(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110023
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】こんにゃく
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20240807BHJP
【FI】
A23L19/00 102Z
A23L19/00 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014322
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】591032703
【氏名又は名称】群馬県
(72)【発明者】
【氏名】田島 創
(72)【発明者】
【氏名】吉野 功
(72)【発明者】
【氏名】瀬賀 悟史
(72)【発明者】
【氏名】渡部 貴志
(72)【発明者】
【氏名】大和 あゆみ
【テーマコード(参考)】
4B016
【Fターム(参考)】
4B016LE03
4B016LK11
4B016LQ04
(57)【要約】
【課題】有効成分及び凝固剤として杜仲を含むこんにゃくの食材がなかった。
【解決手段】グルコマンナンと、水と、杜仲を含む非アルカリ性凝固剤を混練する第一の工程と、混練物を養生する養生工程と、養生後に加熱する加熱工程と、を備えるこんにゃくの製造方法とこの工程で製造されたこんにゃくで、酸性度が11以下でも歯ごたえがしっかりしたこんにゃくを提供することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
杜仲を含むこんにゃく製造用の非アルカリ性凝固剤。
【請求項2】
グルコマンナンと、水と、凝固剤を混合した後に加熱凝固させる工程を有するこんにゃくの製造方法において、グルコマンナンと、水と、前記非アルカリ性凝固剤を混練する第一の工程と、
該第一の工程により作製した第1の混練物を養生する養生工程と、
養生後の前記第1の混練物を加熱する加熱工程と、
を備えることを特徴とするこんにゃくの製造方法。
【請求項3】
前記養生工程の後に、養生後の前記第1の混練物にアルカリ性凝固剤を含む溶液を加えて更に混練し第2の混練物を作製する第二の工程と、
該第二の工程にて作製したアルカリ性凝固剤入りの前記第2の混練物を加熱する加熱工程と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載のこんにゃくの製造方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のこんにゃくの製造方法を用いて製造したこんにゃくであって、該こんにゃく全体の重量を100としたとき、杜仲を0.4重量%以上4.0重量%以下含み、酸性度がpH5.8以上11.0以下であることを特徴とするこんにゃく。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、こんにゃく製造用の凝固剤と、この凝固剤を用いたこんにゃくの製造方法と、この製造方法を使用して得られたこんにゃくに関する。
【背景技術】
【0002】
植物由来食材として、日本国では古くからこんにゃくを主原料とした食品が食されている。近年、健康に対する関心の高まりから、このこんにゃくを主原料とした食品に注目が集まっている。
【0003】
この食品としては、例えば食感が肉類に近いものも好まれている。肉類としては、特に牛肉に近いものなどが、所謂プラントベースミートとして食されている。
【0004】
一方、こんにゃくは、こんにゃく芋からコンニャクマンナンとも呼ばれるグルコマンナンを抽出し、これに水及びアルカリ性の凝固剤を加え、加熱し凝固することで食品である食感として弾力を持ったこんにゃくが出来る。
【0005】
例えば特許文献1には、こんにゃく製造用アルカリ性凝固剤について記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、酸性液に浸漬してこんにゃくを含むパン生地の製造方法について記載されているが、このこんにゃくのゲル化には、やはりアルカリ性凝固剤を加えることが記載されている。
【0007】
このように、これまでは、こんにゃくの凝固には、アルカリ性の凝固剤が用いられており、アルカリ凝固剤としては、水酸化カルシウムや炭酸ナトリウムなどが用いられていた。
【0008】
