(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109462
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】自転車用チェーン
(51)【国際特許分類】
F16G 13/06 20060101AFI20240806BHJP
B62M 9/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
F16G13/06 B
B62M9/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014271
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000207425
【氏名又は名称】大同工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】直江 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】田中 康太
(72)【発明者】
【氏名】彦素 一馬
(72)【発明者】
【氏名】中村 玄汰
(72)【発明者】
【氏名】菊知 達哉
(57)【要約】
【課題】変速時のスプロケットとの間の摺動抵抗を低減した自転車用チェーンを提供する。
【解決手段】自転車用チェーンは、一対のインナーリンクプレート51を有するインナーリンク5と、一対のアウターリンクプレート61及びチェーンピン62を有するアウターリンク6と、を備えている。アウターリンクプレート61は、外側面にスプロケットの歯側面と摺動する摺動領域を有し、アウターリンクプレート61の摺動領域には、複数の凹凸が所定パターンで連続して配置された凹凸パターン7が設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のインナーリンクプレートを有するインナーリンクと、
一対のアウターリンクプレート及びチェーンピンを有するアウターリンクと、を備え、
前記インナーリンクとアウターリンクとを、前記チェーンピンにより屈曲可能に連結した自転車用チェーンであって、
前記アウターリンクプレートは、外側面にスプロケットの歯側面と摺動する摺動領域を有し、
前記アウターリンクプレートの摺動領域には、複数の凹凸が所定パターンで連続して配置された凹凸パターンが設けられている、
ことを特徴とする自転車用チェーン。
【請求項2】
前記複数の凹凸は、前記チェーンピンの軸線方向に直交する前記アウターリンクプレートの長手方向に延設された複数の突条部と、前記複数の突条部の間の溝部と、を備え、
前記凹凸パターンは、前記突条部と前記溝部とが、前記長手方向と直交する前記アウターリンクプレートの短手方向に交互に配設されて形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の自転車用チェーン。
【請求項3】
前記複数の凹凸は、前記アウターリンクプレートの外側面に形成された複数のディンプルと、前記複数のディンプルの間の凸部と、を備え、
前記凹凸パターンは、前記複数のディンプルと凸部とが、所定パターンで配置されて形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の自転車用チェーン。
【請求項4】
前記複数の凹凸は、前記アウターリンクプレートの外側面に形成され、前記スプロケットの歯側面と点接触する複数の凸部と、前記複数の凸部の間の凹部と、を備え、
前記凹凸パターンは、前記複数の凸部と凹部とが、所定パターンで配置されて形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の自転車用チェーン。
【請求項5】
前記複数の凹凸は、前記チェーンピンの軸線方向に直交する前記アウターリンクプレートの長手方向に対して傾斜した第1斜め方向に延設された複数の第1突条部と、前記長手方向に対して前記第1斜め方向とは異なる角度で傾斜した第2斜め方向に延設された複数の第2突条部と、前記第1突条部と前記第2突条部との間に設けられた凹部と、を備え、
前記凹凸パターンは、前記第1突条部と前記第2突条部とが交差するように配置されて形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の自転車用チェーン。
【請求項6】
前記アウターリンクプレートは、前記チェーンピンの軸線方向に直交する長手方向の一端部及び他端部に前記チェーンピンを圧入する一対のピン穴を備えており、
