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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109518
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/20 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
C22B1/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216658
(22)【出願日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2023013812
(32)【優先日】2023-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 周矢
(72)【発明者】
【氏名】松村 勝
(72)【発明者】
【氏名】片山 一昭
(72)【発明者】
【氏名】長田 淳治
(72)【発明者】
【氏名】山口 泰英
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001CA42
4K001GA10
(57)【要約】
【課題】再点火法において、焼結速度向上およびそれを介した生産率向上を可能とする。
【解決手段】最初の点火を行う点火炉1と、該点火炉の下流側に所定の間隔を空けて配置されて再点火を行う再点火炉2とを備え、下方吸引により焼結層4の焼結を進行させるDL式焼結機10を用いて焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法において、焼結層の表層側から下方吸引される吸引ガスの酸素富化開始は、再点火終了後とし、酸素富化開始から酸素富化終了までの酸素富化時間は30秒以上であり、酸素富化時間において下方吸引される吸引ガスの酸素濃度が30体積%以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最初の点火を行う点火炉と、該点火炉の下流側に所定の間隔を空けて配置されて再点火を行う再点火炉とを備え、下方吸引により焼結層の焼結を進行させるDL式焼結機を用いて焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法において、
前記焼結層の表層側から下方吸引される吸引ガスの酸素富化開始は、再点火終了後とし、
前記酸素富化開始から酸素富化終了までの酸素富化時間は30秒以上であり、
前記酸素富化時間において下方吸引される前記吸引ガスの酸素濃度が30体積%以上であることを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
前記酸素富化時間が2分以下であることを特徴とする請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
前記吸引ガスの酸素濃度が40体積%以下であることを特徴とする請求項2に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項4】
前記酸素富化開始は、再点火終了時刻から0秒越え30秒以内であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項5】
前記酸素富化開始は、再点火終了時刻から0秒超え10秒以内であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結鉱の製造方法、特に二段階で点火を行う再点火法を用いた焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高炉製銑法の主原料は、焼結鉱である。焼結鉱は、通常、次のように製造される。まず、原料となる鉄鉱石(粉)、製鋼ダスト等の含鉄雑原料、橄欖岩等のMgO含有副原料、石灰石等のCaO含有副原料、返鉱、燃焼熱によって焼結鉱を焼結(凝結)させる燃料となる炭材(凝結材とも言う)を、所定の割合で混合し、造粒処理する。次に、造粒処理された配合原料(以下、造粒処理後の配合原料を原料造粒物ともいう)を、ホッパより、下方吸引式のドワイトロイド(DL)式焼結機のパレット上に搭載して、焼結層を形成する。形成した焼結層の上部(表面層)から、点火炉(点火器)により焼結層中の炭材に点火する。そして、連続的に移動するパレットの下方から空気を吸引する。吸引により酸素を供給し、焼結層中の炭材の燃焼を上部から下部に向けて進行させて、炭材の燃焼熱により焼結層を順次焼結させる。焼結により得られた焼結部(焼結ケーキ)は、所定の粒度に粉砕、篩分け等により整粒され、高炉の原料である焼結鉱となる。
