IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ティソン バイオテック,インコーポレイテッドの特許一覧

特開2024-109782副甲状腺ホルモン1型受容体を発現する細胞およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109782
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】副甲状腺ホルモン1型受容体を発現する細胞およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0789 20100101AFI20240806BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240806BHJP
   C12N 15/18 20060101ALI20240806BHJP
   C12N 15/19 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20240806BHJP
   A61K 35/14 20150101ALI20240806BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20240806BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 35/52 20150101ALI20240806BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 35/54 20150101ALI20240806BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240806BHJP
【FI】
C12N5/0789
C07K16/28
C12N15/18
C12N15/19
A61K35/545
A61K35/14
A61K35/28
A61P15/08
A61K35/52
A61P17/16
A61P17/14
A61P19/08
A61P19/10
A61P25/00
A61P35/04
A61P37/06
A61P3/10
A61P17/02
A61P27/02
A61K35/54
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024083328
(22)【出願日】2024-05-22
(62)【分割の表示】P 2022076305の分割
【原出願日】2017-06-21
(31)【優先権主張番号】62/445,636
(32)【優先日】2017-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/353,993
(32)【優先日】2016-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518454519
【氏名又は名称】ティソン バイオテック,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TITHON BIOTECH,INC.
【住所又は居所原語表記】11440 West Bernardo Court,Suite 300,San Diego,CA 92127 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】パスパリアリス,ヴァシリス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】多能性幹細胞、その単離方法、およびその使用を提供する。
【解決手段】本開示は、副甲状腺ホルモン1型受容体(PTH1R)を発現すること、ならびに培養により外胚葉、中胚葉および内胚葉に分化することができることを特徴とする多能性幹細胞集団を開示する。1種以上のペプチドの共存下で培養される多能性幹細胞および前記幹細胞の単離方法、また、生体内の所望の領域または部位に前記幹細胞をターゲティングする方法、さらに、単離された前記幹細胞を使用して、受胎能を改善する方法、発毛を促進する方法、皮膚病態を治療または予防する方法、骨疾患を治療または改善する方法、悪性腫瘍を治療する方法および神経疾患を治療する方法を開示する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年6月23日に出願された米国仮出願第62/353,993号および2017年1月12日に出願された米国仮出願第62/445,636号の優先権の利益を主張するものであり、これらの出願に開示された内容は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される。
【0002】
本開示は概して幹細胞分野に関し、幹細胞の単離および幹細胞の培養を含む。具体的には、本開示は、受胎能の改善、発毛の促進、皮膚病態の改善または予防、骨疾患の改善または予防、黄斑変性の改善または予防、および自己免疫疾患の改善または予防において使用するための、副甲状腺ホルモン1型受容体を発現する多能性幹細胞の使用に関する。この幹細胞を末梢血由来多能性幹細胞(PBD-PSC)と呼ぶ。
【背景技術】
【0003】
ヒト幹細胞は、原始的で未熟な、特定の機能を持たない多能性前駆細胞であり、無限に細胞分裂を繰り返し、特定の機能を持つ細胞や新たな細胞を生み出すことができ、様々な系統の成熟ヒト細胞を発生させることができる。幹細胞は生体のほぼすべての組織で見出され、骨髄、骨、筋肉、肝臓、脳、脂肪組織、血液、皮膚などに存在する。
【0004】
幹細胞は、損傷、疾患または細胞損傷が起こった際に、細胞の再生と新生を担う修復系として機能するため、生体に必須である。たとえば、皮膚幹細胞である線維芽細胞は、皮膚裂傷などの皮膚損傷を修復することができる。また、骨幹細胞である骨芽細胞は、骨折などの骨損傷を修復することができる。
【0005】
幹細胞は、様々な種類の組織に生着し、生理学的機能性および解剖学的機能性を回復させることができることから、様々な医療用途に使用することができる。このような用途には、同種細胞を用いた再生・細胞医療、自己細胞を用いた再生・細胞医療、組織工学技術および再生薬物療法がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、副甲状腺ホルモン1型受容体(PTH1R)を発現すること、ならびに培養により外胚葉、中胚葉および内胚葉に分化することができることを特徴とする多能性幹細胞集団に関する。本明細書において、この多能性幹細胞集団を末梢血由来多能性幹細胞(PBD-PSC)と呼ぶ。
【0007】
いくつかの実施形態は、PBD-PSCを含む細胞集団に関し、このような細胞集団は、PTH1Rの存在によって同定され、特性評価され、かつ/または単離される。いくつかの実施形態において、PBD-PSCを含む前記幹細胞集団は、脂肪組織、骨髄、末梢血、雌性動物の卵巣卵胞液もしくは雄性動物の精漿、またはこれらの組み合わせから単離される。いくつかの実施形態において、PBD-PSCを含む前記幹細胞集団は、ヒト、家畜または農場動物(たとえばイヌ、ネコ、ラクダ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジまたはヤギ)などの哺乳動物から単離される。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記細胞集団に含まれるPTH1R発現PBD-PSCの直径は2.5~4.5μmであり、たとえば、2.5μm、2.6μm、2.7μm、2.8μm、2.9μm、3.0μm、3.1μm、3.2μm、3.3μm、3.4μm、3.5μm、3.6μm、3.7μm、3.8μm、3.9μm、4.0μm、4.1μm、4.2μm、4.3μm、4.4μmもしくは4.5μmであるか、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の直径を有する。いくつかの実施形態において、PBD-PSCを含む幹細胞集団は、培養により胚様体様細胞塊を形成する。いくつかの実施形態において、PBD-PSCを含む幹細胞集団は、適切な誘導培地中で培養した場合、外胚葉、中胚葉および/または内胚葉に分化する。
【0009】
いくつかの実施形態において、PBD-PSCを含む前記単離された細胞集団は、古典的CDマーカーを発現する。いくつかの実施形態において、PTH1Rを発現するPBD-PSCは、CD90および/もしくはCD133が陽性であり;CD29、CD34、CD105および/もしくはCD106が陽性または陰性であり;かつ/またはSSEA-3、CD200および/もしくはCD45が陰性である。いくつかの実施形態において、PBD-PSCを含む前記幹細胞集団は、Sox2およびOct4を発現する。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記PBD-PSCは1種以上のペプチドの共存下で培養される。いくつかの実施形態において、前記ペプチドは、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質、サイトカイン、成長因子または抗原である。いくつかの実施形態において、前記ECMタンパク質としては、たとえば、プロテオグリカン、非プロテオグリカン多糖類または繊維が挙げられ、たとえば、コンドロイチン硫酸、硫酸ヘパリン、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸、アグリン、ニドゲン、コラーゲン、エラスチン、エンタクチン、フィブロネクチン、ラミニン、パールカン、トータルタンパク質および/またはタンパク質断片が挙げられる。いくつかの実施形態において、前記サイトカインは、たとえばリンホカイン、インターロイキンおよびケモカインであり、たとえば、インターロイキンと呼ばれるサイトカイン群(IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13)、インターフェロン(IFN-α、IFN-βおよびIFN-γ)、腫瘍壊死因子(TNF-αおよびTNF-β)、コロニー刺激因子(GM-CSFおよびM-CSF)、またはこれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、前記成長因子としては、たとえば、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGFおよびbFGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF-αおよびTGF-β1、TGF-β2、TGF-β3)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、角化細胞増殖因子(KGF)、神経成長因子(NGF)、エリスロポエチン(EPO)もしくはインスリン様成長因子(IGF-IおよびIGF-II)、またはこれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、前記PBD-PSCは、レチノイン酸および/または1種以上のレチノイン酸誘導体の共存下で培養される。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記PBD-PSCには、ペプチドをコードする1つ以上の異種遺伝子がトランスフェクトされている。いくつかの実施形態において、前記ペプチドは、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質、サイトカイン、成長因子または抗原である。いくつかの実施形態において、前記ECMタンパク質としては、たとえば、プロテオグリカン、非プロテオグリカン多糖類または繊維が挙げられ、たとえば、コンドロイチン硫酸、硫酸ヘパリン、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸、アグリン、ニドゲン、コラーゲン、エラスチン、エンタクチン、フィブロネクチン、ラミニン、パールカン、トータルタンパク質および/またはタンパク質断片が挙げられる。いくつかの実施形態において、前記サイトカインは、たとえばリンホカイン、インターロイキンおよびケモカインであり、たとえば、インターロイキンと呼ばれるサイトカイン群(IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13)、インターフェロン(IFN-α、IFN-βおよびIFN-γ)、腫瘍壊死因子(TNF-αおよびTNF-β)、コロニー刺激因子(GM-CSFおよびM-CSF)、またはこれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、前記成長因子としては、たとえば、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGFおよびbFGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF-αおよびTGF-β1、TGF-β2、TGF-β3)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、角化細胞増殖因子(KGF)、神経成長因子(NGF)、エリスロポエチン(EPO)もしくはインスリン様成長因子(IGF-IおよびIGF-II)、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0012】
いくつかの実施形態において、PBD-PSCは、生物、組織または器官の特定の領域または部位にターゲティングされる。いくつかの実施形態において、前記PBD-PSCは、標的部位に過剰発現されている副甲状腺ホルモン(PTH)および/または副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)によって標的部位に誘引される。PTHおよびPTHrPは、PBD-PSCの化学誘引物質として作用する。いくつかの実施形態において、前記PBD-PSCは、PTHおよび/またはPTHrPの濃度が高い領域または部位に誘引される。いくつかの実施形態において、高濃度のPTHおよび/もしくはPTHrP、またはPTHおよび/もしくはPTHrPの過剰分泌は、過剰発現、自然発現および/または人為的誘導によってもたらされる。
【0013】
本発明の実施形態には、PBD-PSC上に発現されたPTH1Rに特異的な抗体またはその結合ドメインも含まれる。いくつかの実施形態において、前記抗体または結合ドメインは、モノクローナル抗体もしくはその結合性断片、またはポリクローナル抗体もしくはその結合性断片である。いくつかの実施形態において、前記抗体またはその結合性断片は、ヒト化抗体またはそのヒト化結合性断片である。
【0014】
本発明の実施形態には、PTH1Rを発現するPBD-PSCを含む多能性幹細胞集団を単離する方法も含まれる。いくつかの実施形態において、前記方法は、(好ましくはビーズ、膜、フィルター、容器などの支持体または表面に結合された)PTH1R特異的抗体またはその結合性断片に、PBD-PSCを含む細胞集団を含む試料を接触させ、抗体結合細胞集団(たとえば幹細胞集団)を形成させることを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記抗体結合細胞集団(たとえば幹細胞集団)を単離することをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記抗体またはその結合性断片から前記抗体結合細胞集団(たとえば幹細胞集団)を遊離することを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記抗体またはその結合性断片に結合させた細胞集団(たとえば幹細胞集団)を含む試料を、磁気ビーズ、表面または支持体と接触させることをさらに含む(たとえば、磁気ビーズ、表面、支持体、膜またはフィルターには、PTH1R特異的抗体またはその結合性断片が固相化されていてもよく、あるいは磁気ビーズ、表面、支持体、膜またはフィルターにPTH1R特異的抗体またはその結合性断片を結合させてもよい)。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記試料に磁場および/または遠心力を印加することによって、前記抗体またはその結合性断片に結合した細胞集団(たとえば幹細胞集団)を単離することを含む。
【0015】
本発明の別の実施形態には、障害、疾患または病態を治療、緩和または抑制するためにPBD-PSCを使用する方法が含まれ、前記障害、疾患または病態は、不妊症、脱毛や薄毛などの皮膚疾患もしくは毛髪疾患、骨疾患、がん、神経疾患、自己免疫疾患またはこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態において、1種以上の疾患に罹患している前記対象は、前記障害、疾患または病態の1種以上を評価するための臨床検査または診断検査によって特定された対象であり、該対象にPBD-PSCを含む幹細胞集団が投与され、PBD-PSCを含む該幹細胞集団の投与は、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、経皮投与、硝子体内投与、眼内投与、結膜下投与、球後投与、眼窩下投与、局所投与またはこれらの組み合わせによって行われる。いくつかの実施形態において、前記障害、疾患または病態の前記治療または緩和によって、該障害、疾患または病態が、緩和、改善、回復または退縮する。いくつかの実施形態において、動脈内注射には、子宮動脈、膵動脈もしくは卵巣動脈への注射、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0016】
