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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110055
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】核酸検査装置及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240807BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240807BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20240807BHJP
【FI】
C12M1/00 A
G01N33/543 521
C12Q1/6844 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014388
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】505000480
【氏名又は名称】フィンガルリンク株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】514164993
【氏名又は名称】株式会社TBA
(71)【出願人】
【識別番号】000185868
【氏名又は名称】タクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小寺 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小林 久美
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA08
4B029AA23
4B029BB20
4B029FA12
4B063QA01
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS24
4B063QX01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】一層簡易にかつ迅速に標的核酸を検出できる検査装置及びその利用を提供する。
【解決手段】核酸検査装置2を、核酸をクロマトグラフィーするためのクロマトグラフィー担体50を収容する第1室20と、検体由来の標的核酸の核酸増幅反応のための成分を含有する液体を収容可能な第2室30と、を備え、第1室20と第2室30とは、外部からの操作で第2室30の液体を第1室20に送液可能に形成されており、第2室30の液体が第1室20のクロマトグラフィー担体50の展開基部に供給可能に形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸検査装置であって、
核酸をクロマトグラフィーするためのクロマトグラフィー担体を収容する第1室と、
検体由来の標的核酸の核酸増幅反応のための成分を含有する液体を収容可能な第2室と、
を備え、
前記第1室と前記第2室とは、外部からの操作で前記第2室の前記液体を前記第1室に送液可能に形成されており、前記第2室の前記液体が前記第1室の前記クロマトグラフィー担体の展開基部に供給可能に形成されている、装置。
【請求項2】
前記第2室の少なくとも一部が塑性変形可能又は弾性変形可能であり、前記第2室に対する変形動作によって前記第2室の前記液体を前記第1室に送液可能に形成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1室と前記第2室の間との間には、前記第2室に対する押圧によって液体連通が可能なゲートを備える、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
核酸検査装置であって、
核酸をクロマトグラフィーするためのクロマトグラフィー担体を収容する第1室と、
検体由来の標的核酸の核酸増幅反応のための成分を含有する液体を収容可能な第2室と、
前記第2室に送液する液体を収容可能な第3室と、
を備え、
前記第3室の少なくとも一部が塑性変形又は弾性変形可能であり、前記第3室と前記第2室とは、前記第3室に対する変形動作によって前記第3室の前記液体が前記第2室に送液可能に形成されるとともに、前記第2室の前記液体の少なくとも一部と前記第3室の前記液体の少なくとも一部との混合液が前記展開基部に供給可能に形成されている、装置。
【請求項5】
前記第1室と、前記第2室と、前記第3室とを、この順序で直列に備える、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記第1室と前記第2室の間及び前記第2室と前記第3室との間には、それぞれ、前記第3室に対する押圧によって液体連通が可能なゲートを備える、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記核酸増幅反応は、等温核酸増幅反応である、請求項1~6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
請求項1~3のいずれかに記載の核酸検査装置のための容器であって、
核酸をクロマトグラフィーするための前記クロマトグラフィー担体を収容可能な前記第1室と、
検体由来の標的核酸の前記核酸増幅反応のための成分を含有する前記液体を収容可能であって、少なくとも一部が塑性変形可能である前記第2室と、
前記第1室と前記第2室の間との間には、前記第2室に対する押圧によって液体連通が可能なゲートを備える、容器。
【請求項9】
請求項8に記載の容器と、
前記第1室に収容された又は収容されていない状態の前記クロマトグラフィー担体と、
前記第2室に収容された又は収容されていない状態の検体由来核酸の核酸増幅反応のための成分を含有する前記液体と、
を備える、核酸検査キット。
【請求項10】
請求項4~6のいずれかに記載の核酸検査装置のための容器であって、
核酸をクロマトグラフィーするための前記クロマトグラフィー担体を収容する前記第1室と、
検体由来の標的核酸の核酸増幅反応のための成分を含有する前記液体を収容可能な前記第2室と、
前記第2室に送液する前記液体を収容可能であって、少なくとも一部が塑性変形可能又は弾性変形可能である前記第3室と、
前記第1室と前記第2室との間及び前記第2室と前記第3室との間には、それぞれ、前記第3室に対する変形動作によって液体連通が可能なゲートを備える、容器。
【請求項11】
請求項10に記載の前記容器と、
前記第1室に収容された又は収容されていない状態の前記クロマトグラフィー担体と、