【0003】
DL式焼結機では、上述のように上層から下層に向けて下方吸引により順次焼結させるため、一般的に、焼結過程において、焼結層の下層部では熱量が十分であっても、上層部では熱量不足となる。下層部では、上層部の焼成の進行により予熱された後に炭材が燃焼し、さらに燃焼終了後も上層部の残熱により徐々に冷却されるのに対し、上層部では、原料中のコークスの燃焼終了後に上層より吸引される低温の空気により急冷されるためである。そのため、熱量不足となる上層部では焼結が十分に進行せず、焼結鉱の強度不足を引き起こし、全体の歩留も悪くなる。
【0004】
特許文献1には、このような上層部の焼結不良の改善を目的として、焼結層を二度点火する技術(再点火法)が開示されている。再点火法を実施する焼結機は、機長方向に所定距離(以下、離間距離という)を離して直列に配置された2基の点火炉(上流側の点火炉と下流側の再点火炉)を備える。
【0005】
上流側の点火炉(点火器)による点火(以下、初点火ともいう)終了後に、上面からの加熱(点火)を行わない区間(以下、大気吸引領域ともいう)を設け、その後、下流側の再点火炉(フレーム加熱装置)による点火(フレーム加熱、以下、再点火ともいう)を行うことにより、焼結層の表層に未着火で残留するコークスの量を減らすとともに、焼結層の高温ゾーン(高温帯)を拡大(焼結層の高温保持時間を延長)することで、歩留を改善する効果を有する。大気吸引領域をパレットが移動するのに要する時間、すなわち、最初の点火(初点火)終了後再点火が実施されるまでの時間を離間時間と定義すると、適正な離間時間は、0.5分~3分であると開示されている。
【0006】
ここで、非特許文献1および非特許文献2には、従来の焼結法(一段装入一段点火法)において下方吸引される大気(吸引ガス)に酸素を富化する方法(酸素富化技術)が検討されており、酸素富化により粉コークスの燃焼速度が速くなり、生産率が向上することが記載されている。具体的には、非特許文献1には、吸引ガス量一定の条件下において下方吸引される大気に酸素を富化させると、焼結排ガス中のCO濃度およびCO濃度が上昇する結果が開示されている。即ち、吸引ガス量を増加させなくても、酸素富化により単位時間あたりの粉コークス燃焼量が上昇、すなわち、粉コークスの燃焼速度が向上する。
【0007】
非特許文献2には、供給酸素量が一定であれば点火直後に集中して酸素富化することが焼結時間の短縮に有効であり、適正酸素濃度は約28~30vol%、添加時間は約2~3分と推定されることが開示されている。また、吸引する大気中酸素濃度が21%以上であれば、成品歩留がほぼ維持されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-2457号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】鉄と鋼 Vol.92(2006),p.417-426
【非特許文献2】鉄と鋼 Vol.87(2001),p.305-312
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
再点火法においては、最初の点火で形成された焼結層の高温帯の上部が再点火により再び加熱され、初点火では未燃で残存したコークスが燃焼する。1)再点火による残存コークス燃焼と、2)初点火で形成された燃焼帯(以下、初点火燃焼帯ともいう)におけるコークス燃焼とにより、層高方向での2箇所において燃焼反応が生じる。焼結機では、燃焼に必要な酸素を含む大気は下方吸引されて、焼結層の層高方向上部から下部へ垂直に流通する。上記2箇所の燃焼反応を促進させるためには、多くの酸素が必要となる。
【0011】
