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特開2024-110039香気徐放化合物およびこれを用いた香料組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110039
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】香気徐放化合物およびこれを用いた香料組成物
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/00 20060101AFI20240807BHJP
   C11D 3/50 20060101ALI20240807BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20240807BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20240807BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20240807BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20240807BHJP
   D06M 13/00 20060101ALI20240807BHJP
   C07C 69/36 20060101ALN20240807BHJP
【FI】
C11B9/00 S
C11D3/50
C11B9/00 T
A61Q13/00 101
A61K8/37
A23L27/00 C
A23L27/20 D
D06M13/00
C07C69/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014349
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大久保 康隆
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 久美子
(72)【発明者】
【氏名】瀧嶋 俊介
(72)【発明者】
【氏名】板野 浩明
【テーマコード(参考)】
4B047
4C083
4H003
4H006
4H059
4L033
【Fターム(参考)】
4B047LB09
4B047LF02
4B047LF07
4B047LF08
4B047LF09
4B047LG05
4B047LG06
4B047LP02
4C083AC371
4C083BB41
4C083CC01
4C083KK02
4H003EB09
4H003EC01
4H003FA26
4H006AA03
4H006AB14
4H006KC12
4H059BA30
4H059BA35
4H059BB02
4H059BB05
4H059BB06
4H059BB13
4H059BB14
4H059BB15
4H059BB45
4H059DA09
4H059EA32
4H059EA35
4L033AB04
4L033AC15
4L033BA00
(57)【要約】
【課題】酵素を用いることなく香気を徐放する新たな香気徐放化合物、およびこれを含有する香料組成物、ならびに香気徐放化合物または香料組成物を含有する消費財、および消費財の香気改善方法を提供する。
【解決手段】下記A群から選択される香気徐放化合物。
(A群)ジシトロネリルオキサレート、ジゲラニルオキサレート、ビス(3-メチル-5-フェニルペンタン-1-イル)オキサレート、ビス(ジヒドロミルセニル)オキサレート、ジ[(Z)-3-ヘキセン-1-イル]オキサレート、ジ(l-メンチル)オキサレート、ビス(2-フェニルエチル)オキサレート、ビス(テトラヒドロリナリル)オキサレート、ジリナリルオキサレート、ビス(2-イソブチル-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)オキサレート
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A1群から選択される香気徐放化合物。
(A1群)ジシトロネリルオキサレート、ジゲラニルオキサレート、ビス(3-メチル-5-フェニルペンタン-1-イル)オキサレート、ビス(ジヒドロミルセニル)オキサレート、ジ[(Z)-3-ヘキセン-1-イル]オキサレート、ジ(l-メンチル)オキサレート、ビス(2-フェニルエチル)オキサレート、ビス(テトラヒドロリナリル)オキサレート、ジリナリルオキサレート、ビス(2-イソブチル-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)オキサレート
【請求項2】
下記A群から選択される1種または2種以上の香気徐放化合物を有効成分として含有する、香料組成物。
(A群)ジシトロネリルオキサレート、ジゲラニルオキサレート、ビス(3-メチル-5-フェニルペンタン-1-イル)オキサレート、ビス(ジヒドロミルセニル)オキサレート、ジ[(Z)-3-ヘキセン-1-イル]オキサレート、ジ(l-メンチル)オキサレート、ビス(2-フェニルエチル)オキサレート、ビス(テトラヒドロリナリル)オキサレート、ジリナリルオキサレート、ビス(2-イソブチル-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)オキサレート
【請求項3】
請求項1に記載の香気徐放化合物または請求項2に記載の香料組成物を含有する、消費財。
【請求項4】
請求項1に記載の香気徐放化合物または請求項2に記載の香料組成物を消費財に添加する工程を含む、消費財の香気改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香気徐放化合物、およびこれを含有する香料組成物、ならびに香気徐放化合物または香料組成物を含有する消費財、および消費財の香気改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好は多様化し、それに伴い、各種各様の香気を有する消費財が製造されている。例えば、香粧品業界においては消費者の嗜好に合う香気を有する消費財へのニーズに応じるため様々な技術開発が求められている。
【0003】
香粧品の一つの原料素材である香料についても、従来から提案されている香料化合物だけでは十分には対応しきれず、従来にないユニークな香気特性を有する香料組成物の開発が課題となっている。またこれらの課題は、香粧品だけでなく、飲食品や医薬衛生品も含む消費財一般にいえるものである。
【0004】
これまで、香気改善のための提案がいくつか行われている。例えば、特許文献1には、フレグラントアルコールまたはフレグラントケトンから誘導される芳香付け組成物、およびリパーゼ含有洗剤の存在下で洗浄される織物の芳香付け方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3112089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の芳香付け組成物に含まれる化合物を使用する際には、リパーゼを含有する洗剤および/または柔軟剤を用いる必要がある。しかしながら、このような酵素を用いることなく、香気を徐放する化合物が期待されている。
【0007】
本発明の課題は、酵素を用いることなく、香気を徐放する新たな香気徐放化合物、およびこれを含有する香料組成物、ならびに香気徐放化合物または香料組成物を含有する消費財、および消費財の香気改善方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定のオキサレート化合物が酵素を用いることなく香気を徐放する新たな香気徐放化合物であることを見出し、本発明の完成に至った。本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
