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特開2024-110093ヘッドチップ、液体噴射ヘッド、液体噴射装置およびヘッドチップの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110093
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】ヘッドチップ、液体噴射ヘッド、液体噴射装置およびヘッドチップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240807BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
B41J2/14 607
B41J2/14 301
B41J2/16 511
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014452
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】青木 崇
(72)【発明者】
【氏名】古池 晴信
(72)【発明者】
【氏名】石井 裕樹
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF65
2C057AF69
2C057AG33
2C057AG44
2C057AN01
2C057AP02
2C057AP14
2C057AP22
2C057AP51
2C057AQ02
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】振動板の破壊を抑制したヘッドチップ、液体噴射ヘッド、液体噴射装置およびヘッドチップの製造方法を提供する。
【解決手段】圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、前記振動板の振動によって液体に圧力を付与する圧力室が設けられる圧力室基板10と、前記圧力室と連通するノズルが形成されるノズル基板と、が積層され、前記圧力室は、前記積層方向と直交する流路方向に沿って延設され、当該圧力室および前記ノズルは、前記積層方向に直交すると共に前記流路方向と交差する配列方向に沿って複数設けられ、前記圧力室基板10は、曲率軸500周りに湾曲しており、前記積層方向に見たとき、前記流路方向と前記曲率軸500とのなす角θは、0度≦θ<45度を満たす。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子と、
前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、
前記振動板の振動によって液体に圧力を付与する圧力室が設けられる圧力室基板と、
前記圧力室と連通するノズルが形成されるノズル基板と、が積層方向に積層され、
前記圧力室は、前記積層方向と直交する流路方向に沿って延設され、当該圧力室および前記ノズルは、前記積層方向に直交すると共に前記流路方向と交差する配列方向に沿って複数設けられ、
前記圧力室基板は、曲率軸周りに湾曲しており、
前記積層方向に見たとき、前記流路方向と前記曲率軸とがなす角θは、
0度≦θ<45度
を満たす、
ことを特徴とするヘッドチップ。
【請求項2】
前記積層方向に見たとき、前記流路方向と前記曲率軸とがなす角θは、
0度≦θ<30度
を満たす、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドチップ。
【請求項3】
前記積層方向に見たとき、前記流路方向と前記曲率軸とがなす角θは、
0度≦θ<15度
を満たす、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドチップ。
【請求項4】
前記流路方向と前記曲率軸とは略平行である、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドチップ。
【請求項5】
圧電素子と、
前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、
前記振動板の振動によって液体に圧力を付与する圧力室が設けられる圧力室基板と、
前記圧力室と連通するノズルが形成されるノズル基板と、が積層方向に積層され、
前記圧力室は、前記積層方向と直交する流路方向に沿って延設され、当該圧力室および前記ノズルは、前記積層方向に直交すると共に前記流路方向と交差する配列方向に沿って複数設けられ、