前記軸線方向において前記外側面と対向する前記アウターリンクプレートの内側面には、前記一端部及び他端部の間において、前記一端部及び他端部よりも前記外側面側に向かって凹んだ薄肉部が形成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の自転車用チェーン。
【請求項7】
前記薄肉部は、前記アウターリンクプレートにおける最も厚い部分の厚さの30%~70%の厚みを有している、
ことを特徴とする請求項6記載の自転車用チェーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車用チェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自転車の摺動部材に対して摺動性の高い摺動めっき層を形成することが知られており、例えば、上記摺動部材として、チェーンの外リンクプレートに上記摺動めっき層を形成することが案出されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記自転車用チェーンの外リンクプレートは、変速時にスプロケットの歯側面と摺動するため、上記特許文献1のように摺動メッキ層を形成することによって、スプロケットの歯側面との間の摺動抵抗を低減することができる。
【0005】
一方で、他の方法によってスプロケットの歯側面との間の摺動抵抗を低減することも求められていた。
【0006】
そこで、本発明は、変速時のスプロケットとの間の摺動抵抗を低減した自転車用チェーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、一対のインナーリンクプレートを有するインナーリンクと、一対のアウターリンクプレート及びチェーンピンを有するアウターリンクと、を備え、前記インナーリンクとアウターリンクとを、前記チェーンピンにより屈曲可能に連結した自転車用チェーンであって、前記アウターリンクプレートは、外側面にスプロケットの歯側面と摺動する摺動領域を有し、前記アウターリンクプレートの摺動領域には、複数の凹凸が所定パターンで連続して配置された凹凸パターンが設けられている、ことを特徴とする自転車用チェーンである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る自転車用チェーンによれば、変速時のスプロケットとの間の摺動抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施の形態に係るチェーン伝動装置を示す模式図。
【
図2】第1の実施の形態に係る自転車用チェーンを示す斜視図。
【
図4】第1の実施の形態に係るアウターリンクプレートを示す図であって、(a)は正面図、(b)は背面図、(c)は左側面図、(d)は右側面図、(e)は平面図、(f)は底面図、(g)は左斜視図、(h)は右斜視図、(i)は
図4(a)のA-A断面図。
【
図5】第1の実施の形態に係るアウターリンクプレートを示す図であって、(a)は正面図、(b)は背面図、(c)は左側面図、(d)は右側面図、(e)は平面図、(f)は底面図、(g)
図5(a)のA-A断面図。
【
図6】第1の実施の形態に係るアウターリンクプレート斜視図。
【
図7】第2の実施の形態に係るアウターリンクプレートを示す図であって、(a)は正面図、(b)は背面図、(c)は左側面図、(d)は右側面図、(e)は平面図、(f)は底面図、(g)は左斜視図、(h)は右斜視図、(i)は
図7(a)のB-B断面図。
【
図9】第2の実施の形態に係るアウターリンクプレートを示す図であって、(a)は凹凸領域を示す想像線を消去した状態の正面図、(b)は背面図、(c)は左側面図、(d)は右側面図、(e)は平面図、(f)は底面図、(g)は左斜視図、(h)は右斜視図、(i)は
図9(a)のB-B断面図。
【
図10】第3の実施の形態に係るアウターリンクプレートを示す図。
【
図11】第4の実施の形態に係るアウターリンクプレートを示す図。
【
図12】第5の実施の形態に係るアウターリンクプレートを示す図。
【
図13】第6の実施の形態に係るアウターリンクプレートを示す図。
【
図14】第7の実施の形態に係るアウターリンクプレートを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1の実施の形態>
(チェーン伝動装置の概略構成)
以下、図面に沿って本発明の実施の形態について説明する。