【0009】
[1] 下記A群から選択される香気徐放化合物。
(A群)ジシトロネリルオキサレート、ジゲラニルオキサレート、ビス(3-メチル-5-フェニルペンタン-1-イル)オキサレート、ビス(ジヒドロミルセニル)オキサレート、ジ[(Z)-3-ヘキセン-1-イル]オキサレート、ジ(l-メンチル)オキサレート、ビス(2-フェニルエチル)オキサレート、ビス(テトラヒドロリナリル)オキサレート、ジリナリルオキサレート、ビス(2-イソブチル-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)オキサレート
[2] 下記A群から選択される1種または2種以上の香気徐放化合物を有効成分として含有する、香料組成物。
(A群)ジシトロネリルオキサレート、ジゲラニルオキサレート、ビス(3-メチル-5-フェニルペンタン-1-イル)オキサレート、ビス(ジヒドロミルセニル)オキサレート、ジ[(Z)-3-ヘキセン-1-イル]オキサレート、ジ(l-メンチル)オキサレート、ビス(2-フェニルエチル)オキサレート、ビス(テトラヒドロリナリル)オキサレート、ジリナリルオキサレート、ビス(2-イソブチル-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)オキサレート
[3] [1]に記載の香気徐放化合物または[2]に記載の香料組成物を含有する、消費財。
[4] [1]に記載の香気徐放化合物または[2]に記載の香料組成物を消費財に添加する工程を含む、消費財の香気改善方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酵素を用いることなく香気を徐放する新たな香気徐放化合物、およびこれを含有する香料組成物、ならびに香気徐放化合物または香料組成物を含有する消費財、および消費財の香気改善方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について、詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味し、「濃度」、「%」は特に断りのない限りそれぞれ「質量濃度」、「質量パーセント濃度」を表すものとする。また、本明細書において、香味とは、香気(香り)によって変化し得る1種または複数種の感覚、代表的には嗅覚および味覚などを含む感覚を意味する。本明細書において、「香気を付与乃至増強する」とは、香気を新たに加える、または香気を増強することを含み、例えば、香気付与の結果香味が改善されるものを含んでいる。さらには、香気付与乃至増強の結果、嗅覚および味覚以外の感覚、例えば、冷感、温感、質感(のど越し、固さ、粘度など、テクスチャともいう)、炭酸や辛さなどの刺激感、などを増強、抑制、または改善するものであってもよい。
【0012】
(香気徐放化合物)
<香気徐放化合物の概要>
以下、本発明の一実施の形態に係る香気徐放化合物(以下、本件香気徐放化合物という場合がある。)について説明する。本件香気徐放化合物は、下記A群から選択される化合物である。
【0013】
(A群)ジシトロネリルオキサレート(下記式(1)で表される化合物)、ジゲラニルオキサレート(下記式(2)で表される化合物)、ビス(3-メチル-5-フェニルペンタン-1-イル)オキサレート(下記式(3)で表される化合物)、ビス(ジヒドロミルセニル)オキサレート(下記式(4)で表される化合物)、ジ[(Z)-3-ヘキセン-1-イル]オキサレート(下記式(5)で表される化合物)、ジ(l-メンチル)オキサレート(下記式(6)で表される化合物)、ビス(2-フェニルエチル)オキサレート(下記式(7)で表される化合物)、ビス(テトラヒドロリナリル)オキサレート(下記式(8)で表される化合物)、ジリナリルオキサレート(下記式(9)で表される化合物)、ビス(2-イソブチル-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)オキサレート(下記式(10)で表される化合物)
【0014】
【化1】
【0015】
本発明者らは、本件香気徐放化合物が、酵素(リパーゼ)を用いることなく香気を徐放することを見出した。より具体的には、本発明者らは、式(1)で表されるジシトロネリルオキサレート(ジ(3,7-ジメチルオクタ-6-エン-1-イル)オキサレート)が、酵素(リパーゼ)を用いることなくシトロネロール(3,7-ジメチルオクタ-6-エン-1-オール)を徐放すること、式(2)で表されるジゲラニルオキサレート(ジ(3,7-ジメチルオクタ-2,6-ジエン-1-イル)オキサレート)が、酵素(リパーゼ)を用いることなくゲラニオール(3,7-ジメチルオクタ-2,6-ジエン-1-オール)を徐放すること、式(3)で表されるビス(3-メチル-5-フェニルペンタン-1-イル)オキサレートが、酵素(リパーゼ)を用いることなく3-メチル-5-フェニルペンタノールを徐放すること、式(4)で表されるビス(ジヒドロミルセニル)オキサレート(ジ(2,6-ジメチルオクタ-7-エン-2-イル)オキサレート)が、酵素(リパーゼ)を用いることなくジヒドロミルセノール(2,6-ジメチルオクタ-7-エン-2-オール)を徐放すること、式(5)で表されるジ[(Z)-3-ヘキセン-1-イル]オキサレートが、酵素(リパーゼ)を用いることなく(Z)-3-ヘキセン-1-オールを徐放すること、式(6)で表されるジ(l-メンチル)オキサレート(ジ((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサン-1-イル)オキサレート)が、酵素(リパーゼ)を用いることなくl-メントール((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサノール)を徐放すること、式(7)で表されるビス(2-フェニルエチル)オキサレートが、酵素(リパーゼ)を用いることなく2-フェニルエタノールを徐放すること、式(8)で表されるビス(テトラヒドロリナリル)オキサレート(ジ(3,7-ジメチルオクタン-3-イル)オキサレート)が、酵素(リパーゼ)を用いることなくテトラヒドロリナロール(3,7-ジメチルオクタン-3-オール)を徐放すること、式(9)で表されるジ(3,7-ジメチルオクタ-1,6-ジエン-3-イル)オキサレート(ジリナリルオキサレート)が、酵素(リパーゼ)を用いることなくリナロール(3,7-ジメチルオクタ-1,6-ジエン-3-オール)を徐放すること、式(10)で表されるビス(2-イソブチル-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)オキサレートが、酵素(リパーゼ)を用いることなく2-イソブチル-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-オールを徐放すること、をそれぞれ見出した。
【0016】
すなわち、本件香気徐放化合物はアルコールとシュウ酸とのエステル(オキサレート)であり、香料化合物としてアルコールを徐放する。前述した引用文献1においては、任意のアルコールを原料とするオキサレート化合物を、リパーゼを含有する洗剤または柔軟剤により処理することでアルコールを徐放すると記載されていたが、本発明者らが後述の実施例に示すように、式(1)~(10)のオキサレート化合物を実際に検討した結果、これらのオキサレート化合物については、酵素(リパーゼ)を用いることなくアルコールが徐放されることを確認し、本件香気徐放化合物を見出したものである。
