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特開2024-109614チタン粒子またはチタン合金粒子の表面改質方法
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  • 特開-チタン粒子またはチタン合金粒子の表面改質方法 図1
  • 特開-チタン粒子またはチタン合金粒子の表面改質方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109614
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】チタン粒子またはチタン合金粒子の表面改質方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/16 20220101AFI20240806BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240806BHJP
   C23C 8/24 20060101ALI20240806BHJP
   B33Y 40/00 20200101ALI20240806BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20240806BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240806BHJP
   C22C 14/00 20060101ALN20240806BHJP
   B22F 10/20 20210101ALN20240806BHJP
【FI】
B22F1/16
B22F1/00 R
C23C8/24
B33Y40/00
B82Y30/00
B82Y40/00
C22C14/00 Z
B22F10/20
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024074165
(22)【出願日】2024-05-01
(62)【分割の表示】P 2022522562の分割
【原出願日】2021-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2020084350
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】397064944
【氏名又は名称】株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】刈屋 翔太
(72)【発明者】
【氏名】松永 省三
(72)【発明者】
【氏名】岡田 隼貴
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、表層が酸化しにくいチタン粒子またはチタン合金粒子の表面改質方法を提供することにある。
【解決手段】本発明に係るチタン粒子またはチタン合金粒子の表面改質方法では、流体中でチタン粉末またはチタン合金粉末を運動させることによって熱を発生させ、熱によりチタン粒子またはチタン合金粒子の表層を、流体中の任意成分と反応させて表層を改質する。なお、ここで、運動は、振動しながら略円軌道を描く運動であることが好ましい。チタン粒子またはチタン合金粒子に対してかかる運動をさせる際には振動ミルを用いることが好ましい。そして、この表面改質方法により得られるチタン粒子またはチタン合金粒子は、1nm超6nm以下の範囲内の厚みの窒素含有被膜を表層として有する。また、同粉末は、流動度が25秒/50g以上45秒/50g以下の範囲内である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素ガスを含む気体中でチタン粉末またはチタン合金粉末を振動させながら略円軌道を描く運動させることによって摩擦熱を発生させ、前記摩擦熱により前記チタン粉末または前記チタン合金粉末中のチタン粒子またはチタン合金粒子の表層を、前記窒素と反応させてTiN膜にする、チタン粒子またはチタン合金粒子の表面改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン粉末中のチタン粒子またはチタン合金粒子中のチタン合金粒子の表面を改質する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンおよびチタン合金は、「比強度が大きい」という特性のみならず、「耐食性が高い」、「生体適合性に優れる」等の特性を有するが、機械加工性や塑性加工性に劣り、加工コストが高いという欠点を有する。このため、3次元で複雑な形状を有する金属部品をニアネットシェイプで作製できて後加工をほとんど必要としない積層造形法や射出成形法は、チタンおよびチタン合金の有効な加工法として期待されている。そして、この期待の高まりに伴って、金属部品形成用の原料としてのチタン粉末およびチタン合金粉末に対する需要も高まりつつある。
【0003】
