(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109803
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】難水溶性物質含有製剤
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20240806BHJP
A23D 7/005 20060101ALI20240806BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20240806BHJP
A61K 8/04 20060101ALI20240806BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20240806BHJP
A61K 8/35 20060101ALI20240806BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20240806BHJP
A61K 8/39 20060101ALI20240806BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20240806BHJP
A61K 8/67 20060101ALI20240806BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20240806BHJP
A61K 8/9794 20170101ALI20240806BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240806BHJP
A61K 31/12 20060101ALI20240806BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20240806BHJP
A61K 31/355 20060101ALI20240806BHJP
A61K 36/9066 20060101ALI20240806BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240806BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240806BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240806BHJP
A61K 125/00 20060101ALN20240806BHJP
【FI】
A23D7/00 504
A23D7/005
A23L29/00
A61K8/04
A61K8/34
A61K8/35
A61K8/37
A61K8/39
A61K8/55
A61K8/67
A61K8/86
A61K8/9794
A61K9/10
A61K31/12
A61K31/122
A61K31/355
A61K36/9066
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/24
A61K125:00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024083822
(22)【出願日】2024-05-23
(62)【分割の表示】P 2020153437の分割
【原出願日】2020-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2019181529
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592007612
【氏名又は名称】横浜油脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】染矢 慶太
(72)【発明者】
【氏名】樫原 彩
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 純
(72)【発明者】
【氏名】柴田 光香
(57)【要約】
【課題】水への溶解性が低い難水溶性成分を水を含む加工食品に対して効果的に配合する。
【解決手段】水で希釈倍率10~100000倍に希釈した水希釈液の平均乳化粒子径が60nm以下、又は水で希釈倍率10~100000倍に希釈した水希釈液の平均分散粒子径が150nm以下である難水溶性物質含有製剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難水溶性物質を含む乳化系の難水溶性物質含有製剤であって、該製剤を水で希釈倍率10~100000倍に希釈した水希釈液の平均乳化粒子径が60nm以下であることを特徴とする難水溶性物質含有製剤。
【請求項2】
難水溶性物質を含む分散系の難水溶性物質含有製剤であって、該製剤を水で希釈倍率10~100000倍に希釈した水希釈液の平均分散粒子径が150nm以下であることを特徴とする難水溶性物質含有製剤。
【請求項3】
10以上16以下のHLBを示す乳化剤を1種又は2種以上含む請求項1又は2に記載の難水溶性物質含有製剤。
【請求項4】
乳化剤の含有量が、製剤全体に対して0.01~40重量%である請求項3に記載の難水溶性物質含有製剤。
