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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110034
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】カウリング構造
(51)【国際特許分類】
   B62J 23/00 20060101AFI20240807BHJP
   B62J 17/10 20200101ALI20240807BHJP
   B62J 6/025 20200101ALI20240807BHJP
   B62J 17/00 20200101ALI20240807BHJP
【FI】
B62J23/00 A
B62J17/10
B62J23/00 C
B62J23/00 G
B62J6/025
B62J17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014342
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】清水 祐生
(57)【要約】
【課題】デザインの自由度を低下させることなく安定した走行を実現する。
【解決手段】カウリング構造は、車両前部を前方から覆うフロントカウリング(51)を備えている。フロントカウリングの内側にはランプユニット(31)が設置されている。フロントカウリングの下面(73)が後斜め下方に傾斜し、当該下面には走行風を抜けさせる通風穴(76)が形成されている。ランプユニットには車両前方を照らすランプ(32)と、当該ランプの光軸を調整する光軸調整部と、が設けられている。通風穴を通じて光軸調整部が工具による操作を受け付けている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部を前方から覆うフロントカウリングを備え、前記フロントカウリングの内側にランプユニットが設置された鞍乗型車両のカウリング構造であって、
前記フロントカウリングの下面が後斜め下方に傾斜し、当該下面には走行風を抜けさせる通風穴が形成され、
前記ランプユニットには車両前方を照らすランプと、当該ランプの光軸を調整する光軸調整部と、が設けられ、
前記通風穴を通じて前記光軸調整部が工具による操作を受け付けていることを特徴とするカウリング構造。
【請求項2】
前記フロントカウリングの下面が上下二段に形成され、当該フロントカウリングの上段側の下面が後斜め下方に傾斜し、当該下面には走行風を抜けさせる前記通風穴が形成され、
前記ランプユニットには、前記ランプとしての上側ランプと下側ランプと、前記光軸調整部として当該上側ランプ及び下側ランプの光軸を調整する上側光軸調整部と下側光軸調整部と、が設けられ、
前記フロントカウリングの上段側の下面には前記下側ランプの車幅方向外側に前記通風穴が形成され、当該通風穴を通じて前記上側光軸調整部が工具による操作を受け付けていることを特徴とする請求項1に記載のカウリング構造。
【請求項3】
前記下側ランプのレンズ面よりも後方に前記通風穴が位置しており、
前記フロントカウリングの上段側の下面及び下段側の下面の間に段差面が形成され、
前記段差面には前記下側ランプを側方から覆う側面カバーが形成され、当該側面カバーが前記レンズ面から前記通風穴に向かって車幅方向外側に広がるように傾斜していることを特徴とする請求項2に記載のカウリング構造。
【請求項4】
下面視にて前記フロントカウリングの下段側の下面の一部が前記通風穴に重なっていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のカウリング構造。
【請求項5】
前記フロントカウリングの下段側の下面の前縁が後方に向かって車幅方向中央から車幅方向外側に広がっており、当該前縁の車幅方向内側が前記通風穴よりも前方に位置し、当該前縁の車幅方向外側が前記通風穴よりも後方に位置していることを特徴とする請求項4に記載のカウリング構造。
【請求項6】
前記フロントカウリングの上段側の下面及び下段側の下面の間の段差面に他の通風穴が形成されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のカウリング構造。