ところで、積層造形法においてチタン粉末またはチタン合金粉末等の活性金属粉末が再利用される場合、再利用の度に活性金属粉末中の活性金属粒子の表層が自然に酸化され、その表層の酸素濃度が上昇する。そして、その酸素濃度が閾値を超えてしまうと、その活性金属粉末はもはや積層造形には使用することができなくなる。このため、使用者は、活性金属粉末の再利用回数を増やすために、納入時において表層の酸素濃度が低い活性金属粒子を多量に含む活性金属粉末を求められる。その一方、積層造形法には、通常、粒径が小さい活性金属粉末が求められる。一般的に活性金属粉末の粒径が小さくなればなるほど、活性金属粉末中の活性金属粒子の表層が自然に酸化されやすくなり、時間の経過と伴ってその表層の酸素量が増加する傾向にある。このため、活性金属粉末中の活性金属粒子の表層の自然酸化抑制技術が求められている。
【0004】
また、射出成形法では、低温・短時間で緻密な焼結体を得るために成形時の活性金属粒子間の空孔を小さくすることが求められており、この要求を満たすために微細な活性金属粒子を含む活性金属粉末が用いられている。上述の通り、活性金属粉末の粒径が小さくなればなるほど、活性金属粉末中の活性金属粒子の表層が自然に酸化されやすくなり、時間の経過と伴ってその表層の酸素量が増加する傾向にある。このため、射出成形に用いられる活性金属粉末中の活性金属粒子についても表層の自然酸化抑制技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-183199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
活性金属粉末中の活性金属粒子の自然酸化抑制手法としては、例えば、活性金属粉末中の活性金属粒子を窒化膜で被覆することが挙げられる(例えば、特開2019-183199号公報参照)。しかし、チタン粉末やチタン合金粉末の窒素含有量はJIS規格やASTM規格等で厳しく制限されており、例えば、ASTM Grade 23では300ppmとされている。また、チタンまたはチタン合金の特性を最大限に引き出す点でも、活性金属粒子の窒素含有量は低ければ低いほど好ましい。したがって、上述の通りチタン粉末、チタン合金粉末中のチタン粒子、チタン合金粒子を窒化膜で被覆する場合、その窒化膜の厚みは、酸化抑制効果を奏する最小限の厚みとすることが求められる。
【0007】
本発明の課題は、表層が自然酸化しにくいだけでなく、従前のものに比べてチタン粉末やチタン合金粉末そのものの特性を発揮することができるチタン粒子やチタン合金粒子の表面改質方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る活性金属粒子の表面改質方法は、活性金属粉末中の活性金属粒子の表面を改質する方法である。なお、ここにいう活性金属粉末は、特に限定されないが、例えば、ガスアトマイズ法により製造されたガスアトマイズ活性金属粉末等である。また、この活性金属粉末には、チタン粉末やチタン合金粉末等が含まれる。なお、この活性金属粉末がガスアトマイズ活性金属粉末である場合、この活性金属粉末製造において使用されるガスは、アルゴンガス等の希ガスやその他の不活性ガス、すなわち、活性金属粉末中の活性金属粒子の表層と実質的に反応しないガスである必要がある。そして、この活性金属粒子の表面改質方法では、流体中で活性金属粉末が運動させられることによって熱が発生し、その熱により活性金属粉末中の活性金属粒子の表層が流体中の任意成分と反応してその表層が改質される。したがって、酸化抑制被膜を形成するのに適した反応性流体を選択することによって活性金属粉末中の活性金属粒子の表層を酸化抑制被膜とすることができ、その表層を自然酸化させにくくすることができる。また、この活性金属粒子の表面改質方法では、活性金属粉末の運動の程度や運動時間等の因子を制御することによって従前よりも薄い酸化抑制被膜を形成することができる。よって、この活性金属粒子の表面改質方法を利用すれば、表層が自然酸化しにくいだけでなく、従前のものに比べて活性金属粉末そのものの特性を発揮することができる活性金属粉末を得ることができる。
【0009】
なお、本発明に係る活性金属粒子の表面改質方法において、活性金属粉末は、純金属粉末であってもよいし、合金粉末であってもよい。また、ここで、流体としては、気体、液体、ナノ粒子などが挙げられる。流体は、一成分のみから成っていてもよいし、複数の成分から成っていてもよい。流体が複数成分から成る場合、その成分として希釈成分が含まれていてもかまわない。また、上記運動は、熱を発生させる運動であれば特に限定されることはない。そのような運動としては、例えば、振動運動、往復運動、衝突を伴う運動等が挙げられる。また、このような活性金属粉末に対してそのような運動をさせるには、振動ミル、遊星ミル、ジェットミル等の粉末に速度を与える装置が利用され得る。なお、上記において例示した運動の中では、振動運動がより好ましく、振動しながら略円軌道を描く運動であることが特に好ましい。活性金属粉末に後者の運動を行わせるには、振動ミルを利用するのが好ましい。なお、振動ミルでは、活性金属粉末を投入した容器が高周波数照射されながら円運動させられる。そして、この運動により、容器内部で活性金属粉末中の活性金属粒子が繰り返し衝突して活性金属粉末中の活性金属粒子の球形度が高まる。振動ミルを採用することにより、このような副次的な効果も享受することができる。なお、ここで、略円軌道には、円軌道および円に近似する楕円軌道が含まれる。また、上記運動が衝突を伴う運動である場合、そのような運動を行わせる手段として、ジェットミルが利用され得る。また、上記熱は、摩擦熱であることが好ましい。
