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特開2024-109679情報処理装置、制御方法、プログラム及び記憶媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109679
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】情報処理装置、制御方法、プログラム及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/28 20060101AFI20240806BHJP
   G01S 17/931 20200101ALI20240806BHJP
【FI】
G01C21/28
G01S17/931
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024078323
(22)【出願日】2024-05-14
(62)【分割の表示】P 2022568188の分割
【原出願日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2020202734
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520001073
【氏名又は名称】パイオニアスマートセンシングイノベーションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正浩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅美
(57)【要約】
【課題】位置推定精度の低下を好適に防止することが可能な情報処理装置を提供する。
【解決手段】車載機1のコントローラ13は、車両の第1候補位置であるDR位置XDRを取得する。また、コントローラ13は、車両に設けられた外界センサであるライダ2が出力する点群データと地図データであるボクセルデータVDとの照合であるNDTスキャンマッチングに基づき決定した車両の第2候補位置であるNDT位置XNDTを取得する。さらに、コントローラ13は、NDTスキャンマッチングの信頼度を表す信頼度値NRVを算出する。そして、コントローラ13は、DR位置XDRと、NDT位置XNDTと、信頼度値NRVとに基づき、推定自車位置X^を決定する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の第1候補位置を取得する第1候補位置取得手段と、
前記移動体に設けられた外界センサの出力に基づくデータと地図データとの照合に基づき決定した前記移動体の第2候補位置を取得する第2候補位置取得手段と、
前記照合の信頼度を表す信頼度値を算出する信頼度値算出手段と、
前記第1候補位置と、前記第2候補位置と、前記信頼度値とに基づき、前記移動体の推定位置を決定する推定位置決定手段と、
を有し、
前記データは、点群データであり、
前記地図データは、単位領域であるボクセルごとの物体の位置を表すボクセルデータを含み、
前記点群データを構成する計測点と前記ボクセルの各々との対応付けを行う対応付け手段を更に有し、
前記信頼度値算出手段は、前記点群データを構成する計測点の数に対する、前記対応付けがなされた前記計測点の数の比率である対応付け比率に少なくとも基づき、前記信頼度値を算出する、情報処理装置。
【請求項2】
前記信頼度値算出手段は、前記対応付け比率と、前記照合の適合度合いを示すスコア値と、に少なくとも基づき、前記信頼度値を決定する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記データは、前記外界センサが出力した点群データである第1点群データに対してダウンサンプリングが行われた点群データである第2点群データであり、
前記信頼度値算出手段は、前記対応付け比率と、前記ダウンサンプリングのサイズ又は前記第1点群データの計測点数と、に基づき、前記信頼度値を算出する、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記信頼度値算出手段は、前記対応付け比率と、前記外界センサが出力した点群データである第1点群データに対して行われるダウンサンプリングのサイズ又は前記第1点群データの計測点数と、前記照合の適合度合いを示すスコア値と比例関係又は正の相関を有する値を、前記信頼度値として算出する、請求項1~3のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記推定位置決定手段は、前記信頼度値に基づき重み付けがなされた、前記第1候補位置と、前記第2候補位置との重み付き平均により、前記推定位置を決定する、請求項1~4のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記推定位置決定手段は、前記信頼度値を0から1の値に正規化した信頼度指標を前記第2候補位置の重みとして算出する、請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記第1候補位置取得手段は、デッドレコニングにより定めた前記移動体の位置を、前記第1候補位置として取得する、請求項1~6のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
コンピュータが実行する制御方法であって、
移動体の第1候補位置を取得し、
前記移動体に設けられた外界センサの出力に基づくデータと地図データとの照合に基づき決定した前記移動体の第2候補位置を取得し、
前記照合の信頼度を表す信頼度値を算出し、
前記第1候補位置と、前記第2候補位置と、前記信頼度値とに基づき、前記移動体の推定位置を決定し、
前記データは、点群データであり、
前記地図データは、単位領域であるボクセルごとの物体の位置を表すボクセルデータを含み、
前記点群データを構成する計測点と前記ボクセルの各々との対応付けを行い、
前記点群データを構成する計測点の数に対する、前記対応付けがなされた前記計測点の数の比率である対応付け比率に少なくとも基づき、前記信頼度値を算出する、
制御方法。
【請求項9】
移動体の第1候補位置を取得し、
前記移動体に設けられた外界センサの出力に基づくデータと地図データとの照合に基づき決定した前記移動体の第2候補位置を取得し、
前記照合の信頼度を表す信頼度値を算出し、
前記第1候補位置と、前記第2候補位置と、前記信頼度値とに基づき、前記移動体の推定位置を決定する処理をコンピュータに実行させ、
前記データは、点群データであり、
前記地図データは、単位領域であるボクセルごとの物体の位置を表すボクセルデータを含み、
前記点群データを構成する計測点と前記ボクセルの各々との対応付けを行う対応付け手段を更に有し、
前記信頼度値算出手段は、前記点群データを構成する計測点の数に対する、前記対応付けがなされた前記計測点の数の比率である対応付け比率に少なくとも基づき、前記信頼度値を算出する、
プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムを記憶した記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、位置推定に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レーザスキャナなどの計測装置を用いて計測した周辺物体の形状データを、予め周辺物体の形状が記憶された地図情報と照合(マッチング)することで、車両の自己位置を推定する技術が知られている。例えば、特許文献1には、空間を所定の規則で分割したボクセル中における検出物が静止物か移動物かを判定し、静止物が存在するボクセルを対象として地図情報と計測データとのマッチングを行う自律移動システムが開示されている。また、特許文献2には、ボクセル毎の静止物体の平均ベクトルと共分散行列とを含むボクセルデータとライダが出力する点群データとの照合により自車位置推定を行うスキャンマッチング手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2013/076829
【特許文献2】国際公開WO2018/221453
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2のように、ボクセルデータとライダが出力する点群データとの照合により自車位置推定を行う場合、限られた処理時間で行うために解の探索は有限回数となるが、この場合、求められた解が局所解となり最適解でないことがある。特に、周辺が疎な空間、特徴変化に乏しい空間、又は他車両等の障害物によるオクルージョンが発生する空間で計測を行う場合には、局所解に陥る可能性が高くなる。そして、局所解に基づく位置を推定結果として出力した場合、位置推定精度が低下することになる。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、位置推定精度の低下を好適に防止することが可能な情報処理装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項に記載の発明は、
移動体の第1候補位置を取得する第1候補位置取得手段と、