【請求項5】
連続相として、水及び多価アルコールを含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の難水溶性物質含有製剤。
【請求項6】
多価アルコールの含有量が、製剤全体に対して0.01~70重量%である請求項5に記載の難水溶性物質含有製剤。
【請求項7】
難水溶性物質が、クルクミノイド、イソプレノイドキノン類、トコフェロール類、又はカロテノイドである請求項1~4のいずれか1項に記載の難水溶性物質含有製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を含む加工食品に難水溶性物質を効果的に添加、配合することができる難水溶性物質含有製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンに代表される食事性栄養成分は水溶性と非水溶性の2成分に大別される。一方、飲料をはじめとする加工食品には多量の水分が含まれるため、ビタミンCなどの水溶性成分の配合は容易であるが、ビタミンE、コエンザイムQ10、クルクミン、アスタキサンチンなどの難水溶成分に関しては、そのままの状態で配合すると浮遊分離や沈殿発生が生じるため、乳化・分散等の製剤加工が必要となる。乳化・分散状態の安定性に関しては、ストークスの式として知られているように、その成分の粒子径の2乗に反比例するため、難水溶性物質の加工食品への安定配合のためには、より微小な粒子径を示す製剤の加工が求められる。さらにDesaiらは、牛血清アルブミンの乳化粒子を用いて微小な乳化粒子の効果的な細胞への取り込みを論じており(非特許文献1)、難水溶性物質に関しても同様な効果が期待される。
【0003】
このような難水溶性物質の微細粒子化に関しては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、シュガーエステル、レシチンといった乳化剤に多価アルコールを組み合わせて、クルクミンやコエンザイムQ10といった難水溶性物質を微細化する技術が公開されているが、具体的に示されている粒子径は、加工食品への配合状態を反映していない原液の粒子径であったり、配合を考慮した希釈物の場合でも乳化系で100nm以上、分散系で200nm以上といずれも十分な微細化技術とは言えない。(特許文献1~3)
【0004】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステル、シュガーエステル、レシチンにモノグリセライドを組み合わせてコエンザイムQ10の乳化粒子を65.5nmまで微細化した技術(特許文献4)や、ガティガム等の増粘多糖類を用いてクルクミノイドを190nmまで微粒化した技術(特許文献5)が公開されているが、いずれも加工食品への配合が考慮されていないか、もしくは配合後の安定性が十分とは言えず、微粒化の技術としては不十分なものであった。
【0005】
さらに、ポリソルベート類やポリエチレングリコール類、アルコール類といった両親媒性溶剤を用いて難水溶性物質を可溶化した製剤技術も公開されているが、いずれも可溶化製剤における粒子径に関してのみ言及されており、加工食品への配合が考慮されていないか、もしくは20%レベルの高濃度の製剤配合に関して調べられており現実的な配合とは言えない。(特許文献6~8)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M. P. Desai et al, Pharmaceutical Res. 14, 1568 (1997)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-201371号公報
【特許文献2】特表2006-134970号公報
【特許文献3】特開2013-56858号公報
【特許文献4】特開2008-245588号公報
【特許文献5】特開2014-118391号公報
【特許文献6】特表2012-510466号公報
【特許文献7】特開2016-505579号公報
【特許文献8】特開2016-34918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、水を含む加工食品に対して難水溶性成分を効果的に配合しうる難水溶性物質含有製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った結果、難水溶性物質を含む製剤が乳化系の場合、その水希釈物の平均乳化粒子径が60nm以下であり、分散系の場合、その水希釈物の平均分散粒子径が150nm以下である難水溶性物質含有製剤、特には該製剤が10以上16以下のHLBを示す乳化剤を1種又は2種以上及び/又は連続相として水及び多価アルコールを含有することで、水を含む加工食品に対して難水溶性成分を効果的に配合しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の難水溶性物質含有製剤は、難水溶性物質を含む乳化系の難水溶性物質含有製剤であって、該製剤を水で希釈倍率10~100000倍に希釈した水希釈液の平均乳化粒子径が60nm以下であることを特徴とする難水溶性物質含有製剤、並びに難水溶性物質を含む分散系の難水溶性物質含有製剤であって