(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109576
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】FimH変異体、それを含む組成物、及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20240806BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240806BHJP
C07K 14/245 20060101ALI20240806BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240806BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240806BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240806BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240806BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240806BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240806BHJP
A61P 13/00 20060101ALI20240806BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C12N15/31 ZNA
C12N15/63 Z
C07K14/245
C12N1/19
C12N1/21
C12N1/15
C12N5/10
C12P21/02 C
A61P1/00
A61P13/00
A61K38/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024068916
(22)【出願日】2024-04-22
(62)【分割の表示】P 2023541784の分割
【原出願日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】21151126.6
(32)【優先日】2021-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】514010601
【氏名又は名称】ヤンセン ファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100209037
【弁理士】
【氏名又は名称】猪狩 俊博
(72)【発明者】
【氏名】グリープストラ,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ウェールデンブルグ,エヴリン,マーリーン
(72)【発明者】
【氏名】ゲウルトセン,イェルーン
(72)【発明者】
【氏名】フェイ,ケレン,クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ファイツマ,ロウリス,ヤコブ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】大腸菌によって引き起こされる細菌感染症に対して高度に阻害性の抗体を誘導することができるワクチンを提供する。
【解決手段】FimHレクチンドメインをマンノースに対して低親和性の立体構造にする少なくとも1つのアミノ酸変異を含むFimHレクチンドメインを含む、ポリペプチドが記載される。そのようなポリペプチドを含む医薬組成物、及び免疫応答の刺激を、それを必要とする対象においてポリペプチドの投与によって行う、方法が更に記載される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の71位に対応する位置にチロシン(Y)又はトリプトファン(W)を含む
FimHレクチンドメインを含む、ポリペプチド。
【請求項2】
前記FimHレクチンドメインが、配列番号1の71位に対応する位置にチロシン(Y
)を含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
配列番号1のアミノ酸配列の144位に対応する位置にフェニルアラニン(F)以外の
アミノ酸を更に含む、請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記ポリペプチドが、配列番号1の144位に対応する位置にバリン(V)、イソロイ
シン(I)、ロイシン(L)、グリシン(G)、メチオニン(M)、及びアラニン(A)
からなる群から選択されるアミノ酸を含む、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記FimHレクチンドメインが、配列番号1の144位に対応する位置にバリン(V
)を含む、請求項3又は4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記FimHレクチンドメインが、配列番号1との少なくとも90%の配列同一性を有
するアミノ酸配列を有し、好ましくは、前記FimHレクチンドメインが、71位のフェ
ニルアラニン残基がチロシンによって置換されている配列番号1を含む、請求項1~5の
いずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記FimHレクチンドメインが、71位のフェニルアラニン残基がチロシンによって
置換され、144位のフェニルアラニン残基がバリンによって置換されている配列番号1
を含む、請求項6に記載のポリペプチド。
【請求項8】
前記ポリペプチドが、FimHピリンドメインを更に含む、請求項1~7のいずれか一
項に記載のポリペプチド。
【請求項9】
前記ポリペプチドが、配列番号2との少なくとも90%の配列同一性を有する全長Fi
mHであり、好ましくは、前記FimHレクチンドメインが、71位のフェニルアラニン
残基がチロシンによって置換されている配列番号2を含み、より好ましくは、前記Fim
Hレクチンドメインが、71位のフェニルアラニン残基がチロシンによって置換され、1
44位のフェニルアラニン残基がバリンによって置換されている配列番号2を含む、請求
項1~8のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項10に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項12】
請求項10に記載のポリヌクレオチド又は請求項11に記載のベクターを含む、組換え
宿主細胞。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載のポリペプチド、請求項10に記載のポリヌクレオ
チド、又は請求項11に記載のベクターを含む、医薬組成物。
【請求項14】
好ましくは、大腸菌(E. coli)又はクレブシエラ(Klebsiella)であり、好ましくは
大腸菌である腸内細菌(Enterobacteriaceae)科の細菌に対する免疫応答の誘導に使用す
るための、請求項1~9に記載のポリペプチド、請求項10に記載のポリヌクレオチド、
請求項11に記載のベクター、又は請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
対象における大腸菌によって引き起こされる尿路感染症の予防又は治療において使用す
るための、請求項1~9に記載のポリペプチド、請求項10に記載のポリヌクレオチド、
請求項11に記載のベクター、又は請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項16】
FimHレクチンドメインを含むポリペプチドを産生するための方法であって、前記ポ
リペプチドを、請求項10に記載のポリヌクレオチド及び/又は請求項11に記載のベク
ターを含む組換え細胞から発現させることを含み、任意選択で、前記ポリペプチドを回収
及び精製することであって、これに、任意選択で前記ポリペプチドの医薬組成物への製剤
化が続く、ことを更に含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学微生物学及びワクチンの分野に関する。具体的には、本発明は、Fim
Hレクチンドメインをマンノースに対して低親和性を有する立体構造にする少なくとも1
つのアミノ酸変異を含む、FimHレクチンドメインを含み、対象への投与時に、膀胱上
皮細胞への大腸菌(E. coli)の接着の高レベルの抗体媒介性阻害を誘導する、ポリペプ
チドに関する。更に、本発明は、そのようなポリペプチドを含む組成物、及び免疫応答の
刺激を、それを必要とする対象において免疫原性ポリペプチドの投与によって行う方法に
関する。
【背景技術】
【0002】
腸外感染症の原因である大腸菌(E. coli)株は、腸外病原性大腸菌(extra-intestina
l pathogenic E. coli、ExPEC)と呼ばれている。ExPECは、外来通院、長期治
療、及び病院の環境において腸外感染症を引き起こす最も一般的な腸内グラム陰性生物で
ある。大腸菌に起因する典型的な腸外感染症としては、尿路感染症(UTI)、菌血症、
及び敗血症が挙げられる。大腸菌は、重症敗血症の主因であり、高い罹患率及び死亡率の
原因である。
【0003】
ExPECは、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科の他のメンバーと同様に、粘膜上皮
表面への付着を補助するI型線毛を産生する。これらのI型線毛は、腸内細菌科のメンバ
ーの表面から生じる毛髪様構造である。I型線毛の主要な成分は、右巻きの螺旋状に配置
されるFimAのサブユニットが繰り返されて、中心軸に孔を有する長さおよそ1μm及
び直径7nmのフィラメントを形成したものである。主サブユニットとしてのFimAと
共に、線毛フィラメントはまた、副タンパク質サブユニットとしてFimF、FimG、
及びFimHも含む。副タンパク質サブユニットFimHは、真核細胞表面上のマンノー
ス含有糖タンパク質へのI型線毛細菌の付着を促進するマンナン結合アドヘシンであり、
マンナン及びフィブロネクチンを含む様々な標的に結合するタンパク質のファミリーを表
す。免疫電子顕微鏡研究により、FimHが、I型線毛の遠位端に戦略的に配置され、そ
こでFimGと複合体を形成して柔軟な線毛構造を形成すると見られており、フィラメン
トに沿って様々な間隔で長手方向にも配置されることが明らかとなった。
【0004】
FimHアドヘシンタンパク質は、UTIに対する様々な前臨床モデルにおいてワクチ
ンとして使用された場合に、防御を誘導することが示されている(Langermann
S,et al.,1997,Science,276:607-611、Lange
rmann S,et al.,2000,J Infect Dis,181:774
-778、O’Brien VP et al.,2016,Nat Microbio
l,2:16196)。
【0005】
大腸菌感染中、マンノシル化受容体に結合するアドヘシンFimHのレクチンドメイン
は、マンノースに対して低親和性(緊張)及びマンノースに対して高親和性(伸長/弛緩
)という2つの異なる立体構造を取り得ることが示されている(Kalas et al
,2017,Sci Adv 10;3(2))。低親和性の立体構造は、細菌の運動性
及び新しい組織のコロニー形成を促進する。高親和性の立体構造は、尿排泄の機械的な力
の下での強固な細菌接着を確実にする。更に、低親和性バリアントに対する抗体は、尿路
上皮細胞への細菌結合を遮断し、膀胱内のCFU数を減少させることが示された(Tch
esnokoca,2011 Infect Immun.79(10):3895-9
04;Kisiela,2013 Proc Natl Acad Sci,19;11
0(47):19089-94)。
【0006】
国際公開第02102974号は、多数のFimH変異体について記載しており、これ
らは全て、分子の渓谷領域(canyon region)にアミノ酸改変を含む。具体的には、国際
公開第02102974号は、結合ポケット内のマンノース相互作用残基が変異されてい
るバリアントについて記載している。この変異の位置は、FimH変異体をより開いた立
体構造に保ち、それによって、野生型タンパク質ではアクセスしにくいエピトープを露出
させるので、選択されている。しかしながら、現在までに、本発明者らの知る限りでは、
これらの変異体のいずれも、ワクチン候補として更に追究されてはいない。臨床試験では
、野生型FimHのみが使用されている。
【発明の概要】
【0007】
したがって、大腸菌によって引き起こされる細菌感染症に対して高度に阻害性の抗体を
誘導することができるワクチンが、当該技術分野において依然として必要とされている。
【0008】
第1の態様において、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列の71位に対応する位置に
フェニルアラニン(F)以外のアミノ酸を含むFimHレクチンドメインを含む、ポリペ
プチドを提供する。
【0009】
第2の態様において、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列の144位に対応する位置
にフェニルアラニン(F)以外のアミノ酸を更に含む、第1の態様に記載のFimHレク
チンドメインを含むポリペプチドを提供する。
【0010】
第3の態様において、本発明は、本発明によるポリペプチドをコードする、ポリヌクレ
オチドを提供する。
【0011】
第4の態様において、本発明は、本発明によるポリヌクレオチドを含む、ベクターを提
供する。
【0012】
第5の態様において、本発明は、本発明によるポリヌクレオチド又はベクターを含む、
宿主細胞を提供する。
【0013】
第6の態様において、本発明は、本発明によるポリペプチド、ポリヌクレオチド、又は
ベクターを含む、医薬組成物を提供する。
【0014】
第7の態様において、本発明は、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科の細菌に対する免
疫応答の誘導に使用するための、本発明によるポリペプチド、本発明によるポリヌクレオ
チド、本発明によるベクター、又は本発明による医薬組成物を提供する。本発明は更に、
腸内細菌に関連する状態の治療又は予防を、それを必要とする対象において行うための方
法であって、有効量の本発明によるポリペプチド、本発明によるポリヌクレオチド、本発
明によるベクター、又は本発明による医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。
【0015】
第8の態様において、本発明は、ポリペプチドを産生するための方法であって、本発明
のポリヌクレオチド及び/又は本発明のベクターを含む組換え細胞からポリペプチドを発
