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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110060
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】ヒートポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20240807BHJP
【FI】
F25B1/00 304F
F25B1/00 304L
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014401
(22)【出願日】2023-02-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐川 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 亮
(57)【要約】
【課題】圧縮機の信頼性を確保しつつ効率のよい運転が可能なヒートポンプ装置を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係るヒートポンプ装置は、圧縮機と、水と冷媒とを熱交換する利用側熱交換器と、電子膨張弁と、熱源側熱交換器と、圧縮機の回転数および電子膨張弁の開度を制御する制御手段と、を備える。制御手段は、所定の吐出上限温度と吐出下限温度に基づいて電子膨張弁を制御し、圧縮機の負荷の大きさに応じて吐出上限温度を設定し、吐出温度が吐出下限温度未満のときは吐出温度が吐出下限温度以上となるように電子膨張弁の開度を小さくし、吐出温度が吐出上限温度以上のときは吐出温度が吐出上限温度未満となるように電子膨張弁の開度を大きくし、吐出温度が吐出下限温度以上吐出上限温度未満のときはサブクールが目標サブクールとなるように電子膨張弁の開度を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と、水と冷媒とを熱交換する利用側熱交換器と、電子膨張弁と、熱源側熱交換器とが配管で接続された冷媒回路と、
前記圧縮機から吐出される冷媒の温度である吐出温度を検出する吐出温度検出手段と、
前記利用側熱交換器から流出する冷媒のサブクールを検出するサブクール検出手段と、
前記圧縮機の負荷の大きさを検出する負荷検出手段と、
前記圧縮機の回転数および前記電子膨張弁の開度を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
所定の吐出上限温度と吐出下限温度に基づいて前記電子膨張弁を制御し、
前記圧縮機の負荷の大きさに応じて前記吐出上限温度を設定し、
前記吐出温度が前記吐出下限温度未満のときは前記吐出温度が前記吐出下限温度以上となるように前記電子膨張弁の開度を小さくし、
前記吐出温度が前記吐出上限温度以上のときは前記吐出温度が前記吐出上限温度未満となるように前記電子膨張弁の開度を大きくし、
前記吐出温度が前記吐出下限温度以上前記吐出上限温度未満のときは前記サブクールが目標サブクールとなるように前記電子膨張弁の開度を制御する
ヒートポンプ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のヒートポンプ装置であって、
前記負荷検出手段は、前記圧縮機から吐出される冷媒の圧力である吐出圧力を検出する吐出圧力検出部と、前記圧縮機に吸入される冷媒の圧力である吸入圧力を検出する吸入圧力検出部と、を有し、
前記制御手段は、少なくとも前記吐出圧力と前記吸入圧力とに基づいて算出される、前記圧縮機に吸入される冷媒を飽和蒸気としたときの吐出温度である仮想吐出温度に基づいて、前記吐出上限温度を設定する
ヒートポンプ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のヒートポンプ装置であって、
前記吐出下限温度は、前記圧縮機に定められた所定の最低過熱度に基づいて予め設定され、
前記制御手段は、前記圧縮機の全負荷領域にわたって、前記吐出上限温度が前記吐出下限温度よりも高くなるように前記吐出上限温度を設定する
ヒートポンプ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のヒートポンプ装置であって、
前記制御手段は、前記仮想吐出温度に補正値を加算することで前記吐出上限温度を設定する
ヒートポンプ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のヒートポンプ装置であって、
前記制御手段は、前記圧縮機の負荷が低いほど前記補正値を大きくする
ヒートポンプ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のヒートポンプ装置であって、
前記圧縮機の負荷の大きさに応じて予め設定された複数の温度値を記憶する記憶部をさらに備え、
前記制御手段は、前記補正値を、前記圧縮機の現在の負荷の大きさに基づいて前記複数の温度値から選択する
ヒートポンプ装置。
【請求項7】
請求項1に記載のヒートポンプ装置であって、
前記負荷検出手段は、前記圧縮機から吐出される冷媒の圧力である吐出圧力を検出する吐出圧力検出部と、前記圧縮機に吸入される冷媒の圧力である吸入圧力を検出する吸入圧力検出部と、を有し、
