(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109419
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B64G 1/64 20060101AFI20240806BHJP
B64G 1/24 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B64G1/64 600
B64G1/24 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014202
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】武市 昇
(72)【発明者】
【氏名】古本 政博
(57)【要約】
【課題】より効率的にスペースデブリを除去する。
【解決手段】スペースデブリ及び除去衛星の軌道情報に基づいて、前記スペースデブリと衝突するために前記除去衛星が要する軌道制御量である所要軌道制御量を算出する算出部と、前記所要軌道制御量が所定の値以下であるとき、前記衝突する時間までに前記除去衛星に必要な軌道制御量を満たすように前記除去衛星を制御する除去衛星制御部と、を備える制御装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペースデブリ及び除去衛星の軌道情報に基づいて、前記スペースデブリと衝突するために前記除去衛星が要する軌道制御量である所要軌道制御量を算出する算出部と、
前記所要軌道制御量が所定の値以下であるとき、前記衝突する時間までに前記除去衛星に必要な軌道制御量を満たすように前記除去衛星を制御する除去衛星制御部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記スペースデブリと前記除去衛星が衝突するときの相対速度を算出し、
前記除去衛星制御部は、前記相対速度が所定の範囲の値であるとき、前記衝突する時間までに前記除去衛星に必要な軌道制御量を満たすように前記除去衛星を制御する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記スペースデブリと前記除去衛星が衝突した後の前記スペースデブリの近地点高度又は軌道寿命を算出し、
前記除去衛星制御部は、前記近地点高度が所定の値以下であるか又は前記軌道寿命が所定の値以下であるとき、前記衝突する時間までに前記除去衛星に必要な軌道制御量を満たすように前記除去衛星を制御する、
請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記除去衛星の軌道傾斜角は、特定の軌道を中心に分布するデブリに対して最も除去機会の多くなるときの値である、
請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項5】
スペースデブリ及び除去衛星の軌道情報に基づいて、前記スペースデブリと衝突するために前記除去衛星が要する軌道制御量である所要軌道制御量を算出する算出ステップと、
前記所要軌道制御量が所定の値以下であるとき、前記衝突する時間までに前記除去衛星に必要な軌道制御量を満たすように前記除去衛星を制御する除去衛星制御ステップと、
を有する制御方法。
【請求項6】
コンピュータに請求項5に記載の制御方法を行わせるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙開発の進展に伴って使用済みロケット、故障した人工衛星、耐用年数切れの人工衛星、スペースデブリ同士の衝突等で発生した微細デブリ等のスペースデブリの総数は増加している。スペースデブリは運用中の人工衛星にとって脅威となっている。
【0003】
スペースデブリを除去する方法がいくつか提案されている。例えば、大型のスペースデブリに接近し捕獲することで、スペースデブリを減速させ再突入させる方法がある。この方法において、ロボットアームによる捕獲、ネットによる捕獲、エレクトロダイナミックテザーによる減速、又は小型推進機による減速が行われる。
【0004】
