(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109416
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】水不溶性成分含有飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/52 20060101AFI20240806BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20240806BHJP
A23G 1/56 20060101ALI20240806BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20240806BHJP
A23L 29/262 20160101ALI20240806BHJP
A23F 3/16 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
A23L2/52
A23L2/38 C
A23G1/56
A23L2/00 A
A23L2/38 P
A23L29/262
A23F3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014196
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 幸樹
【テーマコード(参考)】
4B014
4B027
4B041
4B117
【Fターム(参考)】
4B014GG18
4B014GK08
4B014GL11
4B014GP25
4B027FB13
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4B027FK18
4B027FP85
4B041LC07
4B041LD01
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4B041LK29
4B041LK32
4B041LK37
4B117LE10
4B117LG17
4B117LK13
4B117LK15
4B117LP17
(57)【要約】
【課題】水不溶性成分の堆積層高さが低く抑えられており、かつ堆積した水不溶性成分の再分散性が良好な水不溶性成分含有飲料及びその製造方法の提供。
【解決手段】飲料の全量に対する静置後の沈降物の量の割合が1.0~4.0質量%であり、飲料の全量に対する再分散処理後の沈降物の量の割合が0.30~0.60質量%である、水不溶成分、MCC及びCMC-Naを含有する飲料、及び、飲料全体に対するMCCとCMC-Naの合計割合が0.04~0.2質量%となるように調整し、MCCとCMC-Naの合計量に対するCMC-Naの割合を、CMC-Naを1.0質量%含有する水分散液の30℃における粘度が10~130mPa・sである場合には1.0~5.0質量%であるように調整し、前記粘度が130mPa・s超150mPa・s以下である場合には1.0~3.0質量%であるように調整する、水不溶性成分含有飲料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶成分、結晶セルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを含有している、飲料容器に充填されている飲料であって、
初期沈降量割合が1.0質量%以上4.0質量%以下であり、再分散後の沈降量割合が0.30質量%以上0.60質量%以下であり、
前記初期沈降量割合は、前記飲料の重量(Ws)に対する、前記飲料を静置した後の沈降量(Wsp)の割合[Wsp/Ws]であり、
前記再分散後の沈降量割合は、前記飲料の重量(Wm)に対する、前記飲料を再分散した後に静置した後の沈降量(Wmp)の割合[Wmp/Wm]であり、
前記飲料を静置した後の沈降量(Wsp)は、前記飲料が充填されている飲料容器を、25℃で48時間正立状態で静置した後に、開封して重量を測定した後、傾けて中身を5秒間で流し出し、さらに倒立させて30秒間静置した後に再び正立状態に戻した状態の当該飲料容器の容器重量(Ws1)と、その後に当該飲料容器を洗浄して乾燥した後の容器重量(Ws2)との差(Ws1-Ws2)であり、
前記飲料の重量(Ws)は、前記飲料が充填されている飲料容器を開封して測定された重量(Ws0)と、前記容器重量(Ws2)との差(Ws0-Ws2)であり、
前記飲料を再分散した後に静置した後の沈降量(Wmp)は、前記飲料が充填されている飲料容器を、転倒混合作業に供した後に、開封して重量を測定した後、傾けて中身を5秒間で流し出し、さらに倒立させて30秒間静置した後に再び正立状態に戻した状態の当該飲料容器の容器重量(Wm1)と、その後に当該飲料容器を洗浄して乾燥した後の容器重量(Wm2)との差(Wm1-Wm2)であり、
前記飲料の重量(Wm)は、前記飲料が充填されている飲料容器を転倒混合作業後に開封して測定された重量(Wm0)と、前記容器重量(Wm2)との差(Wm0-Wm2)であり、
前記転倒混合作業は、25℃で48時間正立状態で静置した後の前記飲料の飲料容器を、正立状態から倒立状態として2秒間静置した後に、再度反転させて正立状態としてから再度反転させて倒立状態にする作業を1サイクルとし、合計4サイクルをサイクルごとに反転方向を変化させて10秒間で行う作業である、
飲料。
【請求項2】
25℃で48時間静置した後の沈降物の堆積層高さが、飲料の液高さに対して、10%以上15%未満である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
前記水不溶成分が、ココア又は茶葉である、請求項1に記載の飲料。
【請求項4】
水不溶成分の含有量の飲料全量に対する割合が、0.5質量%以上3.0質量%以下である、請求項1に記載の飲料。
【請求項5】
さらに、水及び乳成分含有原料からなる群より選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の飲料。
【請求項6】
水不溶性成分、結晶セルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを含有する飲料を製造する方法であって、
結晶セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムを、飲料全体に対する前記結晶セルロースと前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの合計含有量の割合が0.04質量%以上0.2質量%以下となるように含有させ、
(i)前記カルボキシメチルセルロースナトリウムを1.0質量%含有する水分散液の30℃における粘度が10mPa・s以上130mPa・s以下である場合には、前記結晶セルロースと前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの合計含有量に対する前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量の割合が1.0質量%以上5.0質量%以下であるように調整し、
(ii)前記カルボキシメチルセルロースナトリウムを1.0質量%含有する水分散液の30℃における粘度が130mPa・s超150mPa・s以下である場合には、前記結晶セルロースと前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの合計含有量に対する前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量の割合が1.0質量%以上3.0質量%以下であるように調整し、
前記結晶セルロースと前記カルボキシメチルセルロースナトリウムは、複合体を形成していない、水不溶性成分含有飲料の製造方法。
【請求項7】
前記結晶セルロースと前記カルボキシメチルセルロースナトリウムを、飲料全体に対する前記結晶セルロースと前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの合計含有量の割合が0.05質量%以上0.1質量%以下となるように含有させる、請求項6に記載の水不溶性成分含有飲料の製造方法。
【請求項8】
