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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109770
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】食品用ブチレート
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/115 20160101AFI20240806BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 31/231 20060101ALI20240806BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
A23L33/115
A61P1/14
A61K31/231
A23C9/152
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024083057
(22)【出願日】2024-05-22
(62)【分割の表示】P 2020560448の分割
【原出願日】2019-05-21
(31)【優先権主張番号】18175643.8
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19164114.1
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ブランチャード, カリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】デスタイラッツ, フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】フォーブス-ブロム, エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】ウルトリング, ヘイコー
(72)【発明者】
【氏名】パティン, アマウリー
(72)【発明者】
【氏名】ウースター, ティモシー ジェイムズ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】改良された感覚刺激特性を有する、食品原料のブチレートを提供する。
【解決手段】式(1)、(2)、(3)、又は(4)

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせの、改良された感覚刺激特性を有するブチレートの供給源を提供するための、使用。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改良された感覚刺激特性を有するブチレートの供給源を提供するための、式
【化1】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせの使用。
【請求項2】
前記化合物又はその組み合わせが、栄養組成物、好ましくは栄養補助食品、乳児用調整乳、又はフォローオンミルク中に存在する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ブチレートの供給源を提供するための、式
【化2】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせを含む栄養補助食品。
【請求項4】
カプセル、錠剤、サッシェ、又は粉末の形態の、請求項3に記載の栄養補助食品。
【請求項5】

【化3】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせを含む、乳児用調整乳又はフォローオンミルク。
【請求項6】
ブチレートの供給源を提供するための、請求項5に記載の乳児用調整乳又はフォローオンミルク。
【請求項7】
胃腸(GI)の健康を改善又は維持するのに使用するための、式
【化4】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせ。
【請求項8】
式(1)を有する化合物と式(2)を有する化合物との組み合わせが使用され、好ましくは前記組み合わせが、式(1)を有する化合物をトリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量で含み、かつ、式(2)を有する化合物をトリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量で含む組成物において存在するものである、請求項1又は2に記載の使用、請求項3又は4に記載の栄養補助食品、請求項5又は6に記載の乳児用調整乳又はフォローオンミルク、又は請求項7に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
式(1)を有する化合物と式(2)を有する化合物との組み合わせが使用され、前記組み合わせが、式(1)を有する化合物をブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量で含み、かつ式(2)を有する化合物をブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量で含む組成物において存在するものである、請求項1又は2に記載の使用、請求項3又は4に記載の栄養補助食品、請求項5又は6に記載の乳児用調整乳又はフォローオンミルク、又は請求項7に記載の使用のための化合物。
【請求項10】
式(1)を有する化合物と、式(2)を有する化合物と、式(3)を有する化合物と、式(4)を有する化合物と、の組み合わせが使用される、請求項1、2、8、又は9に記載の使用、請求項3、4、8、又は9に記載の栄養補助食品、請求項5、6、8、又は9に記載の乳児用調整乳又はフォローオンミルク、あるいは請求項7、8、又は9に記載の使用のための化合物。
【請求項11】
、R、R、R、R、及び/又はRが不飽和脂肪酸であり、好ましくはモノ不飽和脂肪酸である、請求項1、2、又は8~10に記載の使用、請求項3、4、又は8~10に記載の栄養補助食品、請求項5、6、又は8~10に記載の乳児用調整乳又はフォローオンミルク、あるいは請求項7、又は8~10に記載の使用のための化合物。
【請求項12】
、R、R、R、R、及び/又はRが、オレイン酸、パルミチン酸、又はリノール酸からなる群から選択される、請求項1、2、又は8~10に記載の使用、請求項3、4、又は8~10に記載の栄養補助食品、請求項5、6、又は8~10に記載の乳児用調整乳又はフォローオンミルク、あるいは請求項7、又は8~10に記載の使用のための化合物。
【請求項13】
、R、R、R、R、及びRの各々が、オレイン酸である、請求項1、2、又は8~10に記載の使用、請求項3、4、又は8~10に記載の栄養補助食品、請求項5、6、又は8~10に記載の乳児用調整乳又はフォローオンミルク、あるいは請求項7、又は8~10に記載の使用のための化合物。
【請求項14】

【化5】

を有する化合物を含む、組成物であって、前記式(5)を有する化合物が、前記組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成し、前記式(6)を有する化合物が、前記組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成する、組成物。
【請求項15】
前記式(5)を有する化合物が、前記組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成し、前記式(6)を有する化合物が、前記組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%を構成する、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】

【化6】

を有する化合物を更に含み、好ましくは、前記式(7)を有する化合物が、前記組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも2重量%を構成し、及び/又は、式
【化7】

を有する化合物を更に含み、好ましくは、前記式(8)を有する化合物が、前記組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも2重量%を構成する、請求項14又は15に記載の組成物。
【請求項17】

