(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109712
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】発光素子
(51)【国際特許分類】
H10K 50/12 20230101AFI20240806BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240806BHJP
H10K 101/10 20230101ALN20240806BHJP
H10K 101/20 20230101ALN20240806BHJP
【FI】
H10K50/12
H10K85/60
H10K101:10
H10K101:20
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024080220
(22)【出願日】2024-05-16
(62)【分割の表示】P 2022094843の分割
【原出願日】2013-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2012025834
(32)【優先日】2012-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 哲史
(57)【要約】
【課題】外部量子効率が高い発光素子を提供する。また、駆動電圧の低い発光素子を提供
する。
【解決手段】一対の電極間に、燐光性化合物及び熱活性化遅延蛍光を示す物質を含む発光
層を有し、該熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルのピーク及び/又は燐光スペ
クトルのピークが、該燐光性化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯と重
なり、一対の電極間に電圧を印加することにより、発光層において、燐光性化合物が燐光
を発する発光素子を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に、燐光性化合物及び熱活性化遅延蛍光を示す物質を含む発光層を有し、
前記熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルのピークと、前記燐光性化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯とが重なり、
前記一対の電極間に電圧を印加することにより、前記発光層において、前記燐光性化合物が燐光を発する発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
有機エレクトロルミネッセンス(EL:Electroluminescence)現象
を利用した発光素子(以下、有機EL素子とも記す)に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の研究開発が盛んに行われている。有機EL素子の基本的な構成は、一対の
電極間に発光物質を含む発光層を挟んだものであり、薄型軽量化できる、入力信号に高速
に応答できる、直流低電圧駆動が可能であるなどの特性から、次世代のフラットパネルデ
ィスプレイ素子として注目されている。また、このような発光素子を用いたディスプレイ
は、コントラストや画質に優れ、視野角が広いという特徴も有している。さらに、有機E
L素子は面光源であるため、液晶ディスプレイのバックライトや照明等の光源としての応
用も考えられている。
【0003】
有機EL素子の発光機構は、キャリア注入型である。すなわち、電極間に発光層を挟んで
電圧を印加することにより、電極から注入された電子及びホール(正孔)が再結合して発
光物質が励起状態となり、その励起状態が基底状態に戻る際に発光する。そして、励起状
態の種類としては、一重項励起状態(S*)と三重項励起状態(T*)が可能である。ま
た、発光素子におけるその統計的な生成比率は、S*:T*=1:3であると考えられて
いる。
【0004】
発光性の有機化合物は通常、基底状態が一重項状態である。したがって、一重項励起状態
(S*)からの発光は、同じスピン多重度間の電子遷移であるため蛍光と呼ばれる。一方
、三重項励起状態(T*)からの発光は、異なるスピン多重度間の電子遷移であるため燐
光と呼ばれる。ここで、蛍光を発する化合物(以下、蛍光性化合物と記す)は室温におい
て、通常、燐光は観測されず蛍光のみが観測される。したがって、蛍光性化合物を用いた
発光素子における内部量子効率(注入したキャリアに対して発生するフォトンの割合)の
理論的限界は、S*:T*=1:3であることを根拠に25%とされている。
【0005】
一方、燐光を発する化合物(以下、燐光性化合物と記す)を用いれば、内部量子効率は1
00%にまで理論上は可能となる。つまり、蛍光性化合物に比べて高い発光効率を得るこ
とが可能になる。このような理由から、高効率な発光素子を実現するために、燐光性化合
物を用いた発光素子の開発が近年盛んに行われている。特に、燐光性化合物としては、そ
の燐光量子収率の高さゆえに、イリジウム等を中心金属とする有機金属錯体が注目されて
おり、例えば、特許文献1には、イリジウムを中心金属とする有機金属錯体が燐光材料と
して開示されている。
【0006】
上述した燐光性化合物を用いて発光素子の発光層を形成する場合、燐光性化合物の濃度消
光や三重項-三重項消滅による消光を抑制するために、他の化合物からなるマトリクス中
に該燐光性化合物が分散するようにして形成することが多い。この時、マトリクスとなる
化合物はホスト材料、燐光性化合物のようにマトリクス中に分散される化合物はゲスト材
料と呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第00/70655号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、一般に、有機EL素子における光取り出し効率は20%~30%程度と言われて
いる。したがって、反射電極や透明電極による光の吸収を考慮すると、燐光性化合物を用
いた発光素子の外部量子効率の限界は、25%程度と考えられている。
【0009】
また、前述の通り、有機EL素子は、ディスプレイや照明への応用が考えられている。こ
のとき、課題の一つとして、消費電力の低減が挙げられる。消費電力を低くするためには
、有機EL素子の駆動電圧を低くすることが重要である。
【0010】
そこで、本発明の一態様は、外部量子効率が高い発光素子を提供することを課題の一とす
る。また、本発明の一態様は、駆動電圧の低い発光素子を提供することを課題の一とする
。
【0011】
なお、以下に開示する発明は、上記課題の少なくともいずれか一つを解決することを目的
とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、一対の電極間に、燐光性化合物及び熱活性化遅延蛍光(Therma
lly activated delayed fluorescence:TADF)
を示す物質を含む発光層を有し、熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルのピーク
と、燐光性化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯とが重なり、一対の電
極間に電圧を印加することにより、発光層において、燐光性化合物が燐光を発する発光素
子である。
【0013】
なお、本明細書等において、熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルは、遅延蛍光
スペクトル(熱活性化遅延蛍光スペクトル)を含む。
【0014】
ここで、遅延蛍光とは、通常の蛍光と同じスペクトルをもちながら、寿命が著しく長い発
光をいう。その寿命は、10-6秒以上、好ましくは10-3秒以上である。
【0015】
上記発光素子において、熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルのピークのエネル
ギー値と、燐光性化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯のピークのエネ
ルギー値との差が、0.3eV以内であると好ましい。
【0016】
また、本発明の一態様は、一対の電極間に、燐光性化合物及び熱活性化遅延蛍光を示す物
質を含む発光層を有し、熱活性化遅延蛍光を示す物質の燐光スペクトルのピークと、燐光
性化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯とが重なり、一対の電極間に電
圧を印加することにより、発光層において、燐光性化合物が燐光を発する発光素子である
。
【0017】
上記発光素子において、熱活性化遅延蛍光を示す物質の燐光スペクトルのピークのエネル
ギー値と、燐光性化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯のピークのエネ
ルギー値との差が、0.3eV以内であると好ましい。
【0018】
また、本発明の一態様は、一対の電極間に、燐光性化合物及び熱活性化遅延蛍光を示す物
質を含む発光層を有し、熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルのピーク及び燐光
スペクトルのピークが、それぞれ燐光性化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側の
吸収帯と重なり、一対の電極間に電圧を印加することにより、発光層において、燐光性化
合物が燐光を発する発光素子である。
【0019】
上記発光素子において、熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルのピークのエネル
ギー値及び燐光スペクトルのピークのエネルギー値は、燐光性化合物の吸収スペクトルの
最も低エネルギー側の吸収帯のピークのエネルギー値との差が、それぞれ0.3eV以内
であることが好ましい。
【0020】
また、上記発光素子において、熱活性化遅延蛍光を示す物質は、蛍光スペクトルのピーク
のエネルギー値と、燐光スペクトルのピークのエネルギー値との差が、0.3eV以内で
あることが好ましい。
【0021】
また、上記発光素子における、燐光性化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸
収帯は、三重項MLCT(Metal to Ligand Charge Trans
fer)遷移に由来する吸収帯を含むことが好ましい。
【0022】
また、上記発光素子において、燐光性化合物は、有機金属錯体であることが好ましく、イ
リジウム錯体であることが特に好ましい。
【0023】
また、上記発光素子における、燐光性化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸
収帯のモル吸光係数は、5000/M・cm以上であることが好ましい。
【0024】
また、上記発光素子において、熱活性化遅延蛍光を示す物質が、π過剰系複素芳香環及び
π欠如系複素芳香環を有する複素環化合物であることが好ましく、π過剰系複素芳香環と
、π欠如系複素芳香環とが、直接結合した複素環化合物であることが特に好ましい。
【0025】
本発明の一態様の発光素子は、発光装置、電子機器及び照明装置に適用することができる
。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様では、外部量子効率が高い発光素子を提供することができる。また、本発
明の一態様では、駆動電圧の低い発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【発明を実施するための形態】
【0028】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定さ
れず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し
得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の
記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する発明の構成において
、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、
その繰り返しの説明は省略する。
【0029】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様の発光素子について
図1を用いて説明する。
【0030】
本発明の一態様の発光素子は、発光物質であるゲスト材料と、該ゲスト材料を分散するホ
スト材料とを発光層に有する。ゲスト材料としては、燐光性化合物を用いる。ホスト材料
としては、熱活性化遅延蛍光を示す物質を用いる。本発明の一態様の発光素子におけるホ
スト材料の燐光スペクトル及び蛍光スペクトル、並びに燐光性化合物の吸収スペクトルの
概念模式図を
図1に示す。
図1において、縦軸は吸収強度及び発光強度、横軸はエネルギ
ーを示す。
【0031】
本発明の一態様の発光素子の発光層は、ゲスト材料の含有量に比べてホスト材料の含有量
が多い。ゲスト材料をホスト材料に分散させた構成とすることにより、発光層の結晶化を
抑制することができる。また、ゲスト材料の濃度が高いことによる濃度消光を抑制し、発
光素子の発光効率を高くすることができる。
【0032】
なお、本実施の形態において、ホスト材料の三重項励起エネルギーの準位(T1準位)は
、ゲスト材料のT1準位よりも高いことが好ましい。ホスト材料のT1準位がゲスト材料
のT1準位よりも低いと、発光に寄与するゲスト材料の三重項励起エネルギーをホスト材
料が消光(クエンチ)してしまい、発光効率の低下を招くためである。
【0033】
<発光の素過程>
まず、燐光性化合物をゲスト材料として用いる発光素子における発光の一般的な素過程を
説明する。
【0034】
(1)電子及びホールがゲスト分子において再結合し、ゲスト分子が励起状態となる場合
(直接再結合過程)。
(1-1)ゲスト分子の励起状態が三重項励起状態のとき
ゲスト分子は燐光を発する。
(1-2)ゲスト分子の励起状態が一重項励起状態のとき
一重項励起状態のゲスト分子は三重項励起状態に項間交差し、燐光を発する。
【0035】
つまり、上記(1)の直接再結合過程においては、ゲスト分子の項間交差効率及び燐光量
子収率さえ高ければ、高い発光効率が得られることになる。なお、上述した通り、ホスト
分子のT1準位は、ゲスト分子のT1準位よりも高いことが好ましい。
【0036】
(2)電子及びホールがホスト分子において再結合し、ホスト分子が励起状態となる場合
(エネルギー移動過程)。
(2-1)ホスト分子の励起状態が三重項励起状態のとき
ホスト分子のT1準位がゲスト分子のT1準位よりも高い場合、ホスト分子からゲスト
分子に励起エネルギーが移動し、ゲスト分子が三重項励起状態となる。三重項励起状態と
なったゲスト分子は燐光を発する。なお、ゲスト分子の一重項励起エネルギーの準位(S
1準位)へのエネルギー移動も形式上あり得るが、多くの場合ゲスト分子のS1準位の方
がホスト分子のT1準位よりも高エネルギー側に位置しており、主たるエネルギー移動過
程になりにくいため、ここでは割愛する。
(2-2)ホスト分子の励起状態が一重項励起状態のとき
ホスト分子のS1準位がゲスト分子のS1準位及びT1準位よりも高い場合、ホスト分
子からゲスト分子に励起エネルギーが移動し、ゲスト分子が一重項励起状態又は三重項励
起状態となる。三重項励起状態となったゲスト分子は燐光を発する。また、一重項励起状
態となったゲスト分子は、三重項励起状態に項間交差し、燐光を発する。
【0037】
つまり、上記(2)のエネルギー移動過程においては、ホスト分子の三重項励起エネルギ
ー及び一重項励起エネルギーの双方が、いかにゲスト分子に効率よく移動できるかが重要
となる。
【0038】
<エネルギー移動過程>
次に、分子間のエネルギー移動過程について詳説する。
【0039】
分子間のエネルギー移動の機構として、以下の2つの機構が提唱されている。ここで、励
起エネルギーを与える側の分子をホスト分子、励起エネルギーを受け取る側の分子をゲス
ト分子と記す。
【0040】
≪フェルスター機構(双極子-双極子相互作用)≫