本明細書に記載の実施形態のいくつかは、糖尿病を改善、緩和、回復、抑制または治療する方法に関する。いくつかの実施形態において、前記方法は、有効量の組成物を投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、本明細書の記載に従って単離された多能性幹細胞集団を含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、糖尿病の改善、緩和、回復、抑制または治療を必要とする対象に投与するための、本明細書に記載の単離された多能性幹細胞集団を含む。いくつかの実施形態において、前記糖尿病は1型糖尿病である。いくつかの実施形態において、前記組成物を膵動脈に動脈内投与する。いくつかの実施形態において、前記組成物を12週に1回投与する。いくつかの実施形態において、前記組成物を投与することによって、前記対象のインスリンの1日平均使用量が減少する。いくつかの実施形態において、前記インスリンの1日平均使用量は、2~10%、5~20%、10~30%、20~40%、30~50%、40~60%、50~70%、60~80%、70~90%もしくは80~100%減少するか、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内のパーセンテージで減少する。
【0017】
本明細書に記載の実施形態のいくつかは、糖尿病に罹患している対象のインスリンの1日平均用量を減少させる方法に関する。いくつかの実施形態において、前記方法は、有効量の組成物を投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、本明細書に記載の方法によって単離された多能性幹細胞集団を含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、インスリンの1日平均用量の減少を必要とする対象に投与するための、本明細書に記載の単離された多能性幹細胞集団を含む。いくつかの実施形態において、前記糖尿病は1型糖尿病である。いくつかの実施形態において、前記組成物を膵動脈に動脈内投与する。いくつかの実施形態において、前記組成物を12週に1回投与する。いくつかの実施形態において、前記組成物の投与によって、前記対象のインスリンの1日平均使用量が、2~10%、5~20%、10~30%、20~40%、30~50%、40~60%、50~70%、60~80%、70~90%もしくは80~100%減少するか、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内のパーセンテージで減少する。
【0018】
本明細書に記載の実施形態のいくつかは、単離された多能性幹細胞集団をマトリックス上で増殖させる方法に関する。いくつかの実施形態において、前記方法は、本明細書に記載の方法によって試料から多能性幹細胞集団を単離すること;単離した多能性幹細胞とナノファイバーマトリックスとを接触させること;および前記ナノファイバーマトリックス上で、前記単離された多能性幹細胞を増殖させることを含む。いくつかの実施形態において、多能性幹細胞を含むマトリックスが得られる。いくつかの実施形態において、前記ナノファイバーマトリックスは、たとえばポリジメチルシロキサン、セバシン酸ポリグリセリン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、セルロース、アルギン酸塩、寒天、アガロース、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、ヒアルロン酸、フィブリン、ポリ-L-ラクチドまたはポリ(乳酸-co-グリコール酸)などのポリマー繊維を含む。いくつかの実施形態において、前記ポリマー繊維は、エレクトロスピニング法により紡糸されたポリマー繊維である。いくつかの実施形態において、前記ポリマー繊維の太さは200~700μmの範囲(たとえば200μm、300μm、400μm、500μm、600μmもしくは700μm、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の太さ)である。いくつかの実施形態において、前記多能性幹細胞は前記マトリックスに結合し、2~40分以内(たとえば2分以内、3分以内、4分以内、5分以内、6分以内、7分以内、8分以内、9分以内、10分以内、15分以内、20分以内、25分以内、30分以内、35分以内もしくは40分以内、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の時間内)に該マトリックスに敷き詰められる。いくつかの実施形態において、前記多能性幹細胞を含むマトリックスは、関節内注射または骨内注射に使用される。いくつかの実施形態において、前記多能性幹細胞を含むマトリックスは、ゲルを含んでいてもよいドレッシング材と併用して、または併用せずに創傷の被覆に使用される。
【0019】
したがって、本明細書に記載の態様のいくつかは以下に関する。
【0020】
1.多能性幹細胞であって、
副甲状腺ホルモン1型受容体(PTH1R)を発現すること、
直径が2.5~4.5μmであり、たとえば、2.5μm、2.6μm、2.7μm、2.8μm、2.9μm、3.0μm、3.1μm、3.2μm、3.3μm、3.4μm、3.5μm、3.6μm、3.7μm、3.8μm、3.9μm、4.0μm、4.1μm、4.2μm、4.3μm、4.4μmもしくは4.5μmであるか、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の直径を有すること、
培養により胚様体様細胞塊を形成すること、ならびに
培養により外胚葉、中胚葉および内胚葉に分化することができること
を特徴とする多能性幹細胞。
【0021】
2.前記多能性幹細胞の細胞集団の培養が1種以上のペプチドの共存下で行われる、前記態様1に記載の多能性幹細胞。
【0022】
3.前記ペプチドが、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質、サイトカイン、成長因子または抗原である、前記態様2に記載の多能性幹細胞。
【0023】
4.前記多能性幹細胞の培養が、レチノイン酸および/または1種以上のレチノイン酸誘導体の共存下で行われる、前記態様1~3のいずれか1つに記載の多能性幹細胞。
【0024】
5.ペプチドをコードする異種遺伝子がトランスフェクトされている、前記態様1~4のいずれか1つに記載の多能性幹細胞。
【0025】
6.前記ペプチドが、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質、サイトカイン、成長因子または抗原である、前記態様5に記載の多能性幹細胞。
【0026】
7.末梢血、精液および/または卵巣卵胞液から単離されたものである、前記態様1~6のいずれか1つに記載の多能性幹細胞。
【0027】
8.末梢血、精液または卵巣卵胞液から単離された多能性幹細胞集団であって、
副甲状腺ホルモン1型受容体(PTH1R)を発現すること;
直径が2.5~4.5μmであり、たとえば、2.5μm、2.6μm、2.7μm、2.8μm、2.9μm、3.0μm、3.1μm、3.2μm、3.3μm、3.4μm、3.5μm、3.6μm、3.7μm、3.8μm、3.9μm、4.0μm、4.1μm、4.2μm、4.3μm、4.4μmもしくは4.5μmであるか、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の直径を有すること;
培養により胚様体様細胞塊を形成すること;ならびに
培養により外胚葉、中胚葉および内胚葉に分化することができること
を特徴とする多能性幹細胞集団。
【0028】
9.CD90およびCD133が陽性であり;
CD29、CD34、CD105およびCD106が陽性または陰性であり;
SSEA-3、CD200およびCD45が陰性である、
前記態様8に記載の単離された多能性幹細胞集団。
【0029】
10.Sox2およびOct4を発現する、前記態様8または9に記載の単離された多能性幹細胞集団。
【0030】
11.ヒト、ウマ、イヌまたはラクダに由来する、前記態様8~10のいずれか1つに記載の単離された多能性幹細胞集団。
【0031】
12.前記多能性幹細胞集団の培養がペプチドの共存下で行われる、前記態様8~11のいずれか1つに記載の単離された多能性幹細胞集団。
【0032】
13.前記ペプチドが、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質、サイトカイン、成長因子または抗原である、前記態様12に記載の単離された多能性幹細胞集団。
【0033】
14.前記多能性幹細胞集団の培養が、レチノイン酸および/または1種以上のレチノイン酸誘導体の共存下で行われる、前記態様8~13のいずれか1つに記載の単離された多能性幹細胞集団。
【0034】
15.ペプチドをコードする異種遺伝子がトランスフェクトされている、前記態様8~14のいずれか1つに記載の単離された多能性幹細胞集団。
【0035】
16.前記ペプチドが、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質、サイトカイン、成長因子または抗原である、前記態様15に記載の単離された多能性幹細胞集団。
【0036】
17.幹細胞上の副甲状腺ホルモン1型受容体(PTH1R)に特異的な抗体またはその結合性断片。
【0037】
18.モノクローナル抗体である、前記態様17に記載の抗体。
【0038】
19.ヒト化抗体である、前記態様17または18に記載の抗体。
【0039】
20.前記態様1~16のいずれか1つに記載の幹細胞集団を単離する方法であって、
前記幹細胞集団を含む試料を、副甲状腺ホルモン1型受容体(PTH1R)に特異的な抗体と接触させて、抗体結合幹細胞を形成させること;
前記抗体結合幹細胞を単離すること;および
前記抗体から前記幹細胞を遊離すること
を含む方法。
【0040】
21.前記抗体結合幹細胞を含む試料を磁気ビーズと接触させること;および
磁場を印加することによって前記抗体結合幹細胞を単離すること
をさらに含む、前記態様20に記載の方法。
【0041】
22.前記試料が、脂肪組織、骨髄、末梢血、精液、卵巣卵胞液およびこれらの組み合わせからなる群から選択される試料から得られたものである、前記態様20または21に記載の方法。
【0042】
23.前記単離された幹細胞集団が、古典的CDマーカーを発現する直径2.5μmの幹細胞を含む、前記態様20~22のいずれか1つに記載の方法。
【0043】
24.前記単離された幹細胞集団が、組織試料1mLあたり約10,000個、約50,000個、約100,000個、約500,000個、約1,000,000個、約5,000,000個もしくは約10,000,000個、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の量で単離された幹細胞を含む、前記態様20~23のいずれか1つに記載の方法。
【0044】
25.前記態様1~16のいずれか1つに記載の多能性幹細胞集団を単離する方法であって、
哺乳動物(たとえばヒト)などの個体から末梢血を得ること;
前記態様1~16のいずれか1つに記載の多能性幹細胞集団を捕捉するように構成された体外多孔質膜に前記末梢血を接触させること;
前記末梢血および前記膜に遠心力、重力または圧力を印加すること;
前記多能性幹細胞集団を捕捉すること;
前記膜を通過した血液を回収すること;ならびに
前記膜を通過した血液を前記個体に再注入すること
を含む方法。
【0045】
26.前記捕捉された多能性幹細胞集団を調製して、前記個体に再注入する、前記態様25に記載の方法。
【0046】
27.前記態様1~16のいずれか1つに記載の幹細胞集団を単離する方法であって、
前記幹細胞集団を含む試料を抗CD45抗体と接触させること;および
抗CD45抗体と結合しなかった細胞を回収すること
を含む方法。
【0047】
28.前記試料が、末梢血、血漿または血小板溶解物である、前記態様27に記載の方法。
【0048】
29.前記単離された幹細胞集団が、組織試料1mLあたり約10,000個、約50,000個、約100,000個、約500,000個、約1,000,000個、約5,000,000個もしくは約10,000,000個、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の量で単離された幹細胞を含む、前記態様27または28に記載の方法。
【0049】
30.対象の受胎能を改善する方法であって、
哺乳動物(たとえばヒト)などの、受胎能の改善を必要とする対象を選択すること;および
前記態様20~26のいずれか1つに記載の方法によって単離された多能性幹細胞集団または前記態様1~16のいずれか1つに記載の単離された多能性幹細胞集団の治療有効量を前記対象に投与すること
を含む方法。
【0050】
31.前記多能性幹細胞が自己細胞である、前記態様30に記載の方法。
【0051】
32.前記治療有効量が、卵巣の機能、卵母細胞の質、子宮内膜の厚さ、子宮内膜の受胎性またはこれらの組み合わせに、検出可能な改善をもたらすのに十分な量である、前記態様30または31に記載の方法。
【0052】
33.前記単離された多能性幹細胞集団の治療有効量を、精巣または子宮への注射によって投与する、前記態様30または31に記載の方法。
【0053】
34.前記単離された多能性幹細胞集団の治療有効量を前記対象の静脈内に投与して子宮動脈に到達させることによって、子宮内膜壁の肥厚を促進させ、子宮内膜壁の受胎性を向上させる、前記態様30または31に記載の方法。
【0054】
35.前記子宮内膜壁が、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%もしくはそれ以上肥厚するか、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内のパーセンテージで肥厚する、前記態様34に記載の方法。
【0055】
36.前記単離された多能性幹細胞集団の治療有効量を前記対象の静脈内に投与して卵巣動脈に到達させることによって、卵子の数を増加させ、卵子の質を向上させる、前記態様30または31に記載の方法。
【0056】
37.前記多能性幹細胞が、脂肪組織、骨髄、末梢血、精漿および卵巣卵胞液ならびに/またはこれらの組み合わせからなる群から選択される試料から単離されたものである、前記態様30~36のいずれか1つに記載の方法。
【0057】
38.前記態様20~29のいずれか1つに記載の方法によって単離された多能性幹細胞集団または前記態様1~16のいずれか1つに記載の単離された多能性幹細胞集団を目的部位にターゲティングする方法であって、該目的部位において副甲状腺ホルモン関連タンパク質を発現させることを含む方法。
【0058】
39.哺乳動物(たとえばヒト)などの対象の皮膚部位の皮膚コラーゲンおよび/または皮膚エラスチンの産生を増加させる方法であって、
前記態様20~29のいずれか1つに記載の方法によって単離された多能性幹細胞集団または前記態様1~16のいずれか1つに記載の単離された多能性幹細胞集団を含む組成物の治療有効量を投与することを含む方法。
【0059】
40.前記組成物を1回以上の皮下注射によって投与する、前記態様39に記載の方法。
【0060】
41.前記皮膚コラーゲンおよび/または皮膚エラスチンの産生の増加によって、小じわの減少、しわの減少、肌の明るさの増加、もしくは肌のハリの増加、および/またはこれらの組み合わせが達成される、前記態様39または40に記載の方法。
【0061】
42.脱毛を抑制するか、または発毛を促進する方法であって、
前記態様20~29のいずれか1つに記載の方法によって単離された多能性幹細胞集団または前記態様1~16のいずれか1つに記載の単離された多能性幹細胞集団を含む組成物の有効量を、哺乳動物(たとえばヒト)などの、脱毛の抑制または発毛の促進を必要とする対象に投与することを含む方法。
【0062】
43.前記組成物を前記対象に経皮投与する、前記態様42に記載の方法。
【0063】
44.前記組成物を前記対象に皮下注射する、前記態様42に記載の方法。
【0064】
45.骨疾患を改善、緩和、回復または治療する方法であって、
前記態様20~29のいずれか1つに記載の方法によって単離された多能性幹細胞集団または前記態様1~16のいずれか1つに記載の単離された多能性幹細胞集団を含む組成物の有効量を、哺乳動物(たとえばヒト)などの、骨疾患の改善、緩和、回復または治療を必要とする対象に投与することを含む方法。
【0065】
46.前記骨疾患が骨損傷である、前記態様45に記載の方法。
【0066】
47.前記骨損傷が骨折である、前記態様46に記載の方法。
【0067】
48.前記骨折が棘突起骨折である、前記態様47に記載の方法。
【0068】
49.前記骨疾患が骨粗鬆症である、前記態様45に記載の方法。
【0069】
50.前記骨疾患が骨減少症である、前記態様45に記載の方法。
【0070】
51.前記組成物を前記対象に皮下注射する、前記態様45~50のいずれか1つに記載の方法。
【0071】
52.前記組成物を前記対象に静脈内投与する、前記態様45~50のいずれか1つに記載の方法。
【0072】
53.前記組成物を前記対象に動脈内投与する、前記態様45~50のいずれか一項に記載の方法。
【0073】
54.前記組成物を、子宮動脈、膵動脈および卵巣動脈の1つ以上に投与する、前記態様53に記載の方法。
【0074】
55.神経疾患を改善、緩和、抑制、回復または治療する方法であって、
前記態様20~29のいずれか1つに記載の方法によって単離された多能性幹細胞集団または前記態様1~16のいずれか1つに記載の単離された多能性幹細胞集団を含む組成物の有効量を、哺乳動物(たとえばヒト)などの、神経疾患の改善、緩和、抑制、回復または治療を必要とする対象に投与することを含む方法。
【0075】
56.転移性癌を改善、緩和、抑制、回復または治療する方法であって、
