(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109826
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】シングル型、タンデム型ならびにヘテロ接合型太陽電池装置およびその形成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/075 20120101AFI20240806BHJP
H01L 31/076 20120101ALI20240806BHJP
H01L 31/0747 20120101ALI20240806BHJP
H01L 31/18 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01L31/06 500
H01L31/06 510
H01L31/06 455
H01L31/04 420
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084110
(22)【出願日】2024-05-23
(62)【分割の表示】P 2019559394の分割
【原出願日】2018-01-17
(31)【優先権主張番号】102017000004876
(32)【優先日】2017-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(71)【出願人】
【識別番号】523084547
【氏名又は名称】3サン エス.アール.エル
【氏名又は名称原語表記】3Sun S.r.l.
【住所又は居所原語表記】Contrada Blocco Torrazze snc, I-95121 Catania, ITALY
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バッタリア,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】ゲラルディ,コジモ
(72)【発明者】
【氏名】コンドレーリ,ジュゼッペ
(72)【発明者】
【氏名】カニーノ,アンドレア
(57)【要約】 (修正有)
【課題】太陽電池装置および太陽電池装置の形成方法に関する。
【解決手段】太陽電池装置100は、基板101と、基板101の上に堆積されたn型透明導電酸化物(TCO)層102と、p型層103、i型層104およびn型層105を含むp-i-n構造120と、p-i-n構造120のn型層105の上に堆積された金属バッキング層106とを備える。n型層105は、リン原子を含むn型ドナー115を備える。n型ドナー115は、n型層105の全原子組成に対して5%~25%の範囲の原子濃度を有する酸素原子を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池装置(100)であって、
・ 基板(101)と、
・ p-i-n構造(120)であって、
- p型層(103)、
- i型層(104)、および
- n型層(105)
を含むp-i-n構造(120)と、
を備え、
前記n型層(105)は、リン原子を含むn型ドナー(115)を備え、
前記n型ドナー(115)は、前記n型層(105)の全原子組成に対して5%~25%の範囲の原子濃度を有する酸素原子を含み、
前記n型ドナー(115)は、前記n型層(105)の全原子組成に対して1%~4%の範囲の原子濃度を有するリン原子を含み、
前記n型層(105)の全原子組成に対して水素濃度は7~25%の範囲であり、シリコン濃度は49~67%であり、
前記n型ドナー(115)は、n型層(105)の製造中にリンと酸素の共堆積によって生成される、と
前記太陽電池装置(100)はさらに、ヘテロ接合n型結晶層(304a)と、前記i型層(104)またはヘテロ接合i型層(304)と前記n型層(105)またはヘテロ接合n型ドナー(315)を含むヘテロ接合n型層(305)との間のヘテロ接合i型非晶質層(304b)を備え、ヘテロ接合太陽電池装置(300)が生成される、ことを特徴とする、
太陽電池装置(100)。
【請求項2】
前記n型層(105)は、微結晶またはナノ結晶構造を有する、
請求項1に記載の太陽電池装置(100)。
【請求項3】
前記p-i-n構造(120)は、微結晶またはナノ結晶構造を有する、請求項1に記載の太陽電池装置(100)。
【請求項4】
前記n型ドナー(115)は、前記n型層(105)の全原子組成に対して7%~12%の範囲の原子濃度を有する酸素原子を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の太陽電池装置(100)。
【請求項5】
前記n型層(105)は、水素原子を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の太陽電池装置(100)。
【請求項6】
前記n型層(105)は、20nm~60nmの範囲の厚さを有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の太陽電池装置(100)。
【請求項7】
前記n型層(105)は、40nmの厚さを有する、
請求項4に記載の太陽電池装置(100)。
【請求項8】
前記p-i-n構造(120)の上または下に配置されたアモルファスp-i-n構造(201)を備える、
請求項1~3のいずれか1項に記載の太陽電池装置(100)。
【請求項9】
太陽電池装置(100)の形成方法であって、
・ 基板(101)の上に、n型透明導電酸化物(102)を堆積するステップと、
・ p-i-n構造(120)を形成するステップであって、
- 前記n型透明導電酸化物(102)の上に、p型層(103)を堆積するステップ、
- 前記p型層(103)の上に、i型層(104)を堆積するステップ、および
- 前記i型層(104)の上に、n型層(105)を堆積するステップ
を含むp-i-n構造(120)を形成するステップと、
を備え、
前記p-i-n構造(120)内の前記n型層(105)を堆積するステップは、リンおよび酸素原子を含むn型ドナー(115)を堆積するステップを含み、前記n型ドナー(115)は、前記n型層(105)の全原子組成に対して5%~25%の範囲の原子濃度を有する酸素原子を含み、
前記n型ドナー(115)は、前記n型層(105)の全原子組成に対して1%~4%の範囲の原子濃度を有するリン原子を含み、
前記n型層(105)の全原子組成に対して水素濃度は7~25%の範囲であり、シリコン濃度は49~67%であり、
前記方法はさらに、ヘテロ接合n型結晶層(304a)と、前記i型層(104)またはヘテロ接合i型層(304)と前記n型層(105)またはヘテロ接合n型ドナー(315)を含むヘテロ接合n型層(305)との間のヘテロ接合i型非晶質層(304b)を含み、ヘテロ接合太陽電池装置(300)が生成される、ことを特徴とする、方法。
【請求項10】
前記n型透明導電酸化物(102)と、前記n型層(105)を備える前記p-i-n構造(120)との間に、さらなるp-i-n構造(221)を堆積して、タンデム型太陽電池装置(200)を作製するステップをさらに備え、前記p-i-n構造(120)は、微結晶またはナノ結晶構造を有する、
