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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110084
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/10 20160101AFI20240807BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20240807BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20240807BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240807BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20240807BHJP
   B60L 7/22 20060101ALI20240807BHJP
   B60L 15/00 20060101ALI20240807BHJP
   B60L 50/10 20190101ALI20240807BHJP
   H02P 9/04 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
B60W20/10
E02F9/20 Z
B60K6/46 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60L7/22 Z
B60L15/00 N
B60L50/10
H02P9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014441
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】金子 悟
(72)【発明者】
【氏名】吉村 正利
(72)【発明者】
【氏名】松尾 興祐
(72)【発明者】
【氏名】関野 聡
(72)【発明者】
【氏名】歌代 浩志
【テーマコード(参考)】
2D003
3D202
5H125
5H590
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB01
2D003AC04
2D003BA02
2D003BA05
2D003CA10
2D003DA02
2D003DA04
2D003FA02
3D202AA00
3D202AA07
3D202BB01
3D202BB16
3D202CC03
3D202DD01
3D202DD11
3D202DD18
3D202DD20
3D202DD24
3D202DD26
3D202DD28
5H125AA20
5H125BA00
5H125BD17
5H125CA02
5H125CB01
5H125EE08
5H125EE41
5H125EE48
5H125EE51
5H590CA07
5H590CA23
5H590CD03
5H590CE05
5H590EA10
5H590FA01
5H590GA02
5H590GA06
5H590HA00
5H590HA02
5H590HA06
5H590HA27
(57)【要約】
【課題】モジュレート動作において、車両制動時の発電電力をエンジンの状態に応じて調整することで、制動後の発進時によりスムーズにエンジンからパワーを供給することができる作業車両を提供すること。
【解決手段】エンジンにより駆動される発電機からの電力により車体を走行駆動させる走行電動機と、前後進切替スイッチと、走行電動機からの回生電力を消費する外部抵抗器とを備え、前後進切替スイッチが示す車体の進行方向と、走行電動機の回転方向が示す車体の進行方向とに差異が生じた場合に、エンジンについて予め設定した燃料噴射制限値と燃料噴射量の差が、第一の閾値より大きい場合には、発電機の発電電力を増加させるように制御し、燃料噴射制限値と燃料噴射量の差が、第一の閾値よりも小さい値として予め設定した第二の閾値より小さい場合には、発電機の発電電力を減少させるように発電機を制御する。
【選択図】 図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される発電機と、
前記発電機からの電力により車体を走行駆動させる走行電動機と、
前記車体の進行方向を前進と後進とで切り替える前後進切替スイッチと、
前記走行電動機からの回生電力を消費する外部抵抗器と、
車両制御装置とを備える作業車両において、
前記車両制御装置は、
前記前後進切替スイッチが示す前記車体の進行方向と、前記走行電動機の回転方向が示す前記車体の進行方向とに差異が生じた場合に、
前記エンジンについて予め設定した燃料噴射制限値と燃料噴射量の差に基づいて前記発電機の発電電力を増加または減少させるように制御することを特徴とする作業車両。