このため、従来のこんにゃくは、アルカリ性を示すことが一般的であった。こんにゃくの酸性度としては、例えば、特許文献1にもあるようにpH(酸性度と記すこともある)で11~12.3程度であることが多く、pHが8から9程度では、グルコマンナンが水に分散している所謂ゾルの状態からゲルの状態に成りづらく、こんにゃくとしての形状を保持するのが難しかったり、食感がじゃりじゃりしていて食べづらいなど問題となっていた。
【0009】
こんにゃくのpHがアルカリ性であることは微生物の繁殖にも影響を与えるため、こんにゃくが腐敗しないといった好適な性質である一方、発酵食品に用いづらいなどの課題もあった。
【0010】
また、上述したように、近年の健康志向の高まりから、こんにゃくを用いた食品の需要が高まっている。一方、従来のこんにゃくは、酸性度が11以上であり高いアルカリ性を示す食材の一つであることから、酸性度がより中性に近いこんにゃくが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2016―198051号公報
【特許文献2】特開2016-174577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように従来のこんにゃくでは、酸性度として、高いアルカリ性を示すことや、凝固するために用いる水酸化カルシウムなどを過剰に摂取する場合には課題があった。
【0013】
このことから、アルカリ性を示すにしても、より低濃度の水酸化カルシウムなどで凝固する凝固剤や、そもそもアルカリ性を示さないこんにゃくが求められていた。
【0014】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、中性から酸性を示す非アルカリ性凝固剤と、この非アルカリ性凝固剤を用いたこんにゃくの製造方法と、この製造方法により製造したこんにゃくと、を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成するために、鋭意検討した結果、植物の一つである杜仲と、精製したコンニャク粉(以降、コンニャク粉と記したものは、この精製したコンニャク粉を指し、グルコマンナンやコンニャクマンナンとも称す)と、水とを混合することでアルカリ性の凝固剤の使用量を抑えたこんにゃくを製造できることを確認し、本発明をなすに至った。
【0016】
すなわち本発明に係る第一の手段は、こんにゃく製造用の凝固剤であり、杜仲を含むこんにゃく製造用の非アルカリ性凝固剤である。
【0017】
この第一の手段によれば、杜仲を含む非アルカリ性凝固剤をこんにゃく製造に用いることができ、血圧を下げる効果を有するゲニポシド酸やクロロゲン酸、アスペルロシドなど、杜仲に含まれる有効成分をこんにゃくに含ませることができる利点がある。
【0018】
本発明に係る第二の手段は、こんにゃくの製造方法であり、コンニャク粉と水と凝固剤を混合した後に加熱凝固させる工程を有するこんにゃくの製造方法において、コンニャク粉と水に杜仲を含む非アルカリ性凝固剤を混練する第一の工程と、この第一の工程により作製した第1の混練物を養生する養生工程と、養生後の第1の混練物を加熱する加熱工程と、を有することを特徴とするこんにゃくの製造方法である。
【0019】
この第二の手段によれば、杜仲と、コンニャク粉と、水分のみからなるこんにゃくの製造方法であり、アルカリ性凝固剤を使用した場合に比べて、酸性度が中性に近いこんにゃくを製造できる利点がある。
【0020】
本発明に係る第三の手段は、こんにゃくの製造方法であり、前述の養生工程の後に、養生後の第1の混練物にアルカリ性凝固剤を含む水溶液を加えて混練する第二の工程を更に備え、第二の工程後に作製したアルカリ性凝固剤入りの第2の混練物を加熱する加熱工程と、を有することを特徴とするこんにゃくの製造方法である。
【0021】
この第三の手段によれば、アルカリ性凝固剤を更に少量加えることで、杜仲を含んだ非アルカリ性凝固剤だけを加えたときに比べ、こんにゃくの固さを容易に調整できる利点がある。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、非アルカリ性凝固剤として杜仲を含むことで、アルカリ凝固剤を含まなくてもこんにゃくを製造でき、更に、アルカリ凝固剤とを適量含ませることでこんにゃくの固さを制御できるこんにゃくの製造方法及びこれらの製造方法により杜仲に含まれる有効成分を好適に含むこんにゃく(こんにゃく混合体)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の杜仲を含む非アルカリ性凝固剤を用いた第1の実施形態を示すこんにゃくの製造方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の杜仲を含む非アルカリ性凝固剤と、アルカリ性凝固剤とを用いた第2の実施形態を示すこんにゃくの製造方法のフローチャートである。