前記第2室に収容された又は収容されていない状態の検体由来核酸の核酸増幅反応のための成分を含有する前記液体と、
を備える、核酸検査キット。
【請求項12】
核酸の検査方法であって、
請求項1~6のいずれかに記載の前記核酸検査装置を用いて、
核酸増幅反応を実施する工程と、
前記第2室で生成した増幅反応産物を含有する液体を前記第1室の前記クロマトグラフィー担体の展開基部に供給してクロマトグラフィーを実施する工程と、
を備える、方法。
【請求項13】
前記核酸増幅反応は、等温核酸増幅反応である、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、標的遺伝子などの標的核酸を検出する核酸検査装置、検査キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
検体中の感染症や疾病などに関連する特定の遺伝子を標的核酸として検出するためには、標的核酸に関連付けられて増幅された核酸増幅産物を調製し、核酸増幅産物をラベルし、ラベルした核酸増幅産物をハイブリダイゼーションにより捕捉し検出することが行われている。こうした検出を実現するための装置として、例えば、ラベルした核酸増幅産物を、これを捕捉するプローブを予め所定位置に固定したストリップ上で移動させて検出する装置がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載の装置は、ラベル化した核酸増幅産物を含む増幅反応液を収容するチューブと、チューブ中の増幅反応液に浸漬可能に保持されたストリップをチューブに対して押込操作するピストンロットと、を、備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-83347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の装置では、ストリップは、チューブとは別個の部材に収容されており、検査時には、ストリップを保持するピストンロッドをチューブに対して押込操作する必要があった。また、チューブに対してピストンロッドを取り付けする操作も必要であった。
【0006】
検体数が多い場合などの検査の実施環境及び検査者の手技レベルによっては、個々のチューブに対するピストンロッドの取り付け操作や押込操作を回避したい場合もあった。
【0007】
本明細書は、一層簡易にかつ迅速に標的核酸を検出できる検査装置及びその利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、標的核酸の核酸増幅反応による増幅産物の調製、ストリップ上でのクロマトグラフィーによる展開液の展開、という操作を、1つの密閉されたデバイス内で実施できる装置の実現を意図した。鋭意検討の結果、本発明者らは、外部からの操作により液体連通可能に隔離された複数の室を備えて、複数の室のそれぞれに、核酸増幅反応液、ストリップを備えるようにすることで、核酸クロマトグラフィーの工程が簡易に実現できるという知見を得た。こうした知見に基づき、本明細書の開示は、以下の手段を提供する。
【0009】
[1]核酸検査装置であって、
核酸をクロマトグラフィーするためのクロマトグラフィー担体を収容する第1室と、
検体由来の標的核酸の核酸増幅反応のための成分を含有する液体を収容可能な第2室と、
を備え、
前記第1室と前記第2室とは、外部からの操作で前記第2室の液体を前記第1室に送液可能に形成されており、前記第2室の前記液体が前記第1室の前記クロマトグラフィー担体の展開基部に供給可能に形成されている、装置。
[2]前記第2室の少なくとも一部が塑性変形可能又は弾性変形可能であり、前記第2室に対する変形動作によって前記第2室の液体を前記第1室に送液可能に形成されている、[1]に記載の装置。
[3]前記第1室と前記第2室の間との間には、前記第2室に対する変形動作によって液体連通が可能なゲートを備える、[2]に記載の装置。
[4]核酸検査装置であって、
核酸をクロマトグラフィーするためのクロマトグラフィー担体を収容する第1室と、
検体由来の標的核酸の核酸増幅反応のための成分を含有する液体を収容可能な第2室と、
前記第2室に送液する液体を収容可能な第3室と、
を備え、
前記第3室の少なくとも一部が塑性変形又は弾性変形可能であり、前記第3室と前記第2室とは、前記第3室に対する変形動作によって前記第3室の前記液体が前記第2室に送液可能に形成されるとともに、前記第2室の前記液体の少なくとも一部と前記第3室の前記液体の少なくとも一部との混合液が前記展開基部に供給可能に形成されている、装置。
[5]前記第1室と、前記第2室と、前記第3の室と、をこの順序で直列に備える、[4]に記載の装置。
[6]前記第1室と前記第2室の間及び前記第2室と前記第3室との間には、それぞれ、前記第3室に対する変形動作によって液体連通が可能なゲートを備える、[5]に記載の装置。
[7]前記核酸増幅反応は、等温核酸増幅反応である、[1]~[6]のいずれかに記載の装置。
[8][1]~[3]のいずれかに記載の核酸検査装置のための容器であって、
核酸をクロマトグラフィーするための前記クロマトグラフィー担体を収容可能な第1室と、
検体由来の標的核酸の核酸増幅反応のための成分を含有する前記液体を収容可能であって、少なくとも一部が塑性変形可能又は弾性変形可能である第2室と、
前記第1室と前記第2室の間との間には、前記第2室に対する変形動作によって液体連通が可能なゲートを備える、容器。
[9][8]に記載の前記容器と、
前記第1室に収容された又は収容されていない状態の前記クロマトグラフィー担体と、
前記第2室に収容された又は収容されていない状態の標的核酸の核酸増幅反応のための成分を含有する前記液体と、
を備える、核酸検査キット。
[10][4]~[6]のいずれかに記載の核酸検査装置のための容器であって、
核酸をクロマトグラフィーするための前記クロマトグラフィー担体を収容する前記第1室と、
検体由来の標的核酸の核酸増幅反応のための成分を含有する前記液体を収容可能な前記第2室と、
前記第2室に送液する液体を収容可能であって、少なくとも一部が塑性変形可能又は弾性変形可能である前記第3室と、
前記第1室と前記第2室との間及び前記第2室と前記第3室との間には、それぞれ、前記第3室に対する変形動作によって液体連通が可能なゲートを備える、容器。
[11][10]に記載の容器と、
前記第1室に収容された又は収容されていない状態の前記クロマトグラフィー担体と、
前記第2室に収容された又は収容されていない状態の検体由来の標的核酸の核酸増幅反応のための成分を含有する前記液体と、
を備える、核酸検査キット。
[12]核酸の検査方法であって、
[1]~[6]のいずれかに記載の核酸検査装置を用いて、
核酸増幅反応を実施する工程と、