前記移動体に設けられた外界センサの出力に基づくデータと地図データとの照合に基づき決定した前記移動体の第2候補位置を取得する第2候補位置取得手段と、
前記照合の信頼度を表す信頼度値を算出する信頼度値算出手段と、
前記第1候補位置と、前記第2候補位置と、前記信頼度値とに基づき、前記移動体の推定位置を決定する推定位置決定手段と、
を有し、
前記データは、点群データであり、
前記地図データは、単位領域であるボクセルごとの物体の位置を表すボクセルデータを含み、
前記点群データを構成する計測点と前記ボクセルの各々との対応付けを行う対応付け手段を更に有し、
前記信頼度値算出手段は、前記点群データを構成する計測点の数に対する、前記対応付けがなされた前記計測点の数の比率である対応付け比率に少なくとも基づき、前記信頼度値を算出する、情報処理装置である。
【0007】
また、請求項に記載の発明は、
コンピュータが実行する制御方法であって、
移動体の第1候補位置を取得し、
前記移動体に設けられた外界センサの出力に基づくデータと地図データとの照合に基づき決定した前記移動体の第2候補位置を取得し、
前記照合の信頼度を表す信頼度値を算出し、
前記第1候補位置と、前記第2候補位置と、前記信頼度値とに基づき、前記移動体の推定位置を決定し、
前記データは、点群データであり、
前記地図データは、単位領域であるボクセルごとの物体の位置を表すボクセルデータを含み、
前記点群データを構成する計測点と前記ボクセルの各々との対応付けを行い、
前記点群データを構成する計測点の数に対する、前記対応付けがなされた前記計測点の数の比率である対応付け比率に少なくとも基づき、前記信頼度値を算出する、
制御方法である。
【0008】
また、請求項に記載の発明は、
移動体の第1候補位置を取得し、
前記移動体に設けられた外界センサの出力に基づくデータと地図データとの照合に基づき決定した前記移動体の第2候補位置を取得し、
前記照合の信頼度を表す信頼度値を算出し、
前記第1候補位置と、前記第2候補位置と、前記信頼度値とに基づき、前記移動体の推定位置を決定する処理をコンピュータに実行させ、
前記データは、点群データであり、
前記地図データは、単位領域であるボクセルごとの物体の位置を表すボクセルデータを含み、
前記点群データを構成する計測点と前記ボクセルの各々との対応付けを行う対応付け手段を更に有し、
前記信頼度値算出手段は、前記点群データを構成する計測点の数に対する、前記対応付けがなされた前記計測点の数の比率である対応付け比率に少なくとも基づき、前記信頼度値を算出するプログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】運転支援システムの概略構成図である。
図2】車載機の機能的構成を示すブロック図である。
図3】ダウンサンプリング処理部の機能ブロックの一例を示す。
図4】自車位置推定部が推定すべき自車位置を2次元直交座標で表した図である。
図5】ボクセルデータの概略的なデータ構造の一例を示す。
図6】自車位置推定部の機能ブロックの一例である。
図7】ワールド座標系における2次元平面上での、ボクセルデータが存在するボクセルとこれらのボクセル付近の位置を示す計測点との位置関係を示す。
図8】NDT信頼度指標の算出式の各々の特性を表すグラフである。
図9】車載機を搭載する車両周辺の俯瞰図を示す。
図10】デッドレコニングの誤差分布とNDTスキャンマッチングの誤差分布とを示したグラフである。
図11】自車位置推定に関する処理の手順を示すフローチャートの一例である。
図12】第1のライダによる比較例に係る自己位置推定結果を示す。
図13】第1のライダによる比較例に係る自己位置推定結果を示す。
図14】第1のライダによる実施例に係る自己位置推定結果を示す。
図15】第1のライダによる実施例に係る自己位置推定結果を示す。
図16】第2のライダによる比較例に係る自己位置推定結果を示す。
図17】第2のライダによる比較例に係る自己位置推定結果を示す。
図18】第2のライダによる実施例に係る自己位置推定結果を示す。
図19】第2のライダによる実施例に係る自己位置推定結果を示す。
図20】変形例における信頼度値とNDT信頼度指標との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の好適な実施形態によれば、情報処理装置は、移動体の第1候補位置を取得する第1候補位置取得手段と、前記移動体に設けられた外界センサの出力に基づくデータと地図データとの照合に基づき決定した前記移動体の第2候補位置を取得する第2候補位置取得手段と、前記照合の信頼度を表す信頼度値を算出する信頼度値算出手段と、前記第1候補位置と、前記第2候補位置と、前記信頼度値とに基づき、前記移動体の推定位置を決定する推定位置決定手段と、を有する。この態様によれば、情報処理装置は、第1候補位置と第2候補位置とを勘案した推定位置を、第2候補位置の算出時の照合の信頼度に応じて好適に決定し、位置推定精度の低下を好適に防止することができる。
【0011】
上記情報処理装置の一態様では、前記信頼度値算出手段は、前記照合の適合度合いを示すスコア値に少なくとも基づき、前記信頼度値を決定する。この態様により、情報処理装置は、第2候補位置を決定する照合の信頼度を的確に定めることができる。
【0012】
上記情報処理装置の他の一態様では、前記データは、前記外界センサが出力した点群データである第1点群データに対してダウンサンプリングが行われた点群データである第2点群データであり、前記信頼度値算出手段は、前記ダウンサンプリングのサイズ又は前記第1点群データの計測点数に少なくとも基づき、前記信頼度値を算出する。この態様によっても、情報処理装置は、第2候補位置を決定する照合の信頼度を的確に定めることができる。
【0013】
上記情報処理装置の他の一態様では、前記データは、点群データであり、前記地図データは、単位領域であるボクセルごとの物体の位置を表すボクセルデータであり、前記第2候補位置取得手段は、前記点群データを構成する計測点と前記ボクセルの各々との対応付けを行い、前記対応付けがなされた前記ボクセルのボクセルデータと、当該ボクセルに対応付けられた計測点との照合に基づき、前記第2候補位置を決定する。この態様により、情報処理装置は、点群データとボクセルデータとの照合に基づき、好適に第2候補位置を決定することができる。
【0014】
上記情報処理装置の他の一態様では、前記信頼度値算出手段は、前記対応付けがなされた前記計測点の数の比率である対応付け比率に少なくとも基づき、前記信頼度値を算出する。この態様によっても、情報処理装置は、第2候補位置を決定する照合の信頼度を的確に定めることができる。
【0015】
上記情報処理装置の他の一態様では、前記信頼度値算出手段は、前記対応付け比率と、前記外界センサが出力した点群データである第1点群データに対して行われるダウンサンプリングのサイズ又は前記第1点群データの計測点数と、前記照合の適合度合いを示すスコア値と比例関係又は正の相関を有する値を、前記信頼度値として算出する。この態様により、情報処理装置は、第2候補位置を決定する照合の信頼度を的確に定めることができる。
【0016】
上記情報処理装置の他の一態様では、前記推定位置決定手段は、前記信頼度値に基づき重み付けがなされた、前記第1候補位置と、前記第2候補位置との重み付き平均により、前記推定位置を決定する。この態様により、情報処理装置は、第1候補位置と第2候補位置とを好適にフュージョンさせた推定位置を算出することができる。
【0017】
上記情報処理装置の他の一態様では、前記推定位置決定手段は、前記信頼度値を0から1の値に正規化した信頼度指標を前記第2候補位置の重みとして算出する。この態様により、情報処理装置は、重み付き平均に使用する重みを的確に設定することができる。
【0018】
上記情報処理装置の他の一態様では、前記第1候補位置取得手段は、デッドレコニングにより定めた前記移動体の位置を、前記第1候補位置として取得する。この態様により、情報処理装置は、外界センサに依らない第1候補位置を好適に取得することができる。
【0019】
本発明の他の好適な実施形態によれば、コンピュータが実行する制御方法であって、移動体の第1候補位置を取得し、前記移動体に設けられた外界センサの出力に基づくデータと地図データとの照合に基づき決定した前記移動体の第2候補位置を取得し、前記照合の信頼度を表す信頼度値を算出し、前記第1候補位置と、前記第2候補位置と、前記信頼度値とに基づき、前記移動体の推定位置を決定する。コンピュータは、この制御方法を実行することで、位置推定精度の低下を好適に防止することができる。
【0020】
本発明のさらに別の好適な実施形態によれば、プログラムは、移動体の第1候補位置を取得し、前記移動体に設けられた外界センサの出力に基づくデータと地図データとの照合に基づき決定した前記移動体の第2候補位置を取得し、前記照合の信頼度を表す信頼度値を算出し、前記第1候補位置と、前記第2候補位置と、前記信頼度値とに基づき、前記移動体の推定位置を決定する処理をコンピュータに実行させる。コンピュータは、プログラムを実行することで、位置推定精度の低下を好適に防止することができる。好適には、上記プログラムは、記憶媒体に記憶される。
【実施例0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。なお、任意の記号の上に「^」または「-」が付された文字を、本明細書では便宜上、「A^」または「A」(「A」は任意の文字)と表す。
