(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109885
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】抗HER3抗体-薬物コンジュゲート投与によるHER3変異がんの治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4745 20060101AFI20240806BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240806BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240806BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240806BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20240806BHJP
【FI】
A61K31/4745
A61K47/68
A61P35/00
A61K39/395 N
C07K16/30
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024086183
(22)【出願日】2024-05-28
(62)【分割の表示】P 2020548575の分割
【原出願日】2019-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2018175510
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】小山 久美子
(72)【発明者】
【氏名】塩瀬 能伸
(72)【発明者】
【氏名】上野 傑
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを有効成分として含有する、HER3変異がんの治療剤を提供する。
【解決手段】抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、下式で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、治療剤。
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す。)
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを有効成分として含有する、HER3変異がんの治療剤であり、
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【化1】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを含有する、HER3変異がんの治療剤、及び/又は、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを、HER3変異がんを有することが確認された患者に投与することを特徴とする、がんの治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト上皮増殖因子受容体3(HER3;ErbB3としても知られる)は、受容体蛋白質チロシンキナーゼの上皮増殖因子受容体サブファミリーに属する膜貫通受容体である。HER3は、乳がん、肺がん、大腸がん等、様々な種類の癌において発現しており、HER2やEGFR等のチロシンキナーゼ受容体等とヘテロ二量体を形成することによって、リン酸化を受け、がん細胞の増殖やアポトーシス抑制シグナルを誘導することが知られている(非特許文献1~3)。
【0003】
HER3には変異体が存在し、がんのドライバー変異の一つであることが知られている(非特許文献4~6)。このようなHER3変異がんは、例えば、乳がんの4%(非特許文献7)、胃がんの10%(非特許文献8)、卵巣がんの1%(非特許文献9)、大腸がんの1%(非特許文献5)、及び頭頸部がんの1%(非特許文献10)に存在することが報告されている。
【0004】
HER2が過剰発現している状況下において、トラスツズマブ(Trastuzumab)、ペルツズマブ(Pertuzumab)、及びラパチニブ(Lapatinib)等の抗HER2薬が、HER3変異がんに対し、in vitro及びin vivoで有効性を示したことが報告されている(非特許文献11)。
【0005】
一方で、抗HER2薬であるネラチニブ(Neratinib)を用いた臨床試験では、HER3変異がんに対する有効性が認められなかったことも報告されている(非特許文献12)。
【0006】
抗HER2薬がHER3変異がんに対し有効性を示さないケースが存在する理由の一つとして、HER3変異がんがHER2の過剰発現とは独立して機能する状況が示唆されている。すなわち、HER3変異がんはHER2が過剰発現していない状況下においてもがん細胞の増殖を誘導し得ることが報告されており(非特許文献13、14)、HER2が過剰発現していない状況下においては、抗HER2薬は、HER3変異がんに対し抗腫瘍効果を及ぼすことができないと考えられている。
【0007】
また、抗HER3抗体のHER3変異がんに対する有効性を検証した研究も知られている(非特許文献11)。しかし、HER2の過剰発現の有無にかかわらず抗HER3抗体がHER3変異がんに対し明確な有効性を示した旨の報告は知られていない。また、通常、HER3の変異に伴い抗HER3抗体のHER3への結合性が低下することが想定され、各種のHER3変異に対して恒常的に優れた抗腫瘍活性を示す抗HER3抗体を取得することは困難と考えられる。従って、HER3変異がんの有効な治療法は未だに確立されていない。
【0008】
がん細胞表面に発現する抗原に結合し、かつ細胞に内在化できる抗体に、細胞毒性を有する薬物を結合させた抗体-薬物コンジュゲート(Antibody-Drug Conjugate;ADC)は、がん細胞に選択的に薬物を送達できることによって、がん細胞内に薬物を蓄積させ、がん細胞を死滅させることが期待できる(非特許文献15~19)。
【0009】
抗体-薬物コンジュゲートの一つとして、抗HER3抗体とトポイソメラーゼI阻害剤であるエキサテカンの誘導体を構成要素とする抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが知られている(特許文献1)。抗HER3抗体-薬物コンジュゲートのHER3変異がんに対する有効性に関する報告は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Alimandi et al., Oncogene (1995) 10, 1813-1821.
【非特許文献2】deFazio et al., Int. J. Cancer (2000) 87, 487-498.
【非特許文献3】Naidu et al., Br. J. Cancer (1998) 78, 1385-1390.
【非特許文献4】Sergina et al., Nature (2007) 445, 437-41.
【非特許文献5】Jeong et al., Int. J. Cancer (2006) 119, 2986-7.
【非特許文献6】Ding et al., Nature (2008) 455, 1069-75.
【非特許文献7】Kan et al., Nature (2010) 466, 869-73.
【非特許文献8】Wang et al., Nat. Genet. (2011) 43, 1219-23.
【非特許文献9】Greenman et al., Nature (2007) 446, 153-8.
【非特許文献10】Stransky et al., Science (2011) 333, 1157-60.
【非特許文献11】Jaiswal et al., Cancer cell (2013) 23, 603-17.
【非特許文献12】Hyman et al., Cancer Res. (2017) Abstract CT001.
【非特許文献13】Mishra et al., Oncotarget (2017) 69, 114371-114392.
【非特許文献14】Mishra et al., Oncotarget (2018) 45, 27773-27788.
【非特許文献15】Ducry et al., Bioconjugate Chem. (2010) 21, 5-13.
【非特許文献16】Alley et al., Current Opinion in Chemical Biology (2010) 14, 529-537.
【非特許文献17】Damle, Expert Opin. Biol. Ther. (2004) 4, 1445-1452.
【非特許文献18】Senter et al., Nature Biotechnology (2012) 30, 631-637.
【非特許文献19】Howard et al., J Clin Oncol (2011) 29, 398-405.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを含有する、HER3変異がんの治療剤、及び/又は、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを、HER3変異がんを有することが確認された患者に投与することを特徴とする、がんの治療方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、HER3変異がんに対し、優れた抗腫瘍活性を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[85]を提供する。
[1]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを有効成分として含有する、HER3変異がんの治療剤。
[2]
HER3変異がんにおけるHER3変異が、V104L、V104M、A232V、P262H、G284R、D297Y、G325R、T355I、Q809R、S846I、及びE928Gからなる群より選択される少なくとも一つである、[1]に記載の治療剤。
[3]
HER3変異がんにおけるHER3変異が、Q809Rである、[1]に記載の治療剤。
[4]
HER3変異がんが、HER2を過剰発現している、[1]~[3]のいずれか1項に記載の治療剤。
[5]
HER3変異がんが、HER2を過剰発現していない、[1]~[3]のいずれか1項に記載の治療剤。
[6]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートのリソソーム移行性が、野生型HER3発現細胞と、変異型HER3発現細胞との間で実質的に異ならない、[1]~[5]のいずれか1項に記載の治療剤。
[7]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートのリソソーム移行性が、HER2を過剰発現しているHER3発現細胞と、HER2を過剰発現していないHER3発現細胞との間で実質的に異ならない、[1]~[6]のいずれか1項に記載の治療剤。
[8]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0015】
【0016】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、[1]~[7]のいずれか1項に記載の治療剤。
[9]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0017】
【0018】
(式中、薬物リンカーは抗HER3抗体とチオエーテル結合によって結合しており、nは1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数を示す)
で示される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、[1]~[7]のいずれか1項に記載の治療剤。
[10]
抗HER3抗体が、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の治療剤。
[11]
抗HER3抗体が、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含む抗体である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の治療剤。
[12]
抗HER3抗体が、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖、を含む抗体である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の治療剤。
[13]
抗HER3抗体の、重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、[12]に記載の治療剤。
[14]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[1]~[13]のいずれか1項に記載の治療剤。
[15]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[1]~[13]のいずれか1項に記載の治療剤。
[16]
がんが、乳がん、肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、メラノーマ、腎がん、尿路上皮がん、前立腺がん、膵がん、膀胱がん、胃腸間質腫瘍、子宮頸がん、食道がん、扁平上皮がん、腹膜がん、多形グリア芽細胞腫、肝臓がん、肝細胞がん、子宮内膜がん、子宮がん、唾液腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝癌腫、肛門癌腫、及び陰茎がんからなる群より選択される少なくとも一つである、[1]~[15]のいずれか1項に記載の治療剤。
[17]
がんが、乳がん、非小細胞肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、及びメラノーマからなる群より選択される少なくとも一つである、[1]~[15]のいずれか1項に記載の治療剤。
[18]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを、HER3変異がんを有することが確認された患者に投与することを特徴とする、がんの治療方法。
[19]
HER3変異がんにおけるHER3変異が、V104L、V104M、A232V、P262H、G284R、D297Y、G325R、T355I、Q809R、S846I、及びE928Gからなる群より選択される少なくとも一つである、[18]に記載の治療方法。
[20]
HER3変異がんにおけるHER3変異が、Q809Rである、[18]に記載の治療方法。
【0019】
[21]
HER3変異がんが、HER2を過剰発現している、[18]~[20]のいずれか1項に記載の治療方法。
[22]
HER3変異がんが、HER2を過剰発現していない、[18]~[20]のいずれか1項に記載の治療方法。
[23]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートのリソソーム移行性が、野生型HER3発現細胞と、変異型HER3発現細胞との間で実質的に異ならない、[18]~[22]のいずれか1項に記載の治療方法。
[24]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートのリソソーム移行性が、HER2を過剰発現しているHER3発現細胞と、HER2を過剰発現していないHER3発現細胞との間で実質的に異ならない、[18]~[23]のいずれか1項に記載の治療方法。
[25]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0020】
【0021】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、[18]~[24]のいずれか1項に記載の治療方法。
[26]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0022】
【0023】
(式中、薬物リンカーは抗HER3抗体とチオエーテル結合によって結合しており、nは1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数を示す)
で示される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、[18]~[24]のいずれか1項に記載の治療方法。
[27]
抗HER3抗体が、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体である、[18]~[26]のいずれか1項に記載の治療方法。
[28]
抗HER3抗体が、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含む抗体である、[18]~[26]のいずれか1項に記載の治療方法。
[29]
抗HER3抗体が、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖、を含む抗体である、[18]~[26]のいずれか1項に記載の治療方法。
[30]
抗HER3抗体の、重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、[29]に記載の治療方法。
