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特開2024-109408アンカー加工装置、及び配線支持体補強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109408
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】アンカー加工装置、及び配線支持体補強方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/80 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
E02D5/80 A
E02D5/80 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014186
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 直也
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041GA01
2D041GB02
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち支線用アンカーの改修を、従来技術に比して低コストで、且つ、短期間で実施可能とするアンカー加工装置、及び配線支持体補強方法を提供することである。
【解決手段】本願発明のアンカー加工装置100は、一部が切断された支線棒にネジを刻設するダイス110と、本体部121と連接部122を含んで構成されるダイスホルダー120と、を備えるものである。本体部121には、ダイスを収容するダイス収容孔が設けられる。連接部122に取り付けられる回転治具により本体部121を回転させるとダイス110も回転する。このダイス110の回転に伴って支線棒にネジが刻設される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に埋設された既設の支線用アンカーを加工する装置であって、
前記支線用アンカーは、配線を支える柱状の配線支持体に取り付けられる支線の一端を固定するものであって、支線棒と基礎部を含んで構成され、
一部が切断された前記支線棒にネジを刻設するダイスと、
本体部と連接部を含んで構成されるダイスホルダーと、を備え、
前記本体部には、前記ダイスを収容するダイス収容孔が設けられ、
前記連接部に取り付けられる回転治具により前記本体部を回転させると前記ダイスも回転し、該ダイスの回転に伴って前記支線棒にネジが刻設される、
ことを特徴とするアンカー加工装置。
【請求項2】
前記支線棒を挿通するガイド孔が設けられた支線棒ガイドを、さらに備え、
前記支線棒ガイドは、前記本体部のうち前記連接部とは異なる側に、着脱可能に取り付けられ、
前記ガイド孔に挿通された前記支線棒は、前記ダイス内に案内される、
ことを特徴とする請求項1記載のアンカー加工装置。
【請求項3】
棒状又は管状の支柱と、該支柱の一端側に設けられる把持体と、該支柱の他端側に設けられる嵌合体と、を含んで構成されるハンドルを、さらに備え、
前記嵌合体を前記連接部に嵌合した状態で、前記把持体を用いて前記支柱を軸周りに回転させると、前記ダイスホルダーとともに前記ダイスが回転し、該ダイスの回転に伴って前記支線棒にネジが刻設される、
ことを特徴とする請求項1記載のアンカー加工装置。
【請求項4】
前記本体部には、前記支線棒を収容する有底の支線棒収容孔が設けられ、
前記支線棒の先端が前記支線棒収容孔の底面に当接すると、ネジの刻設が規制される、
ことを特徴とする請求項1記載のアンカー加工装置。
【請求項5】
地盤に埋設された既設の前記支線用アンカーの前記支線棒を切断する切断工程と、
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のアンカー加工装置を用いて、切断端部から前記支線棒にネジを刻設していくネジ刻設工程と、
前記支線棒を、接続ナットの一端側に螺合する接続ナット設置工程と、を備え、
前記接続ナットの他端側に、支線連結治具を介して、前記支線の一端が連結されることにより、一端が前記配線支持体に取り付けられ他端が前記支線用アンカーに連結された前記支線によって該配線支持体が補強される、
