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特開2024-109837抗体及びその断片を使用した免疫チェックポイント阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の局所治療
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  • 特開-抗体及びその断片を使用した免疫チェックポイント阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の局所治療 図1
  • 特開-抗体及びその断片を使用した免疫チェックポイント阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の局所治療 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109837
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】抗体及びその断片を使用した免疫チェックポイント阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の局所治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240806BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 9/28 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240806BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240806BHJP
   C07K 16/24 20060101ALN20240806BHJP
【FI】
A61K39/395 U ZNA
A61K39/395 D
A61P35/00
A61P1/12
A61P1/04
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K47/32
A61K47/38
A61K47/36
A61K47/26
A61K9/48
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/28
A61K9/02
A61K9/06
A61K9/08
A61K39/395 U
C12N15/13
C07K16/24
【審査請求】有
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084405
(22)【出願日】2024-05-23
(62)【分割の表示】P 2021529755の分割
【原出願日】2019-12-06
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2018/084057
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】518330316
【氏名又は名称】ティロッツ ファーマ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】TILLOTTS PHARMA AG
【住所又は居所原語表記】Baslerstrasse 15,4310 Rheinfelden Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】フラー、エスター マリア
(72)【発明者】
【氏名】ベラム、フェリペ
(72)【発明者】
【氏名】ブラボ、ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】スプライス、ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ネデリコヴィチ ポティック、マリヤーナ
(72)【発明者】
【氏名】ゲスナー、オルトルッド
(72)【発明者】
【氏名】ブルーノ、クリスティーナ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】免疫チェックポイント(ICP)阻害剤による癌の治療により誘発された胃腸管の有害事象を治療又は予防するための医薬組成物を提供する。
【解決手段】腫瘍壊死因子α(TNFα)に特異的な抗体、およびFab断片、F(ab')2断片、Fab’断片、scFv、dsFv、二重特異性抗体、トリアボディ、テトラボディ、Fc融合タンパク質、ラクダ科抗体、VHH、VNAR、及びミニボディを含む、その機能的断片と誘導体からなる群から選択される活性剤を含む、医薬組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における癌治療によって誘発された、1つまたは複数の免疫チェックポイント(ICP)阻害剤によって誘発された胃腸管の少なくとも1つの有害事象の治療または予防のための、腫瘍壊死因子α(TNFα)に特異的な抗体、およびFab断片、F(ab')2断片、Fab’断片、scFv、dsFv、二重特異性抗体、トリアボディ、テトラボディ、Fc融合タンパク質、ラクダ科抗体、VHH、VNAR、及びミニボディを含む、その機能的断片と誘導体からなる群から選択される活性剤を含む、医薬組成物であって、ここで、前記治療または予防が、前記患者の回腸及び/または大腸への前記組成物の局所投与を含み、前記患者が、癌患者であり、かつ前記患者が、1つまたは複数のICP阻害剤による治療も受けており、前記1つまたは複数のICP阻害剤による治療が4週間未満中断された、医薬組成物。
【請求項2】
前記治療が中断されない、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記有害事象が、ICP阻害剤誘発性下痢、ICP阻害剤誘発性大腸炎、ICP阻害剤誘発性腸炎、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、前記請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎、及び/または腸炎が、1級毒性または2級毒性を特徴とする、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記治療が、前記ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎、及び/または腸炎のより高い等級の毒性への進行を防止する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記予防が、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎、及び/または腸炎の予防的治療を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記患者が、同時に1つまたは複数のICP阻害剤による治療を受けている、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記患者が、ICP阻害剤誘発性下痢を罹患しているが、ICP阻害剤誘発性大腸炎またはICP阻害剤誘発性腸炎を罹患していなく、前記組成物が、該患者におけるICP阻害剤誘発性大腸炎及び/またはICP阻害剤誘発性腸炎の進行または発症を予防するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記患者が、2級毒性のICP阻害剤誘発性下痢に罹患している、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記患者が、1級毒性のICP阻害剤誘発性下痢に罹患している、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記1つまたは複数のICP阻害剤が、細胞毒性Tリンパ球関連タンパク質-4(CTLA-4)に特異的な抗体、プログラムされた細胞死タンパク質-1(PD-1)に特異的な抗体、及びプログラムされたデスリガンド1(PD-L1)に特異的な抗体からなる群から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記PD-1に特異的な抗体が、ペンブロリズマブ及びニボルマブからなる群から選択され;前記PD-L1に特異的な抗体が、アテゾリズマブ、アベルマブ、及びデュルバルマブからなる群から選択され;または、前記CTLA-4に特異的な抗体が、イピリムマブ及びトレメリムマブからなる群から選択される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記TNFαに特異的な抗体及びその機能的断片が、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブ、ならびにそれらの機能的断片及び誘導体からなる群から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記TNFαに特異的な抗体及びその機能的断片の重鎖のアミノ酸配列が、
i)アミノ酸233P、234V、235A、及びアミノ酸位置236での欠失;及びアミノ酸434Aまたはアミノ酸252Y、254T及び256E;また、任意選択でアミノ酸239D、330L及び332Eまたはアミノ酸326A、332E及び333A;及び/または、
ii)アミノ酸380A及び434A、及び任意選択でアミノ酸307T;及び/または、
iii)アミノ酸434W、及び任意選択でアミノ酸428E及び/またはアミノ酸311R
(ここで、前記アミノ酸付番はEU付番を指す。)
を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記局所投与が、前記医薬組成物の経口投与を含むか、またはそれからなる、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記医薬組成物が、遅延放出製剤である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記医薬組成物が、ペレット、顆粒、微粒子、ナノ粒子、ミニ錠剤、球体、カプセル、錠剤、または胃腸(GI)管の回腸、回腸結腸領域または大腸に入る前に前記活性剤の放出を防止する遅延放出コーティングでコーティングされた多粒子薬物送達システムの形態の固体剤形である、請求項15または16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記遅延放出コーティングが、ポリビニルアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートHP-50、HP-55またはHP-55S、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートコハク酸塩(HPMCAS)、ポリ(メタクリル酸、アクリル酸エチル)1:1、ポリ(メタクリル酸、メタクリル酸メチル)1:1、ポリ(メタクリル酸、メタクリル酸メチル)1:2、コンドロイチン硫酸、ペクチン、グアーガム、キトサン、イヌリン、ラクツロース、ラフィノース、スタキオース、アルギン酸塩、デキストラン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクタン、アミロース、シクロデキストリン、プルラン、カラギーナン、スクレログルカン、キチン、カードラン、レバン、アミロペクチン、デンプン、難消化性デンプン、アゾ結合分解細菌によって分解されたアゾ化合物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
徐放性コーティングまたは徐放性マトリックスを含む、請求項15~18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記徐放性コーティングまたは徐放性マトリックスが、時間によって崩壊する材料を含む、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記時間によって崩壊する材料が、ポリ(アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル)2:1;ポリ(アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、塩化トリメチルアンモニオエチルメタクリレート)1:2:0.1;エチルセルロース;ポリ(アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、塩化トリメチルアンモニオエチルメタクリレート)1:2:0.2;ポリビニル酢酸; 及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記組成物が、遅延放出コーティングでコーティングされた徐放性コアを含む、請求項15~21のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記組成物が、コア、徐放性コーティング、及び遅延放出コーティングを含む、請求項15~21のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記治療が、前記組成物の直腸投与を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
組成物が、浣腸液、ゲル、発泡体、または坐剤である、請求項24に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、患者における癌治療によって誘発された、好ましくは1つまたは複数の免疫チェックポイント(ICP)阻害剤によって誘発された胃腸管の少なくとも1つの有害事象の局所治療における、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)に特異的な抗体分子、機能的断片及び誘導体を含む組成物の使用に関する。特に、本発明は、免疫チェックポイント(ICP)阻害剤誘発性下痢、大腸炎及び/または腸炎の局所治療における、特に癌治療としてのICP阻害剤の服用を止めていない患者におけるそのような組成物の治療的使用、並びに、ICP阻害剤による治療を受けている患者におけるICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎及び/または腸炎の少なくとも部分的な予防または治療としてのそのような組成物の使用に関する。
【背景】
【0002】
近年、いわゆる免疫チェックポイント(ICP)を標的とし、それによって癌細胞に対する免疫系を活性化する阻害剤の使用が、有望な新しい癌治療戦略として浮上してきた。
【0003】
既存の免疫応答を「非阻害」する、または免疫応答の開始を非阻害する免疫刺激剤であるICP阻害剤は、特定の種類の癌の治療に非常に効果的であることが示されている。ICP阻害剤の探索において、近年最も注目されているICPメンバーは、プログラムされたデス-1(PD-1)、プログラムされたデス-リガンド1(PD-L1)、及び細胞毒性Tリンパ球関連タンパク質-4(CTLA-4)である。例えば、PD-1、PD-L1、及びCTLA-4阻害剤は、悪性黒色腫、悪性非小細胞肺癌、頭頸部扁平上皮癌、及び腎細胞癌の患者の全生存期間を改善する大きな可能性を示している(Wangら、Inflamm Bowel Dis、24(8):1695-1705、2018年7月)。さらに、悪性リンパ腫の患者においても、ICP阻害剤は第I相及び第II相臨床試験で有望な結果を示し、PD-1阻害剤であるニボルマブは、2016年5月に食品医薬品局によって再発または難治性の古典的ホジキンリンパ腫の治療薬として承認された(Hudeら、Haematologica、2017年1月、102(1):30-42)。
【0004】
CTLA-4、PD-1、及びそのリガンドは、T細胞機能及びその他の細胞機能の全ての段階で重要な役割を果たす共シグナル伝達分子のB7-CD28ファミリーのメンバーである。PD-1受容体は、活性化T細胞(及びB細胞)の表面に発現し、通常の状況では、樹状細胞やマクロファージ等の抗原提示細胞の表面に発現するリガンド(PD-L1及びPD-L2)に結合する。この相互作用はT細胞に信号を送り、本質的にそれをオフにするか、抑制する。
【0005】
現在、細胞傷害性T細胞の活性化、増殖、及び機能を阻害する経路を標的とする利用可能なICP阻害剤には、CTLA-4、PD-1、及びPD-L1に特異的な抗体が含まれる。例えば、PD-1またはPD-L1のいずれかを標的とするモノクローナル抗体は、この結合を遮断し、癌細胞に対する免疫応答を増強させることができる。これらの阻害剤は、様々な種類の癌の治療に非常に有望であることが示されている。
【0006】
ICP阻害剤による患者の固有の適応免疫システムの増強は腫瘍制御の改善につながるが、非特異的免疫活性化は、多くの場合、様々な臓器系、特にICP阻害剤誘発性大腸炎、腸炎、及び/または下痢等の胃腸(GI)管に影響を与える免疫関連の有害事象の発症をもたらす。実際、臨床試験の結果は、最も一般的な重篤または生命を脅かす(3級及び4級)免疫関連の有害事象が消化管で発生することを示している(Wangら, Inflamm Bowel Dis, 24(8):1695-1705, 20187月; Wang DYら「免疫チェックポイント阻害剤に関連する致命的な毒性作用」,「総説及び代謝分析」,JAMA Oncol. 2018年9月13日にオンラインで公開、doi:10.1001/jamaoncol.2018.3923)。
【0007】
例えば、ICP阻害剤誘発性大腸炎等の消化管に関連する免疫関連の有害事象は、CTLA-4阻害剤で治療された患者の約21%~44%で報告されており、PD-1/PD-L1阻害剤で治療された患者ではやや少ない頻度で報告されている(Wangら、Inflamm Bowel Dis、24(8):1695-1705、2018年7月)。
【0008】
大腸炎は、大腸/結腸の炎症を特徴とする障害である。小腸炎は、小腸の炎症を特徴とする障害として定義されている。腸炎は、小腸と大腸/結腸の両方の炎症、即ち腸炎と大腸炎の組み合わせを特徴とする障害である。ICP阻害剤誘発性大腸炎を特徴付ける症状には、下痢、腹痛、吐き気、けいれん、血便や粘液、排便習慣の変化、発熱、腹部膨満、便秘、便秘等がある(Brahmerら、「免疫チェックポイント阻害剤療法で治療された患者における免疫関連の有害事象の管理」:米国臨床腫瘍学会(ASCO)診療ガイドライン、J Clin Oncol.2018年6月, 10;36(17):1714-1768)。ICP阻害剤誘発性腸炎を特徴付ける症状には、ICP阻害剤誘発性大腸炎に関する上記の症状が含まれる。
【0009】
免疫チェックポイント阻害剤療法の治療を受ける患者における免疫関連有害事象の管理に関するASCO診療ガイドラインに記載されているように、ICP阻害剤誘発性大腸炎の重症度は、下痢に関する国立がん研究所のCTCAEバージョン4に基づいて、臨床的に4つの等級に分類できる。1級の特徴:ベースラインを超える1日あたり4回未満の下痢と、ベースラインと比較してオストミー出力の軽度の増加。2級の特徴:ベースラインを超える1日あたり4~6回の下痢と、ベースラインと比較してオストミー出力の中程度の増加。3級の特徴:ベースラインを超える1日あたり7回以上の下痢;失禁;便量の大幅な増加;ベースラインと比較してオストミー出力の大幅な増加;そして入院が示唆される。4級の特徴:ベースラインを超える1日あたり8以上の下痢。全体的に3級と同じ症状であるが、穿孔、腸閉塞、発熱等の生命を脅かす症状が伴い、通常、入院が必要である(Brahmerら、「免疫チェックポイント阻害剤療法で治療された患者における免疫関連の有害事象の管理」:米国臨床腫瘍学会診療ガイドライン、J Clin Oncol. 2018年6月, 10;36(17):1714-1768)。ICP阻害剤誘発性大腸炎または腸炎の患者に同等な等級分類を適用できる。