【0017】
<本件香気徐放化合物の合成方法>
以下、本件香気徐放化合物の合成方法について説明する。本件香気徐放化合物は、塩化オキサリルと香料化合物であるアルコールとを反応させることで合成することができる。また、本件香気徐放化合物が熱安定性の高いものである場合には、シュウ酸エステルと香料化合物でアルコールとを塩基触媒存在下にエステル交換反応させる方法、もしくはシュウ酸と香料化合物であるアルコールとを加熱してエステル化反応させる方法で合成することもできる。
【0018】
塩化オキサリルとの反応では添加剤として有機塩基の使用が好ましく、特にピリジンやトリエチルアミンを塩化オキサリルに対して1~2当量の範囲で使用することが好ましい。またトルエン等の各種有機溶媒を使用することが好ましい。反応温度は0~40℃の範囲で行うことが好ましい。
【0019】
シュウ酸エステルとのエステル交換反応においては、用いるシュウ酸エステルとしてはシュウ酸ジメチルもしくはシュウ酸ジエチルが好ましく、用いる塩基触媒としてはアルカリ金属アルコキシドを0.05~0.2当量の範囲で使用することが好ましい。反応は副生するアルコールを系外に留去する必要があることから減圧下に行うことが好ましく、特に0.5~10kPaの範囲で行うことが好ましい。反応温度については副生するアルコールのみを留去可能なシュウ酸エステルの沸点以下、副生するアルコールの沸点以上の温度範囲で行うことが好ましい。例示するとシュウ酸ジエチルを用いた反応を圧力2.6kPaで行う場合には、この圧力におけるシュウ酸ジエチルの沸点である97℃以下、この圧力における副生するエタノールの沸点である8℃以上の範囲で行うことが好ましい。
【0020】
シュウ酸のエステル化反応においてはシュウ酸自体が酸触媒になるので触媒を別途添加せずに反応させることが好ましい。また溶媒を使用して加熱下にて反応を行うのが好ましく、溶媒としてはシクロヘキサン、トルエンが好ましい。反応温度は60~120℃が好ましい。脱水反応を促進させるためにモレキュラーシーブスなどの水吸着剤を使用してもよい。
【0021】
各種反応条件は、目的物である本件香気徐放化合物が所望の収量得られるように適宜調整することができる。また、得られた本件香気徐放化合物は、さらに必要に応じてカラムクロマトグラフィ、減圧蒸留等の手段を用いて精製してもよい。
【0022】
(香料組成物)
以下、本発明の一実施の形態に係る香料組成物(以下、本件香料組成物という場合がある。)について説明する。本件香料組成物は、下記A群から選択される1種または2種以上を有効成分として含有する香料組成物である。
【0023】
(A群)ジシトロネリルオキサレート(下記式(1)で表される化合物)、ジゲラニルオキサレート(下記式(2)で表される化合物)、ビス(3-メチル-5-フェニルペンタン-1-イル)オキサレート(下記式(3)で表される化合物)、ビス(ジヒドロミルセニル)オキサレート(下記式(4)で表される化合物)、ジ[(Z)-3-ヘキセン-1-イル]オキサレート(下記式(5)で表される化合物)、ジ(l-メンチル)オキサレート(下記式(6)で表される化合物)、ビス(2-フェニルエチル)オキサレート(下記式(7)で表される化合物)、ビス(テトラヒドロリナリル)オキサレート(下記式(8)で表される化合物)、ジリナリルオキサレート(下記式(9)で表される化合物)、ビス(2-イソブチル-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)オキサレート(下記式(10)で表される化合物)
【0024】
【化2】
【0025】
本件香料組成物は、本件香気徐放化合物を有効成分として所定量含有し、香味の付与を目的として、各種物品に添加することができるものをいう。本件香料組成物は、式(1)~(10)の化合物から1種または2種以上を有効成分として含有しているため、「本件香気徐放化合物」の項目で述べた香気徐放による優れた残香性を奏する。
【0026】
ここで、本件香気徐放化合物を「有効成分として含有する」とは、所望の香気徐放効果を発揮するのに十分な量で含有することを意味する。したがって、本件香料組成物は、本件香気徐放化合物のみを含有してもよいが、所望の香気を損なわない限りにおいて、他の香料成分や、溶剤等の他の添加物などを含有していてもよい。本発明の香料組成物の形態は特に限定されず、水溶性香料組成物、油溶性香料組成物、乳化香料組成物が例示できる。
【0027】
本件香料組成物中の本件香気徐放化合物の濃度は、香料組成物の添加対象に応じて任意に決定できる。本件香料組成物の全体質量に対する本件香気徐放化合物の濃度としては、0.1ppt~50%、好ましくは0.001ppm~30%、より好ましくは0.1ppm~10%の範囲内が挙げられる。より具体的には、本件香気徐放化合物の濃度としては、下限値を0.1ppt、10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、1000ppm、1%、10%、30%のいずれかとし、上限値を50%、30%、10%、1%、1000ppm、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100ppt、10ppt、1pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができるが、これらに限定されない。
【0028】
また、前述したように、本件香料組成物は、本件香気徐放化合物に加えて、さらに他の任意の化合物または成分を含有し得る。他の任意の化合物または成分として、各種の香料化合物または香料組成物、水溶性高分子化合物(アラビアガム、カラヤガム、トラガントガム、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、セルロース誘導体、架橋ポリアクリル酸、ポリ塩化ジメチルメチレンピペリジウム等)、油性成分(油脂類、ロウ類)、高級アルコール(セチルアルコール(セタノール)、2-ヘキシルデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、オレイルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、2-オクチルドデカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、デシルテトラデカノール、ラノリンアルコール等)、炭化水素類(ミネラルオイル、ポリエチレン、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン)、高級脂肪酸(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、ラノリン脂肪酸等)、アルキルグリセリルエーテル(バチルアルコール、キミルアルコール、セラキルアルコール、イソステアリルグリセリルエーテル等)、エステル類(アジピン酸ジイソプロピル、イソノナン酸イソノニル、リシノール酸オクチルドデシル、10~30の炭素数を有する不飽和脂肪酸コレステリル/ラノステリル、乳酸セチル、ジ-2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、リンゴ酸ジイソステアリル、コハク酸ジオクチル、2-エチルヘキサン酸セチル)、シリコーン類、界面活性剤(イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤が挙げられ、イオン性界面活性剤には、カチオン性界面活性剤(塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウムサッカリン、セチルトリメチルアンモニウムサッカリン、メチル硫酸ベヘニルトリメチルアンモニウム等)、アニオン性界面活性剤(アルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、アルケニルエーテル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、飽和又は不飽和脂肪酸塩、アルキル又はアルケニルエーテルカルボン酸塩、α-スルホン脂肪酸塩、ココイルグルタミン酸ナトリウム等のN-アシルアミノ酸型界面活性剤、リン酸モノ又はジエステル型界面活性剤、スルホコハク酸エステル等)及び両性界面活性剤(ココベタイン、ラウラミドプロピルベタイン、コカミドプロピルベタイン、ラウロアンホ酢酸ナトリウム、ココアンホ酢酸ナトリウム、ラウリルベタイン等))、糖類、防腐剤(安息香酸ナトリウム、メチルパラベン、フェノキシエタノール等)、キレート剤、安定剤(フェナセチン、8-ヒドロキシキノリン、アセトアニリド、ピロリン酸ナトリウム、バルビツール酸、尿酸、タンニン酸等)、pH調整剤(クエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、ピロリン酸、グルコン酸、グルクロン酸、安息香酸、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、塩基性アミノ酸等)、植物抽出物、ビタミン類、紫外線吸収剤、油溶性色素類、機能性物質、魚肉エキス類、畜肉エキス類、植物エキス類、酵母エキス類、動植物タンパク質類、動植物タンパク分解物類、澱粉、デキストリン、糖類、アミノ酸類、核酸類、有機酸類、溶剤などを例示することができる。各種の香料化合物または香料組成物としては、例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第III部香粧品用香料、平成13年6月15日発行」「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている合成香料化合物(合成香料)、天然精油、天然香料などを挙げることができる。
【0029】
合成香料化合物の具体例として、炭化水素化合物としては、α-ピネン、β-ピネン、γ-テルピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5-ウンデカトリエンなどが挙げられる。
【0030】
合成香料化合物の具体例として、アルコール化合物としては、ブタノール、ペンタノール、3-オクタノール、ヘキサノールなどの飽和アルカノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、プレノール、2,6-ノナジエノールなどの不飽和アルコール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロール、α-ターピネオール、テルピネン-4-オール、ボルネオールなどのテルペンアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールが挙げられる。
【0031】
合成香料化合物の具体例として、アルデヒド化合物としては、アセトアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、デカナール、ヒドロキシシトロネラールなどの飽和アルデヒド、(E)-2-ヘキセナール、2,4-オクタジエナールなどの不飽和アルデヒド、シトロネラール、シトラール、ミルテナール、ペリルアルデヒドなどのテルペンアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナミルアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、ヘリオトロピン、p-トリルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドが挙げられる。
【0032】
合成香料化合物の具体例として、ケトン化合物としては、2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、1-オクテン-3-オン、アセトイン、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン(メチルヘプテノン)などの飽和および不飽和ケトン、ジアセチル、2,3-ペンタンジオン、マルトール、エチルマルトール、シクロテン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンなどのジケトンおよびヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン、α-イオノン、β-イオノン、β-ダマセノンなどのテルペン分解物に由来するケトン、ラズベリーケトンなどの芳香族ケトンが挙げられる。
【0033】
合成香料化合物の具体例として、フランまたはエーテル化合物としては、フルフリルアルコール、フルフラール、ローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピラン、エストラゴール、オイゲノール、1,8-シネオールなどが挙げられる。
【0034】
合成香料化合物の具体例として、エステル化合物としては、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸オクチル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸イソアミル、2-メチル酪酸エチル、イソ吉草酸エチル、イソ酪酸2-メチルブチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸アリル、ヘプタン酸エチル、カプリル酸エチル、イソ吉草酸イソアミル、ノナン酸エチルなどの脂肪族エステル、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ラバンジュリル、酢酸テルぺニル、酢酸テルピニル、酢酸ネリルなどのテルペンアルコールエステル、酢酸ベンジル、サリチル酸メチル、ケイ皮酸メチル、プロピオン酸シンナミル、安息香酸エチル、イソ吉草酸シンナミル、3-メチル-2-フェニルグリシド酸エチルなどの芳香族エステルが挙げられる。
【0035】
合成香料化合物の具体例として、ラクトン化合物としては、γ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトンなどの飽和ラクトン、7-デセン-4-オリド、2-デセン-5-オリドなどの不飽和ラクトンが挙げられる。
【0036】
合成香料化合物の具体例として、酸化合物としては、酢酸、酪酸、イソ吉草酸、カプロン酸、オクタン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和・不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0037】
合成香料化合物の具体例として、含窒素化合物としては、インドール、スカトール、ピリジン、アルキル置換ピラジン、アントラニル酸メチル、トリメチルピラジンなどが挙げられる。
【0038】
合成香料化合物の具体例として、含硫化合物としては、メタンチオール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、アリルイソチオシアネート、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、3-メチル-2-ブタンチオール、3-メチル-1-ブタンチオール、2-メチル-1-ブタンチオール、3-メルカプトヘキサノール、4-メルカプト-4-メチル-2-ペンタノン、酢酸3-メルカプトヘキシル、p-メンタ-8-チオール-3-オンおよびフルフリルメルカプタンなどが挙げられる。