【
図3】本発明の第1の実施形態において作製したこんにゃく(こんにゃく混合体)の外観写真である。
【
図4】本発明の第2の実施形態において作製したこんにゃく(こんにゃく混合体)の外観写真である。
【
図5】本発明の第1の実施形態、及び第2の実施形態において作製したこんにゃくの酸性度(pHと記すこともある)に対する固さを示す圧縮最大荷重(N)のグラフである。
【
図6】杜仲葉から採取した白色の粘性物質に対して実施した赤外分光分析により得られた赤外線吸収スペクトルの図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明につき、図を用いてより詳細に説明する。
【0025】
本発明の第1の実施形態のこんにゃくの製造方法を示す工程のフローチャートを
図1に示す。まず、第一の工程は所定の量の水に少なくともコンニャク粉を加えていわゆるコンニャク糊を作製する。このコンニャク糊に、非アルカリ性凝固剤として杜仲を添加して混練して第1の混練物を作製する工程である。
その後、この混練物を静置し、養生する養生工程を行う。更に、養生後の第1の混練物を加熱する加熱工程によりこんにゃく(こんにゃく混合物)を製造する。
【0026】
第一の工程の混練物を製造する工程では、水分と、コンニャク粉と、杜仲と、を容器に入れた後、混練するための機械で混練することもできるし、調理器具を使って手で混練することも好ましくできる。また混練の順番は、コンニャク粉と水とを先に混練し、その後杜仲を入れることも好ましくできるし、コンニャク粉と、水と、杜仲と、を加えた後に混練することも好ましくできる。この第一の工程の時間は、特に限定されないが、全体が混ざることが好ましい。
【0027】
第一の工程に用いる水の重量は、コンニャク粉の重量1に対し、水の量が重量として25以上50以下が好ましく、より好ましくは27以上45以下が好ましく、更に好ましくは30以上45以下が好ましい。水の重量が多すぎるとこんにゃくとしての食感が保てない場合があり、水の重量が少なすぎるとこんにゃくがじゃりじゃりとした食感となる場合がある。
【0028】
第一の工程に用いる杜仲の重量は、コンニャク粉の重量1に対し、杜仲の重量が0.03以上2以下が好ましく、0.1以上1.5以下がより好ましい。杜仲の重量がこの範囲であれば、好ましく食せるこんにゃく(こんにゃく混合体)を作製することができる。
【0029】
また、第一の工程の後の養生工程の静置時間(養生時間)は特に限定されないが、1分以上60分程度が好ましい。短すぎると、コンニャク粉と、杜仲と、水分と、がなじまない場合があり、長すぎると水分が蒸発する場合があるが、水分が蒸発しないように容器内に保存することで長時間の養生も可能となる。
【0030】
更に、養生工程の後に行う加熱工程は、沸騰した湯に養生した第1の混練物を入れて茹でたり、容器に入れ蒸したり、密封容器に入れ加熱するいわゆるレトルト食品をつくる様に加熱することも好ましくできる。
【0031】
第1の実施形態により作製するこんにゃくの形状は、任意に選択することができるが、柔らかい食感のため、球状などにすると特に好ましい。
【0032】
なお、ここで用いるコンニャク粉は、コンニャク芋の粉末をアルコールで精製したものが好ましく用いられる。コンニャク粉については、市販されているものやコンニャク芋を栽培し、このコンニャク芋から精製したものも好ましく用いることができる。
【0033】
また、杜仲は、杜仲葉や杜仲の樹皮を用いることが出来る。杜仲葉に含まれる酵素によりこの葉や樹皮に含まれるゲニポシド酸、クロロゲン酸及びアスペルロシドなどの有効成分が分解される場合があるため、この酵素を失活するために加熱処理や加熱乾燥することも好ましい。また、風乾や加熱しながら乾燥させた杜仲も好ましく用いることができる。この加熱処理の温度と時間は、この酵素を失活できれば良いが、60℃以上100℃以下で10分程度行えば好適である。加熱方法は、熱風を当てたり、密閉容器に入れ温水にこの密閉容器ごと浸漬し内容物の温度が所定の温度になるまで加熱したり、電子レンジなどのマイクロ波を利用した加熱を好ましく用いることができる。
【0034】
