(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110010
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】マーク付き光ファイバ素線の製造方法、及び、光ファイバケーブル
(51)【国際特許分類】
G02B 6/44 20060101AFI20240807BHJP
【FI】
G02B6/44 391
G02B6/44 366
G02B6/44 371
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101884
(22)【出願日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉光 諒
(72)【発明者】
【氏名】石田 格
(72)【発明者】
【氏名】大里 健
【テーマコード(参考)】
2H201
【Fターム(参考)】
2H201AX17
2H201BB06
2H201BB22
2H201BB67
2H201DD05
2H201DD14
2H201DD23
2H201DD26
2H201DD33
2H201KK37A
2H201KK37B
2H201KK63
2H201MM17
2H201MM23
(57)【要約】
【課題】製造の安定化を図ることが可能なマーク付き光ファイバ心線の製造方法を提供する。
【解決手段】マーク付き光ファイバ素線40の製造方法は、光ファイバ裸線60を樹脂層70で覆うことで、光ファイバ素線50を形成する被覆工程と、印刷ローラ140から樹脂層70にインク121を転写することで、樹脂層70にマーク41を形成する形成工程と、を備え、被覆工程は、樹脂層70の表面硬化度が50%~90%となるように、樹脂層70を硬化することを含み、形成工程において、下記の(1)式及び(2)式を満たしており、下記の(1)式において、αは、樹脂層70の表面に対するインク121の接触角であり、下記の(2)式において、Vは、光ファイバ素線50の軸方向に沿った長さ1μm当たりのインク121の体積である。
α≦22° ・・・ (1)
V≦2600μm
3 ・・・ (2)
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ素線と識別用のマークとを備えたマーク付き光ファイバ素線の製造方法であって、
コア及びクラッドを含む光ファイバ裸線を準備する準備工程と、
前記光ファイバ裸線を樹脂層で覆うことで、前記光ファイバ素線を形成する被覆工程と、
印刷ローラから前記樹脂層にインクを転写することで、前記樹脂層に前記マークを形成する形成工程と、を備え、
前記被覆工程は、前記樹脂層の表面硬化度が50%~90%となるように、前記樹脂層を硬化することを含み、
前記形成工程において、下記の(1)式及び(2)式を満たすマーク付き光ファイバ素線の製造方法。
α≦22° ・・・ (1)
V≦2600μm3 ・・・ (2)
但し、上記の(1)式において、αは、前記樹脂層の表面に対する前記インクの接触角であり、上記の(2)式において、Vは、前記光ファイバ素線の軸方向に沿った長さ1μm当たりの前記インクの体積である。
【請求項2】
請求項1に記載のマーク付き光ファイバ素線の製造方法であって、
前記形成工程において、下記の(3)式を満たすマーク付き光ファイバ素線の製造方法。
α≦15° ・・・ (3)
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマーク付き光ファイバ素線の製造方法であって、
前記形成工程において、下記の(4)式を満たすマーク付き光ファイバ素線の製造方法。
V≦1600μm3 ・・・ (4)
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のマーク付き光ファイバ素線の製造方法であって、
前記形成工程において、下記の(5)式を満たすマーク付き光ファイバ素線の製造方法。
V/r≦10μm2 ・・・ (5)
但し、上記の(5)式において、rは、前記光ファイバ素線の外径である。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のマーク付き光ファイバ素線の製造方法であって、
下記の(6)式を満たすマーク付き光ファイバ素線の製造方法。
r≦220μm ・・・ (6)
但し、上記の(6)式において、rは、前記光ファイバ素線の外径である。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のマーク付き光ファイバ素線の製造方法であって、
前記印刷ローラは、前記インクを充填可能な凹部を有しており、
前記形成工程において、前記インクの粘度は、10mPa・s~50mPa・sの範囲内であるマーク付き光ファイバ素線の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のマーク付き光ファイバ素線の製造方法であって、
前記マークの厚さは、2μm~20μmであるマーク付き光ファイバ素線の製造方法。
【請求項8】
光ファイバユニットと、
前記光ファイバユニットを覆うシースと、を備えた光ファイバケーブルであって、
