(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109804
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】マイクロ波プラズマCVD装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/511 20060101AFI20240806BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240806BHJP
H01L 21/314 20060101ALI20240806BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C23C16/511
H01L21/205
H01L21/314 A
H05H1/46 B
H05H1/46 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024083824
(22)【出願日】2024-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】303034908
【氏名又は名称】村田 正義
(72)【発明者】
【氏名】村田正義
(57)【要約】 (修正有)
【課題】従来のマイクロ波高密度プラズマCVDによるダイヤモンド合成装置は、反応容器に定在波が発生し、プラズマの均一性は波長の略1/8以下であるため、4インチ級大面積基板への対応が困難である。従来の定在波重畳方式による装置は、2出力位相可変のマイクロ波電源の製造が困難でコストが高く、且つダイヤモンド形成に必須の高圧力条件への適用が困難である。これらを解決可能なマイクロ波プラズマCVD装置を提供する。
【解決手段】定在波重畳方式によるマイクロ波プラズマCVD装置であって、ダブルリッジ型導波管から成る反応室の両端部それぞれに設けられた第1及び第2のアンテナから第1及び第2のマイクロ波が時間的に交互に供給され、それぞれの進行波と反射により腹の位置が波長の1/4離れた第1の定在波及び第2の定在波を形成させる。略(1/2波長)x(1~2波長)の面積に均一なプラズマを形成することが可能である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
定在波重畳方式によるマイクロ波プラズマCVD装置であって、
基板が載置される第1のリッジ電極と前記第1のリッジ電極に対向して配置される第2のリッジ電極からなる一対のリッジ電極を有するダブルリッジ型導波管からなり、原料ガスを導入する原料ガス導入手段と排気手段と前記基板の温度を調整する基板温度調整手段を有する反応室と、前記反応室の長さ方向の一方の端部に連通して接続されるとともに、マイクロ波を反射する第1の反射壁を有する第1の側室と、前記反応室の長さ方向の他方の端部に連通して接続されるとともに、マイクロ波を反射する第2の反射壁を有する第2の側室と、を備える反応容器と、
第1のマイクロ波を一定の時間を隔てて周期的に発生する第1のマイクロ波電源と、前記第1のマイクロ波電源に接続され、前記第1のマイクロ波電源と負荷とのインピーダンス整合を調整する第1の整合器と、前記第1の整合器に接続され、内部導体と誘電体と外部導体からなる第1の同軸線路と、前記第1の側室に配置され、前記第1のマイクロ波を放射する前記第1の同軸線路に接続された第1のアンテナからなる第1の電源系と、
前記第1のマイクロ波と同じ周波数の第2のマイクロ波を一定の時間を隔てて周期的に発生する第2のマイクロ波電源と、前記第2のマイクロ波電源に接続され、前記第2のマイクロ波電源と負荷とのインピーダンス整合を調整する第2の整合器と、前記第2の整合器に接続され、内部導体と誘電体と外部導体からなる第2の同軸線路と、前記第2の側室に配置され、前記第2のマイクロ波を放射する前記第2の同軸線路に接続された第2のアンテナからなる第2の電源系と、
前記第1のマイクロ波電源が前記第1のマイクロ波を発生する第1の時間帯と前記第2のマイクロ波電源が前記第2のマイクロ波を発生する第2の時間帯を分離して時間的に交互になるように制御する電力供給タイミング制御装置と、を備えることを特徴とするマイクロ波プラズマCVD装置。
【請求項2】
前記第1のアンテナと前記第1の反射壁の間隔は、前記反応容器の内部を伝播する前記第1のマイクロ波の波長の1/4に設定され、
前記第2のアンテナと前記第2の反射壁の間隔は、前記反応容器の内部を伝播する前記第2のマイクロ波の波長の1/4に設定されるとともに、
前記第1の反射壁と前記第2の反射壁の間隔は、前記反応容器の内部を伝播する前記第1のマイクロ波の波長をλ、2以上の自然数をnとして、λ/4+nλ/2に設定されることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波プラズマCVD装置。
【請求項3】
前記第1の電源系は、前記第1の整合器と前記第1の同軸線路の間に第1の同軸導波管変換器を備え、前記第2の電源系は、前記第2の整合器と前記第2の同軸線路の間に第2の同軸導波管変換器を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマイクロ波プラズマCVD装置。
【請求項4】
前記第1の側室と前記第2の側室は、ダブルリッジ型導波管の構造を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一つに記載のマイクロ波プラズマCVD装置。
【請求項5】
前記第1の側室と前記第2の側室は、方形導波管の構造を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一つに記載のマイクロ波プラズマCVD装置。
【請求項6】
前記第1のリッジ電極は前記基板と接する基板接触領域を有し、前記基板接触領域がモリブデン(Mo)又はタンタル(Ta)で形成されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一つに記載のマイクロ波プラズマCVD装置。
【請求項7】
前記原料ガスは、少なくともメタンと水素を含み、前記基板の温度を700℃~1,000℃に設定し、前記基板の表面にダイヤモンドを合成することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一つに記載のマイクロ波プラズマCVD装置。
【請求項8】
前記原料ガスは、少なくともシランと水素を含み、前記基板の温度を100℃~500℃に設定し、前記基板の表面にシリコン系薄膜を形成することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一つに記載のマイクロ波プラズマCVD装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波プラズマCVD装置に関する。特に、ダブルリッジ型導波管の構造を有する反応室を用いた定在波重畳方式によるマイクロ波プラズマCVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ダイヤモンド半導体が注目されている。ダイヤモンド半導体は、例えば、非特許文献1及び非特許文献2に記載されているように、SiやSiC等の半導体より遙かに優れた特性を有することから、究極のパワー半導体材料として、その実用化が期待されている。そして、パワー半導体デバイスへの応用を図るために、4~5インチ級の基板への対応が可能な、大面積のダイヤモンド形成装置に関し、鋭意、研究開発が進められている。
パワー半導体材料としてのダイヤモンドを形成する方法としては、主として、マイクロ波プラズマCVD法が用いられている。また、次のことが知られている。即ち、マイクロ波プラズマCVD法において、基板にダイヤモンドを用いる場合には、ホモエピタキシャル成長によりダイヤモンドが形成され、不純物を容易に制御可能で、かつ歪みのない結晶を形成することができる。また、基板がダイヤモンド以外の場合、ヘテロエピタキシャル成長によりダイヤモンドが形成されるので、歪みの発生を伴い、かつ結晶性が低下することがある。
【0003】
マイクロ波プラズマCVD法は、基板の加熱と原料ガスの分解にマイクロ波を用いることを特徴とする。即ち、マイクロ波を用いて原料ガスであるメタン(CH4)と水素(H2)の混合ガスをプラズマ化することにより、該プラズマ中に生成される電子及びイオン等によってダイヤモンド膜の形成に不可欠の主要ラジカルであるCH3ラジカルと原子状水素H等を発生させるとともに、前記マイクロ波を用いて基板上でのプラズマ化学反応促進に必要な基板温度を、約700℃~約1,00℃に加熱する。基板上に形成されるダイヤモンドは、CH3ラジカルを主たる前駆体とし、基板に化学吸着して、基板上で原子状H等によって水素成分やグラファイト成分が排除されて、ダイヤモンド結晶が成長する。ダイヤモンド結晶の成長速度は、一般的に1~10μm/h程度であることが知られている。
【0004】
マイクロ波プラズマCVDによるダイヤモンド合成用装置に関する代表的特許技術として、アンテナ電極を用いたマイクロ波プラズマCVDによるダイヤモンド合成用装置、例えば、特許文献1ないし特許文献4に記載された装置が挙げられる。
特許文献1には、導電性材料で形成された真空室と、該真空室内側の上壁面に固定され、貫通孔を有し、導電性材料で形成された第1アンテナと、該第1アンテナに対向して配置され、基板を搭載可能なステージとを備え、前記貫通孔の一端が前記真空室の外部に接続され、前記貫通孔の他端が、前記第1アンテナの前記ステージに対向する面に位置し、プラズマ用の原料ガスが、前記貫通孔の前記一端から前記他端を通って前記第1アンテナおよび前記ステージの間隙に供給され、前記ステージの外側壁および前記真空室の内側壁の間に形成される第1の空間、または、前記第1アンテナの外側壁および前記真空室の内側壁の間に形成される第2の空間のいずれかを導波路として、マイクロ波が、前記原料ガスとは異なる経路で前記真空室の外部から供給され、前記第1アンテナおよび前記ステージの前記間隙にプラズマを発生させ、前記プラズマが、前記第1アンテナと前記ステージとの間隔が前記マイクロ波の自由空間波長の1/10以下、前記第1アンテナの外径が前記マイクロ波の自由空間の半波長以上である扁平なプラズマであり、前記貫通孔を介して、前記ステージに搭載された基板の表面を観察可能であることを特徴とするマイクロ波プラズマ処理装置、が開示されている。
特許文献2には、少なくとも、マイクロ波を導入するための開口部を持つ真空槽と、該開口部にマイクロ波を誘導するための導波管と、該真空槽内にマイクロ波を導入するための誘電体窓と、該真空槽内にマイクロ波を導入するための先端に電極部が形成されたアンテナ部と、該真空槽内に基材を支持するための基材支持台とを有し、該真空槽内面と電極部とで該誘電体窓を狭持したマイクロ波プラズマCVD装置であって、該誘電体窓が隠蔽されるように該電極部端面が誘電体窓端面よりも幅広く形成されており、且つ、該電極部の真空槽中心側の面の中央部に凹部が形成されており、該凹部の真空槽中心側の面における差し渡し幅は導入されるマイクロ波の1/3~5/3波長の範囲内で、真空槽中心側の面から凹部最深部までの深さは使用するマイクロ波の1/20~3/5波長の範囲内であることを特徴とするマイクロ波プラズマCVD装置、が開示されている。