また、再点火終了直後には、初点火燃焼帯に加えて層高方向にもう1箇所、再点火で形成された燃焼帯(以下、再点火燃焼帯ともいう)が発生することになり、その結果、高温帯が層高方向に拡大する。再点火燃焼帯においては、初点火ですでに焼結化された空隙率が高い焼結ケーキを熱が伝播するので、下方吸引されるガスと接触する固体(焼結ケーキ)の表面積が小さい。これに対し、初点火燃焼帯においては、1mm未満の微粉を含む焼結原料を熱が伝播するので、下方吸引されるガスと接触する固体(焼結原料)の表面積が大きい。そのため、再点火燃焼帯の降下速度は初点火燃焼帯の降下速度よりも速く、再点火燃焼帯は再点火終了から早い段階で初点火燃焼帯に合流する。そして、2つの燃焼帯の合流による高温帯の拡大によって、通気抵抗が上昇し、その結果、高温帯内の燃焼帯に供給されるガスの流量が低下する。なお、焼結における高温帯とは、炭材が燃焼を開始し終了するまでのゾーンである燃焼帯と、それ以降の冶金反応が継続する温度(概ね1000℃)に冷却するまでのゾーンを含む。
【0012】
このように、再点火法においては、所要酸素量の増加と通気抵抗上昇によるガス流量低下とにより、通常の大気の下方吸引では焼結速度が低下する問題が顕在化している。そこで、本発明は、再点火法において、焼結速度向上およびそれを介した生産率向上を可能とする焼結鉱の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)最初の点火を行う点火炉と、該点火炉の下流側に所定の間隔を空けて配置されて再点火を行う再点火炉とを備え、下方吸引により焼結層の焼結を進行させるDL式焼結機を用いて焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法において、
前記焼結層の表層側から下方吸引される吸引ガスの酸素富化開始は、再点火終了後とし、
前記酸素富化開始から酸素富化終了までの酸素富化時間は30秒以上であり、
前記酸素富化時間において下方吸引される前記吸引ガスの酸素濃度が30体積%以上であることを特徴とする焼結鉱の製造方法。
(2)前記酸素富化時間が2分以下であることを特徴とする(1)に記載の焼結鉱の製造方法。
(3)前記吸引ガスの酸素濃度が40体積%以下であることを特徴とする(2)に記載の焼結鉱の製造方法。
(4)前記酸素富化開始は、再点火終了時刻から0秒越え30秒以内であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の焼結鉱の製造方法。
(5)前記酸素富化開始は、再点火終了時刻から0秒越え10秒以内であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、最適な酸素富化領域を特定し、この酸素富化領域において、焼結層表層から吸引される吸引ガスの酸素濃度を高めることで、焼結速度を高めることが可能となる。また、焼結速度の向上により、生産性が改善する。ここで、最適な酸素富化領域は、再点火終了後から所定時間において、パレットが移動する区間に該当する領域である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明を実施するDL式焼結機の構成の一例を示す概要図である。
図2】各試験ケースにおいて算出された焼結速度と酸素富化時間中の吸引ガスの酸素濃度との関係を示すグラフである。
図3】各試験ケースにおいて算出された成品歩留と酸素富化時間中の吸引ガスの酸素濃度との関係を示すグラフである。
図4】各試験ケースにおいて算出された生産率と酸素富化時間中の吸引ガスの酸素濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述のように、従来の焼結法における酸素富化の作用効果は、コークス燃焼速度の増加に伴う焼結速度の向上である。ここで、一般的には、焼結速度が向上すると焼結時間が短縮するため、焼結の歩留は低下すると考えられる。しかしながら、酸素富化のもう一つの効果であるコークス燃焼の活発化(具体的には、吸引風量あたりのコークス燃焼量の増加)によって、焼結の歩留は低下せず維持される。これに対し、再点火法にあっては酸素富化技術に関する開示はなく、再点火後の酸素富化については検討されてこなかった。
【0017】
