(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109906
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】酵素の処理方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/99 20060101AFI20240806BHJP
C12M 1/04 20060101ALN20240806BHJP
【FI】
C12N9/99
C12M1/04
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024086887
(22)【出願日】2024-05-29
(62)【分割の表示】P 2019051905の分割
【原出願日】2019-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】592042750
【氏名又は名称】株式会社アルビオン
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】篠原 悟史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章悟
(57)【要約】 (修正有)
【課題】酵素の失活処理後の抽出成分や抽出残渣の劣化を抑制する処理方法を提供する。
【解決手段】酵素の処理方法であって、1~40℃のジメチルエーテルを飽和蒸気圧以上とすることで生成した液化ジメチルエーテルを対象物に接触させて、当該液化ジメチルエーテルが当該対象物と接触している状態を保持することで、当該対象物中に含まれる酵素を変性させることで失活させる処理を行う処理工程と、この処理工程で処理された抽出液から液化ジメチルエーテルを飽和蒸気圧未満の圧力にして蒸発させることにより分離させる分離工程を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~40℃のジメチルエーテルを飽和蒸気圧以上とすることで生成した液化ジメチルエーテルを対象物に接触させて、当該液化ジメチルエーテルが当該対象物と接触している状態を保持することで、当該対象物中に含まれる酵素を変性させることで失活させる処理を行う処理工程と、
前記処理工程で処理された抽出液から前記液化ジメチルエーテルを飽和蒸気圧未満の圧力にして蒸発させることにより分離させる分離工程と、
を含む酵素の処理方法。
【請求項2】
前記対象物は、水分を含む、
請求項1に記載の酵素の処理方法。
【請求項3】
前記対象物は、生体組織である、
請求項1または2に記載の酵素の処理方法。
【請求項4】
前記対象物に対する前記液化ジメチルエーテルの接触および前記処理された前記抽出液の導出を連続的に行う、
請求項1ないし3の何れか一項に記載の酵素の処理方法。
【請求項5】
前記対象物の温度を一定に保つ、
請求項1ないし4の何れか一項に記載の酵素の処理方法。
【請求項6】
分離された前記液化ジメチルエーテルは、循環再利用される、
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の酵素の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素の処理装置、酵素の処理方法および抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酵素の失活方法には、高圧蒸気により酵素を失活させるオートクレーブを用いる方法や、超臨界二酸化炭素により酵素を失活させる方法がある。
【0003】
オートクレーブを使用することによる酵素の失活方法では、通常、1.5気圧の飽和水蒸気によって温度を121℃に上昇させ、15~20分間処理することで酵素を失活処理する。この方法によれば、熱によってタンパク質が変性し、酵素は触媒作用を失う(失活する)。しかし、高温条件下で酵素を失活させると、酵素以外の生体組織由来の生体成分が熱分解などの劣化を引き起こしてしまう恐れがある。
【0004】
そこで、これまでに超臨界二酸化炭素による酵素の失活方法が提案されている。超臨界二酸化炭素に対象物をさらすことで、高温条件下でなくても、酵素を変性させ対象物中の酵素を失活することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、超臨界二酸化炭素による酵素の失活方法には、対象物が有する溶媒に二酸化炭素が溶解した場合に、水素イオンが生じてしまうという課題があった。