杜仲葉は、日本国で栽培した場合には、5月から11月ころまで収穫することができるが、収穫時期によりこの杜仲の有効成分であるゲニポシド酸の含有量に違いがあり、6月から7月ころにゲニポシド酸の含有量が高くなる傾向があることから、ゲニポシド酸を多く含ませる場合には、この時期に収穫した杜仲葉を好ましく選択することができる。
【0035】
杜仲葉には、葉の部分と脈の部分があるが、それぞれを用いることができる。今回こんにゃくの製造に用いる非アルカリ性凝固剤として利用する際の杜仲葉の採取後の期間、いわゆる保存期間については特に限定されないが、採取してからの期間が短いものが採取してからの期間が長いものに比べこのこんにゃくの固さが増す傾向にある。
【0036】
こんにゃくに入れる杜仲の大きさについては特に限定されないが、粉末状に粉砕したものや食感を残すために5mm程度に切断したものを好ましく用いることができる。
【0037】
水については、飲料水として利用できるものであれば問題が無ければ特に限定されないが、酸性度としてpH5.5以上pH8以下の水が好ましく用いられ、より好ましくは、pH6以上7.5以下がより好ましく用いられる。
【0038】
コンニャク粉、杜仲、水は、市販されているものを用いてもいいし、自身で栽培、収穫、採取したものも勿論好ましく用いることが出来る。杜仲葉は、薬局や漢方薬局などで、いわゆる杜仲茶として販売されているものを用いることもできる。杜仲を栽培する際には、苗木が販売されているため、これを購入し、地植えや植木鉢を用いて栽培することができる。
【0039】
図3に、本発明の第1の実施形態のこんにゃくの製造方法を用いて製造したこんにゃく(こんにゃく混合体)1の写真を示す。半透明乳白色でゲル状に固まったこんにゃくゲル部1aの内部には細かく裁断した杜仲2が分散している。なお、ここで杜仲2は5mm程度の長さに切断して含有しているが、杜仲2はこれに限らず更に細かく裁断されたり、粉末状になっていても良い。
【0040】
一般に、このこんにゃくの製造には、アルカリ性の凝固剤が好ましく用いられるが、杜仲にもこんにゃくの凝固作用があることを今回確認したため、非アルカリ性凝固剤として杜仲と、アルカリ性の凝固剤とを併用して用いることが考えられる。この非アルカリ性凝固剤として杜仲と、アルカリ性凝固剤とを併用して用いるこんにゃくの製造方法を本発明の第2の実施形態として、説明する。
【0041】
本発明の第2の実施形態のこんにゃくの製造方法を示す工程のフローチャートを
図2に示す。
【0042】
第1の実施形態との違いは、第一の工程と養生工程までは同一であるが、養生後の第1の混練物に対し、アルカリ性凝固剤を含む水溶液を加えて更に混練する第二の工程を設けて第2の混練物を作製し、作製したアルカリ性凝固剤入りの第2の混練物を加熱する加熱工程を行うこんにゃく(こんにゃく混合物)の製造方法としたことである。
【0043】
アルカリ性凝固剤としては、水酸化カルシウムや炭酸ナトリウムなどの一般に食品添加物としてこんにゃくを製造する際に用いられるアルカリ性を示す物質であれば好ましく用いることもできる。このアルカリ性凝固剤を加える場合には、このアルカリ性凝固剤と、水と、を混ぜた後に加えることも好ましくできる。更にアルカリ性凝固剤としては、炭酸ナトリウムを含む資材、水酸化カルシウムを含む資材などが好ましく用いられる。
【0044】
このアルカリ性凝固剤を添加する場合の添加量については、水酸化カルシウムの場合は、コンニャク粉の重量1に対し重量で0.2以上2以下が好ましく、重量で0.3以上1.5以下がより好ましく、0.3以上0.5以下がさらに好ましい。また、炭酸ナトリウムの場合は、コンニャク粉の重量1に対し重量で0.2以上6以下が好ましく、重量で0.3以上4.5以下がより好ましく、0.3以上1.5以下がさらに好ましい。
【0045】
アルカリ性凝固剤を加えてこんにゃくを製造する場合、杜仲をこんにゃくに加えることで、杜仲を加えない場合に比べ酸性度が中性に近づく傾向が認められるが、このアルカリ性を示す物質の添加量がコンニャク粉1に対し2を超えるとこんにゃくの酸性度が11を超える場合がある。大豆や海藻類などのアルカリ性食材の添加量については特に限定されないが、アルカリ性食材の添加量が多すぎるとこんにゃくとしてまとまりがなくなり形状が崩れやすくなる場合がある。
【0046】
第2の実施形態の第二の工程でアルカリ性凝固剤を加えると、杜仲から溶出したクロロゲン酸により混練物が緑色から茶色に変色する。(
図4参照)このことにより、杜仲から溶出した有効成分が混練物全体に広がっていることや、混練の状態を確認することも好ましくできる。
【0047】