ことを特徴とする配線支持体補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、配線(例えば送電線)を支持可能な配線支持体(いわゆる電柱など)を補強するための支線用アンカーに関する技術であり、より具体的には、配線支持体用の支線を支持する機能が損なわれた可能性のある支線用アンカーを好適に改修することを可能とするアンカー加工装置とこれを用いた方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、需要者に対しての電力の安定供給や通信インフラに対応するために、送電線や配電線を支持可能な配線支持体が多数立設され、これにより、電力網や通信網が整備されている。配線支持体は、地面から垂直に立設されるものであり、電線の張力による荷重に耐えられるように、一部の配線支持体には、地面に向けて斜め方向に張設される支線を設けることが定められている。
【0003】
電力網や通信網は、常に利用可能とされていることが欠かせないものとなっており、需要者に対してコスト増を抑えて低額でサービスを供給することが望まれる。このため、配線支持体や支線などの設備についても、長期間にわたって利用可能とすることが好ましい。
【0004】
支線は、例えば、図6に示すように、地中に基礎部BCが埋め込まれた支線用アンカーAKの支線棒FBに支線Wの一端が接続されることによって地盤に支持される。しかし、支線用アンカーAKは、大部分が地中に埋設されるもので、環境条件による腐食の影響などにより十分な強度を確保できなくなることがある。特に地表面近くの地盤は通気差腐食や隙間腐食による発錆が生じやすく、長期に亘る使用に伴って支線棒が減肉し、あるいは延性破断に至るケースもある。この場合、支線用アンカーAKを地中から引き抜いて新しい支線用アンカーAKを設置することで、本来の強度を確保することができる。例えば特許文献1のように、支線用アンカーAKを地中から引き抜き易い構造とする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-144323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、支線用アンカーを取り替えるには、基礎部が位置する地表から比較的深い箇所までの掘削が必要となる。このため改修工事には、掘削に掛かる相当の労力が必要であり、場合によっては掘削機械が必要となる場合もあって改修コストが高額となり易い。また、改修が完了するまでには、用地承諾なども含めた準備期間と工事期間とが必要となり、改修期間が長期化し易いという問題点があった。
【0007】
また特許文献1のように、地中から引き抜き易い構造とした支線用アンカーは、新規に設置される場合に採用することができるものの、既設の支線用アンカーの大多数は、従来構造の支線用アンカーである。これら従来構造の支線用アンカーを、改修の際に、新規に提案された支線用アンカーに設置し直す場合でも、上記した従来構造の支線用アンカーと同等の改修工事が必要となる。このため、新規に提案される支線用アンカーを利用する場合でも、改修コストは高額となり易く、改修期間も長期化し易い。
【0008】
支線用アンカーの改修コストが高額になると、多数の配線支持体を所持する業者にとっては、電力網や通信網といったインフラ整備のコスト増につながる。また、腐食が進行した状態を発見してから、改修完了までに時間が掛かってしまうと、その改修期間中に、台風などの自然災害が発生する可能性もあり、この場合、一部地域での停電の発生や通信不良といった問題が生じてしまう可能性もある。
【0009】
本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち支線用アンカーの改修を、従来技術に比して低コストで、且つ、短期間で実施可能とするアンカー加工装置、及び配線支持体補強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願出願人は、地盤に埋設される支線用アンカーAKが腐食するのは、地表近くで空気と水が共存している領域(包気帯域CA、図6参照)の範囲内であるケースが多いことに着目した。すなわち、本願発明は、包気帯域CAより深い箇所に位置する基礎部BCと支線棒FBの一部を改修後にも再利用することができる可能性がある、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0011】
本願発明のアンカー加工装置は、地盤に埋設された既設の支線用アンカーを加工するものであり、一部が切断された支線棒にネジを刻設するダイスと、本体部、連接部を含んで構成されるダイスホルダーを備えるものである。なお、既設の支線用アンカーは、配線を支える柱状の配線支持体に取り付けられる支線の一端を固定するものであって、支線棒と基礎部を含んで構成され、本体部には、ダイスを収容するダイス収容孔が設けられる。そして連接部に取り付けられる回転治具により本体部を回転させるとダイスも回転し、このダイスの回転に伴って支線棒にネジが刻設される。
