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特開2024-109474信号処理装置、信号処理方法、信号処理プログラム、および陽電子放出断層撮影装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109474
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】信号処理装置、信号処理方法、信号処理プログラム、および陽電子放出断層撮影装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20240806BHJP
   G01T 1/161 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
G01T1/20 F
G01T1/20 J
G01T1/20 E
G01T1/20 G
G01T1/161 C
G01T1/161 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014284
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英治
(72)【発明者】
【氏名】山谷 泰賀
【テーマコード(参考)】
2G188
4C188
【Fターム(参考)】
2G188AA02
2G188BB04
2G188BB07
2G188BB15
2G188CC23
2G188DD05
2G188EE12
2G188EE16
2G188EE29
2G188EE39
2G188FF16
2G188FF30
4C188EE02
4C188FF07
4C188GG19
4C188JJ02
4C188KK01
4C188KK09
4C188KK15
4C188KK21
4C188KK33
4C188KK35
(57)【要約】
【課題】受光素子での検出タイミングを効率的に補正可能な信号処理装置を実現する。
【解決手段】信号処理装置は、複数の検出ユニットの各々により検出された蛍光強度の重心位置を算出し、算出された重心位置に基づいて、放射線が入射した検出ユニット、及び、放射線が属するエネルギーウィンドウを特定し、特定された検出ユニット、及び、エネルギーウィンドウに基づいて、放射線が検出ユニットに入射した時刻を補正する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス状に配置された複数の検出ユニットを含み、各検出ユニットがシンチレータと該シンチレータからの蛍光を検出する受光素子とにより構成された放射線検出装置からの出力信号を処理する信号処理装置であって、
前記複数の検出ユニットの各々により検出された蛍光強度の重心位置を算出する算出処理と、
前記算出処理にて算出された重心位置に基づいて、放射線が入射した検出ユニット、及び、前記放射線が属するエネルギーウィンドウを特定する特定処理と、
前記特定処理にて特定された検出ユニット、及び、前記特定処理にて特定されたエネルギーウィンドウに基づいて、前記放射線が当該検出ユニットに入射した時刻を補正する補正処理と、を実行するプロセッサを備えている、
ことを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
前記重心位置は、前記複数の検出ユニットの各々に対応する領域に区間された二次元面であって、前記複数の領域の各々が複数のエネルギーウィンドウの各々に対応する小領域に区画された二次元面上の位置であり、
前記特定処理において、前記プロセッサは、前記複数の領域のうち前記重心位置を含む領域に対応する検出ユニットを、前記放射線が入射した検出ユニットとして特定すると共に、前記複数の小領域のうち前記重心位置を含む小領域に対応するエネルギーウィンドウを、前記放射線が属するエネルギーウィンドウとして特定し、
前記補正処理において、前記プロセッサは、前記複数の検出ユニットの各々、及び、前記複数のエネルギーウィンドウの各々に対応する補正係数のうち、前記特定処理にて特定された検出ユニット、及び、前記特定処理にて特定されたエネルギーウィンドウに対応する補正係数を用いて、前記時刻を補正する、