【0005】
特許文献3には、ダイヤモンド基板の表面に単結晶ダイヤモンドの薄膜を形成するダイヤモンド合成用CVD装置であって、球状に形成された放電室と、この放電室の内部へマイクロ波を供給する同軸アンテナと、この同軸アンテナの先端に設けられた載置部材とを備え、この載置部材又はこの載置部材上に置かれた前記ダイヤモンド基板が、前記放電室の中心に位置し、前記載置部材から放射されたマイクロ波が前記放電室の内面で反射して前記放電室の中心部に戻るとともに、当該放電室の中心部で前記マイクロ波の振幅が最大になることを特徴とするダイヤモンド合成用CVD装置、が開示されている。
特許文献4には、 基板の表面にダイヤモンド膜を形成するダイヤモンド合成用CVD装置であって、扁平なドーム形状を有する上半球面と扁平なドーム形状を有する下半球面とで構成された放電室と、前記下半球面を貫通して前記放電室の中心軸線に沿って延在し、前記放電室の内部へマイクロ波を供給する同軸アンテナ部材と、前記放電室内で、前記同軸アンテナ部材の先端部に取り付けられ、前記放電室の最大直径面に沿って前記中心軸線と同心に拡がった円盤状の共振アンテナと、円形外周を有し、前記共振アンテナの上面の中央に前記中心軸線と同心に配置された、前記基板が載置される載置台と、を備えることを特徴とする、ダイヤモンド合成用CVD装置、が開示されている。
【0006】
他方、数kPa~10kPa級の高圧条件での応用が可能で、且つ大面積基板への応用が可能なダブルリッジ型電極を用いたプラズマCVD装置が、例えば、特許文献5に公開されている。
特許文献5には、互いに対向して配置され、間にプラズマ処理が施される基板が配置される放電用のリッジ部であるリッジ電極を有するリッジ導波管からなる放電室と、 高周波電力を前記放電室に供給する電源と、内部導体および外部導体からなり、前記電源から前記放電室へ前記高周波電力を導く同軸線路と、リッジ部を有するリッジ導波管からなり、前記放電室が延びる方向に隣接して配置され、前記同軸線路から前記放電室へ前記高周波電力を導く変換部と、が設けられ、前記リッジ部の一方は、前記内部導体と電気的に接続され、前記リッジ部の他方は、前記外部導体と電気的に接続されていることを特徴とする真空処理装置、が開示されている。
ダブルリッジ型電極を用いたプラズマCVD装置は、例えば、非特許文献3に記載されているように、該ダブルリッジ型電極のリッジ部の幅方向においてほぼ均一な分布の電界が発生し、該ダブルリッジ型電極の長さ方向においては、定在波の発生による不均一電界が発生するという、特徴があることが知られている。
【0007】
また、微結晶シリコン膜形成のためのVHFプラズマCVD装置の分野では、例えば、非特許文献4に記載されているように、腹の位置が異なる2つの定在波を時間的に分離して交互に発生させることにより、該定在波の影響を抑制するという定在波重畳方式によるプラズマCVD装置が知られている。
定在波重畳方式によるプラズマCVD装置では、第1電力と第2電力から成る2出力位相可変の電源を用い、一対の長尺型平行平板電極の互いに対向する2つの短辺に給電点を設け、該給電点から互いに対向して伝播する前記第1及び第2の電力を供給する。前記第1及び第2の電力の前記対向する2つの給電点における位相を同相とした同相状態にある第1の時間帯と該位相が逆相である逆相状態にある第2の時間帯に分け、時間的に交互に供給する。そうすると、一方の時間帯において定在波の電界強度分布が、xを前記一対の長尺型平行平板電極の中心からの電力伝播方向の距離、λを供給される電力の波長とすると、cos2(2πx/λ)になり、他方の時間帯において定在波の電界強度分布がsin2(2πx/λ)になる。即ち、定在波重畳方式を用いたプラズマCVD装置は、一対の平行平板電極で形成される電界の強度分布が、次式で示されるように、一定となる。
cos2(2πx/λ)+sin2(2πx/λ)=1 ・・・(1)
その結果、重畳された2つの定在波の時間的平均値は一定になり、大面積均一の製膜が可能となる。しかしながら、位相可変の電源あるいはコンピュータ制御の電源が必須であり、その応用は限定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許5071927
【特許文献2】特許5142074
【特許文献3】特許4649153
【特許文献4】特許7304280
【特許文献5】特許5199962
【0009】
【非特許文献1】有屋田修、ダイヤモンド合成用CVD装置、真空ジャーナル、2023年1月、24-26
【非特許文献2】山田英明、プラズマ CVD による単結晶ダイヤモンド合成の現状と課題、J. Plasma Fusion Res. Vol.90, No.2 (2014), 152-158
【非特許文献3】K. Ogiwara, Y. Takeuchi , K. Uchino and Y. Kawai, New large-area plasma source using double-ridge waveguide, Proceedings of 2017 International Symposium on Dry Process(2017), 115-116
【非特許文献4】H.Kaneko, A.Kodera, Y.Soejima, S.Tsuji, M.Murata, Production of VHF excited H2 Plasma by New Method of Superposing the Standing Waves, Plasma Processes and Polymers, 2009, 6, S269-S272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
マイクロ波プラズマCVD装置のダイヤモンド形成への応用分野では、4~5インチ級基板への対応が可能な、大面積のダイヤモンド形成装置が求められている。しかしながら、従来のマイクロ波プラズマCVD装置は、以下に説明するように、上記ニーズに対応できないという問題がある。
例えば、特許文献1及び特許文献2に記載の装置は、アンテナ電極と基板載置台に挟まれる領域をプラズマ生成室とし、該プラズマ生成室へマイクロ波電力を供給しプラズマを生成する。しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の装置では、前記プラズマ生成室へマイクロ波を供給するマイクロ波電力供給路に起因すると考えられる多大の電力損失が発生し、前記プラズマ生成室での高密度プラズマの生成が困難であるという、問題がある。
また、例えば、特許文献3に記載の装置は、球状に形成された放電室と該放電室の中心部に配置された同軸アンテナから該放電室にマイクロ波を放射し、該マイクロ波の空洞共振を発生させて高密度プラズマを形成することにより、ダイヤモンドを高速合成するという特徴を有する。しかしながら、マイクロ波の空洞共振方式であることから定在波発生によるプラズマの不均一化により4~5インチ級の大面積ダイヤモンド合成は困難であるという、問題がある。
また、例えば、特許文献4に記載の装置は、扁平なドーム形状を有する上半球面と扁平なドーム形状を有する下半球面に形成された放電室と該放電室の中心部に配置された同軸アンテナから該放電室にマイクロ波を放射し、該マイクロ波の空洞共振を発生させて高密度プラズマを形成することによりダイヤモンドを高速合成するという特徴を有する。しかしながら、マイクロ波の空洞共振方式であることから定在波発生によるプラズマの不均一化により4~5インチ級の大面積ダイヤモンド合成は困難であるという、問題がある。
また、例えば、特許文献5に記載の装置は、互いに対向して配置されるリッジ電極から成るリッジ導波管を放電室とし、該放電室の前記リッジ電極の長さ方向の一方の端部からマイクロ波を供給し、該マイクロ波と前記リッジ電極の長さ方向の他方の端部に設けられた位相調整器より反射する反射波を重畳させて定在波を形成する。この定在波は、前記リッジ電極の長さ方向の前記放電室の中心から前記長さ方向へ延びる距離をx、前記マイクロ波の波長をλとすると、cos2(2πx/λ)で表される。それ故、プラズマCVDへの応用において求められるプラズマの均一性を±10%とすると、プラズマが均一である範囲は、前記リッジ電極の長さ方向で見て、略λ/8に限定される。即ち、特許文献5に記載の装置は定在波の発生により、均一な製膜ができないという、問題がある。
また、例えば、非特許文献4に記載の定在波重畳方式によるプラズマCVD装置は、2出力位相可変の電源あるいはコンピュータ制御の電源が必須であり、マイクロ波プラズマCVDへの応用は困難視されている。
本発明は、上記従来装置が抱える問題を解決可能なダイヤモンド合成のためのマイクロ波プラズマCVD装置を提供することを目的とする。即ち、4~5インチ級の大面積基板を対象にして、高密度で、且つ均一なプラズマを生成可能なマイクロ波プラズマCVD装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、定在波重畳方式によるマイクロ波プラズマCVD装置であって、
基板が載置される第1のリッジ電極と前記第1のリッジ電極に対向して配置される第2のリッジ電極からなる一対のリッジ電極を有するダブルリッジ型導波管からなり、原料ガスを導入する原料ガス導入手段と排気手段と前記基板の温度を調整する基板温度調整手段を有する反応室と、前記反応室の長さ方向の一方の端部に連通して接続されるとともに、マイクロ波を反射する第1の反射壁を有する第1の側室と、前記反応室の長さ方向の他方の端部に連通して接続されるとともに、マイクロ波を反射する第2の反射壁を有する第2の側室と、を備える反応容器と、
第1のマイクロ波を一定の時間を隔てて周期的に発生する第1のマイクロ波電源と、前記第1のマイクロ波電源に接続され、前記第1のマイクロ波電源と負荷とのインピーダンス整合を調整する第1の整合器と、前記第1の整合器に接続され、内部導体と誘電体と外部導体からなる第1の同軸線路と、前記第1の側室に配置され、前記第1のマイクロ波を放射する前記第1の同軸線路に接続された第1のアンテナからなる第1の電源系と、
前記第1のマイクロ波と同じ周波数の第2のマイクロ波を一定の時間を隔てて周期的に発生する第2のマイクロ波電源と、前記第2のマイクロ波電源に接続され、前記第2のマイクロ波電源と負荷とのインピーダンス整合を調整する第2の整合器と、前記第2の整合器に接続され、内部導体と誘電体と外部導体からなる第2の同軸線路と、前記第2の側室に配置され、前記第2のマイクロ波を放射する前記第2の同軸線路に接続された第2のアンテナからなる第2の電源系と、
前記第1のマイクロ波電源が前記第1のマイクロ波を発生する第1の時間帯と前記第2のマイクロ波電源が前記第2のマイクロ波を発生する第2の時間帯を分離して時間的に交互になるように制御する電力供給タイミング制御装置と、を備えることを特徴とする。
第2の発明は、第1の発明において、前記第1のアンテナと前記第1の反射壁の間隔は、前記反応容器の内部を伝播する前記第1のマイクロ波の波長の1/4に設定され、
前記第2のアンテナと前記第2の反射壁の間隔は、前記反応容器の内部を伝播する前記第2のマイクロ波の波長の1/4に設定されるとともに、
