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特開2024-109678抗CD3抗体、CD3及びCD20に結合する二重特異性抗原結合分子、並びにそれらの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109678
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】抗CD3抗体、CD3及びCD20に結合する二重特異性抗原結合分子、並びにそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20240806BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240806BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20240806BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P35/02
C07K16/28
C12P21/08
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024078306
(22)【出願日】2024-05-14
(62)【分割の表示】P 2023079056の分割
【原出願日】2013-09-19
(31)【優先権主張番号】61/827,098
(32)【優先日】2013-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/763,110
(32)【優先日】2013-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/704,029
(32)【優先日】2012-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/753,461
(32)【優先日】2013-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】エリック・スミス
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・ジェイ・パパドポーロス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】CD3に結合する抗体及びそれを使用する方法を提供する。また、CD3及びCD20の両方に結合する二重特異性抗原結合分子を提供する。
【解決手段】一態様では、本発明の抗体は、高親和性でヒトCD3に結合し、そしてヒトT細胞増殖を誘導する。本発明は、CD3に結合し、そして腫瘍細胞のT細胞媒介死滅を誘導する抗体を含む。一態様では、本発明は、ヒトCD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメイン、及びヒトCD20に特異的に結合する第二の抗原結合分子を含む二重特異性抗原結合分子を提供する。一態様では、本発明の二重特異性抗原結合分子は、CD20を発現するB細胞性腫瘍の増殖を阻害することができる。本発明の抗体及び二重特異性抗原結合分子は、上方調節又は誘導された標的化免疫応答が望ましいか、かつ/又は治療上有益である疾患及び傷害の処置のために有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD3に結合し、そしてインビトロで約0.33pM未満のEC50でヒトT細胞増殖を誘導する、単離された抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
ヒトCD3に結合し、そしてインビトロで約2.3pM未満のEC50で腫瘍細胞のT細胞媒介死滅を誘導する、単離された抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
抗体又はその抗原結合フラグメントが、インビトロで約1pM未満のEC50で腫瘍細胞のT細胞媒介死滅を誘導する、請求項2に記載の単離された抗体又は抗原結合フラグメント。
【請求項4】
表面プラズモン共鳴アッセイで25℃にて測定して、約1nM未満の結合解離平衡定数(KD)でヒトCD3に結合する、単離された抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
抗体又はその抗原結合フラグメントが、表面プラズモン共鳴アッセイで25℃にて測定して、約500pM未満のKDでヒトCD3に結合する、請求項4に記載の単離された抗
体又は抗原結合フラグメント。
【請求項6】
抗体又はその抗原結合フラグメントが、表面プラズモン共鳴アッセイで25℃にて測定して、約100pM未満のKDでヒトCD3に結合する、請求項5に記載の単離された抗
体又は抗原結合フラグメント。
【請求項7】
表面プラズモン共鳴アッセイで25℃にて測定して、約10分より長い解離半減期(t12)でヒトCD3に結合する、単離された抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項8】
抗体又はその抗原結合フラグメントが、表面プラズモン共鳴アッセイで25℃にて測定して、約100分より長いt12でヒトCD3に結合する、請求項7に記載の単離された抗体又は抗原結合フラグメント。
【請求項9】
抗体又はその抗原結合フラグメントが、表1に示されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む参照抗体と、CD3への結合に関して競合する、請求項1~8のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合フラグメント。
【請求項10】
参照抗体が、配列番号2/10;114/122;514/522;770/778;1050/1234;及び1090/1234からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項9に記載の抗体又は抗原結合フラグメント。
【請求項11】
抗体又はその抗原結合フラグメントが、表1に示されるHCVR/LCVRアミノ酸配列を含む参照抗体と同じCD3上のエピトープに結合する、請求項1~8のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合フラグメント。
【請求項12】
抗体又はその抗原結合フラグメントが、配列番号2/10;114/122;514/522;770/778;1050/1234;及び1090/1234からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む参照抗体と同じCD3上のエピトープに結合する、請求項11に記載の抗体又は抗原結合フラグメント。
【請求項13】
(a)表1に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)の相補性決定領域(CDR);及び(b)表1に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)のCDRを含む、ヒトCD3に結合する単離された抗体又はその抗原結合フラグメント
【請求項14】
抗体又は抗原結合フラグメントが、配列番号2/10;114/122;514/522;770/778;1050/1234;及び1090/1234からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対の重鎖及び軽鎖CDRを含む、請求項13に記載の単離された抗体又は抗原結合フラグメント。
【請求項15】
抗体又は抗原結合フラグメントが、配列番号4-6-8-12-14-16;116-118-120-124-126-128;516-518-520-524-526-528;772-774-776-780-782-784;1052-1054-1056-1236-1238-1240;及び1092-1094-1096-1236-1238-1240からなる群よりそれぞれ選択されるHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む、請求項14に記載の単離された抗体又は抗原結合フラグメント。
【請求項16】
(a)配列番号2;114;514;770;1050;及び1090からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR);並びに(b)配列番号10;122;522;778;1234;及び1234からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)を含む、ヒトCD3に結合する単離された抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項17】
抗体又は抗原結合フラグメントが:配列番号2/10;114/122;514/522;770/778;1050/1234;及び1090/1234からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項16に記載の単離された抗体又は抗原結合フラグメント。
【請求項18】
ヒトCD3に結合する第一の抗原結合ドメイン、及び標的抗原に結合する第二の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗体であって、第一の抗原結合ドメインは請求項1~17のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合フラグメント由来である、上記二重特異性抗体。
【請求項19】
請求項1~17のいずれか1項に記載の抗体もしくは抗原結合フラグメント又は請求項18に記載の二重特異性抗体、及び薬学的に許容しうる担体又は希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項20】
被験体に請求項19に記載の医薬組成物を投与することを含む、被験体において免疫応答を上方調節するための方法。
【請求項21】
それを必要とする被験体に請求項19に記載の医薬組成物を投与することを含む、被験体において腫瘍を処置するための方法。
【請求項22】
ヒトCD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメイン、及びヒトCD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインを含む、二重特異性抗原結合分子。
【請求項23】
CD3を発現するヒトT細胞に1x10-12Mと1x10-6Mとの間のEC50値で結合
する、請求項22に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項24】
CD3を発現するヒトT細胞に1x10-9 Mと1x10-8Mとの間のEC50値で結合する、請求項22に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項25】
ヒトCD3を発現するヒト細胞及びカニクイザルCD3を発現するカニクイザル細胞に
結合する、請求項22~24のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項26】
インビトロでヒト及びカニクイザル末梢血単核球(PBMC)の増殖を誘導する、請求項22~24のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項27】
ヒト全血におけるIFN-ガンマ放出及びCD25上方調節を誘導する、請求項22~24のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項28】
ヒトB細胞のT細胞媒介細胞傷害を誘導する、請求項22~24のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項29】
抗CD20媒介細胞傷害に対して抵抗性であるか又は不応性であるヒトB細胞のT細胞媒介細胞傷害を誘導する、請求項28に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項30】
被験体への約0.01mg/kgでの二重特異性抗原結合分子の単回投与が、二重特異性抗原結合分子の被験体への投与後約1日までに被験体におけるB細胞の数の検出可能なレベルを下回る減少を引き起こす、請求項22~29のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項31】
B細胞の数が、被験体への二重特異性抗原結合分子の約0.01mg/kgの単回用量の投与後約14日まで検出可能なレベルを下回ったままである、請求項30に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項32】
被験体への抗原結合分子の約0.01mg/kgの単回用量の投与の約1日~約28日後に、被験体から採取された血液1マイクロリットルあたりのB細胞の数が、二重特異性抗原結合分子の投与前に被験体から採取された血液1マイクロリットルあたりのB細胞の数の25%未満である、請求項30又は31の二重特異性抗原結合分子。
【請求項33】
被験体への抗原結合分子の約0.01mg/kgの単回用量の投与の約1日~約56日後に、被験体から採取された血液1マイクロリットルあたりのB細胞の数が、二重特異性抗原結合分子の投与前に被験体から採取された血液1マイクロリットルあたりのB細胞の数の50%未満である、請求項30又は31に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項34】
被験体への抗原結合分子の投与の約14日~約56日後に、被験体から採取された血液1マイクロリットルあたりのT細胞の数が、二重特異性抗原結合分子の投与前に被験体から採取された血液1マイクロリットルあたりのT細胞の数と等しいか又はそれ以上である、請求項30~33のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項35】
ヒトCD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、配列番号1250、1266、1282、1298、1314及び1329からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)からの重鎖相補性決定領域(A1-HCDR1、A1-HCDR2及びA1-HCDR3)、並びに配列番号1258、1274、1290、1306、1322及び1333からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)からの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2及びLCDR3)を含む、請求項22~34のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項36】
ヒトCD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、配列番号1242を含む重鎖可変領域(HCVR)からの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2及びHCDR3)、並びに配列番号1258、1274、1290、1306、1322及び1333からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)からの軽鎖
相補性決定領域(LCDR1、LCDR2及びLCDR3)を含む、請求項22~34のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項37】
ヒトCD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、3つの重鎖相補性決定領域(A1-HCDR1、A1-HCDR2及びA1-HCDR3)及び3つの軽鎖相補性決定領域(A1-LCDR1、A1-LCDR2及びA1-LCDR3)を含み、ここでA1-HCDR1は、配列番号1252、1268、1284、1300、1316及び1330からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1-HCDR2は、配列番号1254、1270、1286、1302、1318及び1331からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1-HCDR3は、配列番号1256、1272、1288、1304、1320及び1332からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、A1-LCDR1は、配列番号1260、1276、1292、1308、1324及び1334からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、A1-LCDR2は、配列番号1262、1278、1294、1310、1326及び1335からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、そしてA1-LCDR3は、配列番号1264、1280、1296、1312、1328及び1336からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項22~34のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項38】
ヒトCD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、3つの重鎖相補性決定領域(A2-HCDR1、A2-HCDR2及びA2-HCDR3)及び3つの軽鎖相補性決定領域(A2-LCDR1、A2-LCDR2及びA2-LCDR3)を含み、ここでA2-HCDR1は配列番号1244のアミノ酸配列を含み、A2-HCDR2は配列番号1246のアミノ酸配列を含み、A2-HCDR3は配列番号1248を含み、A2-LCDR1は配列番号1260、1276、1292、1308、1324及び1334からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、A2-LCDR2は配列番号1262、1278、1294、1310、1326及び1335からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、そしてA2-LCDR3は配列番号1264、1280、1296、1312、1328及び1336からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項22~34のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項39】
ヒトCD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、3つの重鎖相補性決定領域(A1-HCDR1、A1-HCDR2及びA1-HCDR3)及び3つの軽鎖相補性決定領域(A1-LCDR1、A1-LCDR2及びA1-LCDR3)を含み、そしてヒトCD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、3つの重鎖相補性決定領域(A2-HCDR1、A2-HCDR2及びA2-HCDR3)及び3つの軽鎖相補性決定領域(A2-LCDR1、A2-LCDR2及びA2-LCDR3)を含み;
ここでA1-HCDR1は、配列番号1252、1268、1284、1300、1316及び1330からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1-HCDR2は、配列番号1254、1270、1286、1302、1318及び1331からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1-HCDR3は、配列番号1256、1272、1288、1304、1320及び1332からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、A1-LCDR1は、配列番号1260、1276、1292、1308、1324及び1334からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、A1-LCDR2は、配列番号1262、1278、1294、1310、1326及び1335からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、そしてA1-LCDR3は、配列番号1264、1280、1296、1312、1328及び1336からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;そして
ここでA2-HCDR1は配列番号1244のアミノ酸配列を含み、A2-HCDR2は配列番号1246のアミノ酸配列を含み、A2-HCDR3は配列番号1248を含み、A2-LCDR1は、配列番号1260、1276、1292、1308、1324及
び1334からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、A2-LCDR2は、配列番号1262、1278、1294、1310、1326及び1335からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、そしてA2-LCDR3は、配列番号1264、1280、1296、1312、1328及び1336からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項22~34のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項40】
第一の抗原結合ドメインが、3つの重鎖相補性決定領域(A1-HCDR1、A1-HCDR2及びA1-HCDR3)及び3つの軽鎖相補性決定領域(A1-LCDR1、A1-LCDR2及びA1-LCDR3)を含む参照抗原結合タンパク質と、ヒトCD3への結合に関して競合し、ここでA1-HCDR1は、配列番号1252、1268、1284、1300、1316及び1330からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1-HCDR2は、配列番号1254、1270、1286、1302、1318及び1331からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;A1-HCDR3は、配列番号1256、1272、1288、1304、1320及び1332からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、A1-LCDR1は、配列番号1260、1276、1292、1308、1324及び1334からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、A1-LCDR2は、配列番号1262、1278、1294、1310、1326及び1335からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、そしてA1-LCDR3は、配列番号1264、1280、1296、1312、1328及び1336からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項22~34のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項41】
第一の抗原結合ドメインが、配列番号1250、1266、1282、1298、1314及び1329からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)、並びに配列番号1258、1274、1290、1306、1322及び1333からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む参照抗原結合タンパク質と、ヒトCD3への結合に関して競合する、請求項22~34のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項42】
第二の抗原結合ドメインが、3つの重鎖相補性決定領域(A2-HCDR1、A2-HCDR2及びA2-HCDR3)及び3つの軽鎖相補性決定領域(A2-LCDR1、A2-LCDR2及びA2-LCDR3)を含む参照抗原結合タンパク質と、ヒトCD20への結合に関して競合し、ここでA2-HCDR1は配列番号1244のアミノ酸配列を含み、A2-HCDR2は配列番号1246のアミノ酸配列を含み、A2-HCDR3は配列番号1248を含み、A2-LCDR1は、配列番号1260、1276、1292、1308、1324及び1334からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、A2-LCDR2は、配列番号1262、1278、1294、1310、1326及び1335からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、そしてA2-LCDR3は、配列番号1264、1280、1296、1312、1328及び1336からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項22~34のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項43】
第二の抗原結合ドメインが、配列番号1242のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)並びに配列番号1258、1274、1290、1306、1322及び1333からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む参照抗原結合タンパク質と、ヒトCD20への結合に関して競合する、請求項22~34のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項44】
第一の抗原結合ドメインが、配列番号1250、1266、1282、1298、1314及び1329からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR
)、並びに配列番号1258、1274、1290、1306、1322及び1333からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む参照抗原結合タンパク質と、ヒトCD3への結合に関して競合し;そしてここで第二の抗原結合ドメインが、配列番号1242のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)、並びに配列番号1258、1274、1290、1306、1322及び1333からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む参照抗原結合タンパク質と、ヒトCD20への結合に関して競合する、請求項22~34のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項45】
請求項22~44のいずれか1項に記載の二重特異性抗原結合分子、及び薬学的に許容しうる担体又は希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項46】
被験体に請求項45に記載の医薬組成物を投与することを含む、被験体においてB細胞性癌を処置するための方法。
【請求項47】
B細胞性癌が:濾胞性リンパ腫、B細胞性慢性リンパ性白血病、B細胞性リンパ芽球性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、ヘアリーセル白血病及びバーキットリンパ腫からなる群より選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
被験体が、抗CD20単一特異性療法単独に対して抵抗性であるか不完全に応答性である腫瘍に罹患している、請求項46又は47に記載の方法。
【請求項49】
被験体が、リツキシマブ単剤療法に対して抵抗性であるか、又は不完全に応答性である腫瘍に罹患している、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
被験体が、医薬組成物の投与の少なくとも1日~1年前に抗CD20単一特異性抗体療法を受けていたことがある、請求項46~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
抗CD20単一特異性療法が、抗CD20単一特異性抗体を含むか抗CD20単一特異性抗体からなる、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
抗CD20単一特異性抗体がリツキシマブである、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
被験体においてB細胞性癌を処置するための方法であって:(a)抗CD20単一特異性療法単独に対して抵抗性であるか、又は不完全に応答性である腫瘍に罹患している被験体を選択すること;及び(b)被験体に請求項45に記載の医薬組成物を投与することを含む、上記方法。
【請求項54】
被験体が、リツキシマブ単剤療法に対して抵抗性であるか、不応性であるか、又は不完全に応答性である腫瘍を有することに基づいて選択される、請求項53に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、CD3に特異的な抗体、及びその抗原結合フラグメント、並びにそれらの使用方法に関する。本発明はまた、CD3、及びCD20のような標的分子に結合する二重特異性抗原結合分子、並びにその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
CD3は、T細胞受容体複合体(TCR)と関連してT細胞上で発現されるホモダイマー又はヘテロダイマー抗原であり、T細胞活性化に必要とされる。機能性CD3は、4つの異なる鎖のうちの2つのダイマー結合により形成される:エプシロン、ゼータ、デルタ、及びガンマ。CD3ダイマー配置としては、ガンマ/エプシロン、デルタ/エプシロン及びゼータ/ゼータが挙げられる。CD3に対する抗体は、T細胞上でCD3をクラスター化し、それによりペプチド負荷(peptide-loaded)MHC分子によるTCRの会合(engagement)と同様の様式でT細胞活性化を引き起こすことが示されている。従って、抗CD3抗体は、T細胞の活性化を含む治療目的のために提案されてきた。さらに、CD3及び標的抗原に結合することができる二重特異性抗体は、標的抗原を発現する組織及び細胞に対するT細胞免疫応答を標的とすることを含む治療上の使用のために提案されてきた。
【0003】
CD20は、成熟B細胞の細胞膜上で発現される非グリコシル化リン酸化タンパク質である。CD20は、B細胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)及び他のB細胞性悪性腫瘍の95%より多くで発現されるがB前駆細胞、樹状細胞及び形質細胞には存在しないので、B細胞性腫瘍関連抗原と考えられている。CD20を標的とすることにより癌を処置する方法は当該分野で公知である。例えば、キメラ抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブは、NHL、慢性リンパ性白血病(CLL)及び小リンパ球性リンパ腫(SLL)のような癌を処置する際に使用されてきたかそれらの処置における使用について提案されてきた。CD20は、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC)並びに/又はアポトーシス及び化学療法への感作を誘導することにより、CD20を発現する腫瘍細胞を死滅させると考えられている。抗CD20腫瘍標的化ストラテジーは臨床設定においておおいに有望であることを示したが、全ての患者が抗CD20療法に応答したわけではなく、一部の患者は 抗CD20療法に対する抵抗性を生じたか又は抗CD20療法に対する不完全な応答を示した(例えばリツキシマブに対する抵抗性)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CD3及び標的抗原(例えばCD20)の両方に結合する二重特異性抗原結合分子は、標的抗原を発現する細胞の特異的標的化及びT細胞媒介死滅が望ましい治療設定において有用だろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要旨