【0022】
(1)運転支援システムの概要
図1は、本実施例に係る運転支援システムの概略構成である。運転支援システムは、移動体である車両と共に移動する車載機1と、ライダ(Lidar:Light Detection and Ranging、または、Laser Illuminated Detection And Ranging)2と、ジャイロセンサ3と、車速センサ4と、GPS受信機5とを有する。
【0023】
車載機1は、ライダ2、ジャイロセンサ3、車速センサ4、及びGPS受信機5と電気的に接続し、これらの出力に基づき、車載機1が設けられた車両の位置(「自車位置」とも呼ぶ。)の推定を行う。そして、車載機1は、自車位置の推定結果に基づき、設定された目的地への経路に沿って走行するように、車両の自動運転制御などを行う。車載機1は、ボクセルデータ「VD」を含む地図データベース(DB:DataBase)10を記憶する。ボクセルデータVDは、3次元空間の最小単位となる立方体(正規格子)を示すボクセルごとに静止構造物の位置情報等を記録したデータである。ボクセルデータVDは、各ボクセル内の静止構造物の計測された点群データを正規分布により表したデータを含み、後述するように、NDT(Normal Distributions Transform)を用いたスキャンマッチングに用いられる。車載機1は、NDTスキャンマッチングにより少なくとも車両の平面上の位置及びヨー角の推定を行う。なお、車載機1は、車両の高さ位置、ピッチ角及びロール角の推定をさらに行ってもよい。特に言及がない限り、自車位置は、推定対象となる車両のヨー角などの姿勢角も含まれるものとする。
【0024】
ライダ2は、水平方向および垂直方向の所定の角度範囲に対してパルスレーザを出射することで、外界に存在する物体までの距離を離散的に測定し、当該物体の位置を示す3次元の点群データを生成する。この場合、ライダ2は、照射方向を変えながらレーザ光を照射する照射部と、照射したレーザ光の反射光(散乱光)を受光する受光部と、受光部が出力する受光信号に基づくスキャンデータ(点群データを構成する点であり、以後では「計測点」と呼ぶ。)を出力する出力部とを有する。計測点は、受光部が受光したレーザ光に対応する照射方向と、上述の受光信号に基づき特定される当該レーザ光の応答遅延時間とに基づき生成される。なお、一般的に、対象物までの距離が近いほどライダの距離測定値の精度は高く、距離が遠いほど精度は低い。ライダ2、ジャイロセンサ3、車速センサ4、GPS受信機5は、それぞれ、出力データを車載機1へ供給する。
【0025】
車載機1は、本発明における「情報処理装置」の一例であり、ライダ2は、本発明における「外界センサ」又は「計測装置」の一例である。なお、運転支援システムは、ジャイロセンサ3に代えて、又はこれに加えて、3軸方向における計測車両の加速度及び角速度を計測する慣性計測装置(IMU)を有してもよい。
【0026】
(2)車載機の構成
図2は、車載機1のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。車載機1は、主に、インターフェース11と、メモリ12と、コントローラ13と、を有する。これらの各要素は、バスラインを介して相互に接続されている。
【0027】
インターフェース11は、車載機1と外部装置とのデータの授受に関するインターフェース動作を行う。本実施例では、インターフェース11は、ライダ2、ジャイロセンサ3、車速センサ4、及びGPS受信機5などのセンサから出力データを取得し、コントローラ13へ供給する。また、インターフェース11は、コントローラ13が生成した車両の走行制御に関する信号を車両の電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)へ供給する。インターフェース11は、無線通信を行うためのネットワークアダプタなどのワイヤレスインターフェースであってもよく、ケーブル等により外部装置と接続するためのハードウェアインターフェースであってもよい。インターフェース11は、入力装置、表示装置、音出力装置等の種々の周辺装置とのインターフェース動作を行ってもよい。
【0028】
メモリ12は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリなどの各種の揮発性メモリ及び不揮発性メモリにより構成される。メモリ12は、コントローラ13が所定の処理を実行するためのプログラムが記憶される。なお、コントローラ13が実行するプログラムは、メモリ12以外の記憶媒体に記憶されてもよい。
【0029】
また、メモリ12は、ボクセルデータVDを含む地図DB10を記憶する。
【0030】
なお、地図DB10は、インターフェース11を介して車載機1と接続されたハードディスクなどの車載機1の外部の記憶装置に記憶されてもよい。上記の記憶装置は、車載機1と通信を行うサーバ装置であってもよい。また、上記の記憶装置は、複数の装置から構成されてもよい。また、地図DB10は、定期的に更新されてもよい。この場合、例えば、コントローラ13は、インターフェース11を介し、地図情報を管理するサーバ装置から、自車位置が属するエリアに関する部分地図情報を受信し、地図DB10に反映させる。
【0031】
また、メモリ12には、地図DB10の他、本実施例において車載機1が実行する処理に必要な情報が記憶される。例えば、メモリ12には、ライダ2が1周期分の走査を行った場合に得られる点群データに対してダウンサンプリングを行う場合のダウンサンプリングのサイズの設定に用いられる情報が記憶される。また、メモリ12には、NDTスキャンマッチングの信頼度を算出する際の正規化に用いる算出式の情報などが記憶されている。
【0032】
コントローラ13は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、TPU(Tensor Processing Unit)などの1又は複数のプロセッサを含み、車載機1の全体を制御する。この場合、コントローラ13は、メモリ12等に記憶されたプログラムを実行することで、自車位置推定に関する処理を行う。
【0033】
また、コントローラ13は、機能的には、ダウンサンプリング処理部14と、自車位置推定部15とを有する。そして、コントローラ13は、「第1候補位置取得手段」、「第2候補位置取得手段」、「信頼度値算出手段」、「推定位置決定手段」及びプログラムを実行するコンピュータ等として機能する。
【0034】
ダウンサンプリング処理部14は、ライダ2から出力される点群データに対してダウンサンプリングを行うことで、計測点数を削減するように補正された点群データ(「加工点群データ」とも呼ぶ。)を生成する。このダウンサンプリングでは、ダウンサンプリング処理部14は、点群データを所定サイズに分割した空間内で平均することで、計測点数を削減した加工点群データを生成する。以後では、ダウンサンプリングのサイズ(上述の所定サイズに相当)を、「ダウンサンプリングサイズDSS」とも呼ぶ。また、ダウンサンプリング処理部14は、各処理時刻でのNDTマッチングにおいて、ダウンサンプリング後の加工点群データのうちボクセルデータVDと対応付けられた計測点の数(「対応計測点数Nc」とも呼ぶ。)が所定の目標範囲内に収まるように、ダウンサンプリングサイズDSSを適応的に設定する。以後では、対応計測点数Ncの目標範囲を、「目標範囲RNc」とも呼ぶ。
【0035】
自車位置推定部15は、ダウンサンプリング処理部14が生成する加工点群データと、当該点群データが属するボクセルに対応するボクセルデータVDとに基づき、NDTに基づくスキャンマッチング(NDTスキャンマッチング)を行うことで、自車位置の推定を行う。
【0036】
(3)ダウンサンプリングサイズの設定
次に、ダウンサンプリング処理部14の処理の詳細について説明する。概略的には、ダウンサンプリング処理部14は、各処理時刻において、対応計測点数Ncと、目標範囲情報9が示す目標範囲RNcとをダウンサンプリング後に比較し、その大小結果に応じて次の処理時刻でのダウンサンプリングのサイズを設定する。これにより、ダウンサンプリング処理部14は、対応計測点数Ncが目標範囲RNc内に維持されるように適応的にダウンサンプリングのサイズを定める。
【0037】
図3は、ダウンサンプリング処理部14の機能ブロックの一例を示す。ダウンサンプリング処理部14は、機能的には、ダウンサンプリングブロック16と、対応計測点数取得ブロック17と、比較ブロック18と、ダウンサンプリングサイズ設定ブロック19とを有する。なお、図3では、データの授受が行われるブロック同士を実線により結んでいるが、データの授受が行われるブロックの組合せは図3に限定されない。後述する他の機能ブロックの図においても同様である。
【0038】
ダウンサンプリングブロック16は、ライダ2が処理時刻毎に生成する一周期分の走査の点群データのダウンサンプリングを行うことで、処理時刻毎に加工点群データを生成する。この場合、ダウンサンプリングブロック16は、設定されたダウンサンプリングのサイズに基づき、空間をグリッドに分割し、夫々のグリッドの中に含まれるライダ2の点群データの計測点の代表点を算出する。この場合、上記空間は、例えば、車載機1の進行方向、高さ方向、及び横方向(即ち進行方向と高さ方向と垂直な方向)を夫々軸とする3次元座標系の空間であり、これらの各方向に沿って等間隔に分割されることでグリッドが形成される。ダウンサンプリングのサイズは、メモリ12等に記憶された初期サイズ又はダウンサンプリングサイズ設定ブロック19により直前に設定されたサイズとなる。ダウンサンプリングブロック16は、生成した加工点群データを自車位置推定部15に供給する。