請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドープされたp-i-n構造を有するタイプの太陽電池装置およびその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池装置は広く普及しており、光起電力効果によって光のエネルギーを直接電気に変換できる電気機器として世界的に広く用いられている。ドープされたシリコン半導体および透明導電酸化物(TCO)系のp-i-n構造は、p型シリコン系半導体領域(例えばp型層)と、n型シリコン系半導体領域(例えばn型層)と、低濃度にドープされた「真性に近い」シリコン系半導体領域(例えばi型層)とを備える装置の典型的且つ基本的な構成要素である。TCOは、薄膜太陽電池(セル)の前面接点として非常に重要であり、その光学的および電気的特性は、装置の正しい動作を決定する。通常、高い透過率、低い抵抗率および高いヘイズ率という特徴が太陽電池装置の性能を向上させるために求められる。さらに、透明前面接点として用いられる透明導電酸化物TCOは、シリコン系太陽電池の効率に大きな影響を与える。通常、p-i-n型太陽電池は、p型シリコンと前面のTCOとが電気的に直接接触する特定の構成を有するように設計される。
【0003】
また、薄膜シリコン太陽電池は、通常、水素化アモルファスシリコン系(以下、a-Si:Hと表記)構造および水素化微結晶シリコン系(以下、μc-Si:Hと表記)構造の材料に基づいている。太陽電池は、a-Si:Hまたはμc-Si:Hのp-i-n構造の単一接合を用いて構成されるか、μc-Si:Hのp-i-n構造のボトムセルが積層されたa-Si:Hのp-i-n構造のトップセルを含むタンデム型太陽電池から構成される。電気的観点から、トップセルとボトムセルとが直列に積層される。トップセルは、青緑のスペクトル範囲で最適な応答を示し、ボトムセルは、赤のスペクトル範囲で最適化された応答を示す。a-Si:H構造およびμc-Si:H構造で使用される主なドーピング元素は、結晶シリコンで使用されるものと同じである。p型材料のドーピングには主にホウ素Bが使用され、n型材料のドーピングには主にリンPが使用される。
【0004】
通常、CVD法またはPVD法のような手段を用いる一般的な薄膜形成装置によって形成される薄層の形態で、ドープされた構造が作製される。
【0005】
a-Si:Hおよびμc-Si:H太陽電池構造において、ドープされた層が2つの異なる興味深い効果を生み出すことが知られている。
【0006】
1つ目は、上記層が活性真性a-Si:H層にわたって内部電界を形成することである。電界は、真性a-Si:H層内の光生成キャリアが確実に収集されるように十分高い。電界の強度は、ドープされた層のドープレベルおよび真性層の厚さに依存する。
【0007】
2つ目は、上記層がa-Si:Hまたはμc-Si:H構造と外部電極との間で低損失のオーミック接触を確立することである。製造プロセスの調整可能性に関する実際の評価において、シリコン系ソースガスのシラン(SiH
4)と、ホスフィン(PH
3)またはジボラン(B
2H
6)とを堆積中に混合することで、a-Si:Hおよびμc-Si:H構造の導電率の変化を堆積プロセス中に達成および制御することができる。シランを含む混合物中のドーピングガスの割合の関数となるa-Si:H構造の室温導電率について、R.A. Streetによる「Doping and the Fermi Energy in Amorphous Silicon」(Physics Review Letter 49, p.1187, 1982)と題する記事に記載された絵を
図1に示す。
【0008】
a-Si:H構造の導電率は、10倍以上に変化する場合がある。したがって、活性化エネルギーは、真性材料の0.7eV~0.8eVから、リンドープされた材料において約0.15eVまで、ホウ素ドープされた材料において約0.3eVまで低減される。
【0009】
a-Si:H構造のランダム網目構造は、最も低いエネルギーを有する結合構成に対応する配位数で、リンやホウ素のような不純物原子を取り込むことができることが知られている。このa-Si:Hのランダム網目構造の特徴は、μc-Si:Hの結晶構造とは対照的である。μc-Si:Hでは、長距離秩序によって、ホスト原子の配位が不純物原子に強制的に採用される。四重に配位したドーパント原子の割合として定義されるa-Si:H内のドーピング効率は、かなり悪い。室温でのドーピング効率がほぼ1である単結晶シリコンと比較すると、a-Si:H内のドーピング効率は、10-2~10-3の範囲にある。したがって、比較的濃度が高いリン原子を導入して高い導電率を有する材料を得る必要がある。
【0010】
a-Si:H構造のnドーピングについて、リン原子である場合において欠陥補償ドナーを形成することは、自己補償モデル(上記記事「Doping and the Fermi Energy in Amorphous Silicon」に記載)としても知られる主要なドーピングメカニズムである。このモデルにおける最重要事項は、a-Si:H構造のドーピングによるダングリングボンドの生成を回避できないことである。実際、ドープされた真性a-Si:H構造は、真性a-Si:H構造と比較して2桁または3桁大きい欠陥密度を有する。μc-Si:Hは、a-Si:Hの材料よりも良好な導電特性を有するが、結晶シリコン(c-Si)や多結晶シリコンよりも著しく低い性能を有する。これは、通常、μc-Si:Hが、a-Si:H構造に埋め込まれたシリコン結晶子を含む(結晶学的不均一相を定義する)混合アモルファス-微結晶材料であるためである。母体内にa-Si:H構造が存在するため、μc-Si:H構造のドーピング効率を結晶Siまたは多結晶Siほど正確に制御することはできない。つまり、μc-Si:H構造において、n型層を完全に効率的にドープすることはできない。また、不均一なμc-Si:H構造内のリン濃度が増加すると、格子構造のアモルファス化が誘発され、電荷キャリアのトラッピングを増大させる欠陥密度が増加する。
【0011】
すなわちこの自己補償モデルは、リンでnドープされたμc-Si:H構造に関連する明確且つ典型的な欠点を有する。実際、この特有のタイプのnドーピングによって、有害な構造のアモルファス化の結果として、μc-Si:H構造の効率が著しく低減される。
【0012】
Nasuno et aliiによる「Passivation of oxygen-related donors in microcrystalline silicon by low temperature deposition」(Appl.Phys.Lett., Vol.78, N.16, 16 April 2001)と題する記事には、水素化微結晶シリコン(μc-Si:H)系太陽電池のための低温プラズマ強化rf堆積プロセスが記載されている。特に、この文書は、水素パッシベーションを用いて低温で不動態化される酸素関連ドナーから生じるシャント漏れに対応している。
【0013】
酸素ドーピングおよびパッシベーションは、アモルファスn型層を有するp-i-n構造内のi型層で生成および分析される。
【0014】