第一の局面において、本発明は、ヒトCD3に結合する抗体及びその抗原結合フラグメントを提供する。本発明のこの局面に従う抗体は、とりわけ、例えばT細胞媒介死滅が有益であるか又は望ましい状況下で、CD3を発現するT細胞の標的化、及びT細胞活性化の刺激のために有用である。本発明の抗CD3抗体、又はその抗原結合部分は、CD3媒
介T細胞活性化を腫瘍細胞又は感染因子のような特定の細胞型へと方向づける二重特異性抗体の一部として含まれ得る。
【0006】
本発明の例となる抗CD3抗体を本明細書の表1及び2に列挙する。表1は、例となる抗CD3抗体の重鎖可変領域(HCVR)及び軽鎖可変領域(LCVR)、さらには重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2及びHCDR3)、及びd 軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2及びLCDR3)のアミノ酸配列識別子を示す。表2は、例となる抗CD3抗体のHCVR、LCVR、HCDR1、HCDR2 HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3をコードする核酸分子の配列識別子を示す。
【0007】
本発明は、表1に列挙されるHCVRアミノ酸配列のいずれか、又はそれらに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含むHCVRを含む、抗体、又はその抗原結合フラグメントを提供する。
【0008】
本発明はまた、表1に列挙されるLCVRアミノ酸配列のいずれか、又はそれらに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含むLCVRを含む抗体、又はその抗原結合フラグメントを提供する。
【0009】
本発明はまた、表1に列挙されるLCVRアミノ酸配列のいずれかと対をなす表1に列挙されるHCVRアミノ酸配列のいずれかを含むHCVR及びLCVRアミノ酸配列対(HCVR/LCVR)を含む、抗体、又はその抗原結合フラグメントを提供する。特定の実施態様によれば、本発明は、表1に列挙される例となる抗CD3抗体のいずれか内に含有されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、抗体、又はその抗原結合フラグメントを提供する。特定の実施態様において、HCVR/LCVRアミノ酸配列対は、配列番号2/10(例えば、H1H2712N);114/122(例えば、H2M2609N);514/522(例えば、H2M3563N);770/778(例えば、H1H5778P);1050/1234(例えば、H1H7195B);及び1090/1234(例えばH1H7208B)からなる群より選択される。
【0010】
本発明はまた、表1に列挙されるHCDR1アミノ酸配列のいずれか又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1(HCDR1)を含む抗体、又はその抗原結合フラグメントを提供する。
【0011】
本発明はまた、表1に列挙されるHCDR2アミノ酸配列のいずれか又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2(HCDR2)を含む抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。
【0012】
本発明はまた、表1に列挙されるHCDR3アミノ酸配列のいずれか又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3(HCDR3)を含む抗体、又はその抗原結合フラグメントを提供する。
【0013】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR1アミノ酸配列のいずれか又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1(LCDR1)を含む抗体、又はその抗原結合フラグメントを提供する。
【0014】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR2アミノ酸配列のいずれか又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2(LCDR2)を含む抗体、又はその抗原結合フラグメントを提供する。
【0015】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR3アミノ酸配列のいずれか又は少なくとも90%,少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3(LCDR3)を含む抗体、又はその抗原結合フラグメントを提供する。
【0016】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR3アミノ酸配列のいずれかと対をなした表1に列挙されるHCDR3アミノ酸配列のいずれかを含むHCDR3及びLCDR3アミノ酸配列対(HCDR3/LCDR3)を含む抗体、又は抗原結合フラグメントを提供する。特定の実施態様によれば、本発明は、表1に列挙される例となる抗CD3抗体のいずれか内に含有されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む抗体、又はその抗原結合フラグメントを提供する。特定の実施態様において、HCDR3/LCDR3アミノ酸配列対は、配列番号8/16(例えば、H1H2712N);120/128(例えば、H2M2609N);520/528(例えば、H2M3563N);776/784(例えば、H1H5778P);1056/1240(例えば、H1H7195B);及び1096/1240(例えば、H1H7208B)からなる群より選択される。
【0017】
本発明はまた、表1に列挙される例となる抗CD3抗体のいずれか内に含有される6つのCDRセット(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む抗体、又はその抗原結合フラグメントを提供する。特定の実施態様において、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットは、配列番号4-6-8-12-14-16(例えば、H1H2712N);116-118-120-124-126-128(例えば、H2M2609N);516-518-520-524-526-528(例えば、H2M3563N);772-774-776-780-782-784(例えば、H1H5778P);1052-1054-1056-1236-1238-1240(例えば、H1H7195B);及び1092-1094-1096-1236-1238-1240(例えば、H1H7208B)からなる群より選択される。
【0018】
関連実施態様において、本発明は、表1に列挙される例となる抗CD3抗体のいずれかにより定義されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対内に含有される6つのCDRのセット(すなわちHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む抗体、又はその抗原結合フラグメントを提供する。例えば、本発明は、配列番号2/10(例えば、H1H2712N);114/122(例えば、H2M2609N);514/522(例えば、H2M3563N);770/778(例えば、H1H5778P);1050/1234(例えば、H1H7195B);及び1090/1234(例えば、H1H7208B)からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対内に含有されるHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットを含む抗体、又はその抗原結合フラグメントを含む。HCVR及びLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するための方法及び技術は当該分野で周知であり、本明細書において開示される特定のHCVR及び/又はLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するために使用され得る。CDRの境界を同定するために使用され得る例となる定法としては、例えば、Kabatの定義、Chothiaの定義、及びAbM定義が挙げられる。大まかに言えば、Kabatの定義は配列可変性に基づき、Chothiaの定義は構造的ループ領域の位置に基づき、そしてAbM定義は、Kabatアプ
ローチとChothiaアプローチとの折衷である。例えば、Kabat,「Sequences of Proteins of Immunological Interest,」National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991);Al-Lazikani et al.,J.Mol.Biol.273:927-948(1997);及びMartin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:9268-9272 (1989)を参照のこと。公開データベースもまた抗体内のCDR配列を同定するために利用可能である。
【0019】
本発明はまた、抗CD3抗体又はその部分をコードする核酸分子を提供する。例えば、本発明は、表1に列挙されるHCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し;特定の実施態様では、この核酸分子は、表2に列挙されるHCVR核酸配列のいずれか、又はそれに対する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0020】
本発明はまた、表1に列挙されるLCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し;特定の実施態様では、この核酸分子は、表2に列挙されるLCVR核酸配列のいずれか、又はそれに対する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0021】
本発明はまた、表1に列挙されるHCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し;特定の実施態様では、この核酸分子は、表2に列挙されるHCDR1核酸配列のいずれか、又はそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0022】
本発明はまた、表1に列挙されるHCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し;特定の実施態様では、この核酸分子は、表2に列挙されるHCDR2核酸配列のいずれか、又はそれに対する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0023】
本発明はまた、表1に列挙されるHCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し;特定の実施態様では、この核酸分子は、表2に列挙されるHCDR3核酸配列のいずれか、又はそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0024】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し;特定の実施態様では、この核酸分子は、表2に列挙されるLCDR1核酸配列のいずれか、又はそれに対する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似する配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0025】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し;特定の実施態様では、この核酸分子は、表2に列挙されるLCDR2核酸配列のいずれか、又はそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択さ
れるポリヌクレオチド配列を含む。
【0026】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し;特定の実施態様では、この核酸分子は、表2に列挙されるLCDR3核酸配列のいずれか、又はそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0027】
本発明はまた、HCVRをコードする核酸分子を提供し、ここでHCVRは3つのCDRのセット(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3)を含み、ここでHCDR1-HCDR2-HCDR3アミノ酸配列セットは、表1に列挙される例となる抗CD3抗体のいずれかにより定義されるとおりである。
【0028】
本発明はまた、LCVRをコードする核酸分子を提供し、ここでLCVRは3つのCDRのセット(すなわち、LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含み、ここでLCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットは、表1に列挙される例となる抗CD3抗体のいずれかにより定義されるとおりである。
【0029】
本発明はまた、HCVR及びLCVRの両方をコードする核酸分子を提供し、ここでHCVRは、表1に列挙されるHCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含み、そしてLCVRは表1に列挙されるLCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含む。特定の実施態様において、核酸分子は、表2に列挙されるHCVR核酸配列のいずれか、又はそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列、及び表2に列挙されるLCVR核酸配列のいずれか、又はそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。特定の実施態様において、本発明のこの局面によれば、核酸分子はHCVR及びLCVRをコードし、ここでHCVR及びLCVRは、両方とも表1に列挙される同じ抗CD3抗体由来である。
【0030】
本発明はまた、抗CD3抗体の重鎖及び軽鎖可変領域を含むポリペプチドを発現することができる組換え発現ベクターを提供する。例えば、本発明は、上述の核酸分子のいずれか、すなわち表1に示されるHCVR、LCVR、及び/又はCDR配列のいずれかをコードする核酸分子を含む組換え発現ベクターを含む。このようなベクターが導入されている宿主細胞、さらには抗体又は抗体フラグメントの産生を可能にする条件下でその宿主細胞を培養すること、並びにそのようにして産生された抗体及び抗体フラグメントを回収することにより抗体又はその部分を製造する方法もまた本発明の範囲内に含まれる。
【0031】
本発明は、改変されたグリコシル化パターンを有する抗CD3抗体を含む。いくつかの実施態様において、望ましくないグリコシル化部位を除去するための改変、又は例えば抗体依存性細胞傷害(ADCC)機能を増加させるためにオリゴ糖鎖上に存在するフコース部分を欠いた抗体が有用であり得る(Shield et al.(2002)JBC 277:26733を参照のこと)。他の適用において、ガラクトシル化の改変が、補体依存性細胞傷害(CDC)を改変するために行われ得る。
【0032】
別の局面において、本発明は、CD3に特異的に結合する組換えヒト抗体又はそのフラグメント、及び薬学的に許容しうる担体を含む医薬組成物を提供する。関連する局面において、本発明は、抗CD3抗体と第二の治療剤との組み合わせである組成物を特徴とする。一実施態様において、第二の治療剤は、抗CD3抗体と有利に組み合わせられるいずれ
かの薬剤である。抗CD3抗体と有利に組み合わせられ得る例となる薬剤としては、限定することなく、CD3シグナル伝達に結合しかつ/もしくは活性化する他の薬剤(他の抗体又はその抗原結合フラグメントなどを含む)及び/又はCD3に直接結合しないにもかかわらず、免疫細胞活性化を活性化もしくは刺激する薬剤が挙げられる。本発明の抗CD3抗体を含むさらなる組み合わせ療法及び同時処方(co-formulations)は本明細書の他所に開示される。
【0033】
さらに別の局面において、本発明は、抗CD3抗体又は本発明の抗体の抗原結合部分を使用してT細胞活性化を刺激するための治療方法を提供し、ここで治療方法は、治療有効量の、本発明の抗体又は抗体の抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含む。処置される障害は、CD3活性又はシグナル伝達の刺激により改善、寛解、阻害又は予防されるいずれかの疾患又は状態である。
【0034】
別の局面によれば、本発明は、CD3及び標的抗原に結合する二重特異性抗原結合分子を提供する。特定の例となる実施態様によれば、二重特異性抗原結合分子はCD3及びCD20に結合し;このような二重特異性抗原結合分子は、本明細書において「抗CD3/抗CD20二重特異性分子」とも呼ばれる。抗CD3/抗CD20二重特異性分子の抗CD20部分は、CD20を発現する腫瘍細胞(例えば、B細胞性腫瘍)を標的とするために有用であり、そして二重特異性分子の抗CD3部分はT細胞を活性化するために有用である。腫瘍細胞上のCD20及びT細胞上のCD3の同時結合は、活性化T細胞による標的腫瘍細胞の方向付けされた死滅(細胞溶解)を促進する。従って、本発明の抗CD3/抗CD20二重特異性分子は、とりわけCD20発現腫瘍(例えば、リンパ腫)に関連するか、それにより引き起こされる疾患及び障害を処置するために有用である。
【0035】
本発明のこの局面に従う二重特異性抗原結合分子は、ヒトCD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメイン、及びCD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインを含む。本発明は、各抗原結合ドメインが軽鎖可変領域(LCVR)と対をなした重鎖可変領域(HCVR)を含む抗CD3/抗CD20二重特異性分子(例えば、二重特異性抗体)を含む。本発明の特定の例となる実施態様において、抗CD3抗原結合ドメイン及び抗CD20抗原結合ドメインはそれぞれ、共通のLCVRと対を成した異なる個別のHCVRを含む。例えば、本明細書の実施例7において説明されるように、CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメイン(ここで第一の抗原結合ドメインは抗CD3由来のHCVR/LCVR対を含む);及びCD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメイン(ここで第二の抗原結合ドメインは、抗CD3抗体由来のLCVR(例えば、抗CD3抗原結合ドメインに含まれる同じLCVR)と対を成した抗CD20抗体由来のHCVRを含む)を含む二重特異性抗体が構築された。換言すると、本明細書において開示される例となる分子において、抗CD20抗体由来のHCVRと抗CD3抗体由来のLCVRとの対形成により、CD20に特異的に結合する(がCD3に結合しない)抗原結合ドメインが生じる。このような実施態様において、第一及び第二の抗原結合ドメインは、別個の抗CD3及び抗CD20 HCVRを含むが共通の抗CD3 LCVRを共有する。
【0036】
本発明は、CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが表1又は表18に示されるHCVRアミノ酸配列のいずれかを含む抗CD3/抗CD20二重特異性分子を提供する。CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインはまた、表1又は表19に示されるLCVRアミノ酸配列のいずれかを含み得る。特定の実施態様によれば、CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインは、表1又は表17に示されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対のいずれかを含む。本発明はまた、CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが表1もしくは表18に示される重鎖CDR1-CDR2-CDR3アミノ酸配列のいずれか、及び/又は表1もしくは表19に示される軽鎖CDR1-CDR2-CDR3アミノ酸配列のいずれかを含む抗CD3/抗CD20二重特異性分子を提供す
る。
【0037】
特定の実施態様によれば、本発明は、CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、配列番号1250、1266、1282、1298、1314及び1329からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する重鎖可変領域(HCVR)を含む、抗CD3/抗CD20二重特異性分子を提供する。
【0038】
本発明はまた、CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、配列番号1258、1274、1290、1306、1322及び1333からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)を含む、抗CD3/抗CD20二重特異性分子を提供する。
【0039】
本発明はまた、CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが配列番号1250/1258、1266/1274、1282/1290、1298/1306、1314/1322、及び1329/1333からなる群より選択されるHCVR及びLCVR(HCVR/LCVR)アミノ酸配列対を含む、抗CD3/抗CD20二重特異性分子を提供する。
【0040】
本発明はまた、CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、配列番号1256、1272、1288、1304、1320及び1332からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するそれと実質的に類似の配列を有する重鎖CDR3(HCDR3)ドメイン;並びに配列番号1264、1280、1296、1312、1328及び1336からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する軽鎖CDR3(LCDR3)ドメインを含む、抗CD3/抗CD20二重特異性分子を提供する。
【0041】
特定の実施態様において、CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインは、配列番号1256/1264、1272/1280、1288/1296、1304/1312、1320/1328及び1332/1336からなる群より選択されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む。
【0042】
本発明はまた、CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインが、配列番号1252、1268、1284、1300、1316及び1330からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する重鎖CDR1(HCDR1)ドメイン;配列番号1254、1270、1286、1302、1318及び1331からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一異性を有するその実質的に類似の配列を有する重鎖CDR2(HCDR2)ドメイン;配列番号1260、1276、1292、1308、1324及び1334からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する軽鎖CDR1(LCDR1)ドメイン;並びに配列番号1262、1278、1294、1310、1326及び1335からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する軽鎖CDR2(LCDR2)ドメインを含む、抗CD3/抗CD20二重特異性抗
原結合分子を提供する。
【0043】
本発明の特定の非限定的な例となる抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子は、それぞれ:配列番号1252-1254-1256-1260-1262-1264(例えば、BS3/20-001);1268-1270-1272-1276-1278-1280(例えば、BS3/20-002);1284-1286-1288-1292-1294-1296(例えば、BS3/20-003);1300-1302-1304-1308-1310-1312(例えば、BS3/20-004);1316-1318-1320-1324-1326-1328(例えば、BS3-20-005);及び1330-1331-1332-1334-1335-1336(例えば、BS3/20-007)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む、CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインを含む。
【0044】
本発明はまた、CD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、配列番号1242のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する重鎖可変領域(HCVR)を含む、抗CD3/抗CD20二重特異性分子を提供する。
【0045】
本発明はまた、CD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、配列番号1258、1274、1290、1306、1322及び1333からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)を含む、抗CD3/抗CD20二重特異性分子を提供する。
【0046】
本発明はまた、CD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、配列番号1242/1258、1242/1274、1242/1290、1242/1306、1242/1322及び1242/1333からなる群より選択されるHCVR及びLCVR(HCVR/LCVR)アミノ酸配列対を含む、抗CD3/抗CD20二重特異性分子を提供する。
【0047】
本発明はまた、CD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、配列番号1248のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するそれと実質的に類似の配列を有する重鎖CDR3(HCDR3)ドメイン;並びに配列番号1264、1280、1296、1312、1328及び1336からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する軽鎖CDR3(LCDR3)ドメインを含む、抗CD3/抗CD20二重特異性分子を提供する。
【0048】
特定の実施態様において、CD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインは、配列番号1248/1264、1248/1280、1248/1296、1248/1312、1248/1328及び1248/1336からなる群より選択されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む。
【0049】
本発明はまた、CD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、配列番号1244のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する重鎖CDR1(HCDR1)ドメイン;配列番号1246のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するそ
の実質的に類似の配列を有する重鎖CDR2(HCDR2)ドメイン;配列番号1260、1276、1292、1308、1324及び1334からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する軽鎖CDR1(LCDR1)ドメイン;並びに配列番号1262、1278、1294、1310、1326及び1335からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する軽鎖CDR2(LCDR2)ドメインを含む、抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を提供する。
【0050】
本発明の特定の非限定的な例となる抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子は、それぞれ:配列番号1244-1246-1248-1260-1262-1264(例えば、BS3/20-001);1244-1246-1248-1276-1278-1280(例えば、BS3/20-002);1244-1246-1248-1292-1294-1296(例えば、BS3/20-003);1244-1246-1248-1308-1310-1312(例えば、BS3/20-004);1244-1246-1248-1324-1326-1328(例えば、BS3-20-005);及び1244-1246-1248-1334-1335-1336(例えば、BS3/20-007)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む、CD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインを含む。
【0051】
関連する実施態様において、本発明は、CD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインが、配列番号1242/1258、1242/1274、1242/1290、1242/1306、1242/1322及び1242/1333からなる群より選択される重鎖及び軽鎖可変領域(HCVR/LCVR)配列内に含有される重鎖及び軽鎖CDRドメインを含む、抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を含む。
【0052】