【0039】
天然精油としては、スイートオレンジ、ビターオレンジ、プチグレン、レモン、ベルガモット、マンダリン、ネロリ、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ヒヤシンス、ライラック、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナムなどが挙げられる。
【0040】
魚肉エキス類、畜肉エキス類、植物エキス類または酵母エキス類などの各種動植物エキスとしては、ハーブまたはスパイスの抽出物、コーヒー、緑茶、紅茶、またはウーロン茶の抽出物や、乳または乳加工品およびこれらのリパーゼおよび/またはプロテアーゼなどの各種酵素分解物などが挙げられる。
【0041】
また、本件香料組成物は、本件香気徐放化合物を公知の方法によって適切な溶媒や分散媒に添加して調製することができる。すなわち、本件香料組成物の形態としては、本件香気徐放化合物やその他の成分を水溶性または油溶性の溶媒に溶解した溶液、乳化製剤などが挙げられる。
【0042】
ここで、水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、2-プロパノール、メチルエチルケトン、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールなどを例示することができる。これらのうち、飲食品への使用の観点から、エタノールまたはグリセリンが特に好ましい。
【0043】
油溶性溶媒としては、植物性油脂、動物性油脂、精製油脂類(例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの加工油脂や、トリアセチン、トリブチリンなどの短鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる)、各種精油、トリエチルシトレート、流動パラフィン、リモネン、ミリスチン酸イソプロピル、ジヒドロアビエチン酸メチル(ハーコリン)などを例示することができる。
【0044】
また、乳化製剤とするためには、本件香気徐放化合物を水溶性溶媒および乳化剤と共に乳化して得ることができる。本件香気徐放化合物の乳化方法としては特に限定されるものではなく、従来から飲食品などに用いられている各種類の乳化剤、例えば、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、加工でん粉、ソルビタン脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸およびその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼインキラヤサポニン、カゼインナトリウムなどの乳化剤を使用してホモミキサー、コロイドミル、回転円盤型ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化処理することにより安定性の優れた乳化液を得ることができる。また、乳化を安定させるため、係る水溶性溶媒は、水の他に、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、ショ糖、グルコース、トレハロース、糖液、還元水飴などの多価アルコール類の1種類または2種類以上の溶媒を添加して使用することができる。
【0045】
本件香料組成物は、さらに必要に応じて、香料組成物において通常使用される成分を含有していてもよい。当該成分として、例えば、水、エタノールなどの溶剤や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、中鎖脂肪酸ジグリセライドなどの香料保留剤を含有していてもよい。
【0046】
<各種物品への使用>
本件香料組成物は、各種物品またはそれに用いる香料組成物などに添加して使用することができる。具体的には、本件香料組成物は、それ自体を各種物品に添加してもよいし、1種または2種以上の水溶性香料、乳化香料組成物、任意の香料化合物、または、天然精油(例えば、前掲の「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料」、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第III部香粧品用香料」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」、および「合成香料 化学と商品知識」に記載されている香料化合物および/または香料組成物)と併せて各種物品に添加してもよい。
【0047】
本件香料組成物の添加対象となる物品としては特に限定されないが、具体例としては、飲食品、香粧品、医薬衛生品などの消費財が挙げられる。本件香料組成物が有効成分として含有する本件香気徐放化合物が香粧品によく用いられる香料化合物を徐放することから、香粧品に添加して使用することが好ましい。
【0048】
本件香料組成物を添加可能な飲食品は特に限定されないが、例えば、コーラ飲料、果汁入炭酸飲料、乳類入炭酸飲料などの炭酸飲料類;果汁飲料、野菜飲料、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、豆乳、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料、乳飲料などの食系飲料類;緑茶、紅茶、ウーロン茶、ハーブティー、コーヒー飲料などの嗜好飲料類;チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒などのアルコール飲料類;バター、チーズ、ミルク、ヨーグルトなどの乳製品;アイスクリーム、ラクトアイス、氷菓、ヨーグルト、プリン、ゼリー、デイリーデザートなどのデザート類およびそれらを製造するためのミックス類;キャラメル、キャンディー、錠菓、クラッカー、ビスケット、クッキー、パイ、チョコレート、スナックなどの菓子類およびそれらを製造するためのケーキミックスなどのミックス類;牛脂、鶏油、ラードなどの畜肉の油脂や各種魚類の油などの各種油脂;パン、スープ、各種インスタント食品などの一般食品類;を挙げることができる。
【0049】
また、本件香料組成物を添加可能な香粧品または医薬衛生品は特に限定されないが、例えば、石鹸、身体洗剤、浴用剤、洗剤、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント剤、整髪料、化粧水、基礎化粧料、洗顔剤、仕上げ化粧料、皮膚外用剤、衛生用品、制汗剤、デオドラント剤、浴用剤、洗口剤、ハミガキ、香水、コロン、オードトワレ等、人の身なりを清潔に又は美しくするための製品である化粧品やトイレタリー製品;衣料用洗剤、衣料用柔軟剤、衣料用糊剤、住居用洗剤、風呂用洗剤、食器用洗剤、漂白剤、カビ取り剤、床用ワックス、芳香剤、消臭剤、忌避剤、線香、インセンス等、住居や家庭製品の様々な物品の機能又は清潔性を維持するための製品であるハウスホールド製品や環境衛生製品;インク、文具、玩具その他の日用品等の物品などを挙げることができる。
【0050】
本件香料組成物を飲食品や香粧品などの各種物品に適用する場合において、各種物品中の本件香気徐放化合物の濃度は、物品の香気や所望の効果の程度などに応じて任意に決定できる。
【0051】