前記配列方向に沿って見たときの曲率半径が、前記流路方向に沿って見たときの曲率半径よりも大きい、
ことを特徴とするヘッドチップ。
【請求項6】
前記配列方向に沿って設けられる複数の前記圧力室で構成される第1圧力室列と、
前記第1圧力室列とは前記流路方向で異なる位置において、前記配列方向に沿って設けられる複数の前記圧力室で構成される第2圧力室列と、を具備し、
前記第1圧力室列と前記第2圧力室列とは前記流路方向に互いに隣接する、
ことを特徴とする請求項1または5に記載のヘッドチップ。
【請求項7】
前記振動板は、前記圧力室基板から圧縮応力または引張応力を受けている、
ことを特徴とする請求項1または5に記載のヘッドチップ。
【請求項8】
請求項1または5に記載のヘッドチップと、
複数の前記圧力室に共通して液体を供給する流路部材と、
を有する、
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求項8に記載の液体噴射ヘッドと、
電気信号を発生し、前記電気信号によって前記圧電素子の駆動を制御する駆動制御部と、
を有する、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項10】
圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、前記振動板の振動によって液体に圧力を付与する圧力室が設けられる圧力室基板と、前記圧力室と連通するノズルが形成されるノズル基板と、が積層方向に積層され、前記圧力室は、前記積層方向と直交する流路方向に沿って延設され、当該圧力室および前記ノズルは、前記積層方向に直交すると共に前記流路方向と交差する配列方向に沿って複数設けられる、ヘッドチップの製造方法であって、
ウエハー状の前記圧力室基板に前記圧電素子を形成する成膜工程と、
ウエハー状の前記圧力室基板に前記圧力室を形成する圧力室形成工程と、
前記成膜工程と前記圧力室形成工程よりも後の工程であって、複数のチップ状に前記圧力室基板を切断するダイシング工程と、
を含み、
前記ダイシング工程の直前において、
ウエハー状の前記圧力室基板は曲率軸まわりに湾曲しており、
前記積層方向に見たとき、前記流路方向と前記曲率軸とのなす角θが、
0度≦θ<45度
を満たす、
ことを特徴とするヘッドチップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を噴射するヘッドチップ、ヘッドチップを具備する液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置およびヘッドチップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子を変形させて圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることで、圧力室に連通するノズルから液滴を噴射させるヘッドチップが知られている。
【0003】
このようなヘッドチップとして、複数の圧力室が並設された圧力室基板と、圧力室基板の一方面側に設けられた振動板と、振動板側から第1電極と圧電体層と第2電極とが積層された圧電素子と、を具備するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-032974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ウエハーの状態で圧力室基板に振動板や圧電素子等を形成した際に反りが生じることが知られており、この反りはウエハーをダイシングして各ヘッドチップのサイズに分割した後の圧力室基板にも影響を及ぼす。このため、圧力室基板が圧力室の流路方向に反る、つまり湾曲すると、圧力室に対応する振動板に加わる外部応力が流路方向に偏在し、振動板を振動させた際に特定の箇所に負荷が集中して振動板にクラック等の破壊が生じるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の態様は、圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、前記振動板の振動によって液体に圧力を付与する圧力室が設けられる圧力室基板と、前記圧力室と連通するノズルが形成されるノズル基板と、が積層方向に積層され、前記圧力室は、前記積層方向と直交する流路方向に沿って延設され、当該圧力室および前記ノズルは、前記積層方向に直交すると共に前記流路方向と交差する配列方向に沿って複数設けられ、前記圧力室基板は、曲率軸周りに湾曲しており、前記積層方向に見たとき、前記流路方向と前記曲率軸とのなす角θは、0度≦θ<45度を満たす、ことを特徴とするヘッドチップにある。