【請求項2】
請求項1記載の作業車両において、
前記車両制御装置は、
前記前後進切替スイッチが示す前記車体の進行方向と、前記走行電動機の回転方向が示す前記車体の進行方向とに差異が生じた場合に、
前記エンジンについて予め設定した燃料噴射制限値と燃料噴射量の差が、第一の閾値より大きい場合には、前記発電機の発電電力を増加させるように制御し、
前記燃料噴射制限値と燃料噴射量の差が、前記第一の閾値よりも小さい値として予め設定した第二の閾値より小さい場合には、前記発電機の発電電力を減少させるように前記発電機を制御することを特徴とする作業車両。
【請求項3】
請求項1記載の作業車両において、
前記車両制御装置は、
前記前後進切替スイッチが示す前記車体の進行方向と、前記走行電動機の回転方向が示す前記車体の進行方向とに差異が生じた場合に、前記発電機の制御を電圧制御からトルク制御に切り替えることを特徴とする作業車両。
【請求項4】
請求項1記載の作業車両において、
前記車両制御装置は、
前記発電機の発電電力と前記走行電動機からの回生電力の和が前記外部抵抗器の定格電力を越えないように前記発電機の発電電力を制限することを特徴とする作業車両。
【請求項5】
請求項1記載の作業車両において、
制御ON/OFFスイッチをさらに備え、
前記車両制御装置は、
前記制御ON/OFFスイッチがOFF状態の場合には、前記前後進切替スイッチが示す前記車体の進行方向と、前記走行電動機の回転方向が示す前記車体の進行方向とに差異が生じた場合に、前記発電機による発電を行わないことを特徴とする作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両には、エンジンでモータジェネレータを駆動して発電し、モータジェネレータからの電力を用いて走行モータで車輪を回転駆動させるものがある。例えば、特許文献1には、エンジンと機械的に接続した発電電動機と、発電電圧指令に基づいて発電電動機の発電量を制御する発電インバータと、車体を駆動する走行電動機と、電動機トルク指令に基づいて走行電動機のトルクを制御する走行インバータと、車体の前進/後進を切り替える前後進切替え装置と、ブレーキ抵抗器と、発電インバータ及び走行インバータに電気的に接続され、入力電圧が設定電圧を超えるとき発電インバータ及び走行インバータをブレーキ抵抗器に電気的に接続することで発電電動機及び走行電動機で発生した電力を消費するチョッパ回路と、前後進切替え装置により車体の進行方向と逆方向が選択されたことで電動駆動式作業車両がモジュレート動作する間、エンジンにより発電電動機を駆動して設定電圧を超える電圧を発生する発電電圧指令を発電インバータに出力する電動駆動式作業車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-38365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作業車両としては、例えば、走行を行いながらフロント部の油圧作業装置のバケット部分で土砂等を掘削・運搬してダンプトラックなどへの積込を行うホイールローダがある。ホイールローダでは、単位時間あたりの運搬量などの作業効率が車両の性能を示す一つの指標となっている。ホイールローダの作業効率を向上させるためには、できるだけ速く車両を移動させて作業を迅速に行うことが必要となる。
【0005】
例えば、ホイールローダが作業時に行う動作の一つとしては、掘削位置と積込位置の間を移動する際に急制動から進行方向を逆方向に切り替えて急発進する、所謂、モジュレート動作が知られている。
【0006】
上記従来技術においては、モジュレート動作時にエンジンの状態を考慮せずに発電を実施するため、実際には制動後の車両発進時にはエンジンの出力が過大となり、結果的にエンジン回転が低下してしまい、良好に発進できなくなってしまうことが考えられる。また、エンジン回転の低下を避けるために発電電力を絞った場合には、車両発進時に必要となるパワーを供給するために時間を要してしまい、結果的に発進が遅れてしまうことが考えられる。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、モジュレート動作において、車両制動時の発電電力をエンジンの状態に応じて調整することで、制動後の発進時によりスムーズにエンジンからパワーを供給することができる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、エンジンにより駆動される発電機と、前記発電機からの電力により車体を走行駆動させる走行電動機と、前記車体の進行方向を前進と後進とで切り替える前後進切替スイッチと、前記走行電動機からの回生電力を消費する外部抵抗器と、車両制御装置とを備える作業車両において、前記車両制御装置は、前記前後進切替スイッチが示す前記車体の進行方向と、前記走行電動機の回転方向が示す前記車体の進行方向とに差異が生じた場合に、前記エンジンについて予め設定した燃料噴射制限値と燃料噴射量の差に基づいて前記発電機の発電電力を増加または減少させるように制御するものとする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、モジュレート動作において、車両制動時の発電電力をエンジンの状態に応じて調整することで、制動後の発進時によりスムーズにエンジンからパワーを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ホイールローダの外観を概略的に示す側面図である。
図2】ホイールローダの電気駆動システムの構成を模式的に示す図である。
図3】ホイールローダの動作の一例を示す図である。
図4】燃費向上制御における電力の流れを模式的に示す図である。
図5】作業効率向上制御における電力の流れを模式的に示す図である。
図6】発電機用インバータのコントローラ機能部における処理内容を示す機能ブロック図である。
図7】車両制御装置の電力駆動システムの制御に係る機能部を抜き出して示す機能ブロック図である。
図8】車両制御装置のモジュレート判定部及びMG制御モード切替部の処理内容を示すフローチャートである。
図9】車両制御装置の発電量演算部における処理内容を示す機能ブロック図である。
図10】比較例として示す従来技術におけるモジュレート動作時の各部状態量を示す図である。
図11】モジュレート動作時の各部状態量を示す図である。
図12】回生電力の制限処理の処理内容を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図1図12を参照しつつ説明する。
【0012】
なお、以下の説明においては、作業車両の一例としてホイールローダを例示して説明するが、これに限定されるものではなく、所謂、ディーゼルエレクトリック式を採用する他の作業機械においても本願発明を適用することができる。
【0013】
図1は、本実施の形態に係るホイールローダの外観を概略的に示す側面図である。なお、以降の説明においては、特に断らない限り、ホイールローダの前後左右はホイールローダに搭乗して操作するオペレータの視点を基準とする。
【0014】
図1において、ホイールローダ100は、車体を構成する前方(図1の左方向)に配置された前フレーム102および後方(図1の右方向)に配置された後フレーム103で構成されている。前フレーム102と後フレーム103は、センタピン109によって、左右方向に回動可能に連結されている。
【0015】
前フレーム102には、基端を前フレーム102に対して上下方向に回動可能に接続された左右一対のリフトアーム108と、リフトアーム108の先端に上下方向に回動可能に接続されたバケット107と、左右一対の車輪(前輪11a,11b)とが取り付けられている。リフトアーム108とバケット107は、リフトシリンダ52やバケットシリンダ51などとともに、土砂などの掘削作業を行うフロント部分の油圧作業装置5を構成している。
【0016】
リフトアーム108と前フレーム102は、リフトシリンダ52によって接続されている。リフトシリンダ52が伸縮することによって、リフトアーム108がバケット107と一体的に上下方向に回動される。
【0017】
バケット107とリフトアーム108は、バケットシリンダ51によって接続されている。バケットシリンダ51が伸縮することによって、バケット107が上下方向に回動される。
【0018】
後フレーム103には、オペレータが搭乗するキャブ104及び左右一対の車輪(後輪12a,12b)が取り付けられている。キャブ104内には、ホイールローダの進行方向を前進と後進とで切り替える前後進切替スイッチ104aが配置されている。
【0019】
前フレーム102と後フレーム103は、左右一対のステアリングシリンダ53によって接続されている。左右一対のステアリングシリンダ53のうちの一方を伸長させるのと同時に他方を縮退させることにより、センタピン109を中心として前フレーム2と後フレーム3とを左右方向に屈曲させる。
【0020】
図2は、ホイールローダの電気駆動システムの構成を模式的に示す図である。
【0021】
図2において、電気駆動システムは、後フレーム103などに配置されたエンジン1(例えば、ディーゼルエンジン)の出力軸に接続され、エンジン1により駆動される発電機6(モータジェネレータ:MG)と、発電機6の動作を制御する発電機用インバータ7と、発電機6からの電力により、ホイールローダ100の走行駆動に係るプロペラシャフト8を出力軸として回転駆動する走行モータ9と、発電機6から発電機用インバータ7を介して走行モータ9に供給される電力を制御して走行モータ9の動作を制御する走行モータ用インバータ10と、走行モータ9からの回生電力を消費するための外部抵抗器14と、電気駆動システムの全体の動作を制御する車両制御装置15とから概略構成されている。