この第2の実施形態により作製するこんにゃくの形状は、任意に選択することができるが、柔らかい食感の場合には、球状などにすると特に好ましい。また、加えるアルカリ性凝固剤と、杜仲との量により、固さを任意に変えられるため、糸状に成形したいわゆる糸こんにゃくであったり、立方体や直方体や球状など、用途によりさまざまに変更することも好ましくできる。
【0048】
更に、この第2の実施形態により作製するこんにゃくは、上述したように加えるアルカリ性凝固剤の量により固さを任意に変更できたり、杜仲を加えたことによりこんにゃくの酸性度を中性に近い性質にできるため、例えば外科手術練習用の模擬臓器や、やはり外科手術練習用の血管、皮膚などをこのこんにゃくで作製することも好ましくできる。その際は、加える杜仲を粉末状にしてこれら練習用として実物に合わせた固さにすることが好ましい。こんにゃくの酸性度が中性に近いため、外科手術の練習をする際に、練習者の皮膚への影響を低減できるため好ましい。
【0049】
この第1及び第2の実施形態により作製するこんにゃくは、杜仲が存在することで、上述したように加えるアルカリ性凝固剤の量によりpHを制御して固さを任意に変更できる。
図5に示す様に、pH5.8~pH11 の範囲において、固さに相当する25%圧縮変形時の最大荷重のpHに対する直線の傾きは、約0.32であり、このときの相関係数は、0.98である。アルカリ性凝固剤の添加によるpHの制御により、このように、こんにゃくの固さを任意に制御できる。一方、杜仲を加えない従来のこんにゃくでは、pH8~pH11のアルカリ性領域では相関係数0.99の良い相関が認められたものの、その直線の傾きは、0.081であった。また、pH7程度中性域においては、十分な固さは得られず、この直線にものらないことを確認した。
【0050】
本発明の第2の実施形態のこんにゃくの製造方法により作製したこんにゃくのpHは、6以上11以下が好ましく、6.5以上11以下がより好ましく、7以上9以下が更に好ましい。pHが7以上9以下の場合には、pHによる抗菌作用はpHが高い場合に比べ低下するが、このこんにゃくを漬物にするなど、発酵食品などに用いることが出来るため、好ましい。また、このこんにゃくを長期間保存するため、何らかの抗菌作用を施す必要がある場合には、食品添加物として規制の範囲内であれば、好ましく用いることができる。このこんにゃくのpHが11より高い場合にもゲル状の製品として利用できるが、抗菌性が増すなど生物親和性が低下する傾向にある。
【0051】
図4に、本発明の第2の実施形態のこんにゃくの製造方法を用いて製造したこんにゃく(こんにゃく混合物)10の写真を示す。
前述したように、第二の工程でアルカリ性凝固剤を加えると、杜仲2から溶出していたクロロゲン酸により混練物が緑色から茶色に変色する。この結果、こんにゃくゲル部10aは全体的に茶色に変色し、杜仲から溶出した有効成分がこんにゃく(こんにゃく混合体)10の全体に広がっていることが分かる。
【実施例0052】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。しかし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、実施例1~4は、非アルカリ性凝固剤として杜仲を添加して混練したものであり、実施例1は、第1の実施形態、実施例2~実施例4は第2の実施形態の方法にて作製したものである。また、比較例1~5は、杜仲を添加せず混練したものであり、比較例1は所謂コンニャク糊、比較例2~5は従来のこんにゃくの製造方法を模して作製したものである。
【0053】
<実施例1>(コンニャク粉と、杜仲と、水とを用いた第1の実施形態の実施例)
コンニャク粉として、グルコマンナン30グラム(gと記す場合がある)を用いた。杜仲は、発明者が栽培した杜仲の木から7月に採取した杜仲葉を袋に入れて密閉した後、温度70℃の湯に2分間浸漬したものを破砕して、杜仲粉砕物としたものを5g用いた。第一の工程として、このコンニャク粉と杜仲粉砕物とを混合し混合物としたものに、更に水1.2kgを入れて5分間混練し、第1の混練物を得た。養生工程として、この混練物を60分間静置して養生した。この養生した第1の混練物を5等分し、試料名として、試料実1-1から試料実1-5とした試料をそれぞれ作製した。試料実1-2と試料実1-2は、沸騰した湯に入れて10分間加熱した。試料実1-3と試料実1-4は、耐熱用容器に入れ、レトルト食品を製造する加熱装置内で加熱処理した。加熱時間は、60分とした。冷却後、この実施例1のこんにゃくについて、酸性度、食感、固さ及びゲル化の有無について評価した。なお、試料実1-5は予備のため保存し、加熱工程を行わなかった。