【化8】

を有する化合物を含む、組成物であって、前記式(5)を有する化合物が、前記組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成し、前記式(6)を有する化合物が、前記組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成する、組成物。
【請求項18】
前記式(5)を有する化合物が、前記組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも15重量%、好ましくは少なくとも20重量%を構成し、前記式(6)を有する化合物が、前記組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも25重量%を構成する、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
式(7)を有する化合物を更に含み、好ましくは、前記式(7)を有する化合物が、前記組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも2重量%を構成し、並びに/又は、前記組成物が、式(8)を有する化合物を更に含み、好ましくは、前記式(8)を有する化合物が、前記組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも2重量%を構成する、請求項17又は18に記載の組成物。
【請求項20】
1,3-ジブチリル-2-リノレオイルグリセロール、1,3-ジブチリル-2-ステアロイルグリセロール、1-ブチリル-2-オレオイル-3-パルミトイルグリセロール、1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロール、1-ブチリル-2-オレオイル-3-リノレオイルグリセロール、1-リノレオイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロール、1-オレオイル-2-ブチリル-3-リノレオイルグリセロール、1-リノレオイル-2-ブチリル-3-オレオイルグリセロール、1-ブチリル-2-リノレオイル-3-オレオイルグリセロール、1-オレオイル-2-リノレオイル-3-ブチリルグリセロール、1-ブチリル-2-ステアロイル-3-オレオイルグリセロール、1-オレオイル-2-ステアロイル-3-ブチリルグリセロール、1-ブチリル-2-オレオイル-3-ステアロイルグリセロール、1-ステアロイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロール、1,2-ジオレオイル-3-パルミトイルグリセロール、1-パルミトイル-2,3-ジオレオイルグリセロール、1,2-ジオレオイル-3-リノレオイルグリセロール、及び/又は1-リノレオイル-2,3-ジオレオイルグリセロールを更に含む、請求項14~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が、栄養組成物である、請求項17~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物が、乳児用調整乳、フォローオンミルク、又は栄養補助食品である、請求項14~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
改良された感覚刺激特性を有するブチレートの供給源を提供するための、請求項14~22のいずれか一項に記載の組成物の、使用。
【請求項24】
胃腸の健康を改善又は維持するための、請求項14~22のいずれか一項に記載の組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良された感覚刺激特性を有する、食品原料のブチレートに関する。
【背景技術】
【0002】
酪酸の塩及びエステルは、ブチレート又はブタノエートと呼ばれる。エステル形態の酪酸は、多くの食品、例えば乳、特にヤギ、ヒツジ、牛、ラクダ、及びバッファローの乳、並びに乳由来産物、例えばバター、及びチーズ、例えばパルメザンチーズにおいて見られる。酪酸はまた、例えば、腸内細菌叢によって産生される発酵産物のように、嫌気性発酵の産物である。
【0003】
哺乳動物及び家畜において、ブチレートの数多くの有益な効果が十分に記録されている。腸内濃度で、ブチレートは、経上皮液輸送、粘膜の炎症、及び酸化の状態を調節するよう作用し、腸管バリア機能を強化し、並びに内臓の感受性及び腸の運動性に影響する。
【0004】
ブチレートは、短腸症候群の子豚の腸の構造を改善することが示されており(Bartholome et al.,J of Parenter Enteral Nutr.2004;28(4):210-222)、ヒト細胞株においては大腸癌細胞の増殖を減少させる(Lupton,J Nutr.,2004;134(2):479-482)。発酵性繊維からの酪酸などの揮発性脂肪酸の産生は、大腸癌における食物繊維の役割に寄与し得る(Lupton,The Journal of Nutrition.134(2):479-82)。非消化性繊維及び/又はプレバイオティクスを餌とする又はこれらを発酵させる大腸内の細菌は、短鎖脂肪酸(SCFA)を産生する。SCFAの例としては、限定されるものではないが、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸が挙げられる。SCFA、とりわけ注目すべきものとしてブチレートにより、Foxp3遺伝子座におけるヒストン脱アセチル化酵素が阻害され、大腸内の制御性T細胞の生成が促進される(Furusawa Y,et al.,Nature 2013;504(7480):446-450)。ブチレートの経口補給により、腸マクロファージの抗菌活性が増進され、腸バリアを越える細菌の拡散が制限される。酪酸はまた、エネルギー生成を増加させることによって大腸細胞にも利益をもたらす。加えて、ブチレートは、下痢の罹患率を減少させること(Berni Canani et al.,Gastroenterol.,2004;127(2):630-634)、下痢型過敏性腸症候群の個体において胃腸症状を改善すること(Scarpellini et al.,Dig Liver Dis.,2007;1(1):19-22)、及び新生豚において小腸の成長を増強すること(Kotunia et al.,J Physiol Pharmacol.2004;55(2):59-68)が示されている。
【0005】
トリブチリンは、3つのブチレート部分を有する3つのエステル官能基と、グリセロール骨格とからなるトリグリセリドである。消化中に生じる条件などのような加水分解条件下では、トリブチリンは、トリブチリン1モル当たり3モルの酪酸の供給源となり得る。しかし、トリブチリンの有効性は、胃での急速な脂肪分解によって制限され得る。
【0006】
酪酸及びトリブチリンは両方とも、安全(GRAS)であると一般的にみなされる食品添加物(それぞれ、21CFR582.60及び21CFR184.1903)であり、多くの乳製品の天然成分である。しかしながら酪酸は、嘔吐物、糞便、及びチーズのような匂い特性などの、ネガティブな官能品質を伴う。トリブチリンはまた、ネガティブな官能品質、特に高度の苦味も有する。これらの不快な味覚及び臭気特性により、特に小児集団において、これらの化合物を含む組成物の経口投与を行うことが、特に困難になることがある。
【0007】
したがって、利用可能な解決策と比較して改良された感覚刺激特性を有する、食品グレードのブチレート原料を提供することは有益である。液体の形式は、処方の容易性並びに溶解及び均質化の問題の低減により、更なる利点をもたらすものである。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、改良された感覚刺激特性を有し、酪酸の供給源である化合物を提供する。特に、化合物は、酪酸、ブチレート塩、及びトリブチリンと比較して、改良された臭気及び/又は味覚を有する。化合物は、酪酸の食物原料として使用することができる。化合物は、例えば、栄養組成物、栄養補助食品、乳児用調整乳(乳児用ミルク)、及びフォローオンミルクに使用することができる。
【0009】
有利なことに、本発明の化合物が胃で示す脂肪分解率は低いことが判明しており、本発明の化合物は、酪酸の腸部への有効な送達をもたらし得る。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、改良された感覚刺激特性を有する酪酸又はブチレートの供給源を提供するための、式
【化1】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせの使用が提供される。
【0011】
式(1)、式(2)、式(3)、及び/又は式(4)の化合物は、例えば、栄養処方物、栄養補助食品、乳児用調整乳、又はフォローオンミルクなどの組成物中に存在してもよい。
【0012】
一実施形態では、改良された感覚刺激特性は、改良された臭気である。一実施形態では、改良された感覚刺激特性は、改良された味覚である。一実施形態では、改良された感覚刺激特性は、改良された臭気及び改良された味覚である。一実施形態では、改良された味覚は、低減された苦味である。
【0013】
本発明の別の態様によれば、ブチレート又は酪酸の供給源を提供するための、式
【化2】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせを含む栄養補助食品が提供される。
【0014】
栄養補助食品は、例えば、カプセル、錠剤、サッシェ、液体/油、又は粉末の形態であってもよい。
【0015】
本発明の別の態様によれば、式
【化3】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせを含む、乳児用調整乳又はフォローオンミルクが提供される。
【0016】
本発明の別の態様によれば、改良された感覚刺激特性を有するブチレート又は酪酸の供給源を提供するための、本発明の乳児用調整乳又はフォローオンミルクの使用が提供される。
【0017】
本発明の別の態様によれば、胃腸(GI)の健康を改善又は維持するのに使用するための、式
【化4】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせが提供される。
【0018】
本発明の別の態様によれば、患者におけるGIの健康を改善又は維持する方法であって、式
【化5】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせの有効量を投与することを含む、方法が提供される。
【0019】
一実施形態では、式(1)を有する化合物と式(2)を有する化合物との組み合わせは、本明細書で定義されるように使用され、又は本明細書で定義されるように組成物(例えば、栄養組成物、栄養補助食品、乳児用調整乳、又はフォローオンミルク)中に存在する。好ましくは、式(1)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量で存在し、式(2)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量で存在する。
【0020】
一実施形態では、式(1)を有する化合物と式(2)を有する化合物との組み合わせは、本明細書で定義されるように使用され、又は本明細書で定義されるように組成物(例えば、栄養組成物、栄養補助食品、乳児用調整乳、又はフォローオンミルク)中に存在し、式(1)を有する化合物が、組成物中の酪酸含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量で存在し、式(2)を有する化合物が、組成物中の酪酸含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量で存在する。
【0021】
別の実施形態では、式(1)を有する化合物と式(2)を有する化合物との組み合わせは、本明細書で定義されるように使用され、又は本明細書で定義されるように組成物(例えば、栄養組成物、栄養補助食品、乳児用調整乳、又はフォローオンミルク)中に存在し、式(1)を有する化合物が、組成物中の酪酸含有トリグリセリド全量の少なくとも15重量%の量で存在し、式(2)を有する化合物が、組成物中の酪酸含有トリグリセリド全量の少なくとも15重量%の量で存在する。
【0022】
一実施形態では、式(1)を有する化合物と、式(2)を有する化合物と、式(3)を有する化合物と、式(4)を有する化合物と、の組み合わせは、本明細書で定義されるように使用され、又は本明細書で定義されるように組成物中に、すなわち、栄養組成物、栄養補助食品、乳児用調整乳、又はフォローオンミルク中に、存在する。
【0023】
一実施形態では、本明細書で定義されるようなR、R、R、R、R、及び/又はRは、不飽和脂肪酸、好ましくはモノ不飽和のものである。
【0024】
一実施形態では、本明細書で定義されるようなR、R、R、R、R、及び/又はRは、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、又はリノール酸からなる群から選択される。
【0025】
一実施形態では、本明細書で定義されるようなR、R、R、R、R、及び/又はRは、オレイン酸である。
【0026】
一実施形態では、本明細書で定義されるようなR、R、R、R、R、及び/又はRは、パルミチン酸である。
【0027】
一実施形態では、化合物(1)は、1,3-ジブチリル-2-パルミトイルグリセロールである。
【0028】
一実施形態では、R、R、R、R、R、及び/又はRの各々は、オレイン酸である。
【0029】
一実施形態では、式(1)を有する化合物は、次のものである。
【0030】
【化6】