別の局面において、本発明は、本明細書に開示される抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子のHCVR、LCVR又はCDR配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、これらとしては、本明細書の表20及び21に示されるポリヌクレオチド配列を含む核酸分子、さらにはいずれかのそれらの機能的な組み合わせ又配置で表20及び21に示されるポリヌクレオチド配列の2つ又はそれ以上を含む核酸分子が挙げられる。本発明の核酸を保有する組換え発現ベクター、及びそのようなベクターが導入された宿主細胞もまた本発明に包含され、抗体の産生を可能にする条件下でこれらの宿主細胞を培養し、そして産生された抗体を回収することにより抗体を産生する方法もまた同様に包含される。
【0053】
本発明は、CD3に特異的に結合する上述の抗原結合ドメインのいずれかが、CD20に特異的に結合する上述の抗原結合ドメインのいずれかと組み合わされるか、接続されるか、又はそうでなければそれらと会合して、CD3及びCD20に結合する二重特異性抗原結合分子を形成する抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を含む。
【0054】
本発明は、改変されたグリコシル化パターンを有する抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を含む。いくつかの適用において、望ましくないグリコシル化部位を除去するための改変が有用であり得るか、又は例えば抗体依存性細胞傷害(ADCC)機能を増加させるためにオリゴ糖鎖上に存在するフコース部分を欠いた抗体(Shield et
al.(2002)JBC 277:26733を参照のこと)が有用であり得る。他の適用において、ガラクトシル化の改変が補体依存性細胞傷害(CDC)を改変するために行われ得る。
【0055】
別の局面において、本発明は、本明細書に開示される抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子、及び薬学的に許容しうる担体を含む医薬組成物を提供する。関連する局面において、本発明は、抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子及び第二の治療剤の組み合わせである組成物を特徴とする。一実施態様において、第二の治療剤は、抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子と有利に組み合わせられるいずれかの薬剤である。抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子と有利に組み合わせられ得る例となる薬剤は、本明細書の他所において詳細に考察される。
【0056】
さらに別の局面において、本発明は、本発明の抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を使用してCD20を発現する腫瘍細胞を標的化/死滅するための治療方法を提供し、ここでこの治療方法は、治療有効量の、本発明の抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を含む医薬組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含む。
【0057】
本発明はまた、CD20発現に関連するかCD20発現により引き起こされる疾患又は障害の処置のための医薬の製造における、本発明の抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子の使用を含む。
【0058】
他の実施態様は、以下の詳細な説明の検討から明らかとなるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】Raji腫瘍細胞及びPBMCの混合物を皮下移植されたNOD/SCIDマウスにおける腫瘍移植及びヒトFc(hFc、実線)又はCD3xCD20二重特異性抗体(BS3/20-007、点線)のいずれかを用いた処置後の腫瘍体積(mm3)を、腫瘍移植の日に始まり、経時的に示す。
図2】Raji腫瘍細胞及びPBMCの混合物を皮下移植されたNOD/SCIDマウスにおける腫瘍移植及びヒトFc(hFc、実線)又はCD3xCD20二重特異性抗体(BS3/20-007、点線)のいずれかを用いた処置後の腫瘍体積(mm3)を、腫瘍移植の7日後に始まり、経時的に示す。
図3】3つの異なる用量の二重特異性抗体BS3/20-001(0.01、0.1又は1.0mg/kg);低用量抗CD20対照抗体(対照V、0.01mg/kg);又は高用量抗CD20対照抗体(対照III(1.0mg/kg)で処置されたカニクイザルからの血液サンプルにおけるB細胞数(x1000/μL)のプロットを経時的に示す。
図4】3つの異なる用量の二重特異性抗体BS3/20-001(0.01、0.1又は1.0mg/kg);低用量抗CD20対照抗体(対照V、0.01mg/kg);又は高用量抗CD20対照抗体(対照III(1.0mg/kg)で処置されたカニクイザルからの血液サンプルにおけるT細胞数(x1000/μL)のプロットを経時的に示す。
図5-1】A~Dは、単回用量のBS3/20-001(0.01、0.1又は1.0mg/kg)、低用量抗CD20対照抗体(0.01mg/kg対照V)、又は高用量抗CD20対照抗体(1.0mg/kg対照III)で処置されたカニクイザルについての、それぞれIFN-ガンマ、IL-2、IL-6、及びTNF-アルファの投与前及び投与後のレベル(pg/mL)を示す。
図5-2】図5-1の続き。
図5-3】図5-2の続き。
図5-4】図5-3の続き。
図6】0.01mg/kg対照V(抗CD20抗体);1.0mg/kg対照III(抗CD20抗体);並びに0.01mg/kg、0.1mg/kg及び1.0mg/kg BS3/20-001(抗CD3xCD20二重特異性抗体)で処置されたカニクイザルから様々な時点で採取された血液サンプルから決定されたCD20発現プロファイル(発現のLog2倍変化で表される)を示す。
図7】1.0mg/kg(白三角)、0.1mg/kg(白四角)又は0.01mg/kg(白菱型)のCD3xCD20二重特異性抗体で処置されたカニクイザルからの血液サンプルにおけるCD3xCD20二重特異性抗体(BS3/20-001)の総血清濃度(μg/mL)を経時的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0060】
詳細な説明
本発明を説明する前に、当然のことながら、方法及び実験条件は変わり得るので、本発明は、記載される特定の方法及び実験条件に限定されない。また当然のことながら、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書において使用される用語は、特定の実施態様を記載する目的のためのみであり、限定であることを意図されない。
【0061】
別の定義がなければ、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書で使用される用語「約」は、特定の記載される数値に関して使用される場合、その値が記載される値から1%以下だけ変わり得るということを意味する。例えば、本明細書で使用される表現「約100」は、99及び101並びにその間の全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0062】
本明細書に記載されるものと類似又は等価ないずれの方法及び材料も本発明の実施又は試験において使用され得るが、好ましい方法及び材料をここで記載する。
【0063】
定義
本明細書で使用される表現「CD3」は、多分子T細胞受容体(TCR)の一部としてT細胞上で発現され、かつ4つの受容体鎖:CD3-エプシロン、CD3-デルタ、CD3-ゼータ、及びCD3-ガンマのうちの2つの結合により形成されるホモダイマー又はヘテロダイマーからなる抗原を指す。ヒトCD3-エプシロンは、配列番号1370に示されるアミノ酸配列を含み;ヒトCD3-デルタは配列番号1371に示されるアミノ酸配列を含む。本明細書におけるタンパク質、ポリペプチド及びタンパク質フラグメントへの全ての言及は、非ヒト種由来であると明確に特定されていなければ、それぞれのタンパク質、ポリペプチド又はタンパク質フラグメントのヒトバージョンを指すことを意図される。従って、表現「CD3」は、例えば、「マウスCD3」、「サルCD3」などのように非ヒト種由来であると特定されていなければヒトCD3を意味する。
【0064】
本明細書で使用される「CD3に結合する抗体」又は「抗CD3抗体」は、単一のCD3サブユニット(例えば、エプシロン、デルタ、ガンマ又はゼータ)を特異的に認識する抗体及びその抗原結合フラグメント、さらには2つのCD3サブユニットの二量体複合体(例えば、ガンマ/エプシロン、デルタ/エプシロン、及びゼータ/ゼータCD3二量体)を特異的に認識する抗体及びその抗原結合フラグメントを含む。本発明の抗体及び抗原結合フラグメントは、可溶性CD3及び/又は細胞表面に発現されたCD3に結合し得る。可溶性CD3は、天然CD3タンパク質、さらには、例えば、単量体及び二量体CD3構築物のような、膜貫通ドメインを欠いているか又はそうでなければ細胞膜に結合していない組換えCD3タンパク質変異体を含む。
【0065】
本明細書で使用される表現「細胞表面で発現されるCD3」は、インビトロ又はインビボで細胞の表面上で発現され、その結果、CD3タンパク質の少なくとも一部が細胞膜の細胞外側に露出され、そして抗体の抗原結合部分に接近可能である1つ又はそれ以上のCD3タンパク質を意味する。「細胞表面で発現されたCD3」は、細胞の膜における機能
性T細胞受容体の状況内に含まれるCD3タンパク質を含む。表現「細胞表面で発現されるCD3」は、細胞表面上でホモダイマー又はヘテロダイマー(例えば、ガンマ/エプシロン、デルタ/エプシロン、及びゼータ/ゼータCD3二量体)の一部として発現されるCD3タンパク質を含む。表現「細胞表面で発現されるCD3」はまた、細胞表面上で、他のCD3鎖を伴わず、それ自体で発現されるCD3鎖(例えば、CD3-エプシロン、CD3-デルタ又はCD3-ガンマ)を含む。「細胞表面で発現されるCD3」は、通常CD3タンパク質を発現する細胞の表面上で発現されたCD3タンパク質を含んでいても、又はそれらからなるものであってもよい。あるいは、「細胞表面で発現されるCD3」は、通常はその表面上にヒトCD3を発現しないが、その表面上にCD3を発現するように人工的に操作された細胞の表面上で発現されるCD3タンパク質を含んでいても、又はそれらからなるものであってもよい。
【0066】
本明細書で使用される表現「抗CD3抗体」は、単一の特異性を有する一価抗体、さらにはCD3に結合する第一のアーム及び第二の(標的)抗原に結合する第二のアームを含む二重特異性抗体の両方を含み、ここで抗CD3アームは、本明細書の表1又は表18/19に示されるHCVR/LCVR又はCDR配列のいずれかを含む。抗CD3二重特異性抗体の例は、本明細書の他所に記載される。用語「抗原結合分子」は、例えば、二重特異性抗体を含む抗体及び抗原結合フラグメントを含む。
【0067】
本明細書で使用される用語「抗体」は、特定の抗原(例えば、CD3)に特異的に結合するか又は相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むいずれかの抗原結合分子又は分子複合体を意味する。用語「抗体」は、4つのポリペプチド鎖、ジスルフィド結合により相互接続された2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、さらにはその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略される)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、
3つのドメインCH1、CH2及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書では
LCVR又はVLと略される)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は1つのドメイン
(CL1)を含む。VH及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれ、より保存さ
れたフレームワーク領域(FR)と呼ばれる領域に組み入れられた超可変性の領域にさらに細分され得る。各VH及びVLは3つのCDR及び4つのFRから構成され、これらはアミノ末端からカルボキシ末端へ以下の順序で配置される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本発明の異なる実施態様において、抗CD3抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同じであり得、又は天然もしくは人工的に改変されたものであってもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ又はそれ以上のCDRの対照分析(side-by-side analysis)に基づいて規定され得る。
【0068】
本明細書で使用される用語「抗体」はまた、完全抗体分子の抗原結合フラグメントも含む。本明細書で使用される用語抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合フラグメント」などは、抗原に特異的に結合して複合体を形成する天然に存在するか、酵素により入手可能か、合成的又は遺伝的に操作されたポリペプチド又は糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合フラグメントは、タンパク質分解消化、又は抗体の可変ドメイン及び場合により定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を含む組換え遺伝子操作技術のようないずれかの適切な標準的技術を使用して完全抗体分子から誘導され得る。このようなDNAは公知であり、かつ/又は例えば、商業的供給源、DNAライブラリー(例えば、ファージ抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、又は合成され得る。DNAは、例えば、1つもしくはそれ以上の可変及び/もしくは定常ドメインを適切な構成へと配置するため、又はコドンを導入するか、システイン残基を生成するか、アミノ酸を改変、付加もしくは欠失させるなどのために、化学的に、又は分子生物学技術を使用して配列決定及び操作され得る。
【0069】
抗原結合フラグメントの非限定的な例としては:(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメント;(iii)Fdフラグメント;(iv)Fvフラグメント;(v)単鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAbフラグメント;及び(vii)抗体の超可変領域を模倣したアミノ酸残基からなる最小認識単位(例えば、CDR3ペプチドのような単離された相補性決定領域(CDR))、又は拘束性(constrained)FR3-CDR3-FR4ペプチドが挙げられる。他の操作された分子、例えばドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフト化抗体、二特異性抗体(diabodies)、三特異性抗体(triabodies)、四特異性抗体(tetrabodies)、ミニボディ(minibodies)、ナノボディ(nanobodies)(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小モジュラー免疫薬(small modular immunopharmaceuticals)(SMIP)、及びサメ可変IgNARドメインもまた本明細書で使用される表現「抗原結合フラグメント」内に包含される。
【0070】
抗体の抗原結合フラグメントは、典型的には少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、いずれのサイズ又はアミノ酸組成のものでもよく、一般的には、1つ又はそれ以上のフレームワーク配列に隣接するかそれらとインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。VLドメインに付随してVHドメインを有する抗原結合フラグメントにおいて、VH及びVLドメインは、互いに対していずれかの適切な配置で位置し得る。例えば、可変領域は二量体であり得、VH-VH、VH-VL又はVL-VL二量体を含有し得る。あるいは、抗体の抗原結合フラグメントは、単量体VH又はVLドメインを含有し得る。
【0071】
特定の実施態様において、抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合で連結された少なくとも1つの可変ドメインを含有し得る。本発明の抗体の抗原結合フラグメント内に見られ得る可変ドメイン及び定常ドメインの非限定的な例となる構成としては、以下が挙げられる:(i) VH-CH1;(ii) VH-CH2;(iii) VH-CH3;(iv) VH-CH1-CH2;(v) VH-CH1-CH2-CH3;(vi) VH-CH2-CH3;(vii) VH-CL;(viii) VL-CH1;(ix) VL-CH2;(x) VL-CH3;(xi) VL-CH1-CH2;(xi
i) VL-CH1-CH2-CH3;(xiii) VL-CH2-CH3;及び(xiv)
L-CL。上に列挙した例となる構成のいずれかを含む、可変ドメイン及び定常ドメインのいずれかの構成において、可変ドメイン及び定常ドメインは、互いに直接連結されていても、完全又は部分的なヒンジ又はリンカー領域により連結されていてもよい。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子において隣接する可変及び/又は定常ドメイン間に可動性又は半可動性の連結を生じる少なくとも2つの(例えば、5、10、15、20、40、60又はそれ以上)アミノ酸からなり得る。さらに、本発明の抗体の抗原結合フラグメントは、互いと、及び/又は1つもしくはそれ以上の単量体VHもしくはVLドメインと非共有結合した(例えば、ジスルフィド結合により)、上に列挙された可変ドメイン及び定常ドメインの構成のいずれかのホモダイマー又はヘテロダイマー(又は他の多量体)を含み得る。
【0072】
完全抗体分子のように、抗原結合フラグメントは単一特異性でも多重特異性(例えば二重特異性)でもよい。抗体の多重特異性抗原結合フラグメントは、典型的には少なくとも2つの異なる可変ドメインを含み、ここで各可変ドメインは別々の抗原に、又は同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することができる。本明細書に開示される例となる二重特異性抗体形式を含めて、いずれの多重特異性抗体形式も、当該分野で利用可能な通常の技術を使用して、本発明の抗体の抗原結合フラグメントの状況における使用のために適合され得る。
【0073】
本発明の抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)又は抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC)により機能し得る。「補体依存性細胞傷害」(CDC)は、補体の存在下での本発明の抗体による抗原発現細胞の溶解を指す。「抗体依存性細胞媒介細胞傷害」(ADCC)は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異性細胞傷害性細胞(例えば、Natural Killer(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)が、標的細胞上の結合した抗体を認識し、そしてそれにより標的細胞の溶解をもたらす細胞媒介反応を指す。CDC及びADCCは、当該分野で周知かつ利用可能なアッセイを使用して測定され得る。(例えば、米国特許第5,500,362号及び同第5,821,337号、並びにClynes et al.(1998) Proc.Natl.Acad.Sci.(USA) 95:652-656を参照のこと)。抗体の定常領域は、補体を固定し、そして細胞依存性細胞傷害を媒介する抗体の能力において重要である。従って、抗体アイソタイプは、抗体が細胞傷害を媒介するために望ましいかどうかに基づいて選択され得る。
【0074】
本発明の特定の実施態様において、本発明の抗CD3抗体(単一特異性又は二重特異性)はヒト抗体である。本明細書で使用される用語「ヒト抗体」は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変領域及び定常領域を有する抗体を含むことを意図される。本発明のヒト抗体は、例えばCDRにおいて、及び特にCDR3において、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によりコードされていないアミノ酸残基(例えば、インビトロでランダム又は部位特異的変異誘発により、又はインビボで体細胞変異により導入される変異)を含み得る。しかし、本明細書で使用される用語「ヒト抗体」は、別の哺乳動物種、例えばマウスの生殖系列由来のCDR配列がヒトフレームワーク配列上にグラフト化されている抗体を含むことを意図されない。
【0075】
本発明の抗体は、いくつかの実施態様において、組換えヒト抗体であり得る。本明細書で使用される用語「組換えヒト抗体」は、組換え手段により製造、発現、作製又は単離される全てのヒト抗体、例えば、宿主細胞へトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体(以下でさらに記載される)、組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体(以下でさらに記載される)、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックな動物(例えばマウス)から単離された抗体(例えば、Taylor et al.(1992)Nucl.Acids Res.20:6287-6295を参照のこと)、又はヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含むいずれかの他の手段により製造、発現、作製もしくは単離された抗体を含むことを意図される。このような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変領域及び定常領域を有する。しかし、特定の実施態様において、このような組換えヒト抗体はインビトロ変異誘発(又は、ヒトIg配列に関してトランスジェニックな動物が使用される場合、インビボ体細胞変異誘発)を受け、それ故、組換え抗体のVH
及びVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VH及びVL配列から誘導されかつヒト生殖
系列VH及びVL配列に関連するが、インビボでヒト抗体生殖系列レパートリー内には天然に存在しないかもしれない。
【0076】
ヒト抗体は、ヒンジ異質性に関連する2つの形態で存在し得る。1つの形態において、免疫グロブリン分子は約150~160kDaの安定な4つの鎖の構築物を含み、ここで二量体が鎖間重鎖ジスルフィド結合により結合される。第二の形態において、二量体は鎖間ジスルフィド結合を介して連結されておらず、そして共有結合でカップリングされた軽鎖及び重鎖(半抗体)から構成される約75~80kDaの分子が形成される。これらの形態は、アフィニティー精製後でさえ分離することが非常に困難であった。
【0077】
様々なインタクトなIgGアイソタイプにおける第二の形態の出現頻度は、抗体のヒンジ領域アイソタイプに関連する構造的差異に起因するがこれに限定されない。ヒトIgG4ヒンジのヒンジ領域における単一アミノ酸置換は、ヒトIgG1ヒンジを使用して典型
的に観察されるレベルまで、第二の形態の出現を有意に減少させ得る(Angal et
al.(1993) Molecular Immunology 30:105)。本発明は、ヒンジ、CH2、又はCH3領域に1つ又はそれ上の変異を有する抗体を包含し、これは例えば、所望の抗体形態の収量を改善するために製造において望ましいかもしれない。
【0078】
本発明の抗体は、単離された抗体であり得る。本明細書で使用される「単離された抗体」は、同定され、そしてその天然環境の少なくとも1つの構成要素から分離されかつ/又は回収された抗体を意味する。例えば、生物の少なくとも1つの構成要素から、又は抗体が天然に存在するかもしくは天然に産生される組織もしくは細胞から分離又は除去された抗体は、本発明の目的のための「単離された抗体」である。単離された抗体はまた、組換え細胞内のインサイチュの抗体を含む。単離された抗体は、少なくとも1つの精製又は単離工程を受けた抗体である。特定の実施態様によれば、単離された抗体は他の細胞物質及び/又は化学物質を実質的に含まないものであり得る。
【0079】
本発明はまた、CD3に結合する1アーム抗体を含む。本明細書で使用される「1アーム(one-arm)抗体」は、単一の抗体重鎖及び単一の抗体軽鎖を含む抗原結合分子を意味する。本発明の1アーム抗体は、本明細書の表1又は表18/19に示されるHCVR/LCVR又はCDRアミノ酸配列のいずれかを含み得る。
【0080】
本明細書に開示される抗CD3抗体は、抗体が由来する対応する生殖系列配列と比較して、重鎖及び軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域及び/又はCDR領域中に1つ又はそれ以上のアミノ酸の置換、挿入及び/又は欠失を含み得る。このような変異は、本明細書に開示されるアミノ酸配列を、例えば公開抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することにより容易に確認され得る。本発明は、本明細書に開示されるアミノ酸配列のいずれか由来の抗体及びその抗原結合フラグメントを含み、ここで1つもしくはそれ以上のフレームワーク及び/又はCDR領域内の1つ又はそれ上のアミノ酸は、その抗体が由来した生殖系列配列の対応する残基、又は別のヒト生殖系列配列の対応する残基、又は対応する生殖系列残基の保存的アミノ酸置換へと変異される(このような配列変化は本明細書で集合的に「生殖系列変異」と呼ばれる)。当業者は、本明細書に開示される重鎖及び軽鎖可変領域配列から始めて、1つ又はそれ以上の個々の生殖系列変異又はそれらの組み合わせを含む多数の抗体及び抗原結合フラグメントを容易に製造することができる。特定の実施態様において、VH及び/又はVLドメイン内のフレームワーク及び/又はCDR残基は全て、その抗体が由来した元の生殖系列配列において見られる残基へと逆変異される。他の実施態様において、特定の残基のみ、例えば、FR1の最初の8つのアミノ酸内もしくはFR4の最後の8つの残基内に見られる変異した残基のみ、又はCDR1、CDR2もしくはCDR3内に見られる変異した残基のみが元の生殖系列配列へと逆変異される。他の実施態様において、フレームワーク及び/又はCDR残基の1つ又はそれ以上は、異なる生殖系列配列(すなわち、その抗体が元々由来する生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基へと変異される。さらに、本発明の抗体は、フレームワーク及び/又はCDR領域内の2つ又はそれ以上の生殖系列変異のいずれかの組み合わせを含有し得、例えばここで特定の個々の残基は特定の生殖系列配列の対応する残基へと変異されるが、元の生殖系列配列と異なる特定の他の残基は維持されるか、又は異なる生殖系列配列の対応する残基へと変異される。一旦得られれば、1つ又はそれ以上の生殖系列変異を含む抗体及び抗原結合フラグメントは、改善された結合特異性、増加した結合親和性、改善されたか又は増強されたアンタゴニスト又はアゴニスト生物学的特性(場合によって)、減少した免疫原性などのような1つ又はそれ上の所望の特性について容易に試験され得る。この一般的なやり方で得られる抗体及び抗原結合フラグメントは、本発明内に包含される。
【0081】
本発明はまた、1つ又はそれ以上の保存的置換を有する、本明細書に開示されるHCVR、LCVR、及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかの変異形を含む抗CD3抗体を含む。例えば、本発明は、本明細書の表1に開示されるHCVR、LCVR、及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかと比較して、例えば、10又はそれ以下、8又はそれ以下、6又はそれ以下、4又はそれ以下などの保存的アミノ酸置換を含むHCVR、LCVR、及び/又はCDRアミノ酸配列を有する抗CD3抗体を含む。
【0082】
用語「エピトープ」は、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原が1つより多くのエピトープを有し得る。従って、異なる抗体は抗原の異なる領域に結合し得、そして異なる生物学的効果を有し得る。エピトープは立体構造的(conformational)又は線状のいずれでもよい。立体構造的エピトープは、線状ポリペプチド鎖の異なるセグメントからの空間的に近接したアミノ酸により生じる。線状エピトープは、ポリペプチド鎖における隣接したアミノ酸残基により生じるものである。特定の状況において、エピトープは抗原上に糖類、ホスホリル基、又はスルホニル基の部分を含み得る。
【0083】
核酸又はそのフラグメントに言及する場合の用語「実質的同一性」又は「実質的に同一」は、別の核酸(又はその相補鎖)と、適切なヌクレオチドの挿入又は欠失を伴って最適に整列された場合に、以下に考察されるように、FASTA、BLAST又はGapのような配列同一性のいずれかの周知のアルゴリズムにより測定して、少なくとも約95%、そしてより好ましくは少なくとも約96%、97%、98%又は99%のヌクレオチド塩基においてヌクレオチド配列同一性があるということを示す。参照核酸分子に対して実質的同一性を有する核酸分子は、特定の場合において、参照核酸分子によりコードされるポリペプチドと同じか又は実質的に類似したアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする。
【0084】
ポリペプチドに適用される用語「実質的な類似性」又は「実質的に類似の」は、例えばデフォルトギャップ重みを使用してプログラムGAP又はBESTFITにより最適に整列された場合に、少なくとも95%の配列同一性、なおより好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を共有する2つのペプチド配列を意味する。好ましくは、同一でない残基位置は、保存的アミノ酸置換により異なる。「保存的アミノ酸置換」は、類似した化学特性(例えば、電荷又は疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基でアミノ酸残基が置換されているものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つ又はそれ以上のアミノ酸配列が保存的置換で互いに異なる場合、配列同一性パーセント又は類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上方調節され得る。この調節を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson (1994) Methods Mol.Biol.24:307-331を参照のこと。類似の化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸のグループの例としては以下が挙げられる:(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン;(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリン及びスレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギン及びグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、及びヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパラギン酸及びグルタミン酸、そして(7)硫黄含有側鎖はシステイン及びメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換グループは:バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、及びアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置換は、Gonnet et al.(1992) Science 256:1443-1445に開示されるPAM250対数尤度マトリックスにおいて正の値を有するいずれかの変化である。「中程度に保存的な」置換は、PAM250対数尤度マトリックスにおいて負でない値を有するいずれかの変化である。