【0007】
また、本発明の他の態様は、圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、前記振動板の振動によって液体に圧力を付与する圧力室が設けられた圧力室基板と、前記圧力室と連通するノズルが形成されたノズル基板と、が積層方向に積層され、前記圧力室は、前記積層方向と直交する流路方向に沿って延設され、当該圧力室および前記ノズルは、前記積層方向に直交すると共に前記流路方向と交差する配列方向に沿って複数設けられ、前記流路方向に沿って見たときの曲率半径が、前記配列方向に沿って見たときの曲率半径よりも大きい、ことを特徴とするヘッドチップにある。
【0008】
また、本発明の他の態様は、上記態様に記載のヘッドチップと、複数の前記圧力室に共通して液体を供給する流路部材と、を有する、ことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0009】
また、本発明の他の態様は、上記態様に記載の液体噴射ヘッドと、電気信号を発生し、前記電気信号によって前記圧電素子の駆動を制御する駆動制御部と、を有する、ことを特徴とする液体噴射装置にある。
【0010】
また、本発明の他の態様は、圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、前記振動板の振動によって液体に圧力を付与する圧力室が設けられる圧力室基板と、前記圧力室と連通するノズルが形成されるノズル基板と、が積層方向に積層され、前記圧力室は、前記積層方向と直交する流路方向に沿って延設され、当該圧力室および前記ノズルは、前記積層方向に直交すると共に前記流路方向と交差する配列方向に沿って複数設けられる、ヘッドチップの製造方法であって、ウエハー状の前記圧力室基板に前記圧電素子を形成する成膜工程と、ウエハー状の前記圧力室基板に前記圧力室を形成する圧力室形成工程と、前記成膜工程と前記圧力室形成工程よりも後の工程であって、複数のチップ状に前記圧力室基板を切断するダイシング工程と、を含み、前記ダイシング工程の直前において、ウエハー状の前記圧力室基板は曲率軸まわりに湾曲しており、前記積層方向に見たとき、前記流路方向と前記曲率軸とのなす角θが、0度≦θ<45度を満たす、ことを特徴とするヘッドチップの製造方法にある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係るヘッドチップの分解斜視図である。
図2】一実施形態に係る圧力室基板の平面図である。
図3】一実施形態に係るヘッドチップの断面図である。
図4】一実施形態に係るヘッドチップの要部断面図である。
図5】一実施形態に係る圧力室基板および保護基板の要部斜視図である。
図6】一実施形態に係る圧力室基板および保護基板の平面図である。
図7】一実施形態に係る圧力室基板および保護基板の側面図である。
図8】一実施形態に係る圧力室基板および保護基板の側面図である。
図9】一実施形態に係る圧力室基板の曲率軸の算出方法を説明する図である。
図10】一実施形態に係る圧力室基板の曲率軸の算出方法を説明する図である。
図11】一実施形態に係るヘッドチップの製造方法を示す断面図である。
図12】一実施形態に係るヘッドチップの製造方法を示す断面図である。
図13】一実施形態に係るヘッドチップの製造方法を示す断面図である。
図14】一実施形態に係るヘッドチップの製造方法を示す断面図である。
図15】一実施形態に係るヘッドチップの製造方法を示す断面図である。
図16】一実施形態に係るヘッドチップの製造方法を示す断面図である。
図17】一実施形態に係るヘッドチップの製造方法を示す断面図である。
図18】一実施形態に係る圧力室基板用ウエハーの斜視図である。
図19】一実施形態に係るウエハーの曲率軸の算出方法を説明する図である。
図20】一実施形態に係るウエハーの曲率軸の算出方法を説明する図である。
図21】一実施形態に係る液体噴射ヘッドの分解斜視図である。
図22】一実施形態に係る液体噴射ヘッドの断面図である。
図23】本発明の一実施形態に係る液体噴射装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の一態様を示すものであって、本発明の範囲内で任意に変更可能である。各図において同じ符号を付したものは、同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。また、各図においてX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をX方向、Y方向、およびZ方向とする。各図の矢印が向かう方向を正(+)方向、矢印の反対方向を負(-)方向として説明する。また、正方向及び負方向を限定しない3つの空間軸の方向については、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向として説明する。また、以下の実施形態では、一例として「積層方向」をZ方向、「流路方向」を+Y方向、「配列方向」を+X方向としている。
