(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110054
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】ステータの製造方法及びステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 15/085 20060101AFI20240807BHJP
H02K 3/34 20060101ALI20240807BHJP
H02K 3/48 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
H02K15/085
H02K3/34 C
H02K3/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014385
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】井上 順二
(72)【発明者】
【氏名】杉野 聡一
(72)【発明者】
【氏名】西井 文哉
【テーマコード(参考)】
5H604
5H615
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB08
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC15
5H604DB06
5H604PB03
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP13
5H615QQ03
5H615QQ06
5H615QQ12
5H615SS09
(57)【要約】
【課題】組み立て作業性を向上でき、延いてはエネルギーの効率化に寄与できるステータの製造方法及びステータを提供する。
【解決手段】複数のティース5及び複数のスロット7を有するステータコアと、軸方向に延びるように形成されてスロット7に挿通されるセグメント導体12を有する複数のコイル3と、ティース5とコイル3との間に設けられた発泡剤9と、を備えたステータ1の製造方法において、1つのティース5を挟んで周方向の両側に位置する2つのスロット7に跨るように、ステータコア2における軸方向の一方から発泡剤9を挿通する発泡剤挿通工程と、発泡剤挿通工程の後、発泡剤9を加熱して膨張させることによりステータコア2に対してコイル3を固定するコイル固定工程と、を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に並ぶ複数のティース、及び周方向で隣り合う前記ティースの間にそれぞれ形成される複数のスロットを有するステータコアと、
軸方向に延びるように形成されて前記スロットに挿通されるセグメント導体を有し、前記ティースに巻回される複数のコイルと、
前記ティースと前記コイルとの間に設けられた発泡剤と、
を備えたステータの製造方法において、
1つの前記ティースを挟んで周方向の両側に位置する2つの前記スロットに跨るように、前記ステータコアにおける軸方向の一方から前記発泡剤を挿通する発泡剤挿通工程と、
前記発泡剤挿通工程の後、前記発泡剤を加熱して膨張させることにより前記ステータコアに対して前記コイルを固定するコイル固定工程と、
を有する、
ことを特徴とするステータの製造方法。
【請求項2】
前記発泡剤挿通工程において、周方向に1つ置きに位置する前記ティースに、それぞれ軸方向の一方から前記発泡剤を装着する、
ことを特徴とする請求項1に記載のステータの製造方法。
【請求項3】
前記発泡剤挿通工程の後、前記スロットに前記セグメント導体を挿通するセグメント導体挿通工程を有し、
前記セグメント導体挿通工程の後、前記コイル固定工程を行う、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のステータの製造方法。
【請求項4】
前記セグメント導体挿通工程の後、各前記コイルの端部同士を接合するコイル接合工程を有し、
前記コイル接合工程の後、前記コイル固定工程を行う、
ことを特徴とする請求項3に記載のステータの製造方法。
【請求項5】
周方向に並ぶ複数のティース、及び周方向で隣り合う前記ティースの間にそれぞれ形成される複数のスロットを有するステータコアと、
軸方向に延びるように形成されて前記スロットに挿通されるセグメント導体を有し、前記ティースに巻回される複数のコイルと、
前記ティースと前記コイルとの間に設けられた発泡剤と、
を備え、
前記発泡剤は、
1つの前記ティースにおける周方向の両側面を覆うようにそれぞれ前記スロットに挿通される2つのスロット挿通部と、