フェルスター機構は、エネルギー移動に、分子間の直接的接触を必要としない。ホスト分
子及びゲスト分子間の双極子振動の共鳴現象を通じてエネルギー移動が起こる。双極子振
動の共鳴現象によってホスト分子がゲスト分子にエネルギーを受け渡し、ホスト分子が基
底状態になり、ゲスト分子が励起状態になる。フェルスター機構の速度定数kh
*
→gを
数式(1)に示す。
【0041】
【0042】
数式(1)において、νは、振動数を表し、f’h(ν)は、ホスト分子の規格化された
発光スペクトル(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光スペクトル、
三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光スペクトル)を表し、εg(ν
)は、ゲスト分子のモル吸光係数を表し、Nは、アボガドロ数を表し、nは、媒体の屈折
率を表し、Rは、ホスト分子とゲスト分子の分子間距離を表し、τは、実測される励起状
態の寿命(蛍光寿命や燐光寿命)を表し、cは、光速を表し、φは、発光量子収率(一重
項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光量子収率、三重項励起状態からのエ
ネルギー移動を論じる場合は燐光量子収率)を表し、κ2は、ホスト分子とゲスト分子の
遷移双極子モーメントの配向を表す係数(0~4)である。なお、ランダム配向の場合は
κ2=2/3である。
【0043】
≪デクスター機構(電子交換相互作用)≫
デクスター機構は、ホスト分子とゲスト分子が軌道の重なりを生じる接触有効距離に近づ
き、励起状態のホスト分子の電子と基底状態のゲスト分子の電子の交換を通じてエネルギ
ー移動が起こる。デクスター機構の速度定数kh
*
→gを数式(2)に示す。
【0044】
【0045】
数式(2)において、hは、プランク定数であり、Kは、エネルギーの次元を持つ定数で
あり、νは、振動数を表し、f’h(ν)は、ホスト分子の規格化された発光スペクトル
(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光スペクトル、三重項励起状態
からのエネルギー移動を論じる場合は燐光スペクトル)を表し、ε’g(ν)は、ゲスト
分子の規格化された吸収スペクトルを表し、Lは、実効分子半径を表し、Rは、ホスト分
子とゲスト分子の分子間距離を表す。
【0046】
ここで、ホスト分子からゲスト分子へのエネルギー移動効率ΦETは、数式(3)で表さ
れると考えられる。krは、ホスト分子の発光過程(一重項励起状態からのエネルギー移
動を論じる場合は蛍光、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光)の速
度定数を表し、knは、ホスト分子の非発光過程(熱失活や項間交差)の速度定数を表し
、τは、実測されるホスト分子の励起状態の寿命を表す。
【0047】
【0048】
まず、数式(3)より、エネルギー移動効率ΦETを高くするためには、エネルギー移動
の速度定数kh
*
→gを、他の競合する速度定数kr+kn(=1/τ)に比べて遙かに
大きくすればよい。そして、そのエネルギー移動の速度定数kh
*
→gを大きくするため
には、数式(1)及び数式(2)より、フェルスター機構、デクスター機構のどちらの機
構においても、ホスト分子の発光スペクトル(一重項励起状態からのエネルギー移動を論
じる場合は蛍光スペクトル、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光ス
ペクトル)とゲスト分子の吸収スペクトルとの重なりが大きい方が良いことがわかる。
【0049】
ここで、本発明者は、ホスト分子の発光スペクトルとゲスト分子の吸収スペクトルとの重
なりを考える上で、ゲスト分子の吸収スペクトルにおける最も低エネルギー(長波長)側
の吸収帯が重要であると考えた。
【0050】
本実施の形態では、ゲスト材料として燐光性化合物を用いる。燐光性化合物の吸収スペク
トルにおいて、発光に最も強く寄与すると考えられている吸収帯は、一重項基底状態から
三重項励起状態への直接遷移に相当する吸収波長とその近傍であり、それは最も長波長(
低エネルギー)側に現れる吸収帯である。このことから、ホスト材料の発光スペクトル(
蛍光スペクトル及び燐光スペクトル)は、燐光性化合物の吸収スペクトルの最も低エネル
ギー側の吸収帯と重なることが好ましいと考えられる。
【0051】
例えば、有機金属錯体、特に発光性のイリジウム錯体において、最も低エネルギー側の吸
収帯は、2.0~2.5eV付近にブロードな吸収帯が現れる場合が多い(無論、より低
エネルギー側やより高エネルギー側に現れる場合もある)。この吸収帯は、主として、三
重項MLCT遷移に由来する。ただし、該吸収帯には三重項π-π*遷移や一重項MLC
T遷移に由来する吸収帯も一部含まれ、これらが重なって、吸収スペクトルの最も低エネ
ルギー側にブロードな吸収帯を形成していると考えられる。換言すれば、最低一重項励起
状態と最低三重項励起状態の差は小さく、これらに由来する吸収帯が重なって、吸収スペ
クトルの最も低エネルギー側にブロードな吸収帯を形成していると考えられる。したがっ
て、ゲスト材料に、有機金属錯体(特にイリジウム錯体)を用いるときは、このように最
も低エネルギー側に存在するブロードな吸収帯と、ホスト材料の発光スペクトルが大きく
重なる状態が好ましい。
【0052】
上述の議論から、ホスト材料の三重項励起状態からのエネルギー移動においては、ホスト
材料の燐光スペクトルとゲスト材料の最も低エネルギー側の吸収帯との重なりが大きくな
ればよい。また、ホスト材料の一重項励起状態からのエネルギー移動においては、ホスト
材料の蛍光スペクトルとゲスト材料の最も低エネルギー側の吸収帯との重なりが大きくな
ればよい。
【0053】
つまり、三重項励起状態からのエネルギー移動と、一重項励起状態からのエネルギー移動
の双方を効率よく行おうとすると、上述の議論から、ホスト材料の燐光スペクトル及び蛍
光スペクトルの双方をゲスト材料の最も低エネルギー側の吸収帯と重ねるように設計しな
ければならない。
【0054】
ところが、一般に、S1準位とT1準位は大きく異なる(S1準位>T1準位)ため、蛍
光の発光波長と燐光の発光波長も大きく異なる(蛍光の発光波長<燐光の発光波長)。例
えば、燐光性化合物を用いた発光素子において、ホスト材料として良く用いられる4,4
’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)は、500nm付近(3.1e
V程度)に燐光スペクトルを有するが、一方で蛍光スペクトルは400nm付近(2.5
eV程度)であり、100nmもの隔たりがある(エネルギー差に換算すると、0.6e
V以上の差である)。この例から考えてみても、ホスト材料の蛍光スペクトルが燐光スペ
クトルと同じような位置に来るようにホスト材料を設計することは、極めて困難である。
【0055】
ここで、本発明の一態様の発光素子は、ホスト材料として、熱活性化遅延蛍光を示す物質
を用いる。
【0056】
本発明の一態様は、一対の電極間に、燐光性化合物及び熱活性化遅延蛍光を示す物質を含
む発光層を有し、熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルのピークと、燐光性化合
物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯とが重なり、一対の電極間に電圧を印
加することにより、発光層において、燐光性化合物が燐光を発する発光素子である。
【0057】
また、本発明の別の態様は、一対の電極間に、燐光性化合物及び熱活性化遅延蛍光を示す
物質を含む発光層を有し、熱活性化遅延蛍光を示す物質の燐光スペクトルのピークと、燐
光性化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯とが重なり、一対の電極間に
電圧を印加することにより、発光層において、燐光性化合物が燐光を発する発光素子であ
る。
【0058】
熱活性化遅延蛍光を示す物質は、最低三重項励起エネルギーと最低一重項励起エネルギー
との差が小さい。換言すれば、熱活性化遅延蛍光を示す物質の一重項状態からの発光スペ