例えば、小型のスペースデブリを連続して除去する方法も提案されている。例えば、大型構造物を設置し、衝突したスペースデブリを減速させることで除去する方法(特許文献1)や、長大なケーブルにより板状の構造物を吊り下げ、スペースデブリに衝突させることで除去する方法(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5755836号公報
【特許文献2】特開2022-32802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の方法においては、除去効率などで問題があった。
本発明の目的は、上述した課題を解決する制御装置、制御方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、スペースデブリ及び除去衛星の軌道情報に基づいて、前記スペースデブリと衝突するために前記除去衛星が要する軌道制御量である所要軌道制御量を算出する算出部と、前記所要軌道制御量が所定の値以下であるとき、前記衝突する時間までに前記除去衛星に必要な軌道制御量を満たすように前記除去衛星を制御する除去衛星制御部と、を備える制御装置である。
【0008】
本発明の一態様は、スペースデブリ及び除去衛星の軌道情報に基づいて、前記スペースデブリと衝突するために前記除去衛星が要する軌道制御量である所要軌道制御量を算出する算出ステップと、前記所要軌道制御量が所定の値以下であるとき、前記衝突する時間までに前記除去衛星に必要な軌道制御量を満たすように前記除去衛星を制御する除去衛星制御ステップと、を有する制御方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より効率的にスペースデブリを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係るスペースデブリ除去システムの構成を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る制御装置の構成の一例を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る制御装置2の動作を示すフローチャートである。
【
図5】第2の実施形態に係るスペースデブリ除去システム1の構成の一例を示す図である。
【
図7】遠点高度が2000km以下の地球低軌道(LEO)の軌道傾斜角とその軌道傾斜角を有する物体の数を示す図である。
【
図8】LEOの近地点高度とその近地点高度を有する物体の数を示す図である。
【
図9A】除去衛星3を高度850kmに配置した場合の、軌道傾斜角による除去可能物体の個数の変化を示す図である。
【
図9B】
図9Aにおいて軌道傾斜角が80度から90度を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、第1の実施形態に係るスペースデブリ除去システム1の構成を示す図である。スペースデブリ除去システム1は、制御装置2及び除去衛星3を備える。制御装置2は、除去衛星3を制御し、除去衛星3にスペースデブリ4を除去させる。除去衛星3は、制御装置2による制御に基づき、スペースデブリ4と衝突する。除去衛星3とスペースデブリ4とが衝突することで、スペースデブリ4は減速し、スペースデブリ4はより低い高度の軌道を周回する。これにより、スペースデブリ4を地球に再突入させることでスペースデブリ4を除去する。以下簡略化のため、除去衛星3を制御して1つのスペースデブリ4を除去することに限定して説明を行うが、制御装置2は、除去衛星3が任意の複数のスペースデブリ4を除去するために、計算や制御を行う。
【0012】
制御装置2は、例えば地球上に設置され、除去衛星3と通信を行うことで除去衛星3を制御する。制御装置2は、宇宙空間を飛ぶ人工衛星であって、除去衛星3と通信を行うことで除去衛星3を制御してもよい。
除去衛星3は、スペースデブリ4に衝突することでスペースデブリ4を除去するため、板状であることが望ましい。また、除去対象であるスペースデブリ4よりも十分大きい質量であることが望ましい。
【0013】
スペースデブリ4は地球の周りの軌道上に存在する。除去衛星3もスペースデブリ4同様、地球の周りの軌道上に位置する。除去衛星3は、スペースデブリが多く存在する軌道(例えば、地球低軌道)上に位置するのが望ましい。
【0014】