上記文書において、酸素原子と共堆積されたドナー原子としてのリン原子の説明がない。したがって、微結晶構造のアモルファス化によって生じる問題とそれによる効率の低減に関する解決策は提示されていない。実際、提案された太陽電池の効率は8.9%であるのに対して、提案する本解決策での効率は14.7%まで向上する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、既知の太陽電池装置の欠点を克服する太陽電池装置およびその形成方法を提供することである。
【0016】
この目的の範囲において、本発明のさらなる目的は、nドーピングの効果を生じさせて、構造の過剰且つ広範囲なアモルファス化が誘発されることなく構造内の活性ドナーを増加することができる太陽電池装置を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、太陽電池装置のnドープされた層内の屈折率を低減させることである。
【0018】
本発明のさらなる目的は、太陽電池装置内の光反射を改善して、短絡電流密度(Jsc)およびシステムの効率を向上させることである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、nドープされたμc-Si:H構造のn型層を最適な厚さに形成して、太陽電池装置の透過性と導電性との間で適切なバランスを達成することである。
【0020】
また、本発明の別の目的は、大面積を有する太陽光発電モジュール装置に適した太陽電池装置の形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述した目的および他の目的は、請求項1に記載の太陽電池装置および請求項9に記載の太陽電池装置の形成方法を用いた本発明によって達成される。
【0022】
好ましい実施形態によれば、本発明によって、アモルファスa-Si:Hのp-i-n構造およびnドープされたμc-Si:Hを含む微結晶μc-Si:Hのp-i-n構造を備え且つ全体の効率が向上したタンデム型太陽電池装置を作製することができる。
【0023】
好ましい機能は、従属請求項において定義される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明の上述した特徴、他の特徴および利点は、添付の図面を参照して読まれるいくつかの例示的且つ非限定的な実施形態の以下の説明によってより明らかになるであろう。
【
図1】本発明のいくつかの実施形態による太陽電池装置を例示的且つ部分的に示す断面図である。
【
図2】本発明の別の実施形態による太陽電池装置のタンデム型構成を例示的且つ部分的に示す断面図である。
【
図3】Oドープされたμc-Si:Hのn型層を含むμc-Si:Hのp-i-n構造におけるCO
2/SiH
4比の関数として、屈折率および導電率を示すプロット図である。
【
図4】本発明のいくつかの実施形態によるμc-Si:H太陽電池に使用されるOドープされたμc-Si:Hのn型層に対して実施した、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)による分析結果を示す図である。
【
図5】本発明のいくつかの実施形態によるμc-Si:H太陽電池に使用される非ドープμc-Si:HおよびOドープされたμc-Si:Hのn型層に対して実施した、二次イオン質量分析法(SIMS)による分析結果を2つ比較して示す図である。
【
図6】CVD法を用いた、本発明のいくつかの実施形態による太陽電池装置の形成方法を示すフロー図である。
【
図7】CVD法を用いた、本発明のいくつかの実施形態によるタンデム型太陽電池装置の形成方法を示すフロー図である。
【
図9】非ドープμc-Si:HおよびOドープされたμc-Si:Hのn型層における効率および波長を示すプロット図である。
【
図10】本発明の別の実施形態による太陽電池装置のヘテロ接合型構成を例示的且つ部分的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、
図1を参照すると、本発明による太陽電池装置が、全体として参照符号100によって示されている。
【0026】
好ましい実施形態によれば、太陽電池装置100は、好ましくはガラス、セラミック、金属、高分子材料等から形成された基板101を備える。
【0027】
好ましくは、基板101は、その上にさらなる層が形成される太陽電池装置100の第1の端部10を画定する。
【0028】
以下でより詳細に説明するように、好ましくは、CVD法を用いて、基板101が処理される。一実施形態によれば、太陽電池装置100は、n型透明導電酸化物(TCO)層102を備える。
【0029】
好ましくは、太陽電池装置100は、p-i-n構造120を備える。
【0030】
一実施形態によれば、p-i-n構造120は、p型層103と、i型層104と、n型層105とを備える。
【0031】
好ましくは、太陽電池装置100は、金属バッキング層106を備える。金属バッキング層106は、n型層105の上に形成され、太陽電池装置100の第1の端部10の反対側で第2の端部20を画定する。
【0032】
一実施形態によれば、基板101の上に、n型透明導電酸化物(TCO)層102と、p-i-n構造120とが順に堆積される。
【0033】
一実施形態によれば、n型層105は、n型ドナー115を備える。
【0034】
一実施形態によれば、n型ドナーは、ドナー原子の網目構造またはドナー原子のクラスターまたはドナー原子の層から構成されるn型ドナーシステムを形成する。
【0035】
検討されるドナーシステムの実施形態の説明は、Satoshi Koizumi、Christoph NebelおよびMilos Nesladekによる「Physics and Applications of CVD Diamond」と題する科学書に記載されている。
【0036】
好ましくは、n型ドナー115は、リン原子を含む。
【0037】
一実施形態によれば、n型層105内のn型ドナー115は、全原子組成に対して5%~25%の範囲の原子濃度を有する酸素原子を含む。
【0038】
この技術的解決策によって、三重に配位した酸素原子がn型層105内に導入される。三重に配位した酸素原子のi型層104内での存在および拡散は、太陽電池装置の効率を低減させる。これを確実に回避する必要がある。
【0039】
技術的効果の向上について、n型ドナー115すなわちn型層105内に制御された酸素を取り込むことと、リン原子が存在することとによって、n型層105内にリン原子が存在することで誘発されるアモルファス化と平均欠陥密度とが低減される。これにより、nドーピングの効果が向上する。
【0040】
好ましくは、n型層105は、微結晶またはナノ結晶相構造を有する。
【0041】
一実施形態によれば、太陽電池装置100内のp-i-n構造120は、微結晶またはナノ結晶相構造(以下、それぞれμc-Siおよびnc-Siと表記)を有する。
【0042】
さらに、p型層103および/またはi型層104は、アモルファスまたは混合相(アモルファス-微結晶相)構造(以下、それぞれa-Siおよびm-Siと表記)を有することができる。
【0043】
また、微結晶またはナノ結晶(μc-Siまたはnc-Si)構造内にシリコン-酸素結合Si-Oを形成することで、n型層105のバンドギャップが全体的に増加する。これにより、i型層104とn型層105との間の界面で常に反射される光生成された正孔に対する障壁を増加させることができ、p型層103の接合側におけるキャリア収集を向上させることができる。