前記光ファイバユニットは、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法により製造された複数のマーク付き光ファイバ素線を含む光ファイバケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ素線を識別するためのマークを備えたマーク付き光ファイバ素線の製造方法、及び、当該マーク付き光ファイバ素線を備えた光ファイバケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバケーブルを構成するそれぞれの光ファイバ心線を識別するために、光ファイバ素線上にインク層からなる識別層を設け、その上に着色層を設けた識別型光ファイバ心線が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の識別型光ファイバ心線では、識別層の上に着色層が形成されているため、当該識別層を光ファイバ素線上に形成した後に、当該光ファイバ素線が着色層形成用のダイスを通過する。この際、光ファイバ素線に対する識別層の密着性が低かったり、当該識別層が肉厚である場合には、この識別層が削れたり光ファイバ素線が断線してしまい、長尺の光ファイバ心線の製造が不安定になってしまう場合がある、という問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、製造の安定化を図ることが可能なマーク付き光ファイバ素線の製造方法、及び、その製造方法により製造されたマーク付き光ファイバ素線を備えた光ファイバケーブルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明に係るマーク付き光ファイバ素線の製造方法は、光ファイバ素線と識別用のマークとを備えたマーク付き光ファイバ素線の製造方法であって、コア及びクラッドを含む光ファイバ裸線を準備する準備工程と、前記光ファイバ裸線を樹脂層で覆うことで、前記光ファイバ素線を形成する被覆工程と、印刷ローラから前記樹脂層にインクを転写することで、前記樹脂層に前記マークを形成する形成工程と、を備え、前記被覆工程は、前記樹脂層の表面硬化度が50%~90%となるように、前記樹脂層を硬化することを含み、前記形成工程において、下記の(1)式及び(2)式を満たすマーク付き光ファイバ素線の製造方法である。
α≦22° ・・・ (1)
V≦2600μm3 ・・・ (2)
但し、上記の(1)式において、αは、前記樹脂層の表面に対する前記インクの接触角であり、上記の(2)式において、Vは、前記光ファイバ素線の軸方向に沿った長さ1μm当たりの前記インクの体積である。
【0007】
[2]上記発明において、前記形成工程において、下記の(3)式を満たしてもよい。
α≦15° ・・・ (3)
【0008】
[3]上記発明において、前記形成工程において、下記の(4)式を満たしてもよい。
V≦1600μm3 ・・・ (4)
【0009】
[4]上記発明において、前記形成工程において、下記の(5)式を満たしてもよい。
V/r≦10μm2 ・・・ (5)
但し、上記の(5)式において、rは、前記光ファイバ素線の外径である。
【0010】
[5]上記発明において、下記の(6)式を満たしてもよい。
r≦220μm ・・・ (6)
【0011】
[6]上記発明において、前記印刷ローラは、前記インクを充填可能な凹部を有しており、前記形成工程において、前記インクの粘度は、10mPa・s~50mPa・sの範囲内であってもよい。
【0012】
[7]上記発明において、前記マークの厚さは、2μm~20μmであってもよい。
【0013】
[8]本発明に係る光ファイバケーブルは、光ファイバユニットと、前記光ファイバユニットを覆うシースと、を備えた光ファイバケーブルであって、前記光ファイバユニットは、上記の製造方法により製造された複数のマーク付き光ファイバ素線を含む光ファイバケーブルである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、樹脂層を形成する際に、当該樹脂層の表面硬化度が50%~90%となるように樹脂材料を硬化すると共に、当該樹脂層上に印刷ローラを用いてマークを形成する際に、上記の(1)式及び(2)式を満たしている。これにより、光ファイバ素線に対してマークが十分に密着すると共に、マークの厚さを適切な範囲に制御することができるので、マークの削れや光ファイバ素線の断線の発生を抑制することができ、長尺の光ファイバ心線の製造の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態における光ファイバ着色素線を示す断面図である。
【
図2】
図2(a)は、本発明の実施径得体における光ファイバテープ心線を示す斜視図であり、
図2(b)は、
図2(a)のIIB-IIB線に沿った断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態における光ファイバケーブルを示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態における光ファイバ着色素線を製造する製造システムの構成を示す図である。
【
図5】
図5は、実験例3におけるインク体積Vとマーク厚dとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
先ず、本実施形態における光ファイバ着色素線30の構成について、
図1を参照しながら説明する。
図1は本実施形態における光ファイバ着色素線30を示す断面図である。
【0018】
本実施形態における光ファイバ着色素線30は、
図1に示すように、マーク付き光ファイバ素線40と、当該マーク付き光ファイバ素線40を覆う着色層31と、を備えている。そして、マーク付き光ファイバ素線40は、光ファイバ素線50と、当該光ファイバ素線50に形成された識別用のマーク41と、を備えている。さらに、光ファイバ素線50は、光ファイバ裸線(ベアファイバ)60と、当該光ファイバ裸線60を覆う樹脂層70と、を備えている。
【0019】