前記第2室で生成した増幅反応産物を含有する液体を前記第1室の前記クロマトグラフィー担体の展開基部に供給してクロマトグラフィーを実施する工程と、
を備える、方法。
[13]前記核酸増幅反応は、等温核酸増幅反応である、[12]に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の装置の一例の平面図と、リッド及びトレイの平面図とを組み合わせて示す図である。
図2】装置の分解図を断面図として示す図である。
図3】ゲート26を拡大して示す図である。
図4】装置を用いた検査工程の一例を示す図である。
図5】検査実施後のクロマトグラフィー担体上における標的核酸の検出シグナルの一例を示す図である。
図6】装置2においてリッド14を可撓性フィルムとする他の実施形態を示す図である。
図7】装置2においてトレイ4及びリッド14を可撓性フィルムとする他の実施形態を示す図である。
図8】装置2において第2室30及び第3室40の配列を変更する他の実施形態を示す図である。
図9】装置2において第2室を塑性変形可能として、第3室を省略する他の実施形態を示す図である。
図10】装置2において第1室20にクロマトグラフィー担体50を支持するリブを設ける他の実施形態を示す図である。
図11】装置2において第1室20に送液量を制限するための混合液貯留部を設ける他の実施形態を示す図である。
図12】装置2において第1室20に送液量を制限するための混合液保持部を設ける他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書の開示は、核酸検査装置(以下、単に、装置という。)及びその利用等に関する。本明細書に開示される装置によれば、第1室には、クロマトグラフィー担体が収容され、第2室には、核酸増幅反応のための成分が収容されるようになっている。第1室と第2室とは、外部からの操作で第2室の液体の一部が第1室に対して送液可能に形成され、第2室の液体、例えば、核酸増幅産物含有液体が第1室のクロマトグラフィー担体の展開基部に供給可能に形成されている。すなわち、この装置によれば、装置に対して上記した液体連通させる操作を行うだけで、第2室の液体を第1室のクロマトグラフィー担体に供給して、液体中に含まれうる可能性のある標的核酸についてクロマトグラフィーを実施できる。
【0012】
このため、核酸増幅反応後に、クロマトグラフィー担体を収容する部材の取り付けや押込動作などの煩雑な操作を回避して、クロマトグラフィー担体上でのクロマトグラフィーを簡易にかつ迅速に実施できる。また、核酸増幅反応及びクロマトグラフィーを装置内で完了できるため、これらの工程において外部からのコンタミネーションを回避できるため、検査の再現性や精度を向上させることができる。
【0013】
なお、本明細書において、核酸とは、DNA、RNAなど、検査対象となる核酸であればよい。こうした核酸の由来も特に限定するものではないが、典型的には、病原体微生物又はウイルス、ヒト等の疾患関連遺伝子、SNP、変異等が挙げられる。
【0014】
また、本明細書において、核酸の検査とは、特定の核酸の有無の検出、同定又は定量である。典型的には検出又は同定である。本明細書において検体とは、公知の種々の生物又は非生物から採取される核酸を含む可能性のある検体であればよい。また、検体は、生物又は非生物のどのような部分、成分であってもよい。
【0015】
以下、本明細書に開示される核酸検査装置、そのための容器及び検査方法等について説明する。図1は、実施形態の装置の一例の平面図を示し、図2は、装置の分解図を断面図で示し、図3は、ゲート26を拡大して示し、図4は、装置を用いた検査工程の一例を示し、図5は、検査実施後の、クロマトグラフィー担体上における標的核酸の検出シグナルの一例を示す。
【0016】
(核酸検査装置)
図1に示す装置2は、核酸クロマトグラフィーのクロマトグラフィー担体を収容してクロマトグラフィーを実施する第1室20と、検体由来核酸の核酸増幅反応のための成分を含有する液体を収容して核酸増幅反応を実施する第2室30と、第1室20に、第2室30内で生成した核酸増幅反応液を送液可能な液体を収容する第3室40と、を備えている。本実施形態は、塑性変形可能な第3室40を備えている。
【0017】
装置2は、第1室20、第2室30、第3室40を、この順で直列に配置して備えるとともに、外部からの操作によって、第3室40の収容された液体が第2室30に対して送液され、さらに、この結果、第2室30で混合された液体が第1室20にも送液され、結果として、第1室20においてクロマトグラフィーが可能となるように形成されている。
【0018】
装置2は、第1室20と第2室30との隔離及び送液のためのゲート26と、第2室30と第3室40との隔離及び送液のためのゲート36を備えている。ゲート26は、第1室20と第2室30との間に亘って延び、ゲート36は、第2室30と第3室40との間に亘って延びている。
【0019】
装置2は、上記のとおりにこれらの室20、30、40及びゲート26、36を備えていればよく、その構成や成形方法が限定されるものではない。装置2は、例えば、プラスチック材料から、概ね全体が射出成形などで形成されていてもよく、また、複数のプラスチック製部品から、例えば、真空成形等によって形成されていてもよい。本実施形態では、装置2は、例えば、図1及び図2に示すように、それぞれ、プラスチック材料からなり、成形時の形状保持が可能な所定の剛性を有するトレイ4とリッド14とからなり、これらが接合されて形成されている。
【0020】
トレイ4は、例えば、細長く平坦状であるプレート6から下方に突出する凸壁部8、10、12を備えている。これらの凸壁部8、10、12は、それぞれ、リッド14との間で、中空のキャビティである第1室20、第2室30、第3室40をこれらの順で直列的にそれぞれ形成可能に構成されている。
【0021】
リッド14は、例えば、トレイ4を覆って、少なくとも、トレイ4の凸壁部8、10、12の外縁及びゲート26、36の外縁において、接合されている。接合方法は、特に限定するものではないが、接着剤、粘着剤、溶着等を適宜使用することができる。接着剤及び粘着剤は、シート状体を適宜用いてもよい。
【0022】
ゲート26、36は、通常は液体が連通しないが、一定以上の勢い(液圧)及び/又は量及び/又はぬれ性の液体が到達されれば、液体が通過可能な程度に、形成されている。
【0023】
以下、これらの各室20、30、40の詳細について説明し、その後、これらの各室20、30、40の間のゲート26、36の詳細について説明する。
【0024】
(第1室)
第1室20は、核酸のクロマトグラフィーを実施するキャビティである。第1室20は、クロマトグラフィー担体50を収容可能なサイズに形成されている。