【0013】
(実施形態)
図1は、本発明の一実施形態に係るヘッドチップ1の分解斜視図である。図2は、圧力室基板10の平面図である。図3は、図2のA-A′線に準じたヘッドチップ1の断面図である。図4は、図2のB-B′線の断面図である。図5は、圧力室基板10および保護基板30の要部斜視図である。図6は、圧力室基板および保護基板を+Z方向に見た平面図である。図7は、圧力室基板10および保護基板30を+X方向に見た側面図である。図8は、圧力室基板10および保護基板30を+Y方向に見た側面図である。なお、図4図5図7図8、においては、理解を容易なものとするため、圧力室基板10および圧力室基板10に積層される他の構成要素の湾曲を誇張している。
【0014】
図示するように、本実施形態のヘッドチップ1は、圧力室基板10を具備する。圧力室基板10は、例えば、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板からなる。
【0015】
圧力室基板10には、複数の圧力室12がX軸方向に沿って並んで配置されている。複数の圧力室12は、Y軸方向の位置が同じ位置となるように、X軸方向に沿った直線上に配置されている。X軸方向で互いに隣り合う2つの圧力室12は、隔壁11によって区画されている。もちろん、圧力室12の配置は特にこれに限定されず、例えば、+X方向に並んで配置された圧力室12において、1つ置きに+Y方向にずれた位置に配置した、所謂、千鳥配置としてもよい。また、本実施形態では、圧力室12がX軸方向に沿って並設された圧力室列が、Y軸方向に2列設けられている。本実施形態では、2列の圧力室列のうち、-Y方向の圧力室列を第1圧力室列12Aと称し、+Y方向の圧力室列を第2圧力室列12Bと称する。第1圧力室列12Aと第2圧力室列12Bとは、+Y方向に異なる位置に配置されており、第1圧力室列12Aと第2圧力室列12Bとは、+Y方向に互いに隣接している。ここで、第1圧力室列12Aと第2圧力室列12Bとが、+Y方向に隣接しているとは、第1圧力室列12Aと第2圧力室列12Bとが、+Y方向に間隔を空けて配置されていることを言う。また、第1圧力室列12Aと第2圧力室列12Bとが+Y方向に互いに隣接しているとは、第1圧力室列12Aを構成する圧力室12と、第2圧力室列12Bを構成する圧力室12と、がX軸方向で異なる位置に配置されている場合も含む。
【0016】
また、本実施形態の圧力室12は、+Z方向に見た形状が、矩形状、平行四辺形状、長方形状を基本として長手方向の両端部を半円形状とした、いわゆる、角丸長方形状や楕円形状や卵形状などのオーバル形状や、多角形状等であってもよい。圧力室12は、+Z方向に見て、Y軸方向に沿って長く、X軸方向に沿って短い、所謂高いアスペクト比を有する。つまり、本実施形態の圧力室12は、Y軸方向が長手方向となり、X軸方向が短手方向となっている。また、圧力室12の延びる方向または延設方向とは、長手方向のことである。さらに、圧力室12の「流路方向」とは、圧力室12内をインクが流れる方向である。本実施形態では、詳しくは後述するが、圧力室12に連通する2つの流路は、一方が圧力室12の長手方向の一端に連通し、他方が圧力室12の長手方向の他端に連通して設けられている。このため、圧力室12の「流路方向」は、本実施形態では、圧力室12の長手方向と一致する。
【0017】
圧力室基板10の+Z方向を向く面には、連通板15とノズル基板20とが順次積層されている。本実施形態では、圧力室基板10と連通板15とは、接着剤140によって接着されている。なお、連通板15とノズル基板20とは、接着剤によって接着されていてもよく、シリコン基板同士の直接接合等であってもよい。
【0018】
連通板15は、圧力室基板10の+Z方向を向く面に接合された板状部材からなる。連通板15には、圧力室12とノズル21とを連通するノズル連通路16が設けられている。
【0019】
また、連通板15には、複数の圧力室12が共通して連通する共通液室となるマニホールド100の一部を構成する第1マニホールド部17と第2マニホールド部18とが設けられている。第1マニホールド部17は、連通板15をZ軸方向に貫通して設けられている。また、第2マニホールド部18は、連通板15をZ軸方向に貫通することなく、+Z方向を向く面に開口して設けられている。
【0020】
さらに、連通板15には、圧力室12のY軸方向の一端部に連通する供給連通路19が圧力室12の各々に独立して設けられている。供給連通路19は、第2マニホールド部18と圧力室12とを連通して、マニホールド100内のインクを圧力室12に供給する。
【0021】
このような連通板15としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、ステンレス基板等の金属基板などを用いることができる。
【0022】
ノズル基板20は、連通板15の圧力室基板10とは反対側、すなわち、+Z方向を向く面に接合されている。
【0023】
ノズル基板20には、各圧力室12にノズル連通路16を介して連通するノズル21が形成されている。本実施形態では、複数のノズル21は、X軸方向に沿って一列となるように並んで配置されている。このため、圧力室12およびノズル21の「配列方向」は、X軸方向となっている。また、本実施形態では、ノズル21がX軸方向に沿って並設されたノズル列が、Y軸方向に離れて2列設けられている。本実施形態では、2列のノズル列のうち、-Y方向のノズル列を第1ノズル列21Aと称し、+Y方向のノズル列を第2ノズル列21Bと称する。この第1ノズル列21Aおよび第2ノズル列21Bのそれぞれを構成する複数のノズル21は、Y軸方向の位置が同じ位置となるように配置されている。もちろん、ノズル21の配置は特にこれに限定されず、例えば、第1ノズル列21Aのノズル21と、第2ノズル列21Bのノズル21とが、X軸方向に半ピッチずらした、所謂、千鳥配置としてもよい。ノズル21を千鳥配置とした場合であってもノズル21の配列方向は、X軸方向と一致する。このようなノズル基板20としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、ステンレス基板等の金属基板、ポリイミド樹脂のような有機物などを用いることができる。
【0024】
圧力室基板10の-Z方向を向く面には、振動板50と圧電素子300とが順次積層されている。すなわち、圧力室基板10、振動板50および圧電素子300とは、この順に-Z方向に積層されている。
【0025】
振動板50は、本実施形態では、圧力室基板10側に設けられた酸化シリコンからなる弾性膜51と、弾性膜51の-Z方向を向く面上に設けられた酸化ジルコニウムからなる絶縁膜52と、を有する。なお、振動板50は、弾性膜51のみで構成されていてもよく、絶縁膜52のみで構成されていてもよく、弾性膜51と絶縁膜52とに加えて他の膜を有する構成であってもよい。このような振動板50を構成する弾性膜51および絶縁膜52は、X軸方向に延在し、複数の圧力室12に連続して形成されている。なお、本実施形態では、弾性膜51および絶縁膜52の両方をX軸方向に延在し、複数の圧力室12に連続して設けるようにしたが、特にこれに限定されない。振動板50を構成する少なくとも1つの層が、X軸方向に延在し、複数の圧力室12に連続して設けられていればよい。また、振動板50は、圧力室基板10から圧縮応力または引張応力を受けている。このように、振動板50を構成する少なくとも1つの層が、X軸方向に延在し、複数の圧力室12に連続して設けられると共に、振動板50が圧力室基板10から圧縮応力または引張応力を受けることで、言い換えると、振動板50の内部応力が圧縮応力または引張応力となることで、図5に示すように、圧力室基板10が曲率軸500周りに湾曲する。ここで、振動板50の厚さは、5μm以下であり、圧力室基板10に比べてZ軸方向において十分に薄いため、圧力室基板10による圧縮応力または引張応力等の外部応力による影響が顕著となる。
【0026】
圧電素子300は、振動板50上に-Z方向に向かって順次積層された第1電極60と圧電体層70と第2電極80とを具備する。圧電素子300が、圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせる圧力発生手段となっている。このような圧電素子300は、圧電アクチュエーターとも言い、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とを含む部分を言う。また、第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加した際に、圧電体層70に圧電歪みが生じる部分を活性部310と称する。