現させることを含み、任意選択で、ポリペプチドを回収することであって、これに、任意
選択で、ポリペプチドの医薬組成物への製剤化が続く、ことを更に含む、方法を更に提供
する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】異なるFimHバリアントによって誘導される抗体の機能性である。ウィスターラットに、非フロイントアジュバント(Speedy-ラットモデル、Eurogentec)と組み合わせた60ug/用量の異なるFimHバリアントを、0日目、7日目、10日目、及び18日目に、4回の筋肉内免疫付与を受容させた。血清試料を、0日目(免疫付与前)及び28日目(免疫付与後)に得た。 A)様々なFimHバリアント(グラフの下に示される)を用いた初回実験。阻害性抗体力価(IC50)を、12段階希釈曲線に当てはめた4パラメーターのロジスティック回帰モデルに基づいて計算した。データは、2匹の動物/群からの二連の血清試料の平均を表す。
【
図1B】異なるFimHバリアントによって誘導される抗体の機能性である。ウィスターラットに、非フロイントアジュバント(Speedy-ラットモデル、Eurogentec)と組み合わせた60ug/用量の異なるFimHバリアントを、0日目、7日目、10日目、及び18日目に、4回の筋肉内免疫付与を受容させた。血清試料を、0日目(免疫付与前)及び28日目(免疫付与後)に得た。 B)FimH変異体F144V、F71Y、及びF144V/F71Y二重変異体を用いた別個の実験。阻害性抗体力価(IC50)を、6段階希釈曲線に当てはめた4パラメーターのロジスティック回帰モデルに基づいて計算した。グラフは、二連に測定した血清試料の免疫付与前及び免疫付与後の個々のIC50力価、並びにGMT(幾何平均力価)±95%CI(信頼区間)を示す。LOD:検出限界。
【
図2A】NMRスペクトル法によって決定されたマンノシドリガンドの存在下及び不在下における異なるFimHレクチンドメインバリアントの立体構造状態である。左のパネルは、マンノシドリガンドが結合していない(例えば、アポ状態の)ときの低親和性状態(L)の一様に
15Nで標識したFimH
LDバリアントの
15N HSQC NMRスペクトルを示し、右のパネルは、マンノシドリガンドが結合している(例えば、リガンド状態の)ときの高親和性状態(H)のスペクトルを示す。マンノシドリガンドの結合時に化学シフトを受ける重要なアミノ酸残基が、枠内に示されている。残基は、公けに入手可能な大腸菌(E coli)K12由来のNMRスペクトルから同定されている(Rabbani S et al,J Biol.Chem.,2018,293(5):1835-1849)が、大腸菌23-10に特異的であった残基番号1及び2は除き、このことは、野生型FimH
LD 23-10タンパク質が、大腸菌K12のFimH
LDと比較して、アポ状態においてわずかに異なる立体構造を有することを示す。
【
図2B】NMRスペクトル法によって決定されたマンノシドリガンドの存在下及び不在下における異なるFimHレクチンドメインバリアントの立体構造状態である。左のパネルは、マンノシドリガンドが結合していない(例えば、アポ状態の)ときの低親和性状態(L)の一様に
15Nで標識したFimH
LDバリアントの
15N HSQC NMRスペクトルを示し、右のパネルは、マンノシドリガンドが結合している(例えば、リガンド状態の)ときの高親和性状態(H)のスペクトルを示す。マンノシドリガンドの結合時に化学シフトを受ける重要なアミノ酸残基が、枠内に示されている。残基は、公けに入手可能な大腸菌(E coli)K12由来のNMRスペクトルから同定されている(Rabbani S et al,J Biol.Chem.,2018,293(5):1835-1849)が、大腸菌23-10に特異的であった残基番号1及び2は除き、このことは、野生型FimH
LD 23-10タンパク質が、大腸菌K12のFimH
LDと比較して、アポ状態においてわずかに異なる立体構造を有することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、FimHレクチンドメインを含む新規なポリペプチドであって、FimHレ
クチンドメインが、マンノースに対して低親和性を有する立体構造(本明細書において「
低親和性立体構造」とも称される)に「固定」されている、ポリペプチドを提供する。本
発明は、マンノースに対して低親和性の立体構造にあるFimH抗原が、マンノシドを介
した接着を阻害し得る抗体を誘導することができるという観察に、部分的に基づく。これ
らの抗体は、高度に阻害性であり、細菌感染症の予防又は治療において、増強された効果
を有する。本明細書において、F71Y変異を有するFimHレクチンドメインが、例え
ば、例として再発性UTIを予防又は低減するための、UTIに対するワクチンにおいて
使用するのに非常に好適なものとなる、望ましい特性の驚くほど良好な組み合わせを有す
ることが見出された。
【0018】
したがって、第1の態様において、本発明は、配列番号1の参照アミノ酸配列の71位
に対応する位置にフェニルアラニン(F)以外のアミノ酸を含むFimHレクチンドメイ
ンを含む、ポリペプチド、好ましくは、免疫原性ポリペプチドを提供する。
【0019】
第2の態様において、本発明は更に、配列番号1の参照アミノ酸配列のそれぞれ71位
及び144位に対応する両方の位置にフェニルアラニン(F)以外のアミノ酸を含むFi
mHレクチンドメインを含む、ポリペプチド、好ましくは、免疫原性ポリペプチドを提供
する。この「二重変異体」は、低親和性立体構造に固定されたままであり、したがって、
同様に、マンノシドを介した接着を阻害し得る抗体を誘導することができる。これらの阻
害性抗体を誘導することに加えて、FimHレクチンドメインのF71Y及びF144V
二重変異体は、高親和性立体構造に戻るように切り替えることができず、これによって二
重変異体に驚くほど高い安定性がもたらされることが、本明細書において見出された。こ
の高親和性立体構造に戻るように切り替えることができないことは、二重変異体が、例え
ば、例として再発性UTIを予防又は低減するための、UTIに対するワクチンにおいて
使用するのに非常に好適なものとなる、非常に望ましい特性であるが、これは、とりわけ
、保管中又は他の保管若しくは使用条件下において立体構造が安定であるかどうかを試験
するための追加の品質又は安定性管理を必要としないことが確実であるためである。
【0020】
本明細書に使用される場合、アミノ酸71位置及び144位置は、それぞれ、配列番号
1のFimHレクチンドメインの参照アミノ酸配列の71位置及び144位を指す。配列
番号1以外の本発明のアミノ酸配列において、好ましくは、アミノ酸71位及び144位
は、それぞれ、配列アライメント、好ましくは、デフォルト設定を使用したClusta
lW(1.83)配列アライメントにおいて、その他のアミノ酸配列の、配列番号1の7
1位及び144位に対応する位置に存在する。当業者であれば、上記で定義したアミノ酸
配列アライメントアルゴリズムを使用して、配列番号1以外のFimHレクチンドメイン
アミノ酸配列の対応するアミノ酸位置を同定する方法を把握しているであろう。
【0021】
本出願全体を通じて、配列番号1のアミノ酸配列の71位に対応する位置にフェニルア
ラニン(F)以外のアミノ酸を含むFimHレクチンドメインを含む本発明のポリペプチ
ドは、本明細書において、「FimH(F71mut)」と称される。同様に、配列番号
1のアミノ酸配列の、それぞれ71位及び144位に対応する両方の位置にフェニルアラ
ニン(F)以外のアミノ酸を含むFimHレクチンドメインを含む本発明のポリペプチド
は、本明細書において、「FimH(F71mut/F144mut)」と称される。
【0022】
ある特定の実施形態において、FimH(F71mut)は、配列番号1の71位に対
応する位置にチロシン(Y)及びトリプトファン(W)の群から選択されるアミノ酸を含
む。
【0023】
ある特定の実施形態において、FimH(F71mut)は、配列番号1の71位に対
応する位置にチロシン(Y)を含む。
【0024】
ある特定の実施形態において、FimH(F71mut/F144mut)は、配列番
号1の144位に対応する位置にバリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、
グリシン(G)、メチオニン(M)、及びアラニン(A)からなる群から選択されるアミ
ノ酸を含む。
【0025】
ある特定の実施形態において、FimH(F71mut/F144mut)は、配列番
号1の144位に対応する位置にバリン(V)を含む。
【0026】
ある特定の実施形態において、FimH(F71mut)及びFimH(F71mut
/F144mut)レクチンドメインのうちの少なくとも1つは、配列番号1との少なく
とも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又
は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0027】
一実施形態において、FimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F14
4mut)は、FimHレクチンドメインをマンノース立体構造に対して低親和性にする
少なくとも1つの変異を含む。一実施形態において、FimH(F71mut)は、配列
番号1の71位に対応する位置において変異されている。一実施形態において、FimH
(F71mut/F144mut)は、配列番号1の71位及び144位に対応する位置
において変異されている。
【0028】
この文脈におけるマンノースに対して低親和性を有するFimHレクチンドメインとは
、本明細書において、例えば、実施例2において指定される条件下で、表面プラズモン共
鳴を使用して測定した場合に少なくとも1000nM以上の解離定数(KD)でマンノシ
ドリガンドに結合するFimHレクチンドメインとして定義される。マンノースに対して
高親和性を有するFimHレクチンドメインとは、本明細書において、同じ条件下で、1
00nM以下のKDでマンノシドリガンドに結合するFimHレクチンドメインとして定
義され、典型的には、野生型FimHが、このカテゴリーに入る。これらの条件下で10
0nM~1000nMのKDを有するFimHレクチンドメインは、本明細書において、
マンノースに対して中等度の親和性を有すると称される。
【0029】
この文脈における「変異体」、「変異」、「変異された」、又は「置換」、「置換され
た」という用語は、対応する親分子(ここでは、71位及び144位にFを有するFim
Hレクチンドメインを含むポリペプチドである)におけるものではない示された位置にお
いて、別のアミノ酸が存在することを意味する。そのような親分子は、物理的にポリペプ
チドとして又はそのようなポリペプチドをコードする核酸の形態で存在し得るが、アミノ
酸配列又はアミノ酸配列をコードする対応する核酸配列として、単にインシリコ又は理論
上で存在してもよい。したがって、この文脈における変異又は置換はまた、例えば、タン
パク質が、変異又は置換をコードするように合成された核酸から発現される場合、対応す
る親分子をコードする核酸がプロセス中に最初に実際に調製されなかった場合であっても
、例えば、核酸分子が化学合成によって完全に調製されている場合であっても、存在する
と考えられる。
【0030】
好ましくは、変異は、単一のアミノ酸残基の置換である。変異は、好ましくは、それぞ
れ、配列番号1の71位及び144位のうちの少なくとも1つに対応するアミノ酸残基の
置換である。好ましくは、変異は、配列番号1の71位に対応する位置におけるフェニル
アラニン(F)の別のアミノ酸による置換である。好ましくは、本発明のポリペプチドは
、配列番号1の144位に対応する位置におけるフェニルアラニン(F)の別のアミノ酸
による置換を更に含む。FimH(F71mut)の場合には、配列番号1の71位に対
応する位置は、好ましくは、チロシン(Y)及びトリプトファン(W)からなる群から選
択されるアミノ酸で置換される。1つの好ましい実施形態において、FimH(F71m
ut)は、71位におけるフェニルアラニン(F)からチロシン(Y)への置換を含む。
ある特定の実施形態において、FimH(F71mut)は、71位にチロシンを含む非
天然のポリペプチドである。ある特定の実施形態において、FimH(F71mut)は
、71位に天然に存在するフェニルアラニンの代わりにチロシンを有する(「FimH(
F71Y)」と称される)。ある特定の実施形態において、FimH(F71mut)は
、71位にフェニルアラニン以外の天然に存在するアミノ酸の代わりにチロシンを有する
(「FimH(x71Y)」、式中、xは、親分子におけるフェニルアラニン又はチロシ
ン以外のアミノ酸である)。
【0031】
一実施形態において、FimH(F71mut/F144mut)は、配列番号1の7
1位及び144位に対応する位置に変異を含む。71位における変異は、好ましくは、本
明細書に記載の置換である。144位における変異は、好ましくは、配列番号1の144
位に対応するアミノ酸残基の置換である。好ましくは、変異は、配列番号1の144位に
対応する位置におけるフェニルアラニン(F)アミノ酸残基の置換である。好ましくは、
144位におけるアミノ酸は、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グ
リシン(G)、メチオニン(M)、及びアラニン(A)からなる群から選択されるアミノ
酸によって置換される。1つの好ましい実施形態において、FimH(F71mut/F
144mut)は、144位におけるフェニルアラニン(F)からバリン(V)への置換
を含む。
【0032】
ある特定の実施形態において、FimH(F71mut/F144mut)は、71位
にチロシン及び144位にバリンを含む、非天然のポリペプチドである。ある特定の実施
形態において、FimH(F71mut/F144mut)は、71位に天然に存在する
フェニルアラニンの代わりにチロシンを有し、144位に天然に存在するフェニルアラニ
ンの代わりにバリンを有する。ある特定の実施形態において、FimH(F71mut/
F144mut)は、71位にフェニルアラニン以外の天然に存在するアミノ酸の代わり
にチロシン、及び144位にフェニルアラニン以外の天然に存在するアミノ酸の代わりに
バリンを有する。
【0033】
全長FimHFLは、2つのドメイン:短いテトラペプチドループリンカーによってC
末端ピリンドメイン(FimHPD)に接続されたN末端レクチンドメイン(FimHL
D)から構成される。本発明のある特定の実施形態において、本発明によるFimHレク
チンドメインを含むポリペプチドは、FimHピリンドメインを含まない。本発明の別の
実施形態において、本発明によるFimHレクチンドメインを含むポリペプチドは、Fi
mHピリンドメインを更に含む。一実施形態において、FimH(F71mut)又はF
imH(F71mut/F144mut)は、FimHレクチンドメインが、それぞれ、