前記2つのスロット挿通部における軸方向の一端同士を連結し、1つの前記ティースにおける軸方向の一端を覆う連結部と、
を有する、
ことを特徴とするステータ。
【請求項6】
前記スロットの内側面と前記セグメント導体の外側面との間、及び前記スロット内において前記セグメント導体同士の間の少なくともいずれかに、冷媒が流れる冷媒流路が形成されている、
ことを特徴とする請求項5に記載のステータ。
【請求項7】
周方向に1つ置きに位置する前記ティースに、それぞれ軸方向の一方から前記発泡剤が装着されている、
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステータの製造方法及びステータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動モータや発電機等の回転電機は、ステータとステータに対して回転自在に設けられたロータと、を備える。ステータは、ステータコアと、ステータコアに巻回されるコイルと、を備える。ステータコアは、例えば円筒状のバックヨーク(ヨーク)と、バックヨークから径方向の内側に突出する複数のティースと、が一体成形されている。周方向に隣り合うティースの間に、それぞれスロットが形成される。これらスロットにコイルを挿通し、各ティースにコイルが巻回される。
【0003】
ところで、例えば振動によってステータコアに巻回されたコイルが動くことにより、コイルが損傷してしまう可能性があった。このため、ステータコアに対してコイルを固定するためのさまざまな技術が提案されている。例えば、ティースの周囲を被覆するシート状の発泡剤(熱膨張性シート)を設けた技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
これによれば、ティースにおける径方向の内側から環状の発泡剤を挿通する。その後、発泡剤を加熱して膨張させることにより、スロット内の隙間が埋まる。これにより、ステータコアにコイルが固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術にあっては、作業スペースの限られたティースにおける径方向の内側から環状の発泡剤を挿通する。このため、発泡剤の装着作業が煩わしく、ステータの組み立て作業性が悪いという課題があった。
【0006】
そこで、この発明は、組み立て作業性を向上でき、延いてはエネルギーの効率化に寄与できるステータの製造方法及びステータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明に係るステータ(例えば、実施形態のステータ1)の製造方法は、周方向に並ぶ複数のティース(例えば、実施形態のティース5)、及び周方向で隣り合う前記ティースの間にそれぞれ形成される複数のスロット(例えば、実施形態のスロット7)を有するステータコア(例えば、実施形態のステータコア2)と、軸方向に延びるように形成されて前記スロットに挿通されるセグメント導体(例えば、実施形態のセグメント導体12)を有し、前記ティースに巻回される複数のコイル(例えば、実施形態のコイル3)と、前記ティースと前記コイルとの間に設けられた発泡剤(例えば、実施形態の発泡剤9)と、を備えたステータの製造方法において、1つの前記ティースを挟んで周方向の両側に位置する2つの前記スロットに跨るように、前記ステータコアにおける軸方向の一方から前記発泡剤を挿通する発泡剤挿通工程と、前記発泡剤挿通工程の後、前記発泡剤を加熱して膨張させることにより前記ステータコアに対して前記コイルを固定するコイル固定工程と、を有する、ことを特徴とする。
【0008】
このように、2つのスロットに跨るように、ステータコアにおける軸方向の一方から発泡剤を挿通する。ステータコアの軸方向の一方は、ティースにおける径方向の内側と比較して組み立て作業スペースを十分に確保できる。このため、ステータコアへの発泡剤の装着作業を容易に行うことができる。よって、ステータの組み立て作業性を向上でき、延いてはエネルギーの効率化に寄与できる。
【0009】
(2)上記方法において、前記発泡剤挿通工程において、周方向に1つ置きに位置する前記ティースに、それぞれ軸方向の一方から前記発泡剤を装着してもよい。
【0010】
このような方法とすることで、発泡剤の部品点数を削減できる。
また、発泡剤を加熱した際、セグメント導体は、周方向の両側から発泡剤に押圧されることなく、周方向の片側のみ発泡剤に押圧されることになる。これにより、スロットの内側面とセグメント導体の外側面との間に隙間が形成されやすくなる。この隙間を冷媒が流れる冷媒流路として機能させることができる。よって、ステータの冷却効率を高めることができ、さらにエネルギーの効率化に寄与できる。