前記水不溶性成分を、飲料全体に対する前記水不溶性成分の含有量が0.5質量%以上3.0質量%以下となるように調製する、請求項6に記載の水不溶性成分含有飲料の製造方法。
【請求項9】
前記水不溶性成分が、ココア又は茶葉である、請求項6に記載の水不溶性成分含有飲料の製造方法。
【請求項10】
前記水不溶性成分含有飲料が、さらに、タンパク質を含有する、請求項6に記載の水不溶性成分含有飲料の製造方法。
【請求項11】
前記水不溶性成分含有飲料が、さらに、水及び乳成分含有原料からなる群より選択される1種以上を含有する、請求項6に記載の水不溶性成分含有飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ココアパウダー等の水不溶性成分を含有する飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ココアは、油脂分が多く水不溶性のココアパウダーを水や牛乳に分散させた飲料である。また、抹茶飲料は、水不溶性の抹茶パウダーを水等に分散させた飲料である。近年、水不溶成分を沈殿させておくことにより消費者に濃厚さを印象付ける飲料が販売されている。このように沈殿が生じている飲料では、上方の飲料液体部分は水不溶成分の濃度が低下しており、味が薄くなってしまう。このため、通常は、飲料を飲む前に、飲料容器を振るなどの撹拌を行って堆積している水不溶性成分を再度飲料全体に分散させる。
【0003】
当該問題を解決する方法としては、例えば、特許文献1には、ココア飲料に、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度度が特定の範囲内であり、かつ濃度1質量%の水分散液の粘度が特定の範囲内であるカルボキシメチルセルロースを配合する方法が開示されている。当該カルボキシメチルセルロースを配合することにより、ココアパウダーの分散安定性と一度堆積した後の再分散性の両方が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微粉末状の水不溶性成分が飲料液体中に分散している水不溶性成分含有飲料において、容器底部に堆積した水不溶性成分は、呈味だけではなく、飲料の外観も損なうものである。このため、容器底部にある水不溶性成分の体積層の高さは、できるだけ低いことが好ましい。一方で、特許文献1には、ココア飲料における容器底部の堆積してしまったココア層の高さについては言及されていない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、水不溶性成分が堆積した場合の堆積層の高さが低く抑えられており、かつ堆積した水不溶性成分の再分散性が良好な水不溶性成分含有飲料を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の物性を有するカルボキシメチルセルロース(CMC-Na)と結晶セルロース(MCC)とを併用して含有させることにより、水不溶性成分が沈殿して形成された堆積層の高さの低下と再分散性の両方を改善できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1] 水不溶成分、結晶セルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを含有している、飲料容器に充填されている飲料であって、
初期沈降量割合が1.0質量%以上4.0質量%以下であり、再分散後の沈降量割合が0.30質量%以上0.60質量%以下であり、
前記初期沈降量割合は、前記飲料の重量(Ws)に対する、前記飲料を静置した後の沈降量(Wsp)の割合[Wsp/Ws]であり、
前記再分散後の沈降量割合は、前記飲料の重量(Wm)に対する、前記飲料を再分散した後に静置した後の沈降量(Wmp)の割合[Wmp/Wm]であり、
前記飲料を静置した後の沈降量(Wsp)は、前記飲料が充填されている飲料容器を、25℃で48時間正立状態で静置した後に、開封して重量を測定した後、傾けて中身を5秒間で流し出し、さらに倒立させて30秒間静置した後に再び正立状態に戻した状態の当該飲料容器の容器重量(Ws1)と、その後に当該飲料容器を洗浄して乾燥した後の容器重量(Ws2)との差(Ws1-Ws2)であり、
前記飲料の重量(Ws)は、前記飲料が充填されている飲料容器を開封して測定された重量(Ws0)と、前記容器重量(Ws2)との差(Ws0-Ws2)であり、
前記飲料を再分散した後に静置した後の沈降量(Wmp)は、前記飲料が充填されている飲料容器を、転倒混合作業に供した後に、開封して重量を測定した後、傾けて中身を5秒間で流し出し、さらに倒立させて30秒間静置した後に再び正立状態に戻した状態の当該飲料容器の容器重量(Wm1)と、その後に当該飲料容器を洗浄して乾燥した後の容器重量(Wm2)との差(Wm1-Wm2)であり、
前記飲料の重量(Wm)は、前記飲料が充填されている飲料容器を転倒混合作業後に開封して測定された重量(Wm0)と、前記容器重量(Wm2)との差(Wm0-Wm2)であり、
前記転倒混合作業は、25℃で48時間正立状態で静置した後の前記飲料の飲料容器を、正立状態から倒立状態として2秒間静置した後に、再度反転させて正立状態としてから再度反転させて倒立状態にする作業を1サイクルとし、合計4サイクルをサイクルごとに反転方向を変化させて10秒間で行う作業である、
飲料。
[2] 25℃で48時間静置した後の沈降物の堆積層高さが、飲料の液高さに対して、10%以上15%未満である、前記[1]の飲料。
[3] 前記水不溶成分が、ココア又は茶葉である、前記[1]又は[2]の飲料。
[4] 水不溶成分の含有量の飲料全量に対する割合が、0.5質量%以上3.0質量%以下である、前記[1]~[3]のいずれかの飲料。
[5] さらに、水及び乳成分含有原料からなる群より選択される1種以上を含有する、前記[1]~[4]のいずれかの飲料。
[6] 水不溶性成分、結晶セルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを含有する飲料を製造する方法であって、
結晶セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムを、飲料全体に対する前記結晶セルロースと前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの合計含有量の割合が0.04質量%以上0.2質量%以下となるように含有させ、
(i)前記カルボキシメチルセルロースナトリウムを1.0質量%含有する水分散液の30℃における粘度が10mPa・s以上130mPa・s以下である場合には、前記結晶セルロースと前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの合計含有量に対する前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量の割合が1.0質量%以上5.0質量%以下であるように調整し、
(ii)前記カルボキシメチルセルロースナトリウムを1.0質量%含有する水分散液の30℃における粘度が130mPa・s超150mPa・s以下である場合には、前記結晶セルロースと前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの合計含有量に対する前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量の割合が1.0質量%以上3.0質量%以下であるように調整し、
前記結晶セルロースと前記カルボキシメチルセルロースナトリウムは、複合体を形成していない、水不溶性成分含有飲料の製造方法。
[7] 前記結晶セルロースと前記カルボキシメチルセルロースナトリウムを、飲料全体に対する前記結晶セルロースと前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの合計含有量の割合が0.05質量%以上0.1質量%以下となるように含有させる、前記[6]の水不溶性成分含有飲料の製造方法。
[8] 前記水不溶性成分を、飲料全体に対する前記水不溶性成分の含有量が0.5質量%以上3.0質量%以下となるように調製する、前記[6]又は[7]の水不溶性成分含有飲料の製造方法。