FimH(F71mut)及びFimH(F71mut/F144mut)について本明
細書で上記に定義されているアミノ酸配列を含む、全長FimHポリペプチドである。本
発明のある特定の実施形態において、本発明によるFimHレクチンドメインを含むポリ
ペプチドは、別のポリペプチドに融合されたFimHレクチンドメインの融合ポリペプチ
ドであり、この他のポリペプチドは、目的の任意のポリペプチドであってもよく、これは
、FimHに関連している必要も、天然でFimHと会合している必要もない。ある特定
の実施形態において、本発明のFimHレクチンドメインを含むポリペプチドは、Fim
Hピリンドメインを更に含み、加えて別のポリペプチドを含む、融合ポリペプチドであり
、この他のポリペプチドは、目的の任意のポリペプチドであってもよく、これは、Fim
Hに関連している必要も、天然でFimHと会合している必要もない。本発明の融合ポリ
ペプチドは、例えば、ワクチン接種の目的で、免疫原として使用することもできる。
【0034】
一実施形態において、FimHFLポリペプチドは、配列番号2との少なくとも約80
%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98
%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、それによって、好ましくは、
71位又は71位及び144位は、それぞれ、FimH(F71mut)及びFimH(
F71mut/F144mut)について本明細書で上記に定義されているアミノ酸残基
を含む。ある特定の実施形態において、FimHFLポリペプチドは、本明細書に記載の
F71Y及び任意選択でF144V置換を除いて、配列番号2を有する配列を含んでもよ
い。別の実施形態において、ポリペプチドは、配列番号4との、又は好ましくは少なくと
もそのアミノ酸22~300との少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%
、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する
FimHFLであり、それによって、71位又は71位及び144位は、それぞれ、Fi
mH(F71mut)及びFimH(F71mut/F144mut)について本明細書
で上記に定義されているアミノ酸残基を含む。ある特定の実施形態において、FimHF
Lポリペプチドは、本明細書に記載されるF71Y及び/又はF144V置換を除いて、
配列番号4又は少なくともそのアミノ酸22~300を有する配列を含み得る。
【0035】
ある特定の実施形態において、FimHFLポリペプチドは、その全体が本明細書に組
み込まれる米国特許第6,737,063号に記載されている配列番号23~45及び5
5との少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%
、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、それ
によって、71位又は71位及び144位は、それぞれ、FimH(F71mut)及び
FimH(F71mut/F144mut)について本明細書で上記に定義されているア
ミノ酸残基を含む。
【0036】
FimHポリペプチドは、大腸菌の様々な株の間で高度に保存されており、それらはま
た、広範囲のグラム陰性菌間でも高度に保存されている。更に、株間で生じるアミノ酸変
化は、概して、類似のアミノ酸位置で生じる。大腸菌株の間でのFimHの高度な保存の
結果として、1つの株に由来するFimHポリペプチドは、FimHレクチンによって他
の大腸菌株が細胞に結合するのを阻害若しくは防止し、並びに/又は他の大腸菌株によっ
て引き起こされる感染症に対する保護及び/若しくは治療を提供する、抗体応答を誘導す
ることができる。したがって、一実施形態において、FimHFLポリペプチドは、配列
番号5との、又は好ましくは少なくともそのアミノ酸22~300との少なくとも約80
%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有す
るアミノ酸配列を含み、それによって、71位又は71位及び144位は、それぞれ、F
imH(F71mut)及びFimH(F71mut/F144mut)について本明細
書で上記に定義されているアミノ酸残基を含む。ある特定の実施形態において、FimH
FLポリペプチドは、本明細書に記載されるF71Y置換、及び任意選択でF144V置
換を除いて、配列番号5又は少なくともそのアミノ酸22~300を有する配列を含み得
る。別の実施形態において、FimHFLポリペプチドは、配列番号6との少なくとも約
80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を
有するアミノ酸配列を含み、それによって、71位又は71位及び144位は、それぞれ
、FimH(F71mut)及びFimH(F71mut/F144mut)について本
明細書で上記に定義されているアミノ酸残基を含む。ある特定の実施形態において、Fi
mHFLポリペプチドは、本明細書に記載されるF71Y置換、及び任意選択でF144
V置換を除いて、配列番号6を有する配列を含み得る。
【0037】
ある特定の実施形態において、FimHは、好ましくは大腸菌FimHである。
【0038】
本明細書に使用される場合、「ペリプラズムシャペロン」という用語は、共通の結合エ
ピトープ(複数可)の認識を介して様々なシャペロン結合タンパク質と複合体を形成する
ことができる、細菌のペリプラズムに局在するタンパク質として定義される。シャペロン
は、細菌細胞からペリプラズムに輸送されたタンパク質がそれらの天然の立体構造に折り
畳まれるときに鋳型として機能する。シャペロン結合タンパク質とシャペロンとの会合は
また、ペリプラズム内に局在するプロテアーゼによる分解から結合タンパク質を保護する
役割を果たし、水溶液中でのそれらの溶解度を増加させ、集合している線毛へのそれらの
正しい順序での取り込みをもたらす。シャペロンタンパク質は、そのような集合を媒介す
ることによって線毛の集合に関与するが、構造には組み込まれない、グラム陰性菌におけ
るタンパク質のクラスである。FimCは、FimHのペリプラズムシャペロンタンパク
質である。本発明において使用するためのFimCポリペプチドは、配列番号3との少な
くとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、9
9%、又は約100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。ある特定の実施形態
において、FimCポリペプチドは、その全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,
737,063号に記載される配列番号29との少なくとも70%、75%、80%、8
5%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は約100%の配列同一性
を有するアミノ酸配列を有する。FimCとFimHとの非共有結合複合体は、FimC
Hと命名される。
【0039】
したがって、更なる態様において、本発明は、本明細書で定義されるFimH(F71
mut)又はFimH(F71mut/F144mut)を含み、本明細書で定義される
FimHピリンドメイン又は全長FimHを更に含むポリペプチドと、本明細書で定義さ
れるFimCポリペプチドとを含む、複合体を提供する。
【0040】
本発明の一実施形態において、FimH(F71mut)又はFimH(F71mut
/F144mut)レクチンドメインは、FimHピリンドメインを更に含むポリペプチ
ドの一部であり、このポリペプチドは、FimCと複合体を形成して、FimCH複合体
を形成する。
【0041】
本出願の発明者らは、異なるアミノ酸変化を有するいくつかのFimHレクチンドメイ
ンバリアントを作製し、それらを、様々なアッセイにおいて、効率について試験している
(実施例を参照されたい)。
【0042】
本明細書に記載されるFimH(F71mut)及びFimH(F71mut/F14
4mut)は、いずれも、FimCH複合体を形成することができた。
【0043】
一実施形態において、FimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F14
4mut)レクチンドメインは、配列番号2との少なくとも約80%、85%、90%、
95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するFimHFLポリペ
プチドの一部であり、これは、任意選択で、FimCポリペプチドと複合体を形成して、
FimCH複合体を形成する。最終形態のFimHFLポリペプチド、すなわち、成熟F
imHFLポリペプチドは、典型的には、例えば配列番号4及び5のアミノ酸1~21と
して示されるシグナルペプチドを含まず、すなわち、配列番号4又は配列番号5の成熟F
imHFLポリペプチドは、これらの配列のアミノ酸22~300を含むが、典型的には
そのアミノ酸1~21が欠如していることが理解される。FimHFLポリペプチドの組
換え産生に関して、組換え宿主細胞においてシグナルペプチドを含む成熟FimHFLポ
リペプチドをコードし、ポリペプチドのペリプラズム位置につながる全般的な分泌経路を
通じて内部(細胞質)膜を越えて輸送されること(「ペリプラズム発現」と称されること
もある)が有用であるが、単離され、例えば医薬組成物において使用される最終的な成熟
FimHFLポリペプチドにおいて、シグナルペプチドは、典型的には、ポリペプチドを
発現している組換え細胞によるプロセシングの結果としてもはや存在しない。
【0044】
一実施形態において、FimCH複合体は、配列番号3との少なくとも80%、85%
、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは少なくとも約99%、又は100
%の配列同一性を有するFimCタンパク質と、本明細書で上記に定義されているFim
H(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)レクチンドメインを
含むFimHタンパク質とを含むか、又はそれらからなる。ある特定の実施形態において
、FimCH複合体は、配列番号3との少なくとも80%、85%、90%、95%、9
6%、97%、98%、若しくは少なくとも約99%、又は100%の配列同一性を有す
るFimCタンパク質と、本明細書で上記に定義されているFimH(F71mut)又
はFimH(F71mut/F144mut)レクチンドメインを含むFimHタンパク
質又はFimHFLタンパク質とを含むか、又はそれらからなり、それによって、Fim
HFLタンパク質は、好ましくは、(例えば、シグナルペプチドを依然として含む配列番
号4又は5において)F92置換を含む。任意選択で、FimCH複合体は、配列番号3
との少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは少
なくとも約99%、又は100%の配列同一性を有するFimCタンパク質と、レクチン
ドメインにF71(Y)及びF144(V)置換を含むFimHタンパク質、又は(例え
ば、シグナルペプチドを依然として含む配列番号4若しくは5において)F92(Y)及
びF165(V)置換を含む全長FimHタンパク質を含むか、又はそれらからなる。
【0045】
シグナルペプチドを依然として含む全長FimHにおいて、アミノ酸92位は、Fim
Hレクチンドメインにおけるアミノ酸71位に対応し、165位は、アミノ酸144位に
対応する。当業者には、上記に定義されるアミノ酸配列アライメントアルゴリズムを使用
して、全長FimHアミノ酸配列及びFimHレクチンドメインアミノ酸配列における対
応するアミノ酸位置を同定する方法が公知であろう。
【0046】
一実施形態において、大腸菌シャペロンFimCと、FimH(F71mut)又はF
imH(F71mut/F144mut)を含むポリペプチドとを含む複合体は、組換え
細胞からFimCと共に、FimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F1
44mut)を含むポリペプチドを共発現させることによって形成することができる。
【0047】
一実施形態において、FimCH複合体は、1つの細菌株を起源とするFimCを含む
が、FimHは、異なる細菌株を起源とする。別の実施形態において、FimCH複合体
は、いずれも同じ細菌株を起源とするFimC及びFimHを含む。ある特定の実施形態
において、FimH、又はFimC、又はFimH及びFimCの両方は、天然に存在す
る実際の細菌単離物に由来しない人工配列であってもよく、例えば、それらはまた、天然
の単離物のコンセンサス配列又は組み合わせに基づいてもよい。
【0048】
一実施形態において、FimCH複合体は、Hisタグを含む少なくとも1つのポリペ
プチドを含む。一実施形態において、本明細書に記載の全長FimHが、Hisタグを含
むか、又は本明細書に記載のFimCが、Hisタグを含む。好ましくは、FimCH複
合体において、FimCが、Hisタグを含む。本明細書に使用される場合、Hisタグ
は、ヒスチジン(His)残基のストレッチ、例えば、6個のHis残基であり、これは
、内部に付加され得るか、又は好ましくはタンパク質のN末端若しくはC末端に付加され
得る。そのようなタグは、精製を容易にするための使用が周知されている。
【0049】
更なる態様において、本発明は、本明細書で上記に定義されているFimH(F71m
ut)又はFimH(F71mut/F144mut)レクチンドメインを含むポリペプ
チドをコードする、ポリヌクレオチドに関する。ポリヌクレオチドは、それに作動可能に
連結されたプロモーターによって先行され得る。ある特定の実施形態において、プロモー
ターは、FimHコード配列に対して内因性である。ある特定の実施形態において、プロ
モーターは、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科の細菌においてFimHの発現を作動さ
せる内因性プロモーターである。他の実施形態において、プロモーターは、FimHコー
ド配列に対して異種であり、例えば、組換え発現系における使用のために当業者に公知の
強力なプロモーターが使用される。例えば、誘導性Lacプロモーターを含むpET-D
UETベクターは、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut
/F144mut)ポリペプチドの発現及び/又はFimCポリペプチドの発現のために
使用することができる。Lacプロモーター又はTacプロモーターなどの誘導性プロモ
ーターの場合、IPTGを使用して発現を誘導することができる。好ましくは、ポリヌク