、該製剤を水で希釈倍率10~100000倍に希釈した水希釈液の平均分散粒子径が150nm以下であることを特徴とする難水溶性物質含有製剤であり、特には10以上16以下のHLBを示す乳化剤を1種又は2種以上及び/又は連続相として水及び多価アルコールを含有する難水溶性物質含有製剤にかかわるものであり、従来の難水溶性物質製剤化技術と比較して水を含む加工食品中での外観上の配合性や浸透性に優れており、水を含む加工食品分野において難水溶性物質を効果的に添加、配合しうることを特徴とする新規技術である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、水を含む加工食品中での外観上の配合性や浸透性に優れており、水を含む加工食品分野において難水溶性物質を効果的に添加、配合しうる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いられる難水溶性物質は、食品もしくは食品添加物として用いられるものであればその種類に特に限定はないが、例えば、クルクミノイド、イソプレノイドキノン類、トコフェロール類、カロテノイドなどが挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。
【0013】
本発明の難水溶性物質含有製剤における上記難水溶性物質の含有量は、該製剤全体に対して好ましくは0.05~40重量%、より好ましくは0.1~35重量%、さらに好ましくは0.2~30重量%である。配合量が0.05重量%未満であると配合の効果が十分ではなく、また40重量%を超える場合は製剤の粘度等が高くなり好ましくない。
【0014】
本発明の難水溶性物質含有製剤の1つの態様は、難水溶性物質を含む乳化系の難水溶性物質含有製剤であって、通常希釈されて使用されるものであり、該製剤を水で希釈倍率10~100000倍、好ましくは20~50000倍に希釈した水希釈液の平均乳化粒子径を60nm以下とするものである。乳化系の場合60nmを超えると、加工食品への配合効果が低下し好ましくない。なお、平均乳化粒子径はレーザー光散乱法により測定することができる。
【0015】
また、本発明の難水溶性物質含有製剤のもう1つの態様は、難水溶性物質を含む分散系の難水溶性物質含有製剤であって、通常希釈されて使用されるものであり、該製剤を水で希釈倍率10~100000倍、好ましくは20~50000倍に希釈した水希釈液の平均分散粒子径を150nm以下とするものである。分散系の場合150nmを超えると加工食品への配合効果が低下し好ましくない。なお、平均分散粒子径はレーザー光散乱法により測定することができる。
【0016】
本発明に用いられる乳化剤は、食品中に用いられるものであればいかような種類のものでも用いることができる。例えば、ポリグリセリンエステル類、モノグリセリンエステル類、シュガーエステル類、ソルビタンエステル類、レシチン類、増粘多糖類などが挙げられ、これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて添加することができ、その中でも10以上16以下のHLBを示す乳化剤が好ましい。HLBが10未満もしくは16を超える種類のものは十分な乳化・分散性を示さないことがあり好ましくない。
ここで、HLBは、界面活性剤の分野において使用される親水性―疎水性バランスを示すものであり、例えば下記の計算式(川上式)が使用できる。
HLB=7+11.7log(MW/MO)
ここで、MWは親水基の分子量、MOは疎水基の分子量である。また、カタログ等に記載されているHLBの数値を使用してもよい。
【0017】
本発明に用いられる乳化剤の含有量は、製剤全体に対して好ましくは0.01~40重量%、より好ましくは0.1~35重量%、さらに好ましくは0.5~30重量%である。配合量が0.01重量%未満であると乳化・分散の効果が十分ではなく、また40重量%を超える場合は製剤の粘度等が高くなる、もしくは難水溶性物質の配合量が制限されてしまう等の不具合が生じ好ましくない。
【0018】
本発明の難水溶性物質含有製剤において、その連続相は水相成分(水系溶媒)であり、好ましいのは水である。その際、界面張力を調整する目的及び乳化剤の溶解を補助する目的で、多価アルコールを水相成分に添加することが好ましい。
【0019】
本発明に用いられる多価アルコール類は、食品中に用いられるものであればいかような種類のものでも用いることができ、例えば、プロピレングリコール、グリセリン、マルチトール、還元水あめ、ラクチトール、パラチニット、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール等が挙げられ、これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて添加することができる。その中でもグリセリンが組成物の流動性を確保するうえで最も好ましい。
【0020】
本発明に用いられる多価アルコールの含有量は、製剤全体に対して好ましくは0.01~70重量%、より好ましくは0.05~65重量%、さらに好ましくは0.1~60重量%である。配合量が0.01重量%未満であると安定な製剤が得られない場合があり、また70重量%を超える場合は難水溶性物質の配合量が制限されてしまう等の不具合が生じ好ましくない。