ことを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記放射線検出装置からの出力信号、及び、前記放射線検出装置と同様に構成された他の放射線検出装置であって、前記放射線検出装置と対向して配置された他の放射線検出装置からの出力信号に基づいて、前記複数の検出ユニットの各々、及び、前記複数のエネルギーウィンドウの各々に対応する補正係数を校正する校正処理を更に実行する、
ことを特徴とする請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記放射線は、γ線である、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の信号処理装置。
【請求項5】
マトリクス状に配置された複数の検出ユニットを含み、各検出ユニットがシンチレータと該シンチレータからの蛍光を検出する受光素子とにより構成された放射線検出装置からの出力信号を処理する信号処理方法であって、
プロセッサが、前記複数の検出ユニットの各々により検出された蛍光強度の重心位置を算出する算出処理と、
前記プロセッサが、前記算出処理にて算出された重心位置に基づいて、放射線が入射した検出ユニット、及び、前記放射線が属するエネルギーウィンドウを特定する特定処理と、
前記プロセッサが、前記特定処理にて特定された検出ユニット、及び、前記特定処理にて特定されたエネルギーウィンドウに基づいて、前記放射線が当該検出ユニットに入射した時刻を補正する補正処理と、を含んでいる、
ことを特徴とする信号処理方法。
【請求項6】
コンピュータを請求項1に記載の信号処理装置として動作させるための信号処理プログラムであって、前記コンピュータが備えるプロセッサに、前記算出処理、前記特定処理、及び前記補正処理を実行させる、
ことを特徴とする信号処理プログラム。
【請求項7】
請求項4に記載の信号処理装置と、前記放射線検出装置と、を備えている、
ことを特徴とする陽電子放出断層撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置、信号処理方法、信号処理プログラム、および陽電子放出断層撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象(例えば、人体)から放射される放射線(例えば、γ線)を計測して、測定対象の状態を観測する放射線撮影装置(例えば、PET装置)が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
放射線撮影装置は、放射線を光(蛍光)に変換する変換素子と、変換素子によって変換された光を検出する複数の受光素子と、を有する。複数の受光素子それぞれでの蛍光の検出のタイミングの差(TOF)に基づいて、測定対象上での放射線の発生個所を特定することができる。このため、各受光素子での検出タイミングを特定することが重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-56700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、受光素子での検出タイミングには、例えば、タイムウォーク(Time walk)、タイムスキュー(time skew)に起因する誤差がある。ここで、各受光素子での検出信号毎に検出タイミングを補正することが考えられるが、専用のハードウェアを用いて、誤差要因ごとに補正を実施する等、処理が煩雑となる。
【0006】
本発明の一態様は、受光素子での検出タイミングを効率的に補正可能な信号処理装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る信号処理装置は、マトリクス状に配置された複数の検出ユニットを含み、各検出ユニットがシンチレータと該シンチレータからの蛍光を検出する受光素子とにより構成された放射線検出装置からの出力信号を処理する信号処理装置であって、前記複数の検出ユニットの各々により検出された蛍光強度の重心位置を算出する算出処理と、前記算出処理にて算出された重心位置に基づいて、放射線が入射した検出ユニット、及び、前記放射線が属するエネルギーウィンドウを特定する特定処理と、前記特定処理にて特定された検出ユニット、及び、前記特定処理にて特定されたエネルギーウィンドウに基づいて、前記放射線が当該検出ユニットに入射した時刻を補正する補正処理と、を実行するプロセッサを備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、受光素子での検出タイミングを効率的に補正可能な信号処理装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る放射線撮影装置の構成を示す図である。
