(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109435
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】磁気ディスク基板用研磨剤組成物、及び磁気ディスク基板の研磨方法
(51)【国際特許分類】
G11B 5/84 20060101AFI20240806BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240806BHJP
B24B 1/00 20060101ALI20240806BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
G11B5/84 A
B24B37/00 H
B24B1/00 D
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014230
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】安藤 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】草瀬 遼
【テーマコード(参考)】
3C049
3C158
5D112
【Fターム(参考)】
3C049AA07
3C049CA01
3C049CB01
3C049CB03
3C049CB10
3C158AA07
3C158CA01
3C158CB01
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3C158CB10
3C158DA02
3C158DA18
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3C158EB01
3C158ED02
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3C158ED12
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3C158ED26
5D112AA02
5D112AA24
5D112BA06
5D112GA09
5D112GA14
(57)【要約】
【課題】中間アルミナを含有し、研磨速度を向上させるとともに、研磨後の磁気ディスク基板等の基板表面の欠陥や傷を低減させることの可能な磁気ディスク基板用研磨剤組成物の提供を課題とするものである。
【解決手段】磁気ディスク基板用研磨剤組成物は、アルミナ粒子と、水とを含み、アルミナ粒子は、α-アルミナ及び中間アルミナを有し、α-アルミナの平均粒子径が0.2~0.8μmの範囲であり、中間アルミナの平均粒子径が0.02~0.4μmの範囲であり、α-アルミナの平均粒子径に対する中間アルミナの平均粒子径の比が0.1~0.6の範囲であり、α-アルミナと中間アルミナとの質量割合が90:10~50:50の範囲である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ粒子と、
水と
を含み、
前記アルミナ粒子は、
α-アルミナ及び中間アルミナを含有し、
前記α-アルミナの平均粒子径が0.2~0.8μmの範囲であり、
前記中間アルミナの平均粒子径が0.02~0.4μmの範囲であり、
前記α-アルミナの平均粒子径に対する前記中間アルミナの平均粒子径の比が0.1~0.6の範囲であり、
前記α-アルミナと前記中間アルミナとの質量割合が90:10~50:50の範囲である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項2】
前記α-アルミナの平均粒子径が0.38~0.5μmの範囲であり、
前記中間アルミナの平均粒子径が0.07~0.2μmの範囲であり、
前記α-アルミナの平均粒子径に対する前記中間アルミナの平均粒子径の比が0.1~0.5の範囲である請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項3】
前記アルミナ粒子は、
粉砕助剤を用いて粉砕処理されたものである請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項4】
前記粉砕助剤は、
リン含有無機化合物またはリン含有有機化合物である請求項3に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項5】
前記リン含有無機化合物は、
リン含有無機酸及び/またはその塩であり、
前記リン含有無機酸及び/またはその塩は、
リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、及び/またはその塩、またはヘキサメタリン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種以上の化合物である請求項4に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項6】
前記リン含有有機化合物は、
有機ホスホン酸及び/またはその塩であり、
前記有機ホスホン酸及び/またはその塩は、
2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、及び/またはその塩から選ばれる少なくとも1種以上の化合物である請求項4に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項7】
酸及び/またはその塩を更に含有し、
pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲にある請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項8】