前記第1の反射壁と前記第2の反射壁の間隔は、前記反応容器の内部を伝播する前記第1のマイクロ波の波長をλ、2以上の自然数をnとして、λ/4+nλ/2に設定されることを特徴とする。
第3の発明は、第1の発明又は第2の発明において、前記第1の電源系は、前記第1の整合器と前記第1の同軸線路の間に第1の同軸導波管変換器を備え、前記第2の電源系は、前記第2の整合器と前記第2の同軸線路の間に第2の同軸導波管変換器を備えたことを特徴とする。
第4の発明は、第1の発明から第3の発明のいずれか一つにおいて、前記第1の側室と前記第2の側室は、ダブルリッジ型導波管の構造を有することを特徴とする。
第5の発明は、第1の発明から第3の発明のいずれか一つにおいて、前記第1の側室と前記第2の側室は、方形導波管の構造を有することを特徴とする。
第6の発明は、第1の発明から第5の発明のいずれか一つにおいて、前記第1のリッジ電極は前記基板と接する基板接触領域を有し、前記基板接触領域がモリブデン(Mo)又はタンタル(Ta)で形成されることを特徴とする。
第7の発明は、第1の発明から第6の発明のいずれか一つにおいて、前記原料ガスは、少なくともメタンと水素を含み、前記基板の温度を700℃~1,000℃に設定し、前記基板の表面にダイヤモンドを合成することを特徴とする。
第8の発明は、第1の発明から第6の発明のいずれか一つにおいて、前記原料ガスは、少なくともシランと水素を含み、前記基板の温度を100℃~500℃に設定し、前記基板の表面にシリコン系薄膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマイクロ波プラズマCVD装置によれば、上記従来装置が抱える問題を解決可能なという効果を奏する。
即ち、本発明のマイクロ波プラズマCVD装置によれば、ダブルリッジ型導波管の構造を備える反応室に、電力供給タミング制御装置で制御された第1の時間帯に、第1のマイクロ波電源と第1の整合器と第1の同軸線路と第1のアンテナを用いて第1のマイクロ波を供給してその進行波と該進行波の第2の反射壁からの反射波により第1の定在波を発生さ、該定在波の位相を前記第1の整合器により調整するとともに、前記電力供給タミング制御装置で制御された前記第1の時間帯と異なる第2の時間帯に、第2のマイクロ波電源と第2の整合器と第2の同軸線路と第2のアンテナを用いて第2のマイクロ波を供給してその進行波と該進行波の第1の反射壁からの反射波により第2の定在波を発生さ、前記第2の整合器により前記第1の定在波の腹と前記第2の定在波の腹の間隔を波長の1/4に調整することにより、前記反応容器内部の電界の強さの分布を均一化することが可能となり、マイクロ波プラズマCVDによる大面積均一の製膜が可能という効果を奏する。
本発明のマイクロ波プラズマCVD装置のダイヤモンド合成及び微結晶シリコン等への応用分野での経済的効果は著しく大きいものがある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成を示す模式的外観図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成を示す模式的断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の反応室、第1の側室及び第2の側室を構成するダブルリッジ導波管を示す模式図である。
【
図4】
図4は、ダブルリッジ導波管のリッジ部に発生する電界分布を示す模式図である。(a)リッジ電極の幅方向の電気力線図、(b)リッジ電極の幅方向の電界分布のグラフである。
【
図5】
図5は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の反応室の構成を示す模式的断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の第1のマイクロ波の発生時間帯と第2のマイクロ波の発生時間帯を示すタイムチャートである。
【
図7】
図7は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の第1の側室の構成を示す模式的断面斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の反応容器に発生する第1の定在波を示す模式図である。
【
図9】
図9は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の反応容器に発生する第2の定在波を示す模式図である。
【
図10】
図10は、マイクロ波プラズマCVD装置によるダイヤモンド合成の原理を示す概念図である。
【
図11】
図11は、本発明の第2の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成部材である反応容器の模式的外観図である。ただし、原料ガス導入手段9、基板温度調整手段10、基板搬入搬出通路16a及び観測窓17は、図示されていない。
【
図12】
図12は、本発明の第2の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成部材である反応容器を示す模式的断面斜視図である。(a)第3の側室、(b)反応室、(c)第4の側室である。
【
図13】
図13は、本発明の第2の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。各図において、同様の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。また、以下に示す図面は、説明の便宜上、各部材の縮尺が、実際と異なる場合がある。また、各図面間においても、縮尺が、実際と異なる場合がある。
【0015】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成について、
図1~
図9を参照して、説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成を示す模式的外観図である。
図2は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成を示す模式的断面図である。
図3は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の反応室、第1の側室及び第2の側室を構成するダブルリッジ導波管を示す模式図である。
図4は、ダブルリッジ導波管のリッジ部に発生する電界分布を示す模式図である。(a)リッジ電極の幅方向の電気力線図、(b)リッジ電極の幅方向の電界分布のグラフである。
図5は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の反応室の構成を示す模式的断面図である。
図6は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の第1のマイクロ波の発生時間帯と第2のマイクロ波の発生時間帯を示すタイムチャートである。
図7は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の第1の側室の構成を示す模式的断面斜視図である。
図8は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の反応容器に発生する第1の定在波を示す模式図である。
図9は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の反応容器に発生する第2の定在波を示す模式図である。
【0016】
本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置は、
図1~
図7に示されるように、
基板11が載置される第1のリッジ電極12aと前記第1のリッジ電極12aに対向して配置される第2のリッジ電極12bからなる一対のリッジ電極を有するダブルリッジ型導波管からなり、原料ガスを導入する原料ガス導入手段9と排気手段15a、15bと前記基板11の温度を調整する基板温度調整手段10を有する反応室1aと、
前記反応室1aの長さ方向の一方の端部に連通して接続されるとともに、マイクロ波を反射する第1の反射壁7acを有する第1の側室7aと、前記反応室の長さ方向の他方の端部に連通して接続されるとともに、マイクロ波を反射する第2の反射壁7bcを有する第2の側室7bと、を備える反応容器1と、
第1のマイクロ波を一定の時間を隔てて周期的に発生する第1のマイクロ波電源2aと、前記第1のマイクロ波電源2aに接続され、前記第1のマイクロ波電源2aと負荷とのインピーダンス整合を調整する第1の整合器3aと、前記第1の整合器3aに接続され、内部導体と誘電体と外部導体からなる第1の同軸線路5aと、前記第1の側室7aに配置され、前記第1のマイクロ波を放射する前記第1の同軸線路5aに接続された第1のアンテナ6aからなる第1の電源系と、
前記第1のマイクロ波と同じ周波数の第2のマイクロ波を一定の時間を隔てて周期的に発生する第2のマイクロ波電源2bと、前記第2のマイクロ波電源2bに接続され、前記第2のマイクロ波電源2bと負荷とのインピーダンス整合を調整する第2の整合器3bと、前記第2の整合器3bに接続され、内部導体と誘電体と外部導体からなる第2の同軸線路5bと、前記第2の側室7bに配置され、前記第2のマイクロ波を放射する前記第2の同軸線路5bに接続された第2のアンテナか6bらなる第2の電源系と、
前記第1のマイクロ波電源2aが前記第1のマイクロ波を発生する第1の時間帯と前記第2のマイクロ波電源2bが前記第2のマイクロ波を発生する第2の時間帯を分離して時間的に交互になるように制御する電力供給タイミング制御装置4と、を備えている。
前記第1のアンテナ6aと前記第1の反射壁7acの間隔は、前記反応容器内部を伝播する前記第1のマイクロ波の波長の1/4に設定され、前記第2のアンテナ6bと前記第2の反射壁bcの間隔は、前記反応容器内部を伝播する前記第2のマイクロ波の波長の1/4に設定されるとともに、前記第1の反射壁7acと前記第2の反射壁7bcの間隔は、前記反応容器内部を伝播する第1のマイクロ波の波長をλ、2以上の自然数をnと表す時、λ/4+nλ/2に設定される。
ただし、前記反応容器内部を伝播する第1のマイクロ波の波長λとは、真空中の波長ではなく、反応容器1の内部を伝播する第1のマイクロ波の波長で、且つプラズマ発生による波長短縮現象の影響を受けた波長である。また、第2のマイクロ波の波長λとは、真空中の波長ではなく、反応容器1の内部を伝播する第2のマイクロ波の波長で、且つプラズマ発生による波長短縮現象の影響を受けた波長である。
第1の側室7aと反応室1aと第2の側室7bはこの順に連通して接続され、反応容器1を形成する。反応容器1の長さは、前記第1の反射壁7acと前記第2の反射壁7bcの間隔であり、空洞共振器を形成する。
本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置は、前記第1のアンテナ6aから放射された前記第1のマイクロ波の進行波と、前記第2の側室7bの第2の反射壁7bcで反射する前記第1のマイクロ波の反射波とにより第1の定在波を発生させ、
前記第2のアンテナ6bから放射された前記第2のマイクロ波の進行波と、前記第1の側室7aの第1の反射壁7acで反射する前記第2のマイクロ波の反射波とにより第2の定在波を発生させるとともに、