【0010】
ところで、活性金属粒子の表面処理手法として、アトマイズガス中に反応性ガスを添加する手法が知られている。例えば、特表2019-500503号公報、特表2019-516020号公報等には、アトマイズガス中に酸素等の活性ガスを添加する手法が開示されている。しかしながら、同公報に開示の手法でチタン粉末中のチタン粒子に窒化被膜を形成した場合、チタンの融点(1668℃)付近の温度で反応が進むため、窒化被膜の主成分がTiNとなる。TiNは変質しやすいため、後工程での取り扱いに注意を要する。また、かかる場合、窒素原子が溶融状態のチタン内部へと拡散しやすいため、最終的に得られるチタン粉末中のチタン粒子の窒素含有量が増加しすぎるという不都合が生じる。また、熱処理により窒化被膜を形成する場合、冷却中に窒素原子がチタン粒子内部へと拡散し、付与した窒素が十分に酸化抑制に寄与しないという不都合が生じる。これに対し、本発明に係る活性金属粒子の表面改質方法では、固化した活性金属粒子の表層に対して反応性流体が比較的低温で反応するため、窒素の内部拡散を抑制することができることに加え、窒化被膜の主成分がTiNとなるものと推察されている。TiNは、空気中において変質しにくいため、TiNに比べて後工程での取り扱いに特別な注意を要しない。また、TiNは、TiNに比べ、窒素原子あたりの体積が約2倍となるため、同一窒素量であっても厚い被膜を形成することができる。このため、本発明に係る活性金属粒子の表面改質方法は、アトマイズガス中に反応性ガスを添加する手法で得られる酸化抑制被膜よりも優れた酸化抑制被膜を形成することができる。また、この活性金属粒子の表面改質方法では、活性金属粉末中の活性金属粒子の表層のみが加熱され、活性金属粒子の内部は低温に維持される。このため、この活性金属粒子の表面改質方法では、窒素が活性金属粒子内部へ拡散することを抑制することができる。
【0011】
本発明に係るチタン粒子またはチタン合金粒子は、表層として窒素含有被膜を有する。そして、この窒素含有被膜は、1nm超6nm以下の範囲内の厚みを有する。このため、このチタン粒子またはチタン合金粒子は、表層が自然酸化しにくいだけでなく、従前のものに比べてチタンまたはチタン合金そのものの特性を発揮することができる。
【0012】
なお、窒素含有被膜の厚みは1nm超5nm未満の範囲内であることが好ましく、1nm超4nm未満の範囲内であることがより好ましく、1nm超3nm未満の範囲内であることがさらに好ましく、1nm超2nm未満の範囲内であることが特に好ましい。また、ここで、窒素含有被膜は、主として、チタンを含む組成を有する化合物、または、チタン合金組成を含む組成を有する化合物から成ることが好ましい。ここで、特に、窒素含有被膜は、主として、チタンの窒化物、または、チタン合金の窒化物から成ることが好ましい。なお、チタンの窒化物としては、例えば、TiN、TiN等が挙げられる。そして、上述の理由から、窒素含有被膜は主としてTiNから成ることが好ましい(TiNおよびTiNはX線光電子分光法(XPS)により同定可能である。)。また、この窒素含有被膜には、金属酸化物が含まれていることが好ましい。また、このチタン粉末またはチタン合金粉末中の各粒子の球形度が0.8以上1.0以下の範囲内であることが好ましい。また、チタン粉末またはチタン合金粉末は、50%平均粒子径(メジアン径)が10μm以上120μm以下の範囲内であることが好ましく、10μm以上40μm以下の範囲内であることがより好ましい(メジアン径は、粒度分布測定装置により測定可能である。)。チタン粉末またはチタン合金粉末の50%平均粒子径(メジアン径)が10μm以上120μm以下の範囲内である場合、積層造形法や射出成形法において十分な自然酸化抑制効果を発揮することができ、同50%平均粒子径(メジアン径)が10μm以上40μm以下の範囲内である場合、特に大きい自然酸化抑制効果を発揮することができるからである。また、このチタン粉末またはチタン合金粉末は、流動度が25秒/50g以上45秒/50g以下の範囲内であることが好ましい。また、本発明に係るチタン粒子またはチタン合金粒子は、大気下において60℃で4時間加熱されたときの酸素増加量が130ppm以下であることが好ましい。
【0013】