一実施形態では、式(2)を有する化合物は、次のものである。
【0031】
【化7】

一実施形態では、式(3)を有する化合物は、次のものである。
【0032】
【化8】

一実施形態では、式(4)を有する化合物は、次のものである。
【0033】
【化9】

本発明の別の態様によれば、式
【化10】

を有する化合物を含む、組成物が提供され、式(5)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成する。
【0034】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成する。
【0035】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%を構成する。
【0036】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%を構成する。
【0037】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の約15重量%~約30重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の約20重量%~約30重量%を構成する。
【0038】
一実施形態では、組成物は、式
【化11】

を有する化合物を更に含み、好ましくは、式(7)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも2重量%又は3重量%を構成し、及び/又は、式、
【化12】

を有する化合物を更に含み、好ましくは、式(8)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも2重量%又は3重量%を構成する。
【0039】
本発明の別の実施形態によれば、式
【化13】

を有する化合物を含む、組成物が提供され、式(5)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成する。
【0040】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成する。
【0041】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも15重量%、好ましくは少なくとも20重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも25重量%を構成する。
【0042】
一実施形態では、組成物は、式(7)を有する化合物を更に含み、好ましくは、式(7)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも2重量%又は3重量%を構成し、並びに/又は、組成物は、式(8)を有する化合物を更に含み、好ましくは、式(8)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも2重量%又は3重量%を構成する。
【0043】
本発明の組成物は、1,3-ジブチリル-2-リノレオイルグリセロール、1,3-ジブチリル-2-ステアロイルグリセロール、1-ブチリル-2-オレオイル-3-パルミトイルグリセロール、1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロール、1-ブチリル-2-オレオイル-3-リノレオイルグリセロール、1-リノレオイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロール、1-オレオイル-2-ブチリル-3-リノレオイルグリセロール、1-リノレオイル-2-ブチリル-3-オレオイルグリセロール、1-ブチリル-2-リノレオイル-3-オレオイルグリセロール、1-オレオイル-2-リノレオイル-3-ブチリルグリセロール、1-ブチリル-2-ステアロイル-3-オレオイルグリセロール、1-オレオイル-2-ステアロイル-3-ブチリルグリセロール、1-ブチリル-2-オレオイル-3-ステアロイルグリセロール、1-ステアロイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロール、1,2-ジオレオイル-3-パルミトイルグリセロール、1-パルミトイル-2,3-ジオレオイルグリセロール、1,2-ジオレオイル-3-リノレオイルグリセロール、及び/又は1-リノレオイル-2,3-ジオレオイルグリセロールを更に含んでもよい。
【0044】
本発明の組成物は、栄養組成物の形態であってもよい。
【0045】
本発明の組成物は、乳児用調整乳の形態であってもフォローオンミルクの形態であってもよい。
【0046】
本発明の組成物は、栄養補助食品の形態であってもよい。
【0047】
本発明の別の態様によれば、改良された感覚刺激特性を有するブチレート又は酪酸の供給源を提供するための、本明細書で定義される組成物の使用が提供される。
【0048】
本発明の別の態様によれば、対象に対する改良された感覚刺激特性を有する酪酸の供給源を提供する方法であって、本明細書に定義される組成物の有効量を、当該対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0049】
本発明の別の態様によれば、胃腸の健康を改善又は維持するための、本明細書で定義される組成物が提供される。
【0050】
本発明の別の態様によれば、対象における胃腸の健康を改善又は維持する方法であって、本明細書で定義される組成物の有効量を対象に投与することを含む、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】(A)トリブチリン、(B)高オレイン酸ヒマワリ油、及び(C)本発明によるブチレート部分含有トリアシルグリセロール(TAG)の混合物、を200mg含有するエマルジョンからの脂肪酸の放出を示している。i)模擬腸液(SIF)か、又は(ii)胃液(SGF)に続いて模擬腸液(SIF)で順次かのいずれかで消化されている。
図2】SIF及びSGF-SIFの両方の後の、トリブチリン、高オレイン酸ヒマワリ油、及び本発明によるブチレート部分含有TAGの混合物の脂質消化の全体的程度を示している。
【発明を実施するための形態】
【0052】
トリグリセリド
トリグリセリド(トリアシルグリセロールとも呼ばれる)は、グリセロール及び3つの脂肪酸から誘導されたトリエステルである。
【0053】
脂肪酸は、長い尾部(鎖)を有するカルボン酸である。脂肪酸は、不飽和又は飽和のいずれもあり得る。他の分子に結合していない脂肪酸は、遊離脂肪酸(FFA)と呼ばれる。
【0054】
用語「脂肪酸部分」は、グリセロールとのエステル化反応において脂肪酸に由来するトリグリセリドの部分を指す。本発明で使用されるトリグリセリドは、少なくとも1つの酪酸部分及び少なくとも1つの長鎖脂肪酸部分を含む。
【0055】
本発明での使用に好ましい長鎖脂肪酸は、16~20個の炭素原子を有する脂肪酸である。
【0056】
長鎖脂肪酸の例としては、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びリノール酸が挙げられる。
【0057】
本発明のトリグリセリドは、例えば、長鎖脂肪酸及び酪酸の、グリセロールとのエステル化によって合成することができる。
【0058】
本発明のトリグリセリドは、例えば、トリブチリンと、長鎖脂肪酸を含有する別のトリグリセリドとの間のエステル交換によって合成することができる。一実施形態では、高オレイン酸ヒマワリ油が、長鎖脂肪酸の原料である。これにより、主としてブチレート部分及びオレエート部分を含有する、トリグリセリドを作製する。オレイン酸は、母乳中に存在する主要な脂肪酸である。この化合物は、乳成分不含有、コレステロール不含有、及び動物由来成分不含有である。脂肪酸は、胃腸管において天然に存在するリパーゼにより、トリグリセリドから脱離する。ブチレート塩と比較すると、当該化合物が、最終的な配合物に更なるミネラル塩を添加することはない。
【0059】
トリグリセリド合成の代替的な方法は、当業者によって通常の手順の一環として決定することができる。例として、1,3-ジブチリル-2-パルミトイルグリセロール(BPB)を得る方法について、以下に示す。
【0060】
【化14】