【0044】
好ましくは、p-i-n構造120および特にn型層105は、水素原子を含む。
【0045】
一実施形態において、水素濃度は、n型層105の全原子組成に対して7%~25%の範囲にあり、シリコン濃度は、49%~67%の範囲にある。
【0046】
好ましくは、太陽電池装置100内のp-i-n構造120は、水素化微結晶またはナノ結晶シリコン(μc-Si:Hまたはnc-Si:Hと表記)構造を有する。
【0047】
水素化シリコン(a-Si:H)のp-i-n構造の短距離秩序のみを持つアモルファス連続ランダム網目構造は、最も低いエネルギーの結合構成に対応する配位でリンPやホウ素Bの不純物原子を取り込むことができると予想される。この連続ランダム網目構造の特性は、結晶構造のものとは異なる。結晶構造では、長距離秩序によって不純物原子にはホスト原子(ここではシリコンSi)の四重配位が強制的に採用される。
【0048】
四重に配位したドーパント原子の割合として定義される水素化アモルファスシリコンa-Si:H構造のドーピング効率は、構造内の全原子に対してかなり悪い。a-Si:H内のドーピング効率は、10-2~10-3の範囲にある(その一方で、単結晶シリコンにおいて室温でのドーピング効率は、ほぼ1である)。
【0049】
したがって、比較的濃度が高いリン原子を水素化アモルファスシリコン構造に導入して高い導電率を示す効果的な四重に配位した材料を有する原子を十分に得る必要がある。
【0050】
a-Si:Hのnドーピングについて、リン原子である場合において欠陥補償ドナーを形成することは、自己補償モデルとしても知られる主要なドーピングメカニズムである。このモデルにおける最重要事項は、a-Si:Hのドーピングによるダングリングボンドの生成を回避できないことである。ドープされたa-Si:H構造は、非ドープ真性a-Si:H構造よりも2桁または3桁大きい欠陥密度を有する。
【0051】
μc-Si:Hおよびnc-Si:Hは、a-Si:Hの材料よりも良好な導電特性を有するが、結晶シリコン(c-Si)や多結晶シリコン(polyc-Si)よりも著しく低い性能を有する。これは、μc-Si:Hおよびnc-Si:Hが、a-Si:H構造に埋め込まれたシリコン結晶子を含む混合アモルファス-結晶(一般に「不均一相」と呼ばれる)材料であるためである。母体内にa-Si:Hが存在するため、μc-Si:Hおよびnc-Si:Hのドーピング効率をc-Siまたはpoly-Siほど正確に制御することはできない。これは、μc-Si:Hおよびnc-Si:Hにおいて、n型層を効率的にドープできないこと、また、結晶構造のさらなるアモルファス化が誘発されることなく、および電荷キャリアのトラッピングを増大させる欠陥密度が増加することなく、リン濃度を増加させることはできないことを意味する。これは、太陽電池の効率を低減させる。
【0052】
好ましくは、n型ドナー115は、n型層105の全原子組成に対して1%~4%の範囲の原子濃度を有するリン原子を含む。
【0053】
この技術的解決策によって、過剰なリン原子濃度による好ましくないアモルファス化が誘発されることなく、n型層105内に効果的なn型ドナー115が生成されるという技術的利益が提供される。
【0054】
一実施形態によれば、n型ドナー115は、n型層105の全原子組成に対して7%~12%の範囲の原子濃度を有する酸素原子を含む。
【0055】
この構成によって、照射に対する透過性と、p-i-n構造120すなわち太陽電池装置100内の構造の導電率との間で効率的なバランスが達成されるという技術的利益が提供される。実際、このように生成されたn型ドナー115は、主に改善された光管理と光生成された正孔の集合体に作用することで、太陽電池の変換効率を向上させる。
【0056】
さらに、nドープされたμc-Si:Hおよびnc-Si:H層の屈折率は、2~3の範囲の値に達する。これは、n型μc-Si:H層の従来の値である約3.5を下回る。その結果、より多くの光子が真性i型μc-Si:Hまたはi型nc-Si:Hの放射線
吸収層に反射されて、太陽電池の電極として機能する金属バッキング層106における光管理が最適化される。
【0057】
図3は、CO
2/SiH
4比の関数として、屈折率と導電率とを比較して示すプロット図であり、ここでは、導電率と3.5よりもはるかに小さい屈折率との間でバランスのトレードオフが達成されることが示されている。上述したように、この条件によって、太陽電池の金属バッキング層106における光の反射を向上させることができる。
【0058】
これらの技術的解決策によって、(特に800nm、すなわち微結晶μc-Si:H太陽電池装置100に対する最大応答に近い値において)3よりも低い屈折率と、1S/cmより高い導電率とを達成することができる。
【0059】
さらに、これらの技術的効果を、以下で詳細に説明する組成分析および構造分析を用いて評価した。
【0060】
提案された本発明に従って作製されたn型層105で達成される効果的な酸素含有量を、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)を用いて評価した。RBSは、Heイオンビームを用いて、2MeV、シータ:0、ファイ:15、conv:2.37keV/ch+65keV、オメガ:0.93mstrおよびチャネル軸<100>において実施した。例えば、
図4は、酸素ドープされたn型μc-Si:Hに関するRBSのプロット図を示す。チャネル条件下の信号から、約1.2*10
16cm
-2の酸素の面密度(RBSドーズ量)を導出することができる。参考として、同じ厚さを有するSiO
2層の典型的な酸素の面密度(RBSドーズ量)は、1.3*10
17cm
-2である。
図4は、本発明によるnドープされた酸素リッチμc-Si:Hに関するRBSのプロット図を示す。
【0061】
したがって、(ドーピング酸素原子を含むn型ドナー115を有する)μc-Si:Hのn型層105の原子組成は、水素原子の含有量も考慮して計算されており、Si:67%、O:7%、H:25%、P:1%に対応する。
【0062】
また、
図5に示すように、飛行時間型-二次イオン質量分析質量分析(ToF-SIMS)を用いて、ドーピング酸素原子を含むn型ドナー115を備えたμc-Si:Hのn型層105内の酸素および水素の含有量を評価および比較した。
【0063】
説明をより明確にするために、
図5は、従来のリンドープされた水素化微結晶シリコンμc-Si:Hのn型層105(左側のプロット図)および酸素リッチ微結晶シリコンμc-Si:Hのn型層105における酸素および水素の含有量を比較して示している。
【0064】
この場合、いずれの試料も約100nmの厚さを有した。酸素の信号が表面酸化物(自然酸化物)の形成に関連する層の表面においてピークを示したことは明らかである。従来の微結晶シリコンのn型層の場合、O原子の信号は、表面からバルクまで低減されてから安定した値に達した。酸素リッチ微結晶シリコンのn型層の場合、バルク信号は、従来のμc-Si:H層よりも5倍以上高かった。従来の微結晶シリコン層では、深みを形成するために用いられるスパッタリングビームが、表面酸化層(自然酸化物)内に存在する酸素原子に衝突してノックオン効果を引き起こすため、ToF-SIMS技術の結果である酸素Oの信号は減少した。RBS分析の結果、従来の微結晶シリコン層では、酸素の目立った存在は見られなかった。