【請求項7】
車両前部を側方から覆う一対のサイドカウリングを備え、
前記サイドカウリングによって前記通風穴が側方からは覆われ、当該サイドカウリングから車幅方向外側の斜め下方に前記通風穴が露出されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のカウリング構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カウリング構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の鞍乗型車両として、フロントカウリングにヘッドランプの光軸調整穴(エーミング穴)が形成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のフロントカウリングの内側にはヘッドランプの光軸調整装置が設置されており、フロントカウリングの両側面には光軸調整装置にアクセス可能な一対の光軸調整穴が開口されている。フロントカウリングの各光軸調整穴からドライバーの先端が挿し込まれて、ドライバーによって光軸調整装置の前後調整用及び左右調整用の各調整ネジが回されることでヘッドランプの光軸が上下左右に調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-147272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の鞍乗型車両は、乗員に当たる走行風を緩和するためにフロントカウリングの前端部が高く設計されている。このため、フロントカウリングの下方に走行風が入り込むと車両前部に上向きの力が生じて前輪分担荷重が減少する場合がある。前輪分担荷重の減少を抑えるためには、フロントカウリングの前部をスラント形状にして走行風によってフロントカウリングを下方に押さえつける必要があり、デザインの自由度が低くなる。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、デザインの自由度を低下させることなく、安定した走行を実現することができるカウリング構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のカウリング構造は、車両前部を前方から覆うフロントカウリングを備え、前記フロントカウリングの内側にランプユニットが設置された鞍乗型車両のカウリング構造であって、前記フロントカウリングの下面が後斜め下方に傾斜し、当該下面には走行風を抜けさせる通風穴が形成され、前記ランプユニットには車両前方を照らすランプと、当該ランプの光軸を調整する光軸調整部と、が設けられ、前記通風穴を通じて前記光軸調整部が工具による操作を受け付けていることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様のカウリング構造によれば、フロントカウリングの下面の通風穴を通って走行風が抜け易くなる。通風穴によってフロントカウリングの下面が走行風から受ける揚力が減って車両前部に上向きの力が生じ難くなる。前輪分担荷重が増加することで、前輪の接地性を高めて安定した走行を実現することができる。フロントカウリングの前部をスラント形状にする必要もなく、フロントカウリングのデザインの自由度が低下することがない。また、通風穴がランプの光軸調整穴を兼ねているため、フロントカウリングに余計な穴を設ける必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施例の車両前部の右側面図である。
図2】本実施例の車両前部の前面図である。
図3】本実施例の車両前部を右斜め下方から見た斜視図である。
図4】本実施例の車両前部の下面図である。
図5図1に示す車両前部をA-A線に沿って切断した断面図である。
図6図1に示す車両前部をB-B線に沿った断面での走行風の流れを示す図である。
図7】本実施例の車両前部を右斜め下方から見た斜視図である。