【0085】
ポリペプチドの配列類似性(配列同一性とも呼ばれる)は、典型的には配列解析ソフトウエアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウエアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失及び他の改変に割り当てられた類似性の尺度を使用して類似した配列を照合する。例えば、GCGソフトウエアは、異なる生物種由来の相同ポリペプチドのような密接に関連したポリペプチド間、又は野生型タンパク質とそのムテインとの間の配列相同性又は配列同一性を決定するための、デフォルトパラメーターと共に使用され得るGap及びBestfitのようなプログラムを含む。例えば、GCGバージョン6.1を参照のこと。ポリペプチド配列はまた、GCGバージョン6.1におけるプログラムである、デフォルト又は推奨パラメータを使用するFASTAを使用して比較され得る。FASTA(例えば、FASTA2及びFASTA3)は、クエリー配列と検索配列との間のベストオーバーラップの領域の整列及び配列同一性パーセントを提供する(Pearson(2000)上記参照)。異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと本発明の配列を比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトパラメータを使用する、コンピュータプログラムBLAST、特にBLASTP又はTBLASTNである。例えば、Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410及びAltschul et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-402を参照のこと。
【0086】
二重特異性抗原結合分子
本発明の抗体は、単一特異性でも、二重特異性でも、多重特異性でもよい。多重特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに特異的でも、1つより多くの標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有していてもよい。例えば、Tutt et al.、1991、J.Immunol.147:60-69;Kufer et al.、2004、Trends Biotechnol.22:238-244を参照のこと。本発明の抗CD3抗体は、別の機能的分子、例えば、別のペプチド又はタンパク質と連結されても、それらと同時発現されてもよい。例えば、抗体又はそのフラグメントは、1つ又はそれ以上の他の分子実体、例えば別の抗体又は抗体フラグメントに機能的に連結されて(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合又はその他による)、第二の結合特異性を有する二重特異性又は多重特異性抗体を生じ得る。
【0087】
本明細書における表現「抗CD3抗体」の使用は、単一特異性抗CD3抗体、さらにはCD3結合アーム、及び標的抗原に結合する第二のアームを含む二重特異性抗体の両方を含むことを意図される。従って本発明は、免疫グロブリンの1つのアームがヒトCD3に結合し、かつ免疫グロブリンの他方のアームが標的抗原に対して特異的である二重特異性抗体を含む。CD3二重特異性抗体の他方のアームが結合する標的抗原は、細胞、組織、器官、微生物又はウイルス上又はそれらの付近に発現され、それらに対する標的免疫応答が望ましいいずれかの抗原であり得る。CD3結合アームは、本明細書の表1又は表18/19に示されるHCVR/LCVR又はCDRアミノ酸配列のいずれかを含み得る。特定の実施態様において、CD3結合アームはヒトCD3に結合して、ヒトT細胞増殖を誘導する。
【0088】
抗体の1つのアームがCD3に結合し、そして他方のアームが標的抗原に結合する本発明の二重特異性抗体の状況において、標的抗原は腫瘍関連抗原であり得る。具体的な腫瘍関連抗原の非限定的な例としては、例えば、AFP、ALK、BAGEタンパク質、β-カテニン、brc-abl、BRCA1、BORIS、CA9、炭酸脱水酵素IX、カスパーゼ-8、CCR5、CD19、CD20、CD30、CD40、CDK4、CEA、CTLA4、サイクリン-B1、CYP1B1、EGFR、EGFRvIII、ErbB2/Her2、ErbB3、ErbB4、ETV6-AML、EpCAM、EphA2、Fra-1、FOLR1、GAGEタンパク質(例えば、GAGE-1、-2)、GD2
、GD3、GloboH、グリピカン-3、GM3、gp100、Her2、HLA/B-raf、HLA/k-ras、HLA/MAGE-A3、hTERT、LMP2、MAGEタンパク質(例えば、MAGE-1、-2、-3、-4、-6、及び-12)、MART-1、メソテリン、ML-IAP、Muc1、Muc2、Muc3、Muc4、Muc5、Muc16(CA-125)、MUM1、NA17、NY-BR1、NY-BR62、NY-BR85、NY-ESO1、OX40、p15、p53、PAP、PAX3、PAX5、PCTA-1、PLAC1、PRLR、PRAME、PSMA(FOLH1)、RAGEタンパク質、Ras、RGS5、Rho、SART-1、SART-3、Steap-1、Steap-2、サバイビン、TAG-72、TGF-β、TMPRSS2、Tn、TRP-1、TRP-2、チロシナーゼ、及びウロプラキン-3が挙げられる。
【0089】
抗体の1つのアームがCD3に結合し、そして他方のアームが標的抗原に結合する本発明の二重特異性抗体の状況において、標的抗原は感染性疾患関連抗原であり得る。感染性疾患関連抗原の非限定的な例としては、例えば、ウイルス粒子の表面上に発現されるか、又はウイルスに感染した細胞上で優先的に発現される抗原が挙げられ、ここでウイルスは、HIV、肝炎(A、B又はC)、ヘルペスウイルス(例えば、HSV-1、HSV-2、CMV、HAV-6、VZV、エプスタイン・バーウイルス)、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、フラビウイルス、エコーウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、コロナウイルス、呼吸器多核体ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、ロタウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、パルボウイルス、ワクシニアウイルス、HTLV、デングウイルス、パピローマウイルス、軟属腫ウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、JCウイルス、及びアルボウイルス脳炎ウイルスからなる群より選択される。あるいは、標的抗原は、細菌表面上に発現されるか、又は細菌に感染した細胞上に優先的に発現される抗原であり得、ここで細菌は、クラミジア、リケッチア、マイコバクテリア、ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌(pneumonococci)、髄膜炎菌、淋菌、クレブシエラ、プロテウス、セラチア、シュードモナス、レジオネラ、ジフテリア、サルモネラ、桿菌、コレラ、破傷風、ボツリヌス中毒、炭疽、ペスト、レプトスピラ、及びライム病の菌からなる群より選択される。特定の実施態様において、標的抗原は、真菌の表面上で発現されるか、又は真菌に感染した細胞上で優先的に発現される抗原であり、ここで真菌は、カンジダ(アルビカンス、クルセイ(krusei)、グラブラタ、トロピカリスなど)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Crytococcus neoformans)、コウジカビ(フミガーツス、クロコウジカビなど)、ケカビ目(ムコール属、アブシディア属、クモノスカビ属など)、スポロトリックス・シェンキィ(Sporothrix schenkii)、ブラストミセス・デルマチチジス、南アメリカ分芽菌、コクシジオイデス・イミチス、及びヒストプラズマ・カプスラーツムからなる群より選択される。特定の実施態様において、標的抗原は、寄生虫の表面上に発現されるか、寄生虫に感染した細胞上に優先的に発現される抗原であり、ここで寄生虫は、赤痢アメーバ、大腸バランチジウム、フォーラーネグレリア(Naegleriafowleri)、アカントアメーバ属種、ランブル鞭毛虫(Giardia lambia)、クリプトスポリジウム属種、ニューモシスチス・カリニ、三日熱マラリア原虫、ネズミバベシア、トリパノソーマ・ブルセイ、トリパノソーマ・クルージ、ドノバンリーシュマニア、トキソプラズマ・ゴンディ、ブラジル鉤虫、カブトウオ条虫(Taenia crassiceps)、及びマレー糸状虫からなる群より選択される。特定の病原関連抗原の非限定的な例としては、例えばHIV gp120、HIV CD4、B型肝炎糖タンパク質(glucoprotein)L、B型肝炎糖タンパク質M、B型肝炎糖タンパク質S、C型肝炎E1、C型肝炎E2、肝細胞特異的タンパク質、単純ヘルペスウイルスgB、サイトメガロウイルスgB、及びHTLV外被タンパク質が挙げられる。
【0090】
特定の例となる実施態様によれば、本発明は、CD3及びCD20に特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を含む。このような分子は、本明細書において、例えば、「抗C
D3/抗CD20」もしくは「抗CD3xCD20」もしくは「CD3xCD20」二重特異性分子、又は他の類似した用語で呼ばれ得る。
【0091】
本明細書で使用される用語「CD20」は、非ヒト種由来であると(例えば、「マウスCD20」、「サルCD20」など)特定されていなければ、ヒトCD20タンパク質を指す。ヒトCD20タンパク質は、配列番号1369に示されるアミノ酸配列を有する。
【0092】
本明細書で使用される表現「抗原結合分子」は、単独で、又は1つもしくはそれ以上のさらなるCDR及び/もしくはフレームワーク領域(FR)と組み合わせて、特定の抗原に特異的に結合する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むか又はそれらからなるタンパク質、ポリペプチド又は分子複合体を意味する。特定の実施態様において、抗原結合分子は抗体又は抗体フラグメントであり、それらの用語は本明細書の他所で定義される。
【0093】
本明細書で使用される表現「二重特異性抗原結合分子」は、少なくとも第一の抗原結合ドメイン及び第二の抗原結合ドメインを含むタンパク質、ポリペプチド又は分子複合体を意味する。二重特異性抗原結合分子内の各抗原結合ドメインは、単独で、又は1つもしくはそれ以上のさらなるCDR及び/又はFRと組み合わせて、特定の抗原に特異的に結合する少なくとも1つのCDRを含む。本発明の状況において、第一の抗原結合ドメインは第一の抗原(例えば、CD3)に特異的に結合し、そして第二の抗原結合ドメインは、第二の異なる抗原(例えば、CD20)に特異的に結合する。
【0094】
本発明の特定の例となる実施態様において、二重特異性抗原結合分子は二重特異性抗体である。二重特異性抗体の各抗原結合ドメインは、重鎖可変ドメイン(HCVR)及び軽鎖可変ドメイン(LCVR)を含む。第一及び第二の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子(例えば、二重特異性抗体)の状況において、第一の抗原結合ドメインのCDRは、接頭辞「A1」を付けて指定され得、そして第二の抗原結合ドメインのCDRは接頭辞「A2」を付けて指定される。従って、第一の抗原結合ドメインのCDRは、本明細書中でA1-HCDR1、A1-HCDR2、及びA1-HCDR3と呼ばれ;そして第二の抗原結合ドメインのCDRは本明細書中でA2-HCDR1、A2-HCDR2、及びA2-HCDR3と呼ばれる。
【0095】
第一の抗原結合ドメイン及び第二の抗原結合ドメインは、互いに直接的又は間接的に接続されて、本発明の二重特異性抗原結合分子を形成し得る。あるいは、第一の抗原結合ドメイン及び第二の抗原結合ドメインは、それぞれ別々の多量化ドメインに接続され得る。1つの多量体化ドメインの別の多量体化ドメインとの結合は、2つの抗原結合ドメイン間の結合を容易にし、それにより二重特異性抗原結合分子を形成する。本明細書で使用される「多量体化ドメイン」は、同じか又は類似した構造又は構成の第二の多量体化ドメインと結合する能力を有する、いずれかの高分子、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド又はアミノ酸である。例えば、多量体化ドメインは、免疫グロブリンCH3ドメインを含むポ
リペプチドであり得る。多量体化成分の非限定的な例は、免疫グロブリン(CH2-CH3ドメインを含む)のFc部分、例えば、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4から選択されるIgGのFcドメイン、さらには各アイソタイプグループ内のいずれかのアロタイプである。
【0096】
本発明の二重特異性抗原結合分子は、典型的には2つの多量体化ドメイン、例えば、それぞれ個別の別々の抗体重鎖の一部である2つのFcドメインを含む。第一及び第二の多量体化ドメインは、例えば、IgG1/IgG1IgG2/IgG2、IgG4/IgG4のような同じIgGアイソタイプのものであってもよい。あるいは、第一及び第二の多量体化ドメインは、例えば、IgG1/IgG2、IgG1/IgG4、IgG2/Ig
G4などのような異なるIgGアイソタイプのものであってもよい。
【0097】
特定の実施態様において、多量体化ドメインは、Fcフラグメント又は少なくとも1つのシステイン残基を含有する1~約200アミノ酸長のアミノ酸配列である。他の実施態様において、多量体化ドメインは、システイン残基、又は短いシステイン含有ペプチドである。他の多量体化ドメインとしては、ロイシンジッパー、ヘリックス・ループ・モチーフ、又はコイルドコイル・モチーフを含むか、又はそれらからなるペプチド又はポリペプチドが挙げられる。
【0098】
本発明の二重特異性抗原結合分子を作製するためにいずれかの二重特異性抗体形式又は形式が使用され得る。例えば、第一の抗原結合特異性を有する抗体又はそのフラグメントは、1つ又はそれ以上の他の分子実体、例えば第二の抗原結合特異性を有する別の抗体又は抗原フラグメントに、(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合又はその他の方法により)機能的に連結されて、二重特異性抗原結合分子を生じ得る。本発明の状況において使用され得る具体的な例となる二重特異性形式としては、限定することなく、例えば、scFvベースの、又は二特異性抗体(diabody)二重特異性形式、IgG-scFv融合、二重可変ドメイン(DVD)-Ig、クアドローマ(Quadroma)、ノブと穴(knobs-into-holes)、共通の軽鎖(例えば、ノブと穴を有する共通の軽鎖など)、CrossMab、CrossFab、(SEED)body、ロイシンジッパー、Duobody、IgG1/IgG2、二重作用Fab(DAF)-IgG、及びMab2二重特異性形式(前述の形式のレビューについては、例えば
、Klein et al.2012、mAbs 4:6、1-11、及びそこに引用される参考文献を参照のこと)。
【0099】
本発明の二重特異性抗原結合分子の状況において、多量体化ドメイン、例えば、Fcドメインは、Fcドメインの野生型の天然に存在する型と比較して、1つ又はそれ以上のアミノ酸変化(例えば、挿入、欠失又は置換)を含み得る。例えば、本発明は、FcとFcRnとの間の改変された結合相互作用(例えば、増強されるか又は減少される)を有する改変されたFcドメインを生じる、Fcドメインにおける1つ又はそれ以上の改変を含む二重特異性抗原結合分子を含む。一実施態様において、二重特異性抗原結合分子はCH
又はCH3領域に改変を含み、ここでこの改変は、酸性環境において(例えば、pHが約
5.5~約6.0の範囲に及ぶエンドソームにおいて)FcRnに対するFcドメインの親和性を増加させる。このようなFc改変の非限定的な例としては、例えば、位置250(例えば、E又はQ);250及び428(例えば、L又はF);252(例えば、L/Y/F/W又はT)、254(例えば、S又はT)、並びに256(例えば、S/R/Q/E/D又はT)における改変;又は位置428及び/若しくは433(例えば、L/R/S/P/Q又はK)及び/若しくは434(例えば、H/F又はY);又は位置250及び/若しくは428における改変;又は位置307もしくは308(例えば、308F、V308F)、及び434における改変が挙げられる。一実施態様において、改変は、428L(例えば、M428L)及び434S(例えば、N434S)の改変;428L、259I(例えば、V259I)、及び308F(例えば、V308F)の改変;433K(例えば、H433K)及び434(例えば、434Y)の改変;252、254、及び256(例えば、252Y、254T、及び256E)の改変;250Q及び428Lの改変(例えば、T250Q及びM428L);並びに307及び/又は308の改変(例えば、308F又は308P)を含む。
【0100】
本発明はまた、第一のCH3ドメイン及び第二のIg CH3ドメインを含む二重特異性抗原結合分子を含み、ここで第一及び第二のIg CH3ドメインは互いに少なくとも1
つのアミノ酸が異なり、そしてここで少なくとも1つのアミノ酸の差異が、アミノ酸差異の無い二重特異性抗体と比較して、二重特異性抗体のプロテインAへの結合を減少させる
。一実施態様において、第一のIg CH3ドメインはプロテインAに結合し、そして第
二のIg CH3ドメインは、H95R(IMGTエクソン番号付けによる;EU番号付
けではH435R)改変のようなプロテインA結合を減少させるか消失させる変異を含有する。第二のCH3はY96F(IMGTによる;EUではY436F)改変をさらに含
み得る。第二のCH3内に見出され得るさらなる改変としては:IgG1抗体の場合、D
16E、L18M、N44S、K52N、V57M、及びV82I(IMGTによる;EUではD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、及びV422I);IgG2抗体の場合、N44S、K52N、及びV82I(IMGT;EUではN384S、K392N、及びV422I);並びにIgG4抗体の場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、及びV82I(IMGTによる;EUではQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、及びV422I)が挙げられる。
【0101】
特定の実施態様において、Fcドメインは、1つより多くの免疫グロブリンアイソタイプ由来のFc配列を組み合わせたキメラであり得る。例えば、キメラFcドメインは、ヒトIgG1、ヒトIgG2又はヒトIgG4 CH2領域由来のCH2配列の一部又は全て、及びヒトIgG1、ヒトIgG2又はヒトIgG4由来のCH3配列の一部又は全てを
含み得る。キメラFcドメインはまた、キメラヒンジ領域を含有し得る。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1、ヒトIgG2又はヒトIgG4ヒンジ領域由来の「上部ヒンジ」配列を、ヒトIgG1、ヒトIgG2又はヒトIgG4ヒンジ領域由来の「下部ヒンジ」配列と組み合わせて含み得る。本明細書に示される抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインの特定の例は、N末端からC末端へ:[IgG4 CH1]-[I
gG4上部ヒンジ]-[IgG2下部ヒンジ]-[IgG4 CH2]-[IgG4 CH3]を含む。本明細書に示される抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインの別の例は、N末端からC末端へ:[IgG1 CH1]-[IgG1上部ヒンジ]
-[IgG2下部ヒンジ]-[IgG4 CH2]-[IgG1 CH3]を含む。本発明の抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインのこれら及び他の例は、米国仮出願第61/759,578号(2013年2月1日出願)に記載される。これらの一般的な構造配置を有するキメラFcドメイン、及びその変異体は、変更されたFc受容体結合を有し得、今度はそれがFcエフェクター機能に影響を及ぼす。
【0102】
配列変異体
本発明の抗体及び二重特異性抗原結合分子は、個々の抗原結合ドメインが由来する対応する生殖系列配列と比較して、重鎖及び軽鎖可変ドメインのフレームワーク及び/又はCDR領域において1つ又はそれ以上のアミノ酸置換、挿入及び/又は欠失を含み得る。このような変異は、本明細書に開示されているアミノ酸配列を、例えば公開抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することにより容易に確認され得る。本発明の抗原結合分子は、本明細書に開示される例となるアミノ酸配列のいずれかに由来する抗原結合ドメインを含み得、ここで、1つ又はそれ以上のフレームワーク及び/又はCDR領域内の1つ又はそれ以上のアミノ酸は、抗体が由来する生殖系列配列の対応する残基に、又は別のヒト生殖系列配列の対応する残基に、又は対応する生殖系列残基の保存的アミノ酸置換に変異される(このような配列変化は、本明細書で集合的に「生殖系列変異」と呼ばれる)。当業者は、本明細書に開示される重鎖及び軽鎖可変領域配列から始めて、1つもしくはそれ以上の個々の生殖系列変異又はそれらの組み合わせを含む多数の抗体及び抗原結合フラグメントを容易に製造することができる。特定の実施態様において、VH及び
/又はVLドメイン内のフレームワーク及び/又はCDR残基の全ては、抗原結合ドメイ
ンが元々由来する元の生殖系列配列中に見いだされる残基へと逆変異される(mutated back)。他の実施態様において、特定の残基のみ、例えば、FR1の最初の8アミノ酸内もしくはFR4の最後の8アミノ酸内に見られる変異した残基のみ、又はCDR1、CDR2もしくはCDR3内に見られる変異した残基のみが元の生殖系列配列へと
逆変異される。他の実施態様において、1つ又はそれ以上のフレームワーク及び/又はCDR残基は、異なる生殖系列配列(すなわち、抗原結合ドメインが元々由来する生殖系列配列と異なる生殖系列配列)の対応する残基へと変異される。さらに、抗原結合ドメインは、フレームワーク及び/又はCDR領域内の2つ又はそれ以上の生殖系列変異のいずれかの組み合わせを含有し得、例えば、ここで特定の個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基に変異されるが、元の生殖系列配列と異なる特定の他の残基が維持されるか、又は元の生殖系列配列が維持されるか、もしくは異なる生殖系列配列の対応する残基へと変異される。一旦得られれば、1つ又はそれ以上の生殖系列変異を含有する抗原結合ドメインは、改善された結合特異性、増加した結合親和性、改善又は増強されたアンタゴニスト又はアゴニストの生物学的特性(場合によって)、減少した免疫原性などのような1つ又はそれ以上の望ましい特性について容易に試験され得る。この一般的な方法で得られた1つ又はそれ以上の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子は、本発明内に包含される。
【0103】
本発明はまた、1つ又は両方の抗原結合ドメインが、1つ又はそれ以上の保存的置換を有する本明細書に開示されるHCVR、LCVR、及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかの変異体を含む抗原結合分子を含む。例えば、本発明は、本明細書に開示されるHCVR、LCVR、及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかと比較して、例えば、10又はそれ以下、8又はそれ以下、6又はそれ以下、4又はそれ以下などの保存的アミノ酸置換を有するHCVR、LCVR、及び/又はCDRアミノ酸配列を有する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子を含む。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似した化学的特性(例えば、電荷又は疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基により置換されているものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。類似した化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸のグループの例としては以下が挙げられる:(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン;(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリン及びスレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギン及びグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、及びヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパラギン酸及びグルタミン酸、そして(7)硫黄含有側鎖はシステイン及びメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換グループは:バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、及びアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置換は、Gonnet et al.(1992) Science 256:1443-1445に開示されるPAM250対数尤度マトリックスにおいて正の値を有するいずれかの変化である。「中程度に保存的な」置換は、PAM250対数尤度マトリックスにおいて負でない値を有するいずれかの変化である。
【0104】
本発明はまた、本明細書に開示されるHCVR、LCVR、及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかと実質的に同一のHCVR、LCVR、及び/又はCDRアミノ酸配列を有する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子を含む。用語「実質的な同一性」又は「実質的に同一」は、アミノ酸配列に言及する場合、例えばデフォルトギャップ重みを使用してプログラムGAP又はBESTFITにより最適に整列された場合に、少なくとも95%の配列同一性、なおより好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を共有する2つのアミノ酸配列を意味する。好ましくは、同一でない残基位置は、保存的アミノ酸置換により異なる。2つ又はそれ以上のアミノ酸配列が保存的置換で互いに異なる場合、配列同一性パーセント又は類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上方調節され得る。この調節を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson (1994) Methods Mol.Biol.24:307-331を参照のこと。
【0105】
ポリペプチドについての配列類似性(配列同一性とも呼ばれる)は、典型的には配列解析ソフトウエアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウエアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失及び他の改変に割り当てられた類似性の尺度を使用して類似した配列を照合する。例えば、GCGソフトウエアは、異なる生物種由来の相同ポリペプチドのような密接に関連したポリペプチド間、又は野生型タンパク質とそのムテインとの間の配列相同性又は配列同一性を決定するための、デフォルトパラメーターと共に使用され得るGap及びBestfitのようなプログラムを含む。例えば、GCGバージョン6.1を参照のこと。ポリペプチド配列はまた、GCGバージョン6.1におけるプログラムである、デフォルト又は推奨パラメータを使用するFASTAを使用して比較され得る。FASTA(例えば、FASTA2及びFASTA3)は、クエリー配列と検索配列との間のベストオーバーラップの領域の整列及び配列同一性パーセントを提供する(Pearson(2000)上記参照)。異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと本発明の配列を比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトパラメータを使用する、コンピュータプログラムBLAST、特にBLASTP又はTBLASTNである。例えば、Altschul et al.(1990) J.Mol.Biol.215:403-410及びAltschul et al.(1997) Nucleic Acids Res.25:3389-402を参照のこと。
【0106】
pH依存性結合
本発明は、pH依存性結合特徴を有する抗CD3抗体、及び抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を含む。例えば、本発明の抗CD3抗体は、中性pHと比較して、酸性pHにおいてCD3への減少した結合を示し得る。あるいは、本発明の抗CD3抗体は、中性pHと比較して、酸性pHにおいてCD3に対する増強された結合を示し得る。表現「酸性pH」は、約6.2未満、例えば、約6.0、5.95、5,9、5.85、5.8、5.75、5.7、5.65、5.6、5.55、5.5、5.45、5.4、5.35、5.3、5.25、5.2、5.15、5.1、5.05、5.0又はそれ以下のpH値を含む。本明細書で使用される表現「中性pH」は約7.0~約7.4のpHを意味する。表現「中性pH」は、約7.0、7.05、7.1、7.15、7.2、7.25、7.3、7.35、及び7.4のpH値を含む。
【0107】
場合によっては、「中性pHと比較して、酸性pHにおいて...減少した結合」は、中性pHでのその抗原への抗体の結合のKD値に対する、酸性pHでのその抗原への抗体
の結合のKD値の比で表される(又は逆も同様)。例えば、抗体又はその抗原結合フラグ
メントは、抗体又はその抗原結合フラグメントが約3.0又はそれ以上の酸性/中性KD
比を示す場合に、本発明の目的のために「中性pHと比較して、酸性pHにおいてCD3への減少した結合」を示すとみなされ得る。特定の例となる実施態様において、本発明の抗体又は抗原結合フラグメントについての酸性/中性KD比は、約3.0、3.5、4.