【0011】
(3)上記方法において、前記発泡剤挿通工程の後、前記スロットに前記セグメント導体を挿通するセグメント導体挿通工程を有し、前記セグメント導体挿通工程の後、前記コイル固定工程を行ってもよい。
【0012】
このような方法とすることで、ステータコアへの発泡剤の装着作業を確実に容易化できる。
【0013】
(4)上記方法において、前記セグメント導体挿通工程の後、各前記コイルの端部同士を接合するコイル接合工程を有し、前記コイル接合工程の後、前記コイル固定工程を行ってもよい。
【0014】
コイル固定工程では、発泡剤の膨張によってスロット内のコイルの位置がずれる可能性がある。これに伴い、コイルの端部の位置もずれる可能性があり、コイルの端部同士を接合するコイル接合工程が行いにくくなる可能性があった。そこで、コイル接合工程の後、コイル固定工程を行うことにより、確実にコイル接合工程を行うことができる。
【0015】
(5)本発明に係るステータは、周方向に並ぶ複数のティース、及び周方向で隣り合う前記ティースの間にそれぞれ形成される複数のスロットを有するステータコアと、軸方向に延びるように形成されて前記スロットに挿通されるセグメント導体を有し、前記ティースに巻回される複数のコイルと、前記ティースと前記コイルとの間に設けられた発泡剤と、を備え、前記発泡剤は、1つの前記ティースにおける周方向の両側面(例えば、実施形態の側面5b)を覆うようにそれぞれ前記スロットに挿通される2つのスロット挿通部(例えば、実施形態のスロット挿通部9a)と、前記2つのスロット挿通部における軸方向の一端同士を連結し、1つの前記ティースにおける軸方向の一端を覆う連結部(例えば、実施形態の連結部9b)と、を有する、ことを特徴とする。
【0016】
このように構成することで、ステータコアにおける軸方向の一方から発泡剤を挿通することができる。発泡剤は、2つのスロット挿通部と連結部とによりU字状に形成されている。このため、ティース上で発泡剤の位置決め(固定)を容易に行うことができる。
したがって、ステータコアへの発泡剤の装着作業を容易に行うことができる。よって、ステータの組み立て作業性を向上でき、延いてはエネルギーの効率化に寄与できる。
【0017】
(6)上記構成において、前記スロットの内側面と前記セグメント導体の外側面との間、及び前記スロット内において前記セグメント導体同士の間の少なくともいずれかに、冷媒が流れる冷媒流路(例えば、実施形態の冷媒流路17,18)が形成されていてもよい。
【0018】
このように構成することで、ステータコアに対してコイルを確実に固定しつつ、スロット内に冷媒を流すことができる。このため、ステータの冷却効率を向上でき、さらにエネルギーの効率化に寄与できる。
【0019】
(7)上記構成において、周方向に1つ置きに位置する前記ティースに、それぞれ軸方向の一方から前記発泡剤が装着されていてもよい。
【0020】
このように構成することで、発泡剤の部品点数を削減できる。
また、発泡剤を加熱した際、セグメント導体は、周方向の両側から発泡剤に押圧されることなく、周方向の片側のみ発泡剤に押圧されることになる。これにより、スロットの内側面とセグメント導体の外側面との間に隙間が形成されやすくなる。この隙間を冷媒が流れる冷媒流路として機能させることができる。よって、ステータの冷却効率を高めることができ、さらにエネルギーの効率化に寄与できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ステータの組み立て作業性を向上でき、延いてはエネルギーの効率化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態における電動モータの一部を破断した斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態におけるステータの軸方向に沿う概略断面図である。
【
図4】本発明の実施形態におけるコイルの詳細な斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態におけるステータの製造方法を示す説明図であり、(a)~(c)は各工程を示す。
【
図6】本発明の実施形態の変形例におけるステータの製造方法を示す説明図であり、(a)~(c)は各工程を示す。
【
図7】本発明の実施形態における一部のスロットを拡大したステータの径方向に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
<電動モータ>