【0039】
なお、ダウンサンプリングのサイズは、車載機1の進行方向、高さ方向、及び横方向とで夫々異なってもよい。また、ダウンサンプリングブロック16の処理は、任意のVoxel grid filterの手法が用いられてもよい。
【0040】
対応計測点数取得ブロック17は、対応計測点数Ncを自車位置推定部15から取得する。この場合、自車位置推定部15は、ダウンサンプリングブロック16から供給される加工点群データに対して処理時刻毎にNDTマッチングを行い、処理時刻毎の対応計測点数Ncを対応計測点数取得ブロック17に出力する。対応計測点数取得ブロック17は、対応計測点数Ncを比較ブロック18に供給する。
【0041】
比較ブロック18は、処理時刻毎に目標範囲情報9が示す目標範囲RNcと対応計測点数Ncとの大小比較を行い、比較結果をダウンサンプリングサイズ設定ブロック19に供給する。この場合、比較ブロック18は、例えば、
対応計測点数Ncが目標範囲RNcの上限より多い、又は、
対応計測点数Ncが目標範囲RNc内である、又は、
対応計測点数Ncが目標範囲RNcの下限未満である
のいずれに該当するか判定し、その判定結果をダウンサンプリングサイズ設定ブロック19に供給する。例えば、目標範囲RNcが600~800である場合には、比較ブロック18は、目標範囲RNcの上限を800、目標範囲RNcの下限を600として上述の判定を行う。なお、目標範囲RNcは、600~800に限定されず、使用するハードウェア、プロセッサの性能、及び完了すべき処理時間(即ち、次の処理時刻の時間間隔)に応じて決定される。
【0042】
ダウンサンプリングサイズ設定ブロック19は、比較ブロック18の比較結果に基づき、次の処理時刻において適用するダウンサンプリングのサイズを設定する。この場合、ダウンサンプリングサイズ設定ブロック19は、対応計測点数Ncが目標範囲RNcの上限より多かった場合には、ダウンサンプリングのサイズを大きくし、対応計測点数Ncが目標範囲RNcの下限未満である場合には、ダウンサンプリングのサイズを小さくする。一方、ダウンサンプリングサイズ設定ブロック19は、対応計測点数Ncが目標範囲RNcの範囲内である場合には、ダウンサンプリングのサイズを維持する(即ち変更しない)。
【0043】
また、図3には、ゲイン設定サブブロック191と乗算サブブロック192とを有するダウンサンプリングサイズ設定ブロック19の具体的な一態様が図示されている。
【0044】
ゲイン設定サブブロック191は、比較ブロック18での比較結果に基づいて、乗算サブブロック192において現在のダウンサンプリングのサイズに乗算するゲインを設定する。この場合、ゲイン設定サブブロック191は、対応計測点数Ncが目標範囲RNcの上限より多い場合にはゲインを1倍より大きくし、対応計測点数Ncが目標範囲RNcの下限より少ない場合にはゲインを1倍未満とし、対応計測点数Ncが目標範囲RNcの範囲内である場合にはゲインを1倍にする。図3では、一例として以下のようにゲインが設定されている。
対応計測点数Ncが目標範囲RNcの上限より多い ⇒ゲイン「1.1」、
対応計測点数Ncが目標範囲RNcの下限より少ない⇒ゲイン「1/1.1」、
対応計測点数Ncが目標範囲RNcの範囲内 ⇒ゲイン「1.0」
【0045】
乗算サブブロック192は、ゲイン設定サブブロック191が設定したゲインを現在のダウンサンプリングのサイズに乗じた値を、次の処理時刻に用いるダウンサンプリングのサイズとして出力する。
【0046】
このような構成によれば、ダウンサンプリングサイズ設定ブロック19は、対応計測点数Ncが目標範囲RNcの上限より多かった場合には、ダウンサンプリングのサイズを大きくして加工点群データの計測点数が減少しやすくなるようにダウンサンプリングのサイズを変更することができる。同様に、ダウンサンプリングサイズ設定ブロック19は、対応計測点数Ncが目標範囲RNcの下限より少なかった場合には、ダウンサンプリングのサイズを小さくして加工点群データの計測点数が増加しやすくなるようにダウンサンプリングのサイズを変更することができる。
【0047】
なお、ゲイン設定サブブロック191において設定するゲインの各数値は、一例であり、実験結果等に基づき夫々適切な数値に設定される。また、ダウンサンプリングサイズ設定ブロック19は、ゲインを乗算する代わりに、所定値の加算又は減算を行ってもよい。この場合、ダウンサンプリングサイズ設定ブロック19は、対応計測点数Ncが目標範囲RNcの上限より多かった場合には、ダウンサンプリングのサイズを正数である所定値だけ大きくし、対応計測点数Ncが目標範囲RNcの下限より少なかった場合には、ダウンサンプリングのサイズを正数である所定値だけ小さくする。なお、上記のゲイン及び所定値は、方向毎(進行方向、横方向、高さ方向)毎に異なる値に設定されてもよい。
【0048】
(4)NDTスキャンマッチングに基づく位置推定
次に、自車位置推定部15が実行するNDTスキャンマッチングに基づく位置推定に関する説明を行う。
【0049】
図4は、自車位置推定部15が推定すべき自車位置を2次元直交座標で表した図である。図4に示すように、xyの2次元直交座標上で定義された平面での自車位置は、座標「(x、y)」、自車の方位(ヨー角)「ψ」により表される。ここでは、ヨー角ψは、車の進行方向とx軸とのなす角として定義されている。座標(x、y)は、例えば緯度及び経度の組合せに相当する絶対位置、あるいは所定地点を原点とした位置を示すワールド座標である。そして、自車位置推定部15は、これらのx、y、ψを推定パラメータとする自車位置推定を行う。なお、自車位置推定部15は、x、y、ψに加えて、3次元直交座標系での車両の高さ位置、ピッチ角、ロール角の少なくともいずれかをさらに推定パラメータとして推定する自車位置推定を行ってもよい。
【0050】
次に、NDTスキャンマッチングに用いるボクセルデータVDについて説明する。ボクセルデータVDは、各ボクセル内の静止構造物の計測された点群データを正規分布により表したデータを含む。
【0051】
図5は、ボクセルデータVDの概略的なデータ構造の一例を示す。ボクセルデータVDは、ボクセル内の点群を正規分布で表現する場合のパラメータの情報を含み、本実施例では、図5に示すように、ボクセルIDと、ボクセル座標と、平均ベクトルと、共分散行列とを含む。
【0052】
「ボクセル座標」は、各ボクセルの中心位置などの基準となる位置の絶対的な3次元座標を示す。なお、各ボクセルは、空間を格子状に分割した立方体であり、予め形状及び大きさが定められているため、ボクセル座標により各ボクセルの空間を特定することが可能である。ボクセル座標は、ボクセルIDとして用いられてもよい。
【0053】
「平均ベクトル」及び「共分散行列」は、対象のボクセル内での点群を正規分布で表現する場合のパラメータに相当する平均ベクトル及び共分散行列を示す。なお、任意のボクセル「n」内の任意の点「i」の座標を
(i)=[x(i)、y(i)、z(i)]
と定義し、ボクセルn内での点群数を「N」とすると、ボクセルnでの平均ベクトル「μ」及び共分散行列「V」は、それぞれ以下の式(1)及び式(2)により表される。
【0054】
【数1】
【0055】
【数2】
【0056】
次に、ボクセルデータVDを用いたNDTスキャンマッチングの概要について説明する。
【0057】
車両を想定したNDTによるスキャンマッチングは、道路平面(ここではxy座標とする)内の移動量及び車両の向きを要素とした推定パラメータ
P=[t、t、tψ
を推定することとなる。ここで、「t」は、x方向の移動量を示し、「t」は、y方向の移動量を示し、「tψ」は、ヨー角を示す。
【0058】
また、ライダ2が出力する点群データの座標を、
(j)=[x(j)、y(j)、z(j)]
とすると、X(j)の平均値「L´」は、以下の式(3)により表される。
【0059】
【数3】
そして、上述の推定パラメータPを用い、平均値L´を座標変換すると、変換後の座標「L」は、以下の式(4)により表される。
【0060】
【数4】
そして、自車位置推定部15は、地図DB10と同一の座標系である絶対的な座標系(「ワールド座標系」とも呼ぶ。)に変換した加工点群データに対応付けられるボクセルデータVDを探索し、そのボクセルデータVDに含まれる平均ベクトルμと共分散行列Vとを用い、ボクセルnの評価関数値(「個別評価関数値」とも呼ぶ。)「E」を算出する。この場合、自車位置推定部15は、以下の式(5)に基づき、ボクセルnの個別評価関数値Eを算出する。
【0061】
【数5】
【0062】
そして、自車位置推定部15は、以下の式(6)により示される、マッチングの対象となる全てのボクセルを対象とした総合的な評価関数値(「スコア値」とも呼ぶ。)「E(k)」を算出する。スコア値Eは、マッチングの適合度を示す指標となる。
【0063】
【数6】