発明者らは、再点火後に酸素富化技術を適用すると、初点火および再点火の双方によって生じた2つの燃焼帯でのコークス燃焼反応が活発化できるのではないかと考えた。詳述すると、焼結層へ吸引される大気中の酸素は、まず再点火によって生じたコークス燃焼で消費され、さらに初点火によって生じたコークス燃焼で消費される。よって、再点火終了直後は、2つの燃焼帯でのコークス燃焼反応を促進するために、多くの酸素が求められる。よって、再点火終了のタイミングで、吸引ガスの酸素富化を開始することは焼結速度向上に対して最も有効であると考えた。なお、初点火でコークスが燃え残ってしまう現象は、上述したように、焼結層の上層部に限定される。従って、再点火終了後における所定の時間の間において、吸引ガスの酸素富化を実施することが有効であると考えた。発明者らは、上記観点から焼結実験を重ね、その結果から再点火終了後において酸素富化技術を適用する場合の効果を検証するとともに、適正な酸素濃度と時間を検討して、本発明の焼結鉱の製造方法を創案した。
【0018】
以下に、図面を参照して再点火法の概要、および、本発明の実施形態について説明する。なお、再点火法については、例えば上述した特許文献1(特開2020-2457号公報)などの文献を参照することによって実施可能であるため、ここでは基本構成に関する詳細な説明は省略する。また、特開2020-2457で称したフレーム加熱装置は、本発明の再点火炉と同一(同義)である。
図1は、本発明を実施するDL式焼結機の構成の一例(パレットの図示は省略)を示す概要図である。まず、再点火法について、図1を用いて説明する。
【0019】
(再点火法)
再点火法では、図1に示すように、機長方向(焼結ストランド方向)に所定の間隔を空けて直列に配置された2つの点火炉(上流側の点火炉1と下流側の再点火炉2)を備える焼結機10を用いて、点火炉1(第1の点火炉)で点火(初点火)し、大気吸引領域3を挟んで、再び、再点火炉2(第2の点火炉)で点火(再点火)する焼結鉱の製造方法である。ここで、大気吸引領域3とは、パレット進行方向における点火炉1および再点火炉2の間に設けられる区間であり、下方吸引により大気が吸引され、上面からの直接加熱(点火)が行われない領域をいう。
【0020】
ここで、図1に示すように、点火炉1の下流側および再点火炉2の上流側に隔壁1a,2aがある場合は、隔壁1aと隔壁2aの間の区間が大気吸引領域3である。このとき、点火炉1と再点火炉2の間(隔壁1aと隔壁2aの間)の区間(大気吸引領域3)の、パレット進行方向の距離を離間距離ともいい、この離間距離を焼結機10のパレットが通過するのに要する時間を大気吸引領域通過時間(離間時間)という。すなわち、離間時間は、移動する焼結層(パレット)側から見た、初点火終了から再点火開始までの時間である。
【0021】
再点火法では、点火炉1と再点火炉2の間に大気吸引領域3を設けて初点火により焼結層4の表層に形成された燃焼帯5に十分な酸素(大気)を供給し、その後の再点火により、表層に未着火で残留しているコークスの燃焼を生じさせる。また、上述した2つの燃焼帯(初点火燃焼帯および再点火燃焼帯)の合流に加え、再点火による残存コークスの燃焼により上方から吸引されて初点火燃焼帯を通過する流通ガスが高温化し、初点火燃焼帯直下のコークス燃焼を促進するため、燃焼帯5および高温帯の幅がさらに拡大する。また、再点火を、大気吸引領域3における大気の供給により焼結ケーキ6が冷えてしまう前に実施することで、上層の高温保持時間(例えば、1200℃以上に保持される時間)が増加する。適正なタイミングで再点火して熱量を供給することにより高温保持時間を増加させることができ、成品歩留および焼結鉱冷間強度向上が期待される。
【0022】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明での上記離間時間は、特許文献1に記載の通り、30秒以上3分以内が好ましい。この離間時間の下限(最小値)は、燃焼帯5の拡大が十分に得られる限界であり、好ましい離間時間の上限(最大値)は、初点火後の焼結層上層の冷却に支配される。
本発明では、上述の再点火法における、再点火終了後の所定の区間で、焼結層の表層側から酸素富化したガスを供給して下方吸引する。そのため、本発明を実施するDL式焼結機10は、上述の各構成に加え、酸素富化したガスを供給する酸素富化ガス供給設備7(図1)を備えている。酸素富化ガス供給設備7は、フード8と、このフード8内に酸素富化ガスを供給するガス管9とを有し、焼結層4の上方(表面側)に酸素富化ガスを供給する。供給された酸素富化ガスは、風箱の下方吸引により、大気とともに焼結層4内に導かれて燃焼帯5での焼結反応を進行させ、その後、風箱により排ガスとして回収される。なお、図示は省略するが、酸素富化ガス供給設備7はフード8を設けず、ガス管9から焼結層4の表面に向けて酸素ガスを噴射し、大気とともに吸引させてもよい。このとき、焼結層4の表面側から下方吸引される気体の酸素濃度が、大気よりも酸素含有量の多い所定の濃度となるように、ガス管9から噴射される酸素ガスの供給量を調整する。