【0021】
本発明の難水溶性物質含有製剤には、本発明の効果を損なわない限り、公知の食品もしくは食品添加物原料を配合することができる。例えば、基剤成分として、油分、アルコール類、ワックス類、添加成分として防腐剤、香料、キレート剤、酸化防止剤、比重調整剤、粘度調整剤等を配合することができる。
【0022】
本発明の難水溶性物質含有製剤の製造のために用いる機械類は特に限定されるものではなく、ミキサー、アジテーター、ディスパーサー、ホモミキサー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、コロイドミル、遊星型ミル、湿式OBミル等の機械を単独もしくは組み合わせて使用することができる。
【0023】
本発明の難水溶性物質含有製剤の製造方法は必ずしも限定されるものではないが、好適な製造方法の1つとしては、まず難水溶性物質と本製剤のその他の配合成分を、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波等を用いて連続相中に乳化・分散させ(例えば、ホモミキサーを用いて4000~6000rpmにて30~60分の均一化処理を行う。)、さらに引き続いて30~70MPaの条件にて4~10回の繰り返し操作による高圧ホモジナイザー処理を施す方法が提示される。この方法を用いることにより、水で希釈した際に本発明で規定する平均粒子径の分散相を呈する難水溶性物質含有製剤を効率よく製造することができる。
【0024】
本発明の難水溶性物質含有製剤の形態としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、通常の調製法では液状製剤の形態をとることが多いが、賦形剤を混合し、噴霧乾燥や凍結乾燥を行い粉体化して利用することもできる。
【実施例0025】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
[実施例1~4、比較例1~4]
本実施例、比較例では、ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、Decaglyn 1-SV(製品名 デカグリセリンモノステアリン酸エステル)、Decaglyn 1-PV EX(製品名 デカグリセリンモノパルミチン酸エステル)、Decaglyn 1-L(製品名 デカグリセリンモノラウリン酸エステル)、ソルビタン脂肪酸エステルとして、TL-10(製品名 ポリソルベート20)、SP-10V(製品名 モノパルミチン酸ソルビタン)(以上日光ケミカルズ製)、レシチンはSLPペーストリゾ(辻製油製)を用いた。
【0027】
[調製例:ウコン抽出物の調製]
乾燥したウコンの根茎1kgをハンマーミルで解砕し、そこに10倍量のエタノールを加えて一昼夜冷暗所で浸漬処理を行った。浸漬処理後溶液部を濾別してロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、得られた抽出物に10倍量の水を加えてよく撹拌した後、沈殿物を濾別して回収した。本沈殿物を70℃のオーブンにて十分乾燥させた後、ボールミルにて粉砕して、95%のクルクミノイドを含有するウコン抽出物130gを得た
【0028】
[実施例1、比較例1:ウコン抽出物製剤]
クルクミノイドを95%含む前記ウコン抽出物を用いて表1に示す組成で配合し、ホモミキサーを用いて6000rpmにて30分均一化処理を施したものを比較例1とした。実施例に関しては、さらに遊星型ボールミルにて2mmジルコニアビーズ、0.3mmジルコニアビーズ、0.03mmジルコニアビーズで粉砕処理を行い、実施例1のウコン抽出物製剤を得た。
【0029】
[実施例2、比較例2:コエンザイムQ10製剤]
コエンザイムQ10(カネカ社製)を用いて表1に示す組成で配合し、ホモミキサーを用いて6000rpmにて30分均一化処理を施したものを比較例2とした。実施例2に関しては、さらに60MPaの条件にて6回の高圧ホモジナイザー処理を施した。
【0030】
[実施例3、比較例3:ミックストコフェロール製剤]
トコフェロールを70%含むミックストコフェロール(三菱ケミカルフーズ社製)を用いて表1に示す組成で配合し、ホモミキサーを用いて6000rpmにて30分均一化処理を施したものを比較例3とした。実施例3に関しては、さらに60MPaの条件にて4回の高圧ホモジナイザー処理を施した。
【0031】
[実施例4、比較例4:アスタキサンチン製剤]
アスタキサンチン12.5%含有オイル(バイオジェニック社製)を用いて表1に示す組成で配合し、ホモミキサーを用いて6000rpmにて30分均一化処理を施したものを比較例4とした。実施例4に関しては、さらに60MPaの条件にて6回の高圧ホモジナイザー処理を施した。
【0032】
[粒子径測定]
実施例1~4及び比較例1~4の各製剤を水に0.1%の濃度になるように希釈し、レーザー光散乱法により、平均粒子径(nm)を測定した。
【0033】
[分散液外観評価]
実施例1~4及び比較例1~4の前記水希釈液の外観を確認し、以下の基準で判定した。
◎:透明度が高く、好ましくは溶媒である水に対する外観影響が非常に少ない。
〇:透明性を有し、溶媒である水に対する外観影響が少ない。