図2は、第1の実施形態に係る制御装置2の構成の一例を示す図である。制御装置2は、受信部21、算出部23、判定部24及び除去衛星制御部25を備える。
【0015】
受信部21は、除去衛星3及びスペースデブリ4に関する情報を受信する。除去衛星3に関する情報は、除去衛星3の軌道情報を含む。受信部21は、除去衛星3に関する情報を除去衛星3から受信する。受信部21は、除去衛星3に関する情報を除去衛星3を観測する観測装置から受信してもよい。スペースデブリ4に関する情報は、スペースデブリ4の軌道情報を含む。受信部21は、スペースデブリ4に関する情報をスペースデブリを観測する観測装置から受信する。スペースデブリを観測する観測装置の一例は地球上に設置される。
【0016】
軌道情報の一例は軌道要素である。軌道要素は、軌道長半径a及び離心率eを含む。軌道長半径a及び離心率eにより軌道の大きさ及び形状が決定される。軌道要素は、軌道傾斜角i及び昇交点赤経Ωを含む。軌道傾斜角i及び昇交点赤経Ωにより軌道が存在する平面が決定される。軌道要素は、緯度引数uを含む。緯度引数uは、近地点引数ωと真近点離角fの和である。
図3は、軌道要素を説明する図である。
軌道情報は角運動量ベクトルhを含んでもよい。軌道情報は近地点通過時刻t
pを含んでもよい。軌道情報は離心近点角Eを含んでもよい。
【0017】
算出部23は、軌道制御量算出部231、相対速度算出部232、近地点高度算出部233及び所要軌道制御量算出部234を備える。
軌道制御量算出部231は、除去衛星3の軌道制御を開始する時刻ti、除去衛星3がスペースデブリ4に衝突する時刻tc及び時刻tiから時刻tcまでの各時刻において除去衛星3に必要な軌道制御量ΔJを算出する。
相対速度算出部232は、除去衛星3がスペースデブリ4に衝突するときの、除去衛星3とスペースデブリ4との間の相対速度Δvを算出する。相対速度算出部232は、相対速度Δvに代えて、相対速度Δvの板面に垂直な成分Δvpを算出してもよい。なお、相対速度Δvおよび板面に垂直な成分Δvpは、いずれもスペースデブリと除去衛星が衝突するときの相対速度の一例である。
近地点高度算出部233は、除去衛星3がスペースデブリ4に衝突した後の、スペースデブリ4の近地点高度Hを算出する。近地点高度算出部233は、除去衛星3がスペースデブリ4に衝突した後の、スペースデブリ4の軌道寿命を算出してもよい。
所要軌道制御量算出部234は、スペースデブリ4に衝突するまでに除去衛星3に必要な軌道制御量ΔJの合計である所要軌道制御量Jを算出する。
【0018】
算出部23は、異なる軌道制御開始時刻ti、衝突時刻tc及び軌道制御量ΔJを算出することで、算出する所要軌道制御量Jを最適化してもよい。最適化手法は特に限定されない。例えば、算出部23は最急降下法を用いて、所要軌道制御量Jが最小となるときの軌道制御開始時刻ti、衝突時刻tc及び軌道制御量ΔJを算出する。算出部23は、最適化手法により、所定の回数以上所要軌道制御量Jの計算を行った又は算出する所要軌道制御量Jが収束するなどの条件を満たしたときに、最も小さい所要軌道制御量Jを最適値とする。
【0019】
判定部24は、相対速度判定部242、近地点高度判定部243及び所要軌道制御量判定部244を備える。
相対速度判定部242は、相対速度Δvが所定の範囲の値であるか否かを判定する。相対速度判定部242は、例えば相対速度Δvが所定の上限値以下であり、かつ下限値以上であるか否かを判定する。相対速度Δvが上限値以上であるとき、例えば除去衛星3の板面にスペースデブリ4が衝突したときに除去衛星3が破壊される。相対速度Δvが下限値以下であるとき、例えば除去衛星3の板面にスペースデブリ4が衝突した後にスペースデブリ4の近地点高度が十分低くならない。相対速度判定部242は、相対速度Δvの板面に垂直な成分Δvpが所定の値以下であるか否かを判定してもよい。
近地点高度判定部243は、近地点高度Hが所定の値以下であるか否かを判定する。所定の値とは、スペースデブリが自然浄化される高度であり、例えば300kmである。近地点高度算出部233は、除去衛星3がスペースデブリ4に衝突した後の、スペースデブリ4の軌道寿命を算出するとき、近地点高度判定部243は、軌道寿命が所定の値以下であるか否かを判定してもよい。