【0022】
エンジン1の出力軸には、エンジン1により駆動される油圧ポンプ4が接続されている。油圧ポンプ4から吐出される圧油の流量および方向をコントロールバルブ50で制御することにより、バケットシリンダ51、リフトシリンダ52、ステアリングシリンダ53のそれぞれの伸長および縮退が制御される。
【0023】
走行モータ9に回転駆動されるプロペラシャフト8には、センタージョイント13(CJ)、ディファレンシャルギア11e(Dif)及びギア11c,11dを介して前輪11a,11bが、ディファレンシャルギア12e(Dif)及びギア12c,12d(G)を介して後輪12a,12bが、それぞれ取り付けられている。
【0024】
本実施の形態における電気駆動システムでは、エンジン1で発電機6を駆動し、発電機6で発電された電力を入力として走行モータ9でトルクを生成し、プロペラシャフト8等を介して車輪11a,11b,12a,12bに伝達することで回転駆動させ、ホイールローダ100を走行させる。このとき、発電機6を制御する発電機用インバータ7と走行モータ9を制御する走行モータ用インバータ10の間を電気的に連結するDCカップリング部分の電圧(すなわちDCバス電圧)の制御を行う。
【0025】
ここで、作業現場におけるホイールローダ100の基本的動作について説明する。
【0026】
図3は、ホイールローダの動作の一例を示す図である。
【0027】
図3に示すように、ホイールローダの基本動作はV字掘削作業とよばれる動作である。V字掘削作業では、ホイールローダ100はまず、土砂山などの掘削対象物に対して前進し、掘削対象物200に油圧作業装置5を突っ込むような形でバケット107に土砂等の運搬物を積み込む。その後、後進して元の位置に戻り、ステアリングを操作と油圧作業装置5のバケット107の上昇操作とをしながらダンプトラック300等の運搬車両に向かって前進する。そして、運搬車両に運搬物を積み込んだ(バケット107から放土した)後は、再び後進し、元の位置に戻る。このように、ホイールローダ100の基本動作はV字軌跡を描きながらこの作業を繰り返し行うことからV字掘削作業とよばれており、ホイールローダ100の作業時間の大多数を占める動作となっている。ホイールローダ100が掘削位置と積込位置の間を移動する際に急制動から進行方向を逆方向に切り替えて急発進する動作は、所謂、モジュレート動作と称されている。
【0028】
V字掘削作業におけるホイールローダ100の基本性能指標の一つには、作業効率[t/h](tは運搬物の重量、hは作業時間を表す)がある。V字掘削作業において作業効率[t/h]を向上させるためには、バケット107に積み込む土砂等の量[t]を増やす場合、あるいは、作業時の走行性能を向上させて作業時間[t]を短縮する場合が考えられる。
【0029】
本実施の形態においては、作業時間[t]の短縮による作業効率[t/h]の向上を図る。ホイールローダ100のV字掘削作業の作業時間[t]の短縮は、例えば、後進から前進に移行する動作(モジュレート動作)を急峻に行うことで実現することができる。具体的には、ホイールローダ100が後進状態から急制動をかけている状態(例えば、後進状態でのフルブレーキ状態)で、前後進切替スイッチ104aからの進行方向指示信号(FNR信号)を進行方向に切替えて(すなわち、前後進切替スイッチ104aを前進に切り替えて)、前進方向への急発進に移行することで、作業時間[t]の短縮を図ることができる。以降、このような制御を作業効率向上制御と称する。
【0030】
また、V字掘削作業におけるホイールローダ100の基本性能指標の他の一つには、運搬物の重量と燃料消費量の比率(所謂、燃費)がある。V字掘削作業において燃費を向上させるためには、発電機6による発電を効率的に行うことが考えられる。具体的には、走行モータ9で回生電力を発生して外部抵抗器14で消費する制動時に発電機6による発電を実施しないことで、燃費の向上を図ることができる。以降、このような制御を燃費向上制御と称する。
【0031】
本実施の形態においては、キャブ104内に、作業効率向上制御の有効と無効とを切り替える制御ON/OFFスイッチ104bを設け、制御ON/OFFスイッチ104bがONの場合には作業効率向上制御を行い、OFFの場合には燃費向上制御を行う。すなわち、ホイールローダ100により実施する作業の作業効率を優先したい場合には、オペレータが制御ON/OFFスイッチ104bをONにして作業を行う。また、ホイールローダ100により実施する作業が時間的に許容される場合には、オペレータが燃費を考慮して制御ON/OFFスイッチ104bをOFFにして作業を行う。
【0032】