図8】本実施例の車両前部を左斜め下方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様の鞍乗型車両は、フロントカウリングによって車両前部が前方から覆われ、フロントカウリングの内側にランプユニットが設置されている。フロントカウリングの下面が後斜め下方に傾斜し、当該下面には走行風を抜けさせる通風穴が形成されている。通風穴によってフロントカウリングの下面が走行風から受ける揚力が減って車両前部に上向きの力が生じ難くなる。前輪分担荷重が増加することで、前輪の接地性を高めて安定した走行を実現することができる。フロントカウリングの前部をスラント形状にする必要もなく、フロントカウリングのデザインの自由度が低下することがない。ランプユニットには車両前方を照らすランプが設けられ、光軸調整部によってランプの光軸が調整される。通風穴を通じて光軸調整部が工具による操作を受け付けており、通風穴がランプの光軸調整穴を兼ねているため、フロントカウリングに余計な穴を設ける必要がない。
【実施例0010】
以下、添付図面を参照して、本実施例のカウリング構造について説明する。図1は本実施例の車両前部の右側面図である。図2は本実施例の車両前部の前面図である。また、以下の図では、矢印FRは車両前方、矢印REは車両後方、矢印Lは車両左方、矢印Rは車両右方をそれぞれ示している。
【0011】
図1に示すように、鞍乗型車両1の車両前部にはフロントカウリング51及び一対のサイドカウリング61が設けられている。フロントカウリング51によって車両前部が前方から覆われ、一対のサイドカウリング61によって車両前部が側方から覆われている。サイドカウリング61から下方にフロントフォーク15が突き出しており、フロントフォーク15の下部には前輪16が回転可能に支持されている。サイドカウリング61から後方にメインフレーム11が突き出しており、メインフレーム11の上側には燃料タンク21、メインフレーム11の下側にはエンジン22がそれぞれ設けられている。
【0012】
フロントカウリング51の前端側が側面視クチバシ状に形成されている。フロントカウリング51の前面は前端から後斜め上方に傾斜しており、フロントカウリング51の前面上側には防風用のウィンドスクリーン23が取り付けられている。フロントカウリング51の下面が上下二段に形成され、フロントカウリング51の前側の下面よりも後側の下面が一段低くなっている。フロントカウリング51の後側にはメーターカバー24が取り付けられている。フロントカウリング51の内側には、上側ヘッドランプ(上側ランプ)32及び下側ヘッドランプ(下側ランプ)34を有するヘッドランプユニット(ランプユニット)31が設置されている。
【0013】
一対のサイドカウリング61は、フロントカウリング51から燃料タンク21の前側まで後方に広がると共にフロントカウリング51から前輪16の後側まで下方に広がっている。各サイドカウリング61(アウターミドルカウリング65)の前端側も、フロントカウリング51の前端側と同様に側面視クチバシ状に形成されている。各サイドカウリング61の前縁上側は前端から後斜め上方に傾斜しており、各サイドカウリング61の前縁下側は前端から後斜め下方に傾斜している。フロントカウリング51の後側に一対のサイドカウリング61が連なって、走行風からの空気抵抗を減らす流線形が鞍乗型車両1の車両前部に形成されている。
【0014】
図1及び図2に示すように、フロントカウリング51の前面中央はフロントセンターカウリング52によって形成され、フロントカウリング51の前面左右両側は一対のフロントサイドカウリング53によって形成されている。フロントカウリング51の前面上側はフロントアッパーカウリング54によって形成され、フロントカウリング51の前面下側はフロントアンダーカウリング55によって形成されている。フロントセンターカウリング52の開口から上側ヘッドランプ32のレンズ面33が前方に露出し、フロントアンダーカウリング55の開口から下側ヘッドランプ34のレンズ面35が前方に露出している。
【0015】
一対のサイドカウリング61の外面はアウターカウリング62によって形成され、一対のサイドカウリング61の内面はインナーカウリング66によって形成されている。アウターカウリング62は、アウターアッパーカウリング63、アウターアンダーカウリング64、アウターミドルカウリング65が組み合わされて形成されている。アウターアッパーカウリング63からはターンシグナルランプ45が側方に突き出している。アウターカウリング62とインナーカウリング66が左右から重ね合わされて各サイドカウリング61が中空に形成され、各サイドカウリング61の内側には電気部品の収容スペースが確保されている。