前記第1の定在波の腹と前記第2の定在波の腹の間隔が、前記第1のマイクロ波の波長の1/4になるように、前記第1の定在波の位相を前記第1の整合器3aにより調整し、且つ前記第2の定在波の位相を前記第2の整合器3bにより調整して、前記反応容器の中央領域に均一なプラズマを生成することを特徴とする。
【0017】
反応容器1は、
図3に示されるダブルリッジ導波管13の構造を有する。反応容器1は、
図1及び
図2に示されるように、後述の反応室1aと、第1の側室7aと、第2の側室7bを備える。第1の側室7aと反応室1aと第2の側室7bは、この順に連通して接続される。
ダブルリッジ導波管13は、
図3に示されるように、長辺aと短辺bからなる方形導波管の長辺aに幅c及び高さhの第1のリッジ12aと第2のリッジ12bが設けられた構造を有する。
ここで、第1のリッジ12aを第1のリッジ電極、第2のリッジ12bを第2のリッジ電極と呼ぶ。第1のリッジ電極12aと第2のリッジ電極12bの間隔を、リッジ電極の間隔dと呼ぶ。
また、説明の便宜上、
図3に示されるように、ダブルリッジ導波管13の長さ方向をx軸、長辺aの方向(第1及び第2のリッジ電極12a、12bの幅方向)をy軸、短辺b(第1及び第2のリッジ電極12a、12bの高さ)の方向をz軸、とする座標系を設ける。
第1のリッジ電極12aと第2のリッジ電極12bの間にマイクロ波電圧が印加された場合に発生する電界分布は、
図4(a)、(b)に示されるように、リッジ部の幅方向(y方向)の電界分布は一様になる特性があることが、知られている。なお、
図4(a)は電気力線を示す模式図、
図4(b)は電界分布を示す模式図である。
ダブルリッジ導波管13は、例えば、非特許文献3に記載されているように、リッジ部の幅方向(y方向)の電界分布が一様になる、という特性を有する。
【0018】
反応室1aは、
図2及び
図5に示されるように、基板11が載置される第1のリッジ電極12aと、該リッジ電極12aに対向して配置される第2のリッジ電極12bからなる一対のリッジ電極と、前記第1のリッジ電極12aに密接して設けられた基板温度調整手段10と、前記第2のリッジ電極12bに密接して設けられた原料ガス導入手段9と、図示しない真空ポンプに連通した排気口15a、15bと、観測窓17と、基板搬入搬出通路16aと、を備える。
反応室1aの材料は、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金あるいはSUSが用いられる。また、反応室1aは、該反応室1aの温度が高温化しないように、図示しない冷却管が敷設される。
反応室1aは、
図2及び
図5に示される第1のリッジ電極12aと第2のリッジ電極12bを一対の電極とし、該一対の電極の間に後述の第1のマイクロ波と後述の第2のマイクロ波を印加することによりプラズマが生成される。
反応室1aの寸法は、後述の第1のマイクロ波電源2aが発生する第1のマイクロ波の波長λを考慮して次のように決められる。即ち、
図3図示のリッジ幅cを第1のマイクロ波の波長の略1/2とし、長辺aと短辺bは任意に選ぶことができる。
ここでは、後述するように、第1のマイクロ波電源の周波数を、例えば、950MHz(波長=314mm)とするので、例えば、a=248mm、b=124mm、c=150mm、d=3~10mmとする。また、反応室1aの長さ(x方向の長さ)、即ち第1の反射壁7acと第2の反射壁7bcの間隔は波長を考慮して決められ、後述するように、前記第1のマイクロ波の波長λとするとき、nλ/2+λ/4に設定される。ただし、nは2以上の自然数である。
ここでは、n=4とする。例えば、反応室1aの長さ(x方向の長さ)は、周波数950MHz(波長=314mm)を用いることから、L=707mmである。
基板11を載置する基板接触領域12aaを第1のリッジ電極12aに設ける。基板11は、第1のリッジ電極12aに設けられた基板接触領域12aaに載置される。
基板接触領域12aaは、ダイヤモンド合成への応用を可能とするため、高融点金属であるモリブデン(Mo)又はタンタル(Ta)で形成される。なお、第1のリッジ電極12a全体をモリブデン(Mo)又はタンタル(Ta)で形成してもよい。また、反応室1aの全体をモリブデン(Mo)又はタンタル(Ta)で形成してもよい。これにより、基板11の設定温度700~1,000℃において、基板接触領域12aaの機械的強度が確保され、変形が抑制される。さらに、第1のリッジ電極12aの大気側に位置する面に熱変形抑制のための補強部材を設けてもよい。
基板11の温度は、基板接触領域12aaに密接して設けられる後述の基板温度調整手段10により制御される。なお、基板11の温度は、後述の観測窓17から図示しない放射温度計により測定される。
基板温度調整手段10は、第1のリッジ電極12aの基板接触領域12aaに密接して設けられる。基板温度調整手段10は図示しないヒータと図示しない冷媒循環手段を備え、第1のリッジ電極12a(基板接触領域12aa)と連携して基板11の温度を、100℃~1,100℃の範囲において任意の温度に制御することができる。
【0019】
原料ガスは、第2のリッジ電極12bに密接して設けられた原料ガス導入手段9から供給される。
原料ガス導入手段9は、
図2及び
図5に示されるように、原料ガス導入管9aとガス分散空洞9bとガス噴出孔9cで構成される。なお、原料ガス導入管9aは図示しない原料ガス供給源に接続されている。
ガス噴出孔9cは、密接した第2のリッジ電極12bを貫通し、第1のリッジ電極12aと第2のリッジ電極12bの間に原料ガスを噴出する。原料ガス導入手段9と第2のリッジ電極12bの間は真空漏れがないように、一体型の構造で形成される。第2のリッジ電極12bと原料ガス導入手段9を分離して製作し、高温用真空ガスケットを介して組み立て合体してもよい。
原料ガス噴出孔9cは、直径0.1~1.0mmの多数の孔で形成され、該原料ガス噴出孔13cから噴出される原料ガスが、反応室1の内部に一様に分散する。
排気手段は、排気口15a、15bと図示しない真空ポンプと図示しない圧力制御装置を備えている。排気口15a、15bは、図示しない真空ポンプと組み合わせて稼働させることにより、反応容器1の内部を所定の圧力に調整し、該圧力を所定の値に保持することが可能である。また、反応容器1の内部を高真空度に真空引きすることが可能である。排気口15a、15bの設置位置は、反応容器1の底面に限定されず、例えば、天面あるいは側面に配置してもよい。また、反応容器1内部を伝播するマイクロ波への影響を抑制するために、小径の穴を多数配置して排気してもよい。
基板搬入搬出通路16aは、反応室1aの側面に配置される。基板搬入搬出通路口16aは、基板搬入搬出バルブ16を介して、基板11の搬入搬出に用いられる。なお、基板搬入搬出バルブ16は、例えば、図示しないロードロック室に接続されている。
観測窓17は、反応室1aの側面に配置される。観測窓17から、反応室1aの内部の状態を観察可能で、且つ図示しない放射温度計と連携して基板11の表面温度を測定可能である。
【0020】
マイクロ波の発生に係わる電気系の装置は、以下に説明するように、第1のマイクロ波を発生し供給する第1電源系統と、第2のマイクロ波を発生し供給する第2電源系統と、電力供給タイミング制御装置4からと構成される。
第1電源系統は、
図2に示されるように、第1のマイクロ波を一定の時間を隔てて周期的に発生する第1のマイクロ波電源2aと、前記第1のマイクロ波電源2aと負荷とのインピーダンス整合を調整する第1の整合器3aと、前記第1の整合器3aに接続された内部導体と誘電体と外部導体からなる第1の同軸線路5aと、を備える。
第1のマイクロ波電源2aは、周波数300MHz~3GHzの範囲のマイクロ波を発生するマグネトロン型又はソリッドステート型のマイクロ波電源である。ここでは、周波数を、例えば、950MHz(波長=314mm)とし、パルス変調方式のソリッドステート型のマイクロ波電源を用いる。ソリッドステート型はマグネトロン型に比べて、周波数が安定しているという特徴がある。
第1のマイクロ波電源2aは、
図6にV1で示されるように、周期T0、パルス幅Twの形態のパルス変調された第1のマイクロ波を発生し、第1の整合器3aに送電する。
ここでは、例えば、周期T0を1m秒とする。パルス変調された第1のマイクロ波のパルス幅Twと周期T0との比、即ちデユーテイ比は、49%以下とし、例えば、48%とする。デユーテイ比を49%以下にする理由は、第1のマイクロ波と第2のマイクロ波を時間的に分離させるためである。なお、第1のマイクロ波で発生するプラズマが残存している状態で、第2のマイクロ波を供給すると、両者が干渉し、プラズマの形態が乱れ、該プラズマの制御が困難となる。
第1のマイクロ波は、後述の電力供給タミング制御装置4により後述の第2のマイクロ波と時間的に分離して発生される。即ち、第1のマイクロ波と第2のマイクロ波は独立した関係にあり、互いに干渉しない。
第1の整合器3aは、第1のマイクロ波電源2aと負荷とのインピーダンス整合をとり、後述の第1の定在波の位相の調整に用いられる。第1の整合器3aは、第1のマイクロ波電源2aから供給された第1のマイクロ波を後述の第1の同軸線路5aに送電する。
第1の同軸線路5aは、内部導体と誘電体と外部導体から構成される。第1の同軸線路5aは、一方の端部が第1の整合器3aの出力端子に接続され、他方の端部の内部導体と外部導体がそれぞれ、後述の第1の側室7aの第1のリッジ部7aa及び第2のリッジ部7abに接続される。
なお、第1の同軸線路5aの端部のむき出しにされた内部導体は、後述するように、第1のアンテナ6aとなる。
【0021】
第2の電源系統は、
図2に示されるように、第1のマイクロ波電源2aと同じ周波数の第2のマイクロ波を一定の時間を隔てて周期的に発生する第2のマイクロ波電源2bと、前記第2のマイクロ波電源2bと負荷とのインピーダンス整合を調整する第2の整合器3bと、前記第2の整合器3bに接続された内部導体と誘電体と外部導体からなる第2の同軸線路5bと、を備える。
第2のマイクロ波電源2bは、第1のマイクロ波電源2aと同じ周波数の第2のマイクロ波を発生するマグネトロン型又はソリッドステート型のマイクロ波電源である。ここでは、パルス変調方式のソリッドステート型のマイクロ波電源を用いる。
第2のマイクロ波電源2bは、
図6にV2で示されるように、周期T0、パルス幅Twの形態を有するパルス変調された第2のマイクロ波を発生し、第2の整合器3bに送電する。
ここでは、例えば、周期T0を1m秒とする。パルス幅Twと周期T0との比、即ちデユーテイ比は40%~49%の範囲から、例えば、48%とする。デユーテイ比を48%に設定することにより、第1のマイクロ波及び第2のマイクロ波は独立した関係にあり、互いに干渉しない。なお、第1のマイクロ波で発生するプラズマが残存している状態で、第2のマイクロ波を供給すると、両者が干渉し、プラズマの形態が乱れ、該プラズマの制御が困難となる。
第2のマイクロ波は、後述の電力供給タミング制御装置4により第1のマイクロ波と時間的に分離して発生される。即ち、第1のマイクロ波と第2のマイクロ波は独立した関係にあり、互いに干渉しない。
第2の整合器3bは、第2のマイクロ波電源2bと負荷とのインピーダンス整合をとり、供述の第2の定在波の位相の調整に用いられる。第2の整合器3bは、第2のマイクロ波電源2bから供給された第2のマイクロ波を第2の同軸線路5bに供給する。