【0012】
本願発明のアンカー加工装置は、支線棒を挿通するガイド孔が設けられた支線棒ガイドを、さらに備えるものとすることもできる。この場合、支線棒ガイドは、本体部のうち連接部とは異なる側に、着脱可能に取り付けられる。ガイド孔に挿通された支線棒は、ダイス内に案内される。
【0013】
本願発明のアンカー加工装置は、棒状又は管状の支柱と、この支柱の一端側に設けられる把持体、支柱の他端側に設けられる嵌合体を含んで構成されるハンドルを、さらに備えたものとすることもできる。この場合、嵌合体を連接部に嵌合した状態で、把持体を用いて支柱を軸周りに回転させると、ダイスホルダーとともにダイスが回転し、このダイスの回転に伴って支線棒にネジが刻設される、
【0014】
本願発明のアンカー加工装置は、本体部に、支線棒を収容する有底の支線棒収容孔が設けられるものとすることもできる。この場合、支線棒の先端が支線棒収容孔の底面に当接すると、ネジの刻設が規制される。
【0015】
本願発明の配線支持体補強方法は、本願発明のアンカー加工装置を用いて配線支持体を補強する方法であり、切断工程とネジ刻設工程、接続ナット設置工程を備えた方法である。切断工程では、地盤に埋設された既設の支線用アンカーの支線棒を切断する。ネジ刻設工程では、本願発明のアンカー加工装置を用いて、切断端部から支線棒にネジを刻設していく。接続ナット設置工程では、支線棒を接続ナットの一端側に螺合する。そして、接続ナットの他端側に、支線連結治具を介して、支線の一端が連結され、その結果、一端が配線支持体に取り付けられ、他端が支線用アンカーに連結された支線によって配線支持体が補強される。なお、支線連結治具は、既設の支線用アンカーの一部を利用した治具であってもよいし、既設の支線用アンカーとは別に準備される治具であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本願発明のアンカー加工装置には、次のような効果がある。
(1)既設の支線用アンカーのうち地中深くに設置される基礎部と支線棒の一部を再利用することができるため、基礎部の掘削をすることなく、既設の支線用アンカーの中で改修が必要な地表に近い部分のみで改修を実施することができる。このため、掘削に掛かる労力が低減され、あるいは掘削機械を使用することも回避することができる。さらに、用地承諾といった準備期間を短縮することもでき、改修期間を短縮することができる。
(2)小型のアンカー加工装置を用いた簡易な改修工法となり、接続ナットと支線連結治具とを準備するだけで配線支持体を補強することができるため、支線用アンカーを別部品に交換する場合と比べて、大幅のコストダウン効果を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本願発明のアンカー加工装置の一例を示した正面図。
図2】(a)はアンカー加工装置のダイスホルダーとダイスを示した平面図、(b)はダイスホルダーとダイスを示した側面図、(c)はダイスホルダーとダイスの断面図、(d)はダイスホルダー単体の底面図、(e)はダイス単体の底面図。
図3】(a)はアンカー加工装置の先端部を斜め上側から見た斜視図、(b)は支線棒ガイドの断面形状を示した図、(c)は支線棒ガイドとダイス収容孔との相対位置を示した図。
図4】アンカー加工装置を用いた支線用アンカーの改修工程を示す説明図。
図5】支線棒を加工して支線連結治具を取り付ける工程を示す説明図。
図6】従来構造の支線用アンカーにより支線を通じて配線支持体が補強された構造を例示した図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明のアンカー加工装置、及び配線支持体補強方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0019】
はじめに、本願発明の概要について説明する。本願発明は、地盤に埋設された既設の支線用アンカーを加工するものであり、より詳しくは、地中の深い箇所に位置する基礎部や支線棒の一部は改修後にも再利用し、支線棒の先端部分にネジを刻設することによって支線用アンカーを継続して使用することができる技術である。
【0020】
1.アンカー加工装置