図1に示す自転車用のチェーン伝動装置1は、フロントスプロケット2と、外装式の後多段変速機3と、チェーン4と、を備えている。後多段変速機3は、リアスプロケットユニット31と、リヤディレーラ32と、を備えており、リアスプロケットユニット31は、軸線方向奥側(タイヤのハブ側)から手前側(外側)に向かって径が小さくなるように配置された径の異なる複数のリアスプロケット311・・・が一体的に回転するように構成されている。また、リヤディレーラ32は、チェーン4の駆動方向に対して横方向(軸線方向)に移動できるようになっている。
【0011】
自転車用チェーン4は、フロントスプロケット2とリアスプロケット311とに無端状に巻き掛けられており、これにより、自転車用のチェーン伝動装置1は、フロントスプロケット2に生じた駆動力を、自転車用チェーン4を介してリアスプロケット311へと伝達する。
【0012】
また、チェーン伝動装置1は、リヤディレーラ32によって、チェーン4が径の異なるリアスプロケット311へと掛け換えられることによって、自転車の変速を行う。具体的には、小径のリアスプロケット311から大径のリアスプロケット311にチェーン4を掛け換えることによって、シフトダウン変速を行い、大径のリアスプロケット311から小径のリアスプロケット311にチェーン4を掛け換えることによって、シフトアップ変速を行う。
【0013】
なお、リアスプロケット311には、円周上の所定箇所において、小径のスプロケット311から大径のスプロケット311に向かってチェーン4が上がる方向に溝が設けられている。また、リアスプロケット311には、上記シフトダウン用の溝とは異なる所定箇所において、大径のスプロケット311から小径のスプロケット311に向かってチェーン4が落ちる方向に溝が設けられている。このため、上記シフトアップ変速及びシフトダウン変速のいずれも、スプロケット311上のシフトアップ用/シフトダウン用の溝に対応した所定箇所でのみ行われる。
【0014】
(自転車用チェーン構成)
ついで、自転車用チェーン4の構成について説明をする。
図2に示すように、自転車用チェーン4は、インナーリンク5と、アウターリンク6と、がチェーンピン62により交互に連結されて構成されている。インナーリンク5は、
図3に示すように、チェーンピン62の軸線方向において対向した一対のインナーリンクプレート51,51と、ローラ52と、を備えている。一対のインナーリンクプレート51,51は、それぞれ、インナーリンクプレート51の長手方向の一端部に設けられた第1インナーリンク端部511と、長手方向における上記一端部とは反対側の端部に設けられた第2インナーリンク端部512と、これら第1インナーリンク端部511及び第2インナーリンク端部512との間を連結するインナーリンク中間部513と、を備えて構成されている。
【0015】
上記第1インナーリンク端部511及び第2インナーリンク端部512は、それぞれ略円形形状をしていると共に、第1インナーリンク端部511には第1嵌挿穴511aが、第2インナーリンク端部512には第2嵌挿穴512aが形成されている。また、第1インナーリンク端部511及び第2インナーリンク端部512は、その内側面(他方のインナーリンクプレートと対向する面)に軸線方向に突出したスリーブ部511b,512bが設けられている。
【0016】
第1スリーブ部511bは、その内周が上記第1嵌挿穴511aの一部を形成する形で突出した円筒部であり、第2スリーブ部512bは、その内周が上記第2嵌挿穴512aの一部を形成する形で突出した円筒部である。また、ローラ52は、これら第1及び第2スリーブ部511b,512bに被嵌するように構成されており、第1スリーブ部511b及び第2スリーブ部512bの突出量をP、ローラ52の軸線方向の厚さDとした場合、D>2Pとなるようになっている。これにより、チェーン4の組立時に対向するスリーブ部同士の端面が摺動しないようになっている。
【0017】
インナーリンク中間部513は、第1インナーリンク端部511及び第2インナーリンク端部512よりも第1嵌挿穴511a及び第2嵌挿穴512aの中心を結んだピッチライン側に向けてくびれるように形成されており、このため、インナーリンクプレート51は、チェーンピン62の軸線方向から視て略8の字状となっている。また、インナーリンク中間部513は、インナーリンクプレート51の外形縁を形成する端縁部が、C面取りされている。具体的には、インナーリンク中間部513の内側面では、インナーリンクプレート51の短手方向上部及び下部の端縁部513a,513bが、インナーリンクプレート51の短手方向において、ピッチラインから遠ざかる方向に向かって薄くなるようにテーパー状に形成されている。また、上記内側面とは軸線方向反対側のインナーリンク中間部513の外側面でも同様に、短手方向上部及び下部の端縁部513c,513dが、インナーリンクプレート51の短手方向において、ピッチラインから遠ざかる方向に向かって薄くなるようにテーパー状に形成されている。