第2の同軸線路5bは、内部導体と誘電体と外部導体から構成される。第2の同軸線路5bは、一方の端部が第2の整合器3bの出力端子に接続され、他方の端部の内部導体と外部導体がそれぞれ、後述の第2の側室7bの第1のリッジ部7ba及び第2のリッジ部7bbに接続される。
なお、第2の同軸線路5bの端部のむき出しにされた内部導体は、後述するように、第2のアンテナ6bとなる。
【0022】
電力供給タイミング制御装置4は、第1のマイクロ波電源2aが第1のマイクロ波を発生する第1の時間帯と第2のマイクロ波電源2bが第2のマイクロ波を発生する第2の時間帯を時間的に分離して交互になるように制御する。
例えば、
図6に示されるように、パルス変調された第1のマイクロ波V1とパルス変調された第2のマイクロ波V2を、時間的に、例えば、時間Tdだけ分離して交互に発生させる。
【0023】
第1の側室7aは、反応室1aと同様にダブルリッジ導波管13の構造を有し、
図2及び
図7に示されるように、反応室1aの長さ方向(x方向)の一方の端部に連通して配置される。第1の側室7aは、第1の同軸線路5aから送電された第1のマイクロ波を反応室1aに供給する。
第1の側室7aは、マイクロ波送電の形態を同軸線路型から導波管型へ変換して反応室1aに供給する。即ち、前記第1の同軸線路5aの端部のむき出しにされた内部導体は、アンテナと同様に、マイクロ波を放射する。ここで、第1の同軸線路5aの端部のむき出しにされた内部導体を第1のアンテナ6aと呼ぶ。
第1の側室7aは、第1のリッジ電極12aと接続部7aacを介して接続された第1の側室7aの第1のリッジ部7aaと、第2のリッジ電極12bと接続部7abcを介して接続された第1の側室7aの第2のリッジ部7abと、第1の反射壁7acを備えている。第1の反射壁7acは、z-y面に平行に配置され、マイクロ波を反射する。なお、一般的に、金属の壁は垂直入射の電磁波を略90%以上を反射することが知られている。
第1のリッジ部7aaと第2のリッジ部7abの間隔d1は、反応室1aの第1のリッジ電極12aと第2のリッジ電極12bの間隔dに比べて広く設定される。なお、d1をdに比べて大きく設定する理由は、第1の側室7a内部でのプラズマの発生を抑制するためである。
第1の側室7aの寸法は、第1及び第2のマイクロ波電源2a、2bが発生する第1及び第2のマイクロ波の波長λを考慮して次のように決められる。即ち、
図3図示のリッジ幅cを第1のマイクロ波の波長λの略1/2とし、長辺aと短辺bは任意に選ぶことができる。
ここでは、第1のマイクロ波電源の周波数を、例えば、950MHz(波長=314mm)とするので、例えば、a=248mm、b=124mm、c=150mm、d1=54mmとする。
また、第1の側室7aのx方向の長さは、後述されるように、反応室1aに第1のマイクロ波の定在波及び第2のマイクロ波の定在波を効果的に発生させる条件を満たすために、前記マイクロ波の1/2波長の自然数倍、例えば、1/2波長に設定する。
ここでは、第1及び第2のマイクロ波電源の周波数を、例えば、950MHz(波長=314mm)とするので、第1の側室7aのx方向の長さは、例えば、157mmとする。
【0024】
第1のアンテナ6aと第1の側室7aの第1の反射壁7acの距離は、第1のマイクロ波の波長の略1/4に設定する。なお、該距離が第1のマイクロ波の波長の略1/4に設定された場合、第1のアンテナ6aのマイクロ波放射能力が発揮される。
第1のアンテナ6aのy軸方向の位置は、リッジ幅cの中央点とする。
第1のアンテナ6aと後述の第2の反射壁7bcの距離L1は、反応室1aに第1のマイクロ波の定在波を効果的に発生させる条件である次式(2)を満たすように設定される。
L1=nλ/2 ・・・(2)
ただし、n:2以上の自然数、λ:第1のマイクロ波の波長である。なお、第1のマイクロ波の波長λとは、真空中の波長ではなく、反応容器1の内部を伝播する第1のマイクロ波の波長で、且つプラズマ発生による波長短縮現象の影響を受けた波長である。
ここでは、n=4を選ぶ。この場合、反応容器1の内部に次式で示される第1の定在波I1(x)が発生する。
I1(x)∝ cos
2(2πx/λ+θ) ・・・(3)
ただし、θは位相である。
第1の定在波I1(x)を、模式的に、
図8に示す。式(3)の位相は、第1の整合器3aの調整により適正に設定される。
図8において、第1のアンテナ6aから第1のマイクロ波が放射されると、進行波Wf1がx方向へ伝播し、第2の側室7bの第2の反射壁7bcで反射した反射波Wr1は-x方向へ伝播する。進行波Wf1と反射波Wr1は、干渉して上記第1の定在波I1(x)を形成する。
第1の定在波I1(x)の発生状況は、観測窓17から観測できる。また、カーボン系薄膜又はシリコン系薄膜を形成し、膜の厚み分布を測定し評価することにより確認できる。
【0025】
第2の側室7bは、反応室1aと同様にダブルリッジ導波管13の構造を有し、
図2に示されるように、反応室1aの長さ方向(x方向)の他方の端部に連通して配置される。第2の側室7bは、第2の同軸線路5bから送電された第2のマイクロ波を反応室1aに供給する。
第2の側室7bは、マイクロ波送電の形態を同軸線路型から導波管型へ変換して反応室1aに供給する。即ち、前記第2の同軸線路5bの端部のむき出しにされた内部導体は、アンテナと同様に、マイクロ波を放射する。ここで、第2の同軸線路5bの端部のむき出しにされた内部導体を第2のアンテナ6bと呼ぶ。
第2の側室7bは、第1のリッジ電極12aと接続部7bacを介して接続された第2の側室7bの第1のリッジ部7baと、第2のリッジ電極12bと接続部7bbcを介して接続された第2の側室7bの第2のリッジ部7bbと、第2の反射壁7bcを備えている。第2の反射壁7bcは、z-y面に平行に配置され、マイクロ波を反射する。なお、一般的に、金属の壁は垂直入射の電磁波を略90%以上を反射することが知られている。
第1のリッジ部7baと第2のリッジ部7bbの間隔d2は、反応室1aの第1のリッジ電極12aと第2のリッジ電極12aの間隔dに比べて広く設定される。なお、d2をdに比べて大きく設定する理由は、第2の側室7b内部でのプラズマ発生を抑制するためである。
第2の側室7bの寸法は、第1及び第2のマイクロ波電源2a、2bが発生する第1及び第2のマイクロ波の波長λを考慮して次のように決められる。即ち、
図3図示のリッジ幅cを第1のマイクロ波の波長λの略1/2とし、長辺aと短辺bは任意に選ぶことができる。
ここでは、第1のマイクロ波電源の周波数を、例えば、950MHz(波長=314mm)とするので、例えば、a=248mm、b=124mm、c=150mm、d2=54mmとする。
また、第2の側室7bのx方向の長さは、後述されるように、反応室1に第1のマイクロ波の定在波及び第2のマイクロ波の定在波を効果的に発生させる条件を満たすために、前記マイクロ波の1/2波長の自然数倍、例えば、1/2波長に設定する。
ここでは、第1及び第2のマイクロ波電源の周波数を、例えば、950MHz(波長=314mm)とするので、第2の側室7bのx方向の長さは、例えば、157mmとする。
【0026】
第2のアンテナ6bと第2の側室7bの第2の反射壁7bcの距離は、第2のマイクロ波の波長の略1/4に設定する。なお、該距離が第2のマイクロ波の波長の略1/4に設定された場合、第2のアンテナ6bのマイクロ波放射能力が発揮される。
第2のアンテナ6bのy軸方向の位置は、リッジ幅cの中央点とする。
第2のアンテナ6bと第1の反射壁7acの距離L2は、反応室1aに第2のマイクロ波の定在波を効果的に発生させる条件である次式(4)を満たすように設定される。
L2=nλ/2 ・・・(4)
ただし、n:2以上の自然数、λ:第2のマイクロ波の波長である。なお、第2のマイクロ波の波長λとは、真空中の波長ではなく、反応容器1の内部を伝播する第1のマイクロ波の波長で、且つプラズマ発生による波長短縮現象の影響を受けた波長である。
ここでは、n=4を選ぶ。この場合、反応室1の内部に次式で示される第2の定在波I2(x)が発生する。
I2(x)∝ sin
2(2πx/λ+θ) ・・・(5)
ただし、θは位相である。
第2の定在波I2(x)を、模式的に、
図9に示す。式(3)の位相は、第2の整合器3bの調整により適正に設定される。
図9において、第2のアンテナ6bから第2のマイクロ波が放射されると、進行波Wf2がーx方向へ伝播し、第1の側室7aの第1の反射壁7acで反射した反射波Wr2はx方向へ伝播する。進行波Wf2と反射波Wr2は、干渉して上記第2の定在波I2(x)を形成する。
第2の定在波I2(x)の発生状況は、観測窓17から観測できる。また、カーボン系薄膜又はシリコン系薄膜を形成し、膜の厚み分布を測定し評価することにより確認できる。
【0027】
上記式(3)で表される第1の定在波I1(x)と、上記式(5)で表される第2の定在波I2(x)が、電力供給タイミング制御装置4により、時間的に交互に発生されると、次式で表されるように、応容器1内部のx方向において一様なプラズマを形成される。
即ち、反応容器1内部に発生するプラズマP(x)は、次式(6)で表されるように、反応容器1内部のx方向において一様になる。
P(x)∝ cos2(2πx/λ+θ)+sin2(2πx/λ+θ)
=1 ・・・(6)
なお、ダブルリッジ電極の特性により、y方向に第1のマイクロ波の波長の1/2の距離に亘って一様であるプラズマが発生する。
本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置は、反応容器1の中央領域に、面積が(y方向に第1のマイクロ波の波長の1/2の距離)x(反応容器1のx方向に第1のマイクロ波の波長の1~2倍の距離)において一様なプラズマを発生することが可能である。
【0028】
次に、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の操作手順について、
図1~
図10を参照して説明する。ここでは、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置をダイヤモンド合成に応用することを例にとり、以下説明する。
図10は、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置をダイヤモンド合成に応用する際の原料ガス(メタンCH
4と水素H
2の混合ガス)のプラズマ化によるダイヤモンド形成を示す原理的模式図である。
反応室1aの第1のリッジ電極12aと第2のリッジ電極12bの間隔dは、反応室1a内部にプラズマを生成するに際し、重要なパラメータである。即ち、プラズマ生成における最適な電界(第1及び第2のマイクロ波電力)は、反応室1a内部の圧力pと前記間隔dとの積pdで表せられるパッシェンの法則でのpd曲線に従うことから、予め圧力pと前記間隔dに関するデータを取得し、そのデータに基づいて定められる。ここでは、前記間隔dは、例えば、3mm~10mmの範囲とし、例えば、5mmとする。
先ず、図示しない真空ポンプにより、排気口15a、15bを介して反応容器1の内部を所定の真空度にする。
