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特開2024-109507岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置および湧水状態の判定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109507
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置および湧水状態の判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/47 20060101AFI20240806BHJP
   G01N 21/3554 20140101ALI20240806BHJP
   G01V 9/02 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
G01N21/47 B
G01N21/3554
G01V9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103995
(22)【出願日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2023014022
(32)【優先日】2023-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128392
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】吉野 尚人
(72)【発明者】
【氏名】蟹井 猛宏
【テーマコード(参考)】
2G059
2G105
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB20
2G059CC09
2G059EE02
2G059FF01
2G059HH01
2G059KK04
2G059MM05
2G105AA01
2G105BB16
2G105BB17
2G105CC01
2G105DD02
2G105EE06
2G105HH04
(57)【要約】
【課題】部品点数の削減や構造の簡略化を図りつつ、表面に水分がある有水分エリアを精度良く判定する。
【解決手段】切羽面等の表出面Fの水分状態を判定するための判定装置1であって、近赤外線の光を表出面Fに照射するライト3と、表出面Fから反射された光の強度解析をして表出面から反射された近赤外線の強度分布情報を取得する強度分布情報取得手段42と、該取得した強度分布情報から表出面Fの水分状態を判定する水分状態判定手段43とを備え、強度分布情報取得手段42は、水が吸収する特定波長の一つである波長1.3~1.4μmの領域の近赤外線の強度分布情報を取得し、水分状態判定手段43は、取得した波長1.3~1.4μmの領域の強度分布情報が、ライト3から発光された光強度に対して予め設定される閾値以下であると判断された場合に、該強度以下の分布エリアを表面に水分がある有水分エリアであると判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面として表出している岩盤面、切羽面、コンクリート施工面等の表出面の水分状態を判定するための判定装置であって、該判定装置は、
近赤外線の光を前記表出面に照射する近赤外線照射手段と、
表出面から反射された光の強度解析をして表出面から反射された近赤外線の強度分布情報を取得する強度分布情報取得手段と、
該取得した強度分布情報から表出面の水分状態を判定する水分状態判定手段と、を備え、
前記強度分布情報取得手段は、水が吸収する特定波長の一つである波長1.4μmの近赤外線の強度分布情報を取得するものであり、
前記水分状態判定手段は、前記取得した波長1.3~1.4μmの領域の強度分布情報が、前記近赤外線照射手段から発光された光強度に対して予め設定される閾値以下であると判断された場合に、該強度以下の分布エリアを表面に水分がある有水分エリアであると判定することを特徴とする岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置。
【請求項2】
前記近赤外線照射手段は、ハロゲンライトであり、前記強度分布情報取得手段は、近赤外線カメラの撮影画像に基づいて、波長1.3~1.4μmの領域の近赤外線の輝度を強度情報として取得することを特徴とする請求項1記載の岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置。
【請求項3】