図1は、本発明に係るステータ1を備えた電動モータ100の一部を破断した斜視図である。電動モータ100は、ステータ1を備えた回転電機の一例である。
図1に示すように、電動モータ100は、ケース101に収容されたステータ1を備える。
ステータ1は、円筒状のステータコア2と、ステータコア2に巻回される複数のコイル3と、を備える。ステータコア2の径方向中央に、図示しないロータが回転自在に設けられる。ロータは、ステータ1とともに電動モータ100を構成し、永久磁石が設けられている。以下の説明では、ロータの回転軸線Cと平行な方向を軸方向と称し、ロータの回転方向を周方向と称し、軸方向及び周方向に直交するロータの径方向を単に径方向と称する。
【0025】
<ステータコア>
ステータコア2は、例えば複数の電磁鋼板を軸方向に積層することにより形成される。ステータコア2は、円筒状のバックヨーク4と、バックヨーク4の内周面から径方向内側に突出する複数のティース5と、が一体成形されている。バックヨーク4は、回転軸線Cと同軸上に配置されている。バックヨーク4の外周面には、複数の取付座6が径方向外側に突出形成されている。取付座6に形成されている図示しないボルト孔にボルトを挿通し、このボルトをケース101に螺合する。これにより、ケース101にステータコア2が締結固定される。
【0026】
図2は、
図1のII部拡大図である。
図2は、説明を分かりやすくするために各部の縮尺を適宜変更している。
図3は、ステータ1の軸方向に沿う概略断面図である。
図2、
図3に示すように、ティース5は、周方向に間隔(例えば、等間隔)を空けて配置されている。ティース5は、軸方向からみてT字状に形成されている。すなわち、ティース5は、バックヨーク4の内周面から径方向内側に突出するティース本体15と、ティース本体15における径方向の内側端から周方向の両側に張り出す鍔部16と、が一体成形されている。
【0027】
ティース5における鍔部16の内周面5aを除いた全周、及びバックヨーク4のうちの少なくとも内周面4aには、絶縁被膜8が形成されている。絶縁被膜8は、ステータコア2とコイル3との絶縁を確保する。絶縁被膜8は、例えばステータコア2を樹脂モールドすることにより形成される。しかしながら絶縁被膜8は樹脂に限られるものではなく、ステータコア2とコイル3との絶縁が確保できればよい。例えば、絶縁被膜8に代わって絶縁紙を用いてもよい。
【0028】
周方向で隣り合うティース5の間には、それぞれ蟻溝状のスロット7が形成される。各スロット7には、シート状の発泡剤9が挿通されている。さらに、各スロット7には発泡剤9の上からコイル3が挿通される。各ティース5に、絶縁被膜8及び発泡剤9の上からコイル3が巻回される。
本実施形態のスロット7は周方向で隣り合う鍔部16の間が開放された、いわゆるオープンスロットである。しかしながらこれに限られるものではなく、周方向で隣り合う鍔部16の間が閉じられた、いわゆるクローズスロットでもよい。
【0029】
<発泡剤>
発泡剤9は、各ティース5にそれぞれ軸方向の一方(
図3における上方)から装着されている。発泡剤9は例えばエポキシ樹脂によって形成されており、加熱により発泡して膨張する。発泡剤9は、対応する1つのティース5を挟んで周方向の両側に位置する2つのスロット7に跨るように、径方向からみてU字状に形成されている。
【0030】
より具体的には、発泡剤9は、対応する1つのティース5における周方向の両側面5bを覆う2つのスロット挿通部9aと、そのティース5における軸方向の一端面(
図3における上端面)5cを覆う連結部9bと、を有する。2つのスロット挿通部9aは、それぞれスロット7に挿通される。したがって各スロット7には、それぞれ別々の発泡剤9のスロット挿通部9aが1つずつ挿通されている。連結部9bは、2つのスロット挿通部9aにおける軸方向の一端(
図3における上端)同士を連結する。発泡剤9は、単層で構成されていてもよいし、複数層で構成されていてもよい。
【0031】
<コイル>
図4は、コイル3の詳細な斜視図である。
図2、
図4に示すように、コイル3は、例えばU相、V相、W相の3相構造である。コイル3は、例えば複数のセグメントコイル10が互いに連結されて構成されている。セグメントコイル10は、芯線が絶縁被覆に覆われて構成されている。セグメントコイル10は、例えば平角線である。すなわち、各セグメントコイル10における径方向に沿う断面形状は、長方形状に形成されている。
【0032】