ところで、粒度20μm以下の微細チタン粉末や微細チタン合金粉粉末は、小ガス炎着火試験で10秒以内に着火し燃焼継続するため、消防法危険物第二類の可燃性固体として分類されている。このため、その貯蔵、取扱に指定数量の制限を受けるのみならず、その製造および取扱作業時により高度な安全対策が要求される。しかし、上述のチタン粉末またはチタン合金粉末を粒度20μmで分級したもの(すなわち、粒度20μm以下のチタン粉末またはチタン合金粉末)は、小ガス炎着火試験で着火しないことが明らかとなった。このため、上述のチタン粉末またはチタン合金粉末は、上述の制限を受けることもなければ、上述の要求を満たす必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例および比較例に係るチタン合金粉末中のチタン合金粒子における窒化膜厚さを測定する際に用いられるEELSラインの例を示す図である。
図2】実施例および比較例に係るチタン合金粉末中のチタン合金粒子における窒化膜厚さを測定する際に用いられる元素濃度プロファイルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をより詳細に説明するために実施例および比較例を示すが、本発明がこの実施例には限定されることはない。
【実施例0016】
1.Ti-6Al-4V粉末の作製
先ず、特開平10-204507号公報に開示されるガスアトマイズ法によりTi-6Al-4V粉末(以下「チタン合金粉末」と称する。)を作製し、そのチタン合金粉末をアルゴン雰囲気下で内容積3.4Lのミルポット(中央化工機株式会社製MB-1)に捕集した。次に、そのミルポット内を窒素で置換した後にそのミルポットを振動ミル(中央化工機株式会社製MB-1)にセットした。そして、その振動ミルを振動数1200rpmの条件で90分間運転して、チタン合金粉末に対して振動解砕処理を行った。その後、振動解砕処理後のチタン合金粉末を、目開き20μmと45μmの篩網を用いてJIS K 0069に記載された方法に従って分級し、目的の粒度20μm-45μmのチタン合金粉末を得た。なお、粒度20μm以下のチタン合金粉末は、小ガス炎着火試験に供した。
【0017】
2.チタン合金粉末の物性測定
(1)酸素含有量・窒素含有量の測定
上述の通りして得られた粒度20μm-45μmのチタン合金粉末の酸素含有量・窒素含有量を、JIS H1620およびJIS H 1612に記載された方法に従って測定したところ、酸素含有量は680ppmであり、窒素含有量は160ppmであった。
【0018】
(2)窒化膜厚さの測定
(2-1)
上述の通りにして得られた粒度20μm-45μmのチタン合金粉末を、集束イオンビーム(FIB)装置を用いて100nm厚の板状の切片に加工した。そして、この切片を透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製JEM-2100F)にセットして、その切片の100万倍のTEM像について測定深さを2nmずつ増やしながら電子線エネルギー損失分光(EELS)解析を行って、図1に示されるようなEELSラインを得た。そして、このEELSラインから図2に示される元素濃度プロファイルを得た(なお、図1の元素濃度プロファイルはあくまで一例に過ぎない。)。図1に示されるように、この元素濃度プロファイルでは、測定深さに対してチタン濃度、酸素濃度および窒素濃度がプロットされている(なお、チタン濃度は454eV(Ti-2p)における強度に基づいており、窒素濃度は397eV(N-1s)における強度に基づいており、酸素濃度は530eV(O-1s)における強度に基づいている。)。そして、この元素濃度プロファイルの窒素濃度曲線における最大窒素濃度値の半値に相当する2点の測定深度の差を計測し、その差を窒化膜の膜厚とした。なお、このチタン合金粉末中のチタン合金粒子の窒化膜の厚さは4nmであった。また、上述の元素濃度プロファイルから窒化膜の上に4nmの酸化膜が形成されていることが明らかとなった。
【0019】
(3)流動度測定
上述の通りして得られた粒度20μm-45μmのチタン合金粉末の流動度を「JIS Z2502:2012 金属粉-流動度測定方法」に基づいて測定したところ、その流動度は31.9秒/50gであった。
【0020】
(4)小ガス炎着火試験
粒度20μm-45μmのチタン合金粉末および粒度20μm以下のチタン合金粉末それぞれに対して小ガス炎着火試験(消防法第2類危険物試験)を行ったところ、いずれのチタン合金粉末も着火しなかった。
【実施例0021】
1.Ti-6Al-4V粉末の作製
先ず、特開平10-204507号公報に開示されるガスアトマイズ法によりTi-6Al-4V粉末(以下「チタン合金粉末」と称する。)を作製し、そのチタン合金粉末をアルゴン雰囲気下で振動ミル(中央化工機株式会社製FV-20)のミルポットに移動させた。次に、そのミルポット内をアルゴンで置換した後、その振動ミルを振動数1200rpmの条件で118分間運転させた(なお、このとき、表面処理中の温度変化による反応速度の変化を防止するために、粉末全体の温度が一定となるように温度調整を行った。)。その後、速やかにミルポット内部に窒素ガスを投入して、再び、同条件にて同振動ミルを2分間運転させた。そして、ミルポット内のチタン合金粉末を、篩網を用いてJIS K 0069に記載された方法に従って粒度20μm-45μm、粒度45-105μm、粒度15μm-52μmの3画分に分級し、目的のチタン合金粉末を得た。