【0018】
アウターリンク6は、チェーンピン62の軸線方向に対向した一対のアウターリンクプレート61,61と、チェーンピン62と、を備えている。一対のアウターリンクプレート61は、それぞれ、アウターリンクプレート61の長手方向の一端部に設けられた第1アウターリンク端部611と、長手方向における上記一端部とは反対側の他端部に設けられた第2アウターリンク端部612と、これら第1アウターリンク端部611及び第2アウターリンク端部612との間を連結するアウターリンク中間部613と、を備えている。
【0019】
上記第1アウターリンク端部611及び第2アウターリンク端部612は、それぞれ略円形形状をしており、第1アウターリンク端部611には第1ピン穴611aが形成され、第2アウターリンク端部612には第2ピン穴612aが形成されている。また、アウターリンク中間部613は、第1アウターリンク端部611及び第2アウターリンク端部612よりも第1ピン穴611a及び第2ピン穴612aの中心を結んだピッチライン側に向けてくびれるように形成されており、このため、アウターリンクプレート61は、チェーンピン62の軸線方向から視て略8の字状となっている。
【0020】
チェーンピン62は、上記アウターリンクプレート61の第1ピン穴611a及び第2ピン穴612aに圧入されて固定されるように構成されている。また、チェーンピン62は、インナーリンクプレート51の第1嵌挿穴511a及び第2嵌挿穴512aに嵌挿されて遊嵌するように構成されている。例えば、
図3の例では、チェーンピン62は、一対のアウターリンクプレート61,61の第1ピン穴611a,611aに両端が圧入されると共に、これら一対のアウターリンクプレート61,61の間にて、一対のインナーリンクプレート51,51の第2嵌挿穴512a,512aに嵌挿される。また、他方のチェーンピン62は、一対のアウターリンクプレート61の第2ピン穴612a,612aに両端が圧入されると共に、これら一対のアウターリンクプレート61の間にて、一対のインナーリンクプレート51,51の第1嵌挿穴511a,511aに嵌挿される。これにより、アウターリンク6とインナーリンク5とが相対的に屈曲可能となるように構成されている。
【0021】
(アウターリンクプレートの詳細構成)
ついで、アウターリンクプレート61の詳細構成について
図4に基づいて説明をする。なお、以下の説明において、チェーンの組立時において、チェーンピン62の軸線方向外側に位置するアウターリンクプレート61の側面を外側面(
図4(a)参照)、この外側面の反対側の側面を内側面(
図4(b)参照)という。
【0022】
アウターリンクプレート61の外側面は、シフトダウン(小径リアスプロケット→大径リアスプロケット)及びシフトアップ(大径リアスプロケット→小径リアスプロケット)のどちらの変速時においても、変速の終盤時に大径側のリアスプロケット311の歯側面と摺動する摺動領域となっている。このため、摺動時の抵抗及び騒音を低減するために、本実施の形態のアウターリンクプレート61は、
図4(a),(g),(h),(i)に示すように、外側面に凹凸パターン7を形成している。
【0023】
より詳しくは、凹凸パターン7は、チェーンピン62の軸線方向に直交するアウターリンクプレート61の長手方向(ピッチライン方向)において、第1アウターリンク端部611及び第2アウターリンク端部612の間に位置するアウターリンク中間部613の外表面に形成されており、アウターリンク中間部613の外表面は、上記凹凸パターン7が形成された凹凸領域613aと、この凹凸領域613aを囲う周辺領域613bとを有している。
【0024】
凹凸領域613aでは、複数の凹凸が所定パターンで連続して配置されて凹凸パターン7が構成されており、本実施の形態では、複数の突条部71と、複数の溝部72とによって波形の凹凸パターン7が形成されている。具体的には、上記突条部71は、断面円弧形状を有していると共にアウターリンクプレート61の長手方向に延設されており、所定ピッチを存してアウターリンクプレート61の短手方向に複数、並んでいる。また、これら長手方向に平行な突条部71の間は、突条部71と曲面または略直角で連続的につながる溝部72によって構成されており、これら突条部71と溝部72とが短手方向に交互に並ぶことによって、上記波形の凹凸パターン7が形成されている。