この光ファイバ着色素線30では、複数の光ファイバ着色素線30の着色層31の色を相互に異ならせておくことで、例えば光ファイバ着色素線30を用いて後述する光ファイバテープ心線20(
図2(a)及び
図2(b)参照)を構成した際に、当該光ファイバ着色素線30を個別に識別することが可能となっている。また、この光ファイバ着色素線30では、光ファイバ素線50にマーク41を付与しておくことで、例えば光ファイバテープ心線20を用いて後述する光ファイバケーブル1(
図3参照)を構成した際に、当該光ファイバテープ心線20を個別に識別することが可能となっている。なお、上記の着色層31の色の数には限界があるため、例えば光ファイバテープ心線20がより多くの本数の光ファイバ着色素線30を備える場合に、光ファイバ素線50に付与したマーク41によって当該光ファイバ着色素線30を個別に識別してもよい。
【0020】
光ファイバ裸線60は、コア61とクラッド62を備えている。この光ファイバ裸線60は、円形の断面形状を有していると共に、光ファイバ着色素線30の軸方向に沿って延在している。クラッド62は、コア61覆っている。コア61及びクラッド62は、石英ガラスを主成分とした材料から構成されており、必要に応じて不純物が添加されることで、これらの屈折率が調整されている。コア61の屈折率は、クラッド62の屈折率よりも高くなっている。
【0021】
樹脂層70は、プライマリ層71とセカンダリ層72から構成された2層構造を有している。プライマリ層71の外側にセカンダリ層72が位置している。このプライマリ層71及びセカンダリ層72は、上述の光ファイバ裸線60のクラッド62の外周面に樹脂材料を塗布して硬化させることで形成されている。こうしたプライマリ層71及びセカンダリ層72を構成する樹脂材料としては、紫外線硬化型樹脂材料や熱硬化型樹脂材料を例示することができる。なお、樹脂層70を構成する層の数は、上記の2層に限定されず、樹脂層70を一層構造としてもよいし、3以上の層で樹脂層70を構成してもよい。
【0022】
本実施形態では、この光ファイバ素線50は、239μm以下の直径を有している。この光ファイバ素線50が細径の光ファイバであってもよく、この場合には、光ファイバ素線の直径は、220μm以下であることが好ましい。
【0023】
以上に説明したコア61、クラッド62及び樹脂層70から構成される光ファイバ素線50には、識別用のマーク41が形成されている。このマーク41は、後述する印刷法により、光ファイバ素線50の樹脂層70にインクを転写して硬化させることで形成されている。このマーク41を構成する材料としては、紫外線硬化型樹脂材料や熱硬化型樹脂材料を例示することができる。このマーク41は、光ファイバ素線50の軸方向に沿って所定の長さを有しており、複数のマーク41は当該軸方向に沿って間欠的に並べられている(
図2(a)参照)。
【0024】
本実施形態では、このマーク41の厚さdは、2μm~21μmである(2μm≦d≦21μm)。マーク41の厚さdが2μm以上であることで、着色層31を介して当該マーク41を十分に視認することができる。また、後述するように、このマーク41を形成した後、着色層31を形成するために、マーク付き光ファイバ素線40が着色ダイス170(
図4参照)を通過するが、マーク41の厚さdが21μm以下であることで、着色層31を形成する際にマーク付き光ファイバ素線40と着色ダイス170のファイバ挿通孔との間にクリアランスを確保することができる。また、マーク41の厚さdは、20μm以下であることが好ましい(d≦20μm)。これにより、マーク付き光ファイバ素線40と着色ダイス170との間に十分なクリアランスを確保することができ、長尺の光ファイバ着色素線30を安定して製造することができる。なお、マイクロベンディングロスの発生を抑制するために、マーク41の厚さは小さい方が好ましい。
【0025】
そして、このマーク41を有するマーク付き光ファイバ素線40が着色層31で覆われることで、光ファイバ着色素線30が構成されている。この着色層31は、上記のマーク41の色とは異なる色を有していると共に、上述のように、同一の光ファイバテープ心線20を構成する他の光ファイバ着色素線30とも異なる色を有している。この着色層31は、マーク付き光ファイバ素線40の表面に樹脂材料を塗布して硬化させることで形成されている。こうした着色層31を構成する樹脂材料としては、紫外線硬化型樹脂材料や熱硬化型樹脂材料を例示することができる。
【0026】
また、この着色層31は、3~10μmの厚さtを有している(3μm≦t≦10μm)。着色層31の厚さをこの範囲内とすることで、当該着色層31を介して外部からマーク41を視認することが可能であると共に、マーク41の存在により光ファイバ着色素線30の表面への凹凸の発生を抑制することができる。
【0027】
この光ファイバ着色素線30は、250μm以下の直径を有している。上記の光ファイバ素線50が細径の光ファイバである場合には、この光ファイバ着色素線30の直径は、230μm以下であることが好ましい。
【0028】
次に、以上に説明した光ファイバ着色素線30を用いた光ファイバテープ心線20の構成について、
図2(a)及び
図2(b)を参照しながら説明する。
図2(a)は本実施形態における光ファイバテープ心線20を示す斜視図であり、
図2(b)は
図2(a)のIIB-IIB線に沿った断面図である。
【0029】
本実施形態の光ファイバテープ心線20は、いわゆる間欠固定型のテープ心線である。この光ファイバテープ心線20は、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、複数(本実施形態では12本)の上述した光ファイバ着色素線30と、連結部21と、を備えている。