前記制御手段は、前記吐出圧力と前記吸入圧力との差である差圧が大きいほど、前記圧縮機の負荷が大きいと判定する
ヒートポンプ装置。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1つに記載のヒートポンプ装置であって、
前記冷媒回路に封入される冷媒は、10℃の飽和蒸気における比熱比が1.25未満の冷媒である
ヒートポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ式の温水暖房機などのヒートポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートポンプ装置として、冷媒が熱交換する対象が空気である空気調和機と、冷媒が熱交換する対象が水である温水暖房機とが知られている。温水暖房機は、圧縮機と、利用側熱交換器と、電子膨張弁と、熱源側熱交換器とを有する冷媒回路を備え、圧縮機で圧縮された高温のガス冷媒を利用側熱交換器で水と熱交換させて、冷媒が放熱する熱により水を加温する(例えば特許文献1参照)。
【0003】
温水暖房機は、空気調和機に比べ、利用側熱交換器を小さくすることができる。これは、空気に比べて水の方が熱伝達率が高く、冷媒と水の伝熱面積を小さくできるためである。温水暖房機として用いられるヒートポンプ装置は、利用側熱交換器が小さいことに起因して、運転の効率が高いサブクール範囲が狭くなる。そのため、サブクール範囲を適切に調整しないと、運転の効率が低下してしまうおそれがある。
そこで、特許文献1に記載の装置では、凝縮圧力と圧縮機の回転数とから目標サブクールを求め、冷媒回路のサブクールが目標サブクールとなるように電子膨張弁の開度を調整している。これにより、サブクールを最適に調整できるため、効率のよい運転が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-69570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、サブクールに応じて電子膨張弁を調整した場合、吸入冷媒の状態や吐出温度は成り行きとなる。このため、設置状態や冷媒充填量のばらつきなどの影響で、吐出温度が高すぎたり低すぎたりする場合があり、圧縮機の信頼性が低下するおそれがある。また、冷媒の種類によっては、吐出温度が低くなりやすい場合もあれば、高くなりやすい場合もある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、圧縮機の信頼性を確保しつつ効率のよい運転が可能なヒートポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係るヒートポンプ装置は、
圧縮機と、水と冷媒とを熱交換する利用側熱交換器と、電子膨張弁と、熱源側熱交換器とが配管で接続された冷媒回路と、
前記圧縮機から吐出される冷媒の温度である吐出温度を検出する吐出温度検出手段と、
前記利用側熱交換器から流出する冷媒のサブクールを検出するサブクール検出手段と、
前記圧縮機の負荷の大きさを検出する負荷検出手段と、
前記圧縮機の回転数および前記電子膨張弁の開度を制御する制御手段と、を備える。
前記制御手段は、
所定の吐出上限温度と吐出下限温度に基づいて前記電子膨張弁を制御し、
前記圧縮機の負荷の大きさに応じて前記吐出上限温度を設定し、
前記吐出温度が前記吐出下限温度未満のときは前記吐出温度が前記吐出下限温度以上となるように前記電子膨張弁の開度を小さくし、
前記吐出温度が前記吐出上限温度以上のときは前記吐出温度が前記吐出上限温度未満となるように前記電子膨張弁の開度を大きくし、
前記吐出温度が前記吐出下限温度以上前記吐出上限温度未満のときは前記サブクールが前記目標サブクールとなるように前記電子膨張弁の開度を制御する。
【0008】
前記負荷検出手段は、前記圧縮機から吐出される冷媒の圧力である吐出圧力を検出する吐出圧力検出部と、前記圧縮機に吸入される冷媒の圧力である吸入圧力を検出する吸入圧力検出部と、を有してもよい。
前記制御手段は、少なくとも前記吐出圧力と前記吸入圧力とに基づいて算出される、前記圧縮機に吸入される冷媒を飽和蒸気としたときの吐出温度である仮想吐出温度に基づいて、前記吐出上限温度を設定してもよい。
【0009】
前記吐出下限温度は、前記圧縮機に定められた所定の最低過熱度に基づいて予め設定されてもよい。
前記制御手段は、前記圧縮機の全負荷領域にわたって、前記吐出上限温度が前記吐出下限温度よりも高くなるように前記吐出上限温度を設定してもよい。
【0010】
さらに前記制御手段は、前記仮想吐出温度に補正値を加算することで前記吐出上限温度を設定してもよい。
【0011】
さらに前記制御手段は、前記圧縮機の負荷が低いほど前記補正値を大きくしてもよい。
例えば、前記ヒートポンプ装置は前記圧縮機の負荷の大きさに応じて予め設定された複数の温度値を記憶する記憶部をさらに備え、前記制御手段は、前記補正値を、前記圧縮機の現在の負荷の大きさに基づいて前記複数の温度値から選択してもよい。
【0012】
前記制御手段は、前記吐出圧力と前記吸入圧力との差である差圧が大きいほど、前記圧縮機の負荷が大きいと判定してもよい。
【0013】