【0024】
[31]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[18]~[30]のいずれか1項に記載の治療方法。
[32]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[18]~[30]のいずれか1項に記載の治療方法。
[33]
がんが、乳がん、肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、メラノーマ、腎がん、尿路上皮がん、前立腺がん、膵がん、膀胱がん、胃腸間質腫瘍、子宮頸がん、食道がん、扁平上皮がん、腹膜がん、多形グリア芽細胞腫、肝臓がん、肝細胞がん、子宮内膜がん、子宮がん、唾液腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝癌腫、肛門癌腫、及び陰茎がんからなる群より選択される少なくとも一つである、[18]~[32]のいずれか1項に記載の治療方法。
[34]
がんが、乳がん、非小細胞肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、及びメラノーマからなる群より選択される少なくとも一つである、[18]~[32]のいずれか1項に記載の治療方法。
[35]
HER3変異がんの治療のための、抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[36]
HER3変異がんにおけるHER3変異が、V104L、V104M、A232V、P262H、G284R、D297Y、G325R、T355I、Q809R、S846I、及びE928Gからなる群より選択される少なくとも一つである、[35]に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[37]
HER3変異がんにおけるHER3変異が、Q809Rである、[35]に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[38]
HER3変異がんが、HER2を過剰発現している、[35]~[37]のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[39]
HER3変異がんが、HER2を過剰発現していない、[35]~[37]のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[40]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートのリソソーム移行性が、野生型HER3発現細胞と、変異型HER3発現細胞との間で実質的に異ならない、[35]~[39]のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[41]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートのリソソーム移行性が、HER2を過剰発現しているHER3発現細胞と、HER2を過剰発現していないHER3発現細胞との間で実質的に異ならない、[35]~[40]のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[42]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0025】
【0026】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、[35]~[41]のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[43]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0027】
【0028】
(式中、薬物リンカーは抗HER3抗体とチオエーテル結合によって結合しており、nは1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数を示す)
で示される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、[35]~[41]のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[44]
抗HER3抗体が、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体である、[35]~[43]のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[45]
抗HER3抗体が、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含む抗体である、[35]~[43]のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[46]
抗HER3抗体が、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖、を含む抗体である、[35]~[43]のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[47]
抗HER3抗体の、重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、[46]に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[48]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[35]~[47]のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[49]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[35]~[47]のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[50]
がんが、乳がん、肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、メラノーマ、腎がん、尿路上皮がん、前立腺がん、膵がん、膀胱がん、胃腸間質腫瘍、子宮頸がん、食道がん、扁平上皮がん、腹膜がん、多形グリア芽細胞腫、肝臓がん、肝細胞がん、子宮内膜がん、子宮がん、唾液腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝癌腫、肛門癌腫、及び陰茎がんからなる群より選択される少なくとも一つである、[35]~[49]のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0029】
[51]
がんが、乳がん、非小細胞肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、及びメラノーマからなる群より選択される少なくとも一つである、[35]~[49]のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
[52]
HER3変異がんの治療用の医薬を製造するための、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの使用。
[53]
HER3変異がんにおけるHER3変異が、V104L、V104M、A232V、P262H、G284R、D297Y、G325R、T355I、Q809R、S846I、及びE928Gからなる群より選択される少なくとも一つである、[52]に記載の使用。
[54]
HER3変異がんにおけるHER3変異が、Q809Rである、[52]に記載の使用。
[55]
HER3変異がんが、HER2を過剰発現している、[52]~[54]のいずれか1項に記載の使用。
[56]
HER3変異がんが、HER2を過剰発現していない、[52]~[54]のいずれか1項に記載の使用。
[57]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートのリソソーム移行性が、野生型HER3発現細胞と、変異型HER3発現細胞との間で実質的に異ならない、[52]~[56]のいずれか1項に記載の使用。
[58]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートのリソソーム移行性が、HER2を過剰発現しているHER3発現細胞と、HER2を過剰発現していないHER3発現細胞との間で実質的に異ならない、[52]~[57]のいずれか1項に記載の使用。
[59]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0030】
【0031】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、[52]~[58]のいずれか1項に記載の使用。
[60]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0032】
【0033】
(式中、薬物リンカーは抗HER3抗体とチオエーテル結合によって結合しており、nは1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数を示す)
で示される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、[52]~[58]のいずれか1項に記載の使用。
[61]
抗HER3抗体が、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体である、[52]~[60]のいずれか1項に記載の使用。
[62]
抗HER3抗体が、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含む抗体である、[52]~[60]のいずれか1項に記載の使用。
[63]
抗HER3抗体が、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖、を含む抗体である、[52]~[60]のいずれか1項に記載の使用。
[64]
抗HER3抗体の、重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、[63]に記載の使用。
[65]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[52]~[64]のいずれか1項に記載の使用。
[66]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[52]~[64]のいずれか1項に記載の使用。
[67]
がんが、乳がん、肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、メラノーマ、腎がん、尿路上皮がん、前立腺がん、膵がん、膀胱がん、胃腸間質腫瘍、子宮頸がん、食道がん、扁平上皮がん、腹膜がん、多形グリア芽細胞腫、肝臓がん、肝細胞がん、子宮内膜がん、子宮がん、唾液腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝癌腫、肛門癌腫、及び陰茎がんからなる群より選択される少なくとも一つである、[52]~[66]のいずれか1項に記載の使用。
[68]
がんが、乳がん、非小細胞肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、及びメラノーマからなる群より選択される少なくとも一つである、[52]~[66]のいずれか1項に記載の使用。
[69]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを、HER3変異がんの治療を必要とする患者に投与することを特徴とする、HER3変異がんの治療方法。
[70]
HER3変異がんにおけるHER3変異が、V104L、V104M、A232V、P262H、G284R、D297Y、G325R、T355I、Q809R、S846I、及びE928Gからなる群より選択される少なくとも一つである、[69]に記載の治療方法。
【0034】
[71]
HER3変異がんにおけるHER3変異が、Q809Rである、[69]に記載の治療方法。
[72]
HER3変異がんが、HER2を過剰発現している、[69]~[71]のいずれか1項に記載の治療方法。
[73]
HER3変異がんが、HER2を過剰発現していない、[69]~[71]のいずれか1項に記載の治療方法。
[74]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートのリソソーム移行性が、野生型HER3発現細胞と、変異型HER3発現細胞との間で実質的に異ならない、[69]~[73]のいずれか1項に記載の治療方法。
[75]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートのリソソーム移行性が、HER2を過剰発現しているHER3発現細胞と、HER2を過剰発現していないHER3発現細胞との間で実質的に異ならない、[69]~[74]のいずれか1項に記載の治療方法。
[76]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0035】
【0036】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、[69]~[75]のいずれか1項に記載の治療方法。
[77]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0037】
【0038】
(式中、薬物リンカーは抗HER3抗体とチオエーテル結合によって結合しており、nは1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数を示す)
で示される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、[69]~[75]のいずれか1項に記載の治療方法。
[78]
抗HER3抗体が、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体である、[69]~[77]のいずれか1項に記載の治療方法。
[79]
抗HER3抗体が、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含む抗体である、[69]~[77]のいずれか1項に記載の治療方法。
[80]
抗HER3抗体が、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖、を含む抗体である、[69]~[77]のいずれか1項に記載の治療方法。
[81]
抗HER3抗体の、重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、[80]に記載の治療方法。
[82]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[69]~[81]のいずれか1項に記載の治療方法。
[83]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[69]~[81]のいずれか1項に記載の治療方法。
[84]
がんが、乳がん、肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、メラノーマ、腎がん、尿路上皮がん、前立腺がん、膵がん、膀胱がん、胃腸間質腫瘍、子宮頸がん、食道がん、扁平上皮がん、腹膜がん、多形グリア芽細胞腫、肝臓がん、肝細胞がん、子宮内膜がん、子宮がん、唾液腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝癌腫、肛門癌腫、及び陰茎がんからなる群より選択される少なくとも一つである、[69]~[83]のいずれか1項に記載の治療方法。
[85]
がんが、乳がん、非小細胞肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、及びメラノーマからなる群より選択される少なくとも一つである、[69]~[83]のいずれか1項に記載の治療方法。
【0039】
また、本発明は、以下の(1)~(48)の通り表すこともできる。
(1)
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを有効成分として含有する、HER3遺伝子変異がんの治療剤。
(2)
HER3遺伝子変異がんが、HER2を過剰発現している、(1)に記載の治療剤。
(3)
HER3遺伝子変異がんが、HER2を過剰発現していない、(1)に記載の治療剤。
(4)
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0040】
【0041】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、(1)~(3)のいずれか1項に記載の治療剤。
(5)
抗HER3抗体が、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の治療剤。
(6)
抗HER3抗体が、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含む抗体である、(1)~(5)のいずれか1項に記載の治療剤。
(7)