単一のブチレート部分含有トリグリセリドを、本明細書で使用することができる。あるいは、異なるブチレート部分含有トリグリセリドの混合物を使用することができる。
【0061】
組成物
本発明は、本明細書で言及されるブチレート部分含有トリグリセリドを含む、組成物を提供する。組成物は、例えば、栄養組成物、栄養補助食品、乳児用調整乳、又はフォローオンミルクであってもよい。
【0062】
表現「栄養組成物」とは、対象に栄養を与える組成物を意味する。この栄養組成物は、好ましくは経口で摂取され、脂質、又は脂肪源及びタンパク質源を含んでもよい。かかる組成物はまた、炭水化物源を含有してもよい。一実施形態では、栄養組成物は、脂質又は脂肪源のみを含有する。他の特定の実施形態では、栄養組成物は、脂質(又は脂肪)源を、タンパク質源、炭水化物源、又はこれらのいずれもとともに含有する。
【0063】
いくつかの特定の実施形態では、本発明による栄養組成物は、「経腸栄養組成物」、すなわち、当該組成物の投与に胃腸管が関わる食料品である。胃への導入は、口腔/鼻道又は腹部内を通って胃に直接導く管の使用を伴ってもよい。このような管は、特に病院又は診療所において使用することができる。
【0064】
本発明による組成物は、乳児用調整乳(例えば、乳児用スターター調整乳)、フォローアップミルク又はフォローオンミルク、グローイングアップミルク、ベビーフード、乳児用シリアル組成物、母乳強化剤などの強化剤、又は栄養補助食品であってもよい。
【0065】
本明細書で使用するとき、表現「乳児用調整乳」は、出生後1ケ月の間の乳児の特定の栄養補給用途を意図する食品であって、当該乳そのものによって、このカテゴリーに該当する乳児の栄養要件(例えば、乳児用調整乳及びフォローオンミルクに対する、Article 2(c) of the European Commission Directive 91/321/EEC 2006/141/EC of 22 December 2006)を満たす、食品を指す。
【0066】
一般的に、スターター調整乳は、出生以降の乳児用の母乳代用品である。フォローアップミルク又はフォローオンミルクは、6ケ月目以降から与えられる。これらのミルクは、このカテゴリーに該当する乳児の次第に多様となっていく食生活において主要な液体要素を構成する。「グローイングアップミルク」(又はGUM)は、1年目以降から与えられる。このミルクは、一般的に、特に小児の栄養必要量に合わせて調整された乳系飲料である。
【0067】
用語「強化剤」は、母乳(人乳)又は乳児用調整乳と混合するのに好適な、液体又は固体栄養組成物を指す。用語「母乳」は、母親の乳若しくは母親の初乳、又はドナーの乳、若しくはドナーの乳のうちの初乳として理解されたい。
【0068】
用語「栄養補助食品」は、個体の栄養を補完するものとして使用することができる(典型的には栄養の補完のために使用するものであるが、それだけでなく摂取が意図される任意の種類の組成物に添加することもできる)。これは、例えば、錠剤、カプセル、トローチ、又は液体の形態であってもよい。栄養補助食品は、保護親水コロイド(ガム、タンパク質、加工デンプンなど)、結合剤、膜形成剤、カプセル化剤/材料、壁/シェル材料、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、表面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸着剤、担体、充填剤、共化合物、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒)、流動剤、味覚マスキング剤、増量剤、ゼリー化剤、及びゲル形成剤を更に含有してもよい。栄養補助食品はまた、従来の医薬添加剤及び補助剤、賦形剤、及び希釈剤を含有してもよく、これには、水、任意の由来のゼラチン、植物ガム、リグニンスルホネート、タルク、糖、デンプン、アラビアガム、植物油、ポリアルキレングリコール、風味剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝液、潤滑剤、着色剤、湿潤剤、充填剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
別の特定の実施形態では、本発明の栄養組成物は、強化剤である。強化剤は、母乳強化剤であっても、乳児用調整乳強化剤などの調整乳強化剤であってもよい。したがって、乳児又は幼児が早産児である場合、強化剤は、特に有利な実施形態である。
【0070】
組成物は、栄養補助食品である場合、単位用量の形態で提供することができる。
【0071】
本発明の栄養組成物、特に乳児用調整乳は、概ね、タンパク質源、炭水化物源、及び脂質源を含有する。しかし、いくつかの実施形態では、特に本発明の栄養組成物が栄養補助食品又は強化剤である場合、脂質(又は脂質源)のみが存在していてもよい。
【0072】
本発明による栄養組成物は、タンパク質源を含有してもよい。タンパク質は、1.6~3g/100kcalの量であってもよい。いくつかの実施形態では、特に組成物が早産の乳児/幼児を対象とする場合、タンパク質量が、2.4~4g/100kcal、又は3.6g超/100kcalであってもよい。いくつかの他の実施形態では、タンパク質量は、2.0g未満/100kcal、例えば1.8~2g/100kcal、又は1.8g未満/100kcalの量であってもよい。
【0073】
例えば、ホエイ、カゼイン、及びこれらの混合物をベースとするタンパク質源を、例えば、大豆をベースとする植物系タンパク質源と同様に使用することができる。ホエイタンパク質に関して言えば、タンパク質源は酸性ホエイ若しくは甘性ホエイ又はこれらの混合物をベースとしたものであってよく、任意の所望の割合でα-ラクトアルブミン及びβ-ラクトグロブリンを含有し得る。いくつかの実施形態では、主たるタンパク質源はホエイである(すなわち、50%超、例えば60%超又は70%超のタンパク質がホエイタンパク質から生じたものである)。タンパク質は、インタクトなタンパク質若しくは加水分解されたタンパク質、又はインタクトなタンパク質と加水分解されたタンパク質との混合物であり得る。用語「インタクト」とは、タンパク質の主要部分がインタクトであること、すなわち、分子構造が変化していないこと、例えば、タンパク質の少なくとも80%が変化していないこと、例えば、タンパク質の少なくとも85%が変化していないこと、好ましくは、タンパク質の少なくとも90%が変化していないこと、更により好ましくは、タンパク質の少なくとも95%が変化していないこと、例えば、タンパク質の少なくとも98%が変化していないことを意味する。特定の実施形態では、タンパク質は全く変化していない。
【0074】
用語「加水分解された」とは、本発明の状況において、タンパク質が加水分解されていること、又はその構成要素であるアミノ酸まで分解されていることを意味する。
【0075】
タンパク質は、完全に加水分解されるか、又は部分的に加水分解されるかのいずれかであってよい。加水分解されたタンパク質が必要である場合、加水分解工程を、所望に応じて、当該技術分野において既知のように行うことができる。例えば、ホエイタンパク質の加水分解物は、1つ以上のステップでホエイ画分を酵素により加水分解することにより調製することができる。出発物質として使用されたホエイ画分が実質的にラクトースを含まない場合、そのタンパク質は加水分解工程中にリジンブロック(lysine blackage)を受けることが大幅に少なくなることが見出された。これにより、リジン全量の約15重量%から、リジン全量の約10重量%>未満まで、リジンブロックの程度を低減することができ、例えば、約7重量%のリジンにより、タンパク質源の栄養価は大幅に改善される。
【0076】
特定の一実施形態では、組成物のタンパク質は加水分解され、完全に加水分解され、又は部分的に加水分解される。タンパク質の加水分解度(DH)は、2~20、又は8~40、又は20~60、又は20~80、又は10超、20超、40超、60超、80超、又は90超であってもよい。例えば、約15%未満の加水分解度を有する加水分解物を含有する栄養組成物が、Nestle Companyから、商標名Peptamen(登録商標)で市販されている。
【0077】
タンパク質の少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、又は97%が、加水分解されてもよい。特定の実施形態では、タンパク質の100%が加水分解される。
【0078】
特定の一実施形態では、組成物のタンパク質は、植物系タンパク質である。
【0079】
本発明による栄養組成物は、炭水化物源を含有してもよい。これは、本発明の栄養組成物が乳児用調整乳である場合に、特に好ましい。この場合では、乳児用調整乳において通常見られる任意の炭水化物源、例えば、ラクトース、スクロース、マルトデキストリン、デンプン、及びこれらの混合物を使用することができるが、乳児用調整乳に好ましい炭水化物源の1つは、ラクトースである。本発明の栄養組成物はまた、毎日の食生活において及び栄養的に有意な量で必須であると理解されている全てのビタミン及びミネラルを含有してもよい。特定のビタミン及びミネラルに対する最小必要量が確立されている。本発明の組成物中に任意選択的に存在する、ミネラル、ビタミン、及び他の栄養素の例としては、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンC、ビタミンD、葉酸、イノシトール、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸、コリン、カルシウム、リン、ヨウ素、鉄、マグネシウム、銅、亜鉛、マンガン、塩素、カリウム、ナトリウム、セレン、クロム、モリブデン、タウリン、及びL-カルニチンが挙げられる。ミネラルは、通常、塩形態で添加される。特定のミネラル及び他のビタミンの存在及び量は、対象とする集団に応じて異なる。必要な場合、本発明の栄養組成物は、乳化剤及び安定剤、例えば、大豆、レシチン、モノ及びジグリセリドのクエン酸エステルなどを含有してもよい。本発明の栄養組成物はまた、例えばラクトフェリン、オステオポンチン、TGFβ、slgA、グルタミン、ヌクレオチド、ヌクレオシドなどの、有益な効果を有することができる他の物質を含有してもよい。
【0080】
本発明の組成物は、少なくとも1つの難消化性オリゴ糖(例えばプレバイオティクス)を更に含んでもよい。それらは通常、組成物の0.3~10重量%の量である。
【0081】
プレバイオティクスは通常、分解されず、胃又は小腸において吸収されないという意味で難消化性である。したがって、プレバイオティクスは大腸に入る際にインタクトのままであり、大腸で有益な細菌により選択的に発酵される。プレバイオティクスの例としては、フラクトオリゴ糖(FOS)、イヌリン、キシロオリゴ糖(XOS)、ポリデキストロース、又はこれらの任意の混合物といったある種のオリゴ糖が挙げられる。特定の実施形態では、プレバイオティクスは、フラクトオリゴ糖及び/又はイヌリンであってもよい。特定の実施形態では、プレバイオティクスは、FOSとイヌリンとの組み合わせ、例えば、BENEO-Oraftiにより商標名Orafti(登録商標)オリゴフルクトース(以前にはRaftilose(登録商標))で販売されている製品における組み合わせ、又はBENEO-Oraftiにより商標名Orafti(登録商標)イヌリン(以前にはRaftiline(登録商標))で販売されている製品中における組み合わせである。別の例は、70%の短鎖フラクトオリゴ糖と30%のイヌリンとの組み合わせであり、これはNestleによって商標名「Prebio1」として登録されている。本発明の栄養組成物はまた、少なくとも1つの乳オリゴ糖を含んでもよく、当該乳オリゴ糖は、BMO(牛乳オリゴ糖)及び/又はHMO(人乳オリゴ糖)であってよい。本発明の組成物は、プロバイオティクス菌株などの少なくとも1種のプロバイオティクス(すなわち、プロバイオティクス菌株)を更に含んでもよい。
【0082】
最も一般的に使用されるプロバイオティクス微生物は、主に以下の属の細菌及び酵母である:ラクトバチルス属の菌種(Lactobacillus spp.)、ストレプトコッカス属の菌種(Streptococcus spp.)、エンテロコッカス属の菌種(Enterococcus spp.)、ビフィドバクテリウム属の菌種(Bifidobacterium spp.)及びサッカロミセス属の菌種(Saccharomyces spp.)。
【0083】
いくつかの特定の実施形態において、プロバイオティクスは、プロバイオティクス菌株である。いくつかの特定の実施形態では、プロバイオティクス菌株は、ビフィズス菌及び/又はラクトバチルスである。
【0084】
本発明による栄養組成物は、乾燥重量基準で、組成物1g当たり10e3~10e12cfuのプロバイオティクス株、より好ましくは10e7~10e12cfu、例えば10e8~10e10cfuのプロバイオティクス株を含有してもよい。
【0085】