その後、自車位置推定部15は、ニュートン法などの任意の求根アルゴリズムによりスコア値E(k)が最大となるとなる推定パラメータPを算出する。そして、自車位置推定部15は、時刻kにおいてデッドレコニングにより算出した位置(「DR位置」とも呼ぶ。)「XDR(k)」に対し、推定パラメータPを適用することで、NDTスキャンマッチングに基づく自車位置(「NDT位置」とも呼ぶ。)「XNDT(k)」を算出する。ここで、DR位置XDR(k)は、推定自車位置X^(k)の算出前の暫定的な自車位置に相当し、予測自車位置「X(k)」とも表記する。この場合、NDT位置XNDT(k)は、以下の式(7)により表される。
【0064】
【数7】
その後、自車位置推定部15は、DR位置XDR(k)とNDT位置XNDT(k)とをフュージョンすることで、現在の処理時刻kでの最終的な自車位置(「推定自車位置」とも呼ぶ。)「X^(k)」を算出する。
【0065】
(5)推定自車位置の算出
次に、推定自車位置X^(k)の算出方法について説明する。概略的には、自車位置推定部15は、各処理時刻において、NDTスキャンマッチングの信頼度の値を算出し、当該信頼度の値に基づく重み付けにより、対象の処理時刻でのDR位置XDRとNDT位置XNDTとから対象の処理時刻での推定自車位置X^を算出する。以後では、NDTスキャンマッチングの信頼度の値を、「信頼度値NRV(NDT Reliability Value)」とも呼ぶ。
【0066】
なお、DR位置XDRは、本発明における「第1候補位置」の一例であり、NDT位置XNDTは、本発明における「第2候補位置」の一例である。また、推定自車位置X^は、本発明における「推定位置」の一例である。
【0067】
(5-1)ブロック構成
図6は、自車位置推定部15の機能ブロックの一例である。図6に示すように、自車位置推定部15は、デッドレコニングブロック21と、DR位置算出ブロック22と、座標変換ブロック23と、点群データ対応付けブロック24と、NDT位置算出ブロック25と、フュージョンブロック26とを有する。
【0068】
デッドレコニングブロック21は、ジャイロセンサ3、車速センサ4、及びGPS受信機5等の出力に基づく車両の移動速度と角速度を用い、前回時刻からの移動距離と方位変化を求める。DR位置算出ブロック22は、直前の処理時刻である時刻k-1の推定自車位置X(k-1)に対し、デッドレコニングにより求めた移動距離と方位変化を加えた時刻kでのDR位置XDR(k)を算出する。このDR位置XDR(k)は、デッドレコニングに基づき時刻kにおいて求められた自車位置であり、予測自車位置X(k)に相当する。
【0069】
座標変換ブロック23は、ダウンサンプリング処理部14から出力されるダウンサンプリング後の加工点群データを、地図DB10と同一の座標系であるワールド座標系に変換する。この場合、座標変換ブロック23は、例えば、時刻kでDR位置算出ブロック22が出力する予測自車位置に基づき、時刻kでの加工点群データの座標変換を行う。なお、ダウンサンプリング後の加工点群データに対して上述の座標変換が行われる代わりに、ダウンサンプリング前の点群データに対して上述の座標変換が行われてもよい。この場合、ダウンサンプリング処理部14は、座標変換後のワールド座標系の点群データをダウンサンプリングしたワールド座標系の加工点群データを生成する。なお、車両に設置されたライダを基準とした座標系の点群データを車両座標系に変換する処理、及び車両座標系からワールド座標系に変換する処理等については、例えば、国際公開WO2019/188745などに開示されている。
【0070】
点群データ対応付けブロック24は、座標変換ブロック23が出力するワールド座標系の加工点群データと、同じワールド座標系で表されたボクセルデータVDとを照合することで、加工点群データとボクセルとの対応付けを行う。NDT位置算出ブロック25は、加工点群データと対応付けがなされた各ボクセルを対象として、式(5)に基づく個別評価関数値を算出し、式(6)に基づくスコア値E(k)が最大となるとなる推定パラメータPを算出する。そして、NDT位置算出ブロック25は、式(7)に基づき、DR位置算出ブロック22が出力するDR位置XDR(k)に対し、時刻kで求めた推定パラメータPを適用することで定まる時刻kでのNDT位置XNDT(k)を求める。このNDT位置XNDT(k)は、NDTスキャンマッチングに基づき求められた時刻kでの自車位置である。
【0071】
フュージョンブロック26は、時刻kでのDR位置XDR(k)と、時刻kでのNDT位置XNDT(k)とをフュージョン(統合)することで、時刻kの推定自車位置Xを算出する。この場合、フュージョンブロック26は、時刻kでのNDTスキャンマッチングの信頼度値NRVを算出し、信頼度値NRVに基づく重み付けをDR位置XDR(k)とNDT位置XNDT(k)に対して行うことで、推定自車位置Xを算出する。フュージョンブロック26の処理の詳細については後述する。
【0072】
ここで、計測点とボクセルデータVDとの対応付けの具体的手順について、簡単な例を用いて補足説明する。
【0073】
図7は、ワールド座標系におけるx-yの2次元平面上でのボクセルデータVDが存在するボクセル「Vo1」~「Vo6」とこれらのボクセル付近の位置を示す計測点61~65との位置関係を示す。ここでは、説明の便宜上、ボクセルVo1~Vo6の中心位置のワールド座標系のz座標と、計測点61~65のワールド座標系のz座標とは同一であるものとする。
【0074】
まず、座標変換ブロック23は、計測点61~65を含む点群データをワールド座標系に変換する。その後、点群データ対応付けブロック24は、ワールド座標系の計測点61~65の端数等の丸め処理を行う。図7の例では、立方体である各ボクセルのサイズが1mであることから、点群データ対応付けブロック24は、各計測点61~65のx、y、z座標の夫々の小数点以下を四捨五入する。
【0075】
次に、点群データ対応付けブロック24は、ボクセルVo1~Vo6に対応するボクセルデータVDと、各計測点61~65の座標との照合を行うことで、各計測点61~65に対応するボクセルを判定する。図7の例では、計測点61の(x,y)座標は、上述の四捨五入により(2,1)となることから、点群データ対応付けブロック24は、計測点61をボクセルVo1と対応付ける。同様に、計測点62及び計測点63の(x,y)座標は、上述の四捨五入により(3,2)となることから、点群データ対応付けブロック24は、計測点62及び計測点63をボクセルVo5と対応付ける。また、計測点64の(x,y)座標は、上述の四捨五入により(2,3)となることから、点群データ対応付けブロック24は、計測点64をボクセルVo6と対応付ける。一方、計測点65の(x,y)座標は、上述の四捨五入により(4,1)となることから、点群データ対応付けブロック24は、計測点65に対応するボクセルデータVDが存在しないと判定する。その後、NDT位置算出ブロック25は、点群データ対応付けブロック24が対応付けた計測点とボクセルデータVDとを用いて推定パラメータPの推定を行う。なお、この例では、ダウンサンプリング後の計測点数は5個であるが、対応計測点数Ncは4個となる。対応計測点数Ncは、道路周辺に構造物が少なく疎な空間の場合に少なくなり、また自車両の近くに他車両が存在してライダの光ビームが遮られてしまう現象(オクルージョンと呼ぶ)が生じた場合も少なくなる。
【0076】
(5-2)フュージョンブロックの処理の詳細
まず、NDTスキャンマッチングの信頼度を表すNRVの算出方法について説明する。
フュージョンブロック26は、ダウンサンプリングサイズDSSと、スコア値Eと、ダウンサンプリング後の加工点群データにおいてボクセルデータVDと対応付けられた計測点数(即ち、対応計測点数Nc)の比率とに基づき、信頼度値NRVを算出する。以後では、上述の対応計測点数Ncの比率を、「対応付け比率DAR(Data Association Ratio)」とも呼ぶ。すなわち、対応付け比率DAR=(対応計測点数Nc/ダウンサンプリン後の加工点群データ数)である。
【0077】
具体的には、フュージョンブロック26は、以下の式(8)に示すように、各時刻でのダウンサンプリングサイズDSS、スコア値E、対応付け比率DARを乗算することで、対応する各時刻での信頼度値NRVを算出する。
【0078】
NRV=DSS×E×DAR (8)
なお、経験上、ダウンサンプリングサイズDSSは0.1~5.0の範囲、対応付け比率DARは0~1.0の範囲、スコア値Eは0~3.0の範囲となるため、信頼度値はおよそ0~15の範囲となる。
【0079】
ここで、式(8)に基づく信頼度値NRVの算出の妥当性について説明する。NDTスキャンマッチングの性能は以下の3つの特徴(第1の特徴~第3の特徴)があり、この3つの特徴に基づき式(8)を設けている。
【0080】
一般に、ライダ2が検出する点群データの点群数が多いと広範囲で密度の高いデータを基に計算できるため、NDTスキャンマッチングの結果の信頼性が高くなる。従って、適応的にダウンサンプリングサイズDSSを変更して対応計測点数Ncを調整する制御を採用している場合、点群データの点群数が多いほど、ダウンサンプリングサイズDSSが大きい。よって、第1の特徴として、ダウンサンプリングサイズDSSが大きいほど、NDTスキャンマッチングの信頼度が高い。
【0081】
また、対応付け比率DARが大きいほど、ボクセルデータVDを構成する構造物に対する周辺の他車両等の障害物によるオクルージョンが少なく、また、ボクセルデータVDが作成された時点と実状況が変化していないことが推定される。よって、第2の特徴として、対応付け比率DARが大きいほど、NDTスキャンマッチングの信頼度が高い。
