンとを同時に伝導させることになる。しかしながら、固体電解質内を移動する酸素イオンのそれぞれが、酸素ガス由来であるか水蒸気由来であるかを直接的に判別することは困難である。従って、酸素イオン伝導の総量は、通常、電流値として検出されるが、検出された電流値を正確に酸素ガス由来の電流と水蒸気由来の電流とに切り分けることは困難である。そのため、1種類の固体電解質を用いて、複数のガス種について、同時に濃度を検出することは困難である。
【0008】
被測定ガス中の複数のガス種を同時に測定したい場合には、ガス種毎に個別のガスセンサを用いることも考えられる。しかしながら、ガスセンサの設置可能位置やコスト等の観点から、複数のガス種を測定可能なガスセンサが求められる。
【0009】
そこで、本発明は、被測定ガス中の複数の測定対象ガスを測定可能なガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ガスセンサに複数の固体電解質を含む固体電解質層を備えることにより、被測定ガス中の複数の測定対象ガスを同時に、あるいは並行して、精度よく測定できることを見出した。
【0011】
本発明には、以下の発明が含まれる。
【0012】
(1) センサ素子と、前記センサ素子を制御する制御装置とを含み、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するガスセンサであって、
前記センサ素子は、
第1のイオン種を伝導させるイオン伝導性の第1の固体電解質と、前記第1のイオン種とは異なる第2のイオン種を伝導させる第2の固体電解質とを含む固体電解質層を備える、長尺板状の基体部と、
前記基体部の長手方向の一方の端部から形成され、前記固体電解質層の前記第1の固体電解質及び前記第2の固体電解質が内表面に存在している被測定ガス流通空所と、
前記被測定ガス流通空所内の、前記第1の固体電解質上及び前記第2の固体電解質上にまたがって配設された空所内共用電極、及び、前記基体部の前記被測定ガス流通空所内とは異なる位置において、前記第1の固体電解質上及び前記第2の固体電解質上にまたがって配設された空所外共用電極を含む、共用ポンプセルと、
を含み、
前記制御装置は、
前記共用ポンプセルの動作を制御するポンプ制御部を含み、
前記ポンプ制御部は、
前記第1のイオン種を前記第1の固体電解質を介して前記被測定ガス流通空所から汲み出すように、前記共用ポンプセルの前記空所内共用電極と前記空所外共用電極との間に所定の電圧を印加して、前記共用ポンプセルに第1電流を流す第1ポンプ制御と、
前記第2のイオン種を前記第2の固体電解質を介して前記被測定ガス流通空所から汲み出すように、前記共用ポンプセルの前記空所内共用電極と前記空所外共用電極との間に所定の電圧を印加して、前記共用ポンプセルに第2電流を流す第2ポンプ制御とを切り替えて行う、ガスセンサ。
【0013】
(2) 前記固体電解質層において、前記長手方向と前記長手方向に直交する前記基体部の幅方向とを含む平面に見て、前記第1の固体電解質の領域と、前記第2の固体電解質の領域とが接している、上記(1)に記載のガスセンサ。
【0014】
(3) 前記固体電解質層において、前記長手方向と前記幅方向を含む平面に見て、前記第2の固体電解質の前記領域が、前記第1の固体電解質の前記領域に囲まれている、上記(2)に記載のガスセンサ。
【0015】
(4) 前記第2のイオン種は、前記第1のイオン種とはイオンの極性が異なり、
前記ポンプ制御部は、前記第2ポンプ制御においては、前記共用ポンプセルの前記空所内共用電極と前記空所外共用電極との間に、前記第1ポンプ制御における前記所定の電圧とは逆向きの前記第2ポンプ制御における前記所定の電圧を印加する、上記(1)~(3)のいずれかに記載のガスセンサ。
【0016】
(5) 前記第1ポンプ制御における前記所定の電圧の印加時間と、前記第2ポンプ制御における前記所定の電圧の印加時間とが異なる、上記(1)~(4)のいずれかに記載のガスセンサ。
【0017】
(6) 前記空所外共用電極が、被測定ガスに接するように配設されている、上記(1)~(5)のいずれかに記載のガスセンサ。
【0018】
(7) 前記空所外共用電極が、基準ガスに接するように配設されている、上記(1)~(5)のいずれかに記載のガスセンサ。
【0019】
(8) 前記共用ポンプセルにおいて、前記空所内共用電極の温度と前記空所外共用電極の温度とが異なる、上記(1)~(7)のいずれかに記載のガスセンサ。
【0020】
(9) 前記固体電解質層について、前記長手方向に直交する前記基体部の厚み方向において、前記第1の固体電解質及び/又は前記第2の固体電解質は、緻密な領域と多孔質の領域とを含む、上記(1)~(8)のいずれかに記載のガスセンサ。
【0021】
(10) 前記固体電解質層について、前記厚み方向において、前記第1の固体電解質及び/又は前記第2の固体電解質は、前記空所内共用電極に接して形成された前記緻密な領域と、前記空所外共用電極に接して形成された前記緻密な領域と、前記緻密な両領域に挟まれた前記多孔質の領域とを含む、上記(9)に記載のガスセンサ。
【0022】
(11) 前記センサ素子は、前記空所外共用電極上に形成された拡散抵抗体を含む、上記(1)~(10)のいずれかに記載のガスセンサ。
【0023】
(12) 前記拡散抵抗体は、前記空所外共用電極を覆うように形成された多孔質拡散抵抗層である、上記(1)~(11)のいずれかに記載のガスセンサ。
【0024】
(13) 前記多孔質拡散抵抗層は、触媒活性を有する貴金属を含む、上記(12)に記載のガスセンサ。
【0025】
(14) 前記空所内共用電極は、前記第1の固体電解質上に配設された空所内第1電極と、前記第2の固体電解質上に配設された空所内第2電極と、前記空所内第1電極と前記空所内第2電極とを連結する導電体とを含み、前記空所内第1電極と前記空所内第2電極とが前記導電体で連結されることにより電気的に一体化された電極として形成されており、及び/又は、
前記空所外共用電極は、前記第1の固体電解質上に配設された空所外第1電極と、前記第2の固体電解質上に配設された空所外第2電極と、前記空所外第1電極と前記空所外第2電極とを連結する導電体とを含み、前記空所外第1電極と前記空所外第2電極とが前記導電体で連結されることにより電気的に一体化された電極として形成されている、上記(1)~(13)のいずれかに記載のガスセンサ。
【0026】
(15) 前記空所内共用電極は、前記第1の固体電解質上に配設された空所内第1電極と、前記第2の固体電解質上に配設された空所内第2電極とを含み、前記空所内第1電極の少なくとも一部と前記空所内第2電極の少なくとも一部とが互いに重なり合うことにより電気的に一体化された電極として形成されており、及び/又は、
前記空所外共用電極は、前記第1の固体電解質上に配設された空所外第1電極と、前記第2の固体電解質上に配設された空所外第2電極とを含み、前記空所外第1電極の少なくとも一部と前記空所外第2電極の少なくとも一部とが互いに重なり合うことにより電気的に一体化された電極として形成されている、上記(1)~(13)のいずれかに記載のガスセンサ。
【0027】
(16) 固体電解質により少なくとも一部が囲まれ、且つ、少なくとも一部が開口されて形成されたガス空所を含み、
前記ガス空所には、少なくとも2種の成分を含むガスが導入され、
前記ガス空所の内表面の少なくとも一部には、第1のイオン種を伝導させるイオン伝導性の第1の固体電解質と、前記第1のイオン種とは異なる第2のイオン種を伝導させるイオン伝導性の第2の固体電解質とが存在し、
前記ガス空所内の、前記第1の固体電解質上及び前記第2の固体電解質上にまたがって配設された空所内共用電極、及び、前記ガス空所内とは異なる位置において、前記第1の固体電解質上及び前記第2の固体電解質上にまたがって配設された空所外共用電極を含む、共用ポンプセルと、
前記共用ポンプセルの動作を制御するポンプ制御部とを含み、
前記ポンプ制御部は、
前記第1のイオン種を前記第1の固体電解質を介して前記ガス空所から汲み出すように、前記共用ポンプセルの前記空所内共用電極と前記空所外共用電極との間に所定の電圧を印加して、前記共用ポンプセルに第1電流を流す第1ポンプ制御と、
前記第2のイオン種を前記第2の固体電解質を介して前記ガス空所から汲み出すように、前記共用ポンプセルの前記空所内共用電極と前記空所外共用電極との間に所定の電圧を印加して、前記共用ポンプセルに第2電流を流す第2ポンプ制御とを切り替えて行う、ガスポンピング装置。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、複数の固体電解質を含む固体電解質層を備えることにより、被測定ガス中の複数の測定対象ガスを測定可能なガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】ガスセンサ100の概略構成の一例を示す、センサ素子101の長手方向の垂直断面模式図である。
図2図1のII-II線に沿う断面の一部を示す、センサ素子101の部分断面模式図である。
図3】制御装置90と、センサ素子101の共用ポンプセル21との電気的接続関係を示すブロック図である。
図4】共有ポンプセル21に印加される電圧の時間変化の一例を示す模式図である。縦軸は電圧Vp1[V](正の向き)又はVp2[V](負の向き)を、横軸は時間t[秒]を示す。
図5】第1ポンプ制御における共有ポンプセル21の動作を示す概念図である。