[9] 前記水不溶性成分が、ココア又は茶葉である、前記[6]~[8]のいずれかの水不溶性成分含有飲料の製造方法。
[10] 前記水不溶性成分含有飲料が、さらに、タンパク質を含有する、前記[6]~[9]のいずれかの水不溶性成分含有飲料の製造方法。
[11] 前記水不溶性成分含有飲料が、さらに、水及び乳成分含有原料からなる群より選択される1種以上を含有する、前記[6]~[10]のいずれかの水不溶性成分含有飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
上記態様によれば、水不溶性成分が飲料容器の底部に堆積した場合の堆積層の高さが充分に低く抑えられておりながら、当該飲料容器を振ることで、良好に沈殿物を再分散させることができる水不溶性成分含有飲料、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る飲料(以下、「水不溶成分含有飲料」ということがある。)は、水不溶成分、結晶セルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを含有している、飲料容器に充填されている飲料であって、初期沈降量割合が1.0質量%以上4.0質量%以下であり、再分散後の沈降量割合が0.30質量%以上0.60質量%以下である。初期沈降量割合とは、静置した状態で、水不溶性成分が沈殿している量の指標となる値であり、再分散後の沈降量割合は、再分散後に水不溶性成分が沈殿している量の指標となる値である。初期沈降量割合と再分散後の沈降量割合は、いずれも後記実施例に記載の方法で測定できる。
【0011】
本実施形態に係る水不溶成分含有飲料は、液高さ(mm)に対する沈降物の堆積層の高さ(mm)の割合(堆積層高さ/液高さ)が充分に低く、外観上好ましい。当該水不溶成分含有飲料の堆積層高さ/液高さとしては、15%未満であることが好ましい。一方で、ある程度の堆積層の高さがある飲料が視覚的に好まれる場合がある。そこで、当該水不溶成分含有飲料の堆積層高さ/液高さとしては、10%以上であることも好ましい。当該水不溶成分含有飲料の堆積層高さ/液高さは、測定値の信頼性の点から、25℃で48時間静置した後に測定されることが好ましい。なお、飲料の堆積層高さ/液高さは、後記実施例に記載の方法で測定できる。
【0012】
当該水不溶性成分含有飲料は、特定の物性のカルボキシメチルセルロースナトリウムを結晶セルロースと共に、所定の割合で含有させることにより製造できる。カルボキシメチルセルロースナトリウムは、沈殿した水不溶性成分同士の凝集剤として作用する。一方で、カルボキシメチルセルロースナトリウムのみ含有する水不溶性成分含有飲料の場合、容器の底部に堆積してしまった水不溶性成分は、飲料を懸濁しても再分散し難い。カルボキシメチルセルロースナトリウムに結晶セルロースを併存させることにより、沈殿した水不溶性成分の再分散性を向上させることができる。つまり、結晶セルロースは、水不溶性成分の再分散性を改善するスペーサーとして作用する。そこで、適切な粘度のカルボキシメチルセルロースナトリウムを、結晶セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムの合計含有量に対して特定の割合となるように含有させることにより、再分散性を損なうことなく、水不溶性成分が沈殿して形成される堆積層の高さを低下させることができる。
【0013】
<結晶セルロース>
本願明細書において、「結晶セルロース(MCC)」とは、繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースを酸で部分的に解重合し、精製したものを意味する。例えば、第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)に記載の「結晶セルロース」に該当するものである。水不溶成分含有飲料に含有させる結晶セルロースの平均重合度は、350以下であることが好ましく、他の食品素材との馴染みがよいため、好ましくは300以下、より好ましくは250以下である。平均重合度の下限は特に制限されないが、好ましい範囲としては10以上である。
【0014】
結晶セルロースの平均重合度は、第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定することができる。
【0015】
<セルロースの加水分解>
平均重合度を制御する方法としては、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロース繊維質内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースや、リグニン等の不純物も、取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。それにより、混練工程等で、セルロースと親水性ガムに機械的剪断力を与える工程において、セルロースが機械処理を受けやすくなり、セルロースが微細化されやすくなる。
【0016】
加水分解の方法は、特に制限されないが、酸加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。酸加水分解の方法では、セルロース系物質を水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌させながら、加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調整されるものである。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分間以上セルロースを処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分がセルロース繊維内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その後の精製も容易になる。
【0017】
結晶セルロース粉末の原料となる天然セルロースは、植物由来、動物由来、又は微生物由来であればよい。中でも、植物由来であることが好ましい。前記植物としては、例えば、木材、竹、コットン、ラミー、ホヤ、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース等のセルロースを含有する天然物由来の繊維質物質が挙げられる。上記繊維質物質のうち1種を使用してもよく、2種以上を混合したものを使用してもよい。
また、天然セルロースは、精製パルプの形態で使用することが好ましい。パルプの精製方法に特別な限定はなく、例えば、溶解パルプ、クラフトパルプ、NBKPパルプ等のいずれのパルプを使用してもよい。
【0018】
結晶セルロースと粉末セルロースとでは、水に分散させたときの状態が異なる。当該水分散液状態の比較としては、セルロースを水に分散させ、ホモジナイザーで磨砕して分散液を作製し、その状態を目視観察して比較すると、結晶セルロースは全体が白色不透明なクリーム状を呈し分離が生じないのに対し、粉末セルロースは分離が生じ上澄み液と沈殿とに分かれる。例えば、セルロース含有量が10質量%となるよう、水及びセルロースを量り取り、25℃雰囲気下にてTKホモミキサー(特殊機化工業(株)製、MARKII)で12,000rpmで10分間撹拌して分散液を作製し、この分散液を高圧ホモジナイザー(APV社製 マントンゴーリンホモジナイザー 圧力15MPa)処理した白色の懸濁液を、25℃で1時間静置後の懸濁安定状態で比較することができる。
【0019】
本実施形態で用いられる結晶セルロースは、粉末状態であってもよい。
結晶セルロース粉末の平均粒子径(乾燥粉体、二次凝集体)は、20μm以上100μm以下であることが好ましい。結晶セルロース粉末の平均粒子径が上記範囲内であることにより、飲料中の水不溶性成分を、容易に馴染ませることができる。
なお、結晶セルロースの平均粒子径の測定方法は、乾燥粉体で二次凝集体の状態で結晶セルロース粉末を篩上で振とうさせ、分画し、粒径に対する重量頻度を測定する方法等、公知の篩分けによる方法により行うことができる。典型的には、まず、ロータップ式篩振盪機(平工作所製、シーブシェーカーA型)により、JIS標準篩(Z8801-1987)を用いて、試料10gを10分間篩分することにより分画する。次いで、得られた粒度分布における累積重量50%粒径を、結晶セルロースの乾燥粉体の平均粒子径とすればよい。