前記水分状態判定手段は、ハロゲンライトから照射される近赤外線の輝度値を100%としたときに予め設定される基準輝度値を閾値として有水分エリアであるか否かの判断をすることを特徴とする請求項2記載の岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置。
【請求項4】
前記水分状態判定手段は、基準輝度値の閾値を、表出面の光反射率に基づいて補正することを特徴とする請求項2に記載の岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置。
【請求項5】
前記強度分布情報取得手段が取得した強度分布情報からノイズ反射光による異常な強度分布情報を除去する異常強度除去手段をさらに備え、
前記水分状態判定手段は、前記異常な強度分布情報が除去された強度分布情報に基づいて有水分エリアを判定することを特徴とする請求項1に記載の岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置。
【請求項6】
前記異常強度除去手段は、前記表出面の種類毎に設定される除去用閾値を保持し、前記強度分布情報取得手段が取得した強度分布情報のうち、前記表出面の種類に適合した前記除去用閾値を超える前記強度分布情報を除去することを特徴とする請求項5に記載の岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置。
【請求項7】
前記水分状態判定手段は、前記表出面の種類毎に設定される判定用閾値を保持し、前記異常な強度分布情報が除去された強度分布情報のうち、前記表出面の種類に適合した前記判定用閾値未満のエリアが有水分エリアであると判定することを特徴とする請求項6に記載の岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置。
【請求項8】
外部に露出している岩盤面、切羽面、コンクリート面等の湧水が見込まれる表出面の湧水状態を判定するための判定方法であって、
近赤外線領域の光を前記表出面に照射する近赤外線照射ステップと、
表出面から反射された光の強度解析をして表出面から反射された近赤外線の強度分布情報を取得する強度分布情報取得ステップと、
該取得した近赤外線の強度分布情報に基づいて湧水エリアを判定する湧水エリア判定ステップとを備え、
前記取得する近赤外線の強度分布情報が、水が吸収する特定波長の一つである1.3~1.4μmの領域の波長の強度分布情報であることを特徴とする岩盤面等の表出面における湧水状態の判定方法。
【請求項9】
前記強度分布情報取得ステップが取得した強度分布情報からノイズ反射光による異常な強度分布情報を除去する異常強度除去ステップをさらに備え、
前記湧水エリア判定ステップは、前記異常な強度分布情報が除去された強度分布情報に基づいて湧水エリアを判定することを特徴とする請求項8に記載の岩盤面等の表出面における湧水状態の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの掘削や発破等の工事において表出(露出)する岩盤面やコンクリート面等の表出面における水分状態の判定装置および湧水状態の判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、トンネルの掘削や発破等の工事をした場合に表出する切羽面について、該切羽面となって表出する岩盤面においての湧水状態(水分状態)を判定することは、以降の工事を円滑に進行するうえで重要な判定項目の一つである。そしてこのような湧水状態の判定は、切羽面として表出する岩盤面だけでなく、コンクリート施工面等の表出面においても、以降の工事や工事完了後のメンテナンス管理のうえにおいても重要であるが、従来、このような湧水状態の判定は、経験のある作業者が目視で行っていた。しかしながら目視で行う場合、どうしても個人差があり、正確な湧水状態の判定をすることは難しいという問題がある。
そこで切羽面から発せられる熱赤外線の強度解析により得られる切羽面の温度分布情報と、切羽面に照射した近赤外線の反射強度の強度解析から得られる反射強度分布情報とから切羽面における湧水状況を判定するようにしたものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5208670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら前記従来のものは、切羽面から発せられる赤外線強度に基づいて温度解析をするための赤外線カメラと、切羽面に照射した近赤外線の反射強度の強度解析をするための近赤外線カメラとの二種類の撮像手段が必要になる結果、装置全体として、部品点数が多く構造が複雑化するだけでなく、各得られた温度分布情報、反射強度分布情報の二種類の分布情報に基づいて湧水エリアを特定するものであるため、各分布情報の閾値の設定によっては正確な湧水エリアの判定ができない部位が生じたりする等の問題があり、これらに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、表面として表出している岩盤面、切羽面、コンクリート施工面等の表出面の水分状態を判定するための判定装置であって、該判定装置は、近赤外線の光を前記表出面に照射する近赤外線照射手段と、表出面から反射された光の強度解析をして表出面から反射された近赤外線の強度分布情報を取得する強度分布情報取得手段と、該取得した強度分布情報から表出面の水分状態を判定する水分状態判定手段とを備え、前記強度分布情報取得手段は、水が吸収する特定波長の一つである波長1.3~1.4μmの領域の近赤外線の強度分布情報を取得するものであり、前記水分状態判定手段は、前記取得した波長1.3~1.4μmの領域の強度分布情報が、前記近赤外線照射手段から発光された光強度に対して予め設定される閾値以下であると判断された場合に、該強度以下の分布エリアを表面に水分がある有水分エリアであると判定することを特徴とする。
また、請求項2の発明は、請求項1記載の岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置であって、前記近赤外線照射手段は、ハロゲンライトであり、前記強度分布情報取得手段は、近赤外線カメラの撮影画像に基づいて、波長1.3~1.4μmの領域の近赤外線の輝度を強度情報として取得することを特徴とする。
また、請求項3の発明は、請求項2記載の岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置であって、前記水分状態判定手段は、ハロゲンライトから照射される近赤外線の輝度値を100%としたときに予め設定される基準輝度値を閾値として有水分エリアであるか否かの判断をすることを特徴とする。
また、請求項4の発明は、請求項2に記載の岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置であって、前記水分状態判定手段は、基準輝度値の閾値を、表出面の光反射率に基づいて補正することを特徴とする。
また、請求項5の発明は、請求項1に記載の岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置であって、前記強度分布情報取得手段が取得した強度分布情報からノイズ反射光による異常な強度分布情報を除去する異常強度除去手段をさらに備え、前記水分状態判定手段は、前記異常な強度分布情報が除去された強度分布情報に基づいて有水分エリアを判定することを特徴とする。
また、請求項6の発明は、請求項5に記載の岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置であって、前記異常強度除去手段は、前記表出面の種類毎に設定される除去用閾値を保持し、前記強度分布情報取得手段が取得した強度分布情報のうち、前記表出面の種類に適合した前記除去用閾値を超える前記強度分布情報を除去することを特徴とする。
また、請求項7の発明は、請求項6に記載の岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置であって、前記水分状態判定手段は、前記表出面の種類毎に設定される判定用閾値を保持し、前記異常な強度分布情報が除去された強度分布情報のうち、前記表出面の種類に適合した前記判定用閾値未満のエリアが有水分エリアであると判定することを特徴とする。
また、請求項8の発明は、外部に露出している岩盤面、切羽面、コンクリート面等の湧水が見込まれる表出面の湧水状態を判定するための判定方法であって、近赤外線領域の光を前記表出面に照射する近赤外線照射ステップと、表出面から反射された光の強度解析をして表出面から反射された近赤外線の強度分布情報を取得する強度分布情報取得ステップと、該取得した近赤外線の強度分布情報に基づいて湧水エリアを判定する湧水エリア判定ステップとを備え、前記取得する近赤外線の強度分布情報が、水が吸収する特定波長の一つである1.3~1.4μmの領域の波長の強度分布情報であることを特徴とする。