一実施形態では、プロバイオティクスは生存可能なものである。別の実施形態では、プロバイオティクスは、複製しないか又は不活性化される。プロバイオティクスはまた、プロバイオティクスの部分、例えば細胞壁成分、又はプロバイオティクスの代謝産物であってもよい。いくつかの他の実施形態では、生存可能なプロバイオティクス及び不活性化したプロバイオティクスの両方が存在していてもよい。本発明の栄養組成物は、好ましくは病原性連鎖球菌、ヘモフィルス属、モラクセラ及びブドウ球菌に対する、少なくとも1つのファージ(バクテリオファージ)又はファージの混合物を更に含んでもよい。
【0086】
本発明による栄養組成物は、一実施形態では、乳製品であってもよい。乳製品は、乳系産物を含む製品である。乳製品は、一般的に、濃縮乳タンパク質及び脂肪源の好適な混合物から作製される。乳製品には、酸味を帯びさせる(acidified)ことができる。乳製品としては、レディ・トゥ・ドリンク乳系飲料、濃縮乳、蒸発乳、甘味付濃縮乳、粉乳、ヨーグルト、フレッシュチーズ、チーズ、アイスクリーム及び乳製品スプレッド、例えば、スプレッダブルフレッシュチーズ、カッテージチーズ、クワルク、クレームフレーシュ、クロテッドクリーム、及びクリームチーズが挙げられる。粉乳は、例えば、噴霧乾燥によって、又は凍結乾燥によって製造することができる。
【0087】
脂肪含有量に応じて、乳製品は、全脂肪乳若しくは全乳、セミスキムミルク、スキムミルク、又は低脂肪乳から調製することができる。スキムミルクは、0.1%未満の乳脂肪を含有するミルクである。セミスキムミルクは、1.5%~2.5%の乳脂肪を含有するミルクである。通常、全脂肪乳は、3%~4%の脂肪を含有するミルクである。スキムミルク、セミスキムミルク、及び全脂肪乳の正確な脂肪含有量は、主にその地域の食品規制によって異なる。
【0088】
乳製品は、一般的に、牛乳から製造される。乳製品はまた、バッファローの乳、ヤクの乳、山羊の乳、羊乳、馬乳、ロバの乳、ラクダの乳、トナカイの乳、ヘラジカの乳、又はこれらの組み合わせからも製造することができる。
【0089】
酸味を帯びさせた(acidified)乳製品は、好適な微生物による発酵によって得ることができる。発酵により、乳製品に風味及び酸味がもたらされる。発酵はまた、乳製品の食感に影響する場合がある。加えて、発酵に用いられる微生物は、摂取可能な発酵乳製品へと乳を発酵させる能力に関して選択される。通常、当該微生物は、それらの有益な特性に関して既知である。当該微生物としては、乳酸菌及び酵母が挙げられる。これらの微生物のいくつかは、プロバイオティクスとみなすことができる。乳酸菌の例としては、ラクトバシルス・デルブルエッキイ亜種ブルガリクス及びストレプトコッカス・サーモフィルスが挙げられ、これらはいずれも、ヨーグルトの製造に関与するものであり、又はラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、ビフィドバクテリウム属、ペディオコッカス属に属する他の乳酸菌、又はこれらの任意の混合が挙げられる。
【0090】
培養(cultured)乳製品若しくは培養(cultured)乳食品、又は培養(cultured)乳とも呼ばれる、発酵(fermented)乳製品の別の例は、ラクトコッカス・ラクチス(ラクトコッカス・ラクチス亜属ラクチス、ラクトコッカス・ラクチス亜属クレモリス、ラクトコッカス・ラクチス亜属ラクチスビオバー・ジアセチラクチス)、及び/又はロイコノストック・メセンテロイデス亜属クレモリスにより発酵させた発酵バターミルクである。
【0091】
微生物は、生きていても不活性化されていてもよい。
【0092】
乳製品類似物は、上記乳製品と同様の方法で製造された製品であるが、(全て又は部分的に)乳以外のタンパク質原料が使用されており、及び/又は(全て又は部分的に)乳以外の食用脂肪原料が使用されている。好適なタンパク質原料としては、植物性タンパク質、例えば、大豆、ジャガイモ、及びエンドウが挙げられる。好適な脂肪原料としては、植物由来又は海洋生物由来の油及び脂肪が挙げられる。脂肪及び油は、互換的な用語として使用される。製品の乳製品類似物の処方によっては分離ステップを省くことが可能であることから、上述のものと同様の調製とは、従来のホエイ分離ステップが省略される製品加工を含むことを意味する。
【0093】
本発明による栄養組成物は、任意の好適な方法で調製することができる。
【0094】
例えば、乳児用調整乳などの調整乳は、タンパク質源、炭水化物源、及び脂肪源を、適切な割合で一緒にブレンドすることによって調製することができる。使用される場合、乳化剤は、この時点で含めることができる。ビタミン及びミネラルは、この時点で添加されてもよいが、通常、熱分解を回避するために後で添加される。任意の親油性ビタミン、及び乳化剤などをブレンド前に脂肪源に溶解することができる。次いで、好ましくは逆浸透処理した水を混合して、液体混合物を形成することができる。水の温度は、成分の分散を補助するために、適宜、約50℃~約80℃の範囲とする。市販の液化装置を用いて液体混合物を形成することができる。
【0095】
特に最終製品を液体形態とする場合、この段階で任意のオリゴ糖を添加することができる。最終製品を粉末とする場合、所望の場合、同様にこの段階で任意のオリゴ糖を添加することができる。
【0096】
次いで、液体混合物を、例えば2段階で均質化する。
【0097】
一実施形態では、本発明の栄養組成物は、乳児又は幼児に、母乳に対する栄養補助組成物として与えられる。
【0098】
本発明の組成物は、例えば、固体(例えば、粉末)、液体、又はゼラチン状の形態であってもよい。
【0099】
本発明の組成物は、例えば、錠剤、糖衣錠、カプセル、ゲルキャップ、粉末、顆粒、溶液、エマルジョン、懸濁液、被覆粒子、噴霧乾燥粒子、又は丸剤であってもよい。
【0100】
組成物は、医薬組成物の形態であってもよく、1つ以上の好適な医薬的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を含んでもよい。
【0101】
本明細書に記載される組成物に好適な、このような賦形剤の例は、「Handbook of Pharmaceutical Excipients」,2nd Edition,(1994),(A Wade and PJ Weller編)に見ることができる。
【0102】
治療用途に許容される担体又は希釈剤は、医薬分野において既知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.(A.R.Gennaro edit.1985)に記載されている。
【0103】
医薬組成物は、担体、賦形剤、若しくは希釈剤として、又はそれに加え、任意の好適な結合剤、潤滑剤、懸濁化剤、コーティング剤、及び/若しくは可溶化剤を含んでもよい。好適な結合剤の例としては、デンプン、ゼラチン、天然糖、例えばグルコース、無水ラクトース、流動性ラクトース、β-ラクトースなど、コーン甘味料、天然及び合成ガム、例えばアカシア、トラガカント、又はアルギン酸ナトリウムなど、カルボキシメチルセルロース、及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0104】
好適な潤滑剤の例としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。
【0105】
防腐剤、安定剤、染料、及び更には香味剤を、組成物に含ませてもよい。防腐剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、及びp-ヒドロキシ安息香酸のエステルが挙げられる。酸化防止剤及び懸濁剤もまた、使用することができる。
【0106】
胃腸の健康
本明細書で定義される化合物は、ブチレート/酪酸の原料であり、したがって胃腸(GI)の健康を改善又は維持するために使用することができる。
【0107】
一実施形態では、本明細書で定義される化合物及び組成物は、炎症性腸疾患、例えば、クローン病又は潰瘍性大腸炎の治療のために使用することができる。
【0108】
ブチレートがGIの健康に対し数多くの有益な効果を有することが、十分に記録されている。腸内濃度で、ブチレートは、経上皮液輸送、粘膜の炎症、及び酸化の状態を調節するよう作用し、上皮バリアを強化し、並びに内臓の感受性及び腸の運動性を調節する。
【0109】
酪酸を含む脂肪酸は、大腸粘膜の細胞にとってエネルギーの主な供給源であり(Roedriger,Gut.1980;21:793-798)、大腸の遠位領域内にある大腸細胞にとって最も重要なものである。小腸の粘膜に対する酪酸の強力な栄養効果が、実験動物において観察されている(Guilloteau et al.,2 J Anim Feed Sci.2004;13,Suppl.1:393-396)。腸の酪酸濃度の低下は大腸粘膜の萎縮につながり、この萎縮は、通常、大腸細胞に対する基質の有用性の低下によって説明される。他方、大腸管腔へのブチレートの投与は、体重増加、DNA合成の増加、及び深さのある腸陰窩を誘発する(Kripke et al.,J Parenter Enter Nutr.1989;13:109-116)。
【0110】
不溶性食物繊維の発酵によって得られる、又はブチレートの肛門投与後に得られる、高濃度の酪酸は、アポトーシスカスケードの重要タンパク質の転写、発現、及び活性化の調節を介し、初期及び進行期の大腸がん形成を阻害することができる(Avivi-Green et al.,J Nutr..2002;132(7):1812-18)。
【0111】
Chapman et al.(Gut 1994;35(1):73-76)。炎症を起こした大腸粘膜は、グルタミン又はグルコースよりもはるかに多くのブチレートを捕捉することが示されている。
【0112】
実験から、ブチレートの注入により、ラットにおける炎症の有意な低減、及び大腸壁の潰瘍の程度の減少がもたらされることが示されている(Andoh et al.,J Parenter Enter Nutr.1999;23(5):70-73)。
【0113】
ブチレート浣腸の有効性は、潰瘍性大腸炎の患者における臨床観察によって示されている(Han et al.,Gastroenterol Clin North Am.1999;28:423-443;Scheppach et al.,Gastroenterol Suppl.1997;222:53-57)。
【0114】
ブチレートの直接的な抗炎症活性は、核内因子カッパB(NFKB)の移動の阻害及びDNAへの酪酸の結合と関連付けることができ、並びに同じ証拠によって、炎症性サイトカインの転写及び産生の阻害と関連付けることができる(Segain et al.,Gut.2000;47:397-403)。
【0115】
したがって、ブチレートの原料であり、本発明に使用されるトリグリセリド化合物は、腸の恒常性及びGIの健康の維持に大きな役割を果たし得る。
【0116】
投与
好ましくは、本明細書に記載される化合物及び組成物は、経腸投与される。
【0117】
経腸投与は、例えば、経口によるものであっても経胃によるものであってもよい。
【0118】
一般論として、本明細書に記載される組み合わせ又は組成物の投与は、例えば、経口経路又は別の経路による胃腸管への投与であってもよく、例えば、投与は経管栄養によるものであってもよい。
【0119】
対象は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ヤギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、シカ、及び霊長類などの哺乳動物であってもよい。好ましくは、対象は、ヒトである。
【実施例0120】
実施例1.ブチレート部分含有トリグリセリドの調製
ブチレート部分含有トリグリセリドを含む組成物を、ナトリウムメタノエートなどの触媒の存在下、トリブチリンと高オレイン酸ヒマワリ油との間の化学的エステル交換により作製した。高オレイン酸ヒマワリ油と比較してモル過剰のトリブチリンを使用した。
【0121】
3つの試薬、すなわち、トリブチリン、高オレイン酸ヒマワリ油、及び触媒を、窒素雰囲気下で反応器内で混ぜ合わせ、次いで撹拌しながら80℃で3時間、加熱した。反応が完了してから、生成物を水で洗浄し、真空下(25mBar、60℃で2時間)で乾燥した。次いで、得られた油生成物を、漂白土の働きによる脱色ステップに供し、短行程蒸留(130℃、0.001~0.003mBar)及び/又は気水の注入による脱臭(160℃、2mBar、2時間)のいずれかによって、精製した。
【0122】
得られた油組成物の構成成分(大部分がトリグリセリドである)を以下の表1に示す。これらのトリグリセリドは、これらが含有する3つの脂肪酸によって表される。これらの脂肪酸は、その脂質数によって表され、ブチレートでは4:0、パルミテートでは16:0、ステアレートでは18:0、オレエートでは18:1、リノレエートでは18:2である。中央の脂肪酸は、トリグリセリドのsn-2位に位置している。例として、16:0-4:0-18:1は2種類の異なるトリグリセリドを表し、当該トリグリセリドは、sn2位のブチレートと、sn-1位のパルミテート及びsn-3位のオレエート又はsn-1位のオレエート及びsn-3位のパルミテートとを有する分子のいずれをも含む。
【0123】
トリグリセリドのプロファイル及び位置異性体を、高分解能質量分析計に連結した液体クロマトグラフィによって分析した。各脂質の割合を、蒸発光散乱検出器(ELSD)に連結した液体クロマトグラフィによって評価した。
【0124】
【表1】