【0020】
結晶セルロース粉末の製造方法としては、例えば、加水分解処理された天然セルロースを乾燥することにより得られる。この場合、加水分解処理により得られる反応溶液から、加水分解処理されたセルロースを含む固形分を単離し、これを適当な媒体に分散させて調製した分散液を乾燥してもよく、同加水分解溶液がそのままの状態でセルロース分散液を形成している場合は、この分散液を直接乾燥してもよい。
結晶セルロース粉末の製造方法において、加水分解処理されたセルロースを含む固形分を、その後適当な媒体に分散させる場合に用いられる媒体としては、工業的に使用されるものであれば特別な限定はなく、例えば、水及び有機溶剤のうち少なくともいずれかを使用してもよい。前記有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、2-メチルブチルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素類;アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類等が挙げられる。中でも、媒体として用いる有機溶剤としては、医薬品に使用されるものが好ましく、「医薬品添加剤事典2000」(薬事日報社(株)発行)に溶剤として分類されるものがより好ましい。
例えば、加水分解処理されたセルロースを含む固形分を、まず1種の媒体で一旦分散させた後、当該媒体を除去し、次いで異なる媒体に分散させてもよい。
結晶セルロース粉末の製造方法において、媒体に分散させて調製した分散液の乾燥方法としては、特別な限定はない。前記乾燥方法としては、例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥、棚段乾燥、気流乾燥、真空乾燥、有機溶剤と共に乾燥する乾燥方法等が挙げられる。
【0021】
本願明細書において、「結晶セルロースの水分散液」とは、前記結晶セルロース、又は前記結晶セルロース粉末等を水に分散させた溶液を意味する。
結晶セルロースの水分散液の平均粒子径(一次粒子径)は、50μmより小さいことが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましく、11μm以下であることが特に好ましい。結晶セルロースの水分散液の平均粒子径が上記上限値以下であることにより、水不溶性成分含有飲料に配合された際に、均一に分散しやすい。このため、ザラツキを感じにくく、喉越しが良好となり、成型性に優れる水不溶性成分含有飲料が得られる。また、結晶セルロースの水分散液の平均粒子径が上記上限値を超える場合は、結晶セルロースの水分散液を調整し、予め平均粒径を上記上限値以下にした状態で水不溶性成分含有飲料に添加する方法が好ましい。
一方、結晶セルロースの水分散液の平均粒子径の下限値は特に限定されないが、例えば、1μm以上とすることが可能である。
【0022】
なお、本願明細書において、「結晶セルロースの水分散液の平均粒子径」とは、粒子全体の体積に対して、積算体積が50%になるときの粒子の球形換算直径のことを意味し、メジアン径とも呼ばれる。
結晶セルロースの水分散液の平均粒子径の測定方法としては、例えば、以下に示す方法で行えばよい。まず、1質量%の結晶セルロースの水分散液を試料として調製する。次いで、得られた試料に対して、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所製、商品名「LA-910」、超音波処理1分間、屈折率1.20)を用いたレーザー回折法により測定すればよい。次いで、レーザー回折法により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径を、上述のとおり、「結晶セルロースの水分散液の平均粒子径」とすればよい。
また、測定に試料として用いる結晶セルロースの水分散液は、例えば、以下に示す方法で調製すればよい。まず、固形分濃度が1%、分散液の総量が1,500mLとなるように、サンプルと純水とを2L容のSUSビーカーに量り取る。次いで、汎用撹拌翼かい十字(半径35mm)を取り付けたプロペラ攪拌機(スリーワンモーター、HEIDON製、BL-600)を用いて、25℃、500rpmで20分間分散して調製すればよい。
【0023】
本実施形態で得られる水不溶性成分含有飲料に含まれる結晶セルロースの粒子形状は、微細な粒子形状であってもよい。
なお、結晶セルロースの水分散液中の粒子形状は、以下に示す方法により測定することができる。まず、0.1質量%の結晶セルロースを含有する純水懸濁液を調製する。次いで、高剪断ホモジナイザー(日本精機製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させる。次いで、得られた水分散液を、デジタルマイクロスコープ(ハイロックス製、商品名「HIROX KH-1300」)で形状観察した際に得られる粒子像の長径(L)と短径(D)との比(L/D)を粒子形状の指標とし、100~150個の結晶セルロース粒子の平均値として算出される値を採用すればよい。なお、L/Dの値が大きいほど、結晶セルロースは細長い形状であることを意味する。
【0024】
本実施形態で得られる水不溶性成分含有飲料に含まれる結晶セルロースが微細な粒子形状である場合、結晶セルロースのL/Dは、9以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましく、5以下であることが特に好ましい。結晶セルロースのL/Dは、1より大きいことが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましい。結晶セルロースのL/Dが上記範囲内であることにより、水不溶性成分含有飲料は、喫食した際にざらつきを感じにくく、喉越しが優れる傾向にある。
【0025】
<カルボキシメチルセルロース(CMC)>
カルボキシメチルセルロースは、セルロース誘導体の1種であり、D-グルコースがβ-1,4結合した、セルロース骨格を持ち、セルロースの水酸基(セルロース中のグルコース残基一単位には三か所の水酸基が存在する)中の水素原子がモノクロロ酢酸との反応によりカルボキシメチル基(-CH2COO-)に置換されたもので、一部又は全部の水酸基中の水素原子がカルボキシメチル基に置き換えられた構造を持つセルロース誘導体の総称である。カルボキシメチルセルロース中のグルコース残基のカルボキシメチル基が、塩構造となっているものを用いることが好ましい。
【0026】
本実施形態において用いられるカルボキシメチルセルロースとしては、水溶性のものが好ましい。水溶性カルボキシメチルセルロースとしては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、カルボキシメチルセルロースアンモニウムが挙げられるが、本実施形態においては、カルボキシメチルセルロースナトリウムを用いる。
【0027】
なお、特定のカルボキシメチルセルロースが水溶性に該当するか否かは、以下の基準による。該カルボキシメチルセルロースの試料3gを、297gのイオン交換水に添加し、エクセルオートホモジナイザーで15,000rpmで5分間撹拌する。作製した水溶液(又は水分散液)を100mLの沈降管に100mL充填し、25℃で3時間静置後の沈降量(mL)を目視で測定し、沈降量が1mL(1%)未満の場合水溶性であるとする。
【0028】
<カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)>
カルボキシメチルセルロースナトリウムは、上記水溶性CMCのうち、セルロース中のグルコース残基のカルボキシメチル基が、ナトリウム塩となっている多糖類である。CMC-Naは、白色微粉末であり、水に速やかに溶解する。
【0029】
代表的な製法としては、水媒法と溶媒法がある。水媒法は、始めアルカリセルロースを作り、その後モノクロロ酢酸又は、そのナトリウム塩を添加するアルカリ法と、セルロースをモノクロロ酢酸ナトリウム液と共に混和し、破砕し、次に水酸化ナトリウムを添加する早川法の2 法がある。溶媒法は、様々な種類の溶媒、混合溶媒の使用が可能であり、イソプロピルアルコールを使用する方法が一般的である。イソプロピルアルコールとセルロース、水酸化ナトリウムを反応させてアルカリセルロースを作製し、これにモノクロロ酢酸を添加してエーテル化反応を行った後、メタノールで洗浄し製造する方法がある。カルメロースナトリウム、繊維素グリコール酸ナトリウムとも呼ばれるものも、本実施形態でいうCMC-Naに含まれる。