図6】第2ポンプ制御における共有ポンプセル21の動作を示す概念図である。
図7】固体電解質層6の構成の一例を示す、図1と同じ断面における部分断面模式図である。
図8】固体電解質層6の構成の他の例を示す、図1と同じ断面における部分断面模式図である。
図9】外側共用電極67上に拡散抵抗体が形成されたセンサ素子の一例を示す、図1と同じ断面における部分断面模式図である。
図10】固体電解質層6における酸素イオン伝導体層61及びプロトン伝導体層62の配置の他の例を示す、図1と同じ断面における部分断面模式図である。
図11】内側共用電極65の構成の一例を示す、図1と同じ断面における部分断面模式図である。
図12】内側共用電極65の構成の他の例を示す、図1と同じ断面における部分断面模式図である。
図13】ガスポンピング装置200の概略構成の一例を示す、ガスポンピング素子201の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明のガスセンサは、センサ素子と、前記センサ素子を制御する制御装置と、を含んでいる。
【0031】
本発明のガスセンサに含まれるセンサ素子は、
第1のイオン種を伝導させるイオン伝導性の第1の固体電解質と、前記第1のイオン種とは異なる第2のイオン種を伝導させる第2の固体電解質とを含む固体電解質層を備える、長尺板状の基体部と、
前記基体部の長手方向の一方の端部から形成され、前記固体電解質層の前記第1の固体電解質及び前記第2の固体電解質が内表面に存在している被測定ガス流通空所と、
前記被測定ガス流通空所内の、前記第1の固体電解質上及び前記第2の固体電解質上にまたがって配設された空所内共用電極、及び、前記基体部の前記被測定ガス流通空所内とは異なる位置において、前記第1の固体電解質上及び前記第2の固体電解質上にまたがって配設された空所外共用電極を含む、共用ポンプセルと、
を含む。
【0032】
イオン伝導性の固体電解質は、イオンを伝導させる性質を有する物質である。イオン伝導性の固体電解質としては、例えば、酸素イオン(O2-)を伝導させる酸素イオン伝導性の固体電解質、水素イオン(H+ )を伝導させる水素イオン伝導性(プロトン伝導性)の固体電解質などが挙げられる。
【0033】
本発明のガスセンサに含まれる制御装置は、
前記共用ポンプセルの動作を制御するポンプ制御部を含み、
前記ポンプ制御部は、
前記第1のイオン種を前記第1の固体電解質を介して前記被測定ガス流通空所から汲み出すように、前記共用ポンプセルの前記空所内共用電極と前記空所外共用電極との間に所定の電圧を印加して、前記共用ポンプセルに第1電流を流す第1ポンプ制御と、
前記第2のイオン種を前記第2の固体電解質を介して前記被測定ガス流通空所から汲み出すように、前記共用ポンプセルの前記空所内共用電極と前記空所外共用電極との間に所定の電圧を印加して、前記共用ポンプセルに第2電流を流す第2ポンプ制御とを切り替えて行う。
【0034】
[ガスセンサの概略構成]
本発明のガスセンサの実施形態の一例について、図面を参照して以下に説明する。図1は、センサ素子101を含むガスセンサ100の概略構成の一例を示す長手方向の垂直断面模式図である。以下においては、図1を基準として、上下とは、図1の上側を上、下側を下とし、図1の左側を先端側、右側を後端側とする。図2は、図1のII-II線に沿う断面の一部を示す、センサ素子101の部分断面模式図である。
【0035】
図1において、ガスセンサ100は、センサ素子101によって被測定ガス中の酸素O及び水蒸気HOを検知し、それら2種類のガス濃度を測定するガスセンサの一例を示している。
【0036】
また、ガスセンサ100は、センサ素子101を制御する制御装置90を含む。図3は、制御装置90と、センサ素子101との電気的な接続関係を示すブロック図である。
【0037】
(センサ素子)
センサ素子101は、第1のイオン種を伝導させるイオン伝導性の第1の固体電解質と、前記第1のイオン種とは異なる第2のイオン種を伝導させる第2の固体電解質とを含む固体電解質層6を備える、長尺板状の基体部102を含む、長尺板状の素子である。長尺板状とは、長板状、あるいは、帯状ともいう。センサ素子101においては、第1の固体電解質として、酸素イオン伝導性の固体電解質(酸素イオン伝導体)を、第2の固体電解質として、水素イオン伝導性の固体電解質(プロトン伝導体)を含む。
【0038】
酸素イオン伝導性の固体電解質(酸素イオン伝導体)としては、例えば、ジルコニアに希土類金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物を安定化剤として添加した、安定化ジルコニア及び部分安定化ジルコニア等を用いることができる。安定化剤としては、例えば、イットリア(Y)、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)、セリア(CeO)、スカンジア(Sc)等が挙げられる。例えば、イットリア安定化ジルコニアを用いてよい。
【0039】
水素イオン伝導性の固体電解質(プロトン伝導体)としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物等を用いることができる。ペロブスカイト型酸化物としては、例えば、希土類金属がドープされた、ジルコン酸ストロンチウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸バリウム、セリウム酸ストロンチウム、セリウム酸カルシウム、セリウム酸バリウム等が挙げられる。ドープされる希土類金属としては、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)等が挙げられる。例えば、イットリウム(Y)がドープされたジルコン酸ストロンチウムを用いてよい。
【0040】
基体部102は、それぞれがジルコニア(ZrO)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる基板層1、中間層3、及びスペーサ層5、並びに、酸素イオン伝導性固体電解質からなる酸素イオン伝導体層61と水素イオン伝導性固体電解質からなるプロトン伝導体層62とで構成された固体電解質層6の4つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する。これら4つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。前記4つの層は全て同じ厚みであってもよいし、各層毎に異なる厚みであってもよい。各層の間は、固体電解質からなる接着層を介して接着されており、基体部102には前記接着層を含む。図1においては、前記4つの層からなる層構成を例示したが、本発明における層構成はこれに限られるものではなく、任意の層の数及び層構成としてよい。少なくとも固体電解質層6が酸素イオン伝導体層61とプロトン伝導体層62とを含んで構成されていればよい。基板層1、中間層3、及びスペーサ層5については、緻密体であればよく、その材質は、例えば、酸素イオン伝導性固体電解質以外のプロトン伝導性固体電解質等の固体電解質でもよく、あるいは、アルミナ等の絶縁体であってもよい。
【0041】
固体電解質層6において、基体部102の長手方向と前記長手方向に直交する基体部102の幅方向とを含む平面に見て、第1の固体電解質の領域(酸素イオン伝導体層61)と、前記第2の固体電解質の領域(プロトン伝導体層62)とが接するように構成されている。本実施形態においては、図2に示すように、固体電解質層6において、平面に見て、プロトン伝導体層62が、酸素イオン伝導体層61に囲まれている。すなわち、固体電解質層6は、酸素イオン伝導体層61にプロトン伝導体層62が埋め込まれた構成になっている。なお、図2において、破線の矩形は、後述の第1内部空所20の平面位置を示す想像線である。
【0042】
係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0043】
センサ素子101(基体部102)の長手方向の一方の端部(以下、先端部という)であって、固体電解質層6の下面と中間層3の上面との間には、ガス導入口10が形成されている。被測定ガス流通空所15、すなわち被測定ガス流通部は、ガス導入口10から長手方向に、第1拡散律速通路11(すなわち、第1拡散律速部)と、第1内部空所20とが、この順に連通する態様にて形成されている。被測定ガス流通空所15は、基体部102の先端部から形成され、酸素イオン伝導体層61及びプロトン伝導体層62が内表面に存在している。すなわち、被測定ガス流通空所15は、固体電解質層6の酸素イオン伝導体層61及びプロトン伝導体層62に面して形成されている。この例においては、被測定ガス流通空所15として、第1内部空所20のみが形成されているセンサ素子101を示している。被測定ガス流通空所15として、長手方向後方に向かって、さらに第2内部空所、第3内部空所等が存在していてもよい。
【0044】
ガス導入口10と、第1内部空所20とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を固体電解質層6の下面で、下部を中間層3の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。固体電解質層6の第1内部空所20に面する領域には、酸素イオン伝導体層61及びプロトン伝導体層62が存在している(図2参照)。