所要軌道制御量判定部244は、所要軌道制御量Jが所定の値以下であるか否かを判定する。所定の値は、予め設定される値である。
【0020】
除去衛星制御部25は、判定部24による判定に基づいて算出された軌道制御量ΔJを満たすように除去衛星3を制御する。除去衛星制御部25は、例えば制御信号を除去衛星3に送信することで除去衛星3を制御する。除去衛星制御部25は除去衛星3の板面がスペースデブリ4の速度ベクトルvdと垂直になるように、除去衛星3の姿勢制御を行ってもよい。例えば制御信号は算出した軌道に移行するための姿勢制御及び軌道制御の指示を含み、除去衛星3は備えられた姿勢制御装置やスラスタなどの推進機構により除去衛星3の姿勢や軌道を制御する。
【0021】
図4は、第1の実施形態に係る制御装置2の動作を示すフローチャートである。初めに受信部21がスペースデブリ4の軌道情報及び除去衛星3の軌道情報を受信する(ステップS101)。その後、軌道制御量算出部231が、受信部21により受信されたデータに基づき、除去衛星3の軌道制御を開始する時刻t
i、除去衛星3がスペースデブリ4に衝突する時刻t
c及び時刻t
iから時刻t
cまでの各時刻において除去衛星3に必要な軌道制御量ΔJを算出する(ステップS102)。最初に軌道制御量ΔJの算出に用いる軌道制御開始時刻t
i及び衝突時刻t
cは例えばランダムで設定される。
【0022】
その後、相対速度算出部232は、除去衛星3がスペースデブリ4に衝突するときの、除去衛星3とスペースデブリ4との間の相対速度Δvを算出する。また、近地点高度算出部233は、除去衛星3がスペースデブリ4に衝突した後の、スペースデブリ4の近地点高度Hを算出する。また、所要軌道制御量算出部234は、スペースデブリ4に衝突するまでに除去衛星3に必要な軌道制御量ΔJの合計である所要軌道制御量Jを算出する(ステップS103)。
【0023】
相対速度判定部242が、相対速度Δvが所定の範囲にあるか否かを判定し、近地点高度判定部243が、近地点高度Hが所定の範囲にあるか否かを判定し、所要軌道制御量判定部244が、所要軌道制御量Jの最適値が算出されたか否かを判定する(ステップS104)。相対速度Δvが所定の範囲にない、近地点高度Hが所定の範囲にない、又は所要軌道制御量Jの最適値が算出されていない場合(ステップS104:NO)、ステップS102に戻り、軌道制御量算出部231は新たに衝突時刻tcを設定し、時刻tcにおいてデブリに衝突するまでの時刻tiにおける除去衛星の軌道制御量ΔJを算出する。このとき、衝突時刻tcは最適化手法により新たに設定される値である。
【0024】
相対速度Δvが所定の範囲にある、且つ近地点高度Hが所定の範囲にある、且つ所要軌道制御量Jの最適値が算出されている場合(ステップS104:YES)、所要軌道制御量判定部244が、所要軌道制御量Jが所定の範囲にあるか否かを判定する(ステップS105)。所要軌道制御量Jが所定の範囲にあるとき(ステップS105:YES)、除去衛星制御部25は、除去衛星3の姿勢制御を行い、算出された軌道制御量ΔJを満たすように軌道制御を行う(ステップS106)。所要軌道制御量Jが所定の範囲にないとき(ステップS105:NO)、ステップS106の動作は行わない。その後、次のスペースデブリがある場合には(ステップS107:YES)、ステップS101の動作を繰り返し、次のスペースデブリがない場合には(ステップS107:NO)、動作を終了する。
【0025】
なお、制御装置2は、除去衛星3の軌道制御を行いスペースデブリ4と衝突させた後に、除去衛星3を元の軌道に戻す制御を行ってもよいし、行わなくてもよい。制御装置2は、ステップS101の動作を繰り返すとき、除去衛星3を元の軌道に戻す制御を行う場合は除去衛星3の元の軌道要素に基づいて計算を行い、除去衛星3を元の軌道に戻す制御を行わない場合は除去衛星の新たな軌道要素に基づいて計算を行う。
【0026】