【0030】
<CMC-Naの置換度>
CMC-Naの置換度の理論値の上限は3であり、その範囲のものであれば本発明で使用することができるが、本発明で用いるCMC-Naは、置換度が1.5以下のものを用いることが好ましい。下限としては、0.4以上のものが好ましく、0.55以上が好ましく、より好ましくは0.65以上である。上限としては、1.5以下が好ましく、より好ましくは1.0以下である。
【0031】
ここでいう置換度は、日本薬局方で規定されている以下の方法で測定される。試料(無水物)0.5gを精密にはかり、ろ紙に包んで磁性ルツボ中で灰化させる。冷却後、これを500mL容ビーカーに写し、水を約250mLと0.05M 硫酸35mLを加えて30分間煮沸する。これを冷却し、フェノールフタレイン指示薬を滴下して過剰な酸を0.1M 水酸化カリウムで逆滴定し、次式を用いて算出する。
【0032】
A ={(af-bf1)/試料無水物の質量(g)) - アルカリ度(又は+酸度)
置換度=(162×A)/(10000-80×A)
ここで、以下のように定義する。
A : 試料1g中のアルカリに消費された0.05M の硫酸の量(mL)
a : 0.05M 硫酸の使用量(mL)
f : 0.05M 硫酸の力価
b : 0.1M 水酸化カリウムの滴定量(mL)
f1 :0.1M 水酸化カリウムの力価
162 : グルコースの分子量
80 : CH2COONa-Hの分子量
【0033】
アルカリ度(又は酸度)の測定法: 試料(無水物)1gを300mL容フラスコに精密に測り取り、水を約200mL加えて溶かす。これに、0.05M 硫酸5mLを加え、10分間煮沸した後冷却し、フェノールフタレイン指示薬を加えて0.1M 水酸化カルシウムで滴定する(SmL)。同様に該試料を含まない水を使用してブランク試験を行い滴定する(BmL)。次式を用いてアルカリ度(又は酸度)を算出する。
【0034】
アルカリ度={(B-S)×f}/試料無水物の質量(g)
【0035】
ここで、f:0.1M 水酸化カリウムの力価と定義する。{(B-S)×f}の値がマイナスの場合は、酸度とする。
なお、CMC-Na以外の水溶性CMCの置換度も同様の方法で測定することができる。
【0036】
本実施形態において原料として用いるカルボキシメチルセルロースナトリウムとしては、粉末状であってもよい。
【0037】
本実施形態における「カルボキシメチルセルロースの水分散液」とは、前記カルボキシメチルセルロース、又は前記カルボキシメチルセルロース粉末等を水に分散させた溶液を意味する。
【0038】
本実施形態においては、カルボキシメチルセルロースによる沈殿した水不溶性成分同士の凝集剤としての作用と、結晶セルロースによる水不溶性成分の再分散性を改善するスペーサーとして作用が、適切なバランスで達成されることが必要である。当該飲料中でカルボキシメチルセルロースと結晶セルロースが適切なバランスで作用することによって、沈殿した水不溶性成分からなる堆積層の高さが充分に低く抑えられていながら、沈殿した水不溶性成分の再分散性も良好な水不溶性成分含有飲料が製造できる。このため、本実施形態における水不溶性成分含有飲料では、カルボキシメチルセルロースと結晶セルロースを、両者が複合体を形成していない状態で含有させていることが好ましい。具体的には、本実施形態における水不溶性成分含有飲料は、複合体を形成させていないカルボキシメチルセルロースと結晶セルロースを原料として製造される。
【0039】
<セルロース複合体>
本発明及び本願明細書において、「セルロース複合体」とは、主成分であるセルロースに水溶性カルボキシメチルセルロースを含む多糖類が複合化されたものである。複合化とは、前述のとおり、セルロース粉末を構成する粒子の表面の少なくとも一部が、水素結合等の化学結合により、多糖類で被覆された形態を意味する。したがって、セルロース複合体は、セルロース粉末と多糖類とを単に混合した状態ではなく、多糖類がセルロース粒子の表面を被覆した状態である。そのため、セルロース複合体を水系媒体中に分散させると、該水溶性カルボキシメチルセルロース等の多糖類がセルロース粒子の表面から剥離することなく、表面から放射状に広がった構造を形成し、水中でコロイド状となる。このコロイド状で存在するセルロース複合体は、それぞれの静電反発や立体反発、ファンデルワールス力等の相互作用によって、高次のネットワーク構造を形成することができる。
【0040】
本実施形態において水不溶性成分含有飲料に含有させるカルボキシメチルセルロースは、飲料中におけるカルボキシメチルセルロースナトリウムと結晶セルロースの含有割合に応じて適切な粘度範囲内のものであることが好ましい。飲料全体に対するカルボキシメチルセルロースの含有割合が高くなりすぎたり、配合するカルボキシメチルセルロースの粘度が高くなりすぎる場合には、沈殿した水不溶性成分の再分散性が低下する。一方で、飲料全体に対するカルボキシメチルセルロースの含有割合が少なすぎる場合には、沈殿した水不溶性成分の堆積層の高さが高くなり、外観が損なわれるおそれがある。
【0041】
本実施形態において、飲料に含有させるカルボキシメチルセルロースナトリウムとしては、結晶セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムの合計含有量に対するカルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量の割合が、1質量%以上5質量%以下である場合、すなわち、飲料におけるCMC/[MCC+CMC]が1質量%以上5質量%以下の場合には、当該カルボキシメチルセルロースナトリウムを1.0質量%含有する水分散液(以下、「CMC水分散液(1%)」ということがある。)の30℃における粘度が、200mPa・s以下となるものが好ましく、150mPa・s以下となるものがより好ましく、130mPa・s以下となるものがさらに好ましく、100mPa・s以下となるものがよりさらに好ましく、50mPa・s以下となるものが特に好ましい。また、水不溶性成分含有飲料のCMC/[MCC+CMC]が1質量%以上5質量%以下の場合には、当該飲料に含有させるカルボキシメチルセルロースナトリウムとしては、CMC水分散液(1%)の30℃における粘度が、5mPa・s以上となるものが好ましく、10mPa・s以上となるものがより好ましい。
【0042】
本実施形態において、飲料に含有させるカルボキシメチルセルロースナトリウムとしては、結晶セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムの合計含有量に対するカルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量の割合が、1質量%以上3質量%以下である場合、すなわち、飲料におけるCMC/[MCC+CMC]が1質量%以上3質量%以下の場合には、当該カルボキシメチルセルロースナトリウムのCMC水分散液(1%)の30℃における粘度が、200mPa・s以下となるものが好ましく、130mPa・s超150mPa・s以下となるものがより好ましい。
【0043】
CMC水分散液(1%)の粘度は、例えば、B形粘度計(東機産業製、BV-10M)等を用いて測定することができる。
【0044】
本実施形態において、飲料に含有させるカルボキシメチルセルロースナトリウムと結晶セルロースの合計量は、飲料全体に対して、0.04質量%以上であることが好ましく、0.04質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましく、0.04質量%以上0.2質量%以下であることがさらに好ましく、0.05質量%以上0.10質量%以下であることがよりさらに好ましく、0.06質量%以上0.08質量%以下であることが特に好ましい。
【0045】
<水不溶性成分>
水不溶性成分とは、水溶媒中に添加し、攪拌した際、溶解せずに分散、或いは浮遊、沈降する成分のことを意味する。
