(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109945
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】電気機械式に駆動可能なブレーキ圧発生器
(51)【国際特許分類】
B60T 17/00 20060101AFI20240806BHJP
B60T 13/138 20060101ALI20240806BHJP
F16H 1/28 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B60T17/00 D
B60T13/138 A
F16H1/28
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024088395
(22)【出願日】2024-05-30
(62)【分割の表示】P 2022526847の分割
【原出願日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】102019217551.1
(32)【優先日】2019-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】ベーム,マーク
(57)【要約】 (修正有)
【課題】車両の液圧式のブレーキシステムのための電気機械式に駆動可能なブレーキ圧発生器に関する。
【解決手段】電動機の駆動回転数の伝達比を低速に変換するために入力側で前記電動機によって駆動される遊星歯車装置(22)と、環状歯車(34)を有し、この環状歯車が、環状歯車受け部(46)内でこの環状歯車受け部に対して相対回動不能に受けられており、さらに、液圧モジュールを有しており、該液圧モジュールが前記遊星歯車装置の出力側に接続されていて、この液圧モジュールによってブレーキ圧が生ぜしめられるようになっている。前記環状歯車と前記環状歯車受け部との間に少なくとも1つのトルク支持部(50)が配置されており、該トルク支持部が、前記遊星歯車装置に対して軸方向に延在していて、前記環状歯車と前記環状歯車受け部とが互いに相対回動不能に保持されるように、切欠(62)と協働する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の液圧式のブレーキシステムのための電気機械式に駆動可能なブレーキ圧発生器であって、
駆動回転数を生ぜしめることができる電動機(18)を有しており、
駆動回転数の伝達比を低速に変換するために入力側で前記電動機(18)によって駆動される遊星歯車装置(22)を有しており、この場合、前記遊星歯車装置(22)が、前記電動機(18)の出力軸に取り付けられる太陽歯車(32)と噛み合う遊星歯車(42)と、前記遊星歯車(42)と噛み合う環状歯車(34)とを有していて、この環状歯車(34)が、環状歯車受け部(46)内でこの環状歯車受け部(46)に対して相対回動不能に受けられており、
液圧モジュール(30)を有しており、該液圧モジュールが前記遊星歯車装置(22)の出力側に接続されていて、この液圧モジュール(30)によってブレーキ圧が生ぜしめられるようになっている形式のものにおいて、
前記環状歯車(34)の外周範囲に設けられ、前記遊星歯車装置(22)に対して軸方向に延在する少なくとも1つのトルク支持部(50)が、前記環状歯車(34)と前記環状歯車受け部(46)とが互いに相対回動不能に保持されるように、切欠(62)と協働し、
少なくとも1つの前記トルク支持部(50)が前記環状歯車(34)に堅固に結合されており、
少なくとも1つの前記トルク支持部(50)がピン状に構成されていることを特徴とする、電気機械式に駆動可能なブレーキ圧発生器。
【請求項2】
少なくとも1つの前記トルク支持部(50)が、前記環状歯車(34)および前記環状歯車受け部(46)と相対回動不能に結合するために、前記環状歯車受け部(46)および/または前記環状歯車(34)の切欠(62)内に係合することを特徴とする、請求項1記載の電気機械式に駆動可能なブレーキ圧発生器。
【請求項3】
前記切欠(62)が開口部として構成されていることを特徴とする、請求項1または2記載の電気機械式に駆動可能なブレーキ圧発生器。
【請求項4】
少なくとも1つの前記トルク支持部(50)が、前記環状歯車受け部(46)の軸方向外側(66)でかしめられていることを特徴とする、請求項3記載の電気機械式に駆動可能なブレーキ装置。
【請求項5】
少なくとも1つの前記トルク支持部(50)が、前記環状歯車受け部(46)の深絞り部材の形に構成されており、該トルク支持部(50)が前記環状歯車(34)の切欠(62)内に係合することを特徴とする、請求項1または2記載の電気機械式に駆動可能なブレーキ圧発生器。