【0016】
ところで、上記した鞍乗型車両1では乗員を走行風から保護するために、フロントカウリング51の前端が高く位置付けられている。フロントカウリング51の下側に走行風が入り込むことで車両前部に上向きの力が生じ易い。上向きの力が車両の重心から離れた位置に作用することで、前輪分担荷重が大幅に減少して、高速域での走行時に不安定な挙動が生じるおそれがある。この場合、フロントカウリング51が走行風を受ける個所に穴を設けることで、走行風をフロントカウリング51の内側に逃げ込ませて車両前部の上向きの力を抑える構造が有効である。
【0017】
一方で、フロントカウリング51にはランプの光軸を調整するための穴も必要であるが、フロントカウリング51に走行風を逃がす穴と光軸調整の穴が別々に形成されていると、フロントカウリング51の穴の数が多くなって外観性が悪化する。フロントカウリング51に穴を設けずに上向きの力を抑えるためには、フロントカウリング51の先端をスラント形状にする必要があるがデザインの自由度が低下する。そこで、本実施例では、フロントカウリング51の走行風が当たる下面に通風穴76を形成して、車両前部の上向きの力を抑えると共に通風穴76からランプの光軸を調整可能にしている。
【0018】
図2から図5を参照して、カウリング構造について説明する。図3は本実施例の車両前部を右斜め下方から見た斜視図である。図4は本実施例の車両前部の下面図である。図5図1に示す車両前部をA-A線に沿って切断した断面図である。
【0019】
図2及び図3に示すように、フロントカウリング51の前面には上側ヘッドランプ32のレンズ面33と下側ヘッドランプ34のレンズ面35が縦並びで設置されている。上側ヘッドランプ32のレンズ面33はフロントセンターカウリング52の開口71から前方に露出し、下側ヘッドランプ34のレンズ面35はフロントアンダーカウリング55の開口72から前方に露出している。フロントアンダーカウリング55の上段側の下面73よりも下段側の下面74が後方に位置しており、上側ヘッドランプ32のレンズ面33よりも下側ヘッドランプ34のレンズ面35が後方に引っ込んでいる。
【0020】
フロントアンダーカウリング55の上段側の下面73が後斜め下方に傾斜しており(図1参照)、上段側の下面73には下側ヘッドランプ34の車幅方向外側に一対の通風穴76が形成されている。上段側の下面73が後斜め下方に傾斜していても、一対の通風穴76を通って走行風が後方に抜けることで車両前部に上向きの力が生じ難くなっている。一対の通風穴76の後側から下方に凸部77が突き出して、凸部77によって一対の通風穴76に走行風が入り込み易くなっている。なお、一対の通風穴76は上側ヘッドランプ32の光軸を調整するためにドライバー等の工具が挿し込まれる光軸調整穴としても機能する。
【0021】
フロントアンダーカウリング55の上段側の下面73及び下段側の下面74の間には段差面78が形成され、この段差面78の中央には下側ヘッドランプ34のレンズ面35が位置付けられている。レンズ面35を挟んで段差面78の車幅方向の両側が後方に向かって窪んでおり、段差面78の窪みの奥面には一対の通風穴(他の通風穴)79が形成されている。一対の通風穴79は一対の通風穴76よりも後方に位置している。フロントアンダーカウリング55の段差面78の窪みに走行風が入り込んでも、一対の通風穴79を通って走行風が後方に抜けることで車両前部に上向きの力が生じ難くなっている。
【0022】
また、一対の通風穴76、79は下側ヘッドランプ34のレンズ面35よりも後方に位置している。フロントアンダーカウリング55の段差面78には下側ヘッドランプ34を側方から覆う側面カバー81が形成されており、この側面カバー81がレンズ面35から一対の通風穴76、79に向かって車幅方向外側に広がるように傾斜している。側面カバー81によって一対の通風穴76、79に向けて走行風がガイドされて、一対の通風穴76、79に走行風が流れ込み易くなる。フロントアンダーカウリング55が走行風から受ける揚力が減って車両前部に上向きの力が生じ難くなっている。