これに対して、圧電体層70に圧電歪みが生じない部分を非活性部と称する。すなわち、活性部310は、圧電体層70が第1電極60と第2電極80とで挟まれた部分を言う。本実施形態では、圧力室12毎に活性部310が形成されている。つまり、圧電素子300には複数の活性部310が形成されていることになる。そして、一般的には、活性部310の何れか一方の電極を活性部310毎に独立する個別電極とし、他方の電極を複数の活性部310に共通する共通電極として構成する。本実施形態では、第1電極60が個別電極を構成し、第2電極80が共通電極を構成している。もちろん、第1電極60が共通電極を構成し、第2電極80が個別電極を構成してもよい。この圧電素子300のうち、圧力室12にZ軸方向で対向する部分が可撓部となり、圧力室12の外側部分が非可撓部となる。圧力室基板10の湾曲に影響する振動板50の内部応力は、圧電素子300からの応力によっても影響する。
【0027】
ここで第1電極60は、図2図4に示すように、圧力室12毎に切り分けられて活性部310毎に独立する個別電極を構成する。第1電極60は、+X方向において、圧力室12の幅よりも狭い幅で形成されている。すなわち、+X方向において、第1電極60の端部は、圧力室12に対向する領域の内側に位置している。また、図3に示すように、第1電極60のY軸方向において、ノズル21側の端部は、圧力室12よりも外側に配置されている。この第1電極60のY軸方向において圧力室12よりも外側に配置された端部に、引き出し配線である個別リード電極91が接続されている。
【0028】
圧電体層70は、図2図4に示すように、+Y方向の幅が所定の幅で、+X方向に亘って連続して設けられている。圧電体層70のY軸方向の幅は、圧力室12のY軸方向の長さよりも長い。このため、圧力室12の+Y方向および-Y方向の両側では、圧電体層70は、圧力室12に対向する領域の外側まで延設されている。このような圧電体層70のY軸方向においてノズル21とは反対側の端部は、第1電極60の端部よりも外側に位置している。すなわち、第1電極60のノズル21とは反対側の端部は圧電体層70によって覆われている。また、圧電体層70のノズル21側の端部は、第1電極60の端部よりも内側に位置しており、第1電極60のノズル21側の端部は、圧電体層70に覆われていない。なお、第1電極60の圧電体層70の外側まで延設された端部には、上述したように金(Au)等からなる個別リード電極91が接続されている。
【0029】
また、圧電体層70には、各隔壁11に対応する凹部71が形成されている。この凹部71のX軸方向の幅は、隔壁11の幅と同一、もしくは、それより広くなっている。本実施形態では、凹部71のX軸方向の幅は、隔壁11の幅よりも広くなっている。これにより、振動板50の圧力室12の+X方向および-X方向の両端部に対向する部分、所謂、振動板50の腕部の剛性が抑えられるため、圧電素子300を良好に変位させることができる。なお、凹部71は、圧電体層70を厚さ方向である+Z方向に貫通して設けられていてもよく、また、圧電体層70を+Z方向に貫通することなく、圧電体層70の厚さ方向の途中まで設けられていてもよい。すなわち、凹部71の+Z方向の底面には、圧電体層70が完全に除去されていてもよく、圧電体層70の一部が残留していてもよい。
【0030】
このような圧電体層70は、一般式ABOで示されるペロブスカイト構造の複合酸化物からなる圧電材料を用いて構成されている。
【0031】
第2電極80は、図2図4に示すように、圧電体層70の第1電極60とは反対側である-Z方向側に連続して設けられており、複数の活性部310に共通する共通電極を構成する。第2電極80は、Y軸方向が所定の幅となるように、X軸方向に亘って連続して設けられている。また、第2電極80は、凹部71の内面、すなわち、圧電体層70の凹部71の側面上および凹部71の底面である振動板50上にも設けられている。もちろん、第2電極80は、凹部71の内面の一部のみに設けるようにしてもよく、凹部71の内面の全面に亘って設けないようにしてもよい。すなわち、本実施形態では、圧力室基板10上において、圧電素子300の+Y方向側および-Y方向側の端部には、第2電極80は設けられておらず、振動板50が-Z方向の表面に露出して設けられている。
【0032】
また、第1電極60からは、引き出し配線である個別リード電極91が引き出されている。第2電極80からは引き出し配線である共通リード電極92が引き出されている。これら個別リード電極91および共通リード電極92の圧電素子300に接続された端部とは反対側の端部には、上述のように可撓性を有する配線基板120が接続されている。配線基板120は、圧電素子300を駆動するためのスイッチング素子を有する駆動回路121が実装されている。