【0065】
従来のn型μc-Si:Hおよびn型酸素リッチ微結晶シリコンにおける水素濃度は、分析技術の分解能の範囲でほぼ同じであった。
【0066】
好ましくは、n型層105は、20nm~60nmの範囲の厚さを有する。
【0067】
検討の結果、p-i-n構造120のn型層105およびμc-Si:Hまたはnc-Si:H構造内の酸素原子濃度およびリン原子の関数として得られた構造の、照射に対する透過性と導電率との間の上述したバランスを達成および強化するために、この厚さ範囲が効率的且つ機能的な寸法であることが分かった。
【0068】
一実施形態によれば、n型層105は、40nmの厚さを有する。
【0069】
この厚さの値が、透過性、導電率、安定性および堆積プロセス条件における最適な解決策であることが分かった。
【0070】
一実施形態によれば、太陽電池装置100は、p-i-n構造120の上または下に配置されたアモルファスp-i-n(a-p-i-n)構造201を備える。
【0071】
以下、太陽電池装置100が有する上記タイプの構成を、タンデム型太陽電池装置200と呼ぶ。
図2にその一例を示すが、すべての可能な実施形態を包含するものではない。
【0072】
好ましくは、タンデム型太陽電池装置200は、セラミック、金属、または高分子材料等から形成されたタンデム基板201を備える。
【0073】
好ましくは、タンデム基板201は、その上にさらなる層が形成されるタンデム型太陽電池装置200の第1の端部を画定する。
【0074】
一実施形態によれば、タンデム型太陽電池装置200は、n型タンデム透明導電酸化物(TCO)層202を備える。
【0075】
好ましくは、タンデム型太陽電池装置200は、n型タンデム透明導電酸化物(TCO)層202と電気的に接触するよう配置されたアモルファスタンデムp-i-n構造221を備える。アモルファスタンデムp-i-n構造221は、アモルファスp型層223と、アモルファスi型層224と、アモルファスn型層225とを備える(
図2参照)。
【0076】
これらのすべての層は、接触面間の電気的接触を可能にする界面を有するよう形成される。
【0077】
好ましくは、アモルファスp型層223とアモルファスi型層224とが電気的に接触し、アモルファスi型層224とアモルファスn型層225とが電気的に接触する。
【0078】
一実施形態によれば、アモルファスタンデムp-i-n構造221と、微結晶(またはナノ結晶)タンデムp-i-n構造220の少なくとも1つの表面とが、電気的に接触する。
【0079】
好ましくは、微結晶(またはナノ結晶)タンデムp-i-n構造220は、微結晶p型層203と、微結晶i型層204と、微結晶n型層205とを備える。
【0080】
説明をより簡潔且つ明確にするために、以下に記載される微結晶構造に関する特徴は、特に明示されない限り、ナノ結晶構造にも同様に適用される。
【0081】
図2に示す実施形態によるタンデム型太陽電池装置200は、金属バッキング層206を備える。金属バッキング層206は、微結晶n型層105の上に形成され、上述したタンデム型太陽電池装置200の第1の端部の反対側で第2の端部を画定する。
【0082】
一実施形態によれば、タンデム基板201の上に、n型タンデム透明導電酸化物(TCO)層202と、アモルファスタンデムp-i-n構造221と、微結晶(またはナノ結晶)タンデムp-i-n構造220とが順に堆積される。
【0083】
一実施形態によれば、微結晶n型層205は、微結晶n型ドナー215を備える。
【0084】
好ましくは、タンデム型太陽電池装置200は、水素原子を含む。
【0085】
タンデム型太陽電池装置200の微結晶(またはナノ結晶)タンデムp-i-n構造220の微結晶n型層205内の微結晶n型ドナー215の組成上および寸法上の特徴は、太陽電池装置100のp-i-n構造120のn型層105内のn型ドナー115の特徴と同じである。
【0086】
ここで説明する技術的解決策が著しく高い性能をもたらすことに注目されたい。実際、上述したタンデム型太陽電池装置200において、先行技術に従って作製されたタンデム太陽電池に対して効率が1ポイント、すなわち13.6%から14.7%に向上したことが記録されている。
【0087】
上記効率の向上は、微結晶n型層205の屈折率が低いこと、および微結晶タンデムp-i-n構造220のi/n界面における正孔反射の増加によって曲線因子が改善されてタンデム型太陽電池装置200の微結晶タンデムp-i-n構造220内のJscが増加することによる。
【0088】
タンデム型太陽電池装置200の太陽電池のパラメータと、従来のタンデム型太陽電池装置のパラメータとを比較したものを表1に示す。結果として、タンデム型太陽電池200の出力電力を約10%増加させる効果をもたらした。
【0089】
【0090】
図9は、先行技術または本発明に従って作製されたアモルファスタンデムp-i-n構造221(図において「トップセル」と表記)および微結晶タンデムp-i-n構造220(図において「ボトムセル」と表記)のスペクトル応答度または収集効率を比較して示す図である。ここでは、Oリッチな微結晶n型層205に起因する微結晶太陽電池の出力の増加に明らかに関連して、効率が向上している。
【0091】
図9において効率(%)および波長(nm)としてプロットされた逆畳み込みピークが示すように、本発明に従って作製されたタンデム型太陽電池装置200(丸を有する線で示す)は、先行技術に従って作製されたタンデム型太陽電池(交差線を有する線で示す)よりも高い性能を有した。この効率の向上は、微結晶p-i-n構造220が主に動作する600nm~1000nmの範囲で特に顕著であった。
【0092】
本発明の一実施形態によれば、ヘテロ接合型シリコン太陽電池装置300が作製される。ヘテロ接合型シリコン太陽電池装置300は、ヘテロ接合p型層303と、ヘテロ接合i型層304と、ヘテロ接合n型層305とを含むヘテロ接合p-i-n構造を備える。ヘテロ接合n型層305は、リン原子を含むヘテロ接合n型ドナー315を備える。
【0093】
好ましくは、ヘテロ接合n型ドナー315は、ヘテロ接合n型層305の全原子組成に対して5%~25%の範囲の原子濃度を有する酸素原子を含む。
【0094】
薄い真性バッファ層を含む太陽電池を有するシリコンヘテロ接合型太陽電池(SHJ)の構造は、単純な低温プロセス、良好な表面パッシベーション、非常に薄いウェハの加工性、および低い温度係数に対する高いエネルギー変換効率等、従来のc-Si技術よりも多くの利点を提供することに注目されたい。この太陽電池は、単結晶シリコンウェハ上の薄いアモルファスシリコン層から構成される。これらの構造の重要な点は、広いバンドギャップを有する膜を挿入することで、結晶面から再結合活性の高い(オーミック)接点が変位することである。デバイスのポテンシャルを最大限まで引き出すために、ヘテロ界面状態の密度を最小限に抑える必要がある。
【0095】