△:濁りが感じられ、溶媒である水に対する外観影響を有する。
×:明らかに濁りを有し、外観影響が大きい。
【0034】
【0035】
表1から明らかなように、前記製剤が乳化系の場合、その水希釈物の平均粒子径が60nm以下であり、分散系の場合、その水希釈物の平均粒子径が150nm以下である実施例1~4は、希釈水の透明度に対する影響が少なく、良好な配合性を示した。
【0036】
[実施例5、比較例5:たくあんの着色性評価]
実施例1、比較例1の各製剤を市販の浅漬けのもとに1%添加したものをそれぞれ、実施例5、比較例5とした。そして、包丁で切った大根をそれぞれの溶液に漬けこんで、その着色状態を目視で確認したところ、明らかに実施例5の方が着色の速度が速く、大根組織への良好な浸透性を示した。
【0037】
[実施例6、比較例6:かまぼこの着色性評価]
実施例4、比較例4の各製剤を水にて1%に希釈したものをそれぞれ、実施例6、比較例6とした。そして、市販の白色のかまぼこを包丁で切って、それぞれの溶液に漬けこんで、その着色状態を目視で確認したところ、明らかに実施例6の方が着色の速度が速く、かまぼこへの良好な着色性を示した。
難水溶性物質を含む分散系の難水溶性物質含有製剤であって、該製剤を水で希釈倍率10~100000倍に希釈した水希釈液の平均分散粒子径が150nm以下であることを特徴とする難水溶性物質含有製剤。
ビタミンに代表される食事性栄養成分は水溶性と非水溶性の2成分に大別される。一方、飲料をはじめとする加工食品には多量の水分が含まれるため、ビタミンCなどの水溶性成分の配合は容易であるが、ビタミンE、コエンザイムQ10、クルクミン、アスタキサンチンなどの難水溶成分に関しては、そのままの状態で配合すると浮遊分離や沈殿発生が生じるため、乳化・分散等の製剤加工が必要となる。乳化・分散状態の安定性に関しては、ストークスの式として知られているように、その成分の粒子径の2乗に反比例するため、難水溶性物質の加工食品への安定配合のためには、より微小な粒子径を示す製剤の加工が求められる。さらにDesaiらは、牛血清アルブミンの乳化粒子を用いて微小な乳化粒子の効果的な細胞への取り込みを論じており(非特許文献1)、難水溶性物質に関しても同様な効果が期待される。
このような難水溶性物質の微細粒子化に関しては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、シュガーエステル、レシチンといった乳化剤に多価アルコールを組み合わせて、クルクミンやコエンザイムQ10といった難水溶性物質を微細化する技術が公開されているが、具体的に示されている粒子径は、加工食品への配合状態を反映していない原液の粒子径であったり、配合を考慮した希釈物の場合でも乳化系で100nm以上、分散系で200nm以上といずれも十分な微細化技術とは言えない(特許文献1~3)。
また、ポリグリセリン脂肪酸エステル、シュガーエステル、レシチンにモノグリセライドを組み合わせてコエンザイムQ10の乳化粒子を65.5nmまで微細化した技術(特許文献4)や、ガティガム等の増粘多糖類を用いてクルクミノイドを190nmまで微粒化した技術(特許文献5)が公開されているが、いずれも加工食品への配合が考慮されていないか、もしくは配合後の安定性が十分とは言えず、微粒化の技術としては不十分なものであった。
さらに、ポリソルベート類やポリエチレングリコール類、アルコール類といった両親媒性溶剤を用いて難水溶性物質を可溶化した製剤技術も公開されているが、いずれも可溶化製剤における粒子径に関してのみ言及されており、加工食品への配合が考慮されていないか、もしくは20%レベルの高濃度の製剤配合に関して調べられており現実的な配合とは言えない(特許文献6~8)。
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った結果、難水溶性物質を含む製剤が分散系の場合、その水希釈物の平均分散粒子径が150nm以下である難水溶性物質含有製剤、特には該製剤が10以上16以下のHLBを示す乳化剤を1種又は2種以上及び/又は連続相として水及び多価アルコールを含有することで、水を含む加工食品に対して難水溶性成分を効果的に配合しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の難水溶性物質含有製剤は、難水溶性物質を含む分散系の難水溶性物質含有製剤であって、該製剤を水で希釈倍率10~100000倍に希釈した水希釈液の平均分散粒子径が150nm以下であることを特徴とする難水溶性物質含有製剤であり、特には10以上16以下のHLBを示す乳化剤を1種又は2種以上及び/又は連続相として水及び多価アルコールを含有する難水溶性物質含有製剤にかかわるものであり、従来の難水溶性物質製剤化技術と比較して水を含む加工食品中での外観上の配合性や浸透性に優れており、水を含む加工食品分野において難水溶性物質を効果的に添加、配合しうることを特徴とする新規技術である。
本発明に用いられる難水溶性物質は、食品もしくは食品添加物として用いられるものであればその種類に特に限定はないが、例えば、クルクミノイド類が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。