図4は、燃費向上制御における電力の流れを模式的に示す図であり、V字掘削作業のモジュレート動作における制動時の回生電力の流れを示している。なお、図4においては説明の簡単のために一部の構成を追加・省略して示している。
【0033】
図4に示すように、燃費向上制御において、モジュレート動作における制動時には、車輪側から走行モータ9に制動力がかかる状態となっており、制動力によって走行モータ9が発電を行うことになる。走行モータ9からの発電電力(回生電力)は、外部抵抗器14で消費される分と、発電機6を回転駆動させることで(モータリングすることで)消費される分とになる。このとき、発電機6の回転によりエンジン1の出力軸が回転させられるため、エンジン1の出力軸の回転が上昇し、結果的にエンジン1はその間は燃料噴射を休止する。モジュレート動作の場合、すなわち、急制動のあとに急発進に移行する場合には、エンジン1が燃料噴射を休止しているため、大きなエンジン出力がすぐに出せずに急発進はできない状態となる。すなわち、モジュレート動作に要する時間の短縮効果は得られないため、作業効率[t/h]の改善は見込まれないものの、燃費の悪化を抑制が見込まれる。
【0034】
図5は、作業効率向上制御における電力の流れを模式的に示す図であり、V字掘削作業のモジュレート動作における制動時の回生電力の流れを示している。なお、図5においては説明の簡単のために一部の構成を追加・省略して示している。
【0035】
図5に示すように、作業効率向上制御において、モジュレート動作における制動時には、エンジン1の出力を予め増加させておくことにより、急制動のあとの急発進への移行に必要な大きなエンジン1の出力をすぐに出すことができるように制御する。すなわち、エンジン1の出力の遅れを抑制することでモジュレート動作における急発進を行うことが可能となるため、モジュレート動作に要する時間の短縮効果、すなわち、作業効率[t/h]の改善が見込まれる。
【0036】
ここで、電力駆動システムの作業効率向上制御について詳細に説明する。
【0037】
図6は、発電機用インバータのコントローラ機能部における処理内容を示す機能ブロック図である。
【0038】
図6において、発電機用インバータ7のコントローラ機能部は、DCバス電圧指令とDCバス電圧との差が小さくなるように指令値を算出する電圧制御部71と、MGトルク指令に応じた指令値を算出する換算ゲイン算出部72と、車両制御装置15からのMGモード制御指令に応じて電圧制御部71と換算ゲイン算出部72の何れか一方の指令値を選択する指令値選択部73と、指令値選択部73で選択された指令値の上限を規定する電流制限部74と、電流制限部74を介したMG電流指令とMG電流との差が小さくなるように発電機用インバータ7の動作を制御する指令値(MG用インバータ電圧指令)を算出して出力する電流制御部75とを備えている。
【0039】
図6に示すように、発電機用インバータ7は、MG制御モード指令が電圧制御(後述)を指示している時には、指令値選択部73において電圧制御部71からの指令値を選択し、発電機用インバータ7と走行モータ用インバータ10の間を電気的に連結するDCバスの電圧が所望の電圧(DCバス電圧指令の示す電圧)になるようにフィードバック制御している。
【0040】
また、発電機用インバータ7は、MG制御モード指令がトルク制御(後述)を指示している場合には、指令値選択部73において換算ゲイン算出部72からの指令値を選択し、発電機6の出力トルクが車両制御装置15からのMGトルク指令の示す値となるように制御している。
【0041】
図7は、車両制御装置の電力駆動システムの制御に係る機能部を抜き出して示す機能ブロック図である。
【0042】
図7において、車両制御装置15は、CAN通信等から得られる車両速度と前後進切替スイッチ104aからの信号とに基づいて、ホイールローダ100がモジュレート動作を行っているか否かを判定するモジュレート判定部151と、モジュレート判定部151の判定結果に応じて、電圧制御とトルク制御の何れか一方を指示するMG制御モード指令を発電機用インバータ7に出力するMG制御モード切替部152と、CAN通信等から得られる燃料噴射上限値とエンジントルクとに基づいて、発電機6における発電量の目標値を演算する発電量演算部153と、発電量演算部153で算出された発電量の目標値と発電量演算部CAN通信等から得られるエンジン回転数とに基づいて、MGトルク指令を演算して発電機用インバータ7に出力するMGトルク演算部154とを備えている。
【0043】
図8は、車両制御装置のモジュレート判定部及びMG制御モード切替部の処理内容を示すフローチャートである。
【0044】
図8に示すように、車両制御装置15は、まず、モジュレート判定部151においてCAN通信等から車両速度の信号を入力するとともに、前後進切替スイッチ104aからの信号を入力する(ステップS101)。