好ましくは、上記のために、わずか数ナノメートルの厚さを有する水素化アモルファスシリコン(a-Si:H)膜が選択される。そのバンドギャップは、c-Siのバンドギャップより広い。このような膜は、真性である場合、水素化することでc-Siの表面状態の密度を低減することができる。また、このような膜は、比較的簡単にnドープまたはpドープすることができるため、飽和電流の密度に対して記録的に低い値を有する接点を(リソグラフィなしで)形成することができる。このような装置について、日本の三洋社が大面積(>100cm2)に対して優れたエネルギー変換効率(~23%)を報告している。
【0096】
CVD法またはPECVD法を用いて堆積されたドープされた層によって、一方の側では接合(n型ウェハ上のp型a-Si:H)が形成され、他方の側では表面電界(n型ウェハ上のn型a-Si:H)が形成される。
図1に示す試験的に選択された構成は、バックエミッタ構成と呼ばれる。この構成において、(入射光に対して)太陽電池の背面に(n型ウェハ上の)p型PECVD層が堆積されて電荷収集電極となり、前面にn型a-Si層が堆積される。これにより、良好な表面電界が確保されて、電気的再結合が低減される。シリコン層の上に、低いシート抵抗を有する反射防止用透明導電酸化物(TCO)膜がPVD法を用いて堆積される。スクリーン印刷された金属グリッドによって電流の収集が可能になる。
【0097】
図10に示す本発明の一実施形態によれば、ヘテロ接合型シリコン太陽電池装置300は、前面透明導電酸化物(TCO)301と、背面透明導電酸化物(TCO)302と、ヘテロ接合p型層303と、ヘテロ接合i型層304と、ヘテロ接合n型結晶層304aと、ヘテロ接合i型アモルファス層304bとを備え、ヘテロ接合n型層305は、ヘテロ接合n型ドナー315を備える。
【0098】
好ましくは、光は、前面透明導電酸化物(TCO)301に入射して、ヘテロ接合n型ドナー315を備えるヘテロ接合n型層305、ヘテロ接合i型アモルファス層304b、ヘテロ接合n型結晶層304a、ヘテロ接合i型層304、ヘテロ接合p型層303および背面透明導電酸化物(TCO)302に順次衝突する。このタイプの構成が「バックエミッタ構成」である。
【0099】
本発明の好ましい実施形態によれば、ヘテロ接合p型層303、ヘテロ接合i型層304、ヘテロ接合i型アモルファス層304bおよびヘテロ接合n型層305は、水素原子を含む。
【0100】
好ましくは、太陽電池装置100は、i型層104またはヘテロ接合i型層304と、n型層105、またはヘテロ接合n型ドナー315を備えるヘテロ接合n型層305との間に、ヘテロ接合n型結晶層304aおよびヘテロ接合i型アモルファス層304bを備える。これにより、ヘテロ接合型太陽電池装置300が作製される。
【0101】
通常、SHJ装置の効率は、前面側における光学的損失と電気的損失との間の顕著なトレードオフによって支配されている。ドープされたa-Si層は、PECVD反応中にドーパントを導入することで妥当な導電特性を得ることができるが、その反面、ドーパントの存在が材料内の欠陥率を増加させて、材料の光透過性を低くする。c-Siウェハの吸収体に到達する光を増やすために、前面側における材料を非常に薄く形成する必要がある。
【0102】
バックエミッタ構成の場合、前面側のドープされた層は、n型である。水素化ナノ結晶SiOxのn型層は従来のa-Siよりも透過性が高いため、また、nドープされた層をわずかに酸化させてCO2を適切な濃度とプロセス方式でプロセス混合物に追加することで、電気的特性を大きく悪化させることなく、c-Siセルが吸収する波長の範囲において最大30%多くの光を透過(
図3参照)させることができるため、従来のn型a-Si:Hを水素化ナノ結晶SiOxのn型層(
図2参照)に置き換えることは非常に魅力的である。
【0103】
図6および
図7に模式的に示すように、好ましくは、太陽電池装置100およびタンデム型太陽電池装置200において、太陽電池装置100を作製する場合は本方法の第1の実施形態400に従って、また、タンデム型太陽電池装置200を作製する場合は本方法の第2の実施形態400Tに従って、CVD法を用いて堆積が実施される。
【0104】
太陽電池装置100の形成方法である第1の実施形態400またはタンデム型太陽電池装置200の形成方法である第2の実施形態400Tは、
・ CVD法を用いて、基板101(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は201)の上に、n型透明導電酸化物(TCO)102(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は202)を堆積するステップと、
・ p-i-n構造120(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は220)を形成するステップであって、
- CVD法を用いて、n型透明導電酸化物(TCO)102(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は202)の上に、p型層103(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は203)を堆積するステップ、
- CVD法を用いて、p型層103(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は203)の上に、i型層104(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は204)を堆積するステップ、および
- CVD法を用いて、i型層104(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は204)の上に、n型層105(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は205)を堆積するステップ
を含むp-i-n構造120(220)を形成するステップと、
を備え、
p-i-n構造120(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は220)内のn型層105(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は205)を堆積するステップは、CVD法を用いて、リンおよび酸素原子を含むn型ドナー115(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は215)を堆積するステップを含む。
【0105】
好ましくは、p-i-n構造120(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は220)は、微結晶またはナノ結晶構造を有する。
【0106】
好ましくは、第1の実施形態400(または第2の実施形態400T)は、その上にさらなる材料の層または領域が堆積される基板101(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は基板201)の上で実行される。
【0107】