クトルと三重項状態からの発光スペクトルは、近接することになる。したがって、熱活性
化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルのピーク又は燐光スペクトルのピークを、燐光性
化合物の最も低エネルギー側に位置する吸収帯に重ねるよう設計した場合、熱活性化遅延
蛍光を示す物質の蛍光スペクトル及び燐光スペクトルの双方が、燐光性化合物の最も低エ
ネルギー側に位置する吸収帯に重なる(又は極めて近接する)ことになる(
図1参照)。
このことはすなわち、熱活性化遅延蛍光を示す物質の一重項状態及び三重項状態の双方か
ら、燐光性化合物に対して効率よくエネルギー移動できることを意味する。
【0059】
本発明の一態様の発光素子は、熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルのピーク又
は燐光スペクトルのピークが、燐光性化合物の吸収スペクトルにおける最も低エネルギー
側の吸収帯と重なりを有することで、熱活性化遅延蛍光を示す物質の一重項励起状態及び
三重項励起状態の双方から燐光性化合物へのエネルギー移動が円滑に行われるため、エネ
ルギー移動効率が高い。このように、本発明の一態様では、外部量子効率の高い発光素子
を実現することができる。
【0060】
また、前述のエネルギー移動過程を鑑みれば、ホスト分子からゲスト分子に励起エネルギ
ーが移動する前に、ホスト分子自体がその励起エネルギーを光又は熱として放出して失活
してしまうと、発光効率や寿命が低下することになる。本発明の一態様では、エネルギー
移動が円滑に行われるため、励起エネルギーの失活を抑制することができる。したがって
、寿命の長い発光素子を実現することができる。
【0061】
ここで、熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルのピークのエネルギーが高すぎる
(波長が短すぎる)場合、熱活性化遅延蛍光を示す物質から燐光性化合物にエネルギー移
動して燐光性化合物を発光させるために、より大きな電圧を要することになり、余分なエ
ネルギーを消費してしまうため、好ましくない。
【0062】
この観点から、本発明の一態様において、熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトル
のピークのエネルギーが低い(波長が長い)ほど、発光素子の発光開始電圧が小さくなり
好ましい。本発明の一態様の発光素子は、熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトル
のピークのエネルギーが低いため、駆動電圧を低減しつつ、高い発光効率(外部量子効率
)が得られることにより、高い電力効率が実現できる。
【0063】
なお、このような観点から、熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルのピーク又は
燐光スペクトルのピークが、燐光性化合物の吸収スペクトルにおける最も低エネルギー側
の吸収帯と重なりを有する範囲内においては、該蛍光スペクトルのピークのエネルギーが
、該吸収帯のピークのエネルギーに比べて低くても良い。この場合、比較的高いエネルギ
ー効率を保ったまま、発光素子の駆動電圧を低くすることができるためである。
【0064】
特に、熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルのピーク及び燐光スペクトルのピー
クの双方が、燐光性化合物の吸収スペクトルにおける最も低エネルギー側の吸収帯と重な
りを有すると、エネルギー移動効率が特に高く、外部量子効率が特に高い発光素子を実現
することができるため好ましい。
【0065】
具体的には、本発明の別の態様は、一対の電極間に、燐光性化合物及び熱活性化遅延蛍光
を示す物質を含む発光層を有し、熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルのピーク
及び燐光スペクトルのピークが、それぞれ燐光性化合物の吸収スペクトルの最も低エネル
ギー側の吸収帯と重なり、一対の電極間に電圧を印加することにより、発光層において、
燐光性化合物が燐光を発する発光素子である。
【0066】
また、熱活性化遅延蛍光を示す物質の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルを
十分に重ねるためには、熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルのピークのエネル
ギー値と、燐光性化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯のピークのエネ
ルギー値との差が、0.3eV以内であることが好ましい。より好ましくは0.2eV以
内であり、特に好ましくは0.1eV以内である。また、熱活性化遅延蛍光を示す物質の
燐光スペクトルのピークのエネルギー値と、燐光性化合物の吸収スペクトルの最も低エネ
ルギー側の吸収帯のピークのエネルギー値との差が、0.3eV以内であることが好まし
い。より好ましくは0.2eV以内であり、特に好ましくは0.1eV以内である。
【0067】
前述の通り、本発明の一態様の発光素子でホスト材料として用いる、熱活性化遅延蛍光を
示す物質は、最低三重項励起エネルギーと最低一重項励起エネルギーとが近い。特に、本
発明の一態様の発光素子において、熱活性化遅延蛍光を示す物質の蛍光スペクトルのピー
クのエネルギー値と、該熱活性化遅延蛍光を示す物質の燐光スペクトルのピークのエネル
ギー値との差が、0.3eV以内であることが好ましい。
【0068】
上記発光素子において、燐光性化合物の吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯が
、三重項MLCT遷移に由来する吸収帯を含むことが好ましい。三重項MLCT励起状態
は、ゲスト材料である燐光性化合物の最低三重項励起状態であるため、燐光性化合物はこ
の励起状態から燐光を発する。つまり、三重項MLCT励起状態からは、発光以外の失活
過程が少なく、この励起状態の割合をできる限り多くするのが高い発光効率に繋がると考
えられる。このような理由から、三重項MLCT遷移に由来する吸収帯を利用して、熱活
性化遅延蛍光を示す物質から三重項MLCT励起状態に直接エネルギー移動するエネルギ
ー移動過程が多いことが好ましいと言える。また、上記発光素子において、燐光性化合物
は有機金属錯体、特にイリジウム錯体が好ましい。
【0069】
なお、熱活性化遅延蛍光を示す物質の励起エネルギーは燐光性化合物に十分にエネルギー
移動し、一重項励起状態からの蛍光発光(遅延蛍光発光)は実質的に観察されないことが
好ましい。
【0070】
さらに、熱活性化遅延蛍光を示す物質の一重項励起状態からのエネルギー移動は、フェル
スター機構が重要と考えられる。このことを考慮すると、数式(1)から、燐光性化合物
の最も低エネルギー側に位置する吸収帯のモル吸光係数は、2000/M・cm以上が好
ましく、5000/M・cm以上がより好ましい。
【0071】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせることができる。
【0072】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様の発光素子について
図2を用いて説明する。
【0073】
本実施の形態で例示する発光素子は、一対の電極(第1の電極及び第2の電極)と、該一
対の電極間に設けられたEL層と、を有する。該一対の電極は、一方が陽極、他方が陰極
として機能する。該EL層は、少なくとも発光層を有し、該発光層は、発光物質であるゲ
スト材料と、該ゲスト材料を分散するホスト材料とを有する。ゲスト材料としては、燐光
性化合物を用いる。ホスト材料としては、熱活性化遅延蛍光を示す物質を用いる。
【0074】
本発明の一態様の発光素子には、トップエミッション(上面射出)構造、ボトムエミッシ
ョン(下面射出)構造、デュアルエミッション(両面射出)構造のいずれも適用すること
ができる。
【0075】
以下に、本発明の一態様の発光素子の具体的な構成例について示す。
【0076】
図2(A)に示す発光素子は、第1の電極201及び第2の電極205の間にEL層20