【0023】
図3及び図4に示すように、下面視にてフロントアンダーカウリング55の下段側の下面74の一部が一対の通風穴76に重なっており、前輪16によって跳ね上げられた砂等の異物が一対の通風穴76に入り込み難くなっている。また、下段側の下面74の前縁75が後方に向かって車幅方向中央から車幅方向外側に広がっている。この前縁75の車幅方向内側が一対の通風穴76よりも前方に位置し、前縁75の車幅方向外側が一対の通風穴76よりも後方に位置している。下段側の下面74によって走行風が整流されると共に、斜め下方から一対の通風穴76が視認し易くなって後述する光軸調整作業の作業性が向上する。
【0024】
フロントアンダーカウリング55の下段側の下面74がヘッドランプユニット31の下面37全域を露出させるように切り欠かれ、下段側の下面74の切欠き82にはヘッドランプユニット31の下面37全域が入り込んでいる。ヘッドランプユニット31の下方がフロントアンダーカウリング55によって覆われずに、ヘッドランプユニット31の下面37が下方に露出されることで放熱性が高められている。フロントカウリング51の前端側において、重量物であるヘッドランプユニット31がフロントアンダーカウリング55の切欠き82に入り込むことによって車両前部の重心が低くなって走行安定性が向上する。
【0025】
フロントアンダーカウリング55の開口72と切欠き82が連なっており、下側ヘッドランプ34のレンズ面35が低く位置付けられている。フロントアンダーカウリング55には、下側ヘッドランプ34のレンズ面35の下縁に沿って開口72を横断する横断部83が形成されている。横断部83はフロントアンダーカウリング55の開口縁よりも後方に引っ込んでいる。横断部83によってヘッドランプユニット31のレンズ面35とランプハウジング36の段差や部品の界面が隠されることで外観性が向上される(図2参照)。また、フロントアンダーカウリング55の開口72の下側が横断部83に連結されて剛性が高められている。
【0026】
フロントアンダーカウリング55の切欠き82が前方から後方に向かって幅広に形成され、前方から見たときの切欠き82が最も狭くなってヘッドランプユニット31の下端の露出が最小限に抑えられる(図2参照)。フロントアンダーカウリング55の切欠き82の車幅方向の両側縁に一対の固定部84が設けられている。一対の固定部84にはヘッドランプユニット31が固定されて、フロントアンダーカウリング55の切欠き82の車幅方向の両側縁がヘッドランプユニット31を介して連結されている。ヘッドランプユニット31がブリッジとして機能して、フロントアンダーカウリング55の切り欠かれた下面74の剛性が高められている。
【0027】
図5に示すヘッドランプユニット31は、ランプハウジング36の上半部よりも下半部が後方に突き出している。ランプハウジング36の上半部の背面には、右上の角付近に上側光軸調整部41aが設けられ、左側の中央付近に上側光軸調整部41bが設けられている。ランプハウジング36の下半部の背面では、右下の角付近に下側光軸調整部42aが設けられ、左側の中央付近に下側光軸調整部42bが設けられている。上側光軸調整部41a、41bによって上側ヘッドランプ32の光軸が上下左右に調整され、下側光軸調整部42a、42bによって下側ヘッドランプ34の光軸が上下左右に調整される。
【0028】
上側光軸調整部41a、41bは一対の通風穴76を通じて工具(不図示)による操作を受け付けており、下側光軸調整部42a、42bは切欠き82を通じて工具による操作を受け付けている。上側光軸調整部41a、41bの周辺には上側工具ガイド43a、43bが設けられ、上側工具ガイド43a、43bによって工具の挿入方向が一対の通風穴76と上側光軸調整部41a、41bを結ぶツールラインL1、L2上に規制される。下側光軸調整部42a、42bの周辺には下側工具ガイド44a、44bが設けられ、下側工具ガイド44a、44bによって工具の挿入方向が切欠き82と下側光軸調整部42a、42bを結ぶツールラインL3、L4上に規制される。
【0029】