【0082】
さらに、スコア値Eが大きいほど、算出した推定パラメータPが最適解である可能性が高い。よって、第3の特徴として、スコア値Eが大きいほど、NDTスキャンマッチングの信頼度が高い。
【0083】
以上を勘案し、フュージョンブロック26は、NDTスキャンマッチング処理の各時刻におけるダウンサンプリングサイズDSS、対応付け比率DAR、スコア値Eを活用して信頼度値NRVを算出する。また、式(8)では、これらの乗算により信頼度値NRVが定められているため、ダウンサンプリングサイズDSS、対応付け比率DAR、スコア値Eのいずれかが0に近づくと、信頼度値NRVも0に近づくことになる。
【0084】
次に、信頼度値NRVによる重み付けについて説明する。フュージョンブロック26は、NDTスキャンマッチング処理の結果に対する重みを「w」(0≦w≦1)とすると、以下の式(9)に基づき、DR位置XDR及びNDT位置XNDTの重み付き平均計算を行い、推定自車位置X^を算出する。
【0085】
【数8】
ここで、重みwの設定について説明する。信頼度値NRVが小さいほど、NDTスキャンマッチングの信頼度が低いことから、フュージョンブロック26は、信頼度値NRVが小さいほど、重みwを小さくする。一方、信頼度値NRVが大きいほど、NDTスキャンマッチングの信頼度が高いことから、フュージョンブロック26は、信頼度値NRVが大きいほど、重みwを大きくする。
【0086】
本実施例では、フュージョンブロック26は、0~1の値域となるように信頼度値NRVを正規化した指標(「NDT信頼度指標NRI(NDT Reliability Index)」とも呼ぶ。)を算出し、算出したNDT信頼度指標NRIを重みwとして用いる。即ち、フュージョンブロック26は、以下の式(10)に基づき、NDT信頼度指標NRIを用いて、DR位置XDRとNDT位置XNDTとの重み付き平均計算を行い、推定自車位置X^を算出する。
【0087】
【数9】
【0088】
次に、NDT信頼度指標NRIの算出方法について説明する。図8は、4個のNDT信頼度指標NRIの算出式の各々の特性を表すグラフである。ここでは、以下の式(11)~式(14)の各々に対する信頼度値NRVとNDT信頼度指標NRIとの関係を示している。
【0089】
【数10】
【0090】
ここで、NDTスキャンマッチングの精度や安定性が高まるほど、ダウンサンプリングサイズDSSと対応付け比率NDRとスコア値Eは大きな値を取るため、これらの全てが大きい値だとNDT信頼度指標NRIは1に近づく。一方、ダウンサンプリングサイズDSSと対応付け比率NDRとスコア値Eのひとつでも小さい値になると、他の数値が大きくてもNDT信頼度指標NRIは0に近づく。
【0091】
次に、式(11)~式(14)について補足説明する。図8に示されるように、式(11)は信頼度値NRVに対するNDT信頼度指標NRIの立ち上がりが早く、式(12)は前半の立ち上がりが緩やかとなり、式(13)は信頼度値NRVに対するNDT信頼度指標NRIの変化が全般的に緩やかとなる。また、式(14)は式(11)より若干立ち上がりが緩やかであるが,最も早くNDT信頼度指標NRIが1に近づく特性を示す。このように、各式では、信頼度値NRVに対するNDT信頼度指標NRIの感度に違いがあると言える。式(11)~式(14)からどの式を用いて信頼度値NRVからNDT信頼度指標NRIを算出するかについては、デッドレコニングの信頼性に応じて予め決定される。なお、デッドレコニングの信頼性として、例えば、ジャイロセンサ3の感度ムラやデッドレコニングに用いる各センサのカタログ記載の性能値などを勘案してもよい。
【0092】
(5-3)技術的効果
次に、信頼度値NRVに基づきDR位置XDRとNDT位置XNDTとの重み付き平均計算により推定自車位置X^を算出することの技術的効果について補足説明する。
【0093】
NDTスキャンマッチングは、周辺の構造物が少ない場合、又はオクルージョンが発生した場合には、精度が低くなる可能性がある。これについて図9(A)~図9(C)を参照して説明する。
【0094】
図9(A)~図9(C)は、ダウンサンプリングサイズをボクセルサイズの1倍に設定した場合の、車載機1を搭載する車両周辺の俯瞰図を示す。図9(A)~図9(C)では、ボクセルデータVDが存在するボクセルが矩形枠により示され、1周期分の走査により得られるライダ2の計測点の位置をドットにより示されている。ここで、図9(A)は、ライダ2の周辺に構造物が多い場合の例を示し、図9(B)は、ライダ2の周辺に構造物が少ない場合の例を示し、図9(C)は、オクルージョンが発生した場合の例を示す。なお、構造物の表面位置に対応するボクセルには、対応するボクセルデータVDが存在する。
【0095】
図9(A)~図9(C)に示されるように、ライダ2で取得される点群データの計測点数は、ライダ2の計測拒理や視野角だけでなく、自車周辺の環境に依存する。例えば、周辺が密な空間の場合(図9(A)参照)には、点群データの計測点数が多いが、周辺が疎な空間の場合(図9(B)参照)には、点群データの計測点数が少ない。また、他車両などによるオクルージョンが発生した場合(図9(C)参照)には、NDTスキャンマッチングに利用可能な対応計測点数Ncが少なくなる。そして、図9(A)の例では、NDTスキャンマッチングに利用可能な対応計測点数Ncが十分であることから、NDTスキャンマッチングにより最適解が得られる可能性が高いが、図9(B)及び図9(C)の例では、対応計測点数Ncが少ないため、NDTスキャンマッチングにおいて局所解に陥る可能性がある。
【0096】
次に、NDTスキャンマッチングとデッドレコニングとの精度の比較について、図10(A)及び図10(B)を参照して説明する。
【0097】
図10(A)、(B)は、デッドレコニングの誤差分布とNDTスキャンマッチングの誤差分布とを夫々示したグラフである。具体的には、図10(A)は、ライダ2が出力する点群データの点群数が比較的豊富であり、かつ、オクルージョンが比較的少ない場合のデッドレコニングの誤差分布とNDTスキャンマッチングの誤差分布とを夫々示す。また、図10(B)は、ライダ2が出力する点群データの点群数が過少となる場合、又は、オクルージョンが比較的多い場合のデッドレコニングの誤差分布とNDTスキャンマッチングの誤差分布とを夫々示す。また、図10(A)、(B)では、簡略化のため、推定位置(姿勢を含む)を構成する1つの要素に対する誤差分布を示しており、DR位置XDR、NDT位置XNDT、推定自車位置X^が夫々矢印により示されている。
【0098】
ライダ2が出力する点群データの点群数が豊富かつオクルージョンが少ない場合には、NDTスキャンマッチングは安定的に計算されるため、NDTスキャンマッチングの誤差分布は正規分布的な特性を示す。一般的には、ライダ2の計測精度は高いため、この場合には、図10(A)に示されるように、デッドレコニングの誤差分布に比べてNDTスキャンマッチングの誤差分布は裾野が狭く急峻な特性になる。従って、この場合、NDTスキャンマッチングによる自車位置計算結果は、十分に信頼できる結果となる。よって、信頼度値NRVが大きく、NDT信頼度指標NRIが1に近い値となるため、式(10)の重み付き平均による推定自車位置X^はXNDTに近いものとなる。
【0099】
一方、ライダ2が出力する点群データの点群数が少なかったり、オクルージョンが発生したりする場合には、NDTスキャンマッチングの計算には誤差が含まれることになる。その誤差が多いと、図10(B)に示されるように、なだらかで複数のピークを持つような特性になることがある。ここで、NDTスキャンマッチングの計算は評価関数(スコア値E)が最大となる条件を探索するため、山が最も高いところを結果として算出する。図10(B)の場合は、分布の右端が最も山が高いため、そこをNDT位置XNDTとして算出しており、このような場合はNDT位置XNDTがあまり信用できない。
【0100】
以上を勘案し、本実施例に係るフュージョンブロック26は、信頼度値NRVに基づきDR位置XDRとNDT位置XNDTとの重み付き平均計算により推定自車位置X^を算出する。これにより、NDTスキャンマッチングの信頼度が高くNDT信頼度指標NRIが1に近い時は、図10(A)のようにNDT位置XNDTに近い結果が最終的な推定自車位置X^(フュージョン位置)として算出される。一方、NDTスキャンマッチングの信頼度が低くNDT信頼度指標NRIが0に近い時は,図10(B)のようにNDT位置XNDTから離れてDR位置XDRに近づくものとなる。これにより、NDTスキャンマッチングの信頼度が低い場合でも、最終的な推定自車位置の精度悪化を防ぐことができる。
【0101】
(6)処理フロー
図11は、車載機1のコントローラ13が実行する自車位置推定に関する処理の手順を示すフローチャートの一例である。コントローラ13は、図11のフローチャートの処理を、電源がオンになった場合など、自車位置推定を行う必要が生じた場合に開始する。
【0102】