【0010】
ICP阻害剤誘発性大腸炎及び腸炎の治療は、通常、症状の重症度に基づいており、中等度から重度の症状に対して全身投与されたコルチコステロイドによる免疫抑制が含まれ、ステロイド抵抗性の場合は、インフリキシマブ等の生物学的製剤の全身投与が含まれる。
【0011】
ASCO実践ガイドラインは、下痢が一過性でない限り、ICP阻害剤誘発性大腸炎のコルチコステロイド投与に関連する2級毒性について、1 mg/kg/日のプレドニゾンまたは同等の初期用量から開始することを推奨している。コルチコステロイドによる治療中は、ICP阻害剤による治療を中止する必要がある。症状が1級以下に改善した場合、ICP阻害剤による治療を再開する前に、コルチコステロイドを少なくとも4~6週間かけて漸減させる必要がある。
【0012】
3級毒性については、ガイドラインは、1~2 mg/kg/日のプレドニゾンまたは同等の初期用量から開始するコルチコステロイドの投与を推奨している。患者が1級以下に回復した場合、PD-1及びPD-L1剤が再開される可能性がある一方で、CTLA-4剤を永久に中止することを検討する必要がある。症状が3~5日以上続くか、改善後に再発する場合は、コルチコステロイドまたは非コルチコステロイド免疫抑制剤(インフリキシマブ等)の静脈内投与を検討する必要がある。
【0013】
4級毒性については、ガイドラインは、症状が1級に改善するまで、1~2 mg/kg/日(メチル)プレドニゾロンまたは同等の用量でコルチコステロイドを静脈内投与し、その後4~6週間にわたってコルチコステロイドの漸減を開始することを推奨している。ICP阻害剤は永久に中止されるべきである。症状が2~3日以内に難治的であれば、5~10 mg/kgインフリキシマブ(例:2週間ごとに5 mg/kgのインフリキシマブ)の投与を検討する必要がある。ICP阻害剤の毒性の臨床管理に関するガイダンスは、Hryniewickiら, J Emerg Med. 2018年10月; 55(4):489-502にも記載されている。
【0014】
従って、持続性の2級のICP阻害剤誘発性大腸炎、及びほぼ全ての3/4級のICP阻害剤誘発性大腸炎は、通常、全身性コルチコステロイドによる管理が必要になる。予防的ステロイド(例:経口ブデソニド)の使用は、ICP阻害剤によって引き起こされる下痢または大腸炎の発症を治療するのに効果的であることが示されていない。全身性コルチコステロイドによる治療に抵抗性のある患者では、抗TNFα特異的抗体インフリキシマブのような非コルチコステロイドによる全身的治療が推奨される。ASCO実践ガイドラインによると、腸炎、ひいては一般的な腸炎も、大腸炎と同様に、コルチコステロイド及び/またはインフリキシマブよる治療ができる。
【0015】
コルチコステロイドには、特に長期間の使用や高用量で、いくつかの副作用がある。特に、コルチコステロイドで治療された患者は、感染症にかかりやすくなることがよくある。さらに、全身性コルチコステロイドの使用は、より高い感染率に加えて、骨粗鬆症、骨折、骨壊死、心血管リスクの増加、胃炎、消化性潰瘍疾患、糖尿病の悪化、緊張または落ち着きのなさ、高血圧、不眠、保水と腫れ、白内障または緑内障、筋力低下、突然の気分のむら、あざができやすい、及び体重増加を含む他の潜在的な副作用をもたらす。従って、コルチコステロイドによる長期の全身治療は避けるべきである。
【0016】
さらに、高用量(例:1~2 mg/kg/日プレドニゾンまたは同等物)のコルチコステロイドによる全身治療は、ICP阻害剤による治療の中断(または永久的な中止)を必要とする。このような中断は、これらのICP阻害剤の抗癌効果を損なう。従って、そのような中断を回避することが望ましい。
【0017】
免疫抑制効果を有する非ステロイド剤、例えば抗TNFα抗体は、インフリキシマブのような抗TNFα抗体も通常全身投与されるにもかかわらず、コルチコステロイドによる全身治療の有害な副作用の多くを共有しない。さらに、感染率は、全身性抗TNFα抗体の投与と比較して、全身性コルチコステロイドを長期間投与されたICP阻害剤誘発性大腸炎の患者の間で数値的に高いことが報告されている。従って、初期の非ステロイド免疫抑制療法によって、より好ましい全体的な結果が確実に得られる可能性がある(Wangら、J Immuno Ther Cancer(2018)6:37)。
【0018】
現在、抗TNFα特異的抗体を用いた重度のICP阻害剤誘発性大腸炎または腸炎の治療のための標準的な治療法は、静脈内注入による抗TNFα抗体の定期的な全身投与を伴う。しかし、癌患者における抗TNFα抗体の全身投与もまた、ICP阻害剤治療の中断を必要とし、それにより、ICP阻害剤による癌治療の成功を危うくする。
【0019】
さらに、静脈内投与は、急性注入反応、過敏症、アナフィラキシーショック等の合併症を引き起こす可能性がある。また、抗TNFα抗体の全身投与は、例えば感染性合併症を含む、患者におけるTNFαの免疫防御機能の全身的阻害に関連する多数のリスクを負う。さらに、全身的に投与された抗体に対する免疫原性は、それらの中和をもたらし、応答の二次的喪失をもたらす可能性がある。最後に、メラノーマとメルケル細胞癌が、インフリキシマブを含むTNF阻害薬療法で治療された患者で報告されている。
【0020】
従って、現在、中等度から重度の症状を伴う、ICP阻害剤誘発性大腸炎、腸炎及び/または下痢のような、消化管におけるICP阻害剤誘発性有害事象の治療は、ICP阻害剤治療の中断と、通常はステロイド性の免疫抑制剤の全身投与を必要とする。これは癌治療の有効性に有害であり、全身レベルで望ましくない副作用を引き起こし、黒色腫の場合は基礎疾患の再発をもたらす。
【0021】
消化管、特に回腸及び大腸の炎症組織をICP阻害剤による治療を中断する必要性なしで特異的に標的化できる、ICP阻害剤誘発性の下痢、大腸炎または腸炎等のICP阻害剤によって誘発された消化管の有害事象の代替治療が必要である。該治療は、全身投与を必要とせずに、消化管における阻害剤誘発性の有害事象によって影響を受ける組織の効果的な標的化を特に可能にすべきである。さらに、特に、腸閉塞や穿孔等の重篤な合併症を予防するための早期治療、ならびに緊急の内視鏡検査、入院、及び手術の必要性のために、ICP阻害剤による治療によって引き起こされる消化管に影響を与える副作用を予防する、または遅延させるための予防的治療も必要である。
【発明の概要】
【0022】
驚くべきことに、本発明者らは、消化管においてICP阻害剤によって誘発された免疫関連の有害事象を局所的に治療することにより、それによって全身性免疫抑制治療の必要性を排除することを発見し、これは、免疫抑制性TNFα特異的抗体またはその機能的断片による消化管での併用局所治療及びICP阻害剤による全身治療を可能にすることによってICP阻害剤による治療を停止する必要性を克服し、それによってICP阻害剤による成功した癌治療の妥協を回避する。癌を治療するためのICP阻害剤が15年以上知られているという事実にもかかわらず、ICP阻害剤療法の免疫関連の副作用を治療または予防するためにTNFα特異的抗体を局所投与できることは示唆されていない。
【0023】
本発明は、回腸及び/またはICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の大腸における局所治療に使用するための組成物を提供する。さらに、本発明は、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の予防的治療として、回腸及び/または大腸における局所治療に使用するための組成物を提供する。特に、本発明は、大腸炎または腸炎等の胃腸管に影響を与えるより重篤な有害事象を予防するために、ICP阻害剤誘発性下痢の早期治療に使用するための組成物を提供する。
【0024】
従って、本発明は、以下の[1]~[69]項で定義される主題に関する:
[1]患者の癌治療によって誘発された、好ましくは1つまたは複数の免疫チェックポイント(ICP)阻害剤によって誘発された胃腸管の少なくとも1つの有害事象の治療または予防に使用するための、腫瘍壊死因子α(TNFα)に特異的な抗体、その機能的断片、及び誘導体からなる群から選択される活性剤を含む医薬組成物、ここで、前記治療または予防が、前記患者の胃腸管の患部、例えば、前記患者の回腸及び/または大腸への前記組成物の局所投与を含み;
または、
患者の癌治療によって誘発された、好ましくは1つまたは複数の免疫チェックポイント(ICP)阻害剤によって誘発された胃腸管の少なくとも1つの有害事象の治療または予防に使用するための、腫瘍壊死因子α(TNFα)に特異的な抗体、その機能的断片、及び誘導体からなる群から選択される活性剤を含む医薬組成物、ここで、前記治療または予防が、前記患者への前記組成物の経口投与を含む。
[2]患者の癌治療によって誘発された、好ましくは1つまたは複数の免疫チェックポイント(ICP)阻害剤によって誘発された胃腸管の少なくとも1つの有害事象の進行または悪化を予防するのに使用するための、腫瘍壊死因子α(TNFα)に特異的な抗体、その機能的断片、及び誘導体からなる群から選択される活性剤を含む医薬組成物、ここで、前記予防が、前記患者の胃腸管の患部、例えば、前記患者の回腸及び/または大腸への前記組成物の局所投与を含み;
または、
患者の癌治療によって誘発された、好ましくは1つまたは複数の免疫チェックポイント(ICP)阻害剤によって誘発された胃腸管の少なくとも1つの有害事象の進行または悪化を予防するのに使用するための、腫瘍壊死因子α(TNFα)に特異的な抗体、その機能的断片、及び誘導体からなる群から選択される活性剤を含む医薬組成物、ここで、前記予防が、前記患者への前記組成物の経口投与を含む。
[3]1つまたは複数のICP阻害剤による治療、好ましくは全身治療を中断しないこと可能にする、[1]または[2]項による使用のための組成物。
[4]前記患者が、1つまたは複数のICP阻害剤による治療、好ましくは全身治療を受けている、[1]~[3]項のいずれか一項による使用のための組成物。
[5]1つまたは複数のICP阻害剤による治療が、4週間未満、好ましくは2週間未満、より好ましくは1週間未満、さらにより好ましくは5日、4日、3日、2日、または1日未満中断され、最も好ましくは該治療が中断されない、[4]項による使用のための組成物。
[6]前記患者が、ICP阻害剤誘発性大腸炎を罹患しているか、または発症するリスクがある、前項のいずれか一項による使用のための組成物。
[7]前記ICP阻害剤誘発性大腸炎が、1級毒性を特徴とし、任意選択で、前記治療または予防が、より高い等級の毒性への進行を防止する、[6]項による使用のための組成物。
[8]前記ICP阻害剤誘発性大腸炎が、2級毒性を特徴とし、任意選択で、前記治療または予防が、より高い等級の毒性への進行を防止する、[6]項による使用のための組成物。
[9]前記ICP阻害剤誘発性大腸炎が、3級毒性を特徴とし、任意選択で、前記治療または予防が、より高い等級の毒性への進行を防止する、[6]項による使用のための組成物。
[10]前記ICP阻害剤誘発性大腸炎が、4級毒性を特徴とする、[6]項による使用のための組成物。
[11]前記治療または予防が、1つまたは複数のICP阻害剤による治療の中止を防止する、[7]~[10]項のいずれか一項による使用のための組成物。
[12]前記患者が、ICP阻害剤誘発性腸炎に罹患しているか、または発症するリスクがある、前項のいずれか一項による使用のための組成物。
[13]前記ICP阻害剤誘発性腸炎が、1級毒性を特徴とし、任意選択で、前記治療または予防が、より高い等級の毒性への進行を防止する、[12]項による使用のための組成物。
[14]前記ICP阻害剤誘発性腸炎が、2級毒性を特徴とし、任意選択で、前記治療または予防が、より高い等級の毒性への進行を防止する、[12]項による使用のための組成物。
[15]前記ICP阻害剤誘発性腸炎が、3級毒性を特徴とし、任意選択で、前記治療または予防が、より高い等級の毒性への進行を防止する、[12]項による使用のための組成物。
[16]前記ICP阻害剤誘発性腸炎が、4級毒性を特徴とする、[12]項による使用のための組成物。
[17]前記治療または予防が、1つまたは複数のICP阻害剤による治療の中止を防止する、[13]~[16]項のいずれか一項による使用のための組成物。
[18]前記患者が、ICP阻害剤誘発性下痢に罹患しているか、または発症するリスクがある、前項のいずれか一項による使用のための組成物。
[19]前記ICP阻害剤誘発性下痢が、1級毒性を特徴とし、任意選択で、前記治療または予防が、より高い等級の毒性への進行を防止する、[18]項による使用のための組成物。
[20]前記ICP阻害剤誘発性下痢が、2級毒性を特徴とし、任意選択で、前記治療または予防が、より高い等級の毒性への進行を防止する、[18]項による使用のための組成物。
[21]前記ICP阻害剤誘発性下痢が、3級毒性を特徴とし、任意選択で、前記治療または予防が、より高い等級の毒性への進行を防止する、[18]項による使用のための組成物。
[22]前記ICP阻害剤誘発性下痢が、4級毒性を特徴とする、[18]項による使用のための組成物。
[23]前記治療または予防が、1つまたは複数のICP阻害剤による治療の中止を防止する、[19]~[22]項のいずれか一項による使用のための組成物。
[24]前記組成物が、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の患者における第一選択治療として使用するためであり、かつ/または、前記患者が、コルチコステロイドで治療されていなく、かつ/または、前記患者が、コルチコステロイドで治療された経験がない、前項のいずれかによる使用のための組成物。
[25]前記組成物が、ステロイド不応性のICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の患者における第二選択治療として使用するためである、前項のいずれかによる使用のための組成物。
[26]ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の予防的治療として、患者の回腸及び/または大腸の局所治療に使用するための、TNFαに特異的な抗体、その機能的断片、及び誘導体からなる群から選択される活性剤を含む医薬組成物。
[27]前記局所治療が、患者におけるICP阻害剤誘発性の有害事象、好ましくは患者の回腸及び/または結腸におけるICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に関連する3級毒性、好ましくは2級毒性、より好ましくは1級毒性、最も好ましくは、任意の症状の毒性の進行を防止する、[26]項による使用のための組成物。
[28]1つまたは複数のICP阻害剤による治療、好ましくは全身治療を同時に可能にする、[27]項による使用のための組成物。
[29]前記患者が、同時に1つまたは複数のICP阻害剤による全身治療を受けている、[26]~[28]項による使用のための組成物。
[30]前記組成物の使用が、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に関連する症状を予防または最小化及び/または減速させる、[26]~[29]項による使用のための組成物。
[31]前記ICP阻害剤が、リガンドのCTLA-4、PD-1、PD-L1、PDL2、B7-H3、B7-H4、BTLA、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、CSF-1R、VISTA、KIR、2B4、CD160、CGEN-15049、CHK1、CHK2、A2aR、ADAR1、CD47、ICOS、TIGIT、及びB-7ファミリーからなる群から選択される免疫チェックポイントを標的とすることができる、前項のいずれかによる使用のための組成物。
[32]前記1つまたは複数のICP阻害剤が、細胞毒性Tリンパ球関連タンパク質-4(CTLA-4)に特異的な抗体、プログラムされた細胞死タンパク質-1(PD-1)に特異的な抗体、及びプログラムされたデスリガンド1(PD-L1)に特異的な抗体からなる群から選択される、前項のいずれかによる使用のための組成物。
[33]前記PD-1に特異的な抗体が、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、セミプリマブ、及びチスレリズマブからなる群から選択され、前記PD-L1に特異的な抗体が、アテゾリズマブ、アベルマブ、及びデュルバルマブからなる群から選択され、また、前記CTLA-4に特異的な抗体が、イピリムマブ及びトレメリムマブからなる群から選択される、[32]項による使用のための組成物。
[34]前記1つまたは複数のICP阻害剤が、PD-1及び/またはPD-L1に特異的な抗体とCTLA-4に特異的な抗体の組み合わせ、好ましくはPD-1またはPD-L1に特異的な抗体とCTLA-4に特異的な抗体の組み合わせである、[32]または[33]項による使用のための組成物。
[35]前記1つまたは複数のICP阻害剤が、前記患者における免疫応答を調節する、前項のいずれか一項による使用のための組成物。
[36]前記1つまたは複数のICP阻害剤が、前記患者における腫瘍細胞の増殖を阻害する、前項のいずれか一項による使用のための組成物。
[37]前記患者が、感染症に罹患している、前項のいずれか一項による使用のための組成物。
[38]前記患者が、癌患者である、前項のいずれか一項による使用のための組成物。
[39]前記癌が、黒色腫、古典的なホジキンリンパ腫のようなリンパ腫、神経膠腫、尿路上皮癌、メルケル細胞癌、腎癌、頭頸部扁平上皮癌、前立腺癌、乳癌、結腸癌、及び肺癌からなる群から選択される、[38]項による使用のための組成物。
[40]前記癌が、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚または眼内の悪性黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、卵管の癌腫、子宮内膜の癌腫、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺の癌、副甲状腺の癌、副腎の癌、軟部肉腫、尿道の癌、陰茎の癌、慢性または急性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、小児の固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓または尿管の癌、腎盂の癌、中枢神経系(CNS)の新生物、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮癌、扁平上皮癌、T細胞リンパ腫、アスベストによって誘発されたものを含む環境的に誘発された癌、及び前記癌の組み合わせからなる群から選択される、[39]項による使用のための組成物。
[41]前記組成物が、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または、腸炎に関連する症状を予防、最小化、遅延、または緩和するために、患者の回腸または大腸の内腔に治療有効量のTNFα特異的抗体、またはその機能的断片、または誘導体を提供する、前項のいずれかによる使用のための組成物。
[42]前記TNFαに特異的な機能的抗体断片または誘導体が、Fab断片、F(ab')2断片、Fab'断片、scFv、dsFv、二重特異性抗体、トリアボディ、テトラボディ、Fc融合タンパク質、ラクダ科抗体、VHH、ボラボディ、VNAR、またはミニボディである、前項のいずれかによる使用のための組成物。