0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、15.0、20.0.25.0、30.0、40.0、50.0、60.0、70.0、100.0又はそれ以上であり得る。
【0108】
pH依存性結合特徴を有する抗体は、例えば、中性pHと比較して酸性pHにおいて特定の抗原への減少した(又は増強された)結合について抗体集団をスクリーニングすることにより得られ得る。さらに、アミノ酸レベルでの抗原結合ドメインの改変により、pH依存性特徴を有する抗体が得られ得る。例えば、抗原結合ドメイン(例えばCDR内)の1つ又はそれ以上のアミノ酸をヒスチジン残基と置換することにより、中性pHと比較して酸性pHで減少した抗原結合を有する抗体が得られ得る。
【0109】
Fc変異体を含む抗体
本発明の特定の実施態様によれば、例えば、中性pHと比較して酸性pHにおいて、FcRn受容体への抗体の結合を増強するか又は減少させる1つ又はそれ以上の変異を含むFcドメインを含む、抗CD3抗体、及び抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子が提供される。例えば、本発明は、FcドメインのCH2又はCH3領域に変異を含む抗体を含み、ここで変異は、酸性環境(例えば、pHが約5.5から約6.0の範囲に及ぶエンドソームにおいて)におけるFcRnに対するFcドメインの親和性を増加させる。このような変異は、動物に投与された場合の抗体の血清半減期の増加を生じ得る。このようなFc改変の非限定的な例としては、例えば、位置250(例えば、E又はQ);250及び428(例えば、L又はF);252(例えば、L/Y/F/W又はT)、254(例えば、S又はT)、及び256(例えば、S/R/Q/E/D又はT)での改変;又は位置428及び/若しくは433(例えば、H/L/R/S/P/Q又はK)及び/若しくは434(例えば、H/F又はY)での改変;又は位置250及び/若しくは428での改変;又は位置307もしくは308(例えば、308F、V308F)、及び434での改変が挙げられる。一実施態様において、改変は、428L(例えば、M428L)及び434S(例えば、N434S)の改変;428L、259I(例えば、V259I)、及び308F(例えば、V308F)の改変;433K(例えば、H433K)及び434(例えば、434Y)の改変;252、254、及び256(例えば、252Y、254T、及び256E)の改変;250Q及び428Lの改変(例えば、T250Q及びM428L);並びに307及び/又は308の改変(例えば、308F又は308P)を含む。
【0110】
例えば、本発明は:250Q及び248L(例えば、T250Q及びM248L);252Y、254T及び256E(例えば、M252Y、S254T及びT256E);428L及び434S(例えば、M428L及びN434S);並びに433K及び434F(例えば、H433K及びN434F)からなる群より選択される変異の1つ又はそれ上の対又はグループを含むFcドメインを含む、抗CD3抗体、及び抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を含む。前述のFcドメイン変異、及び本明細書に開示される抗体可変ドメイン内の他の変異の全ての可能な組み合わせは、本発明の範囲内に考慮される。
【0111】
抗体及び二重特異性抗原結合分子の生物学的特徴
本発明は、ヒトCD3に結合してT細胞増殖を誘導する抗体及びその抗原結合フラグメントを含む。例えば、本発明は、例えば、本明細書の実施例4において規定されるアッセイ形式(例えば、抗CD3抗体の存在下でのJurkat細胞又はヒトPBMCの増殖を評価する)、又は実質的に同様のアッセイを使用して、インビトロT細胞増殖アッセイにより測定して、約0.33pM未満のEC50値でヒトT細胞増殖を誘導する抗CD3抗体を含む。特定の実施態様において、本発明の抗体又は抗原結合フラグメントは、例えば、本明細書の実施例4において規定されるアッセイ形式、又は実質的に同様のアッセイを使用して、インビトロT細胞増殖アッセイにより測定して、約0.32pM未満、約0.31pM未満、約0.30pM未満、約0.28pM未満、約0.26pM未満、約0.24pM未満、約0.22pM未満、又は約0.20pM未満のEC50値でヒトT細胞増殖(例えば、Jurkat細胞増殖及び/又はPBMC増殖)を誘導する。
【0112】
本発明はまた、ヒトCD3に結合して腫瘍細胞のT細胞媒介死滅を誘導する抗体及びその抗原結合フラグメントを含む。例えば、本発明は、例えば、本明細書の実施例6に規定されるアッセイ形式(例えば、抗CD3抗体の存在下でヒトPBMCによるU937腫瘍細胞死滅の程度を評価する)、又は実質的に同様のアッセイを使用して、インビトロT細胞媒介腫瘍細胞死滅アッセイにおいて測定して、約2.3pM未満のEC50で腫瘍細胞のT細胞媒介死滅を誘導する抗CD3抗体を含む。特定の実施態様において、本発明の抗体又は抗原結合フラグメントは、例えば、本明細書の実施例6に規定されるアッセイ形式、
又は実質的に同様のアッセイを使用して、インビトロT細胞媒介腫瘍細胞死滅アッセイにより測定して、約2.3pM未満、約2.2pM未満、約2.1pM未満、約2.0pM未満、約1.8pM未満、約1.6pM未満、約1.4pM未満、約1.2pM未満、約1.0pM未満、約0.8pM未満、約0.6pM未満、又は約0.5pM未満のEC50値で、T細胞媒介腫瘍細胞死滅(例えば、U937細胞のPBMC媒介死滅)を誘導する。
【0113】
本発明は、高い親和性でヒトCD3に結合する抗体及び抗原結合フラグメントを含む。本発明はまた、治療状況及び所望される特定の標的特性に依存して、中程度又は低い親和性でヒトCD3に結合する抗体及びその抗原結合フラグメントを含む。例えば、1つのアームがCD3に結合し、別のアームが標的抗原(例えば、CD20)に結合する二重特異性抗原結合分子の状況において、標的抗原結合アームが標的抗原に高親和性で結合しながら、抗CD3アームがCD3に中程度又は低い親和性でしか結合しないことが望ましいかもしれない。この方法では、標的抗原を発言している細胞に対する抗原結合分子の優先的標的化は、全体的な/非標的CD3結合及びそれらに付随する結果として起こる有害な副作用を避けながら達成され得る。
【0114】
特定の実施態様によれば、本発明は、例えば、本明細書の実施例3において規定されるアッセイ形式を使用して、表面プラズモン共鳴により測定して約15nM未満のKDでヒ
トCD3に結合する(例えば、25℃で)抗体及び抗体の抗原結合フラグメントを含む。特定の実施態様において、本発明の抗体又は抗原結合フラグメントは、例えば、本明細書の実施例3において規定されるアッセイ形式(例えば、mAb-捕捉又は抗原捕捉形式)、又は実質的に同様のアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴により測定して、約5nM未満、約2nM未満、約1nM未満、約800pM未満、約600pM未満、約500pM未満、約400pM未満、約300pM未満、約200pM未満、約180pM未満、約160pM未満、約140pM未満、約120pM未満、約100pM未満、約80pM未満、約60pM未満、約40pM未満、約20pM未満、又は約10pM未満のKDでCD3に結合する。
【0115】
本発明はまた、例えば、本明細書の実施例3において規定されるアッセイ形式、又は実質的に同様のアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴により25℃又は37℃にて測定して、約10分より長い解離半減期(t12)でCD3に結合する抗体及びその抗原結合フラグメントを含む。特定の実施態様において、本発明の抗体又は抗原結合フラグメントは、例えば、本明細書の実施例3において規定されるアッセイ形式(例えば、mAb捕捉又は抗原捕捉形式)、又は実質的に同様のアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴により25℃又は37℃にて測定して、約20分より長い、約30分より長い、約40分より長い、約50分より長い、約60分より長い、約70分より長い、約80分より長い、約90分より長い、約100分より長い、約200分より長い、約300分より長い、約400分より長い、約500分より長い、約600分より長い、約700分より長い、約800分より長い、約900分より長い、約1000分より長い、又は約1200分より長いt12でCD3に結合する。
【0116】
本発明は、ヒトCD3及びヒトCD20に同時に結合することができる二重特異性抗原結合分子(例えば、二重特異性抗体)を含む。特定の実施態様によれば、本発明の二重特異性抗原結合分子は、CD3及び/又はCD20を発現する細胞と特異的に相互作用する。二重特異性抗原結合分子が、CD3及び/又はCD20を発現する細胞に結合する程度は、本明細書の実施例8において説明されるように、蛍光活性化細胞分類(FACS)により評価され得る。例えば、本発明は、CD3を発現するがCD20を発現しないヒトT細胞株(例えば、Jurkat)、CD20を発現するがCD3を発現しないヒトB細胞株(例えば、Raji)、及び/又は霊長類T細胞(例えば、カニクイザル末梢血単核細
胞[PBMC])に特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を含む。本発明は、実施例8に示されるFACSアッセイ又は実質的に類似のアッセイを使用して決定して、約9.0x10-6~約2.0x10-9又はそれ以下のEC50値で、前述の細胞及び細胞株のいずれかに結合する二重特異性抗原結合分子を含む。
【0117】
本発明はまた、CD3を発現するヒトT細胞(例えば、Jurkat)に1.0pMと1000nMとの間のEC50値で結合する抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を含む。特定の実施態様において、抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子は、CD3を発現するヒトT細胞に1nMと60nMとの間のEC50値で結合する。例えば、本発明は、CD3を発現するヒトT細胞(例えば、Jurkat)に、約1pM、約10pM、約100pM、約500pM、約1nM、約2nM、約5nM、約10nM、約20nM、約30nM、約40nM、約50nM 約60nM、約70nM、約80nM、約90nM、約100nM、約200nM、約300nM、約500nM、約800nM、約1000nM又はそれ以上のEC50値で結合する抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を含む。
【0118】
本発明はまた、以下からなる群より選択される1つ又はそれ以上の特徴を示す抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を含む:(a)インビトロでPBMC増殖を誘導する(例えば、本明細書の実施例9を参照のこと);(b)ヒト全血において、T細胞を活性化し、IFN-ガンマ放出及びCD25上方調節を誘導する(例えば、本明細書の実施例10を参照のこと);(c)抗CD20-抵抗性細胞株に対するT細胞媒介細胞傷害を誘導する(例えば、本明細書の実施例11を参照のこと);(d)ヒトB細胞に対する細胞傷害を誘導する(例えば、Raji;例えば、本明細書の実施例13を参照のこと);(e)ヒト免疫細胞を用いて再構成されたマウスにおいてB細胞(例えば、CD19+B細胞)を枯渇させる(例えば、本明細書の実施例14を参照のこと);及び(f)マウス異種移植片においてB細胞腫瘍体積(例えば、Raji腫瘍体積)を減少させる(例えば、実施例15を参照のこと)。
【0119】
本発明は、被験体においてB細胞を枯渇させることができる(例えば、実施例16を参照のこと)抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を含む。例えば、特定の実施態様によれば、抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子が提供され、ここで二重特異性抗原結合分子の被験体への単回投与(例えば、約0.1mg/kg、約0.08mg/kg、約0.06mg/kg、約0.04mg/kg、約0.04mg/kg、約0.02mg/kg、約0.01mg/kg又はそれ以下の用量で)は、被験体における(例えば、被験体から採取された血液サンプルにおける)検出可能なレベルを下回るB細胞数の減少を引き起こす。特定の実施態様において、約0.1mg/kgの用量での抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子の単回投与は、被験体への二重特異性抗原結合分子の投与の約7日後、約6日後、約5日後、約4日後、約3日後、約2日後、又は約1日後までに、検出可能なレベルを下回る被験体におけるB細胞数の減少を引き起こす。特定の実施態様によれば、本発明の抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子の約0.01mg/kgの用量での単回投与は、投与の少なくとも約7日後、8日後、9日後、10日後、11日後、12日後、13日後、14日後、15日後、16日後、17日又はそれ以上後まで、B細胞数を検出可能なレベルを下回ったままにする。本明細書で使用される表現「検出可能なレベルを下回る」は、本明細書の実施例16に示されるように、標準的なB細胞検出アッセイ、例えば、B細胞マーカーについてのFACSアッセイを使用して、被験体から採取された血液サンプルにおいて直接的にも間接的にもB細胞を検出できないということを意味する。
【0120】
関連する実施態様において、抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子が提供され、ここで被験体への抗原結合分子の約0.01mg/kgの単回用量の投与の約1日後か
ら約28日後に被験体から採取された血液1マイクロリットルあたりのB細胞数は、投与前に被験体から採取された血液1マイクロリットルあたりのB細胞数の25%未満である。特定の他の実施態様において、抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子が提供され、ここで被験体への抗原結合分子の約0.01mg/kgの単回用量の投与の約1日~約56日後に、被験体から採取された血液1マイクロリットルあたりのB細胞の数が、投与前に被験体から採取された血液1マイクロリットルあたりのB細胞の数の50%未満である。
【0121】
本発明はまた、被験体に投与された場合に、T細胞の一次的な減少しか引き起こさない抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を提供する。例えば、被験体に約0.01mg/kgの用量で投与された場合に、投与の1日後にT細胞数を低下させるが、血液1マイクロリットルあたりのT細胞数はその後の時点で(例えば、投与の約2日後、7日後、14日後、28日後、42日後、56日後又はそれ以降までに)回復する抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子が提供される。例えば、本発明は、抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を提供し、ここで被験体への抗原結合分子の約0.01mg/kgの用量での投与の約14日~約56日後に、被験体から採取された血液1マイクロリットルあたりのT細胞の数が、二重特異性抗原結合分子の投与前に被験体から採取された血液1マイクロリットルあたりのT細胞の数と等しいか又はそれ以上である。
【0122】
エピトープマッピング及び関連技術
本発明の抗原結合分子が結合するCD3上のエピトープは、CD3タンパク質の3つ又はそれ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又はそれ以上)のアミノ酸の単一の連続した配列からなり得る。あるいは、エピトープは、複数のCD3の不連続アミノ酸(又はアミノ酸配列)からなり得る。本発明の抗体は、単一のCD3鎖(例えば、CD3-エプシロン、CD3-デルタ又はCD3-ガンマ)内に含有されるアミノ酸と相互作用し得るか、又は2つもしくはそれ以上の異なるCD3鎖上のアミノ酸と相互作用し得る。本明細書で使用される用語「エピトープ」は、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原が1つより多くのエピトープを有し得る。従って、異なる抗体は抗原の異なる領域に結合し得、そして異なる生物学的効果を有し得る。エピトープは立体構造的(conformational)又は線状のいずれでもよい。立体構造的エピトープは、線状ポリペプチド鎖の異なるセグメントからの空間的に近接したアミノ酸により生じる。線状エピトープは、ポリペプチド鎖における隣接したアミノ酸残基により生じるものである。特定の状況において、エピトープは抗原上に糖類、ホスホリル基、又はスルホニル基の部分を含み得る。
【0123】
当業者に公知の様々な技術が、抗体の抗原結合ドメインがポリペプチド又はタンパク質の「1つ又はそれ以上のアミノ酸と相互作用する」かどうかを決定するために使用され得る。例となる技術としては、例えば、Antibodies、Harlow and Lane (Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harb.、NY)記載のような所定の交差ブロッキング(cross-blocking)アッセイ、アラニンスキャニング変異解析、ペプチドブロット分析(Reineke、2004、Methods Mol Biol 248:443-463)、及びペプチド切断分析が挙げられる。さらに、エピトープ切除、エピトープ抽出及び抗原の化学修飾のような方法が使用され得る(Tomer、2000、Protein Science 9:487-496)。抗体の抗原結合ドメインが相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために使用され得る別の方法は、質量分析により検出される水素/重水素交換である。おおまかに言えば、水素/重水素交換法は、目的のタンパク質の重水素標識、その後の重水素で標識されたタンパク質への抗体の結合を含む。次に、タンパク質/抗体複合体を、水に移して、抗体により保護されている残基(これらは重水素標識さ
れたままである)を除いて全ての残基において水素-重水素交換させる。抗体の解離後、標的タンパク質は、プロテアーゼ切断及び質量分析にかけられ、それにより、抗体が相互作用する特定のアミノ酸に対応する重水素標識された残基が明らかとなる。例えば、Ehring (1999) Analytical Biochemistry 267(2):252-259;Engen and Smith (2001) Anal.Chem.73:256A-265Aを参照のこと。抗原/抗体複合体のX線結晶解析もまたエピトープマッピング目的で使用され得る。
【0124】
本発明はさらに、本明細書に記載される特定の例となる抗体のいずれか(例えば、本明細書の表1に示されるアミノ酸配列のいずれかを含む抗体)と同じエピトープに結合する抗CD3抗体を含む。同様に、本発明はまた、本明細書に記載される特定の例となる抗体のいずれか(例えば、本明細書の表1に示されるアミノ酸配列のいずれかを含む抗体)と、CD3への結合について競合する抗CD3抗体を含む。
【0125】
本発明はまた、ヒトCD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメイン、及びヒトCD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子を含み、ここで第一の抗原結合ドメインは、本明細書に記載される特定の例となるCD3特異的抗原結合ドメインのいずれかと同じCD3上のエピトープに結合し、かつ/又は第二の抗原結合ドメインは、本明細書に記載される特定の例となるCD20特異的抗原結合ドメインのいずれかと同じCD20上のエピトープに結合する。
【0126】
同様に、本発明はまた、ヒトCD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメイン、及びヒトCD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子を含み、ここで第一の抗原結合ドメインは、本明細書に記載される特定の例となるCD3特異的抗原結合ドメインのいずれかと、CD3への結合について競合し、かつ/又は第二の抗原結合ドメインは、本明細書に記載される特定の例となるCD20特異的抗原結合ドメインのいずれかと、CD20への結合について競合する。
【0127】
特定の抗原結合分子(例えば、抗体)又はその抗原結合ドメインが、本発明の参照抗原結合分子と同じエピトープに結合するか否か、又はそれらと結合について競合するか否かは、当該分野における通常の方法を使用することにより容易に決定することができる。例えば、本発明の参照二重特異性抗原結合分子と同じCD3(又はCD20)上のエピトープに試験抗体が結合するかどうかを決定するために、参照二重特異性分子を最初にCD3タンパク質(又はCD20タンパク質)に結合させる。次に、CD3(又はCD20)分子に結合する試験抗体の能力を評価する。参照二重特異性抗原結合分子との飽和結合の後に試験抗体がCD3(又はCD20)に結合する事が出来る場合、試験抗体は参照二重特異性抗原結合分子と異なるCD3(又はCD20)のエピトープに結合すると結論付けることができる。他方で、参照二重特異性抗原結合分子との飽和結合の後に試験抗体がCD3(又はCD20)分子と結合できない場合、試験抗体は、本発明の参照二重特異性分子により結合されるエピトープと同じCD3(又はCD20)のエピトープに結合するかもしれない。次いで、さらなる通常の実験(例えば、ペプチド変異及び結合分析)を行って、観察された試験抗体の結合の欠如が、実際に参照二重特異性抗原結合分子と同じエピトープへの結合に起因するかどうか、又は立体的遮断(又は別の現象)が観察された結合の欠如の原因なのかどうかを確認することができる。この種の実験は、ELISA、RIA、Biacore、フローサイトメトリー又は当該分野で利用可能ないずれかの他の定量的もしくは定性的な抗体結合アッセイを使用して行われ得る。本発明の特定の実施態様によれば、例えば、1倍、5倍、10倍、20又は100倍過剰の一方の抗原結合タンパク質が、競合結合アッセイ(例えば、Junghans et al.、Cancer Res.1990:50:1495-1502を参照のこと)において測定して、他方の結合を少なくとも50%だけ、しかし好ましくは75%、90%又は99%さえも阻害する
場合、2つの抗原結合タンパク質は同じ(又は重なった)エピトープに結合する。あるいは、一方の抗原結合タンパク質の結合を減少又は排除する抗原における本質的に全てのアミノ酸変異が他方の結合を減少又は排除する場合、2つの抗原結合タンパク質は、同じエピトープに結合するとみなされる。一方の抗原結合タンパク質の結合を減少又は排除するアミノ酸変異のサブセットのみが他方の結合を減少又は排除する場合、2つの抗原結合タンパク質は「重なった(overlapping)エピトープ」を有するとみなされる。
【0128】
抗体又はその抗原結合ドメインが参照抗原結合分子との結合について競合するかどうかを決定するために、上記の結合方法論を2つの方向で行った:第一の方向では、参照抗原結合分子を、飽和条件下でCD3タンパク質(又はCD20タンパク質)に結合させ、続いて試験抗体のCD3(又はCD20)分子への結合を評価する。第二の方向では、試験抗体を飽和条件下でCD3(又はCD20)分子に結合させ、続いて参照抗原結合分子のCD3(又はCD20)分子への結合を評価する。両方の方向で、第一の(飽和している)抗原結合分子のみがCD3(又はCD20)分子に結合する事が出来る場合、試験抗体及び参照抗原結合分子は、CD3(又はCD20)への結合について競合すると結論づけられる。当業者には当然のことながら、参照抗原結合分子と結合について競合する抗体は、必ずしも参照抗体と同じエピトープに結合しないかもしれないが、重なるか又は隣接するエピトープに結合することにより参照抗体の結合を立体的にブロックし得る。
【0129】
抗原結合ドメインの製造及び二重特異性分子の構築
特定の抗原に特異的な抗原結合ドメインは、当該分野で公知のいずれかの抗体生成技術により製造され得る。一旦得られれば、2つの異なる抗原(例えば、CD3及びCD20)に特異的な2つの異なる抗原結合ドメインは、通常の方法を使用して本発明の二重特異性抗原結合分子を製造するために、互いに対して適切に配置され得る。(本発明の二重特異性抗原結合分子を構築するために使用され得る例となる二重特異性抗体形式の考察は本明細書の他所に提供される)。特定の実施態様において、本発明の多重特異性抗原結合分子の個々の成分(例えば、重鎖及び軽鎖)の1つ又はそれ以上は、キメラ、ヒト化又は完全ヒト抗体由来である。このような抗体を作製する方法は当該分野で周知である。例えば、本発明の二重特異性抗原結合分子の重鎖及び/又は軽鎖の1つ又はそれ以上は、VELOCIMMUNETM技術を使用して製造され得る。VELOCIMMUNETM技術(又はいずれかの他のヒト抗体生成方法)を使用して、ヒト可変領域及びマウス定常領域を有する、特定の抗原(例えば、CD3又はCD20)に対する高親和性抗体が最初に単離される。抗体を特徴付けし、そして親和性、選択性、エピトープなどを含む所望の特徴について選択する。マウス定常領域を所望のヒト定常領域で置き換えて、本発明の二重特異性抗原結合分子に組み込まれ得る完全ヒト重鎖及び/又は軽鎖を生成する。