酸化剤を更に含有する請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項9】
アルミニウム合金基板の表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用の磁気ディスク基板の研磨を多段研磨方式で行う際に使用され、
前記磁気ディスク基板に対する最終研磨よりも前に実施される前段研磨で使用される請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項10】
下記の工程(1)~(3)を有し、前記工程(1)~(3)を同一の研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法であって、
請求項1~9のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物を工程(1)の研磨剤組成物Aとして使用する磁気ディスク基板の研磨方法。
工程(1) 研磨剤組成物Aを研磨機に供給し、磁気ディスク基板の前段研磨を行う工程
工程(2) 工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
工程(3) コロイダルシリカ及び水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給し、磁気ディスク基板の後段研磨を行う工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク基板用研磨剤組成物、及び磁気ディスク基板の研磨方法に関する。更に詳しくは、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体等の電子部品の研磨に使用される磁気ディスク基板用研磨剤組成物に関し、特にガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板等の磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用される磁気ディスク基板用研磨剤組成物に関するものである。
【0002】
更には、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の表面研磨に使用される磁気ディスク基板用研磨剤組成物、及び当該磁気ディスク基板用研磨剤組成物を使用したガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板等の磁気ディスク基板の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、アルミニウム磁気ディスク基板の無電解ニッケル-リンめっき皮膜表面を研磨するための研磨剤組成物として、生産性の観点から、高い研磨速度を実現し得るアルミナ粒子を水に分散させた研磨剤組成物が使用されてきた。
【0004】
研磨速度向上、うねり低減や表面粗さ低減といった目的で、アルミナ系砥粒を使用した研磨剤組成物で種々の結晶構造のアルミナ粒子を使用することにより、研磨速度向上とうねり低減や表面粗さ低減といった高い研磨面品質とを両立させようとする提案がなされている。
【0005】
特許文献1には、γ、δ、θ型の所定の大きさのアルミナ砥粒を含む研磨剤組成物を使用することにより、研磨速度を大きくして、従来よりも高品質の研磨面を得ることができるとの提案がなされている。
【0006】
特許文献2には、α-アルミナ以外のアルミナである中間アルミナを含む研磨剤組成物を用いることにより、表面欠陥を低下させ、研磨速度を向上させることができるとの提案がなされている。
【0007】
特許文献3には、α-アルミナ、中間アルミナを含む研磨剤組成物を使用することにより、高い研磨速度を達成し、うねりを低減できるとの提案がなされている。しかしながら、うねり低減効果は不十分であり、改善が求められている。
【0008】
特許文献4には、研磨材と研磨助剤と水を含む研磨材組成物を用いて磁気記録媒体基板を研磨する際に、研磨助剤として脂肪族系有機硫酸塩を用いることにより、研磨速度向上と表面粗さ低減が図れるとの提案がなされている。しかしながら、この提案では研磨速度向上と表面粗さ低減は不十分であり、改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11-268911号公報
【特許文献2】特開2001-89746号公報
【特許文献3】特開2005-23266号公報
【特許文献4】国際公開第1998/021289号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1~4のように、単に中間アルミナを添加しただけの研磨剤組成物を用いて磁気ディスク基板を研磨しても、研磨速度の向上と研磨後の基板表面の欠陥や傷の低減を両立させることはできないことが問題となっている。
【0011】
そこで、本願発明は上記実情に鑑み、中間アルミナを含有し、研磨速度を向上させるとともに、研磨後の磁気ディスク基板等の基板表面の欠陥や傷を低減させることの可能な磁気ディスク基板用研磨剤組成物、及び磁気ディスク基板の研磨方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は、上記課題に対して鋭意検討した結果、以下に示す磁気ディスク基板用研磨剤組成物及び当該磁気ディスク基板用研磨剤組成物を用いた磁気ディスク基板の研磨方法を採用することにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0013】