本願発明のアンカー加工装置について図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の配線支持体補強方法は、本願発明のアンカー加工装置を用いて配線支持体を補強する方法である。したがってまずは本願発明のアンカー加工装置について説明し、その後に本願発明の配線支持体補強方法について詳しく説明することとする。
【0021】
図1は、本願発明のアンカー加工装置100の全体を示した図である。アンカー加工装置100は、既設の支線用アンカーAKの支線棒の先端部分にネジを刻設することを可能とする装置であり、ダイス110が内部に収容されるダイスホルダー120を含んで構成される。また、アンカー加工装置100は、支線棒ガイド130やハンドル140を含んで構成されてもよいものである。
【0022】
以下、本願発明のアンカー加工装置100を、主な要素ごとに詳しく説明する。
【0023】
(ダイス及びダイスホルダー)
図2は、アンカー加工装置100のダイス110とダイスホルダー120とを例示した図である。ネジを刻設するためのダイス110は、従来利用されているダイス110を用
いることができる。例えば、ダイス110は、図2(e)に示すように、円筒状の本体111の中央側に突出するように、ネジを刻設するための刃部112が設けられ、その刃部112の両側には、ネジ切りを円滑に実行可能とするための潤滑油を注入可能とする凹部113が設けられて構成される。ダイス110は、刃部112によって形成されるネジの外径サイズが異なる複数種類が準備され、既設の支線用アンカーAKの支線棒FBのサイズに対応したダイス110が選択されてダイスホルダー120に取り付けられる。
【0024】
ダイスホルダー120は、本体部121と、連接部122を含んで構成され、例えば、金属を用いて形成される。本体部121には、図2(c)に示すように、連接部122が位置する側(以下、「後端側」という。)とは反対側(以下、「先端側」という。)に向けて、ダイス110を収容するダイス収容孔123が開口して設けられる。
【0025】
図2(c)~(e)に示すように、ダイス収容孔123は、ダイス110が収容可能な大きさに形成され、ダイス110の外径サイズより僅かに大きく形成される。ダイス収容孔123にダイス110を押し込むことにより、ダイス110が、ダイス収容孔123の奥面(つまり、後端側)に接触して収容された状態となる。
【0026】
ここで、ダイス収容孔123の深さ(図2(c)の上下方向の長さ)は、ダイス110の厚みより十分大きく設定されることが好ましく、ダイス110の厚みと比べて略1.5倍以上とすることが好ましい。これにより、ダイス収容孔123の入口側(図2(c)の下側)に空間が設けられることとなるため、ダイス110の破損を防止できるし、先端側に支線棒ガイド130が取り付けられた場合においても、ダイス110の刃部112に対して支線棒FBの先端部分を適切な位置にガイドし易くすることができる。
【0027】
本体部121には、ダイス110を本体部121と一体化させるための機構が設けられる。例えば、本体部121に、ダイス収容孔123の内部に先端部分が突出する抜け止めボルト124を外側から取り付け、抜け止めボルト124の先端部分がダイス110の外面を押圧した状態とすることで、ダイス110を本体部121と一体化させることができる。
【0028】
本体部121には、連接部122の周囲からダイス収容孔123に通じる通過孔125が複数箇所に設けられる。通過孔125は、ダイス110でネジを刻設するときに外部から潤滑油を注入可能とする箇所である。作業者がアンカー加工装置100を操作するのは、連接部122が設けられる後端側であり、通過孔125を通じてダイス110の凹部113に簡易に潤滑油を供給できる。
【0029】
本体部121には、ダイスホルダー120と、支線棒ガイド130とを一体化させるためのガイド取付部126が設けられる。支線棒ガイド130は、図1に示すように、ダイスホルダー120に対して、ハンドル140が位置する後端側とは異なる先端側に着脱可能に取り付けられ、この図では固定構造として2つの取付ボルト131で固定される場合を例示している。
【0030】
図2(c)に示すように、ガイド取付部126には、2つの取付ボルト131を挿入可能な挿入孔127が設けられる。挿入孔127の内側には雌ネジ刻設され、取付ボルト131の先端部分を螺合することで、支線棒ガイド130をダイスホルダー120に固定することができる。
【0031】
(回転治具)
ダイスホルダー120の連接部122は、アンカー加工装置100を回転させるための回転治具が取り付けられる部位である。回転治具は、図1に示すように、手操作でアンカ