【0025】
第1室20は、例えば、クロマトグラフィーの際、クロマトグラフィー担体50を第1室20内にクロマトグラフィーに差し支えないように保持できる内部容積及び形状を備える。第1室20は、クロマトグラフィー担体50がクロマトグラフィー可能な程度に動くことなく保持されれば良く、典型的には、幅2mm以上10mm以下、上下方向の厚み1.5mm以上3mm以下、長さ30mm以上80mm以下などとすることができる。
【0026】
第1室20において、クロマトグラフィー担体50は、クロマトグラフィー時において展開の開始部分となる端部(展開基部)52が、第1室20の第2室30に近い端部20aに配置されるようになっている。
【0027】
第1室20は、クロマトグラフィー担体50が予め収容されていてもよいし、使用時において、第1室20に収容するようにしてもよいが、収容されていることが都合がよい場合がある。用時に収容する場合には、第1室20にクロマトグラフィー担体50を収容するためのシール可能な導入口を適宜設けることができる。導入口は、クロマトグラフィー担体50を収容後に、導入口をシールするシール部材を備えることができる。
【0028】
クロマトグラフィー担体50は、通常、展開方向に沿って細長い平板状又は棒状の形態を有している。また、クロマトグラフィー担体50は、液体が毛細管現象等により移動可能な種々の多孔質体ないし繊維質体等で形成されている。クロマトグラフィー担体50は、概して、プラスチック、セルロース等の材料で形成される。こうしたクロマトグラフィー担体50は、こうした材料でのみ形成されていてもよいし、クロマトグラフィー担体50を裏打ちするなどの保持体などをさらに備えていてもよい。
【0029】
クロマトグラフィー担体50は、核酸クロマトグラフィーを実施するための要素として、核酸を捕捉するプローブを少なくとも備えている。プローブは、核酸を検出するための要素として、当業者において周知の種々の形態を採りうる。典型的には、プローブは、標的核酸の増幅産物の一部とハイブリダイズ可能な塩基配列を有するDNAを含んでいる。
【0030】
プローブは、検出又は同定等をしようとする核酸の種類に応じて備えられる。検出等の対象となる核酸が1種類のときには、1種類のプローブを備え、2種類以上のときには、2種類以上のプローブを備えている。1種又は2種以上のプローブは、例えば、クロマトグラフィー担体50の展開方向において異なる位置にそれぞれクロマトグラフィー担体50に予め保持されている。例えば、図5に示すように、プローブ保持領域54は、典型的には、クロマトグラフィー担体50の展開方向の所定位置において展開方向に直交するようなライン状に形成されている。プローブのクロマトグラフィー担体50への固定化方法は、当業者において周知であり、当該周知の方法で、クロマトグラフィー担体50へ固定されている。
【0031】
クロマトグラフィー担体50は、さらに、プローブによって捕捉された標的核酸の検出を容易にするためのシグナル要素を保持していてもよい。こうしたシグナル要素も、当業者において周知であるが、例えば、着色された粒子であって、核酸に対して容易に結合される粒子である。典型的には、着色され、核酸又は核酸に結合された標識(一例として、ビオチン)と相互作用する結合要素(一例として、ストレプトアビジン)を備えるシグナル要素が挙げられる。
【0032】
こうしたシグナル要素は、例えば、クロマトグラフィー担体50の展開基部52の近傍に保持され得る。クロマトグラフィーによりシグナル要素保持領域を通過した標的核酸は、シグナル要素と結合し、さらに、プローブ保持領域に到達すると、プローブによって捕捉され、結果として、プローブ保持領域において選択的にシグナルが増大され、検査対象の核酸が検出されることになる。
【0033】
シグナル要素保持領域は、特に限定するものではないが、公知の手法でクロマトグラフィー担体50に形成される。例えば、図5に示すように、クロマトグラフィー担体50にあっては、展開基部52から展開方向に所定距離離間した部位に、シグナル要素を保持させた毛細管現象により液体が通過可能なパッドを、クロマトグラフィー担体50に一体化させることで、シグナル要素保持領域56を備えている。
【0034】
さらに、クロマトグラフィー担体50は、標的核酸のクロマトグラフィー及びプローブによる捕捉を容易にするための成分を備えることができる。こうした成分として、核酸を変性させる性質を有する界面活性剤や尿素などが挙げられる。こうした成分をクロマトグラフィー担体50に保持する領域を、クロマトグラフィー担体50に対して備えることができる。こうした成分の保持領域は、例えば、シグナル要素保持領域56の近傍に、シグナル要素保持領域56と同様に、成分を保特させたパッドをクロマトグラフィー担体50に一体化することで備えることができる。
【0035】
(第2室)
第2室30は、核酸増幅反応を実施するためのキャビティである。第2室30は、検体由来核酸の核酸増幅反応のための成分を含有する液体を収容可能サイズに形成されている。第2室30に収容される液体は、核酸増幅反応のための成分として、例えば、酵素、プライマー、ヌクレレオチド、無機塩類、バッファ(水)、シグナル要素などを含むことができる。こうした成分は、当業者は商業的に入手可能である。さらに、使用時において、液体は、検体由来の核酸を含むことができる。
【0036】
第2室30は、検体由来核酸以外の成分を、予め第2室30に収容しており、装置2の使用時において、検体由来核酸のみを第2室30に導入するものであってもよい。また、第2室30は、検体由来核酸も含めて、核酸増幅反応のための成分を、装置2の使用時において、第2室30に導入するものであってもよい。第2室30は、各種成分を、装置2の使用時において第2室30に導入するための導入口32と、少なくともその後に導入口32をシールするシール部材34を備えることができる。
【0037】
第2室30は、核酸増幅反応を実施可能な内部容積及び形状を備えることができる。例えば、図1及び図2に示すように、凸壁部10は、断面円形の筒状に突出する外皮状に形成されている。この結果、凸壁部10とリッド14との間で、円筒状のキャビティを備える第2室30を形成することができる。
【0038】
第2室30の容積は、例えば、10μl以上50μl以下であり、また例えば、50μl以上250μl以下であり、また例えば、250μl以上500μlなどとすることができる。
【0039】