次に、基板搬入搬出通路口16aから、基板搬入搬出バルブ16を介して、基板11を搬入し、第1のリッジ電極12aに設けられた基板接触領域12aaに載置する。 基板11は、例えば、直径5インチのイリジウム結晶膜が被覆された単結晶Siウエハーとする。なお、基板11は単結晶Siウエハーに限定されない、例えば、プラズマCVD装置で形成されたダイヤモンド基板又は高温高圧法で製作された小さいサイズの複数個のダイヤモンド基板を載置してもよい。
基板搬入搬出バルブ16の上流側は、図示しないロードロック室に接続され真空条件が満たされている。
次に、基板11の表面を水素プラズマでクリーニングし、基板の温度を、例えば、1,000℃に設定する。
即ち、図示しない原料ガスの供給源から原料ガスとして水素ガスのみを導入し、反応容器1内部の圧力を例えば、例えば、2kPaに設定する。基板11の温度を、例えば、1,000℃に設定する。
そして、第1のマイクロ波電源2a、第1の整合器3a、第1の同軸線路5a及び第1のアンテナ6aからなる第1の電源系を用いて、反応容器1内部に第1の定在波I1(x)を発生させる。第1のマイクロ波電源2aの出力は、例えば、400W~1kWの範囲から、例えば、500Wを設定する。観測窓17から第1のリッジ電極12aと第2のリッジ電極12bの間を覗くと、次式(3)で表されるプラズマの強さを持つプラズマ発光が見える。
I1(x)∝ cos
2(2πx/λ+θ) ・・・(3)
ただし、θは位相である。
式(3)で表されるプラズマ発光の最大箇所が反応室1aの中央近傍に現れるように、第1の整合器3aを調整する。
ここで、プラズマ発光の最大の箇所が第1の定在波I1(x)の腹で、最小の箇所が節であるので、該第1の定在波I1(x)の腹と節の位置情報として、観測窓17から観測される該観測窓17の視野の中で、腹の位置と節の位置を画像情報として記録する(ここで、第1の定在波の位置情報Aと呼ぶ)。そして、水素クリーニング処理を、例えば、30秒間ないし3分間、例えば60秒間行う。その後、上記第1の電源系の第1のマイクロ波電源2aを一旦ゼロに戻す。
次に、第2のマイクロ波電源2bと、第2の整合器3b、第2の同軸線路5bと、第2のアンテナ6bからなる第2の電源系を用いて反応容器1内部に第2の定在波I2(x)を発生させる。第2のマイクロ波電源2bの出力は、例えば、400W~1kWの範囲から、例えば、500Wを設定する。観測窓17から第1のリッジ電極12aと第2のリッジ電極12bの間を覗くと、式(5)で表されるプラズマの強さを持つプラズマ発光が見える。
I2(x)∝ sin
2(2πx/λ+θ) ・・・(5)
ただし、θは位相である。
次に、式(5)で表されるプラズマの腹の位置を、上記第1の定在波の位置情報Aを参照して、第1の定在波の腹の位置(即ち、プラズマ発光の最大位置)と第2の定在波の腹の位置(即ち、プラズマ発光の最大位置)の間の距離をマイクロ波の波長の1/4になるように、調整する。この調整は、第2の整合器3bのインピーダンス整合で行う。
ここで、上記水素プラズマ発光を観測窓17から観測して、第1の定在波I1(x)の腹と第2の定在波I2(x)の腹の位置の間隔をマイクロ波の波長の1/4に設定した条件を定在波重畳の条件と呼ぶ。
そして、水素クリーニング処理を、例えば、30秒間ないし3分間、例えば60秒間行う。
その後、上記第2の電源系の第2のマイクロ波電源2bを一旦ゼロに戻す。そして、水素ガスの供給を停止する。
【0029】
次に、図示しない原料ガスの供給源から原料ガスとしてメタンガスと水素を選ぶ。ガス供給条件は、例えば、流量比を水素流量/メタンガス流量=100/1とする。その後、図示しないメタンガス源及び図示しない水素ガス源から、それぞれ図示しないメタンガス及び水素ガスのマスフローコントローラで所定の流量に制御されたメタンガス及び水素ガスを、原料ガス導入管9aに供給する。原料ガスを供給された原料ガス導入管9aは、ガス分散空洞9bを介して、ガス噴出孔9cから噴出させる。
次に、排気口15a、15bに付属された図示しない排気バルブ制御装置により図示しない排気バルブの開閉度を制御し、反応容器1の内部圧力を、略1kPa~略10kPaに保つ。ここでは、例えば、2kPaに設定し、維持する。
【0030】
次に、第1及び第2のマイクロ波電源2a、2bの出力を、例えば、400W~1kWの範囲から、例えば、500Wを設定する。そして、電力供給タミング制御装置4により第1のマイクロ波電源2aと第2のマイクロ波電源2bを制御して、時間的に分離させ交互に発生させる。例えば、周期T0=1m秒、パルス幅Tw=480μ秒のパルス変調された第1のマイクロ波と第2のマイクロ波を、それぞれ第1のアンテナ6a及び第2のアンテナ6bに供給する。そうすると、前記式(3)と式(5)で表される第1の定在波と、第2の定在波が発生し、上記式(6)で示される一様なプラズマ発光の状況が、観測窓17から確認される。
基板11は、マイクロ波電力により基板11自身が加熱されることに加え、第1のリッジ電極12aからの熱輻射及び熱伝導により加熱される。基板11の温度は、約700~約1,200℃に、例えば、1,000℃に設定される。
観察窓17から図示しない放射温度計を用いて基板11表面温度を測定し、それが、例えば、1,000℃であることを確認する。
そうすると、第1のリッジ電極と第2のリッジ電極の間に一様な強さの高密度マイクロ波プラズマが生成される。一様な強さの高密度マイクロ波プラズマが生成されると、原料ガスを均一に効果的に分解できる。原料ガスのメタン(CH
4)及び水素(H
2)がプラズマ化すると、CH
4、H
2が解離し、ダイヤモンド形成の前駆体である高濃度のCH
3ラジカル及び原子状H等を発生する。該CH
3ラジカル及び該原子状H等は拡散して、基板11の表面に到達する。
即ち、
図10に示されるように、プラズマ生成領域で発生した高濃度のCH
3ラジカル及び原子状H等は拡散現象により、基板11の表面に移動する。その一部分は、基板11の表面に化学吸着する。基板表面に化学吸着したCH
3ラジカル等の一部分は、表面化学反応により、C-Cの形で結合する。原子状Hは、膜表面及び膜中のH成分及び結合の弱い炭素成分を引き抜く。引き抜きされたC及びH成分はガスに成って排出される。基板上では、C-C結合が正四面体構造で形成され、ダイヤモンドが成長する。
【0031】
次に、形成されるダイヤモンドの厚みはプラズマの生成持続時間に比例するので、第1及び第2のマイクロ波電源2a、2bの出力供給開始から所定の時間が経過した時点で、その出力をゼロにする。ダイヤモンド合成時間は、予め取得されたデータに基づいて決められる。ここでは、例えば、30分~60分、例えば60分とする。
なお、ダイヤモンド合成の時間は、ダイヤモンド合成速度に関し、反応容器1の寸法、第1のリッジ電極と第2のリッジ電極の間隔d、基板温度、メタンガスの流量、水素ガスの流量、圧力、マイクロ波電力等の関係に係わるデータを、予め把握し、そのデータを基に決められる。
目的とするダイヤモンドの合成が終了後、上記メタンガス及び水素ガスの供給を停止し、反応容器1の内部を、一旦、高い真空度に真空引きする。
その後、基板搬入搬出通路口16a及び基板搬入搬出バルブ16を介して、基板11を搬出する。基板11を搬出した後、新たな基板11を搬入する。そして、上述と同様な手順で、ダイヤモンドを形成する。
そして、搬出された基板11に、均一なダイヤモンドが合成されていることを確認する。
【0032】
以上の説明で示されたように、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置によれば、電力供給タミング制御装置4で制御された第1の時間帯に、第1のマイクロ波電源2aと第1の整合器3aと第1の同軸線路5aと第1のアンテナ6aを用いて反応室1aに第1の定在波を発生させ、前記電力供給タミング制御装置4で制御された前記第1の時間帯と異なる第2の時間帯に、第2のマイクロ波電源2bと第2の整合器3bと第2の同軸線路5bと第2のアンテナ6bを用いて、前記第1の定在波の腹の位置から波長の1/4離れた位置に腹を持つ第2の定在波を発生させ、前記第1及び第2の定在波を時間的に交互に繰り返し発生することにより、前記反応室内部の電界の強さの分布を均一化することが可能となり、マイクロ波プラズマCVDによる大面積均一の製膜が可能という効果を奏する。
即ち、上記式(3)で表される第1の定在波I1(x)と、上記式(5)で表される第2の定在波I2(x)は、電力供給タイミング制御装置4により、時間的に交互に発生される。その結果、反応容器1内部に発生するプラズマP(x)は、次式(6)で表されるように、反応容器1内部のx方向において一様なプラズマを形成することが可能である。
P(x)∝ cos2(2πx/λ+θ)+sin2(2πx/λ+θ)
=1 ・・・(6)
y方向に関しては、ダブルリッジ電極の特性により、第1のマイクロ波の波長の1/2の距離に亘って一様であるプラズマが発生する。
即ち、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置は、反応容器1の中央領域に、面積が(y方向に第1のマイクロ波の波長の1/2の距離)x(反応容器1のx方向に第1のマイクロ波の波長の1~2倍の距離)において一様なプラズマを発生することが可能である。その結果、基板面積が(y方向に第1のマイクロ波の波長の1/2の距離)x(反応容器1のx方向に第1のマイクロ波の波長の1~2倍の距離)において、均一なダイヤモンドを形成することが可能である。
【0033】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成について、
図11~
図13を参照して、説明する。
図11は、本発明の第2の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成部材である反応容器の模式的外観図である。ただし、原料ガス導入手段9、基板温度調整手段10、基板搬入搬出通路16a及び観測窓17は、図示されていない。
図12は、本発明の第2の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成部材である反応容器を示す模式的断面斜視図である。(a)第3の側室、(b)反応室、(c)第4の側室である。
図13は、本発明の第2の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成を示す模式的断面図である。
【0034】
本発明の第2の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置は、
図11に示される反応容器21を備える。
反応容器21は、
図12に示される第3の側室27a、反応室1a及び第4の側室27bがこの順に連通して接続された構造を有する。第3の側室27aと第4の側室27bは方形導波管の構造を有する。反応室1aは、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成部材である反応室1aと同様に、ダブルリッジ型導波管の構造を有する。
反応室1aは、本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置と同様に、基板11が載置される第1のリッジ電極12aと前記第1のリッジ電極12aに対向して配置される第2のリッジ電極12bからなる一対のリッジ電極を有するダブルリッジ型導波管からなり、原料ガスを導入する原料ガス導入手段9と排気手段15a、15bと前記基板11の温度を調整する基板温度調整手段10を有する。