一対の通風穴76から工具が挿し込まれることで、上側工具ガイド43a、43bによって工具の先端が上側光軸調整部41a、41bまでガイドされる。切欠き82から工具が挿し込まれることで、下側工具ガイド44a、44bによって工具の先端が下側光軸調整部42a、42bまでガイドされる。これにより、上側ヘッドランプ32及び下側ヘッドランプ34の光軸調整作業が容易になっている。一対の通風穴76は上側光軸調整部41a、41bの光軸調整穴になり、切欠き82は下側光軸調整部42a、42bの光軸調整穴になるため、フロントカウリング51に光軸調整穴を追加する必要がなく鞍乗型車両1の外観性が向上されている。
【0030】
一般的なカウリングは、溶融樹脂を金型に充填する射出成形によって製造されている。金型にはカウリングの穴形状に対向して凸部が形成されており、金型に溶融樹脂が充填されると凸部を避けるように溶融樹脂が分岐し、凸部を回り込んだ溶融樹脂が合流してウェルドラインが生じる。このため、カウリングの穴形状が多くなると、無塗装のカウリングの外観には多くのウェルドラインが現れる。本実施例のフロントアンダーカウリング55の穴形状の数が最小限に抑えられているため、フロントアンダーカウリング55のウェルドラインが少なくなって鞍乗型車両1の外観性が向上されている。
【0031】
図6を参照して、フロントカウリング内の走行風の流れについて説明する。図6図1に示す車両前部をB-B線に沿った断面での走行風の流れを示す図である。
【0032】
図6に示すように、フロントアンダーカウリング55の中央には下側ヘッドランプ34が収容されている。下側ヘッドランプ34を挟んだ両側には、フロントアンダーカウリング55の上段側の下面73に一対の通風穴76が形成されている。また、一対の通風穴76の後方でフロントアンダーカウリング55が窪んでおり、このフロントアンダーカウリング55の窪みの奥面に一対の通風穴79が形成されている。車両走行時にはフロントカウリング51の下側に走行風が入り込み、下側ヘッドランプ34のレンズ面35や側面カバー81に沿って走行風が後方に流れている。
【0033】
一対の通風穴76からフロントアンダーカウリング55の内側に走行風が入り込み、一対の通風穴79からフロントアンダーカウリング55の内側に走行風が入り込んでいる。一対の通風穴76、79からフロントアンダーカウリング55の内側に走行風が逃げ込むことで、フロントアンダーカウリング55の上段側の下面73での揚力が減って車両前部に上向きの力が生じ難くなる。ヘッドランプユニット31の両側方を通って走行風が後方に流れるため、走行風がヘッドランプユニット31の背面側に回り難くなり、走行風に運ばれる異物等からヘッドランプユニット31の背面側の電気部品が保護されている。
【0034】
図7図8を参照して、上側ヘッドランプ及び下側ヘッドランプの光軸調整作業について説明する。図7は本実施例の車両前部を右斜め下方から見た斜視図である。図8は本実施例の車両前部を左斜め下方から見た斜視図である。
【0035】
図7に示すように、サイドカウリング61によって右側の通風穴76が側方から覆われ、サイドカウリング61から右斜め下方に通風穴76が露出されている。側方から見たときにサイドカウリング61によって右側の通風穴76が隠されることで鞍乗型車両1の外観性が向上される。右斜め下方から右側の通風穴76が見えるので、通風穴76から工具を挿し込むことができる。右側の通風穴76に右斜め下方から工具が挿し込まれると、上側工具ガイド43aによって工具の先端が上側光軸調整部41aまでガイドされる。上側光軸調整部41aを目視できなくても、上側光軸調整部41aを工具によって操作することができる。
【0036】
図8に示すように、サイドカウリング61によって左側の通風穴76が側方から覆われ、サイドカウリング61から左斜め下方に通風穴76が露出されている。側方から見たときにサイドカウリング61によって左側の通風穴76が隠されることで鞍乗型車両1の外観性が向上される。左斜め下方から左側の通風穴76が見えるので、通風穴76から工具を挿し込むことができる。左側の通風穴76に左斜め下方から工具が挿し込まれると、上側工具ガイド43bによって工具の先端が上側光軸調整部41bまでガイドされる。上側光軸調整部41bを目視できなくても、上側光軸調整部41bを工具によって操作することができる。
【0037】