また、請求項9の発明は、請求項8に記載の岩盤面等の表出面における湧水状態の判定方法であって、前記強度分布情報取得ステップが取得した強度分布情報からノイズ反射光による異常な強度分布情報を除去する異常強度除去ステップをさらに備え、前記湧水エリア判定ステップは、前記異常な強度分布情報が除去された強度分布情報に基づいて湧水エリアを判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、部品点数の削減や構造の簡略化を図りつつ、表面に水分がある有水分エリアを精度良く判定できる。つまり、請求項1の発明は、撮像手段を一種類とすることで、部品点数の削減や構造の簡略化を可能とするものでありながら、有水分エリアを判定するための閾値は、近赤外線照射手段から発光された光強度に対して予め設定されるので、近赤外線照射手段から発光される光強度を現場環境などに応じて任意に設定しつつ、該光強度に応じた適切な閾値を設定して表出面の有水分エリアを精度良く判定できる。
また、請求項2の発明によれば、ハロゲンライトおよび近赤外線カメラを用いて本発明の判定装置を構成できる。
また、請求項3の発明によれば、ハロゲンライトから照射される近赤外線の輝度値を変えても、適切な基準輝度値を閾値として有水分エリアを精度良く判定できる。
また、請求項4の発明によれば、表面の色などによって光反射率が異なる表出面であっても、有水分エリアを精度良く判定できる。
また、請求項5の発明によれば、強度分布情報からノイズ反射光による異常な強度分布情報を除去し、異常な強度分布情報が除去された強度分布情報に基づいて有水分エリアを判定するので、ノイズ反射光に起因する誤判定を抑制できる。
また、請求項6によれば、表出面の種類毎に設定される除去用閾値を保持し、強度分布情報取得手段が取得した強度分布情報のうち、表出面の種類に適合した除去用閾値を超える強度分布情報を除去するので、各種の表出面を対象として異常な強度分布情報を精度良く除去できる。
また、請求項7によれば、表出面の種類毎に設定される判定用閾値を保持し、異常な強度分布情報が除去された強度分布情報のうち、表出面の種類に適合した判定用閾値未満のエリアが有水分エリアであると判定するので、各種の表出面を対象として有水分エリアを精度良く判定できる。
また、請求項8の発明によれば、部品点数の削減や構造の簡略化を図りつつ、表出面の湧水エリアを精度良く判定できる。
また、請求項9の発明によれば、強度分布情報からノイズ反射光による異常な強度分布情報を除去し、異常な強度分布情報が除去された強度分布情報に基づいて有水分エリアを判定するので、ノイズ反射光に起因する誤判定を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の第1実施形態に係る判定装置の構成を示す概略平面図である。
図2】近赤外線の波長領域を示す図である。
図3】第1実験例を示す図であり、(a)は水で濡れた花崗岩の近赤外線カメラ画像、(b)はその輝度値を示す図である。
図4】第1実験例を示す図であり、(a)は乾いた花崗岩の近赤外線カメラ画像、(b)はその輝度値を示す図である。
図5】第1実験例を示す図であり、(a)は水で濡れた頁岩の近赤外線カメラ画像、(b)はその輝度値を示す図である。
図6】第1実験例を示す図であり、(a)は乾いた頁岩の近赤外線カメラ画像、(b)はその輝度値を示す図である。
図7】第2実験例を示す図であり、切羽面における近赤外線カメラの撮影範囲を示す画像である。
図8】第2実験例を示す図であり、(a)は撮影範囲の近赤外線カメラ画像、(b)は近赤外線カメラ画像を所定の閾値で処理した2値化画像である。
図9】第2実験例を示す図であり、湧水状態の判定結果を示す図である。
図10】本発明の第2実施形態に係る判定装置の構成を示す概略平面図である。
図11】花崗岩を主体とする切羽面をデジタルカメラで撮影した画像である。
図12】花崗岩を主体とする切羽面を近赤外線カメラで撮影した画像である。
図13】切羽面に設定した解析範囲を示す図である。
図14図13の各解析範囲の輝度値累積変化を示す図である。
図15図13の各解析範囲の輝度値中央値を示す図である。
図16図12の画像を花崗岩に適合する判定用閾値で2値化処理した画像である。
図17図12の画像の判定結果を示す図である。
図18】頁岩を主体とする切羽面をデジタルカメラで撮影した画像である。
図19】頁岩を主体とする切羽面を近赤外線カメラで撮影した画像である。
図20】切羽面に設定した解析範囲を示す図である。
図21図20の各解析範囲の輝度値累積変化を示す図である。
図22図20の各解析範囲の輝度値中央値を示す図である。
図23図19の画像を頁岩に適合する判定用閾値で2値化処理した画像である。
図24図19の画像の判定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1実施形態]