図2】放射線撮影装置の放射線検出装置の構成を示す図である。
図3】信号処理方法での処理の流れを示すフロー図である。
図4】タイムウォークを表す図である。
図5】検出部に対応する領域での放射線の検出結果の一例を表す図である。
図6図5の領域を拡大して表す図である。
図7】γ線のエネルギースペクトルを表す図である。
図8】検出マップを表す図である。
図9】校正時の放射線検出装置の配置の一例を表す図である。
図10】素子番号、ROI番号と補正係数の関係を表す図である。
図11】重畳したアナログ検出信号を表す図である。
図12】領域Aijの区分数が異なる検出マップを表す図である。
図13】重畳したアナログ検出信号を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図1を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る放射線撮影装置10の構成を示す図である。図1の左右方向、上下方向、紙面の表裏方向それぞれに、X方向、Y方向、Z方向が設定されている。図2は、放射線撮影装置10の放射線検出装置20の構成を示す図である。図2は、図1のY正方向から放射線検出装置20を見た図である。
【0011】
放射線撮影装置10は、放射線検出装置20、信号処理装置30を有する。放射線撮影装置10は、放射線(例えば、γ線)を用いて測定対象を撮像する、例えば、陽電子放出断層撮影(PET:Positron Emission Tomography)装置である。
【0012】
放射線検出装置20は、検出部40、検出回路50を有する。
【0013】
検出部40は、マトリクス状に配置された複数の検出ユニット40(i,j)を含み、検出ユニット40(i,j)それぞれが放射線を検出したアナログ検出信号Saを出力する。ここでは、検出部40は、X方向にm個、Y方向にn個の、検出ユニット40(1,1)~40(n,m)を含む(m、nは、2以上の整数、iは、1以上、m以下の整数、jは、1以上n以下の整数)。ここでは、m、nは、8であり、検出部40は、8*8=64個の検出ユニット40(i,j)を有する。
【0014】
検出ユニット40(i,j)は、シンチレータ41(i,j)と、受光素子42(i,j)を有する。シンチレータ41(i,j)は、受光素子42(i,j)と1対1で光学接続されている。具体的には、シンチレータ41(i,j)の底面は、受光素子42(i,j)の受光面に光学接続されている。この結果、シンチレータ41(i,j)で発生した蛍光は、受光素子42(i,j)に到達して、検出信号が出力される。すなわち、シンチレータ41(i,j)に入射した放射線が検出される。
【0015】
シンチレータ41(i,j)は、放射線(例えば、γ線)を光(蛍光)に変換する変換素子(例えば、結晶)である。シンチレータ41(i,j)は、X方向にm個、Y方向にn個配置され、シンチレータアレー41を構成する。なお、シンチレータ41(i,j)の間に反射材43が配置されてもよい。
【0016】
本実形態では、シンチレータ41(i,j)に、Fast-LGSO(Ce:LuGd(2-x)SiO)を用いる。この他のシンチレータ材料として、LYSO(Lutetium Yttrium Orthosilicate)、GAGG(Gd(Ga,Al)12(Ce))及びLFS(Lutetium Fine Silicate)が挙げられる。
【0017】
受光素子42(i,j)は、受光素子42(i,j)から発生する蛍光を増幅した後、受光して、アナログ検出信号Saを出力する。受光素子42(i,j)は、X方向にm個、Y方向にn個配置され、受光素子アレー42を構成する。アナログ検出信号Saは、検出ユニット40(i,j)が放射線を検出したことを表す信号として、検出部40から出力される。
【0018】
本実施形態においては、受光素子42(i,j)として、SiPM(Silicon Photo Multiplier)の一種であるMPPC(Multi Pixel photon counter)を用いているが、その他のSiPMも利用可能である。