レオチドは、その天然の環境から単離されている。ある特定の実施形態において、本発明
は、本発明による単離されたポリヌクレオチドを提供する。ポリペプチドは、組換え、合
成、又は人工ポリヌクレオチドであり得る。ポリヌクレオチドは、任意の形態の核酸、例
えば、DNA又はRNA、好ましくは、DNAであり得る。ポリヌクレオチドは、天然に
存在するFimHをコードするポリヌクレオチドには存在しない1つ以上のヌクレオチド
を含み得る。好ましくは、ポリヌクレオチドは、その5’末端及び/又は3’末端に、天
然に存在するFimHをコードするポリヌクレオチドには存在しない1つ以上のヌクレオ
チドを有する。コードされる成熟FimC及び/又はFimHの配列は、好ましくは、そ
れぞれのポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドにおいてシグナルペプチド
が先行してもよく、シグナルペプチドは、それぞれ、FimC及び/又はFimHポリペ
プチドに対して内因性シグナルペプチド(すなわち、これらのタンパク質について天然に
存在するシグナルペプチド)であってもよく、又はそれらは異種シグナルペプチド、すな
わち、他のタンパク質由来のシグナルペプチド若しくは合成シグナルペプチドであっても
よい。シグナルペプチドは、ペリプラズム発現に有用であるが、典型的には、切断され、
最終的に産生及び精製されるFimC及び/又はFimHそれぞれには存在しない。
【0050】
更なる態様において、本発明は、本発明のFimH(F71mut)又はFimH(F
71mut/F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、ベク
ターに関する。ある特定の実施形態において、ベクターは、プラスミド又はウイルスベク
ター、好ましくは、プラスミドである。ベクターは、好ましくは、DNA、例えば、DN
Aプラスミドの形態である。ある特定の実施形態において、ベクターは、プロモーターに
作動可能に連結された本発明のポリヌクレオチドを含み、これは、ポリヌクレオチドがプ
ロモーターの制御下にあることを意味する。プロモーターは、本発明のポリペプチドをコ
ードするポリヌクレオチドの上流、例えば、プラスミドの発現カセットに、位置し得る。
【0051】
なおも更なる態様において、本発明は、本発明のFimH(F71mut)若しくはF
imH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又
は本明細書に記載のベクターを含む、宿主細胞に関する。本発明のFimH(F71mu
t)又はFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌク
レオチドは、一般的な分子生物学的方法によって細胞に導入することができる。そのよう
な核酸は、染色体外、例えば、プラスミド若しくは他のベクター上にあってもよく、又は
宿主細胞のゲノムに組み込まれていてもよい。好ましくは、タンパク質をコードする核酸
は、宿主細胞における核酸の発現を作動させる配列(例えば、プロモーター)に作動可能
に連結されている。プロモーターは、構成的プロモーターであってもよく、又はその活性
が調節され得る、例えば、温度変化若しくは細胞内の特定の化学物質若しくはタンパク質
の存在などの特定の条件下において抑制若しくは誘導され得るプロモーターであってもよ
く、これらは全て、当該技術分野において周知である。
【0052】
宿主細胞は、単離された細胞であり得る。宿主細胞は、培養培地において、例えば、バ
イオリアクターなどの培養容器において、培養され得る。細胞は、本発明のFimH(F
71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードする
ポリヌクレオチドの発現に好適な任意の微生物細胞、原核細胞、又は真核細胞であってよ
い。好ましくは、宿主細胞は、細菌宿主細胞である。好ましくは、細菌宿主細胞は、グラ
ム陰性菌細胞である。好ましくは、宿主細胞は、大腸菌(E. coli)及びクレブシエラ(K
lebsiella)から選択される。好ましくは、宿主細胞は、大腸菌である。
【0053】
必要に応じて及び/又は所望される場合には、本発明のFimH(F71mut)若し
くはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、又は本発明のFimH(
F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコー
ドするポリヌクレオチドは、薬学的に許容される担体を添加することによって、薬学的に
活性な混合物に組み込むことができる。
【0054】
したがって、更なる態様において、本発明はまた、本発明のFimH(F71mut)
若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、又は本発明のFim
H(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドを
コードするポリヌクレオチドを含む、組成物、好ましくは、医薬組成物を、提供する。
【0055】
本発明の(医薬)組成物は、担体、充填剤、保存剤、可溶化剤、及び/又は希釈剤を含
む、任意の薬学的に許容される賦形剤を含み得る。生理食塩水並びに水性デキストロース
及びグリセロール溶液も、特に注射溶液用の液体担体として採用され得る。好適な賦形剤
としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小
麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール
、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール
、水、エタノールなどが挙げられる。好適な薬学的担体の例は、公知であり、例えば、教
本及びマニュアルに記載されている。
【0056】
ある特定の実施形態において、本発明の組成物は、1つ以上の緩衝液、例えば、トリス
緩衝化生理食塩水、リン酸緩衝液、HEPES、又はスクロースリン酸グルタミン酸緩衝
液を更に含む。
【0057】
ある特定の実施形態において、本発明の組成物は、1つ以上の塩、例えば、トリス-塩
酸塩、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、リン酸ナトリウム、グルタミン
酸一ナトリウム、及びアルミニウム塩(例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウ
ム、硫酸カリウムアルミニウム、又はそのようなアルミニウム塩の混合物)を更に含む。
【0058】
本発明の組成物は、組成物が投与される宿主において、免疫応答の誘起に使用すること
ができ、すなわち、免疫原性である。したがって、本発明の組成物は、腸内細菌(Entero
bacteriaceae)科の細菌によって引き起こされる感染症に対する、好ましくは、クレブシ
エラ(Klebsiella)又は大腸菌(E. coli)であり、より好ましくは、大腸菌によって引
き起こされる感染症に対するワクチンとして使用することができ、したがって、任意選択
で、ワクチンにおいて使用するのに好適な任意の追加の成分を含み得る。例えば、ワクチ
ン組成物の追加の任意選択の成分は、本明細書に記載されるアジュバントである。
【0059】
ある特定の実施形態において、本発明の組成物は、保存剤、例えば、フェノール、塩化
ベンゼトニウム、2-フェノキシエタノール、又はチメロサールを更に含む。特定の実施
形態において、本発明の(医薬)組成物は、0.001%~0.01%の保存剤を含む。
他の実施形態において、本発明の(医薬)組成物は、保存剤を含まない。
【0060】
ある特定の実施形態において、本発明の組成物は、対象への意図される投与経路に好適
となるように製剤化される。例えば、本発明の組成物は、皮下、非経口、経口、皮内、経
皮、結腸直腸、腹腔内、膣内、又は直腸投与に好適となるように製剤化することができる
。特定の実施形態において、医薬組成物は、静脈内、経口、頬側、腹腔内、鼻腔内、気管
内、皮下、筋肉内、局所、皮内、経皮、又は肺投与、好ましくは、筋肉内投与用に、製剤
化することができる。
【0061】
本発明の組成物は、投与の指示書と共に、容器、パック、又はディスペンサに入れるこ
とができる。
【0062】
ある特定の実施形態において、本発明の組成物は、使用前に保管され得、例えば、組成
物は、凍結保管(例えば、約-20℃又は約-70℃)され得るか、冷蔵条件(例えば、
約2~8℃、例えば、約4℃)で保管され得るか、又は室温で保管され得る。
【0063】
ある実施形態において、本明細書における本発明の医薬組成物は、アジュバントを更に
含む。本明細書に使用される場合、「アジュバント」という用語は、本発明の組成物と共
に、又はその一部として、投与された場合に、FimHに対する免疫応答を増大、増強、
及び/又はブーストするが、アジュバント化合物が単独で投与された場合には、コンジュ
ゲート及び/又はFimHに対する免疫応答を生じない、化合物を指す。アジュバントは
、例えば、リンパ球動員、B細胞及び/又はT細胞の刺激、並びに抗原提示細胞の刺激を
含むいくつかの機序によって、免疫応答を増強することができる。
【0064】
ある特定の実施形態において、本発明の医薬組成物は、アジュバントを含むか、又はア
ジュバントと組み合わせて投与される。本発明の組成物と組み合わせて投与するためのア
ジュバントは、免疫原性組成物の投与の前に、それと同時に、又はその後に、投与するこ
とができる。ある特定の実施形態において、FimH(F71mut)又はFimH(F
71mut/F144mut)及びアジュバントは、単一の組成物の形態で投与される。
【0065】
他の実施形態において、本発明の医薬組成物は、アジュバントを含まず、アジュバント
と組み合わせて投与されない。
【0066】
アジュバントの具体例としては、アルミニウム塩(ミョウバン)(アルミニウム水酸化
物、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、及び酸化アルミニウムなど、これには、ミ
ョウバン又はナノミョウバン製剤を含むナノ粒子が含まれる)、リン酸カルシウム(例え
ば、Masson JD et al,2017,Expert Rev Vaccin
es 16:289-299)、モノホスホリルリピドA(MPL)、又は3-デ-O-
アシル化モノホスホリルリピドA(3D-MPL)(例えば、英国特許第2220211
号、欧州特許第0971739号、欧州特許第1194166号、米国特許第64919
19号を参照されたい)、AS01、AS02、AS03、及びAS04(全てGlax
oSmithKline、例えば、AS04については欧州特許第1126876号、米
国特許第7357936号、AS02については、欧州特許第0671948号、同第0
761231号、米国特許第5750110号を参照されたい)、イミダゾピリジン化合
物(国際公開第2007/109812号を参照されたい)、イミダゾキノキサリン化合
物(国際公開第2007/109813号を参照されたい)、デルタ-イヌリン(例えば
、Petrovsky N and PD Cooper,2015,Vaccine
33:5920-5926を参照されたい)、STING活性化合成環状ジヌクレオチド
(例えば、米国特許出願公開第20150056224号)、レシチンとカルボマーホモ
ポリマーとの組み合わせ(例えば、米国特許第6676958号)、並びにサポニン、例
えば、Quil A及びQS21(例えば、Zhu D and W Tuo,2016
,Nat Prod Chem Res 3:e113(doi:10.4172/23
29-6836.1000e113を参照されたい)が挙げられるが、これらに限定され
ず、任意選択で、QS7と組み合わされる(Kensil et al.,in Vac
cine Design:The Subunit and Adjuvant App
roach(eds.Powell & Newman,Plenum Press,N
Y,1995)、米国特許第5,057,540号を参照されたい)。いくつかの実施形
態において、アジュバントは、フロイントアジュバント(完全又は不完全)である。ある
特定の実施形態において、アジュバントは、Quil-A、例えば、Brenntag(
現Croda)又はInvivogenから市販されているものなどを含む。QuilA
は、キラヤ・サポナリア・モリナ(Quillaja saponaria Molina)の木に由来するサポニ
ンの水抽出性画分を含有する。これらのサポニンは、共通のトリテルペノイド骨格構造を
有する、トリテルペノイドサポニンの群に属する。サポニンは、T依存性抗原並びにT非
依存性抗原に対する強力なアジュバント応答、並びに強力な細胞傷害性CD8+リンパ球
応答を誘導し、粘膜抗原に対する応答を増強することが公知である。これらはまた、コレ
ステロール及びリン脂質と組み合わされて、免疫刺激性複合体(ISCOM)を形成し得
、QuilAアジュバントは、異なる起源に由来する広範な抗原に対する抗体媒介性免疫
応答及び細胞媒介性免疫応答の両方を活性化し得る。ある特定の実施形態において、アジ
ュバントは、AS01、好ましくは、AS01Bである。S01は、MPL(3-O-デ
スアシル-4’-モノホスホリルリピドA)、QS21(キラヤ・サポナリア・モリナ、
画分21)、及びリポソームを含む、アジュバント系である。ある特定の実施形態におい
て、AS01は、市販されているか(GSK)、又は参照により本明細書に組み込まれる
国際公開第96/33739号に記載されるように作製され得る。ある特定のアジュバン
トは、エマルジョンを含み、これは、2つの非混和性流体、例えば、油及び水の混合物で
あり、そのうちの一方が、他方の内側に小滴として懸濁され、界面活性剤によって安定化
されている。水中油型エマルジョンは、油の小滴を取り囲む連続相を形成する水を有する
が、油中水型エマルジョンは、連続相を形成する油を有する。ある特定のエマルジョンは
、スクアレン(代謝可能な油)を含む。ある特定のアジュバントは、ブロックコポリマー
を含み、これは、2つのモノマーが一緒にクラスター化して繰り返し単位のブロックを形
成する場合に形成されるコポリマーである。ブロックコポリマー、スクアレン、及び微粒
子安定剤を含む油中水型エマルジョンの例は、TiterMax(登録商標)であり、こ
れは、Sigma-Aldrichから商業的に入手することができる。任意選択で、エ
マルジョンは、更なる免疫刺激成分、例えば、TLR4アゴニストと組み合わせられ得る
か、又はそれを含み得る。ある特定のアジュバントは、MF59(例えば、欧州特許第0
399843号、米国特許第6299884号、米国特許第6451325号を参照され
たい)及びAS03においても使用される水中油型エマルジョン(例えば、スクアレン又
はラッカセイ油など)であり、任意選択で、免疫刺激剤、例えば、AS02におけるモノ
ホスホリルリピドA及び/又はQS21と組み合わされる(Stoute et al.