【0130】
遺伝子操作された動物を使用して、ヒト二重特異性抗原結合分子を作成し得る。例えば、内在性マウス免疫グロブリン軽鎖可変配列を再配列及び発現することができない遺伝子改変されたマウスを使用することができ、ここでこのマウスは、内在性マウスカッパ遺伝子座におけるマウスカッパ定常遺伝子に作動可能に連結されたヒト免疫グロブリン配列によりコードされる1つ又は2つのヒト軽鎖可変ドメインのみを発現する。このように遺伝子改変されたマウスを使用して、2つの異なるヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントのうちの1つに由来する可変ドメインを含む同一の軽鎖と関係する2つの異なる重鎖を含む完全ヒト二重特異性抗原結合分子を製造することができる。(このような操作されたマウス及び二重特異性抗原結合分子を製造するためのその使用の詳細な考察については、例えば、US2011/0195454を参照のこと)。
【0131】
生物学的同等性
本発明は、本明細書に開示される例となる分子のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有するが、CD3及び/又はCD20に結合する能力は保持している抗原結合分子を包
含する。このような変異体分子は、親配列と比較した場合に、1つ又はそれ以上のアミノ酸の付加、欠失、又は置換を含み得るが、記載される二重特異性抗原結合分子の生物学的活性と本質的に等価な生物学的活性を示す。
【0132】
本発明は、本明細書に示される例となる抗原結合分子のいずれかと生物学的に同等な抗原結合分子を含む。2つの抗原結合タンパク質、又は抗体は、例えば、それらが、それらの吸収の速度及び程度が同様の実験条件下で同じモル用量で単回用量又は複数回用量のいずれかで投与された場合に有意な差異を示さない薬学的等価体又は薬学的代替物である場合に、生物学的に同等とみなされる。いくつかの抗原結合タンパク質は、それらがそれらの吸収の程度において等価であるが、それらの吸収速度においては等価でない場合に等価物又は薬学的代替物とみなされ、吸収速度におけるこのような差異は意図的であり、かつラベルに示されており、例えば、慢性使用での効果的な身体薬物濃度の達成に必須ではなく、そして研究されている特定の薬品に関して医学的に重要でないので、なお生物学に同等であるとみなされ得る。
【0133】
一実施態様において、2つの抗原結合タンパク質は、それらの安全性、純度、及び効力において臨床的に意味のある差異がない場合に生物学的に同等である。
【0134】
一実施態様において、2つの抗原結合タンパク質は、切り替えなしに継続された治療と比較して、免疫原性、又は減少した有効性における臨床的に有意な変化を含む、有害作用の危険性における期待される増加なく、参照製品と生物学的製品との間で患者が1回又はそれ以上切り替えられ得る場合に、生物学的に同等である。
【0135】
一実施態様において、2つの抗原結合タンパク質は、そのような機序が知られている程度まで、使用の条件(単数又は複数)の共通の作用機序(単数又は複数)によりそれらが両方とも作用する場合に生物学的に同等である。
【0136】
生物学的同等性は、インビボ及びインビトロの方法により実証され得る。生物学的同等性の尺度としては、例えば、(a)抗体又はその代謝物の濃度が、血液、血漿、血清又は他の生物学的流体において時間の関数として測定される、ヒト又は他の哺乳動物におけるインビボ試験;(b)ヒトインビボバイオアベイラビリティデータと相関しており、かつ合理的に予測されるインビトロ試験;(c)抗体(又はその標的)の適切な急性薬理作用が時間の関数として測定される、ヒト又は他の哺乳動物におけるインビボ試験;及び(d)抗原結合タンパク質の安全性、有効性もしくはバイオアベイラビリティ又は生物学的同等性を確立する十分に管理された臨床試験におけるものが挙げられる。
【0137】
本明細書に示される例となる二重特異性抗原結合分子の生物学的に同等な変異体は、例えば、残基もしくは配列の様々な置換を行うことにより、又は生物学的活性に必要ない末端もしくは内部の残基もしくは配列を除去することにより構築され得る。例えば、システイン残基は生物学的活性に必須ではなく、再生の際に不必要又は不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成を防止するために除去されるか又は他のアミノ酸と置き換えられ得る。他の状況において、生物学的に同等な抗原結合タンパク質は、分子のグリコシル化特徴を改変するアミノ酸変化、例えば、グリコシル化を排除又は除去する変異を含む本明細書に示される例となる二重特異性抗原結合分子の変異体を含み得る。
【0138】
種選択性及び種交差反応性
本発明の特定の実施態様によれば、ヒトCD3に結合するが他の種由来のCD3には結合しない抗原結合分子が提供される。ヒトCD20に結合するが他の種由来のCD20には結合しない抗原結合分子も提供される。本発明はまた、ヒトCD3及び1つもしくはそれ以上の非ヒト種由来のCD3に結合する抗原結合する抗原結合分子;並びに/又はヒト
CD20及び1つもしくはそれ以上の非ヒト種由来のCD20に結合する抗原結合分子を含む。
【0139】
本発明の特定の例となる実施態様によれば、ヒトCD3及び/又はヒトCD20に結合し、かつ場合によっては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、スナネズミ、ブタ、ネコ、イヌ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル又はチンパンジーのCD3及び/又はCD20の1つ又はそれ以上に結合してもしなくてもよい抗原結合分子が提供される。例えば、本発明の特定の例となる実施態様において、ヒトCD3及びカニクイザルCD3に結合する第一の抗原結合ドメイン、並びにヒトCD20に特異的に結合する第二の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子が提供される。
【0140】
免疫複合体
本発明は、細胞毒、化学療法薬、免疫抑制剤又は放射性同位体のような治療部分に結合した抗原結合分子(「免疫複合体」)を包含する。細胞傷害性薬は、細胞に対して有害な薬剤を含む。免疫複合体を形成するために適切な細胞傷害性薬及び化学療法剤の例は当該分野で公知である(例えば、WO05/103081を参照のこと)。
【0141】
治療製剤及び投与
本発明は、本発明の抗原結合分子を含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、適切な担体、添加剤、及び改善された輸送、送達、耐性などをもたらすその他の薬剤と共に製剤化される。多数の適切な処方が、全ての薬剤師に公知の処方集に見出され得る:Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack
Publishing Company、Easton、PA。これらの製剤としては、例えば、散剤、ペースト剤、軟膏、ゼリー、ワックス、オイル、脂質、脂質(カチオン性又はアニオン性)含有小胞(例えばLIPOFECTINTM、Life Technologies、Carlsbad、CA))、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油及び油中水乳剤、カーボワックス乳剤(emulsions carbowax)(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固形ゲル、及びカーボワックスを含有する半固形混合物が挙げられる。Powell et al.「Compendium of excipients for parenteral formulations」 PDA (1998) J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照のこと。
【0142】
患者に投与される抗原結合分子の用量は、患者の年齢及びサイズ、標的疾患、状態、投与経路などに依存して変化し得る。好ましい用量は、典型的には体重又は体表面積に従って計算される。本発明の二重特異性抗原結合分子が成人患者において治療目的で使用される場合、本発明の二重特異性抗原結合分子を、通常は 約0.01~約20mg/体重kg、より好ましくは約0.02~約7、約0.03~約5、又は約0.05~約3mg/体重kgの単回用量で静脈内投与することが有利かもしれない。状態の重症度に依存して、処置の頻度及び期間が調整され得る。二重特異性抗原結合分子を投与するための有効な投薬量及びスケジュールは経験的に決定され得;例えば、患者の進行が定期的な評価によりモニタリングされ、それに従って用量が調整され得る。さらに、投薬量の種間スケーリングは、当該分野で周知の方法(例えば、Mordenti et al.、1991、Pharmaceut.Res.8:1351)を使用して行われ得る。
【0143】
様々な送達系が公知であり、そして本発明の医薬組成物を投与するために使用され得、例えば、リポソーム封入、マイクロパーティクル、マイクロカプセル、変異体ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体媒介エンドサイトーシスである(例えば、Wu
et al.、1987、J.Biol.Chem.262:4429-4432を参
照のこと)。導入方法としては、限定されないが、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、及び経口経路が挙げられる。組成物は、いずれかの都合の良い経路、例えば、注入又はボーラス注射により、上皮又は粘膜皮膚内層(linings)(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸管粘膜など)を通した吸収により投与され得、そして他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与され得る。投与は全身でも局所でもよい。
【0144】
本発明の医薬組成物は、標準的な針及び注射器を用いて皮下又は静脈内に送達され得る。さらに、皮下送達に関して、ペン型送達デバイスは、本発明の医薬組成物の送達において容易に有用性を有する。このようなペン型送達デバイスは再利用可能であるか又は使い捨てであり得る。再利用可能なペン型送達デバイスは、一般的には、医薬組成物を含む交換式カートリッジを利用する。カートリッジ内の医薬組成物が全て投与されてカートリッジが空になると、この空のカートリッジは容易に廃棄され得、そして医薬組成物を含む新しいカートリジに置き換えられ得る。次いでペン型送達デバイスは再使用され得る。使い捨てペン型送達デバイスでは交換式カートリッジはない。むしろ、使い捨てペン型送達デバイスはデバイス内のリザーバー中に保持される医薬組成物で予め充填されている状態である。リザーバから医薬組成物が空になると、デバイス全体が廃棄される。
【0145】
多数の再利用可能なペン型自動注入送達デバイスが本発明の医薬組成物の皮下送達において有用性を有する。例としては、限定されないが、少数を挙げると、AUTOPENTM(Owen Mumford、Inc.、Woodstock、UK)、DISETRONICTMペン(Disetronic Medical Systems、Bergdorf、Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25TMペン、HUMALOGTMペン、HUMALIN 70/30TMペン(Eli Lilly and Co.、Indianapolis、IN)、NOVOPENTM I、II及びIII(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、NOVOPEN JUNIORTM(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、BDTMペン(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)、OPTIPENTM、OPTIPEN PROTM、OPTIPEN STARLETTM、及びOPTICLIKTM(sanofi-aventis、Frankfurt、Germany)が挙げられる。本発明の医薬組成物の皮下送達において有用性を有する使い捨てペン型送達デバイスの例としては、限定されないが、少数を挙げると、SOLOSTARTMペン(sanofi-aventis)、FLEXPENTM(Novo Nordisk)、及びKWIKPENTM(Eli Lilly)、SURECLICKTM自動注入器(Amgen、Thousand Oaks、CA)、PENLETTM(Haselmeier、Stuttgart、Germany)、EPIPEN(Dey、L.P.)、及びHUMIRATM Pen(Abbott Labs、Abbott Park
IL)が挙げられる。
【0146】
特定の状況において、医薬組成物は徐放(controlled release)系で送達され得る。一実施態様において、ポンプが使用され得る(Langer、上記参照;Sefton、1987、CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201を参照のこと)。別の実施態様において、ポリマー材料が使用され得る;Medical Applications of Controlled Release、Langer and Wise (eds.)、1974、CRC Pres.、Boca Raton、Floridaを参照のこと。さらに別の実施態様において、徐放系が組成物の標的に近接して配置され得、それ故全身用量の一部しか必要としない(例えば、Goodson、1984、Medical Applications of Controlled Release、上記参照、vol.2、pp.115-138を参照のこと)。他の徐放系はLanger、1990、Science 249:1527-1533による概説において考察される。
【0147】
注射用製剤は、静脈内、皮下、皮内及び筋内注射、点滴などのための投薬形態を含み得る。これらの注射用製剤は、公知の方法により製造され得る。例えば、注射用製剤は、例えば、上記の抗体又はその塩を、注射のために従来使用される滅菌水性媒体又は油性媒体中に溶解、懸濁又は乳化させることにより製造され得る。注射のための水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコース及び他の補助剤含有する等張液などがあり、これらはアルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加体)]などのような適切な可溶化剤と組み合わせて使用され得る。油性媒体としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが使用され、これらは安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどのような可溶化剤と組み合わせて使用され得る。従って注射剤は、好ましくは適切なアンプル中に充填される。
【0148】
有利には、上記の経口又は非経口使用のための医薬組成物は、活性成分の用量に適合するのに適している単位用量で投薬形態へと製造される。このような単位用量での投薬形態としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤などが挙げられる。含有される前述の抗体の量は、一般的には、単位用量で投薬形態あたり約5~約500mgであり;特に注射剤の形態では、前述の抗体が約5~約100mgで含有され、そして他の投薬形態については約10~約250mgで含有されることが好ましい。
【0149】
抗原結合分子の治療上の使用
本発明は、抗CD3抗体又はCD3及び標的抗原(例えば、CD20)に特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を含む治療用組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含む方法を含む。治療用組成物は、本明細書に開示される抗体又は二重特異性抗原結合分子のいずれか、及び薬学的に許容しうる担体又は希釈剤を含み得る。本明細書で使用される表現「それを必要とする被験体」は、癌の1つもしくはそれ以上の症状もしくは兆候を示すか(例えば、腫瘍を発現しているか又は本明細書以下で述べられる癌のいずれかに罹患している被験体)、又はそうでなければCD20活性の阻害もしくは減少、もしくはCD20+B細胞の欠失から利益を受けるであろうヒト又は非ヒト動物を意味する。
【0150】
本発明の抗体及び二重特異性抗原結合分子(及びそれらを含む治療用組成物)は、とりわけ、免疫応答の刺激、活性化及び/又は標的化が有益であろういずれかの疾患又は障害を処置するために有用である。特に、本発明の抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子は、CD20発現もしくは活性又はCD20+ B細胞の増殖に関連するか、又はこれらにより媒介されるいずれかの疾患又は障害の処置、予防、及び/又は寛解のために使用され得る。本発明の治療方法が達成される作用機序は、例えば、CDC、アポトーシス、ADCC、食作用により、又はこれらの機序の2つもしくはそれ以上の組み合わせによる、エフェクター細胞の存在下でのCD20を発現する細胞の死滅を含む。本発明の二重特異性抗原結合分子を使用して阻害又は死滅され得るCD20を発現する細胞としては、例えば、腫瘍原性B細胞が挙げられる。
【0151】
本発明の抗原結合分子は、例えば、脳及び髄膜、中咽頭、肺及び気管支樹、胃腸管、雄性及び雌性生殖系、筋肉、骨、皮膚及び付属器、結合組織、脾臓、免疫系、造血細胞及び骨髄、肝臓及び尿路、並びに眼のような専門感覚器官において生じる原発性及び/又は転移性腫瘍を処置するために使用され得る。特定の実施態様において、本発明の二重特異性抗原結合分子を使用して、以下の癌の1つ又はそれ以上を処置する:腎細胞癌、膵癌、乳癌、頭頸部癌、前立腺癌、悪性神経膠腫、骨肉腫、結腸直腸癌、胃癌(例えば、MET増幅を伴う胃癌)、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、滑膜肉腫、甲状腺癌、又は黒色腫。特定の例となる実施態様によれば、本発明の二重特異性抗
原結合分子は、B細胞性癌(例えば、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫[NHL]、前駆B細胞性リンパ芽球性白血病/リンパ腫、成熟B細胞性新生物、B細胞性慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫、B細胞性前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、皮膚性濾胞中心リンパ腫(cutaneous follicle center lymphoma)、辺縁帯B細胞性リンパ腫、ヘアリーセル白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、形質細胞腫、形質細胞性骨髄腫、移植後リンパ増殖性障害、ワルデンストレーム高ガンマグロブリン血症、及び未分化大細胞リンパ腫を処置するために使用される。
【0152】
本発明の特定の実施態様によれば、抗原結合分子は、抗CD20療法単独に対して抵抗性であるか、又は不完全に応答性である(例えば、リツキシマブ療法に抵抗性)B細胞性リンパ腫(例えば、NHL)に罹患した患者を処置するために有用である。本発明の他の関連する実施態様によれば、本明細書に開示される抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を、抗CD20療法に不応性であるB細胞性リンパ腫(例えば、NHL)に罹患した患者(例えば、リツキシマブ不応性腫瘍又は再発したかもしくは不応性のB細胞性リンパ腫を有する患者)に投与することを含む方法が提供される。腫瘍スキャニングなどのような当該分野で公知の分析/診断方法を使用して、抗CD20療法単独に対して抵抗性であるか、不完全に応答性であるか、又は不応性である腫瘍として患者が有するかどうかを確認し得る。
【0153】
本発明はまた、被験体において残存する癌を処置するための方法を含む。本明細書で使用される用語「残存する癌(residual cancer)」は、抗癌治療での処置後に被験体において1つ又はそれ以上のがん細胞の存在又は残留を意味する。
【0154】
特定の局面によれば、本発明は、CD20発現に関連する疾患又は障害(例えば、B細胞性リンパ腫)を処置するための方法を提供し、この方法は、被験体が抗CD20単独療法を受けた後に(例えば、リツキシマブのような抗CD20抗体を含む医薬組成物の投与後に)、本明細書の他所に記載される二重特異性抗原結合分子の1つ又はそれ以上を被験体に投与することを含む。例えば、本発明は、B細胞性リンパ腫を処置するための方法を含み、この方法は、被験体が抗CD20単独療法(例えば、リツキシマブ処置又はその等価な処置)を受けた1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、1週後、2週後、3週後又は4週後、2ヶ月後、4ヶ月後、6ヶ月後、8ヶ月後、1年後、又はそれ以上後に、患者に抗CD3/抗CD20抗原結合分子を投与することを含む。他の局面において、IgG4 Fcドメインを含む本発明の二重特異性抗原結合分子(抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子)が、(例えば、B細胞の着実な初期枯渇をもたらすために)1つ又はそれ以上の時点で被験体に最初に投与され、続いてIgG1 Fcドメインのような異なるIgGドメインを含む等価な二重特異性抗原結合分子が、その後の時点で投与される。
【0155】
組み合わせ療法及び製剤
本発明は、本明細書に記載される例となる抗体及び二重特異性抗原結合分子のいずれかを含む医薬組成物を、1つ又はそれ以上のさらなる治療剤と組み合わせて投与することを含む方法を提供する。本発明の抗原結合分子と組み合わせられ得るか、又は組み合わせて投与され得る例となるさらなる治療剤としては、例えば、EGFRアンタゴニスト(例えば、抗EGFR抗体[例えば、セツキシマブ又はパニツムマブ]又はEGFRの小分子阻害剤[例えば、ゲフィチニブ又はエルロチニブ])、Her2/ErbB2、ErbB3又はErbB4のような別のEGFRファミリーメンバーのアンタゴニスト(例えば、抗ErbB2、抗ErbB3もしくは抗ErbB4抗体、又はErbB2、ErbB3もしくはErbB4活性の小分子阻害剤)、EGFRvIIIのアンタゴニスト(例えば、EGFRvIIIに特異的に結合する抗体)、cMETアナゴニスト(anagonist
)(例えば、抗cMET抗体)、IGF1Rアンタゴニスト(例えば、抗IGF1R抗体)、B-raf阻害剤(例えば、ベムラフェニブ、ソラフェニブ、GDC-0879、PLX-4720)、PDGFR-α阻害剤(例えば、抗PDGFR-α抗体)、PDGFR-β阻害剤(例えば、抗PDGFR-β抗体)、VEGFアンタゴニスト(例えば、VEGF-Trap、例えば、US 7,087,411を参照のこと(本明細書では「VEGF阻害融合タンパク質」とも呼ばれる)、抗VEGF抗体(例えば、ベバシズマブ)、VEGF受容体の小分子キナーゼ阻害剤(例えば、スニチニブ、ソラフェニブ又はパゾパニブ))、DLL4アンタゴニスト(例えば、REGN421のような、US2009/0142354に開示される抗DLL4抗体)、Ang2アンタゴニスト(例えば、H1H685Pのような、US2011/0027286に開示される抗Ang2抗体)、FOLH1アンタゴニスト(例えば、抗FOLH1抗体)、PRLRアンタゴニスト(例えば、抗PRLR抗体)、STEAP1又はSTEAP2アンタゴニスト(例えば、抗STEAP1抗体又は抗STEAP2抗体)、TMPRSS2アンタゴニスト(例えば、抗TMPRSS2抗体)、MSLNアンタゴニスト(例えば、抗MSLN抗体、CA9アンタゴニスト(例えば、抗CA9抗体)、ウロプラキンアンタゴニスト(例えば、抗ウロプラキン抗体)、一価CD20アンタゴニスト(例えば、リツキシマブのような一価抗CD20抗体)などが挙げられる。本発明の抗原結合分子と組み合わせて有利に投与され得る他の薬剤としては、小分子サイトカイン阻害剤を含むサイトカイン阻害剤、及びIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-9、IL-11、IL-12、IL-13、IL-17、IL-18のようなサイトカイン又はそれらのそれぞれの受容体に結合する抗体が挙げられる。本発明の医薬組成物(例えば、本明細書に開示される抗CD3/抗CD20二重特異性抗原結合分子を含む医薬組成物)はまた、「ICE」:イホスファミド(例えば、Ifex(R))、カルボプラチン(例えば、P