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1において1は、岩盤面等の表出面Fにおける湧水状態(水分状態の一種)の判定装置であって、該判定装置1は、例えば、トンネル工事において切羽面(掘削面)の湧水状態を判定するために用いられる。なお、判定装置1による湧水状態の判定対象には、岩盤面や切羽面に限らず、コンクリート施工面も含まれる。
【0009】
図1に示すように、判定装置1は、表出面Fを撮影する近赤外線カメラ2と、表出面Fの撮影範囲を照らすライト3(近赤外線照射手段)と、近赤外線カメラ2の撮影画像に基づいて、表出面Fの湧水状態(又は湧水エリア)を判定するデータ処理装置4と、を備える。
【0010】
ライト3は、例えばハロゲンライトであり、該ハロゲンライトは、波長350nm(0.35μm)~3500nm(3.5μm)の紫外領域から赤外領域(中赤外領域)までのハロゲン光を照射するものであって、その照射領域には、本発明において採用される波長780nm~2500nm(0.78μm~2.5μm:図2参照)の近赤外領域内である波長1400nm(1.4μm)の光を含む。
【0011】
本実施形態の判定装置1は、複数のライト3を備える。複数のライト3は、表出面Fの撮影範囲を複数の方向から照らすように配置されることで、表出面Fの凹凸や周辺の作業灯などを原因として撮影範囲に影が生じることを防止する。
【0012】
近赤外線カメラ2は、近赤外線領域の波長の光を撮影するカメラである。近赤外線カメラ2の波長領域には、水によって吸収される波長1300~1400nm(1.3~1.4μmの領域であって、正確な吸収波長は1333.79nmであることが知られている。:図2参照)が含まれており、水がない場所では撮影画像が明るくなり、水がある場所では撮影画像が暗くなる。
【0013】
近赤外線カメラ2の撮影画像データ(以下、適宜、撮影画像という場合がある。)には、画素毎の明るさを示す輝度値(以下、適宜、近赤外線の強度という場合がある。)が含まれる。明るい画素の輝度値は高く(例えば、最大65,535cd/m)、暗い画素の輝度値は低い。したがって、水がある場所では画素の輝度値が低くなり、水のない場所では画素の輝度値が高くなる。
【0014】
データ処理装置4は、例えば、ノートPCであり、ハードウェアとソフトウェアとの協働により実現する機能構成として、撮影画像取得手段41と、強度分布情報取得手段42と、水分状態判定手段43(又は湧水エリア判定手段)と、を備える。なお、岩盤面等の表出面における湧水状態の判定方法においては、撮影画像取得手段41が撮影画像取得ステップを実行し、強度分布情報取得手段42が強度分布情報取得ステップを実行し、水分状態判定手段43が湧水エリア判定ステップ(又は水分状態判定ステップ)を実行することができる。
【0015】
撮影画像取得手段41は、近赤外線カメラ2に対して撮影の実行を指示するとともに、近赤外線カメラ2が撮影した撮影画像を取得する。例えば、本実施形態の撮影画像取得手段41は、1回の湧水状態判定を行うために、所定のフレームレート(例えば、60f/s)で所定時間(例えば、18秒)の撮影を近赤外線カメラ2に指示し、その撮影画像を取得する。
【0016】
強度分布情報取得手段42は、近赤外線カメラ2の撮影画像に基づいて、表出面Fから反射された光の強度を解析して表出面Fから反射された近赤外線の強度分布情報を取得する。具体的には、近赤外線カメラ2の撮影画像における画素又は画素範囲毎に、波長1.3~1.4μmの領域の近赤外線の輝度を強度情報として取得する。
【0017】
水分状態判定手段43は、強度分布情報取得手段42が取得した強度分布情報から表出面Fの水分状態を判定する。具体的には、取得した波長1.3~1.4μmの領域の強度分布情報が、ライト3から発光された光強度に対して予め設定される閾値以下であると判断された場合に、該強度以下の分布エリアを表面に水分がある有水分エリアであると判定する。例えば、本実施形態の水分状態判定手段43は、ライト3から照射される近赤外線の輝度値(例えば、65,535cd/m)を100%としたとき、その所定割合(例えば、約10%)の輝度値(例えば、6,500cd/m)を閾値(基準輝度値)として有水分エリアであるか否かの判断をする。このような水分状態判定手段43によれば、ライト3から発光される光強度を現場環境などに応じて任意に設定しつつ、該光強度に応じた適切な閾値を設定して表出面Fの有水分エリアを精度良く判定できる。
【0018】
水分状態判定手段3は、ライト3から表出面Fまでの距離に基づいて、閾値(照射輝度に対する割合)を補正してもよい。つまり、ライト3から表出面Fまで到達する光の強度は、ライト3から表出面Fまでの距離に応じて変化するので、ライト3から表出面Fまでの距離に拘わらず同じ閾値を用いると、有水分エリアの判定精度が低下する可能性があるが、ライト3から表出面Fまでの距離に基づいて閾値を補正すれば、このような問題を解消することが可能になる。例えば、ライト3から表出面Fまでの距離が近い場合は閾値を上げ、ライト3から表出面Fまでの距離が遠い場合は閾値を下げることで、ライト3から表出面Fまでの距離に起因する判定精度の低下を回避できる。