前記態様20~29のいずれか1つに記載の方法によって単離された多能性幹細胞集団または前記態様1~16のいずれか1つに記載の単離された多能性幹細胞集団を含む組成物の有効量を、哺乳動物(たとえばヒト)などの、転移性癌の改善、緩和、抑制、回復または治療を必要とする対象に投与することを含む方法。
【0076】
57.自己免疫疾患を予防、治療、抑制、予防または緩和する方法であって、
哺乳動物(たとえばヒト)などの、自己免疫疾患の予防、治療、抑制、予防または緩和を必要とする対象を特定すること、および
前記態様20~29のいずれか1つに記載の方法によって単離された多能性幹細胞集団または前記態様1~16のいずれか1つに記載の幹細胞を含む単離された細胞集団を含む組成物の有効量を前記対象に投与すること
を含む方法。
【0077】
58.医薬品として使用するための、末梢血由来多能性幹細胞(PBD-PSC)。
【0078】
59.糖尿病を改善、抑制、緩和、回復または治療する方法であって、
前記態様20~29のいずれか1つに記載の方法によって単離された多能性幹細胞集団または前記態様1~16のいずれか1つに記載の単離された多能性幹細胞集団を含む組成物の有効量を、哺乳動物(たとえばヒト)などの、糖尿病の改善、抑制、緩和、回復または治療を必要とする対象に投与することを含む方法。
【0079】
60.前記糖尿病が1型糖尿病である、前記態様59に記載の方法。
【0080】
61.前記組成物を膵動脈に動脈内投与する、前記態様59または60に記載の方法。
【0081】
62.前記組成物を12週に1回投与する、前記態様59~61のいずれか1つに記載の方法。
【0082】
63.前記組成物を投与することによって、前記対象のインスリンの1日平均使用量が減少する、前記態様59~62のいずれか1つに記載の方法。
【0083】
64.前記インスリンの1日平均使用量が、約2~10%、約5~20%、約10~30%、約20~40%、約30~50%、約40~60%、約50~70%、約60~80%、約70~90%もしくは約80~100%減少するか、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内のパーセンテージで減少する、前記態様63に記載の方法。
【0084】
65.糖尿病に罹患している対象のインスリンの1日平均用量を減少させる方法であって、
前記態様20~26のいずれか1つに記載の方法によって単離された多能性幹細胞集団または前記態様1~16のいずれか1つに記載の単離された多能性幹細胞集団を含む組成物の有効量を、哺乳動物(たとえばヒト)などの、インスリンの1日平均用量の減少を必要とする対象に投与することを含む方法。
【0085】
66.前記糖尿病が1型糖尿病である、前記態様65に記載の方法。
【0086】
67.前記組成物を膵動脈に動脈内投与する、前記態様65または66に記載の方法。
【0087】
68.前記組成物を12週に1回投与する、前記態様65~67のいずれか1つに記載の方法。
【0088】
69.前記組成物の投与によって、前記対象のインスリンの1日平均使用量が、約2~10%、約5~20%、約10~30%、約20~40%、約30~50%、約40~60%、約50~70%、約60~80%、約70~90%もしくは約80~100%減少するか、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内のパーセンテージで減少する、前記態様65~68のいずれか1つに記載の方法。
【0089】
70.単離された多能性幹細胞集団をマトリックス上で増殖させる方法であって、
前記態様20~29のいずれか1つに記載の方法によって試料から多能性幹細胞集団を単離すること;
単離した多能性幹細胞とナノファイバーマトリックスとを接触させること;および
前記ナノファイバーマトリックス上で、前記単離された多能性幹細胞を増殖させること
を含み、
多能性幹細胞を含むマトリックスが得られることを特徴とする方法。
【0090】
71.前記ナノファイバーマトリックスが、たとえばポリジメチルシロキサン、セバシン酸ポリグリセリン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、セルロース、アルギン酸塩、寒天、アガロース、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、ヒアルロン酸、フィブリン、ポリ-L-ラクチドおよび/またはポリ(乳酸-co-グリコール酸)などのポリマー繊維を含む、前記態様70に記載の方法。
【0091】
72.前記ポリマー繊維が、エレクトロスピニング法により紡糸されたポリマー繊維である、前記態様71に記載の方法。
【0092】
73.前記ポリマー繊維の太さが、200~700μmの範囲であり、たとえば200μm、300μm、400μm、500μm、600μmもしくは700μm、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の太さである、前記態様71または72に記載の方法。
【0093】
74.前記多能性幹細胞が前記マトリックスに結合し、2~40分以内、たとえば2分以内、3分以内、4分以内、5分以内、6分以内、7分以内、8分以内、9分以内、10分以内、15分以内、20分以内、25分以内、30分以内、35分以内または40分以内に該マトリックスに敷き詰められる、前記態様70~73のいずれか1つに記載の方法。
【0094】
75.前記多能性幹細胞を含むマトリックスが、関節内注射または骨内注射に使用される、前記態様70~74のいずれか1つに記載の方法。
【0095】
76.前記多能性幹細胞を含むマトリックスが、創傷の被覆に使用される、前記態様70~74のいずれか1つに記載の方法。
【0096】
77.黄斑変性を改善、緩和、回復、抑制または治療する方法であって、
前記態様20~29のいずれか1つに記載の方法によって単離された多能性幹細胞集団または前記態様1~16のいずれか1つに記載の単離された多能性幹細胞集団を含む組成物の有効量を、哺乳動物(たとえばヒト)などの、黄斑変性の改善、緩和、回復、抑制または治療を必要とする対象に投与することを含む方法。
【0097】
78.前記黄斑変性が、ドライ型黄斑変性またはウェット型黄斑変性である、前記態様77に記載の方法。
【0098】
79.前記組成物を、静脈内注射、硝子体内注射、眼内注射、結膜下注射、球後注射または眼窩下注射によって投与する、前記態様77または78に記載の方法。
【0099】
80.前記組成物を12週に1回投与する、前記態様77~79のいずれか1つに記載の方法。
【0100】
81.前記組成物の投与によって前記対象の視力が改善する、前記態様77~80のいずれか1つに記載の方法。
【0101】
82.前記視力が、約20/20、約20/30、約20/40、約20/50、約20/60、約20/70、約20/80、約20/90もしくは約20/100まで改善するか、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の視力まで改善する、前記態様81に記載の方法。
【0102】
これらの特徴および本明細書でさらに説明するその他の特徴は、以下の図面の説明および詳細な説明を参照することによって明らかになるであろう。
【0103】
前述した特徴以外のさらなる特徴や変形例は、以下の図面の説明および代表的な実施形態から容易に理解できるであろう。以下の図面は代表的な実施形態を示しており、本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0104】
図1】本明細書に記載のPBD-PSCの特性評価を示す。副甲状腺ホルモン1型受容体(PTH1R)陽性細胞を800×gで遠心分離したもの(パネルA)、1000×gで遠心分離したもの(パネルB)または1200×gで遠心分離後に濾過したもの(パネルC)を、フローサイトメトリーで分析した結果を示す。
【0105】
図2】本明細書に記載のPBD-PSCのフローサイトメトリーによる特性評価を示す。パネルAは末梢血由来のPTH1R陽性細胞を示す。パネルBは、PTH1R陽性細胞とCD133陽性細胞の比較を示す。パネルCは、CD133陽性細胞とCD90陽性細胞の比較を示す。パネルDは、SSEA4陽性細胞とCD45陽性細胞の比較を示す。
【0106】
図3】遠心分離および濾過を行った後の卵巣卵胞液由来PTH1R陽性細胞の特性評価を示す。パネルAはPTH1R陽性細胞を示す。パネルBは、PTH1R陽性細胞とCD133陽性細胞の比較を示す。パネルCは、PTH1R陽性細胞とCD90陽性細胞の比較を示す。
【0107】
図4A-4C】卵巣卵胞液および末梢血から得たPTH1R陽性細胞の特性評価を示す。図4AはPTHR陽性細胞を示し、図4BはCD133陽性細胞を示し、図4CはPTHR/CD90陽性細胞を示す。
【0108】
図5A-5E】PTH受容体(図5A)、CD90(図5B)、CD133(図5C)、SSEA-4(図5D)およびCD45(図5E)を抗体で染色した、本明細書に記載のPBD-PSCの顕微鏡写真を示す。
【0109】
図6】本明細書に記載のPBD-PSCの顕微鏡写真を示す。この幹細胞の直径は2.5~4.5μmであり、Kyoto probe 1で検出可能な多能性幹細胞マーカーを有している。
【0110】
図7】PBD-PSCを培養することによって胚様体様細胞塊が形成されることを示す顕微鏡写真であり、PBD-PSCが分化能を持った非常に原始的な幹細胞であることを実証している。
【0111】
図8】従来のRt-PCRを使用して幹細胞マーカーを検出したPBD-PSCの遺伝子発現を示す。レーン1はDNAラダーである。レーン2はコントロールとしてのGAPDH1である。レーン3はSox2の検出を示す。レーン4はOct4の検出を示す。
【0112】
図9】様々な動物、すなわちウマ、イヌおよびラクダに由来するPBD-PSCの顕微鏡写真を示す。
【0113】
図10】PBD-PSCに特有のマーカーを標的とするユニークなモノクローナル抗体の作製方法を示す。このモノクローナル抗体を使用して、この特定の多能性幹細胞(すなわちPBD-PSC)を選択することができ、診断および治療に利用することができる。
【0114】
図11】PBD-PSCの単離方法の一実施形態を示す。幹細胞を含む試料(組織ホモジネート、末梢血、または本明細書に記載のその他の幹細胞供給源)を、図10に示した方法で作製したモノクローナル抗体と接触させる。得られた混合物に磁気ビーズを加え、磁場を印加する。洗浄バッファーを加え、PBD-PSCを単離する。
【0115】
図12】体外システムを使用したPBD-PSCの単離方法を示す。PBD-PSCを捕捉するように構成された体外膜、好ましくは多孔質膜に、対象から得た末梢血を通過させる。末梢血に遠心力または重力を印加してPBD-PSCを捕捉し、回収する。末梢血からPBD-PSCを回収後、膜を通過した血液を対象に再注入してもよい。
【0116】
図13】生体の老化に関与する様々なプロセスを示す。外因性作用は内因性作用と共同して働き、ゲノム的な変化、エピゲノム的な変化およびプロテオーム的な変化を引き起こし、その結果、機能低下が起こる。この機能低下によって、組織の機能不全および生体の老化が引き起こされる。
【0117】
図14】幹細胞の典型的な老化の進行を示す。若い幹細胞は健常な子孫細胞を生み出すことができる。しかし、幹細胞が老化するにつれて、得られる子孫細胞は、系統特異性の喪失により機能が低下し、自己複製能の喪失により細胞数が減少し、老化により細胞数が減少し、悪性形質転換を起こしやすくなる。
【0118】
図15】血漿1mLあたりのPTHR陽性幹細胞数(y軸)と対象の年齢(x軸)の間に負の相関があることを示す。
【0119】
図16】生体内の幹細胞集団において時間の経過とともに起こる遺伝的な変化およびエピジェネティック的な変化を示す。
【0120】
図17】化学療法抵抗性および放射線療法抵抗性などの、がん幹細胞(CSC)の特性を示す。
【0121】
図18】老齢マウスの幹細胞を活性化し、かつその器官を若返らせる能力について、若齢マウスの血液中因子と老齢マウスの血液中因子を比較した図を示す。若齢マウスの再生能は、老齢マウスの血液中因子によって抑制されると見られる。
【0122】
図19】時間が経過し複製が繰り返されるにつれて、幹細胞に老化の影響が多く見られることを示す。しかしながら、経時寿命および複製寿命に伴って見られる幹細胞への老化の影響は、本明細書に記載の治療によって回復することができる。
【0123】
図20A-20D】ナノファイバーマトリックス上で増殖させた健常男性由来PBD-PSCの電子顕微鏡写真を示す。0分(図20A)、5分(図20B)、30分(図20C)および120分(図20D)の時点における、ナノファイバーマトリックス上のPBD-PSCの時間経過を示す。
【0124】
図21】PBD-PSC調製物を脂肪溶解剤として使用して、皮膚コラーゲンおよび皮膚エラスチンの存在量を増加させることにより皮膚の早期老化を抑制した皮膚治療の代表例を示す。治療前の0日目および治療の30日後に、皮膚のコラーゲン量およびエラスチン量を測定した。
【0125】
図22】PBD-PSC調製物を使用して毛髪再生を誘導した毛包および頭皮の治療の代表例を示す。写真は、治療前および治療の10週間後の毛包の成長を示す。
【0126】
図23A-23C】PBD-PSC療法の一実施形態を使用して、棘突起の棘突起骨折を治療した後の画像を示す。図23Aは治療前の骨折を示す。図23Bは、PBD-PSC療法を使用した、頸椎の冠状骨折の治療を示す。左画像は治療前の骨折を示し、右画像はPBD-PSC療法の4ヶ月後の骨折の状態を示す。図23Cは、PBD-PSC療法を使用した、頸椎の矢状骨折の治療を示す。左画像は治療前の骨折を示し、右画像はPBD-PSC療法の4ヶ月後の骨折の状態を示す。
【0127】
図24】骨粗鬆症の影響を示す。左画像は正常な健常骨の断面図を示す。右画像は骨粗鬆症の骨の断面図であり、有孔化が進み、骨密度が減少していることを示す。
【0128】
図25】重度の骨粗鬆症に罹患した対象の骨密度を示す。上パネルは、PBD-PSCを単回注入した後の腰椎の骨密度の変化を示す。下パネルは、PBD-PSCを単回注入した後の左股関節の骨密度の変化を示す。y軸は骨密度(g/cm2)を示し、x軸は時間を示す。
【0129】
図26】骨減少症を有する対象における骨密度とTスコアの変化を示す。上パネルは、単回PBD-PSC療法を行った後の腰椎の骨密度とTスコアの変化を示す。下パネルは、単回PBD-PSC療法を行った後の左股関節の骨密度とTスコアの変化を示す。
【0130】
図27】PBD-PSCの子宮動脈注射を使用した、薄い子宮内膜の治療の代表例を示す。治療前の画像では薄い子宮内膜が広範囲に認められるが、治療後の画像では薄い子宮内膜はほとんど認められない。
【0131】
図28】PBD-PSCを使用した転移性肺腫瘍の治療の代表例を示す。PBD-PSC同種移植細胞を移植した30日後(左)および129日後(右)における転移性肺腫瘍のCT画像を示し、移植の129日後に転移腫瘍が完全に寛解したことを示す。
【0132】
図29】PBD-PSCの投与後におけるインスリンの平均使用量の減少を示す。17歳の男性と16歳の女性からなる2人の対象に、PBD-PSCを1週目と13週目の計2回投与した。PBD-PSC療法後、インスリンの1日平均使用量の減少が観察される。
【発明を実施するための形態】
【0133】
以下の詳細な説明では、本明細書の一部を構成する添付の図面を参照しながら本発明を説明する。別段の記載がない限り、図面中の類似の記号は、通常、類似の構成要素を示す。詳細な説明、図面および請求項に記載の実施形態は例示を目的としたものであり、本発明をなんら限定するものではない。本明細書に記載の主題の要旨や範囲から逸脱することなく、その他の実施形態を採用してもよく、その他の変更を加えてもよい。本明細書に概説され、図面に示された本開示の態様は、様々な構成で配置、置換、合体、分離および設計することができることは容易に理解され、このような態様はいずれも明示的に本明細書に包含される。
【0134】
末梢血由来多能性幹細胞(PBD-PSC)は、直径2.5~4.5μmの非常に小さな幹細胞であり、たとえば、2.5μm、2.6μm、2.7μm、2.8μm、2.9μm、3.0μm、3.1μm、3.2μm、3.3μm、3.4μm、3.5μm、3.6μm、3.7μm、3.8μm、3.9μm、4.0μm、4.1μm、4.2μm、4.3μm、4.4μmもしくは4.5μmの直径、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の直径を有する。PBD-PSCは非常に原始的な幹細胞であり、特定の機能を持つ様々な細胞系統への高い分化能を有している。したがって、PBD-PSCは、再生医療分野、特に抗老化治療のための再生医療分野での用途に特に適している。より具体的には、PBD-PSCは、様々な用途において強力なツールとして使用でき、たとえば、ドナー由来細胞を分化させて成長因子を放出させることによって損傷組織を修復させるための、同種細胞を用いた再生・細胞医療;患者自身の細胞を再プログラム化、増殖および/または分化させて損傷組織に恒常的に組み込むことによって該損傷組織を治療するための、自己細胞を用いた再生・細胞医療;ならびに患者自身の細胞を足場に播種して新たな組織を形成させ、次いで損傷組織に定着させて該損傷組織を修復させるための、組織工学技術などの用途に使用することができる。PBD-PSCは、PTH1Rを高発現することを特徴とする。したがって、本明細書に記載の態様のいくつかにおいて、PBD-PSCはPTH1R陽性幹細胞とも呼ばれる。
【0135】
用語の定義