【0054】
<実施例2>(コンニャク粉と、杜仲と、水との混練物の養生物に水酸化カルシウム水溶液を加えて混練した第2の実施形態の実施例)
コンニャク粉として、グルコマンナン30gを用いた。杜仲は、実施例1と同じものを5g用いた。第一の工程として、このコンニャク粉と杜仲粉砕物とを混合し混合物とした。この混合物に水1kgを入れて5分間混練し、第1の混練物を作製した。養生工程として、この混練物を60分間養生した。第二の工程としてアルカリ塩として水酸化カルシウム1.5gを水0.2kgに混ぜた液体を、養生したこの第1の混練物に加えて撹拌し第2の混練物を得た後、第2の混練物を5等分し、試料名として、試料実2-1から試料実2-5の5つの試料を作製した。この第2の混練物の試料実2-1と試料実2-2は、加熱工程として、沸騰した湯に入れて10分間加熱した。この第2の混練物である試料実2-3と試料実2-4は、加熱工程として、耐熱用容器に入れ、レトルト食品を製造する加熱装置内で加熱処理した。加熱時間は、60分とした。冷却後、この実施例2のこんにゃくについて、酸性度、食感、固さ及びゲル化の有無について評価した。なお、試料実2-5は予備のため保存し、加熱工程は行わなかった。
【0055】
<実施例3>(コンニャク粉と、杜仲と、水との混練物の養生物に水酸化カルシウム水溶液を加えて混練した第2の実施形態の他の実施例)
アルカリ塩として水酸化カルシウムを0.75gにした以外はすべて実施例2と同じ条件で撹拌物を作製した。この第2の混練物を5等分し、試料名として、試料実3-1から試料実3-5の5つの試料を作製した。この第2の混練物の試料実3-1と試料実3-2は、加熱工程として、沸騰した湯に入れて10分間加熱した。試料実3-3と試料実3-4は、加熱工程として、耐熱用容器に入れ、レトルト食品を製造する加熱装置内で加熱処理した。加熱時間は、60分とした。冷却後、この実施例3のこんにゃくについて、酸性度、食感、固さ及びゲル化の有無について評価した。なお、試料実3-5は予備のため保存し、加熱工程は行わなかった。
【0056】
<実施例4>(コンニャク粉と、杜仲と、水との混練物の養生物に水酸化カルシウム水溶液を加えて混練した第2の実施形態の他の実施例)
アルカリ塩として水酸化カルシウムを0.4gにした以外はすべて実施例2と同じ条件で第2の混練物を作製した。この第2の混練物を5等分し、試料名として、試料実4-1から試料実4-5の5つの試料を作製した。この撹拌物の試料実4-1と試料実4-2は、加熱工程として、沸騰した湯に入れて10分間加熱した。試料実4-3と試料実4-4は、加熱工程として、耐熱用容器に入れ、レトルト食品を製造する加熱装置内で加熱処理した。加熱時間は、60分とした。冷却後、この実施例4のこんにゃくについて、酸性度、食感、固さ及び及びゲル化の有無について評価した。なお、試料実4-5は予備のため保存し、加熱工程は行わなかった。
【0057】
また、比較例1~比較例5は以下の条件で作製した。
<比較例1>(コンニャク粉と、水のみを用いた比較例で、所謂コンニャク糊)
杜仲を入れない以外は、すべて実施例1と同じ手順でこんにゃくを作製した。
<比較例2>(コンニャク粉と、水とアルカリ性凝固剤を加えて混練する一般的な従来のこんにゃくの製造方法にて作製した例)
杜仲を入れなかった以外は、すべて実施例2と同じ方法でこんにゃくを作製した。
<比較例3>(コンニャク粉と、水とアルカリ性凝固剤を加えて混練する一般的な従来のこんにゃくの製造方法にて作製した他の例)
杜仲を入れず、製造したこんにゃくのpHが9.1になるように水酸化カルシウム量を調製した以外はすべて実施例2と同じ方法でこんにゃくを作製した。
<比較例4>(コンニャク粉と、水とアルカリ性凝固剤を加えて混練する一般的な従来のこんにゃくの製造方法にて作製した他の例)
杜仲を入れなかった以外は、すべて実施例3と同じ方法でこんにゃくを作製した。
<比較例5>(コンニャク粉と、水と、アルカリ性凝固剤を加えて混練する一般的な従来のこんにゃくの製造方法に作製した他の例)
杜仲を入れなかった以外は、すべて実施例4と同じ方法でこんにゃくを作製した。
【0058】
なお、以下のpHの数値と固さの数値は各試料の平均値を求めて算出した。また、総合判定は、良好から不良まで、◎、〇、△、×の4段階として、被験者5名の合意で判定した。
◎:良好、〇:良、△:判定不可、×:不可
<実施例1の結果>