【0019】
さらに、水分状態判定手段3は、表出面Fの光反射率に基づいて、閾値(照射輝度に対する割合)を補正してもよい。例えば、表出面Fの光反射率は、表出面Fの色などによって異なるため、表出面Fの色などに拘わらず同じ閾値を用いると、有水分エリアの判定精度が低下する可能性があるが、表出面Fの光反射率に基づいて閾値を補正すれば、このような問題を解消することが可能になる。例えば、花崗岩のように表出面Fの光反射率が高い場合は閾値を上げ、頁岩のように表出面Fの光反射率が低い場合は閾値を下げることで、表出面Fの光反射率に起因する判定精度の低下を回避できる。
【0020】
つぎに、本発明の判定装置1の有効性を検証するために行った第1および第2実験例について、図3図9を参照して説明する。
【0021】
図3は、第1実験例を示す図であり、(a)は水で濡れた花崗岩の近赤外線カメラ画像、(b)はその輝度値を示す図、図4は、第1実験例を示す図であり、(a)は乾いた花崗岩の近赤外線カメラ画像、(b)はその輝度値を示す図、図5は、第1実験例を示す図であり、(a)は水で濡れた頁岩の近赤外線カメラ画像、(b)はその輝度値を示す図、図6は、第1実験例を示す図であり、(a)は乾いた頁岩の近赤外線カメラ画像、(b)はその輝度値を示す図である。
【0022】
第1実験例では、岩石試料を用いて表出面Fを形成した。岩石試料には、光反射率の高い白色系の花崗岩と、光反射率の低い黒色系の頁岩とを使用し、四角柱状に加工した岩石試料の一側面を表出面Fとした。岩石試料及び近赤外線カメラ2を覆うように暗幕を設置して太陽光を遮断し、トンネル環境を模した環境下とした。また、表出面Fから4mほど離れた位置に2基のライト3を設置し、表出面Fに影ができないように表出面Fを照らした。ライト3が発光する近赤外線の光強度は、表出面Fにおける最大輝度値が65,535cd/mを超える程度とした。そして、水が流れている状態の表出面Fと、乾いている状態の表出面Fをそれぞれ近赤外線カメラ2で撮影した。近赤外線カメラ2のフレームレートは60f/sにし、撮影時間は約18秒間とした。
【0023】
撮影した0秒~15秒の各撮影データのうち、1秒毎の撮影データを抜き取り、画像処理ソフトを用いて、画像データと輝度値が保存されたファイルを作成した。表出面Fにおいて、水の流れる方向に所定の間隔で3つの解析範囲A1~A3、B1~B3を設定し(図3の(a)~図6の(a)参照)、各解析範囲A1~A3、B1~B3の輝度値を抽出した後、各解析範囲A1~A3、B1~B3の輝度値の分布と中央値を算出した(図3の(b)~図6の(b)参照)。
【0024】
上記の算出結果より、岩種に拘わらず濡れている箇所の輝度値は、4,000cd/mを下回ることが判明した。つまり、ライト3から照射される近赤外線の輝度値(例えば、65,535cd/m)を100%としたとき、その所定割合(例えば、約10%)の輝度値(例えば、6,500cd/m)を閾値とすれば、岩種に拘わらず有水分エリアであるか否かを判定できると考えられる。
【0025】
したがって、上記の第1実験例の結果によれば、撮影範囲内でライト3を十分に当てている条件下では、近赤外線カメラ2の輝度値を下記のように区分し、乾燥状態や湧水状態を精度良く判定することが可能になる。
区分1:65,535=輝度値:反射
区分2:65,535>輝度値≧6,500:乾燥状態
区分3:6,500>輝度値≧0:湧水状態
【0026】
図7は、第2実験例を示す図であり、切羽面における近赤外線カメラの撮影範囲を示す画像、図8は、第2実験例を示す図であり、(a)は撮影範囲の近赤外線カメラ画像、(b)は近赤外線カメラ画像を所定の閾値で処理した2値化画像、図9は、第2実験例を示す図であり、湧水状態の判定結果を示す図である。
【0027】
第2実験例では、第1実験例の判定方法を用い、その有効性をトンネル現場で検証した。表出面Fである切羽面から約10m離れた位置に近赤外線カメラ2を設置するとともに、複数のライト3(1kWのハロゲンライト)を切羽面に向けて設置し、点灯させた。その後、近赤外線カメラ2による切羽面の撮影を開始し、肉眼で流水が確認できた解析範囲C1の撮影データを約20秒録画した。
【0028】