第1の実施形態に係る制御装置2は、スペースデブリ4と衝突するために除去衛星3に必要な軌道制御量ΔJを算出し、軌道制御量ΔJに基づく所要軌道制御量Jが所定の値以下であるとき、軌道制御量ΔJを満たすように除去衛星3を制御する。これにより、制御装置2は、少ないエネルギーで除去衛星3をスペースデブリ4に衝突させ除去することで、1つの除去衛星3でより短期間でより多くのスペースデブリ4を除去することができる。また、制御装置2は、除去衛星3の軌道を制御し、スペースデブリに意図的に衝突させることでより高い頻度でスペースデブリ4を除去することができる。第1の実施形態において、除去衛星3の昇交点赤経の変化率はスペースデブリ4の昇交点赤経の変化率と異なるため、意図的に除去衛星3の軌道制御をしない場合であっても、スペースデブリ4と除去衛星3は接近し、除去衛星3がスペースデブリ4に衝突し除去する機会がある。このことも、高い頻度で少ないエネルギーでスペースデブリ4に除去することのできる要因となっている。
【0027】
また、第1の実施形態における除去衛星3の昇交点赤経の変化率の差は、特許文献2に開示されている除去システムにおける昇交点赤経の変化率の差よりも大きい。そのため、先行技術と比較して第1の実施形態に係るスペースデブリ除去システム1は、より効率的にスペースデブリを除去することができる。
【0028】
また、第1の実施形態に係る制御装置2は、スペースデブリ4と除去衛星3が衝突するときのスペースデブリ4と除去衛星3の相対速度Δvを算出し、相対速度が所定の範囲の値であるときに除去衛星3が軌道制御量ΔJを満たすように制御する。これにより、制御装置2は相対速度が大きく除去衛星3が大きく破損することや、相対速度が小さくスペースデブリ4が除去されないことを防ぐことができる。また、除去衛星3の板面にスペースデブリ4が衝突したときに除去衛星3が破壊されるときの相対速度や、除去衛星3の板面にスペースデブリ4が衝突した後のスペースデブリ4の速度の算出には、相対速度Δvの板面に垂直な成分Δvpが用いられることから、制御装置2は、相対速度Δvの板面に垂直な成分Δvpを算出する方が、より簡単に制御装置2は相対速度が大きく除去衛星3が大きく破損することや、相対速度が小さくスペースデブリ4が除去されないことを防ぐことができる。
【0029】
また、第1の実施形態に係る制御装置2は、除去衛星3と衝突した後のスペースデブリ4の近地点高度Hを算出し、近地点高度が所定の値以下であるとき、算出された除去衛星3の軌道要素を満たすように除去衛星3を制御する。これにより、制御装置2は、除去衛星3と衝突することでより確実に除去することができるスペースデブリ4に除去衛星3を衝突させることができる。
【0030】
以下、制御装置2の動作について、数式を用いて詳細に説明する。軌道制御量算出部231が軌道制御開始時刻ti、衝突時刻tc及び時刻tiから時刻tcまでの各時刻において除去衛星3に必要な軌道制御量ΔJを算出する。軌道制御量算出部231は、スペースデブリ4の軌道要素及び除去衛星3の軌道要素に基づいて、除去衛星3とスペースデブリ4とが衝突するときの除去衛星3の位置及び速度を算出する。
【0031】
まず、除去衛星の軌道制御を瞬間的なインパルス推力で行うと近似(インパルス近似)して説明する。
軌道制御量算出部231は、衝突時刻t
cにおけるスペースデブリ4の位置および速度を以下の式を用いて算出する。
【数1】
【0032】
式(1A)、式(1C)及び式(1D)において、a、e、fはスペースデブリ4の軌道長半径、離心率、衝突時刻t
cにおける真近点離角である。また、μは地心重力定数である。
式(1A)及び式(1B)におけるR
ijは、式(2)に示す行列RのΩ、u、iにスペースデブリ4の衝突時刻t
cにおける昇交点赤経、緯度引数、軌道傾斜角を代入したときのi行j列成分である。
【数2】
【0033】
軌道制御量算出部231は、除去衛星3とスペースデブリ4とが衝突時刻t
cにおいて衝突するときの除去衛星3の軌道要素を満たすために軌道制御開始時刻t
iにおいて必要な軌道制御量ΔJを算出する。
軌道制御量算出部231は、軌道制御開始時刻t
iにおける除去衛星の位置および速度を以下の式を用いて算出する。
【数3】
【0034】
式(3A)、式(3C)及び式(3D)において、a、e、fは除去衛星の軌道長半径、離心率、軌道制御開始時刻t
iにおける真近点離角である。
式(3A)及び式(3B)におけるR
ijは、式(2)に示す行列RのΩ、u、iに軌道制御前の除去衛星3の昇交点赤経、緯度引数、軌道傾斜角を代入したときのi行j列成分である。
ここで軌道制御開始時刻t
iにおいてΔvの軌道制御を与えたとする。このとき、軌道制御直後の除去衛星3の位置r’