【0045】
第1拡散律速通路11は、2本の横長の(図1において図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。第1拡散律速部11は、所望の拡散抵抗を付与する形態であればよく、その形態は前記スリットに限定されるものではない。
【0046】
被測定ガス流通空所15において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口している部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0047】
本実施形態においては、被測定ガス流通空所15は、センサ素子101の先端面に開口したガス導入口10から被測定ガスが導入される形態であるが、本発明はこの形態に限定されるものではない。例えば、被測定ガス流通空所15には、ガス導入口10の凹所が存在しなくてもよい。この場合は、第1拡散律速通路11が実質的にガス導入口となる。
【0048】
また、例えば、被測定ガス流通空所15は、基体部102の長手方向に沿う側面に、第1内部空所20の先端部に近い位置と連通する開口を有している形態であってもよい。この場合は、前記開口を通じて、基体部102の長手方向に沿う側面から被測定ガスが導入される。
【0049】
また、例えば、被測定ガス流通空所15は、多孔体を通じて被測定ガスが導入される構成になっていてもよい。
【0050】
第1拡散律速通路11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0051】
第1内部空所20は、第1拡散律速通路11を通じて導入された被測定ガス中の酸素濃度及び水蒸気濃度を測定するための空間として設けられている。共有ポンプセル21が作動することにより、酸素及び水蒸気が検出される。
【0052】
共有ポンプセル21は、被測定ガス流通空所15内の、第1の固体電解質(本実施形態においては、酸素イオン伝導体層61)上及び第2の固体電解質(本実施形態においては、プロトン伝導体層62)上にまたがって配設された空所内共用電極(本実施形態においては、内側共用電極65)、及び、基体部102の被測定ガス流通空所15内とは異なる位置において、前記第1の固体電解質上及び前記第2の固体電解質上にまたがって配設された空所外共用電極(本実施形態においては、外側共用電極67)を含む。従って、センサ素子101においては、空所内共用電極は、被測定ガス流通空所15の内表面の第1の固体電解質及び第2の固体電解質と、被測定ガス流通空所15の空間との間に存在している。
【0053】
すなわち、共有ポンプセル21は、第1内部空所20に面する固体電解質層6の下面のうちの、酸素イオン伝導体層61の下面及びプロトン伝導体層62の下面にまたがって設けられた内側共用電極65と、固体電解質層6の上面のうちの、酸素イオン伝導体層61の上面及びプロトン伝導体層62の上面にまたがって、外部空間に露出する態様にて設けられた外側共用電極67と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導体層61及びプロトン伝導体層62とによって構成される電気化学的ポンプセルである。
【0054】
共有ポンプセル21は、
内側共用電極65、外側共用電極67、及び、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導体層61によって構成される酸素イオンポンプセルと、
内側共用電極65、外側共用電極67、及び、これらの電極に挟まれたプロトン伝導体層62によって構成される水素イオンポンプセルと、
が統合されて一体化された複合的なポンプセルである。
【0055】
内側共用電極65は、多孔質サーメット電極(金属成分とセラミックス成分が混在した態様の電極)である。セラミックス成分としては、特に限定されないが、酸素イオン伝導体層61及びプロトン伝導体層62と同様に固体電解質を用いてよい。内側共用電極65のうちの酸素イオン伝導体層61と接する部分には、酸素イオン伝導体層61と同様に、酸素イオン伝導性の固体電解質を用いることが好ましく、内側共用電極65のうちのプロトン伝導体層62と接する部分には、プロトン伝導体層62と同様に、水素イオン(プロトン)伝導性の固体電解質を用いることが好ましい。
【0056】
内側共用電極65は、金属成分として、触媒活性を有する貴金属(例えばPt,Rh,Ir,Ru,Pdの少なくとも1つ)を含んでいるとよい。金属成分として、例えばPtを用いてよい。
【0057】
内側共用電極65は、例えば、Ptと、ZrO(酸素イオン伝導性)と、イットリウム(Y)がドープされたジルコン酸ストロンチウム(プロトン伝導性)との多孔質サーメット電極であってよい。
【0058】
内側共用電極65は、第1内部空所20内に導入された被測定ガス中の水蒸気HOを分解する触媒としても機能する。
【0059】
外側共用電極67は、多孔質サーメット電極(金属成分とセラミックス成分が混在した態様の電極)である。セラミックス成分としては、特に限定されないが、内側共用電極65と同様に、酸素イオン伝導体層61及びプロトン伝導体層62と同様に固体電解質を用いてよい。外側共用電極67のうちの酸素イオン伝導体層61と接する部分には、酸素イオン伝導体層61と同様に、酸素イオン伝導性の固体電解質を用いることが好ましく、外側共用電極67のうちのプロトン伝導体層62と接する部分には、プロトン伝導体層62と同様に、水素イオン(プロトン)伝導性の固体電解質を用いることが好ましい。
【0060】
外側共用電極67は、内側共用電極65と同様に、金属成分として、触媒活性を有する貴金属(例えばPt,Rh,Ir,Ru,Pdの少なくとも1つ)を含んでいるとよい。金属成分として、例えばPtを用いてよい。
【0061】
外側共用電極67は、例えば、内側共用電極65と同様に、Ptと、ZrO(酸素イオン伝導性)と、イットリウム(Y)がドープされたジルコン酸ストロンチウム(プロトン伝導性)との多孔質サーメット電極であってよい。
【0062】
共有ポンプセル21においては、内側共用電極65と外側共用電極67との間に所望のポンプ電圧を可変電源24により印加して、内側共用電極65と外側共用電極67との間に電流を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出すか、又は、第1内部空所20内の水蒸気の分解により発生した水素を外部空間に汲み出すことが可能となっている。
【0063】
可変電源24は、共有ポンプセル21に正負両方向にポンプ電圧を印加できるように構成された部材である。両方向の電圧を発生させる電源を含んで構成されてもよいし、単方向の電圧を発生させる電源を複数含んで構成されてもよい。本実施形態において、前記ポンプ電圧は、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出す向き、すなわち、センサ素子101の外側において内側共用電極65から外側共用電極67に電流を流す向きを正の向きのポンプ電圧(電圧Vp1)とし、第1内部空所20内の水の分解により発生した水素を外部空間に汲み出す向き、すなわち、センサ素子101の外側において外側共用電極67から内側共用電極65に電流を流す向きを負の向きのポンプ電圧(電圧Vp2)とする。
【0064】
共有ポンプセル21においては、内側共用電極65と外側共用電極67との間に正の向きの電圧Vp1を可変電源24により印加して、酸素イオン伝導体層61を介して内側共用電極65と外側共用電極67との間に正の向きの第1電流Ip1を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出すことが可能となっている。
【0065】
共有ポンプセル21においては、内側共用電極65と外側共用電極67との間に負の向きの電圧Vp2を可変電源24により印加して、プロトン伝導体層62を介して内側共用電極65と外側共用電極67との間に負の向きの第2電流Ip2を流すことにより、内側共用電極65においてHOが分解されて、そのHOの分解により発生した水素を外部空間に汲み出すことが可能となっている。
【0066】
つまり、共有ポンプセル21は、内側共用電極65と外側共用電極67との間に印加する電圧の向きを変更することにより、酸素イオンポンプセルとしての機能、又は、水素イオンポンプセルとしての機能のいずれの機能を発揮するかを変更することができるようになっている。
【0067】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性及び水素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータ72と、ヒータリード76と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74とを備えている。
【0068】
ヒータ電極71は、基板層1の下面に接する態様にて形成されている電極である。ヒータ電極71を外部電源であるヒータ電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0069】