【0025】
凹凸領域613aは、アウターリンク中間部613のくびれ形状に沿うよう延びる
図4(a)から見て上下一対のくびれ縁部613a1と、第1ピン穴611a、第2ピン穴612aの輪郭に沿うよう延びる同図から見て左右一対の円弧縁部613a2と、くびれ縁部と円弧縁部とを繋ぐ4つの隅部613a3とで定められている。各隅部613a3は、同図では、アウターリンク中間部613のくびれ形状および第1、第2ピン穴611a、612aに沿うようアウターリンク中間部613から第1、第2アウターリンク端部611,612に向かって突出した形状となっている。凹凸領域613aは、隅部613a3が突出していない矩形状の領域形状であってもよい。
【0026】
一方、周辺領域613bは、凹凸パターンを有さない平面によって構成されており、この平面は、第1アウターリンク端部611及び第2アウターリンク端部612の外側面と連続した平面となっている。なお、第1アウターリンク端部611及び第2アウターリンク端部612の外側面は、プレス時の加工性の向上のため、平面となっている。また、変速のため、第1アウターリンク端部611の外側面では短手方向上部の端縁611bが、第2アウターリンク端部612の外側面では短手方向下部の端縁612bが、それぞれ面取りされている(
図4(a),(c),(d),(e),(f)参照)。
【0027】
なお、上述した
図2~4では、凹凸領域613aの凹凸パターン7の形状を分かり易くするため、曲面で形成されている上記凹凸パターン7の面の曲面の変化を稜線によって示した。一方、
図5は、当該アウターリンクプレート61を外形線のみで示した6面図である。また、
図6は、上記アウターリンクプレート61の斜視図であって、凹凸パターン7を含むアウターリンクプレート61の立体形状が分かるように陰を細線によって記載した図である。より詳しくは、
図6のアウターリンクプレート61の外縁、ピン穴611a,612a、凹凸領域613a付近に表された細線は、いずれも立体表面の形状を特定するためのものである。
【0028】
このように、本実施の形態のアウターリンクプレート61では、外側面に凹凸パターン7を形成したことによって、変速時におけるスプロケット311の歯側面との間の摺動面積を減らすことで、摩擦係数を下げることができる。そして、これにより、スプロケットの歯側面との間の摺動抵抗を低減すると共に、変速時の騒音を低減することができる。
【0029】
ついで、アウターリンクプレート61の内側面の構成について説明をする。アウターリンクプレート61の内側面は、
図4(b),(e),(f)に示すように、アウターリンク中間部613において、第1アウターリンク端部611及び第2アウターリンク端部612よりも厚さ方向外側面側に向かって凹んだ薄肉部90が形成されている。
【0030】
この薄肉部90は、アウターリンクプレート61の中心側(ピッチライン側)に位置する中心部910が最も厚く、アウターリンクプレート61の外形縁となる端縁部920において最も薄くなるように構成されており、これら中心部910及び端縁部920はなだらかな曲面にて連結されている。このため、
図4(e),(f)に示すように、上記端縁部920におけるアウターリンクプレート61の厚さをX1、上記中心部910におけるアウターリンクプレート61の厚さをX2、第1アウターリンク端部611におけるアウターリンクプレート61の厚さをY1、第2アウターリンク端部612におけるアウターリンクプレート61の厚さをY2とした場合、これらの厚さの関係は、X1<X2<Y1=Y2となっている。
【0031】
また、より詳しくは、上記薄肉部90におけるアウターリンクプレート61の厚さ(例えば、X1、X2)は、アウターリンクプレート61の最も厚い部分の厚さ(例えば、Y1、Y2)の30%~70%となるようになっている。例えば、アウターリンクプレート61の最も薄い部分の厚さX1を、アウターリンクプレート61の最も厚い部分の厚さY1,Y2の50%とすることができる。
【0032】
このように、本実施の形態においては、アウターリンク中間部613において内側面に薄肉部90が形成されており、