第1実験例と同様の処理方法により、撮影データから解析範囲C1の撮影画像及び輝度値を抽出するとともに、解析範囲C1の各画素を第1実験例で設定した区分に分類した後、乾燥エリアと湧水エリアの割合を算出した(図9参照)。図9に示す切羽面の湧水判定によれば、肉眼で確認した位置と同じ箇所で同程度の割合の湧水が認められたことから、第1実験例の判定方法の妥当性を確認することができた。このような判定方法を実施可能な本実施形態の判定装置1によれば、切羽面の解析範囲において、それぞれの区分の割合を算出して、切羽面の湧水エリアを定量的に評価することが可能になる。
【0029】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、表面として表出している岩盤面、切羽面、コンクリート面等の表出面Fの水分状態を判定するための判定装置1であって、該判定装置1は、近赤外線の光を表出面Fに照射するライト3と、表出面Fから反射された光の強度解析をして表出面から反射された近赤外線の強度分布情報を取得する強度分布情報取得手段42と、該取得した強度分布情報から表出面Fの水分状態を判定する水分状態判定手段43とを備えており、強度分布情報取得手段42は、水が吸収する特定波長の一つである波長1.3~1.4μmの領域の近赤外線の強度分布情報を取得するものであり、水分状態判定手段43は、取得した波長1.3~1.4μmの領域の強度分布情報が、ライト3から発光された光強度に対して予め設定される閾値以下であると判断された場合に、該強度以下の分布エリアを表面に水分がある有水分エリアであると判定するので、部品点数の削減や構造の簡略化を図りつつ、表面に水分がある有水分エリアを精度良く判定できる。つまり、判定装置1は、撮像手段を一種類とすることで、部品点数の削減や構造の簡略化を可能とするものでありながら、有水分エリアを判定するための閾値は、ライト3から発光される光強度に対して予め設定されるので、ライト3から発光される光強度を現場環境などに応じて任意に設定しつつ、該光強度に応じた適切な閾値を設定して表出面Fの有水分エリアを精度良く判定できる。
【0030】
また、ライト3は、ハロゲンライトであり、強度分布情報取得手段は、近赤外線カメラ2の撮影画像に基づいて、波長1.4μmの近赤外線の輝度を強度情報として取得するので、ハロゲンライトおよび近赤外線カメラ2を用いて本発明の判定装置1を構成できる。
【0031】
また、水分状態判定手段43は、ハロゲンライトから照射される近赤外線の輝度値を100%としたときに予め設定される基準輝度値を閾値として有水分エリアであるか否かの判断をするので、ハロゲンライトから照射される近赤外線の輝度値を変えても、適切な基準輝度値を閾値として有水分エリアを精度良く判定できる。
【0032】
また、水分状態判定手段43は、基準輝度値の閾値を、表出面Fの光反射率に基づいて補正するので、表面の色などによって光反射率が異なる表出面Fであっても、有水分エリアを精度良く判定できる。
【0033】
[第2実施形態]
つぎに、本発明の第2実施形態に係る判定装置1Bについて、図10以降を参照して説明する。ただし、第1実施形態と共通の構成については、第1実施形態と同じ符号を用いることで、第1実施形態の説明を援用する場合がある。
【0034】
図10に示すように、第2実施形態の判定装置1Bは、データ処理装置4の機能構成として異常強度除去手段44(異常強度除去ステップ)をさらに備えるだけでなく、表出面の種類毎に設定される閾値に基づいて表出面Fの有水分エリアを高精度に判定可能である点が第1実施形態の判定装置1と相違している。
【0035】
異常強度除去手段44は、強度分布情報取得手段42が取得した強度分布情報からノイズ反射光による異常な強度分布情報を除去する。具体的には、近赤外線カメラ2の撮影画像における画素毎又は画素領域毎の輝度値からノイズ反射光による異常な輝度値を除去する。ノイズ反射光は、例えば、ライト3が照射した光の乱反射光や、外乱光の反射光であり、近赤外線画像のおける画素毎又は画素領域毎の輝度値を上昇させて異常な輝度値を生み、水分状態判定手段43による判定精度を低下させる可能性がある。
【0036】
本実施形態の水分状態判定手段43は、異常な強度分布情報が除去された強度分布情報に基づいて表出面Fの有水分エリアを判定する。これにより、ノイズ反射光に起因する誤判定を抑制することが可能となる。なお、本実施形態の異常強度除去手段44は、表出面の種類毎に設定される除去用閾値を保持し、強度分布情報取得手段42が取得した強度分布情報のうち、表出面の種類に適合した除去用閾値を超える強度分布情報を異常な強度分布情報として除去するが、その詳細は後述する。
【0037】