抗HER3抗体が、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖、を含む抗体である、(1)~(6)のいずれか1項に記載の治療剤。
(8)
抗HER3抗体の、重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、(7)に記載の治療剤。
(9)
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、(1)~(8)のいずれか1項に記載の治療剤。
(10)
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、(1)~(8)のいずれか1項に記載の治療剤。
(11)
がんが、乳がん、肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、メラノーマ、腎がん、尿路上皮がん、前立腺がん、膵がん、膀胱がん、胃腸間質腫瘍、子宮頸がん、食道がん、扁平上皮がん、腹膜がん、多形グリア芽細胞腫、肝臓がん、肝細胞がん、子宮内膜がん、子宮がん、唾液腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝癌腫、肛門癌腫、及び陰茎がんからなる群より選択される少なくとも一つである、(1)~(10)のいずれか1項に記載の治療剤。
(12)
がんが、乳がん、非小細胞肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、及びメラノーマからなる群より選択される少なくとも一つである、(1)~(10)のいずれか1項に記載の治療剤。
(13)
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを、HER3遺伝子変異がんを有することが確認された患者に投与することを特徴とする、がんの治療方法。
(14)
HER3遺伝子変異がんが、HER2を過剰発現している、(13)に記載の治療方法。
(15)
HER3遺伝子変異がんが、HER2を過剰発現していない、(13)に記載の治療方法。
(16)
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0042】
【0043】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、(13)~(15)のいずれか1項に記載の治療方法。
(17)
抗HER3抗体が、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体である、(13)~(16)のいずれか1項に記載の治療方法。
(18)
抗HER3抗体が、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含む抗体である、(13)~(17)のいずれか1項に記載の治療方法。
(19)
抗HER3抗体が、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖、を含む抗体である、(13)~(18)のいずれか1項に記載の治療方法。
(20)
抗HER3抗体の、重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、(19)に記載の治療方法。
【0044】
(21)
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、(13)~(20)のいずれか1項に記載の治療方法。
(22)
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、(13)~(20)のいずれか1項に記載の治療方法。
(23)
がんが、乳がん、肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、メラノーマ、腎がん、尿路上皮がん、前立腺がん、膵がん、膀胱がん、胃腸間質腫瘍、子宮頸がん、食道がん、扁平上皮がん、腹膜がん、多形グリア芽細胞腫、肝臓がん、肝細胞がん、子宮内膜がん、子宮がん、唾液腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝癌腫、肛門癌腫、及び陰茎がんからなる群より選択される少なくとも一つである、(13)~(22)のいずれか1項に記載の治療方法。
(24)
がんが、乳がん、非小細胞肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、及びメラノーマからなる群より選択される少なくとも一つである、(13)~(22)のいずれか1項に記載の治療方法。
(25)
HER3遺伝子変異がんの治療のための、抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
(26)
HER3遺伝子変異がんが、HER2を過剰発現している、(25)に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
(27)
HER3遺伝子変異がんが、HER2を過剰発現していない、(25)に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
(28)
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0045】
【0046】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、(25)~(27)のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
(29)
抗HER3抗体が、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体である、(25)~(28)のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
(30)
抗HER3抗体が、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含む抗体である、(25)~(29)のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
(31)
抗HER3抗体が、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖、を含む抗体である、(25)~(30)のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
(32)
抗HER3抗体の、重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、(31)に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
(33)
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、(25)~(32)のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
(34)
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、(25)~(33)のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
(35)
がんが、乳がん、肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、メラノーマ、腎がん、尿路上皮がん、前立腺がん、膵がん、膀胱がん、胃腸間質腫瘍、子宮頸がん、食道がん、扁平上皮がん、腹膜がん、多形グリア芽細胞腫、肝臓がん、肝細胞がん、子宮内膜がん、子宮がん、唾液腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝癌腫、肛門癌腫、及び陰茎がんからなる群より選択される少なくとも一つである、(25)~(34)のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
(36)
がんが、乳がん、非小細胞肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、及びメラノーマからなる群より選択される少なくとも一つである、(25)~(34)のいずれか1項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
(37)
HER3遺伝子変異がんの治療用の医薬を製造するための、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの使用。
(38)
HER3遺伝子変異がんが、HER2を過剰発現している、(37)に記載の使用。
(39)
HER3遺伝子変異がんが、HER2を過剰発現していない、(37)に記載の使用。
(40)
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0047】
【0048】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、(37)~(39)のいずれか1項に記載の使用。
(41)
抗HER3抗体が、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体である、(37)~(40)のいずれか1項に記載の使用。
(42)
抗HER3抗体が、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含む抗体である、(37)~(41)のいずれか1項に記載の使用。
(43)
抗HER3抗体が、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖、を含む抗体である、(37)~(42)のいずれか1項に記載の使用。
(44)
抗HER3抗体の、重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、(43)に記載の使用。
(45)
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、(37)~(44)のいずれか1項に記載の使用。
(46)
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、(37)~(44)のいずれか1項に記載の使用。
(47)
がんが、乳がん、肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、メラノーマ、腎がん、尿路上皮がん、前立腺がん、膵がん、膀胱がん、胃腸間質腫瘍、子宮頸がん、食道がん、扁平上皮がん、腹膜がん、多形グリア芽細胞腫、肝臓がん、肝細胞がん、子宮内膜がん、子宮がん、唾液腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝癌腫、肛門癌腫、及び陰茎がんからなる群より選択される少なくとも一つである、(37)~(46)のいずれか1項に記載の使用。
(48)
がんが、乳がん、非小細胞肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、及びメラノーマからなる群より選択される少なくとも一つである、(37)~(46)のいずれか1項に記載の使用。
【発明の効果】
【0049】
本発明により、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを含有する、HER3変異がんの治療剤、及び/又は、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを、HER3変異がんを有することが確認された患者に投与することを特徴とする、がんの治療方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】抗HER3抗体重鎖のアミノ酸配列(配列番号9)を示す。
【
図2】抗HER3抗体軽鎖のアミノ酸配列(配列番号10)を示す。
【
図3】各種HER3安定発現細胞のRT-PCR産物の1%アガロースゲル電気泳動の結果(HER3の発現)を示す。
【
図4】各種HER2過剰発現HER3安定発現細胞のRT-PCR産物の1%アガロースゲル電気泳動の結果(HER3の発現)を示す。
【
図5】各種HER2過剰発現HER3安定発現細胞のRT-PCR産物の1%アガロースゲル電気泳動の結果(HER2の発現)を示す。
【
図6】HER3安定発現細胞におけるHER3-ADC(1)の結合性を示す。
【
図7】HER2過剰発現HER3安定発現細胞におけるHER3-ADC(1)の結合性を示す。
【
図8】空ベクター導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図9】野生型HER3導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図10】変異型HER3(V104L)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【0051】
【
図11】変異型HER3(V104M)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図12】変異型HER3(A232V)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図13】変異型HER3(P262H)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図14】変異型HER3(G284R)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図15】変異型HER3(D297Y)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図16】変異型HER3(G325R)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図17】変異型HER3(T355I)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図18】変異型HER3(S846I)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図19】変異型HER3(E928G)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図20】空ベクター導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【0052】
【
図21】野生型HER3導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図22】変異型HER3(V104L)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図23】変異型HER3(V104M)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図24】変異型HER3(A232V)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図25】変異型HER3(P262H)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図26】変異型HER3(G284R)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図27】変異型HER3(D297Y)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図28】変異型HER3(G325R)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図29】変異型HER3(T355I)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図30】変異型HER3(S846I)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【0053】
【
図31】変異型HER3(E928G)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図32】空ベクター導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図33】野生型HER3導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図34】変異型HER3(Q809R)導入細胞(HER2過剰発現有り)のRT-PCR産物の1%アガロースゲル電気泳動の結果(HER3の発現)を示す。
【
図35】変異型HER3(Q809R)導入細胞(HER2過剰発現有り)のRT-PCR産物の1%アガロースゲル電気泳動の結果(HER2の発現)を示す。
【
図36】変異型HER3(Q809R)導入細胞(HER2過剰発現有り)におけるHER3-ADC(1)の結合性を示す。
【
図37】変異型HER3(Q809R)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の細胞増殖抑制活性を示す。
【