実施例1の結果、酸性度は、pH5.8、食感は柔らかいゼリーのようで良好、ゲル化していることがそれぞれ確認できた。固さは、0.1Nであった。なお、pHについては、pH測定装置を用い、このこんにゃくに測定子を接するように配置して測定した。この固さについては、YAMADEN社レオメーターIIを用いて測定した。この固さは、試験体であるこんにゃくの厚さに対し、25%圧縮した際の最大荷重をニュートン(Nと表記する場合がある)とした。固さは加熱工程の違いによる数値の違いは認められなかった。また、被験者5人によりこんにゃくとしては柔らかく感じるものの、食感は上述したように良好と判断された。食味についても苦みやえぐみ、生臭さなどは感じられなかった。このように固さは0.1Nであったが、ゼリー状のこんにゃくなどの商品に利用することを考慮すると、食感は良好と判断し、総合判定を良(〇)とした。また、加熱工程の違いによる評価の違いも認められなかった。
【0059】
<実施例2の結果>
実施例2の結果、酸性度は、pH11.0、食感は従来のこんにゃくのようで良好、ゲル化していることがそれぞれ確認できた。また、この実施例2のこんにゃくは、固さ1.84Nであった。なお、pHについては、pH測定装置を用い、このこんにゃくに測定子を接するように配置して測定した。加熱工程の違いによる固さの違いは認められなかった。この固さについては、実施例1と同じ方法で測定した。また、被験者5人によりこんにゃくとして食感は上述したように良好と判断された。食味についても苦みやえぐみ、生臭ささなどは感じられなかった。以上から総合判定は良好(◎)とした。このこんにゃくの色は茶色であり、杜仲から溶出した有効成分の一つであるクロロゲン酸がこんにゃく全体に広がっていることが確認できた。また、加熱工程の違いによる評価の違いも認められなかった。
【0060】
<実施例3の結果>
実施例3の結果、酸性度は、pH8.2、食感は従来のこんにゃくのようで良好、ゲル化していることがそれぞれ確認できた。以上から総合判定を良好(◎)とした。また、固さは、0.8Nで加熱工程の違いによる固さの違いは認められなかった。
【0061】
<実施例4の結果>
実施例4の結果、酸性度は、pH7.0、食感は従来のこんにゃくのようで良好、ゲル化していることがそれぞれ確認できた。以上から総合判定を良好(◎)とした。また、固さは、0.63Nで加熱工程の違いによる固さの違いは認められなかった。
【0062】
<比較例1の結果>
作製したこんにゃくは、こんにゃくとしての食感はなく、とろとろとしており、pHは6.6であった。被験者5人による判断は、こんにゃくではないとされた。固さは測定ができなかった。以上から総合判定は不良(×)とした。
【0063】
<比較例2の結果>
作製したこんにゃくは、こんにゃくとしての食感であり、好適であった。pHは11.2であった。固さは、0.84Nであった。被験者5人による評価は、こんにゃくとしての好適なものであった。以上から総合判定は、良(〇)とした。
【0064】
<比較例3の結果>
作製したこんにゃくは、こんにゃくとしての食感であり、好適であった。pHは9.1であった。固さは、0.67Nであった。被験者5人による評価は、こんにゃくとしての好適なものであった。以上から総合判定は良(〇)とした。
【0065】
<比較例4の結果>
作製したこんにゃくは、こんにゃくとしての食感はあったが、じゃりじゃりとしていた。pHは8.3、固さは、0.61Nであった。以上から総合判定は不良と良の間として判定不可(△)とした。
【0066】
<比較例5の結果>
作製したこんにゃくは、柔らかくた固まらず、こんにゃくとしての食感はなく、pHは7.3、固さは柔らかく測定できなかった。以上から総合判定は不良(×)とした。
【0067】
これら実施例及び比較例の結果を表1に示す。(なお、以降別途説明する実施例5、実施例6も含む)
【表1】
【0068】
本発明の第1の実施形態、及び第2の実施形態において、杜仲を含む非アルカリ性凝固剤を用いて製造したこんにゃくの酸性度(pH)に対する固さのグラフを●印で、非アルカリ性凝固剤を用いずに製造したこんにゃくの酸性度に対する固さのグラフを■印として
図5に記す。
【0069】
(酸性度に対する固さの関係の考察)
非アルカリ性凝固剤の杜仲を加えた場合において、アルカリ性凝固剤の添加量を実施例2、実施例3で比較した場合、実施例3では、実施例2の半分量しか使用しなかった。このため、製造したこんにゃくのpHは、実施例2のpH11.0に比べ、実施例3では、pH8.2となった。さらに、実施例4では、アルカリ性凝固剤の添加量は、実施例2に比べ1/4程度としたため、pHは、7.0程度とさらに低下した。なお、アルカリ性凝固剤を全く用いない場合の実施例1では、pHは5.8となっている。