第2室30における核酸増幅反応のための成分及び検体由来核酸を含めた液体の液量は、例えば、5μl以上であり、また例えば、10μl以上であり、また例えば、15μl以上であり、また例えば、20μl以上などとすることができる。また、液量は、例えば、50μl以下であり、また例えば、40μl以下であり、また例えば、30μl以下であり、また例えば、20μl以下である。液量の範囲は、これらの下限及び上限を適宜組み合わせて設定できるが、例えば、5μl以上10μl以下、10μl以上20μl以下などとすることができる。なお、この液体の液量は、核酸増幅反応後の核酸増幅産物を含有する液体の液量でもある。
【0040】
さらに、第2室30は、第3室40から液体が送液された際、第3室40からの液体と第2室30内の核酸増幅反応液後の核酸増幅産物含有液との合計量として、第1室20に対して、例えば、20μl以上、また例えば、30μl以上、また例えば、40μl以上送液できるように形成されている。また、送液量は、例えば、50μl以下、また例えば、40μl以下、また例えば、30μl以下である。送液量の範囲は、これらの下限及び上限を適宜組み合わせて設定できるが、例えば、15μl以上30μl以下、20μl以上40μl以下、また例えば、25μl以上50μl以下などとすることができる。
【0041】
第2室30における核酸増幅反応は、公知の種々の核酸増幅反応を利用できる。核酸増幅反応は、高温と低温とからなる1つの温度サイクルを繰り返し実施する非等温の増幅反応と、等温で実施する等温増幅反応などがあるが、これら公知の核酸増幅反応をいずれも実施できる。例えば、等温増幅反応を用いることで、検査時における温度制御を簡易化でき、検査精度を向上させるとともに装置コスト等を低減できるメリットがある。
【0042】
第2室30は、クロマトグラフィー担体50を用いた核酸クロマトグラフィーを実施するのに好適な展開媒体成分を含有していてもよい。展開媒体成分として、例えば、水と相溶する有機溶媒、バッファなどを含むことができる。なお、こうした展開媒体成分は、第2室30における核酸増幅反応を阻害しない程度に含まれ得る。
【0043】
(第3室)
第3室40は、第2室30において生成した核酸増幅産物を含有する液体を、第1室20に送液する液体を収容するキャビティである。第3室40を備えることで、第1室20内のクロマトグラフィー担体50における核酸クロマトグラフィーを適切に実施可能な有効量の核酸増幅産物含有液体を第1室20に送液することができる。
【0044】
第3室40は、核酸クロマトグラフィーを妨げない液体ないし核酸クロマトグラフィーに好適な液体を含有していればよく、特に限定するものではないが、例えば、水及び/又は水と相溶する有機溶媒等である。
【0045】
第3室40は、また、第2室30で生成した核酸増幅産物含有液体を希釈する液体を収容するキャビティでもある。こうした希釈液体としては、例えば、水及び/又は水と相溶する有機溶媒等である。
【0046】
第3室40は、また、展開媒体成分を含有する液体を収容するキャビティでもある。すなわち、第3室40は、クロマトグラフィー担体50を用いた核酸クロマトグラフィーを実施するのに好適な展開媒体成分を含有していてもよい。第2室30とは別個に、第3室40に展開媒体成分を含有することで、例えば、界面活性剤、尿素などの展開媒体成分の種類を、核酸増幅反応の遂行を考慮しないで第3室40に準備することができる。また、第3室40に十分量の展開媒体成分を含有する液体を準備し、核酸クロマトグラフィーを実施できる。
【0047】
展開媒体成分として、上記のとおり、例えば、水と相溶する有機溶媒、バッファなどを含むことができる。さらに、上記したシグナル要素なども含むことができる。こうした成分は、当業者は容易に商業的に入手可能である。
【0048】
第3室40は、展開媒体成分を含有する液体を、予め第3室40に収容していてもよいし、装置2の使用時において、こうした液体を、第3室40に導入するものであってもよい。装置2の使用時において、第3室に前記液体を導入する場合、第3室40は、液体を装置2の使用時において第3室40に導入するための導入口42と、少なくともその後に導入口42を密封するシール部材44を備えることができる。
【0049】
第3室40は、第2室30への送液ないし第1室20への第2室30内の液体の送液によるクロマトグラフィー担体50を用いた核酸クロマトグラフィーのために、好適な量の液体を送液できるような容積に形成されている。また、第3室40は、第2室30に比較すると、例えば、1.5倍以上、また例えば、1.8倍以上、また例えば、2倍以上、また例えば、2,5倍以上、また例えば、3倍以上などの容積を備えることができる。例えば、300μl以上600μl以下であり、また例えば、350μl以上550μl以下であり、また例えば、400μl以上500μl以下などとすることができる。第3室40に収容される送液ないし展開媒体を含む液体の液量は、第3室40の容積の、例えば60%以上90%以下、また例えば、65%以上80%以下、また例えば、70%以上80%以下である。
【0050】
また、図1及び図2に示すように、凸壁部12は、プレート6から半球状に突出するように形成されている。この結果、凸壁部12とリッド14との間で、半球状のキャビティを備える第3室40を形成することができる。
【0051】
第3室40は、その少なくとも一部が、塑性変形可能に形成される。第3室40が塑性変形可能に形成されることで、変形時には、第3室40の容積が減容し、第3室40に収容された液体自体が、ゲート36を液体連通させて、第3室40の液体の、例えば、50%以上、また例えば、60%以上、また例えば、70%以上、80%以上、また例えば、85%以上、また例えば、90%以上、また例えば、95%以上を第2室30に到達させて、ひいては、第1室20に到達させることができる。
【0052】
第3室40が塑性変形可能に形成される態様としては、第3室40を構成する凸壁部12に対して外力を与える変形して変形後の形状がほぼ永続的に維持されて、第3室40の容積が減容する態様が挙げられる。こうした凸壁部12は、例えば、容易に塑性変形可能なプラスチック材料及び/又は厚み及び/又は形状に形成される。
【0053】
第3室40が塑性変形可能に形成される凸壁部12の形状は特に限定するものではないが、例えば、円筒状又は半球状等が挙げられる。図1及び図2に示すように半球状に突出する凸壁部12に外力を加えて圧縮変形させる。半球状の凸壁部12は、例えば、作業者の手指による圧縮変形が容易であり、また、圧縮変形により効果的に第3室40の容積が減容され、第3室40内の液体が、ゲート36を通過して、第2室30に送液され、さらに、第2室30内の液体の一部が、第1室20に到達される。
【0054】
(ゲート)
ゲート26は、第1室20と第2室30との間に備えられる。ゲート26は、第2室30に第3室40から第3液体が送液されてきたとき、第2室30内の核酸増幅産物を含有する第2液体を、第1室20に送液することができる。一方、ゲート26は、液体を連通し送液可能な流路ではあるが、単に、第2室30の液体がゲート26には到達しても、その部位を通過して、第1室20には到達できないように形成される。