【請求項6】
少なくとも1つの前記トルク支持部(50)が、プラスチック材料より形成されていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の電気機械式に駆動可能なブレーキ圧発生器。
【請求項7】
車両において、請求項1から6までのいずれか1項記載の電気機械式に駆動可能なブレーキ圧発生器を有する車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の液圧式のブレーキシステムのための電気機械式に駆動可能なブレーキ圧発生器であって、駆動回転数を生ぜしめることができる電動機と、駆動回転数の伝達比を低速に変換するために入力側で電動機によって駆動される遊星歯車装置とを有しており、この場合、遊星歯車装置が環状歯車を有していて、この環状歯車が、環状歯車受け部内でこの環状歯車受け部に対して相対回動不能に受けられており、またブレーキ圧発生器は、液圧モジュールを有しており、この液圧モジュールが前記遊星歯車装置の出力側に接続されていて、この液圧モジュールによってブレーキ圧が生ぜしめられるようになっている形式のものに関する。さらに本発明は、このような電気機械式に駆動可能なブレーキ圧発生器を有する車両に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を制動するために、運転者の踏力はたいていの場合、十分ではないので、自動車は一般的にブレーキ倍力装置を備えている。従来のブレーキ倍力装置は、ふつうは内燃機関によって生ぜしめられた負圧で作業する。この際に、運転者の踏力に追加して増幅力を加えるために、エンジン圧力と周囲圧力との間の圧力差が利用される。
【0003】
自動車の将来的な駆動コンセプトのために、選択的なブレーキ圧発生装置が必要とされる。何故ならば、在来型の真空ブレーキ倍力装置を駆動するために、負圧はもはや提供されないからである。このために、これに関連する電気機械式のブレーキ圧発生器が開発されている。
【0004】
この場合、操作力は電動機によって生ぜしめられ、この電動機は、ブレーキ圧を生ぜしめるために、伝動装置を介して液圧ピストンの運動を制御する。このような形式の電気機械式のブレーキ圧発生器は、補助力を提供するためだけではなく、ブレーキバイワイヤシステムで操作力を単独で発生させるためにも使用され得る。したがって、電気機械式のブレーキ圧発生器は、特に自律走行に関連して有利である。
【0005】
特許文献1によれば、ボールスピンドルを介してもたらされたペダル踏力を増幅する電気機械式のブレーキ圧発生器が公知である。このために、ボールスピンドルに循環式ボールナットが配置されており、この循環式ボールナットは、遊星歯車装置を介して、電動機によってペダル踏力を増幅するために駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/013314号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、減少された構造スペースを有する、車両の液圧式のブレーキシステムのための電気機械式に駆動可能なブレーキ圧発生器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、請求項1の前提部と特徴部とを組み合わせた、電気機械式に駆動可能なブレーキ圧発生器によって解決される。後続の従属請求項は、本発明の好適な実施態様を記載する。請求項9には、本発明による電気機械式に駆動可能なブレーキ圧発生器を備えた液圧式のブレーキシステムを有する車両が挙げられている。
【0009】
本発明は、環状歯車と環状歯車受け部との間に少なくとも1つのトルク支持部が配置されていて、このトルク支持部が、遊星歯車装置に対して軸方向に延在していて、切欠と協働することによって、環状歯車と環状歯車受け部とが互いに相対回動不能に保持されている、という技術的な理論を含む。
【0010】
液圧モジュールとは、本発明の枠内で、このモジュールを介して遊星歯車装置の回転運動を、電気機械式のブレーキ圧発生器のためのブレーキ圧を発生させるための液圧ピストンの運動に変換するモジュールのことであると解釈される。これは、好適な形式でスピンドルナット装置を介して構成されていて、このスピンドルナット装置を介して、回転運動が液圧シリンダ内で液圧ピストンの並進運動に変換される。
【0011】