【0022】
2.チタン合金粉末の物性測定
(1)酸素含有量・窒素含有量の測定
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm-45μmのチタン合金粉末の酸素含有量・窒素含有量を測定したところ、その酸素含有量は700ppmであり、窒素含有量は130ppmであった。
【0023】
(2)窒化膜厚さの測定
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm-45μmのチタン合金粉末中のチタン合金粒子、粒度45-105μmのチタン合金粉末中のチタン合金粒子、粒度15μm-52μmのチタン合金粉末中のチタン合金粒子それぞれの窒化膜の厚さを測定したところ、いずれのチタン合金粉末中のチタン合金粒子の窒化膜の厚さも1nmであった。
【0024】
(3)流動度測定
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm-45μmのチタン合金粉末の流動度を測定したところ、その流動度は37.3秒/50gであった。
【実施例0025】
1.Ti-6Al-4V粉末の作製
振動ミルの1回目の運転時間を30分とすると共に、同振動ミルの2回目の運転時間を5分とした以外は、実施例2に示されるチタン合金粉末の作製方法と同一の作製方法で目的のチタン合金粉末を得た。
【0026】
2.チタン合金粉末の物性測定
(1)酸素含有量・窒素含有量の測定
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm-45μmのチタン合金粉末の酸素含有量・窒素含有量を測定したところ、その酸素含有量は660ppmであり、窒素含有量は170ppmであった。
【0027】
(2)窒化膜厚さの測定
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm-45μmのチタン合金粉末中のチタン合金粒子の窒化膜の厚さを測定したところ、その厚さは3nmであった。
【0028】
(3)流動度測定
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm-45μmのチタン合金粉末の流動度を測定したところ、その流動度は35.3秒/50gであった。
【実施例0029】
1.Ti-6Al-4V粉末の作製
振動ミルの1回目の運転時間を105分とすると共に、同振動ミルの2回目の運転時間を15分とした以外は、実施例2に示されるチタン合金粉末の作製方法と同一の作製方法で目的のチタン合金粉末を得た。
【0030】
2.チタン合金粉末の物性測定
(1)酸素含有量・窒素含有量の測定
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm-45μmのチタン合金粉末の酸素含有量・窒素含有量を測定したところ、その酸素含有量は690ppmであり、窒素含有量は250ppmであった。
【0031】
(2)窒化膜厚さの測定
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm-45μmのチタン合金粉末中のチタン合金粒子の窒化膜の厚さを測定したところ、その厚さは6nmであった。
【0032】
(3)流動度測定
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm-45μmのチタン合金粉末の流動度を測定したところ、その流動度は33.3秒/50gであった。
【0033】
(比較例1)
1.Ti-6Al-4V粉末の作製
特開平10-204507号公報に開示されるガスアトマイズ法によりTi-6Al-4V粉末(以下「チタン合金粉末」と称する。)を作製し、得られたチタン合金粉末を、目開き20μmと45μmの篩網を用いてJIS K 0069に記載された方法に従って分級し、目的の粒度20μm-45μmのチタン合金粉末を得た。なお、粒度20μm以下のチタン合金粉末は、小ガス炎着火試験に供した。
【0034】
2.チタン合金粉末の物性測定
(1)酸素含有量・窒素含有量の測定
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm-45μmのチタン合金粉末の酸素含有量・窒素含有量を測定したところ、その酸素含有量は790ppmであり、窒素含有量は30ppmであった。
【0035】
(2)窒化膜厚さの測定
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm-45μmのチタン合金粉末中のチタン合金粒子の窒化膜の厚さを測定したところ、そのチタン合金粉末の厚さは0nmであった。
【0036】
(3)流動度測定
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm-45μmのチタン合金粉末の流動度を測定したところ、そのチタン合金粉末は流れなかった。
【0037】
(4)小ガス炎着火試験