好ましくは、基板101(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は基板201)は、太陽電池装置100(またはタンデム型太陽電池装置200)を生成する際に正常に協働するように、p-i-n接合を支持および強化するのに適した任意選択の材料から形成される。例えば、いくつかの実施形態において、基板101(またはタンデム型太陽電池装置200を作製する場合は基板201)は、ガラス基板、ポリマー基板、金属基板または複合材料等である。
【0108】
以下において説明をより簡潔且つ明確にするために、本方法の第1の実施形態400と第2の実施形態400Tとの間で共通するステップは、「/」の記号を用いて簡潔に示す。
【0109】
図6または
図7に示す実施形態400/400Tは、好ましくはCVD法を用いて、基板101/201の上に、n型透明導電酸化物(TCO)層102/202を堆積するステップ402/402Tから基本的に開始する。
【0110】
好ましくは、n型透明導電酸化物(TCO)層102/202は、機器に十分な透過性と導電性を提供するのに適した任意選択の材料を含む。例えば、いくつかの実施形態において、n型透明導電酸化物(TCO)層102/202は、酸化カドミウムスズ(Cd2SnO4)、酸化スズ(SnO)、二酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)またはインジウム-酸化スズ(ITO)のようなこれらの組み合わせ等を含む。
【0111】
いくつかの実施形態において、n型透明導電酸化物(TCO)層102/202は、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)またはスズ(Sn)のようなさらなるドーパントを含む。
【0112】
図8に示す本方法の好ましい第1の実施形態400によれば、CVD法は、PECVD装置600によって実施されたPECVD法を用いたプラズマ活性化ステップを含むよう構成される。
【0113】
代替的に、本明細書に記載のCVD法を実施するための他の使用可能な装置の一例として、熱線CVDや誘導結合型プラズマCVD等が挙げられる。CVD法は、本方法の実施形態400/400Tのステップ402/402Tにおいて、as-grownで凹凸構造を有するn型透明導電酸化物(TCO)層102/202が作製されるという本質的な利点を提供する。これにより、光のトラッピングを増大させて、光吸収が向上する。
【0114】
好ましくは、PECVD装置600を用いて得られた実施形態400/400Tの堆積条件を調整して、n型透明導電酸化物(TCO)層102/202としてZnOを堆積することで、光学的ヘイズ特性を調整することができる(ここで、ヘイズとは、TCOを通過した拡散透過率と全透過率との間の比である)。
【0115】
太陽電池装置100/タンデム型太陽電池装置200におけるそれぞれの方法の実施形態400/400Tのステップ403/403cにおいて、微結晶またはナノ結晶p型層103/203が適宜作製される。
【0116】
好ましくは、微結晶またはナノ結晶i型層104の光子吸収を向上させるために、微結晶またはナノ結晶p型層103は、SiCまたはSiOxまたはSixNyまたはそれらの組み合わせを含むよう作製される。
【0117】
好ましくは、微結晶またはナノ結晶p型層103は、堆積パラメータを設定するよう作製される。これにより、微結晶またはナノ結晶またはアモルファスまたは混合相構造がそれぞれ作製される。
【0118】
次に示す堆積パラメータは、堆積プロセス中に用いることができる条件の一例である。H2:2l~90l、SiH4:5sccm~1000sccm、PH3:0.5sccm~20sccm、CO2:10sccm~1000sccm。
【0119】
特に大面積の堆積における好ましいパラメータセットは、H2:90l、SiH4:250sccm、PH3:14sccm、CO2:500sccmである。
【0120】
さらなる実施形態において、微結晶またはナノ結晶またはアモルファスp型層103は、水素原子Hを含むよう作製される。
【0121】
また、好ましくは、p型層103は、シリコン-酸素Si-Oまたはシリコン-炭素Si-Cからなる合金を含むよう作製される。
【0122】
一実施形態によれば、微結晶またはナノ結晶p型層103内のドーパントは、例えば、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、またはそれらの組み合わせのようなIII族元素である。さらに好ましくは、プラズマ堆積プロセスにおいてAlやGaよりもその使用方法および取り扱いが容易且つ安全であるという特性を有するBを含む前駆体ガスが使用される。
【0123】
有利には、微結晶またはナノ結晶p型層103を正確に堆積するために、PECVD装置600のプロセスパラメータは、細かく制御、監視および調整される。
【0124】
図6では、このステップを第1の実施形態400においてステップ403として示し、第2の実施形態400Tにおいてステップ403cとして示す。特に、H
2によって誘発されるZnO面の改質によるインキュベーション時間を最小限に抑えるのに十分低いH
2/SiH
4比が有利に画定される。このようにして、アモルファス相が存在することなく、微結晶相またはナノ結晶相内で完全に合体できるよう十分に高い、低密度の核形成微結晶子またはナノ結晶子の形成を防止することができる。SiH
4/(SiH
4+H
2)およびB
2H
6/(SiH
4+B
2H
6)の典型的な値は、p型層103のアモルファス相構造においてそれぞれ4%~5%および約4%~8%であり、p型層103の結晶相構造においてそれぞれ0.5%および0.4%である。
【0125】
好ましくは、微結晶またはナノ結晶またはアモルファスp型層103を堆積するステップ403/403c中に使用される堆積率は、空乏領域を増大させるH2によって誘発される蓄積層を低減させるのに十分に高い。このプロセスの特徴は、SiH4の流れが0.36slmに設定され、プラズマ発生装置の電力が0.1W/cm2に設定されることに依存する。いくつかの実施形態において、ドーパントは、トリメチルホウ素(B(CH3)3またはTMB)、ジボラン((BH3)2)、三フッ化ホウ素(BF3)、トリエチルホウ素(B(C2H5)3またはTEB)等を含む前駆体を有利に使用したホウ素化合物である。微結晶またはナノ結晶またはアモルファスまたは混合相p型層103/203の適切なドーピングを得るために、SiH4の流れを0.3slmに建設的に設定して且つH2の流れを100slmに建設的に設定した状態で、B2H6またはTMBの流れを0~100sccmの範囲に制御する必要がある。
【0126】
図1、
図2、
図6および
図7に示すように、本方法の実施形態400/400Tの次のステップ404/404cにおいて、(ステップ500/500cに従って形成される)微結晶またはナノ結晶p-i-n構造120/220内の微結晶またはナノ結晶またはアモルファスまたは混合相p型層103/203の上に、微結晶またはナノ結晶i型層104/204が堆積される。好ましくは、微結晶またはナノ結晶i型層104/204は、20nm~2000nmの範囲の厚さを有する。いくつかの実施形態において、微結晶またはナノ結晶またはアモルファスまたは混合相i型層104/204は、シリコンSi、炭化シリコンSiC、酸化シリコンSiO、またはシリコンおよび水素Si-Hの組み合わせ等を含む。