[43]前記TNFαに特異的な抗体、その機能的断片、及び誘導体が、最初に出願された、WO 2017/158092の請求項2、WO 2017/158097の請求項2、WO 2017/158079の請求項2、及び/またはWO2017/158084の請求項2に開示された、アミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)を含む軽鎖可変ドメイン及び/または重鎖可変ドメインを有する抗TNFα抗体及びその機能的断片及び誘導体から、及び、最初に出願された、WO2017/158079の請求項4、WO2017/158097の請求項5及び6、WO2017/158092の請求項5及び6、及びWO2017/158084の請求項4による、重鎖可変ドメインアミノ酸配列及び/または軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む抗TNFα抗体及びその機能的断片及び誘導体からのインフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブ、ならびにそれらの機能的断片及び誘導体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、前項のいずれかによる使用のための組成物。
[44]前記抗TNFα抗体が、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブペゴル、またはゴリムマブである、[43]項による使用のための組成物。
[45]前記抗TNFα抗体が、インフリキシマブである、[43]項による使用のための組成物。
[46]前記抗TNFα抗体が、アダリムマブである、[43]項による使用のための組成物。
[47]前記機能的断片または誘導体が、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブペゴル、またはゴリムマブの機能的断片または誘導体である、[1]~[43]項のいずれか一項による使用のための組成物。
[48]前記TNFαに特異的な抗体、またはその機能的断片または誘導体のアミノ酸配列が、
(i)アミノ酸233P、234V、235A、及びアミノ酸位置236での欠失;及びアミノ酸434Aまたはアミノ酸252Y、254T及び256E;また、任意選択でアミノ酸239D、330L及び332Eまたはアミノ酸326A、332E及び333A;及び/または、
(ii)アミノ酸380A及び434A、及び任意選択でアミノ酸307T;及び/または、
(iii)アミノ酸434W、及び任意選択でアミノ酸428E及び/またはアミノ酸311R
(ここで、前記アミノ酸付番はEU付番を指す。)
を含む、前項のいずれかによる使用のための組成物。
[49]前記活性剤が、配列番号:3に示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号:4に示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、及び配列番号:5に示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVLドメイン、及び、配列番号:6に示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号:7に示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、及び配列番号:8に示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVHドメインを含む抗体である、[1]~[43]及び[48]項のいずれか一項による使用のための組成物。
[50]前記活性剤が、配列番号:10に示されるアミノ酸配列を有するVLドメイン、及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列を有するVHドメインを含む抗体である、[1]~[43]及び[48]項のいずれか一項による使用のための組成物。
[51]前記活性剤が、配列番号:11に示されるアミノ酸配列のアミノ酸236~451を含むFc領域を含む抗体である、[1]~[43]、[49]及び[50]項のいずれか一項による使用のための組成物。
[52]前記活性剤が、配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖、及び配列番号:11、14、15または16に示されるアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体である、[1]~[43]項のいずれかによる使用のための組成物。
[53]前記治療が、前記組成物の経口投与を含む、前項のいずれか一項による使用のための組成物。
[54]前記組成物が、ペレット、顆粒、微粒子、ナノ粒子、ミニ錠剤、球体、カプセル、錠剤、または胃腸(GI)管の回腸、回腸末端または回腸結腸領域に入る前に活性剤の放出を防止する遅延放出コーティングでコーティングされた多粒子薬物送達システムの形態の固体剤形である、[53]項による使用のための組成物。
[55]前記遅延放出コーティングが、pHによって崩壊するコーティング材料、時間によって崩壊するコーティング材料、腸内環境における酵素的トリガーによって崩壊するコーティング材料、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含む、[54]項による使用のための組成物。
[56]前記pHによって崩壊するコーティング材料が、ポリ酢酸ビニルフタル酸エステル;トリメリテートセルロースアセテート;ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートHP-50、HP-55またはHP-55S;酢酸フタル酸セルロース;ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS);ポリ(メタクリル酸、アクリル酸エチル)1:1(Eudragit(登録商標)L100-55、Eudragit(登録商標)L30D-55);ポリ(メタクリル酸、メタクリル酸メチル)1:1(Eudragit(登録商標)L-100、Eudragit(登録商標)L12.5);ポリ(メタクリル酸、メタクリル酸メチル)1:2(Eudragit(登録商標)S-100、Eudragit(登録商標)S12,5、Eudragit(登録商標)FS30D)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択され;
前記時間によって崩壊するコーティング材料が、ポリ(アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル)2:1(例:Eudragit(登録商標)NM 30D、Eudragit(登録商標)NE 30D);ポリ(アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸7:3:1(例:Eudragit(登録商標)RS 30D);エチルセルロース(例:Surelease(登録商標)またはAquacoat ECD);ポリ(アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、塩化トリメチルアンモニオエチルメタクリレート)1:2:0.2(例:Eudragit(登録商標)RL 30D);ポリビニル酢酸(例:Kollicoat(登録商標)SR 30D);及びそれらの組み合わせから選択され、そして、
前記腸内環境における酵素的トリガーによって崩壊するコーティング材料が、ヘミセルロース、コンドロイチン硫酸;シクロデキストリン;ペクチン;グアーガム;キトサン;イヌリン;ラクツロース;ラフィノース;スタキオース;アルギン酸塩;デキストラン;キサンタンガム;ローカストビーンガム;アラビノガラクタン;アミロース;プルラン;カラギーナン;スクレログルカン;キチン;カードラン;レバン;アミロペクチン;デンプン;難消化性デンプン;アゾ結合分解細菌によって分解されたアゾ化合物;及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、[53]または[54]項による使用のための組成物。
[57]前記遅延放出コーティングが、pHによって崩壊する少なくとも1つのコーティング材料と、腸内環境における酵素的トリガーによって崩壊する少なくとも1つのコーティング材料との組み合わせを含む、[54]~[56]項のいずれか一項による組成物。
[58]前記遅延放出コーティングが、ヘミセルロース、ポリ酢酸ビニルフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートHP-50、HP-55またはHP-55S、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)、ポリ(メタクリル酸、アクリル酸エチル)1:1、ポリ(メタクリル酸、メタクリル酸メチル)1:1、ポリ(メタクリル酸、メチルメタクリレート)1:2、コンドロイチン硫酸塩、ペクチン、グアーガム、キトサン、イヌリン、ラクツロース、ラフィノース、スタキオース、アルギン酸塩、デキストラン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクタン、アミロース、シクロデキストリン、プルラン、カラギーナン、スクレログルカン、キチン、クルデュラン、レバン、アミロペクチン、デンプン、難消化性デンプン、アゾ結合分解細菌によって分解されたアゾ化合物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む、[54]~[56]項のいずれか一項による組成物。
[59]前記組成物の経口投与時に、前記抗体またはその機能的断片の放出が、回腸、回腸末端、回腸結腸領域、上行結腸、横行結腸、または下行結腸で始まる、[53]~[58]項のいずれか一項による組成物。
[60]前記遅延放出コーティングが、少なくとも1つのpH感受性(腸溶性)ポリマー、好ましくはポリ(メタクリル酸、メタクリル酸メチル)1:2(例:Eudragit(登録商標)SまたはL)と、ヘミセルロース、コンドロイチン硫酸、シクロデキストリン、キトサン、デキストラン、アラビノガラクタン、アミロース、プルラン、カラギーナン、スクレログルカン、キチン、カードラン、レバン、アミロペクチン、デンプン、難消化性デンプン、アゾ結合分解細菌によって分解されたアゾ化合物、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの多糖類、好ましくは難消化性デンプンとの組み合わせを含む、[54]~[59]項のいずれかによる組成物。
[61]前記遅延放出コーティングが、唯一のポリマーとして、1つまたは複数のpH感受性ポリマー、例えば、Eudragit(登録商標)S及び/またはLを含み;または、前記遅延放出コーティングが、実質的に少なくとも1つのpH感受性ポリマー、例えば、Eudragit(登録商標)S及び/またはLから成る、[54]~[59]項のいずれか一項による組成物。
[62]前記治療が、前記組成物の直腸投与を含み、かつ/または前記組成物が、浣腸液、ゲル、発泡体、または坐剤である、[1]~[52]項のいずれか一項による使用のための組成物。
[63]親水性ポリマー、充填剤、親水性結合剤、崩壊剤、粘着防止剤、界面活性剤、安定剤、プロテアーゼ耐性増強剤、可塑剤、合体剤、潤滑剤、緩衝剤、及び/または酸性化剤から選択される少なくとも1つの添加剤を含む、前項のいずれかによる使用のための組成物。
[64]前記活性剤を回腸及び/または結腸に直接送達するように設計された電子薬物カプセルであり、または、TNFα結合タンパク質を発現する遺伝子組み換え細菌によって提供される、前項いずれかによる使用のための組成物。
[65]前記局所治療が、胃腸壁における抗体またはその機能的断片の保持をもたらし、体の残りの部分へ主に全身放出しない、前項のいずれか一項による使用のための組成物。
[66]前記治療が、前記患者に前記抗体またはその機能的断片を、週に1回、週に2回、3日ごとに1回、2日ごとに1回、1日1回、1日2回、または1日3回投与することを含む、前項のいずれかによる使用のための組成物。
[67]前記患者の回腸、回腸末端、盲腸、上行結腸、横行結腸、及び/または下行結腸での局所治療における、前項のいずれかによる使用のための組成物。
[68]前記ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の局所治療が、4回未満のベースラインを超える排便を伴う下痢、4~6回のベースラインを超える排便を伴う下痢、7回以上のベースラインを超える排便を伴う下痢、8回以上のベースラインを超える排便を伴う下痢、腹痛、吐き気、けいれん、血便または粘液便、または排便習慣の変化、発熱、腹部膨満、便秘及び便秘症からなる群から選択される1つまたは複数の症状によって示される、前項のいずれかによる使用のための組成物。
[69]前記局所治療が、4回未満のベースラインを超える排便を伴う下痢、4~6回のベースラインを超える排便を伴う下痢、7回以上のベースラインを超える排便を伴う下痢、8回以上のベースラインを超える排便を伴う下痢、腹痛、吐き気、けいれん、血便または粘液便、または排便習慣の変化、発熱、腹部膨満、便秘及び便秘症からなる群から選択されたICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に関連する1つまたは複数の症状を予防、最小化及び/または減速、または緩和する、前項のいずれかによる使用のための組成物。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】0日目と比較した体重変化率を示している(実施例3参照)。データは平均値±SEとして表される。1群あたりn=5~12。
【0026】
図2】処置された動物の経時的組織学的スコア及び内視鏡検査スコアを示している(実施例3参照)。全群を媒体対照群と比較するために使用されるダネットの多重比較事後検定の一元配置分散分析で測定した場合、*:p<0.05。データは平均値±SEとして表される。1群あたりn=5~12。
【0027】
図3】屠殺日(49日目)の組織学的スコアを示している(実施例3参照)。全群を媒体対照群と比較するために使用されるダネットの多重比較事後検定の一元配置分散分析で測定した場合、**:p<0.01、***:p<0.005。データは平均値±SEとして表される。1群あたりn=5~12。
【0028】
図4】49日目に測定された、処置されたマウスの結腸におけるサイトカインの濃度を示している(実施例3参照)。全群を媒体対照群と比較するために使用されるダネットの多重比較事後検定の一元配置分散分析で測定した場合、*:p<0.05。データは平均値±SEとして表される。1群あたりn=5~12。
【0029】
図5】cV1q-huFc処置後の組織学的スコアへの影響を示している(実施例4参照)。42日目の近位、中部、及び遠位結腸における炎症、陰窩損傷、糜爛、過形成、及び浮腫の個別スコア(それぞれ0~5)の合計である総組織学的スコア。全群をそれぞれの媒体対照群と比較するために使用されるダネットの多重比較事後検定のクラスカル・ウォリスで測定した場合、*:p<0.05、**:p<0.01、****:p<0.0001。データは平均値±SEとして表される。1群あたりn=6~12。cV1qの腹腔内投与を対照として使用した。
【0030】
図6】結腸におけるサイトカインへの影響を示している(実施例4参照)。結腸組織におけるサイトカインをELISAで測定し、結果をmg組織重量に基準化した。全群を媒体対照群と比較するために使用されるダネットの多重比較事後検定の一元配置分散分析で測定した場合、*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.005、****:p<0.001。データは平均値±SEとして表される。1群あたりn=6~12。cV1qの腹腔内投与を対照として使用した。
【0031】
図7】直腸投与後の健康なマウス及び大腸炎Tg32-SCIDマウスにおけるcV1q-huFcの血漿中薬物平均濃度を示している(実施例5参照)。単回投与(SD)動物の場合は1、2、4、8、24、及び48時間に、反復投与(MD)動物の場合は初回投与の24、48、72、96、120、及び144時間後に血漿試料を採取した。Imperacer(登録商標)Immuno-PCRでcV1q-huFcの血漿中濃度を測定した。SD及びMDプロファイルは、採血の制限により2つのサブ群(SD:サブ群1から1、4、及び24時間、サブ群2から2、8、及び48時間。MD:サブ群1から24、72、及び120時間、サブ群2から48、96、及び144時間)に基づいている。データは平均値±SDとして表される(n=5~7)。
【0032】
図8】盲腸内投与後の健康なマウス及び大腸炎マウスのcV1q-huFc血漿濃度の中央値を示している(実施例6参照)。屠殺時、Tg32-SCIDマウスに単回投与してから1、4、8、12、及び24時間後、また、反復投与した動物では初回投与後120時間に血漿試料を採取した。Imperacer(登録商標)Immuno-PCRでcV1q-huFcの血漿中濃度を測定した。データは中央値±IQR(n=4)として示されている。IC:盲腸内; IR:直腸内。
【0033】
図9】盲腸内または直腸投与後の近位結腸及び遠位結腸におけるcV1q-huFc濃度の中央値を示している(実施例6参照)。屠殺時、Tg32-SCIDマウスに単回投与してから1、4、8、12、及び24時間後、また、反復投与した動物では初回投与後120時間に近位及び遠位結腸組織の試料を採取した。組織試料を濯ぎ、秤量し、0.3 mLのPBSでホモジナイズした。上清中のcV1q-huFc濃度は、市販のIgG ELISAで測定した。そして、得られた濃度(pg/mL)を組織重量に対して基準化した。データは中央値±IQR(n=4)として示されている。IC:盲腸内; IR:直腸内。*:中央値は、健康な動物では1時間と4時間、300 μgのcV1q-huFcで処置した大腸炎マウスでは1、4、及び8時間の近位結腸、また、100 μgのcV1q-huFcで処置した大腸炎マウスでは12時間後の遠位結腸におけるBLQであった。
【0034】
図10】ニボルマブ処置後のIFNγ産生に対するAb-REW及びインフリキシマブの効果を示している(実施例7参照)。CD14+単球をPBMCから単離し、GM-CSF及びIL-4を細胞培養培地に添加することにより、7日間で単球由来樹状細胞(mo-DC)に分化させた。CD4+ T細胞もPBMCから単離した。CD4+ T細胞及びmo-DCをT細胞とDC比5:1で組み合わせ、ニボルマブ(10 μg/mL)及び段階希釈したAb-REWまたはインフリキシマブ(50~0.003 μg/mL)と5日間インキュベートした。次に、細胞培養上清におけるIFNγの濃度をELISAで測定した。データは、n=3の平均値(±SE)として表される。可能な場合は、4-PL非線形回帰を実行した。下の点線は、未処理細胞からのIFNγの平均分泌を表している。上の点線は、ニボルマブのみの存在下でのIFNγの平均分泌を表している(全ての対照でn=6)。
【発明の詳細な説明】
【0035】
本発明は、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)に特異的な抗体、ならびに最も好ましい実施形態を表すその機能的断片及び誘導体に関して以下に記載される。以下に記載される全ての実施形態は、必要な変更を加えて他の標的(抗原)に向けられた抗体及び機能的断片及びその誘導体に等しく適用される。これらの抗体及びその機能的断片の標的には、IL-13等の抗炎症性サイトカイン及びそれらの受容体;CD20、IL-6、IL-12及びIL-23(IL-12/IL-23p40、IL-23p19)、IL-17、IL-21等の炎症誘発性サイトカイン及びそれらの受容体;MadCAM-1、ICAM-1等の細胞接着分子;CCR5、CCR9等のC-Cケモカイン受容体及びそれらのリガンド;alpha4beta7、beta7、alpha2beta1、alphaEbeta7等のインテグリン;TLR2、TLR9等のトール様受容体;Eotaxin-1等のエオタキシン;OX40等の腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーのメンバー;MMP-9等のマトリックスメタロタンパク質分解酵素;IP-10等のC-X-Cモチーフケモカイン;及びCD20等の他のタンパク質が含まれるが、これらに限定されない。好ましい標的は、α4β7インテグリン及びIL-23である。