sと速度v’
sは式(3A)及び式(3B)を用いて、式(4A)及び式(4B)で表される。
【数4】
【0035】
軌道制御量算出部231は、軌道制御後の除去衛星3の軌道要素を式(5A)から式(5J)により算出する。
【数5】
【0036】
hは軌道制御後の除去衛星3の角運動量ベクトルである。t
pは軌道制御後の除去衛星3の近地点通過時刻である。x、y、zはr’
sの各成分、Eは離心近点角、nは平均運動である。
以上の式より、軌道制御量算出部231は、衝突時刻t
cにおける除去衛星3の位置r’’
sおよび速度v’’
sを以下の式を用いて算出する。
【数6】
【0037】
式(6C)、式(6E)及び式(6F)において、a、e、fは除去衛星の軌道長半径、離心率、衝突時刻tcにおける真近点離角である。
式(6C)及び式(6D)における式(2)に示す行列RのΩ、u、iに、軌道制御後の除去衛星3の昇交点赤経、緯度引数、軌道傾斜角を代入したときのi行j列成分である。
軌道制御量算出部231は、衝突時刻tcにおける除去衛星の位置r''sがスペースデブリ4の位置rdと一致するよう、ニュートン法などの演算によりΔvを求める。
これにより、軌道制御量算出部231は、例えば||Δv||や|Δvx|+|Δvy|+|Δvz|として軌道制御量Jを算出する。
【0038】
次に、除去衛星3の軌道制御を連続的な推力で行う場合について説明する。
軌道制御量算出部231は、除去衛星3の運動方程式(式(7))を軌道制御時刻t
iにおける除去衛星の位置r
sおよび速度v
s(r
sの時間微分)を初期値として、衝突時刻t
cまでの解を求める。
【数7】
【0039】
その後、軌道制御量算出部231は、式(8A)又は式(8B)により軌道制御量Jを算出する。
【数8】
【0040】
軌道制御量算出部231は、衝突時刻tcにおける除去衛星の位置r''sがスペースデブリ4の位置rdと一致し、かつこの時のJを最小化するような推力T(t)を、逐次二次計画法などの一般的な最適化手法により算出することができる。
以上の方法が、軌道制御量算出部231が除去衛星3に必要な軌道制御量Jを算出する方法の一例である。
【0041】
相対速度算出部232は、衝突後のスペースデブリ4の速度Δvは式(9A)で算出する。
ただし衝突時には除去衛星の面がスペースデブリ4の速度ベクトルに対して垂直になるように制御されているものと仮定している。
相対速度算出部232は、衝突時刻t
cにおける除去衛星3の速度v''
sとスペースデブリ4の速度v
dから、衝突時のスペースデブリ4の板面に対する速度Δv
pは式(9B)で算出する。
【数9】
【0042】
相対速度判定部242は、この衝突速度の大きさ||Δvp||が一定値以下であれば除去衛星3はほとんど破壊されないものと判定する。
【0043】
次に近地点高度算出部233は、衝突後のスペースデブリ4の近地点高度を算出する。ただし、ここでは最悪ケースを想定し反発係数を0としている。
衝突後のスペースデブリ4の速度v'
dは式(10)により得られる。
【数10】
【0044】
式(10)と衝突時のスペースデブリ4の位置r
dより、近地点高度算出部233は、衝突後のスペースデブリ4の近地点高度r
d,perigeeを式(11A)から式(11D)により算出する。
【数11】
【0045】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態に係るスペースデブリ除去システム1の構成の一例を示す図である。第2の実施形態に係るスペースデブリ除去システム1は、第1の実施形態に係るスペースデブリ除去システム1に加え、軌道傾斜角算出装置5を備える。
軌道傾斜角算出装置5は、効率よくスペースデブリを除去することができる除去衛星3の軌道傾斜角i
sを算出する。
【0046】
以下、軌道傾斜角算出装置5による算出例を示す。以下に示す算出方法においては単純化のため、スペースデブリ4の軌道を軌道長半径a、軌道傾斜角i
dの円軌道とする。除去衛星3の速度ベクトルv
sとスペースデブリ4の速度ベクトルv
dとがなす角度をθとする。
図6は、2つのベクトルを示す図である。v
sとv
dの大きさは、スペースデブリ4と除去衛星3とで等しい軌道半径aと地球の重力定数μにより式(12)で表される。