,1997,N.Engl.J.Med.336,86-91を参照されたい)。アジュ
バントの更なる例は、免疫刺激剤、例えば、例えばAS01E及びAS01BにおけるM
PL及びQS21を含有するリポソームである(例えば、米国特許出願公開第2011/
0206758号)。アジュバントの他の例は、CpG、並びにイミダゾキノリン(例え
ば、イミキモド及びR848)である。例えば、Reed G,et al.,2013
,Nature Med,19:1597-1608を参照されたい。
【0067】
ある特定の実施形態において、アジュバントは、サポニン、好ましくは、キラヤ・サポ
ナリアから得られるサポニンの水抽出可能な画分を含む。ある特定の実施形態において、
アジュバントは、QS-21を含む。
【0068】
ある特定の実施形態において、アジュバントは、toll様受容体4(TLR4)アゴ
ニストを含有する。TLR4アゴニストは、当該技術分野において周知であり、例えば、
Ireton GC and SG Reed,2013,Expert Rev Va
ccines 12:793-807を参照されたい。ある特定の実施形態において、ア
ジュバントは、リピドA、又はそのアナログ若しくは誘導体を含む、TLR4アゴニスト
である。
【0069】
例えば、TLR4アゴニストを含むアジュバントは、様々な手法で、例えば、油中水型
(w/o)エマルジョン又は水中油型(o/w)エマルジョン(例は、MF59、AS0
3である)などのエマルジョン、安定(ナノ)エマルジョン(SE)、脂質懸濁液、リポ
ソーム、(ポリマー)ナノ粒子、ビロソーム、吸着ミョウバン(alum adsorbed)、水性
製剤(AF)などで製剤化することができ、アジュバント中の免疫調節分子及び/又は免
疫原のための様々な送達系を表す(例えば、Reed et al.,2013(上記)
、Alving CR et al,2012,Curr Opin Immunol
24:310-315を参照されたい)。
【0070】
免疫刺激性TLR4アゴニストは、任意選択で、他の免疫調節成分、例えば、サポニン
(例えば、QuilA、QS7、QS21、Matrix M、Iscoms、Isco
matrixなど)、アルミニウム塩、他のTLRのための活性化因子(例えば、イミダ
ゾキノリン、フラジェリン、CpG、dsRNAアナログなど)などと組み合わされ得る
(例えば、Reed et al,2013(上記)を参照されたい)。
【0071】
本明細書に使用される場合、「リピドA」という用語は、LPS分子の疎水性脂質部分
を指し、この部分は、グルコサミンを含み、ケトシド結合により、LPS分子の内部コア
においてケト-デオキシオクツロソン酸塩に連結されており、LPS分子がグラム陰性菌
の外膜の外葉に固定されている。LPS及びリピドA構造の合成の概要については、例え
ば、Raetz,1993,J.Bacteriology 175:5745-575
3,Raetz CR and C Whitfield,2002,Annu Rev
Biochem 71:635-700、米国特許第5,593,969号及び同第5
,191,072号を参照されたい。リピドAは、本明細書に使用される場合、天然に存
在するリピドA、その混合物、アナログ、誘導体、及び前駆体を含む。この用語は、単糖
類、例えば、リピドXと称されるリピドAの前駆体、二糖リピドA、ヘプタアシルリピド
A、ヘキサアシルリピドA、ペンタアシルリピドA、テトラアシルリピドA、例えば、リ
ピドIVAと称されるリピドAのテトラアシル前駆体、脱リン酸化リピドA、モノホスホ
リルリピドA、ジホスホリルリピドA、例えば、大腸菌(Escherichia coli)及びロドバ
クター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来のリピドAを含む。いくつか
の免疫活性化リピドA構造は、6つのアシル鎖を含む。グルコサミン糖に直接的に結合さ
れた4つの第一級アシル鎖は、通常、10~16炭素長の3-ヒドロキシアシル鎖である
。2つの追加のアシル鎖が、多くの場合、第一級アシル鎖の3-ヒドロキシ基に結合され
る。大腸菌リピドAは、例として、典型的には、糖に結合した4つのC14 3-ヒドロ
キシアシル鎖、並びにそれぞれ、2’位及び3’位において第一級アシル鎖の3-ヒドロ
キシ基に結合した1つのC12及び1つのC14を有する。
【0072】
本明細書に使用される場合、「リピドAアナログ又は誘導体」という用語は、リピドA
に構造及び免疫学的活性が類似しているが、必ずしも天然に存在するわけではない分子を
指す。リピドAアナログ又は誘導体は、例えば、短縮若しくは縮合されるように、及び/
又は別のアミン糖残基、例えば、ガラクトサミン残基で置換されたグルコサミン残基を有
するように、還元末端にグルコサミン-1-リン酸の代わりに2-デオキシ-2-アミノ
グルコン酸を含有するように、4’位にリン酸の代わりにガラクツロン酸部分を有するよ
うに、改変されていてもよい。リピドAアナログ又は誘導体は、細菌から単離されたリピ
ドAから、例えば、化学的誘導によって調製されてもよく、又は例えば、最初に好ましい
リピドAの構造を決定し、そのアナログ若しくは誘導体を合成することによって化学的に
合成されてもよい。リピドAアナログ又は誘導体もまた、TLR4アゴニストアジュバン
トとして有用である(例えば、Gregg KA et al,2017,MBio 8
,eDD492-17,doi:10.1128/mBio.00492-17を参照さ
れたい)。例えば、リピドAアナログ又は誘導体は、例えば、アルカリ処理によって、野
生型リピドA分子の脱アシル化によって、得ることができる。リピドAアナログ又は誘導
体は、例えば、細菌から単離されたリピドAから調製することができる。そのような分子
はまた、化学的に合成することもできる。リピドAアナログ又は誘導体の別の例は、リピ
ドA生合成及び/又はリピドA改変に関与する酵素の変異、又はその欠失若しくは挿入を
有する細菌細胞から単離されたリピドA分子である。MPL及び3D-MPLは、リピド
Aの毒性を弱めるように改変されたリピドAアナログ又は誘導体である。リピドA、MP
L、及び3D-MPLは、長鎖脂肪酸が結合した糖骨格を有し、この骨格は、グリコシド
連結した2つの6炭糖、及び4位のホスホリル部分を含む。典型的には、5~8個の長鎖
脂肪酸(通常、12~14個の炭素原子)が糖骨格に結合している。天然源の誘導に起因
して、MPL又は3D-MPLは、様々な脂肪酸長を有するいくつかの脂肪酸置換パター
ン、例えば、ヘプタアシル、ヘキサアシル、ペンタアシルなどの複合体又は混合物として
存在し得る。これはまた、本明細書に記載される他のリピドAアナログ又は誘導体のいく
つかについても当てはまるが、合成リピドAバリアントもまた規定され得、そして均質で
あり得る。MPL及びその製造は、例えば、米国特許第4,436,727号に記載され
ている。3D-MPLは、例えば、米国特許第4,912,094(B1)号に記載され
ており、3位の還元末端グルコサミンにエステル結合している3-ヒドロキシミリスチン
酸アシル残基の選択的除去によってMPLとは異なる(例えば、米国特許第4,912,
094(B1)号の第1欄のMPLの構造と第6欄の3D-MPLとを比較されたい)。
当該技術分野では、3D-MPLが使用されることが多いが、MPLと呼ばれることもあ
る(例えば、Ireton GC and SG Reed,2013(上記)の表1の
最初の構造は、この構造をMPL(登録商標)と称しているが、実際には、3D-MPL
の構造を示している)。本発明によるリピドA(アナログ、誘導体)の例としては、MP
L、3D-MPL、RC529(例えば、欧州特許第1385541号)、PET-リピ
ドA、GLA(グリコピラノシル脂質アジュバント、合成二糖脂質、例えば、米国特許出
願公開第20100310602号、米国特許第8722064号)、SLA(例えば、
Carter D et al,2016,Clin Transl Immunolo
gy 5:e108(doi:10.1038/cti.2016.63))、PHAD
(リン酸化ヘキサアシル二糖、その構造は、GLAの構造と同じである)、3D-PHA
D、3D-(6-アシル)-PHAD(3D(6A)-PHAD)(PHAD、3D-P
HAD、及び3D(6A)PHADは、合成リピドAバリアントであり、例えば、ava
ntilipids.com/divisions/adjuvantsを参照されたく
、これは、これらの分子の構造も提供する)、E6020(CAS番号287180-6
3-6)、ONO4007、OM-174などが挙げられる。3D-MPL、RC529
、PET-リピドA、GLA/PHAD、E6020、ONO4007、及びOM-17
4の例示的な化学構造については、例えば、Ireton GC and SG Ree
d,2013(上記)の表1を参照されたい。SLAの構造については、例えば、Ree
d SG et al,2016,Curr Opin Immunol 41:85-
90の
図1を参照されたい。ある特定の好ましい実施形態において、TLR4アゴニスト
アジュバントは、3D-MPL、GLA、又はSLAから選択されるリピドAアナログ又
は誘導体を含む。
【0073】
リピドAアナログ又は誘導体を含む例示的なアジュバントとしては、GLA-LSQ(
合成MPL[GLA]、QS21、リポソームとして製剤化された脂質)、SLA-LS
Q(合成MPL[SLA]、QS21、リポソームとして製剤化された脂質)、GLA-
SE(合成MPL[GLA]、スクアレン油/水エマルジョン)、SLA-SE(合成M
PL[SLA]、スクアレン油/水エマルジョン)、SLA-ナノミョウバン(合成MP
L[SLA]、アルミニウム塩)、GLA-ナノミョウバン(合成MPL[GLA]、ア
ルミニウム塩)、SLA-AF(合成MPL[SLA]、水性懸濁液)、GLA-AF(
合成MPL[GLA]、水性懸濁液)、SLA-ミョウバン(合成MPL[SLA]、ア
ルミニウム塩)、GLA-ミョウバン(合成MPL[GLA]、アルミニウム塩)、並び
にAS01(MPL、QS21、リポソーム)、AS02(MPL、QS21、油/水エ
マルジョン)、AS25(MPL、油/水エマルジョン)、AS04(MPL、アルミニ
ウム塩)、及びAS15(MPL、QS21、CpG、リポソーム)を含むGSK AS
xxシリーズのアジュバントのうちのいくつかが挙げられる。例えば、国際公開第201
3/119856号、同第2006/116423号、米国特許第4,987,237号
、同第4,436,727号、同第4,877,611号、同第4,866,034号、
同第4,912,094号、同第4,987,237号、同第5191072号、同第5
593969号、同第6,759,241号、同第9,017,698号、同第9,14
9,521号、同第9,149,522号、同第9,415,097号、同第9,415
,101号、同第9,504,743号、Reed G,et al.,2013(上記
)、Johnson et al.,1999,J Med Chem,42:4640
-4649、及びUlrich and Myers,1995,Vaccine De
sign:The Subunit and Adjuvant Approach;P
owell and Newman,Eds.;Plenum:New York,49