araplatin(R))、エトポシド(例えば、Etopophos(R)、Toposar(R)、VePesid(R)、VP-16);「DHAP」:デキサメタゾン(例えば、Decadron(R))、シタラビン(例えば、Cytosar-U(R)、シトシンアラビノシド、ara-C)、シスプラチン(例えば、Platinol(R)-AQ);及び「E
SHAP」:エトポシド(例えば、Etopophos(R)、Toposar(R)、VePesid(R)、VP-16)、メチルプレドニゾロン(例えば、Medrol(R))、高用量シタラビン、シスプラチン(例えば、Platinol(R)-AQ)から選択される1
つ又はそれ以上の治療的組み合わせを含む治療計画の一部として投与され得る。
【0156】
本発明はまた、本明細書において言及される抗原結合分子のいずれか、及びVEGF、Ang2、DLL4、EGFR、ErbB2、ErbB3、ErbB4、EGFRvIII、cMet、IGF1R、B-raf、PDGFR-α、PDGFR-β、FOLH1、PRLR、STEAP1、STEAP2、TMPRSS2、MSLN、CA9、ウロプラキン、又は上述のサイトカインのいずれかの1つ又はそれ以上の阻害剤を含む治療用組み合わせを含み、ここで阻害剤は、アプタマー、アンチセンス分子、リボザイム、siRNA、ペプチボディ(peptibody)、ナノボディ(nanobody)もしくは抗体フラグメント(例えば、Fabフラグメント;F(ab’)2フラグメント;Fdフ
ラグメント;Fvフラグメント;scFv;dAbフラグメント;又は他の操作された分子、例えば二特異性抗体(diabodies)、三特異性抗体(triabodies)、四特異性骨愛(tetrabodies)、ミニボディ(minibodies)及び最小認識単位)である。本発明の抗原結合分子はまた、抗ウイルス薬(antivirals)、抗生物質、鎮痛薬、コルチコステロイド及び/又はNSAIDと組み合わせて投与及び/又は同時処方(co-formulated)され得る。本発明の抗原結合分子はまた、放射線処置及び/又は従来の化学療法も含む処置計画の一部として投与され得る。
【0157】
さらなる治療活性成分は、本発明の抗原結合分子の投与の直前に、同時に、又は直後に
投与され得る;(本開示の目的のために、このような投与計画は、さらなる治療活性成分と「組み合わせた」抗原結合分子の投与とみなされる)。
【0158】
本発明は、本明細書の他所に記載されるように、本発明の抗原結合分子が1つ又はそれ以上のさらなる治療活性成分と同時処方された医薬組成物を含む。
【0159】
投与計画
本発明の特定の実施態様によれば、抗原結合分子(例えば、抗CD3抗体又はCD20及びCD3に特異的に結合する二重特異性抗原結合分子)の複数回用量は、規定された時間経過にわたって被験体に投与され得る。本発明のこの局面に従う方法は、本発明の抗原結合分子の複数回用量を被験体に逐次的に投与することを含む。本明細書で使用される「逐次的に投与すること」は、抗原結合分子の各用量が、異なる時点で、例えば、所定の間隔(例えば、時間、日、週又は月)だけ離れた異なる日に被験体に投与されるということを意味する。本発明は、抗原結合分子の単回初期用量、続いて抗原結合分子の1つ又はそれ以上の二次用量、そして場合により続いて抗原結合分子の1つ又はそれ以上の三次用量を、逐次的に投与することを含む方法を含む。
【0160】
用語「初期用量」、「二次用量」、及び「三次用量」は、本発明の抗原結合分子の投与の時系列を指す。従って、「初期用量」は処置計画の初めに投与される用量であり(「ベースライン用量」とも呼ばれる);「二次用量」は初期用量の後に投与される用量であり;そして「三次用量」は二次用量の後に投与される用量である。初期、二次、及び三次用量は全て、同じ量の抗原結合分子を含有していてもよいが、一般的には投与頻度の点から互いに異なり得る。しかし、特定の実施態様において、初期、二次及び/又は三次用量に含有される抗原結合分子の量は、処置の過程で互いに変わる(例えば、適宜上方又は下方に調整される)。特定の実施態様において、2つ又はそれ以上(例えば、2、3、4、又は5)の用量が、処置計画の初めに「負荷投与量」として投与され、続いてより低い頻度で投与される後続用量(例えば、維持量)が投与される。
【0161】
本発明の1つの例となる実施態様において、二次用量及び/又は三次用量はそれぞれ、直前の投薬の1~26週間後(例えば、1、112、2、212、3、312、4、41
2、5、512、6、612、7、712、8、812、9、912、10、1012
、11、1112、12、1212、13、1312、14、1412、15、1512、16、1612、17、1712、18、1812、19、1912、20、2012、21、2112、22、2212、23、2312、24、2412、25、2512、26、2612、週間又はそれ以上後)に投与される。本明細書で使用される句「直前の投薬」は、一連の複数回投与で、投薬を介在させずに、その順番で次の用量の投与の前に患者に投与される抗原結合分子の投薬を意味する。
【0162】
本発明のこの局面に従う方法は、抗原結合分子(例えば、抗CD3抗体又はCD20及びCD3に特異的に結合する二重特異性抗原結合分子)の任意の数の二次用量及び/又は三次用量を患者に投与することを含み得る。例えば、特定の実施態様において、単回二次用量のみが患者に投与される。他の実施態様において、2つ又はそれ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、又はそれ以上)の二次用量が患者に投与される。同様に、特定の実施態様において、単回の三次用量のみが患者に投与される。他の実施態様において、2つ又はそれ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、又はそれ以上)の三次用量が患者に投与される。
【0163】
複数回二次用量を含む実施態様において、各二次用量は、他の二次用量と同じ頻度で投与され得る。例えば、各二次用量は、直前の投薬の1~2週間後に患者に投与され得る。同様に、複数回三次用量を含む実施態様において、各三次用量は他の三次用量と同じ頻度
で投与され得る。例えば、各三次用量は、直前の投薬の2~4週後に患者に投与され得る。あるいは、二次用量及び/又は三次用量が患者に投与される頻度は、処置計画の間に変化し得る。投与頻度はまた、臨床検査後に個々の患者の必要性に依存して医師による処置の過程の間に調整され得る。
【0164】
抗体の診断上の使用
本発明の抗CD3抗体はまた、例えば診断目的のために、サンプル中のCD3、又はCD3を発現する細胞を検出及び/又は測定するために使用され得る。例えば、抗CD3抗体、又はそのフラグメントは、CD3の異常な発現(例えば、過剰発現、過小発現、発現の欠如など)により特徴づけられる状態又は疾患を診断するために使用され得る。CD3についての例となる診断アッセイは、例えば、患者から得られたサンプルを、本発明の抗CD3抗体と接触させることを含み得、ここで抗CD3抗体は、検出可能な標識又はレポーター分子で標識される。あるいは、非標識抗CD3抗体を、それ自体検出可能に標識される二次抗体と組み合わせて診断適用において使用することができる。検出可能な標識又はレポーター分子は、放射性同位体、例えば3H、14C、32P、35S、もしくは125I;蛍光性もしくは化学発光性の部分、例えばフルオレセインイソチオシアネート、もしくはローダミン;又は酵素、例えばアルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、もしくはルシフェラーゼであり得る。サンプル中のCD3を検出又は測定するために使用され得る具体的な例となるアッセイとしては、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、及び蛍光活性化細胞分類(FACS)が挙げられる。
【0165】
本発明に従うCD3診断アッセイにおいて使用され得るサンプルは、患者から入手可能ないずれかの組織又は流体のサンプルを含み、正常又は病理的状態下で検出可能な量のCD3タンパク質又はそのフラグメントを含有する。一般に、健常患者(例えば、異常なCD3レベル又は活性に関連する疾患又は状態に罹患していない患者)から得られた特定のサンプル中のCD3のレベルは、最初にCD3のベースライン、又は標準的なレベルを確立するために測定される。次いでCD3のこのベースラインレベルを、CD3関連疾患又は状態を有することが疑われる個体から得られたサンプルにおいて測定されたCD3レベルと比較し得る。
【実施例0166】
以下の実施例は、本発明の方法及び組成物を製造及び使用する方法の完全な開示及び記載を当業者に提供するために提示されるものであり、本発明者らが彼らの発明とみなすものの範囲を限定することは意図されない。使用される数字(例えば、量、温度など)に関して正確さを確実にするために努力がなされてきたが、いくらかの実験誤差及び偏差が占めるはずである。そうではないと示されていなければ、部数は質量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、そして圧力は大気圧又は大気圧付近である。
【0167】
実施例1.抗CD3抗体の生成
抗CD3抗体を、VELOCIMMUNE(R)マウス(すなわち、ヒト免疫グロブリン
重鎖及びカッパ軽鎖可変領域をコードするDNAを含む操作されたマウス)を、CD3を発現する細胞又はCD3をコードするDNAで免疫することにより得た。抗体免疫応答を、CD3特異的イムノアッセイによりモニタリングした。所望の免疫応答が達成された場合、脾細胞を採取し、そしてマウス骨髄腫細胞と融合させてそれらの生存能を保存してハイブリドーマ細胞株を形成した。このハイブリドーマ細胞株を、CD3特異的抗体を産生する細胞株を同定するためにスクリーニングし、そして選択した。この技術を使用して、いくつかの抗CD3キメラ抗体(すなわち、ヒト可変ドメイン及びマウス定常ドメインを有する抗体)を得た。さらに、いくつかの完全ヒト抗CD3抗体を、US 2007/0280945A1に記載されるように、骨髄腫細胞への融合なしに抗原陽性B細胞から直
接単離した。
【0168】
この実施例の方法に従って生成された例となる抗CD3抗体の特定の生物学的特性を、以下に示される実施例において詳細に記載する。
【0169】
実施例2.重鎖及び軽鎖可変領域アミノ酸配列及び核酸配列
表1は、本発明の選択された抗CD3抗体の重鎖及び軽鎖可変領域並びにCDRのアミノ酸配列識別子を示す。対応する核酸配列識別子は表2に示される。
【0170】
【表1】
【0171】
【表2】
【0172】
【表3】
【0173】
【表4】
【0174】
【表5】
【0175】
抗体は、典型的には、本明細書において以下の命名に従って言及される:Fc接頭辞(例えば、「H1H」、「H1M」、「H2M」など)、続いて数値識別子(例えば、表1に示されるような「2712」、「2692」など)、続いて「P」、「N」又は「B」の接尾辞。従って、この命名法によれば、抗体は本明細書において、例えば、「H1H2
712N」、「H1M2692N」、「H2M2689N」などと呼ばれ得る。本明細書で使用される抗体名称でのH1H、H1M及びH2Mの接頭辞は、抗体の特定のFc領域アイソタイプを示す。例えば、「H1H」抗体はヒトIgG1 Fcを有し、「H1M」抗体はマウスIgG1 Fcを有し、そして「H2M」抗体はマウスIgG2 Fcを有する(全ての可変領域は、抗体名称において最初の「H」により示されるように完全にヒトである)。当業者には当然のことながら、特定のFcアイソタイプを有する抗体は、異なるFcアイソタイプを有する抗体に変換され得るが(例えば、マウスIgG1 Fcを有する抗体は、ヒトIgG4を有する抗体へと変換され得るなど)、いずれにしても、可変ドメイン(CDRを含む) -表1に示される数値識別子により示される- は同じままであり、そしてFcドメインの性質にかかわらず結合特性は同一であるか実質的に同様であると期待される。
【0176】
以下の実施例において使用される対照構築物
様々な対照構築物(抗CD3抗体)が、比較目的のために以下の実験に含まれた:「OKT-3」、アメリカ培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)(ATCC)からカタログ番号CRL-8001で入手可能なヒトT細胞表面抗原に対するマウスモノクローナル抗体;及び「SP34」、ヒトTリンパ球上のT3複合体のエプシロン鎖に対して反応性の、Biolegend、San
Diego、CA (Cat.No.302914)から得られる市販のマウスモノクローナル抗体。
【0177】
実施例3.表面プラズモン共鳴により導かれたヒトモノクローナル抗CD3抗体の結合親和性及び速度定数
ヒトモノクローナル抗CD3抗体の結合親和性及び速度定数を、抗体捕捉形式(表3、5及び7)又は抗原捕捉形式(表4、6及び8)のいずれかを使用して25℃で表面プラズモン共鳴により決定した。測定はT200 Biacore機器で行った。
【0178】
抗体捕捉形式において、Biacoreセンサー表面を、ハイブリドーマ捕捉のためにウサギ抗マウスFc(抗体接頭辞H1M又はH2M)又はヒトIgG形式の抗体(抗体接頭辞H1H)のためにマウス抗ヒトFc表面で誘導体化した。ヒトFcタグ(hFcΔAdp/hFc;配列番号1372/1373)又はマウスFcタグ(mFcΔAdp/mFc;配列番号1374/1375)のいずれかを有する可溶性ヘテロダイマーCD3タンパク質(hCD3-エプシロン/hCD3-デルタ;配列番号1370/1371)を、抗体が捕捉された表面上に注入し、そして結合応答を記録した。ヘテロダイマーCD3タンパク質を、Davisら(US2010/0331527)に記載される方法を使用して精製した。
【0179】
抗原捕捉形式において、ヘテロダイマーCD3タンパク質を、ウサギ抗マウスFc又はマウス抗ヒトFcを使用して補足し、そしてそれぞれの抗体を捕捉された抗原上に注入した。
【0180】
抗体を、それらの従来の二価形式(表3~6)、又は第二のFabが抗体から除去され、Fc部分(CH2-CH3)のみが発現される一価1アーム構成(表7又は8)で分析した。
【0181】
動力学的結合(ka)及び解離(kd)速度定数を、Scrubber 2.0カーブフィッティングソフトウエアを使用してデータを処理して1:1結合モデルにフィッティングすることにより決定した。結合解離平衡定数(KD)及び解離半減期(t1/2)を動力学的速度定数から以下のように計算した:KD(M)=kd/ka;及びt1/2(分)=(ln2/(60d)。NT=未試験;NB=結合が観察されない。
【0182】
【表6】
【0183】
【表7】
【0184】
【表8】
【0185】
【表9】
【0186】
【表10】
【0187】
【表11】
【0188】
表3~8に示されるように、本発明のいくつかの抗CD3抗体は、抗体捕捉形式又は抗原捕捉形式のいずれかで、高親和性でCD3に結合する。
【0189】
実施例4.抗CD3抗体はヒトT細胞に結合して増殖させる
本発明の抗CD3抗体を、ヒトT細胞に結合してそれらの増殖を誘導するそれらの能力について試験した。結合をJurkat細胞(CD3+ヒトT細胞株)を使用して評価し、末梢血単核細胞(PBMC)の増殖はATP触媒定量(CellTiter Glo(R))を使用して評価した。抗CD3抗体OKT3はポジティブコントロールとして作用し
、そして無関係なアイソタイプの対応する抗体はネガティブコントロールとして作用した。
【0190】
FACSデータを以下のプロトコルを使用して得た:1ウェルあたり2x105個の細
胞を、段階希釈した抗体と共に30分間氷上でインキュベートした。インキュベーション
後に、細胞を洗浄し、そして二次抗体を加え、そしてさらに30分間インキュベートした。インキュベーション後に細胞を洗浄し、1% BSAを含有する冷PBSに再懸濁し、そして生存Jurkat細胞を側方及び前方散乱によりゲーティングしてフローサイトメトリーにより分析した。細胞結合タイトレーションのためのEC50を、4パラメータ非線形回帰分析を使用して計算された値を用いてPrismソフトウエアを使用して決定した。
【0191】
増殖データを以下のプロトコルを使用して得た:ヒトPBMC(5x104/ウェル)
を、抗CD3の3倍段階希釈及び固定濃度の市販の抗CD28抗体(200ng/ml)と共に96ウェルプレートで72時間37℃にてインキュベートした。インキュベーション後に、CellTiter Glo(R)を加え、そして発光をVICTOR X5マル
チラベルプレートリーダー(PerkinElmer)を使用して測定した。細胞生存のEC50(ATP触媒定量)を、GraphPad Prismで4パラメータ非線形回帰分析を使用して計算した。
【0192】
結合及び増殖実験の結果を表9~11にまとめる。
【0193】
【表12】
【0194】
【表13】
【0195】
【表14】
【0196】
表7~9に示されるように、本発明の抗CD3抗体の大部分は、ヒトT細胞に結合し、そしてT細胞増殖を誘導した。
【0197】
実施例5.抗CD3抗体はサルT細胞に結合し増殖させる
本発明の抗CD3抗体のサブセットを、サルT細胞に結合して増殖を誘導する能力について試験した。
【0198】
FACSデータを以下のプロトコルを使用して得た:1ウェルあたり2x105個の細
胞を、段階希釈した抗体と共に30分間氷上でインキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、そして二次抗体を加え、さらに30分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、1%BSAを含有する冷PBSに再懸濁し、そしてフローサイトメトリーにより分析した。CD4+サルT細胞を側方及び前方散乱により、そしてCD2+CD4+CD20-集団でゲーティングした。GraphPad Prismでの4パラメータ非線形回帰分析を使用して、細胞結合タイトレーションのためにEC50を計算した。
【0199】
増殖データを以下のプロトコルを使用して得た:単離したばかりのカニクイザル由来P
BMC(5x104/ウェル)を、抗CD3抗体の3倍段階希釈及び固定濃度の市販の抗
CD28抗体(500ng/ml)抗体とともに96ウェルプレートにて72時間37℃にてインキュベートした。インキュベーション後、CellTiter Glo(R)を加
え、そして発光をVICTOR X5マルチラベルプレートリーダー(PerkinElmer)を使用して測定した。細胞生存のEC50(ATP触媒定量)を、GraphPad Prismで4パラメータ非線形回帰分析を使用して計算した。
【0200】
結合及び増殖実験の結果を表12及び13にまとめる。
【0201】
【表15】
【0202】
【表16】
【0203】
表12及び13に示されるように、本発明のいくつかの抗CD3は、CD2+CD4+サルT細胞に結合し、そしてそれらの増殖を誘導した。OKT3はサルPBMC増殖を駆動しなかったが、SP34はサルPBMCに対して活性であった。
【0204】
実施例6.抗CD3 mAbは腫瘍細胞のT細胞媒介死滅を支持する
Fc/FcR相互作用を介するT細胞媒介死滅をリダイレクトする(redirect)抗CD3抗体の能力を、カルセインベースのU937死滅アッセイを使用して試験した。手短には、ヒトPBMCをFicoll-Paqueで単離し、そしてヒトIL-2(30U/ml)及びT細胞活性化ビーズ(抗CD3/CD28)を含有する媒体を用いて数日間かけて活性化した。U937細胞をカルセインで標識し、次いで活性化T細胞と共に10:1エフェクター:標的比で3倍段階希釈の抗体を使用して3時間かけて37℃でインキュベートした。インキュベーション後に、プレートを遠心分離し、そして上清を蛍光分析のために半透明黒色透明底プレートに移した。50%細胞傷害を誘導するCD3抗体のモル濃度として定義されるEC50値を、GraphPad Prismで4パラメータ非線形回帰分析を使用して計算した。ハイブリドーマ抗体、ヒトFc抗体、及び一価1アーム抗体を使用した結果を表14、15及び16にそれぞれ示す。
【0205】
【表17】
【0206】
【表18】
【0207】
【表19】
【0208】
表14~16に示されるように、大部分の抗CD3抗体に加えてOKT3も、リダイレクトされたT細胞媒介死滅をこのアッセイ系において支持した。隣接するT細胞上のCD3のクラスター形成をもたらすU937細胞上のFc受容体との抗体のFc会合に依存すると考えられている観察された死滅は、非特異的ヒトIgGの添加により抑えられた(データは示していない)。
【0209】
実施例7.CD3及びCD20に結合する二重特異性抗体の生成
抗CD3特異的結合ドメイン及び抗CD20特異的結合ドメインを含む二重特異性抗体を、標準的方法論を使用して構築した。ここでは、抗CD3抗体由来の重鎖及び軽鎖を抗CD20抗体由来の重鎖と組み合わせた。本実施例の二重特異性抗体を構築するために使用された抗CD3抗体は、CD3を発現する細胞もしくはCD3をコードするDNAを用いてVelocImmune(R)マウスを免疫することにより、又はBS3/20-00
7及び-009の場合には公知の抗CD3抗体(すなわち、WO2004/106380に示される抗CD3抗体「L2K」)から得られた。この実施例の二重特異性抗体を構築するために使用された抗CD20抗体は、US7,879,984に示されている。
【0210】
本実施例に従って作製された二重特異性抗体は、2つの別々の抗原結合ドメイン(すなわち、結合アーム)を含む。第一の抗原結合ドメインは、抗CD3抗体由来の軽鎖可変領
域(「CD3-VL」)と対をなした、抗CD20抗体由来の重鎖可変領域(「CD20-VH」)を含む。CD20-VH/CD3-VL対形成は、CD20を特異的に認識する抗原結合ドメインを生じる。第二の抗原結合ドメインは、抗CD3抗体由来の軽鎖可変領域(「CD3-VL」)と対をなした抗CD3抗体由来の重鎖可変領域(「CD3-VH」)を含む。CD3-VH/CD3-VL対形成は、CD3を特異的に認識する抗原結合ドメインを生じる。同じCD20-VHを、この実施例において生成された全ての二重特異性抗体において使用し、そして「CD20-VH-A」と称する(異なるCD20-VHを使用した「CD20-VH-B」と呼ばれるBS3/20-009を除く)。しかし、いくつかの異なるCD3-VH及びCD3-VL成分(CD3-VH-A、CD3-VH-Bなど、及びCD3-VL-A、CD3-VL-Bなどと呼ばれ、異なる 抗CD3抗体由来である)を、以下の実施例の異なる二重特異性抗体において使用した。
【0211】
この実施例に従って作製された様々な二重特異性抗体の抗原結合ドメインの構成部分の要約を表17に示す。
【0212】
【表20】
【0213】
表18及び19は、この実施例の二重特異性抗体の様々な重鎖可変領域(表18)及び軽鎖可変領域(表19)並びにそれらの対応するCDRのアミノ酸配列識別子を示す。
【0214】
【表21】
【0215】
【表22】
【0216】
さらに、表20及び21は、この実施例の二重特異性抗体の重鎖可変領域(表20)及び軽鎖可変領域(表21)、並びにそれらの対応するCDRをコードするヌクレオチド配列についての配列識別子を示す。
【0217】
【表23】
【0218】
【表24】
【0219】
上記の二重特異性抗体に加えて、以下の対照抗体も以下の実施例において示されるいくつかの実験において使用した:
対照I:US4,361,549において示され、そしてハイブリドーマCRL-8001(アメリカ培養細胞系統保存機関、Manassas、VA)から入手可能な、ヒトT細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体「OKT-3」。
対照II:BD Pharmagen、カタログ番号55052から入手可能な、ヒトTリンパ細胞上のT3複合体のエプシロン鎖に対して反応性の抗体「SP34」。
対照III:US5,736,137に開示されるリツキサン(リツキシマブ)の重鎖及び軽鎖配列を有する抗CD20治療用抗体。
対照IV:US7,879,984に開示され、そして配列番号1242/1346のHCVR/LCVRアミノ酸配列対及び配列番号1244-1246-1248-1348-1350-1352のHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列を含む抗体として本明細書において示される、「3B9-10」と称されるモノクローナル抗CD20抗体。
対照V:US 7,879,984に開示され、そして配列番号1354/1362のHCVR/LCVRアミノ酸配列対及び配列番号1356-1358-1360-1364-1366-1368のHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列を含む抗体として本明細書に示される、「10F2-13」と称されるモノクローナル抗CD20抗体。
【0220】
実施例8.CD20xCD3二重特異性抗体はJurkat、Raji及びサルT細胞に選択的に結合する