前記冷媒回路に封入される冷媒は、典型的には、10℃の飽和蒸気における比熱比が1.25未満の冷媒である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧縮機の信頼性を確保しつつ効率のよい運転が可能なヒートポンプ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るヒートポンプ装置の冷媒回路図である。
図2】外気温度が7℃の場合におけるサブクールとCOPとの関係について温水暖房機(図中黒丸)と空気調和機(図中黒四角)とを比較して示す図である。
図3】上記ヒートポンプ装置における制御装置の構成を示すブロック図である。
図4】目標サブクールテーブルの一例を示す図である。
図5】目標サブクールの抽出方法を説明する概念図である。
図6】吐出上限温度補正値の決定方法を説明する概念図である。
図7】冷媒および運転状態が異なる2つの条件下における吐出上限温度と吐出下限温度の一例を示す図である。
図8】上記制御装置において実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0017】
[ヒートポンプ装置の基本構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るヒートポンプ装置100の冷媒回路図である。本実施形態のヒートポンプ装置100は、ヒートポンプ式の床暖房装置(温水暖房機)である。
【0018】
ヒートポンプ装置100は、圧縮機11、四方弁12、利用側熱交換器13、電子膨張弁14および室外熱交換器である熱源側熱交換器15が配管で順次接続された冷媒回路10と、制御手段としての制御装置20とを備える。
【0019】
冷媒回路10に封入される冷媒の種類は特に限定されず、例えば、自然冷媒である炭化水素系冷媒、フロン系冷媒等が採用可能である。特に本実施形態では、後述するように、圧縮機11から吐出される冷媒の温度である吐出温度の下限温度(以下、吐出下限温度ともいう)と上限温度(以下、吐出上限温度ともいう)との逆転が発生する可能性のある冷媒、より具体的には、10℃の飽和蒸気における比熱比γ(定圧モル比熱Cpと定積モル比熱Cvとの比率:Cp/Cv))が1.25未満の冷媒が用いられる。この種の冷媒としては、例えば、R290(比熱比γ:1.24)、R1234yf(比熱比γ:1.17)、R454C(比熱比γ:1.24)などが挙げられる。
【0020】
圧縮機11は、低温低圧の冷媒を圧縮して高温高圧の冷媒を吐出する容量可変式の圧縮機である。圧縮機11から吐出された高温高圧の冷媒は、配管91を介して四方弁12のポートaに供給される。
【0021】
四方弁12は、ポートa、ポートb、ポートcおよびポートdを有する流路切替弁である。四方弁12は、制御装置20からの指令に基づいて、図1において実線で示すようにポートaとポートbが連通しポートcとポートdが連通する第1の状態と、図1において破線で示すようにポートaとポートdが連通しポートbとポートcが連通する第2の状態とのいずれかに切り替えられる。四方弁12は、暖房運転を行うときは第1の状態に切り替えられ、熱源側熱交換器15の除霜運転を行うときは第2の状態に切り替えられる。四方弁12が第1の状態に切り替えられているとき、冷媒は、冷媒回路10を図1において矢印で示す方向に循環する。
【0022】
四方弁12のポートbは、配管92を介して利用側熱交換器13と接続される。四方弁12のポートcは、配管95を介して圧縮機11の吸入口に接続される。四方弁12のポートdは、配管94を介して熱源側熱交換器15と接続される。
【0023】
利用側熱交換器13は、圧縮機11から吐出された高温高圧の冷媒と床暖房パネル18を通過する水との熱交換を行う放熱器(凝縮器)である。利用側熱交換器13は、水と冷媒の間の熱交換ができる、例えばプレート型熱交換器、二重管式熱交換器や多管式熱交換器などの種々の型式の熱交換器が採用できる。利用側熱交換器13において水と熱交換した冷媒は、配管93を介して電子膨張弁14および熱源側熱交換器15へ順に供給される。
【0024】
ヒートポンプ装置100は、利用側熱交換器13、床暖房パネル18および温水用ポンプ19が順次接続されることで形成された温水回路96をさらに備える。温水回路96では、利用側熱交換器13において冷媒と熱交換された水(温水)が循環する。温水は、温水回路96を図1において矢印で示す方向に循環する。温水回路96は、床暖房パネル18に設けられた蛇行通路96aを有し、蛇行通路96aを流れる温水により床暖房パネル18を加温する。
【0025】
電子膨張弁14は、利用側熱交換器13から配管93を介して流出した冷媒を減圧するための減圧器である。電子膨張弁14は、制御装置20からの指令に基づいて開度が制御される。
【0026】
熱源側熱交換器15は、電子膨張弁14から流出した冷媒と外気との熱交換を行う蒸発器である。熱源側熱交換器15の種類は特に限定されず、例えば空気と冷媒の間の熱交換ができるパラレルフロー型熱交換器、フィンチューブ型熱交換器、プレートフィン型熱交換器などの種々の型式の熱交換器が採用できる。熱源側熱交換器15の近傍には図示しない送風用のファンが配置されてもよい。
【0027】
熱源側熱交換器15において外気と熱交換した冷媒は、配管94、第1の状態にある四方弁12および配管95を介して圧縮機11へ戻される。なお配管95には、配管95を通って圧縮機11へ戻される冷媒から液相状態の冷媒を分離するための図示しないアキュムレータが設けられてもよい。