組成物試料において、最も豊富に含まれる2種のトリグリセリドは、4:0-18:1-4:0及び18:1-18:1-4:0であり、これらを合わせると約40~50g/100gに相当する。
【0125】
実施例2.ブチレート部分含有トリグリセリドの臭気特性
ブチレート部分含有トリグリセリド(主にオレイン酸及び酪酸の脂肪酸で構成される)を含む溶液の臭気比較では、ナトリウムブチレートを含有する溶液と比較した。
【0126】
試料調製
ブチレート部分含有トリグリセリド(実施例1を参照)又はナトリウムブチレートを含む溶液を調製し、官能試験のパネリストに届けるまで4℃で保存した。各250mLの溶液には、600mgの酪酸(栄養補助食品として市販のナトリウムブチレートの1つのカプセルに相当、2.4mg/mLの濃度)、及び酸味を帯びさせた(acidified)脱イオン水中の1重量/体積%のBEBA Optipro1乳児用調整乳を含有させた。
【0127】
4mLの各溶液(トリグリセリドブチレート溶液、ナトリウムブチレート溶液)をAgilentのバイアル瓶に入れて、試験の前日に試料を調製した。
【0128】
方法
「2対5点試験」を行った。この試験では、パネリストに5つの試料を提示する。パネリストに、他の3つと異なる2つの試料を特定するよう指示する。提示順序によるバイアスを回避するために、試料の提示順序を無作為化する。
【0129】
2対5点試験に加えて、コメント箱をパネリストに提示して、パネリストに、知覚された差の性質(例えば、臭気強度、臭気の質)についてコメントさせた。
【0130】
結果
5つの試料を、パネリストに同時に提示した。パネリストには、所定の順序でキャップを外し、匂いを嗅ぎ、次いで各々のバイアル瓶にキャップすることを、依頼した。結果を表2に示す。
【0131】
【表2】