[1] アルミナ粒子と、水とを含み、前記アルミナ粒子は、α-アルミナ及び中間アルミナを含有し、前記α-アルミナの平均粒子径が0.2~0.8μmの範囲であり、前記中間アルミナの平均粒子径が0.02~0.4μmの範囲であり、前記α-アルミナの平均粒子径に対する前記中間アルミナの平均粒子径の比が0.1~0.6の範囲であり、前記α-アルミナと前記中間アルミナとの質量割合が90:10~50:50の範囲である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0014】
[2] 前記α-アルミナの平均粒子径が0.38~0.5μmの範囲であり、前記中間アルミナの平均粒子径が0.07~0.2μmの範囲であり、前記α-アルミナの平均粒子径に対する前記中間アルミナの平均粒子径の比が0.1~0.5の範囲である前記[1]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0015】
[3] 前記アルミナ粒子は、粉砕助剤を用いて粉砕処理されたものである前記[1]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0016】
[4] 前記粉砕助剤は、リン含有無機化合物またはリン含有有機化合物である前記[3]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0017】
[5] 前記リン含有無機化合物は、リン含有無機酸及び/またはその塩であり、前記リン含有無機酸及び/またはその塩は、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、及び/またはその塩、またはヘキサメタリン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種以上の化合物である前記[4]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0018】
[6] 前記リン含有有機化合物は、有機ホスホン酸及び/またはその塩であり、前記有機ホスホン酸及び/またはその塩は、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、及び/またはその塩から選ばれる少なくとも1種以上の化合物である前記[4]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0019】
[7] 酸及び/またはその塩を更に含有し、pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲にある前記[1]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0020】
[8] 酸化剤を更に含有する前記[1]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0021】
[9] アルミニウム合金基板の表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用の磁気ディスク基板の研磨を多段研磨方式で行う際に使用され、前記磁気ディスク基板に対する最終研磨よりも前に実施される前段研磨で使用される前記[1]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0022】
[10] 下記の工程(1)~(3)を有し、前記工程(1)~(3)を同一の研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法であって、前記[1]~[9]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物を工程(1)の研磨剤組成物Aとして使用する磁気ディスク基板の研磨方法。
工程(1) 研磨剤組成物Aを研磨機に供給し、磁気ディスク基板の前段研磨を行う工程
工程(2) 工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
工程(3) コロイダルシリカ及び水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給し、磁気ディスク基板の後段研磨を行う工程
【発明の効果】
【0023】
本発明の磁気ディスク基板用研磨剤組成物は、中間アルミナを含有し、研磨速度を向上させるとともに、研磨後の磁気ディスク基板等の基板表面の欠陥や傷を低減させることのできる優れた作用効果を奏し、本発明の磁気ディスク基板の研磨方法は、本発明の磁気ディスク基板用研磨剤組成物を用いて磁気ディスク基板の研磨を行うものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0025】
1.磁気ディスク基板用研磨剤組成物
本発明の磁気ディスク基板用研磨剤組成物(以下、単に「研磨剤組成物」と称す。)は、アルミナ粒子と、水とを含み、更にその他の任意成分として酸及び/またはその塩、及び、酸化剤を含んで構成される水系組成物であることを特徴とするものである。
【0026】
2.アルミナ粒子
本発明の研磨用組成物を構成するアルミナ粒子は、“α-アルミナ粒子”及びα-アルミナ粒子以外のアルミナである“中間アルミナ”を有して構成されている。ここで、中間アルミナは、α-アルミナ以外のものとして、例えば、γ-アルミナ、δ-アルミナ、及びθ-アルミナ等を列挙することができる。
【0027】
α-アルミナは、中間アルミナと比較して結晶化度が高く、高硬度の物性を有することが一般的に知られている。そのため、α-アルミナを研磨用組成物として使用した場合、基板等の研磨対象物の表面(基板表面)に傷(スクラッチ)ができやすい。
【0028】