3を有する。本実施の形態では、第1の電極201が陽極として機能し、第2の電極20
5が陰極として機能する。
【0077】
第1の電極201と第2の電極205の間に、発光素子の閾値電圧より高い電圧を印加す
ると、EL層203に第1の電極201側から正孔が注入され、第2の電極205側から
電子が注入される。注入された電子と正孔はEL層203において再結合し、EL層20
3に含まれる発光物質が発光する。
【0078】
EL層203は、上述の通り、少なくとも発光層を有する。EL層203は、発光層以外
の層として、正孔注入性の高い物質、正孔輸送性の高い物質、正孔ブロック材料、電子輸
送性の高い物質、電子注入性の高い物質、又はバイポーラ性の物質(電子輸送性及び正孔
輸送性が高い物質)等を含む層をさらに有していても良い。
【0079】
EL層203には公知の物質を用いることができ、低分子系化合物及び高分子系化合物の
いずれを用いることもでき、無機化合物を含んでいても良い。
【0080】
EL層203の具体的な構成例を、
図2(B)に示す。
図2(B)に示すEL層203で
は、正孔注入層301、正孔輸送層302、発光層303、電子輸送層304及び電子注
入層305が、第1の電極201側からこの順に積層されている。
【0081】
図2(C)に示す発光素子は、第1の電極201及び第2の電極205の間にEL層20
3を有し、さらに、EL層203及び第2の電極205の間に、中間層207を有する。
【0082】
中間層207の具体的な構成例を、
図2(D)に示す。中間層207は、電荷発生領域3
08を少なくとも有する。中間層207は、電荷発生領域308以外の層として、電子リ
レー層307や、電子注入バッファー層306をさらに有していても良い。
【0083】
第1の電極201と第2の電極205の間に、発光素子の閾値電圧より高い電圧を印加す
ると、電荷発生領域308において、正孔と電子が発生し、正孔は第2の電極205へ移
動し、電子は電子リレー層307へ移動する。電子リレー層307は電子輸送性が高く、
電荷発生領域308で生じた電子を電子注入バッファー層306に速やかに受け渡す。電
子注入バッファー層306はEL層203に電子を注入する障壁を緩和し、EL層203
への電子注入効率を高める。従って、電荷発生領域308で発生した電子は、電子リレー
層307と電子注入バッファー層306を経て、EL層203のLUMO準位に注入され
る。
【0084】
また、電子リレー層307は、電荷発生領域308を構成する物質と電子注入バッファー
層306を構成する物質が界面で反応し、互いの機能が損なわれてしまう等の相互作用を
防ぐことができる。
【0085】
図2(E)(F)に示す発光素子のように、第1の電極201及び第2の電極205の間
に複数のEL層が積層されていても良い。この場合、積層されたEL層の間には、中間層
207を設けることが好ましい。例えば、
図2(E)に示す発光素子は、第1のEL層2
03aと第2のEL層203bとの間に、中間層207を有する。また、
図2(F)に示
す発光素子は、EL層をn層(nは2以上の自然数)有し、m番目のEL層203(m)
(mは1以上(n-1)以下の自然数)と、(m+1)番目のEL層203(m+1)と
の間に、中間層207を有する。
【0086】
EL層203(m)とEL層203(m+1)の間に設けられた中間層207における電
子と正孔の挙動について説明する。第1の電極201と第2の電極205の間に、発光素
子の閾値電圧より高い電圧を印加すると、中間層207において正孔と電子が発生し、正
孔は第2の電極205側に設けられたEL層203(m+1)へ移動し、電子は第1の電
極201側に設けられたEL層203(m)へ移動する。EL層203(m+1)に注入
された正孔は、第2の電極205側から注入された電子と再結合し、当該EL層203(
m+1)に含まれる発光物質が発光する。また、EL層203(m)に注入された電子は
、第1の電極201側から注入された正孔と再結合し、当該EL層203(m)に含まれ
る発光物質が発光する。よって、中間層207において発生した正孔と電子は、それぞれ
異なるEL層において発光に至る。
【0087】
なお、EL層同士を接して設けることで、両者の間に中間層と同じ構成が形成される場合
は、EL層同士を接して設けることができる。例えば、EL層の一方の面に電荷発生領域
が形成されている場合、その面に接してさらにEL層を設けることができる。
【0088】
また、それぞれのEL層の発光色を異なるものにすることで、発光素子全体として、所望
の色の発光を得ることができる。例えば、2つのEL層を有する発光素子において、第1
のEL層の発光色と第2のEL層の発光色を補色の関係になるようにすることで、発光素
子全体として白色発光する発光素子を得ることも可能である。なお、補色とは、混合する
と無彩色になる色同士の関係をいう。つまり、補色の関係にある色を発光する物質から得
られた光を混合すると、白色発光を得ることができる。また、3つ以上のEL層を有する
発光素子の場合でも同様である。
【0089】
図2(A)乃至(F)は、互いに組み合わせて用いることができる。例えば、
図2(F)
の第2の電極205とEL層203(n)の間に中間層207を設けることもできる。
【0090】
以下に、それぞれの層に用いることができる材料を例示する。なお、各層は、単層に限ら
れず、二層以上積層しても良い。
【0091】
〈陽極〉
陽極として機能する電極(本実施の形態では第1の電極201)は、導電性を有する金属
、合金、導電性化合物等を1種又は複数種用いて形成することができる。特に、仕事関数
の大きい(4.0eV以上)材料を用いることが好ましい。例えば、インジウムスズ酸化
物(ITO:Indium Tin Oxide)、珪素若しくは酸化珪素を含有したイ
ンジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した
酸化インジウム、グラフェン、金、白金、ニッケル、タングステン、クロム、モリブデン
、鉄、コバルト、銅、パラジウム、又は金属材料の窒化物(例えば、窒化チタン)等が挙
げられる。
【0092】
なお、陽極が電荷発生領域と接する場合は、仕事関数の大きさを考慮せずに、様々な導電
性材料を用いることができ、例えば、アルミニウム、銀、アルミニウムを含む合金等も用
いることができる。
【0093】
〈陰極〉
陰極として機能する電極(本実施の形態では第2の電極205)は、導電性を有する金属
、合金、導電性化合物などを1種又は複数種用いて形成することができる。特に、仕事関
数が小さい(3.8eV以下)材料を用いることが好ましい。例えば、元素周期表の第1
族又は第2族に属する元素(例えば、リチウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム
、ストロンチウム等のアルカリ土類金属、マグネシウム等)、これら元素を含む合金(例
えば、Mg-Ag、Al-Li)、ユーロピウム、イッテルビウム等の希土類金属、これ
ら希土類金属を含む合金、アルミニウム、銀等を用いることができる。
【0094】
なお、陰極が電荷発生領域と接する場合は、仕事関数の大きさを考慮せずに、様々な導電
性材料を用いることができる。例えば、ITO、珪素又は酸化珪素を含有したインジウム
スズ酸化物等も用いることができる。
【0095】
発光素子は、陽極又は陰極の一方が可視光を透過する導電膜であり、他方が可視光を反射
する導電膜である構成としても良いし、陽極及び陰極の両方が可視光を透過する導電膜で
ある構成としても良い。
【0096】
可視光を透過する導電膜は、例えば、酸化インジウム、ITO、インジウム亜鉛酸化物、
酸化亜鉛、ガリウムを添加した酸化亜鉛などを用いて形成することができる。また、金、
白金、ニッケル、タングステン、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、銅、パラジウム、
もしくはチタン等の金属材料、又はこれら金属材料の窒化物(例えば、窒化チタン)等も
、透光性を有する程度に薄く形成することで用いることができる。また、グラフェン等を
用いても良い。
【0097】
可視光を反射する導電膜は、例えば、アルミニウム、金、白金、銀、ニッケル、タングス