本発明によれば、トルク支持部は、トルクを受けることができる構造的な部材である。このために、トルク支持部は、相応に成形された切欠と協働することによって、これら2つの構成部分の相互の相対的な回転運動が阻止される。好適には少なくとも2つのトルク支持部が設けられる。特に好適には、互いに等距離で配置された多数のトルク支持部が設けられている。この発明では、トルク支持部は軸方向に構成されている。これによって、半径方向のトルク支持部と比較して、伝達比が同じで、構造スペースが節約され得る。
【0012】
特に好適には、より大きい直径を有する環状歯車を形成するために、このような節約された構造スペースが利用される。これによって、より大きい伝達比が可能である。相応に、モータを例えばより高い回転数で動かすことができる。これによってモータのより短い駆動長さが可能である。従ってモータを小型に構成することができ、それによってモータのための構造スペースおよびコストは節約され得る。
【0013】
本発明の好適な実施例によれば、少なくとも1つのトルク支持部が環状歯車および/または環状歯車受け部に堅固に結合されている。本発明において、堅固とは、トルク支持部が相応の構成部分によって一体的に構成されているか、またはねじ結合、溶接等によって少なくとも堅固に構成部分に結合されている、ということである。これによって、トルク支持部は、環状歯車によっても、環状歯車受け部によっても、またはこれらの両方によっても構成され得る。これによって、トルク支持部の高いフレキシビリティーが得られる。
【0014】
本発明の別の実施例によれば、少なくとも1つのトルク支持部が、環状歯車および環状歯車受け部と相対回動不能に結合するために、環状歯車受け部および/または環状歯車の切欠内に係合する。ここでも、切欠は、環状歯車、環状歯車受け部またはこれらの両方により形成され得る。この場合、切欠として少なくとも1つの材料除去部が考えられ、したがって、少なくとも1つの空洞が形成される。このような切欠は、好適にはトルク支持部のような形を有している。したがって、これにより形状締結が得られ、この形状締結によって、概ね遊びのない回動防止が保証されている。
【0015】
好適な形式で、少なくとも1つのトルク支持部がピン状に構成されている。このような円形のピン状のトルク支持部は、これが簡単に穿孔プロセスによって形成された孔内に取り付け可能である、という利点を有している。特に、ピン状の部材は、環状歯車または環状歯車受け部の製作後にこれらの構成部分の孔内に差し込まれ、この構成部分と堅固に結合され得る。組み立て時に、ピンは対抗部分の対応する孔内に差し込むことができる。
【0016】
好適な実施態様によれば、切欠は開口部として構成されている。この場合、開口部とは、この切欠が形成されている材料の厚さを完全に突き抜ける切欠であると解釈される。したがって、この切欠は、全材料厚さに亘って延在している。このような開口部によって、特に内部に切欠が設けられるべき薄壁状の材料においても、高いトルクが伝達され得る。
【0017】
好適な形式で、少なくとも1つのトルク支持部が、環状歯車受け部の軸方向外側でかしめられている。かしめ加工によって、トルク支持部は外側でリベット状に半径方向に拡開される。これによって、環状歯車と環状歯車受け部とは軸方向で互いに固定される。追加的に、開口部の領域内のかしめ加工によって、製造公差に基づく遊びが取り除かれる。
【0018】
別の好適な実施例では、少なくとも1つのトルク支持部が環状歯車受け部の深絞り部材の形に構成されており、このトルク支持部が環状歯車の切欠内に係合する。深絞り段階によって、このようなトルク支持部は簡単かつ経済的に構成され得る。このトルク支持部は、環状歯車および環状歯車受け部の組み立て後に取り付けることもできるので、トルク支持部は、対応する切欠が配置されている箇所に設けることができる。
【0019】
好適な実施例によれば、少なくとも1つのトルク支持部がプラスチック材料より形成されている。プラスチック材料は、その重量が僅かであり、射出成形の方法で簡単に製作可能である、という利点を有している。プラスチック材料の材料コストはより安価でもある。したがって、このような材料によって、経済的に製造可能な電気機械式に駆動可能なブレーキ圧発生器が提供され得る。プラスチック材料は、さらに、かしめ加工を、プラスチック材料を溶かす熱かしめとして形成することができる、という利点を有している。このような熱かしめは簡単に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明による電気機械式のブレーキ圧発生器の動力伝達機構の1実施例の概略図である。
【
図2】従来技術による遊星歯車装置の斜視図である。
【
図3】本発明による遊星歯車装置の1実施例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施例を図面に示し、以下に詳しく説明する。