図38】空ベクター導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図39】野生型HER3導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図40】変異型HER3(V104L)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【0054】
【
図41】変異型HER3(V104M)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図42】変異型HER3(A232V)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図43】変異型HER3(P262H)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図44】変異型HER3(G284R)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図45】変異型HER3(D297Y)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図46】変異型HER3(G325R)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図47】変異型HER3(T355I)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図48】変異型HER3(S846I)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図49】変異型HER3(E928G)導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図50】空ベクター導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【0055】
【
図51】野生型HER3導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図52】変異型HER3(V104L)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図53】変異型HER3(V104M)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図54】変異型HER3(A232V)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図55】変異型HER3(P262H)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図56】変異型HER3(G284R)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図57】変異型HER3(D297Y)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図58】変異型HER3(G325R)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図59】変異型HER3(T355I)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図60】変異型HER3(Q809R)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【0056】
【
図61】変異型HER3(S846I)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図62】変異型HER3(E928G)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図63】空ベクター導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図64】野生型HER3導入細胞(HER2過剰発現無し)に対する、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性を示す。
【
図65】HER3蛋白のアミノ酸配列(配列番号69)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これによって本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0058】
[定義]
本発明において、「HER3」とは、ヒト上皮増殖因子受容体3(HER3;ErbB3としても知られる)と同義であり、HER1(EGFR、ErbB1)、HER2(ErbB2)及びHER4(ErbB4)とともに受容体蛋白質チロシンキナーゼの上皮増殖因子受容体サブファミリーに属する膜貫通受容体である。HER3は、乳がん、肺がん、大腸がん等、様々な種類の癌において発現しており、HER2やEGFR等のチロシンキナーゼ受容体等とヘテロ二量体を形成することによって、リン酸化を受け、がん細胞の増殖やアポトーシス抑制シグナルを誘導することが知られている(Alimandi et al., Oncogene (1995) 10, 1813-1821、deFazio et al., Int. J. Cancer (2000) 87, 487-498、Naidu et al., Br. J. Cancer (1998) 78, 1385-1390)。
【0059】
本発明において、「HER3蛋白」という語は、HER3と同じ意味で用いている。HER3蛋白の発現は、免疫組織化学(IHC)法等、当業者に周知の方法を用いて検出することができる。また、HER3蛋白にFlagペプチドを導入し、抗Flagペプチド抗体を用いることにより、HER3蛋白の発現を検出することもできる。
【0060】
HER3蛋白のアミノ酸配列を配列番号69(
図65)に示す。
【0061】
本発明において、「HER3遺伝子」とは、HER3蛋白をコードする遺伝子を意味する。HER3蛋白は、HER3遺伝子の遺伝子産物である。
【0062】
本発明において、「HER3変異」とは、HER3蛋白のアミノ酸配列に変異を有することを意味する。
【0063】
本発明において、「HER3変異がん」とは、HER3蛋白のアミノ酸配列に変異を有するがんを意味する。また、腫瘍組織全体にHER3変異を有さなくてもHER3変異を有するがん細胞を含むがんであれば、HER3変異がんに含まれる。
【0064】
本発明において、「HER3遺伝子変異」とは、HER3遺伝子に変異を有することを意味する。
【0065】
本発明において、「HER3遺伝子変異がん」とは、HER3遺伝子に変異を有するがんを意味する。また、腫瘍組織全体にHER3遺伝子変異を有さなくてもHER3遺伝子変異を有するがん細胞を含むがんであれば、HER3遺伝子変異がんに含まれる。HER3遺伝子変異は、遺伝子産物であるHER3蛋白のアミノ酸配列に変異を及ぼし、HER3変異を生じさせる。
【0066】
HER3変異の具体例としては、例えば、HER3蛋白の104番目のアミノ酸であるV(バリン)がL(ロイシン)に置き換わっている変異(「V104L」とも言う)(Cancer Cell. 2013 May 13;23(5):603-17、Nat Genet. 2014 Aug;46(8):872-6、Cancer Res. 2014 Nov 1;74(21):6071-81、Cancer. 2016 Sep 1;122(17):2654-62、Nat Med. 2017 Jun;23(6):703-713、及びNature. 2018 Feb 8;554(7691):189-194等を参照)、HER3蛋白の104番目のアミノ酸であるV(バリン)がM(メチオニン)に置き換わっている変異(「V104M」とも言う)(Hum Mutat. 2008 Mar;29(3):441-50、Cancer Cell. 2013 May 13;23(5):603-17、Genome Biol. 2014 Apr 1;15(4):R55、Cancer Res. 2014 Jun 15;74(12):3238-47、Nat Genet. 2014 Aug;46(8):872-6、及びAnn Oncol. 2016 Jan;27(1):127-33等を参照)、HER3蛋白の232番目のアミノ酸であるA(アラニン)がV(バリン)に置き換わっている変異(「A232V」とも言う)(Nat Genet. 2013 May;45(5):478-86、Cancer Cell. 2013 May 13;23(5):603-17、Cancer Cell. 2016 Feb 8;29(2):229-40、Cell Rep. 2016 Apr 26;15(4):857-865等を参照)、HER3蛋白の262番目のアミノ酸であるP(プロリン)がH(ヒスチジン)に置き換わっている変異(「P262H」とも言う)(Cancer Cell. 2013 May 13;23(5):603-17、Gastroenterology. 2014 Feb;146(2):530-38.e5、及びNat Med. 2017 Jun;23(6):703-713等を参照)、HER3蛋白の284番目のアミノ酸であるG(グリシン)がR(アルギニン)に置き換わっている変異(「G284R」とも言う)(Nature. 2008 Oct 23;455(7216):1069-75、Cancer Cell. 2013 May 13;23(5):603-17、Nat Genet. 2014 Jun;46(6):573-82、及びAnn Oncol. 2015 Aug;26(8):1704-9等を参照)、HER3蛋白の297番目のアミノ酸であるD(アスパラギン酸)がY(チロシン)に置き換わっている変異(「D297Y」とも言う)(PLoS One. 2014 Mar 5;9(3):e90459、Nat Genet. 2014 Jun;46(6):573-82、Nat Genet. 2014 Oct;46(10):1097-102、Ann Oncol. 2016 Jan;27(1):127-33、及びCancer. 2016 Sep 1;122(17):2654-62等を参照)、HER3蛋白の325番目のアミノ酸であるG(グリシン)がR(アルギニン)に置き換わっている変異(「G325R」とも言う)(Nat Med. 2017 Jun;23(6):703-713等を参照)、HER3蛋白の355番目のアミノ酸であるT(トレオニン)がI(イソロイシン)に置き換わっている変異(「T355I」とも言う)(Nat Med. 2017 Jun;23(6):703-713、及びNature. 2018 Feb 8;554(7691):189-194等を参照)、HER3蛋白の809番目のアミノ酸であるQ(グルタミン)がR(アルギニン)に置き換わっている変異(「Q809R」とも言う)(Cancer Cell. 2013 May 13;23(5):603-17、Cell Rep. 2016 Apr 26;15(4):857-865、及びNat Med. 2017 Jun;23(6):703-713等を参照)、HER3蛋白の846番目のアミノ酸であるS(セリン)がI(イソロイシン)に置き換わっている変異(「S846I」とも言う)(Int J Cancer. 2006 Dec 15;119(12):2986-7、Nat Genet. 2014 Dec;46(12):1264-6、及びCell Rep. 2016 Apr 26;15(4):857-865等を参照)、及びHER3蛋白の928番目のアミノ酸であるE(グルタミン酸)がG(グリシン)に置き換わっている変異(「E928G」とも言う)(Nat Genet. 2011 Oct 30;43(12):1219-23、Clin Cancer Res. 2016 Apr 1;22(7):1583-91、Cancer. 2016 Sep 1;122(17):2654-62、Clin Cancer Res. 2016 Dec 15;22(24):6061-6068、Cancer Res. 2016 Oct 15;76(20):5954-5961、及びPLoS Med. 2016 Dec 27;13(12):e1002201等を参照)を挙げることができる。
【0067】
なお、上記のHER3変異のうち、特にQ809Rを有するがんは、既存の抗HER2薬や抗HER3抗体に対し、強い抵抗性を示すことが示唆されている(Jaiswal et al., Cancer cell (2013) 23, 603-17)。
【0068】
本発明におけるHER3変異は、HER3蛋白のアミノ酸配列に変異を有するものであれば特に限定はされないが、好適には、V104L、V104M、A232V、P262H、G284R、D297Y、G325R、T355I、Q809R、S846I、及びE928Gからなる群より選択される少なくとも一つを挙げることができ、より好適にはQ809Rを挙げることができる。
【0069】
HER3変異の有無は、例えば、がん患者から腫瘍組織を採取し、ホルマリン固定パラフィン包埋された検体(FFPE)をリアルタイム定量PCR(qRT-PCR)又はマイクロアレイ解析等の方法を行うことにより確認することができる。
【0070】
また、HER3変異の有無は、がん患者から無細胞血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を採取し、次世代シークエンス(NGS)等の方法を行うことにより確認することもできる(Sergina et al., Nature (2007) 445, 437-41、Jeong et al., Int. J. Cancer (2006) 119, 2986-7、Ding et al., Nature (2008) 455, 1069-75、Kan et al., Nature (2010) 466, 869-73、Wang et al., Nat. Genet. (2011) 43, 1219-23、Greenman et al., Nature (2007) 446, 153-8、Stransky et al., Science (2011) 333, 1157-60、Jaiswal et al., Cancer cell (2013) 23, 603-17、Hyman et al., Cancer Res. (2017) Abstract CT001、Mishra et al., Oncotarget (2017) 69, 114371-114392、Mishra et al., Oncotarget (2018) 45, 27773-27788等を参照)。
【0071】
本発明において、「HER3変異」という語は、HER3遺伝子変異と同じ意味で用いている。
【0072】
本発明において、「野生型HER3」とは、HER3変異がないHER3蛋白を意味する。本発明において、野生型を「WT」と表すこともある。
【0073】
本発明において、「変異型HER3」とは、HER3変異があるHER3蛋白を意味する。
【0074】
HER3安定発現細胞は、カチオン性脂質、カチオン性ポリマー、リン酸カルシウム等を利用したトランスフェクションによる化学的遺伝子導入法、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、ソノポレーション、レーザー照射等による物理的遺伝子導入法、ウイルスベクターを利用した生物学的遺伝子導入法等により作製することができる。例えば、生物学的遺伝子導入法のうち、レンチウイルスを利用した場合では、Lenti-X 293T細胞等のパッケージング細胞にレンチウイルスタンパク質とエンベロープタンパク質の発現プラスミド及びHER3発現プラスミドを共に導入後、培養上清よりレンチウイルス溶液を調整し、これを用いて腫瘍細胞を培養することにより、作製することができる。ここで、用いるHER3発現プラスミドの種類により、野生型又は変異型HER3発現細胞を作り分けることができる。変異型HER3発現プラスミドは、HER3変異導入プライマーを用いて作製することができる。
【0075】
本発明において、「抗HER3抗体」とは、HER3に特異的に結合し、好ましくは、HER3と結合することによってHER3発現細胞に内在化する活性を有する抗体、言い換えれば、HER3と結合した後、HER3発現細胞内に移動する活性を有する抗体を示す。
【0076】
本発明において、「HER2」とは、ヒト上皮増殖因子受容体2(neu、ErbB-2と呼ばれることもある)と同義であり、HER1、HER3、及びHER4とともに受容体蛋白質チロシンキナーゼの上皮増殖因子受容体サブファミリーに属する膜貫通受容体である。HER2は、HER1、HER3、又はHER4とのヘテロ二量体形成により細胞内チロシン残基が自己リン酸化されて活性化することにより、正常細胞及び腫瘍細胞において細胞の増殖・分化・生存に重要な役割を果たすことが知られている。
【0077】
本発明において、「HER2蛋白」という語は、HER2と同じ意味で用いている。
【0078】
本発明において、HER2の「過剰発現」とは、HER2の発現が陽性と判定されることを示し、例えば、免疫組織化学(IHC)法によりHER2の発現が3+と判定されること、又は、免疫組織化学法によりHER2の発現が2+と判定され且つin situ ハイブリダイゼーション(ISH)法によりHER2の発現が陽性と判定されることを示す。免疫組織化学法や、in situ ハイブリダイゼーション法は、当業者に周知の方法を用いて行うことができ、例えば、HER2検査ガイド 乳癌編 第四版(乳癌HER2検査病理部会作成)等を参考に行うことができる。
【0079】