P値については、Fizzソフトウェア(Biosystems,France)により行った二項検定を用いて計算した。
【0132】
正しい返答(ナトリウムブチレートとは異なるブチレート部分含有TAG)の区別のついたパネリストによると、ナトリウムブチレートは「チーズ」の匂いがした一方で、ブチレート部分含有TAG試料については、この「チーズ」の匂いは大きく減少しており、臭気にはほとんど癖がないと説明された。
【0133】
実施例3.ブチレート部分含有トリグリセリドの味覚特性
主にオレイン酸及び酪酸の脂肪酸で構成される、ブチレート部分含有トリグリセリド(実施例1を参照)を含む溶液の官能性ベンチマーキングを、トリブチリンを含有する溶液に対して行った。
【0134】
試料調製
最終体積が150mLになるよう、大さじ1杯(4.6g)のBEBA Optipro1乳児用調整乳を、温水(説明書のとおりに冷ました沸騰水)に添加した(約3重量/体積%の溶液)。各々のトリグリセリド形態のブチレートを別個に秤量して、600mgのブチレートを供給し、乳児用調整乳を添加し、各々の溶液について50mLの最終体積とした。
【0135】
溶液Aは、ブチレート部分含有トリグリセリド(実施例1を参照)を含んでいた。溶液Bは、トリブチリンを含有していた。
【0136】
方法
パネリストの集団は、内容を伏せたテイスティングを反復して行った。
【0137】
予備的苦味評価の直前に試料を調製し、各々の溶液を激しく振盪した。A及びBと表記したテイスティング用カップに、少量のそれぞれの溶液を同時に充填した。
【0138】
2つの試料を、パネリストに同時に提示した。パネリストには、溶液を一口含んで吐き出すという方法でテイスティングすること、及び知覚した苦味を0~10(0だと苦味を知覚しないことを表し、10だと想像可能な範囲で最高の苦味であるように思えることを表す)の尺度で評価することを依頼した。
【0139】
結果
溶液Aの苦味について、パネリストは、平均±SDで、4.33±1.52であると評価した。
【0140】
溶液Bの苦味について、パネリストは、平均±SDで、8.33±1.52であると評価した。
【0141】
これらのデータから、乳児用調整乳において、ブチレート部分含有TAG組成物では味覚における苦味がトリブチリンと比較して顕著に少なかったことが示される。
【0142】
実施例4.1,3-ジブチリル-2-パルミトイルグリセロールの味覚特性
1,3-ジブチリル-2-パルミトイルグリセロール(BPB)を、以下の合成を用いて単一の化合物として合成した。
【0143】
【化15】