5-524を参照されたい。
【0074】
非糖脂質分子、例えば、ネオセプチン-3などの合成分子又はLeIFなどの天然分子
もまた、TLR4アゴニストアジュバントとして使用することができ、例えば、Reed
SG et al,2016(上記)を参照されたい。
【0075】
別の態様において、本発明は、医薬として使用するための、本発明のFimH(F71
mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、本発明のF
imH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチ
ドをコードするポリヌクレオチド、又は本発明の医薬組成物に関する。
【0076】
更なる態様において、本発明は、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科のグラム陰性菌に
対する免疫応答を誘導するための医薬としての、本発明のFimH(F71mut)若し
くはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、本発明のFimH(F7
1mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードす
るポリヌクレオチド、又は本明細書に記載の医薬組成物の使用に関する。
【0077】
本明細書に使用される場合、「免疫原」又は「免疫原性」又は「抗原」という用語は、
単独でか、アジュバントと組み合わせてか、又はディスプレイビヒクル上に提示されるか
のいずれかで、レシピエントへの投与の際に、それ自体に対する免疫学的応答を誘導する
ことができる分子を記載して、互換可能に使用される。
【0078】
本明細書に使用される場合、抗原又は組成物に対する「免疫学的応答」又は「免疫応答
」は、対象における、抗原又は組成物中に存在する抗原に対する体液性及び/又は細胞性
免疫応答の発生を指す。
【0079】
更なる態様において、本発明は、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科のグラム陰性菌に
よって引き起こされる細菌感染症に対する免疫応答の誘導に使用するための、本発明のF
imH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチ
ド、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mu
t)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は本明細書に記載の医薬組成物に関
する。ある特定の実施形態において、細菌感染症は、クレブシエラ(Klebsiella)種、又
は大腸菌(E. coli)によって引き起こされる。好ましい実施形態において、細菌感染症
は、大腸菌(E. coli)によって引き起こされる。したがって、一実施形態において、本
発明は、大腸菌(E. coli)又はクレブシエラ(Klebsiella)、好ましくは、大腸菌に対
する免疫応答の誘導のための医薬としての、本発明のFimH(F71mut)若しくは
FimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、本発明のFimH(F71m
ut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、又は本明細書
に記載の医薬組成物の使用に関する。
【0080】
好ましい実施形態において、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科のグラム陰性菌によっ
て引き起こされる細菌感染症は、大腸菌(E. coli)、例えば、腸管外病原性大腸菌(E
xPEC)による感染症であり、例えば、感染症は尿路感染症(UTI)であり得る。一
実施形態において、本発明は、対象におけるUTIに関連する症状及び/又は続発症の治
療、予防、又は抑制に使用するための、本明細書に記載のFimHレクチンドメインを含
むポリペプチド、本明細書に記載のポリヌクレオチド、又は本明細書に記載の医薬組成物
に関する。ある特定の実施形態において、当該UTIは、rUTIである。大腸菌は、若
い女性及び高齢者における重要な健康管理問題であるUTI及びrUTIの主要な原因物
質の1つである。したがって、好ましい実施形態において、細菌感染症は、大腸菌によっ
て引き起こされるUTI又はrUTIである。
【0081】
一実施形態において、本発明は、それを必要とする対象の腸内細菌関連の状態と関連す
る症状及び/又は続発症を治療、予防、又は抑制する方法に関する。この方法は、有効量
の本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut
)ポリペプチド、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/
F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は本明細書に記載の医
薬組成物を対象に投与することを含む。好ましくは、投与は、腸内細菌関連の状態を治療
又は予防するのに有効な免疫応答を誘導する。好ましくは、腸内細菌関連の状態は、尿生
殖路感染症、より具体的には、UTI又はrUTIである。
【0082】
本発明はまた、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科のグラム陰性菌によって引き起こさ
れる細菌感染症、好ましくは、大腸菌(E. coli)によって引き起こされる細菌感染症を
治療、予防、又は抑制するための薬剤の製造のための、本発明のFimH(F71mut
)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、本発明のFimH
(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコ
ードするポリヌクレオチド、又は本明細書に記載の医薬組成物の使用に関する。より好ま
しくは、細菌感染症は、大腸菌によって引き起こされるUTI又は再発性UTI(rUT
I)である。
【0083】
本発明は更に、本発明のポリペプチドの産生のための方法であって、本発明のFimH
(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコ
ードするポリヌクレオチド及び/又は本明細書に記載されるベクターを含む、組換え細胞
を培養することを含み、培養が、ポリペプチドの産生を導く条件下で行われる、方法に関
する。
【0084】
ある特定の実施形態において、本方法は、ポリペプチドを回収することを更に含み、任
意選択で、これには医薬組成物への製剤化が続く。
【0085】
好ましくは、大腸菌細胞、例えば、大腸菌BL21誘導体細胞が、本発明のFimH(
F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドを産生する
ための方法において使用される。
【0086】
ポリペプチドの回収は、好ましくは、当該技術分野において周知の従来のタンパク質精
製方法を使用して実施され得る精製及び/又は単離工程を含む。そのような方法は、例え
ば、硫酸アンモニウム若しくはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン及び/若しくは陽イオ
ン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロ
マトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィ
ー、並びに/又はレクチンクロマトグラフィーを含み得る。
【0087】
そのような精製及び/又は単離の典型的な例は、タンパク質に対する抗体、又はタンパ
ク質構造の一部として発現しているHisタグ若しくは切断可能なリーダー若しくはテイ
ルに対する抗体を利用し得る。ある特定の実施形態において、本明細書に記載されるポリ
ペプチドは、Hisタグを含んでおり、IMAC親和性精製などの方法によって精製され
る。ある特定の実施形態において、本明細書に記載されるポリペプチドは、Hisタグを
含まず、そのような場合、精製は、クロマトグラフィー、例えば、イオン交換クロマトグ
ラフィー(IEX)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、及び/又はサイズ
排除クロマトグラフィーによって行うことができる。
【0088】
定義
「背景技術」において、また、本明細書全体を通じて各種刊行物、論文及び特許を引用
又は記載し、これら参照文献の各々はその全容が参照により本明細書に組み込まれる。本
明細書に含まれる文書、操作、材料、デバイス、物品などの考察は、本発明のコンテキス
トを与えるためのものである。かかる考察は、これらの事物のいずれか又は全てが、開示
又は特許請求されるいずれかの発明に対する先行技術の一部を構成することを容認するも
のではない。
【0089】
別の定義がなされない限り、本明細書に使用される全ての技術用語及び科学用語は、本
発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。そうでない
場合、本明細書で引用される特定の用語は、本明細書に記載される意味を有するものであ
る。本明細書に引用する全ての特許、公開された特許出願及び刊行物は、参照によりあた
かもその全体が本明細書に記載されているように組み込まれる。本明細書及び添付の特許
請求の範囲で使用するとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、特に文脈上明ら
かでない限り、複数の指示対象物を含むことに留意する必要がある。
【0090】
本明細書及び以下の特許請求の範囲を通して、文脈上必要としない限り、「含む(comp
rise)」という用語並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などの変
形は、指定の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を含むが、任意のその他の整数
若しくは工程又は整数若しくは工程の群を除外するものではないことを意味すると、理解
されよう。本明細書に使用される場合、「含む(comprising)」という用語は、「含有す
る(containing)」又は「含む(including)」という用語に置き換えることができ、又
は場合によって本明細書に使用される場合、「有する(having)」という用語に置き換え
ることもできる。
【0091】
本明細書に使用される場合、「からなる(consisting of)」は、特許請求の範囲の要
素において指定されていない任意の要素、工程、又は成分を除外する。本明細書に使用さ
れる場合、「から本質的になる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲の
基本的かつ新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない材料又は工程は除外しない。本発明の
態様又は実施形態に関連して本明細書に使用される場合、本開示の範囲を変化させるため