ヒータ72は、基板層1と中間層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、ヒータ72に接続していて且つセンサ素子101の長手方向後端側に延びているヒータリード76と、スルーホール73とを介してヒータ電極71と接続されており、該ヒータ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0070】
また、ヒータ72は、第1内部空所20の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質(酸素イオン伝導性固体電解質及び水素イオン伝導性固体電解質)が活性化する温度に調整することが可能となっている。共有ポンプセル21が作動できるように温度が調整されていればよい。センサ素子101全体が同じ温度に調整される必要はなく、センサ素子101に温度分布があってもよい。ヒータ72を所望の温度に保持することにより、センサ素子101を固体電解質が活性化して酸素濃度及びHO濃度の測定が精度よく行われる駆動温度(例えば、800℃程度)に維持できるようになっている。
【0071】
本実施形態のセンサ素子101においては、ヒータ72が基体部102に埋設された態様であるが、この態様に限定されるものでない。ヒータ72は、基体部102を加熱するように配設されていればよい。すなわち、ヒータ72は、上述の共有ポンプセル21が両方向に作動できる酸素イオン伝導性及び水素イオン伝導性を発現させる程度に、センサ素子101を加熱できるものであればよい。例えば、本実施形態のように基体部102に埋設されていてもよい。あるいは、例えば、ヒータ部70が基体部102とは別のヒータ基板として形成され、基体部102の隣接位置に配設されていてもよい。
【0072】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72及びヒータリード76の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、基板層1とヒータ72及びヒータリード76との間の電気的絶縁性、および、中間層3とヒータ72及びヒータリード76との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0073】
(制御装置)
本実施形態のガスセンサ100は、上述のセンサ素子101と、センサ素子101を制御する制御装置90とを含む。ガスセンサ100において、センサ素子101の各電極65,67は図示しないリード線を介して、制御装置90と電気的に接続されている。図3は、制御装置90と、センサ素子101の共有ポンプセル21との電気的接続関係を示すブロック図である。制御装置90は、上述した可変電源24と、制御部91とを含む。制御部91は、ポンプ制御部92及び濃度算出部93を含む。
【0074】
制御部91は、汎用又は専用のコンピュータにより実現されるものであり、コンピュータに搭載されたCPUやメモリ等によりポンプ制御部92、及び濃度算出部93としての機能が実現される。なお、ガスセンサ100が自動車のエンジンからの排気ガス中に含まれる酸素及び水蒸気を測定対象ガスとし、センサ素子101が排気経路に取り付けられるものである場合、制御装置90(特に制御部91)の一部あるいは全部の機能が、該自動車に搭載されているECU(Electronic Control Unit;電子制御装置)により実現されてもよい。
【0075】
制御部91は、センサ素子101の共有ポンプセル21におけるポンプ電流(第1電流Ip1、第2電流Ip2)を取得するように構成されている。また、制御部91は、可変電源24に制御信号を出力するように構成されている。
【0076】
ポンプ制御部92は、被測定ガス中の測定対象ガス(本実施形態においては酸素及び水蒸気)の濃度を測定できるように、共有ポンプセル21の動作を制御するように構成されている。
【0077】
ポンプ制御部92は、
前記第1のイオン種(本実施形態においては酸素イオン)を前記第1の固体電解質(本実施形態においては酸素イオン伝導体層61)を介して被測定ガス流通空所15から汲み出すように、共用ポンプセル21の空所内共用電極(内側共用電極65)と空所外共用電極(外側共用電極67)との間に所定の電圧(本実施形態においては正の電圧Vp1)を印加して、共用ポンプセル21に第1電流Ip1を流す第1ポンプ制御と、
前記第2のイオン種(本実施形態においては水素イオン)を前記第2の固体電解質(本実施形態においてはプロトン伝導体層62)を介して被測定ガス流通空所15から汲み出すように、共用ポンプセル21の空所内共用電極(内側共用電極65)と空所外共用電極(外側共用電極67)との間に所定の電圧(本実施形態においては負の電圧Vp2)を印加して、共用ポンプセル21に第2電流Ip2を流す第2ポンプ制御とを切り替えて行う。
【0078】
第1内部空所20から外部空間に酸素を汲み出すように、共有ポンプセル21の内側共用電極65と外側共用電極67との間に正の向きの電圧Vp1を印加すると、電圧Vp1が低いうちは電圧Vp1の増加に伴い第1電流Ip1が増加する。その後、電圧Vp1が高くなると電圧Vp1が増加しても第1電流Ip1が増加せずに飽和するようになる。この時の飽和した電流値を限界電流値と称する。電圧Vp1に対して第1電流Ip1が限界電流値になるような領域を、酸素に対する限界電流領域と称する。酸素に対する限界電流領域においては、第1拡散律速通路11を通じて第1内部空所20に導入される被測定ガス中の酸素が、共有ポンプセル21によって実質的に全て汲み出されると考えられる。この時、第1電流Ip1は、センサ素子101の外側において、内側共用電極65から外側共用電極67に向かって流れる。
【0079】
前記第1ポンプ制御において、ポンプ制御部92は、共有ポンプセル21の内側共用電極65と外側共用電極67との間に、第1電流Ip1が限界電流値となるような所定の正の向きの電圧Vp1を印加するとよい。正の向きの電圧Vp1の値は、ガスセンサ100の使用目的やセンサ素子101の構成等により異なり得るが、例えば、200mV~600mV程度であってよい。例えば、400mV程度としてもよい。
【0080】
また、第1内部空所20から外部空間に水素を汲み出すように、共有ポンプセル21の内側共用電極65と外側共用電極67との間に負の向きの電圧Vp2を印加すると、電圧Vp2の絶対値が低いうちは内側共用電極65においてHOの分解が起こらず、第2電流Ip2は流れない。電圧Vp2がHOの分解開始電圧よりも高くなると、第2電流Ip2が流れ始め、電圧Vp2の絶対値の増加に伴い第2電流Ip2が増加する。HOの分解開始電圧は、通常、上記の酸素に対する限界電流領域の電圧値よりも高い電圧値(絶対値)である。その後、さらに負の向きの電圧Vp2の絶対値が高くなると負の向きの電圧Vp2の絶対値が増加しても第2電流Ip2が増加せずに飽和するようになる。この時の飽和した電流値を限界電流値と称する。負の向きの電圧Vp2に対して第2電流Ip2が限界電流値になるような領域を、水素に対する限界電流領域と称する。水素に対する限界電流領域においては、第1拡散律速通路11を通じて第1内部空所20に導入される被測定ガス中の水蒸気HOが内側共用電極65においてにおいて実質的に全て分解され、分解されて生じた水素が共有ポンプセル21によって実質的に全て汲み出されると考えられる。この時、第2電流Ip2は、センサ素子101の外側において、外側共用電極67から内側共用電極65に向かって流れる。このように、酸素の汲み出しに由来する第1電流Ip1と水素の汲み出しに由来する第2電流Ip2とは、電流の向きが逆になる。
【0081】
前記第2ポンプ制御において、ポンプ制御部92は、共有ポンプセル21の内側共用電極65と外側共用電極67との間に、内側共用電極65においてHOの分解が起こるような所定の負の向きの電圧Vp2を印加するとよい。負の向きの電圧Vp2の絶対値は、内側共用電極65において被測定ガス中のHOが実質的に全て分解されるような値とするとよい。また、第2電流Ip2が限界電流値となるような値としてよい。電圧Vp2の絶対値は、ガスセンサ100の使用目的やセンサ素子101の構成等により異なり得るが、例えば、800mV~1200mV程度であってよい。
【0082】
ポンプ制御部92は、上述の第1ポンプ制御及び第2ポンプ制御を交互に繰り返し行う。図4は、共有ポンプセル21に印加される電圧の時間変化の一例を示す模式図である。縦軸は電圧Vp1[V](正の向き)又はVp2[V](負の向き)を、横軸は時間t[秒]を示す。図4の例においては、ある時点t0から時点t1まで正の向きに所定の電圧Vp1を印加して第1ポンプ制御を行う。その後、時点t1において、印加電圧の向きを反転させて、時点t1から時点t2まで負の向きに所定の電圧Vp2を印加して第2ポンプ制御を行う。その後、時点t2において、印加電圧の向きを再度反転させて、時点t2から時点t3まで再び第1ポンプ制御を行う。そして、時点t3から時点t4まで第2ポンプ制御を行い、時点t4から時点t5まで第1ポンプ制御を行うというように、第1ポンプ制御と第2ポンプ制御とを交互に行う。
【0083】
ガスセンサ100における酸素及び水蒸気の測定原理を、図5及び6を用いて説明する。図1~4も適宜参照する。図5は、第1ポンプ制御における共有ポンプセル21の動作を示す概念図である。図6は、第2ポンプ制御における共有ポンプセル21の動作を示す概念図である。図5及び6においては、被測定ガス中の酸素O及び水蒸気HOのみを図示している。
【0084】