本件香料組成物を飲食品に適用した場合の、本件香料組成物に含まれる本件香気徐放化合物の濃度の例としては、飲食品の全体質量に対して、0.001ppt~100ppm、好ましくは0.1ppt~10ppm、より好ましくは1ppt~1ppmの範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を0.001ppt、0.01ppt、0.1ppt、1ppt、10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppmのいずれか、上限値を100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100ppt、10ppt、1ppt、0.1ppt、0.01pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。なお、飲食品の種類や香味にも依存するが、飲食品中の本件香気徐放化合物の濃度が0.001ppt未満の場合は、香味改善効果が低いと感じられる場合があり、100ppmを超える場合は、本件香気徐放化合物そのものの香気が突出して添加対象の飲食品の香味に好ましくない変質を与えると感じられる場合がある。ただし、添加対象の飲食品の香味などによっては、添加対象の飲食品に対して本件香気徐放化合物を、前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で添加してもよい。
【0052】
また、本件香料組成物を香粧品または医薬衛生品に適用した場合の、本件香料組成物に含まれる本件香気徐放化合物の濃度の例としては、香粧品または医薬衛生品の全体質量に対して、1ppm~10%、好ましくは10ppm~1%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を1ppm、10ppm、100ppm、0.1%、1%のいずれか、上限値を10%、1%、0.1%、100ppm、10ppmのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
(香気改善方法)
本発明の一実施の形態に係る消費財の香気改善方法(以下、本件香気改善方法という場合がある。)は、本件香気徐放化合物、または本件香気徐放化合物を有効成分として含有する本件香料組成物を飲食品、香粧品などの消費財に添加する工程を含む。本件香気改善方法によれば、消費財の香気が経時的に付与、維持および/または増強され、当該香気が改善されるという効果を奏する。
【0054】
本件香気改善方法において、消費財に対する本件香気徐放化合物または本件香料組成物の添加量は、消費財に有効成分として含まれる本件香気徐放化合物によって、香気が改善される有効量であればよく、消費財の種類や形態に応じて任意に設定することができる。この場合において、消費財に対する本件香気徐放化合物の濃度の例としては、前掲「各種物品への使用」の項目で述べた通りである。
【0055】
本件香気改善方法において、本件香気徐放化合物または本件香料組成物を消費財に添加する方法は特に限定されない。また、本件香気徐放化合物または本件香料組成物を消費財に添加する時期(タイミング)は、特に限定されるものではない。
【実施例0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]本件香気徐放化合物の合成例
<実施例1-1>ジシトロネリルオキサレートの合成
<実施例1-1-1>塩化オキサリルを使用する方法
滴下漏斗を装着した500mL四口フラスコに市販のシトロネロール(34.4g,0.220mol)、トルエン(160g)、ピリジン(19.0g,0.240mol)を加えた。水浴にて冷却しつつ、滴下漏斗から塩化オキサリル(12.7g,0.100mol)を滴下した。18時間反応させた後、反応液に1M塩酸(120g)を加えて反応を停止させた。分離した有機層を10%食塩水、5%炭酸ナトリウム水溶液、20%食塩水の順で洗浄した。ロータリーエヴァポレーターで溶媒を留去した後、粗製(40.9g)から減圧蒸留により(留出温度~55℃/0.1kPa)原料を除去することで、残渣としてジシトロネリルオキサレート(34.7g,収率94.8%,GC純度92.6%)を得た。
【0058】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
H-NMR(CDCl,400MHz) δ 0.92(d,J=6.4Hz,6H),1.20(m,2H),1.34(m,2H),1.54(m,4H),1.59(s,6H),1.67(s,6H),1.77(m,2H),1.97(m,4H),4.31(m,4H),5.07(tm,J=7.2Hz,2H).
13C-NMR(CDCl,100MHz) δ 17.60,19.29,25.27,25.66,29.32,34.98,36.83,65.58,124.33,131.44,157.97.
【0059】
<実施例1-1-2>シュウ酸ジエチルをエステル交換する方法
留出管を装着した200mL四口フラスコに市販のシュウ酸ジエチル(43.8g,0.300mol)、シトロネロール(93.8g,0.600mol)、ナトリウムメトキシド(1.62g,30.0mmol)を加え、150℃に加熱して生成するエタノールを留出させた。10時間反応させた後、4.0kPaに減圧し、さらに8時間反応させた。反応液をn-ヘキサン(200mL)で希釈した後、1%リン酸水溶液で洗浄し、さらに20%食塩水で2回洗浄した。分離した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ロータリーエヴァポレーターで溶媒を留去し、得られた粗製(116g)を減圧蒸留により(留出温度~114℃/0.1kPa)原料を除去することで、残渣としてジシトロネリルオキサレート(52.4g,収率47.6%,GC純度88.5%)を得た。
【0060】
<実施例1-1-3>シュウ酸をエステル化する方法
ジムロート冷却管を装着した2L四口フラスコに市販のシュウ酸無水物(81.0g,0.900mol)、シトロネロール(309g,1.98mol)、シクロヘキサン(900g)を加えて、油浴にて加熱し内温75℃で3時間還流した。一旦冷却してジムロート冷却管をディーン・スターク分離管へと換装し、生成した水を留出させた。4時間反応を行った後、冷却し、反応液を10%炭酸ナトリウム水溶液に注入した。10%食塩水を加えて有機層を分離した後、分離した有機層を10%食塩水で3回洗浄した。有機層からロータリーエヴァポレーターで溶媒を除去して粗製(356g)を得た。この粗製をショートパスエヴァポレーターで処理することで(処理条件:130~160℃/10Pa)、ジシトロネリルオキサレート(233g,収率70.8%,GC純度93.6%)を得た。
【0061】
<実施例1-2>ジゲラニルオキサレートの合成
実施例1-1-1におけるシトロネロールの代わりに市販のゲラニオール(37.0g,0.240mol)を使用することで、粗製49.3gを得た。得られた粗製をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性球状シリカゲル500g、n-ヘキサン/酢酸エチル=20:1)により精製することで、ジゲラニルオキサレート(31.4g,収率86.6%)を得た。
【0062】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
H-NMR(CDCl,400MHz) δ 1.57(s,6H),1.65(s,6H),1.71(s,6H),2.04(m,8H),4.78(d,J=7.2Hz,4H),5.04(tm,J=6.4Hz,2H),5.38(tm,J=7.2Hz,2H).