【0019】
検出回路50は、受光素子42(i,j)から出力されるアナログ検出信号SaをAD変換してデジタル検出信号Sbを出力する。デジタル検出信号Sbは、素子識別子IDe、蛍光強度I、検出時刻Td(タイムスタンプ値)を含む。
素子識別子IDeは、蛍光を検出した受光素子42(i,j)、すなわち、放射線を検出した検出ユニット40(i,j)を識別する情報である。素子識別子IDeは、例えば、受光素子42(i,j)に付与した素子番号kである。素子番号kは、例えば、「k=i+(j-1)*n」と規定できる。
【0020】
蛍光強度Iは、受光素子42(i,j)が検出した蛍光の強度である。
検出時刻Tdは、受光素子42(i,j)が蛍光を検出した時刻、いわゆるタイムスタンプ値である。既述のように、検出時刻Tdは、タイムウォーク、タイムスキュー等に起因する誤差を含む。
【0021】
ここで、デジタル検出信号Sbは、受光素子42(i,j)毎に、1イベント、すなわち、1の放射線の入射に対応する時間幅(例えば、psオーダ)を単位として、アナログ検出信号Saを処理することで生成される。放射線検出装置20上で、より多くのイベントを処理するためである。
【0022】
信号処理装置30は、検出回路50から出力されるデジタル検出信号Sbを処理する装置であり、プロセッサ31,一次メモリ32,二次メモリ33,入出力インタフェース34,バス35を有する。プロセッサ31、一次メモリ32、二次メモリ33、及び入出力インタフェース34は、バス35を介して相互に接続されている。
【0023】
二次メモリ33には、信号処理プログラムP1と、後述の検出マップM0、および補正係数R(k,p)とが格納(不揮発記憶)されている。プロセッサ31は、二次メモリ33に格納されている信号処理プログラムP1を一次メモリ32上に展開する。そして、プロセッサ31は、一次メモリ32上に展開された信号処理プログラムP1に含まれる命令に従って、後述する信号処理方法S1に含まれる各ステップを実行する。
【0024】
プロセッサ31として利用可能なデバイスとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)を挙げることができる。また、一次メモリ32として利用可能なデバイスとしては、例えば、半導体RAM(Random Access Memory)を挙げることができる。また、二次メモリ33として利用可能なデバイスとしては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)を挙げることができる。
【0025】
入出力インタフェース34には、入力デバイス及び/又は出力デバイスが接続される。入出力インタフェース34に接続される入力デバイスとしては、例えば、キーボードなどが挙げられる。また、入出力インタフェース34に接続される出力デバイスとしては、例えば、ディスプレイが挙げられる。ディスプレイは、例えば、後述する信号処理結果を出力するために利用される。
【0026】
入出力インタフェース34として利用可能なインタフェースとしては、例えば、PCI(Peripheral Component Interconnect)インタフェースやUSB(Universal Serial Bus)などを挙げることができる。
【0027】
なお、信号処理プログラムP1は、コンピュータ読み取り可能な一時的でない有形の記録媒体に記録され得る。この記録媒体は、二次メモリ33であってもよいし、その他の記録媒体であってもよい。例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブル論理回路などが、その他の記録媒体として利用可能である。
【0028】
(信号処理方法の流れ)
信号処理装置30が実施する信号処理方法S1の流れについて、図3を参照して説明する。図3は、信号処理方法S1での処理の流れを示すフロー図である。
【0029】
信号処理方法S1は、算出処理S11、特定処理S12、および補正処理S13を含み、検出回路50から出力されるデジタル検出信号Tbを処理して、検出時刻を補正する。
【0030】
ここで、デジタル検出信号Tbの検出時刻Tdに含まれる誤差について説明する。この誤差要因には、タイムウォーク、タイムスキューを挙げることができる。
【0031】