別段の記載がない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。たとえば、Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2nd ed., J. Wiley & Sons (New York, NY 1994);Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Springs Harbor Press (Cold Springs Harbor, NY 1989)を参照されたい。本発明の開示を目的として以下の用語を以下のように定義する。
【0136】
本明細書において冠詞「a」または「an」は、該冠詞の文法上の目的語となる1つまたは複数の(たとえば少なくとも1つの)ものを指すために使用される。たとえば、「an element」は1つの構成要素または複数の構成要素を意味する。
【0137】
「約」は、特定の数量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、大きさ、量、重量または長さが、対照としての数量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、大きさ、量、重量または長さと比較して、30%、25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%の範囲で変動することを意味する。
【0138】
本明細書を通して、別段の記載がない限り、「含む」(comprise、comprisesおよびcomprising)という用語は、記載の工程もしくは構成要素または工程群もしくは構成要素群を包含すると理解されるが、記載されているもの以外の工程もしくは構成要素または工程群もしくは構成要素群を除外するものではない。
【0139】
「からなる」は、この用語の前に挙げられたもののみを含むことを意味する。したがって、「からなる」という用語は、この用語の前に挙げられた構成要素が必要または必須であることを示し、その他の構成要素は含まれていなくてもよいことを意味する。「本質的にからなる」は、この用語の前に挙げられた構成要素を含み、該構成要素の開示に関連して記載された活性または作用に対して阻害も寄与もしないその他の構成要素も含むことを意味する。したがって、「本質的にからなる」という用語は、この用語の前に挙げられた構成要素が必要または必須であることを示すが、その他の構成要素は任意であり、この用語の前に挙げられた構成要素の活性または作用に実質的な影響を与えるかどうかによって含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。
【0140】
いくつかの実施形態において、組成物中の任意の薬剤(たとえば抗体、ポリペプチド結合性薬剤)の「純度」は具体的に定義されていてもよい。たとえば、特定の組成物は、たとえば高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)(化合物を分離、同定かつ定量するために生化学分野および分析化学分野において頻繁に使用される公知のカラムクロマトグラフィーの一種)(ただしこれに限定されない)などによって測定した場合に、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の純度(各数値の間の小数値を含む)の薬剤を含んでいてもよい。
【0141】
本明細書において「機能」や「機能的」などの用語は、生物学的機能、酵素的機能または治療的機能を指す。
【0142】
「単離された」とは、天然状態において通常付随する様々な成分から実質的または本質的に分離された材料を意味する。たとえば、本明細書において「単離された幹細胞」または「単離された幹細胞集団」には、他の細胞や残渣を含む試料材料または天然には存在しない外来の試料材料から精製された幹細胞または幹細胞集団が含まれる。あるいは、本明細書において「単離された幹細胞」または「単離された幹細胞集団」などには、自然環境から目的の細胞または細胞集団を分離し、かつ該目的の細胞または細胞集団が含まれる試料や材料中のその他の成分との関連から切り離すための、インビトロ単離、体外単離、その他の単離および/または精製が含まれる。いくつかの実施形態において、「単離された」とは、目的の成分が、インビボにおいて関連のある物質と有意な関連性をもはや持たないことをいう。
【0143】
本開示の実施に当たって、別段の記載がない限り、当技術分野で従来公知の分子生物学的方法および組換えDNA技術が使用され、これらの方法の大部分は説明を目的として後述されている。このような技術は文献に詳述されている。たとえば、Sambrook, et al, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd Edition, 2000);DNA Cloning: A Practical Approach, vol. 1 & II (D. Glover, ed.);Oligonucleotide Synthesis (N. Gait, ed., 1984);Oligonucleotide Synthesis: Methods and Applications (P. Herdewijn, ed., 2004);Nucleic Acid Hybridization (B. Hames & S. Higgins, eds., 1985);Nucleic Acid Hybridization: Modern Applications (Buzdin and Lukyanov, eds., 2009);Transcription and Translation (B. Hames & S. Higgins, eds., 1984);Animal Cell Culture (R. Freshney, ed., 1986);Freshney, R.I. (2005) Culture of Animal Cells, a Manual of Basic Technique, 5th Ed. Hoboken NJ, John Wiley & Sons;B. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning (3rd Edition 2010);Farrell, R., RNA Methodologies: A Laboratory Guide for Isolation and Characterization (3rd Edition 2005)を参照されたい。
【0144】
本明細書において「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(免疫グロブリンのFc領域を有する完全長抗体を含む)、複数のエピトープに対して特異性を有する抗体組成物、多重特異性抗体(たとえば二重特異性抗体、ダイアボディ(diabody)および一本鎖分子)ならびに抗体断片(たとえばFabまたはF(ab’)2およびFv)を包含する。様々な種類の抗体の構造および特性については、たとえば、Basic and Clinical Immunology, 8th Edition, Daniel P. Sties, Abba I. Terr and Tristram G. Parsolw (eds), Appleton & Lange, Norwalk, Conn., 1994の71頁のChapter 6を参照されたい。
【0145】
いくつかの実施形態において、PBD-PSCに対する抗体が提供される。いくつかの実施形態において、前記抗体はモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。いくつかの実施形態において、前記抗体はヒト化抗体である。「単離された抗体」とは、自然界において関連し、かつ天然状態では付随する成分(自然界において関連するその他の抗体など)から分離され、同じ生物種由来のその他のタンパク質からも分離された抗体である。さらに、「単離された抗体」は、別の生物種由来の細胞によって発現された抗体、または自然界には存在しない抗体である。「ヒト抗体」は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する1つ以上の可変領域および定常領域を持つあらゆる抗体を含む。「ヒト化抗体」は非ヒト生物種に由来する抗体であり、ヒトの免疫応答を回避または抑制するために、重鎖および軽鎖のフレームワークおよび定常ドメインの特定のアミノ酸を変異させた抗体である。あるいは、ヒト化抗体は、ヒト抗体から得た定常ドメインを非ヒト生物種の可変ドメインに融合させることによって作製したものであってもよい。「キメラ抗体」は、1つの抗体に由来する1つ以上の領域と、1つ以上の別の抗体に由来する1つ以上の領域とを含む抗体を指す。さらに、抗体の断片も容易に調製することができる。したがって、本明細書で述べるように、PBD-PSCに対する抗体およびその断片が提供される。
【0146】
本明細書において、「治療」は、対象、特に加齢に伴う疾患または組織変性もしくは細胞変性を示す疾患に罹患している対象によって示される疾患、障害または生理的状態に応じてなされる介入を指す。このような疾患としては、皮膚疾患;脱毛および毛髪疾患;1型糖尿病を含む糖尿病;骨粗鬆症、骨減少症および/または骨折を含む骨疾患および骨損傷;不妊症;悪性がん;自己免疫疾患;黄斑変性;再生能の喪失を伴うその他の疾患;ならびに本明細書に記載されており、当技術分野で知られているその他の疾患などが挙げられるが、これらに限定されない。治療の目的は、症状の緩和または予防;疾患、障害もしくは病態の進行または悪化の遅延または抑止;および疾患、障害または病態の寛解のうち1つ以上を含みうるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、「治療」は、治療的処置と予防的処置の両方を指す。治療を必要とする対象には、疾患、障害または望ましくない生理的状態に既に侵されている対象だけでなく、疾患、障害または望ましくない生理的状態を予防する必要がある対象が包含される。たとえば、いくつかの実施形態において、治療により疾患の症状が軽減、緩和または解消される。本明細書において、「予防」は、個体が後に疾患の症状を発症するという負担を軽減する任意の行為を指す。この予防は、一次、二次および/または三次の段階で行われうる。a)一次予防は、症状/障害/病態の発症を回避する。b)二次予防行為は、病態/障害/症状の治療の初期段階に行われるものであり、早期介入を行うことにより、病態/障害/症状の進行および症状の出現を防ぐ。c)三次予防は、既に発症した病態/障害/症状の負の影響を軽減するものであり、たとえば、機能の回復および/または任意の病態/障害/症状もしくは関連合併症の軽減により達成される。
【0147】
「治療有効量」という用語は、上述の生物学的応答または薬物応答を誘導可能な活性化合物または薬剤の量を示すために使用される。たとえば、化合物の治療有効量は、疾患の症状を予防、軽減もしくは緩和するのに必要な量、または前記治療を受けている対象の生存を延長するのに必要な量であってもよい。このような応答は、組織、系、動物またはヒトにおいて見られてもよく、治療中の疾患の徴候または症状の緩和を含む。治療有効量は、本明細書の開示を考慮に入れて当業者により容易に決定される。用量として必要とされる本明細書に開示の化合物の治療有効量は、投与経路、治療を受けている動物の種類(ヒトを含む)、および治療対象である特定の動物の身体的特性によって決まる。前記用量は、所望の効果を得るために調整することができるが、体重、食餌、併用薬などの因子や、医学に精通した当業者によって認識されるその他の因子によっても左右される。
【0148】
本明細書において「骨粗鬆症」は、骨量の減少および骨構造の破綻を特徴とする病態を指し、骨の脆弱性の増加、骨折のリスクの増大、および骨石灰化の低下または骨密度の低下を引き起こす。骨粗鬆症では、カルシウムおよび骨タンパク質の欠乏により、骨量が低下して骨の萎縮が起こる。骨粗鬆症患者では、骨強度が異常に低下することによって骨折のリスクが増大する。骨折は、(股関節骨折で見られるような)ひび割れや、(棘突起の圧迫骨折で見られるような)圧潰の形態をとることがある。骨粗鬆症による骨折は、棘突起、股関節および手首でよく発生するが、骨格の別の部位でも起こる場合がある。検査を受けていない骨粗鬆症は、姿勢変化、身体異常および可動域の低下を引き起こすことがある。骨粗鬆症は骨密度測定によって特定することができる。本明細書において「骨減少症」は、骨形成と骨吸収のバランスが崩れて、骨再吸収速度が骨形成速度を上回り、これによって骨の生物学的統合性および構造統合性にネガティブな影響が及ぼされ、骨石灰化の低下または骨密度の低下が起こった状態を指す。
【0149】
本明細書において「糖尿病」は、インスリンの相対的不足または絶対的不足によって引き起こされる疾患であり、炭水化物の代謝制御異常を引き起こす。糖尿病は英語で“diabetes mellitus”と記載され、“diabetes”と略されることが多いが、“diabetes insipidus(尿崩症)”と混同しないように注意されたい。別段の記載がない限り、本明細書において“diabetes”は糖尿病を指す。「糖尿病の病態」は前糖尿病および糖尿病を含む。1型糖尿病(「インスリン依存型糖尿病」または「若年性糖尿病」とも呼ばれる)は、膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンの絶対的不足に近い状態あるいはインスリンの絶対的不足に陥ることを特徴とする自己免疫疾患である。2型糖尿病(T2DM;「インスリン非依存型糖尿病」または「成人発症型糖尿病」とも呼ばれる)は、インスリンは存在するものの、生体がインスリンに対して応答しないことを特徴とする。本明細書において「代謝病態」は、1型糖尿病、2型糖尿病、前糖尿病および糖尿病合併症を指す。
【0150】
糖尿病の症状としては、多渇(多飲症);頻尿(多尿症);極端な空腹または常時摂食(多食症);原因不明の体重減少;尿中グルコースの検出(糖尿);疲れまたは疲労;視力の変化;四肢のしびれまたは疼くような痛み(手、足);創傷またはびらんの治癒の遅延;および異常に高頻度の感染症が挙げられる。糖尿病は、空腹時血漿中グルコース濃度(FPG)が7.0mmol/L(126mg/dL)以上であること、または75gの糖負荷による経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の約2時間後に血漿中グルコース濃度が11.1mmol/L(200mg/dL)以上であることから臨床的に診断してもよい。
【0151】
本明細書において「脱毛」は、頭皮から毛髪が失われること、または抜け毛もしくは薄毛を指す。「脱毛の予防」は、このような脱毛の予防および抑制を指し、「発毛の促進」は、新しい毛髪の形成を促進すること、または既存の毛髪を健康なまま成長させることを指す。
【0152】
本明細書において「皮膚損傷」または「皮膚疾患」は、皮膚炎を引き起こすことがある老化、日光による損傷、がん、皮膚疾患または皮膚病によって引き起こされうる皮膚の損傷を指してもよい。「皮膚病」および/または「皮膚疾患」としては、顔のしわ、皮膚の非酵素的グリコシル化、日光による損傷、喫煙による損傷、皮膚の線維化、夏季ざ瘡(Mallorcaざ瘡)、集簇性ざ瘡、化粧品ざ瘡(コスメティックアクネ)、電撃性ざ瘡(急性熱性潰瘍性ざ瘡)、項部ケロイド性ざ瘡(ケロイド性ざ瘡、頭部乳頭状皮膚炎、ケロイド性毛包炎、項部ケロイド性毛包炎、項部ケロイド性ざ瘡)、成人前額部散在性紅丘疹、尋常性ざ瘡、機械的ざ瘡、薬物性ざ瘡、粟粒性壊死性ざ瘡(痘瘡状ざ瘡)、尋常性ざ瘡、顔面浮腫を伴うざ瘡(顔面浮腫性硬化)、眼瞼腫瘤、紅斑・毛細血管拡張型酒さ(紅斑毛細血管拡張型酒さ、血管型酒さ)、剥離性ざ瘡(若年性女子表皮剥離性ざ瘡、Pickerざ瘡)、腺型酒さ、顎部腫瘤、グラム陰性酒さ、肉芽腫性顔面皮膚炎、成人男性に見られる肥大し赤みを帯びた球状鼻、鼻瘤、肉芽腫性口囲皮膚炎、ハロゲンざ瘡、化膿性汗腺炎(反対型ざ瘡、pyoderma fistulans significa、Verneuil病)、特発性無菌性顔面肉芽腫、小児ざ瘡、狼瘡様酒さ(肉芽腫性酒さ、小丘疹状結核疹、Lewandowskyの酒さ様結核疹)、顔面播種状粟粒性狼瘡、前額部腫瘤、新生児ざ瘡(acne infantum、acne neonatorum、neonatal cephalic pustulosis)、職業性ざ瘡、油性ざ瘡、眼型酒さ(ophthalmic rosacea、ophthalmorosacea)、耳腫瘤、開口部皮膚炎、酒さによる持続性浮腫(上顔部の慢性紅斑性浮腫、Morbihan病、酒さによるリンパ浮腫)、腫瘤型酒さ、ポマードざ瘡、丘疹膿疱型酒さ(炎症性酒さ)、膿瘍性穿掘性頭部毛包周囲炎(頭皮の解離性蜂巣炎、解離性毛包炎、Hoffmanの膿瘍性穿掘性頭部毛包周囲炎)、口囲皮膚炎、眼窩周囲皮膚炎(眼周囲皮膚炎)、顔面膿皮症(電撃性酒さ)、鼻瘤、酒さ(酒さ性ざ瘡)、集簇性酒さ、滑膜炎-ざ瘡-膿疱症-骨化過剰-骨髄炎症候群(SAPHO症候群)、ステロイド酒さ、タールざ瘡、皮膚がん、熱帯性ざ瘡;尋常性乾癬、滴状乾癬、間擦疹型乾癬、膿疱性乾癬、紅皮性乾癬、爪乾癬および/または乾癬性関節炎などの乾癬;ならびに/またはこれらの組み合わせおよび/または類似疾患が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の実施形態のいくつかにおいて、疾患または病態の治療、抑制、予防または緩和を必要とする対象において、疾患または病態を治療、抑制、予防または緩和する方法が提供される。前記対象は、皮膚に影響を及ぼす本明細書に記載の疾患または病態を有する対象であってもよい。
【0153】