本発明の第2の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置は、
図13に示されるように、
第3のマイクロ波を一定の時間を隔てて周期的に発生するマグネトロン型の第3のマイクロ波電源22aと、前記第3のマイクロ波電源22aに接続され、前記第3のマイクロ波電源22aと負荷とのインピーダンス整合を調整する第3の整合器23aと、前記第3の整合器23aに接続された第1の同軸導波管変換器20aと、前記第1の同軸導波管変換器20aの構成部材である内部導体と誘電体と外部導体からなる第3の同軸線路25aと、前記第3の側室27aに配置され、前記第3のマイクロ波を放射する前記第3の同軸線路25aに接続された第3のアンテナ26aからなる第3の電源系と、
前記第3のマイクロ波と同じ周波数の第4のマイクロ波を一定の時間を隔てて周期的に発生するマグネトロン型の第4のマイクロ波電源22bと、前記第4のマイクロ波電源22bに接続され、前記第4のマイクロ波電源22bと負荷とのインピーダンス整合を調整する第4の整合器23bと、前記第4の整合器23bに接続された第2の同軸導波管変換器20bと、前記第2の同軸導波管変換器20bの構成部材である内部導体と誘電体と外部導体からなる第4の同軸線路25bと、前記第4の側室27bに配置され、前記第4のマイクロ波を放射する前記第4の同軸線路25bに接続された第4のアンテナ26bからなる第4の電源系と、
前記第3のマイクロ波電源22aが前記第3のマイクロ波を発生する第3の時間帯と前記第4のマイクロ波電源22bが前記第4のマイクロ波を発生する第4の時間帯を分離して時間的に交互になるように制御する第2の電力供給タイミング制御装置24と、を備えている。
なお、第3のマイクロ波電源22a及び第4のマイクロ波電源22bは、パルス変調方式のマグネトロンである。
前記反応容器21の長さLは、前記第3のマイクロ波の波長をλとし、2以上の自然数をnとした場合、L=nλ/2+λ/4、に設定され、マイクロ波空洞共振器を形成する。
ただし、第3のマイクロ波の波長λとは、真空中の波長ではなく、反応容器21の内部を伝播する第3のマイクロ波の波長で、且つプラズマ発生による波長短縮現象の影響を受けた波長である。
【0035】
第2の電力供給タイミング制御装置24は、第3のマイクロ波電源22aが第3のマイクロ波を発生する第3の時間帯と第4のマイクロ波電源22bが第2のマイクロ波を発生する第4の時間帯を分離して交互になるように制御する。例えば、
図6に示されるパルス変調された第1のマイクロ波V1とパルス変調された第2のマイクロ波V2のように、時間的に分離して交互に発生するように、第3のマイクロ波電源22aと第4のマイクロ波電源22bを制御する。
【0036】
第3の側室27aは、方形導波管の構造を有し、
図11及び
図12(a)、(b)に示されるように、反応室1aの長さ方向(x方向)の一方の端部に連通して配置される。第3の側室27aは、第3の同軸線路25aから送電された第3のマイクロ波を反応室1aに供給する。
第3の側室27aは、マイクロ波送電の形態を同軸線路型から導波管型へ変換して反応室1aに供給する。即ち、前記第3の同軸線路25aの端部のむき出しにされた内部導体は、第3のアンテナ26aを構成し、第3のマイクロ波を放射する。
第3の側室27aは、第1のリッジ電極12aと接続部27aacを介して接続された第3の側室27aの底面部27aaと、第2のリッジ電極12bと接続部27abcを介して接続された第3の側室27aの天面部27abと、第3の反射壁27acを備えている。第3の反射壁27acは、z-y面に平行に配置され、マイクロ波を反射する。
ここで、第3の反射壁27acに反応容器21の長さ方向(x方向)で移動自在の、図示しない第1のショートプランジャーを設け、マイクロ波の反射波の位相調整に用いてもよい。
第3の側室27aの天面部と底面部の間隔d3は、反応室1aの第1のリッジ電極12aと第2のリッジ電極12bの間隔dに比べて広く設定される。なお、d3をdに比べて大きく設定する理由は、第3の側室27a内部でのプラズマの発生を抑制するためである。
第3の側室27aの寸法は、第3及び第4のマイクロ波電源22a、22bが発生する第3及び第4のマイクロ波の波長λを考慮して次のように決められる。
ここでは、第3のマイクロ波電源の周波数を、例えば、950MHz(波長=314mm)とするので、例えば、方形導波管の長辺a=248mm、短辺b=124mm、長さe=157mm、とする。
【0037】
第3のアンテナ26aの設置位置は、第3の側室27aの天面部27abの中央点とし、第1リッジ電極12aの面の法線方向に延伸するように、配置される。
第3のアンテナ26aと後述の第4の反射壁27bcの距離L3は、反応室1aに第3のマイクロ波の定在波を効果的に発生させる条件である次式(7)を満たすように設定される。
L3=nλ/2 ・・・(7)
ただし、n:2以上の自然数、λ:第3のマイクロ波の波長である。なお、第1のマイクロ波の波長λとは、真空中の波長ではなく、反応容器21の内部を伝播する第3のマイクロ波の波長で、且つプラズマ発生による波長短縮現象の影響を受けた波長である。
ここでは、n=4を選ぶ。この場合、反応室1aの内部に次式で示される第3の定在波I3(x)が発生する。
I3(x)∝ cos2(2πx/λ+θ) ・・・(8)
ただし、θは位相である。式(8)の位相は、第3の整合器23aの調整により適正に設定される。
第3の定在波I3(x)の発生状況は、観測窓17から観測できる。また、カーボン系薄膜又はシリコン系薄膜を形成し、膜の厚み分布を測定し評価することにより確認できる。
【0038】
第4の側室27bは、方形導波管の構造を有し、
図11及び
図12(b)、(c)に示されるように、反応室1aの長さ方向(x方向)の他方の端部に連通して配置される。第4の側室27bは、第4の同軸線路25bから送電された第4のマイクロ波を反応室1aに供給する。
第4の側室27bは、マイクロ波送電の形態を同軸線路型から導波管型へ変換して反応室1aに供給する。即ち、前記第4の同軸線路25bの端部のむき出しにされた内部導体は、第4のアンテナ26bを構成し、第4のマイクロ波を放射する。
第4の側室27bは、第1のリッジ電極12aと接続部27bacを介して接続された第4の側室27bの底面部27baと、第2のリッジ電極12bと接続部27bbcを介して接続された第4の側室27bの天面部27bbと、第4の反射壁27bcを備えている。第4の反射壁27bcは、z-y面に平行に配置され、マイクロ波を反射する。
ここで、第4の反射壁27bcに反応容器1の長さ方向(x方向)で移動自在の、図示しない第2のショートプランジャーを設け、マイクロ波の反射波の位相調整に用いてもよい。
第4の側室27bの天面部と底面部の間隔d4は、反応室1aの第1のリッジ電極12aと第2のリッジ電極12bの間隔dに比べて広く設定される。なお、d4をdに比べて大きく設定する理由は、第4の側室27b内部でのプラズマの発生を抑制するためである。
第4の側室27bの寸法は、第3及び第4のマイクロ波電源22a、22bが発生する第3及び第4のマイクロ波の波長λを考慮して次のように決められる。
ここでは、第4のマイクロ波電源の周波数を、例えば、950MHz(波長=314mm)とするので、例えば、方形導波管の長辺a=248mm、短辺b=124mm、長さe=157mm、とする。
【0039】
第4のアンテナ26bの設置位置は、第4の側室27bの天面部27bbの中央点とし、反応室1aの第1リッジ電極12aの面の法線方向に延伸するように、配置される。
第4のアンテナ26bと第3の反射壁27acの距離L4は、反応室1aに第4のマイクロ波の定在波を効果的に発生させる条件である次式(9)を満たすように設定される。
L4=nλ/2 ・・・(9)
ただし、n:2以上の自然数、λ:第4のマイクロ波の波長である。なお、第4のマイクロ波の波長λとは、真空中の波長ではなく、反応容器21の内部を伝播する第4のマイクロ波の波長で、且つプラズマ発生による波長短縮現象の影響を受けた波長である。
ここでは、n=4を選ぶ。この場合、反応室1aの内部に次式で示される第4の定在波I4(x)が発生する。
I4(x)∝ sin2(2πx/λ+θ) ・・・(10)
ただし、θは位相である。式(10)の位相は、第4の整合器23bの調整により適正に設定される。
第4の定在波I4(x)の発生状況は、観測窓17から観測できる。また、カーボン系薄膜又はシリコン系薄膜を形成し、膜の厚み分布を測定し評価することにより確認できる。
【0040】
上記式(8)で表される第3の定在波I3(x)と、上記式(10)で表される第4の定在波I4(x)は、電力供給タイミング制御装置24により、時間的に交互に発生される。その結果、反応容器1内部に発生するプラズマP(x)は、次式(11)で表されるように、反応容器21内部のx方向において一様なプラズマを形成することが可能である。
P(x)∝ cos2(2πx/λ+θ)+sin2(2πx/λ+θ)
=1 ・・・(11)
なお、ダブルリッジ電極の特性により、y方向に第3のマイクロ波の波長の1/2の距離に亘って一様であるプラズマが発生する。
即ち、本発明の第2の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置は、反応容器21の中央領域に、面積が(y方向に第3のマイクロ波の波長の1/2の距離)x(反応容器1のx方向に第3のマイクロ波の波長の1~2倍の距離)において一様なプラズマを発生することが可能である。
【0041】
次に、本発明の第2の実施形態に係わるダイヤモンド合成用プラズマCVD装置の操作手順について、
図11~
図13を参照して説明する。ここでは、本発明の第2の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置をダイヤモンド合成に応用することを例にとり、以下説明する。
反応室1aの第1のリッジ電極12aと第2のリッジ電極12bの間隔dは、反応室1a内部にプラズマを生成するに際し、重要なパラメータである。即ち、プラズマ生成における最適な電界(第3及び第4のマイクロ波電力)は、反応室1a内部の圧力pと前記間隔dとの積pdで表せられるパッシェンの法則でのpd曲線に従うことから、予め圧力pと前記間隔dに関するデータを取得し、そのデータに基づいて定められる。ここでは、前記間隔dは、例えば、3mm~10mmの範囲とし、例えば、5mmとする。
先ず、図示しない真空ポンプにより、排気口15a、15bを介して反応容器21の内部を所定の真空度にする。
次に、基板搬入搬出通路口16aから、基板搬入搬出バルブ16を介して、基板11を搬入し、第1のリッジ電極12aに設けられた基板接触領域12aaに載置する。 基板11は、例えば、直径5インチのイリジウム結晶膜が被覆された単結晶Siウエハーとする。なお、基板11は単結晶Siウエハーに限定されない、例えば、プラズマCVD装置で形成されたダイヤモンド基板又は高温高圧法で製作された小さいサイズの複数個のダイヤモンド基板を載置してもよい。
基板搬入搬出バルブ16の上流側は、図示しないロードロック室に接続され真空条件が満たされている。