実施例1に示される、CD20xCD3二重特異性抗体及び対照構築物を、Jurkat(CD3+、CD20-ヒトT細胞株)、Raji(CD3-、CD20+ヒトB細胞株)、又はカニクイザルPBMC(「mkT細胞」)に結合するそれらの能力についてFACSにより試験した。
【0221】
FACSデータを以下のプロトコルを使用して得た:細胞を1ウェルあたり2x105
で、段階希釈した抗体と共に30分間氷上でインキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、そして適切な二次(Jurkat、RAJI細胞)又は二次抗体のカクテル(カニクイザルPBMCのため)を加え、さらに30分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、1% BSAを含有する冷PBSに再懸濁し、そしてBD FACS Canto IIでフローサイトメトリーにより分析した。Jurkat及びRaji細胞を側方及び前方散乱によりゲーティングし、カニクイザルT細胞はCD2+CD4+集団でもゲーティングした。細胞結合タイトレーションのためのEC50を、Prismソフトウエアを使用して4パラメータ非線形回帰分析を使用して計算された数値を用いて決定した。結果を表22に示す。
【0222】
【表25】
【0223】
表22に示されるように、試験した抗体のパネルは、それらの特異性に依存して、様々な細胞株に関する様々な結合親和性を示す。二重特異性抗体(BS3/20-001、-002、-003、-004及び-005)は、両方のヒト標的系統に結合する能力を示した。抗体のサブセットはまた、カニクイザル細胞(対照II、BS3/20-001及びBS3/20-003)に結合する能力を示した。抗CD3対照I(OKT3)、抗CD3対照II(SP34)、及び抗CD20対照IVは、Jurkat、カニクイザルT細胞、及びRAJIにそれぞれ結合した。
【0224】
実施例9.CD20xCD3二重特異性抗体はインビトロでPBMC増殖を誘導する
選択されたCD20xCD3二重特異性抗体及び対照構築物の末梢血単核球(PBMC)を刺激して増殖を誘導する能力を、ATP触媒定量(CellTiter Glo(R)
)を使用して評価した。PBMCの活性化はサイトカインの放出を生じ、これが細胞増殖を駆動する。
【0225】
増殖データは以下のプロトコルを使用して得られた:ヒト又はカニクイザル由来のPBMC(5x105/ウェル)を、抗CD3xCD20又は対照抗体の3倍段階希釈ととも
に96ウェルプレートで72時間37℃にてインキュベートした。インキュベーション後、CellTiter Glo(R)を加え、そして発光をVICTOR X5マルチラベ
ルプレートリーダー(PerkinElmer)を使用して測定した。細胞生存のEC50(ATP触媒定量)をPrismソフトウエアを使用して決定した。値を4パラメータ非線形回帰分析を使用して計算し、表23に示す。
【0226】
【表26】
【0227】
表23に示されるように、本発明の全てのCD20xCD3二重特異性抗体は、ヒト又はカニクイザルPBMCの活性化因子であった。一般に、抗CD3単一特異的二価親抗体(対照(Contros)I及びII)は、二重特異性の同等物より2~10倍強力であった。対照I(OKT3)はサルPBMC増殖を駆動しなかったが、対照II(SP34)はヒト及びサルPBMCの両方に対して活性であった。
【0228】
実施例10.CD20xCD3二重特異性抗体は、ヒト全血においてT細胞を活性化し、IFN-ガンマ放出及びCD25上方調節を誘導する
選択されたCD20xCD3二重特異性抗体を、ヒト全血においてT細胞を活性化するそれらの能力について試験した。T細胞活性化の程度を、インターフェロン-ガンマ(IFNγ)分泌、さらにはCD8+T細胞でのCD25の上方調節を測定することにより決定した。
【0229】
インターフェロン-ガンマ(IFNγ)分泌を、ヘパリン化された全血を5倍段階希釈の二重特異性抗体と96ウェルプレートで混合することにより定量した。20時間後、プレートを5分間遠心分離し、そして血漿をELISA分析のために取り出してIFNγレベルを決定した。推定IFNγ濃度を抗体濃度に対してプロットし、そしてEC50値をPrismソフトウエアを使用して4パラメータ非線形回帰分析を使用して計算した。
【0230】
CD8+ T細胞でのCD25発現の分析のために、抗体とのインキュベーション及び血漿の除去の後に、血液150μlをディープウェルプレートに移し、そして1.5mL
RBC溶解緩衝液を用いて15分間溶解した。細胞を2回洗浄し、室温でhFcRブロッキング試薬を用いて10分間ブロックし、次いで30分間4℃でCD2、CD19、CD4、CD8、及びCD25に直接結合された抗体と共にインキュベートした。次に、細胞を2回洗浄した後、FACSCanto血球計算器及びFlowJoソフトウエアを用いて分析した。
【0231】
活性化マーカーCD25を発現しているCD2+CD8+T細胞のパーセンテージを抗体濃度に対してプロットし、そしてEC50値を4パラメータ非線形回帰分析を使用してPrismソフトウエアを使用して計算した。結果を表24に示す。
【0232】
【表27】
【0233】
表24に示されるように、CD20xCD3二重特異性抗体は、130~290pMの範囲に及ぶEC50値で、全血においてCD8+ T細胞上のCD25の上方調節を媒介し、IFNγについての対応するEC50値はわずかに高い390pM~2nMの範囲であった。BS3/20-004は、EC50により決定してCD25上方調節及びIFNγ産生の媒介において次いで(then)わずかに低い効力のBS3/20-001及びBS3/20-003であったが、BS3/20-004は全血培養においてより高いレベルのIFNγを誘導することができた。
【0234】
実施例11.CD20xCD3二重特異性抗体は、リツキシマブ抵抗性細胞株でT細胞媒介細胞傷害を誘導する
選択されたCD20xCD3二重特異性抗体及び対照構築物の補体依存性細胞傷害(CDC)及びT細胞媒介細胞傷害を媒介する能力を、親Raji細胞及びRaji SCID系統を使用して評価した。後者(Raji SCID系統)は、抗CD20 mAbリツキシマブでの処置の後にRaji細胞を皮下注射された免疫不全マウスから単離された個々の抗CD20抵抗性腫瘍由来であった。4つの系統(Raji SCID 1~4)をこの実施例において使用した。
【0235】
Raji細胞株でのCD20並びに補体阻害性分子CD55及びCD59の発現をFACSにより決定した。手短には、1x106個の細胞を、個々のチューブで30分間、C
D20、CD55及びCD59に直接結合された抗体と共にインキュベートした。細胞を2回洗浄した後、FACSCanto血球計算器によりFACSを得、そしてFlowJoソフトウエアで分析した。
【0236】
抗CD20及び抗CD3xCD20抗体のRaji細胞株のT細胞指向性(directed)死滅を媒介する能力を決定するために、カルセイン標識Raji細胞を、予め活性化した(pre-activated)T細胞(rhIL-2(30U/mL)及び抗CD3/CD28活性化ビーズで活性化されたフィコール単離ヒトPBMC)及び2nMから始めた抗体の3倍段階希釈と共に2時間37℃にてインキュベートした。インキュベーション後、プレートを遠心分離し、そして上清を485nm発光での530nm蛍光検出のために半透明黒色透明底プレートに移した。細胞傷害パーセントを、自発的(標的細胞のみ)及び最大の放出(界面活性剤で溶解された標的細胞)値に基づいて決定した。EC50値を4パラメータ非線形回帰分析を使用してPrismソフトウエアを使用して計算した。
【0237】
抗体のCDCを媒介する活性を決定するために、Raji細胞株を5%正常ヒト血清補体及び抗体の100nMから始める3倍段階希釈と共にインキュベートした。4.5時間37℃でのインキュベーション後に、CellTiter Glo(R)を使用して細胞死
を決定した。細胞傷害パーセントを、自発的(標的細胞のみ)及び最大放出(界面活性剤
で溶解した標的細胞)値に基づいて決定した。EC50値を、4パラメータ非線形回帰分析を使用してPrismソフトウエアを使用して計算した。
【0238】
結果を表25に示す。
【0239】
【表28】
【0240】
親Raji細胞と比較して、4つのRaji SCID系統のうち2つがCD20の減少した発現を示し(表25;系統Raji SCID 1及び3)、有意に高いパーセンテージの細胞が補体阻害性分子CD55及びCD59を発現した。抗CD20又は抗CD20xCD3抗体のいずれかにより媒介されるCDCに対するRaji SCID細胞の感受性は、CD55/CD59発現細胞のパーセンテージに依存したが、CD20のレベルではなく、その結果、標的細胞上のCD55/CD59の増加した発現がCDCを阻害した。
【0241】
抗CD20抗体(対照IV及び対照III[リツキシマブ])は、二重特異性はCD20について一価であるので、CDCの媒介において抗CD20xCD3(BS3/20-007)より強力であった。しかし、全ての細胞株は、抗CD20xCD3二重特異性抗体の存在下での活性化T細胞による細胞死に対して等しく感受性であったので、CDCと対照的に、T細胞媒介細胞傷害は、CD20レベルにもCD55/CD59にも依存しなかった。さらに、二重特異性抗体は、CDCアッセイにおいて抗CD20抗体よりもRaji細胞のT細胞依存死滅の媒介において100~1000倍強力であった。
【0242】
実施例12.CD8+T細胞でのCD25上方調節は、CD20xCD3二重特異性抗体の存在下の場合、CD20濃度に依存する
より高い濃度の標的細胞(CD20+リンパ腫)がCD20xCD3二重特異性抗体の増加した効力をもたらすかどうかを評価するために、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を、バーキットリンパ腫由来細胞株、すなわちRajiの存在下で共培養した。
【0243】
CD8+T細胞でのCD25上方調節を以下のプロトコルを使用して決定した:Ficollでの単核細胞濃縮白血球除去由来血液の遠心分離により単離されたヒトPBMC(5x105/mL)を、Raji細胞の存在下(1x105/mL)又は存在しない場合に、37℃で96ウェル平底プレートにて二重特異性抗体の5倍段階希釈と共にインキュベートした。48時間後、細胞を2回洗浄し、室温にてhFcRブロッキング試薬を用いて
10分間ブロックし、次いでCD2、CD19、CD4、CD8、及びCD25に直接結合された抗体と共に30分間4℃でインキュベートした。染色後、細胞を2回洗浄した後、FACSCanto血球計算器によりFACSを得、そしてFlowJoソフトウエアにより分析した。CD25を発現する活性化CD2+CD8+ T細胞のパーセンテージを抗体濃度に対してプロットし、そしてEC50値を、4パラメータ非線形回帰分析を使用してPrismソフトウエアを使用して計算した。結果を表26に示す。
【0244】
【表29】
【0245】
表26に示されるように、Raji(標的)細胞の存在下で培養された場合の活性化T細胞はCD25の上方調節、及びの後それらのEC50値の100倍の減少を示した。
【0246】
実施例13.CD20xCD3二重特異性抗体は、活性化T細胞の存在下にてRaji細胞に対する細胞傷害を誘導する
T細胞媒介死滅をCD20発現Raji細胞へリダイレクトするCD20xCD3二重特異性抗体の能力を、インビトロ細胞傷害アッセイにおいて試験した。さらに、Fc/FcR相互作用によりU937細胞を死滅させる二重特異性及び親抗CD3抗体の両方の能力も調べた。
【0247】
カルセイン死滅アッセイを以下のプロトコルを使用して行った:ヒト及びカニクイザルPBMCを、それぞれficoll-Plaqueで又はLympholyte Mammal細胞分離媒体により単離した。単離されたPBMCを、組換えヒトIL-2(30U/ml)及びT細胞活性化ビーズ(ヒトPBMCに抗CD3/CD28、カニクイザルPBMCには抗CD2/CD3/CD28)を含有する媒体を用いて数日の間に活性化した。
【0248】
標的細胞(CD20媒介死滅のためにRaji、及びFcR媒介死滅のためにU937)をカルセインで標識し、そして活性化T細胞と共に10:1エフェクター:標的比で抗体の3倍段階希釈を使用して3時間37℃にてインキュベートした。インキュベーション後に、プレートを遠心分離し、そして蛍光分析のために上清を半透明黒色透明底プレートに移した。50%の細胞傷害を誘導する二重特異性抗体のモル濃度として定義されるEC50をPrismを使用して決定した。値を4パラメータ非線形回帰分析を使用して計算した。結果を表27にまとめる。
【0249】
【表30】
【0250】
表27に示されるように、ヒト特異性又はヒト/カニクイザル交差反応性抗CD3アームを含有する二重特異性CD20xCD3抗体は、ヒト活性化T細胞の存在下で細胞傷害性をRaji細胞に特異的にリダイレクトすることができた。カニクイザル活性化T細胞の存在下で、サルT細胞を活性化する抗CD3アームを有する二重特異性抗体であるBS3/20-001又はBS3/20-003と共にインキュベートした場合に、Rajiは死滅した。全ての二重特異性抗体に加えて対照I、抗CD3 mAbも、U937 Fc/FcR依存性死滅アッセイにおいて活性を示した。ブロッキング非特異的ヒトIgGを反応に加えることによりこの活性をブロックすることができた(データは示していない)。
【0251】
実施例14.CD3xCD20二重特異性抗体は、ヒト免疫細胞で再構成されたマウスにおいてCD19+ B細胞を枯渇させ得る
CD3xCD20二重特異性抗体投与のインビボ有効性を決定するために、CD19+
B細胞及びCD2+ T細胞レベルの変化を、ヒト免疫細胞で再構成されたマウスに抗CD3xCD20二重特異性抗体10μg又は0.1μgを投与した後、FACSにより調べた。
【0252】
手短には、新生仔BALB/Rag2null/(c nullマウスを、2x150ラドで照射し、そして4x105 ヒトCD34+造血前駆細胞を用いて肝臓内注射により再構成した。12週後に、末梢血において再構成したヒト免疫系の組成をフローサイトメトリーにより決定した。典型的には再構成の3ヶ月後までに、10%~60%パーセントの間の抹消白血球がヒトCD45+であり、その40%~70%がB細胞であり、15%~40%はT細胞であり、そして残りはナチュラルキラー細胞及び樹状細胞の小集団であった。
【0253】
再構成の5ヶ月後に、マウスに、抗CD3xCD20二重特異性抗体BS3/20-007を10μgもしくは0.1μg、一価1アームCD3抗体(BS3/20-009、表1を参照のこと)を10μg、又は無関係のhIgGアイソタイプコントロールを10μg腹腔内注射した。注射の1、8、及び25日後に、後眼窩出血させ、そして末梢血中の免疫細胞個数をフローサイトメトリー(FACS)により決定した。
【0254】
FACS分析のために、血液100μlを1.5ml RBC溶解緩衝液と共にEppendorfチューブ中で3分間インキュベートした。細胞を5分間0.4xgで遠心分離し、2回FACS洗浄液(PBS+3%FBS)で洗浄し、そして室温でマウスFcブロッキング試薬を用いて10分間ブロックした。次いで細胞を30分間4℃で、CD2、CD3、CD19、CD4、CD8、hCD45、hHLA-DR、及びmCD45に直
接結合した抗体と共にインキュベートした。染色後、細胞を2回洗浄した後、FACSCanto血球計算器によりFACSを取得し、FlowJoソフトウエアで解析した。結果を表28に示す。
【0255】
【表31】
【0256】
表28に示されるように、抗CD3xCD20二重特異性抗体BS3/20-007の10μg単回用量は、2匹の処置されたマウスのうち2匹において循環hCD45+細胞の消失を生じ、これらは実験全体にわたって回復しなかった。BS3/20-007の0.1μg単回用量は、循環hCD45+細胞(CD19+ B細胞及びCD2+ T細胞を含む)を3匹の処置されたマウスのうち2匹において注射の24時間後に減少させた。一旦枯渇すると、hCD45+細胞のパーセンテージは、0.1μg BS3/20-007で処置された応答するマウスにおいて有意に回復しなかった。しかし、これらのマウスにおいて残った細胞は主にhCD2+ T細胞であり、CD19+ B細胞は処置後25日目でさえ応答マウスにおいて存在しなかった。単回10μg用量の一価1アームCD3抗体(BS3/20-009)はまた、2匹の処置されたマウスのうち2匹において、CD45+細胞、特にCD2+ T細胞において持続性であるが穏やかな減少を生じた。単回10μg用量の無関連hIgG1対照は、循環hCD45+、hCD19+、又はhCD2+細胞のパーセンテージに対して有意な効果を有していなかった。
【0257】
実施例15.CD20xCD3二重特異性抗体での処置は、NOD/SCIDマウスにおいてRaji腫瘍体積を減少させる
選択された抗CD3xCD20二重特異性抗体のRaji腫瘍増殖の減少における有効性を評価するために、NOD/SCIDマウス(Taconic)に2x106個のRa
ji腫瘍細胞及び8x106個のヒトPBMCの混合物を皮下移植した。ヒトFc(hF
c)又はCD3xCD20二重特異性抗体(BS3/20-007)のいずれかでマウスあたり1μgの用量で腫瘍移植の日から開始して週に3回マウスを処置した(処置群あたりN=20マウス)。試薬は腹腔内(i.p.)注射により送達した。腫瘍サイズをノギ
スを使用して週あたり3回測定し、そして腫瘍体積を体積=(長さx幅2)/2として計
算した。結果を図1に示す。
【0258】
第二の実験において、NOD/SCIDマウスに、2x106個のRaji腫瘍細胞及
び4x106個のヒトPBMCの混合物を皮下移植した。CD3xCD20二重特異性抗
体(BS3/20-007)又は対照試薬(hFc)での処置は、腫瘍が触知可能になるように腫瘍移植の7日後に開始した。マウスを、週に2回マウスあたり1μgの用量で処置した(処置群あたりN=6マウス)。試薬を腫瘍移植部位から離して皮下注射した。腫瘍サイズを週に2回ノギスを使用して測定し、そして腫瘍体積を体積=(長さx幅2)/
2として計算した。結果を図2に示す。
【0259】
この実施例は、CD3xCD20二重特異性抗体BS3/20-007での処置が、腫瘍移植及び一旦腫瘍が樹立された両方の時点で腫瘍増殖の阻害において有効であったことを実証する。マウスにおける腫瘍体積は、両方の研究において対照と比較して移植25日後に減少した。
【0260】
実施例16.CD20xCD3二重特異性抗体は、カニクイザルにおいてB細胞数を枯渇させ、モノクローナル抗体に典型的な薬物動態プロフィールを有する
パイロット非GLP毒性学及び薬理学研究をカニクイザル(Macaca fascicularis)において行い、CD3xCD20二重特異性抗体のこれらの動物においてB細胞数を枯渇させる能力を決定した。雄性動物で3つのコホートを編成した。コホート1には二重特異性抗体BS3/20-001を投与し、3つの異なる用量群(0.01、0.10及び1.00mg/kg)を含み、用量群あたり3~4匹の動物であった。コホート2は2匹の動物のコホートであり、低用量の抗CD20対照抗体(対照V;0.01mg/kg)を投与した。コホート3は4匹の動物のコホートであり、高用量の抗CD20対照抗体(対照III;1.0mg/kg)を投与した。これらの動物におけるB細胞及びT細胞についてのベースラインレベルを確立するために-7日目及び投薬直前に採血した。0.01、0.10、又は1.00mg/kgでの薬物用量を静脈内(i.v.)注入により投与し、投薬の5分後、5時間後、並びに1、4、7、及び14日後に採血した。投薬後14日目の後、研究の終わりまで2週ごとに採血した。血液サンプルをFACSによりB細胞及びT細胞マーカーについて分析し、そしてこれらの細胞型の絶対数を決定した。血清サンプルもまた、標準的な分析方法を使用してサイトカインレベル(IFNγ、IL-2、IL-6及びTNFα)について分析した。結果を図3(B細胞)、図4(T細胞)、及び図5A~5D(サイトカイン)に示す。
【0261】
この実施例に示されるように、CD3xCD20二重特異性抗体の投与は、測定した最初の時点(1日目)までに循環B細胞のベースラインレベルまでの枯渇を生じた。この枯渇は、対照動物コホートでは見られなかった。二重特異性コホートにおけるB細胞枯渇は、投与の2週後まで維持され、そして0.01及び0.10mg/kg用量コホートでは、その後、投与後約11週に実験が終了するまでB細胞レベルが徐々に回復した。しかし、1.0mg/kgコホートにおいて、実験期間の間(11週)、B細胞レベルの回復は見られなかった。T細胞レベルもまたこの実験においてモニタリングした。循環T細胞の一次的な減少が二重特異性コホートにおいて投薬後1日目に観察された。T細胞レベルは、これらのコホートにおいて4日目の時点でベースラインレベルに戻り、そして実験の終わりまでそれらのベースラインレベルで維持された。さらに、5時間でのBS3/20-001についての血清サイトカインレベルは、T細胞活性化と一致する用量依存性かつ時間依存性の応答を示した(図5A~5Dを参照のこと)。
【0262】
末梢血における遺伝子発現レベルもまたこの実験の間に分析した。血液サンプルを、2回の投薬前の(pre-dose)時点(投薬7日前及び投薬直前)並びに投薬の5、2
4、72、96、及び168時間後に動物から得た。これらのサンプルからRNAを単離し、マイクロアレイで分析した。投薬前レベル及び対照群からの遺伝子発現レベルと比較した場合、二重特異性抗体で処置された動物におけるB細胞マーカーの遺伝子発現の顕著な減少が観察された;この効果は1.0mg/kg対照III(リツキシマブに対応する抗CD20抗体)で処置された動物から得られたサンプルにおいて観察された効果に類似していた。B細胞マーカー発現の観察された変化は、処置された動物の血液において検出されたB細胞の減少に対応する。CD3xCD20二重特異性抗体で処置された動物由来のサンプルにおけるT細胞マーカー遺伝子の発現は、初期減少を示し、その後、24時間の時点までに正常レベルへの回復を示した。さらに、炎症応答に関連する遺伝子は、二重特異性コホートの動物において初期上方調節を示したが、24時間後には正常又は正常を下回るレベルまで戻った。最後に、CD20遺伝子発現シグナルの未加工強度の調査は、B細胞のより大きな枯渇が、対照抗CD20抗体よりもCD3xCD20二重特異性抗体での動物の処置から生じるということを示唆する(図6及び表29を参照のこと)。
【0263】
【表32】
【0264】
表29に示されるように、投薬の7日後に、CD20シグナルの未加工強度はCD3xCD20動物の1つを除く全てにおいてバックグラウンドレベルのままであったが、1mg/kgの対照IIIで処置された4匹の動物のうち3匹がわずかな、又は検出可能ないずれかのCD20シグナルレベルを示した。
【0265】
同じ実験において、二重特異性抗体の薬物動態プロフィール(図7)を、投薬前並びに0.083、5、24、48、72、168、336、504及び840時間の時点で血液サンプルを得ることにより評価した。結果として得られた血清サンプルを、直接酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)により分析して、総二重特異性抗体の濃度を決定した。血清総二重特異性(BS3/20-001)濃度データを、非コンパートメント解析(Phoenix WinNonLin)により解析して、薬物動態パラメータを決定した。結果を表30に示す(AUC=曲線下面積 対 時間;Cmax=目的のマトリックス中に
観察された化合物の最大濃度)。
【0266】
【表33】
【0267】
カニクイザルにおける0.01、0.10又は1.0mg/kgのBS3/20-001の単回静脈内用量の後、それぞれ0.261、2.32及び33.4μg/mLの平均ピーク濃度(Cmax)が、最初のサンプリングの時点(0.083時間)に観察された。
4.42、289及び4940μg時間/mLの平均AUCall値が、0.01、0.
1及び1.0mg/kgの用量で観察された。1mg/kgあたり442、2890及び4940μg時間/mLの用量正規化AUC値(AUCall/用量)は、血漿曝露(A
UCall)が、用量の増加とともに非線形様式で増加するということを示す。血漿薬物曝
露の比例よりも高い増加が、抗体用量の増加に伴って観察され、BS3/20-001が標的媒介クリアランスを受けているかもしれないということを示唆した。BS3/20-001の全体の薬物動態プロフィールは、カニクイザルに投薬されるモノクローナル抗体に典型的なものである。
【0268】
本発明は、本明細書に記載される特定の実施態様による範囲に限定されるべきではない。実際に、本明細書に記載されたものに加えて本発明の様々な改変は、前述の記載及び添付の図面から当業者に明らかとなるだろう。このような改変は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図6
図7
【配列表】
2024109678000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-06-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD3に結合し、そしてインビトロで約0.33pM未満のEC50でヒトT細胞増殖を誘導する、単離された抗体又はその抗原結合フラグメント。


【外国語明細書】