【0127】
好ましくは、SiH4/(SiH4+H2)は、微結晶およびナノ結晶において0.3%~2%の範囲の濃度を有し、アモルファス相において2%~10%の範囲の濃度を有する。これにより、適切な結晶構造が確保される。
【0128】
次に、
図1および
図2に示すように、本方法の実施形態400/400Tのステップ405/405cにおいて、(ステップ500/500cにおいて形成される)微結晶またはナノ結晶p-i-n構造120/220内の微結晶またはナノ結晶i型層104/204の上に、微結晶またはナノ結晶n型層105/205が堆積される。好ましくは、微結晶またはナノ結晶n型層105/205は、アモルファス相を含み、好ましい実施形態によれば、10nm~20nmの範囲の厚さを有する。いくつかの実施形態において、微結晶またはナノ結晶n型層105は、シリコンSi、炭化シリコンSiC、またはシリコンおよび水素Si-Hの組み合わせ等を含む。SiH
4/(SiH
4+H
2)比は、バルク堆積において10%であり、微結晶np接合を有する界面において0.7%まで低減される。
【0129】
好ましくは、微結晶またはナノ結晶n型層105/205は、電荷収集を向上させて太陽電池装置100の効率を向上させるのに適したドーパントを含む。特に適切なドーパントは、リンP、ヒ素As、またはアンチモンSb等のような任意選択のV族元素である。
【0130】
好ましくは、微結晶またはナノ結晶n型層105/205は、リンおよび酸素原子を含むn型ドナー115/215を備える。
【0131】
好ましくは、n型ドナー115/215は、n型層105の全原子組成に対して5%~25%の範囲の原子濃度を有する酸素原子を含む。
【0132】
好ましくは、n型ドナー115/215は、微結晶またはナノ結晶n型層105/205の微結晶またはナノ結晶構造を強化する。
【0133】
好ましくは、n型ドナー115/215および微結晶またはナノ結晶n型層105/205は、CVD法を用いて堆積される。
【0134】
図6および
図7に示す本方法の実施形態400/400Tのステップ405b/405dにおいて、n型ドナー115/215は、微結晶またはナノ結晶n型層105/205の作製中にリンおよび酸素を共堆積することで作製される。
【0135】
このような共堆積は、CO2、SiH4およびPH3をプロセスガスとして使用することで得ることができる。
【0136】
好ましくは、CO2/SiH4原子比の最適な範囲は、0.2~2.5であり、これにより、堆積チャンバ内で500Pa~1800Paの範囲の処理圧力が誘発される。
【0137】
好ましくは、堆積プロセスは、140℃~200℃の範囲の温度を有する処理チャンバで実施される。
【0138】
好ましくは、金属バッキング層106(またはタンデム型太陽電池装置200の場合は206)は、CVD法またはPVD法等の任意選択の適切な堆積技術を用いて、本明細書の記載に従って形成される。例えば、金属バッキング層106/206は、いくつかの実施形態においてPECVD法を用いて形成され、他のいくつかの実施形態においてマグネトロンスパッタリングを用いて形成される。
【0139】
金属バッキング層106/206を堆積した後に、本方法の実施形態400/400Tの全ステップが終了する。これにより、太陽電池装置100(またはタンデム型太陽電池装置200)は、太陽電池装置100(またはタンデム型太陽電池装置200)を仕上げるまたは完成させる目的で任意に選択される技術を用いてさらなる処理が施されるのに適した状態となる。
【0140】
好ましくは、タンデム型太陽電池装置200を作製する方法である実施形態400Tは、
・ n型透明導電酸化物(TCO)102と、n型層105を備えるp-i-n構造120/220との間に、さらなるp-i-n構造221を堆積してタンデム型太陽電池装置200を作製するステップをさらに含む。
【0141】
好ましくは、上記さらなるp-i-n構造221は、アモルファスp-i-n構造を有する。
【0142】
好ましくは、p-i-n構造120は、微結晶またはナノ結晶構造を有する。
【0143】
図2に示すアモルファスp-i-n構造221は、アモルファスp型層223と、アモルファスi型層224と、アモルファスn型層225とを備える。
【0144】
好ましくは、アモルファスp-i-n構造221を形成するための堆積シーケンス500aは、
・ n型タンデム透明導電酸化物(TCO)層202の上に、アモルファスp型層223を堆積するステップ403aと、
・ アモルファスp型層223の上に、アモルファスi型層224を堆積するステップ404aと、
・ アモルファスi型層224の上に、アモルファスn型層225を堆積するステップ405aと
を含む。
【0145】
図2および
図7に示す実施形態によれば、タンデム型太陽電池装置200のアモルファスn型層225の上に、微結晶またはナノ結晶p-i-n構造220内の微結晶またはナノ結晶p型層203が堆積される。
【0146】
さらなる実施形態によれば、アモルファスp-i-n構造221は、先行技術において利用可能な任意選択の技術的装置を用いて作製される。
【0147】
好ましくは、アモルファスp-i-n構造221は、CVD法またはPVD法を用いて作製される。
【0148】
図10に示す実施形態によれば、本方法は、i型層104またはヘテロ接合i型層304と、n型層105、またはヘテロ接合n型ドナー315を備えるヘテロ接合n型層305との間に、ヘテロ接合n型結晶層304aおよびヘテロ接合i型アモルファス層304bを堆積して、ヘテロ接合型太陽電池装置300を作製するステップを備える。好ましくは、太陽電池の構造を最適化するために提案された本解決策は、p-i-n構成の水素化微結晶または水素化ナノ結晶シリコン太陽電池に適用されることに留意されたい。また、提案された技術的解決策は、シングル型太陽電池装置におけるμc-Si:Hのp-i-n、またはタンデム型太陽電池装置、またはμc-Si:Hのp-i-nのボトム太陽電池と直列に積層されたa-Si:Hのp-i-nのトップ太陽電池を含む一般的な多数接合(3つまたは4つの接合)にも適している。本明細書に記載した技術的解決策は、a-SiGe:Hおよびμc-SiGe:Hを含む水素化Si合金を用いた太陽電池にも適用することができる。
【0149】
上述した特定の組成範囲においてリンでnドープされたμc-Si:H層に酸素を共ドープするステップを含む提案された解決策によって、μc-Si:Hのp-i-n構造を有するリンドープされたn型微結晶シリコン太陽電池のドーピング効果を増大させることができる。
【0150】
したがって、この条件は、太陽電池の曲線因子を増加させる。これは、金属バッキング層から真性μc-Si:Hの吸収体層への反射光の量を向上させてJscを増加させ、また、μc-Si:Hのp-i-n接合のi/n界面における正孔に対する障壁を増加させる。
【0151】
さらに、上記の実装例は、n型層の全原子組成に対して7%以下の原子濃度を有する酸素を含む微結晶n型層を使用するタンデム型太陽電池(アモルファスと微結晶p-i-n構造が交互式)にも適用することができる。これにより、太陽電池の出力が最大10%増加して、太陽電池の効率が大幅に向上する。