【0028】
なお、配管91には、圧縮機11から吐出される冷媒の温度である吐出温度を検出する吐出温度検出手段としての吐出温度センサ31と、圧縮機11から吐出される冷媒の圧力である吐出圧力を検出する吐出圧力検出部としての吐出圧力センサ32が設けられている。また、利用側熱交換器13と電子膨張弁14との間の配管93には、利用側熱交換器13から流出する冷媒の温度を検出する冷媒温度センサ33が設けられている。さらに、配管95には、圧縮機11に吸入される冷媒の圧力である吸入圧力を検出する吸入圧力検出部としての吸入圧力センサ34が設けられている。そして、温水循環路96における利用側熱交換器13の出口側には、出湯温度を検出する出湯温度センサ35が設けられている。
【0029】
制御装置20は、CPUやメモリ等を含むコンピュータであり、ヒートポンプ装置100の運転を統括的に制御する。より具体的に、制御装置20は、吐出温度センサ31、吐出圧力センサ32、冷媒温度センサ33、吸入圧力センサ34、出湯温度センサ35などの検出値に基づいて、圧縮機11の回転数や電子膨張弁14の開度等を指示する信号を出力し、それぞれを制御する。
【0030】
例えば、制御装置20は、出湯温度センサ34で検出された現在の出湯温度、つまり、利用側熱交換器13で温められた水の温度が、予め設定された目標の温度(目標出湯温度)になるように圧縮機11を回転させる。
【0031】
また、制御装置20は、吐出圧力センサ32の検出値と冷媒温度センサ33の検出値とに基づいて、利用側熱交換器13から流出する冷媒のサブクール(過冷却度)を算出し、この算出結果が目標値となるように電子膨張弁14の開度を制御する。吐出圧力センサ32および冷媒温度センサ33は、冷媒のサブクールを検出するサブクール検出手段に相当する。
【0032】
一般に、温水暖房機は、空気調和機に比べ、利用側熱交換器を小さくすることができる。これは、空気に比べて水の方が熱伝達率が高く、冷媒と水の伝熱面積を小さくできるためである。温水暖房機として用いられるヒートポンプ装置は、利用側熱交換器が小さいことに起因して、高い運転効率が得られるサブクールの範囲が狭くなる。つまり、サブクールと、運転効率を表すCOP(Coefficient Of Performance:成績係数)との関係において、空気調和機に比較して温水暖房機では、サブクールの変化がCOPに与える影響が大きく、サブクールを狭い範囲に維持すように厳密にサブクールの制御をしないとCOPが悪化して効率の悪い運転になる場合がある。
【0033】
例えば図2に、外気温度が7℃の場合におけるサブクールとCOPとの関係について温水暖房機(図中黒丸)と空気調和機(図中黒四角)とを比較して示す。図2に示すように、温水暖房機は、空気調和機と比較して、サブクールが5℃以上になるとCOPが著しく低くなり、サブクールの変化がCOPに与える影響が大きいことが読み取れる。水は空気に比べ熱伝達率が高いが、サブクール領域では冷媒側の熱伝達率が著しく低下して熱通過率に大きな差がなくなる(熱通過率は熱抵抗の和の逆数であるため熱抵抗が大きい箇所が支配的となる)。そのため、サブクールを増加させた時の熱交換器全体に占める二相領域の割合は、温水暖房機の方が急激に減少する。熱通過率の高い二相領域の面積が急激に減少することで、吐出圧力が上昇することになり、サブクールの上昇につれてCOPが急激に低下する。このように温水暖房機においては、サブクールが適切な範囲に維持されるように調整しないと、運転の効率が急激に低下してしまうことになる。
【0034】
そこで、凝縮圧力と圧縮機の回転数とから目標サブクールを求め、冷媒回路のサブクールが目標サブクールとなるように電子膨張弁の開度を制御するサブクール制御が知られている(例えば特許文献1参照)。サブクール制御は、現在のサブクールから目標サブクールを減算し、減算結果がプラスのときにはその減算結果の値に対応して電子膨張弁の開度を大きくし、減算結果がマイナスのときにはその減算結果の値に対応して電子膨張弁の開度を小さくする。これにより、サブクールを最適に調整できるため、効率のよい運転が可能となる。
【0035】
しかしながら、サブクールに応じて電子膨張弁を調整した場合、目標吐出温度を基準に電子膨張弁の開度を制御する場合と異なり、圧縮機への吸入冷媒の状態や吐出温度は成り行きとなる。このため、配管92、配管93の長さや冷媒充填量のばらつきなどの影響で、吐出温度が高すぎたり低すぎたりする場合があり、圧縮機の信頼性が低下するおそれがある。
【0036】
例えば、吐出温度には吐出下限温度と吐出上限温度が設定される。吐出下限温度は、圧縮機11に定められた所定の最低過熱度に基づいて予め設定される。所定の最低過熱度は、圧縮機の潤滑性を確保するために最低限必要な過熱度であり、例えば、圧縮機11の仕様として定められた最低限必要な吐出SHである。このため、吐出温度が吐出下限温度未満の場合にサブクール制御が実行されると、圧縮機に吸入される冷媒の湿り度が過度に大きくなるおそれがある。一方、吐出上限温度は、圧縮機の保護を目的として設定される。したがって吐出温度が吐出上限温度以上の場合にサブクール制御が実行されると、吐出温度が過度に上昇するおそれがある。
【0037】
また、吐出下限温度および吐出上限温度は冷媒の種類や圧縮機の運転状態等に応じて異なるため、使用する冷媒の種類によっては吐出温度が低くなりやすい場合もあれば、高くなりやすい場合もある。