また、本実施形態の水分状態判定手段43は、表出面の種類毎に設定される判定用閾値(中央値の平均値:図15図22参照)を保持する。そして、異常な強度分布情報が除去された強度分布情報のうち、表出面Fの種類に適合した判定用閾値未満のエリアが有水分エリアであると判定する。これにより、各種の表出面Fを対象として高精度な有水分エリアの判定を行うことが可能になる。なお、判定用閾値の詳細は後述する。
【0038】
つぎに、本発明(特に、第2実施形態)の妥当性を確認するため行った第3実験例について、図11図24を参照して説明する。ただし、第1、第2実験例と共通する部分については、説明を省略する場合がある。
【0039】
第3実験例では、花崗岩を主体とする切羽面K1における有水分エリアの判定と、頁岩を主体とする切羽面K2における有水分エリアの判定を行った。切羽面K1の判定手順を図11図17に示し、切羽面K2の判定手順を図18図24に示す。
【0040】
切羽面K1、K2から約10m離れた位置に近赤外線カメラ2を設置するとともに、複数のライト3(1kWのハロゲンライト)を切羽面K1、K2に向けて設置し、点灯させた。その後、近赤外線カメラ2で切羽面K1、K2を撮影した。近赤外線カメラ2による切羽面K1の撮影画像を図12に示し、近赤外線カメラ2による切羽面K2の撮影画像を図19に示す。
【0041】
つぎに、画像処理ソフトを用いて、近赤外線カメラ画像の画素毎の輝度値が保存された輝度値ファイルを作成した後、輝度値ファイルの中から、切羽面K1、K2に設定した各解析範囲D11~D19、D21~D29(図13及び図20参照)の輝度値データを抜き出した。
【0042】
解析範囲D11~D19、D21~D29の輝度値データには、前述したノイズ反射光による異常な輝度値データが含まれているため、ノイズ反射光による異常な輝度値データを以下の手順で除去した。なお、以下の手順は、各切羽面K1、K2の輝度値データを対象として、別々に実行した。
1)各解析範囲D11~D19、D21~D29の輝度値データについて、輝度値が小さい順に画素数をカウント(累積)し、輝度値累積割合と輝度値との関係を示す輝度値累積変化図を作成した(図14図21参照)。
2)各解析範囲D11~D19、D21~D29の輝度値累積変化の平均値を求めた後、その輝度値累積割合が約80%となる輝度値を算出して除去用閾値(例えば、花崗岩は9200、頁岩は4600)とした。
3)各解析範囲D11~D19、D21~D29の輝度値データのうち、除去用閾値を超える輝度値データをすべて除去した。
【0043】
つぎに、異常な輝度値データを除去した輝度値データに基づいて、切羽面F1、F2の種類に適合する判定用閾値を以下の手順で算出した。なお、以下の手順は、各切羽面K1、K2の輝度値データを対象として、別々に実行した。
4)各解析範囲D11~D19、D21~D29における輝度値の中央値と画素数との関係を示す分布図(図13図15参照)を作成し、各流量における輝度値の中央値(図14(a)、図16(a))を算出した。
5)各解析範囲D11~D19、D21~D29における輝度値の中央値を用いて平均値を算出し、その平均値を判定用閾値とした。
【0044】
つぎに、異常な輝度値データを除去した輝度値データと、切羽面K1、K2の種類に適合する判定用閾値を用いて、切羽面K1、K2の有水分エリアを判定した。なお、以下の手順は、各切羽面K1、K2の輝度値データを対象として、別々に実行した。
6)異常な輝度値データが除去された輝度値データを、切羽面K1、K2の種類に適合する判定用閾値を用いて2値化処理した。具体的には、異常な輝度値データが除去された輝度値データのうち、切羽面K1、K2の種類に適合する判定用閾値未満のエリアが有水分エリアであると特定した(図16図23参照)。
7)有水分エリアの画素数とそれ以外の画素数に基づいて、有水分エリア(濡れているところ)とそれ以外のエリア(乾いているところ)との割合を求めた(図17図24参照)。
【0045】
上記のような手順で切羽面K1、K2の有水分エリアを判定したところ、肉眼で確認した位置と略同じ範囲で湧水が認められたため、本発明、特に第2実施形態の妥当性を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、トンネルの掘削や発破等の工事において表出(露出)する岩盤面等の表出面における水分状態の判定装置および湧水状態の判定方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1、1B 判定装置
2 近赤外線カメラ
3 ライト
4 データ処理装置
41 撮影画像取得手段
42 強度分布情報取得手段
43 水分状態判定手段
44 異常強度除去手段
F 表出面
図1
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