「毛髪疾患および頭皮疾患」は、毛髪および頭皮に影響を及ぼす疾患であり、本明細書に記載されている。毛髪および頭皮に影響を及ぼす疾患としては、脱毛症、アンドロゲン性脱毛症、男性型多毛症、毛幹疾患、炎症、先端巨大症、湿疹、乾癬、膿痂疹、アトピー性皮膚炎、ダリエー病および/または毛包炎が挙げられるが、これらに限定されない。頭皮疾患の一般的な原因としては、先端巨大症、アトピー性皮膚炎、ダリエー病、湿疹、脆弱X症候群、膿痂疹、肥大性皮膚骨膜症、乾癬および/またはRosenthal-Kloepfer症候群が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の実施形態のいくつかにおいて、疾患または病態の治療、抑制、予防または緩和を必要とする対象において、疾患または病態を治療、抑制、予防または緩和する方法が提供される。前記対象は、皮膚および頭皮に影響を及ぼす疾患を有する対象であってもよい。いくつかの実施形態において、前記対象は、脱毛症、アンドロゲン性脱毛症、男性型多毛症、毛幹疾患、炎症、先端巨大症、湿疹、乾癬、膿痂疹、アトピー性皮膚炎、ダリエー病および/または毛包炎に罹患している対象である。いくつかの実施形態において、前記対象は、先端巨大症、アトピー性皮膚炎、ダリエー病、湿疹、脆弱X症候群、膿痂疹、肥大性皮膚骨膜症、乾癬および/またはRosenthal-Kloepfer症候群に罹患している対象である。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記方法を必要とする対象に製剤を投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記製剤は、ヘアクリーム、ヘアジェル、頭皮ローション、シャンプー、コンディショナー、ヘアスプレーまたはヘアムースに含まれている。
【0154】
「爪疾患」は、爪、爪床または甘皮部に影響を及ぼす障害または疾患であり、本明細書に記載されている。爪およびその周囲の皮膚領域(甘皮など)に影響を及ぼす疾患は、医療介入が必要となりうる感染症または炎症を引き起こすことがある。爪、爪床および/または甘皮に影響を及ぼす疾患としては、爪炎、陥入爪、爪ジストロフィー、爪甲鉤弯症、爪甲剥離症、爪甲脱落症、爪真菌症、爪白癬症、爪床部角質上皮増殖症、爪甲脱落症、爪甲縦裂症、爪囲炎、匙状爪、爪下血腫、onychomatricoma、爪の天疱瘡、爪甲褐色色素線条および/または爪甲黒色色素線条が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の実施形態のいくつかにおいて、疾患または病態の治療、抑制、予防または緩和を必要とする対象において、疾患または病態を治療、抑制、予防または緩和する方法が提供される。前記対象は、爪、爪床および/または甘皮に影響を及ぼす疾患または病態を有する対象であってもよい。いくつかの実施形態において、前記対象は、脱毛症、アンドロゲン性脱毛症、男性型多毛症、毛幹疾患、炎症、先端巨大症、湿疹、乾癬、膿痂疹、アトピー性皮膚炎、ダリエー病および/または毛包炎に罹患している対象である。いくつかの実施形態において、前記対象は、爪炎、陥入爪、爪ジストロフィー、爪甲鉤弯症、爪甲剥離症、爪甲脱落症、爪真菌症、爪白癬症、爪床部角質上皮増殖症、爪甲脱落症、爪甲縦裂症、爪囲炎、匙状爪、爪下血腫、onychomatricoma、爪の天疱瘡、爪甲褐色色素線条および/または爪甲黒色色素線条に罹患している対象である。いくつかの実施形態において、前記治療、抑制、予防または改善は、前記方法を必要とする対象に製剤を投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記製剤は、スキンクリーム、ローション、キューティクルクリームまたはマニキュア液に含まれている。
【0155】
本明細書において「自己免疫疾患」または「自己免疫病」は、生体自体の細胞または組織に対する免疫応答によって引き起こされる疾患を指す。自己免疫疾患によって、1種以上の体組織の破壊、1つ以上の器官の異常増殖、または1つ以上の器官の機能の変化が起こる。自己免疫疾患は、単一の器官または組織のみを侵すこともあるが、複数種の器官または組織を侵すこともある。さらに、1種以上の自己免疫疾患に同時に罹患することもある。自己免疫疾患に侵される一般的な器官および組織としては、赤血球などの血液成分、血管、結合組織、甲状腺や膵臓などの内分泌腺、筋肉、関節および/または皮膚が挙げられる。
【0156】
自己免疫疾患は、(1)全身性自己免疫疾患(たとえば複数の器官または組織が侵される自己免疫疾患)と、(2)局所性自己免疫疾患(たとえば単一の器官または組織のみが侵される自己免疫疾患)の2つのタイプに大きく分類されることが多い。しかしながら、局所性自己免疫疾患は、生体の他の器官や系に間接的に影響を及ぼして、全身性となることもある。全身性自己免疫疾患としては、関節リウマチ(関節に発症することがある自己免疫疾患であり、肺および皮膚が侵されることもある);全身性エリテマトーデス(SLE)を含むループス(皮膚、関節、腎臓、心臓、脳および/または赤血球、ならびにその他の組織および器官に発症することがある自己免疫疾患);強皮症(皮膚、腸管および/または肺に発症することがある自己免疫疾患);シェーグレン症候群(唾液腺、涙腺および/または関節に発症することがある自己免疫疾患);グッドパスチャー症候群(肺および/または腎臓に発症することがある自己免疫疾患);ヴェーゲナー肉芽腫症(副鼻腔、肺および/または腎臓に発症することがある自己免疫疾患);リウマチ性多発筋痛症(大筋群に発症することがある自己免疫疾患);および/または側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎(頭部および/または頸部の動脈に発症することがある自己免疫疾患)が挙げられるが、これらに限定されない。局所性自己免疫疾患としては、1型糖尿病(ランゲルハンス島に発症することがある自己免疫疾患);橋本甲状腺炎および/もしくはグレーブス病(甲状腺に発症することがある自己免疫疾患);セリアック病、クローン病および/もしくは潰瘍性大腸炎(消化管に発症することがある自己免疫疾患);多発性硬化症(MS)およびギラン・バレー症候群(中枢神経系に発症することがある自己免疫疾患);アジソン病(副腎に発症することがある自己免疫疾患);原発性胆管硬化症、硬化性胆管炎および/もしくは自己免疫性肝炎(肝臓に発症することがある自己免疫疾患);ならびにレイノー現象(指、足指、鼻および耳に発症することがある自己免疫疾患)が挙げられるが、これらに限定されない。自己免疫疾患の例としては、さらに、悪性貧血;アジソン病;皮膚筋炎;重症筋無力症(MG);ライター症候群;尋常性天疱瘡;強皮症および/もしくはCREST症候群;自己免疫性溶血性貧血;自己免疫性血小板減少性紫斑病;強直性脊椎炎;血管炎;ならびに/または筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリッグ病)が挙げられる。
【0157】
自己免疫疾患の症状は、疾患の種類によって大いに異なりうる。一般に観察される症状または病態としては、疲労、めまい、倦怠感および/または発熱が挙げられる。1種以上の自己免疫疾患で観察されうるその他の症状または病態としては、悪寒、体重減少、発疹、血管炎、多発関節痛、斑状脱毛、口腔びらんおよび/または鼻腔びらん、リンパ節腫脹、胃障害、全身痛(関節炎の場合は関節に局在することがある)、内分泌腺の腫脹(グレーブス病の場合の甲状腺など)、心臓の動悸、皮膚水疱および/または皮膚病変、ならびに筋衰弱が挙げられる。いくつかの実施形態において、前記治療、抑制、予防または改善は、前記対象に製剤を投与することによって、自己免疫疾患を予防、治療または緩和することを含む。いくつかの実施形態において、前記治療、抑制、予防または改善は、自己免疫疾患の症状を治療するための製剤を投与することを含む。
【0158】
本明細書において「黄斑変性」は、網膜の中心部(黄斑)の変質を指し、視野の中心に視力障害または視力喪失を引き起こしうる。黄斑変性は、加齢黄斑変性(AMD)と見なすことができ、ドライ型黄斑変性またはウェット型黄斑変性(血管新生型黄斑変性あるいは滲出型黄斑変性とも呼ばれる)を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、黄斑変性のための前記治療、抑制、予防または緩和は、前記対象に製剤を投与して、黄斑変性を予防、治療、抑制または緩和することを含む。いくつかの実施形態において、前記製剤を静脈内投与してもよい。いくつかの実施形態において、この静脈内投与は、黄斑変性の治療以外に、その他の疾患の治療でも有益である。いくつかの実施形態において、前記製剤は、硝子体内注射、眼窩下注射、球後注射、眼内注射、結膜下注射またはその他の眼内注射によって眼に投与してもよい。いくつかの実施形態において、前記治療、抑制、予防または緩和は、黄斑変性の症状を治療するための製剤を投与することを含む。眼内投与または眼の周囲への投与における前記製剤の投与量は、5μL、10μL、20μL、30μL、40μL、50μL、60μL、70μL、80μL、90μLもしくは100μL、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の量である。眼内投与または眼の周囲への投与において、前記製剤を濃縮し、各回の投与において上記治療を必要とする対象にPBD-PSCを、1,000個/μL、5,000個/μL、10,000個/μL、50,000個/μL、100,000個/μL、500,000個/μL、1,000,000個/μL、2,000,000個/μL、3,000,000個/μL、4,000,000個/μL、5,000,000個/μL、6,000,000個/μL、7,000,000個/μL、8,000,000個/μL、9,000,000個/μL、10,000,000個/μL、50,000,000個/μLもしくは100,000,000個/μL、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の量で投与または提供できるように調整する。
【0159】
本明細書において、「対象」は、脊椎動物などの動物であり、好ましくは哺乳動物である。「哺乳動物」は、哺乳網に属する個体として定義され、ヒト、家畜および農場動物、動物園の飼育動物、競技用動物ならびに愛玩動物、たとえば、ヒツジ、イヌ、ウマ、ネコまたはウシが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記対象はマウスまたはラットである。いくつかの実施形態において、前記対象はヒトである。「対象」は、本明細書に記載の1種以上の疾患の症状を示す任意の動物、または本明細書に記載の1種以上の疾患の症状を示すリスクがある動物を含む。適切な対象(患畜)としては、実験動物(たとえばマウス、ラット、ウサギまたはモルモット)、農場動物、および家畜または愛玩動物(たとえばネコまたはイヌ)が挙げられる。また、非ヒト霊長類および/または、好ましくはヒト患者も含まれる。
【0160】
「薬学的に許容される」担体とは、細胞または哺乳動物に使用される用量および濃度で細胞または哺乳動物に対して毒性を示さない担体である。「薬学的に許容される」担体としては、経口適用または注射などの選択した使用方法に適した有機もしくは無機の固体または液体の添加剤が挙げられるが、これらに限定されない。「薬学的に許容される」担体は、慣用の医薬製剤の形態で投与され、慣用の医薬製剤としては、錠剤、粒剤、散剤、カプセル剤などの固体製剤、および/または液剤、乳剤、懸濁剤などの液体製剤が挙げられる。多くの場合、生理学的に許容される担体は、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液などのpH緩衝水溶液である。また、生理学的に許容される担体は、アスコルビン酸などの酸化防止剤;低分子(残基数約10未満の)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;アミノ酸;グルコース、マンノース、デキストリンなどの糖;EDTAなどのキレート剤;マンニトール、ソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成対イオン;およびTweenTM、ポリエチレングリコール(PEG)および/またはPluronicTMなどの非イオン性界面活性剤のうち1つ以上を含んでいてもよい。また、助剤、安定化剤、乳化剤、滑沢剤、結合剤、pH調整・制御剤、等張化剤などの慣用の添加剤を前記担体に添加してもよい。
【0161】
前記薬学的に許容される担体または薬学的に適切な担体としては、障害を起こした消化管に有益であることが知られているその他の化合物(たとえばビタミンC、ビタミンE、セレン、亜鉛などの抗酸化剤);または食品組成物が挙げられる。食品組成物としては、ミルク、ヨーグルト、凝乳(カード)、チーズ、発酵乳、ミルクベースの発酵製品、アイスクリーム、発酵させた穀類ベースの製品、粉ミルク、乳児用調合乳、錠剤、細菌懸濁液、乾燥状態の経口補助食品または湿潤状態の経口補助食品が挙げられるが、これらに限定されない。
【0162】
幹細胞
本明細書において「幹細胞」は、後述するように、適切な条件下において、ある特化した機能を有する別の細胞種(たとえば「完全に分化した」細胞)に分化することが可能であり、別の適切な条件下では、未分化多能性または未分化万能性を維持したまま自己複製することが可能な細胞を指す。本明細書において「細胞」は、単一の細胞および細胞集団(たとえば2個以上の細胞を含む集団)を指す。細胞集団は、1種類の細胞のみを含む純粋な集団であってもよい。あるいは、細胞集団は2種以上の細胞を含んでいてもよい。幹細胞は、たとえば末梢血、脂肪組織、骨髄、雌性動物の卵巣卵胞液および/または雄性動物の精液から得られたPBD-PSCであることが好ましい。
【0163】
本明細書において「末梢血由来多能性幹細胞」(すなわち「PBD-PSC」)は、2.5~4.5μmの直径、たとえば、2.5μm、2.6μm、2.7μm、2.8μm、2.9μm、3.0μm、3.1μm、3.2μm、3.3μm、3.4μm、3.5μm、3.6μm、3.7μm、3.8μm、3.9μm、4.0μm、4.1μm、4.2μm、4.3μm、4.4μmもしくは4.5μmの直径、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の直径を有し、PTH1Rを高発現することを特徴とする細胞または細胞集団を指す。本明細書において、PBD-PSCは、PTH1R陽性幹細胞、PTH1R陽性細胞またはPTH1R陽性PSCとも呼ばれる。PBD-PSCは、CD90およびCD133が陽性であり;CD29、CD34、CD105およびCD106が陽性または陰性であり;SSEA-3、CD200およびCD45が陰性である。いくつかの実施形態において、PBD-PSCは、SOX2およびOCT4を発現する。PBD-PSCは、その名称から末梢血に由来するものであることが示唆されるが、PBD-PSCが豊富に存在するその他の供給源に由来するものであってもよく、末梢血、脂肪組織、骨髄、雌性動物の卵巣卵胞液および/または雄性動物の精液などに由来するものであってもよい。いくつかの実施形態において、PBD-PSCは細胞集団中に含まれている。いくつかの実施形態において、前記細胞集団には、別の種類の幹細胞、内皮細胞および/またはその他の再生細胞が含まれている。いくつかの実施形態において、PBD-PSCは、再生細胞ではない細胞を含む細胞集団に含まれており、再生細胞ではない細胞としては、たとえば、脂肪細胞、皮膚細胞、骨細胞、筋肉細胞、および/または雌性動物もしくは雄性動物の生殖器系に由来する細胞(子宮壁細胞や精巣細胞など)が挙げられる。いくつかの実施形態において、単離されたPBD-PSCは細胞集団に戻されるか、または細胞集団と混合され、この細胞集団は別の種類の再生細胞を含んでいてもよく、あるいは、たとえば脂肪細胞、皮膚細胞、筋肉細胞、骨細胞、または雌性動物もしくは雄性動物の生殖器系に由来する細胞(子宮壁細胞や精巣細胞など)などの非再生細胞を含んでいてもよい。
【0164】
PBD-PSCは、遠心分離法、濾過法、溶解法および単離法によって末梢血試料から得てもよい。遠心分離は、100G、200G、300G、400G、500G、600G、700G、800G、900G、1000G、1100G、1200G、1300G、1400G、1500G、1600G、1700G、1800G、1900G、2000G、2100G、2200G、2300G、2400Gもしくは2500G、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の遠心力で行うことができる。遠心分離を複数サイクル行うことによって、末梢血中の所望の成分を単離してもよい。たとえば、第1の遠心分離工程を低速遠心分離によって行い、血漿層を単離してもよく、このときの遠心力は、たとえば、100G、200G、300G、400Gもしくは500G、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の遠心力とする。次いで、単離した血漿層を、より速い速度で遠心分離して血小板を単離してもよく、このときの遠心力は、たとえば、800G、900G、1000G、1100G、1200Gもしくはそれ以上、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の遠心力とする。沈殿した血小板を単離して再懸濁することができる。再懸濁した血小板を濾過して、残渣または不要成分を除去することができ、このとき、たとえば0.1μm、0.2μm、0.3μm、0.4μm、0.5μm、0.6μm、0.7μm、0.8μm、0.9μm、1.0μm、2μm、3μm、4μmもしくは5μmの孔径、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の孔径を有するフィルターを使用することができる。次いで、血小板を溶解して血小板溶解物を得てもよく、この血小板溶解物を、遠心分離および/または濾過によってさらに単離または精製してもよい。血小板の溶解は、たとえば、試薬による溶解、物理的な破壊(超音波破砕)などの様々な技術を使用して行うことができる。ネガティブセレクション(たとえば、抗CD45抗体などの抗体と血小板溶解物を接触させて、該抗体とPBD-PSC以外の細胞とを結合させる方法)、またはポジティブセレクション(たとえば、抗PTH受容体抗体などの抗体と血小板溶解物を接触させて、該抗体とPBD-PSCとを結合させる方法)を利用して、血小板溶解物を抗体と接触させることによって血小板溶解物からPBD-PSCを単離してもよい。