【0055】
装置2におけるゲート26は、ゲート26に対応するプレート6における内表面とゲート26に対応するリッド14の内表面によって規定される。ゲート26は、種々の形態を採りうる。
【0056】
こうしたゲート26は、流路としてのゲート26を規定するプレート6の内表面及び/又はリッド14の内表面について、これらのサイズ、形状、表面特性(例えば、濡れ性ないし撥液性)によって形成される。
【0057】
例えば、ゲート26を規定するプレート6とリッド14との間に、ごくわずかなスリットないし間隙とするなど、例えば、開口断面が500~1000μm程度の流路を形成することが挙げられる。こうすることで、第2室30の液体は、通常では、その表面張力のために通過できないが、液圧がさらに付加されたときにのみゲート26を通過させることができる。
【0058】
この種の流路を設けるには、例えば、トレイ4とリッド14とを粘着剤層又は接着剤層などの接合層で接合するが、ゲート26の形成領域では、これらの層を備えないように設定することが挙げられる。また例えば、こうした接合層を備えないときには、ゲート26の形成領域において、プレート6及び/又はリッド14に成形、切削及び/又はエッチングにより溝部を形成して設定することが挙げられる。
【0059】
また例えば、ゲート26を、第1室20と第2室30との間をつなぐ直線状の流路ではなく、複数の屈曲部を備える複雑なパターンの流路に形成することが挙げられる。こうすることで、第2室30の液体は、通常では、その曲がった複雑な流路形状のために通過できないが、液圧がさらに付加されたときには通過させることができる。こうした複雑なパターンの流路は、例えば、トレイ4とリッド14との間に接合層を備える場合には、こうした流路パターンの外縁に沿って接合層を備えるようにすることにより形成できる。また例えば、接合層を備えない場合には、トレイ4及び/又はリッド14の成形、切削及び/又はエッチングにより複雑なパターンの溝部及び/又はリブを形成することによっても形成できる。
【0060】
また例えば、直線状等の流路であるゲート26であっても、ゲート26の内表面の少なくとも一部を撥液処理することが挙げられる。こうすることで、通常では、第2室30の液体が撥液性のために通過が阻止されるが、高い液圧が付加されたときには、液体を通過させることができる。こうした撥液処理は、液体の種類に応じて適宜選択可能である。
【0061】
また例えば、例えば、直線状等の流路であるゲート26であっても、内部に部分的に液体連通の障壁を形成することが挙げられる。こうすることで、通常では、第2室30の液体の通過が阻止されるが、高い液圧が付加されたときには、通過させることができる。こうした部分的な障壁は、ゲート26の平面形態に対して、部分的に又は全体に分散して、1個又は複数個設けることができる。
【0062】
障壁をゲート26に部分的に設ける場合、例えば、ゲート26の中央部に、1個又は複数個の障壁を設けることができる。個々の障壁は、例えば、ゲート26の中央部に複数個設ける場合には、ドット状、ストリーム状等、種々のパターンで形成する。個々の障壁の形態は特に限定するものではなく、不定形であってもよい。
【0063】
障壁をゲート26に全体的に分散して設ける場合、例えば、ゲート26を構成する溝部24とリッド14との間に複数個の障壁を、ドット状、ストリーム状等の種々のパターンで形成する。個々の障壁の形態は特に限定するものではなく、不定形であってもよい。
【0064】
こうした部分的な障壁は、例えば、トレイ4とリッド14との間に接合層を備える場合には、トレイ及び/又はリッド14の形成時においてドット状等にパターニングされた接合層にて形成することができる。また、接合層を備えない場合には、トレイ4及び/又はリッド14の成形、切削及び/又はエッチングにより流路と障壁(リブ)を形成することによっても形成できる。さらに、接合層の有無にかかわらず、トレイ4とリッド14の接合時又は接合後に、ゲート26に対応するプレート6及びリッド14の部分において、部分的に溶着して障壁を形成することもできる。
【0065】
これらの各種の態様は、適宜組み合わせることもできる。さらに、例えば、これらの各種態様及びその組合せにおいて、外部からの操作で液体の連通がより容易に可能になるように、ゲート26において、第1室20に向かって、徐々に、開口断面積が小さくなるようにすることもできる。
【0066】
ゲート26は、第2室30から、比較的少量、例えば15μl以上60μl以下程度の核酸増幅産物含有液体と第3室40からの液体の混合液を第1室20に送液するように形成される。このため、後述するゲート36よりも液体連通性及び送液性が小さく(低く)なるように形成することができる。
【0067】
図3には、ゲート26の一例として、第1室20と第2室30とを直線的に連通させる流路であって、第3室40からの送液圧によって初めて液体連通する流路を備えている。このゲート26は、トレイ4とリッド14とを接合する接合層を備えない領域として形成している。すなわち、ゲート26に対応する領域には接合層を備えないで、当該領域の外縁に沿ってその外側に備えることで、ゲート26を形成している。
【0068】
ゲート36は、第2室30と第3室40との間に備えられる。ゲート36は、第3室40を外力、すなわち、第3室40に対する変形動作によって変形させることで、第3室40内の液体を第2室に送液することができる。ゲート36は、液体を連通し送液可能な流路ではあるが、単に、第3室40の液体がゲート36には到達しても、その部位を通過して、第2室30には到達できないように形成される。
【0069】
装置2におけるゲート36は、ゲート36に対応するプレート6における内表面とゲート26に対応するリッド14の内表面によって規定される。ゲート36は、流路としてのゲート36を規定するプレート6の内表面及び/又はリッド14の内表面のサイズ、形状、表面特性(例えば、濡れ性ないし撥液性)によって形成される。
【0070】
ゲート36は、ゲート26について既に説明した種々の形態を採り得る。すなわち、ゲート26について説明に準じて、ゲート36を、送液可能なスリット又は間隙の流路とする、屈曲部を備えるパターンの流路とする、内表面の少なくとも一部が撥液処理された流路とする、内部に部分的に障壁を備える流路とする、第2室30に向かって徐々に開口断面積が小さくなるような流路とする、などのいずれかあるいはこれらを適宜組み合わせることができる。
【0071】