13C-NMR(CDCl,100MHz) δ 16.56,17.67,25.64,26.15,63.81,116.77,123.53,131.98,144.28,157.95.
【0063】
<実施例1-3>ビス(3-メチル-5-フェニルペンタン-1-イル)オキサレートの合成
実施例1-1-1におけるシトロネロールの代わりに市販の3-メチル-5-フェニルペンタン-1-オール(39.2g,0.220mol)を使用することで、粗製51.7gを得た。得られた粗製を減圧蒸留により(留出温度~83℃/0.1kPa)原料を除去し、ビス(3-メチル-5-フェニルペンタン-1-イル)オキサレート(38.7g,収率94.3%,GC純度95.0%)を得た。
【0064】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
H-NMR(CDCl,400MHz) δ 1.03(d,J=6.4Hz,6H),1.48-1.74(m,8H),1.85(m,2H),2.65(m,4H),4.35(m,4H),7.20(m,6H),7.30(m,4H).
13C-NMR(CDCl,100MHz) δ 19.29,29.39,33.15,34.88,38.61,65.42,125.67,128.24,128.28,142.35,157.87.
【0065】
<実施例1-4>ビス(ジヒドロミルセニル)オキサレートの合成
実施例1-1-1におけるシトロネロールの代わりに市販のジヒドロミルセノール(34.4g,0.220mol)を使用することで、粗製57.3gを得た。得られた粗製を減圧蒸留により(留出温度~37℃/0.1kPa)原料を除去することで、ビス(ジヒドロミルセニル)オキサレート(35.0g,収率95.4%)を得た。
【0066】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
H-NMR(CDCl,400MHz) δ 0.97(d,J=7.2Hz,6H),1.24-1.38(m,8H),1.49(s,12H),1.78(m,4H),2.11(m,2H),4.90(dm,J=10.0Hz,2H),4.94(dm,J=17.6Hz,2H),5.66(ddd,J=17.6,10.0,7.6Hz,2H).
13C-NMR(CDCl,100MHz) δ 20.17,21.33,25.63,25.65,36.56,37.55,40.45,86.43,112.60,144.46,157.74.
【0067】
<実施例1-5>ジ[(Z)-3-ヘキセン-1-イル]オキサレートの合成
実施例1-1-1におけるシトロネロールの代わりに市販の(Z)-3-ヘキセン-1-オール(24.0g,0.240mol)を使用することで、粗製27.1gを得た。これを減圧蒸留することで(留出温度85~109℃/0.1kPa)、ジ[(Z)-3-ヘキセン-1-イル]オキサレート(22.5g,収率88.3%,GC純度99.3%)を得た。
【0068】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
H-NMR(CDCl,400MHz) δ 0.95(t,J=7.6Hz,6H),2.05(quint,J=7.6Hz,4H),2.47(q,J=7.6Hz,4H),4.26(t,J=7.2Hz,4H),5.30(m,2H),5.52(m,2H)。
【0069】
13C-NMR(CDCl,100MHz) δ 14.08,20.54,26.34,66.28,122.48,135.34,157.75.
【0070】
<実施例1-6>ジ(l-メンチル)オキサレートの合成
実施例1-1-1におけるシトロネロールの代わりに市販のl-メントール(32.8g,0.210mol)を使用することで、粗製44.3gを得た。得られた粗製を減圧蒸留により(留出温度~43℃/0.1kPa)原料を除去し、ジ(l-メンチル)オキサレート(36.2g,収率98.9%,GC純度95.0%)を得た。
【0071】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
H-NMR(CDCl,400MHz) δ 0.78(d,J=6.8Hz,6H),0.87(m,2H),0.90(d,J=7.2Hz,6H),0.91(d,J=7.6Hz,6H),1.01-1.16(m,4H),1.51(m,4H),1.70(m,4H),1.87(m,2H),2.05(m,2H),4.81(dt,J=4.8,11.2Hz,2H).
13C-NMR(CDCl,100MHz) δ 16.43,20.52,21.90,23.60,26.34,31.39,34.01,40.22,46.66,77.53,158.16.
【0072】
<実施例1-7>ビス(2-フェニルエチル)オキサレートの合成
実施例1-1-1におけるシトロネロールの代わりに市販の2-フェニルエタノール(29.3g,0.240mol)を使用することで、粗製40.5gを得た。得られた粗製を減圧蒸留により(留出温度~43℃/0.1kPa)原料を除去した後、残渣を14倍量の80%エタノール水溶液に50℃で溶解させ、冷却して再結晶することで、ビス(2-フェニルエチル)オキサレート(26.2g,収率87.9%,GC純度99.8%)を得た。
【0073】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
H-NMR(CDCl,400MHz) δ 3.04(t,J=7.6Hz,4H),4.47(t,J=7.6Hz,4H),7.24(m,6H),7.33(m,4H).
13C-NMR(CDCl,100MHz) δ 34.68,67.29,126.86,128.63,128.91,136.71,157.54.
【0074】
<実施例1-8>ビス(テトラヒドロリナリル)オキサレートの合成
実施例1-1-1におけるすべての仕込み量を半分とし、シトロネロールの代わりにテトラヒドロリナロール(19.0g,0.120mol)を使用することで、粗製23.0gを得た。得られた粗製をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性球状シリカゲル250g、n-ヘキサン/酢酸エチル=20:1)により精製することで、ビス(テトラヒドロリナリル)オキサレート(12.9g,収率69.6%)を得た。
【0075】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
H-NMR(CDCl,400MHz) δ 0.84(d,J=6.4Hz,12H),0.87(t,J=7.6Hz,6H),1.15(m,4H),1.28(m,4H),1.45(s,6H),1.52(m,2H),1.67-1.97(m,8H).