【0036】
本発明の第1の態様によれば、本発明は、患者の癌治療によって誘発された、好ましくは1つまたは複数の免疫チェックポイント(ICP)阻害剤によって誘発された胃腸管の少なくとも1つの有害事象の治療または予防に使用するために、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)に特異的な抗体ならびにその機能的断片及び誘導体からなる群から選択される活性剤を含む医薬組成物に関し、ここで、前記治療または予防が、前記患者の回腸及び/または大腸への前記組成物の局所投与を含む。
【0037】
本発明はさらに、免疫チェックポイント(ICP)阻害剤誘発性大腸炎または腸炎または下痢を患っている患者の回腸及び/または大腸の局所治療に使用するため、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)に特異的な抗体ならびにその機能的断片及び誘導体からなる群から選択される活性剤を含む医薬組成物に関する。本発明の組成物は、1つまたは複数のICP阻害剤による全身治療を中断しないことを可能にする。これには、ICP阻害剤による癌治療の成功を損なう必要がないという利点がある。さらに、TNFαに特異的な抗体ならびにその機能的断片及び誘導体による局所治療は、コルチコステロイドの使用、ならびにTNFαに特異的な抗体ならびにその機能的断片及び誘導体の全身投与が不要であり、それによって、そのような治療の望ましくない副作用を最小限に抑えることを意味する。
【0038】
本発明の文脈において、「抗体」という用語は、クラスIgG、IgM、IgE、IgA、またはIgD(またはそれらの任意のサブクラス)に属するタンパク質として定義される「免疫グロブリン」(Ig)の同義語として使用され、全ての従来知られている抗体、機能的断片及びそれらの誘導体を含む。本発明の文脈において、抗体/免疫グロブリンの「機能的断片または誘導体」は、そのような親抗体の抗原結合特性を本質的に維持する、親抗体の抗原結合断片または他の誘導体として定義される。好ましい実施形態では、該抗体の機能的断片または誘導体は、少なくともエフェクター機能を示す機能的Fc部分を含む。一実施形態では、該抗体は、ヒトFcRnに結合することができる。
【0039】
抗体/免疫グロブリンの「抗原結合断片または誘導体」は、抗原結合領域を保持する断片(例:IgGの可変領域)または誘導体として定義される。抗体の「抗原結合領域」は、典型的には、抗体の1つまたは複数の超可変領域、即ち、CDR-1、-2、及び/または-3領域に見出される。本発明の「抗原結合断片」は、F(ab')2断片及びFab断片のドメインを含む。本発明の「機能的断片及び誘導体」には、Fab断片、F(ab')2断片、Fab’断片、scFv、dsFv、二重特異性抗体、トリアボディ、テトラボディ、Fc融合タンパク質、ボラボディ、ラクダ科抗体、VHH、VNAR、及びミニボディが含まれる。該F(ab')2またはFabドメインは、CH1ドメインとCLドメインの間で発生する分子間ジスルフィド相互作用を最小化または完全に除去するように遺伝子操作されてもよい。本発明の抗体または機能的断片は、二機能性または多機能性構築物の一部であってもよい。
【0040】
本発明の機能的断片及び誘導体には、Fab断片、F(ab')2断片、Fab’断片、scFv、及び二重特異性抗体が含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
Fab断片は、パパイン(EC 3.4.22.2)のようなシステインタンパク質分解酵素でTNFαに特異的な抗体を消化した後、精製された消化産物として得ることができる。F(ab')2断片は、ペプシン(EC 3.4.23.1)またはIdeS(Streptococcus pyogenes由来の免疫グロブリン分解酵素; EC 3.4.22)でTNFαに特異的な抗体を消化した後、精製された消化産物として得ることができる。Fab’断片は、穏やかな還元条件でF(ab')2断片から得ることができ、これにより、各F(ab')2分子は2つのFab’断片を生成する。
【0042】
scFvは、可変軽(「VL」)ドメイン及び可変重(「VH」)ドメインがペプチドブリッジによって連結されている一本鎖Fv断片である。
【0043】
「二重特異性抗体」は、リンカー等を介して結合された可変領域をそれぞれが有する2つの断片(以下、二重特異性抗体形成断片と呼ぶ)からなる二量体であり、通常、2つのVL及び2つのVHを含む。二重特異性抗体形成断片には、VLとVH、VLとVL、VHとVH等、好ましくはVHとVLからなる断片が含まれる。二重特異性抗体形成断片において、可変領域に結合するリンカーは、特に限定されないが、好ましくは、同じ断片内の可変領域間の非共有結合を回避するのに十分短い。そのようなリンカーの長さは、当業者によって適切に測定され得るが、典型的には、2~14個のアミノ酸、好ましくは3~9個のアミノ酸、特に4~6個のアミノ酸が使用される。この場合、同じ断片にコードされたVLとVHは、同じ鎖上のVLとVHの間の非共有結合を回避し、かつ別の断片との二量体を形成できるように単鎖可変領域断片の形成を回避するのに十分短いリンカーを介して結合される。前記二量体は、二重特異性抗体形成断片間の共有結合または非共有結合のいずれか、あるいはその両方を介して形成することができる。
【0044】
さらに、二重特異性抗体形成断片は、リンカー等を介して結合して、一本鎖二重特異性抗体(sc(Fv)2)を形成することができる。約15~20個のアミノ酸の長いリンカーを用いて二重特異性抗体形成断片を結合することにより、同じ鎖上に存在する二重特異性抗体形成断片間に非共有結合を形成して、二量体を形成することができる。二重特異性抗体を調製する場合と同じ原理に基づいて、三量体または四量体等の重合抗体も、3つ以上の二重特異性抗体形成断片を結合することによって調製することができる。
【0045】
一実施形態では、機能的な抗体断片または誘導体は、Fab断片、F(ab')2断片、Fab’断片、scFv、dsFv、二重特異性抗体、トリアボディ、テトラボディ、Fc融合タンパク質、ボラボディ、ラクダ科抗体、VHH、VNAR、またはミニボディである。本発明で使用される好ましい機能的断片または誘導体は、Fab断片、F(ab')2断片、Fab’断片、scFv、及び二重特異性抗体である。
【0046】
本発明の組成物に含まれる抗体またはその機能的断片または誘導体は、TNFαに特異的に結合するが、それ以外の点では特に限定されない。本明細書で使用される「抗TNFα抗体」、「TNFα抗体」、「TNFα特異的抗体」及び「TNFαに特異的な抗体」という用語は交換可能である。その最も一般的な形式で(そして定義された参照物が言及されていない場合)、例えば当技術分野で知られている特異性アッセイ法に従って決定される、ヒトTNFαと無関係の生体分子とを区別する抗体または機能的断片または誘導体の能力に対する「特異的」及び「特異的結合」。そのような方法は、ウエスタンブロット及び酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)試験を含むが、これらに限定されない。例えば、標準的なELISAアッセイを実施することができる。通常、結合特異性の測定は、単一の参照生体分子ではなく、粉乳、BSA、トランスフェリン等の約3~5個の無関係な生体分子のセットを使用して実行される。一実施形態では、特異的結合は、ヒトTNFαとヒトTNFβとを区別する抗体または断片の能力を指す。本発明の好ましい実施形態では、前記TNFα抗体またはその機能的断片は、TNFα抗体である。本発明の代替的に好ましい実施形態では、前記TNFα抗体またはその機能的断片は、TNFα抗体の機能的断片または誘導体である。
【0047】
本発明の好ましい態様において、本発明の抗体は、フコシル化されていない抗体またはフコシル化が低減された抗体である。本明細書で使用される「フコシル化が低減された抗体」という用語は、抗体のN-グリカンの90%未満がフコシル化されている抗体を指す。フコシル化率を測定する方法は当技術分野で知られている。一実施形態では、前記抗体のN-グリカンの75%未満、または50%未満、または25%未満がフコシル化されている。最も好ましくは、前記抗体のN-グリカンの10%未満がフコシル化されている。特定の実施形態では、本発明の抗体のN-グリカンは、いかなるフコースも含まない。好ましくは、前記抗体のN297(EU付番)におけるN-グリカンの90%未満がフコシル化されている。別の実施形態では、前記抗体のN297(EU付番)におけるN-グリカンの75%未満、または50%未満、または25%未満がフコシル化されている。最も好ましくは、前記抗体のN297(EU付番)におけるN-グリカンの10%未満がフコシル化されている。別の実施形態では、前記抗体のN297におけるN-グリカンは、フコースを含まない。
【0048】
非フコシル化抗体は、アフコシル化抗体とも呼ばれ、様々な方法で生成できる。例えば、CHO細胞におけるα1,6-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8)とGDP-マンノース4,6-デヒドラターゼ(GMD)の遺伝子の相乗的ノックダウンを用いて、完全にアフコシル化され、ADCCが強化されたモノクローナル抗体変異体を生成できる(例えば、今井、西谷ら、(2007)BMC Biotechnol.7, 84を参照)。α1,6-フコシルトランスフェラーゼの触媒コアをコードする領域でFUT8遺伝子を切断し、従ってCHO細胞の対応する酵素機能を破壊するジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を使用する方法を用いて、コアフコースを完全に欠くモノクローナル抗体を生成することができる(例えば、Malphettesら、(2010)Biotechnol.Bioeng.106, 774-783を参照)。
【0049】
フコシル化が低減された抗体は、2-デオキシ-2-フルオロ-2-フコース等のデコイ基質を培地に添加することにより調製でき(例えば、Dekkerら、(2016)Sci Rep 6:36964を参照)、これにより、IgG-Fcグリカンへのフコースの取り込みが減少する。
【0050】
別の実施形態では、本発明の抗体は、高いシアル酸含有量を有する。シチジル化の増加は、例えば、シチジン一リン酸-シアル酸合成酵素(CMP-SAS)、シチジン一リン酸-シアル酸トランスポーター(CMP-SAT)、及びα2,3-シアル酸転移酵素の同時遺伝子導入によって達成できる(例えば、Sonら、(2011)Glycobiology 21、1019-1028を参照)。
【0051】
好ましくは、pH6において、本発明の抗体のヒトFcRnに対する親和性は高い。pH6におけるヒトFcRnへの抗体の高親和性結合は、500 nM未満のKD値によって特徴付けられる。好ましくは、pH6における高親和性結合のKD値は、400 nM未満、または300 nM未満、または200 nM未満である。例えば、pH6における親和性を特徴付けるKD値は、1~500 nM、または2~400 nM、または3~300 nM、または4~200 nM、または5~100 nMの範囲であってもよい。
【0052】
一実施形態では、pH6におけるヒトFcRnに対する本発明の抗体の親和性は、pH6.0におけるヒトFcRnに対するインフリキシマブの親和性よりも大きい。
【0053】
ヒトFcRnに対する本発明の抗体の親和性は、好ましくは、表面プラズマ共鳴(SPR)によって測定される。
【0054】
TNFαに対するいくつかのモノクローナル抗体は、先行技術に記載されている。Meagerら(Hybridoma, 6, 305-311, 1987)は、組換えTNFαに対するマウスモノクローナル抗体を記載している。Fendlyら(Hybridoma, 6, 359-370, 1987)は、TNF上の中和エピトープを定義する際の組換えTNFαに対するマウスモノクローナル抗体の使用を記載している。さらに、国際特許出願WO 92/11383には、TNFαに特異的な、CDRグラフト化抗体を含む組換え抗体が開示されている。米国特許第5,919,452号は、抗TNFαキメラ抗体、及びTNFαの存在に関連する病状の治療におけるそれらの使用を開示している。さらなる抗TNFα抗体は、Stephensら(Immunology, 85, 668-674, 1995)、GB-A-2 246 570、GB-A-2 297 145、US 8,673,310、US 2014/0193400、EP 2 390 267 B1、US 8,293,235、US 8,697,074、WO2009/155723 A2、及びWO2006/131013 A2に開示されている。
【0055】
現在承認されている抗TNFα抗体には以下が含まれる:(i)キメラIgGモノクローナル抗体であるインフリキシマブ(Remicade(登録商標)、Inflectra(登録商標)、Remsima(登録商標))、(ii)IgG1 Fcを含むTNFR2二量体融合タンパク質であるエタネルセプト(Enbrel(登録商標))、(iii)完全ヒトモノクローナル抗体(mAb)であるアダリムマブ(Humira(登録商標))、(iv)PEG化Fab断片であるセルトリズマブペゴル(Cimzia(登録商標))、及び(v)ヒトIgG1モノクローナル抗体であるゴリムマブ(Simponi(登録商標))。本明細書における抗体またはその機能的断片または誘導体のINNへの言及は、そのバイオ後続品及びバイオ改良品を包含する。本発明の一実施形態では、前記抗TNFα抗体またはその機能的断片または誘導体は、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブペゴル、及びゴリムマブ、またはそれらの機能的断片または誘導体から選択される。本発明の別の実施形態では、前記抗体またはその機能的断片または誘導体は、WO2017/158092、WO2017/158097、WO 2017/158084、及びWO2017/158079に開示されている、抗TNFα抗体またはその機能的断片または誘導体から選択される。本発明のさらに別の実施形態では、前記抗体またはその機能的断片または誘導体の少なくとも1つは、PCT出願WO2017/158092、WO2017/158097、WO2017/158084、及びWO2017/158079に開示されている、アミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)を含む軽鎖可変ドメイン及び/または重鎖可変ドメインを有する抗TNFα抗体またはその機能的断片または誘導体である。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、前記抗体またはその機能的断片または誘導体は、WO2017/158079の配列番号:7、9、12、14、24及び25、WO2017/158097の配列番号:7~11及び6、WO2017/158092の配列番号:7~12、WO2017/158084の配列番号:1~4、7及び6に開示されている、アミノ酸配列を有する1つ以上のCDRを含む軽鎖可変ドメイン及び/または重鎖可変ドメインを有する抗TNFα抗体またはその機能的断片または誘導体、ならびにそれらの組み合わせから選択される。本発明の別の好ましい実施形態では、前記抗体またはその機能的断片または誘導体は、最初に出願されたWO2017/158079の請求項2、WO2017/158097の請求項2、WO2017/158092の請求項2、及び/またはWO2017/158084の請求項2に開示されている、アミノ酸配列を有するCDRを含む軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインを有する抗TNFα抗体またはその機能的断片または誘導体から選択される。本発明のさらに別の好ましい実施形態では、前記抗TNFα抗体またはその機能的断片または誘導体は、WO2017/158079の請求項4、WO2017/158097の請求項5及び6、WO2017/158092の請求項5及び6、及びWO2017/158084の請求項4による、重鎖可変ドメインアミノ酸配列及び/または軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を有する抗TNFα抗体またはその機能的断片または誘導体、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0057】
好ましい実施形態では、前記抗体は、(i)配列番号:3に示されるようなアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号:4に示されるようなアミノ酸配列を有するCDR2領域、及び配列番号:5に示されるようなアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVLドメイン;及び(ii)配列番号:6に示されるようなアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号:7に示されるようなアミノ酸配列を有するCDR2領域、配列番号:8に示されるようなアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVHドメインを含む。より好ましくは、前記抗体は、配列番号:10に示されるようなアミノ酸配列を有するVLドメイン、及び配列番号:9に示されるようなアミノ酸配列を有するVHドメインを含む。
【0058】
別の好ましい実施形態では(前の段落の実施形態のいずれか1つと組み合わせることができる)、前記抗体は、配列番号:11に示されるようなアミノ酸配列のアミノ酸236~451を含むFc領域を含む。
【0059】
最も好ましくは、前記抗体は、配列番号:1に示されるようなアミノ酸配列を有する軽鎖、及び配列番号:11、14、15または16に示されるようなアミノ酸配列を有する重鎖を含む。
【0060】
一実施形態では、前記抗体は、配列番号:1に示されるようなアミノ酸配列を有する軽鎖、及び配列番号:11に示されるようなアミノ酸配列を有する重鎖を含む。別の実施形態では、前記抗体は、配列番号:1に示されるようなアミノ酸配列を有する軽鎖、及び配列番号:14に示されるようなアミノ酸配列を有する重鎖を含む。別の実施形態では、前記抗体は、配列番号:1に示されるようなアミノ酸配列を有する軽鎖、及び配列番号:15に示されるようなアミノ酸配列を有する重鎖を含む。別の実施形態では、前記抗体は、配列番号:1に示されるようなアミノ酸配列を有する軽鎖、及び配列番号:16に示されるようなアミノ酸配列を有する重鎖を含む。
【0061】
さらに別の実施形態では、前記抗体は、配列番号:1に示されるようなアミノ酸配列からなる軽鎖、及び配列番号:11に示されるようなアミノ酸配列からなる重鎖を含む。さらに別の実施形態では、前記抗体は、配列番号:1に示されるようなアミノ酸配列からなる軽鎖、及び配列番号:14に示されるようなアミノ酸配列からなる重鎖を含む。さらに別の実施形態では、前記抗体は、配列番号:1に示されるようなアミノ酸配列からなる軽鎖、及び配列番号:15に示されるようなアミノ酸配列からなる重鎖を含む。さらに別の実施形態では、前記抗体は、配列番号:1に示されるようなアミノ酸配列からなる軽鎖、及び配列番号:16に示されるようなアミノ酸配列からなる重鎖を含む。
【0062】
さらなる実施形態では、前記TNFα抗体は、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブペゴル、またはゴリムマブである。代替のさらなる実施形態では、前記TNFα抗体の機能的断片または誘導体は、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブペゴル、またはゴリムマブの機能的断片または誘導体である。