一方、中間アルミナであるγ-アルミナ、δ-アルミナ、及びθ-アルミナ等は、上述のα-アルミナと比較して結晶化度が低く、低硬度の物性を有することが知られている。そのため、中間アルミナを研磨用組成物として使用した場合、基板表面にスクラッチができる可能性は低いものの、α-アルミナよりも研磨速度が低くなる傾向がある。そのため、α-アルミナと中間アルミナとの双方のメリット及びデメリットを考慮し、両者を併用することで、研磨速度に優れ、かつ研磨後の研磨対象物の表面状態を良好なものとするバランスに優れた研磨剤組成物に調製することが行われる。
【0029】
ここで、アルミナ粒子の製造について更に具体的に説明すると、アルミナ粒子の製造のために使用される主なアルミナ原料は、ギブサイト:Al2O3・3H2O、ベーマイト:Al2O3・H2O、擬ベーマイト:Al2O3・nH2O(n=1~2)等が周知である。そして、これらのアルミナ原料をそれぞれ以下に説明する方法によって調製することで、所望のアルミナ粒子が製造されている。
【0030】
(1) ギブサイト:Al2O3・3H2O
ボーキサイトを水酸化ナトリウムの熱溶液で溶解し、不溶成分をろ過により除去して得られた溶液を冷却し、その結果得られた沈殿物を乾燥することにより得られる。
【0031】
(2) ベーマイト:Al2O3・H2O
金属アルミニウムとアルコールとの反応により得られるアルミニウムアルコキシド:Al(OR)3を加水分解することにより得られる。
【0032】
(3) 擬ベーマイト:Al2O3・nH2O(n=1~2)
ギブサイトをアルカリ性雰囲気下、水蒸気で処理して得られる。
【0033】
上記(1)~(3)のいずれかによって得られた生成物を更に高温で焼成することにより、α-アルミナ等を得ることができる。
【0034】
本発明の研磨剤組成物を構成するアルミナ粒子の一部であるα-アルミナの平均粒子径は0.2~0.8μmの範囲であり、好ましくは0.38~0.5μmの範囲である。なお、本明細書中において、「α-アルミナの平均粒子径」を“D50α”と表記することもある。α-アルミナの平均粒子径が0.2μm以下になると、研磨速度が低下し、生産性の点で好ましくない。一方、α-アルミナの平均粒子径が0.8μmを超えると、研磨後の基板表面に欠陥や傷が発生しやすくなり、表面精度の点で課題が生じる。
【0035】
一般的に入手可能な市販品のα-アルミナの平均粒子径は、通常は数十μm程度であることが知られている。本発明の研磨剤組成物は、入手したα-アルミナを更に粉砕処理し、本発明の研磨剤組成物において規定された平均粒子径の範囲内となるように、平均粒子径の調整が図られたものを使用している。
【0036】
なお、α-アルミナの粉砕は、特に限定されるものではなく、本技術分野において周知であるボールミル、振動ミル、及びジェットミル等の通常の粉砕機を用いることが可能であり、また乾式粉砕或いは湿式粉砕のいずれの方式において行うものであっても構わない。
【0037】
粉砕処理について具体的に説明すると、例えば、湿式粉砕による粉砕処理を行う場合、粉砕対象となるα-アルミナを水でスラリー化したスラリー液が使用される。このとき、α-アルミナの平均粒子径を0.5μm以下に調整する場合において、α-アルミナのスラリー液の粘度上昇に伴う粉砕効率の低下を防ぐために、本発明の研磨剤組成物に粉砕助剤を更に添加したものであっても構わない。
【0038】
研磨剤組成物に添加される粉砕助剤は、特に限定されるものではないが、後述する中間アルミナに対する粉砕処理と同様に、例えば、リン含有無機化合物及び/またはリン含有有機化合物等を使用することができる。
【0039】
一方、本発明の研磨剤組成物を構成するアルミナ粒子の一部である中間アルミナの平均粒子径は、0.02~0.4μmの範囲であり、好ましくは0.07~0.2μmの範囲である。なお、本明細書中において、「中間アルミナの平均粒子径」を“D50中間”と表記することもある。
【0040】
中間アルミナの平均粒子径が0.4μm以下になると、α-アルミナの粒子間隙に中間アルミナが入り込みやすくなり、研磨によるムラを低減させることが可能となり、研磨後の基板表面のうねりや傷を低減化することができる。
【0041】
加えて、アルミナ粒子に含まれるα-アルミナと中間アルミナとの質量割合は、α-アルミナ:中間アルミナ=90:10~50:50との範囲にすることができる。
【0042】
ここで、中間アルミナの質量割合を少なくとも10質量%以上とすることにより、α-アルミナの粒子間隙を埋めることができ、上述したように、粒子間隙を減少させることで、研磨ムラを低減させることができ、研磨後の基板表面におけるうねりやスクラッチ等の不具合を低減させることができる。一方、中間アルミナの割合が50質量%を超えないことにより、α-アルミナと基板表面との接触頻度及び接触回数を所定以上に維持することができ、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0043】
一般的に入手可能な市販品の中間アルミナの平均粒子径は、通常は数十μm程度であることが知られている。本発明の研磨剤組成物は、入手した中間アルミナを更に粉砕処理し、本発明において規定された平均粒子径の範囲内となるように、平均粒子径の調整を行ったものを使用している。ここで、中間アルミナの粉砕は、前述のα-アルミナの粉砕処理と同様に、本技術分野において周知であるボールミル等の通常の粉砕機を用いることが可能であり、また乾式粉砕或いは湿式粉砕のいずれの方式において行うものであっても構わない。
【0044】
中間アルミナを湿式粉砕する場合、前述のα-アルミナの湿式粉砕と同様に、平均粒子径を0.5μm以下に調整する場合、中間アルミナのスラリー液の粘度上昇に伴う粉砕効率の低下が認められることがあった。特に、中間アルミナの平均粒子径が0.45μm以下になると、中間アルミナの高粘度化が顕著となり、それ以降の粉砕処理が困難となることがあった。
【0045】