【0165】
成体哺乳動物の精巣において最も原始的な生殖細胞は精原幹細胞(SSC)であるのに対し、卵巣の基本的な機能単位は原始卵胞(PF)であると考えられている。しかしながら、成体哺乳動物の生殖腺においてPBD-PSCが同定されたことから、この中心原理は近年になって一部変更された。この幹細胞は、SSCよりも原始的であり、出生後の卵巣における卵子新生(neo-oogenesis)および原始卵胞の確立に関与していることが示唆されている。PBD-PSCは本質的に多能性であり、核内Oct-4A、細胞表面SSEA-4、ならびにその他の多能性細胞マーカー、たとえばNanog、Sox2および/またはTERTなどの発現を特徴とする。PBD-PSCは、エピブラスト幹細胞の子孫細胞であると考えられ、恐らくは、成年期まで生存を維持し、非対称な細胞分裂を経て一生にわたり生殖腺中の生殖細胞を補充することができる原始生殖細胞であると見られている。本明細書では、不妊症、子宮内膜の修復、過剰排卵、ならびに多嚢胞卵巣症候群(PCOS)、子宮内膜症、がんなどの様々な生殖器系疾患の発生機序におけるPBD-PSCの役割について述べる。本明細書に記載の実施形態のいくつかは、様々な再生プロセスおよびがんに関する理解を深めるための新たな研究手段に関する。いくつかの実施形態において、PBD-PSCは、再生医療、トランスレーショナルリサーチおよびヒトの生殖への臨床応用に関連する。
【0166】
成体哺乳動物の卵巣から幹細胞が検出されたことから、雌性動物の卵子は生まれながらにしてその数が決まっているというこれまでの定説が揺らいでいる。様々な戦略を使用することによって、卵巣幹細胞(OSC)の増殖、培養の維持、生殖細胞巣の形成、ならびに卵母細胞への分化および原始卵胞の確立が可能であることを支持するデータが蓄積されつつある。
【0167】
フローサイトメトリー分析によって、直径8μm未満の卵巣幹細胞(OSC)が同定されており、DDX1陽性であることから、精巣に見られる精原幹細胞(SSC)と同等なものであると考えられている。酵素消化した卵巣および睾丸の塗抹標本を分析したところ、PBD-PSCが同定された。上述したように、PBD-PSCとOSC/SSCは、その大きさとOCT-4の発現の点において異なる。PBD-PSCは、核内OCT-4を含む多能性細胞マーカーを発現するが、OSC/SSCは、分化した状態を示す細胞内OCT-4を発現する。PBD-PSCは、フローサイトメトリーにおいて、LIN-/CD45-/Sca-1+の小さな細胞として検出される。PBD-PSCは、正常マウス卵巣の全細胞の0.02±0.008%を占め、化学的アブレーションを行ったマウス卵巣の全細胞の0.03±0.017%を占め、化学的アブレーションを行った後FSHによる処置を行ったマウス卵巣の全細胞の0.08±0.03%を占める。
【0168】
細胞処理全体を通して、卵巣組織を酵素で消化後、(1200rpmではなく)1000Gの速度で細胞をスピンダウンまたは遠心分離することによって、PBD-PSCをフローサイトメトリーで確実に検出することができる。したがって、いくつかの手順では、卵巣組織を酵素消化または機械的にせん断してPBD-PSCを遊離させ、900G、950G、975Gもしくは1000G、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の遠心力で遠心分離してPBD-PSCを単離する方法によってPBD-PSCを調製する。
【0169】
「副甲状腺ホルモン1型受容体」(すなわち「PTH1R」)は、副甲状腺ホルモン(PTH)の受容体および副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)の受容体として機能する、PBD-PSC上に発現されるタンパク質である。PTHおよびPTHrPは、PBD-PSCの化学誘引物質として作用するため、生物体内の特定の所望領域へとPBD-PSCをターゲティングするのに有用である。
【0170】
本明細書において「細胞培養」または「培養細胞」は、人工のインビトロ環境(たとえばベッセル中の培地)で維持、培養または増殖された細胞または組織を指す。これらの用語には、連続継代性細胞株(たとえば不死化表現型細胞株)、初代細胞培養、有限寿命細胞株(たとえば非形質転換細胞)、およびインビトロで維持されるその他の細胞集団が含まれる。これに関連して、初代細胞は、培養を経ずに、ヒトなどの動物の組織または器官から直接得られた細胞である。初代細胞は、例外はあるものの、通常、老化および/または増殖停止までにインビトロで最大10回にわたって継代することができる。
【0171】
本明細書において「未分化」とは、細胞集団中に含まれる細胞およびその子孫細胞の大部分(少なくとも20%、場合によっては50%または80%を超える)が、胚または成体に由来する分化細胞と識別可能な、未分化細胞の形態学的特徴を示す培養細胞を指す。細胞数の少なくとも約50%を維持したまま、少なくとも3週間の培養期間中に少なくとも1回の集団倍加を経た場合、または同じ割合の細胞が、同じ培養期間後に未分化細胞に特徴的なマーカーまたは形態学的特徴を示す場合に、細胞は未分化な状態で増殖していると見なされる。
【0172】
本明細書において「細胞懸濁液」は、細胞の大部分が培地(通常、培養培地(培養系))中で自由に浮遊している状態の細胞培養を指し、細胞は、単一の細胞、細胞集塊および/または細胞凝集塊として浮遊している。換言すれば、細胞は、固体の基材または半固体の基材に接着することなく、培地中で生存を維持し増殖する。本明細書において「接着細胞」は、基材または表面に接着している細胞または細胞集団を指す。
【0173】
本明細書において「培養系」は、PBD-PSCの維持および増殖を支持するための培養条件を指す。この用語は、基礎培地(塩、糖およびアミノ酸を含む所定の組成の基礎溶液を通常含む細胞培養培地)や、血清代替添加物などを含む構成成分の組み合わせを示す。培養系はさらに、細胞外マトリックス(ECM)成分、さらなる血清または血清代替物、培養(栄養)培地、およびその他の外部添加因子などの構成成分を含んでいてもよいが、培養系の構成成分はこれらに限定されず、これらの構成成分は共同して、PBD-PSCの増殖、細胞培養の維持、細胞の分化、様々な分子の発現を支持する適切な条件を提供する。これに関連して、「培養系」は、該培養系において培養された細胞を包含する。
【0174】
本明細書において、前記PBD-PSC培養系は、細胞外マトリックスタンパク質、サイトカイン、成長因子または抗原などのタンパク質の存在下で培養される幹細胞を含む。前記タンパク質の具体例としては、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGFおよびbFGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF-αおよびTGF-β1、TGF-β2、TGF-β3)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、角化細胞増殖因子(KGF)、神経成長因子(NGF)、エリスロポエチン(EPO)、インスリン様成長因子(IGF-IおよびIGF-II)、インターロイキンと呼ばれるサイトカイン群(IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13)、インターフェロン(IFN-α、IFN-βおよびIFN-γ)、腫瘍壊死因子(TNF-αおよびTNF-β)、コロニー刺激因子(GM-CSFおよびM-CSF)、インスリン、副甲状腺ホルモン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、トロンボスポンジン、ゼラチン、フィブリリン、メロシン、アンコリン、コンドロネクチン、リンクタンパク質、骨シアロタンパク質、オステオカルシン、オステオポンチン、エピネクチン、ヒアルロネクチン、undulin、エピリグリン、カリニン、コラゲナーゼ、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、アグリン、ニドゲン、および/もしくはエンタクチン、またはこれらのバリエーションおよび/もしくは組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、前記PBD-PSCは、レチノイン酸および/もしくは1種以上のレチノイン酸誘導体、またはその他の低分子の共存下で培養される。
【0175】
本明細書において「遺伝子産物」は、細胞または細胞集団にトランスフェクトされる遺伝子の産物を指す。たとえば、細胞外マトリックスタンパク質、サイトカイン、成長因子または抗原などのタンパク質をコードする遺伝子をトランスフェクトすることができる。前記タンパク質の具体例としては、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGFおよびbFGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF-αおよびTGF-β1、TGF-β2、TGF-β3)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、角化細胞増殖因子(KGF)、神経成長因子(NGF)、エリスロポエチン(EPO)、インスリン様成長因子(IGF-IおよびIGF-II)、インターロイキンと呼ばれるサイトカイン群(IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13)、インターフェロン(IFN-α、IFN-βおよびIFN-γ)、腫瘍壊死因子(TNF-αおよびTNF-β)、コロニー刺激因子(GM-CSFおよびM-CSF)、インスリン、副甲状腺ホルモン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、トロンボスポンジン、ゼラチン、フィブリリン、メロシン、アンコリン、コンドロネクチン、リンクタンパク質、骨シアロタンパク質、オステオカルシン、オステオポンチン、エピネクチン、ヒアルロネクチン、undulin、エピリグリン、カリニン、コラゲナーゼ、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、アグリン、ニドゲン、および/もしくはエンタクチン、またはこれらのバリエーションおよび/もしくは組み合わせが挙げられる。
【0176】
本明細書において「細胞マーカー」は、特定の細胞を特徴付けることが可能な表現型特性、または他の種類の細胞から特定の細胞を識別することが可能な表現型特性を指す。マーカーは、タンパク質(分泌タンパク質、細胞表面タンパク質、内部タンパク質など;細胞によって合成されたタンパク質または細胞内に取り込まれたタンパク質)、核酸(mRNAや、酵素活性を有する核酸分子など)、多糖類のいずれであってもよい。前記マーカーには、目的の細胞種に特異的な抗体、レクチン、プローブ、または核酸増幅反応によって検出可能な、前述のような細胞成分の決定因子も含まれる。また、遺伝子産物の機能に基づく生化学的アッセイまたは酵素アッセイによってこれらのマーカーを同定することもできる。転写産物をコードする遺伝子およびマーカーの発現を引き起こす事象も各マーカーと関連している。マーカーが、(抗体またはPCRアッセイを使用して測定された遺伝子産物の総量として)少なくとも5倍以上の発現量または(細胞集団中の陽性細胞の頻度として)少なくとも5倍以上の頻度で発現されている場合に、未分化細胞集団または分化細胞集団においてマーカーが差次的に発現されていると見なされる。10倍、100倍または10,000倍というようにマーカーの発現量または頻度が高くなればなるほどより好ましい。
【0177】
いくつかの実施形態において、PBD-PSCを含む幹細胞集団が提供される。図6に示すように、PBD-PSCの直径は2.5~4.5μmであり、たとえば、2.5μm、2.6μm、2.7μm、2.8μm、2.9μm、3.0μm、3.1μm、3.2μm、3.3μm、3.4μm、3.5μm、3.6μm、3.7μm、3.8μm、3.9μm、4.0μm、4.1μm、4.2μm、4.3μm、4.4μmもしくは4.5μmの直径、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の直径を有する。さらに、PBD-PSCは、PTH1Rを発現することを特徴とする。図7に示すように、PBD-PSCは、培養により胚様体様細胞塊を形成し、培養により外胚葉、中胚葉および内胚葉に分化することができる。いくつかの実施形態において、PBD-PSCは古典的CDマーカーを発現する。PBD-PSCは、CD90およびCD133が陽性であり;CD29、CD34、CD105およびCD106が陽性または陰性であり;SSEA-3、CD200およびCD45が陰性である。さらに、図8に示すように、PBD-PSCは、Sox2およびOct4を発現する。さらに、PBD-PSCは、SSEA-4およびCXCR-4が陽性である。また、PBD-PSCは、Linカクテル、Sca-1およびLgr5が陽性または陰性である。
【0178】
図9に示すように、PBD-PSCは、ヒト以外にも、たとえばウマ、イヌ、ラクダなどの様々な動物集団で見出される。また、PBD-PSCは、ECMタンパク質、サイトカイン、成長因子、抗原などの1種以上のペプチドの共存下で培養することができる。
【0179】
いくつかの実施形態において、PBD-PSCに対する抗体が提供される。いくつかの実施形態において、前記抗体はモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。いくつかの実施形態において、前記抗体はヒト化抗体である。「単離された抗体」とは、自然界において関連し、かつ天然状態では付随する成分(自然界において関連するその他の抗体など)から分離され、同じ生物種由来のその他のタンパク質からも分離された抗体である。さらに、「単離された抗体」は、別の生物種由来の細胞によって発現された抗体、または自然界には存在しない抗体である。「ヒト抗体」は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する1つ以上の可変領域および定常領域を持つあらゆる抗体を含む。「ヒト化抗体」は非ヒト生物種に由来する抗体であり、ヒトの免疫応答を回避または抑制するために、重鎖および軽鎖のフレームワークおよび定常ドメインの特定のアミノ酸を変異させた抗体である。あるいは、ヒト化抗体は、ヒト抗体から得た定常ドメインを非ヒト生物種の可変ドメインに融合させることによって作製したものであってもよい。
【0180】
PBD-PSCの単離方法
いくつかの実施形態は、対象由来試料からPBD-PSCを単離する方法に関する。前記対象は、ヒト、または家畜、愛玩動物もしくは農場動物などのその他の哺乳動物であってもよい。いくつかの実施形態において、前記対象は、ウマ、イヌ、ネコまたはラクダである。いくつかの実施形態において、前記試料は、末梢血、脂肪組織、骨髄、卵巣卵胞液または精液である。いくつかの実施形態において、前記試料を、PBD-PSCに対する抗体に接触させる。いくつかの実施形態において、前記抗体は抗PTH1R抗体である。いくつかの実施形態において、前記試料からの前記抗体の単離および分離を容易にするため、前記抗体を磁気ビーズに結合させる。この場合、前記試料に磁場を印加して、抗体-PBD-PSC複合体と結合した磁気ビーズを試料混合物から分離する。いくつかの実施形態において、前記試料を分離バッファーで洗浄し、PBD-PSCを単離する。いくつかの実施形態において、アビジンまたはストレプトアビジンとビオチンを使用して、磁気ビーズを前記抗体に結合させる。
【0181】
いくつかの実施形態において、体外装置を使用してPBD-PSCを単離する。このような態様の一方法では、対象から全血または血漿を採取し、PBD-PSCを捕捉するように構成された膜、支持体またはビーズ、好ましくは多孔質膜を備えた体外システムに導入する。より具体的には、該膜、支持体またはビーズは、たとえば、抗PTH1R抗体またはその結合部分が固定化または固相化された膜、ビーズまたは支持体である。前記膜、支持体またはビーズに固定化または固相化された抗PTH1R抗体またはその結合部分は、カートリッジに組み込むことができ、このカートリッジは、透析装置または血液再循環装置に導入または組み込めるように構成される。いくつかの実施形態において、遠心力、重力または圧力を前記膜、支持体またはビーズに印加することによって、前記膜、支持体またはビーズに全血を通過させるとともに、PBD-PSCを前記膜、支持体またはビーズで捕捉して装置内に保持する。いくつかの実施形態では、前記膜、支持体またはビーズに通過させた血液を前記対象に再注入する。いくつかの実施形態において、単離されたPBD-PSCを調製して、前記対象に再注入または投与する。
【0182】
いくつかの実施形態において、対象由来試料から単離されるPBD-PSCの量は、試料(末梢血、組織ホモジネートなど)1mLあたり1,000個、5,000個、10,000個、50,000個、100,000個、500,000個、1,000,000個、2,000,000個、3,000,000個、4,000,000個、5,000,000個、6,000,000個、7,000,000個、8,000,000個、9,000,000個、10,000,000個、50,000,000個もしくは100,000,000個、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の量である。
【0183】
PBD-PSCの使用方法