【0038】
このような問題を解決するため、制御装置20は、冷媒の種類に応じて予め設定された吐出上限温度および吐出下限温度(所定温度範囲ともいう)に基づいて電子膨張弁14の開度を制御する。制御装置20は、圧縮機11の負荷の大きさに応じて吐出上限温度を設定する。例えば、吐出温度が所定温度範囲外の場合は、吐出温度が所定温度範囲に収まるように電子膨張弁14の開度を制御する。そして、吐出温度が所定温度範囲内の場合は、サブクールが目標値になるように電子膨張弁14の開度を制御する。具体的には、制御装置20は、吐出温度が吐出下限温度未満のときは吐出温度が吐出下限温度以上となるように電子膨張弁14の開度を小さくし、吐出温度が吐出上限温度以上のときは吐出温度が吐出上限温度未満となるように電子膨張弁14の開度を大きくし、吐出温度が吐出下限温度以上吐出上限温度未満のときはサブクールが目標サブクールとなるように電子膨張弁14の開度を制御する。
【0039】
[制御装置の詳細]
以下、制御装置20の詳細について説明する。図3は、制御装置20の構成を示すブロック図である。
【0040】
図3に示すように、制御装置20は、目標サブクール抽出部21と、負荷判定部22と、吐出上限温度設定23と、吐出温度判定部24と、記憶部25とを有する。目標サブクール抽出部21、負荷判定部22、吐出上限温度設定部23および吐出温度判定部24は、制御装置20のCPUの機能ブロックであり、記憶部25は、半導体メモリその他の記憶装置である。
【0041】
(目標サブクール抽出部)
目標サブクール抽出部21は、制御装置20が圧縮機11に指示した回転数、吐出圧力センサ32の検出値に基づいて目標サブクールを抽出する。記憶部25には、利用側熱交換器13における冷媒の凝縮圧力状態と圧縮機11の回転数とに基づいて予め求めておいた目標サブクールテーブルが記憶されている。目標サブクール抽出部21は、制御装置20が圧縮機11に指示した回転数および吐出圧力センサ32に基づいて記憶部25に記憶された目標サブクールテーブルから目標サブクールを抽出する。制御装置20は吐出圧力センサ32および冷媒温度センサ33の各検出値に基づいて算出される現在のサブクールが目標サブクールとなるように電子膨張弁14の開度を制御する。現在のサブクールは、吐出圧力センサ32の検出値を飽和温度に換算した値から冷媒温度センサ33の検出値を減算することで算出される。
【0042】
図4は、目標サブクールテーブルの一例を示している。ここでは、目標サブクールテーブルは、左側が項目を示しており、上から下の順に、「凝縮圧力状態」、「凝縮圧力閾値(MPaG」、「回転数(rps(rotation per second))」となっている。
【0043】
「凝縮圧力状態」は、凝縮圧力が上昇しているか、下降しているかを区別するものである。実際には、制御装置20が所定周期で取得する吐出圧力センサ32の検出値が前回の検出値に対して下から上に変化したときは「上昇中」と判断し、前回の検出値に対して上から下に変化したときは「下降中」と判断する。
【0044】
「回転数」は3つのゾーン(70rps以上、40rps以上70rps未満、40rps未満)に分けられている。「凝縮圧力閾値」は、図5に示すように3つのゾーンに分けられており、ゾーン毎に目標サブクールが設定されている。これら3つのゾーンを区分する凝縮圧力閾値は、制御におけるハンチングを低減するため、凝縮圧力の上昇/下降に対応してヒステリシスをもたせてある。
【0045】
例えば圧縮機11の回転数が40rps以上70rps未満の場合において、圧力上昇傾向のときは、凝縮圧力閾値を3.0MPaG未満、3.0MPaG以上3.6MPaG未満、3.6MPaG以上のゾーンに分け、それぞれ、圧力が小さいゾーンから順に目標サブクールを10℃、8℃、6℃と規定している。逆に、圧力減少傾向のときは、凝縮圧力閾値を2.8MPaG未満、2.8MPaG以上3.4MPaG未満、3.4MPaG以上のゾーンに分け、それぞれ、圧力が小さいゾーンから順に目標サブクールを10℃、8℃、6℃と規定している。目標サブクールは、凝縮圧力と圧縮機11の回転数ごとにCOPが最も高くなるサブクールに決定されているため、凝縮圧力が変化しても、これに対応して目標サブクールを切り替えることで、凝縮圧力が変化しても高いCOPを維持可能な厳密なサブクールの制御を行うことができる。
【0046】
また、圧縮機11の回転数が40rps未満の場合においては、凝縮圧力が小さいゾーンから順に目標サブクールが6℃、5℃、4℃と規定されており、圧縮機11の回転数が70rps以上の場合においては、凝縮圧力が小さいゾーンから順に目標サブクールが12℃、10℃、7℃と規定されている。
【0047】
なお、図4における凝縮圧力閾値、回転数および目標サブクールの各値はあくまでも一例であり、冷媒の種類や設置条件、運転条件などに応じて任意に変更可能である。
【0048】
(負荷判定部)
負荷判定部22は、圧縮機11の負荷の大きさを判定する。本実施形態において負荷判定部22は、吐出圧力(高圧)と吸入圧力(低圧)との差圧に基づいて圧縮機11の負荷を算出し、算出した負荷の大きさが予め設定された複数のゾーンのいずれに属するかを判定する。吐出圧力センサ32および吸入圧力センサ34は、圧縮機11の負荷の大きさを検出する負荷検出手段に相当する。