【0063】
前記TNFαに特異的な抗体またはその機能的断片または誘導体は、安定性、特異性または標的化を改善する、1つ以上の改変、例えば、付加または置換された残基の形態をさらに含んでもよい。これらは、当技術分野で知られているそのような改変を含んでもよい。本発明の一実施形態では、少なくとも1つの前記TNFαに特異的な抗体またはその機能的断片または誘導体は、US 8,871,204、US 6,737,056、US 8,742,074、WO2002/060919、WO2017/158426、国際特許出願PCT/EP2018/074525(WO2019/057567 A1)、PCT/EP2018/074523(WO2019/057565 A1)、またはPCT/EP2018/074522(WO2019/057564 A1)に開示されているそのような改変の1つまたは複数を含む。
【0064】
特定の実施形態では、前記抗体重鎖のアミノ酸配列は、i)アミノ酸233P、234V、235A、及びアミノ酸位置236での欠失;アミノ酸434Aまたはアミノ酸252Y、254T及び256E;任意選択でアミノ酸239D、330L及び332E、またはアミノ酸326A、332E及び333A(EU付番);及び/またはii)アミノ酸380A及び434A、及び任意選択でアミノ酸307T(EU付番);及び/またはiii)アミノ酸434W、及び任意選択でアミノ酸428E及び/またはアミノ酸311R(EU付番)を含む。別の特定の実施形態では、前記抗体重鎖のアミノ酸配列は、311、428、434、435、及び438(EU付番)からなる群から選択される1つ以上の位置での突然変異を含む。好ましくは、前記抗体重鎖のアミノ酸配列は、アミノ酸434W、アミノ酸428E、及びアミノ酸311R(EU付番)を含む。最も好ましくは、前記抗体は、配列番号:11に示されるようなアミノ酸配列のアミノ酸236~451を含むFcドメインを含む。本段落に記載されている特定のアミノ酸を有する抗体は、重鎖配列、例えば、配列番号:2に示される配列に置換を導入することによって得ることができる。
【0065】
本明細書で特に明記しない限り、抗体のアミノ酸配列における残基番号への言及は、Kabatらの「免疫学的に関心のあるタンパク質の配列」(第5版 公衆衛生局、国立衛生研究所、Bethesda, Md., 1991. 例えば、WO2006/073941を参照)に記載されているように、EUインデックスとも呼ばれるEU付番システムによる残基付番に対応する。
【0066】
本発明の医薬組成物は、活性剤として、TNFαまたはその機能的断片または誘導体に特異的な1種の抗体、またはTNFαに特異的な、及び/またはTNFαに特異的な抗体の機能的断片または誘導体に特異的ないくつかの異なる抗体を含んでもよい。例えば、本発明の組成物は、TNFαに特異的な、及びTNFαに特異的な抗体の機能的断片または誘導体に特異的な1、2、3、4、または5種の異なる抗体を含んでもよい。
【0067】
本明細書で使用される場合、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に関する「治療する」、「治療している」、及び「治療」という用語は、ICP阻害剤誘発性下痢大腸炎または腸炎の症状、合併症、または同様の生化学的兆候の発症を予防、最小化、または遅延させ、またはICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の症状、合併症、または同様の生化学的兆候を緩和または最小化するために、本発明の組成物の一部としての、TNFα特異的抗体またはその機能的断片または誘導体の投与に関する。
【0068】
本発明の文脈における「局所治療」という用語は、は、市販製品で使用される、例えば静脈内注入または皮下注射による、TNFα抗体含有組成物の全身投与とは対照的に、前記組成物の局所投与を説明するために使用される。しかし、回腸及び大腸の内腔における局所治療は、前記組成物の投与方法によって制限されない。この文脈における「投与」という用語は、前記組成物が最初に患者の身体と接触する方法及び形態に関する。これは、適切な形態の前記組成物が、経口、直腸経由、または局所投与部位での前記組成物の蓄積をもたらす他の任意の方法で投与できることを意味する。
【0069】
本発明において、「回腸及び/または大腸における局所治療」という用語は、上で定義されたように、回腸及び/または大腸の内腔における局所投与、言い換えれば、小腸の回腸及び大腸によって構成される結合された連続的な内部のどこかに局所投与を指す。「大腸」は、胃腸(GI)管の最後の部分であり、盲腸、結腸、及び直腸にさらに細分化することができる。「結腸」は、さらに上行結腸、横行結腸、及び下行結腸に細分することができる。小腸の「回腸」は、小腸の最後の部分であり、一端が盲腸につながっている。「末端回腸」は、盲腸に直接隣接する回腸の最後の部分である。本明細書で使用される「胃腸管」または「GI」という用語は、口と肛門の間の全ての構造を含み、連続的な通路を形成し、摂取された物質を消化し、栄養素を吸収し、糞便を排出するように機能する人体器官のシステムを表す。本発明の一実施形態では、本発明の組成物は、回腸末端、及び/または大腸、好ましくは結腸における局所治療で使用するためである。本発明の別の実施形態では、本発明の組成物は、患者の回腸末端、盲腸、上行結腸、横行結腸、及び/または下行結腸における局所治療で使用するためである。
【0070】
本発明の医薬組成物による局所治療は、患者の回腸及び/または大腸の内腔における前記TNFα抗体及びその機能的断片または誘導体の局所投与を可能にする。それにより、前記TNFα抗体及びその機能的断片または誘導体の全身投与を回避することができる。このようにして、TNFα抗体及びその機能的断片または誘導体の全身的吸収及び分布を最小限に抑えることができる。従って、前記TNFα抗体及びその機能的断片または誘導体は、全身レベルでのICP阻害剤による癌治療の成功を有意に相殺しない。さらに、患者におけるTNFαの免疫防御機能の全身的阻害に関連する多数のリスク、例えば、感染性合併症及び患者体内での抗TNFα抗体に特異的な抗体の蓄積を含み、抗TNFα抗体に対する応答の喪失をもたらすことを最小限に抑えることができる。
【0071】
本発明の第1の態様によれば、本発明の組成物は、回腸及び/または結腸におけるICP阻害剤誘発性有害事象、即ちICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に罹患している患者の治療に使用するためである。
【0072】
本明細書で使用される場合、「ICP阻害剤」は、疾患(例:癌または感染症)を治療するために、患者に投与され、(例えば、既存の免疫応答のブロックを解除するか、免疫応答の開始のブロックを解除することによって)患者の免疫系を刺激する任意の分子(例:低分子、タンパク質、ペプチド、核酸分子、または抗体)である。ICP阻害剤は、免疫系の刺激をもたらす当技術分野で知られている任意の成分免疫チェックポイントを標的としてもよい。これは、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PDL2、B7-H3、B7-H4、BTLA、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、CSF-1R、VISTA、KIR、2B4、CD160、CGEN-15049、CHK1、CHK2、A2aR、ADAR1、CD47(CD47阻害剤の標的)、ICOS(ICOSアゴニストの標的)、TIGIT(TIGIT阻害剤の標的)、及びリガンドのB-7ファミリーを含むが、これらに限定されない。免疫チェックポイントの単一の構成要素に対する阻害剤または免疫チェックポイントの異なる構成要素に対する異なる阻害剤の組み合わせを使用してもよい。免疫チェックポイントは通常、自己寛容を維持し、免疫応答を支援する抑制性または刺激性経路の一部であるか、それらで構成されている。本発明によるICP阻害剤には、経路を遮断する分子及び経路を刺激する分子が含まれる。例えば、TIGIT阻害剤及びICOSアゴニストは、本発明の意味でのICP阻害剤である。Marin-AcevedoらによるJournal of Hematology & Oncology 11、記事番号39(2018)には、抑制性及び刺激性経路、ならびに適切なICP阻害剤が標的とすることができるそれらの標的を要約されている。Marin-Acevedoらの内容は、その全体が本明細書に組み込まれている。
【0073】
本明細書で使用される「有害事象」は、医学的治療の使用に関連する、好ましくない、一般に意図されていない、さらには望ましくない兆候(異常な検査所見を含む)、症状、または疾患である。例えば、有害事象は、治療に応答した免疫系の活性化または免疫系細胞(例:T細胞)の拡大に関連し得る。医学的治療には、1つまたは複数の関連する有害事象がありうる。また、各有害事象の重症度は同じまたは異なる場合がありうる。
【0074】
本明細書で使用される場合、本発明の文脈での「大腸炎」は、下痢、腹痛、吐き気、けいれん、血便や粘液、排便習慣の変化、発熱、腹部膨満、便秘、及び大腸の浮腫性、充血性、及び/またはもろい壁等の症状に関連しうる、大腸、特に結腸の炎症状態を指す。本明細書で使用される場合、本発明の文脈での「腸炎」は、下痢、腹痛、悪心、けいれん、血便または粘液便、または排便習慣の変化、発熱、腹部膨満、便秘及び便秘、または回腸または大腸の浮腫性、高血症性、及び/または脆弱な壁等の症状に関連しうる、大腸、特に結腸、及び小腸の回腸、好ましくは回腸末端の炎症状態を指す。
【0075】
本明細書で使用される場合、「ICP阻害剤誘発性大腸炎」及び「ICP阻害剤誘発性腸炎」という用語は、(1)1つまたは複数のICP阻害剤の初回投与と同時に、またはその後しばらく(即ち、数日または数週間、例えば1~60週間、1~48週間、13~60週間、または7~26週間後)患者に最初に発生し、(2)医師によって、例えばASCO実践ガイドラインに定められた基準に基づいて、ICP阻害剤誘発性大腸炎または腸炎としてそれぞれ診断され、かつ(3)医師によって、それぞれ別の病因(クロストリジウム・ディフィシル毒素等)の大腸炎または腸炎として診断されていない、それぞれ大腸炎と腸炎を指す。
【0076】
特に明記されている場合を除き、「患者」または「被験者」という用語は、互換的に使用され、ヒト患者及び非ヒト霊長類等の哺乳動物、ならびにウサギ、ラット、及びマウス等の実験動物、及び他の動物を指す。動物には、全ての脊椎動物、例えば哺乳類(例:羊、犬、牛、鶏)と非哺乳類、両生類、及び爬虫類が含まれる。
【0077】
患者における1つまたは複数のICP阻害剤による治療で生じた大腸、特に結腸で発生する毒性に基づいて、生きている患者について、ICP阻害剤誘発性大腸炎を1~4級に分類することがある。ICP阻害剤誘発性大腸炎の等級分類は次のとおりである:
1級大腸炎は、X線写真または組織学的所見のみを伴う無症候性として現れる。
2級大腸炎は、便中の粘液または血の存在及び腹痛を特徴とする。
3級大腸炎は、激しい腹痛、発熱、排便習慣の変化、腹膜の兆候を特徴とする。
4級大腸炎は、穿孔、出血、虚血、壊死の兆候が見られ、中毒性巨大結腸症が発症する、生命を脅かす状態である。
5級大腸炎は、大腸炎による死亡である。
【0078】
同様に、患者における1つまたは複数のICP阻害剤による治療で生じた小腸、特に回腸及び大腸で発生する毒性に基づいて、ICP阻害剤誘発性腸炎を1級~4に分類される場合がある。ICP阻害剤誘発性腸炎の分類は次のとおりである:
1級腸炎は、X線写真または組織学的所見のみを伴う無症候性として現れる。
2級腸炎は、便中の粘液または血の存在及び腹痛を特徴とする。
3級腸炎は、重度または持続性の腹痛、発熱、腸閉塞、腹膜の兆候を特徴とする。
4級腸炎は、穿孔、出血、虚血、壊死の兆候が見られ、中毒性巨大結腸症が発症する、生命を脅かす状態である。
5級腸炎は、腸炎による死亡である。
【0079】
ICP阻害剤誘発性下痢は次のように分類される:
1級下痢は、ベースラインを超える4回未満の排便増加として定義される。
2級下痢は、ベースラインを超える4~6回の排便を特徴とする。
3級下痢は、ベースラインを超える7回以上の排便を特徴とする。
4級下痢は、下痢による生命を脅かす状態を特徴とする。
5級下痢は、死亡である。
【0080】
ICP阻害剤によって誘発された下痢、大腸炎、または腸炎の毒性のグレードを測定するための診断的精密検査は、例えばASCO実践ガイドライン(Brahmerら, 「免疫チェックポイント阻害剤療法で治療された患者における免疫関連の有害事象の管理」:米国臨床腫瘍学会診療ガイドライン, J Clin Oncol. 2018年6月 10;36(17):1714-1768)に記載されているように実施できる。ASCO実践ガイドラインによると、2級毒性の診断的精密検査は以下を含める必要がある:
- 血液(CBC、包括的な代謝パネル、甲状腺刺激ホルモン[TSH]、赤血球沈降速度[ESR]、C反応性タンパク質[CRP])、便(培養、クロストリジウム・ディフィシル、寄生虫、サイトメガロウイルス[CMV]、またはその他のウイルス病因、卵子及び寄生虫)の精密検査を実施する必要がある;
- 患者の層別化のためにラクトフェリンを検査して、誰が緊急の内視鏡検査を必要としているかを判断する場合があり、カルプロテクチンが疾患活動性のフォローアップのために提供される場合がある;
- 患者におけるインフリキシマブの開始を準備するためのスクリーニング検査(HIV、A型及びB型肝炎、結核の血液クォンテフェロン)は、これらの感染症のリスクが高い患者及び感染症の専門家の評価に基づいて適切に選択された患者で日常的に行う必要がある;
- 腹部と骨盤のコンピューター断層撮影(CT)スキャンによる画像診断と生検による消化管内視鏡検査は、結腸の潰瘍の存在がコルチコステロイド不応性の経過を予測できることを示す証拠があるため、実施される可能性がある。インフリキシマブまたは他の腫瘍壊死因子(TNF)遮断薬は、これらのスクリーニング検査の結果を待つ間、遅らせてはならない。
- 免疫抑制剤に反応しない患者には、内視鏡検査を繰り返すことがある。疾患モニタリングのための内視鏡検査の繰り返しは、臨床的に適応があり、治療の再開を計画している場合にのみ提供されるべきである。
【0081】
ASCO実践ガイドラインによると、3~4級の毒性の診断的精密検査は以下を含める必要がある:
- 上記2級の場合の全ての精密検査(血液、便、画像検査、及び生検)を直ちに完了する必要がある。
- 免疫抑制剤に反応しない患者には、内視鏡検査を繰り返すことがある。疾患モニタリングのための内視鏡検査の繰り返しは、臨床的に適応があり、ICP阻害剤の再開を計画している場合にのみ提供されるべきである。
【0082】
本発明の一実施形態によれば、前記抗体またはその断片または誘導体による治療は、副作用(例:下痢、大腸炎及び/または腸炎)のより高い等級の毒性への進行を防止する。以下の実施形態が好ましい。
【0083】
治療される患者は、1級毒性の副作用(例:下痢、大腸炎及び/または腸炎)に苦しんでおり、前記抗体またはその断片または誘導体による治療は、副作用がより高い等級の毒性、例えば、2級毒性への進行を防止する。
【0084】
治療される患者は、2級毒性の副作用(例:下痢、大腸炎及び/または腸炎)に苦しんでおり、前記抗体またはその断片または誘導体による治療は、副作用がより高い等級の毒性、例えば、3級毒性への進行を防止する。
【0085】
治療される患者は、3級毒性の副作用(例:下痢、大腸炎及び/または腸炎)に苦しんでおり、前記抗体またはその断片または誘導体による治療は、副作用がより高い等級の毒性、例えば、4級毒性への進行を防止する。
【0086】
一つの態様では、本発明は、患者における癌治療によって誘発された、好ましくは1つまたは複数の免疫チェックポイント(ICP)阻害剤によって誘発された胃腸管の少なくとも1つの有害事象の進行または悪化を予防するのに使用するために、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)に特異的な抗体ならびにその機能的断片及び誘導体からなる群から選択される活性剤に関し、ここで、前記予防は、前記患者の回腸及び/または大腸への前記組成物の局所投与を含む。好ましくは、前記局所投与は、経口投与である。好ましくは、前記有害事象は、下痢、大腸炎、腸炎、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。また、1級毒性から2級毒性またはそれ以上のグレードへの進行が防止される。別の実施形態では、前記有害事象は、下痢、大腸炎、腸炎、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。また、2級毒性から3級毒性またはそれ以上のグレードへの進行が防止される。別の実施形態では、前記有害事象は、下痢、大腸炎、腸炎、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。また、3級毒性から4級毒性またはそれ以上のグレードへの進行が防止される。本発明のこの態様の好ましい実施形態は、必要な変更を加えて、本明細書に記載されている本発明の他の態様の好ましい実施形態に対応する。
【0087】
本発明の別の実施形態によれば、前記抗体またはその断片または誘導体で治療される患者は、ICP阻害剤誘発性下痢を患っているが、大腸炎または腸炎を患っておらず、前記治療は、前記患者の大腸炎及び腸炎の進行または発症を予防する。
【0088】
本発明の第1の態様の一実施形態によれば、前記患者は、1つまたは複数のICP阻害剤による治療も受けている。「1つまたは複数のICP阻害剤による治療も受けている」とは、該治療が最終的に中止されていないが、現在進行中であるか、一時的に中断されていることを意味する。好ましい実施形態によれば、前記患者は、1つまたは複数のICP阻害剤による全身治療も受けている。全身治療または処置とは、体循環を介して体の実質的に全ての細胞に到達し、影響を与える治療を指す。
【0089】
本発明の組成物を投与する前に、1つまたは複数のICP阻害剤による治療は、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に関連する毒性の発生時に、数週間または数日、または全く中断されない場合がある。本発明の一実施形態によれば、1つまたは複数のICP阻害剤による治療は、4週間未満、好ましくは2週間未満、より好ましくは1週間、さらにより好ましくは5、4、3、2日または1日未満中断され、そして最も好ましくは該治療が中断されない。
【0090】
本発明の組成物が投与される、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎を患っている患者の毒性グレードは、特に限定されない。ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の毒性グレードは、例えば、ASCO実践ガイドラインを適用し、医師によって診断されてもよい。一実施形態では、前記患者は、1級以上の毒性のICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に苦しんでいる。別の実施形態では、前記患者は、2級以上の毒性のICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に苦しんでいる。さらに別の実施形態では、前記患者は、3級以上の毒性のICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に苦しんでいる。さらなる実施形態では、前記患者は、4級毒性のICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に苦しんでいる。
【0091】