【0023】
焼結機のパレット進行方向において、酸素富化ガス供給設備7を設ける位置、すなわち、焼結層の表面に酸素富化ガスを供給し下方吸引する領域(酸素富化ガス吸引領域)は、再点火炉2の下流側に設けられる。図1においては、再点火炉2と酸素富化ガス供給設備7との間にわずかに間隔が設けてあるが、安全上問題なければ、再点火炉2と酸素富化ガス供給設備7とを連設してもよい。酸素富化ガス供給設備7は、所定の時間を酸素富化時間として酸素富化ガスを連続的に供給する構成となっている。なお、再点火炉2(下流側の隔壁)と酸素富化ガス供給設備7(フード8の上流側壁)との間隔をパレットが移動する時間、すなわち、再点火終了時刻から酸素富化開始時刻までの時間は、安全上の問題を考慮して0秒超え30秒以内が好ましく、0秒超え10秒以内がより好ましく、再点火終了直後(0秒超え2秒以内)の酸素富化開始がさらに好ましい。30秒超えると、酸素富化が有効な時間帯が減少するため、効果が低下する。
【0024】
酸素富化ガス吸引領域において、下方吸引により焼結層表層から吸引される吸引ガス中の酸素濃度は30体積%以上、かつ、再点火終了後の酸素富化ガス供給設備7による酸素富化時間を30秒以上とする。ここで、酸素富化時間とは、酸素富化ガス吸引領域をパレットが移動するのに要する時間、すなわち、再点火終了後において酸素富化ガスの供給が実施される、酸素富化開始から酸素富化終了までの時間をいう。後述する実施例で示すように、吸引ガス中の酸素濃度が30体積%未満または酸素富化時間30秒未満では、酸素供給量が十分でなく、十分な焼結速度および生産率の向上効果が得られないからである。
【0025】
さらには、後述する実施例で示すように、酸素富化ガス供給設備7による酸素富化時間は2分以下であることが好ましい。酸素富化時間が2分を超えると酸素供給量の増加に伴う焼結速度および生産率の上昇が緩慢になり、酸素富化が有効ではなくなるためである。2つの燃焼帯(初点火燃焼帯と再点火燃焼帯)が合流するタイミングは今まで不明であったが、実験結果により得られた適正な酸素富化時間に基づき、合流が酸素富化開始時刻から2分を越え3分以内の時点で起きていることが推定される。
【0026】
本発明によれば、再点火後における酸素富化により、後述する実施例に裏付けられるように焼結速度が大幅に上昇する。この上昇幅は、非特許文献1などに記載されている、再点火を実施しない酸素富化における焼結速度上昇よりも大きい。焼結速度上昇幅向上の理由として、再点火終了後の酸素富化によって活発化する燃焼帯が2箇所存在することにより(段落0017参照)、酸素が有効利用されることによる。そのため、短時間の酸素富化でも焼結速度向上に結び付く。
【0027】
ここで、酸素富化ガス吸引領域に供給する吸引ガス中の酸素ガス投入量は、酸素富化ガス吸引領域の焼結層表面に採取管を設けて焼結層表面の酸素濃度を計測して調整する方法、あるいは焼結機10のウインドボックスの風量に応じて調整する方法などで制御可能である。
【0028】
そして、酸素ガスの投入は、例えば、酸素富化ガス吸引領域の上方に設けたフード8内へ直接工業用酸素を供給することで実施可能である。焼結層への吸引前に、工業用酸素と大気との混合機を設置することが好ましい。その理由は供給される吸引ガス中の酸素濃度を安定に保つためである。さらに吸引の際、酸素ガスを焼結機10の幅方向(パレット進行方向に対して垂直な方向)における複数箇所から供給するのが望ましい。なお、工業用酸素は製鉄所内の酸素プラントで製造される。
【実施例0029】
再点火法において酸素富化を行う場合の適正な条件を検討した焼結試験(鍋試験)を行った。以下に、試験1(比較例1~5と発明例1~13との計18の試験ケース、後述する表2参照)、および試験2(14~19との計6の試験ケース、後述する表4参照)の結果を実施例として示す。
【0030】
≪試験1≫