そこで、本発明の研磨剤組成物は、中間アルミナの高粘度化を抑制する目的で、α-アルミナの粉砕処理と同様に、粉砕助剤を更に添加したものであっても構わない。なお、粉砕処理の進行に伴う高粘度化の現象は、α-アルミナよりも中間アルミナにおいて特に顕著であることが知られている。
【0046】
中間アルミナに添加される上記粉砕助剤としては、例えば、リン含有無機化合物及び/またはリン含有有機化合物が好ましく、中でもリン含有有機化合物が中間アルミナの高粘度化を抑制する観点から特に好ましい。
【0047】
リン含有無機化合物の具体例としては、リン含有無機酸及び/またはその塩を挙げることができる。更に、リン含有無機酸及び/またはその塩の具体例としては、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、及び/またはそれらの塩、或いはヘキサメタリン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。
【0048】
上記の中でも特に好ましくは、ヘキサメタリン酸ナトリウムを使用することができる。かかるヘキサメタリン酸ナトリウムを粉砕助剤として用いて粉砕を行うことにより、粉砕の進行に伴う中間アルミナの粘度上昇が抑制されて、効率的に小粒径の中間アルミナを得ることができる。
【0049】
一方、リン含有有機化合物の具体例としては、有機ホスホン酸及び/またはその塩を挙げることができる。更に、有機ホスホン酸及び/またはその塩の具体例としては、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、及び/またはその塩から選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。
【0050】
上記の中でも特に好ましくは、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸のナトリウム塩を挙げることができる。かかる1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸及び/または1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸のナトリウム塩を粉砕助剤として用いて粉砕を行うことにより、粉砕の進行に伴う中間アルミナの粘度上昇が抑制されて、効率的に小粒径の中間アルミナを得ることができる。
【0051】
更に、粉砕助剤は、上述したリン含有無機酸及び/またはその塩と有機ホスホン酸及び/またはその塩を併用して用いることも可能である。例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウムと1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(塩)とを併用することができる。
【0052】
また、α-アルミナの平均粒子径(D50α)に対する中間アルミナの平均粒子径(D50中間)の比が“D50中間/D50α=0.1~0.6”の条件を満たすものであり、好ましくは0.1~0.5の範囲であり、特に好ましくは0.1~0.3の範囲である。
【0053】
D50中間/D50αの値が0.6以下であることにより、研磨速度を高く保った状態で、研磨後の基板表面の表面欠陥やスクラッチを低減させることができる。
【0054】
これは、以下のメカニズムによると推定される。すなわち、高硬度のα-アルミナの平均粒子径よりも、低硬度の中間アルミナの平均粒子径が小さいため、低硬度の中間アルミナが、高硬度のα-アルミナの粒子間隙に進入しやすく、α-アルミナによる研磨力を損なうことなく、基板表面の研磨ムラを減少させ、スクラッチや表面欠陥の発生を抑制すると推定される。
【0055】
一方、高硬度のα-アルミナの平均粒子径よりも、低硬度の中間アルミナの平均粒子径が大きい場合、基板表面へのα-アルミナの接触頻度と接触圧力とがそれぞれ低下するため、研磨速度が低くなると推定される。なお、本発明はこれらの推定に限定されるものではない。
【0056】
本発明のα-アルミナ及び中間アルミナを含むアルミナ粒子の研磨剤組成物中の濃度は、好ましくは1~50質量%の範囲であり、より好ましくは2~40質量%の範囲である。ここで、アルミナ粒子の濃度を1質量%以上とすることにより、研磨速度の低下を抑制することができ、一方、アルミナ粒子の濃度を50質量%以下とすることにより、アルミナ粒子の不必要な使用を抑え、研磨コストを抑えた経済的に有利な条件での研磨を行うことができる。
【0057】
3.酸及び/またはその塩
本発明の研磨剤組成物は、pH調整のために、或いは任意成分として、酸及び/またはその塩を添加することができる。ここで、使用される酸及び/またはその塩は、無機酸及び/またはその塩、或いは有機酸及び/またはその塩を例示することができる。
【0058】
無機酸及び/またはその塩としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の無機酸及び/またはその塩が挙げられる。一方、有機酸及び/またはその塩としては、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸及び/またはその塩、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸等のカルボン酸及び/またはその塩、有機ホスホン酸及び/またはその塩が挙げられる。これらの酸及び/またはその塩を1種あるいは2種以上を用いることができる。
【0059】
有機ホスホン酸及び/またはその塩としては、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。
【0060】
上記の化合物は、2種以上を組み合わせて使用することも好ましい実施態様であり、具体的には、硫酸及び/またはその塩と有機ホスホン酸及び/またはその塩の組み合わせ、リン酸及び/またはその塩と有機ホスホン酸及び/またはその塩の組み合わせ等が挙げられる。