タイムウォークは、アナログ検出信号Saの波高、すなわち、蛍光強度に起因する、検出時刻の誤差を意味する。図4は、タイムウォークを表す図である。波高の異なるアナログ検出信号Saの波形PW1、PW2が表される。波形PW1、PW2が所定の閾値Thに到達した時刻を検出時刻Tdとしている。図に示すように、ピークとなる時刻が同一であっても、波高の高い波形PW2が波高の低い波形PW1よりも先に閾値Thに達し、波形PW1、PW2間でタイムウォークTwだけの検出時刻Tdのずれが発生する。すなわち、エネルギーが低い波形は、検出時刻Tdが遅れる傾向となる。
【0032】
タイムスキューは、基本的には、受光素子42(i,j)から出力された検出信号が検出回路50に至る時間の相違に起因する検出時刻Tdの誤差を意味する。タイムスキューは、例えば、受光素子42(i,j)から検出回路50に至る配線長等に応じて変化する。
【0033】
検出時刻Tdの誤差は、タイムウォーク、およびタイムスキューのみならず、検出素子や受光素子自体の個性に起因しても、発生する。このため、検出時刻Tdの誤差は、検出素子や受光素子自体の個性をも含めた、受光素子42(i,j)に応じて変化する検出時刻Tdの誤差として把握することが合理的である。
【0034】
図5は、検出部40に対応して、k個の入力を重心演算によって2次元に投影した領域A0上での放射線の検出結果の一例を表す図である。領域A0は、検出ユニット40(i,j)に対応する領域Aijに区分される。図6の(a)は、図5の領域Aijを拡大して表す図である。
【0035】
ガンマ線の作用は、受光素子42(i,j)に全エネルギーを付与する光電吸収と一部のエネルギーのみを付与するコンプトン散乱とに分類される。図5に示すように、光電吸収は、領域A0上にシンチレータごとに局所的に分布する。コンプトン散乱は、エネルギーウィンドウによって、その大部分は、ノイズとして除去される。しかし、コンプトン散乱には、複数の受光素子42で検出され、最終的に全エネルギーを付与するイベント(結晶内散乱ICS)も存在し、この結晶内散乱ICSは、放射線検出装置20のエネルギーウィンドウでは除去できない。すなわち、図6に示すように、領域Aijで発生した蛍光は、結晶内散乱ICSによって、一般に、隣接する領域Aijに散乱される。このため、1のイベント(1のγ線の入射)に対して、互いに隣接する複数の受光素子42がこのγ線からの蛍光を受光することになる。この結果、後述のように、1のイベントの範囲で重心演算を行うと(後述の式(1)参照)、重心位置(x,y)は、領域Aijの中心からずれる傾向となる。
【0036】
図6に示すように、領域Aijは、領域Aijの中心を基準とする領域ROI1,ROI2、ROI3に区分される。領域ROI1の外側に、領域ROI2が、領域ROI2の外側に、領域ROI3が配置される。ここでは、領域Aijを3つの領域ROI1~ROI3に区分しているが、この区分の数は、2、または4以上としてもよい。
【0037】
図7は、γ線のエネルギースペクトルを表す図である。図7には、素子番号1~kの受光素子42それぞれのエネルギースペクトルSP1~SPkと、放射線検出装置20でのエネルギースペクトルSPTが示される。なお、蛍光を検出しなかった受光素子42は、エネルギースペクトルSPを出力しない。エネルギースペクトルSP1~SPkを加算することで、エネルギースペクトルSPTが得られる。ここで、エネルギーウィンドウW1~W3の範囲は、個々の受光素子42でのエネルギースペクトルを分割したものである。エネルギーウィンドウW1、W2、W3は、この順に、エネルギーが大きい。放射線検出装置20で取得するイベントは、エネルギーウィンドウW4内のイベントであり、エネルギーウィンドウW4内には結晶内散乱ICSも含まれる。
【0038】
ここで、図6に示す領域ROI1~ROI3は、図7に示すγ線のエネルギースペクトルのエネルギーウィンドウW1~W3と対応する。すなわち、エネルギーの高いγ線での重心位置(x,y)は、領域Aijの中心に近く、エネルギーの低いγ線での重心位置(x,y)は、領域Aijの中心から離れる傾向となる。γ線のエネルギーは、蛍光のエネルギーと対応するため、領域ROI1~ROI3は、蛍光のエネルギー、さらには、タイムウォークと対応することになる。
【0039】
(1)算出処理S11