【0049】
図6は、上記複数の領域を説明する概念図であり、圧縮機11の負荷の大きさに応じて選択される吐出上限温度補正値の決定方法を示している。ここでは、図6に示すように3つのゾーンに分けられており、ゾーン毎に吐出上限温度補正値が設定されている。これら3つのゾーンを区分する差圧は、制御におけるハンチングを低減するため、差圧の上昇/下降に対応してヒステリシスをもたせてある。
【0050】
吐出上限温度補正値は、圧縮機11の負荷の大きさ(差圧)が小さいほど高い温度値に設定される。例えば、差圧が上昇傾向のときは、圧力閾値を1.5MPa未満、1.5MPa以上2.3MPa未満、2.3MPa以上のゾーンに分け、それぞれ、圧力が小さいゾーンから順に吐出上限温度補正値を30℃、15℃、0℃と規定している。逆に、差圧が減少傾向のときは、圧力閾値を1.3MPa未満、1.3MPa以上2.1MPa未満、2.1MPa以上のゾーンに分け、それぞれ、圧力が小さいゾーンから順に吐出上限温度補正値を30℃、15℃、0℃と規定している。なお、吐出上限温度補正値や圧力閾値は、冷媒の種類に応じて任意に設定でき、実験等を予め行うことによって決定されて記憶部25に記憶される。
【0051】
このように記憶部25には、圧縮機11の負荷の大きさに応じて予め設定された複数の温度値(図6の例では30℃、15℃および0℃)が記憶されており、負荷判定部22は、吐出上限温度補正値を、圧縮機11の現在の負荷の大きさに基づいて上記複数の温度値から選択する。なお、差圧が所定の閾値(2.3MPa(差圧上昇時)または2.1MPa(差圧下降時))以上のときは温度値(吐出上限温度補正値)が0℃であるため、差圧が当該閾値以上のときは吐出上限温度の補正は行われず、記憶部25に記憶された仮想吐出温度が吐出上限温度として扱われる。
【0052】
(吐出上限温度設定部)
吐出上限温度設定部23は、圧縮機11の負荷の大きさに応じて吐出上限温度を設定する。吐出上限温度は、記憶部25に記憶された仮想吐出温度に対して、圧縮機11の負荷の大きさに応じて求められた吐出上限温度補正値(図6参照)を加算することで吐出上限温度を設定する。
【0053】
仮想吐出温度とは、吐出圧力と吸入圧力とに基づいて算出される、圧縮機11に吸入される冷媒を飽和蒸気(乾き度が1)としたときの吐出温度であり、理想的な冷凍サイクルに調整された場合の吐出温度を意味する。仮想吐出温度の算出パラメータには、吐出圧力および吸入圧力のほか、圧縮機11の回転数が含まれてもよい。
【0054】
ここで、使用される冷媒が比熱比γの小さい冷媒であるほど、仮想吐出温度は低くなる。そのため、例えばR290などのように比熱比γが小さい冷媒では、圧縮機11の運転状態(負荷の大きさ)に応じて吐出上限温度と吐出下限温度の逆転(吐出上限温度<吐出下限温度)が生じるおそれがある。このような場合、上記逆転が生じることで目的とするサブクール制御を安定に行うことができなくなる。本実施形態では、圧縮機11の負荷の大きさに応じて判定された吐出上限温度補正値を仮想吐出温度に加算することで、吐出上限温度と吐出下限温度の逆転を防止し、これにより適切なサブクール制御を実現して高いCOPを維持するようにしている。
【0055】
図7は、冷媒としてR290が使用されたときの吐出上限温度と吐出下限温度の一例を、吐出上限温度と吐出下限温度の逆転が比較的生じにくい冷媒(R32(10℃の飽和蒸気における比熱比γ:1.53))と比較して示している。例えば、蒸発温度が0℃、凝縮温度が37℃のときの運転状態(状態1)においては、冷媒がR32(最低過熱度:15℃)の場合は、吐出下限温度が52℃、吐出上限温度が73.5℃であり、これらの間に20℃以上の温度差があるのに対して、冷媒がR290の場合(最低過熱度:10℃)は、同じ運転状態(状態1)において、吐出下限温度が47℃、吐出上限温度が46.7℃となり、吐出上限温度と吐出下限温度が逆転する。
【0056】
また、蒸発温度が2℃、凝縮温度が57℃のときの運転状態(状態2)では、冷媒がR32の場合は、吐出下限温度が72℃、吐出上限温度が110.8℃であり、これらの間に約40℃の温度差があるのに対して、冷媒がR290の場合は、同じ運転状態(状態2)において、吐出下限温度が67℃、吐出上限温度が69.7℃となり、吐出上限温度が吐出下限温度に接近するため、これらの間の温度差を維持するのが困難になる。
【0057】
圧縮機11の負荷が大きい場合には、吐出上限温度と吐出下限温度の逆転や、吐出上限温度と吐出下限温度の接近は発生しないが、図7に示した状態1および状態2のように圧縮機11の負荷が比較的小さい場合の運転状態では、このような逆転や接近が発生する。そこで、本実施形態では、圧縮機11の負荷が小さいほど大きな温度補正値(この例では30℃)を仮想吐出温度に加算することで吐出上限温度を高くし、これにより吐出上限温度と吐出下限温度との逆転を防ぐようにしている。
【0058】
また、圧縮機11の負荷の大きさに応じた吐出上限温度補正値を複数設定しておくことで、時々刻々と変化する圧縮機11の運転状態に適応したサブクール制御を実現することができる。
【0059】
記憶部25には、目標サブクールテーブル(図4)、吐出上限温度補正値(図6)、仮想吐出温度のほか、吐出下限温度が記憶される。吐出上限温度設定部23は、圧縮機11の全負荷領域にわたって、吐出上限温度が吐出下限温度よりも高くなるように吐出上限温度を設定する。