テン、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、銅、もしくはパラジウム等の金属材料、アル
ミニウムとチタンの合金、アルミニウムとニッケルの合金、アルミニウムとネオジムの合
金等のアルミニウムを含む合金(アルミニウム合金)、又は、銀と銅の合金等の銀を含む
合金を用いて形成することができる。銀と銅の合金は、耐熱性が高いため好ましい。また
、上記金属材料や合金に、ランタン、ネオジム、又はゲルマニウム等が添加されていても
良い。
【0098】
電極は、それぞれ、真空蒸着法やスパッタリング法を用いて形成すれば良い。また、銀ペ
ースト等を用いる場合には、塗布法やインクジェット法を用いれば良い。
【0099】
〈正孔注入層301〉
正孔注入層301は、正孔注入性の高い物質を含む層である。
【0100】
正孔注入性の高い物質としては、例えば、モリブデン酸化物、チタン酸化物、バナジウム
酸化物、レニウム酸化物、ルテニウム酸化物、クロム酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフ
ニウム酸化物、タンタル酸化物、銀酸化物、タングステン酸化物、マンガン酸化物等の金
属酸化物等を用いることができる。
【0101】
また、フタロシアニン(略称:H2Pc)、銅(II)フタロシアニン(略称:CuPc
)等のフタロシアニン系の化合物を用いることができる。
【0102】
また、低分子の有機化合物である4,4’,4’’-トリス(N,N-ジフェニルアミノ
)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’,4’’-トリス[N-(3-メ
チルフェニル)-N-フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、4
,4’-ビス[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]ビフェニ
ル(略称:DPAB)、4,4’-ビス(N-{4-[N’-(3-メチルフェニル)-
N’-フェニルアミノ]フェニル}-N-フェニルアミノ)ビフェニル(略称:DNTP
D)、1,3,5-トリス[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミ
ノ]ベンゼン(略称:DPA3B)、3-[N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル
)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA1)、3,
6-ビス[N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-N-フェニルアミノ]-9-
フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA2)、3-[N-(1-ナフチル)-N-(
9-フェニルカルバゾール-3-イル)アミノ]-9-フェニルカルバゾール(略称:P
CzPCN1)等の芳香族アミン化合物を用いることができる。
【0103】
また、ポリ(N-ビニルカルバゾール)(略称:PVK)、ポリ(4-ビニルトリフェニ
ルアミン)(略称:PVTPA)、ポリ[N-(4-{N’-[4-(4-ジフェニルア
ミノ)フェニル]フェニル-N’-フェニルアミノ}フェニル)メタクリルアミド](略
称:PTPDMA)、ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(
フェニル)ベンジジン](略称:Poly-TPD)等の高分子化合物、ポリ(3,4-
エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)、
ポリアニリン/ポリ(スチレンスルホン酸)(PAni/PSS)等の酸を添加した高分
子化合物を用いることができる。
【0104】
また、正孔注入層301を、電荷発生領域としても良い。陽極と接する正孔注入層301
が電荷発生領域であると、仕事関数を考慮せずに様々な導電性材料を該陽極に用いること
ができる。電荷発生領域を構成する材料については後述する。
【0105】
〈正孔輸送層302〉
正孔輸送層302は、正孔輸送性の高い物質を含む層である。
【0106】
正孔輸送性の高い物質としては、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば良く、特に
、10-6cm2/Vs以上の正孔移動度を有する物質であることが好ましい。
【0107】
例えば、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略
称:NPB又はα-NPD)、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ジフ
ェニル-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジアミン(略称:TPD)、4-フェニ
ル-4’-(9-フェニルフルオレン-9-イル)トリフェニルアミン(略称:BPAF
LP)、4,4’-ビス[N-(9,9-ジメチルフルオレン-2-イル)-N-フェニ
ルアミノ]ビフェニル(略称:DFLDPBi)、4,4’-ビス[N-(スピロ-9,
9’-ビフルオレン-2-イル)-N―フェニルアミノ]ビフェニル(略称:BSPB)
等の芳香族アミン化合物を用いることができる。
【0108】
また、4,4’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)、9-[4-(1
0-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール(略称:CzPA)、
9-フェニル-3-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カル
バゾール(略称:PCzPA)等のカルバゾール誘導体を用いることができる。
【0109】
また、2-tert-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン(略称:t-
BuDNA)、9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン(略称:DNA)、9,10
-ジフェニルアントラセン(略称:DPAnth)等の芳香族炭化水素化合物を用いるこ
とができる。
【0110】
また、PVK、PVTPA、PTPDMA、Poly-TPD等の高分子化合物を用いる
ことができる。
【0111】
〈発光層303〉
発光層303は、発光物質であるゲスト材料と、該ゲスト材料を分散するホスト材料とを
含む層である。ゲスト材料としては、燐光を発光する燐光性化合物を用いる。ホスト材料
としては、熱活性化遅延蛍光を示す物質を用いる。
【0112】
ゲスト材料である燐光性化合物としては、有機金属錯体が好ましく、イリジウム錯体が特
に好ましい。なお、上述のフェルスター機構によるエネルギー移動を考慮すると、燐光性
化合物の最も低エネルギー側に位置する吸収帯のモル吸光係数は、2000/M・cm以
上が好ましく、5000/M・cm以上がより好ましい。このような大きなモル吸光係数
を有する化合物としては、アリールジアジン(アリール基が結合したピリダジン、ピリミ
ジン、又はピラジン)を配位子とする燐光性有機金属イリジウム錯体が好ましく、特に、
フェニルピリミジン誘導体又はフェニルピラジン誘導体のフェニル基の炭素がイリジウム
と結合した燐光性オルトメタル化イリジウム錯体が好ましい。具体的には、ビス(3,5
-ジメチル-2-フェニルピラジナト)(ジピバロイルメタナト)イリジウム(III)
(略称:[Ir(mppr-Me)2(dpm)])、(アセチルアセトナト)ビス(4
,6-ジフェニルピリミジナト)イリジウム(III)(別名:ビス[2-(6-フェニ
ル-4-ピリミジニル-κN3)フェニル-κC](2,4-ペンタンジオナト-κ2O
,O’)イリジウム(III))(略称:[Ir(dppm)2(acac)])、ビス
(2,3,5-トリフェニルピラジナト)(ジピバロイルメタナト)イリジウム(III
)(略称:[Ir(tppr)2(dpm)])、(アセチルアセトナト)ビス(6-メ