本発明の態様は、PBD-PSCの第1医薬用途に関する。したがって、いくつかの実施形態は、医薬品として使用するためのPBD-PSCに関する。本明細書に記載の実施形態のいくつかは、不妊症、皮膚疾患、脱毛、悪性腫瘍、骨疾患、神経疾患および/または自己免疫疾患の治療または緩和のための、PBD-PSCの使用に関する。このような方法において、PBD-PSCおよび/またはPBD-PSC含有細胞集団は、選択または特定された対象、たとえば、不妊症、皮膚疾患、脱毛、悪性腫瘍、骨疾患、神経疾患および/または自己免疫疾患を治療または緩和するための治療薬を投与すべき対象として選択または特定された対象に投与または提供される。このような治療を必要とする対象は、臨床検査および/または診断検査によって選択および/または特定することができる。
【0184】
いくつかの実施形態において、単離されたPBD-PSCは、不妊症に罹患している対象、たとえば、不妊症を緩和するための不妊治療または治療薬を必要とする対象として選択および/または特定された対象に投与される。いくつかの実施形態において、前記選択または特定された対象は、過去に体外受精および/または卵細胞質内精子注入法(IVF/ICSI)を試みたことがあるが、失敗に終わっている対象である。いくつかの実施形態において、前記選択または特定された対象は、多嚢胞卵巣症候群(PCOS)に罹患していない対象である。いくつかの実施形態において、前記単離されたPBD-PSCまたはPBD-PSC含有細胞集団は、子宮動脈への動脈内注射によって前記対象に投与される。いくつかの実施形態において、PBD-PSCは静脈内投与される。いくつかの実施形態において、PBD-PSC療法によって、子宮内膜の厚さの増加、子宮内膜の受胎性の向上、卵母細胞の数の増加、卵母細胞の質の向上、卵巣の機能の向上、もしくはエストラジオールの量の増加またはこれらの組み合わせが達成される。
【0185】
いくつかの実施形態において、単離されたPBD-PSCまたはPBD-PSC含有細胞集団は、皮膚疾患に罹患している対象として選択または特定された対象、たとえば、皮膚疾患を緩和するための皮膚疾患治療または治療薬を必要とする対象として選択および/または特定された対象に投与される。いくつかの実施形態において、前記対象は、しわ、肌の弾力の喪失または肌の明るさの喪失を起こした皮膚の老化などの皮膚疾患を患う対象として特定または選択された対象である。いくつかの実施形態において、前記対象は、皮膚コラーゲンの喪失および/もしくは皮膚エラスチンの喪失に悩んでいる対象、または小じわおよび/もしくはしわを有しているか、もしくは小じわおよび/もしくはしわの除去を切望している対象として特定または選択された対象である。いくつかの実施形態において、PBD-PSCは、クリームまたはローションの形態で局所投与される。いくつかの実施形態において、PBD-PSCは皮下投与または経皮投与される。いくつかの実施形態において、PBD-PSC療法によって、皮膚コラーゲンおよび皮膚エラスチンの増加、小じわの減少、しわの減少、肌の明るさの増加、もしくは肌のハリの増加、またはこれらの組み合わせが達成される。
【0186】
いくつかの実施形態において、単離されたPBD-PSCまたはPBD-PSC含有細胞集団は、骨疾患に罹患している対象として選択または特定された対象、たとえば、骨疾患を緩和するための骨疾患治療または治療薬を必要とする対象として選択および/または特定された対象に投与される。いくつかの実施形態において、前記骨疾患は、骨損傷、骨折、棘突起骨折、骨減少症もしくは骨粗鬆症、またはこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態において、前記組成物は、前記特定または選択された対象に皮下投与、静脈内投与または動脈内投与される。いくつかの実施形態において、PBD-PSCの投与によって、骨密度の増加、骨損傷の修復またはこれらの組み合わせが達成される。
【0187】
いくつかの実施形態において、単離されたPBD-PSCまたはPBD-PSC含有細胞集団は、神経疾患に罹患している対象として選択または特定された対象、たとえば、神経疾患を緩和するための神経疾患治療または治療薬を必要とする対象として選択および/または特定された対象に投与される。いくつかの実施形態において、前記神経疾患は小脳性運動失調症である。いくつかの実施形態において、PBD-PSCは、前記対象に皮下投与、静脈内投与または動脈内投与される。いくつかの実施形態において、PBD-PSCの投与によって前記神経疾患が改善する。
【0188】
いくつかの実施形態において、単離されたPBD-PSCまたはPBD-PSC含有細胞集団は、転移性癌またはその他の悪性腫瘍に罹患している対象として選択または特定された対象、たとえば、悪性腫瘍または転移性癌を緩和するための、悪性腫瘍または転移性癌の治療または治療薬を必要とする対象として選択および/または特定された対象に投与される。いくつかの実施形態において、前記転移性癌は転移性肺腫瘍である。いくつかの実施形態において、PBD-PSCは、前記対象に皮下投与、静脈内投与または動脈内投与される。いくつかの実施形態において、PBD-PSCの投与によって前記悪性腫瘍または転移性癌が改善する。
【0189】
いくつかの実施形態において、単離されたPBD-PSCまたはPBD-PSC含有細胞集団は、自己免疫疾患に罹患している対象として選択または特定された対象、または自己免疫疾患の症状を示す対象に投与される。いくつかの実施形態において、前記自己免疫疾患は、本明細書に記載の1種以上の自己免疫疾患である。いくつかの実施形態において、PBD-PSCは、前記対象に皮下投与、静脈内投与または動脈内投与される。いくつかの実施形態において、PBD-PSCの投与によって前記神経疾患が改善する。
【0190】
いくつかの実施形態において、PBD-PSCはドナーから単離され、PBD-PSCを用いた治療を必要とするレシピエントに移植される。いくつかの実施形態において、前記ドナーは若齢の対象である。いくつかの実施形態において、前記レシピエントは、前記ドナーよりも高齢の、前記治療を必要とする対象である。いくつかの実施形態において、前記レシピエントは本明細書に記載の疾患に罹患しているレシピエントであってもよい。いくつかの実施形態において、前記レシピエントは老化の影響に悩むレシピエントであってもよい。いくつかの実施形態において、前記ドナー細胞は、前記レシピエント細胞と組織適合性または血液適合性を有していてもよいが、前記レシピエント細胞と組織適合性および血液適合性を有していなくてもよく、ドナー不適合であっても前記レシピエントの治療を行うことができる。図13~19は、レシピエントに抗老化作用を提供するための、ドナー細胞の使用の概要について示す。
【0191】
したがって、いくつかの実施形態において、本明細書に記載の教示に従って作製されたPBD-PSC調製物は、精製されたPBD-PSCを含む。いくつかの実施形態において、前記調製物は、薬学的に許容される担体、および/または細胞外マトリックスタンパク質、サイトカイン、成長因子、抗原などのタンパク質をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記調製物は、皮膚疾患の治療、予防、緩和または抑制に有用であり、該皮膚疾患としては、顔のしわ、皮膚の非酵素的グリコシル化、日光による損傷、喫煙による損傷、皮膚の線維化、夏季ざ瘡(Mallorcaざ瘡)、集簇性ざ瘡、化粧品ざ瘡(コスメティックアクネ)、電撃性ざ瘡(急性熱性潰瘍性ざ瘡)、項部ケロイド性ざ瘡(ケロイド性ざ瘡、頭部乳頭状皮膚炎、ケロイド性毛包炎、項部ケロイド性毛包炎、項部ケロイド性ざ瘡)、成人前額部散在性紅丘疹、尋常性ざ瘡、機械的ざ瘡、薬物性ざ瘡、粟粒性壊死性ざ瘡(痘瘡状ざ瘡)、尋常性ざ瘡、顔面浮腫を伴うざ瘡(顔面浮腫性硬化)、眼瞼腫瘤、紅斑・毛細血管拡張型酒さ(紅斑毛細血管拡張型酒さ、血管型酒さ)、剥離性ざ瘡(若年性女子表皮剥離性ざ瘡、Pickerざ瘡)、腺型酒さ、顎部腫瘤、グラム陰性酒さ、肉芽腫性顔面皮膚炎、成人男性に見られる肥大し赤みを帯びた球状鼻、鼻瘤、肉芽腫性口囲皮膚炎、ハロゲンざ瘡、化膿性汗腺炎(反対型ざ瘡、pyoderma fistulans significa、Verneuil病)、特発性無菌性顔面肉芽腫、小児ざ瘡、狼瘡様酒さ(肉芽腫性酒さ、小丘疹状結核疹、Lewandowskyの酒さ様結核疹)、顔面播種状粟粒性狼瘡、前額部腫瘤、新生児ざ瘡(acne infantum、acne neonatorum、neonatal cephalic pustulosis)、職業性ざ瘡、油性ざ瘡、眼型酒さ(ophthalmic rosacea、ophthalmorosacea)、耳腫瘤、開口部皮膚炎、酒さによる持続性浮腫(上顔部の慢性紅斑性浮腫、Morbihan病、酒さによるリンパ浮腫)、腫瘤型酒さ、ポマードざ瘡、丘疹膿疱型酒さ(炎症性酒さ)、膿瘍性穿掘性頭部毛包周囲炎(頭皮の解離性蜂巣炎、解離性毛包炎、Hoffmanの膿瘍性穿掘性頭部毛包周囲炎)、口囲皮膚炎、眼窩周囲皮膚炎(眼周囲皮膚炎)、顔面膿皮症(電撃性酒さ)、鼻瘤、酒さ(酒さ性ざ瘡)、集簇性酒さ、滑膜炎-ざ瘡-膿疱症-骨化過剰-骨髄炎症候群(SAPHO症候群)、ステロイド酒さ、タールざ瘡、皮膚がん、熱帯性ざ瘡;尋常性乾癬、滴状乾癬、間擦疹型乾癬、膿疱性乾癬、紅皮性乾癬、爪乾癬および/または乾癬性関節炎などの乾癬;ならびに/またはこれらの組み合わせおよび/または類似疾患の1種以上が挙げられる。
【0192】
図13は、加齢に伴う幹細胞の全体的な機能低下を示す概略図である。外因性作用および内因性作用などの様々な作用が同時に働くことによって機能低下が起こる。外因性作用としては、たとえば、炎症性サイトカインや、Wnt活性化因子の増加が挙げられる。内因性作用としては代謝機能不全が挙げられる。これらの作用は、活性酸素種などのエフェクター分子と共同して働き、ゲノム的な変化、エピゲノム的な変化および/またはプロテオーム的な変化をもたらし、その結果、幹細胞の機能が低下し、幹細胞の機能低下によって、ネガティブな内因性作用がさらに増強される。さらに、幹細胞の機能低下は、組織の機能不全および生体の老化を引き起こし、これによって外因性作用がさらに増強され、老化の影響が見られるようになる。
【0193】
図14は、若い幹細胞ではネガティブな作用を受けることがほとんどないが、老化した幹細胞では、様々な内因性作用および外因性作用を受けることにより老化の影響が見られるという観点から、幹細胞の子孫細胞を示したものである。図15は、PBD-PSCの量と患者の年齢の間に強い負の相関傾向があることを示す。
【0194】
本発明の様々な実施形態を説明するため、本明細書では概して肯定的な記載により本発明を開示している。本発明は、成分または材料、方法の工程および条件、プロトコルまたは操作などの要素が一部または完全に除外された実施形態も包含する。したがって、本明細書において、本発明に含まれないものについては概して述べられていないとしても、本発明において明確に除外されていない態様も本明細書に開示されているものとする。
【0195】
前述した本発明の実施形態の態様のいくつかを、以下の実施例においてさらに詳細に開示するが、以下の実施例は本発明の開示の範囲をなんら限定するものではない。詳細な説明および請求項に記載されているように、その他の多くの実施形態も本発明の範囲内に含まれることを、当業者であれば十分に理解できるであろう。
【実施例0196】
実施例1
PBD-PSCに対する抗体の調製
PBD-PSCに対するモノクローナル抗体(mAb)の作製方法を本実施例において説明する。
【0197】
PBD-PSCに対するモノクローナル抗体を作製するための基本的な手順を図10に示す。工程1において、マウスにPBD-PSCを注射することにより、マウスをPBD-PSCで免疫する。マウスの脾臓において、PBD-PSCに対する抗体を分泌する形質細胞が産生される。工程2において、抗体を産生しないミエローマ細胞を選択する。工程3において、マウスの脾臓を摘出し、脾臓から単離された形質細胞をミエローマ細胞と混合する。細胞融合を誘導してハイブリドーマを産生させる。工程4において、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン(HAT)培地に細胞を移す。この工程において、非融合形質細胞および非融合ミエローマ細胞は死滅する。最後の工程5において、多能性幹細胞PBD-PSCに特異的な抗体を産生するハイブリドーマを選択し、バルク培養する。
【0198】
実施例2
血液または組織からのPBD-PSCの単離
PBD-PSCの単離方法を本実施例において説明する。
【0199】
対象から試料を得る。試料としては、末梢血、脂肪組織、骨髄、卵巣卵胞液もしくは精漿またはこれらの組み合わせが挙げられる。図11に示すように、まず、PBD-PSCに対するモノクローナル抗体(mAb)と試料を混合する。このモノクローナル抗体は、たとえばPTH1Rに対する抗体であってもよい。いくつかの実施形態において、mAb-PBD-PSC複合体を分離するために磁気ビーズを使用してもよい。いくつかの実施形態において、アビジンまたはストレプトアビジンとビオチンを使用して、磁気ビーズを前記抗体に結合させる。この場合、磁場を印加しながら、試料を洗浄し、非結合細胞を含む上清を除去する。洗浄バッファーを使用して、モノクローナル抗体(mAb)からPBD-PSCを遊離し、細胞を単離する。
【0200】
実施例3
末梢血からのPBD-PSCの単離
体外システムを使用して、末梢血からPBD-PSCを単離する方法を本実施例において説明する。
【0201】
対象すなわちドナーを体外装置に接続する。図12に示すように、ドナーから全血を採取し、体外装置に送る。この体外装置は、血液を通過させるための多孔質膜を備える。血液は、遠心力または重力の印加によって多孔質膜を通過することができるが、PBD-PSCは多孔質膜上に単離または捕捉される。このようにして、PBD-PSCが全血から単離される。多孔質膜を通過した血液は、対象に再注入してもよい。試料1mLあたり1,000個~100,000,000個のPBD-PSCが単離される。いくつかの実施形態において、単離されたPBD-PSCを調製して、対象に再注入または投与する。
【0202】
実施例4
ナノファイバーマトリックス上におけるPBD-PSCの増殖
ナノファイバーマトリックス上においてPBD-PSCを増殖させる方法を本実施例において説明する。
【0203】
55歳の健常男性からPBD-PSCを単離し、ナノファイバーマトリックス上で増殖させた。PBD-PSCを播種して増殖させたナノファイバーマトリックスの電子顕微鏡写真を、図20A(0分)、図20B(5分;上図:1200倍;下図:5000倍)、図20C(30分;上図:1200倍;下図:5000倍)および図20D(120分)に示す。PBD-PSCはナノファイバーマトリックスに結合し、5~30分以内にナノファイバーマトリックス上に敷き詰められる。
【0204】
前記ナノファイバーマトリックスは、エレクトロスピニング法により紡糸したポリカプロラクトン(PCL)繊維から作製したものであり、繊維の太さは200~700μmであった。レーザー光線を繊維に照射して粉末状に裁断した。このマトリックスのコンビナトリアル手法による使用としては、関節注射および骨内注射(骨折および歯科分野で実施される注射)や、創傷の被覆などが挙げられる。
【0205】
実施例5
PBD-PSCを使用した皮膚治療
PBD-PSC調製物を使用した皮膚治療によりコラーゲンおよびエラスチンを改善する方法を本実施例において説明する。
【0206】
皮膚の老化に関する問題を解決するため、PBD-PSC調製物を使用した。自己由来PBD-PSCを対象から単離し、脂肪溶解剤として使用して、皮膚コラーゲン量および皮膚エラスチン量を増加させることにより皮膚の早期老化の抑制を試みた。図21に示すように、治療前(0日目)から治療の30日後にかけてコラーゲンとエラスチンの量がいずれも増加した。さらに、表1に示すように、皮膚の老化に関する美容評価の改善が治療後に認められた。
【表1】
【0207】
以上の結果から、PBD-PSC調製物は、皮膚コラーゲンおよび皮膚エラスチンを増加させ、それによって小じわを減らすとともに、肌の明るさとハリを増すことができることから、皮膚の老化による影響の改善に有用であることが示された。
【0208】
実施例6
PBD-PSCを使用した毛髪再生
PBD-PSC調製物を使用した脱毛の治療方法または発毛の改善方法を本実施例において説明する。
【0209】
自己由来PBD-PSCの調製物を、脱毛に悩む対象に投与した。図22に示すように、PBD-PSC調製物による治療の10週間後に発毛が有意に増加した。この結果から、発毛の改善のための使用においてPBD-PSC調製物が有効であることが示された。このPBD-PSC調製物は、精製または単離されたPBD-PSCを含み、薬学的に許容される担体をさらに含む。このPBD-PSC調製物は、タンパク質、成長因子またはその他の薬剤をさらに含んでいてもよい。
【0210】
実施例7
骨折の治療のためのPBD-PSC
PBD-PSCが骨折の治療に有用であることを本実施例において説明する。
【0211】
図23A~23Cは骨折の画像を示す。画像に写っている対象は、C7棘突起に未治癒の骨折を有する50歳の患者である。骨折発生の9ヶ月後にPBD-PSCを含む製剤で骨折を治療した。PBD-PSCは静脈内注射するとともに、骨折部位近傍に局所注射した。
【0212】
図23Bは、頸椎の冠状骨折のCTスキャン像を示す。左画像は治療前の骨折を示す。前記と同様に、PBD-PSC調製物を静脈内注射および局所注射することによって対象を治療した。治療の4ヶ月後に骨折が完全に治癒した(右画像)。図23Cは、頸椎の矢状骨折のCTスキャン像を示す。左画像は治療前の骨折を示す。治療の4ヶ月後に骨折が完全に治癒した(右画像)。
【0213】
実施例8
骨粗鬆症の治療のためのPBD-PSC
PBD-PSCが骨粗鬆症の治療に有用であることを本実施例において説明する。
【0214】