プロセッサ31は、複数の検出ユニット40(i,j)の各々により検出された蛍光強度(放射線の強度)Iijの重心位置(x,y)を算出する。重心位置(x,y)は、次の式(1)に基づく重心演算によって算出できる。なお、この重心位置の演算は、時間を区切って、1イベントの範囲で行われる。
x=Σ Σ (i*Iij)/Σ Σ (Iij
y=Σ Σ (j*Iij)/Σ Σ (Iij) …式(1)
ij: 検出ユニット40(i,j)で検出された蛍光の強度
【0040】
(2)特定処理S12
プロセッサ31は、算出された重心位置(x,y)に基づいて、放射線が入射した検出ユニット40(i,j)、及び、領域ROI1~ROI3を特定する。すなわち、重心位置(x,y)が属する領域Aijおよび領域Aij内での領域R0I1~0I3が特定される。
【0041】
重心位置(x,y)は、検出部40に対応する平面を有する検出マップM0上に表すことができる。図8は、検出マップM0を表す図である。検出マップM0は、検出部40上の平面を検出ユニット40(i,j)の各々に対応する領域Aijに区分した二次元面である。領域Aijは、領域R0I1~R0I3に区分される。検出マップM0上に重心位置(x,y)を表すことで、重心位置(x,y)が属する領域Aij、R0I1~0I3を特定できる。既述のように、検出マップM0は、二次メモリ33に記憶されている。
【0042】
(3)補正処理S13
プロセッサ31は、特定処理にて特定された検出ユニット40(i,j)、及び、領域ROI1~ROI3に基づいて、放射線が検出ユニット40(i,j)に入射した時刻(検出時刻Td)を補正する。
【0043】
プロセッサ31は、複数の検出ユニット40(i,j)の各々、及び、領域ROI1~ROI3の各々に対応する補正係数Rを用いて、検出時刻Tdを補正する。
【0044】
具体的には、次の式(2)に基づいて検出時刻Tdを補正できる。
Td1(k,p)=Td0(k,p)+R(k,p) …式(2)
Td0:補正前の検出時刻Td
Td1:補正後の検出時刻Td
R:補正係数
k:素子番号(k=(j-1)*m+i)
p:ROI識別子(1:ROI1,2:ROI2,3:ROI3)
【0045】
B.校正処理
以下、放射線検出装置20に対応して補正係数を校正する校正処理を一対の放射線検出装置20からなるシンプルな系を用いて説明する。
(1)校正用デジタル検出信号Sb1、Sb2の取得
放射線検出装置20aからの出力信号(デジタル検出信号Sb1)、及び、放射線検出装置20aと対向して配置された他の放射線検出装置20bからの出力信号(デジタル検出信号Sb2)を取得する。放射線検出装置20bは、放射線検出装置20aと同様に構成される。
【0046】
校正用線源SPからの放射線(具体的には、後述の同時計測線)を放射線検出装置20a、20bによって検出することで、校正用デジタル検出信号Sb1、Sb2を取得する。図9は、校正時の放射線検出装置20a、20bの配置の一例を表す図である。図8に示すように、複数の放射線検出装置20がリング状に配置される。この内、放射線検出装置20a、20b(検出部40a、40b)は、校正用線源SPを挟んで互いに対向し、校正用線源SPからの放射線を検出する。このとき、放射線検出装置20a、20bは、校正用線源SPからの距離が略等しいことが好ましい。また、放射線検出装置20a、20bは、略同等の装置であることが好ましい。ここでは、複数の放射線検出装置20をリング状に配置したが、他の配置としてもよい。例えば、1対の放射線検出装置20a、20bを対向配置してもよい。
【0047】
校正用線源SPから一対の放射線(例えば、γ線)が逆方向に同時に発せられることがある。例えば、γ線源は、電子、陽電子の衝突によって、1対のγ線を逆方向に放射する。この一対の放射線は、検出部40a、40bにおいて、事実上同一時刻に検出され得るため、同時計数線と呼ばれる。この同時計数線を用いることで、デジタル検出信号Sbの校正が可能となる。
【0048】
校正用線源SPは、ここでは、γ線源である22Naの点線源とするが、回転する線源、円筒線源でもよい。なお、回転する線源、円筒線源は、点線源よりも多様な同時計測線のデータを取得できる。
【0049】
放射線検出装置20a、20bからの出力信号(デジタル検出信号Sb1、Sb2)に基づいて、複数の検出ユニット40(i,j)の各々、及び、複数のエネルギーウィンドウW1~W3の各々に対応する補正係数Rを校正する。具体的には、次のように、(2)重心演算、(3)重心位置(x,y)の区分、(4)補正係数Rの特定が行われる。