本発明の難水溶性物質含有製剤における上記難水溶性物質の含有量は、該製剤全体に対して好ましくは0.05~40重量%、より好ましくは0.1~35重量%、さらに好ましくは0.2~30重量%である。配合量が0.05重量%未満であると配合の効果が十分ではなく、また40重量%を超える場合は製剤の粘度等が高くなり好ましくない。
また、本発明の難水溶性物質含有製剤の1つの態様は、難水溶性物質を含む分散系の難水溶性物質含有製剤であって、通常希釈されて使用されるものであり、該製剤を水で希釈倍率10~100000倍、好ましくは20~50000倍に希釈した水希釈液の平均分散粒子径を150nm以下とするものである。分散系の場合150nmを超えると加工食品への配合効果が低下し好ましくない。なお、平均分散粒子径はレーザー光散乱法により測定することができる。
本発明に用いられる乳化剤は、食品中に用いられるものであればいかような種類のものでも用いることができる。例えば、ポリグリセリンエステル類、モノグリセリンエステル類、シュガーエステル類、ソルビタンエステル類、レシチン類、増粘多糖類などが挙げられ、これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて添加することができ、その中でも10以上16以下のHLBを示す乳化剤が好ましい。HLBが10未満もしくは16を超える種類のものは十分な乳化・分散性を示さないことがあり好ましくない。
ここで、HLBは、界面活性剤の分野において使用される親水性―疎水性バランスを示すものであり、例えば下記の計算式(川上式)が使用できる。
HLB=7+11.7log(MW/MO)
ここで、MWは親水基の分子量、MOは疎水基の分子量である。また、カタログ等に記載されているHLBの数値を使用してもよい。
本発明に用いられる乳化剤の含有量は、製剤全体に対して好ましくは0.01~40重量%、より好ましくは0.1~35重量%、さらに好ましくは0.5~30重量%である。配合量が0.01重量%未満であると乳化・分散の効果が十分ではなく、また40重量%を超える場合は製剤の粘度等が高くなる、もしくは難水溶性物質の配合量が制限されてしまう等の不具合が生じ好ましくない。
本発明の難水溶性物質含有製剤において、その連続相は水相成分(水系溶媒)であり、好ましいのは水である。その際、界面張力を調整する目的及び乳化剤の溶解を補助する目的で、多価アルコールを水相成分に添加することが好ましい。
本発明に用いられる多価アルコール類は、食品中に用いられるものであればいかような種類のものでも用いることができ、例えば、プロピレングリコール、グリセリン、マルチトール、還元水あめ、ラクチトール、パラチニット、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール等が挙げられ、これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて添加することができる。その中でもグリセリンが組成物の流動性を確保するうえで最も好ましい。
本発明に用いられる多価アルコールの含有量は、製剤全体に対して好ましくは0.01~70重量%、より好ましくは0.05~65重量%、さらに好ましくは0.1~60重量%である。配合量が0.01重量%未満であると安定な製剤が得られない場合があり、また70重量%を超える場合は難水溶性物質の配合量が制限されてしまう等の不具合が生じ好ましくない。
本発明の難水溶性物質含有製剤には、本発明の効果を損なわない限り、公知の食品もしくは食品添加物原料を配合することができる。例えば、基剤成分として、油分、アルコール類、ワックス類、添加成分として防腐剤、香料、キレート剤、酸化防止剤、比重調整剤、粘度調整剤等を配合することができる。
本発明の難水溶性物質含有製剤の製造のために用いる機械類は特に限定されるものではなく、ミキサー、アジテーター、ディスパーサー、ホモミキサー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、コロイドミル、遊星型ミル、湿式OBミル等の機械を単独もしくは組み合わせて使用することができる。
本発明の難水溶性物質含有製剤の製造方法は必ずしも限定されるものではないが、好適な製造方法の1つとしては、まず難水溶性物質と本製剤のその他の配合成分を、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波等を用いて連続相中に乳化・分散させ(例えば、ホモミキサーを用いて4000~6000rpmにて30~60分の均一化処理を行う。)、さらに引き続いて30~70MPaの条件にて4~10回の繰り返し操作による高圧ホモジナイザー処理を施す方法が提示される。この方法を用いることにより、水で希釈した際に本発明で規定する平均粒子径の分散相を呈する難水溶性物質含有製剤を効率よく製造することができる。
本発明の難水溶性物質含有製剤の形態としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、通常の調製法では液状製剤の形態をとることが多いが、賦形剤を混合し、噴霧乾燥や凍結乾燥を行い粉体化して利用することもできる。
表1から明らかなように、前記製剤が分散系の場合、その水希釈物の平均粒子径が150nm以下である実施例1は、希釈水の透明度に対する影響が少なく、良好な配合性を示した。