ゲート36は、第3室40の変形によって、直接比較的大量、例えば、100μl以上600μl未満程度の液体が通過することになるため、ゲート26よりも液体連通性及び送液性が高く(大きく)なるように形成することができる。
【0072】
図3には、ゲート36の一例として、第2室30と第3室40とを直線的に連通させる流路であって、第3室40からの送液圧によって初めて液体連通する流路を備えている。このゲート36は、ゲート26と同様に、トレイ4とリッド14とを接合する接合層を備えない領域として形成している。
【0073】
次に、装置2を用いて、検体に含まれる核酸が検査対象である核酸であるかどうかの検査について、図4及び図5を参照して説明する。なお、以下の検査においては、図1~3に示す装置2の第1室20には、予め、適切なクロマトグラフィー担体50が収容され、容積150μlの第2室30には、検体由来核酸以外の核酸増幅反応のための成分7μlが予め収容され、容積500μlの第3室40には、送液のための水350μlが予め収容されているものとする。
【0074】
また、以下の説明において、核酸はDNAであり、核酸増幅反応では、等温増幅反応により、DNA二本鎖であって、一方のDNAの末端に他方のDNA鎖よりも5’側に延在する一本鎖部分を有し、他方のDNA鎖の5’末端には、ビオチンが付与された部分一本鎖DNA二本鎖を増幅産物として生成するようにプライマー等を準備した。
【0075】
まず、標的核酸が含まれている可能性のある検体から核酸画分を分画し、これを検体由来核酸溶液とする(ステップS10)。なお、この工程は、必要に応じて省略してもよい。
【0076】
次いで、第2室30のシール部材34を剥がして、導入口32を開放して、検体由来核酸溶液3μlを第2室30に導入して、第2室30内の核酸増幅反応液の液量を10μlとした。次いで、装置2の第2室30を含んだ下方の部分を、65℃に予め設定されたウォーターバスで40分間静置した(ステップS20)。
【0077】
ウォーターバスから装置2を取り出した後、装置2の長さ方向を水平方向に沿って保持した状態でかつ凸壁部12を上方に向けるようにして、凸壁部12を上方から手指で押圧して凸壁部12を概ね押しつぶして変形させることにより、第3室40内の液体の一部がゲート36を通過して、第2室30に送液され、さらに、第2室内の増幅反応産物含有液体と液体との混合液の一部が、ゲート26を通過して、第1室20に送液される。典型的には、第2室30において生成された混合液の25μlから50μlが第1室20に送液される(ステップS30)。なお、凸壁部12の変形動作は、上記態様に限定するものではなく、装置2を概ね鉛直方向に保持して行ってもよいし、装置2を概ね水平方向に保持して、凸壁部12を下方に向けるようにして行ってもよい。
【0078】
これにより、核酸増幅産物を含む混合液が第1室20に送液されると、混合液が、クロマトグラフィー担体50の展開基部52に接触し、核酸増幅産物に関するクロマトグラフィーが開始される(ステップS40)。なお、第3室40の変形動作を、装置2を概ね水平状態にして行うことから、第1室20におけるクロマトグラフィーもそのままラテラルで行われる。なお、適宜、装置2を鉛直方向に沿うようにして、クロマトグラフィー担体50における展開方向を概ね鉛直上方となるようにしてもよい。
【0079】
第1室20に送液された混合液は、展開基部52から毛細管現象によりクロマトグラフィー担体50を上昇し、シグナル要素保持領域56に到達して、ストレプトアビジンを備える着色ビーズであるシグナル要素と結合し、さらに、プローブ保持領域54に到達して、核酸増幅産物が標的核酸に関連付けられる場合は、保持されたプローブとDNA一本鎖部分とでハイブリダイズして、プローブ保持領域54に捕捉された。プローブによって核酸増幅産物が捕捉され除去された混合液は、さらに、クロマトグラフィー担体50を上昇して、所定の展開終了ラインに到達して、クロマトグラフィーを終了する。
【0080】
図5にクロマトグラフィー終了後のクロマトグラフィー担体50を示す。クロマトグラフィーを終了後に、プローブ保持領域54において、着色ビーズによる着色の有無を目視にて観察する(ステップS50)。着色ビーズに基づく着色がプローブ保持領域54に観察された場合には、検体由来核酸が標的核酸である又は標的核酸を含むといえる。
【0081】
装置2によれば、第3室40、ゲート36、26を備えることにより、容易に核酸クロマトグラフィーが実施可能となっている。すなわち、装置2によれば、作業者が第3室40を押しつぶすことによって、核酸増幅産物を含む液を、ゲート36、26を介して、クロマトグラフィー担体50に供給して、クロマトグラフィーを開始できる。すなわち、こうした、簡易でかつ少ない操作量で、核酸クロマトグラフィーを、コンタミネーション可能性を低減して実施できる。また、装置2によれば、クロマトグラフィー担体50は予め第1室20に収容され、検体由来核酸以外の核酸増幅反応のための成分は予め第2室30に収容され、送液のための水は予め第3室40に収容されている。このため、操作者は、検体由来核酸を第2室30に導入する操作を、さらに行うだけで、核酸増幅反応を実施できる。
【0082】
装置2によれば、第1室20、第2室30及び第3室40が、この順で直列に配置されているため、第3室40からの水の送液、第2室30における水と核酸増幅反応液との混合及び適切量の混合液の第1室20への送液が適切に実施される。
【0083】
また、核酸増幅反応として、等温増幅反応を用いているため、核酸増幅反応を簡易に実施できる。さらに、シグナル要素として、着色ビーズを用いているため、目視で簡易に、検査対象の核酸を検出できる。
【0084】
本実施形態の装置2においては、リッド14を、トレイ4を覆うことができる所定形状を保持する剛性体として記載したが、これに限定するものではない。例えば、リッドを、図6に示すように、可撓性のあるフィルムのリッド14’とした装置2’としてもてもよい。こうしたリッド14’によれば、第2室30への検体由来核酸の導入のためのシール部材34を、装置2の構成を簡素化することができる。
【0085】
さらに、図7に示すように、例えば、トレイ4’’とリッド14’’との双方を、全体として、可撓性のあるフィルムで構成してもよい。この装置2’’では、第2室30’’及び第3室40’’がいずれも可撓性であって、弾性変形可能となっている。ここで弾性変形可能とは、例えば、柔らかく変形しやすいことに関する可撓性及び弾性によって変形する特性を意味している。したがって、フィルム状体などによって形成される第2室30’’及び第3室40’’は、折り曲げなどの変形によって送液可能であるときも、これらの室が弾性変形可能ということができる。
【0086】