好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、全身性コルチコステロイドのようなステロイド性免疫抑制剤の代わりに、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の患者の第一選択治療として使用するためである。一実施形態では、前記患者は、コルチコステロイドで治療されておらず、かつ治療された経験がない。
【0092】
代替の実施形態では、前記患者は、最初にステロイド免疫抑制剤(例:プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、またはブデソニド等のコルチコステロイド)の治療を受け、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎がステロイド治療に抵抗性である場合にのみ、本発明の組成物が該患者に投与される。本明細書で使用される場合、「ステロイド治療に抵抗性」及び「ステロイド抵抗性の下痢、大腸炎または腸炎」という用語は、ステロイドの治療に反応しない1つまたは複数のICP阻害剤に誘発された下痢、大腸炎または腸炎を指す。従って、特定の代替実施形態によれば、本発明の組成物は、ステロイド抵抗性のIPC阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の患者の第二選択治療として使用するためである。
【0093】
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物は、維持療法で投与される。即ち、該組成物は、有害事象(下痢、大腸炎及び/または腸炎)の再発を防ぐために投与される。該有害事象の治療が成功すれば、該組成物をその再発を防ぐために投与し続けてもよい。前記活性剤の維持用量は、該有害事象を治療するために使用される用量よりも低くてもよい。
【0094】
さらに、第2の態様において、本発明は、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の予防的治療として、患者の回腸及び/または大腸における局所治療に使用するために、TNFαに特異的な抗体及びその機能的断片または誘導体からなる群から選択される活性剤を含む医薬組成物に関する。「TNFαに特異的な抗体及びその機能的断片または誘導体」、「回腸及び/または大腸における局所治療」及び「ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎」という用語に関して、上記の詳細な説明を参照されたい。
【0095】
本発明の文脈で使用される「予防的治療」という用語は、予防的治療法として、活性剤を投与することを指す。本発明の文脈で使用される「ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の予防的治療」という用語は、予防的または半予防的治療として、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に関連する症状の発症前に、本発明の組成物を投与することを指す。
【0096】
予防的治療として、患者の回腸及び/または大腸における局所治療として使用するための本発明の組成物は、1つまたは複数のICP阻害剤による全身治療を同時に可能にする。本発明の文脈における「同時に」は、前記患者が1つまたは複数のICP阻害剤による同時治療を受ける治療計画を指す。
【0097】
本発明の好ましい実施形態では、前記患者は、同時に、1つまたは複数のICP阻害剤による治療を受けている。別の好ましい実施形態では、前記患者は、同時に、1つまたは複数のICP阻害剤による全身治療を受けている。このために、前記1つまたは複数のICP阻害剤は、別個の組成物の一部として、本発明の組成物と同じ投与頻度で、または異なる時間に、及び/または異なる投与頻度で同時に投与してもよい。さらに、前記1つまたは複数のICP阻害剤は、同じ投与経路を介して、または異なる投与経路を介して投与してもよい。ICP阻害剤の投与経路に関しては、以下のICP阻害剤の説明を参照されたい。
【0098】
例えば、前記1つまたは複数のICP阻害剤は、静脈内に、または皮下または筋肉内注射を介して投与し、一方、本発明の組成物は、経口で、または直腸投与してもよい。あるいは、前記1つまたは複数のICP阻害剤及び本発明の組成物の両方を経口で、または直腸投与してもよい。同じ投与経路を介して同じ投与頻度で前記1つまたは複数のICP阻害剤及び本発明の組成物を投与する場合、前記1つまたは複数のICP阻害剤を追加の活性剤として本発明の組成物に加えることができる。
【0099】
予防的治療として本発明の組成物を投与することにより、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に関連する症状の発症を遅延かつ/または最小化することができ、あるいは予防することさえできる。従って、一実施形態では、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の予防的治療として、患者の回腸及び/または大腸における局所治療に使用するための本発明の組成物は、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に関連する症状を予防または最小化し、かつ/または遅延させる。好ましい実施形態では、前記患者はICP阻害剤誘発性下痢に苦しんでいる。ICP阻害剤誘発性大腸炎または腸炎に関連する症状の発症を遅延させ、かつ/または最小化することができ、あるいは予防することさえできる。従って、ICP阻害剤誘発性大腸炎または腸炎の予防的治療として、患者の回腸及び/または大腸における局所治療に使用するための本発明の組成物は、ICP阻害剤誘発性大腸炎または腸炎に関連する症状を予防または最小化し、かつ/または遅延させる。
【0100】
別の実施形態では、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の予防的治療として、患者の回腸及び/または大腸における局所治療に使用するための本発明の組成物は、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の発症を予防する。さらに別の実施形態では、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の予防的治療として、患者の回腸及び/または大腸における局所治療に使用するための本発明の組成物は、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に関連する1つまたは複数の症状の発症を予防する。
【0101】
代替の実施形態では、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の予防的治療として、患者の回腸及び/または大腸における局所治療に使用するための本発明の組成物は、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に関連する1つまたは複数の症状の発症を遅延させ、かつ/またはその重症度を最小限に抑える。特定の実施形態によれば、前記局所治療は、前記患者における、IPC阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に関連する3級毒性、好ましくは2級毒性、より好ましくは1級毒性の進行、最も好ましくは任意の症状の発症を予防する。
【0102】
ASCO診療ガイドライン等で推奨されている標準的な治療計画の代わりに、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎を有する患者の回腸及び/または大腸における局所治療のための、またはICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の予防的治療のための本発明の組成物の使用は、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の標準的な治療計画の使用に関連するICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎の発生率及び/または症状の重症度を低減させる。
【0103】
特定の実施形態では、本発明の治療は、本発明に従って治療されていない患者と比較して、患者の全生存の増加に関連するか、またはそれにつながる。好ましくは、本発明の治療は、コルチコステロイドによる治療を受けた患者と比較して、患者の全生存の増加に関連するか、またはそれにつながる。本発明の治療は、本発明に従った治療もコルチコステロイドによる治療も受けていない患者と比較して、患者の全生存の増加に関連するか、またはそれにつながる可能性がある。
【0104】
本発明は、コルチコステロイドの投与が不要でもよいという点で有益である。コルチコステロイドは、しばしば感染率の増加につながり、抗生物質の投与が必要になる。本発明は、コルチコステロイド及び抗生物質を回避することを可能にする。従って、好ましい実施形態では、本発明の組成物は、腸炎、大腸炎、及び/または下痢の最初の兆候が検出された後に投与される。
【0105】
本発明はさらに、本明細書に記載の組成物の予防的使用を提供する。従って、別の実施形態では、本発明の組成物は、腸炎、大腸炎及び/または下痢の兆候が検出可能となる前か、または検出される前に投与される。別の実施形態では、本発明の組成物は、患者、好ましくは癌患者、より好ましくは少なくとも1つのICP阻害剤で治療されている癌患者に投与される。ここで、前記患者が、腸炎、大腸炎及び/または下痢を患っていると診断されていない。別の実施形態では、本発明の組成物は、患者、好ましくは癌患者、より好ましくは少なくとも1つのICP阻害剤で治療されている癌患者に投与される。ここで、前記患者が腸炎を患っていなく、かつ/または前記患者が大腸炎を患っていなく;かつ/または前記患者が下痢を患っていない。前記患者は、腸炎、大腸炎及び/または下痢を発症するリスクがあってもよい。前記患者は、腸炎、大腸炎及び/または下痢を発症していると疑われてもよい。本発明は、患者、好ましくは癌患者、より好ましくは少なくとも1つのICP阻害剤で治療されている癌患者における腸炎、大腸炎及び/または下痢の発症または進行を防止するための本明細書に記載の組成物の使用に関する。
【0106】
特定の実施形態では、前記活性剤の投与は、ICP阻害剤による治療の有効性を改善する。
【0107】
ICP阻害剤を患者に投与し、癌等の疾患を治療し、またはそのような疾患の再発を防止することができる。このような治療は、ほとんどの場合、ある時点でICP阻害剤誘発性の有害事象を引き起こす。最も頻繁な有害事象の中には、阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎等の消化管におけるICP阻害剤誘発性有害事象がある。
【0108】
「癌」とは、体内の異常な、通常は内因性の細胞の制御されない増殖を特徴とする幅広い疾患群を指す。制御されていない細胞分裂と増殖は、隣接する組織に侵入する悪性腫瘍の形成をもたらし、リンパ系または血流を介して体の離れた部分に転移する可能性もある。「癌」、「腫瘍」、及び「新生物」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。
【0109】
ICP阻害剤で治療できる癌は特に限定されない。ICP阻害剤で治療できる例示的な癌には、黒色腫、古典的なホジキンリンパ腫のようなリンパ腫、神経膠腫、尿路上皮癌、腎癌、頭頸部扁平上皮癌、前立腺癌、乳癌、結腸癌、及び肺癌が含まれるが、これらに限定されない。本発明の一実施形態によれば、前記1つまたは複数のICP阻害剤は、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚または眼内悪性黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、ファロピウス管癌、子宮内膜の癌腫、子宮頸部の癌腫、膣の癌腫、外陰部の癌腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部肉腫、尿道癌、陰茎癌、慢性または急性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、小児の固形腫瘍、リンパ性リンパ腫、膀胱癌、腎臓または尿管の癌、腎盂の癌、中枢神経系(CNS)の新生物、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮癌、扁平上皮癌、T細胞リンパ腫、アスベストによって誘発されたものを含む環境誘発性の癌、及びこれらの癌の組み合わせからなる群から選択される癌を治療するために使用される。
【0110】
ICP阻害は、例えばICPの成分の阻害(遮断)による、例えば、PD-1、PD-L1、CTLA-4、LAG-3、ADAR1及びTIM-3、ならびにそのようなICP成分の組み合わせを含む、様々なICP成分に対して実行することができる。ICP成分は、限定されなくてもよいが、例えば、腫瘍細胞または免疫細胞(T細胞、単球、ミクログリア、及びマクロファージ等)上の受容体またはリガンドであってもよい。前記ICP阻害剤は、抗体である必要はないが、低分子または他のポリマーでもよい。ICP阻害剤が抗体である場合、それはポリクローナル、モノクローナル、断片、一本鎖、または他の抗体変異体構築物であってもよい。ICP阻害剤には、例えば、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体、抗LAG-3抗体、及び抗TIM-3抗体が含まれる。
【0111】
ICP阻害剤は、免疫系の刺激をもたらす当技術分野で知られているICPの任意の成分を標的としてもよい。これには、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PDL2、B7-H3、B7-H4、BTLA、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、CSF-1R、VISTA、KIR、2B4、CD160、CGEN-15049、CHK1、CHK2、A2aR、ADAR1、TIGIT、CD47、ICOS、及びリガンドのB-7ファミリーが含まれるが、これらに限定されない。該ICPの単一の標的成分に対する阻害剤または該ICPの異なる標的成分に対する異なる阻害剤の組み合わせを使用してもよい。
【0112】
本発明の医薬組成物と同時に、その前に、またはその後にICP阻害剤を投与してもよい。ICP阻害剤は、特定の癌または感染症の治療を可能にする、特定の阻害剤について当技術分野で知られている任意の適切な方法で投与できる。通常、ICP阻害剤は全身投与される。ICP阻害剤を投与するための当技術分野で知られている適切な方法には、例えば、静脈内、経口、腹腔内、舌下、髄腔内、腔内、筋肉内、及び皮下投与が含まれる。
【0113】
前記1つまたは複数のICP阻害剤の好ましい投与経路には、例えば、注射または注入による、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、脊髄、または他の非経口投与経路が含まれる。本明細書で使用される「非経口投与」という用語は、通常は注射による経腸及び局所投与以外の投与様式を指し、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、被膜内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外及び茎内の注射及び注入を含むが、これらに限定されない。本発明のより好ましい実施形態では、前記1つまたは複数のICP阻害剤は静脈内投与される。あるいは、前記1つまたは複数のICP阻害剤は、局所、表皮または粘膜的な投与経路等の非経口投与(例えば、鼻腔内、経口、膣、直腸、舌下または局所の投与経路)の経路を介して投与されてもよい。
【0114】
現在利用可能なICP阻害剤には、CTLA-4、PD-1、及びPD-L1に特異的な抗体が含まれる。本発明の一実施形態によれば、前記1つまたは複数のICP阻害剤は、CTLA-4に特異的な抗体、PD-1に特異的な抗体、及びPD-L1に特異的な抗体からなる群から選択される。PD-1またはPD-L1のいずれかに特異的であり、従って、標的となるモノクローナル抗体は、これら2つのICP成分間の結合を遮断し、癌細胞に対する免疫応答を高めることができる。これらの薬物は、様々な種類の癌の治療にかなりの見込みを示している。
【0115】
現在癌治療においてICP阻害剤として使用されているPD-1に特異的な抗体の例には、モノクローナル抗体のペンブロリズマブ(Keytruda(登録商標))及びニボルマブ(Opdivo(登録商標))が含まれる。これらの抗体は、皮膚の黒色腫、非小細胞肺癌、腎臓癌、膀胱癌、頭頸部癌、ホジキンリンパ腫等いくつかの種類の癌の治療に有効であることが示されている。
【0116】
現在癌治療においてICP阻害剤として使用されているPD-L1に特異的な抗体の例には、モノクローナル抗体のアテゾリズマブ(Tecentriq(登録商標))、アベルマブ(Bavencio(登録商標))、及びデュルバルマブ(Imfinzi(登録商標))が含まれる。これらの抗体も、膀胱癌、非小細胞肺癌、メルケル細胞皮膚癌(メルケル細胞癌)等、様々な種類の癌の治療に有効であることが示されている。
【0117】
CTLA-4は、T細胞機能を阻害するもう1つのB7-CD28ファミリーメンバーである。これは、制御性T細胞によって常時に発現されるが、活性化されると、他のT細胞タイプ、特にCD4+ T細胞によって増加されることもある。CTLA-4は、共刺激受容体CD28を介したシグナル伝達を間接的に減少させることにより、免疫抑制を仲介する。CTLA-4シグナル伝達は、感染症及び腫瘍細胞に対する免疫応答を弱めることが示されている(Curran M Aら、Proc Natl Acad Sci U S A. 2010年3月2日; 107(9):4275-80)。癌治療においてICP阻害剤として現在使用または研究されているCTLA-4に特異的な抗体の例には、それぞれモノクローナル抗体イピリムマブ(Yervoy(登録商標))及びトレメリムマブ(ファイザー)が含まれる。
【0118】
本発明の一実施形態によれば、前記1つまたは複数のICP阻害剤は、PD-1及び/またはPD-L1に特異的な抗体とCTLA-4に特異的な抗体との組み合わせ、好ましくはPD-1またはPD-L1に特異的な抗体とCTLA-4に特異的な抗体との組み合わせである。本発明の別の実施形態によれば、前記PD-1に特異的な抗体は、ペンブロリズマブとニボルマブからなる群から選択され、PD-L1に特異的な抗体は、アテゾリズマブ、アベルマブ、及びデュルバルマブからなる群から選択され、CTLA-4に特異的な抗体は、イピリムマブとトレメリムマブからなる群から選択される。本発明の別の実施形態によれば、本発明の組成物で治療される患者は、上記のICP阻害剤のいずれか1つまたは複数での治療によって引き起こされる、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎を患う。
【0119】
CTLA-4、PD-1及びPD-L1に特異的な抗体の投与については、例えば、1 kg患者体重あたり約0.0001~100 mg、好ましくは0.01~5 mgの投与量範囲が適切である。例示的な投与量は、0.3 mg/kg体重、1 mg/kg体重、3 mg/kg体重、5 mg/kg体重、または10 mg/kg体重、または1~10 mg/kg体重の範囲内であり得る。抗体は通常、反復投与される。例示的な投薬管理では、週に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、月に1回、3ヶ月に1回、3~6ヶ月に1回、または6ヶ月に1回の投与が必要である。患者における標的抗原に対する抗体の血中レベルを測定することに伴って、間隔は不規則であってもよい。場合によっては、投与量は、特定の血漿抗体濃度、例えば、約1~1000 μg/mlまたは約25~300 μg/mlを達成するように調整される。