図5を参照して、第1ポンプ制御においては、第1拡散律速通路11を通じて第1内部空所20に導入された被測定ガス中の酸素ガスOは、内側共用電極65において酸素イオンO2-に変換されて(O→2O2-)、共有ポンプセル21を構成する固体電解質のうちの酸素イオン伝導体層61を伝導して外側共用電極67に達し、酸素ガスOとしてセンサ素子101の外部に放出される。
【0085】
第1ポンプ制御においては、第1拡散律速通路11を通じて第1内部空所20に導入された被測定ガス中の水蒸気HOは、内側共用電極65において分解されることなく、水蒸気HOのまま第1内部空所20内に存在している。
【0086】
図6を参照して、第2ポンプ制御においては、第1拡散律速通路11を通じて第1内部空所20に導入された被測定ガス中の水蒸気HOは、内側共用電極65において分解される(2HO→4H++O)。HOの分解により生じた水素イオンH+ は、共有ポンプセル21を構成する固体電解質のうちのプロトン伝導体層62を伝導して外側共用電極67に達し、水素ガスHとしてセンサ素子101の外部に放出される。一方、HOの分解により生じた酸素Oは、第2ポンプ制御においては、共有ポンプセル21によって汲み出されることなく、酸素Oのまま第1内部空所20内に残存する。そして、その酸素は、直後の第1ポンプ制御において、共有ポンプセル21によって汲み出されることになる。
【0087】
第2ポンプ制御においては、第1拡散律速通路11を通じて第1内部空所20に導入された被測定ガス中の酸素ガスOは、共有ポンプセル21によって汲み出されることなく、酸素Oのまま存在している。
【0088】
図4を参照すると、例えば、時点t1から時点t2の第2ポンプ制御において、共有ポンプセル21は、被測定ガス中のHOの分解により生じた水素を汲み出す。この際に、HOの分解により生じた酸素は、第1内部空所20内に残存している。次に、時点t2から時点t3の第1ポンプ制御において、共有ポンプセル21は、被測定ガス中の酸素、及び、直前の第2ポンプ制御においてHOの分解により生じた酸素を汲み出す。
【0089】
センサ素子101においては、酸素イオン伝導体層61及びプロトン伝導体層62が接しており、酸素イオン伝導体層61及びプロトン伝導体層62にまたがって共有ポンプセル21の内側共用電極65が配設されている。従って、第2ポンプ制御においてHOの分解により生じた酸素は、その直後の第1ポンプ制御において、効率的に汲み出すことができうる。
【0090】
このように、ガスセンサ100においては、被測定ガス中の水蒸気HOは、第2ポンプ制御の時に、共有ポンプセル21の内側共用電極65において分解される。そして、内側共用電極65での水蒸気HOの分解により生じた水素が、第2ポンプ制御の時に、共有ポンプセル21によって第1内部空所20からセンサ素子101の外部空間に汲み出される。その直後の第1ポンプ制御において、被測定ガス中の酸素ガスOと、内側共用電極65での水蒸気HOの分解により生じた酸素とが、共有ポンプセル21によって第1内部空所20からセンサ素子101の外部空間に汲み出される。
【0091】
従って、第2ポンプ制御において共有ポンプセル21に流れる第2電流Ip2は、被測定ガス中の水蒸気HOの分解により生じた水素Hに起因する電流となる。被測定ガス中の水蒸気HOが内側共用電極65において実質的に全て分解する場合、水蒸気HOの分解により生じた水素Hの量は、被測定ガス中の水蒸気HOの量(濃度)に応じた量になる。すなわち、第2電流Ip2の電流値は、被測定ガス中の水蒸気濃度に応じた電流値となると考えられる。
【0092】
また、第1ポンプ制御において共有ポンプセル21に流れる第1電流Ip1は、被測定ガス中の酸素ガスOに起因する電流と、被測定ガス中の水蒸気HOの分解により生じた酸素Oに起因する電流とを含む。第1ポンプ制御において共有ポンプセル21に流れる第1電流Ip1のうちの水蒸気HOの分解により生じた酸素Oに起因する電流の絶対値は、その直前の第2ポンプ制御において共有ポンプセル21に流れる第2電流Ip2の絶対値と等しいと考えられる。従って、第1ポンプ制御において共有ポンプセル21に流れる第1電流Ip1の絶対値から直前の第2ポンプ制御において共有ポンプセル21に流れる第2電流Ip2の絶対値を差し引いた差分ΔIp(=|Ip1|-|Ip2|)は、被測定ガス中の酸素濃度に応じた電流値となると考えられる。
【0093】
このように、ガスセンサ100は、共有ポンプセル21を用いて、被測定ガス中の酸素ガスOと、内側共用電極65での水蒸気HOの分解により生じた酸素を汲み出す第1ポンプ制御と、内側共用電極65での水蒸気HOの分解により生じた水素を汲み出す第2ポンプ制御とを、繰り返し行う。共有ポンプセル21は、第1ポンプ制御と第2ポンプ制御とを時間的に区分して行うことにより、酸素イオンポンプセルとしての機能と水素イオンポンプセルとしての機能の2つの機能を有するようになされている。
【0094】
第1ポンプ制御における正の電圧Vp1の1回あたりの印加時間(第1印加時間T1と称する)、及び、第2ポンプ制御における負の電圧Vp2の1回あたりの印加時間(第2印加時間T2と称する)とは、ガスセンサ100の使用目的、測定対象とするガス種、センサ素子101の構成等を考慮して適宜設定してよい。第1印加時間T1と第2印加時間T2とは、同じ時間であってもよいし、互いに異なっていてもよい。第1印加時間T1と第2印加時間T2との長短は問わない。第1印加時間T1と第2印加時間T2とは、例えば、被測定ガスの変動周期よりも短い時間に設定してもよい。このように設定すれば、第1ポンプ制御と第2ポンプ制御との間で被測定ガス中の酸素濃度及び水蒸気濃度がほぼ同じであると考えることができるため、被測定ガス中の酸素濃度及び水蒸気濃度を精度よく測定することができうる。あるいは、第1ポンプ制御と第2ポンプ制御との間で第1内部空所20内のガス雰囲気が入れ替わらない程度に短く設定してもよい。第1印加時間T1と第2印加時間T2とは、例えば、100マイクロ秒(μs)から10ミリ秒(ms)程度であってよい。
【0095】
センサ素子101において、内側共用電極65及び外側共用電極67は、いずれも酸素イオン伝導体層61及びプロトン伝導体層62にまたがって設けられている。第1ポンプ制御においては、上述のとおり、共有ポンプセル21の酸素イオン伝導体層61を通じて、第1内部空所20からセンサ素子101の外部空間に酸素を汲み出す。この時、プロトン伝導体層62に着目すると、センサ素子101の外部空間から第1内部空所20内に水素を汲み入れる向きに電圧が印加されていることになる。酸素の汲み出しに起因する電流と水素の汲み入れに起因する電流とは分離して測定することはできない。従って、このような第1ポンプ制御における水素の汲み入れ(逆流)を抑制することにより、ガスセンサ100の測定精度をより向上させることができる。
【0096】
一方、第2ポンプ制御においては、上述のとおり、共有ポンプセル21のプロトン伝導体層62を通じて、第1内部空所20からセンサ素子101の外部空間に水素を汲み出す。この時、酸素イオン伝導体層61に着目すると、センサ素子101の外部空間から第1内部空所20内に酸素を汲み入れる向きに電圧が印加されていることになる。水素の汲み出しに起因する電流と酸素の汲み入れに起因する電流とは分離して測定することはできない。従って、このような第2ポンプ制御における酸素の汲み入れ(逆流)を抑制することにより、ガスセンサ100の測定精度をより向上させることができる。
【0097】
例えば、ポンプ制御部92は、前記第1ポンプ制御における前記所定の電圧の印加時間(第1印加時間T1)と、前記第2ポンプ制御における前記所定の電圧の印加時間(第2印加時間T2)とが異なるように制御してもよい。例えば、酸素の汲み出しを行う第1ポンプ制御の第1印加時間T1よりも、水素の汲み出しを行う第2ポンプ制御の第2印加時間T2を短い値に設定してもよい。
【0098】
酸素ガスと水素ガスとでは、それぞれの分子量が異なるために、移動しやすさが異なる。酸素ガスと水素ガスとでは、いわゆる周波数応答が異なる。酸素ガス及び水素ガス以外のガス種についても同様である。分子量の小さい水素ガスは、酸素ガスと比較して移動しやすい(周波数応答が早い)。第2ポンプ制御の第2印加時間T2を短くすると、内側共用電極65において水蒸気の分解によって発生した水素ガスは、周波数応答が早いために、第2印加時間T2の間に共用ポンプセル21によって汲み出される。その一方で、周波数応答の遅い酸素ガスは、第2印加時間T2の間には外側共用電極67にほとんど到達せず、酸素の汲み入れ(逆流)を抑制することができうる。第2印加時間T2の長さは、周波数応答の早さを考慮して適宜設定してよい。第2印加時間T2の長さは、例えば、第1印加時間T1に対して、10%~50%程度としてもよい。
【0099】
一方、第1ポンプ制御の第1印加時間T1は、水素よりも周波数応答の遅い酸素を汲み出せる程度の時間に設定するとよい。ガスセンサ100においては、外側共用電極67は被測定ガスに接している。自動車の排ガス等を被測定ガスとする場合には、通常、被測定ガスにはほとんど水素ガスは存在していないと考えられる。また、第1ポンプ制御において印加される電圧の値は、通常HOの分解開始電圧よりも低い値であると考えられる。従って、外側共用電極67において、HOの分解は起こらない(すなわち、水素が発生しない)と考えられる。従って、第1ポンプ制御の第1印加時間T1を、酸素の周波数応答を考慮して設定しても、外側共用電極67の近傍にそもそもほとんど水素がないために、水素の汲み入れ(逆流)はほとんど発生しないと考えられる。例えば、第1印加時間T1は、200μs~10ms程度としてもよい。