【0030】
具体的には、複数の光ファイバ着色素線30は、相互に実質的に平行に延在するように、同一平面上に配置されている。そして、相互に隣り合う光ファイバ着色素線30同士が、光ファイバテープ心線20の長手方向において所定間隔を空けて連結部21で固定されていると共に、当該連結部21同士が、光ファイバテープ心線20の長手方向において相互にずれて配置されている。この連結部21は、紫外線硬化型樹脂等の樹脂材料によって構成されている。
【0031】
なお、光ファイバテープ心線20を構成する光ファイバ着色素線30の本数は、特に上記に限定されない。また、光ファイバテープ心線20の構成は、特に上記に限定されない。例えば、連結部21が、間欠的ではなく、光ファイバテープ心線20の長手方向の全域に亘って設けられていてもよい。或いは、連結部21に代えて、複数の光ファイバ着色素線30を樹脂層によって一括して被覆し、この樹脂層によって当該複数の光ファイバ着色素線30を連結してもよい。
【0032】
次に、以上に説明した光ファイバテープ心線20を用いた光ファイバケーブル1の構成について、
図3を参照しながら説明する。
図3は本実施形態における光ファイバケーブル1を示す断面図である。
【0033】
本実施形態における光ファイバケーブル1は、いわゆるスロットレス型の光ファイバケーブルである。この光ファイバケーブル1は、
図3に示すように、光ファイバユニット10と、押さえ巻き80と、シース90と、を備えている。なお、光ファイバケーブル1の構成は、スロットレス型に特に限定されず、例えば、ルースチューブ型やスロット型であってもよい。
【0034】
光ファイバユニット10は、上述した複数の光ファイバテープ心線20を撚り合わせることで形成されている。複数の光ファイバテープ心線20の撚り合わせ方の具体例としては、SZ撚りや一方向撚りを挙げることができる。
【0035】
なお、光ファイバユニット10の構成は、特に上記に限定されない、例えば、複数の光ファイバテープ心線20を束ね若しくは撚り合わせることでユニット中間体を形成し、複数の当該ユニット中間体を束ね若しくは撚り合わせることで光ファイバユニット10を構成してもよい。或いは、光ファイバテープ心線20に代えて、複数の光ファイバ着色素線30を束ね若しくは撚り合わることで光ファイバユニット10を構成してもよい。或いは、複数の光ファイバ着色素線30を束ね若しくは撚り合わることでユニット中間体を形成し、複数の当該ユニット中間体を束ね若しくは撚り合わせることで光ファイバユニット10を構成してもよい。
【0036】
この光ファイバユニット10は押さえ巻き80によって包まれている。本実施形態では、この押さえ巻き80は、押さえ巻きテープを光ファイバユニット10の外周に縦添え巻きすることで形成されている。なお、押さえ巻きテープの巻き方は、特に上記に限定されず、例えば、横巻き(螺旋巻き)であってもよい。
【0037】
シース(外被)90は、押さえ巻き80の外周を覆っている筒状の部材である。押さえ巻き80に包まれた光ファイバユニット10は、このシース90の内孔に収容されている。このシース90に、抗張力体95とリップコード96が埋設されている。
【0038】
次に、本実施形態における光ファイバ着色素線30の製造方法について、
図4を参照しながら説明する。
図4は本実施形態における光ファイバ着色素線30を製造する製造システム100の構成を示す図である。
【0039】
本実施形態における光ファイバ着色素線30の製造方法は、光ファイバ裸線60を準備する準備工程と、当該光ファイバ裸線60を樹脂層70で覆う第1の被覆工程と、当該樹脂層70にマーク41を形成するマーク形成工程と、マーク付き光ファイバ素線40を着色層31で覆う第2の被覆工程と、を備えている。
【0040】
具体的には、先ず、準備工程(線引工程/紡糸工程)において、特に図示しないが、光ファイバ母材(プリフォーム)を加熱ヒータにより加熱溶融して糸状に引き延ばすことで、コア61とクラッド62を備えた光ファイバ裸線60を形成する。この光ファイバ母材から引き出された光ファイバ裸線60は、冷却装置によって冷却される。なお、冷却装置を用いずに、自然冷却によって光ファイバ裸線60を冷却してもよい。
【0041】
次いで、第1の被覆工程において、特に図示しないが、この光ファイバ裸線60がコーティングダイを通過することで当該光ファイバ裸線60を樹脂材料で被覆した後、紫外線照射装置から紫外線を照射して樹脂材料を硬化させることで、樹脂層70が形成される。ここまでの工程(準備工程、及び、第1の被覆工程)により、光ファイバ素線50が形成される。なお、樹脂層70が熱硬化型樹脂材料で構成される場合には、紫外線照射装置に代えて、ヒータ等の加熱装置が用いられる。
【0042】
本実施形態では、この第1の被覆工程において、樹脂層70のセカンダリ層72の表面硬化度CDが50%~90%となるように(50%≦CD≦90%)、紫外線照射装置により硬化する。この表面硬化度CDは、例えば、セカンダリ層72を形成する樹脂材料を硬化させる際の当該樹脂材料に対する紫外線照射装置による紫外線の照射量により調整することができる。このように、セカンダリ層72の表面硬化度CDを50%以上とすることで、製造システム100のパスライン上で未硬化のセカンダリ層72自体が剥がれてしまうのを抑制することができる。また、セカンダリ層72の表面硬化度CDを90%以下とすることで、このセカンダリ層72の表面と、マーク41を形成するインク121(後述)との間の密着力を高めることができる。
【0043】