チル-4-フェニルピリミジナト)イリジウム(III)(別名:ビス[2-(6-メチ
ル-4-ピリミジニル-κN3)フェニル-κC](2,4-ペンタンジオナト-κ2O
,O’)イリジウム(III))(略称:[Ir(mppm)2(acac)])、(ア
セチルアセトナト)ビス(6-tert-ブチル-4-フェニルピリミジナト)イリジウ
ム(III)(別名:ビス[2-(6-tert-ブチル-4-ピリミジニル-κN3)
フェニル-κC](2,4-ペンタンジオナト-κ2O,O’)イリジウム(III))
(略称:[Ir(tBuppm)2(acac)])等が挙げられる。
【0113】
ホスト材料としては、公知の熱活性化遅延蛍光を示す物質を用いることができる。熱活性
化遅延蛍光を示す物質としては、例えば、フラーレンやその誘導体、プロフラビン等のア
クリジン誘導体、エオシン等が挙げられる。
【0114】
また、熱活性化遅延蛍光を示す物質としては、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、カ
ドミウム(Cd)、スズ(Sn)、白金(Pt)、インジウム(In)、もしくはパラジ
ウム(Pd)等を含む金属含有ポルフィリンが挙げられる。該金属含有ポルフィリンとし
ては、例えば、以下の構造式に示されるプロトポルフィリン-フッ化スズ錯体(略称:S
nF2(Proto IX))、メソポルフィリン-フッ化スズ錯体(略称:SnF2(
Meso IX))、ヘマトポルフィリン-フッ化スズ錯体(略称:SnF2(Hema
to IX))、コプロポルフィリンテトラメチルエステル-フッ化スズ錯体(略称:S
nF2(Copro III-4Me))、オクタエチルポルフィリン-フッ化スズ錯体
(略称:SnF2(OEP))、エチオポルフィリン-フッ化スズ錯体(略称:SnF2
(Etio I))、オクタエチルポルフィリン-塩化白金錯体(略称:PtCl2(O
EP))等が挙げられる。
【0115】
【0116】
【0117】
また、熱活性化遅延蛍光を示す物質としては、以下の構造式に示される2-(ビフェニル
-4-イル)-4,6-ビス(12-フェニルインドロ[2,3-a]カルバゾール-1
1-イル)-1,3,5-トリアジン(略称:PIC-TRZ)等のπ過剰系複素芳香環
及びπ欠如系複素芳香環を有する複素環化合物を用いることができる。該複素環化合物は
、π過剰系複素芳香環及びπ欠如系複素芳香環を有するため、電子輸送性及び正孔輸送性
が高く、好ましい。なお、π過剰系複素芳香環とπ欠如系複素芳香環とが直接結合した物
質は、π過剰系複素芳香環のドナー性とπ欠如系複素芳香環のアクセプター性が共に強く
なり、S1とT1のエネルギー差が小さくなるため、特に好ましい。
【0118】
【0119】
また、発光層を複数設け、それぞれの層の発光色を異なるものにすることで、発光素子全
体として、所望の色の発光を得ることができる。例えば、発光層を2つ有する発光素子に
おいて、第1の発光層の発光色と第2の発光層の発光色を補色の関係になるようにするこ
とで、発光素子全体として白色発光する発光素子を得ることも可能である。また、発光層
を3つ以上有する発光素子の場合でも同様である。
【0120】
〈電子輸送層304〉
電子輸送層304は、電子輸送性の高い物質を含む層である。
【0121】
電子輸送性の高い物質としては、正孔よりも電子の輸送性の高い有機化合物であれば良く
、特に、10-6cm2/Vs以上の電子移動度を有する物質であることが好ましい。
【0122】
例えば、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(III)(略称:Alq)、トリス
(4-メチル-8-キノリノラト)アルミニウム(略称:Almq3)、ビス(10-ヒ
ドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(略称:BeBq2)、ビス(2-メチル
-8-キノリノラト)(4-フェニルフェノラト)アルミニウム(III)(略称:BA
lq)、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾラト]亜鉛(略称:Zn
(BOX)2)、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(略称
:Zn(BTZ)2)等の金属錯体を用いることができる。
【0123】
また、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4
-オキサジアゾール(略称:PBD)、1,3-ビス[5-(p-tert-ブチルフェ
ニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベンゼン(略称:OXD-7)、3
-(4-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-5-(4-ビフェニリル)-1,
2,4-トリアゾール(略称:TAZ)、3-(4-tert-ブチルフェニル)-4-
(4-エチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,2,4-トリアゾール(略称
:p-EtTAZ)、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(
略称:BCP)、4,4’-ビス(5-メチルベンゾオキサゾール-2-イル)スチルベ
ン(略称:BzOs)等の複素芳香族化合物を用いることができる。
【0124】
また、ポリ(2,5-ピリジンジイル)(略称:PPy)、ポリ[(9,9-ジヘキシル
フルオレン-2,7-ジイル)-co-(ピリジン-3,5-ジイル)](略称:PF-
Py)、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(2,2’
-ビピリジン-6,6’-ジイル)](略称:PF-BPy)等の高分子化合物を用いる
ことができる。
【0125】
〈電子注入層305〉
電子注入層305は、電子注入性の高い物質を含む層である。
【0126】
電子注入性の高い物質としては、例えば、リチウム、セシウム、カルシウム、酸化リチウ
ム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化カルシウム
、フッ化エルビウム等のようなアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属又はこれら
の化合物(酸化物、炭酸塩、ハロゲン化物など)を用いることができる。
【0127】
また、電子注入層305は、前述の電子輸送性の高い物質とドナー性物質とを含む構成と
しても良い。例えば、Alq中にマグネシウム(Mg)を含有させることで電子注入層3
05を形成しても良い。電子輸送性の高い物質とドナー性物質を含む場合、電子輸送性の
高い物質に対するドナー性物質の添加量の質量比は0.001以上0.1以下の比率が好
ましい。
【0128】
ドナー性の物質としては、リチウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、エルビウム
、イッテルビウム、酸化リチウム、カルシウム酸化物、バリウム酸化物、酸化マグネシウ
ム等のような、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、又はこれらの化合物(酸
化物など)、ルイス塩基の他、テトラチアフルバレン(略称:TTF)、テトラチアナフ
タセン(略称:TTN)、ニッケロセン、デカメチルニッケロセン等の有機化合物を用い
ることができる。
【0129】
〈電荷発生領域〉
正孔注入層を構成する電荷発生領域や、電荷発生領域308は、正孔輸送性の高い物質と
アクセプター性物質(電子受容体)を含む領域である。アクセプター性物質は、正孔輸送
性の高い物質に対して質量比で0.1以上4.0以下の比率で添加されていることが好ま
しい。
【0130】
また、電荷発生領域は、同一膜中に正孔輸送性の高い物質とアクセプター性物質を含有す
る場合だけでなく、正孔輸送性の高い物質を含む層とアクセプター性物質を含む層とが積
層されていても良い。但し、電荷発生領域を陰極側に設ける場合には、正孔輸送性の高い