【0100】
また、本実施形態においては、外側共用電極67は被測定ガスに接しているが、本発明はこれに限られない。例えば、外側共用電極67が基準ガス(例えば大気)に接するようにしてもよい。大気には水素ガスがほぼ含まれない。従って、被測定ガスの組成によらず、第1ポンプ制御における水素の汲み入れ(逆流)を抑制し得る。つまり、より安定的に第1ポンプ制御における水素の汲み入れ(逆流)を抑制しうる。
【0101】
第1ポンプ制御における水素の汲み入れ(逆流)及び第2ポンプ制御における酸素の汲み入れ(逆流)の抑制のために、例えば、共用ポンプセル21において、前記空所内共用電極(内側共用電極65)の温度と前記空所外共用電極(外側共用電極67)の温度とが異なるようになされていてもよい。例えば、外側共用電極67の温度が、内側共用電極65の温度よりも低くなるようになされていてもよい。
【0102】
酸素イオンや水素イオンが固体電解質を移動するためには、電極(内側共用電極65又は外側共用電極67)にガスが吸着し、脱離する反応を経る必要がある。このような電極における反応に対する抵抗は、電極の温度と相関があることが知られている。通常、電極温度が低いほど反応抵抗は高くなる。すなわち、吸着・脱離の反応が起こりにくくなる。従って、外側共用電極67の温度を内側共用電極65の温度よりも低くすれば、外側共用電極67における吸着・脱離の反応を抑制することができる。その結果、センサ素子101の外部空間からの水素あるいは酸素の汲み入れを効果的に抑制し得る。
【0103】
外側共用電極67の温度を内側共用電極65の温度よりも低くする構成は特に限定されないが、例えば、図7に示すように、固体電解質層6の厚み(酸素イオン伝導体層61及びプロトン伝導体層62の厚み)を厚くしてもよい。ヒータ72と内側共用電極65との距離に対して、ヒータ72と外側共用電極67との距離が長いため、外側共用電極67の温度を低くすることができる。この場合において、固体電解質層6の厚みは、外側共用電極67の温度及び内側共用電極65の温度が所望の温度になるように適宜設定してよい。固体電解質層6の厚みは、ガスセンサ100の使用目的、測定対象とするガス種、センサ素子101の構成等により異なりうるが、例えば、100μm~500μm程度であってよい。
【0104】
また、例えば、固体電解質層6の、前記長手方向に直交する基体部102の厚み方向において、前記第1の固体電解質(本実施形態においては酸素イオン伝導体層61)及び/又は前記第2の固体電解質(本実施形態においてはプロトン伝導体層62)は、緻密な領域と多孔質の領域とを含んでいてよい。緻密な領域は、被測定ガス流通空所15(特に第1内部空所20)の天井面の気密性を保つ機能を果たす。多孔質の領域は、固体電解質層6の熱伝導を低減させる断熱材として機能する。多孔質の領域は、センサ素子の前記平面に見て、固体電解質層6の全域に存在していてもよいし、一部に存在していてもよい。例えば、センサ素子の前記平面に見て、外側共用電極67が存在する領域に多孔質の領域があるとよい。
【0105】
この場合には、例えば、図8に例示するように、固体電解質層6について、前記厚み方向において、前記第1の固体電解質(本実施形態においては酸素イオン伝導体層61)及び/又は前記第2の固体電解質(本実施形態においてはプロトン伝導体層62)は、前記空所内共用電極(本実施形態においては内側共用電極65)に接して形成された前記緻密な領域(図8において、領域61a、62a)と、前記空所外共用電極(本実施形態においては外側共用電極67)に接して形成された前記緻密な領域(図8において、領域61c、62c)と、前記緻密な領域に挟まれた前記多孔質の領域(図8において、領域61b、62b)とを含んでいてよい。
【0106】
酸素イオン伝導体層61の緻密な領域61a、61c、及び多孔質の領域61bはいずれも酸素イオン伝導性の固体電解質である。緻密な領域61a、61cの厚みは、被測定ガス流通空所15(特に第1内部空所20)の天井面の気密性が保たれる範囲で適宜設定してよい。多孔質の領域61bの厚みや気孔率、多孔質の領域61bの緻密な領域61a、61cに対する比率は、外側共用電極67の温度及び内側共用電極65の温度が所望の温度になるように適宜設定してよい。プロトン伝導体層62の緻密な領域62a、62c、及び多孔質の領域62bはいずれも水素イオン伝導性の固体電解質である。緻密な領域62a、62cの厚みは、被測定ガス流通空所15(特に第1内部空所20)の天井面の気密性が保たれる範囲で適宜設定してよい。多孔質の領域62bの厚みや気孔率、多孔質の領域62bの緻密な領域62a、62cに対する比率は、外側共用電極67の温度及び内側共用電極65の温度が所望の温度になるように適宜設定してよい。図8においては、多孔質の領域61b及び62bの厚みがそれぞれ同じであるが、互いに異なっていてもよい。緻密な領域61a及び62a、あるいは、緻密な領域61c及び62cについても同様である。また、酸素イオン伝導体層61及びプロトン伝導体層62の両方が多孔質の領域を有していてもよいし、一方が多孔質の領域を有していてもよい。
【0107】
第1ポンプ制御における水素の汲み入れ(逆流)及び第2ポンプ制御における酸素の汲み入れ(逆流)の抑制のために、例えば、センサ素子は、前記空所外共用電極(外側共用電極67)上に形成された拡散抵抗体を含んでいてもよい。また、前記拡散抵抗体は、図9に例示するように、前記空所外共用電極(外側共用電極67)を覆うように形成された多孔質拡散抵抗層69であってもよい。
【0108】
外側共用電極67を多孔質拡散抵抗層69で覆うことにより、センサ素子の外部空間から外側共用電極67に到達する被測定ガスの量を制限することができる。従って、第1ポンプ制御において、被測定ガス中に水素ガスが存在したとしても、水素ガスは、多孔質拡散抵抗層69が存在することにより外側共用電極67には到達しにくいため、水素ガスの汲み入れ(逆流)を抑制することができる。また、第2ポンプ制御においても、被測定ガス中の酸素ガスは、多孔質拡散抵抗層69が存在することにより外側共用電極67には到達しにくいため、酸素ガスの汲み入れ(逆流)を抑制することができる。
【0109】
多孔質拡散抵抗層69は、所望の拡散抵抗となるように形成されていればよい。多孔質拡散抵抗層69の材質は特に限られないが、例えば、多孔質セラミックスであってよい。例えば、アルミナなどの絶縁体であってもよいし、酸素イオン伝導体層61又はプロトン伝導体層62と同様に、固体電解質であってもよい。
【0110】
また、外側共用電極67上の拡散抵抗体は、多孔質拡散抵抗層69のような多孔質層に限られない。センサ素子の外部空間から外側共用電極67に到達する被測定ガスの量を制限することができればよく、その構造は限定されない。
【0111】
多孔質拡散抵抗層69は、触媒活性を有する貴金属を含んでいてもよい。触媒活性を有する貴金属としては、例えば、Pt,Rh,Ir,Ru,Pdの少なくとも1つであってよい。例えば、Ptであってよい。多孔質拡散抵抗層69が触媒活性を有する貴金属を含んでいると、第1ポンプ制御において、センサ素子の外部の被測定ガス中の水素は、多孔質拡散抵抗層69に含まれる貴金属によって、酸化されてHOとなる(2H+O→2HO)。そしてそのHOが外側共用電極67に到達することになる。上述のように、第1ポンプ制御においては、外側共用電極67でHOの分解は起こらないと考えられるため、水素ガスの汲み入れ(逆流)をより効果的に抑制することができると考えられる。
【0112】
濃度算出部93は、被測定ガス中の測定対象ガス濃度(本実施形態ではO濃度及びHO濃度)を算出するように構成されている。
【0113】
濃度算出部93は、第2ポンプ制御において共有ポンプセル21に流れる第2電流Ip2を取得し、予め記憶されている第2電流Ip2と被測定ガス中のHO濃度との換算パラメータ(電流-HO濃度換算パラメータ)に基づいて、被測定ガス中のHO濃度を算出し、ガスセンサ100の測定値として出力する。電流-HO濃度換算パラメータは、濃度算出部93として機能する制御部91のメモリに予め記憶されている。電流-HO濃度換算パラメータは、ガスセンサ100について、予め実験等により当業者が適宜定めることができる。電流-HO濃度換算パラメータは、例えば、実験により得られた近似式(一次関数等)の係数であってもよいし、第2電流Ip2と被測定ガス中のHO濃度との対応を示すマップであってもよい。電流-HO濃度換算パラメータは、ガスセンサ100の1本1本に固有のパラメータであってもよいし、複数のガスセンサに共通して用いられるパラメータであってもよい。
【0114】
濃度算出部93は、第1ポンプ制御において共有ポンプセル21に流れる第1電流Ip1及びその直前の第2ポンプ制御において共有ポンプセル21に流れていた第2電流Ip2を取得し、その差分ΔIp(=|Ip1|-|Ip2|)を算出する。算出した差分ΔIpについて、予め記憶されているΔIpと被測定ガス中のO濃度との換算パラメータ(電流-O濃度換算パラメータ)に基づいて、被測定ガス中のO濃度を算出し、ガスセンサ100の測定値として出力する。電流-O濃度換算パラメータは、濃度算出部93として機能する制御部91のメモリに予め記憶されている。電流-O濃度換算パラメータは、ガスセンサ100について、予め実験等により当業者が適宜定めることができる。電流-O濃度換算パラメータは、例えば、実験により得られた近似式(一次関数等)の係数であってもよいし、差分ΔIpと被測定ガス中のO濃度との対応を示すマップであってもよい。電流-O濃度換算パラメータは、ガスセンサ100の1本1本に固有のパラメータであってもよいし、複数のガスセンサに共通して用いられるパラメータであってもよい。