【0061】
4.酸化剤
本発明の研磨剤組成物は、更に研磨促進剤として酸化剤を添加し使用することができる。使用される酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、ハロゲンオキソ酸またはその塩、酸素酸またはその塩、或いはこれらの酸化剤を2種以上混合したもの等を用いることができる。
【0062】
具体的には、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過酸化カリウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸の金属塩、ジクロム酸の金属塩、過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソリン酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。中でも過酸化水素、過硫酸及びその塩、次亜塩素酸及びその塩等が好ましく、さらに好ましくは過酸化水素である。
【0063】
また、研磨剤組成物中の酸化剤含有量は、0.01~10.0質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1~5.0質量%の範囲である。
【0064】
5.その他の添加剤
本発明の研磨剤組成物には、上述の成分以外にもその他の添加剤を含有させるものであっても構わない。その他の添加剤としては、従来から周知の界面活性剤、水溶性高分子、腐食防止剤、増粘剤、分散剤、防腐剤及び防錆剤等が挙げられる。
【0065】
6.研磨剤組成物の物性
本発明の研磨剤組成物のpH値(25℃)の範囲は、好ましくは0.1~4.0の範囲であり、より好ましくは0.5~3.0の範囲である。研磨剤組成物のpH値(25℃)が0.1以上であることにより、表面荒れを抑制することができる。一方、研磨剤組成物のpH値(25℃)が4.0以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0066】
本発明の研磨剤組成物は、ハードディスクといった磁気記録媒体などの種々の電子部品の研磨に使用することができる。特に、アルミニウム磁気ディスク基板の研磨に好適に用いられる。更に好適には、無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨に用いることができる。無電解ニッケル-リンめっきは、通常、pH値(25℃)が4~6の条件下でめっきされる。pH値(25℃)が4以下の条件下で、ニッケルが溶解傾向に向かうため、めっきしにくくなる。一方、研磨においては、例えば、pH値(25℃)が4.0以下の条件下でニッケルが溶解傾向となるため、本発明の研磨剤組成物を用いることにより、研磨速度を高めることができる。
【0067】
7.磁気ディスク基板の研磨方法
本発明の研磨剤組成物は、アルミニウム磁気ディスク基板やガラス磁気ディスク基板等の磁気記録媒体用の磁気ディスク基板の研磨での使用に適している。中でもアルミニウム合金基板の表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成したアルミニウム磁気ディスク基板の研磨での使用に適している。
【0068】
更に多段研磨方式による無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板(以下アルミディスク)の研磨を行う際に、最終研磨工程よりも前の研磨工程(粗研磨工程)での使用に適している。特に下記工程(1)~(3)の工程からなる粗研磨工程を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法における工程(1)で使用される研磨剤組成物Aとしての使用に適している。
(1)研磨剤組成物Aを研磨機に供給して磁気ディスク基板の前段研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカ及び水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程
【0069】
本発明の研磨剤組成物を適用することが可能な研磨方法としては、例えば、研磨機の定盤に研磨パッドを貼り付け、研磨対象物(例えば、アルミディスク等)の研磨する表面または研磨パッドに本発明の研磨剤組成物を供給し、研磨する表面を研磨パッドで擦り付ける方法(ポリッシングと呼ばれている)がある。
【0070】
例えば、アルミディスクのおもて面と裏面を同時に研磨する場合には、上定盤及び下定盤それぞれに研磨パッドを貼り付けた両面研磨機を用いる方法がある。この方法では、上定盤及び下定盤に貼り付けた研磨パッドでアルミディスクを挟み込み、研磨面と研磨パッドの間に研磨剤組成物を供給し、2つの研磨パッドを同時に回転させることによって、アルミディスクのおもて面と裏面を研磨する。研磨パッドは、ウレタンタイプ、スェードタイプ、不織布タイプ、その他いずれのタイプも使用することができる。
【実施例0071】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでなく、本発明の技術範囲に属する限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
【0072】
(1)アルミナの粉砕
実施例1~6、比較例1~11に使用するそれぞれのα-アルミナ及び中間アルミナを、それぞれボールミルを用いた湿式粉砕により粉砕処理を行った。ここで、α-アルミナ及び中間アルミナは、市販されているα-アルミナ及び中間アルミナを用い、分散媒である水中にアルミナ濃度をα-アルミナの場合には50質量%、中間アルミナの場合には30質量%となるように添加し、更に粉砕助剤を下記表1に記載のアルミナ固形分に対する割合で添加し、粉砕を行った。