【0060】
(吐出温度判定部)
吐出温度判定部24は、圧縮機11から吐出される冷媒の温度(吐出温度)と記憶部25に記憶された吐出下限温度および吐出上限温度とを比較し、吐出温度が吐出下限温度以上吐出上限温度未満であるか否かを判定する。
【0061】
制御装置20は、吐出温度が吐出下限温度未満のときは、吐出温度が吐出下限温度以上となるように電子膨張弁14の開度を小さくする。また、制御装置20は、吐出温度が吐出上限温度以上のときは、吐出温度が吐出上限温度未満となるように電子膨張弁14の開度を大きくする。そして、制御装置20は、吐出温度が吐出下限温度以上吐出上限温度未満のときは、サブクールが目標サブクールとなるように電子膨張弁14の開度を制御する。
【0062】
[ヒートポンプ装置の動作]
続いて、制御装置20において実行される具体的な制御手順について、ヒートポンプ装置100の動作とともに説明する。図8は、制御装置20において実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0063】
制御装置20はまず、温水用ポンプ19の運転を開始させて温水回路96に水(温水)を循環させるとともに、四方弁12を図1に示す第1の状態に切り替える。そして制御装置20は、出湯温度センサ35の検出値が、予め設定されている目標出湯温度となるように圧縮機11の回転数を決定して起動させることでヒートポンプ装置100を運転する(ST101)。
【0064】
冷媒回路10における冷媒の循環が安定するまでの所定時間が経過した後、制御装置20は、圧縮機11から吐出される冷媒の圧力(吐出圧力)と圧縮機に吸入される冷媒の圧力(吸入圧力)を取得する(ST102)。吐出圧力は、吐出圧力センサ32から取得され、吸入圧力は、吸入圧力センサ34から取得される。
【0065】
制御装置20(負荷判定部22)は、取得した吐出圧力および吸入圧力に基づいて圧縮機11の負荷の大きさ(差圧)を算出し、これが予め設定された所定の閾値以上であるか否かを判定する(ST103)。
【0066】
所定の閾値とは、吐出上限温度に所定の補正値(図6)を加算すべきか否かを判定するための圧力値(吐出圧力と吸入圧力との差圧)であり、図6の例では2.3MPa(差圧上昇時)または2.1MPa(差圧下降時)である。制御装置20(吐出上限温度設定部23)は、差圧が上記所定の閾値未満のときは(ST103においてNo)、吐出上限温度を補正する(ST104)。
【0067】
吐出上限温度の補正は、吐出上限温度補正値を仮想吐出温度に加算することにより行われる。吐出上限温度補正値は、図6に示したように吐出圧力と吸入圧力との差圧の大きさに応じて予め段階的に設定された温度値が選択される。これにより、圧縮機11の負荷の大きさ(差圧)が小さいほど仮想吐出温度に対して高い吐出上限温度が設定される。
【0068】
なお、圧縮機11の負荷の大きさが所定の閾値以上のときは(ST103においてYes)、吐出上限温度を補正することなく、吐出上限温度として記憶部25に予め記憶された仮想吐出温度が引き続き採用される。
【0069】
続いて制御装置20(吐出温度判定部24)は、吐出温度が吐出下限温度未満であるか否かを判定する(ST105)。吐出温度は、吐出温度センサ31から取得される。吐出温度が吐出下限温度未満のとき(ST105においてYes)、制御装置20は、吐出温度が吐出下限温度以上となるように電子膨張弁14の開度を小さくし(ST106)、ST102に処理を戻す。吐出温度が吐出下限温度以上のときは(ST105においてNo)、電子膨張弁14の開度を制御することなくST107に移行する。
【0070】
続いて制御装置20は、吐出温度が吐出上限温度以上であるか否かを判定する(ST107)。吐出温度が吐出上限温度以上のとき(ST107においてYes)、制御装置20は、吐出温度が吐出上限温度未満となるように電子膨張弁14の開度を大きくし(ST108)、ST102に処理を戻す。吐出温度が吐出上限温度未満のときは(ST107においてNo)、電子膨張弁14の開度を制御することなくST109に移行する。
【0071】
ST105~108により、吐出温度が吐出下限温度以上吐出上限温度未満となるように電子膨張弁14の開度が制御される。この状態で制御装置20は、サブクール制御を実行する(ST109)。なお、ST109のサブクール制御は、目標サブクールと現在のサブクールに基づく前述の制御である。
【0072】
すなわち制御装置20(目標サブクール抽出部21)は、圧縮機11の回転数および利用側熱交換器13における冷媒の凝縮圧力に基づいて、記憶部25に記憶された目標サブクールテーブル(図4)から目標サブクールを抽出する。凝縮圧力は、例えば吐出圧力センサ32の検出値に基づいて算出することができる。
【0073】
続いて制御装置20は、吐出圧力センサ32および冷媒温度センサ33の検出値に基づいて現在のサブクールを算出し、この算出されたサブクールと、目標サブクールテーブル(図4)から抽出した目標サブクールとを比較し、この差によって電子膨張弁14の開度を調整する。つまり、制御装置20は、現在のサブクールから目標サブクールを減算し、この減算結果がプラスの時には、その減算結果の値に対応して電子膨張弁14の開度を大きくするように制御し、この減算結果がマイナスの時には、その減算結果の値に対応して電子膨張弁14の開度を小さくするように制御する。このような制御をすることで現在のサブクールが、常に目標サブクール値となるように制御されることになり、結果的にCOPが高い状態で維持されることになる。