【0115】
濃度算出部93は、O濃度及びHO濃度を、並行して、あるいは、連続的に、算出することができる。このように、ガスセンサ100は、複数の測定対象ガスの濃度(本実施形態ではO濃度及びHO濃度の2種類)を測定することができるように構成されている。
【0116】
上述のように、特開2020-067432号公報には、センサ素子の実施形態の1つとして、酸素イオンを伝導させるイオン伝導体、水素プロトンを伝導させるプロトン伝導体、及び、前記イオン伝導体と前記プロトン伝導体との間に形成されたガス室を含むセンサ素子が開示されている。しかしながら、前記イオン伝導体と前記プロトン伝導体とは、ガス室(すなわち、空間)を介して対面するように配設されている。従って、前記イオン伝導体と前記プロトン伝導体との間の距離が比較的遠い。
【0117】
一方、本発明においては、センサ素子101において、固体電解質層6の第1内部空所20に面する領域には、酸素イオン伝導体層61及びプロトン伝導体層62が存在している。そして、共有ポンプセル21の内側共用電極65が、第1内部空所20の天井面(固体電解質層6)に酸素イオン伝導体層61とプロトン伝導体層62とにまたがって配設されている。従って、上述のように、第2ポンプ制御の時に内側共用電極65においてHOが分解されたことにより生じた酸素を、第1ポンプ制御の時に共有ポンプセル21により効率的に汲み出すことができうる。その結果、共有ポンプセル21において、被測定ガス中の酸素ガスO及びHOの分解により生じた酸素Oを実質的に全て汲み出すことができる。また、上述のとおり、第2ポンプ制御においては、被測定ガス中のHOの分解により生じた水素Hを汲み出す。共有ポンプセル21の第1ポンプ制御における第1電流Ip1及び共有ポンプセル21の第2ポンプ制御における第2電流Ip2の差分ΔIp(=|Ip1|-|Ip2|)に基づいて、被測定ガス中のO濃度を精度よく測定することができる。また、同時に(並行して)、共有ポンプセル21の第2ポンプ制御における第2電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のHO濃度を精度よく測定することができる。
【0118】
固体電解質層6において、酸素イオン伝導体層61とプロトン伝導体層62とが接しているとよい。この場合は、共有ポンプセル21において酸素イオン伝導体層61とプロトン伝導体層62との距離が近いため、第2ポンプ制御の時に内側共用電極65においてHOが分解されたことにより生じた酸素を、第1ポンプ制御の時により確実に汲み出すことができうる。従って、共有ポンプセル21の第1ポンプ制御における第1電流Ip1及び第2ポンプ制御における第2電流Ip2の差分ΔIp(=|Ip1|-|Ip2|)に基づいて、被測定ガス中のO濃度をより精度よく測定することができる。また、同時に(並行して、あるいは連続的に)、第2ポンプ制御における第2電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のHO濃度をより精度よく測定することができる。
【0119】
固体電解質層6において、酸素イオン伝導体層61とプロトン伝導体層62とが接している態様は特に限定されないが、例えば、本実施形態の固体電解質層6のように酸素イオン伝導体層61にプロトン伝導体層62が埋め込まれた構成になっていてもよい(図1及び2参照)。あるいは、プロトン伝導体層62に酸素イオン伝導体層61が埋め込まれた構成になっていてもよい。
【0120】
また、図10に示すように、センサ素子101の長手方向において、先端側にプロトン伝導体層62が、その後端側に酸素イオン伝導体層61が配置されていてもよい。あるいは、先端側に酸素イオン伝導体層61が、その後端側にプロトン伝導体層62が配置されていてもよい。センサ素子101の長手方向において、プロトン伝導体層62の先端側及び後端側がそれぞれ酸素イオン伝導体層61に接するか、又は、酸素イオン伝導体層61の先端側及び後端側がそれぞれプロトン伝導体層62に接するように構成されていてもよい。また、センサ素子101の長手方向に直交する幅方向において、酸素イオン伝導体層61とプロトン伝導体層62とが並んで配置されていてもよい。
【0121】
また、センサ素子101においては、上述のとおり、内側共用電極65は、第1内部空所20に面する固体電解質層6の下面のうちの、酸素イオン伝導体層61の下面及びプロトン伝導体層62の下面にまたがって配設された電極である。ここで、「またがって配設された」とは、内側共用電極65のうちの酸素イオン伝導体層61の下面に接する部分と、内側共用電極65のうちのプロトン伝導体層62の下面に接する部分とが、電気的に導通するように構成されていること、すなわち、電気的に一体化されて形成されていることを意味している。つまり、内側共用電極65は、電気的に一体化されていればよく、一様な電極でなくてもよい。
【0122】
外側共用電極67は、固体電解質層6の上面のうちの、酸素イオン伝導体層61の上面及びプロトン伝導体層62の上面にまたがって配設された電極である。ここで、「またがって配設された」とは、外側共用電極67のうちの酸素イオン伝導体層61の上面に接する部分と、外側共用電極67のうちのプロトン伝導体層62の上面に接する部分とが、電気的に導通するように構成されていること、すなわち、電気的に一体化されて形成されていることを意味している。つまり、外側共用電極67は、電気的に一体化されていればよく、一様な電極でなくてもよい。
【0123】
例えば、前記空所内共用電極(内側共用電極65)は、前記第1の固体電解質(酸素イオン伝導体層61)上に配設された空所内第1電極と、前記第2の固体電解質(プロトン伝導体層62)上に配設された空所内第2電極と、前記空所内第1電極と前記空所内第2電極とを連結する導電体とを含み、前記空所内第1電極と前記空所内第2電極とが前記導電体で連結されることにより電気的に一体化された電極として形成されていてもよく、及び/又は、
前記空所外共用電極(外側共用電極67)は、前記第1の固体電解質(酸素イオン伝導体層61)上に配設された空所外第1電極と、前記第2の固体電解質(プロトン伝導体層62)上に配設された空所外第2電極と、前記空所外第1電極と前記空所外第2電極とを連結する導電体とを含み、前記空所外第1電極と前記空所外第2電極とが前記導電体で連結されることにより電気的に一体化された電極として形成されていてもよい。
【0124】
図11は、内側共用電極65及び外側共用電極67の構成の一例を示す部分断面模式図である。内側共用電極65は、空所内第1電極(内側第1電極22)と、空所内第2電極(内側第2電極32)と、それらを電気的に導通させる導電体66とを含む。すなわち、内側共用電極65は、内側第1電極22と内側第2電極32とが、導電体66で連結されることにより電気的に一体化された電極として構成されている。また、同様に、外側共用電極67は、空所外第1電極(外側第1電極23)と、空所外第2電極(外側第2電極33)と、それらを電気的に導通させる導電体68とを含む。すなわち、内側共用電極65は、外側第1電極23と外側第2電極33とが、導電体68で連結されることにより電気的に一体化された電極として構成されている。
【0125】
内側第1電極22と外側第1電極23とは、多孔質サーメット電極(金属成分とセラミックス成分が混在した態様の電極)である。セラミックス成分としては、特に限定されないが、酸素イオン伝導体層61と同様に、酸素イオン伝導性の固体電解質を用いることが好ましい。例えば、セラミックス成分として、ZrO(安定化ZrO)を用いることができる。
【0126】
内側第1電極22と外側第1電極23とは、金属成分として、触媒活性を有する貴金属(例えばPt,Rh,Ir,Ru,Pdの少なくとも1つ)を含んでいるとよい。例えば、内側第1電極22と外側第1電極23とは、PtとZrOとの多孔質サーメット電極であってよい。
【0127】
また、内側第2電極32と外側第2電極33とは、多孔質サーメット電極(金属成分とセラミックス成分が混在した態様の電極)である。セラミックス成分としては、特に限定されないが、プロトン伝導体層62と同様に、水素イオン(プロトン)伝導性の固体電解質を用いることが好ましい。例えば、セラミックス成分として、イットリウム(Y)がドープされたジルコン酸ストロンチウムを用いることができる。
【0128】
内側第2電極32と外側第2電極33とは、金属成分として、触媒活性を有する貴金属(例えばPt,Rh,Ir,Ru,Pdの少なくとも1つ)を含んでいるとよい。例えば、内側第1電極22と外側第1電極23とは、Ptと、イットリウム(Y)がドープされたジルコン酸ストロンチウムとの多孔質サーメット電極であってよい。
【0129】