に、「含む(comprising)」、「含有する(containing)」、「含む(including)」、
及び「有する」という上記用語のいずれかを、用語「からなる(consisting of)」又は
「から本質的になる(consisting essentially of)」に置き換えることができる。
【0092】
本明細書に使用される場合、複数の列挙された要素間の「及び/又は」という接続的な
用語は、個々の及び組み合わされた選択肢の両方を包含するものとして理解される。例え
ば、2つの要素が「及び/又は」によって接続される場合、第1の選択肢は、第2の要素
なしの第1の要素の適用性を指す。第2の選択肢は、第1の要素なしに第2の要素が適用
可能であることを指す。第3の選択肢は、第1及び第2の要素が一緒に適用可能であるこ
とを指す。これらの選択肢のうちのいずれか1つは、意味に含まれ、したがって、本明細
書に使用される場合、用語「及び/又は」の要件を満たすことが理解される。選択肢のう
ちの2つ以上の同時適用性もまた、意味に含まれ、したがって、用語「及び/又は」の要
件を満たすことが理解される。
【0093】
本明細書に使用される場合、用語「薬学的に許容される担体」は、本発明による組成物
の有効性にも本発明による組成物の生物学的活性にも干渉しない非毒性性材料を指す。「
薬学的に許容される担体」は、任意の賦形剤、希釈剤、充填剤、塩、緩衝液、安定剤、可
溶化剤、油、脂質、脂質含有小胞、ミクロスフェア、リポソーム封入体、又は医薬製剤に
おいて使用するための当該技術分野において周知である他の材料を含み得る。薬学的に許
容される担体の特性は、特定の用途の投与経路によって決まる点は理解されよう。特定の
実施形態によれば、本開示を考慮して、ワクチンにおける使用に好適な任意の薬学的に許
容される担体を本発明で使用することができる。好適な賦形剤としては、滅菌水、生理食
塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、及びそれらの組み合わせ、並び
に安定剤、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)又は他の好適なタンパク質及び還元糖
が挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
本明細書に使用される場合、「有効量」という用語は、対象において所望される生物学
的又は医薬的応答を誘起する活性成分又は構成成分の量を指す。有効量は、記載される目
的に対して経験的及び日常的な方法で決定することができる。例えば、任意選択でインビ
トロアッセイを用いて、最適な用量範囲の特定に役立てることができる。
【0095】
本明細書に使用される場合、「対象」又は「患者」とは、本発明の実施形態による方法
又は組成物によってワクチン接種される、又はワクチン接種された、任意の動物、好まし
くは、哺乳動物、最も好ましくは、ヒトを意味する。本明細書に使用される場合、用語「
哺乳動物」は、あらゆる哺乳動物を包含する。哺乳動物の例としては、ウシ、ウマ、ヒツ
ジ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サル、ヒトなど、最も好
ましくは、ヒトが挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、
対象は、ヒト成人である。本明細書に使用される場合、「ヒト成人」という用語は、18
歳以上のヒトを指す。ある特定の実施形態において、対象は、18歳未満、例えば、0~
18歳、例えば、9~18歳、又は12~18歳である。ある特定の実施形態において、
対象は、約18~約50歳のヒト対象である。ある特定の実施形態において、対象は、約
50~約100歳、例えば、50~85歳、60~80歳、50歳以上、55歳以上、6
0歳以上、65歳以上、70歳以上、75歳以上、80歳以上、85歳以上のヒトである
。本明細書のいくつかの実施形態において、対象は、85歳以下、80歳以下、75歳以
下である。ある特定の実施形態において、ヒト対象は、男性である。ある特定の実施形態
において、ヒト対象は、女性である。
【0096】
本明細書に使用される場合、「UTI」は、腎臓、膀胱、尿管、又は尿道の感染症を意
味する。UTIの症状は、排尿時の灼熱感、頻繁な又は激しい尿意、不完全な排尿、異常
な外観及び/又は臭いを有する尿、尿中の白血球の上昇、疲労感又は震え、見当識障害、
発熱又は悪寒、倦怠感、背中、下腹部、骨盤、又は膀胱における疼痛又は圧迫のうちの1
つ以上を含み得る。しかしながら、一部の患者において、症状は、存在しないか、又は非
特異的であり得る。UTIの続発症は、侵襲性疾患又は敗血症などの全身性合併症を含み
得る。ある特定の実施形態において、UTIは、臨床的に及び/又は微生物学的に記録さ
れ、例えば、尿の細菌培養及び/又は分子若しくは他の方法で確認される。ある特定の実
施形態において、対象は、UTIを以前に有していたか、又は現在有しているヒト対象で
ある。ある特定の実施形態において、対象は、過去2年、過去1年、又は過去6カ月以内
にUTIを有していた。ある特定の実施形態において、対象は、再発性UTI(rUTI
)を有していたか、又は現在有している。本明細書に使用される場合、「rUTI」は、
6ヶ月間に少なくとも2回の感染又は1年間に少なくとも3回のUTIを意味する。ある
特定の実施形態において、FimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/
F144mut)、本発明のFimCH複合体、本発明の融合ポリペプチド、又は本発明
の組成物が投与される対象は、過去2年以内、過去1年以内、又は過去6ヶ月以内に、少
なくとも2回UTIに罹患している。ある特定の実施形態において、対象は、合併型UT
Iに罹患している。本明細書に使用される場合、「合併型UTI」は、尿生殖路の構造的
若しくは機能的異常又は基礎疾患の存在などの状態に関連するUTIを意味する。ある特
定の実施形態において、UTIは、尿中の白血球数の上昇又は他の尿異常をもたらす。あ
る特定の実施形態において、UTIを有する対象は、尿中に多数の細菌を有し、すなわち
、尿は無菌ではなく、例えば、少なくとも約10個の細胞/mL、少なくとも約100個
の細胞/mL、少なくとも約103個の細胞/mL、例えば、少なくとも約104個の細
胞/mL、例えば、少なくとも約105個の細胞/mLの細菌細胞数を有する。
【0097】
本明細書に使用される場合、抗原又は組成物に対する「免疫学的応答」又は「免疫応答
」は、対象における、抗原又は組成物中に存在する抗原に対する体液性及び/又は細胞性
免疫応答の発生を指す。
【0098】
別途記載のない限り、一連の要素に先行する用語「少なくとも」は、一連の全ての要素
を指すと理解されるべきである。
【0099】
「約」又は「およそ」という語は、数値(例えば、約10)に関連して使用される場合
、好ましくは、その値が、所与の値(10)の10%前後、好ましくは、その値の5%前
後であり得ることを意味する。
【0100】
「相同性」、「配列同一性」などの用語は、本明細書において互換可能に使用される。
配列同一性は、本明細書において、配列を比較することによって決定される、2つ以上の
アミノ酸(ポリペプチド若しくはタンパク質)配列間又は2つ以上の核酸(ポリヌクレオ
チド)配列間の関係として定義される。当該技術分野において、「同一性」はまた、場合
によっては、そのような線状の配列間の一致によって決定されるような、アミノ酸又は核
酸配列間の配列関連性の程度を意味する。2つのアミノ酸配列間の「類似性」は、1つの
ポリペプチドのアミノ酸配列及びその保存的アミノ酸置換物を、第2のポリペプチドの配
列と比較することによって決定される。「同一性」及び「類似性」は、公知の方法によっ
て容易に計算することができる。
【0101】
「配列同一性」及び「配列類似性」は、2つの配列の長さに応じて、グローバル又はロ
ーカルアライメントアルゴリズムを使用して、2つのペプチド又は2つのヌクレオチド配
列のアライメントによって決定することができる。同様の長さの配列は、好ましくは、全
長にわたって配列を最適にアライメントするグローバルアライメントアルゴリズム(例え
ば、Needleman Wunsch)を使用してアライメントされ、一方で、実質的
に異なる長さの配列は、好ましくは、ローカルアライメントアルゴリズム(例えば、Sm
ith Waterman)を使用してアライメントされる。次いで、配列は、それらが
(例えば、デフォルトパラメーターを使用してプログラムGAP又はBESTFITによ
って最適にアライメントされる場合に)少なくともある特定の最小パーセンテージの配列
同一性(以下に定義される)を共有する場合、「実質的に同一」又は「本質的に類似」と
称され得る。GAPは、Needleman及びWunschグローバルアライメントア
ルゴリズムを使用して、2つの配列をそれらの長さ全体(全長)にわたってアライメント
し、一致の数を最大化し、ギャップの数を最小化する。グローバルアライメントは、2つ
の配列が類似の長さを有する場合に、配列同一性を決定するために好適に使用される。概
して、GAPデフォルトパラメーターは、ギャップ生成ペナルティ=50(ヌクレオチド
)/8(タンパク質)及びギャップ伸長ペナルティ=3(ヌクレオチド)/2(タンパク
質)で使用される。ヌクレオチドについては、使用されるデフォルトスコア付けマトリッ
クスは、nwsgapdnaであり、タンパク質については、デフォルトスコア付けマト
リックスは、Blosum62である(Henikoff & Henikoff,19
92,PNAS 89,915-919)。配列アライメント及び配列同一性パーセンテ
ージのスコアは、Accelrys Inc.,9685 Scranton Road
,San Diego,CA 92121-3752 USAから入手可能なGCG W
isconsin Package、バージョン10.3などのコンピュータプログラム
を使用して、又はEmbossWINバージョン2.10.0におけるプログラム「ne
edle」(グローバルNeedleman Wunschアルゴリズムを使用)若しく
は「water」(ローカルSmith Watermanアルゴリズムを使用)などの
オープンソースソフトウェアを使用して、上記のGAPと同じパラメーターを使用して、
又はデフォルト設定(「needle」及び「water」の両方、並びにタンパク質及
びDNAアライメントの両方について、デフォルトギャップ開始ペナルティは10.0で
あり、デフォルトギャップ伸長ペナルティは0.5である;デフォルトスコア付けマトリ
ックスは、タンパク質についてはBlosum62であり、DNAについてはDNAFu
llである)を使用して、決定され得る。配列が実質的に異なる全長を有する場合、ロー
カルアライメント、例えば、Smith Watermanアルゴリズムを使用するもの
が、好ましい。
【0102】
あるいは、類似性又は同一性パーセンテージは、FASTA、BLASTなどのアルゴ
リズムを使用して、公開データベースを検索することによって決定されてもよい。したが
って、本発明の核酸配列及びタンパク質配列は、更に、例えば、他のファミリーメンバー
又は関連配列を同定するために、公開データベースに対する検索を実施するための「問い
合わせ配列」として使用され得る。そのような検索は、Altschul,et al.