ー加工装置100を回転させることが可能なハンドル140であってもよいし、電動で先端部分を回転させることが可能な電動ドリルや電動ドライバーなどの電動工具であってもよい。
【0032】
ハンドル140は、棒状又は管状の支柱141と、この支柱141の一端側に設けられる把持体142、支柱141の他端側に設けられる嵌合体143を含んで構成される。作業者は、ハンドル140の嵌合体143を、ダイスホルダー120の連接部122に嵌合させ、把持体142を用いて支柱141を軸周りに回転させることで、ダイスホルダー120とともにダイス110を回転させて、支線棒FBの先端部分にネジを刻設することができる。
【0033】
把持体142は、支柱141の軸線方向に対して略直交(直交を含む)する棒状(あるいは、管状)の部材を例示することができる。図1には、支柱141の軸線方向に対して略直交する両側に突出したT字形を例示している。把持体142の形状としては、これに限らず、一方側に突出したL字形や、先端部分に円形(あるいは、円盤)状の把持部分を備えた回転ハンドル形など別の形状でもよい。また、把持体142は、支柱141に着脱可能としてもよい。
【0034】
嵌合体143は、連接部122を通じて回転治具とダイスホルダー120とを一体化させることが可能であればよく、相手側の凹み部分に嵌合可能な突出した軸状であってもよいし、相手側の突出部分に嵌合可能な凹み形状であってもよく、また、ネジ等の結合部品を組み合わせた構成であってもよい。図1には、嵌合体143が矩形に突出した形状をなした場合を例示しており、さらに抜け止め用の突起が支柱141の軸線方向に対して略直交方向に向けて弾性力により突出する機構を組み合わせてもよい。連接部122とハンドル140との間には、力の伝達する方向を一方向にする機構(例えば、ラチェット機構)を取り付けてもよい。
【0035】
ダイスホルダー120の本体部121には、図2(c)に示すように、支線棒FBの先端部分(上側部FB1)を収容することが可能な支線棒収容孔128が設けられることが好ましい。ダイス110に対する支線棒FBの相対位置は、図2(c)に、二点鎖線で示している。支線棒FBの先端部分に対してダイス110の回転によりネジが刻設されていくと、その先端部分が支線棒収容孔128の内部へと相対的に進行する。支線棒FBの先端部分が支線棒収容孔128の最奥部分に相当する底面128aに当接すると、支線棒FBの進行が規制され、それ以上はダイス110が回転できなくなる。これにより、支線棒FBの先側のネジの刻設が規制されることとなり、支線棒FBの先端部分に必要なあらかじめ計画された所定長のネジの刻設が可能となる。なお、支線棒収容孔128の底面128aは、支線棒FBの先端部分が接触可能な壁面を構成するものであればよく、図2(c)には中央部分に小径の貫通孔が設けられる場合を例示している。
【0036】
(支線棒ガイド)
図3(a)は、図1とは別の方向側からアンカー加工装置100の先端部を見た斜視図であり、図3(b)及び(c)は、支線棒ガイド130の形状を説明するための図である。支線棒ガイド130は、ダイスホルダー120に対して、ハンドル140の位置する側とは反対側(つまり、先端側)に取り付けられる。支線棒ガイド130は、ダイス110の中心に向かって支線棒FBの先端部分が真っ直ぐに進行するように支線棒FBをガイドする部品であり、ダイス110の中心部分に向かって連続するガイド孔132を有して構成される。
【0037】
ガイド孔132は、支線棒FBの外形サイズより僅かに大きな内径に設定され、支線棒FBの外形サイズが複数種類ある場合には、その外形サイズ毎に異なるガイド孔132の
内径が設定された複数の支線棒ガイド130を利用することができる。また、ガイド孔132の長さGLは、図2(c)に矢印で示すように、支線棒FBの外径サイズと比べて十分に長くなるようにすることが好ましく、ガイド孔132の内径(例えば、略13~略17mm)の略2倍~略3倍程度(例えば、35mm)の長さに設定されることが好ましい。これにより、支線棒FBを確実に支持しつつ安定してダイス110に案内することができる。
【0038】
支線棒ガイド130は、図3(a)には、ダイスホルダー120に対して2つの取付ボルト131が下方側から差し込まれて取り付けられる。支線棒ガイド130は、一定の断面形状を有する場合を例示しており、図3(b)に示すように、中央部分にガイド孔132が設けられ、ガイド孔132に対して両側に、2つの軸挿入部133が設けられる。
【0039】