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm以下のチタン合金粉末に対して小ガス炎着火試験(消防法第2類危険物試験)を行ったところ、そのチタン合金粉末は着火した。
【0038】
(比較例2)
1.Ti-6Al-4V粉末の作製
特開平10-204507号公報に開示されるガスアトマイズ法によりTi-6Al-4V粉末(以下「チタン合金粉末」と称する。)を作製し、そのチタン合金粉末を大気開放下で内容積3.4Lのミルポット(中央化工機株式会社製MB-1)に捕集した。次に、そのミルポットを振動ミル(中央化工機株式会社製MB-1)にセットし、その振動ミルを振動数1200rpmの条件で90分間運転して、チタン合金粉末に対して振動解砕処理を行った。その後、振動解砕処理後のチタン合金粉末を、目開き20μmと45μmの篩網を用いてJIS K 0069に記載された方法に従って分級し、目的の粒度20μm-45μmのチタン合金粉末を得た。なお、粒度20μm以下のチタン合金粉末は、小ガス炎着火試験に供した。
【0039】
2.チタン合金粉末の物性測定
(1)酸素含有量・窒素含有量の測定
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm-45μmのチタン合金粉末の酸素含有量・窒素含有量を測定したところ、その酸素含有量は1080ppmであり、窒素含有量は50ppmであった。
【0040】
(2)窒化膜厚さの測定
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm-45μmのチタン合金粉末中のチタン粒子の窒化膜の厚さを測定したところ、その窒化膜の厚さは0nmであった。
【0041】
(3)流動度測定
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm-45μmのチタン合金粉末の流動度を測定したところ、その流動度は32.4秒/50gであった。
【0042】
(4)小ガス炎着火試験
実施例1に示される方法と同一の方法に従って粒度20μm以下のチタン合金粉末に対して小ガス炎着火試験(消防法第2類危険物試験)を行ったところ、そのチタン合金粉末は着火した。
【0043】
上記実施例1-4ならびに比較例1および2で得られた結果を以下の表1にまとめた。
【0044】
【表1】
【実施例0045】
実施例3で作製されたチタン合金粉末、および、比較例2で作製されたチタン合金粉末をそれぞれ60℃で4時間加熱して、窒化膜の酸化防止効果について検証した。その結果、比較例2で作製されたチタン合金粉末では、酸素含有量が160ppm増加していたのに対し、実施例3で作製されたチタン合金粉末では、酸素含有量が130ppmしか増加しておらず、比較例2で作製されたチタン合金粉末に比べてその酸素増加量が20%低下していた。この結果から、窒化膜の形成はチタン合金粉末の酸化抑制に有効であり、積層造形に使用したチタン合金粉末のリサイクル時の酸素含有量増加を有効に抑制することができるものと期待される。
【0046】
(まとめ)
表1から明らかな通り、実施例1-4に係るチタン合金粉末は、比較例1および2に係るチタン合金粉末よりも窒素含有量が高く、また、そのチタン合金粒子は数nmの窒化膜に覆われている。このため、実施例1-4に係るチタン合金粉末は、酸化しにくい。なお、実施例1-4に係るチタン合金粉末には、650-700ppm程度の酸素が含まれているが、これは、チタン合金粉末が元々有していた400ppmの酸素と、酸化膜として付加された300ppmの酸素が合わさったためであると思われる。また、実施例1-4に係る20μm-45μmのチタン合金粉末は、高い流動性を示しており、積層造形法への適用が可能である。さらに、実施例1-4に係るチタン合金粉末は、粒度が20μm以下となっても小ガス炎着火試験(消防法第2類危険物試験)で着火しない。このため、実施例1-4に係るチタン合金粉末は通常の注意力をもって取り扱うことができる。実施例1-4に係るチタン合金粉末は、上記特性を併せ持つものであって、従前には存在しなかったものである。
【0047】
なお、実施例1-4に係るチタン合金粉末の窒化膜の厚みは、いずれも下式(I)から求められる理論値にほぼ一致し、下式(II)から求められる理論値の約2倍となる。このため、実施例1-4に係るチタン合金粉末の窒化膜は、主にTiNから形成されているものと推察される。
【0048】
d=1/3 ΔC (d50/2) (MTi2N/M) (ρTi/ρTi2N) (I)
【0049】
d=1/3 ΔC (d50/2) (MTiN/M) (ρTi/ρTiN) (II)
【0050】
なお、(I)および(II)の二式において「d」は窒化膜の厚さであり、「ΔC」は未処理粉末に対する窒素含有量の増加量であり、「d50」はチタン合金粉末のメジアン径(50%粒子径)であり、「MTi2N」はTiNの分子量であり、「MTiN」はTiNの分子量であり、「M」はNの原子量であり、「ρTi」はTiの密度であり、「ρTi2N」はTiNの密度であり、「ρTiN」はTiNの密度である。
図1
図2