【0073】
【0074】
なお、比較例2におけるα-アルミナ及び比較例6における中間アルミナは、粉砕処理において粘度が高くなり、以降の粉砕を継続することが困難となった。したがって、予定の平均粒子径のアルミナを得ることができなかったため、その後の研磨試験を実施することができなかった。
【0075】
(2)研磨剤組成物の調製方法
実施例1~6、比較例1~11の工程(1)の前段研磨で使用する研磨剤組成物Aは、表1に記載の材料を、表1に記載の含有量を含むように調製されたものである。ここで、研磨剤組成物Aが本発明における磁気ディスク基板用研磨剤組成物(研磨剤組成物)に相当する。
【0076】
使用するアルミナ粒子は、上記した粉砕処理により、平均粒子径が調製されたものを使用した。なお、研磨剤組成物AのpH値(25℃)は1.2であり、実施例1~6、比較例1~11の工程(3)の後段の研磨工程で使用する研磨剤組成物Bは、表1に記載のように同一組成の研磨剤組成物である。研磨剤組成物BのpH値(25℃)は1.2であった。研磨試験の結果を表2に示す。
【0077】
【0078】
(3)アルミナ粒子の平均粒子径
アルミナ粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定機(株式会社島津製作所製 SALD 2200)を用いて測定した。アルミナ粒子の平均粒子径は、体積を基準とした小粒径側からの積算粒径分布が50%となる平均粒子径(D50)である。これにより、α-アルミナの平均粒子径(D50α)及び中間アルミナの平均粒子径(D50中間)の値を求めた。
【0079】
(4)コロイダルシリカの平均粒子径
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製 JEM2000FX(200kV))を用いて倍率10万倍の視野を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック株式会社製、Mac-View Ver. 4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。
【0080】
コロイダルシリカの平均粒子径は前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカの粒子径を解析し、小粒径側からの積算粒径分布(累積体積基準)が50%となる粒子径を上記解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver. 4.0)を用いて算出した平均粒子径(D50)である。
【0081】
(5)研磨の条件(研磨工程における工程(1)~(3)の条件)
(5-1)工程(1) 前段研磨の条件
研磨機 :スピードファム株式会社製、9B両面研磨機
研磨パッド :株式会社FILWEL製、P1パッド
定盤回転数 :上定盤 -7.5rpm
下定盤 22.5rpm
研磨剤組成物供給量 :100ml/min
研磨時間 :4.5分
加工圧力 :80g/cm2
なお、工程(1)における研磨では、研磨剤組成物Aを使用している。
【0082】
(5-2)工程(2) リンス条件
研磨機 :前段研磨と同じ
研磨パッド :前段研磨と同じ
定盤回転数 :前段研磨と同じ
リンス液供給量 :3L/min
リンス時間 :20秒
加工圧力 :15g/cm2
なお、リンス液として純水を使用している。
【0083】
(5-3)工程(3) 後段研磨の研磨条件
研磨機 :前段研磨と同じ
研磨パッド :前段研磨と同じ
定盤回転数 :前段研磨と同じ
研磨剤組成物供給量 :100ml/min
研磨時間 :80秒
加工圧力 :80g/cm2
なお、後段研磨では、研磨剤組成物Bを使用している。
【0084】
(6)研磨速度比
研磨速度比は、下記の研磨速度を算出する計算式を用いて計算された比較例3の研磨速度の値を1(基準)とした場合の相対値として表される。
研磨速度(μm/min)=アルミディスク質量減少量(g)/研磨時間(min)/アルミディスク片面の面積(cm2)/無電解ニッケル-リンめっき皮膜の密度(g/cm3)/2×104
(ただし、上記式中、アルミディスク片面の面積は69cm2、無電解ニッケル-リンめっき皮膜の密度は、8.0g/cm3)
【0085】
(7)基板表面の欠陥と傷の評価方法(defectカウント比、Lスクラッチカウント比)
工程(3)の後段研磨を行った後、基板表面の欠陥と傷の評価を行った。始めに、基板全表面欠陥検査機(株式会社日立ハイテクファインシステムズ製 NS2000H)を用い、defectカウントとLスクラッチカウントとをそれぞれ測定した。ここで、defectカウントとは、基板表面の微細な欠陥を全数検出した数値のことであり、これには残留物も含まれる。
【0086】
defectカウント及びLスクラッチカウントの測定条件は、下記に記載の通りである。なお、defectカウント比及びLスクラッチカウント比は、比較例3のそれぞれの値を1(基準)とした場合の相対値として表される。
Hi-Light 1,2 :830V
scan Pitch :15μm
Inner/Outer Radius :15.5-48.0mm
Positive Level :100mV
White Spot Level :0-500mV
Long Scratch Length:≧3000μm
【0087】
(8)考察
α-アルミナの平均粒子径(D50α)と中間アルミナの平均粒子径(D50中間)とが同値(0.42μm)である比較例3に対し、中間アルミナの平均粒子径をα-アルミナの平均粒子径の半分程度に設定した実施例3は、比較例3に対して研磨速度はほぼ同等の結果を示し、defectカウント及びLスクラッチカウントは顕著な改善が認められた。すなわち、先に示したメカニズムのように、中間アルミナがα-アルミナの粒子間隙に進入しやすくなり研磨ムラが減少したものと推定される。