【0022】
図1に、本発明による電気機械式のブレーキ圧発生器の動力伝達機構14の1実施例の概略図が示されている。動力伝達機構14は電動機18を有しており、この電動機18を介して駆動回転数を発生させることができる。電動機18は、遊星歯車装置22の入力側に機械的に接続されている。この実施例では、遊星歯車装置22は電動機軸線26に対して同軸的に位置決めされている。遊星歯車装置22は、ブレーキ圧発生器のハウジング部分28に追加的に配置されており、このハウジング部分28は例えばバルブハウジングであってよい。
【0023】
遊星歯車装置22を介して、電動機18の駆動回転数がより低速の回転数に変えられる。遊星歯車装置22は出力側で液圧モジュール30に機械的に接続されている。この場合、液圧モジュール30はブレーキ圧ピストンを有しており、このブレーキ圧ピストンは、スピンドル/ナット装置を介してブレーキ圧を生ぜしめるために軸方向に移動可能である。この実施例に図示された動力伝達機構14は、2軸式に配置されている。つまり、液圧モジュール30は、電動機軸線26に対して平行に配置されている、という意味である。
【0024】
図2は、従来技術による遊星歯車装置22の斜視図を示す。この遊星歯車装置22では、見やすくするために太陽歯車32(
図3参照)は省かれている。この場合、遊星歯車装置22は、ここでは傾斜して構成された内歯列38を有する環状歯車34を有している。環状歯車34内に3つの遊星歯車42が配置されており、これらの遊星歯車42は、環状歯車34の内歯列38と噛み合う。
【0025】
環状歯車34は、環状歯車受け部46内に受けられている。この場合、環状歯車受け部46は深絞りされた金属薄板部分である。環状歯車34は、外周範囲に複数のトルク支持部50を有しており、これらのトルク支持部50は周面から半径方向に突き出している。このトルク支持部50は、環状歯車受け部46によって形成されたトルク支持溝54と形状締結式に噛み合っているので、環状歯車34は環状歯車受け部46内でこの環状歯車受け部46に対して相対回動不能に保持されている。それに応じて、このトルク支持部50は、薄壁状の環状歯車受け部46の半径方向外側58から突き出している。
【0026】
本発明による遊星歯車装置22の1実施例の断面図が
図3に示されている。この図面に、追加的に太陽歯車32が示されている。
図2に示された従来技術のものとは異なり、トルク支持部50は軸方向の環状歯車外側60から遊星歯車装置22の軸方向に延在している。この実施例では、トルク支持部50は、環状歯車34に堅固に結合されているかまたは環状歯車34と一体的に構成されている。この場合、トルク支持部50は、環状歯車受け部46の切欠62と協働する。
【0027】
この場合、切欠62は円形の開口部として構成されており、これに対してこの開口部内に係合するトルク支持部50はピンの形を有している。トルク支持体50の長さは、この実施例では、トルク支持体50が環状歯車受け部46の軸方向外側66を超えるように寸法設計されている。図示していない実施例では、トルク支持部50の、軸方向外側66を超える部分はさらにかしめられていてよく、それによって、環状歯車34は追加的に軸方向で環状歯車受け部46に保持される。
【0028】
図2に示した従来技術とは異なり、トルク支持溝54は必要ない。これによって、このために必要な半径方向の構造スペースは削減され得る。同様に、
図2において必要とされた半径方向の構造スペースを、より大きい直径を有する環状歯車34のために提供することができるので、より高い伝達比が得られる。
【0029】
図4は、
図3の遊星歯車装置22の斜視図を示す。ここでは、環状歯車34と環状歯車受け部46との間で十分なトルクを伝達することができるようにするために、等距離で配置された多数の軸方向のトルク支持部50が設けられていることが明確に示されている。同様に、環状歯車受け部46が、半径方向外側58にトルク支持溝54を有していないことが分かる。
【0030】
ここに図示していない実施例では、トルク支持部50は、環状歯車受け部46の軸方向の深絞り部材によって形成されていてもよい。この場合、この深絞り部材は、環状歯車34の相応の切欠62内に係合する。
【符号の説明】
【0031】
14 動力伝達機構
18 電動機
22 遊星歯車装置
26 電動機軸線
28 ハウジング部分
30 液圧モジュール
32 太陽歯車
34 環状歯車
38 内歯列
42 遊星歯車
46 環状歯車受け部
50 トルク支持部
54 トルク支持溝
58 半径方向外側
60 環状歯車外側
62 切欠
66 軸方向外側