各セグメントコイル10は、2つのセグメント導体12と、2つのセグメント導体12における軸方向の第1端部12a同士に跨る第1コイルエンド部13と、2つのセグメント導体12における第1端部12aとは軸方向で反対側の第2端部12bからそれぞれ延出する2つの第2コイルエンド部14と、を有する。2つのセグメント導体12は、軸方向に互いに平行に延びている。これらセグメント導体12が、それぞれ発泡剤9の上から所定のスロット7に挿通される。
【0033】
第1コイルエンド部13は、ステータコア2における軸方向の第1端部12a上に配置される。第2コイルエンド部14は、ステータコア2における第1端部12aとは軸方向で反対側の第2端部12bから軸方向外側に引き出される。第2コイルエンド部14の端部は、芯線が露出している。各第2コイルエンド部14のうち、一方の第2コイルエンド部14は、別のセグメントコイル10の第2コイルエンド部14に例えばTIG溶接やレーザ溶接等により接合される。他方の第2コイルエンド部14は、さらに別のセグメントコイル10の第2コイルエンド部14に接合される。これにより、複数のセグメントコイル10が順次連結されている。
【0034】
図2に詳示するように、同一のスロット7に挿通される複数のセグメント導体12は、径方向に沿って一列に配列されている。本実施形態では、同一のスロット7に、例えば5本のセグメント導体12が挿通される。しかしながらこれに限られるものではなく、同一のスロット7に挿通されるセグメント導体12の本数は任意に設定することができる。
同一のスロット7に配列された各セグメント導体12の周方向両側に、発泡剤9のスロット挿通部9aが配置された形になる。
【0035】
ここで、スロット7の径方向の長さL1は、同一のスロット7に挿通された複数のセグメント導体12を重ね合わせた径方向の長さL2よりも長い。スロット7の径方向の長さL1とは、バックヨーク4の内周面4aを被覆する絶縁被膜8の表面と鍔部16の外側面16aを被覆する絶縁被膜8の表面との間の長さである。
【0036】
したがって、スロット7の内側面とセグメント導体12の外側面との間、及びスロット7内においてセグメント導体12同士の間の少なくともいずれかには、隙間C1が形成される。隙間G1は、図示しない冷媒が流れる冷媒流路17として機能する。換言すれば、スロット7の内側面とセグメント導体12の外側面との間、及びスロット7内においてセグメント導体12同士の間の少なくともいずれかには、冷媒流路17が形成される。
図2では、模式的にスロット7のうち、径方向の外側と径方向の内側とに冷媒流路17を図示している。
【0037】
冷媒流路17は、ステータコア2を軸方向に貫通するように形成されている。冷媒によってステータ1を冷却することが可能である。冷媒としては、例えば電動モータ100の駆動用の潤滑油が挙げられる。しかしながらこれに限られるものではなく、さまざまな冷媒を採用することが可能である。
【0038】
このような構成のもと、各セグメントコイル10には、U相、V相、W相の3相のうち、所定の相の電流が流れる。これにより、所定のティース5に鎖交磁束が形成される。この鎖交磁束と図示しないロータの永久磁石(磁極)との間に磁気的な吸引力や反発力が生じ、ロータが継続的に回転される。
【0039】
<ステータの製造方法>
次に、
図5に基づいて、ステータ1の製造方法について説明する。
図5は、ステータ1の製造方法を示す説明図であり、(a)~(c)は各工程を示す。
図5(a)に示すように、予めステータコア2に絶縁被膜8を形成する。このうえで、各ティース5に発泡剤9を装着する。具体的には、ステータコア2における軸方向の一方側に、発泡剤9のスロット挿通部9aのうちの連結部9bとは反対側の先端を向ける。この状態で、各々対応するティース5を挟んで周方向の両側に位置する2つのスロット7に跨るように、発泡剤9のスロット挿通部9aを挿通する(発泡剤挿通工程)。
【0040】
次に、
図5(b)に示すように、ステータコア2における軸方向の一方側からセグメントコイル10(コイル3)を組み付ける。具体的には、ステータコア2における軸方向の一方側に、第2コイルエンド部14を向ける。このとき、第2コイルエンド部14は、セグメント導体12に対して真っ直ぐな状態である。この状態で、各々対応するスロット7に、第2コイルエンド部14及びセグメント導体12を挿通する(セグメント導体挿通工程)。セグメント導体挿通工程では、治具を用いることによりステータコア2に対する各セグメントコイル10の簡易位置決めが行われる。
【0041】
セグメント導体挿通工程を行った状態では、発泡剤9の連結部9b上にセグメントコイル10の第1コイルエンド部13が位置される。セグメントコイル10は、各スロット7にセグメント導体12が挿通された後、径方向で隣り合うセグメント導体12間で曲げ方向が逆方向になるように、各第2コイルエンド部14を周方向に屈曲させる。そして、周方向で隣り合うセグメントコイル10同士を、第2コイルエンド部14を介して接合する(コイル接合工程)。これにより、各ティース5にコイル3が巻回される。