本実施形態において水不溶性成分含有飲料に含有させる水不溶性成分としては、可食性の水不溶性成分であり、かつ飲料中に分散可能な成分であれば特に限定されるものではい。当該水不溶性成分としては、例えば、洗いごまや煎りごま、擦りごま、皮むきごまなどのごま類や、大根をはじめ、ニンジン、ニンニク、生姜、タマネギ、ナガイモ、ホウレンソウ、トマト、ネギ、シイタケ、リンゴ、ナシ、オレンジ、レモンなどの野菜や果物をすりおろしたものや、細かく刻んだもの、繊維質、乾燥粉砕したものなどを挙げることができる。そのほかにも、小麦、大麦、ライ麦、燕麦(オーツ)、鳩麦等の麦類や米、ソバ、雑穀、トウモロコシ、モロコシ、アワ、ヒエ、キビ、雑穀等の穀物、大豆、小豆、緑豆、アーモンド、カシューナッツ、マカダミアナッツ、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ、ココナッツ、松の実、胡桃等のナッツ類、インゲン豆、そら豆、枝豆、カカオ豆、コーヒー豆などの豆類、かぼちゃの種、ひまわりの種、西瓜の種などの種類、或いは、ゆず、れもん、すだち、かぼす、だいだい、ライム、みかん、オレンジなどの柑橘系の果汁や、その他果物などの果汁や繊維質、コショウなどをはじめとするスパイスやハーブ、ココア、カルシウム、マグネシウムなどのミネラル類や、ウコン、タンパク質(ミルクプロテイン、大豆タンパク、ホエイ、カゼインなど)、コラーゲン、コエンザイムQ10、乳酸菌などの機能性食材、水不溶性成分であれば、食材の種類や成分としては特に限定しない。これらの原料は、酵素処理を施したものでも、施していないものでもどちらでも構わない。また、形態は、粉末状でも、ペースト状でもよく、形態は限定しない。
中でも、飲料としての味覚を考慮すると、ココア、抹茶等の茶葉、穀物類、豆類が好ましく、ココア及び茶葉からなる群より選択される1種以上がより好ましい。
【0046】
<水不溶性成分の比重>
水不溶性成分の比重としては、1g/cm3以上が好ましく、1.1g/cm3以上がより好ましい。比重が水と同程度、あるいは水よりも大きいものにおいて、沈降しやすいため、カルボキシメチルセルロースナトリウムと結晶セルロースによる堆積層高さの低下効果や再分散性の改善効果をより強く発揮させることができるためである。上限としては、喫飲時の喉ごしの点から、3g/cm3以下が好ましい。
【0047】
<水不溶性成分の大きさ>
本実施形態において水不溶性成分含有飲料に含有させる水不溶性成分の大きさとしては、体積平均粒子径が0.1μm以上10mm以下が好ましい。体積平均粒子径が前記範囲内であれば、沈降量と堆積層高さを制御しやすい。水不溶性成分の体積平均粒子径は、好ましくは、1μm以上であり、さらに好ましくは5μm以上である。上限は、1mm以下がより好ましく、500μm以下がさらに好ましい。
【0048】
なお、水不溶性成分の体積平均粒子径とは、1質量%の水分散液に対して、レーザー回折/散乱法粒度分布計(堀場製作所(株)製、商品名「LA-910」、装置付属機能の超音波処理1分間、屈折率1.20)で測定した際の、体積頻度粒度分布における積算50%粒子径のことである。
【0049】
<水不溶性成分の含有量>
本実施形態において水不溶性成分含有飲料に含有させる水不溶性成分の含有量は、特に限定されるものではないが、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。水不溶性成分量がこの範囲であれば、飲料としての飲み口が良好となりやすい。
【0050】
本実施形態で製造される水不溶性成分含有飲料における水不溶性成分の含有量の下限値としては、飲料全体に対して、0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましい。また、本実施形態で製造される水不溶性成分含有飲料における水不溶性成分の含有量の上限値は、飲料全体に対して、3.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下がさらに好ましく、1.2質量%以下がよりさらに好ましい。
【0051】
<分散媒>
本実施形態においては、前記水不溶性成分、前記結晶セルロース、及び前記カルボキシメチルセルロースナトリウムを、分散媒に分散させる。当該分散媒としては、可食性の液体であれば特に限定されるものではないが、飲料としての嗜好性の点から、水及び乳成分含有原料からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0052】
乳成分含有原料には、動物由来及び植物由来いずれの乳成分を含有する液性原料も含まれる。動物としては、例えば、ウシ、ヤギ、ヒツジ等が挙げられ、これらに限定されない。植物としては、例えば、豆類、種子類、穀物類等が挙げられ、これらに限定されない。
【0053】
乳成分含有原料としてより具体的には、例えば、牛乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、練乳、乳脂肪、生クリーム、コンデンスミルク、ヨーグルト、チーズ等の動物由来の乳成分含有原料;豆乳等の豆類由来の乳成分含有原料、ココナッツミルク、アーモンドミルク、ピーナッツミルク等の種子類由来の乳成分含有原料、粥(Rice milk)等の穀物由来の乳成分含有原料等の植物由来の乳成分含有原料等が挙げられ、これらに限定されない。乳成分含有原料は、液体であってもよく、固体であってもよい。固体の場合には、水に溶解させた溶液を、セルロース複合体等の分散媒として使用する。中でも、入手しやすさと取扱いやすさから、本実施形態において製造される飲料に含まれる乳成分含有原料としては、牛乳、前脂粉乳、脱脂粉乳、生クリーム、豆乳、又はココナッツミルクであることが好ましい。
【0054】
本実施形態において用いられる分散媒のpHとしては、3.5以上8.0以下が好ましく、4.5以上8.0以下がより好ましく、5.5以上8.0以下がさらに好ましい。分散媒のpHが前記範囲内にあることにより、カルボキシメチルセルロースの負電荷による反発を過度に引き起こすおそれがなく、配合したカルボキシメチルセルロースナトリウムが凝集剤としての作用を十分に発揮できる。
【0055】
本実施形態において用いられる分散媒の塩分濃度としては、飲料全量に対して、下限値としては、0質量%以上が好ましく、上限値としては、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。カルボキシメチルセルロースナトリウムは負の電荷を持つカルボキシメチル基を有しているため、分散媒の塩分濃度が高すぎると、塩分中のカチオンが当該カルボキシメチル基に化学結合し、凝集・沈殿が生じるおそれがある。分散媒の塩分濃度を前記範囲内に調整することにより、カルボキシメチルセルロースナトリウムの凝集や沈殿が抑制される。
【0056】
本実施形態において飲料に含有させる分散媒の粘度としては、下限値としては、0.1mPa・s以上が好ましく、上限値としては、100mPa・s以下が好ましく、75mPa・s以下がより好ましく、50mPa・s以下がさらに好ましい。分散媒の粘度が前記範囲内であることにより、結晶セルロースやカルボキシメチルセルロースナトリウムや水不溶性成分混合させた後、問題なく撹拌して分散させることができる。
【0057】
本実施形態で得られる水不溶性成分含有飲料の粘度としては、下限値としては、1.0mPa・s以上が好ましく、上限値としては、10mPa・s以下が好ましく、2.0mPa・s以上がより好ましく、4.0mPa・s以下がより好ましく2.5mPa・s以下がさらに好ましい。
【0058】
本実施形態において用いられる分散媒や製造された水不溶性成分含有飲料の粘度は、25℃にてB形粘度計(東機産業(株)製、TV-10型)を用いて、60rpmで30秒間撹拌した際に測定される粘度値をいう。
【0059】
(その他材料)
本実施形態においては、上記以外のその他材料を原料として飲料に含有させてもよい。その他材料としては、喫食可能な成分であればよく、味付け、保存等を目的として添加されるものが挙げられる。その他材料としては、例えば、植物油、動物油等の油脂類、野菜成分、肉成分、きのこ成分、デンプン類、調味料、乳化剤、界面活性剤、増粘多糖類、日持ち向上剤、抗菌剤、崩壊剤、消泡剤、発砲剤、食物繊維、栄養強化剤、pH調整剤、香料、酸化防止剤、酸味料、膨張剤、色素等が挙げられる。前記調味料としては、食塩、ブドウ糖、果糖、砂糖、甘味料、糖アルコール等の糖類、各種エキス、アミノ酸等、オニオン、コンソメ、醤油、塩、香辛料等が挙げられる。