【0070】
図5に示したpHに対するこんにゃくの固さは、非アルカリ性凝固剤の杜仲を加えた場合において、pH5.8(実施例1)、pH7(実施例4)、pH8.2(実施例3)、pH11.0(実施例2)の間でよい相関(相関係数は、0.98)を示した(
図5中●印)。また、杜仲を加えない場合でも同様に、pH8.3(比較例4)、pH9.1(比較例3)、pH11.2(比較例2)の間ではよい相関が得られた(
図5中■印の一部に記載した直線で相関係数はほぼ1)。一方、pH7.3以下(比較例1及び比較例5)のこんにゃくは、固さを測定することはできず、比較例2~比較例4で確認できた上記のpHと固さとの相関は確認できなかった。
【0071】
これらのことから、こんにゃくの固さはpHに依存し、水とコンニャク粉の分量比が同じ場合には、pHが高いほどこんにゃくが固くなることが確認できた。このpHが高いほどこんにゃくが固くなることは、非アルカリ性凝固剤として杜仲を加えた場合には、pH5.8以上11.0以下の範囲で確認でき、杜仲を加えない場合には、pH8.3以上11.2以下の範囲で確認できた。
【0072】
また、杜仲を加えた場合には、製造したこんにゃくのpHが8.2程度でも、固さ0.8Nを超える結果が得られた。この固さの結果は、杜仲を入れない場合では、pH11.0を超えるこんにゃくの固さ0.84Nと同等の固さであり、これらのことから、杜仲によるこんにゃくの凝固作用が確認できた。
【0073】
更に、杜仲を加えた場合には、実施例4の結果で示したように製造したこんにゃくは、pH7.0程度でも固さ0.63N程度の結果が得られた。一方、杜仲を加えない場合には、pH7程度では、こんにゃくのゲル化は確認できなかった。このことからも杜仲によるこんにゃくの凝固作用が確認できた。
【0074】
この杜仲によるこんにゃくの凝固作用の根拠については現時点では確定できていないが、杜仲に含まれる粘性物質などが作用している可能性があると思われる。
【0075】
そこで、杜仲に含まれる粘性物質の一つとして、生の杜仲葉破断部から白色の粘性物質を採取した。この白色の粘性物質の赤外分光分析により得られた赤外線吸収スペクトルを
図6に示す。この粘性物質の赤外線吸収スペクトルは、ポリイソプレンと類似しており、この成分がこんにゃくの凝固作用の原因物質の一つとなり得ると考えられる。
【0076】
追加で、非アルカリ性凝固剤として杜仲の量を増加させて追加実験を実施した。
<追加実施例>
杜仲のみを50g(実施例5)とした場合、及び20g(実施例6)とした場合で、それ以外はすべて実施例2と同じ方法でこんにゃくを製造した。杜仲の量によらず食べることができた。一方、杜仲を50g入れた場合には、このこんにゃくは、杜仲をお湯により抽出したように色が黒に近い濃い茶褐色になることを確認した。実施例5で製造したこんにゃくは、pHは6.8、固さは0.4Nであった。また、実施例6で製造したこんにゃくは、pHは7.1、固さは0.5Nであった。
【0077】
以降、本発明のこんにゃくについて完成品の形態及び添加物についての参考実験例を挙げる。
<参考実験例1>
実施例2のこんにゃくを加熱工程の前に糸状に整形し、所謂杜仲入りの糸こんにゃくを作製した。加熱後のこのこんにゃくは歯ごたえがあり良好な結果となった。このことから、形態が異なっていても本発明の有効性が確認できた。
【0078】
<参考実験例2>
実施例2のこんにゃくに加熱工程の前に、大豆、ひじきを全体の3重量%となるように加えて混ぜた後加熱して大豆入りこんにゃくとひじき入りこんにゃくをそれぞれ製造した。大豆入りこんにゃくとひじき入りこんにゃくはそれぞれ良好なこんにゃくとなった。このことから、大豆や海藻類などのアルカリ性食材の添加もできることが確認できた。
【0079】
<参考実験例3>
実施例1から3に用いた杜仲葉と杜仲の木の皮10gをそれぞれ200gの水に入れ、熱水中で20分間加熱した溶液を自然放冷した後、これらの溶液の酸性度を測定した。溶液の酸性度は、杜仲葉でpH6であり、杜仲の木の皮でpH6であった。この実験により、杜仲葉及び杜仲の木の皮がそれぞれアルカリ性を示さないことを確認した。このことから、杜仲を4.0重量%程度まで入れても、実施例5に示すようにpHは11.0を超えないことが立証できた。
【0080】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。