HER2過剰発現細胞は、カチオン性脂質、カチオン性ポリマー、リン酸カルシウム等を利用したトランスフェクションによる化学的遺伝子導入法、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、ソノポレーション、レーザー照射等による物理的遺伝子導入法、ウイルスベクターを利用した生物学的遺伝子導入法等により作製することができる。例えば、生物学的遺伝子導入法のうち、レンチウイルスを利用した場合では、Lenti-X 293T細胞等のパッケージング細胞にレンチウイルスタンパク質とエンベロープタンパク質の発現プラスミド及びHER2発現プラスミドを共に導入後、培養上清よりレンチウイルス溶液を調整し、これを用いて腫瘍細胞を培養することにより、作製することができる。さらに、先のHER3発現プラスミド導入により得たレンチウイルス溶液を用いて、このHER2過剰発現細胞を培養することにより、HER2過剰発現HER3安定発現細胞を作製することができる。
【0080】
[抗HER3抗体-薬物コンジュゲート]
本発明において、「抗体-薬物コンジュゲート」とは、抗体に、細胞毒性を有する薬物を、リンカーを介して結合させた複合体のことを示す。抗体-薬物コンジュゲートとしては、例えば、米国特許第6214345号、国際公開第2002/083067号、国際公開第2003/026577号、国際公開第2004/054622号、国際公開第2005/112919号、国際公開第2006/135371号、国際公開第2007112193号、国際公開第2008/033891号、国際公開第2009/100194号、国際公開第2009/134976号、国際公開第2009/134977号、国際公開第2010/093395号、国際公開第2011/130613号、国際公開第2011/130616号、国際公開第2013/055993号、国際公開第2014/057687号、国際公開第2014/061277号、国際公開第2014/107024号、国際公開第2014/134457号、及び国際公開第2014/145090号に記載のものを挙げることができ、好適には、国際公開第2014/057687号、及び国際公開第2014/061277号に記載のものであり、より好適には、国際公開第2014/057687号に記載のものである。これらの抗体-薬物コンジュゲートは上記文献に記載の方法により製造することができる。
【0081】
細胞毒性を有する薬物としては、抗腫瘍効果を有し、リンカーに結合できる置換基や部分構造を有するものであれば特に制限はないが、例えば、カンプトテシン(Camptothecin)、カリチアマイシン(Calicheamicin)、ドキソルビシン(Doxorubicin)、ダウノルビシン(Daunorubicin)、マイトマイシンC(Mitomycin C)、ブレオマイシン(Bleomycin)、シクロシチジン(Cyclocytidine)、ビンクリスチン(Vincristine)、ビンブラスチン(Vinblastine)、メトトレキセート(Methotrexate)、シスプラチン(Cisplatin)、アウリスタチンE(Auristatin E)、メイタンシン(Maytansine)、パクリタキセル(Paclitaxel)、ピロロベンゾジアゼピン(Pyrrolobenzodiazepine)、及びこれらの誘導体を挙げることができ、好適には、カンプトテシン誘導体を挙げることができ、より好適には、エキサテカン(Exatecan)誘導体を挙げることができる。
【0082】
トポイソメラーゼI阻害剤であるエキサテカン(IUPAC名:(1S,9S)-1-アミノ-9-エチル-5-フルオロ-1,2,3,9,12,15-ヘキサヒドロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10H,13H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-10,13-ジオン、(化学名:(1S,9S)-1-アミノ-9-エチル-5-フルオロ-2,3-ジヒドロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-1H,12H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-10,13(9H,15H)-ジオンとして表すこともできる))は、式
【0083】
【0084】
で表される化合物である。
【0085】
本発明において、「薬物リンカー」とは、抗体-薬物コンジュゲートにおける薬物とリンカー部分、言い換えれば、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体以外の部分構造を示す。
【0086】
本発明において、「抗HER3抗体-薬物コンジュゲート」とは、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が抗HER3抗体である抗体-薬物コンジュゲートを示す。抗HER3抗体-薬物コンジュゲートとしては、例えば、国際公開第2012/019024号、国際公開第2012/064733号、及び国際公開第2015/155998号に記載のものを挙げることができ、好適には、国際公開第2015/155998号に記載のものを挙げることができる。これらの抗HER3抗体-薬物コンジュゲートは、上記文献に記載の方法により製造することができる。
【0087】
本発明において好適に使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートは、式
【0088】
【0089】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである。この薬物リンカーは、抗体の鎖間のジスルフィド結合部位(2箇所の重鎖-重鎖間、及び2箇所の重鎖-軽鎖間)において生じたチオール基(言い換えれば、システイン残基の硫黄原子)に結合している。
【0090】
本発明において好適に使用される、上記の抗HER3抗体-薬物コンジュゲートは、次式で示すこともできる。
【0091】
【0092】
ここで、薬物リンカーは抗HER3抗体とチオエーテル結合によって結合している。また、nはいわゆる平均薬物結合数(DAR; Drug-to-Antibody Ratio)と同義であり、1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数を示す。
【0093】
本発明において好適に使用される、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数は、好適には2から8であり、より好適には3から8であり、更により好適には7から8であり、更により好適には7.5から8であり、更により好適には約8である。
【0094】
本発明で使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの抗HER3抗体部分は、好適には、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体であり、
より好適には、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含む抗体であり、
更により好適には、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗体、又は、前記抗体の重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している抗体である。
【0095】
本発明において好適に使用される、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートは、がん細胞内に移行した後に、式
【0096】
【0097】
で表される化合物を遊離することにより、抗腫瘍効果を発揮する。
【0098】
上記化合物は、本発明において好適に使用される、上記の抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの抗腫瘍活性の本体であると考えられ、トポイソメラーゼI阻害作用を有することが確認されている(Ogitani Y. et al., Clinical Cancer Research, 2016, Oct 15;22(20):5097-5108, Epub 2016 Mar 29)。
【0099】
上記化合物は、上記の抗HER3抗体-薬物コンジュゲートのリンカー部分が切断されることにより生じると考えられる、式
【0100】
【0101】
で表される化合物のアミナール構造が分解することにより生じると考えられる。
【0102】
[抗HER3抗体の製造]
本発明で用いるHER3蛋白は、ヒトのHER3発現細胞から直接精製して使用するか、或は、抗原として使用する際には、当該細胞の細胞膜画分をHER3蛋白として使用することができ、また、HER3をin vitroにて合成する、又は遺伝子操作によって宿主細胞に産生させることによって得ることができる。遺伝子操作では、具体的には、HER3 cDNAを発現可能なベクターに組み込んだ後、当該ベクターを転写と翻訳に必要な酵素、基質及びエネルギー物質を含む溶液中でインキュベートすることにより、HER3を合成することができる。或は他の原核生物、又は真核生物の宿主細胞を当該ベクターにて形質転換させ、HER3を発現させることによって、該蛋白質を得ることができる。また、前記の遺伝子操作によるHER3発現細胞、又はHER3を発現している細胞株をHER3蛋白抗原として使用することも可能である。
HER3のRNA配列、cDNA配列及びアミノ酸配列は公的データベース上に公開されており、例えばAAA35979(アミノ末端19アミノ酸残基からなるシグナル配列を含む前駆体)、M34309(NCBI)等のアクセッション番号により参照可能である。
【0103】
また、上記HER3のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなり、当該蛋白質と同等の生物活性を有する蛋白質もHER3に含まれる。
【0104】
本発明で使用される抗HER3抗体は、公知の手段によって取得することができる。例えば、この分野で通常実施される方法を用いて、抗原となるHER3又はHER3のアミノ酸配列から選択される任意のポリペプチドを動物に免疫し、生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。抗原の由来はヒトに限定されず、マウス、ラット等のヒト以外の動物に由来する抗原を動物に免疫することもできる。この場合には、取得された異種抗原に結合する抗体とヒト抗原との交差性を試験することによって、ヒトの疾患に適用可能な抗HER3抗体を選別できる。
【0105】
また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature (1975) 256, p.495-497;Kennet, R. ed., Monoclonal Antibodies, p.365-367, Plenum Press, N.Y.(1980))に従って、抗原に対する抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによってハイブリドーマを樹立し、モノクローナル抗体を得ることもできる。
【0106】
なお、抗原は抗原蛋白質をコードする遺伝子を遺伝子操作によって宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、抗原遺伝子を発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させ、発現した抗原を精製すればよい。上記の遺伝子操作による抗原発現細胞、又は抗原を発現している細胞株、を動物に免疫する方法を用いることによっても抗体を取得できる。
【0107】
本発明で使用される抗HER3抗体は、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体であることが好ましく、又はヒト由来の抗体の遺伝子配列のみを有する抗体、すなわちヒト抗体であることが好ましい。これらの抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0108】
キメラ抗体としては、抗体の可変領域と定常領域が互いに異種である抗体、例えばマウス又はラット由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に接合したキメラ抗体を挙げることができる(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 81, 6851-6855,(1984))。
【0109】
ヒト化抗体としては、異種抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)のみをヒト由来の抗体に組み込んだ抗体(Nature(1986) 321, p.522-525)、CDR移植法によって、異種抗体のCDRの配列に加えて、異種抗体の一部のフレームワークのアミノ酸残基もヒト抗体に移植した抗体(国際公開第90/07861号)、遺伝子変換突然変異誘発(gene conversion mutagenesis)ストラテジーを用いてヒト化した抗体(米国特許第5821337号)を挙げることができる。
【0110】
ヒト抗体としては、ヒト抗体の重鎖と軽鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有するヒト抗体産生マウスを用いて作成した抗体(Tomizuka, K. et al., Nature Genetics(1997) 16, p.133-143;Kuroiwa, Y. et. al., Nucl. Acids Res.(1998) 26, p.3447-3448;Yoshida, H. et. al., Animal Cell Technology:Basic and Applied Aspects vol.10, p.69-73(Kitagawa, Y., Matsuda, T. and Iijima, S. eds.), Kluwer Academic Publishers, 1999;Tomizuka, K. et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(2000) 97, p.722-727等を参照。)を挙げることができる。或いは、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイにより取得した抗体(Wormstone, I. M. et. al, Investigative Ophthalmology & Visual Science. (2002)43 (7), p.2301-2308;Carmen, S. et. al., Briefings in Functional Genomics and Proteomics(2002), 1(2), p.189-203;Siriwardena, D. et. al., Ophthalmology(2002) 109(3), p.427-431等参照。)も挙げることができる。
【0111】
本発明で使用される抗HER3抗体には、抗体の修飾体も含まれる。当該修飾体とは、本発明に係る抗体に化学的又は生物学的な修飾が施されてなるものを意味する。化学的な修飾体には、アミノ酸骨格への化学部分の結合、N-結合又はO-結合炭水化物鎖への化学部分の結合を有する化学修飾体等が含まれる。生物学的な修飾体には、翻訳後修飾(例えば、N-結合又はO-結合型糖鎖の付加、N末端又はC末端のプロセッシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、メチオニンの酸化等)されたもの、原核生物宿主細胞を用いて発現させることによってN末端にメチオニン残基が付加されたもの等が含まれる。また、本発明で使用される抗HER3抗体又は抗原の検出又は単離を可能にするために標識されたもの、例えば、酵素標識体、蛍光標識体、アフィニティ標識体もかかる修飾体の意味に含まれる。この様な本発明で使用される抗HER3抗体の修飾体は、抗体の安定性及び血中滞留性の改善、抗原性の低減、抗体又は抗原の検出又は単離等に有用である。
【0112】
また、本発明で使用される抗HER3抗体に結合している糖鎖修飾を調節すること(グリコシル化、脱フコース化等)によって、抗体依存性細胞傷害活性を増強することが可能である。抗体の糖鎖修飾の調節技術としては、国際公開第99/54342号、国際公開第00/61739号、国際公開第02/31140号、国際公開第2007/133855号、及び国際公開第2013/120066号等が知られているが、これらに限定されるものではない。本発明で使用される抗HER3抗体には当該糖鎖修飾が調節された抗体も含まれる。
【0113】