【0050】
(2)重心演算
複数の検出ユニット40(i,j)の各々により検出された蛍光強度(放射線の強度)Iijの重心位置(x,y)が算出される。この算出は、算出処理S11と同様、式(1)を用いることができる。なお、算出処理S11では、1のイベントについて、重心位置(x,y)を算出すれば足りたのに対して、ここでは、複数のイベントそれぞれについて、重心位置(x,y)を算出する。この結果、多数の重心位置(x,y)が算出される。
【0051】
(3)重心位置(x,y)の区分
演算された各重心位置(x,y)を検出ユニット40a、40bの領域Aij、および領域R0I1~R0I3に区分する。1対の同時計測線は、同一のエネルギーを有し、重心位置(x,y)は、領域Aijが異なっていても、基本的に同一の領域R0I1~R0I3に配置されると考えられる。
【0052】
(4)補正係数Rの特定
以上のように分類された領域Aijおよび領域ROI1~ROI3毎に、同時計測線の検出時刻のずれに基づき、補正係数Rklを特定する。例えば、同時計測によって取得される検出時間差分布(タイミングヒストグラム)のピーク中心が検出ユニット40aの素子番号k1の領域ROIpおよび素子番号k2の領域ROIpである場合、これらの間での検出時刻の差は、両者の補正係数R(k1,p)、R(k2,p)の差に対応すると考えられる。なお、検出時間差分布(タイミングヒストグラム)は、同時計数によって算出した時間差をヒストグラム化したものである。個々の補正係数Rの特定は、複数の同時計測線を用いて、種々の素子番号k(および領域ROIp)での結果を統計的に処理することで行うことができる。
【0053】
図10は、素子番号k、ROI番号pと補正係数Rの対応関係を表す図である。(a1)~(c1)は、素子番号12,64で,ROI1のとき、(a2)~(c2)は、素子番号12,64で,ROI2のとき、(a3)~(c3)は、素子番号12,64で,ROI3のときのタイミングヒストグラム、補正係数Rkpを表す。
【0054】
このように本実施形態では、検出ユニット40(i,j)に対応する領域Aijをエネルギーウィンドウに対応する略同心円の領域ROI1~ROI3に区分し、区分した領域毎に補正係数を割り当てることでタイムウォーク及びタイムスキューを一括で補正できる。
【0055】
図11は、重畳したタイミングヒストグラムを表す図である。領域ROI1~ROI3でのタイミングヒストグラムを重ね合わせている。(a)では、検出時刻Tdを補正せずにタイミングヒストグラムを重ね合わせ、(b)では、検出時刻Tdを補正したタイミングヒストグラムを重ね合わせている。(a)と(b)を比較すれば、判るように、検出時刻Tdを補正することでタイミングヒストグラムの幅が減少し、時間分解能が向上していることが分かる。
【0056】
図12は、領域Aijの区分数が異なる検出マップを表す図である。(a)は、領域Aijを区分せず、(b)~(d)では領域Aijを2~4に区分している。図13は、重畳したタイミングヒストグラムを表す図である。図13(a)~(d)は、図12(a)~(d)に対応する。このように、領域Aijの区分数を増やすことで、時間分解能が向上し、区分数を4とすることで、区分しない場合と比べて、時間分解能が53.2ps向上した。なお、図13にも示されるように、区分数を増加するにつれて、時間分解能の向上の程度は低減する。すなわち、統計誤差との兼ね合いもあり、区分数の増加による時間分解能の向上には限界がある。
【0057】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0058】
(まとめ)
【0059】
態様1の信号処理装置は、マトリクス状に配置された複数の検出ユニットを含み、各検出ユニットがシンチレータと該シンチレータからの蛍光を検出する受光素子とにより構成された放射線検出装置からの出力信号を処理する信号処理装置であって、前記複数の検出ユニットの各々により検出された蛍光強度の重心位置を算出する算出処理と、前記算出処理にて算出された重心位置に基づいて、放射線が入射した検出ユニット、及び、前記放射線が属するエネルギーウィンドウを特定する特定処理と、前記特定処理にて特定された検出ユニット、及び、前記特定処理にて特定されたエネルギーウィンドウに基づいて、前記放射線が当該検出ユニットに入射した時刻を補正する補正処理と、を実行するプロセッサを備えている。これにより、特定された検出ユニット、及び、エネルギーウィンドウに基づいて、放射線が入射した時刻を効率的に補正できる。