【0042】
次に、
図5(c)に示すように、発泡剤9を加熱により発泡させて膨張させる。発泡剤9の加熱方法としては、例えば加熱炉を用いて発泡剤9を加熱する方法がある。この他、コイル3に電流を供給してコイル3を発熱させ、このコイル3の発熱を利用して発泡剤9を加熱する方法がある。しかしながらこれに限られるものではなく、さまざまな方法で発泡剤9を加熱させてよい。
【0043】
発泡剤9が膨張されると、発泡剤9によってセグメント導体12における周方向の両側面が押圧される。これにより、ステータコア2に対してコイル3が固定される(コイル固定工程)。そして、ステータ1の製造が完了する。
【0044】
このとき、発泡剤9のうちスロット7に挿通されているスロット挿通部9aは、ティース5の両側面5bを覆っているだけである。このため、セグメント導体12における周方向の両側面は発泡剤9に密着するものの、スロット7内の径方向においてスロット7の内側面とセグメント導体12の外側面との間、及びスロット7内においてセグメント導体12同士の間の少なくともいずれかには、冷媒流路17(隙間G1)が形成される。
【0045】
このように、上述のステータ1は、ティース5とコイル3との間に設けられた発泡剤9を備える。発泡剤9は、対応する1つのティース5における周方向の両側面5bを覆う2つのスロット挿通部9aと、そのティース5における軸方向の一端面(
図3における上端面)5cを覆う連結部9bと、を有する。2つのスロット挿通部9aは、それぞれスロット7に挿通される。連結部9bは、2つのスロット挿通部9aにおける軸方向の一端(
図3における上端)同士を連結する。
【0046】
このため、ステータコア2における軸方向の一方から発泡剤9を挿通することができる。発泡剤9は、2つのスロット挿通部9aと連結部9bとによりU字状に形成されている。このため、ティース5上で発泡剤9の位置決め(固定)を容易に行うことができる。この結果、ステータコア2への発泡剤9の装着作業を容易に行うことができる。よって、ステータ1の組み立て作業性を向上でき、延いてはエネルギーの効率化に寄与できる。
【0047】
スロット7の内側面とセグメント導体12の外側面との間、及びスロット7内においてセグメント導体12同士の間の少なくともいずれかには、冷媒流路17が形成されている。このため、ステータコア2に対してコイル3を確実に固定しつつ、スロット7内に冷媒を流すことができる。よって、ステータ1の冷却効率を向上でき、さらにエネルギーの効率化に寄与できる。
【0048】
ステータ1の製造方法では、発泡剤挿通工程と、コイル固定工程と、を有する。発泡剤挿通工程では、1つのティース5を挟んで周方向の両側に位置する2つのスロット7に跨るように、ステータコア2における軸方向の一方から発泡剤9を挿通する。ステータコア2の軸方向の一方は、ティース5における径方向の内側と比較して組み立て作業スペースを十分に確保できる。このため、ステータコア2への発泡剤9の装着作業を容易に行うことができる。よって、ステータ1の組み立て作業性を向上でき、延いてはエネルギーの効率化に寄与できる。
【0049】
発泡剤挿通工程の後、セグメント導体挿通工程を行い、その後にコイル固定工程を行っている。このため、ステータコア2への発泡剤9の装着作業を確実に容易化できる。
【0050】
これに加え、セグメント導体挿通工程の後、コイル接合工程を行い、その後にコイル固定工程を行っている。
ところで、コイル固定工程では、発泡剤9の膨張によってスロット7内のコイル3の位置がずれる可能性がある。これに伴い、コイル3の第2コイルエンド部14の位置もずれる可能性があり、コイル接合工程が行いにくくなる可能性があった。しかしながら上述のステータ1の製造方法では、コイル接合工程の後、コイル固定工程を行っているので、確実にコイル接合工程を行うことができる。
【0051】
[変形例]
次に、
図6、
図7に基づいて、ステータ1の変形例について説明する。
上述の実施形態では、発泡剤9は、各ティース5にそれぞれ装着されている場合について説明した。各スロット7には、それぞれ別々の発泡剤9のスロット挿通部9aが1つずつ挿通されている場合について説明した。これにより、同一のスロット7に配列された各セグメント導体12の周方向両側に、発泡剤9のスロット挿通部9aが配置された形になる場合について説明した。
しかしながらこれに限られるものではなく、周方向に1つ置きに位置するティース5に、それぞれ発泡剤9を装着してもよい。