【数12】
【0047】
相対速度Δvの板面に垂直な成分Δv
pと角度θとの関係は式(13)により表される。
【数13】
【0048】
式(13)を変形し、Δv
pの最大値及び最小値をΔv
pmax及びΔv
pminとすると、θの最大値θ
max及び最小値θ
minは、式(14A)及び式(14B)で表される。
【数14】
【0049】
Δv
pmaxは前述の通り除去衛星3の板面にスペースデブリ4が衝突したときに破壊される値であり、例えば秒速0.4kmである。Δv
pminは、前述の通り除去衛星3の板面にスペースデブリ4が衝突した後にスペースデブリ4の軌道の近地点を低下させ軌道寿命を短縮させるのに必要な減速量である。Δv
pminは、式(15)で表される。
【数15】
【0050】
ここでHは衝突後のスペースデブリ4の近地点高度であり、例えば大気抵抗による自然浄化が期待できる300kmである。REarthは地球の半径である。式(14A)及び式(14B)によりθmax及びθminが算出される。
【0051】
また、スペースデブリ4の軌道と除去衛星3の軌道とが円軌道である場合、衝突角は角運動量ベクトルのなす角に等しい。そのため衝突角θとスペースデブリ4の角運動量ベクトルh
dと除去衛星3の角運動量ベクトルh
sとは、式(16)の関係式で表される。
【数16】
【0052】
また、除去衛星3の衝突時の位置ベクトルr
sとスペースデブリ4の角運動量ベクトルh
dは直交する。そのため式(17)が成立する。
【数17】
【0053】
式(16)及び式(17)より、式(18)が導出される。
【数18】
【0054】
式(18)のθにθmax及びθminを代入することで、スペースデブリ4の緯度引数udの上限値及び下限値が算出される。軌道傾斜角算出装置5は、式(18)においてisを変数としてudの上限値と下限値との差が最大となるisを算出する。udの上限値と下限値との差が最大であるとき、udの取り得る値が多いことから、除去衛星3が最もスペースデブリ4を除去することができる機会が多い。軌道傾斜角算出装置5は、以上の方法により最適な除去衛星3の軌道傾斜角isを算出する。
【0055】
軌道傾斜角算出装置5は、式(14B)および(15)からθminを算出し、is=id-θminあるいはis=id+θminとしてisを算出してもよい。これにより除去衛星3がスペースデブリ4を除去することができる機会をより多くすることができる。軌道傾斜角算出装置5は、この方法により最適な除去衛星3の軌道傾斜角isを算出してもよい。
【0056】
除去衛星3の軌道傾斜角isが軌道傾斜角算出装置5により算出された軌道傾斜角になるように、除去衛星3を軌道に投入する。
【0057】
第2の実施形態において、除去衛星3の軌道傾斜角isは、軌道傾斜角算出装置5により算出される最適な除去衛星の軌道傾斜角になるように設定される。これにより、除去衛星3が除去可能なスペースデブリ4の緯度引数udの値を広範にすることができ、より多くのスペースデブリ4を除去することができる。
【0058】
除去衛星3の軌道半径asは、例えばターゲットとするスペースデブリ4の半径に近い値になるように設定される。また、除去衛星3が複数のスペースデブリを除去対象とする場合、多くのスペースデブリの存在する軌道半径に近くなるように設定される。例えば高度700km~900kmには、自然浄化されないスペースデブリが多く存在するため、軌道半径asは700km~900kmの範囲内の値になるように設定される。
【0059】
除去衛星3が複数のスペースデブリ4を除去対象とする場合、算出部23は、近点が除去衛星3の軌道半径以上である又は遠点が除去衛星3の軌道半径以下であるスペースデブリ4を除去対象から除外し、軌道制御量ΔJなどを算出しなくてもよい。スペースデブリ4の近点が除去衛星3の軌道半径以上である又はスペースデブリ4の遠点が除去衛星3の軌道半径以下であるとき、スペースデブリ4の軌道と除去衛星3の軌道が交わることがないからである。スペースデブリ4の近点が除去衛星3の軌道半径以上である又はスペースデブリ4の遠点が除去衛星3の軌道半径以下であることは、式(19)により表される。
【数19】
【0060】
(計算結果)
以下、本実施形態に係る軌道傾斜角算出装置5を用いて行った計算結果を示す。