ここで、樹脂層70の表面硬化度CDとは、樹脂層70の最外層の表面の硬化の度合いを示す値である。例えば、樹脂層70が二層構造を有している場合には、上記のように最外側であるセカンダリ層72の表面の硬化度を意味する。一方、樹脂層70が一層のみを有している場合には、当該一層の表面の硬化度を意味する。そして、樹脂材料が硬化を開始する前の状態(例えば、紫外線を照射する前の状態)における硬化度が0%であり、樹脂材料が完全に硬化した状態(例えば、最大量の紫外線を照射した状態)における硬化度が100%である。
【0044】
次いで、マーク形成工程において、
図4に示す製造システム100が有する印刷装置110及び硬化装置160を用いて、光ファイバ素線50の樹脂層70にインク121を印刷することで、マーク41を形成する。
【0045】
この印刷装置110は、凹版印刷方式の印刷機であり、
図4に示すように、インク槽120と、供給ローラ(掻き揚げローラ)130と、印刷ローラ140と、ドクタブレード150と、を備えている。こうした印刷装置110として、特開2015-145128号公報や特開2019-181729号公報に記載されている印刷装置を用いることができる。光ファイバ素線50は、当該光ファイバ素線50がボビンに巻回された状態で、この印刷装置110に供給される。なお、光ファイバ素線50が、当該光ファイバ素線50がボビンに巻回されることなく、上述の線引工程から製造システム100に連続的に供給されてもよい。
【0046】
具体的には、インク槽120は、マーク41を形成するインク121を収容している容器(インクパン)である。このインク槽120に収容されたインク121には、供給ローラ130の下部が浸されている。供給ローラ130が矢印Aの方向に回転することで、当該供給ローラ130がインク槽120からインク121を掻き揚げて印刷ローラ140に供給する。
【0047】
この際、本実施形態では、インクの粘度IVは、10mPa・s~50mPa・sの範囲内(10mPa・s≦IV≦50mPa・s)に設定されていることが好ましい。また、インク121として、下記の(7)式を満たす接触角αを有するインクが選定されている。また、このインク121の接触角αは、下記の(8)式を満たしていることが好ましい。
【0048】
α≦22° ・・・ (7)
α≦15° ・・・ (8)
【0049】
なお、上記のインク121の接触角αは、樹脂層70のセカンダリ層72の表面に対するインク121の濡れ性を示す指標である。この接触角αと表面張力との間には下記の(9)式(ヤングの式)の関係が成立しており、この接触角αは、インク121の液滴とセカンダリ層72の表面とのなす角度である。この接触角αは、市販の接触角計を用いることで測定することができる。但し、下記の(9)式において、γSは、セカンダリ層72の表面張力であり、γLは、インク121の表面張力であり、γSLは、セカンダリ層72/インク121間の界面張力である。
【0050】
【0051】
上記の接触角αを小さくすることで、セカンダリ層72の表面に対してインク121が濡れ易くなるため、マーク41の厚さを小さくすることができる。このため、上記の(7)式のように、接触角αを22°以下とすることで、着色層31を形成する際にマーク付き光ファイバ素線40と着色ダイス170との間にクリアランスを確保することができ、断線することなく光ファイバ着色素線30を製造することができる。また、上記の(8)式のように、接触角αを15°以下とすることで、マーク付き光ファイバ素線40と着色ダイス170との間に十分なクリアランスを確保することができ、長尺の光ファイバ着色素線30を安定して製造することができる。
【0052】
印刷ローラ140には、マーク41に対応した形状を有する凹状の印刷パターン141が形成されている。この印刷ローラ140は、供給ローラ130の回転方向とは反対の矢印Bの方向に回転し、供給ローラ130からインク121を受け取る。そして、印刷ローラ140の表面に付着した余剰なインク121をドクタブレード150が掻き落とした後、印刷パターン141に充填されたインク121を樹脂層70に転写することで、光ファイバ素線50にマーク41が印刷される。この際、光ファイバ素線50は、矢印Cの方向に搬送されながら、マーク41が印刷される。
【0053】
ここで、本実施形態では、下記の(10)式を満たすように、インク121が印刷ローラ140から光ファイバ素線50の樹脂層70に転写される。また、下記の(11)式を満たすように、インク121が印刷ローラ140から光ファイバ素線50の樹脂層70に転写されることが好ましい。
【0054】
V≦2600μm3 ・・・ (10)
V≦1600μm3 ・・・ (11)
【0055】
但し、上記の(10)式及び(11)式において、Vは、光ファイバ素線50に付着したインク121の体積であり、光ファイバ素線50の軸方向に沿った長さ1μm当たりのインク121の体積(以下単に「インク体積V」とも称する)である。なお、このインク体積Vは、インク121の粘度や印刷パターン141の形状等により調整することができる。
【0056】
上記のインク体積Vを小さくすると、マーク41の厚さを小さくすることができる。
このため、上記の(10)式のように、インク体積Vを2600μm3以下とすることで、着色層31を形成する際にマーク付き光ファイバ素線40と着色ダイス170との間にクリアランスを確保することができ、断線することなく光ファイバ着色素線30を製造することができる。また、上記の(11)式のように、インク体積Vを1600μm3以下とすることで、マーク付き光ファイバ素線40と着色ダイス170との間に十分なクリアランスを確保することができ、長尺の光ファイバ着色素線30を安定して製造することができる。
【0057】