まず、コントローラ13は、GPS受信機5の測位結果に基づき、予測自車位置を決定する(ステップS11)。そして、コントローラ13は、ライダ2の点群データを取得できたか否か判定する(ステップS12)。そして、コントローラ13は、ライダ2の点群データを取得できない場合(ステップS12;No)、引き続きステップS12の判定を行う。また、コントローラ13は、点群データを取得できない期間では、引き続きGPS受信機5の測位結果に基づき、自車位置を決定する。なお、コントローラ13は、GPS受信機5のみの測位結果に限らず、点群データ以外の任意のセンサの出力に基づき、自車位置を決定してもよい。
【0103】
そして、コントローラ13は、ライダ2の点群データを取得できた場合(ステップS12;Yes)、ジャイロセンサ3と車速センサ4等に基づき検出した車両の移動速度及び角速度と、前回の推定自車位置とから、デッドレコニングを実行し、予測自車位置となるDR位置XDRを算出する(ステップS13)。そして、コントローラ13は、ライダ2が現処理時刻において走査する1周期分の点群データに対し、ダウンサンプリングサイズDSSの現在の設定値によるダウンサンプリングを実施する(ステップS14)。
【0104】
次に、コントローラ13は、DR位置XDRを初期値として、NDTマッチング処理を実施することで、NDT位置XNDTを算出する(ステップS15)。この場合、コントローラ13は、加工点群データをワールド座標系のデータに変換する処理、及び、ワールド座標系に変換された加工点群データとボクセルデータVDが存在するボクセルとの対応付けなどを行う。
【0105】
次に、コントローラ13は、NDTマッチング処理での加工点群データとボクセルデータVDとの対応付け結果に基づいて、対応付け比率DARを算出する(ステップS16)。また、コントローラ13は、対応計測点数Ncを、目標範囲RNcと比較することで、次回のダウンサンプリングでのダウンサンプリングサイズDSSを決定する。さらに、コントローラ13は、NDTマッチング処理で求めた推定パラメータPに対するスコア値Eを取得する(ステップS17)。
【0106】
そして、コントローラ13は、ダウンサンプリングサイズDSSと、対応付け比率DARと、スコア値Eとに基づき、信頼度値NRVを算出する(ステップS18)。そして、コントローラ13は、信頼度値NRVからNDT信頼度指標NRIを生成する(ステップS19)。
【0107】
そして、コントローラ13は、NDT信頼度指標NRIを用いたDR位置XDR及びNDT位置XNDTの重み付き平均計算により、推定自車位置X^を算出する(ステップS20)。そして、コントローラ13は、自車位置推定処理を終了すべきか否か判定する(ステップS21)。そして、コントローラ13は、自車位置推定処理を終了すべきと判定した場合(ステップS21;Yes)、フローチャートの処理を終了する。一方、コントローラ13は、自車位置推定処理を継続する場合(ステップS21;No)、ステップS12へ処理を戻し、次の処理時刻での自車位置の推定を行う。
【0108】
(7)実験結果に基づく考察
次に、上述した実施例に関する実験結果について考察する。
【0109】
出願人は、中距離を対象とし、水平視野角が60度及び動作周波数12Hz(周期83.3ms)となるライダを前方2台及び後方2台搭載した車両をある走行路に対して走行させ、当該走行路に対して事前に作成したボクセルデータ(ND地図)と、走行中に得られたライダの点群データとをマッチングさせて自車位置推定を行った。また、精度評価のために、正解となる位置データとして、RTK-GPSの測位結果を用いた。
【0110】
図12(A)~図12(F)及び図13(A)~図13(D)は、NDT位置XNDTを推定自車位置X^として定める比較例に係る自車位置推定結果を示す。ここで、RTK-GPSの測位結果に対して、図12(A)は進行方向の誤差、図12(B)は横方向の誤差、図12(C)は高さ方向の誤差、図12(D)はヨー角の誤差を示し、図12(E)はダウンサンプリング前の点群データの計測点数、図12(F)はダウンサンプリングのサイズを夫々示す。また、図13(A)はダウンサンプリング後の加工点群データの計測点数、図13(B)は対応計測点数Nc、図13(C)は対応付け比率DAR、図13(D)はスコア値E(k)を夫々示す。また、進行方向におけるRMSE(Root Mean Squared Error)値は0.235m、横方向のRMSE値は0.044m、高さ方向のRMSE値は0.039m、方位(ヨー角)のRMSE値は0.232度となった。
【0111】
図12(A)に示すように、時刻が130s付近の期間では、進行方向の誤差が大きく,また全般的に線が太いため、当該期間ではNDTマッチングが安定的に行われていないと推察される。また、図12(E)に示すダウンサンプリング前の計測点数があまり多くないため、図12(F)に示すダウンサンプリングサイズDSSは比較的小さく1m以下となっている。また図13(C)の対応付け比率DARも低めであり、図13(D)のスコア値Eも若干小さめである。つまり、比較例におけるNDTスキャンマッチングの計算は、ダウンサンプリングサイズDSS、対応付け比率DAR及びスコア値Eがいずれも比較的小さくなっており、信頼性があまり高くない状況と判断できる。よってNDTマッチング結果に誤差が多く含まれ、それが原因となって図12(A)に示す進行方向の誤差が大きくなっていると推察される。
【0112】
図14(A)~図14(F)及び図15(A)~図15(F)は、NDT位置XNDTとDR位置XDRとのフュージョンにより推定自車位置X^を決定する実施例に係る自車位置推定結果を示す。ここで、RTK-GPSの測位結果に対して、図14(A)は進行方向の誤差、図14(B)は横方向の誤差、図14(C)は高さ方向の誤差、図14(D)はヨー角の誤差を示し、図14(E)はダウンサンプリング前の点群データの計測点数、図14(F)はダウンサンプリングのサイズを夫々示す。また、図15(A)はダウンサンプリング後の加工点群データの計測点数、図15(B)は対応計測点数Nc、図15(C)は対応付け比率DAR、図15(D)はスコア値E(k)、図15(E)は信頼度値NRV、図15(F)はNDT信頼度指標NRIを夫々示す。また、進行方向におけるRMSE値は0.150m、横方向のRMSE値は0.034m、高さ方向のRMSE値は0.022m、方位(ヨー角)のRMSE値は0.171度であり、比較例に対して良好な値となった。
【0113】
ここで、図15(E)に示す信頼度値NRVを参照すると、およそ1.0付近の値を推移しており、あまりNDTスキャンマッチングの信頼度が高いとは言えない。また、図15(F)は、図15(E)に示す信頼度値NRVを用いて式(11)により算出したNDT信頼度指標NRIに相当し、あまり1に近い値とはなっていない。このNDT信頼度指標NRIを用いて式(10)に基づき推定自車位置X^が算出されている。この場合、図14(A)に示す進行方向の誤差は比較例と比べて大きく改善し、図14(B)~図14(D)に示される他の誤差も改善している。このように、NDT位置XNDTとDR位置XDRとのフュージョンにより、自車位置推定精度が向上したことが推察される。
【0114】
また、出願人は、別の種類のライダを用いた追加の実験を行った。追加の実験では、出願人は、長距離を測距可能であって、水平視野角が360度及び動作周波数10Hz(周期100ms)となるライダを搭載した車両をある走行路に対して走行させ、当該走行路に対して事前に作成したボクセルデータ(ND地図)と、走行中に得られたライダの点群データとをマッチングさせて自車位置推定を行った。また、正解となる位置データとして、RTK-GPSの測位結果を用いた。
【0115】
図16(A)~図16(F)及び図17(A)~図17(D)は、NDT位置XNDTを推定自車位置X^として定める比較例に係る自車位置推定結果を示す。ここで、RTK-GPSの測位結果に対して、図16(A)は進行方向の誤差、図16(B)は横方向の誤差、図16(C)は高さ方向の誤差、図16(D)はヨー角の誤差を示し、図16(E)はダウンサンプリング前の点群データの計測点数、図16(F)はダウンサンプリングのサイズを夫々示す。また、図17(A)はダウンサンプリング後の加工点群データの計測点数、図17(B)は対応計測点数Nc、図17(C)は対応付け比率DAR、図17(D)はスコア値E(k)を夫々示す。また、進行方向におけるRMSE値は0.031m、横方向のRMSE値は0.029m、高さ方向のRMSE値は0.027m、方位(ヨー角)のRMSE値は0.051度となった。
【0116】
本実験で用いたライダは、長距離かつ全周囲タイプのため、図16(E)に示すダウンサンプリング前の計測点数は、数万点であり十分に多いデータ数となっている。そのため、図16(F)に示すダウンサンプリングサイズDSSは、図12図15の実験と比較して大きめの値となっている。また、時刻120sと220s付近で対応付け比率DARが低下しているが、ここは、道路がオーバーパスする場所であり、地図情報量が少ないことが原因となっており、その場所以外では対応付け比率DARとスコア値は良好な値となっている。結果として、NDT位置の誤差は良好であるものの、図16(A)の220s付近で少しだけ乱れが生じている。
【0117】