図7は、遠点高度が2000km以下の地球低軌道(LEO)の軌道傾斜角とその軌道傾斜角を有する物体の数を示す図である。物体は、軌道傾斜角が96度~99度である太陽同期軌道に集中していることが示されている。
【0061】
図8は、LEOの近地点高度とその近地点高度を有する物体の数を示す図である。高度500km付近の近地点高度を有するStarlink(登録商標)の人工衛星を除くと高度700km~900kmの近地点高度を有する物体が多い。
【0062】
図9Aは、除去衛星3を高度850kmに配置した場合の、軌道傾斜角による除去可能物体の個数の変化を示す図である。
図9Bは、
図9Aにおいて軌道傾斜角が80度から90度を拡大した図である。軌道傾斜角を0.01度ずつ変化させ、除去可能物体の個数を算出した。高度850kmにおいて最も物体が多い太陽同期軌道の傾斜角である98.8度をi
dとすると、除去可能物体の個数が最大となるのは、軌道傾斜角i
sが87.11度となるときであった。同じ条件で軌道傾斜角算出装置5により算出したとき、最適な軌道傾斜角は87.3度と算出された。そのため、軌道傾斜角算出装置5は、最適な軌道傾斜角を良い精度で算出できたことがわかる。
【0063】
ここで、本実施形態における除去衛星の昇交点赤経の変化率と特許文献2における除去衛星の昇交点赤経の変化率とを比較する。
昇交点赤経の変化率Ω
*は、式(20)により算出される。
【数20】
【0064】
式(20)において、r
Eは地球赤道半径、pは半直弦であり、a(1-e
2)の値をとる。aは軌道長半径、eは離心率、iは軌道傾斜角、nは平均運動である。J
2=0.00108262668、μ=3.986×10
14 [m
3/s
2]、r
E=6378137[m]とそれぞれの値を代入し、nはe=0として式(21)を代入する。
【数21】
【0065】
スペースデブリの高度を850km、つまりad=6378137+850000[m]とし、軌道傾斜角id=98.8[deg]とすると、スペースデブリの昇交点赤経の変化率は0.986[deg/day]と算出される。
特許文献2における除去衛星の昇交点赤経の変化率を算出する。ここで除去衛星の重心の軌道高度がデブリと異なり、昇交点赤経の変化率が異なることを反映して、軌道傾斜角is=98.8[deg]、高度as=6378137+1000000[m]とする。このとき、除去衛星の昇交点赤経の変化率は0.917[deg/day]と算出され、スペースデブリと除去衛星の昇交点赤経の変化率の差は0.069となる。そのため、除去衛星が全てのデブリと衝突機会を得るためには360/0.069=5265.5[day]を要する。
【0066】
これに対して、本実施形態における除去衛星の昇交点赤経の変化率を算出する。ここで除去衛星の軌道傾斜角がスペースデブリと異なることを反映して、軌道傾斜角isを上記算出した除去可能物体の個数が最大となる値である87.11[deg]とし、高度as=6378137+850000[m]とした。このとき、除去衛星の昇交点赤経の変化率は-0.325[deg/day]と算出され、スペースデブリと除去衛星の昇交点赤経の変化率の差は1.311となる。そのため、除去衛星が全てのデブリと衝突機会を得るためには360/1.311=274.6[day]を要する。以上の計算より、特許文献2と比較して本実施形態の方が短期間で全てのデブリに対する除去機会を得ることができることが分かる。
【0067】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態及びその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
なお、前述の制御装置2、除去衛星3、軌道傾斜角算出装置5は内部にコンピュータを有している。そして、前述した各装置の各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどをいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 スペースデブリ除去システム、2 制御装置、3 除去衛星、4 スペースデブリ、5 軌道傾斜角算出装置、21 受信部、23 算出部、24 判定部、25 除去衛星制御部