また、本実施形態では、光ファイバ素線50の直径rとインク体積Vとが、下記の(12)式を満たしていることが好ましい。特に、光ファイバ素線50が細径の光ファイバである場合には、当該光ファイバ素線50の曲率半径が小さくなるため、光ファイバ素線50の直径rがマーク41の厚さに与える影響が大きくなる。これに対し、下記の(12)式を満たしていることで、光ファイバ素線50の直径rを考慮して、インク体積Vを制御することができる。
【0058】
V/r≦10μm2 ・・・ (12)
【0059】
印刷装置110によりマーク41が印刷された光ファイバ素線50は、硬化装置160により照射された紫外線によりマーク41が硬化する。ここまでの工程(準備工程、第1の被覆工程、及び、マーク形成工程)により、マーク付き光ファイバ素線40が形成される。なお、マーク41が熱硬化型樹脂材料で構成される場合には、紫外線照射装置に代えて、ヒータ等の加熱装置が用いられる。
【0060】
次いで、第2の被覆工程において、
図4に示す製造システム100が有する着色ダイス170及び硬化装置180を用いて、マーク付き光ファイバ素線40を着色層31で覆う。
【0061】
具体的には、先ず、マーク付き光ファイバ素線40が着色ダイス170を通過することで、当該マーク付き光ファイバ素線40を樹脂材料で被覆する。この際、マーク付き光ファイバ素線40は、着色ダイス170が有するファイバ挿通孔(不図示)を通過するが、上記の(7)式及び(10)式を満たしていることで、マーク付き光ファイバ素線40と着色ダイス170との間にクリアランスを確保することができ、断線することなく光ファイバ着色素線30を製造することができる。また、上記の(8)式或いは(11)式を満たしていることで、マーク付き光ファイバ素線40と着色ダイス170との間に十分なクリアランスを確保することができ、長尺の光ファイバ着色素線30を安定して製造することができる。
【0062】
次いで、硬化装置180から照射された紫外線により当該樹脂材料を硬化させることで、着色層31が形成される。これにより、光ファイバ着色素線30が形成される。なお、着色層31が熱硬化型樹脂材料で構成される場合には、紫外線照射装置に代えて、ヒータ等の加熱装置が用いられる。
【0063】
この第2の被覆工程の後、特に図示しないが、光ファイバ着色素線30がテープ化装置に連続的に供給されることで、上述の光ファイバテープ心線20が形成される。なお、第2の被覆工程の後に光ファイバ着色素線30をボビンに一旦巻回した後に、当該ボビンをテープ化装置に供給してもよい。
【0064】
以上のように、本実施形態では、セカンダリ層72を形成する際に、当該セカンダリ層72の表面硬化度が50%~90%となるように樹脂材料を硬化すると共に、当該樹脂層70上に印刷ローラ140を用いてマーク41を形成する際に、上記の(7)式及び(10)式を満たしている。これにより、光ファイバ素線50に対してマーク41が十分に密着すると共に、マーク41の厚さを適切な範囲に制御することができるので、マーク41の削れや光ファイバ素線50の断線の発生を抑制することができ、長尺の光ファイバテープ心線20の製造の安定化を図ることができる。
【0065】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例0066】
以下に、本発明を具体化した実験例1~3を示して、本発明の効果について説明する。
【0067】
<実験例1>
実験例1では、
図4に示す製造システムを用いて、12本の光ファイバ着色素線を備えた光ファイバテープ心線である5個の試料(試料1~5)を作製した。この際、光ファイバ着色素線が備える光ファイバ素線として、193μmの直径rを有する光ファイバ素線を用いた。また、プライマリ層及びセカンダリ層を構成する樹脂材料として、紫外線硬化型のウレタンアクリレート系樹脂を用いた。また、マークを構成するインクとして、紫外線硬化型のウレタンアクリレート系樹脂を用い、インク体積Vが1600μm
3となるように印刷装置によりインクを光ファイバ素線の樹脂層に転写した。また、マークを形成するインクとして、セカンダリ層に対するインクの接触角αが15°となるインクを採用した。また、個々のマークの光ファイバ素線の軸方向に沿った長さを25mmとし、当該軸方向に沿って相互に隣り合うマーク同士の間隔を150mmとした。さらに、製造システムにおける光ファイバ素線の搬送速度(線速)を、130m/min~1200m/minとした。
【0068】
この実験例1では、試料1~5について、光ファイバ素線のセカンダリ層を形成する際の紫外線照射量を調整することで、下記の表1に示すように、当該セカンダリ層の表面硬化度を異ならせた。そして、試料1~5について、光ファイバ着色素線におけるマークの削れの有無を目視により確認した。
【0069】
この実験例1では、フーリエ変換赤外線分光光度計(FTIR)を用いて、以下のような手順でセカンダリ層の表面硬化度の測定を行った。すなわち、先ず、光ファイバ素線から樹脂層を片刃カミソリで削ぎ取り、セカンダリ層の表面側の極表面にATR素子を当て、吸収スペクトルを測定した。そして、アクリレートに含まれる反応に関与しないエステル基に起因する不変の第1のピーク(波数:1736cm-1)の高さに対する、アクリレートの重合反応によって消失する二重結合に起因して変化する第2のピーク(波数:1406cm-1付近)の高さの比率([第2のピークの高さ]/[第1のピーク高さ])(以下単に「ピーク高さ比率」とも称する)を規格化した。この際、セカンダリ層を形成することとなる液体状態の樹脂材料のピーク高さ比率を表面硬化度「0%」とし、飽和値まで紫外線を照射した状態のセカンダリ層のピーク高さ比率の表面硬化度「100%」として、実際のセカンダリ層の表面硬化度を求めた。なお、この測定の際の条件としては、分解能が2cm-1以下であり、積算回数が128回以上である。