【0033】
圧力室基板10の-Z方向を向く面には、図1および図3に示すように、圧力室基板10と略同じ大きさを有する保護基板30が接合されている。本実施形態では、圧力室基板10と保護基板30とは、接着剤141によって接着されている。保護基板30は、圧電素子300を保護する空間である保持部31を有する。保持部31は、X軸方向に並んで配置される圧電素子300の列毎に独立して設けられたものであり、Y軸方向に2つ並んで形成されている。また、保護基板30には、Y軸方向に並んで配置される2つの保持部31の間にZ軸方向に貫通する貫通孔32が設けられている。圧電素子300の電極から引き出された個別リード電極91および共通リード電極92の端部は、この貫通孔32内に露出するように延設され、個別リード電極91および共通リード電極92と配線基板120とは、貫通孔32内で電気的に接続されている。
【0034】
このような保護基板30としては、例えば、圧力室基板10と同様にシリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板からなる。
【0035】
また、図3に示すように、保護基板30上には、複数の圧力室12に連通するマニホールド100を圧力室基板10と共に画成するケース部材40が固定されている。ケース部材40は、平面視において上述した連通板15と略同一形状を有し、保護基板30に接合されると共に、上述した連通板15にも接合されている。本実施形態では、ケース部材40は、保護基板30および連通板15と接着剤142によって接着されている。
【0036】
このようなケース部材40は、保護基板30側に圧力室基板10および保護基板30が収容される深さの凹部41を有する。この凹部41は、保護基板30の圧力室基板10に接合された面よりも広い開口面積を有する。そして、凹部41に圧力室基板10および保護基板30が収容された状態で、凹部41のノズル基板20側の開口面が連通板15によって封止されている。
【0037】
また、ケース部材40には、連通板15の第1マニホールド部17に連通する第3マニホールド部42が設けられている。そして、連通板15に設けられた第1マニホールド部17および第2マニホールド部18と、ケース部材40に設けられた第3マニホールド部42と、によって本実施形態のマニホールド100が構成されている。マニホールド100は、圧力室12の列毎に、つまり、合計2個設けられている。各マニホールド100は、圧力室12が並んで配置されるX軸方向に亘って連続して設けられており、各圧力室12とマニホールド100とを連通する供給連通路19は、X軸方向に並んで配置されている。また、ケース部材40には、マニホールド100に連通して各マニホールド100にインクを供給するための導入口44が設けられている。また、ケース部材40には、保護基板30の貫通孔32に連通して配線基板120が挿通される接続口43が設けられており、配線基板120は、接続口43を介して液体噴射ヘッド2の-Z方向を向く面側に導出される。ケース部材40としては、金属材料、樹脂材料などを用いることができる。
【0038】
また、連通板15の第1マニホールド部17および第2マニホールド部18が開口する+Z方向側の面には、コンプライアンス基板45が設けられている。このコンプライアンス基板45が、第1マニホールド部17と第2マニホールド部18の液体噴射面20a側の開口を封止している。このようなコンプライアンス基板45は、本実施形態では、可撓性を有する薄膜からなる封止膜46と、金属等の硬質の材料からなる固定基板47と、を具備する。固定基板47のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部48となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜46のみで封止された可撓部であるコンプライアンス部49となっている。
【0039】
このようなヘッドチップ1は、少なくとも圧力室基板10、振動板50、圧電素子300およびノズル基板20を具備するものであればよい。
【0040】
ここで、ヘッドチップ1を構成する圧力室基板10は、図4図8に示すように、曲率軸500周りに湾曲している。本実施形態では、曲率軸500は、圧力室基板10の-Z方向に位置する。つまり、圧力室基板10は、+Z方向を向く面が凸となり、-Z方向を向く面が凹となるように湾曲している。
【0041】