これらの材料の含有量は、本実施形態における効果を損なわない限り、限定されず、香味のバランス等から適宜調整すればよい。
【0060】
本実施形態においては、例えば、水不溶性成分と結晶セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムとに加えて、飲料に含有させる全ての原料を、分散媒へ混合して飲料液を調製する。分散媒の液温としては、熱劣化を抑えつつ、原料の溶解性や分散性を向上させられることから、40℃以上80℃以下であることが好ましい。
【0061】
分散媒への原料の混合は、全ての原料を一度に分散媒へ添加して混合させてもよく、各原料を順番に分散媒へ添加して混合させてもよい。また、原料の一部を、予め少量の分散媒と混合した後、その他の原料と混合させてもよい。
【0062】
全ての原料を分散媒に混合して得られた飲料液は、スリーワンモーター等の撹拌機を用いて原料を均一に分散させる。その後、必要に応じて、圧力式ホモジナイザー(マントンゴーリンリンホモジナイザー)等を用いて、均質化させてもよい。こうして得られた飲料液を、容器に充填する(充填工程)。
【0063】
当該容器としては、飲料用容器であれば特に限定されるものではないが、蓋で密閉可能なものが好ましい。例えば、蓋を有するポリエチレンテレフタレート(Polyethyleneterephthalate:PET)製容器、缶、紙パック、蓋を有するガラス瓶、チルドカップ等が挙げられ、これらに限定されない。
【0064】
調製された飲料液は、長期保存を可能にするために、殺菌することが好ましい。殺菌処理は、飲料液を容器に充填した後、充填された状態で行ってもよく、容器に充填させる前に殺菌処理し、別途殺菌処理した容器に充填させてもよい。殺菌処理としては、レトルト殺菌やUltra High Temperature(UHT)殺菌等の、通常、飲料の殺菌工程で使用されている各種の殺菌方法を採用することができる。レトルト殺菌とは、瓶に充填して静置した状態で、高温の水蒸気により加熱殺菌する処理方法である。また、UHT殺菌とは、加熱した金属管の中を流動させ殺菌し、金属管出口で充填する殺菌処理方法である。
【0065】
[タンパク質]
本実施形態においては、飲料にタンパク質を含有させることも好ましい。本実施形態において、「タンパク質」とは、L-アミノ酸が鎖状に多数連結(重合)してできた高分子化合物を意味する。タンパク質は、構成するアミノ酸の数や種類、又は結合の順序によって種類が異なり、分子量約4000前後のものから、数千万から億単位になるものまで多種類が存在する。本実施形態におけるタンパク質は、過食できるものであればよく、連結したアミノ酸の個数が少ない「ペプチド」、ペプチドが直線状に連なった「ポリペプチド」も包含される。また、本実施形態におけるタンパク質は、動物由来であってもよく、植物由来であってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。中でも、本実施形態におけるタンパク質は、動物由来又は植物由来の乳成分含有原料であることが好ましい。
【0066】
(タンパク質の含有量)
本実施形態で得られる水不溶性成分含有飲料がタンパク質を含有する場合、タンパク質の含有量の下限値は、特別な限定はなく、例えば0.1質量%以上であればよく、例えば1.5質量%以上であればよい。一方、本実施形態で得られる水不溶性成分含有飲料におけるタンパク質の含有量の上限値は、特別な限定はなく、例えば10質量%以下であればよく、例えば8質量%以下であればよい。
【0067】
なお、本実施形態で得られる水不溶性成分含有飲料におけるタンパク質の含有量を測定する方法としては、例えば、配合比から計算する方法、又は公知の方法を用いて定量する方法等が挙げられる。前記公知のタンパク質の定量方法としては、例えば、Bicinchoninic Acid(BCA)法、Bradford法、Lowry法等が挙げられ、これらに限定されない。
【実施例0068】
本発明を、下記の実施例等により説明する。ただし、これらは本発明の範囲を制限するものではない。
また、以降において、特に記載のない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0069】
<水分測定>
以降の実験において、使用した粉末等の固体の水分含有量は、赤外線水分計((株)ケツト科学研究所製、商品名「FD-240」)を用いて、以下の方法で測定した。まず、測定試料である粉体2gを、赤外線水分計に設置し、スタートボタンを押して水分率を測定した(自動測定モード:監視時間60秒間、乾燥温度105℃)。
【0070】
<CMC-Naの水分散液の調製>
CMC-Naの水分散液は、以下の通りにして調製した。まず、各サンプルの水分測定を行い、固形分のみで全体の1質量%となるように粉体をはかり取った。次いで、当該粉体に、30℃のイオン交換水を、全量300gになるように加えた。これを、高せん断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」)を用いて、回転数15000rpmで5分間分散させて、水分散液を調製した。調製された水分散液のうち210gを、200mL容のトールビーカーに移した。
【0071】
<MCCの水分散液及びCMC-Naの水分散液の粘度測定>
MCCの水分散液及びCMC-Naの水分散液の粘度は、B型粘度計(東機産業社製、商品名「TV-10」)を用いて測定した。
まず、水分散液が入ったトールビーカーを、25℃のウォーターバスに1時間静置した。次いで、当該分散液中にローターを設置して、30秒間静置した。その後、当該トールビーカーをB型粘度計に設置して、ローター回転数60rpmで30秒間回転させて、粘度を測定した。
ローターは、粘度に合わせて設置した。粘度が100mPa・s以下の場合にはローターM1、粘度が100~500mPa・sの場合にはローターM2、粘度が500~1000mPa・sの場合にはローターM3、粘度が1000~mPa・sの場合にはローターM4を、それぞれ用いた。
【0072】
<水不溶性成分含有飲料の堆積層高さ/液高さの測定>
水不溶性成分含有飲料の液高さ(mm)に対する堆積層の高さ(mm)の割合(堆積層高さ/液高さ)は、以下の通りにして測定した。
容器(耐熱瓶)に充填した水不溶性成分含有飲料について、液高さ(容器底面から容器内部の飲料の液面までの高さ)と、容器底部に沈殿した水不溶性成分が形成する堆積層の高さ(堆積層高さ)を、それぞれ定規を用いて測定した。各サンプルに対して、耐熱瓶2本ずつ、耐熱瓶底部からの堆積層高さと液高さを測定し、2本の平均値を、当該サンプルの堆積層高さ(mm)と液高さ(mm)とした。求めた堆積層高さ(mm)を液高さ(mm)で除して%表示したものを、当該サンプルの堆積層高さ/液高さとした。
【0073】
<水不溶性成分含有飲料の初期沈降量割合の測定>
初期沈降量割合は、前記飲料の重量(Ws)に対する、前記飲料を静置した後の沈降量(Wsp)の割合[Wsp/Ws]である。容器(耐熱瓶)に充填した水不溶性成分含有飲料の初期沈降量割合は、所定のルールで容器を転倒した際に残存した量から算出した。
【0074】
具体的には、まず、飲料が充填されている飲料容器を、所定時間静置後に、開封し、飲料が充填されている容器本体の重量(Ws0)を測定した。この際、静置状態を乱さないよう注意した。その後、正立状態から当該飲料容器を傾けて容器内の中身を5秒間で流し出し、次いで当該飲料容器を倒立させて30秒間静置した。静置終了後、当該飲料容器を正立状態に戻し、その容器重量(Ws1)を測定した。その後、当該飲料容器を洗浄して乾燥した後の容器重量(Ws2)を測定し、洗浄前と洗浄後の重量差(Ws1-Ws2)を、当該飲料サンプルの初期沈降量(Wsp)とした。得られた初期沈降量を、当該飲料容器に充填されていた飲料の重量(Ws)で除して%表示したものを、初期沈降量割合[(Ws1-Ws2)/(Ws0-Ws2)]とした。
【0075】
<水不溶性成分含有飲料の再分散後の沈降量割合の測定>