【0045】
続いて、車両速度と前後進切替スイッチ104aからの信号が示す進行方向とが同符号か否か、すなわち、ホイールローダ100の現在の進行方向と、オペレータが前後進切替スイッチ104aによって指示する進行方向とが同じであるか否かを判定する(ステップS102)。
【0046】
ステップS102での判定結果がYESの場合、すなわち、前後進切替スイッチ104aの示す方向とホイールローダ100の進行方向とが一致する場合(非モジュレート動作である場合)には、発電機6の電圧制御を指示するMG制御モード指令を生成して発電機用インバータ7に出力し(ステップS103)、処理を終了する。
【0047】
また、ステップS102での判定結果がNOの場合、すなわち、前後進切替スイッチ104aの示す方向とホイールローダ100の進行方向とが異なる場合(モジュレート動作である可能性がある場合)には、車両速度が予め定めた閾値以上であるか否かを判定する(ステップS104)。
【0048】
ステップS104での判定結果がNOの場合、すなわち、車両速度が閾値よりも小さい場合には、坂道でのずり下がり等が発生している(非モジュレート動作である)として、発電機6の電圧制御を指示するMG制御モード指令を生成して発電機用インバータ7に出力し(ステップS103)、処理を終了する。
【0049】
また、ステップS104での判定結果がYESの場合、すなわち、車両速度が閾値以上の場合(非モジュレート動作である場合)には、発電機6のトルク制御を指示するMG制御モード指令を生成して発電機用インバータ7に出力し(ステップS103)、処理を終了する。
【0050】
このように、本実施の形態においては、モジュレート動作の検知に基づくMG制御モード指令の決定処理と並行して、発電機6をトルク制御とした際のMGトルク指令の演算を行う。MGトルク指令の演算により、ホイールローダ100のモジュレート動作における回生動作時の発電機6の発電量を最適化することができ、その後の急発進においてもエンジン1の回転数を低下させることなく、高応答でスムーズな発進動作を可能とする。
【0051】
続いて、発電量演算部153の処理内容について詳細に説明する。
【0052】
図9は、車両制御装置の発電量演算部における処理内容を示す機能ブロック図である。
【0053】
図9に示すように、発電量演算部153は、エンジン1の燃料噴射状態(エンジントルクの出力割合)にもとづいて発電機6の発電電力を決定する。発電量演算部153は、まず、エンジンECU(図示せず)からのCAN信号に含まれている燃料噴射上限値とエンジントルク(正確には、エンジン1についてエンジントルクと燃料噴射量との関係を予め計測して定めたテーブルから求められる燃料噴射量に相当する値)を入力し、発電量を決定する。このとき、燃料噴射上限値とエンジントルク(双方とも、単位は[%]であり、例えば、定格に対する割合を示す)の差を演算部153aで求め、その差の大きさに応じて決定部153bで発電量を決定する。例えば、燃料噴射上限値とエンジントルクの差が小さい場合には、エンジン1の出力は上限に近い値となっていることを示しており、それ以上の出力を出そうとした場合には、エンジン1の回転数が低下してしまうことが考えられる。一方、燃料噴射上限値とエンジントルクの差が大きい場合には、エンジンの出力は上限に対して余裕が大きいことを示しており、出力を増加させる際に若干の時間を要することが考えられる。そこで、ホイールローダ100のモジュレート動作において、比較的大きな出力を要する場合、すなわち、急制動状態から急発進に移行する際には、燃料噴射上限値とエンジントルクの差を適正な大きさに保つことが有効である。
【0054】
発電量演算部153は、エンジンECU(図示せず)からCAN通信で出力されている状態量である燃料噴射上限値とエンジントルクを入力して演算部153aで差を演算し、演算した差分に応じて決定部153bで発電機6の発電量を増減するように発電量指令の暫定値を決定する。例えば、差分が閾値X1(例えば、20[%])より大きい場合には、より発電量を増加させるように、予め設定した適正な値(例えば、+α[kW])で発電量指令の暫定値を増加させる。また、差分が閾値X2(例えば、10[%])より小さかった場合は、エンジン1の出力が上限に近いとして、発電機6の発電量をより減少させるように、適正な値で減少させる。また、燃料噴射上限値とエンジントルクの差が閾値X1以下かつX2以上である場合には、現状の出力を維持するように発電量を決定する。
【0055】
なお、上記閾値X1と閾値X2は、車両の加速性に応じて任意に調整することが可能な値であるが、例えば、閾値X1は上述の燃料噴射上限値とエンジントルクの差がある程度大きい値(車両が発進に移った際に、発進が遅くなる位の差)を設定し、一方、閾値X2は燃料噴射上限値とエンジントルクの差がある程度小さい値(車両が発進に移った際に、エンジン回転数が低下してしまう位の差)を設定することが考えられる。なお、本実施の形態においては、発電機6の発電量をαkW(任意の値)ずつ増加減するようにしている。これは、エンジン1に急激な負荷の変化を与えて、回転数が変動することを抑制するためである。