【0120】
CTLA-4、PD-1またはPD-L1特異的抗体の好ましい投与計画では、静脈内投与で、約1~10 mg/kg体重、1種の抗体または数種の抗体の組み合わせを(i)4週間ごとに6回投与した後、3か月ごと;(ii)3週間ごと;(iii)2週間ごと;または(iv)毎週に投与することが含まれるが、これらに限定されない。
【0121】
本明細書で使用される場合、「約」は、当業者によって測定される特定の値の許容誤差範囲内を意味し、これは、前記値がどのように計測または測定されるか、即ち測定系の制限に部分的に依存する。例えば、「約」は、当技術分野における実践ごとに1つまたは複数の標準偏差内を意味することができる。あるいは、「約」は、最大20%の範囲を意味することができる。さらに、特に生物学的システムまたはプロセスに関して、この用語は、最大1桁または最大5倍の値を意味することができる。
【0122】
場合によっては、2つ以上のCTLA-4、PD-1、及び/またはPD-L1特異的抗体が同時に投与される。この場合、投与される各抗体の投与量は、上記の投与量範囲内であってもよい。複数のCTLA-4、PD-1、またはPD-L1特異的抗体が投与される場合、それらはそれぞれCTLA-4、PD-1、またはPD-L1に対して異なる結合特異性を持つ可能性がある。
【0123】
あるいは、ICP阻害抗体を徐放性製剤として投与することもできる。その場合、必要な投与頻度は少なくなる。投与量と頻度は、患者における前記抗体の半減期によって異なる。一般に、ヒト抗体は最も長い半減期を示し、次に続くのはヒト化抗体、キメラ抗体、及び非ヒト抗体である。
【0124】
ADAR1は、二本鎖RNA(UniProt No. P55265)におけるアデノシンからイノシンへの加水分解脱アミノ化を触媒するRNA編集酵素である。ADAR1に対する抗体及びその機能的断片、またはsiRNA等を用いる遺伝子サイレンシング技術によってADAR1の機能を阻害することができる。
【0125】
1つまたは複数のICP阻害剤による治療を受けている患者において、1つまたは複数のICP阻害剤は、該患者における免疫応答を調節し得、かつ/またはそれは、該患者における腫瘍細胞の増殖を阻害し得る。
【0126】
本発明の組成物で治療される患者は、癌患者であってもよい。一実施形態では、前記患者は、癌患者であり、1つまたは複数のICP阻害剤、好ましくは上記の1つまたは複数のICP阻害剤による治療を受けているか、または受けてきた。好ましくは、前記癌患者は、1つまたは複数のICP阻害剤による治療を受けている。好ましくは、1つまたは複数のICP阻害剤による治療は全身治療である。
【0127】
特定の実施形態では、前記患者は、癌ワクチンによる治療を受けている。例えば、前記患者は、ICP阻害剤と癌ワクチンとの併用治療を受けてもよい。
【0128】
本明細書で使用される場合、「癌ワクチン」という用語は、当技術分野でその一般的な意味を有し、少なくとも1つの癌抗原に対する能動免疫を誘導することができる組成物を指す。癌ワクチンは、典型的には、抗原に対する免疫応答をさらに刺激及び増強するための他の成分(例:アジュバント)とともに、被験者に対して自己由来または同種異系であり得る癌関連物質または細胞(抗原)の供給源を含む。癌ワクチンは、被験者の免疫系を刺激し、1つまたはいくつかの特定の抗原に対する抗体を産生し、かつ/またはそれらの抗原を有する癌細胞を攻撃するためのキラーT細胞を産生することができる。癌ワクチンは、抗体の産生をもたらすか、または単に特定の細胞、特に抗原提示細胞、Tリンパ球(特にT-CD8+細胞)及びBリンパ細胞の活性化をもたらすことができる。癌ワクチンは、予防目的または治療目的、あるいはその両方のための組成物であり得る。
【0129】
癌ワクチンには複数の種類がある。癌ワクチンの非限定的な例には、腫瘍細胞ワクチン、抗原ワクチン、樹状細胞ワクチン、DNAワクチン、及びベクターベースのワクチンが含まれる。
【0130】
典型的には、本発明の癌ワクチンは、腫瘍関連抗原または腫瘍関連抗原をコードする核酸配列(例:DNA)を含む。多数の腫瘍関連抗原が当技術分野で知られている。例示的な腫瘍関連抗原には、5αレダクターゼ、α-フェトプロテイン、AM-1、APC、April、BAGE、β-カテニン、Bell 2、bcr-abl、CA-125、CASP-8/FLICE、カテプシン、CD 19、CD20、CD21、CD23、CD22、CD33 CD35、CD44、CD45、CD46、CD5、CD52、CD55、CD59、CDC27、CDK4、CEA、c-myc、Cox-2、DCC、DcR3、E6/E7、CGFR、EMBP、Dna78、ファルネシル転移酵素、FGF8b、FGF8a、FLK-1/KDR、葉酸受容体、G250、GAGEファミリー、ガストリン17、ガストリン放出ホルモン、GD2/GD3/GM2、GnRH、GnTV、GP1、hCG、ヘパラナーゼ、Her2/neu、HMTV、Hsp70、hTERT、IGFR1、IL-13R、iNOS、Ki67、KIAA0205、K-ras、H-ras、N-ras、KSA、LKLR-FUT、MAGEファミリー、マンマグロビン、MAP 17、melan-A/MART-1、メソセリン、MIC A B、MT-MMP、ムチン、NY-ESO-1、オステオネクチン、P170/MDR1、p53、p97/メラノトランスフェリン、PAI-1、PDGF、uPA、PRAME、プロバシン、プロゲニポイエンチン、PSA、PSM、RAGE-1、Rb、RCAS1、SART-1、SSXファミリー、STAT3、STn、TAG-72、TGF-α、TGF-β、サイモシン-β-15、TNF-α、TYRP-、TYRP-2、チロシナーゼ、VEGF、及びグルタチオン-S-転移酵素が含まれるが、これらに限定されない。
【0131】
いくつかの実施形態では、前記ワクチンは、DNAワクチンである。ベクターを遺伝子操作し、被験者に注入できる特定のDNAを含有することができる。これによりDNAが細胞に取り込まれる。細胞がDNAを取り込むと、DNAは細胞をプログラムし、特定の抗原を産生する。それは目的の免疫応答を引き起こすことができる。
【0132】
いくつかの実施形態では、前記ワクチンは、癌抗原をコードするかまたは発現する組換えウイルスからなる。いくつかの実施形態では、前記組換えウイルスは、腫瘍抗原を発現するポックスウイルスであり、より具体的には、ワクシニアウイルス、改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルス、またはMVA-BN等であるが、これらに限定されないオルソポックスウイルスである。
【0133】
いくつかの実施形態では、前記ワクチン組成物は、選択された抗原を提示する抗原提示細胞の少なくとも1つの集団を含む。該抗原提示細胞(または刺激細胞)は、通常、その表面にMHCクラスIまたはII分子を有し、一実施形態では、それ自体が、選択された抗原をMHCクラスIまたはII分子にロードすることが実質的に不可能である。好ましくは、前記抗原提示細胞は、樹状細胞である。適切には、該樹状細胞は、目的の抗原(例:ペプチド)でパルスされる自己樹状細胞である。腫瘍関連抗原からのペプチドでパルスされた自己樹状細胞を使用するT細胞療法は、Murphyら(1996)The Prostate 29、371-380及びTjuaら(1997)The Prostate 32、272-278に開示されている。従って、いくつかの実施形態では、少なくとも1つの抗原提示細胞を含むワクチン組成物は、パルスされるか、1つまたは複数の抗原ペプチドがロードされる。別の方法として、前記抗原提示細胞は、抗原ペプチドをコードする発現構築物を含む。ポリヌクレオチドは、任意の適切なポリヌクレオチドであってもよい。これは樹状細胞を形質導入することができ、従ってペプチドの提示及び免疫応答の誘導をもたらすことができることが好ましい。
【0134】
いくつかの実施形態では、前記ワクチン組成物は、1つ以上のアジュバントを含む。アジュバントは、免疫応答(例えば、抗原に対するCD8陽性T細胞及びヘルパーT細胞によって媒介される免疫応答)を非特異的に増加または増強する物質であり、従って、本発明の薬剤において有用であると考えられる。
【0135】
特定の実施形態では、前記患者は、黒色腫、古典的なホジキンリンパ腫のようなリンパ腫、神経膠腫、尿路上皮癌、腎癌;頭頸部扁平上皮癌、前立腺癌、乳癌、結腸癌、 肺癌、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される癌を患っている癌患者である。別の特定の実施形態では、前記癌は、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚または眼内悪性黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、ファロピウス管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣の癌腫、外陰癌の癌腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道の癌、小腸の癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部肉腫、尿道癌、陰茎癌、慢性または急性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、小児固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓または尿管の癌、腎骨盤癌、中枢神経系(CNS)の新生物、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮癌、扁平上皮癌、T細胞リンパ腫、アスベストによって誘発されたものを含む環境的に誘発された癌、及び前記癌の組み合わせからなる群から選択される。
【0136】
本発明によれば、本発明の組成物は、投与時に患者の回腸の内腔及び/または大腸における局所治療を可能にする任意の形態であってもよい。前記組成物は、ペレット、顆粒、微粒子、ナノ粒子、ミニ錠剤、カプセル、または錠剤等の形態の固体剤形であってもよい。固形剤形を製造する方法は当技術分野で知られ、例えば、Aultonによる「薬剤学:薬剤の設計と製造」、Churchill Livingstone title、第4改訂版、2013(ISBN:978-0-7020-4290-4)を参照できる。抗体及び機能的断片または誘導体を含む固体剤形の調製方法の特定の例には、国際特許出願PCT/EP2018/074521、PCT/EP2018/07452及びPCT/EP2018/072524のいずれかに開示されるものが含まれる。
【0137】
一実施形態によれば、本発明の組成物は、少なくとも1つの添加剤を含む。適切な添加剤には、親水性ポリマー、充填剤、親水性結合剤、崩壊剤、粘着防止剤、界面活性剤、安定剤、プロテアーゼ耐性増強剤、可塑剤、合体剤、潤滑剤、緩衝剤、酸性化剤及び/または錯化剤が含まれる。適切な親水性ポリマー、充填剤、親水性結合剤、崩壊剤、粘着防止剤、界面活性剤、可塑剤、合体剤、潤滑剤、緩衝剤、及び/または酸性化剤は、当業者に知られている。
【0138】
本発明の一実施形態では、回腸及び/または大腸の局所治療に使用するための組成物が経口投与される。本発明の文脈における経口投与は、口を介して胃腸管に前記組成物を導入することを意味する。本発明の好ましい実施形態では、前記組成物は、固体剤形であり、好ましくは、ペレット、顆粒、微粒子、ナノ粒子、ミニ錠剤、球体、カプセル、錠剤、または遅延放出コーティングでコーティングされた多粒子薬物送達システムの形態である。本明細書で使用される「遅延放出」という用語は、回腸の前、回腸末端の前、回腸結腸領域の前、または腸の結腸の前の前記抗体または機能的断片またはその誘導体の放出が防止されることを意味する。回腸結腸領域は、小腸が大腸、即ち回腸末端と合流する胃腸管の領域である。別の実施形態では、前記組成物は、徐放性固体剤形であり、好ましくは、ペレット、顆粒、微粒子、ナノ粒子、ミニ錠剤、球体、カプセル、錠剤、または徐放性コーティングまたは徐放性マトリックスを含む多粒子薬物送達システムの形態である。一般に、本明細書で使用される「徐放性」という用語は、時間依存的な放出を指す。即ち、前記抗体またはその機能的断片または誘導体は、長期間にわたって、例えば、少なくとも6時間、好ましくは少なくとも8時間、少なくとも10時間、少なくとも12時間、少なくとも14時間、少なくとも16時間、少なくとも18時間、または少なくとも24時間等にわたって放出される。
【0139】
好ましい実施形態では、前記組成物は、徐放性コア及び遅延放出コーティングを含む。該実施形態では、前記組成物は通常、徐放性コーティングを含まない。
【0140】
好ましくは、前記徐放性コアは、分子量が100,000~7,000,000の非イオン性ポリ(エチレンオキシド)ポリマー、水中20℃、3~100,000 mPa・s、好ましくは約2,308~9,030 mPa・s、より好ましくは2,663~4,970 mPa・sで2 wt.-%の粘度を有するHPMC 2208タイプ、キサンタンガム、グアーガム、トラガカントガム、ローカストビーンガム、アカシアガム、キトサン、カルボマー、エチルセルロース、酢酸ポリビニル、(ジ)ベヘン酸グリセリル、グリセリルパルミトステアレート、ポリ(アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、トリメチルアンモニオエチルメタクリレートクロリド)1:2:0.1、ポリ(アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、トリメチルアンモニオエチルメタクリレートクロリド)1:2:0.2、またはポリ(エチルアクリレート、メチルメタクリレート)2:1のようなポリメタクリル酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの徐放剤を含む。
【0141】
別の好ましい実施形態では、前記組成物は、速放性コア、徐放性コーティング、及び遅延放出コーティングを含む。通常、該徐放性コーティングは、前記コアと前記遅延放出コーティングの間にある。
【0142】
さらに別の実施形態では、前記組成物は、速放性コア及び遅延放出コーティングを含むが、徐放性コーティングを含まない。
【0143】
固体剤形の遅延放出のためのコーティング材料、特に、経口投与時回腸または大腸における標的放出のためのコーティング材料は、当技術分野で知られている。それらは、特定のpH以上で崩壊するコーティング材料、胃腸管での特定の滞留時間後に崩壊するコーティング材料、及び腸の特定の領域のミクロフローラに特有の酵素的トリガーのために崩壊するコーティング材料に細分することができる。大腸を標的とするためのこれらの3つの異なるカテゴリーのコーティング材料は、例えば、Bansalらによって総説されている(Polim. Med. 2014、44, 2, 109-118)。そのようなコーティング材料のこれらの使用は、例えば、WO 2007/122374 A2、WO 01/76562 A1、WO 03/068196 A1、WO 2008/135090 A1及びGB 2367002 Aにも記載されている。本発明の一実施形態では、遅延放出コーティングは、pHによって崩壊するコーティング材料、時間によって崩壊するコーティング材料、大腸内の環境における酵素的トリガーによって崩壊するコーティング材料、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含む。
【0144】
pHによって崩壊するコーティング材料の中、好ましいコーティング材料は、ポリ酢酸ビニルフタレート、酢酸セルローストリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートHP-50、HP-55またはHP-55S、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートコハク酸塩(HPMCAS)、ポリ(メタクリル酸、アクリル酸エチル)1:1(Eudragit(登録商標)L100-55、Eudragit(登録商標)L30D-55)、ポリ(メタクリル酸、メタクリル酸メチル)1:1(Eudragit(登録商標)L-100、Eudragit(登録商標)L12.5)、ポリ(メタクリル酸、メタクリル酸メチル)1:2(Eudragit(登録商標)S-100、Eudragit(登録商標)S12,5、Eudragit(登録商標)FS30D)、及びそれらの組み合わせから選択される。時間によって崩壊するコーティング材料の中、好ましいコーティング材料は、ポリ(アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル)2:1(例:Eudragit(登録商標)NM 30D、またはEudragit NE 30D)、ポリ(アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、塩化トリメチルアンモニオエチルメタクリレート)1:2:0.1(例:Eudragit(登録商標)RS 30D)、エチルセルロース(例:Surelease(登録商標)またはAquacoat ECD);ポリ(アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、塩化トリメチルアンモニオエチルメタクリレート)1:2:0.2(例:Eudragit(登録商標)RL 30D);ポリビニル酢酸(例:Kollicoat(登録商標)SR 30D); 及びそれらの組み合わせから選択される。大腸内の環境における酵素的トリガーによって崩壊するコーティング材料の中、好ましいコーティング材料は、コンドロイチン硫酸、ペクチン、グアーガム、キトサン、イヌリン、ラクツロース、ラフィノース、スタキオース、アルギン酸塩、デキストラン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクタン、シクロデキストリン、プルラン、カラギーナン、スクレログルカン、キチン、カードラン、レバン、アミロペクチン、デンプン、アミロース、難消化性デンプン、アゾ結合分解細菌によって分解されたアゾ化合物、及びそれらの組み合わせから選択される。遅延放出コーティングは、任意選択で、1つまたは複数のさらなる賦形剤を含む。
【0145】
本発明の一実施形態では、前記遅延放出コーティングのためのコーティング材料は、pHによって崩壊するコーティング材料、時間によって崩壊するコーティング材料、上記の腸内環境における酵素的トリガーによって崩壊するコーティング材料、及びそれらの組み合わせから選択される1つ、2つ、3つ等の成分を含む。本発明の別の実施形態では、前記遅延放出コーティングは、少なくとも1つのpHによって崩壊するコーティング材料と、少なくとも1つの腸内環境における酵素的トリガーによって崩壊するコーティング材料との組み合わせを含む。
【0146】
例えば、遅延放出コーティングは、前記抗体またはその機能的断片またはその誘導体を含む組成物の送達を、盲腸から始まり、上行結腸、横行結腸、及び下行結腸に続き、S状結腸で終わる大腸の全体に集中させるように設計することができる。あるいは、例えば、遅延放出コーティングは、前記抗体またはその機能的断片または誘導体の送達を回腸で開始し、その放出を横行結腸で終了するように設計することができる。その可能性と組み合わせは多数ある。
【0147】
本発明の異なる実施形態では、回腸及び/または大腸における局所治療で使用するための組成物は、直腸に投与される。本発明の文脈における直腸投与は、肛門を介した胃腸管への前記組成物の導入を意味する。本発明の好ましい実施形態では、前記組成物は、浣腸液、ゲル、発泡体、または坐剤の形態で使用される。
【0148】