,(1990,J.Mol.Biol,215:403-10)のBLASTn及びBL
ASTxプログラム(バージョン2.0)を使用して実施することができる。NBLAS
Tプログラム、スコア=100、ワード長=12を用いてBLASTヌクレオチド検索を
実行して、本発明の核酸分子に対して相同なヌクレオチド配列を得ることができる。BL
ASTxプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いてBLASTタンパク質検索を
実施して、本発明のタンパク質分子に対して相同なアミノ酸配列を得ることができる。比
較目的でギャップ付きアライメントを得るために、ギャップ付きBLASTを、Alts
chul et al.,(1997)Nucleic Acids Res.25(1
7):3389-3402に記載されているように利用することができる。BLAST及
びギャップ付きBLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、
BLASTX及びBLASTn)のデフォルトパラメーターを使用してもよい。Nati
onal Center for Biotechnology Informatio
nのホームページ、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/を参照
されたい。
【0103】
配列の説明:
【0104】
【0105】
FimHポリペプチドの配列の他の例は、米国特許第6,737,063号、例えば、
その中の配列番号23~45又は55のいずれか1つに記載されており、これらは全て、
参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例0106】
以下の本発明の実施例は、本発明の本質を更に説明するためのものである。以下の実施
例は本発明を限定するものではなく、本発明の範囲は添付の請求項によって定められる点
を理解されたい。
【0107】
ワクチン有効性におけるFimH立体構造変化の影響を理解するために、膀胱の細菌接
着及びコロニー形成を減少させることができる機能的抗体を誘導する改善されたFimH
バリアントを同定することを目的として、タンパク質を低親和性状態に潜在的に固定する
ことができる異なる変異を含むFimHのいくつかのバリアントを設計した。好適なFi
mHレクチンドメインバリアントを見出す機会を最適化するために、異なる予測された作
用様式を有するバリアントを選択した。以前に記載されている変異体FimH_Q133
K及びFimH_R60P、並びに野生型(WT)FimHを、対照として用いた。
【0108】
実施例1:阻害性抗体を誘導する能力
低親和性立体構造のFimHに対して生成された抗体は、細菌細胞を遮断し、膀胱内で
のコロニー形成を減少させることができることが示されている。したがって、第1の工程
として、本発明者らは、接着阻害アッセイ(AIA)を使用することによって、低親和性
立体構造に固定されたFimHの異なるバリアントによって誘導される抗体の機能性を評
価した。
【0109】
材料及び方法
FimHの設計及び発現
FimC及びFimHを、ペリプラズムにおける発現のための異種シグナル配列、及び
固定化金属親和性クロマトグラフィー(IMAC)を使用した親和性精製のためのFim
C上のC末端Hisタグを使用して、pET-DUET又はpET-22bベクターにお
いて発現させた。IPTGを使用して発現を誘導し、タンパク質を抽出し、IMAC精製
(Talon)を使用して精製した。
【0110】
免疫付与
ウィスターラットに、非フロイントアジュバント(Speedyラット28日モデル、
Eurogentec)と組み合わせた異なるFimHバリアント(各バリアント60μ
g/用量)で、0日目、7日目、10日目、及び18日目に4回筋肉内(i.m.)免疫
付与を行った。血清抗体の機能性を、0日目(免疫付与前)及び28日目(免疫付与後)
に、以下に記載される接着阻害アッセイ(AIA)によって調べた。
【0111】
接着阻害アッセイ(AIA)
細菌(大腸菌株J96)を、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識し
た。標識した細菌を、膀胱尿路上皮細胞(5637細胞株)と共に37℃で1時間インキ
ュベートした。接着細菌の%を、フローサイトメトリーによって測定した。血清阻害の評
価のために、細菌を予め血清試料と共に37℃で30分間インキュベートし、次いで56
37細胞と混合した。
【0112】
ELISA
96ウェルプレートを、1ug/mLのFimHで一晩コーティングした。洗浄後、コ
ーティングしたウェルをブロッキング緩衝液[リン酸緩衝生理食塩水(PBS)+2%ウ
シ血清アルブミン(BSA)]と共に室温で1時間インキュベートした。PBS+0.0
5%Tween 20で洗浄した後、血清を、プレートに添加し、次いで、これを室温で
1時間インキュベートした。洗浄後、2%BSAを含むPBSで希釈した西洋ワサビペル
オキシダーゼにコンジュゲートしたヤギ抗ラット抗体を、室温で1時間、各ウェルに添加
した。最後の洗浄後、反応を、テトラメチルベンジジン基質で顕色させた。反応を、1M
リン酸で停止させ、吸光度を450nmで測定する。
【0113】
結果
血清抗体阻害力価を、4パラメーターのロジスティック(4PL)回帰モデルに基づい
て最大半量阻害濃度(IC50)として計算した。更に、異なるFimHバリアントによ
って誘導された血清抗体(総IgG)のレベルをELISAによって評価した。最大半量
有効濃度として定義されるIC50力価を、4PL非線形回帰モデルを用いて分析した二
連の6ステップ滴定曲線に基づいて計算した。
【0114】
予備実験において、いくつかの異なるFimHバリアントを、阻害性抗体を誘導するそ
れらの能力について試験した。
図1Aにおいて見ることができるように、バリアントFi
mH(F71Y)、FimH(F144V)は、最も高いレベルの機能的抗体を誘導した
。FimH(F144V)バリアントは、2020年1月16日にJanssen Ph
armaceuticals,Incの名前で出願された欧州特許出願第2015221
7号に以前に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。しかしながら、Fi
mH(F71Y)が同様に高レベルの阻害性抗体を誘導することは、驚くべきことであり
、本発明以前には全く予測できなかった。
【0115】
予備結果を確認するために、AIAアッセイを多数の動物で繰り返し、この実験では、
FimH(F71Y)及びFimH(F144V)の両方が高レベルの阻害性抗体を確実
に誘導することができることが確認された(
図1B)。
【0116】
FimH(F71Y)及びFimH(F144V)バリアントは、結合ポケットの立体
構造変化を誘導する異なる機序によって低親和性立体構造に固定されるとみられる。Fi
mH(F71Y)バリアントにおける置換は、残基が疎水性ポケット(弛緩状態)に折り
畳まれるのを防止し、緊張状態をより好ましいものとするが、FimH(F144V)バ
リアントでは、置換は、低親和性立体構造を安定化するマンノース結合ポケットの比較的
近くに位置する。低親和性状態への立体構造変化は、これらの2つの異なる機序によって
もたらされるため、本発明者らは、F71Y及びF144V置換の両方を含むレクチンド
メインが、低親和性立体構造に更により安定して固定され得、それによってその種類のF
imHバリアントに更なる利点を提供するであろうという仮説を立てた。この仮説を試験
するために、本発明者らは、そのレクチンドメインにF71Y及びF144V置換の両方
を含むFimH二重変異体(FimH(F71Y/F144V))を作製した。
図1Bに
おいて見ることができるように、FimH(F71Y/F144V)は、高レベルの阻害
性抗体を同様に誘導することができた。
【0117】
これらの結果に基づいて、FimH(F71Y)及びFimH(F71Y/F144V
)を、リード候補として選択した。これらの特性を、以下に記載するように更に分析した
。
【0118】
実施例2:新規バリアントの設計-SPRデータ
SPR
FimHレクチンドメインバリアントとn-ヘプチル-α-D-マンノピラノシドリガ
ンドとの相互作用の結合親和性及び動態に関する詳細な洞察を得るために、表面プラズモ
ン共鳴(SPR)測定を行った。簡単に説明すると、FimHバリアントをマンノシドリ
ガンド5表面に滴定し(Rabbani S et al,J Biol.Chem.,
2018,293(5):1835-1849)、ここではHBS-N(0.01M H
EPES、pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.05%界面活性
剤P20)中3又は10μMの最高濃度を用いた。タンパク質を、0.12~10μM又
は0.036~3.0μMで、単一サイクル動態注入を使用して注入した。
【0119】
結果
以前に記載された変異体FimH_Q133K及びFimH_R60Pは、結合ポケッ
ト内のマンノース相互作用残基に変異を有する。これらの変異は、マンノースとの結合相
互作用に直接的に影響を及ぼすと予測される。これらの変異体を、陽性対照とした。二重
変異体R60P_Q133Kも用いて、潜在的に増強された作用について調べた。更に、
野生型(WT)FimHレクチンドメインを、陰性対照として用いた。
【0120】
マンノースへの結合に対するバリアントの親和性を、SPRを使用して評価した。結果
を、表2に示す。予想した通り、FimHのマンノシド結合ポケットに変異を有するレク
チンドメインバリアント(Q133K及びR60P_Q133K)は、マンノシドに全く
結合しなかった。R60P変異体は、予想した通り、マンノシドに対して低い親和性を示
した。
【0121】
高レベルの阻害性抗体を誘導することができるにもかかわらず、F71Y置換を含むバ
リアントは、依然としてマンノシドに対していくらかの親和性を示し、この変異がマンノ
シドへの結合を完全には消失させなかったことを示した。F144V置換を含むFimH
レクチンドメインバリアントでは、マンノシドへの結合は、完全に消失した(参照により
本明細書に組み込まれる、2020年1月16日にJanssen Pharmaceu
ticals,Incの名前で出願された欧州特許出願第20152217号において、
単一のF144V変異体について以前に開示されているように)。F71Y及びF144
Vの両方を含む変異体では、マンノシドへの結合はまた、完全に消失した。
【0122】
【表2】
*低親和性K
D≧1000nM、中等度の親和性K
D100~1000nM、高親和性
K
D≦100nM
【0123】
実施例3:特徴付けられた阻害性mAb475及び926に結合する能力
FimHのレクチンドメインにおける変異は、強力かつ機能的な免疫応答の誘発に重要
なエピトープ、例えば、FimHの結合ポケットに存在するエピトープの喪失を引き起こ
し得る。結合ポケットの完全性が本明細書に記載の変異によって損なわれないことを確実
にするために、モノクローナル抗体(mAb)mAb475及びmAb926の変異体F
imHレクチンドメインへの結合を評価した。mAb475及びmAb926は、Fim
Hのマンノース結合ポケット内のFimHレクチンドメイン上の重複するが異なるエピト
ープを認識する(Kisiela et al.2013&2015)。
【0124】
結果
変異型FimHレクチンドメインは、以前に国際公開第02102974号に記載され
ている。国際公開第02102974号は、ほとんどが特定されていない変異の可能な変
異の広範なリストを記載している(65個の可能な変異部位が、およそ159アミノ酸長
であるFimHのレクチンドメインにおいて示唆されている)。しかしながら、国際公開
第02102974号は、54位、133位、又は135位にアミノ酸置換を有するFi
mHレクチンドメインが最も有望な候補であることを示しており、FimH_Q133K
が非常に好ましい選択肢として明示的に言及されている。したがって、FimH-23-
10_Q133Kが、機能性mAb475によって認識されなかったことは非常に驚くべ
きことであり、結合ポケットの完全性の問題を示した(表3)。対照的に、FimH(F
71Y)及びFimH(F144V)の両方が、mAb475及びmAb926の両方に
よって認識され、結合ポケットが完全に無傷のままであることを示した(表3)。また、
FimH(F71Y/F144V)二重変異体は、依然として両方の抗体によって認識さ
れ、結合ポケットがまた、この二重変異体においても無傷のままであったことを示した(
表3)。
【0125】
【0126】
実施例4:NMRによるFimHレクチンドメインバリアントの立体構造状態分析
15Nを成長培地に添加することにより方法の節に記載されるように生成した15Nで
均一に標識したFimHLDバリアントの1H,15N異核単一量子コヒーレンス核磁気
共鳴(HSQC NMR)スペクトルを、n-ヘプチル-α-D-マンノピラノシドリガ
ンドの不在下及び存在下で測定して、残基に基づくレベルでの構造的差異を評価した。タ
ンパク質を、150μMに濃縮し、7%~10%のD2Oを含む20mMリン酸緩衝液、
pH7.4中で測定した。n-ヘプチル-α-D-マンノピラノシドリガンドを、D2O
に溶解し、10倍モル過剰までタンパク質に段階的に添加した。それぞれの試料のスペク
トルを、公けに入手可能な参照スペクトルと比較した(Rabbani S et al
,J Biol.Chem.,2018,293(5):1835-1849)。
【0127】
結果
FimHバリアントFimH(F71Y)、FimH(F144V)、及びFimH(
F71Y/F144V)を、マンノシドリガンドの存在下で低親和性立体構造のままとな
るそれらの能力について分析した。リガンドの不在下では、3つ全てのバリアントは、高
親和性状態を示すことが知られている残基の化学シフトを比較すると、低親和性立体構造
にある(Rabbani S et al,J Biol.Chem.,2018,29
3(5):1835-1849)。対照的に、FimH
LD 23-10野生型は、マン
ノシドリガンドの不在下において、高親和性立体構造に固定される。しかしながら、リガ
ンドの存在下では、FimH(F71Y)及びFimH(F144V)は、高親和性立体
構造に切り替わって戻るが、FimH(F71Y/F144V)は低親和性立体構造のま
まであり、例えば、FimH(F71Y/F144V)へのリガンドの添加後に化学シフ
トは観察されない(
図2及び表4)。
【0128】
【0129】
K12野生型とは異なる2つの未知の残基は別として、FimHLD 23-10野生
型は、リガンドなしで既に高親和性(H)立体構造にあると考えられる。単一変異体バリ
アントF71Y及びF144Vは、リガンドなしでは低親和性(L)立体構造にあるが、
リガンドの存在下ではH立体構造に切り替わり、一方で、二重変異体バリアントF71Y
/F144Vは、リガンドの存在下であってもL立体構造のままであった。この高親和性
立体構造に戻るように切り替えることができないことにより、FimH(F71Y/F1
44V)は、ワクチンの医薬組成物において使用するのに特に有望なものとなり、これは
、例えば、保管中及び他の保管条件下において立体構造が安定であるかどうかを試験する
ための追加の品質又は安定性管理を必要としないことが確実であるためである。更に、高
親和性立体構造に戻るように切り替えることができないことにより、FimH(F71Y
/F144V)を研究ツールとして使用して、作用機序を研究すること、又は立体構造に
関する知識を得ることが可能となり、これにより、FimH(F71Y/F144V)を
使用して、有用な研究、診断、及び場合により薬学的用途を有する特異的抗体を生成する
ことが可能になる。
【0130】
したがって、結論として、試験した全てのFimHバリアントのうち、FimH(F7
1Y)、FimH(F144V)、及びFimH(F71Y/F144V)は、FimH
の結合ポケットを無傷に保ちながら、最高レベルの機能的阻害性抗体を誘導することがで
きる。FimH(F71Y/F144V)は、マンノシドへの結合を完全に消失させ、リ
ガンドの存在下であっても低親和性立体構造に固定されたままとなるという更なる利点を
有する。