【0070】
なお、第2のピークとして、反応に起因して変化する他の波数のピークを用いてもよい。例えば、この実験例1では、反応の進行に従って強度が減少するピークを第2のピークとして用いたが、反応の進行に伴って強度が増加するピークを第2のピークとして用いてもよい。この場合にも、この第2のピークの高さに対する第1のピーク高さの比率を規格化することで、セカンダリ層の表面硬化度を測定する。
【0071】
【0072】
この実験例1では、上記の表1に示すように、セカンダリ層の表面硬化度が95%である試料5の場合、光ファイバ着色素線にマークの削れを確認することができ、製造システムのパスライン上において当該削れたマークの小片が確認された。これは、セカンダリ層の表面硬化度が高い程、マークとセカンダリ層との間での共有結合の割合が少なくなり、マークとセカンダリ層との密着力が弱いためと考えられる。
【0073】
また、セカンダリ層の表面硬化度が30%である試料1の場合、セカンダリ層が未硬化であったため、製造ラインのパスライン上で樹脂層自体が剥がれてしまい、十分な品質の光ファイバ着色素線を製造することができなかった。
【0074】
これに対し、セカンダリ層の表面硬化度が50%~90%の範囲内である試料2~4の場合、樹脂層が剥がれたりマークが削れてしまうことはなかった。
【0075】
<実験例2>
実験例2では、
図4に示す製造システムを用いて、12本の光ファイバ着色素線を備えた光ファイバテープ心線である4個の試料(試料6~9)を作製した。この際、全ての試料6~9について、セカンダリ層の表面硬化度を同一した点と、インクの接触角αを異ならせた点とを除いて、上述の実験例1の試料1~5と同様の条件で作製した。
【0076】
この実験例2では、試料6~9について、インクの粘度を調整することで、下記の表2に示すように、当該インクの接触角αを異ならせた。そして、試料6~9について、マークの厚さdを測定した。
【0077】
なお、インクの接触角αとして、セカンダリ層を構成する樹脂材料と同じ樹脂材料で平らなシート片を形成し、当該シート片上にインクを滴下して、接触角計を用いてシート片上におけるインクの接触角を測定した値を用いた。また、このマークの厚さdは、マークにおいて最も厚い部分の厚さを測定し、光ファイバテープ心線を構成する12本の光ファイバ着色素線のマークの厚さを平均することで算出した。
【0078】
【0079】
この実験例2では、上記の表2に示すように、インクの接触角αが30°である試料9の場合、マークの厚さが27.0μmであり、光ファイバ素線と着色ダイスとの間のクリアランスよりも大きくなってしまい、着色ダイスで光ファイバ素線の断線が多発したため、十分な品質の光ファイバ着色素線を製造することができなかった。
【0080】
なお、着色層の厚みは一般的に最大10μmであり、着色ダイスのファイバ挿通孔と光ファイバ素線との上記のクリアランスは最大でも25μmである。この最大クリアランスは、着色層2層分の厚みである20μm(=10μm×2)に、マージン(余裕代)として5μmを加算した値である。
【0081】
また、インクの接触角αが22°である試料8の場合、マークの厚さが20.3μmであり、上記のクリアランスよりも小さいため、マークが削れることはなく光ファイバ着色素線を製造することができた。しかしながら、光ファイバ素線の線ブレの影響により、着色ダイスを通過する際に断線が生じる場合があり、長尺の光ファイバ着色素線の製造の安定性が劣った。
【0082】
これに対し、インク接触角αが15°以下である試料6及び試料7の場合には、マークの厚さが20μm以下であり、上記のクリアランスよりも十分に小さいため、着色ダイスで断線が生じることがなく、長尺の光ファイバ素線を安定して製造することができた。
【0083】
<実験例3>
実験例3では、先ず、
図4に示す製造システムを用いて、12本の光ファイバ着色素線を備えた光ファイバテープ心線である16個の試料(試料10~25)を作製した。この際、16個の試料の中で、4個の試料(試料10~13)については、光ファイバ着色素線が備える光ファイバ素線として、239μmの直径rを有する光ファイバ素線を用いた。また、他の6個の試料(試料14~19)については、光ファイバ着色素線が備える光ファイバ素線として、193μmの直径rを有する光ファイバ素線を用いた。さらに、残りの6個の試料(試料20~25)については、光ファイバ着色素線が備える光ファイバ素線として、160μmの直径rを有する光ファイバ素線を用いた。
【0084】
そして、いずれの試料(試料10~25)についても、セカンダリ層の表面硬化度を同一した点と、上記のように光ファイバ素線の直径rを異ならせた点と、インク体積Vを異ならせた点とを除いて、上述の実験例1の試料1~5と同様の条件で作製した。なお、インクの濡れ性を調整するために、試料16~25におけるセカンダリ層を構成する樹脂材料として、試料10~15におけるセカンダリ層を構成する樹脂材料とは異なるものを用いた。
【0085】
そして、試料10~25について、印刷ローラの印刷パターンの形状を調整することで、
図5に示すように、インク体積Vを300μm
3~2250μm
2の範囲内で変化させ、マークの厚さdを測定した。この
図5から、光ファイバ素線の直径rが小さい(光ファイバ素線の曲率が大きい)ほど、マークの厚さdが大きくなる傾向があることが分かる。なお、この
図5は、実験例3におけるインク体積Vとマークの厚さdとの関係を示すグラフである。
【0086】