なお、哺乳類培養細胞で生産される抗体では、その重鎖のカルボキシル末端のリシン残基が欠失することが知られており(Journal of Chromatography A, 705: 129-134(1995))、また、同じく重鎖カルボキシル末端のグリシン、リシンの2アミノ酸残基が欠失し、新たにカルボキシル末端に位置するプロリン残基がアミド化されることが知られている(Analytical Biochemistry, 360: 75-83(2007))。しかし、これらの重鎖配列の欠失及び修飾は、抗体の抗原結合能及びエフェクター機能(補体の活性化や抗体依存性細胞障害作用等)には影響を及ぼさない。したがって、本発明で使用される抗HER3抗体には、当該修飾を受けた抗体及び当該抗体の機能性断片も含まれ、重鎖カルボキシル末端において1又は2のアミノ酸が欠失した欠失体、及びアミド化された当該欠失体(例えば、カルボキシル末端部位のプロリン残基がアミド化された重鎖)等も包含される。但し、抗原結合能及びエフェクター機能が保たれている限り、本発明で使用される抗HER3抗体の重鎖のカルボキシル末端の欠失体は上記の種類に限定されない。本発明で使用される抗HER3抗体を構成する2本の重鎖は、完全長及び上記の欠失体からなる群から選択される重鎖のいずれか一種であってもよいし、いずれか二種を組み合わせたものであってもよい。各欠失体の量比は本発明で使用される抗HER3抗体を産生する哺乳類培養細胞の種類及び培養条件に影響を受け得るが、本発明で使用される抗HER3抗体は、好ましくは、2本の重鎖の双方でカルボキシル末端のひとつのアミノ酸残基が欠失しているものを挙げることができる。
【0114】
本発明で使用される抗HER3抗体のアイソタイプとしては、例えばIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)等を挙げることができるが、好ましくはIgG1又はIgG2を挙げることができる。また、これらの改変体も本発明にかかる抗HER3抗体として利用することができる。
【0115】
本発明において使用できる抗HER3抗体としては、パトリツマブ(Patritumab, U3-1287)、U1-59(国際公開第2007/077028号)、AV-203(国際公開第2011/136911号)、LJM-716(国際公開第2012/022814号)、Duligotumab(MEHD-7945A)(国際公開第2010/108127号)、Istiratumab(MM-141)(国際公開第2011/047180号)、Lumretuzumab(RG-7116)(国際公開第2014/108484号)、Setibantumab(MM-121)(国際公開第2008/100624号)、REGN-1400(国際公開第2013/048883号)、ZW-9(国際公開第2013/063702)、及びそれらの改変体、活性断片、修飾体等を挙げることができ、好適には、パトリツマブ、及びU1-59を挙げることができる。これらの抗HER3抗体は、上記文献に記載の方法により製造することができる。
【0116】
[抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの製造]
本発明に係る抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの製造に使用される薬物リンカー中間体は、次式で示される。
【0117】
【0118】
上記の薬物リンカー中間体は、N-[6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)ヘキサノイル]グリシルグリシル-L-フェニルアラニル-N-[(2-{[(1S,9S)-9-エチル-5-フルオロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10,13-ジオキソ-2,3,9,10,13,15-ヘキサヒドロ-1H,12H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-1-イル]アミノ}-2-オキソエトキシ)メチル]グリシンアミド、という化学名で表すことができ、国際公開第2014/057687号、国際公開第2015/155998号、及び国際公開第2019/044947号等の記載を参考に製造することができる。
【0119】
本発明で使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートは、前述の薬物リンカー中間体と、チオール基(又はスルフヒドリル基とも言う)を有する抗HER3抗体を反応させることによって製造することができる。
【0120】
スルフヒドリル基を有する抗HER3抗体は、当業者周知の方法で得ることができる(Hermanson, G. T, Bioconjugate Techniques, pp.56-136, pp.456-493, Academic Press(1996))。例えば、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)等の還元剤を、抗体内鎖間ジスルフィド1個当たりに対して0.3乃至3モル当量用い、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤を含む緩衝液中で、抗HER3抗体と反応させることで、抗体内鎖間ジスルフィドが部分的若しくは完全に還元されたスルフヒドリル基を有する抗HER3抗体を得ることができる。
【0121】
さらに、スルフヒドリル基を有する抗HER3抗体1個あたり、2乃至20モル当量の薬物リンカー中間体を使用して、抗体1個当たり2個乃至8個の薬物が結合した抗HER3抗体―薬物コンジュゲートを製造することができる。
【0122】
製造した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの抗体一分子あたりの平均薬物結合数の算出は、例えば、280nm及び370nmの二波長における抗HER3抗体-薬物コンジュゲートとそのコンジュゲーション前駆体のUV吸光度を測定することにより算出する方法(UV法)や、抗体-薬物コンジュゲートを還元剤で処理し得られた各フラグメントをHPLC測定により定量し算出する方法(HPLC法)により行うことができる。
【0123】
抗HER3抗体と薬物リンカー中間体のコンジュゲーション、及び抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの抗体一分子あたりの平均薬物結合数の算出は、国際公開第2015/155998号等の記載を参考に実施することができる。
【0124】
[治療剤及び/又は治療方法]
本発明の治療剤及び/又は治療方法は、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを投与することを特徴とし、HER3変異がんの治療のために使用することができる。
【0125】
本発明の治療剤及び/又は治療方法を使用することができるHER3変異がんにおけるがんは、好適には、乳がん、肺がん(小細胞肺がん及び非小細胞肺がんを含む)、大腸がん(結腸直腸がんと呼ぶこともあり、結腸がん及び直腸がんを含む)、胃がん(胃腺がんと呼ぶこともある)、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、メラノーマ、腎がん、尿路上皮がん、前立腺がん、膵がん、膀胱がん、胃腸間質腫瘍、子宮頸がん、食道がん、扁平上皮がん、腹膜がん、多形グリア芽細胞腫、肝臓がん、肝細胞がん、子宮内膜がん、子宮がん、唾液腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝癌腫、肛門癌腫、及び陰茎がんからなる群より選択される少なくとも一つであり、より好適には、乳がん、非小細胞肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、多形神経膠芽腫、及びメラノーマからなる群より選択される少なくとも一つである。
【0126】
本発明の治療剤及び治療方法は、哺乳動物に対して好適に使用することができるが、より好適にはヒトに対して使用することができる。
【0127】
本発明の治療剤及び治療方法の抗腫瘍効果は、例えば、腫瘍細胞に変異型HER3を発現させ、HER2過剰発現無し、及び/又は、HER2過剰発現有り、の状況下において、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの細胞増殖抑制活性を測定することにより確認することができる。また、変異型HER3を発現した腫瘍を被検動物に移植したモデルを作成し、本発明の治療剤又は治療方法を施すことによっても確認することができる。
【0128】
さらに、本発明の治療剤及び治療方法の抗腫瘍効果は、臨床試験においても確認することができる。すなわち、HER3変異が確認されたがん患者に、本発明の治療剤又は治療方法を施し、Response Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)評価法、WHO評価法、Macdonald評価法、体重測定、及びその他の手法により確認することができ、完全奏効(Complete response;CR)、部分奏効(Partial response;PR)、進行(Progressive disease;PD)、客観的奏効率(Objective Response Rate;ORR)、奏効期間(Duration of response;DoR)、無憎悪生存期間(Progression-Free Survival;PFS)、全生存期間(Overall Survival;OS)等の指標により判定することができる。
【0129】
上述の方法により、本発明の治療剤及び治療方法のHER3変異がんに対する抗腫瘍効果について、既存の抗がん剤に対する優位性を確認することができる。
【0130】
本発明の治療剤及び治療方法は、がん細胞の成長を遅らせ、増殖を抑え、さらにはがん細胞を破壊することができる。これらの作用によって、がん患者において、がんによる症状からの解放や、QOLの改善を達成でき、がん患者の生命を保って治療効果が達成される。がん細胞の破壊には至らない場合であっても、がん細胞の増殖の抑制やコントロールによってがん患者においてより高いQOLを達成しつつより長期の生存を達成させることができる。
【0131】
本発明の治療剤は、患者に対しては全身療法として適用する他、がん組織に局所的に適用して治療効果を期待することができる。
【0132】
本発明の治療剤は、1種以上の薬学的に適合性の成分を含む医薬組成物として投与され得る。薬学的に適合性の成分は、本発明で使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの投与量や投与濃度等に応じて、この分野において通常使用される製剤添加物その他から適宜選択して適用することができる。例えば、本発明の治療剤は、ヒスチジン緩衝剤等の緩衝剤、スクロース又はトレハロース等の賦形剤、並びにポリソルベート80又は20等の界面活性剤を含む医薬組成物(以下、「本発明の医薬組成物」という。)として投与され得る。本発明の医薬組成物は、好適には、注射剤として使用することができ、より好適には、水性注射剤又は凍結乾燥注射剤として使用することができ、更により好適には、凍結乾燥注射剤として使用することができる。
【0133】
本発明の医薬組成物が水性注射剤である場合、好適には、適切な希釈液で希釈した後、静脈内に点滴投与することができる。希釈液としては、ブドウ糖溶液や、生理食塩液、等を挙げることができる。
【0134】
本発明の医薬組成物が凍結乾燥注射剤である場合、好適には、注射用水により溶解した後、必要量を適切な希釈液で希釈した後、静脈内に点滴投与することができる。希釈液としては、ブドウ糖溶液や、生理食塩液、等を挙げることができる。
【0135】
本発明の医薬組成物を投与するために使用され得る導入経路としては、例えば、静脈内、皮内、皮下、筋肉内、及び腹腔内の経路を挙げることができ、好適には、静脈内の経路を挙げることができる。
【0136】
本発明で使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートは、ヒトに対して、好適には、1週、2週、3週、又は4週に1回の間隔で投与することができ、さらにより好適には、3週に1回の間隔で投与することができる。
【0137】
また、本発明で使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートは、ヒトに対して、好適には、1回あたり1.6mg/kg~12.8mg/kgの投与量で投与することができ、より好適には、1回あたり1.6mg/kg、3.2mg/kg、4.8mg/kg、5.6mg/kg、6.4mg/kg、8.0mg/kg、9.6mg/kg、又は12.8mg/kgの投与量で投与することができ、更により好適には、1回あたり4.8mg/kg、5.6mg/kg、又は6.4mg/kgの投与量で投与することができる。
【0138】
本発明の治療剤は、本発明で使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲート以外のがん治療剤と併用して投与することもでき、これによって抗腫瘍効果を増強させることができる。この様な目的で使用される他のがん治療剤は、本発明の治療剤と同時に、別々に、或は連続して個体に投与されてもよいし、それぞれの投与間隔を変えて投与されてもよい。この様ながん治療剤としては、抗腫瘍活性を有する薬剤であれば限定されることはないが、例えば、イリノテカン(Irinotecan、CPT-11)、シスプラチン(Cisplatin)、カルボプラチン(Carboplatin)、オキサリプラチン(Oxaliplatin)、フルオロウラシル(Fluorouracil、5-FU)、ゲムシタビン(Gemcitabine)、カペシタビン(Capecitabine)、パクリタキセル(Paclitaxel)、ドセタキセル(Docetaxel)、ドキソルビシン(Doxorubicin)、エピルビシン(Epirubicin)、シクロフォスファミド(Cyclophosphamide)、マイトマイシンC(Mitomycin C)、テガフール(Tegafur)・ギメラシル(Gimeracil)・オテラシル(Oteracil)配合剤、セツキシマブ(Cetuximab)、パニツムマブ(Panitumumab)、ベバシズマブ(Bevacizumab)、ラムシルマブ(Ramucirumab)、レゴラフェニブ(Regorafenib)、トリフルリジン(Trifluridine)・チピラシル(Tipiracil)配合剤、ゲフィチニブ(Gefitinib)、エルロチニブ(Erlotinib)、アファチニブ(Afatinib)、オシメルチニブ(Osimertinib)、メトトレキサート(Methotrexate)、ペメトレキセド(Pemetrexed)、タモキシフェン(Tamoxifen)、トレミフェン(Toremifene)、フルベストラント(Fulvestrant)、リュープロレリン(Leuprorelin)、ゴセレリン(Goserelin)、レトロゾール(Letrozole)、アナストロゾール(Anastrozole)、プロゲステロン製剤(Progesterone formulation)、トラスツズマブエムタンシン(Trastuzumab emtansine)、トラスツズマブ(Trastuzumab)、ペルツズマブ(Pertuzumab)、ラパチニブ(Lapatinib)、ニボルマブ(Nivolumab)、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、デュルバルマブ(Durvalumab)、アベルマブ(Avelumab)、イピリムマブ(Ipilimumab)、及びトレメリムマブ(Tremelimumab)からなる群より選択される少なくとも一つを挙げることができる。
【0139】
本発明の治療剤は、放射線療法と組み合わせて使用することもできる。例えば、がん患者は、本発明の治療剤による治療を受ける前及び/又は後、あるいは同時に放射線療法を受ける。
【0140】
本発明の治療剤は、外科手術と組み合わせた補助化学療法として使用することもできる。外科手術は、例えば、脳腫瘍の全部又は一部を物理的に取り除くことにより行われる。本発明の治療剤は外科手術の前に脳腫瘍の大きさを減じさせる目的で投与されてもよい(術前補助化学療法、又はネオアジュバント療法という)し、外科手術後に、脳腫瘍の再発を防ぐ目的で投与されてもよい(術後補助化学療法、又はアジュバント療法という)。
【実施例0141】
以下に示す例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、これらはいかなる意味においても限定的に解釈されるものではない。
【0142】
[実施例1]抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの製造
国際公開第2015/155998号に記載の製造方法に従って、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗HER3抗体(本発明において「HER3-Ab(1)」と称する)を用いて、式
【0143】
【0144】
で示される薬物リンカー中間体(以下「薬物リンカー中間体(1)」と称する)とのコンジュゲーション反応を行い、式
【0145】
【0146】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲート(本発明において「HER3-ADC(1)」と称する)を製造した。HER3-ADC(1)における1抗体あたりの平均薬物結合数は7~8の範囲である。
【0147】
[実施例2]HER3安定発現細胞の作製
実施例2-1:HER3変異発現レンチウイルス用ベクターの作製
1.pLVSIN EF1α HER3(WT)Purの作製
HER3 cDNAを鋳型とし、配列番号11で示されるHER3 IF プライマー(Fw)、及び配列番号12で示されるHER3 IF プライマー(Rev)にて増幅し、InFusion System(CLONTECH社製)によりpLVSIN EF1α Pur(Takara社製,#6186)のXbaIサイトに挿入した(pLVSIN EF1α HER3(WT)Pur)。挿入配列はDNAシーケンシングにより確認した。
【0148】
2.pLVSIN EF1α flag-HER3(WT)Purの作製