【0006】
二酸化炭素により水素イオンが生じてしまうと、処理環境が、本来の生体組織固有の液性(pH値)とは異なる液性(pH値)となってしまう。その結果、液性変化の影響によって、抽出物や抽出残渣が劣化してしまう。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、酵素の失活処理後の抽出成分や抽出残渣の劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の酵素の処理装置は、液化ガスを供給する供給部と、前記供給部により供給された前記液化ガスを用いて、対象物中に含まれる酵素を処理する処理部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酵素の失活処理後の抽出成分や抽出残渣の劣化を抑制することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施の形態にかかる酵素の処理方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、抽出装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照して、酵素の処理装置、酵素の処理方法および抽出装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
(酵素の処理方法)
図1は、実施の形態にかかる酵素の処理方法の一例を示すフローチャートである。
【0013】
本実施形態に係る酵素の処理方法は、液化ガスを対象物である生体組織に接触させて、当該生体組織中に含まれる酵素を失活させるよう処理(酵素の失活処理)する工程(S1)と、工程(S1)で処理(酵素の失活処理)された抽出液から液化ガスを分離させる工程(S2)を含む。これにより、劣化の少ない失活処理物を得ることができる。
【0014】
工程(S1)では、例えば、液化ガスを生体組織に接触させて、生体組織中に含まれる酵素を変性させることで、酵素を失活させるよう処理する。これにより、劣化の少ない失
活処理物を得ることができる。
【0015】
液化ガスとしては、生体組織中に含まれる酵素を変性させることで酵素を処理(失活処理)することが可能であり、水に溶解しても水素イオンや水酸化物イオンが生じにくい液化ガスであれば、特に限定されないが、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒド、ケテン、アセトアルデヒド、プロパン、ブタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、液化石油ガス等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、比較的低温低圧で液化する点で、エチルメチルエーテル、ジメチルエーテルが好ましく、ジメチルエーテルが特に好ましい。これらの液化ガスは溶媒に溶解したときに、水素イオンや水酸化物イオンが発生しにくいため、酵素の処理過程において、生体成分及び生体組織を劣化させにくい。生体成分及び生体組織は、水素イオン発生下では酸化や加水分解、水酸化物イオン発生下では組織の損傷等といった劣化が生じやすくなる。
【0016】
なお本明細書および特許請求の範囲において、液化ガスとは、常温常圧(0℃、1atm(0.101325MPa))で気体である物質の液化物である。
【0017】
ジメチルエーテルは、1~40℃、0.2~5MPa程度で液化するため、装置のコストが安価となる。また、液化ジメチルエーテルは、常温常圧下で容易に気化することから、抽出液及び抽出残渣に残留しにくい。酵素の処理温度が、1~40℃の温度内であれば、凍結による組織損傷や、タンパク質、色素等の成分熱変性を防止することができる。さらに、酵素の処理圧力が、5MPa以下であれば、超臨界二酸化炭素と比較して、低圧で酵素の処理をすることができ、生体成分の劣化が少ない処理が可能となる。
【0018】
(生体組織)
本明細書および特許請求の範囲において、生体組織とは、細胞が細胞壁を有する植物、菌類、古細菌、真正細菌、もしくは細胞が細胞壁を有しない動物のいずれかを由来とする原料を意味する。このとき、植物由来原料の場合は、葉、枝、樹木、花弁、茎、根、果肉、果皮及び種子の少なくとも1つを由来とする原料であり、動物由来原料の場合は、ヒトまたは異種哺乳動物由来の皮膚、血管、心臓弁膜、角膜、羊膜、硬膜等を含む軟組織またはその一部、心臓、腎臓、肝臓、膵臓、脳等を含む臓器またはその一部、骨、軟骨、腱またはその一部等の少なくとも1つである動物由来原料である。生体組織とは細胞壁を有する植物、菌類、古細菌、真正細菌、もしくは細胞壁を有しない動物のいずれかから得られる組織のことを意味する。