図7及び図8に示すように、フロントアンダーカウリング55の切欠き82によって下側光軸調整部42a、42bが下方に露出されている。フロントアンダーカウリング55の切欠き82を通じて下側光軸調整部42a、42bに真下から工具が近づけられると、下側工具ガイド44a、44b(図5参照)によって工具の先端が下側光軸調整部42a、42bまでガイドされる。下側光軸調整部42a、42bを目視できなくても、下側光軸調整部42a、42bを工具によって操作することができる。このように、上側ヘッドランプ32及び下側ヘッドランプ34の光軸調整が容易になって整備性が向上される。
【0038】
以上、本実施例のカウリング構造によれば、フロントアンダーカウリング55の一対の通風穴76を通って走行風が抜け易くなる。一対の通風穴76によってフロントアンダーカウリング55の下面73が走行風から受ける揚力が減って車両前部に上向きの力が生じ難くなる。前輪分担荷重が増加することで、前輪16の接地性を高めて安定した走行を実現することができる。フロントカウリング51の前部をスラント形状にする必要もなく、フロントカウリング51のデザインの自由度が低下することがない。また、一対の通風穴76が上側ヘッドランプ32の光軸調整穴を兼ねているため、フロントカウリング51に余計な穴を設ける必要がない。
【0039】
なお、本実施例では、フロントカウリングが複数のカウリング部材を組み合わせて形成されているが、フロントカウリングが1つのカウリング部材によって形成されていてもよい。
【0040】
また、本実施例では、アウターカウリングが複数のカウリング部材を組み合わせて形成されているが、アウターカウリングが1つのカウリング部材によって形成されていてもよい。
【0041】
また、本実施例では、ランプユニットに上側ヘッドランプと下側ヘッドランプが設けられているが、ランプユニットには単一のヘッドランプが設けられていてもよい。また、ランプユニットがヘッドランプ用のユニットであるが、ランプユニットがヘッドランプ以外のユニットでもよい。
【0042】
また、本実施例では、フロントカウリングの下面が上下二段に形成されているが、フロントカウリングの下面が段状に形成されていなくてもよい。
【0043】
また、本実施例では、工具によって一対の通風穴を通じて光軸調整部が操作されているが、工具を用いて他の部材を設置するために一対の通風穴が用いられてもよい。この場合、フロントカウリングの内側には部材が設けられ、通風穴を通じて部材のネジ等の締結部品が外部に露出されて、フロントカウリング内の部材の締結部品が締結されてもよい。例えば、フロントカウリングの内側にレーダーサポート用等のセンサーが設けられ、通風穴を通じてセンサーを固定するための締結部品が工具によって締結されてもよい。
【0044】
また、本実施例では、フロントカウリングが、フロントセンターカウリング、一対のフロントサイドカウリング、フロントアッパーカウリング、フロントアンダーカウリングによって形成されたが、フロントカウリングが6つ以上のカウリングによって形成されていてもよい。
【0045】
また、本実施例のカウリング構造は上記の鞍乗型車両に限らず、他のタイプの鞍乗型車両に採用されてもよい。なお、鞍乗型車両とは、運転者がシートに跨った姿勢で乗車する車両全般に限定されず、運転者がシートに跨らずに乗車するスクータタイプの車両も含んでいる。
【0046】
以上の通り、第1態様は、車両前部を前方から覆うフロントカウリング(51)を備え、フロントカウリングの内側にランプユニット(ヘッドランプユニット31)が設置された鞍乗型車両(1)のカウリング構造であって、フロントカウリングの下面(73)が後斜め下方に傾斜し、当該下面には走行風を抜けさせる通風穴(76)が形成され、ランプユニットには車両前方を照らすランプ(上側ヘッドランプ32)と、当該ランプの光軸を調整する光軸調整部(上側光軸調整部41a、41b)と、が設けられ、通風穴を通じて光軸調整部が工具による操作を受け付けている。この構成によれば、フロントカウリングの下面の通風穴を通って走行風が抜け易くなる。通風穴によってフロントカウリングの下面が走行風から受ける揚力が減って車両前部に上向きの力が生じ難くなる。前輪分担荷重が増加することで、前輪の接地性を高めて安定した走行を実現することができる。フロントカウリングの前部をスラント形状にする必要もなく、フロントカウリングのデザインの自由度が低下することがない。また、通風穴がランプの光軸調整穴を兼ねているため、フロントカウリングに余計な穴を設ける必要がない。