また、上記の傾向を検証するために、マーク体積Vを幾何学的に数式化した。この際、マーク体積Vは、上述のように、光ファイバ素線50の軸方向に沿った長さ1μm(単位長さ)当たりのインクの体積であるので、
図1に示すマーク41の断面積Sを算出した。また、
図1に示すように、光ファイバ素線50の断面形状を真円に近似すると共に、当該光ファイバ素線50上のマーク41の断面形状を楕円の一部に近似した。その結果を、下記の(13)式及び(14)式に示す。なお、以下の(13)式~(18)式は、光ファイバ素線50の中心CP(下記の(15)式で示される真円C
1及び下記の(16)式で示される楕円C
2の両方の中心CP)を原点としたXY平面座標系に従う。
【0087】
【0088】
なお、上記の(13)式におけるf(x、y)は、光ファイバ素線50の外周を示す真円C1の関数であり、下記の(15)式で示される。また、上記の(13)式におけるg(x、y)は、マーク41の外縁と重なる楕円C2の関数であり、下記の(16)式で示される。また、上記の(13)式におけるθは、直線L1と直線L2との成す角度である。ここで、直線L1は、中心CPと交点IP1(-x0,y0)とを通過する直線であり、直線L2は、当該中心CPと交点IP2(x0,y0)とを通過する直線であり、交点IP1,IP2は、下記の(15)式の真円C1と(16)式の楕円C2との交点である。
【0089】
【0090】
また、上記の(14)式におけるtanA及びtanBは、下記の(17)式及び(18)式で示される。下記の(17)式におけるAは、直線L3と直線L4との成す角度であり、下記の(18)式におけるBは、直線L3と直線L5との成す角度である。ここで、直線L3は、交点IP1,IP2を通過する直線であり、直線L4は、(15)式の真円C1上の交点IP1における接線であり、直線L5は、(16)式の楕円C2上の交点IP1における接線である。
【0091】
【0092】
上記の(13)式及び(14)式によれば、インクの断面積Sとインクの接触角αからマークの厚さdを算出することができる。従って、インク体積Vとインクの接触角αを調整することで、マークの厚さdを調整することが可能であると共に、インク体積Vを大きくするほどマークの厚さdも大きくなる傾向があることが分かる。
【0093】
さらに、上記の(13)式及び(14)式に基づいて、
図5に示す実測値に対してフィッテイングを行った。その結果、
図5においてフィッティング直線FL
1に示すように、光ファイバ素線の直径が239μmである試料10~13については、接触角αを12°とした場合に、実測値に近い直線を得ることができた。また、
図5においてフィッティング直線FL
2,FL
3に示すように、光ファイバ素線の直径が193μm或いは160μmである試料14~25については、接触角αが15°とした場合に、実測値に近い直線を得ることができた。
【0094】
さらに、この実験例3では、
図4に示す製造システムを用いて、12本の光ファイバ着色素線を備えた光ファイバテープ心線である12個の試料(試料26~37)を作製した。12個の試料の中で、4個の試料(試料26~29)については、光ファイバ着色素線が備える光ファイバ素線として、239μmの直径rを有する光ファイバ素線を用いた。また、他の4個の試料(試料30~33)については、光ファイバ着色素線が備える光ファイバ素線として、193μmの直径rを有する光ファイバ素線を用いた。さらに、残りの4個の試料(試料34~37)については、光ファイバ着色素線が備える光ファイバ素線として、160μmの直径rを有する光ファイバ素線を用いた。
【0095】
また、いずれの試料26~37についても、セカンダリ層の表面硬化度を同一した点と、上記の光ファイバ素線の直径rを異ならせた点と、インク体積Vを異ならせた点とを除いて、上述の実験例1の試料1~5と同様の条件で作製した。
【0096】
そして、試料26~37について、印刷ローラの印刷パターンの形状を調整することで、下の表3に示すように、インク体積Vを600μm3~3600μm2の範囲内で変化させ、マークの厚さdを測定した。
【0097】
【0098】
上記の表3に示すように、インク体積Vが3600μm3である試料29、試料33、及び、試料37では、いずれもマークの厚さdが25μmを超えており、光ファイバ素線と着色ダイスとの間のクリアランスよりも大きくなってしまい、着色ダイスで光ファイバ素線の断線が多発したため、十分な品質の光ファイバ着色素線を製造することができなかった。なお、このクリアランスは、実験例2でも述べたように、25μmである。
【0099】
また、インク体積Vが2600μm3である試料28、試料32、及び、試料36では、いずれもマークの厚さdが20~25μmの範囲内であり、上記のクリアランスよりも小さいため、マークが削れることはなく光ファイバ着色素線を製造することができた。しかしながら、光ファイバ素線の線ブレの影響により、着色ダイスを通過する際に断線が生じる場合があり、長尺の光ファイバ着色素線の製造の安定性が劣った。
【0100】
これに対し、インク体積Vが1600μm3以下である試料26、試料27、試料30、試料31、試料34、及び、試料35では、いずれもマークの厚さdが20μm以下であり、上記のクリアランスよりも十分に小さいため、着色ダイスで断線が生じることがなく、長尺の光ファイバ素線を安定して製造することができた。また、上記の表3より、インク体積Vが大きいほど、マークの厚さdが大きくなる傾向があることが分かる。
【0101】
さらに、上記の表3に示すように、光ファイバ素線の直径rに対するインク体積Vの比(V/r)が10以下の場合に、光ファイバ素線が細径の光ファイバである場合にもマークの厚さを適切にすることができ、長尺の光ファイバ素線を安定して製造することができた。