【0088】
一方、α-アルミナの平均粒子径を比較例3に対して小さくした比較例7は、比較例3に対して研磨速度が著しく低下することが認められ、defectカウント及びLスクラッチカウントは実施例3ほどには改善されていない。以上の結果から、比較例7の研磨速度の低下は、高硬度のα-アルミナの基板表面への接触頻度と接触圧力が低下したためと推定される。
【0089】
更に、中間アルミナの平均粒子径をα-アルミナの平均粒子径よりも大きくした比較例4と5は、比較例3に対して研磨速度は低下し、defectカウント及びLスクラッチカウントは悪化することが確認された。比較例4と5の研磨速度の低下は、中間アルミナの平均粒子径がα-アルミナの平均粒子径よりも大きくなったため高硬度のα-アルミナの基板表面への接触頻度と接触圧力が低下したためと推定される。以上の結果から、中間アルミナの平均粒子径がα-アルミナの平均粒子径よりも大きい条件では、研磨速度、defectカウント、及びLスクラッチカウントのいずれの評価項目においても悪化することが認められる。
【0090】
比較例1は、比較例3に対してα-アルミナの平均粒子径が大きくなった例であるが、高硬度のα-アルミナの大粒径化による研磨速度の向上とともに、defectカウント及びLスクラッチカウントのいずれもが大幅に悪化する結果が示されている。
【0091】
一方、実施例1及び2は、比較例1に対して中間アルミナを小さくし、α-アルミナ及び中間アルミナの平均粒径比(D50中間/D50α)を0.6以下にしたものであり、研磨速度は比較例1と同等の性能を示し、defectカウント及びLスクラッチカウントは比較例1よりも改善されている。
【0092】
実施例4は実施例3において中間アルミナの平均粒子径をさらに小さくすることにより、平均粒径比(D50中間/D50α)を0.48から0.24にしたものであり、defectカウント及びLスクラッチカウントがさらに改善していることが示されている。
【0093】
実施例5は比較例8に対して、α-アルミナと中間アルミナの質量割合(α-アルミナ:中間アルミナ=90:10)を同一とし、かつ、平均粒径比(D50中間/D50α)を1.0から0.24にした結果であり、研磨速度は同等の性能を示し、defectカウント及びLスクラッチカウントの改善が認められる。一方、α-アルミナと中間アルミナの質量割合が95:5と本発明の研磨剤組成物の権利範囲から逸脱する比較例10は、実施例5に対して研磨速度は低下し、defectカウント及びLスクラッチカウントは悪化している。
【0094】
実施例6は比較例9に対して、α-アルミナと中間アルミナの質量割合(α-アルミナ:中間アルミナ=50:50)を同一とし、かつ、平均粒径比(D50中間/D50α)を1.0から0.24にした結果であり、研磨速度は同等の性能を示し、defectカウント及びLスクラッチカウントが顕著に改善していることが示されている。一方、α-アルミナと中間アルミナの質量割合が40:60と本発明の研磨剤組成物の権利範囲から逸脱する比較例11は、実施例6に対して研磨速度は低下し、でdefectカウント及びLスクラッチカウントは悪化している。
【0095】
既に述べた通り、比較的入手が容易な市販のα-アルミナ及び中間アルミナの平均粒子径は、それぞれ数十μm程度であるものの、本発明の研磨剤組成物のように、湿式粉砕等により粉砕処理を行い、平均粒子径を小さくする小粒径化を行い、更に、粉砕助剤としてリン含有無機化合物(例えばヘキサメタリン酸ナトリウム)を用いることで平均粒子径が0.5μm程度まではアルミナ粒子の粘度上昇を抑制することが可能となり、研磨性能は低下するものの、比較例1及び比較例5のように研磨試験を行うことができる。
【0096】
しかしながら、α-アルミナ及び中間アルミナのいずれにおいても、平均粒子径が0.5μm以下となるように粉砕処理を行うことで、比較例2及び比較例6に明らかに示されるように、粉砕助剤としてリン含有無機化合物を用いても、アルミナ粒子の高粘度化を防ぐことができず、研磨試験を実施することができなかった。
【0097】
一方、α-アルミナ及び中間アルミナのいずれにおいても、平均粒子径を0.5μm以下とする粉砕処理を行った場合には、リン含有有機化合物(例えば1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸)を粉砕助剤として用いることにより、アルミナの高粘度化を抑制することが可能となり、研磨試験の実施が可能であることが示されている。
【0098】
以上説明したとおり、本発明の研磨剤組成物は、α-アルミナ及び中間アルミナを含んで構成されるアルミナ粒子を有し、α-アルミナの平均粒子径と中間アルミナの平均粒子径の比(D50中間/D50α)を特定の範囲内とし、更にα-アルミナ及び中間アルミナの平均粒子径をそれぞれ特定の範囲内とし、かつ、α-アルミナ及び中間アルミナの質量割合を特定の範囲内の割合とすることで、研磨速度、基板表面のdefectカウント及びLスクラッチカウントの各性能を良好なバランスを保った状態で表面精度を向上させることができる。
本発明の研磨剤組成物は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体等の電子部品の研磨に使用することができる。特にガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板等の磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用することができる。更には、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の表面研磨に使用することができる。