なお、第1室20’’は、クロマトグラフィー担体50の剛性等で支持されていることが好ましい場合がある。また、第1室20’’は、剛性体で形成してもよい。この装置2’’では、第3室40’’が弾性変形可能であるため、第3室40’’に対する弾性変形させる変形動作によって、第2室30’’への送液、場合によっては、第1室20’への送液も可能となる。また、第3室40’’の変形動作に引き続いて、あるいは、第3室40’’の変形動作と同時に、第2室30’’を弾性変形させる変形動作によって、第1室20’’への送液が可能となる。装置2’’においては、ゲート26’’、36’’を、第3室40’’の送液前には密閉されているが、弾性変形時の送液圧力によって解放されるシール部などとすることができる。こうしたシール部は、当業者においてよく知られている。また、第2室30’’には、検体由来核酸を導入するための導入口32’’及びシール部材34’’が適宜設けられる。
【0087】
装置2においては、第1室20、第2室30及び第3室40を、この順で直列に備えるものとしたがこれに限定するものではない。例えば、図8に、トレイ4’’’として示すように、第1室20’’’、第3室40’’’、及び第2室30’’’の順で直列に備えることができる。この場合において、核酸増幅反応のための第2室30’’’を、塑性変形可能に設けることで、核酸増幅反応液を、第3室40’’’に送液して希釈して、希釈された混合液を、第1室20’’’に送液することもできる。この場合には、第2室30’’’の容積を、例えば、5μl以上30μl以下などとするとともに、核酸増幅反応液の全量を5μl以上25μl以下などとして、第3室40’’’の容積を、例えば、100μl以上300μl以下などとし、水等の液量を、例えば50μl以上250μl以下などとすることができる。
【0088】
装置2においては、第1室20、第2室30及び第3室40を備えるものとしたがこれに限定するものではない。例えば、図9に示すように、ゲート36及び第3室40を備えないで、第2室30’’’’を形成する凸壁部10’’’’を、塑性変形可能とすることで、ゲート26’’’’を液体連通させて増幅反応産物含有液体の所定量を、第1室20’’’’に送液させることもできる。この場合には、第2室30’’’’の容積を、例えば、30μl以上50μl以下などとするとともに、核酸増幅反応液の全量を25μl以上40μl以下などとして、適量を第1室20に送液するようにすることができる。
【0089】
装置2においては、第1室20において、クロマトグラフィー担体50を、特段なんの保持手段なく収容するものとしたが、これに限定するものではない。例えば、クロマトグラフィー担体50と第2室30から送液される混合液とを適切に接触させ、展開を適切に行うためにリブを設けることができる。図10に示すように、クロマトグラフィー担体50を、第1室20の内表面に接触しないように保持するためのリブ60を、第1室20の内部であって、トレイ4側に設けることができる。なお、図10においては、リブ60を、トレイ4側でなく、リッド14側に設けてもよいし、トレイ4及びリッド14の双方に設けるようにしてもよい。
【0090】
装置2においては、第1室20は、第2室30から送液される混合液量を制御する手段を特段設けていないが、これに限定するものではない。例えば、第1室20への過剰量の混合液の送液を制限するために、図11のトレイ4として示すように、第1室20のキャビティに連通する混合液貯留部70を設けることができる。混合液貯留部70は、クロマトグラフィー担体50の展開基部52が配置される位置の近傍に設けるようにすることができる。
【0091】
また、図12に示すように、ゲート26と第1室20との間に、第1室20に連通するように所定のキャビティを有する混合液保持部80を備えるようにしてもよい。混合液保持部80は、凸壁部8に連続する追加の凸壁部をトレイ4に設けることにより形成することができる。例えば、混合液保持部80は、第1室20に対して過剰に送液される混合液の量を想定した容積を有することができる。混合液保持部80の内部には、クロマトグラフィー担体50の展開基部52よりもゲート26方向に向かって延びる延在部58が挿入されるようになっている。延在部58は、例えば、混合液保持部80の断面を充填するような大きさに形成されており、ゲート26を通過した過剰の混合液を受け止めて、保持することができる。この延在部58に保持された混合液の一部が毛細管現象により、クロマトグラフィー担体50の展開基部52に供給されることになる。
【0092】
なお、クロマトグラフィー担体50の延在部58は、必ずしもクロマトグラフィー担体50の一部でなくてもよく、第1室20のクロマトグラフィー担体50の展開基部52に対する送液量を制限できるように別体の吸水性部材として備えられていてもよい。また、混合液保持部80は、送液量を制限することができる限り、クロマトグラフィー担体50の延在部58や別体の吸水性部材を備えていなくてもよい場合がある。
【0093】
なお、以上の説明においては、主として、第1室20にクロマトグラフィー担体50を収容し、第2室30に、検体由来核酸以外の核酸増幅反応のための成分を含有する液体を予め収容し、第3室40に、第1室20への増幅産物反応含有液体を送液するための液体を予め収容した装置2について説明したが、本開示の一実施形態としては、こうした収容物のうち1つ又は2以上が収容される前の、第1室20、第2室30及び第3室40と、ゲート26、36を備える核酸検査用の容器又は核酸検査のキット(例えば、室とゲートとを備える容器(例えば、トレイとリッド)を備え、室に収容された状態の又は収容されない状態の各室に収容されるべき要素(クロマトグラフィー担体や液体要素などを別途備える)を含むことができる。こうした容器又は容器セットにおいて、既に説明した装置2、第1室20、第2室30及び第3室40と、ゲート26、36についての種々の態様を適用することができる。
【0094】
また、以上の説明においては、主として、装置2について説明したが、本開示の一実施形態としては、装置2を用いた核酸の検査方法も提供される。当業者には、検体からの核酸の抽出、核酸増幅反応及び核酸クロマトグラフィーは、いずれも、周知であり、上記した装置2を用いることにより、核酸増幅反応及び核酸クロマトグラフィーを容易に実施することができる。
【符号の説明】
【0095】
2 装置、4 トレイ、14 リッド、6 プレート、8、10、12 凸壁部、14 リッド、20 第1室、30 第2室、40 第3室、50 クロマトグラフィー担体、52 展開基部、54 プローブ保持領域、56 シグナル要素保持領域、58 延在部、60 リブ、70 混合液貯留部、80 混合液保持部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12