【0060】
態様2の信号処理装置は、態様1の信号処理装置において、前記重心位置は、前記複数の検出ユニットの各々に対応する領域に区間された二次元面であって、前記複数の領域の各々が複数のエネルギーウィンドウの各々に対応する小領域に区画された二次元面上の位置であり、前記特定処理において、前記プロセッサは、前記複数の領域のうち前記重心位置を含む領域に対応する検出ユニットを、前記放射線が入射した検出ユニットとして特定すると共に、前記複数の小領域のうち前記重心位置を含む小領域に対応するエネルギーウィンドウを、前記放射線が属するエネルギーウィンドウとして特定し、前記補正処理において、前記プロセッサは、前記複数の検出ユニットの各々、及び、前記複数のエネルギーウィンドウの各々に対応する補正係数のうち、前記特定処理にて特定された検出ユニット、及び、前記特定処理にて特定されたエネルギーウィンドウに対応する補正係数を用いて、前記時刻を補正する。これにより、特定された検出ユニット、及び、エネルギーウィンドウに対応する補正係数を用いて、放射線が入射した時刻を効率的に補正できる。
【0061】
態様3の信号処理装置は、態様2の信号処理装置において、前記プロセッサは、前記放射線検出装置からの出力信号、及び、前記放射検出装置と同様に構成された他の放射線検出装置であって、前記放射線検出装置と対向して配置された他の放射線検出装置からの出力信号に基づいて、前記複数の検出ユニットの各々、及び、前記複数のエネルギーウィンドウの各々に対応する補正係数を校正する校正処理を更に実行する。これにより、特定された検出ユニット、及び、エネルギーウィンドウに対応する補正係数を用いて、放射線が入射した時刻を効率的に補正できる。
【0062】
態様4の信号処理装置は、態様1~3何れかの信号処理装置において、前記放射線は、γ線である。これにより、特定された検出ユニット、及び、エネルギーウィンドウに対応する補正係数を用いて、γ線が入射した時刻を効率的に補正できる。
【0063】
態様5の信号処理方法は、マトリクス状に配置された複数の検出ユニットを含み、各検出ユニットがシンチレータと該シンチレータからの蛍光を検出する受光素子とにより構成された放射線検出装置からの出力信号を処理する信号処理方法であって、プロセッサが、前記複数の検出ユニットの各々により検出された蛍光強度の重心位置を算出する算出処理と、前記プロセッサが、前記算出処理にて算出された重心位置に基づいて、放射線が入射した検出ユニット、及び、前記放射線が属するエネルギーウィンドウを特定する特定処理と、前記プロセッサが、前記特定処理にて特定された検出ユニット、及び、前記特定処理にて特定されたエネルギーウィンドウに基づいて、前記放射線が当該検出ユニットに入射した時刻を補正する補正処理と、を含んでいる。これにより、特定された検出ユニット、及び、エネルギーウィンドウに基づいて、放射線が入射した時刻を効率的に補正できる。
【0064】
態様6の信号処理プログラムは、コンピュータを態様1~4何れかの信号処理装置として動作させるための信号処理プログラムであって、前記コンピュータが備えるプロセッサに、前記算出処理、前記特定処理、及び前記補正処理を実行させる。これにより、コンピュータを用いて、放射線が入射した時刻を効率的に補正できる。
【0065】
態様7の陽電子放出断層撮影装置は、態様1~4いずれかに記載の信号処理装置と、前記放射線検出装置と、を備えている。これにより、陽電子放出断層撮影装置において、γ線が入射した時刻を効率的に補正できる。
【符号の説明】
【0066】
10 放射線撮影装置
20 放射線検出装置
30 信号処理装置
31 プロセッサ
32 一次メモリ
33 二次メモリ
34 入出力インタフェース
35 バス
40 検出部
40(i,j) 検出ユニット
41 シンチレータアレー
41(i,j) シンチレータ
42 受光素子アレー
42(i,j) 受光素子
43 反射材
50 検出回路
Sa アナログ検出信号
Sb デジタル検出信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13