導電体66は、内側第1電極22と内側第2電極32とを連結するように構成されていればよく、任意の箇所において内側第1電極22と内側第2電極32とを連結すればよい。図11の断面においては、導電体66が内側第1電極22と内側第2電極32とのほぼ全体を覆うように構成されている例を示しているが、内側第1電極22の任意の少なくとも一部と内側第2電極32の任意の少なくとも一部とがつながっていればよい。導電体66は、例えば、金属であってもよいし、金属とセラミックスとのサーメットであってもよい。導電体66は、例えば、多孔質のサーメットであってよい。金属としては、電気伝導性を有する金属を用いればよく、例えば、Pt,Au,Ag,Cu等を用いてよい。
【0130】
また、前記空所内共用電極(内側共用電極65)は、前記第1の固体電解質上に配設された空所内第1電極と、前記第2の固体電解質上に配設された空所内第2電極とを含み、前記空所内第1電極の少なくとも一部と前記空所内第2電極の少なくとも一部とが互いに重なり合うことにより電気的に一体化された電極として形成されていてもよく、及び/又は、
前記空所外共用電極(外側共用電極67)は、前記第1の固体電解質(酸素イオン伝導体層61)上に配設された空所外第1電極と、前記第2の固体電解質(プロトン伝導体層62)上に配設された空所外第2電極とを含み、前記空所外第1電極の少なくとも一部と前記空所外第2電極の少なくとも一部とが互いに重なり合うことにより電気的に一体化された電極として形成されていてもよい。
【0131】
図12は、内側共用電極65の構成の他の例を示す部分断面模式図である。内側共用電極65は、空所内第1電極(内側第1電極22)と、空所内第2電極(内側第2電極32)とを含む。内側共用電極65は、内側第1電極22の少なくとも一部と内側第2電極32の少なくとも一部とが重なり合うことにより電気的に一体化された電極として構成されている。外側共用電極67は、空所外第1電極(外側第1電極23)と、空所外第2電極(外側第2電極33)とを含む。外側共用電極67は、外側第1電極23の少なくとも一部と外側第2電極33の少なくとも一部とが重なり合うことにより電気的に一体化された電極として構成されている。
【0132】
図12の断面においては、内側第2電極32のセンサ素子の前記長手方向の先端側の領域32aが内側第1電極22の領域22aに重なっており、また、内側第2電極32のセンサ素子の前記長手方向の後端側の領域32bが内側第1電極22の領域22bに重なっている。これにより内側第1電極22と内側第2電極32とが電気的に一体化されている。内側第1電極22と内側第2電極32とは、任意の位置における少なくとも一部が重なり合っていればよく、図12の断面において必ずしも内側第1電極22と内側第2電極32とが重なっていなくてもよい。
【0133】
また、図12の断面においては、外側第2電極33のセンサ素子の前記長手方向の先端側の領域33aが外側第1電極23の領域23aに重なっており、また、外側第2電極33のセンサ素子の前記長手方向の後端側の領域33bが外側第1電極23の領域23bに重なっている。これにより外側第1電極23と外側第2電極33とが電気的に一体化されている。外側第1電極23と外側第2電極33とは、任意の位置における少なくとも一部が重なり合っていればよく、図12の断面において必ずしも外側第1電極23と外側第2電極33とが重なっていなくてもよい。
【0134】
本実施形態のガスセンサ100は、共有ポンプセル21が、酸素ポンプセルとしての機能と水素ポンプセルとしての機能を兼ねている。酸素ポンプセルと水素ポンプセルとをそれぞれ独立したポンプセルとして設けるためには、それぞれのポンプセルに対して1対の電極(合計4個の電極)を必要とする。しかしながら、本実施形態のガスセンサ100においては、共有ポンプセル21の1対の電極(内側共用電極65及び外側共用電極67の2個)で構成することができる。すなわち、独立したポンプセルを設ける場合よりも、センサ素子101が備える電極の数を減らすことができる。電極の数を減らすと、それに伴い、電極と制御装置90とを導通させるためのリード線も減らすことができる。その結果、原材料の使用量削減、製造工程の簡略化等によりコスト削減することができる。
【0135】
上述の実施形態においては、酸素O及び水蒸気HOの2種類のガス濃度を測定するガスセンサの例を示したが、本発明のガスセンサはこれに限られない。本発明には、被測定ガス中の複数の測定対象ガスを測定可能なガスセンサを提供するという本発明の目的を達成する範囲であれば、種々の形態のセンサ素子や制御装置の構成を含むガスセンサ含まれ得る。
【0136】
上述の実施形態においては、センサ素子101は、第1の固体電解質として、酸素イオン伝導性の固体電解質を、第2の固体電解質として、プロトン伝導性の固体電解質を用いたが、固体電解質の種類はこれに限られない。測定対象ガスの種類に応じて、適宜選択してよい。
【0137】
上述の実施形態においては、被測定ガス中の酸素濃度及び水蒸気濃度の2種類を測定する例をしめしたが、測定対象ガスはこれらに限られない。例えば、酸素イオン伝導性の固体電解質と、プロトン伝導性の固体電解質とを用いる場合においては、酸素原子を含むガス種と水素原子を含むガス種とであれば、同時に(あるいは並行して)測定することができうる。
【0138】
本発明は、以下のガスポンピング装置を含む。
【0139】
固体電解質により少なくとも一部が囲まれ、且つ、少なくとも一部が開口されて形成されたガス空所を含み、
前記ガス空所には、少なくとも2種の成分を含むガスが導入され、
前記ガス空所の内表面の少なくとも一部には、第1のイオン種を伝導させるイオン伝導性の第1の固体電解質と、前記第1のイオン種とは異なる第2のイオン種を伝導させるイオン伝導性の第2の固体電解質とが存在し、
前記ガス空所内の、前記第1の固体電解質上及び前記第2の固体電解質上にまたがって配設された空所内共用電極、及び、前記ガス空所内とは異なる位置において、前記第1の固体電解質上及び前記第2の固体電解質上にまたがって配設された空所外共用電極を含む、共用ポンプセルと、
前記共用ポンプセルの動作を制御するポンプ制御部とを含み、
前記ポンプ制御部は、
前記第1のイオン種を前記第1の固体電解質を介して前記ガス空所から汲み出すように、前記共用ポンプセルの前記空所内共用電極と前記空所外共用電極との間に所定の電圧を印加して、前記共用ポンプセルに第1電流を流す第1ポンプ制御と、
前記第2のイオン種を前記第2の固体電解質を介して前記ガス空所から汲み出すように、前記共用ポンプセルの前記空所内共用電極と前記空所外共用電極との間に所定の電圧を印加して、前記共用ポンプセルに第2電流を流す第2ポンプ制御とを切り替えて行う、ガスポンピング装置。
【0140】
図13は、ガスポンピング装置200の概略構成の一例を示す、ガスポンピング素子201の断面模式図である。ガスポンピング装置200は、ガスポンピング素子201と、ポンプ制御部292を含む。ガスポンピング素子201は、固体電解質206からなる素子である。ガスポンピング素子201の内部には、ガス空所220が形成されている。図13の断面におけるガスポンピング素子201の長手方向の一方の端部には、ガス導入口210が形成されており、ガス導入口210を通じて、ガス空所220にガスが導入されるようになっている。ガス空所220の内表面には、酸素イオン伝導体層261(第1の固体電解質)と、プロトン伝導体層262(第2の固体電解質)とが存在する。
【0141】
共用ポンプセル221は、ガス空所220内の、酸素イオン伝導体層261上及びプロトン伝導体層262上にまたがって配設された空所内共用電極265、及び、ガス空所220内とは異なる位置において、酸素イオン伝導体層261上及びプロトン伝導体層262上にまたがって配設された空所外共用電極267を含むポンプセルである。空所内共用電極265は、ガス空所220内の内表面の酸素イオン伝導体層261及びプロトン伝導体層262と、ガス空所220の空間との間に存在している。
【0142】
ポンプ制御部292は、ガスポンピング素子201を制御する制御装置の一部を構成していてよい。ポンプ制御部292は、
酸素イオン伝導体層261を介して酸素をガス空所220から汲み出すように、共用ポンプセル221の空所内共用電極265と空所外共用電極267との間に正の電圧Vp1を可変電源224により印加して、共用ポンプセル221に第1電流Ip1を流す第1ポンプ制御と、
プロトン伝導体層262を介して水素をガス空所220から汲み出すように、共用ポンプセル221の空所内共用電極265と空所外共用電極267との間に負の電圧Vp2を可変電源224により印加して、共用ポンプセル221に第2電流Ip2を流す第2ポンプ制御とを切り替えて行う。これにより、共用ポンプセル221は、酸素ポンプセルとしての機能、及び、水素ポンプセルとしての2つの機能を有する。
【符号の説明】
【0143】
1 基板層
3 中間層
5 スペーサ層
6 固体電解質層
61 酸素イオン伝導体層
62 プロトン伝導体層
10 ガス導入口
11 第1拡散律速通路
15 被測定ガス流通空所
20 第1内部空所
21 共用ポンプセル
22 内側第1電極
23 外側第1電極
24 可変電源
32 内側第2電極
33 外側第2電極
65 内側共用電極
66,68 導電体
67 外側共用電極
70 ヒータ部
71 ヒータ電極
72 ヒータ
73 スルーホール
74 ヒータ絶縁層
76 ヒータリード
90 制御装置
91 制御部
92 ポンプ制御部
93 濃度算出部
100 ガスセンサ
101 センサ素子
102 基体部
200 ガスポンピング装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13