PBD-PSC調製物は骨粗鬆症の治療に有用である。骨粗鬆症は、骨量の減少が通常よりも進んだ高齢者に多く見られる。表2に示すように、本実施例における高齢の女性対象者は、進行性の閉経後骨量減少を示していた。
【表2】
【0215】
PBD-PSCを含む製剤で前記対象を治療した。治療後、腰椎および大腿骨において骨量減少が止まった。また、上記表に示したように、骨密度の減少が止まっただけでなく、PBD-PSCによる治療の86ヶ月後に骨密度が増加した。これらのデータから、PBD-PSCは、骨密度を改善することができることから、骨粗鬆症の治療に有用であることが示された。
【0216】
実施例9
骨粗鬆症の改善のためのPBD-PSC
骨粗鬆症を有する65歳の対象にPBD-PSCを投与したところ、骨粗鬆症が改善したことを本実施例において示す。
【0217】
腰椎および左股関節に重度の骨粗鬆症を有する65歳の女性患者にPBD-PSCを単回注入したところ、腰椎の骨密度がわずかに改善した。図25に示すように、腰椎の骨密度は0.641g/cm2から0.647g/cm2に改善した(1.6%)。注入の9カ月後にはPBD-PSC注入の効力がわずかに低下した(0.643g/cm2)。このことから、6ヶ月間隔で注入を繰り返すことによって、初回注入の効力を維持または増強することが可能であることが示された。左股関節の骨密度は、PBD-PSCの注入後、0.650g/cm2から0.619g/cm2に低下した(-4.77%)。しかし、左股関節の骨密度の低下はその後緩慢となり、0.611g/cm2(-1.3%)で留まったことから、PBD-PSC注入によって左股関節の骨密度の急激な低下が阻止されたことが示された。
【0218】
実施例10
骨減少症の治療のためのPBD-PSC
PBD-PSCが骨減少症の治療に有用であることを本実施例において説明する。
【0219】
PBD-PSC調製物は骨減少症の治療に有用である。骨減少症は骨密度が正常よりも低い状態をいい、そのTスコアは-1.0~-2.5である。本実施例において、腰椎および左股関節に骨減少症を有する75歳の女性対象に単回PBD-PSC療法を行ったところ、骨密度のTスコアが有意に改善した。図26に示すように、腰椎(上のグラフ)のTスコアは-2.4から-1.5に改善し(37.5%の改善)、これと同時に骨密度は0.79g/cm2から1.004g/cm2に上昇した。左股関節(下のグラフ)のTスコアは-1.7から-1.2に改善し(29.4%の改善)、これと同時に骨密度は0.66g/cm2から0.851g/cm2に上昇した。
【0220】
実施例11
受胎能の改善のためのPBD-PSC
PBD-PSCが受胎能の改善に有用であることを本実施例において説明する。
【0221】
PBD-PSCが受胎能の改善に有用かどうかを評価するため、自己由来PBD-PSCの調製物を調製した。得られた調製物を、薄い子宮内膜を広範に有する対象の子宮動脈に動脈内注射した。図27に示すように、PBD-PSCによる治療後、薄い子宮内膜が有意に改善した。したがって、PBD-PSCは薄い子宮内膜の改善に有用である。
【0222】
PBD-PSC療法が受胎能の改善に有用かどうかを評価するため、不妊の経験を有する対象においてPBD-PSC療法を行った。過去に体外受精/卵細胞質内精子注入法(IVF/ICSI)を試みたことがあり、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を有しておらず、かつ少なくとも4回にわたってIVF/ICSIが繰り返し失敗に終わっている複数人の女性を、PBD-PSC静脈内療法で治療した。PBD-PSC療法の結果を表3にまとめる。
【表3】
【0223】
この結果から、過去にIVF/ICSIを試みたが不妊を経験した女性の多くにおいて、PBD-PSC療法によりアウトカムが改善されることが示された。
【0224】
さらに、表4に示すように、226人の対象を含む研究においては、IVFと組み合わせてPBD-PSC療法を行った女性のIVF成功アウトカム率(81.6%)と比べて、IVFのみを試みた女性のIVF成功アウトカム率は低かった(41.3%)ことが示された。
【表4】
【0225】
さらに、表5に示すように、過去に胚移植に失敗している17人の不妊女性に対して、薄い子宮内膜を改善するためにPBD-PSCを子宮動脈注射したところ、子宮内膜の厚さが増し、受胎アウトカムが改善したことが示された。治療前の17人の女性の子宮内膜の平均厚さは4.67mmであり、治療後の平均厚さは7.75mmであった(3.08mmの増加;66%の増加)。
【表5】
【0226】
これらの結果を合わせると、PBD-PSC療法の受胎能改善効果が統計学的に有意に示されたと言える。具体的には、PBD-PSC療法によって、卵巣の機能、卵母細胞の数および質、子宮内膜の厚さ、ならびに子宮内膜の受胎性に検出可能な改善が認められた。
【0227】
実施例12
神経疾患の治療のためのPBD-PSC
PBD-PSCが神経疾患の治療に有用であることを本実施例において説明する。
【0228】
PBD-PSC療法が神経疾患の治療に有効かどうかを評価するため、進行性小脳性運動失調症に罹患している対象から自己幹細胞を単離した。小脳性運動失調症は様々な疾患によって引き起こされ、バランス運動、歩行運動、四肢運動および眼球運動の協調障害が症状として認められる。また、小脳の病変は、協調運動障害、測定障害、拮抗運動反復不全、構音障害、姿勢運動失調および歩行運動失調を引き起こすことがある。このような障害は、病変が発生した身体の同じ側(同側)の動作において観察される。臨床医は、運動失調の徴候を見つけるために、患者に運動課題を実施させ、その結果を目視で確認することをよく行う。小脳性運動失調症の原因としては様々なものがあり、小脳のプルキンエ細胞またはその他の神経細胞に対する自己免疫、中枢神経系(SNC)血管炎、多発性硬化症、感染症、出血性梗塞、腫瘍、直接的損傷、毒素(たとえばアルコール)、遺伝子疾患などが挙げられる。本実施例における対象者は、鑑別診断の結果、アルコール誘導性小脳性運動失調症に罹患していると見られた。診断後、この対象者はアルコール摂取を中止した。この対象者は、進行性かつ重度のバランス協調障害を患っており、1日あたり平均5回程度の転倒を経験していた。過去に集中リハビリテーションプログラムを実施したものの、進行を止めることはできず、ブスピロンを数ヶ月間にわたって投与したが良好な効果はほとんど認められないか、全く認められなかった。
【0229】
インフォームド・コンセントの実施後、前記患者は自己由来PBD-PSC療法を受けることに同意を示した。末梢血を採取し、24時間以内に、磁気抗体を使用したPTH1R、CD90およびCD133のポジティブ選択とCD45のネガティブ選択によってPBD-PSCを単離した。次いで、患者由来の血小板濃縮溶解物および多血小板血漿とレチノイン酸とを使用してPBD-PSCを18時間にわたってプライミングした。調製した細胞を45分間かけて静脈内投与した。
【0230】
7日後、バランス協調障害が減少したことから患者自身が病態の改善を自覚し、8日目には一度も転倒しなかった。8週間経過後も、患者は一度しか転倒しなかった。PBD-PSC療法による副作用は観察されなかった。本実施例から、小脳性運動失調症の治療にPBD-PSC療法が有効であることが示された。
【0231】
実施例13
悪性腫瘍の治療のためのPBD-PSC
PBD-PSCが悪性腫瘍の治療に有用であることを本実施例において説明する。
【0232】
腎細胞癌由来の難治性転移性肺腫瘍を有する50歳の患者は、適合度の高い適切なドナーを有していたことから、同じ血液型のきょうだいから得たPBD-PSC同種移植細胞を注入した。ドナー由来多能性幹細胞の患者への注入は月3回、3ヶ月にわたって行った。
【0233】
図28に示すように、移植の30日後において転移性肺腫瘍(矢印)は容易に確認できる。しかし、移植の129日後には、転移性肺腫瘍の大部分が消失している。患者は完全奏効を示し、寛解を持続したまま、転移腫瘍が完全に退縮した。
【0234】
本実施例から、従来の免疫療法に対して応答性を示さない患者の転移性腎細胞癌の持続的な退縮の誘導にPBD-PSC療法が有効であることが示された。
【0235】
実施例14
1型糖尿病の治療のためのPBD-PSC
PBD-PSCが1型糖尿病の治療に有用であることを本実施例において説明する。
【0236】
1型糖尿病に罹患している17歳の男性対象および16歳の女性対象の膵動脈にPBD-PSCを2回注入した。1回目の注入は1週目に行い、2回目の注入は13週目に行った。
【0237】
図29は、インスリンの1日平均使用量の経時変化を週ごとに示したものである。図29に示すように、インスリンの1日平均使用量は、1回目のPBD-PSCの注入後に低下し、さらに2回目のPBD-PSCの注入後でも低下した。
【0238】
本実施例から、1型糖尿病に罹患している対象のインスリンの1日平均使用量の減少にPBD-PSC療法が有効であることが示された。
【0239】
実施例15
黄斑変性の治療のためのPBD-PSC
PBD-PSCが黄斑変性の治療に有用であることを本実施例において説明する。
【0240】
ドライ型黄斑変性に罹患している71歳の女性患者から、標準的な静脈穿刺によって末梢血200mLを採取した。抗凝固剤としてクエン酸ナトリウムを使用した。この患者の治療前の視力検査値は、一方の眼が20/200、他方の眼が20/500であった。この対象は法定盲目であり、自動車の運転は不可能であった。(スイングバケットローター遠心分離機による)遠心分離と濾過を併用してPBD-PSCを単離した。まず、血液を300×gで10分間遠心分離した。血漿層を回収し、さらに800×gで10分間遠心分離した。血漿上清を1100×gで10分間再度遠心分離した。底に沈殿した細胞層を回収し、滅菌生理食塩水5mLに入れ、再懸濁した。得られた細胞懸濁液を5μmフィルターに通して濾過した。(血小板がまだ含まれている)前記上清25μLを採取し、40~60MHzの超音波を使用して超音波処理を20分間行い、血小板を溶解した。得られた血小板溶解物を2,500×gで15分間遠心分離し、残渣を除去した。得られた血小板濃縮溶解物をさらに0.22μmフィルターに通して濾過し、残渣を除去した。このようにして調製した血小板溶解物を、生理食塩水中に懸濁した前記細胞に加え、抗ヒトCD45抗体でウェルの底をコーティングした滅菌培養プレートにこの細胞懸濁液を加えた。培養プレートを4℃、5%COの冷蔵インキュベーターに入れ、24時間インキュベートした。24時間のインキュベート後、ウェル中の液体を回収し、5μmフィルターで再度濾過した。得られた濾液(約30mL)を、10分間かけて患者に静脈内注射した。この濾液を分析したところ、1mLあたり約900万個の細胞が含まれており、細胞の直径の中央値は4.3μmであった。また、フローサイトメトリー分析を行ったところ、CD133陽性およびPTH受容体陽性の細胞の割合が90%を超えていた。CD45陽性の細胞の割合は1%未満であった。
【0241】
自己由来の血小板溶解物で活性化したPBD-PSC細胞を投与してから3ヶ月後、患者の視力値は、一方の眼が20/40、他方の眼が20/50となった。この対象は法定盲目ではなくなり、新たな眼鏡が与えられた。さらに、この対象は、今では自動車を運転することも可能となり、介助を必要とすることなく独力で日々の生活を送っている。自己由来PBD-PSCの投与から6ヶ月経過後も視力の改善が維持された。
【0242】
前述の実施形態の少なくともいくつかにおいて、これらの実施形態において使用された1つ以上の構成要素は、技術的に不可能な場合を除き、別の実施形態の構成要素と入れ替えて使用することができる。請求項に記載された主題の範囲から逸脱することなく、前記の方法および構造に前述以外の様々な省略、付加および改変を行ってもよいことは、当業者であれば容易に理解できるであろう。このような改変や変更はいずれも、添付の請求項で定義されている本発明の主題の範囲内にあると見なされる。
【0243】
本明細書で使用されている実質的に複数形および/または単数形の用語は、当業者であれば、本明細書の記載および/または用途に適するように、複数形の用語を単数のものとして、かつ/または単数形の用語を複数のものとして解釈することができる。本発明を明確なものとするために、様々な単数形/複数形の用語が意図的に使い分けられている。
【0244】
当業者であれば、本明細書に記載の用語、特に添付の請求項(たとえば添付の請求項の本体部)に記載の用語は、通常、「オープンエンドな」用語であることを理解できるであろう(たとえば、「含んでいる(including)」という用語は、「含んでいるが、これらに限定されない」と解釈されるべきであり、「有する(having)」という用語は、「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、「含む(include)」という用語は「含むが、これらに限定されない」と解釈されるべきである)。さらに、特定の数が請求項に記載されている場合、前述のような意図も請求項に明確に記載されており、特定の数が記載されていない場合はそのような意図も存在しないことも、当業者であれば理解できるであろう。具体的に説明をすれば、たとえば、後述の特許請求の範囲では、請求項を定義するために、「少なくとも1つ」や「1つ以上」といった前置きが記載されている場合がある。しかしながら、このような前置きが記載されているからといって、不定冠詞「1つ(aまたはan)」を使用して構成要素が記載された請求項を、1つのみの構成要素を含む実施形態に限定すべきではなく、たとえ同じ請求項内に「1つ以上」または「少なくとも1つ」といった前置きと「1つ(aまたはan)」といった不定冠詞とが含まれていたとしても、1つのみの構成要素を含む実施形態に限定すべきではない(たとえば、「1つ(aおよび/またはan)」は、「少なくとも1つ」または「1つ以上」を意味すると解釈されるべきである)。これは、定冠詞を使用して記載された請求項でも同じである。また、請求項に特定の数が明確に記載されていたとしても、「少なくとも」記載されたその数であるということを当業者であれば理解できるであろう(たとえば、修飾語を伴わない「2つ」という記載は、「少なくとも2つ」または「2つ以上」を意味する)。さらに、「A、BおよびCのうちの少なくとも1つ」といった慣用語句が使用されている場合、通常、そのような語句は、当業者がその語句を通常理解する意味で記載されている(たとえば「A、BおよびCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみを有するシステム、Bのみを有するシステム、Cのみを有するシステム、AとBを有するシステム、AとCを有するシステム、BとCを有するシステム、ならびに/またはA、BおよびCを有するシステムなどを包含するが、これらに限定されない)。また、「A、BまたはCのうちの少なくとも1つ」といった慣用語句が使用されている場合、通常、そのような語句は、当業者がその語句を通常理解する意味で記載されている(たとえば「A、BまたはCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみを有するシステム、Bのみを有するシステム、Cのみを有するシステム、AとBを有するシステム、AとCを有するシステム、BとCを有するシステム、ならびに/またはA、BおよびCを有するシステムなどを包含するが、これらに限定されない)。さらに、2つ以上の選択肢を表すための選言的用語および/または選言的語句は、明細書、特許請求の範囲または図面のいずれにおいても、記載された用語のうちの1つ、記載された用語のいずれか、または記載された用語の両方を含む場合があると当業者であれば理解できるであろう。たとえば「AまたはB」という表現は、「Aのみ」または「Bのみ」または「AおよびB」を含む場合がある。
【0245】
さらに、本開示の特徴または態様がマーカッシュ形式で記載されている場合、当業者であれば、マーカッシュ形式で記載された各メンバーまたはそれらからなるサブグループについても記載されていると理解できるであろう。
【0246】
詳細な説明の提供などの何らかの目的で本明細書に記載された範囲はいずれも、あらゆる可能な部分範囲およびその組み合わせも包含することを、当業者であれば理解できるであろう。前記範囲はいずれも、同じ範囲を少なくとも等分、3等分、4等分、5等分、10等分などに分割したものも十分に記載されており、このような分割された範囲で本発明を実施可能であることを容易に理解できるであろう。たとえば、本明細書に記載の範囲はいずれも、容易に、低域、中域、高域といった3等分などにすることができるが、これに限定されない。また、「以下」、「少なくとも」、「よりも大きい」、「未満」といった用語はいずれも、記載された数値を含むとともに、前述したように、部分範囲に分割可能な範囲も指すことを当業者であれば理解できるであろう。さらに、当業者であれば、本明細書に記載の範囲は各メンバーを含むことを理解できるであろう。したがって、たとえば、1~3つのメンバーを有する群は、1つのメンバーを有する群、2つのメンバーを有する群または3つのメンバーを有する群を指す。同様に、1~5つのメンバーを有する群は、1つのメンバーを有する群、2つのメンバーを有する群、3つのメンバーを有する群、4つのメンバーを有する群、または5つのメンバーを有する群などを指す。
【0247】
本明細書において様々な態様および実施形態を述べてきたが、当業者であればその他の態様および実施形態も容易に理解できるであろう。本明細書において開示された様々な態様および実施形態は本発明を説明することを目的としたものであり、本発明をなんら限定するものではなく、本発明の範囲および要旨は以下の請求項によって示される。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20A
図20B
図20C
図20D
図21
図22
図23A
図23B
図23C
図24
図25
図26
図27
図28
図29