図2に示すように、アウターリンク6を構成する一対のアウターリンクプレート61,61の間の隙間Zが大きく構成されている。チェーン4を小径スプロケット311から大径スプロケット311への掛け換える際(変速のきっかけ時)、大径スプロケット311の歯は、必ず、アウターリンクプレート61の間の隙間Zに最初に入るが、本実施の形態では、この隙間Zの間隔が大きいため、シフトダウン変速時に大径スプロケット311の歯を円滑にアウターリンクプレート61,61間に入れることができる。
【0033】
また、シフトダウン時に最初にアウターリンクプレート61の間の隙間Zに入る歯は、上述したシフトダウン用の溝に対応する位置に配置された歯となるが、このリアスプロケット311の歯は、隣接する他の歯よりも軸線方向手前側(外側)にオフセット配置されると共に薄く形成されている。このため、上記隙間Zが広く形成されていることとも相俟って、シフトダウン変速時により円滑にスプロケット311の歯を隙間Zに入れることができ、シフトダウン時の変速性を向上させることができる。
【0034】
一方、シフトアップ時は、変速のきっかけは、上記隙間Zと比較して狭く形成されたインナーリンク5の一対のインナーリンクプレート51,51の間の隙間Nから大径側のリアスプロケット311の歯が外れることとなる(
図2参照)。この場合であっても、本実施の形態に係るチェーン4は、
図3に示すように、インナーリンク中間部513の外側面において、端縁部513c,513dが面取りされているため、チェーン4は、大径側のリアスプロケット311の歯から外れ易くなっている。これにより、シフトアップ時の変速性を向上させることができる。
【0035】
<第2の実施の形態>
ついで、第2の実施の形態について説明をする。なお、本実施の形態は、第1の実施の形態と、アウターリンクプレートの凹凸パターンが異なる点でのみ異なっている。このため、以下の説明では、上記第1の実施の形態と異なる点のみについて説明をし、他の部分については、その説明を省略する。
【0036】
図7(a)~(i)に示すように、本実施の形態に係る凹凸パターン9は、アウターリンク中間部613の外側面の凹凸領域613aに設けられており、複数のV溝部92と、複数の突条部91と、によって形成されている。具体的には、
図7(i)及び
図8に示すようにV溝部92は、断面V字形状をした溝部であり、アウターリンクプレート61の長手方向に延設されている。また、上記V溝部92は、所定ピッチを存してアウターリンクプレート61の短手方向に複数、並んで配設されており、これら複数のV溝部92の間が上記突条部91となっている。溝部92の断面形状は、V字形に限定されるものではなく、U字形であってもよい。
【0037】
突条部91は、V溝部92に対して突出した凸部となっており、周辺領域613bと同一高さの平面によって構成されている。そして、これらV溝部92と突条部91とが短手方向に交互に並ぶことによって、上記凹凸パターン9が形成されている。即ち、本実施の形態では、アウターリンク中間部613の外側面の凹凸領域613aに、長手方向に延びる平行なV溝部92を複数、形成することによって、凹凸パターン9が形成されている。このように、本実施の形態では、アウターリンクプレート61の外側面にV溝を形成するだけで、凹凸パターン9を設けることができる。
【0038】
本実施の形態に係る凹凸領域613aは、
図7(a)において二点鎖線で示す想像線によって定められている。具体的には、想像線は、
図4(a)に示す第1の実施の形態のように、上下一対のくびれ縁部613a1と、左右一対の円弧縁部613a2と、くびれ縁部613a1と円弧縁部613a2とを繋ぐ4つの隅部613a3とで定められている。各隅部613a3は、第1の実施の形態のように、突出した形状となっている。凹凸領域613aは、隅部が突出していない矩形状の領域形状であってもよい。なお、
図9に凹凸領域613aを示す想像線を消去し、外形線のみを示した状態の
図7を示す。
【0039】
<第3の実施の形態>
ついで、第3の実施の形態について説明をする。なお、本実施の形態は、第1の実施の形態と、アウターリンクプレートの凹凸パターンが異なる点でのみ異なっている。このため、以下の説明では、上記第1の実施の形態と異なる点のみについて説明をし、他の部分については、その説明を省略する。
【0040】
図10に示すように、本実施の形態に係る凹凸パターン10は、アウターリンク中間部613のみならず、第1アウターリンク端部611から第2アウターリンク端部612に亘ってアウターリンクプレート61の外側面の略全面に凹凸パターン10が形成されている。より具体的には、凹凸パターン10は、複数の突条部101と、複数の溝部102とによって波形の凹凸パターンが形成されている。