図18(A)~図18(F)及び図19(A)~図19(F)は、NDT位置XNDTとDR位置XDRとのフュージョンにより推定自車位置X^を決定する実施例に係る自車位置推定結果を示す。ここで、RTK-GPSの測位結果に対して、図18(A)は進行方向の誤差、図18(B)は横方向の誤差、図18(C)は高さ方向の誤差、図18(D)はヨー角の誤差を示し、図18(E)はダウンサンプリング前の点群データの計測点数、図18(F)はダウンサンプリングのサイズを夫々示す。また、図19(A)はダウンサンプリング後の加工点群データの計測点数、図19(B)は対応計測点数Nc、図19(C)は対応付け比率DAR、図19(D)はスコア値E(k)、図19(E)は信頼度値NRV、図19(F)はNDT信頼度指標NRIを夫々示す。また、進行方向におけるRMSE値は0.029m、横方向のRMSE値は0.027m、高さ方向のRMSE値は0.024m、方位(ヨー角)のRMSE値は0.050度であり、比較例よりも若干良好な値となった。
【0118】
ここで、図19(E)に示される信頼度値は、120sと220s付近で低下しており、その期間ではNDTスキャンマッチングの信頼度が低下していると言える。また、図19(F)は、図19(E)に示す信頼度値NRVを用いて式(11)により算出したNDT信頼度指標NRIに相当し、120sと220s付近以外は1に近い値を示していることがわかる。このNDT信頼度指標NRIを用いて式(10)に基づき推定自車位置X^が算出されている。この場合、図18(A)~図18(D)に示されるように、220s付近の誤差が改善している。このように、本実験結果においても、NDT位置XNDTとDR位置XDRとのフュージョンにより自己位置推定精度が向上したことが推察される。
【0119】
(8)変形例
以下、上述の実施例に好適な変形例について説明する。以下の変形例は、組み合わせてこれらの実施例に適用してもよい。
【0120】
(変形例1)
式(11)~式(14)における信頼度値NRVに係数「α」を乗じてNDT信頼度指標NRIの算出を行ってもよい。
【0121】
この場合、式(11)~式(14)は、係数aを用いた以下の式(15)~式(18)のように表される。
【0122】
【数11】
また、図20(A)~図20(D)は、式(15)~式(18)の各々に対する信頼度値NRVとNDT信頼度指標NRIとの関係を示すグラフである。図20(A)~図20(D)では、係数aが0.5の場合、1の場合、2の場合の各々に対応するグラフが示されている。
【0123】
そして、本変形例では、係数aは、使用するライダ2の計測精度に応じた値に設定される。例えば、ライダ2の各計測点に含まれる距離計測値及び角度計測値の精度が悪い場合、点群データの計測点の各々に誤差が乗っていることになる。この場合、誤差の大きい点群データを基にしたNDTスキャンマッチングについても誤差が乗った結果となるため、係数aを小さめに設定する。その結果、同じ信頼度値NRVに対してNDT信頼度指標NRIを小さめの値にすることができる。
【0124】
一方、ライダ2の計測精度が高い場合は、NDTスキャンマッチングの精度も良いため、係数aを大きめに設定することで、同じ信頼度値NRVに対してもNDT信頼度指標NRIを大きめの値に設定することができる。
【0125】
なお、使用するライダ2の計測精度はデータシートの値から得られるが、実測により求めても良い。例えば,停車中に特定の対象物を対象のライダ2により連続的に計測し、その値の分散値を求めることで、対象のライダ2の計測精度を実測することが可能となる。
【0126】
また、式(11)~式(18)以外の任意のアルゴリズムに基づき、0~1の値域となるNDT信頼度指標NRIを決定してもよい。
【0127】
例えば、以下のように、NDT信頼度指標NRIを決定してもよい。
NRV<2.5 の場合、 NRI=NRV/2.5
NRV≧2.5 の場合、 NRI=1.0
【0128】
他の例では、以下のように、詳細な場合分けによりNDT信頼度指標NRIを決定してもよい。
NRV<0.5 の場合 NRI=0.5
0.5≦NRV<1.0 の場合 NRI=0.6
1.0≦NRV<1.5 の場合 NRI=0.7
1.5≦NRV<2.0 の場合 NRI=0.8
2.0≦NRV<2.5 の場合 NRI=0.9
2.5≦NRV の場合 NRI=1.0
【0129】
これらの場合においても、フュージョンブロック26は、信頼度値NRVを好適に0~1の範囲に正規化したNDT信頼度指標NRIを決定することができる。
【0130】
(変形例2)
車載機1は、ダウンサンプリングの実行を前提としてダウンサンプリングサイズDSSに基づき信頼度値NRVを算出した。これに代えて、車載機1は、ダウンサンプリングを行わない場合においても、信頼度値NRVを算出し、NDT位置XNDTの重みwの決定に用いてもよい。
【0131】
この場合、車載機1は、ライダ2が出力する点群データに対してボクセルデータVDとの対応付けを行い、NDTスキャンマッチング、スコア値Eの算出、及び対応付け比率DARの算出を行う。そして、車載機1は、算出したスコア値Eと対応付け比率DARとに基づき信頼度値NRVを決定する。この場合の信頼度値NRVは、例えば、スコア値Eと対応付け比率DARとの積とする。そして、車載機1は、信頼度値NRVを実施例又は変形例1に基づき正規化したNDT信頼度指標NRIを算出し、DR位置XDRとNDT位置XNDTとの重み付き平均計算により推定自車位置X^を算出する。
【0132】
このように、ダウンサンプリングを行わない場合においても、車載機1は、推定自車位置X^を好適に算出することができる。
【0133】
(変形例3)
信頼度値NRVは、ダウンサンプリングサイズDSSとスコア値Eと対応付け比率DARとの乗算値に限らず、ダウンサンプリングサイズDSSとスコア値Eと対応付け比率DARと夫々正の相関を有するような任意の式により規定される値であってもよい。また、信頼度値NRVは、ダウンサンプリングサイズDSSとスコア値Eと対応付け比率DARの少なくとも1つ用いて算出されてもよい。言い換えると、信頼度値NRVは、ダウンサンプリングサイズDSSと対応付け比率DARとスコア値Eのいずれか1つ又は2つに基づき算出されてもよい。また、ダウンサンプリング前の計測点数(即ちライダ2が出力する点群データの計測点数)が多いほどダウンサンプリングサイズDSSも大きくなるため、信頼度値NRVは、ダウンサンプリングサイズDSSに代わり、例えば、(ダウンサンプリング前の計測点数/10,000)の値を用いて算出されても良い。
【0134】
(変形例4)
図1に示す運転支援システムの構成は一例であり、本発明が適用可能な運転支援システムの構成は図1に示す構成に限定されない。例えば、運転支援システムは、車載機1を有する代わりに、車両の電子制御装置が車載機1のダウンサンプリング処理部14及び自車位置推定部15の処理を実行してもよい。この場合、地図DB10は、例えば車両内の記憶部又は車両とデータ通信を行うサーバ装置に記憶され、車両の電子制御装置は、この地図DB10を参照することで、ダウンサンプリング及びNDTスキャンマッチングに基づく自車位置推定などを実行する。
【0135】
(変形例5)
ボクセルデータVDは、図5に示すように、平均ベクトルと共分散行列とを含むデータ構造に限定されない。例えば、ボクセルデータVDは、平均ベクトルと共分散行列を算出する際に用いられる計測整備車両が計測した点群データをそのまま含んでいてもよい。
【0136】
以上説明したように、本実施例に係る車載機1のコントローラ13は、車両の第1候補位置であるDR位置XDRを取得する。また、コントローラ13は、車両に設けられた外界センサであるライダ2が出力する点群データと地図データであるボクセルデータVDとの照合であるNDTスキャンマッチングに基づき決定した車両の第2候補位置であるNDT位置XNDTを取得する。さらに、コントローラ13は、NDTスキャンマッチングの信頼度を表す信頼度値NRVを算出する。そして、コントローラ13は、DR位置XDRと、NDT位置XNDTと、信頼度値NRVとに基づき、推定自車位置X^を決定する。このようにすることで、コントローラ13は、周辺に構造物が少ない場合やオクルージョンが発生した場合であっても、位置推定精度の低下を好適に低減することができる。
【0137】
なお、上述した実施例において、プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータであるコントローラ等に供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記憶媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記憶媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記憶媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。
【0138】
以上、実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。すなわち、本願発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。また、引用した上記の特許文献等の各開示は、本書に引用をもって繰り込むものとする。
【符号の説明】
【0139】
1 車載機
2 ライダ
3 ジャイロセンサ
4 車速センサ
5 GPS受信機
10 地図DB
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20