ここで、支線棒ガイド130がダイスホルダー120に取り付けられる取付構造は、2つの機能を有するようにして構成される。1つ目は、取付ボルト131をダイスホルダー120から取り外さないで、ダイス110を交換可能な位置まで支線棒ガイド130を移動(いわば、ずらすことが)可能とする機能、2つ目は、取付ボルト131をダイスホルダー120から取り外さないで、支線棒ガイド130をダイスホルダー120から取り外して交換可能とする機能である。
【0040】
これら2つの機能を実現する一例として、支線棒ガイド130には、ガイド孔132の両側に位置するように、取付ボルト131の軸部131aを差し込むことが可能な軸挿入部133が設けられる。軸挿入部133は、図3(a)及び(b)に示すように、ガイド孔132の軸方向(図3(a)の上下方向)に略直交する一方側(図3(a)の手前側)に湾曲して開口する溝部を形成し、その開口幅は、取付ボルト131の軸部131aが通過可能な大きさに設定される。
【0041】
2つの取付ボルト131を緩めた状態とすると、取付ボルト131がダイスホルダー120に取り付けられた状態のまま(つまり、取付ボルト131をあえて取り外すことなく)、軸挿入部133から取付ボルト131の軸部131aを抜き出し、その結果、支線棒ガイド130をダイスホルダー120から取り外すことができる。また、一方(図3(c)では左側)の取付ボルト131は完全に緩めた状態とし、他方(図3(c)では右側)の取付ボルト131は支線棒ガイド130が少しの抵抗感をもって回動可能となるように緩めると、図3(c)に示す位置まで、支線棒ガイド130を回転させながら移動させることができる。支線棒ガイド130の外形サイズ及び軸挿入部133の位置は、ダイス収容孔123から外れた位置まで支線棒ガイド130を移動可能な仕様に設定され、これにより、上記した2つの機能を備えた支線棒ガイド130の取付構造とすることができる。
【0042】
なお、必ずしも、両方の軸挿入部133とも取付ボルト131が通過可能な溝状に構成する必要はなく、片方の軸挿入部133は、ガイド孔132と同方向に連続する貫通穴を形成する構成としてもよく、この場合でも、上記した2つの機能を有する構造とすることができる。
【0043】
2.配線支持体補強方法
続いて本願発明の配線支持体補強方法について図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の配線支持体補強方法は、ここまで説明したアンカー加工装置100を用いて配線支持体を補強する方法である。したがってアンカー加工装置100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の.配線支持体補強方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.アンカー加工装置」で説明したものと同様である。
【0044】
図4及び図5は、既設の支線用アンカーAKの支線棒FBに対してアンカー加工装置100によりネジを刻設することで、支線用アンカーAKを改修する配線支持体補強方法の各工程を例示した図である。以下、図6も参照して、配線支持体補強方法について説明する。
【0045】
支線用アンカーAKに一端が固定される支線Wは、図6に示すように、柱状の配線支持体PLに接続されている。支線用アンカーAKの地中表面付近は、地表近くで空気と水が共存している包気帯域CAである場合が多く、その包気帯域CAの範囲内では、金属製の支線棒FBが通気差腐食や隙間腐食によって錆を生じ、その部分が腐食されることで、減肉したり、延性破断に至ったりする可能性がある。
【0046】
ここで、包気帯域CAは、地中の表面近くに位置するものである。このため、支線棒FBの中で地中深くに位置する支線用アンカーAKの基礎部BCを含む一部分は、腐食が進行せず、健全であるケースも多い。この場合において、アンカー加工装置100は、健全な部位を再利用して支線用アンカーAKを改修するための装置として好適に利用できる。
【0047】
配線支持体補強方法を実行する準備として、まず、支線用アンカーAKの埋設される部分を掘削する掘削作業を実施する。地中内で、健全な状態となっている支線棒FBの先端部分(上側部FB1)に接触可能な掘削深Hとなるまで掘削すると、図4(a)に示すように、支線棒FBの先端部分に対してアンカー加工装置100による加工が可能な状態となる。
【0048】
掘削することによって支線棒FBの先端部分が露出される状態としたら、図5(a)に示すように、切断工程として、既設の支線用アンカーAKの支線棒FBの中で、腐食された先端部分(図5(a)の矢印で示す部分)を切断して切除する。切断加工は、例えば、アンカー加工装置100とは別のディスクグラインダーを利用して行われる。