次に、基板11の表面を水素プラズマでクリーニングし、基板の温度を、例えば、1,000℃に設定する。即ち、図示しない原料ガスの供給源から原料ガスとして水素ガスのみを導入し、反応容器21内部の圧力を例えば、例えば、2kPaに設定する。
そして、第3のマイクロ波電源22a、第3の整合器23a、第1の同軸導波管変換器20a、第3の同軸線路25a及び第3のアンテナ26aからなる第3の電源系を用いて、反応容器21内部に第3の定在波I3(x)を発生させる。第3のマイクロ波電源22aの出力は、例えば、400W~1kWの範囲から、例えば、500Wを設定する。
観測窓17から第1のリッジ電極12aと第2のリッジ電極12bの間を覗くと、次式(8)で表されるプラズマの強さを持つプラズマ発光が見える。
I3(x)∝ cos
2(2πx/λ+θ) ・・・(8)
ただし、θは位相である。
式(8)で表されるプラズマ発光の最大箇所が反応室1aの中央部に現れるように、第3の整合器23aを調整する。
ここで、プラズマ発光の最大の箇所が第3の定在波I3(x)の腹で、最小の箇所が節であるので、該第3の定在波I3(x)の腹と節の位置情報として、観測窓17から観測される該観測窓17の視野の中で、腹の位置と節の位置を記録する(ここで、第3の定在波の位置情報Bと呼ぶ)。そして、所定の水素プラズマ時間を経過の後、上記第3の電源系の第3のマイクロ波電源22aを一旦ゼロに戻す。
次に、第4のマイクロ波電源22bと、第4の整合器23b、第2の同軸導波管変換器20b、第4の同軸線路25b及び第4のアンテナ26bからなる第4の電源系を用いて反応容器21内部に第4の定在波I4(x)を発生さする。第4のマイクロ波電源22bの出力は、例えば、400W~1kWの範囲から、例えば、500Wを設定する。
観測窓17から第1のリッジ電極12aと第2のリッジ電極12bの間を覗くと、式(10)で表されるプラズマの強さを持つプラズマ発光が見える。
I4(x)∝sin
2(2πx/λ+θ) ・・・(10)
ただし、θは位相である。
次に、式(10)で表されるプラズマの腹の位置を、上記第3の定在波の位置情報Bを参照して、第3の定在波の腹の位置(即ち、プラズマ発光の最大位置)と第4の定在波の腹の位置(即ち、プラズマ発光の最大位置)の間隔を第3のマイクロ波の波長の1/4になるように、調整する。この調整は、第4の整合器23bで行う。
ここで、上記水素プラズマ発光を観測窓17から観測して、第3の定在波I3(x)の腹と第4の定在波I4(x)の腹の位置の間隔を第4のマイクロ波の波長の1/4に設定した条件を定在波重畳方式の条件と呼ぶ。
次に、所定の水素プラズマ時間を経過の後、第4のマイクロ波電源22bを一旦ゼロに戻す。そして、水素ガスの供給を停止する。
【0042】
次に、図示しない原料ガスの供給源から原料ガスとしてメタンガスと水素を選ぶ。ガス供給条件は、例えば、流量比を水素流量/メタンガス流量=100/1とする。その後、図示しないメタンガス源及び図示しない水素ガス源から、それぞれ図示しないメタンガス及び水素ガスのマスフローコントローラで所定の流量に制御されたメタンガス及び水素ガスを、原料ガス導入管9aに供給する。原料ガスを供給された原料ガス導入管9aは、ガス分散空洞9bを介して、ガス噴出孔9cから噴出させる。
次に、排気口15a、15bに付属された図示しない排気バルブ制御装置により図示しない排気バルブの開閉度を制御し、反応容器1の内部圧力を、略1kPa~略10kPaに保つ。ここでは、例えば、2kPaに設定し、維持する。
【0043】
次に、第3及び第4のマイクロ波電源22a、22bの出力を、例えば、400W~1kWの範囲から、例えば、500Wを設定する。そして、電力供給タミング制御装置24により第3のマイクロ波電源22aと第4のマイクロ波電源22bを制御して、時間的に分離させ交互に発生させる。例えば、周期T0=1m秒、パルス幅Tw=480μ秒のパルス変調された第3のマイクロ波と第4のマイクロ波を、それぞれ第3のアンテナ26a及び第4のアンテナ26bに供給する。そうすると、前記式(8)と式(10)で表される第3の定在波と、第4の定在波が発生する。
反応室1a内部のプラズマの状況は、観測窓17から確認される。
基板11は、マイクロ波電力により基板11自身が加熱されることに加え、第1のリッジ電極12aからの熱輻射及び熱伝導により加熱される。基板11の温度は、約700~約1,200℃に、例えば、1,000℃に設定される。
観察窓17から図示しない放射温度計を用いて基板11表面温度を測定し、それが、例えば、1,000℃であることを確認する。
そうすると、第1のリッジ電極と第2のリッジ電極の間に一様な強さの高密度マイクロ波プラズマが生成される。一様な強さの高密度マイクロ波プラズマが生成されると、原料ガスを均一に効果的に分解できる。原料ガスのメタン(CH
4)及び水素(H
2)がプラズマ化すると、CH
4、H
2が解離し、ダイヤモンド形成の前駆体である高濃度のCH
3ラジカル及び原子状H等を発生する。該CH
3ラジカル及び該原子状H等は拡散して、基板11の表面に到達する。
即ち、
図10に示されるように、プラズマ生成領域で発生した高濃度のCH
3ラジカル及び原子状H等は拡散現象により、基板11の表面に移動する。その一部分は、基板11の表面に化学吸着する。基板表面に化学吸着したCH
3ラジカル等の一部分は、表面化学反応により、C-Cの形で結合する。原子状Hは、膜表面及び膜中のH成分及び結合の弱い炭素成分を引き抜く。引き抜きされたC及びH成分はガスに成って排出される。基板上では、C-C結合が正四面体構造で形成され、ダイヤモンドが成長する。
【0044】
次に、形成されるダイヤモンドの厚みはプラズマの生成持続時間に比例するので、第3及び第4のマイクロ波電源22a、22bの出力供給開始から所定の時間が経過した時点で、その出力をゼロにする。ダイヤモンド合成時間は、予め取得されたデータに基づいて決められる。ここでは、例えば、30分~60分、例えば60分とする。
なお、ダイヤモンド合成の時間は、ダイヤモンド合成速度に関し、反応容器21の寸法、第1のリッジ電極と第2のリッジ電極の間隔d、基板温度、メタンガスの流量、水素ガスの流量、圧力、マイクロ波電力等の関係に係わるデータを、予め把握し、そのデータを基に決められる。
目的とするダイヤモンドの合成が終了後、上記メタンガス及び水素ガスの供給を停止し、反応容器21の内部を、一旦、高い真空度に真空引きする。
その後、基板搬入搬出通路口16a及び基板搬入搬出バルブ16を介して、基板11を搬出する。基板11を搬出した後、新たな基板11を搬入する。そして、上述と同様な手順で、ダイヤモンドを形成する。
そして、搬出された基板11に、均一なダイヤモンドが合成されていることを確認する。
【0045】
以上の説明で示されたように、本発明の第2の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置によれば、第2の電力供給タミング制御装置24で制御された第3の時間帯に、第3のマイクロ波電源22aと第3の整合器23aと第1の同軸導波管変換器20aと第3の同軸線路25aと第3のアンテナ26aを用いて反応室1aに第3の定在波を発生させ、前記電力供給タミング制御装置24で制御された前記第3の時間帯と異なる第4の時間帯に、第4のマイクロ波電源22bと第4の整合器23bと第2の同軸導波管変換器20bと第4の同軸線路25bと第4のアンテナ26bを用いて、前記第3の定在波の腹の位置から波長の1/4離れた位置に腹を持つ第4の定在波を発生させ、前記第3及び第4の定在波を時間的に交互に繰り返し発生することにより、前記反応室1aの内部の電界の強さの分布を均一化することが可能となり、マイクロ波プラズマCVDによる大面積均一の製膜が可能という効果を奏する。
即ち、上記式(8)で表される第3の定在波I3(x)と、上記式(10)で表される第4の定在波I4(x)は、第2の電力供給タイミング制御装置24により、時間的に交互に発生される。その結果、反応容器21内部に発生するプラズマP(x)は、次式(11)で表されるように、反応容器1内部のx方向において一様なプラズマを形成することが可能である。
P(x)∝cos2(2πx/λ+θ)+sin2(2πx/λ+θ)
=1 ・・・(11)
y方向に関しては、ダブルリッジ電極の特性により、第3のマイクロ波の波長の1/2の距離に亘って一様であるプラズマが発生する。
即ち、本発明の第2の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置は、反応容器21の中央領域に、面積が(y方向に第3のマイクロ波の波長の1/2の距離)x(反応容器21のx方向に第3のマイクロ波の波長の1~2倍の距離)において一様なプラズマを発生することが可能である。その結果、基板面積が(y方向に第3のマイクロ波の波長の1/2の距離)x(反応容器1のx方向に第3のマイクロ波の波長の1~2倍の距離)において、均一なダイヤモンドを形成することが可能である。
【0046】
(第3の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成について、次のように変更してもよい。
図2に示される本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成部材である第1及び第2の側室7a、7b(ダブルリッジ型導波管)を、
図12(a)(c)に示される本発明の第2の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成部材である第3及び第4の側室27a、27b(方形導波管)に代えた構成にする。
【0047】
(第4の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成について、次のように変更してもよい。
図2に示される本発明の第1の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成部材である第1及び第2の電源系(ソリッドステート型マイクロ波電源)を、
図13に示される本発明の第2の実施形態に係わるマイクロ波プラズマCVD装置の構成部材である第3及び第4の電源系(マグネトロン電源)に代えた構成にする。
【符号の説明】
【0048】
1・・・反応容器、
1a・・・反応室、
2a・・・第1のマイクロ波電源、
2b・・・第2のマイクロ波電源、
3a・・・第1の整合器、
3b・・・第2の整合器、
4・・・電力供給タミング制御装置、
5a・・・第1の同軸線路、
5b・・・第2の同軸線路、
6a・・・第1のアンテナ、
6b・・・第2のアンテナ、
7a・・・第1の側室、
7b・・・第2の側室、
9・・・原料ガス導入手段、
10・・・基板温度調整手段、
11・・・基板、
12a・・・第1のリッジ電極、
12aa・・・基板接触領域、
12b・・・第2のリッジ電極、
13c・・・原料ガス噴出孔、
15a、15b・・・排気口、
16・・・基板搬入搬出バルブ、
17・・・観測窓、
20a、20b・・・第1及び第2の同軸導波管変換器、
21・・・反応容器、
22a、22b・・・第3及び第4のマイクロ波電源、
23a、23b・・・第3及び第4の整合器、
25a、25b・・・第3及び第4の同軸線路、
26a、26b・・・第3及び第4のアンテナ、
27a、27b・・・第3の側室。