13C-NMR(CDCl,100MHz) δ 7.90,21.21,22.52,23.03,27.76,30.73,37.73,39.06,89.23,157.88.
【0076】
<実施例1-9>ジリナリルオキサレートの合成
実施例1-1-1におけるシトロネロールの代わりに市販のリナロール(31.5g,0.204mol)を使用することで、粗製40.5gを得た。得られた粗製を減圧下に加熱するにより(~50℃/0.1kPa)原料を除去し、ジリナリルオキサレート(35.0g,収率97%,GC純度96.6%)を得た。
【0077】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
H-NMR(CDCl,400MHz) δ 1.56(s,6H),1.60(s,6H),1.64(s,6H),1.76-2.02(m,8H),5.06(tm,J=7.6Hz,2H),5.17(d,J=10.8Hz,2H),5.24(d,J=17.6Hz,2H),5.96(dd,J=17.6,10.8Hz,2H).
13C-NMR(CDCl,100MHz) δ 17.56,22.24,23.23,25.62,39.42,86.50,114.55,123.32,132.17,140.05,156.98.
【0078】
<実施例1-10>ビス(2-イソブチル-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)オキサレートの合成
実施例1-1-1におけるシトロネロールの代わりに市販の2-イソブチル-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-オール(37.9g,0.220mol)を使用することで、粗製48.7gを得た。得られた粗製を減圧蒸留により(留出温度~58℃/0.1kPa)原料を除去し、ビス(2-イソブチル-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)オキサレート(38.4g,収率96.3%)を得た。
【0079】
得られた化合物の物性データ(ジアステレオマー混合物)は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl,400MHz) δ 0.88(d,J=6.8Hz,12H),1.11-1.31(m,2.7H),1.38-1.52(m,2H),1.57(s,1.5H),1.58(s,1.0H),1.60-1.80(m,3.7H),1.69(s,2.3H),1.71(s,1.4H),1.96(m,1.3H),2.06-2.32(m,4H),3.36-3.50(m,2.4H),3.52―3.66(m,1.5H),3.82(m,0.8H),3.95(m,1.2H).
13C-NMR(CDCl,100MHz) δ 21.44,21.52,22.22,22.26,22.28,23.09,23.11,24.23,25.82,25.89,35.83,36.04,36.08,37.21,37.30,41.92,42.01,42.17,43.27,43.39,44.90,44.93,45.19,63.15,64.42,70.71,70.80,72.75,83.43,83.52,83.54,84.18,84.21,157.04,157.14,157.32,157.34,157.41.
【0080】
[実施例2]香気徐放効果の確認
本件香気徐放化合物について、以下の通りに香気徐放効果を確認した。市販の無香料の柔軟剤を基剤として用意し、この柔軟剤基剤に、市飯のまたは実施例1で合成したジシトロネリルオキサレート、ジゲラニルオキサレート、ビス(3-メチル-5-フェニルペンタン-1-イル)オキサレート、ビス(ジヒドロミルセニル)オキサレート、ジ[(Z)-3-ヘキセン-1-イル]オキサレート、ジ(l-メンチル)オキサレート、ビス(2-フェニルエチル)オキサレート、ビス(テトラヒドロリナリル)オキサレート、ジリナリルオキサレート、ビス(2-イソブチル-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)オキサレートをそれぞれ当該基剤の全質量に対しその量が1%となるように添加した(以下「本発明品1~10の柔軟剤」とする。)。次いで、本発明品1~10の柔軟剤0.5gを1.5Lの水(20℃)に溶かし(3000倍希釈)、そこに木綿100%のタオルを浸漬させ、20回手で攪拌したのち、10分間放置した。次いで、タオルの水気を手で搾り、日光の当たる室内で吊り下げた(以下「本発明品1~10のタオル」とする。)。この際、本発明品1~10のタオルは、24時間吊り下げた状態で放置する(自然乾燥)群と、50~60℃の熱風を30分間当てる(加熱乾燥)群との両方を用意した。
【0081】
一方、本件香気徐放化合物が徐放する香料化合物であるシトロネロール、ゲラニオール、3-メチル-5-フェニルペンタノール、ジヒドロミルセノール、(Z)-ヘキサ-3-エン-1-オール、l-メントール、2-フェニルエタノール、テトラヒドロリナロール、リナロール、2-イソブチル-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-オールをそれぞれ当該基剤の全質量に対しその量が1%となるように添加した(以下「比較品1~10の柔軟剤」とする。)。以下、上記本発明品1~10のタオルと同様に、比較品1~10の柔軟剤を使用した比較品1~10のタオルを用意した。
【0082】
以上の方法に従って得られた本発明品1~10および比較品1~10のタオルからそれぞれ感じられる香気について、処理(上記自然乾燥または上記加熱乾燥)直後および1週間経過後の官能評価を行った。官能評価では、10名の訓練されたパネリストがタオルの香気を嗅ぎ、市販の無香料の柔軟剤を使用したタオルを対照品として、この対照品と比べた香気の強度について、以下の基準で点数づけを行った。
【0083】
<評価基準>
5点:強く感じられる
4点:やや強く感じられる
3点:感じられる
2点:弱く感じられる
1点:わずかに感じられる
0点:感じられない
【0084】
本発明品1~10および比較品1~10のタオルの官能評価の結果を下記表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示すように、本件香気徐放化合物は、酵素(リパーゼ)を用いることなく香気を徐放することが確認された。すなわち、本件香気徐放化合物はいずれも、1週間経過時において、香気化合物単体よりも香気の強度が高い(高い残香性を示す)ことが確認された。また、表1に示すように、本件香気徐放化合物を含む柔軟剤(消費財に相当)は、柔軟剤の香気が経時的に付与、維持および/または増強され、当該香気が改善されるという効果を奏することが確認された。