【0049】
支線棒FBの先端部分を切除した後、ネジ刻設工程として、図4(b)及び図5(b)に示すように、切断工程で切断された支線棒FBの切断端部に対してアンカー加工装置100を設置し、支線棒FBにネジを刻設する。具体的には、ダイス110に接触する位置まで支線棒FBの切断端部を支線棒ガイド130の内部に挿入した後、アンカー加工装置100の連接部122に取り付けられる回転治具としてのハンドル140を利用して本体部121を回転させる。そして、この本体部121の回転によりアンカー加工装置100のダイス110が回転すると、これに伴って支線棒FBにネジが刻設されていく。
【0050】
支線棒FBの先端部分に、必要な長さ分のネジが刻設された後には、接続ナット設置工程として、図5(c)に示すように、支線棒FBに、接続ナットCNを螺合する。接続ナットCNとしては、例えば、外形が六角形状で、内部に雌ネジが刻設されているいわゆる「長ナット」を利用できる。
【0051】
ネジを刻設した支線棒FBに接続ナットCNを螺合した後、接続ナットCNの他端側に支線連結治具CPを連結する。これにより、支線連結治具CPを介して、支線用アンカーAKと支線Wの一端を接続することができる状態となる。支線連結治具CPは、既設の支線用アンカーAKとは別に、接続ナットCNに予め取り付けて準備された交換用の別部品を利用できる。図5(c)には、接続ナットCNに螺合可能な主軸CP1と、支線Wを連結可能な取付部CP2とが一体化された交換用の別部品を例示している。
【0052】
なお、既設の支線用アンカーAKのうち支線棒FBの一部(特に、地上部分)が健全である場合は、その支線棒FBの一部(以下、「再利用材」という。)を支線連結治具CPとして利用してもよい。この場合、その支線棒FBの再利用材の下側部分に対して、アン
カー加工装置100を用いてネジを刻設したものを、接続ナットCNに螺合することでも支線連結治具CPとすることができる。
【0053】
支線Wの一端が支線連結治具CPを通じて配線支持体PLに取り付けられるとともに、支線Wの他端が支線連結治具CPを介して支線用アンカーAKに連結されると、支線Wにより配線支持体PLが補強された状態となる。この場合において、アンカー加工装置100を用いた改修によれば、既設の支線用アンカーAKの基礎部BCと支線棒FBの一部は再利用しながら、支線用アンカーAKを簡易に改修することができる。このため、改修期間の短縮と、大幅なコストダウン効果を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本願発明のアンカー加工装置、及び配線支持体補強方法は、電力網や通信網などのインフラストラクチャに必須の配線支持体に利用される支線用アンカーを改修する際に特に好適に利用することができる。本願発明によれば、改修が必要な支線用アンカーを簡易に改修することができるので、配線支持体に支持されるケーブルや電線が切断されてしまうといった機会が軽減され、ひいては電気の安定供給や通信不具合の低減に寄与することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0055】
100 本願発明のアンカー加工装置
110 (アンカー加工装置の)ダイス
111 (ダイスの)本体
112 (ダイスの)刃部
113 (ダイスの)凹部
120 (アンカー加工装置の)ダイスホルダー
121 (ダイスホルダーの)本体部
122 (ダイスホルダーの)連接部
123 (ダイスホルダーの)ダイス収容孔
124 (ダイスホルダーの)抜け止めボルト
125 (ダイスホルダーの)通過孔
126 (ダイスホルダーの)ガイド取付部
127 (ダイスホルダーの)挿入孔
128 (ダイスホルダーの)支線棒収容孔
128a (支線棒収容孔の)底面
130 (アンカー加工装置の)支線棒ガイド
131 (支線棒ガイドの)取付ボルト
131a (取付ボルトの)軸部
132 (支線棒ガイドの)ガイド孔
133 (支線棒ガイドの)軸挿入部
140 (アンカー加工装置の)ハンドル
141 (ハンドルの)支柱
142 (ハンドルの)支柱把持体
143 (ハンドルの)支柱嵌合体
AK 支線用アンカー
BC (支線用アンカーの)基礎部
CA 包気帯域
CN 接続部材
CP 支線連結治具
CP1 (支線連結治具の)主軸
CP2 (支線連結治具の)取付部
FB (支線用アンカーの)支線棒
FB1 (支線棒の)上側部
GL (ガイド孔の)長さ
H 掘削深
PL 配線支持体
W 支線
図1
図2
図3
図4
図5
図6