【0047】
第2態様は、第1態様において、フロントカウリングの下面が上下二段に形成され、当該フロントカウリングの上段側の下面(73)が後斜め下方に傾斜し、当該下面には走行風を抜けさせる通風穴が形成され、ランプユニットには、ランプとしての上側ランプ(上側ヘッドランプ32)と下側ランプ(下側ヘッドランプ34)と、前記光軸調整部として当該上側ランプ及び下側ランプの光軸を調整する上側光軸調整部(41a、41b)と下側光軸調整部(42a、42b)と、が設けられ、フロントカウリングの上段側の下面には下側ランプの車幅方向外側に通風穴が形成され、当該通風穴を通じて上側光軸調整部が工具による操作を受け付けている。この構成によれば、通風穴が上側光軸調整部に近づけられるため、上側ランプの光軸調整作業の作業性が向上される。
【0048】
第3態様は、第2態様において、下側ランプのレンズ面(35)よりも後方に通風穴が位置しており、フロントカウリングの上段側の下面及び下段側の下面の間に段差面(78)が形成され、段差面には下側ランプを側方から覆う側面カバー(81)が形成され、当該側面カバーがレンズ面から通風穴に向かって車幅方向外側に広がるように傾斜している。この構成によれば、側面カバーによって通風穴に向けて走行風がガイドされて通風穴に走行風が流れ込み易くなる。フロントカウリングが走行風から受ける揚力が減って、車両前部に上向きの力が生じ難くなる。前輪分担荷重が増加することで、前輪の接地性を高めて安定した走行を実現することができる。
【0049】
第4態様は、第2態様又は第3態様において、下面視にてフロントカウリングの下段側の下面の一部が通風穴に重なっている。この構成によれば、前輪に跳ね上げられた異物が通風穴に入り込み難くなる。
【0050】
第5態様は、第4態様において、フロントカウリングの下段側の下面の前縁(75)が後方に向かって車幅方向中央から車幅方向外側に広がっており、当該前縁の車幅方向内側が通風穴よりも前方に位置し、当該前縁の車幅方向外側が通風穴よりも後方に位置している。この構成によれば、フロントカウリングの下段側の下面によって走行風が整流されると共に、斜め下方から通風穴が視認し易くなって上側ランプの光軸調整作業の作業性が向上する。
【0051】
第6態様は、第2態様から第5態様のいずれか1態様において、フロントカウリングの上段側の下面及び下段側の下面の間の段差面に他の通風穴(79)が形成されている。この構成によれば、他の通風穴によってフロントカウリングの下面が走行風から受ける揚力が減って車両前部に上向きの力が生じ難くなる。前輪分担荷重が増加することで、前輪の接地性を高めて安定した走行を実現することができる。
【0052】
第7態様は、第2態様から第6態様のいずれか1態様において、車両前部を側方から覆う一対のサイドカウリング(61)を備え、サイドカウリングによって通風穴が側方からは覆われ、当該サイドカウリングから車幅方向外側の斜め下方に通風穴が露出される。この構成によれば、側方から見たときにサイドカウリングによって通風穴が隠されることで鞍乗型車両の外観性が向上される。車幅方向外側の斜め下方からは通風穴が見えるので光軸調整の作業性が悪化することはない。
【0053】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0054】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【符号の説明】
【0055】
1 :鞍乗型車両
31 :ヘッドランプユニット(ランプユニット)
32 :上側ヘッドランプ(上側ランプ)
34 :下側ヘッドランプ(下側ランプ)
41a、41b:上側光軸調整部
42a、42b:下側光軸調整部
51 :フロントカウリング
61 :サイドカウリング
73 :上段側の下面
74 :下段側の下面
75 :前縁
76 :通風穴
78 :段差面
79 :通風穴(他の通風穴)
81 :側面カバー
83 :横断部
図1
図2
図3
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図8