物質を含む層が陰極と接する構造となり、電荷発生領域を陽極側に設ける積層構造の場合
には、アクセプター性物質を含む層が陽極と接する構造となる。
【0131】
正孔輸送性の高い物質としては、電子よりも正孔の輸送性の高い有機化合物であれば良く
、特に、10-6cm2/Vs以上の正孔移動度を有する有機化合物であることが好まし
い。
【0132】
具体的には、NPB、BPAFLP等の芳香族アミン化合物、CBP、CzPA、PCz
PA等のカルバゾール誘導体、t-BuDNA、DNA、DPAnth等の芳香族炭化水
素化合物、PVK、PVTPA等の高分子化合物など、正孔輸送層302に用いることが
できる物質として例示した正孔輸送性の高い物質を用いることができる。
【0133】
アクセプター性物質としては、7,7,8,8-テトラシアノ-2,3,5,6-テトラ
フルオロキノジメタン(略称:F4-TCNQ)、クロラニル等の有機化合物、遷移金属
酸化物、元素周期表における第4族乃至第8族に属する金属の酸化物を挙げることができ
る。具体的には、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化クロム、酸化モリブ
デン、酸化タングステン、酸化マンガン、酸化レニウムは電子受容性が高いため好ましい
。特に、酸化モリブデンは、大気中で安定であり、吸湿性が低く、扱いやすいため、好ま
しい。
【0134】
〈電子注入バッファー層306〉
電子注入バッファー層306は、電子注入性の高い物質を含む層である。電子注入バッフ
ァー層306は、電荷発生領域308からEL層203への電子の注入を容易にする。電
子注入性の高い物質としては、前述の材料を用いることができる。また、電子注入バッフ
ァー層306は、前述の電子輸送性の高い物質とドナー性物質を含む構成としても良い。
【0135】
〈電子リレー層307〉
電子リレー層307では、電荷発生領域308においてアクセプター性物質が引き抜いた
電子を速やかに受け取る。
【0136】
電子リレー層307は、電子輸送性の高い物質を含む。該電子輸送性の高い物質としては
フタロシアニン系の材料又は金属-酸素結合と芳香族配位子を有する金属錯体を用いるこ
とが好ましい。
【0137】
該フタロシアニン系材料としては、具体的にはCuPc、SnPc(Phthalocy
anine tin(II) complex)、ZnPc(Phthalocyani
ne zinc complex)、CoPc(Cobalt(II)phthaloc
yanine, β-form)、FePc(Phthalocyanine Iron
)、PhO-VOPc(Vanadyl 2,9,16,23-tetraphenox
y-29H,31H-phthalocyanine)等が挙げられる。
【0138】
該金属-酸素結合と芳香族配位子を有する金属錯体としては、金属-酸素の二重結合を有
する金属錯体を用いることが好ましい。金属-酸素の二重結合はアクセプター性を有する
ため、電子の移動(授受)がより容易になる。
【0139】
また、該金属-酸素結合と芳香族配位子を有する金属錯体としては、フタロシアニン系材
料が好ましい。特に、VOPc(Vanadyl phthalocyanine)、S
nOPc(Phthalocyanine tin(IV) oxide comple
x)、TiOPc(Phthalocyanine titanium oxide c
omplex)は、分子構造的に金属-酸素の二重結合が他の分子に対して作用しやすく
、アクセプター性が高いため、好ましい。
【0140】
該フタロシアニン系材料としては、フェノキシ基を有するものが好ましく、具体的にはP
hO-VOPcのような、フェノキシ基を有するフタロシアニン誘導体が好ましい。フェ
ノキシ基を有するフタロシアニン誘導体は、溶媒に可溶であるため、発光素子を形成する
上で扱いやすい、かつ、成膜に用いる装置のメンテナンスが容易であるという利点を有す
る。
【0141】
また、その他の電子輸送性の高い物質として、例えば、3,4,9,10-ペリレンテト
ラカルボン酸二無水物(略称:PTCDA)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボ
キシリックビスベンゾイミダゾール(略称:PTCBI)、N,N’-ジオクチル-3,
4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(略称:PTCDI-C8H)、N,
N’-ジヘキシル-3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(略称:He
x PTC)等のペリレン誘導体や、ピラジノ[2,3-f][1,10]フェナントロ
リン-2,3-ジカルボニトリル(略称:PPDN)、2,3,6,7,10,11-ヘ
キサシアノ-1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン(略称:HAT(C
N)6)、2,3-ジフェニルピリド[2,3-b]ピラジン(略称:2PYPR)、2
,3-ビス(4-フルオロフェニル)ピリド[2,3-b]ピラジン(略称:F2PYP
R)等の含窒素縮合芳香族化合物などを用いても良い。含窒素縮合芳香族化合物は安定で
あるため、電子リレー層307を形成する為に用いる材料として好ましい。
【0142】
また、7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(略称:TCNQ)、1,4,5,8
-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(略称:NTCDA)、パーフルオロペンタセン
、銅ヘキサデカフルオロフタロシアニン(略称:F16CuPc)、N,N’-ビス(2
,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ペンタデカフルオロオク
チル)-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(略称:NTCDI-C
8F)、3’,4’-ジブチル-5,5’’-ビス(ジシアノメチレン)-5,5’’-
ジヒドロ-2,2’:5’,2’’-テルチオフェン(略称:DCMT)、メタノフラー
レン(例えば、[6,6]-フェニルC61酪酸メチルエステル)等を用いることができ
る。
【0143】
電子リレー層307は、上述のドナー性物質をさらに含んでいても良い。電子リレー層3
07にドナー性物質を含ませることによって、電子の移動が容易となり、発光素子をより
低電圧で駆動することが可能になる。
【0144】
該電子輸送性の高い物質や該ドナー性物質のLUMO準位は、電荷発生領域308に含ま
れるアクセプター性物質のLUMO準位と、電子輸送層304に含まれる電子輸送性の高
い物質のLUMO準位(又は電子リレー層307もしくは電子注入バッファー層306が
接するEL層203のLUMO準位)の間となるようにする。LUMO準位は、-5.0
eV以上-3.0eV以下とするのが好ましい。なお、電子リレー層307にドナー性物
質を含ませる場合、電子輸送性の高い物質として、電荷発生領域308に含まれるアクセ
プター性物質のアクセプター準位より高いLUMO準位を有する物質を用いることができ
る。
【0145】
なお、上述したEL層203及び中間層207を構成する層は、それぞれ、蒸着法(真空
蒸着法を含む)、転写法、印刷法、インクジェット法、塗布法等の方法で形成することが
できる。
【0146】
本実施の形態で示した発光素子を用いて、パッシブマトリクス方式の発光装置や、トラン
ジスタによって発光素子の駆動が制御されたアクティブマトリクス方式の発光装置を作製
することができる。また、該発光装置を電子機器又は照明装置等に適用することができる
。
【0147】
本実施の形態は、他の実施の形態と自由に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0148】
201 第1の電極
203 EL層
203a 第1のEL層
203b 第2のEL層
205 第2の電極
207 中間層
301 正孔注入層
302 正孔輸送層
303 発光層
304 電子輸送層
305 電子注入層
306 電子注入バッファー層
307 電子リレー層
308 電荷発生領域