【0019】
なお、酵素の処理対象物である生体組織が水分を含んでいてもよい。水分を含む酵素の処理対象物を水素イオンや水酸化物イオンが発生しやすい溶媒で抽出すると、水中に水素イオンや水酸化物イオンが発生し、その結果、処理対象物を劣化させてしまう。抽出溶媒が液化ジメチルエーテルであれば、ジメチルエーテルは水素イオンや水酸化物イオンを生成しにくいため、これらのイオンが原因となる処理対象物の劣化を抑制することができる。
【0020】
また、液化ガスによって処理される酵素は、生体組織がもとから有していた酵素であってもよいし、本酵素の処理とは異なる処理にて用いられ、その結果として生体組織や抽出液に残留した酵素であってもよい。
【0021】
(抽出装置)
本実施形態の抽出装置は、液化ガスを用いて、生体組織中に含まれる酵素を変性させることで酵素を処理(失活処理)し、処理(失活処理)された抽出液から液化ガスを分離することが可能であれば、特に限定されない。
【0022】
以下、液化ガスとして、液化ジメチルエーテルを用いる場合について、説明する。
【0023】
本実施形態の抽出装置は、ジメチルエーテルを飽和蒸気圧以上にすることで生成した液化ジメチルエーテルを生体組織に接触させることで、生体組織中に含まれる酵素を変性させることで酵素を処理(失活処理)する。次に、抽出された抽出液を飽和蒸気圧未満にすることで、液化ジメチルエーテルを気化させ、処理(失活処理)された抽出液から液化ガスを分離する。
【0024】
本実施形態の抽出装置は、後述する貯蔵手段から抽出手段に液化ジメチルエーテルを送液する送液手段と、送液された液化ジメチルエーテルを生体組織に接触させて、生体組織中に含まれる酵素を変性させることで処理(失活処理)する酵素の処理手段と、酵素の処理手段から抽出液を導出する導出手段を備える。また、本実施形態の抽出装置は、温度及び/又は圧力を調節することにより、抽出液から液化ジメチルエーテルを気化させ、抽出液を濃縮する濃縮手段と、温度及び/又は圧力を調節することにより、気化したジメチルエーテルを凝縮させる凝縮手段を備える。さらに、本実施形態の抽出装置は、液化ジメチルエーテルを貯蔵する貯蔵手段と、液化ジメチルエーテルを貯蔵手段に供給する供給手段と、液化ジメチルエーテルの温度及び圧力を検知する検知手段を備える。
【0025】
送液手段としては、液化ジメチルエーテルの流量を調節することが可能であれば、特に限定されないが、送液ポンプ、熱駆動等が挙げられる。
【0026】
図2は、抽出装置の一例を示す概略図である。なお、
図2は、抽出装置100を理解することができる程度に、構成要素の形状、大きさ及び配置を概略的に示すものに過ぎない。
【0027】
酵素の処理装置としても機能する抽出装置100は、液化ジメチルエーテル2を貯蔵する貯槽1と、生体組織7を液化ジメチルエーテル2と接触させ、生体組織7中に含まれる酵素を変性させることで処理(失活処理)する処理槽6と、貯槽1から処理槽6へ液化ジメチルエーテル2を送液するポンプ3と、抽出液から液化ジメチルエーテルを気化させることで、抽出液とジメチルエーテルとを分離する分離槽11を有する。処理槽6には、フィルタ8が上流側及び下流側に設置されている。
【0028】
貯槽1に貯蔵される液化ジメチルエーテル2は、ジメチルエーテルを飽和蒸気圧以上にすることにより液体状態とされる。
【0029】
また、抽出装置100は、液化ジメチルエーテル2を導出又は導入する導管5、10、12、14、16、19、20、23、各槽内の気圧を調節し、液化ジメチルエーテル2の導出及び導入を制御するバルブ4、9、13、15、18、21、22を有する。処理槽6及び分離槽11は、液化ジメチルエーテル2の液体状態を維持するため、圧力を調整することができる。
【0030】
抽出装置100において、貯槽1、貯槽1から処理槽6に液化ジメチルエーテル2を導入するポンプ3、バルブ4及び導管5が、供給部として機能する。処理槽6は、酵素の処理部として機能する。処理槽6から液化ジメチルエーテル2を導出させる導管10及びバルブ9が、導出手段として機能する。また、分離槽11は、分離部として機能する。導管16に接続された凝縮器17は、凝縮部として機能する。分離槽11に接続された導管12及びバルブ13は、気化手段として機能する。貯槽1は、貯蔵手段として機能する。導管19、20は、供給手段として機能する。