pLVSIN EF1α HER3(WT)Purを鋳型とし、配列番号13で示されるFlag IF プライマー(Fw)、及び配列番号14で示されるFlag IF プライマー(Rev)にてプラスミド全長を増幅し、InFusion System(CLONTECH社製)によるself-ligationによりpLVSIN EF1α flag-HER3(WT)Purを取得した。配列はDNAシーケンシングにより確認した。Flag-HER3(WT)をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号15に、Flag-HER3(WT)のアミノ酸配列を配列番号16に示した。
【0149】
3.各種HER3変異体発現プラスミドの作製
i)pLVSIN EF1α flag-HER3(V104L)Pur
pLVSIN EF1α flag-HER3(WT)を鋳型とし、配列番号17で示されるHER3変異導入プライマー(Fw)、及び配列番号18で示されるHER3変異導入プライマー(Rev)にてプラスミド全長を増幅し、InFusion System(CLONTECH社製)によるself-ligationにより、HER3変異体発現プラスミド(pLVSIN EF1α flag-HER3(V104L)Pur)を取得した。配列はDNAシーケンシングにより確認した。Flag-HER3(V104L)をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号19に、Flag-HER3(V104L)のアミノ酸配列を配列番号20に示した。
【0150】
ii)pLVSIN EF1α flag-HER3(V104M)Pur
pLVSIN EF1α flag-HER3(WT)を鋳型とし、配列番号21で示されるHER3変異導入プライマー(Fw)、及び配列番号22で示されるHER3変異導入プライマー(Rev)にてプラスミド全長を増幅し、InFusion System(CLONTECH社製)によるself-ligationにより、HER3変異体発現プラスミド(pLVSIN EF1α flag-HER3(V104M)Pur)を取得した。配列はDNAシーケンシングにより確認した。Flag-HER3(V104M)をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号23に、Flag-HER3(V104M)のアミノ酸配列を配列番号24に示した。
【0151】
iii)pLVSIN EF1α flag-HER3(A232V)Pur
pLVSIN EF1α flag-HER3(WT)を鋳型とし、配列番号25で示されるHER3変異導入プライマー(Fw)、及び配列番号26で示されるHER3変異導入プライマー(Rev)にてプラスミド全長を増幅し、InFusion System(CLONTECH社製)によるself-ligationにより、HER3変異体発現プラスミド(pLVSIN EF1α flag-HER3(A232V)Pur)を取得した。配列はDNAシーケンシングにより確認した。Flag-HER3(A232V)をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号27に、Flag-HER3(A232V)のアミノ酸配列を配列番号28に示した。
【0152】
iv)pLVSIN EF1α flag-HER3(P262H)Pur
pLVSIN EF1α flag-HER3(WT)を鋳型とし、配列番号29で示されるHER3変異導入プライマー(Fw)、及び配列番号30で示されるHER3変異導入プライマー(Rev)にてプラスミド全長を増幅し、InFusion System(CLONTECH社製)によるself-ligationにより、HER3変異体発現プラスミド(pLVSIN EF1α flag-HER3(P262H)Pur)を取得した。配列はDNAシーケンシングにより確認した。Flag-HER3(P262H)をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号31に、Flag-HER3(P262H)のアミノ酸配列を配列番号32に示した。
【0153】
v)pLVSIN EF1α flag-HER3(G284R)Pur
pLVSIN EF1α flag-HER3(WT)を鋳型とし、配列番号33で示されるHER3変異導入プライマー(Fw)、及び配列番号34で示されるHER3変異導入プライマー(Rev)にてプラスミド全長を増幅し、InFusion System(CLONTECH社製)によるself-ligationにより、HER3変異体発現プラスミド(pLVSIN EF1α flag-HER3(G284R)Pur)を取得した。配列はDNAシーケンシングにより確認した。Flag-HER3(G284R)をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号35に、Flag-HER3(G284R)のアミノ酸配列を配列番号36に示した。
【0154】
vi)pLVSIN EF1α flag-HER3(D297Y)Pur
pLVSIN EF1α flag-HER3(WT)を鋳型とし、配列番号37で示されるHER3変異導入プライマー(Fw)、及び配列番号38で示されるHER3変異導入プライマー(Rev)にてプラスミド全長を増幅し、InFusion System(CLONTECH社製)によるself-ligationにより、HER3変異体発現プラスミド(pLVSIN EF1α flag-HER3(D297Y)Pur)を取得した。配列はDNAシーケンシングにより確認した。Flag-HER3(D297Y)をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号39に、Flag-HER3(D297Y)のアミノ酸配列を配列番号40に示した。
【0155】
vii)pLVSIN EF1α flag-HER3(G325R)Pur
pLVSIN EF1α flag-HER3(WT)を鋳型とし、配列番号41で示されるHER3変異導入プライマー(Fw)、及び配列番号42で示されるHER3変異導入プライマー(Rev)にてプラスミド全長を増幅し、InFusion System(CLONTECH社製)によるself-ligationにより、HER3変異体発現プラスミド(pLVSIN EF1α flag-HER3(G325R)Pur)を取得した。配列はDNAシーケンシングにより確認した。Flag-HER3(G325R)をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号43に、Flag-HER3(G325R)のアミノ酸配列を配列番号44に示した。
【0156】
viii)pLVSIN EF1α flag-HER3(T355I)Pur
pLVSIN EF1α flag-HER3(WT)を鋳型とし、配列番号45で示されるHER3変異導入プライマー(Fw)、及び配列番号46で示されるHER3変異導入プライマー(Rev)にてプラスミド全長を増幅し、InFusion System(CLONTECH社製)によるself-ligationにより、HER3変異体発現プラスミド(pLVSIN EF1α flag-HER3(T355I)Pur)を取得した。配列はDNAシーケンシングにより確認した。Flag-HER3(T355I)をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号47に、Flag-HER3(T355I)のアミノ酸配列を配列番号48に示した。
【0157】
ix)pLVSIN EF1α flag-HER3(S846I)Pur
pLVSIN EF1α flag-HER3(WT)を鋳型とし、配列番号49で示されるHER3変異導入プライマー(Fw)、及び配列番号50で示されるHER3変異導入プライマー(Rev)にてプラスミド全長を増幅し、InFusion System(CLONTECH社製)によるself-ligationにより、HER3変異体発現プラスミド(pLVSIN EF1α flag-HER3(S846I)Pur)を取得した。配列はDNAシーケンシングにより確認した。Flag-HER3(S846I)をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号51に、Flag-HER3(S846I)のアミノ酸配列を配列番号52に示した。
【0158】
x)pLVSIN EF1α flag-HER3(E928G)Pur
pLVSIN EF1α flag-HER3(WT)を鋳型とし、配列番号53で示されるHER3変異導入プライマー(Fw)、及び配列番号54で示されるHER3変異導入プライマー(Rev)にてプラスミド全長を増幅し、InFusion System(CLONTECH社製)によるself-ligationにより、HER3変異体発現プラスミド(pLVSIN EF1α flag-HER3(E928G)Pur)を取得した。配列はDNAシーケンシングにより確認した。Flag-HER3(E928G)をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号55に、Flag-HER3(E928G)のアミノ酸配列を配列番号56に示した。
【0159】
実施例2-2:HER2発現レンチウイルス用ベクターの作製
1.pLVSIN EF1α HER2 Neoの作製
HER2 cDNAを鋳型とし、配列番号57で示されるHER2 IF プライマー(Fw)、及び配列番号58で示されるHER2 IF プライマー(Rev)にて増幅し、InFusion System(CLONTECH社製)によりpLVSIN EF1α Neo(Takara社製,#6184)のNotIサイトに挿入した(pLVSIN EF1α HER2 Neo)。挿入配列はDNAシーケンシングにより確認した。HER2をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号59に、HER2のアミノ酸配列を配列番号60に示した。
【0160】
実施例2-3:HER3安定発現細胞の作製
Lenti-X 293T細胞(CLONTECH社)を1x106cells/wellで6 well plateに播種し、一夜培養を行った。ViraPower(Thermofisher社製)と、実施例2-1にて作製した各種HER3発現プラスミド(pLVSIN EF1α flag-HER3(WT)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(V104L)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(V104M)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(A232V)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(P262H)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(G284R)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(D297Y)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(G325R)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(T355I)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(S846I)Pur、及びpLVSIN EF1α flag-HER3(E928G)Pur)それぞれをLipofectamine 2000(Thermofisher社製)を用いて、Lenti-X 293T細胞に導入した。また、空ベクター導入細胞を作製する目的で、上記と同様な方法により、プラスミド(pLVSIN EF1α Pur)をLenti-X 293T細胞に導入した。導入2日後に培養上清を回収し、MILLEX-HP 0.45 UMフィルター(メルク社製)に通し、レンチウイルス溶液を調製した。調製したレンチウイルス溶液の1/2量をRetroNectin Coating plate(12 well plate)へ移し、37℃で一夜静置した。PBSで洗浄後、MDA-MB-231細胞を1x105 cells/wellで播種し、3日間培養した。培養終了後、細胞を剥がして全量を6 well plateに播種し、0.5 μg/mL puromycin(Thermofisher社製)存在下での薬剤耐性を指標に安定発現細胞(polyclone)を取得した。取得した細胞よりtotal RNAを抽出し、600ngのtotal RNAを用いて逆転写反応を行った。次に、逆転写反応産物の1/20容量を鋳型とし、配列番号61で示されるHER3 プライマー(Fw)、及び配列番号62で示されるHER3 プライマー(Rev)を用いてPCR反応を行った。PCRは94℃で2分加熱後に、98℃で10秒、68℃で1分を25サイクルの条件で行った。RT-PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動に供し、HER3遺伝子発現を確認した。
【0161】
実施例2-4:HER2過剰発現HER3安定発現株の作製
1.HER2過剰発現細胞の作製
Lenti-X 293T細胞(CLONTECH社)を1x106cells/wellで6 well plateに播種し、一夜培養を行った。ViraPower(Thermofisher社製)と実施例2-2にて作製したHER2発現プラスミド(pLVSIN EF1α HER2 Neo)をLipofectamine 2000(Thermofisher社製)を用いて、Lenti-X 293T細胞に導入した。導入2日後に培養上清を回収し、MILLEX-HP 0.45 UMフィルター(メルク社製)に通し、レンチウイルス溶液を調製した。調製したレンチウイルス溶液をRetroNextin(TAKARA)でコーティングしたプレート(6 well plate)へ移し、37℃で一夜静置した。PBSで洗浄後、MDA-MB-231細胞を4x105cells/wellで播種し、3日間培養した。培養終了後、細胞を剥がして全量をT25フラスコに播種し、800μg/mL geneticin(Thermofisher社製)存在下での薬剤耐性を指標にHER2安定発現細胞(polyclone)を取得した。取得した細胞よりtotal RNAを抽出し、600ngのtotal RNAを用いて逆転写反応を行った。次に、逆転写反応産物の1/20容量を鋳型とし、配列番号63で示されるHER2 プライマー(Fw)、及び配列番号64で示されるHER2 プライマー(Rev)を用いてPCR反応を行った。PCRは94℃で2分加熱後に、98℃で10秒、68℃で1分を23サイクルの条件で行った。RT-PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動に供し、HER2遺伝子発現を確認した。
【0162】
2.HER2過剰発現HER3安定発現細胞の作製
Lenti-X 293T細胞(CLONTECH社)を1x106cells/wellで6 well plateに播種し、一夜培養を行った。ViraPower(Thermofisher社製)と、実施例2-1にて作製した各種HER3発現プラスミド(pLVSIN EF1α flag-HER3(WT)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(V104L)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(V104M)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(A232V)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(P262H)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(G284R)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(D297Y)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(G325R)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(T355I)Pur、pLVSIN EF1α flag-HER3(S846I)Pur、及びpLVSIN EF1α flag-HER3(E928G)Pur)それぞれをLipofectamine 2000(Thermofisher社製)を用いて、Lenti-X 293T細胞に導入した。また、空ベクター導入細胞を作製する目的で、上記と同様な方法により、プラスミド(pLVSIN EF1α Pur)をLenti-X 293T細胞に導入した。導入2日後に培養上清を回収し、MILLEX-HP 0.45 UMフィルター(メルク社製)に通し、レンチウイルス溶液を調製した。調製したレンチウイルス溶液の1/2 量をRetroNextin(TAKARA)でコーティングしたプレート(12 well plate)へ移し、37℃で一夜静置した。PBSで洗浄後、HER2を過剰発現させたMDA-MB-231細胞を1x105cells/wellで播種し、3日間培養した。培養終了後、細胞を剥がして全量を6 well plateに播種し、0.5μg/mL puromycin(Thermofisher社製)存在下での薬剤耐性を指標に安定発現細胞(polyclone)を取得した。取得した細胞よりtotal RNAを抽出し、600ngのtotal RNAを用いて逆転写反応を行った。次に、逆転写反応産物の1/20容量を鋳型とし、配列番号61で示されるHER3 プライマー(Fw)、及び配列番号62で示されるHER3 プライマー(Rev)を用いてPCR反応を行った。PCRは94℃で2分加熱後に、98℃で10秒、68℃で1分を25サイクルの条件で行った。RT-PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動に供し、HER3遺伝子発現を確認した。また、上記記載の方法によりHER2遺伝子発現も確認した。