当業者は、本発明に従って使用するための組成物の一部として投与されるTNFα特異的抗体またはその機能的断片または誘導体の有効量を容易に決定することができる。一般に、本発明によるTNFα特異的抗体またはその機能的断片または誘導体の有効量は、治療効果を生み出すために、即ち、1つまたは複数のICP阻害剤によって誘発された下痢、大腸炎または腸炎を治療するために必要な最低量である。患者に投与されるTNFα特異的抗体またはその機能的断片または誘導体の正確な量は、患者の障害の状態及び重症度ならびに体調に応じて変化し得る。
【0149】
本発明の一実施形態によれば、本発明の組成物は、ICP阻害剤誘発性下痢、大腸炎または腸炎に関連する症状を予防、最小化、及び/または遅延または緩和するために、患者の回腸及び/または大腸の内腔にTNFα特異的抗体またはその機能的断片または誘導体の治療有効量を提供する。「治療有効量」は、所望の治療効果を提供するために必要とされる少なくとも1つのTNFα特異的抗体またはその機能的断片または誘導体の量である。正確な量は、異なる抗体またはその機能的断片または誘導体、及び/または個々の患者によって変動しうるが、当業者によって決定することができる。
【0150】
回腸及び/または大腸の内腔における治療有効量は、例えば、抗TNFα抗体またはその機能的断片または誘導体を含む本発明の組成物を標的とすることによって達成することができる。回腸及び大腸の内腔における本発明の組成物を標的とする方法及び手段は、特に限定されず、当技術分野で知られている方法によって達成することができる。これらには、例えば、pHと微生物叢の違い及び摂取された物質の消化管の様々な部分での特定の滞留時間をもたらす、胃腸管の生来のプロセスを利用することが含まれる。腸管腔内の特定の抗体を含む特定のタンパク質の濃度をサンプリングするための方法は、当技術分野で知られている。試料は、例えば、排出された糞便から、または肛門から挿入された柔軟なチューブを用いて採取することができる。TNFα抗体の濃度は、前記組成物に使用される抗TNF抗体またはその機能的断片または誘導体に特異的な抗体を用いて、Nichollsらが糞便におけるTNFαの濃度測定について記載されているもの(J Clin Pathol.1993年8月; 46(8):757-760)と同様に、ELISA、ウエスタンブロット、またはその他の免疫化学的手法を用いて測定できる。
【0151】
本発明の組成物の1単位用量は、例えば、約0.05 mg~約1,000 mg、0.1 mg~約200 mg、または約1 mg~約100 mg、または約10 mg~約50 mg範囲の量で活性剤を含んでもよい。
【0152】
TNFα特異的抗体またはその機能的断片または誘導体を含む本発明の組成物は、例えば、1日1回、1日2回、または1日3回で前記患者に投与することができる。好ましい実施形態では、前記組成物は、1日1回で投与される。
(表1)
【実施例0153】
実施例1及び2
実施例に使用された材料及び方法
【0154】
クエン酸-TRIS緩衝液pH7の調製:精製水で2.942 gのクエン酸ナトリウムを100.0 mLにし、100 mMクエン酸ナトリウム溶液を調製した。3.842 gのクエン酸を精製水に溶解し、200.0 mlに希釈し、100 mMクエン酸溶液を調製した。該クエン酸溶液のpHを前記クエン酸ナトリウム溶液で3.5に調整した。精製水で12.114 gのTRISを100.0 mlにし、1M TRIS溶液を調製した。該TRIS溶液でクエン酸緩衝液のpHを7.0に調整した。
【0155】
ペレットの調製
(表2)製剤組成物(ペレットコア)
*アダリムマブを加える前のドライミックスに対する値
【0156】
調製工程:
乾式混合:Caleva Multilab社のミキサーアタッチメント(ダブルパドルミキサー)の装置を用いて、各バッチ(バッチサイズ:10 g)に必要な賦形剤を50 rpmで所定時間約5分間混合した。
湿式混合:乾式混合の工程の後、0.1%w/vポリソルベート20を含むアダリムマブ溶液を、混合しながら、前記賦形剤の粉末混合物に徐々に加え、50 rpmで10分間混合した。
押し出し:次に、この湿った塊を前記ミキサーから完全に取り出し、スクリュー押出機を用いて一定速度(150 rpm)で、全ての湿った塊が押し出されるまで、直径1 mm及び深さ1 mmの穴から押し出した。
球状化:次に、この湿った押出物を、溝付きプレートからなるスフェロナイザーアタッチメントに供給し、回転により、時間、速度、及び押出物の個々の成分の性質に応じて、湿った押出物をより小さな断片に切断し、(湿潤球状体に)丸くした。該押出物を1500 rpmで所定時間球状化した。
【0157】
次に、前記球状化の工程から得られた湿ったペレットを使い捨ての秤量ボートに採取し、乾燥キャビネット内で40℃で一晩乾燥させた。
【0158】
遅延(腸溶性)放出コーティング
(実施例1及び2からの)アダリムマブ含有ペレットをEudragit L30D-55を含む腸溶コーティングでコーティングした。コーティング懸濁液は、必要量のEudragit L30D-55分散液とモノステアレートグリセリル(GMS)乳濁液を混合して調製した。該GMS乳濁液は、ポリソルベート80を水に溶解し、続いてGMSを加えることによって調製した。次に、該混合物を75℃に加熱し、連続的な磁気攪拌下で該温度に15分間維持した。そして、冷却したGMS乳濁液をEudragit L30D-55に加え、続いてクエン酸トリエチル(可塑剤)を加えた。コーティングの前に、該懸濁液を30分間撹拌した。
【0159】
次に、前記コーティング懸濁液を、アダリムマブを含むペレットに噴霧し、目標のポリマーの30%増量を達成した。コーティングには、マイクロキットを備えたMiniGlatt流動床コーター(ボトムスプレー)を使用し、サイズの小さいバッチのコーティングを可能にした。入口温度40℃、製品温度33.0~34.5℃、気流24~28 m3/h、噴霧空気圧0.2~0.3 barでEudragit L30D-55懸濁液を噴霧した。
【0160】
ペレットからアダリムマブの溶解
ある量のアダリムマブをロードしたペレットを5 mlのクライオチューブに入れ、4.0 mlの緩衝液を加えて、理論的に計算されたアダリムマブの負荷量に基づいて、理論的濃度1 mg/mlのアダリムマブを得た。クエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)を緩衝液として使用した。実験の全期間中に試料を攪拌した。上清試料を所定の時点で採取し、遠心分離し、その上清を総タンパク質含有量について分析した。腸溶コーティングされたペレットの場合、最初に、ペレットを連続攪拌下で0.1N HClに2時間暴露した。次に、該液体を除去した後にクエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7.0)を前述のように実行された緩衝液の段階に加えた。
【0161】
総タンパク質含有量の定量(ブラッドフォード):総タンパク質の定量は、Coomassie Plusアッセイ(Thermo Fisher Scientific)を使用したブラッドフォード法に従った比色分析によって行った。簡単に説明すると、6.6 μlの試料を96ウェルプレートの底にピペットで移し、200 μlのCoomassie Plus試薬を加え、500 rpmで30秒間攪拌して混合した。次に、該試料を室温で10分間インキュベートした。その後、595 nmでの吸光度(Tecanプレートリーダー)を記録し、ブランクを差し引いた。定量は、新たに作成した標準曲線を用いて行った。
【0162】
結果
アダリムマブ速放性及び徐放性ペレットコアからの放出
実施例1のコーティングされていないペレットは、クエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)において迅速に崩壊し、1時間以内に迅速かつほぼ完全なアダリムマブ放出をもたらした。一方、実施例2のコーティングされていないペレットからのアダリムマブ放出は、実験期間にわたって持続していた。
(表3)
【0163】
アダリムマブ遅延(腸溶性)放出ペレットコアからの放出
アダリムマブペレットの両方のバッチを、Eudragit L30D-55分散液でコーティングした。0.1N HCl中、2時間後、コーティングされたペレットは完全に耐酸性であった(アダリムマブの放出なし)。クエン酸塩-TRIS緩衝液(pH7)(小腸管腔pHをシミュレートするため)に交換すると、アダリムマブの放出が開始された(放出:5%以上)。
実施例3
【0164】
局所投与後の抗TNFα抗体の治療効果をIBDマウスモデルで調べた。マウスTNFαに結合しないAb-REWの種特異性のため、マウスIgG2a定常領域と結合されたcV1q抗体の可変ドメイン(Echtenacherら、1990)からなる代替抗体(cV1q)を使用した。T細胞移植モデルは、このモデルの遺伝子発現パターンがIBDの遺伝子発現の変化を最もよく反映しているために選択された(DSS及びTNBS誘発性大腸炎と比較した場合)(te Veldeら、Inflamm Bowel Dis 2007; 13(3):325-30)。該モデルは、進行性の体重減少と軟便によって臨床的に特徴づけられる。組織病理学に関して、炎症は盲腸から直腸に達し、マクロファージの浸潤を伴い、中程度の数の活性化CD4+リンパ球、ムチン枯渇及び上皮過形成を伴い、腺の伸長及び粘膜の肥厚をもたらす。TNFα、IFN-γ、IL-6、CCR1、CCR2、CCR5、CXCケモカイン受容体3及びそれらのリガンドの遺伝子発現の増加が報告された(NagaokaとRadi、Front Biosci 2012年6月、1;4:1295-314)。
【0165】
WTマウスから免疫不全マウスへナイーブCD4+ T細胞を養子移植し、大腸炎を誘発し、レシピエントに経壁性大腸炎を誘発した。簡単に説明すると、未処理C57BL/6マウスからT細胞(CD44-/CD62L+)を採取して精製し、0.5 x 106個の細胞をRAG2-/-マウスに腹腔内注射した。20日目にT細胞の生着を確認した。マウスTNFαに特異的なIgG2aアイソタイプ(ヒトIgG1に対するマウス相同体)のラット/マウスキメラモノクローナル抗体を処置に使用した(Echtenacherら、J Immunol 1990; 145:3762-66)。
【0166】
これらのマウスを、次のように4つの群に分けた(未処理マウスの場合はn=5、他の全ての群の場合はn=12)。
1群は未処理マウスであった。
2群には媒体を直腸内投与した。
3群にはIgG2aを直腸内投与した。
陽性対照として、4群にはIgG2aを腹腔内投与した。
【0167】
動物に大腸炎が確立されたT細胞移植後の21日目に、抗TNFα処置を開始し、28日間継続した。直腸投与(300μg/日のIgG2aまたは200 μlの媒体)を受けた動物を毎日処置し、IgG2aを腹腔内注射された動物は週に2回処置した。エンドポイントは、体重、内視鏡検査スコア(14~49日目)、組織学的スコア(49日目)、及び結腸中のサイトカイン(49日目)であった。
【0168】
結果:
未処理及びIgG2a(ip、ir)で処置した群のマウスは、体重を維持または増加し続けたが、媒体で処置した群の動物は着実に体重が減少した(図1)。
【0169】
IgG2a処置群(ir及びip)では、内視鏡検査スコアの有意な低下と組織学的スコアの低下が観察された(図2及び3を参照)。内視鏡検査中、大腸炎は0~4のスケール(0:正常; 1:血管増生の喪失; 2:血管増生の喪失と脆弱; 3:脆弱と糜爛; 4:潰瘍と出血)で採点された。総組織学的スコアは、炎症、浮腫、杯細胞枯渇、及び上皮損傷の個々のスコア(それぞれ0~4)の合計である。
【0170】
IgG2aによる腹腔内処置は、結腸内のサイトカインの最大の減少をもたらし、続いてはIgG2aによる直腸内処置であった(図4を参照)。示された値は、近位、内側、遠位の結腸からのデータの平均値である。
【0171】
要約すると、内視鏡検査スコアの大幅な低下、組織学的スコアの低下、結腸中サイトカインの低下、及び体重減の減少によって示されるように、該局所処置は、マウスT細胞移植モデルで機能する。
【0172】
実施例4
大腸炎マウスモデルにおける大腸炎の治療での用量反応に関する試験
用量反応に関する試験では、Tg32-SCIDマウス(ヒトFcRnを遺伝子導入したマウス)を使用したT細胞移植IBDマウスモデルで直腸投与されたcV1q-huFc代替抗体の治療有効量を評価した。マウスTNFαに結合しないAb-REWの種特異性のため、cV1q抗体の可変ドメイン(Echtenacherら、1990)とAb-REWの定常ドメインからなる代替抗体(cV1q-huFc)を使用した。前記代替抗体の軽鎖及び重鎖配列は、それぞれ配列番号:12及び13に示されている。C57Bl/6マウスからTg32-SCIDマウスへのナイーブCD4+ T細胞の養子移植によって大腸炎を誘発した。該養子移植後の14日目に、cV1q-huFcによる処置を開始し、42日目まで継続した。マウスについて、毎日cV1q-huFcの直腸内投与(10、30、100及び300 μg/マウス)、毎日の盲腸内投与(300 μg/マウス)、または週に2回10 mg/kgの腹腔内注射(対照)のいずれかを行った。結腸の炎症(粘膜下組織及び筋層/漿膜)、陰窩損傷、糜爛、過形成及び浮腫からなる総組織学的スコアの用量依存的な改善が、直腸処置後の近位及び遠位結腸で観察された(図5)。また、盲腸内処置は、組織学的スコアの低下をもたらした。さらに、結腸サイトカインIL-6、IL-17A、KC、TNFα、及びMIP-2の減少が、直腸投与と盲腸内投与の両方の後に観察された(図6)。これは、盲腸内投与後のIL-17A、KC、及びMIP-2の場合に顕著であった。要約すると、TNFα阻害剤の局所投与は結腸における炎症を軽減する。
【0173】
実施例5
直腸投与後の全身曝露
本試験は、健康なマウスと大腸炎を患っているマウスで実施し、直腸投与後のcV1q-huFcへの全身曝露を測定した。Tg32-SCIDマウスを0日目~5日目に3%DSS処理飲料水に曝露し、大腸炎を誘発した。健康なマウスと病気のマウスを、cV1q-huFcの単回投与(SD)または反復投与(MD; 0.1または0.3 mg)で直腸処置した。採血の制限により、各マウス(左目、右目、末端)から3つの血液試料しか採取できなかった。従って、各処置群(n=10~14匹)を、採血のために2つのサブ群(n=5~7匹)に分けた。単回投与の動物に、大腸炎が確立された10日目にcV1q-huFc抗体を投与し、投与後1、4、及び24時間(サブ群1)及び2、8、及び48時間(サブ群2)に血液試料を採取した。cV1q-huFcを反復投与されたマウスには、10~14日目に毎日直腸投与をした。血液試料は、10日目のcV1q-huFcの初回投与の24、72、及び120時間後(サブ群1)及び48、96、及び144時間後(サブ群2)、常に次回投与の直前に採取した。並行して、2つの群(健康な群と病気の群)に、5 mg/kg cV1q-huFcを1回静脈内注射した。血液試料は、単回投与で直腸処置したマウスの場合と同様に採取した。血漿試料をImperacer(登録商標)Immuno-PCRで分析した。
【0174】
直腸投与後の全身曝露は、静脈内投与と比較して非常に低かった(図7)。健康な動物と比較して、大腸炎の動物ではわずかではあるが、顕著ではなかった。直腸へのcV1q-huFcの単回投与の結果、用量が基準化された曝露(AUC)と比較した場合、計算上の全身生物学的利用率は<0.01%となった。5日間投与した後に、経時的な全身蓄積は観察されなかった。
【0175】
実施例6
盲腸内投与後の全身曝露と組織中濃度
健康なマウス及び盲腸内投与後に大腸炎を患っているマウスにおけるcV1q-huFcの組織中濃度及び全身曝露を測定した。雄のTg32-SCIDマウスを手術した。カニューレを盲腸から肩甲骨の間の後ろに配置し、縫合糸、創傷クリップ、及び組織接着剤を用いて所定の位置に固定された盲腸の先端を露出させた。手術後、動物にブプレノルフィン(3日間)及びベイトリル(5日間)を投与し、2~4週間回復させた後、試験に割り当てた。0日目~5日目にマウスを3%DSSで処理された飲料水に曝露させ、大腸炎を誘発した。健康なマウス及び病気のマウスについて、cV1q-huFcの単回投与(1群あたりn=16)または反復投与(1群あたりn=8)の処置をした。健康なマウスについては0.3 mg/投与の用量で投与したが、2つの投与量レベル(0.1及び0.3 mg/投与)は大腸炎マウスで試験した。動物に投薬する際、カニューレを介して0.1 mLのcV1q-huFcを投与し、その後、薬物がカニューレに残留し、盲腸に到達しないことを防ぐため、0.05 mLの生理食塩水で濯いた。各時点で4匹のマウスを屠殺し、結腸及び血液(血漿)を採取した。単回投与された動物については、大腸炎が確立された10日目にcV1q-huFc抗体を投与し、投与後1、4、8、及び12時間に動物を屠殺した。cV1q-huFcの反復投与されたマウスについては、10~14日目に毎日盲腸内投与し、10日目のcV1q-huFc初回投与の24時間後及び120時間後に屠殺した。並行して、大腸炎が誘発された2つの群については、0.3 mg/投与でcV1q-huFcの単回または反復の直腸投与を行った。盲腸内処置の動物と同様に血液(血漿)試料を採取した。血漿試料をImperacer(登録商標)Immuno-PCRで分析した。屠殺時に結腸を切除し、濯ぎ、秤量し、長さ5 cmにトリミングした。ELISAによる分析のために、近位端と遠位端の両方からの1 cmの断片を急速冷凍した。
【0176】
盲腸内投与後に測定された血漿中濃度は、直腸投与後にすでに観察されたように、大きく変動した。全身曝露(AUC)は、直腸投与と比較して、盲腸内投与後に約60倍(単回投与)または200倍(反復投与)増加したが、それでも全体的な全身曝露は非常に低かった(図8)。5日間の投与後、血漿におけるcV1q-huFcのわずかな蓄積が、ほとんどの群で観察された。血漿中濃度と同様に、組織におけるcV1q-huFcのレベルは、群の中及び時点によって大きく変動した。尾骨内及び直腸内の両方の投与経路は、近位結腸及び遠位結腸において測定可能な抗体濃度をもたらした(図9)。直腸処置と盲腸内処置の間に明らかな違いが観察された全身曝露とは対照的に、組織中のレベルは両方の投与経路において同等であった。健康な動物と病気の動物の間に有意差は観察されなかった。連続5日間の反復投与は、ほとんどの群において、近位及び遠位結腸におけるcV1q-huFcのわずかな蓄積をもたらした。
【0177】
実施例7
ニボルマブで刺激されたヒトCD4+ T細胞への影響
PD-1またはCTLA-4を標的とする免疫チェックポイント阻害剤は、非常に効果的な癌治療薬であるが、大腸炎等のいくつかの免疫関連の重篤な有害事象が伴う。従って、混合リンパ球反応(MLR)におけるIFNγ分泌を測定することにより、ニボルマブで刺激されたヒトCD4+ T細胞に対するAb-REWの効果を調べた。示されたように、ニボルマブは、未処理の細胞と比較して、CD4+ T細胞から高いレベルでIFNγの分泌を誘発する。ニボルマブとAb-REWまたはインフリキシマブとの同時インキュベーションは用量依存的にIFNγの分泌を阻害したが、異なるドナーペア及び実行の間でかなりの変動が観察された(図10)。しかし、この傾向は、実行及びドナーペアの間で一貫しており、これが真の生物学的現象であることを示している。より高いレベルのIFNγを分泌できるドナーペアは、より低いIFNγ分泌を示すドナーペアほど強く応答しなかったようであり、ドナーの変動性及び初期刺激の強さが、この状況における抗TNFα剤の有効性に影響を与えることを示唆している。興味深いことに、IC50値は一般にインフリキシマブ(0.068~0.326 μg/mLの範囲)よりもAb-REW(0.028~0.266 μg/mLの範囲)の方が低く、Ab-REWがインフリキシマブよりもニボルマブを介したIFNγ分泌の強力な阻害剤である可能性を示唆している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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