【0031】
抽出装置100は、各槽内の温度及び圧力を検知する温度計及び圧力計、各槽内で撹拌するための撹拌機、酸素等の活性ガスをパージするための、窒素等の不活性ガスを槽内及び導管内に流通させる装置等をさらに含んでいてもよい。
【0032】
抽出装置100は、処理槽6内の生体組織7の温度を一定に保つように制御する温度制御装置を備えていてもよい。温度制御装置は、例えば冷却装置やヒータなどであって、処理槽6内の生体組織7を一定に保つ。これにより、生体組織7の熱変性を防ぐことができる。
【0033】
以下に、抽出装置100を用いて、酵素の処理方法を説明する。
【0034】
まず、フィルタ8が上流側及び下流側に設置されている処理槽6に、生体組織7を導入する。このとき、バルブ4、9、13、15、18、21、22は、閉状態である。ここで、貯槽1に液化ジメチルエーテル2が十分に貯蔵されていない場合は、バルブ21を開状態とし、導管20を経由して、貯槽1に液化ジメチルエーテル2を供給した後、バルブ21を閉状態とする。ここで、バルブ21を開状態とするときに、バルブ18を開状態とし、バルブ21を閉状態とするときに、バルブ18を閉状態としてもよい。
【0035】
貯槽1の圧力をジメチルエーテルの飽和蒸気圧以上にすることにより、液化ジメチルエーテル2が生成される。
【0036】
次に、バルブ4を開状態とし、ポンプ3により、貯槽1内の液化ジメチルエーテル2を導出し、導管5を経由して、生体組織7と接触するまで処理槽6に導入した後、バルブ4を閉状態とする。
【0037】
その結果、生体組織7中に含まれる酵素が変性することで酵素が処理される(失活する)。
【0038】
次に、バルブ4、9を開状態とし、ポンプ3により、貯槽1から液化ジメチルエーテル2を導出し、導管5を経由して処理槽6に導入する。その結果、処理槽6から酵素が処理された(失活した)抽出液が導出され、導管10を経由して分離槽11に導入される。このとき、処理槽6の上流側及び下流側にフィルタ8が設置されているため、酵素が処理された生体組織7は、抽出残渣として処理槽6内に残留する。
【0039】
ここで、バルブ4、9を開状態とするタイミングは、処理槽6に液化ジメチルエーテル2が導入されてから、生体組織7に液化ジメチルエーテルを移行させるために、所定時間経過した後である。このとき、液化ジメチルエーテルが生体組織7と接触している状態で所定時間静置してもよいし、液化ジメチルエーテル2が生体組織7と接触している状態で撹拌してもよい。
【0040】
次に、バルブ4を閉状態とし、バルブ13及び22を開状態として、分離槽11の圧力をジメチルエーテルの飽和蒸気圧未満の圧力にすることで、バルブ4とバルブ13の間に存在する液化ジメチルエーテルが蒸発し、抽出液から分離される。蒸発したジメチルエーテルは、導管14を経由して、導管23から排出される。このとき、必要に応じて、ポンプを用いて、ジメチルエーテルを排出してもよい。
【0041】
このとき、バルブ22を開状態とする代わりに、バルブ15を開状態とすると、蒸発したジメチルエーテルは、導管16を経由して、凝縮器17に導入される。その結果、ジメチルエーテルが凝縮することにより生成した液化ジメチルエーテルを再利用することができる。
【0042】
以上、貯槽1内の液化ジメチルエーテル2を不連続的に導出する場合について説明したが、貯槽1内の液化ジメチルエーテル2を連続的に導出してもよい。
【0043】
具体的には、バルブ4及び9を開状態として、導管5を経由して貯槽1内の液化ジメチルエーテル2を、処理槽6に連続的に導入すると共に、導管10を経由して処理槽6内の酵素の処理された抽出液を分離槽11内に連続的に導出してもよい。このように流通式で連続的に実施することで、処理時間を短縮することができる。
【0044】
なお、抽出装置100では、装置内の圧力を変化させることで、ジメチルエーテルの気液の状態変化を行っているが、圧力の代わりに、温度を変化させることで、ジメチルエーテルを凝縮(液化ジメチルエーテルを蒸発)させてもよい。
【0045】
このように本実施の形態によれば、液化ジメチルエーテルを用いて酵素を失活させることにより、酵素の失活処理後の抽出成分や抽出残渣の変性を抑制することができる。
【符号の説明】
【0046】
1,3,4,5 供給部
6 処理部
11 分離部
17 凝縮部
100 抽出装置、酵素の処理装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0047】