再分散後の沈降量割合は、前記飲料の重量(Wm)に対する、前記飲料を再分散した後に静置した後の沈降量(Wmp)の割合[Wmp/Wm]である。容器(耐熱瓶)に充填した水不溶性成分含有飲料の再分散後の沈降量割合は、所定のルールで容器を転倒した際に残存した量から算出した。
【0076】
具体的には、まず、飲料が充填されている飲料容器を、転倒混合作業に供した。転倒混合作業は、具体的には、当該飲料容器を、正立状態から倒立状態として、2秒間静置した。静置後に、当該飲料容器を再度反転させて正立状態としてから再度反転させて倒立状態にした。この倒立状態から正立状態にし、再度倒立状態にする転倒混合作業を1サイクルとした。この転倒混合作業を複数サイクル繰り返したが、サイクルごとに反転方向を変化させた。具体的には、飲料容器を反転させる方向を、1サイクル目は手前方向、2サイクル目は奥方向、3サイクル目は左方向、4サイクル目は右方向とした。この計4サイクルを10秒間で行い、最後に正立状態へと戻した。
【0077】
転倒混合作業終了後は、開封して重量(Wm0)を測定した。その後は、初期沈降量割合の測定と同様に、当該飲料容器を、正立状態から容器を傾け容器内の中身を5秒間で流し出し、次いで当該飲料容器を倒立させて30秒間静置した。静置終了後、当該飲料容器を正立状態に戻し、その容器重量(Wm1)を測定した。その後、容器を洗浄し乾燥した後の容器重量(Wm2)を測定し、洗浄前と洗浄後の重量差(Wm1-Wm2)を、当該飲料サンプルの再分散後の沈降量(Wmp)とした。得られた再分散後の沈降量を、当該飲料容器に充填されていた飲料の重量(Wm)で除して%表示したものを、再分散後の沈降量割合[(Wm1-Wm2)/(Wm0-Wm2)]とした。
【0078】
[実施例1]~[実施例4]、[比較例1]~[比較例8]
ココア飲料に、カルボキシメチルセルロースナトリウムと結晶セルロースの混合物を含有させて、沈殿したココアパウダーによる堆積層の高さと再分散性について調べた。
【0079】
<MCC及びCMC-Na>
以降の実験には、結晶セルロースは、MCC-A(旭化成(株)製、商品名「PH-302」)を用いた。カルボキシメチルセルロースナトリウムは、CMC-Na-A(日本製紙(株)製、商品名「F01MC」)、CMC-Na-B(日本製紙(株)製、商品名「F10MC」)、CMC-Na-C(日本製紙(株)製、商品名「F30MC」)、CMC-Na-D(日本製紙(株)製、商品名「F04HC」)、CMC-Na-E(日本製紙(株)製、商品名「F20HC」)、CMC-Na-F(日本製紙(株)製、商品名「SLD-FM」)の6種類を用いた。
6種類のカルボキシメチルセルロースナトリウムについて、1質量%の水分散液の粘度(mPa・s)を測定した。
【0080】
<MCC/CMC-Na複合体>
MCC/CMC-Na複合体としては、MCC/CMC-Na複合体-A(旭化成(株)製、商品名「RC-591」)を用いた。
【0081】
グラニュー糖(第一糖業社製)、脱脂粉乳(雪印メグミルク社製)、ココアパウダー(バンホーデン社製)、MCC、及びCMC-Naを用いて、表1に示す組成のココア飲料を調製した。なお、MCCとCMC-Naは、水分率を図り、固形分が飲料全体の0.1%となるように調製した。
【0082】
【0083】
原材料を全て、SUS容器内のイオン交換水(80℃に)に入れ、スリーワンモーター(新東科学(株)製、製品名「BL-600」、羽根形状:プロペラ、運転条件:500rpm×10分間)を用いて分散させた。得られた混合物に、分散時に蒸発した量に相当する量のイオン交換水を加水した後、圧力式ホモジナイザー((株)エスエムテー製、製品名「15MR-8TA」、1段目:15MPa、2段目:5MPa)で均質化してココア飲料を調製した。得られたココア飲料を、250mL容の耐熱ねじ口瓶(DWK Life Sciences GmbH製、メジューム瓶、デュラン(登録商標)、赤キャップ)に210gずつ充填して密封した後、高圧蒸気滅菌器((株)平山製作所製、製品名「HV-85II」、条件:液体コース、滅菌温度:121℃、滅菌時間:30分間、排気:微量、空気抜き時間:6分間)を用いて殺菌した。高圧蒸気滅菌器内が95℃以下となったら、耐熱瓶を取り出し、水道水で常温まで冷却した。冷却後、当該耐熱瓶を10回振盪させて、底部にココアパウダーの付着物がない状態とした。その後、製造された耐熱瓶充填ココア飲料は、インキュベーター(設定温度:25℃)内で48時間保存した。
【0084】
各ココア飲料の組成や原材料(MCC及びCMC-Na)の物性等を表2~4に示す。表2中、「MCC,CMC合計添加率[%]」は、飲料に含有させた結晶セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムの合計含有量の飲料全体に対する割合(%)を表し、「CMC/[MCC+CMC][%]」は、飲料に含有させた結晶セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムの合計量に対するカルボキシメチルセルロースナトリウムの量の割合(%)を表し、「CMC-Na 1%粘度[mPa・s]」は、飲料に含有させたカルボキシメチルセルロースナトリウムの1.0質量%水分散液の30℃における粘度(mPa・s)を表す。
【0085】
表中、「粘度[mPa・s]」は、ココア飲料の粘度を示す。ココア飲料の粘度は、以下の通りにして測定した。まず、製造したココア飲料を、インキュベーター(設定温度:25℃)内で48時間保存後に、底部の沈降物の付着が取れるまで振盪させた。その後、当該飲料を、B型粘度計(東機産業社製、商品名「TV-10」)の低粘度アダプタに20mL注ぎ込み、ローター(L/Adp)をセットして30秒間静置後に、ローター回転数60rpmで30秒間回転させて、粘度を測定した。
【0086】
製造された耐熱瓶詰ココア飲料について、初期沈降量割合(%)、再分散後の沈降量割合(%)、堆積層高さ(mm)、及び液高さ(mm)を調べた。測定結果を表2~4に示す。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
実施例1~実施例4のココア飲料はいずれも、初期沈降量割合が1.0%以上であるにもかかわらず、堆積層高さ/液高さが15.0%以下とであり、十分に低い。加えて、再分散後の沈降量割合も1.0%以下と小さく、再分散性も良好であることが確認された。これらの結果から、使用した結晶セルロースの種類にかかわらず、原料としたカルボキシメチルセルロースナトリウムが、1.0質量%水分散液の30℃における粘度が10mPa・s以上130mPa・s以下である場合には、CMC/[MCC+CMC]を1.0質量%以上5.0質量%以下とし、当該粘度が130mPa・s超150mPa・s以下である場合には、CMC/[MCC+CMC]を1.0質量%以上3.0質量%以下とすることで、再分散性を過度に損なうことなく、堆積層を十分に低くできることがわかった。
【0091】
これに対して、比較例1~比較例3では、結晶セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムの合計量に対するカルボキシメチルセルロースナトリウムの量の割合(%)及びカルボキシメチルセルロースナトリウムが、1.0質量%水分散液の30℃における粘度が適切な関係でないため、再分散後の沈降量割合がいずれも高く、再分散性が低かった。また、比較例4と比較例5に示すように、カルボキシメチルセルロースナトリウムのみを含有している場合には、再分散後の沈降量割合が高く、再分散性が低かった。また、比較例6と比較例8に示すように、カルボキシメチルセルロースナトリウムを含有していない場合には、再分散性は良好であったが、堆積層高さ/液高さが高かった。また、カルボキシメチルセルロースナトリウムと結晶セルロースを複合体として含有させた比較例7では、初期沈降量割合が非常に小さく、堆積層高さ/液高さも高かった。
本実施形態の水不溶性成分含有飲料及びその製造方法によれば、飲料容器の底部に沈殿した水不溶性成分が形成する堆積層が薄く、外観を過度に損ねることがない上に、飲料容器を振ることで沈殿した水不溶性成分を容易に再分散させることができる水不溶性成分含有飲料を製造することができる。このため、本実施形態の水不溶性成分含有飲料及びその製造方法は、ココアや茶葉などの水不溶性成分を含有した飲料の製造に好適に用いられる。