本試験では、直径300mm、高さ500mmの焼結鍋を用い、酸素富化時間および酸素濃度を試験条件として変更して、その影響を調べた。鍋試験は、DL式焼結機を模擬した条件で焼結を行うもので、DL式焼結機のようにコンベアによるパレットの移動こそないが、下方吸引できる所定の大きさの容器に燃料を含む焼結原料を装入し、上面から着火し、下方吸引させて焼結を進行させる試験である。
【0031】
(実験条件)
表1は、使用した焼結用の原料とその配合割合を示す。
試験ケースによらず、原料の配合は同一である。新原料(鉄鉱石および副原料)を100質量%として、粉コークス、返鉱の配合割合を、外数で、それぞれ、4.5質量%、15.0質量%とした。なお、表1の鉄鉱石A~Eはそれぞれ異なる産地のものを使用した。また、粉コークスは、いずれも粒度が-5mm(5mm未満)のもの(5mmの篩目の篩下のもの)を使用した。
【0032】
【表1】
【0033】
配合原料は、一括して造粒した。造粒は、ドラムミキサ-に投入し、これらを4分間混合した。ついで、造粒後の原料の水分が配合原料を100質量%として外数で6.5質量%となるように水を添加し、さらにこれらを4分間混合した。焼結鍋には、焼結層厚が480mmとなるように、配合原料造粒物を装入した。
【0034】
(試験水準)
表2に示すように、比較例1~3、および発明例1~13においては再点火を行い、点火(点火炉1による点火(初点火)に相当)および再点火(再点火炉2による再点火に相当)での燃焼時間は共に1分間(入熱量25MJ/原料t)とした。また、点火と再点火との間隔(離間時間:大気吸引領域3を移動する時間に相当)は1分とした。再点火終了直後(再点火終了時刻から0秒越え2秒以内)より酸素富化を開始する条件で、酸素富化時間と酸素濃度を変更した。
また、再点火を行った上記の試験ケースとの酸素富化効果の比較評価のため、比較例4および比較例5においては再点火を行なわず(従来の一段点火の条件にて実施)、点火での燃焼時間は1分間(入熱量25MJ/原料t)とし、点火終了と同期して酸素富化を開始した。
【0035】
点火後の焼成は風量一定条件とし、その風量は排ガスで1.8Nm/minで調整した。排ガス温度がピークに到達した3分後に送風機の吸引を停止し、焼成を終了した。ここに、焼結時間は、点火開始時刻から排ガス温度がピークに達した時刻までの時間とした。
【0036】
酸素投入方法は、ガスブレンダーで大気と酸素を所定の酸素濃度(表2の試験条件に記載の酸素濃度)となるように混合しておき、この混合ガスを鍋上にかぶせたフードを用いて供給した。具体的には、再点火終了とともにフードをセットして酸素富化ガスの供給し、所定時間酸素富化ガスを吸引後直ちにフードを取り外した。ここで、入側ガス風量(=吸引ガス量)はすべてガスブレンダー経由の混合ガスとなるように流量を決定した。なお、入側ガス風量は、入側ガス窒素濃度、排ガス窒素濃度、および排ガス風量から求まる。これは、入側と出側の窒素ガス量が等しいことによる。さらに、排ガス窒素濃度は、排ガス分析(CO、CO、O)から引き算(N≒100-(CO+CO+O))で求められる。今回の鍋試験は排ガス風量一定条件のため、吸引ガス調整が容易であった。
【0037】
焼成後、得られた焼結ケーキを、2mの高さから4回落下処理を行い、床敷鉱を除く粒径+5mm(5mm超)を焼結成品として回収して質量を求め、成品質量とした。そして、以下で定義される焼結速度、成品歩留、および生産率を求めた。
焼結速度(mm/min)=原料層厚/焼結時間
成品歩留(mass%)=成品質量/((焼結ケーキ質量)-(床敷鉱質量))
生産率(t/Dm2)=成品質量/(焼結時間(日)×鍋底面積)
【0038】
(試験結果)
表2に各試験ケースの試験結果を示す。また、図2図4は、表2に示す各試験ケースの各試験結果(上述の式を用いて算出された焼結速度、成品歩留、および生産率)を、グラフに表したものである。
【0039】
【表2】
【0040】
(焼結速度)
図2は、表2に示す各試験ケースについて、焼結速度と酸素富化時の吸引ガスの酸素濃度との関係を表すグラフである。図2に示すように、以下のような結果となった。
酸素富化時間の影響:酸素濃度30vol.%の条件で見ると、2.0分(発明例8)までは効果が大きくなるが、3.0分(発明例11)や4.0分(発明例12)まで延ばしても効果は頭打ちとなった。