【0041】
突条部101は、断面円弧形状を有していると共にアウターリンクプレート61の長手方向に第1アウターリンク端部611からアウターリンク中間部613を介して第2アウターリンク端部612まで延設されている。また、突条部101は、所定ピッチを存してアウターリンクプレート61の短手方向に複数、並んでおり、これら平行な突条部101の間が突条部101と曲面または略直角で連続的につながる溝部102となっている。そして、これら突条部101と溝部102とが短手方向に交互に並ぶことによって、上記波形の凹凸パターン10が形成されている。
【0042】
また、上記凹凸パターン10が形成された凹凸領域613aの周囲には周辺領域613bが形成されており、周辺領域613bは、凹凸パターンを有さない平面によって構成されている。なお、本実施の形態において、周辺領域613bの平面は、第1の実施の形態と同様に、突条部101の頂点部と同じ高さとなるように構成されているが、突条部101の頂点部よりも低くなるように構成されても良い。
【0043】
このように、アウターリンクプレート61の外側面の略全面に凹凸パターン10を形成することによって、リアスプロケット311の歯側面との摺動面積をより効果的に減らすことができる。
【0044】
<第4の実施の形態>
ついで、第4の実施の形態について説明をする。なお、本実施の形態は、第3の実施の形態と、アウターリンクプレートの凹凸パターンが異なる点でのみ異なっている。このため、以下の説明では、上記第1の実施の形態と異なる点のみについて説明をし、他の部分については、その説明を省略する。
【0045】
図11に示すように、本実施の形態に係る凹凸パターン11は、アウターリンク中間部613のみならず、第1アウターリンク端部611から第2アウターリンク端部612に亘ってアウターリンクプレート61の外側面の略全面に凹凸パターン11が形成されている。より具体的には、凹凸パターン11は、複数の突条部111と、複数の溝部112とによって凹凸パターンが形成されている。
【0046】
突条部111は、断面円弧形状を有していると共にアウターリンクプレート61の長手方向と交差する斜め方向に延設されている。上記斜め方向に延びる突条部111は、所定ピッチを存してアウターリンクプレート61の長手方向に複数、並んでおり、第1アウターリンク端部611からアウターリンク中間部613を介して第2アウターリンク端部612まで設けられている。また、これら複数の突条部111の間が隣接する突条部111と曲面または略直角で連続的につながる溝部112となっている。そして、これら突条部111と溝部112とが交互に並ぶことによって、上記凹凸パターン11が形成されている。また、図示はしないが、突条部111のそれぞれは、アウターリンクプレート61の長手方向と互いに異なる角度で交差するよう斜め方向に延設されていてもよい。
【0047】
<第5の実施の形態>
ついで、第5の実施の形態について説明をする。なお、本実施の形態は、第4の実施の形態と、アウターリンクプレートの凹凸パターンが異なる点でのみ異なっている。このため、以下の説明では、上記第1の実施の形態と異なる点のみについて説明をし、他の部分については、その説明を省略する。
【0048】
図12に示すように、本実施の形態に係る凹凸パターン12は、アウターリンク中間部613のみならず、第1アウターリンク端部611から第2アウターリンク端部612に亘ってアウターリンクプレート61の外側面の略全面に凹凸パターン10が形成されている。より具体的には、凹凸パターン12は、複数の突条部121と、複数の溝部122とによって凹凸パターンが形成されている。
【0049】
突条部121は、断面円弧形状を有していると共にアウターリンクプレート61の短手方向に延設されている。上記短手方向に延びる突条部121は、所定ピッチを存してアウターリンクプレート61の長手方向に複数、並んでおり、第1アウターリンク端部611からアウターリンク中間部613を介して第2アウターリンク端部612まで設けられている。また、これら複数の突条部121の間が隣接する突条部121と曲面または略直角で連続的につながる溝部122となっている。そして、これら突条部121と溝部122とが交互に並ぶことによって、上記凹凸パターン12が形成されている。また、本実施の形態では、周辺領域613bは存在せず、複数の突条部121及び溝部122は、アウターリンクプレート61の外形縁まで延設されている。
【0050】
<第6の実施の形態>