BPBを官能パネリストによる記述評価にて評価したところ、味覚及び臭気に癖がないことが判明した。
【0144】
実施例5.ブチレート部分含有トリグリセリドの消化
5.1.材料
タウロコール酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、マレイン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ペプシン(Porcine,800-111 2500U/mg、P7000、用いた実際の活性674U/mg及び561U/mg)、パンクレアチン(Porcine、USP×8、P7585)、及びブタ胆汁抽出物(総胆汁塩含有量=49重量%;10~15%のグリコデオキシコール酸、3~9%のタウロデオキシコール酸、0.5~7%のデオキシコール酸を含む;リン脂質5%、B8631)を入手したまま使用し、及びSigma-Aldrich(St Louis,MO,USA))から購入した。ウサギ胃抽出物(RGE70≧70U/mL RGL、及び≧280U/mLのペプシン)を、Lipolytech(Marseille,France)から購入した。この試験において使用した全ての水は、精製ミリQ品質のものであった。トリブチリンはSigma製(食品グレード)、高オレイン酸ヒマワリ油はFlorin製。エステル交換したトリグリセリドを、触媒としてナトリウムメタノエート(Evonik製)を用いる化学的エステル交換により得た。
【0145】
5.2.エマルジョン調製
ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween(登録商標)80)を油相に40℃で混合し、次いで、磁気攪拌器を用いて水相と混合して、0.3重量%のTween80によって安定化した10重量%の水中油型エマルジョンを調製した。次いで、直径5mmの棒状プローブを装備したHielscher UP400S超音波プローブホモジナイザーを用いて、100%の振幅を100%のサイクルで2分間適用することにより、エマルジョンを作製し、その間、試料を、氷水を用いて冷却した。
【0146】
5.3.粒度測定
Malvern Instruments(Malvern(Worcestershire,United Kingdom))製のHydro SMを備えたMastersizer3000を用いるレーザー光散乱によって、各々の脂質エマルジョンの液滴サイズを測定した。2つのレーザーのレーザースペックは、4mW、632.8nm、及び10mW、470nmである。多重散乱効果を回避するために、試料を約0.002重量%まで希釈した。次いで、光散乱(Mie)の理論と測定粒度分布との間の最良の一致により、エマルジョン粒径に関する情報を得た。1.456の屈折率及び0.01の吸収を、油相に対して用いた。エマルジョンの粒径を、2つの値、すなわち、体積表面平均直径D3,2(D3,2 1/4 Pnidi 3/nidi 2)又は体積長さ平均直径D4,3(D4,3 1/4 Pnidi 4/nidi 3)として見積もる。2つの新たに調製したエマルジョンを3回測定した値の平均を、エマルジョンの粒径の結果とする。
【0147】
5.4.統計分析
ソフトウェアIgor Proを用いる、不等分散による両側t検定を用いて、統計分析を行った。
【0148】
5.5.インビトロでの消化
200mgの脂肪を含有する脂質エマルジョン(2mL)を、インビトロでの胃腸脂肪分解に供した。TIM 856 bi-burette pH-STAT(Radiometer Analytical(France))によって制御したpH-STAT組立体において、サーモスタット付きガラス容器(37℃)内で消化を行った。胃消化のために、試料を、150mMのNaCl、450U/mLのペプシン、18U/mLのウサギ胃リパーゼからなる、8.5mLの模擬胃液(SGF)とともに、37℃及びpH5.5で90分間インキュベートした。18U/mL(TBU、トリブチリンに対する活性をpH5.4で評価した値)のウサギ胃リパーゼを添加することにより、消化を開始した。
【0149】
pH-STATにおいて腸消化ステップを行い、pHは、NaOH(0.05M)の添加により6.8で一定に保った。胆汁塩混合物(トリス緩衝液、5mMのトリス、150mMのNaClで調製した胆汁塩)、及びカルシウム溶液(20mMのCa、176 5mMのトリス、150mMのNaCl)を、SGF試料混合物に添加した。この混合物をpH-STATに移し、pHを約6.78に調整した。温度が37±0.5℃に達したら、腸消化ステップを開始する。pHを6.8に調整し、このpH及び温度で2分間インキュベートした後、パンクレアチン溶液(5mMのトリス、150mMのNaCl、pH6.8)を添加した。腸液の最終組成は、10mMのCaCl、12mMの混合胆汁塩、0.75mMのリン脂質、150mMのNaCl、及び4mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液とした。腸消化ステップを、Radiometer製の滴定マネージャにおいて3時間行った。腸消化段階の間、pH-STAT(TIM856、Radiometer)の手法を用いて消化速度を追跡し、次式によって計算した(脂肪酸ではなく)滴定可能な酸として表した。
【0150】
TA=VNaOH × 0:05 × 1000
TA:放出された滴定可能な酸の全量、mmol、VNaOH:3時間のうちに放出された酸を滴定するため使用したNaOHの体積、mL。
【0151】
5.6.結果
食物脂質の消化には、胃及び腸のどちらに由来するリパーゼも関与することから、2つの消化モデル、i)ブタ膵臓リパーゼ(PPL)による模擬腸液(SIF)、及びii)ウサギ胃リパーゼ(RGL)による模擬胃液(SGF)に続いてブタ膵臓リパーゼ(PPL)による模擬腸液(SIF)における連続消化を用いて、脂質消化度を評価した。全ての脂質は、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween(登録商標)80)による乳化を受け、同様の粒度分布及び比表面積を有していた(図2)。このことは、消化の差異が主にトリグリセリドの分子構造から生じていることを意味する。
【0152】
図1A~Cのi)は、トリブチリン(C4)、高オレイン酸ヒマワリ油(HOSFO、大部分がC18:1)、及びトリブチリンと高オレイン酸ヒマワリ油との間の化学的エステル交換(実施例1を参照)によって作製した本発明によるブチレート部分含有トリグリセリド「C4-C18:1」の、混合した胆汁及びカルシウムの存在下での、ブタ膵臓リパーゼ(脾臓由来)による消化(SIFモデル)を示している。脂質は、概ね、同じ脂肪分解挙動を示し、最初の15分間に初期急速脂肪分解期間があり、この脂肪分解は、模擬腸消化の最後の2.5時間の間に次第に遅くなる。C4トリグリセリドは、初期最大速度223±59μmol/分の脂肪分解を示した。高オレイン酸ヒマワリ油での初期分解速度、34.5±2.3μmol/分は、短鎖トリグリセリドのものよりも有意に低かった(p<0.0001)。C4-C18:1は、C4とC18:1との間で153±47μmol/分の初期加水分解速度を示した。総合して、全てのトリグリセリドが、ブタ膵臓リパーゼの存在下で急速かつ十分に消化されることが分かる。
【0153】
次に、これらのトリグリセリドを連続的SGF(RGL)SIF(PPL)モデルにより消化した。SIF部における消化を図1A~Cのii)に示す。対象とする脂肪酸のイオン化が限定的なものであることから、胃部における測定は行わなかった。SIF単独で消化した場合と比較して、C4及びC18:1トリグリセリドが3時間の消化中に放出した滴定可能な酸は、概ね少量であった。効果はトリブチリンで最大となり、トリブチリンは、SIF単独の223±59μmol/分と比較して、SGF-SIF消化中に有意に低い(p<0.0001)初期脂肪分解速度44.1±8.8μmol/分を有する。トリブチリンのSGF-SIF消化後に放出された酸の総量、381±20μmolは、SIF単独での消化後に放出された量、958±12.5μmolのほぼ1/3である。これらの結果は、モデルの胃部内でのトリブチリンの消化が相当なものであることを明確に示している。
【0154】
SGF及びSIFに連続して曝露すると、ブチレート部分含有トリグリセリドC4-C18:1のSIF脂肪分解速度は、124±20μmol/分であり、SIF単独(124±20μmol/分)と比較してわずかに、但し有意ではない減少を示している。最も興味深い観察としては、RGLへの事前曝露によって生じるSIF脂肪分解の減少には二次脂肪酸鎖長が影響する。元々、トリブチリンでは、SGF中でのRGLへの事前曝露後、SIF脂肪分解中に総脂肪酸放出量が60.2%(147±7.6μmol)減少した。比較すると、C4-C18:1エステル交換トリグリセリドでは、6.1%(45±7.6μmol)の減少を示した。
【0155】
SIF及びSGF-SIFの両方の後の全体的な脂質消化の程度を、3つのトリグリセリドについて直接滴定及び逆滴定を用いて図2に提示している。多くの脂肪酸はpH6.8では部分的にのみイオン化され、直接滴定では、脂質消化の程度の部分的な様子のみが得られることから、消化の程度について全体像を推定するためには、むしろpH11.5までの逆滴定又はGC-FAME分析が必要とされる。3つのトリグリセリドでの逆滴定の結果は、トリブチリン及びブチレート部分含有トリグリセリドC4-C18:1が、それぞれ101.5±0.9%及び101±1.6%消化されたことを示し、完全消化では1分子当たり3つの脂肪酸が放出されることを示しており、他方、高オレイン酸ヒマワリ油は72.3±2%消化されたことを示し、完全消化では1分子当たり2つの脂肪酸が放出されることを示している。
【0156】
概して、トリブチリンは胃において十分に加水分解され、他方、高オレイン酸ヒマワリ油トリグリセリドは、胃において非常に限定的に加水分解されたことが分かった。驚くべきことに、長鎖脂肪酸によるC4のエステル交換(C4-C18:1)によって作製したブチレート部分含有トリグリセリドにより、C4脂肪酸の胃脂肪分解の程度は減少することが分かった。トリブチリンは、SGF中でのRGLへの事前曝露後のSIF脂肪分解中の総脂肪酸放出量の減少によって示されるように、胃リパーゼにより約60%が脂肪分解された。比較すると、C4-C18:1ブチレート部分含有トリグリセリドは、SGF-SIFにおいて総脂肪酸放出量の6.1%の減少のみを示した。これらの結果から、長鎖脂肪酸(C4-C18:1)によるC4のエステル交換は、酪酸の放出を、胃内ではなく、消化後に腸において放出されるよう遅らせて調節すること、並びにこの構造をもたせる脂質デザインにより、短鎖脂肪酸が胃腸管に送達されるタイミング(但し、度合いではない)が変更されること、が示唆される。

図1
図2
【外国語明細書】