酸素濃度50vol.%の条件で見ると、0.5分(発明例13)では酸素濃度を上昇させた効果が出ているが、1.0分(発明例6)や2.0分(発明例10)は酸素濃度40vol.%の条件(発明例5・9)と比べて頭打ちの傾向となっている。
これらの実験結果より、酸素濃度は30vol.%かつ酸素富化時間は0.5分以上が好ましい。また、酸素富化時間は2分以下であってもよい。より好ましくは、酸素富化時間が2分以下かつ酸素濃度が40vol.%以下である。
【0041】
(成品歩留)
図3は、表2に示す各試験ケースについて、成品歩留と酸素富化時の吸引ガスの酸素濃度との関係を表すグラフである。図3に示すように、以下のような結果となった。
再点火法での酸素富化なしの条件(比較例1)で76.0mass%(質量%)、再点火法での酸素富化ありの条件では全試験水準が76.0±0.5mass%に収まった。従って、成品歩留に対する効果は現われなかった。
【0042】
(生産率)
図4は、表2に示す各試験ケースについて、生産率と酸素富化時の吸引ガスの酸素濃度との関係を表すグラフである。図4に示すように、生産率は焼結速度(図2)と同一傾向となった。これは成品歩留に試験ケース間による差がほとんど無いため、焼結速度と成品歩留との積から算出される生産率は、焼結速度に大きく影響を受けることによる。すなわち、酸素濃度は30vol.%かつ酸素富化時間は0.5分以上が好ましい。また、酸素富化時間は2分以下であってもよい。より好ましくは、酸素富化時間が2分以下かつ酸素濃度が40vol.%以下である。生産率向上効果が最も大きかった発明例11(酸素濃度30vol.%、酸素富化時間3.0分)のケースについて、一段点火法でも評価を行うために比較例4および比較例5を実施した。一段点火の場合は、点火終了直後(点火終了時刻から0秒越え2秒以内)に酸素富化を開始した。
比較例4の生産率は34.7t/Dmであったのに対し、比較例5の生産率は36.5t/Dmと、再点火法の発明例(比較例1:35.1t/Dm⇒発明例11:39.3t/Dm)と比較して、効果が小さいことが明らかとなった。
【0043】
ここで、上述の比較例1,4,5および発明例11について酸素利用率および酸素消費速度を算出した結果を表3に示す。なお、評価時間帯は、酸素富化時間帯である3分間(比較例5,発明例11)として、酸素富化無しである比較例1,4については、比較例4は比較例5と同一時間帯、比較例1は発明例11と同一時間帯とした。表3に示す排ガス中酸素放出速度(b)は排ガス分析結果より計算した。酸素消費速度(a)は焼結層へ吸引される酸素流通速度から排ガス中酸素放出速度(b)を引いて求めた。なお、焼結層へ吸引される酸素流通速度は入側ガス流通速度に酸素濃度を掛けて求めることができる。
【0044】
【表3】
【0045】
酸素富化無し同士(比較例1および比較例4)を比較すると、再点火終了直後の3分間は一段点火における点火終了直後の3分間よりも酸素消費速度および酸素利用率が高い。そして、再点火終了直後の3分間の酸素富化を実施した発明例11では、酸素利用率を維持しつつ、酸素濃度上昇分酸素消費速度が上昇する結果となった。
【0046】
≪試験2≫
本試験では、試験1の発明例7を基準として、酸素富化開始時刻のみを再点火終了時刻から10秒ピッチで変更して、その影響を調べた。表4に発明例7および発明例14~19の試験条件と試験結果を示す。表4の酸素富化開始時間は、再点火終了時刻から再点火開始までの経過時間(秒数)を示し、再点火終了直後に酸素富化を開始した発明例7の「0秒」は再点火終了から酸素富化開始までの操作時間を含む0秒越え2秒以内の時間を示す。また、発明例14の「10秒」は再点火終了から酸素富化開始までの操作時間を含む10秒越え12秒以内を示す。発明例15~19の酸素富化開始時間の各秒数についても、発明例7、14と同様である。
【0047】
【表4】
【0048】
表4右欄の試験結果(焼結速度ならびに生産率)より、再点火終了時刻から10秒までに酸素富化開始することが好ましいが、再点火終了時刻から30秒以内でもかなり大きな効果が得られる。60秒経過しても表2に示した再点火前提の比較例1~3よりは効果が大きい。
【符号の説明】
【0049】
1…点火炉、1a…点火炉の下流側隔壁、2…再点火炉、2a…再点火炉の上流側隔壁、3…大気吸引領域、4…焼結層、5…燃焼帯、6…焼結ケーキ、7…酸素富化ガス供給設備、8…フード、9…ガス管、10…DL式焼結機
図1
図2
図3
図4