【0056】
なお、発電機6から発電した電力(発電パワー)は走行モータ9からの回生電力と一緒に外部抵抗器14で消費することになる。そこで、図12に示すように、発電機6からの発電電力と、走行モータ9からの回生電力の合計値が外部抵抗器14の容量(定格)を超えないように制限することが必要となる。ホイールローダ100は制動中である場合には、走行モータ9の回生電力を制限することは車両の運動(制動)性能を低下させる可能性があるため、走行モータ9の回生電力の保持を優先し、発電機6の発電電力を制限する。なお、走行モータ9の回生電力は、回生時において、車両速度の低下に伴い減少するため、それに応じて発電機6の発電電力を増加させるようにすればよい。
【0057】
以上のように構成した本実施の形態における作用効果を図面を参照しつつ説明する。
【0058】
図10は、比較例として示す従来技術におけるモジュレート動作時の各部状態量を示す図である。また、図11は、本実施の形態におけるモジュレート動作時の各部状態量を示す図である。
【0059】
図11に示すように、比較例においては、減速時(図中(a))に走行モータ9から回生電力が発生し、発電機6においてその回生電力が消費(モータリング)されるため、MGパワーが正となり、エンジン1の回転数が上昇して、エンジン1は燃料噴射を休止する。すなわち、エンジントルクがゼロとなる。その後、加速開始時点(図中(b))では、急に発電機6からの発電電力が必要となり、エンジン1に負荷をかけ始めるためエンジン1の回転数は低下し、その後、において、MGパワーがスムーズに増加せず(図中(c))、結果的に車両の発進が遅くなってしまう。
【0060】
これに対して、本実施の形態においては、図13に示すように、減速時(図中(a))に走行モータ9から回生電力が発生するが、発電機6ではモータリングされず、発電機6においても強制的な発電が開始されるため、MGパワーが負側(発電側)に徐々に増加してくる。その結果、エンジン1は燃料の噴射を継続し、エンジントルクを増加させ、ホイールローダが前進動作に移った際、出力の急変を生じることなく、すなわち、エンジン1の回転数の意図しない低下を招くことなく、スムーズに出力を継続することができる。その結果、車両の急制動のあとの急発進動作に対応することができる。
【0061】
このように、本実施の形態においては、ホイールローダ100のモジュレート動作を検知した際に、制動時(回生時)において、エンジン1の状態を考慮した発電量で発電機6を発電させることにより、次に生じる急発進で必要なパワーをエンジン1からスムーズに出力することが可能となる。すなわち、モジュレート動作において、車両制動時の発電電力をエンジンの状態に応じて調整することで、制動後の発進時によりスムーズにエンジンからパワーを供給することができる。
【0062】
<付記>
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例や組み合わせが含まれる。また、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…エンジン、2…前フレーム、3…後フレーム、4…油圧ポンプ、5…油圧作業装置、6…発電機、7…発電機用インバータ、8…プロペラシャフト、9…走行モータ、10…走行モータ用インバータ、11a,11b…前輪、11c,11d…ギア、11e…ディファレンシャルギア、12a,12b…後輪、12c,12d…ギア、12e…ディファレンシャルギア、13…センタージョイント、14…外部抵抗器、15…車両制御装置、50…コントロールバルブ、51…バケットシリンダ、52…リフトシリンダ、53…ステアリングシリンダ、71…電圧制御部、72…換算ゲイン算出部、73…指令値選択部、74…電流制限部、75…電流制御部、100…ホイールローダ、102…前フレーム、103…後フレーム、104…キャブ、104a…前後進切替スイッチ、104a…前後進切替スイッチ、104b…制御ON/OFFスイッチ、107…バケット、108…リフトアーム、109…センタピン、151…モジュレート判定部、152…MG制御モード切替部、153…発電量演算部、153a…演算部、153b…決定部、154…MGトルク演算部、200…掘削対象物、300…ダンプトラック
図1
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図10
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図12