【0074】
制御装置20は、ST102~109の処理を所定周期で繰り返し実行することで、吐出温度を所定の吐出下限温度以上吐出上限温度未満に維持した状態でサブクール制御が実行される。
【0075】
本実施形態によれば、吐出温度を吐出下限温度以上に維持できるため、圧縮機11への過度な湿り冷媒蒸気の吸入を回避できる。また、圧縮機11の負荷の大きさに応じて吐出上限温度を設定するとともに、吐出温度を吐出上限温度未満に維持するようにしているため、吐出温度の過度な上昇を回避できる。これにより、目的とするサブクール制御を安定に行うことができるため、圧縮機11の信頼性を確保しつつ、ヒートポンプ装置100のCOPを高い状態に維持できる。
【0076】
また本実施形態によれば、少なくとも吐出圧力と吸入圧力とに基づいて算出される仮想吐出温度に基づいて、吐出上限温度を設定するようにしているため、理想的な冷凍サイクルに調整された場合の吐出温度を基準として吐出上限温度を決定でき、これにより圧縮機11の負荷の大きさに応じた適切な上限値に吐出温度を設定することができる。
【0077】
また本実施形態によれば、圧縮機11の全負荷領域にわたって、吐出上限温度が吐出下限温度よりも高くなるように吐出上限温度を設定するようにしているため、吐出上限温度と吐出下限温度との逆転が生じ易い冷媒を使用した場合でも、当該逆転による制御破綻を引き起こすことなく目的とするサブクール制御を安定して実行することができる。
【0078】
また本実施形態によれば、仮想吐出温度に補正値を加算することで吐出上限温度を設定するようにしているため、圧縮機11の負荷の大きさが時々刻々と変化する場合においても吐出上限温度を適切に設定することができる。
【0079】
また本実施形態によれば、圧縮機11の負荷が低いほど上記補正値を大きくするようにしているため、吐出上限温度の設定を圧縮機11の負荷に応じて適切に設定することができる。
【0080】
また本実施形態によれば、上記補正値を、圧縮機11の現在の負荷の大きさに基づいて複数の温度値から選択するようにしているため、複雑な計算処理によって補正値を算出する場合に比べて制御の簡素化とシステム構築コストの低減を図ることができる。
【0081】
さらに本実施形態によれば、吐出圧力と吸入圧力との差である差圧が大きいほど、圧縮機11の負荷が大きいと判定するようにしているため、圧縮機11の負荷の判定に必要とされるパラメータを別途必要とすることなく、既存のセンサを用いて圧縮機11の負荷の大きさを判定することができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0083】
例えば以上の実施形態では、圧縮機11の負荷の大きさの判定に吐出圧力と吸入圧力との差圧を用いたが、これに限られない。例えば、吐出圧力あるいは吐出温度のみを参照して圧縮機11の負荷の大きさを判定してもよい。さらに、圧縮機11の回転数や圧縮機11を駆動するモータの電流値などを参照して圧縮機11の負荷の大きさを判定してもよい。
【0084】
また以上の実施形態では、吐出上限温度と吐出下限温度の逆転に伴う制御破綻を回避するために、圧縮機11の負荷の大きさに応じて吐出上限温度を変化させるようにしたが、これに限られない。例えば、上記逆転が生じるおそれのある圧縮機11の低負荷状態においては吐出上限温度を無視し、図8のST107、ST108の処理を行わないようにしたり、当該低負荷状態においても上記逆転が生じないような吐出上限温度となるように吐出上限温度に下限値を設定したりしてもよい。
【0085】
さらに以上の実施形態では、吐出圧力を検出するための吐出圧力センサ32を圧縮機11の吐出口と四方弁12との間の配管91上に設置したが、圧縮機11の吐出口から電子膨張弁14の間であれば吐出圧力センサ32の設置場所は特に限定されない。また、利用側熱交換器13に熱交温度センサを設置し、その検出値(凝縮温度)に基づいて吐出圧力が算出されてもよい。
【0086】
同様に、吸入圧力を検出するための吸入圧力センサ34を四方弁12と圧縮機11の吸入口との間の配管95上に設置したが、電子膨張弁14から圧縮機11の吸入口の間であれば吸入圧力センサ34の設置場所は特に限定されない。また、熱源側熱交換器15に熱交温度センサを設置し、その検出値(蒸発温度)に基づいて吸入圧力が算出されてもよい。
【0087】
さらに以上の実施形態では、ヒートポンプ装置100として温水暖房機(床暖房装置)を例に挙げて説明したが、これに限られず、ヒートポンプ式の給湯装置などにも本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0088】
10…冷媒回路
11…圧縮機
12…四方弁
13…利用側熱交換器
14…電子膨張弁
15…熱源側熱交換器
20…制御装置
21…目標サブクール抽出部
22…負荷判定部
23…吐出上限温度設定部
24…吐出温度判定部
25…記憶部
31…吐出温度センサ
32…吐出圧力センサ
33…冷媒温度センサ
34…吸入圧力センサ
100…ヒートポンプ装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8