【0052】
<ステータの製造方法>
図6に基づいて、変形例におけるステータ1の製造方法について説明する。
図6は、変形例におけるステータ1の製造方法を示す説明図であり、(a)~(c)は各工程を示す。
図6は、前述の
図5に対応している。変形例におけるステータ1の製造方法は、上述のステータ1の製造方法と基本的には同一である。このため、以下では割愛しながら説明する。
【0053】
図6(a)に示すように、予めステータコア2に絶縁被膜8を形成する。このうえで、1つ置きに位置するティース5を挟んで周方向の両側に位置する2つのスロット7に跨るように、発泡剤9のスロット挿通部9aを挿通する(発泡剤挿通工程)。
この状態では、各スロット7には、1つの発泡剤9のスロット挿通部9aが1つ挿通されている。
【0054】
次に、
図6(b)に示すように、各々対応するスロット7に、第2コイルエンド部14及びセグメント導体12を挿通する(セグメント導体挿通工程)。
この状態では、同一のスロット7に配列された各セグメント導体12の周方向両側のうち、片側のみに発泡剤9のスロット挿通部9aが配置された形になる。
【0055】
セグメントコイル10は、各スロット7にセグメント導体12が挿通された後、径方向で隣り合うセグメント導体12間で曲げ方向が逆方向になるように、各第2コイルエンド部14を周方向に屈曲させる。そして、周方向で隣り合うセグメントコイル10同士を、第2コイルエンド部14を介して接合する(コイル接合工程)。これにより、各ティース5にコイル3が巻回される。
【0056】
次に、
図6(c)に示すように、発泡剤9を加熱により発泡させて膨張させる。すると、発泡剤9によってセグメント導体12における周方向の両側面のうち、一方の側面が押圧される。セグメント導体12における周方向の両側面のうち、他方の側面は、ティース5の側面5bに押圧される。これにより、ステータコア2に対してコイル3が固定される(コイル固定工程)。そして、ステータ1の製造が完了する。
【0057】
図7は、一部のスロット7を拡大したステータ1の径方向に沿う断面図である。
図7は、前述の
図2に対応している。
図7に示すように、コイル固定工程後において、ティース5の側面5bとセグメント導体12との間には隙間G2が形成される。セグメント導体12が押圧されるティース5の側面5bには発泡剤9のスロット挿通部9aが配置されていないので、ティース5の側面5bとセグメント導体12との間が完全に埋まらないからである。これに加え、セグメント導体12は、完全に真っ直ぐではなく多少歪んでいるからである。隙間G2は、図示しない冷媒が流れる冷媒流路18として機能する。換言すれば、ティース5の側面5bとセグメント導体12との間には、冷媒流路18が形成される。
【0058】
このように、上述の変形例では、周方向に1つ置きに位置するティース5に、それぞれ軸方向の一方から発泡剤9が装着されている。このため、発泡剤9の部品点数を削減できる。また、ティース5の側面5bとセグメント導体12との間に隙間G2が形成されやすくなる。この隙間G2を冷媒流路18として機能させることができる。隙間G2が形成される分、2つの冷媒流路17,18が形成されることになる。このため、ステータコア2内を流れる冷媒の圧損も低減できる。よって、上述の実施形態と同様の効果を奏するのに加え、さらにステータ1の冷却効率を高めることができるとともに、さらにエネルギーの効率化に寄与できる。
また、各スロット7に1つの発泡剤9のスロット挿通部9aが1つ挿通されているだけでもコイル3に対して十分な固定力を発揮することができる。
【0059】
本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、回転電機の一例としての電動モータ100に上述のステータ1の構成を採用した場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、さまざまな回転電機にステータ1の構成を採用できる。例えば、電動モータ100に代わって発電機にも上述のステータ1の構成を採用できる。
【0060】
上述の実施形態では、セグメントコイル10は、例えば平角線である場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、セグメントコイル10は丸線でもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…ステータ
2…ステータコア
3…コイル
5…ティース
5b…側面
7…スロット
9…発泡剤
9a…スロット挿通部
9b…連結部
12…セグメント導体
17,18…冷媒流路