ついで、第6の実施の形態について説明をする。なお、本実施の形態は、第4の実施の形態と、アウターリンクプレートの凹凸パターンが異なる点でのみ異なっている。このため、以下の説明では、上記第1の実施の形態と異なる点のみについて説明をし、他の部分については、その説明を省略する。
【0051】
図13に示すように、本実施の形態に係る凹凸パターン13は、アウターリンク中間部613のみならず、第1アウターリンク端部611から第2アウターリンク端部612に亘ってアウターリンクプレート61の外側面の略全面に凹凸パターン13が形成されている。より具体的には、凹凸パターン13は、複数の第1突条部131と、複数の第2突条部132と、これら第1突条部131及び第2突条部132との間の複数の凹部133とによって凹凸パターンが形成されている。
【0052】
第1突条部131は、断面円弧形状を有していると共にアウターリンクプレート61の長手方向に対して斜めに傾斜した第1斜め方向に延設されている。また、第2突条部132は、断面略半円形状を有していると共にアウターリンクプレート61の長手方向に対して第1斜め方向とは異なる角度で傾斜した第2斜め方向に延設されている。上記第1及び第2突条部131,132は、それぞれ、所定ピッチを存してアウターリンクプレート61の長手方向に複数、並んでおり、第1アウターリンク端部611からアウターリンク中間部613を介して第2アウターリンク端部612まで設けられている。
【0053】
また、凹凸パターン13において、上記第1突条部131と第2突条部132とが交差して、例えば直交して形成された交点134が頂点部となっていると共に、これら記第1突条部131及び第2突条部132に囲まれた領域が上記凹部133となっている。このように、第1突条部131及び第2突条部132との交点134を凹凸パターン13において最も外側へと突出した頂点部として形成したことにより、リアスプロケット311の歯側面との接触を点接触とすることが可能となり、効果的に上記リアスプロケット311の歯側面との摺動面積を低減することができる。
【0054】
<第7の実施の形態>
ついで、第7の実施の形態について説明をする。なお、本実施の形態は、第4の実施の形態と、アウターリンクプレートの凹凸パターンが異なる点でのみ異なっている。このため、以下の説明では、上記第1の実施の形態と異なる点のみについて説明をし、他の部分については、その説明を省略する。
【0055】
図14に示すように、本実施の形態に係る凹凸パターン14は、アウターリンク中間部613のみならず、第1アウターリンク端部611から第2アウターリンク端部612に亘ってアウターリンクプレート61の外側面の略全面に凹凸パターン13が形成されている。より具体的には、凹凸パターン14は、複数のディンプル142と、複数の凸部141とによって凹凸パターンが形成されている。
【0056】
本実施の形態においてディンプル142は、円形に凹んだ窪みであり、所定の間隔で第1アウターリンク端部611からアウターリンク中間部613を介して第2アウターリンク端部612まで設けられている。また、上記複数のディンプル142の間が凹凸パターン14において最も外側へと突出した凸部141となっている。本実施の形態では、この凸部141が変速時にリアスプロケット311の歯側面と点接触とするため、効果的に上記リアスプロケット311の歯側面との摺動面積を低減することができる。なお、ディンプル142は、略矩形に凹んだ窪みであってもよい。
【0057】
なお、上述した実施の形態では、変速機がリア側のみに設けられている例について説明をしたが、フロントスプロケットを多段化し、フロント側にも変速機を設けても良い。また、フロント側には、電動アシストモータからの動力が入力されるようにしても良い。更に、自転車用チェーン4は、ブッシュありのチェーンであっても良い。
【0058】
また、アウターリンクプレート61の外側面に形成される凹凸パターンは、上述した例に留まらず、例えば、アウターリンクプレート61の外側面に、所定ピッチで同心円状に凸部が設けられたり、ドット状の複数の凸部が配設されたりして凹凸パターンが構成されても良い。更に、凹凸パターンは、アウターリンクプレート61の外側面の全体に形成されてもその一部に形成されても良い。加えて、上述した実施の形態に記載された発明は、どのように組み合わされても良い。
【符号の説明】
【0059】
4:自転車用チェーン、5:インナーリンク、6:アウターリンク、51:インナーリンクプレート、61:アウターリンクプレート、62:チェーンピン、7,9,10,11,12,13,14:凹凸パターン