【0163】
結果を
図3~
図5に示す。
図3は各種HER3安定発現細胞のRT-PCR産物の1%アガロースゲル電気泳動、
図4及び
図5は各種HER2過剰発現HER3安定発現細胞のRT-PCR産物の1%アガロースゲル電気泳動の結果を示す。
【0164】
HER3安定発現細胞では、HER3野生型及び変異型のいずれにおいても、HER3遺伝子発現を認めた。HER2過剰発現HER3安定発現細胞では、HER2の過剰発現を認めるとともに、HER3野生型及び変異型のいずれにおいても、HER3遺伝子発現を認めた。
【0165】
実施例2-5:細胞表面HER3発現陽性率の確認
HER3安定発現MDA-MB-231細胞は10%FBS(HyClone製)を含有するRPMI1640メディウム(ThermoFisher製)にて培養した。細胞をTrypLE(商標登録)Express Enzyme(ThermoFisher製)にて培養プレートから剥離し、トリパンブルー処理により生細胞数を測定した。同数の生細胞を96穴U底プレートに添加し、遠心分離により細胞を沈殿させ、メディウムをStain Buffer(BD製)に置換した。再度、遠心分離により細胞を沈殿させ、1μg/mLに希釈調製したPE anti-DYKDDDDK Tag Antibody(BioLegend、#637310)を100μL添加して細胞を懸濁した。PE anti-DYKDDDDK Tag Antibodyを添加しないStain Bufferにて処理した細胞をコントロール群とした。各細胞を暗闇氷上にて60分間反応させた後、Stain Bufferで洗浄した。再度、100μLのStain Bufferに懸濁したのち、等量の4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液(和光純薬製)を添加し、暗闇氷上で20分間反応させた。Stain Bufferで洗浄したのち、Attune NxT Flow Cytometer(ThermoFisher製)を用いて蛍光シグナルを測定し、測定結果はFlowJo software(BD,Version 10.5.0)を用いて解析した。表1は、PE anti-DYKDDDDK Tag Antibodyで処理した各種変異型HER3導入細胞株のHER3発現陽性率を示す。
【0166】
【0167】
細胞表面のHER3発現率は65.0%~83.9%であり、これらの細胞間で抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの特性を比較する分には支障ない範囲であると判断した。
【0168】
[実施例3]HER3-ADC(1)の野生型および各種変異型HER3導入細胞株に対する結合性の確認
野生型および各種変異型HER3導入MDA-MB-231細胞は10%FBS(HyClone製)を含有するRPMI1640メディウム(ThermoFisher製)にて培養した。細胞をTrypLE(商標登録)Express Enzyme(ThermoFisher製)にて培養プレートから剥離し、トリパンブルー処理により生細胞数を測定した。同数の生細胞を96穴U底プレートに添加し、遠心分離により細胞を沈殿させ、メディウムをStain Buffer(BD製)に置換した。再度、遠心分離により細胞を沈殿させ、100μLの氷冷したHER3-ADC(1)希釈液(Stain Bufferを用いた1/10の段階希釈により100nM~0.1nMに調製)に懸濁した。HER3-ADC(1)を添加しないStain Bufferにて処理した細胞をコントロール群とした。各細胞氷上にて60分間反応させた後、Stain Bufferで洗浄した。さらにStain Buffer、又は10μg/mLに希釈調製した二次抗体(Goat anti-Human IgG(H+L)Cross-Adsorbed Secondary Antibody、Alexa Fluor647、ThermoFisher、#A-21445)を100μL添加して細胞を懸濁した。暗闇氷上で60分間反応させた後、Stain Bufferで洗浄した。100μLのStain Bufferに懸濁したのち、等量の4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液(和光純薬製)を添加し、暗闇氷上で20分間反応させた。Stain Bufferで洗浄したのち、Attune NxT Flow Cytometer(ThermoFisher製)を用いて蛍光シグナルを測定し、測定結果はFlowJo software(BD,Version 10.5.0)を用いて解析した。なお、細胞でのHER3-ADC(1)由来の蛍光シグナルを定量するため、Stain Bufferにて処理したコントロール群とのシグナルを差し引いた値を使用した。
【0169】
結果を
図6及び
図7に示す。縦軸は、各濃度におけるHER3-ADC(1)の野生型および各種変異型HER3導入細胞株に対する結合性(HER3陽性細胞の平均蛍光強度)を示す。
【0170】
各種変異型HER3安定発現細胞に対するHER3-ADC(1)の結合は濃度依存的に増加し、野生型HER3と同様の結合性を示した(
図6)。HER2過剰発現HER3安定発現細胞におけるHER3-ADC(1)の結合も濃度依存的に増加し、野生型HER3と同様の結合性を示した(
図7)。また、この時に比較対象として、再度、HER2過剰発現無しの細胞を用いて結合性を測定し、HER2発現レベルによりHER3-ADC(1)の結合性に差異が認められないことを確認した(
図7)。
【0171】
[実施例4]HER3-ADC(1)による野生型および各種変異型HER3導入細胞株におけるin vitro細胞増殖抑制
野生型および各種変異型HER3導入MDA-MB-231細胞に対するHER3-ADC(1)の増殖阻害活性は、10%FBS(HyClone製)を含有するRPMI1640メディウム(ThermoFisher製)存在下で測定した。細胞の増殖は、非処理、HER3-ADC(1)、及びHER3-Ab(1)処理群のadenosine triphosphate(ATP)活性を測定することで評価した。陰性対照として、IgG抗体と薬物リンカー中間体(1)とのコンジュゲーション反応により製造したIgG抗体-薬物コンジュゲート(本発明において「IgG-ADC(1)」と称する)を用いた。
【0172】
実施例4-1:細胞の処理
野生型および各種変異型HER3導入MDA-MB-231細胞株は、500cells/100μL/wellの細胞懸濁液として、96マイクロウェルプレート(コーニング,#3904、黒壁透明ボトム)に播種した。翌日、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及び陰性対照としてIgG-ADC(1)の10倍濃縮液を10%FBS含有RPMI1640メディウムにて調製し、その10μLを添加し、37℃、5%CO2下で6日間培養を行った。コントロールのウェルには10μLのメディウムのみを添加した。測定は、1条件あたり3ウェルないしは5ウェルで実施した。
【0173】
実施例4-2:細胞増殖抑制効果の判定
6日間培養時における各種薬剤の細胞増殖抑制活性は、代謝活性のある生細胞を、ATP活性を基準に評価した。100μLのCellTiter-Glo(登録商標)reagent(Promega,#G7573)あるいは100μLのATPlite 1step Luminescence Assay System(PerkinElmer,#6016739)を96マイクロウェルプレートの各ウェルに加え、EnVision Workstation(Ultra-sensitive luminescence measurement protocol,h=0.9)で測定した。ATP活性の低下を測定するため、各条件3ウェルないしは5ウェルずつの平均発光値を算出した。発光残存率(%)は無処理群の細胞と比較することで算出し、この値を細胞生存率(%)として解釈した。
【0174】
結果を
図8~
図33に示す。
図8~
図19はHER2過剰発現無しの野生型および各種変異型HER3導入細胞における各種薬剤の細胞増殖抑制活性を示した図である。
図20~
図31はHER2過剰発現有りの野生型および各種変異型HER3導入細胞における各種薬剤の細胞増殖抑制活性を示した図である。HER3-ADC(1)は、野生型HER3導入細胞と同様に各種変異型HER3導入細胞に対しても細胞増殖抑制活性を示すことが判明した(
図8~
図19)。HER2過剰発現HER3安定発現細胞においても、HER3-ADC(1)は、野生型HER3導入細胞と同様に各種変異型HER3導入細胞に対しても細胞増殖抑制活性を示すことが判明した(
図20~
図31)。また、この時に比較対象として、再度、HER2過剰発現無しの細胞における各種薬剤の細胞増殖抑制活性を測定し(
図32、33)、HER2発現レベルにより、HER3-ADC(1)の細胞増殖抑制活性に差異は認められないことを確認した。
【0175】
[実施例5]変異型HER3(Q809R)導入細胞の作製と薬理評価
実施例5-1:HER3変異体発現プラスミドの作製
pLVSIN EF1α flag-HER3(WT)を鋳型とし、配列番号65で示されるHER3変異導入プライマー(Fw)、及び配列番号66で示されるHER3変異導入プライマー(Rev)にてプラスミド全長を増幅し、InFusion System(CLONTECH社製)によるself-ligationにより、HER3変異体発現プラスミド(pLVSIN EF1α flag-HER3(Q809R)Pur)を取得した。配列はDNAシーケンシングにより確認した。Flag-HER3(Q809R)をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号67に、Flag-HER3(Q809R)のアミノ酸配列を配列番号68に示した。
【0176】
実施例5-2:変異型HER3(Q809R)導入細胞(HER2過剰発現有り)の作製
実施例5-1にて作製したHER3変異体発現プラスミド(pLVSIN EF1α flag-HER3(Q809R)Pur)を用いて、実施例2-4と同様の方法により、HER2過剰発現HER3安定発現細胞(polyclone)として、変異型HER3(Q809R)導入細胞を取得した。実施例2-4と同様の方法により、取得した細胞よりtotal RNAを抽出し、RT-PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動に供し、HER3遺伝子発現(
図34)及びHER2遺伝子発現(
図35)を確認した。
【0177】
実施例5-3:細胞表面HER3発現陽性率の確認
実施例5-2で作製された変異型HER3(Q809R)導入細胞(HER2過剰発現有り)について、実施例2-5と同様の方法により、細胞表面HER3発現陽性率を確認した。細胞表面のHER3発現率は58.8%であり、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの特性を比較する分には支障ない値であると判断した。
【0178】
実施例5-4:変異型HER3(Q809R)導入細胞(HER2過剰発現有り)に対する結合性の確認
実施例5-2で作製された変異型HER3(Q809R)導入細胞(HER2過剰発現有り)について、実施例3と同様の方法により、各濃度におけるHER3-ADC(1)の野生型および変異型HER3(Q809R)導入細胞株に対する結合性評価を行った。変異型HER3(Q809R)導入細胞株に対するHER3-ADC(1)の結合は濃度依存的に増加し、野生型HER3と同様の結合性を示した(
図36)。
【0179】
実施例5-5:変異型HER3(Q809R)導入細胞(HER2過剰発現有り)におけるin vitro細胞増殖抑制
実施例5-2で作製された変異型HER3(Q809R)導入細胞(HER2過剰発現有り)について、実施例4と同様の方法により、HER3-ADC(1)、HER3-Ab(1)、及びIgG-ADC(1)の野生型および変異型HER3(Q809R)導入細胞株に対するin vitro細胞増殖抑制評価を行った。HER3-ADC(1)は、野生型HER3導入細胞と同様に変異型HER3(Q809R)導入細胞に対しても細胞増殖抑制活性を示すことが判明した(
図37)。
【0180】
[実施例6]野生型および各種変異型HER3導入細胞におけるHER3-ADC(1)のリソソーム移行性の確認
野生型および各種変異型HER3導入細胞におけるHER3-ADC(1)のリソソーム移行は、10%FBS(HyClone製)を含有するRPMI1640メディウム(ThermoFisher製)存在下で測定した。HER3-ADC(1)は、pH感受性を有する蛍光色素pHrodoにて標識し、リソソーム移行により発する蛍光シグナルを測定することで評価した。
【0181】
実施例6-1:pHrodo標識化HER3-ADC(1)の調製
pHrodo標識には、pHrodo(商標登録)iFL Microscale Protein Labeling Kitを使用した。HER3-ADC(1)を10mM Acetate/5% sorbitol(pH5.5,ナカライテスク製)にて1mg/mLに調製した。その100μL(100μg相当)を反応チューブに添加した。pHrodo(商標登録)iFL Red STP esterをDMSOに溶解し、HER3-ADC(1)のタンパク質モル数に対して10倍量に相当する量を反応チューブに加えて混和したのち、室温で60分間反応させた。反応液をZeba-spin(商標登録)脱塩カラム(ThermoFisher製)及びAmicon Ultra-0.5(Merk-Millipore社製)を用いて遠心することにより、pHrodo標識化HER3-ADC(1)を精製した。280nm及び566nmにおける吸光度をNanoDrop(商標登録)8000 Spectrophotometerを用いて測定し、標識効率を算出した。
【0182】
実施例6-2:培養細胞におけるリソソーム移行
野生型および各種変異型HER3導入細胞は、5x104cells/100μL/wellの細胞懸濁液として、96マイクロウェルプレート(Cellcarrier-96 Ultra,ThermoFisher製)に播種した。翌日、メディウムを吸引したのち、10%FBS含有RPMI1640メディウムにて100ng/mLに希釈したHoechst 33342(Life Technologies製)を50μL添加した。30分後に、100ng/mLのHoechst 33342を含有する10%FBS含有RPMI1640メディウムにて調製したpHrodo標識化HER3-ADC(1)の2倍濃縮液を50μL、陰性対照にはpHrodo標識化HER3-ADC(1)の代わりにメディウムを添加した。蛍光シグナルをOpera Phenix(商標登録)ハイスループット・ハイコンテンツイメージングシステム(Perkin Elmer製)を用いて、10時間に亘って30分毎にライブセルイメージング画像を取得した。測定は、1条件あたり3スポット/ウェルで実施した。取得した画像は、イメージ解析ソフトウェアHarmony(商標登録)(Perkin Elmer製)を用いて定量解析した。なお、定量値は1細胞当たりの蛍光ドット数に対して1ドット当たりの蛍光強度を乗じた値(Traffiking index)として示した。
【0183】
結果を
図38~64に示す。
図38~49はHER3安定発現細胞(HER2過剰発現無し)の結果、
図50~62はHER3安定発現細胞(HER2過剰発現有り)の結果を示す。
【0184】
pHrodo標識化HER3-ADC(1)は、野生型HER3導入細胞と同様に各種変異型HER3導入細胞に対しても濃度依存的なリソソーム移行性を示した(
図38~
図49)。これにより、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性は、野生型HER3発現細胞と、変異型HER3発現細胞との間で実質的に異ならないことが判明した。
【0185】
また、pHrodo標識化HER3-ADC(1)は、HER2過剰発現HER3安定発現細胞においても、濃度依存的なリソソーム移行性を示すことが判明した(
図50~
図62)。また、この時に比較対象として、再度、HER2過剰発現無しの細胞におけるHER3-ADC(1)のリソソーム移行性を確認した(
図63、64)。これにより、HER3-ADC(1)のリソソーム移行性は、HER2を過剰発現しているHER3発現細胞と、HER2を過剰発現していないHER3発現細胞との間で実質的に異ならないことが判明した。
【0186】
以上の結果より、HER3-ADC(1)は、HER2の過剰発現の有無にかかわらず各種変異型HER3導入細胞に対し細胞増殖抑制活性を示すことが確認された。
【0187】
現在、HER3-ADC(1)の臨床試験が進行中であるが、野生型HER3の症例と同様に、変異型HER3の症例に対しても臨床有効性が期待できることが示唆された。