ここで、圧力室基板10をZ軸方向に見たとき、圧力室12の流路方向である+Y方向と曲率軸500とがなす角θは、0度以上、45度未満、すなわち、0度≦θ<45度を満たす。ここで、曲率軸500とは、圧力室基板10の中心(図9に示すCc)や重心などの代表点を通過する仮想平面IPであって、XY平面に垂直な仮想平面IPによる断面視において圧力室基板10の曲率を算出したとき、曲率のうち曲率が最大となる仮想平面IPに対して垂直な軸である。しかしながら、圧力室基板10の代表点を通過し、XY平面に垂直な仮想平面IPは無数に存在する。よって、簡略化するため、例えば、図9に示すように、互いのなす角が等しい8つの仮想平面IP1~IP8による各断面視において圧力室基板10の8つの曲率を算出し、そのうち曲率が最大となる仮想平面IPに対して垂直な軸を曲率軸500として規定してもよい。ちなみに、8つの仮想平面IP1~IP8が互いに成す角は22.5°となる。当然、仮想平面IPの数が限定されているため、厳密には、曲率が最大となる仮想平面IPが含まれない場合もあるが、仮想平面IPを8つ以上とすることにより、こうした誤差は許容される。
【0042】
また、各曲率軸の曲率半径rは、図10に示すように、各仮想平面IPにおいて、仮想平面IPと圧力室基板10の端部との一方の交点Ec1(Ec11~Ec18)と、中心Ccまたは代表点と、仮想平面IPと圧力室基板10との他方の交点Ec2(交点Ec21~Ec28)と、の3点の位置から、三角関数や三平方の定理を利用して算出することで求めることができる。なお、仮想平面IP1において、仮想平面IP1と圧力室基板10の端部との一方の交点をEc11とし、他方の交点をEc21としている。例えば、仮想平面IP1の場合には、図10に示すように、仮想平面IP1と圧力室基板10の端部との一方の交点Ec11と、中心Ccと、仮想平面IP1と圧力室基板10の端部との他方の交点Ec21と、の3点の位置から曲率半径rを求める。例えば、交点Ec11と交点Ec12とを結ぶ線と中心Ccへの垂線との交点を点Fcとし、点Fcと中心Ccとの距離を距離L1とする。距離L1は、Z軸方向において交点Ec11および交点Ec12の高さと、中心Ccの高さの差によって求めることができる。この距離L1と、交点Ec11と交点Ec12との間の円弧の距離L2と、交点Ec11と交点Ec12との距離L3と、のうち何れか2つを用いて三角関数や三平方の定理を利用して曲率半径rを算出する。
【0043】
同様に、仮想平面IP2の場合には、仮想平面IP2と圧力室基板10の端部との交点Ec12と、中心Ccまたは代表点と、仮想平面IP2と圧力室基板10の端部との交点Ec22と、の3点の位置から三角関数や三平方の定理を利用して仮想平面IP2に垂直な曲率軸の曲率半径rを求める。そして上述のように各仮想平面IP1~IP8において曲率半径rを求め、曲率半径rが最小となる仮想平面IPに対する垂直な軸を圧力室基板10の曲率軸500とする。
【0044】
なお、圧力室基板10は、曲率軸500に加えて、他の曲率軸周りに湾曲していてもよいが、他の曲率軸の曲率半径は、曲率軸500の曲率半径よりも大きくなっている。ちなみに他の曲率軸とは、曲率軸500と同じ方向に延在するものであってもよく、圧力室12の配列方向であるX軸方向に対して0度以上、45度未満の角度をなす軸であってもよい。すなわち、圧力室基板10は、X軸周りおよびY軸周りの両方に湾曲した形状であってもよい。また、Z軸方向に見たとき、圧力室12の配列方向であるX軸方向と曲率軸500とがなす角θとは、図6に示すように、+Y方向に対する曲率軸500の傾く角度のうち、小さい方の角度を言う。また、0度≦θ<45度とは、+Z方向に見て、曲率軸500が+Y方向に対して時計回りに45度未満、反時計回りに45度未満の範囲で傾いていることを言う。
【0045】
前述のように、圧力室12は、+Z方向に見て、Y軸方向に沿って長く、X軸方向に沿って短く形成されている。このため、1つの圧力室12と対向する振動板50の可撓部も、同様に+Z方向に見て、Y軸方向に沿って長く、X軸方向に沿って短く形成されている。このため、当該可撓部は、長手方向、つまり、Y軸方向での外部応力の偏在に対して比較的弱くなる。一方で、当該可撓部は、短手方向、つまり、X軸方向での外部応力の偏在に対して比較的強くなる。
【0046】
ここで、Z軸方向に見て+Y方向と曲率軸500とが成す角θが小さい方が、1つの圧力室12に対応する可撓部における振動板50に加わるY軸方向での外部応力の偏在が小さくなり、角θが大きい方が、可撓部のおける振動板50に加わるY軸方向での外部応力の偏在が大きくなる傾向がある。このため、Z軸方向に見て+Y方向と曲率軸500とがなす角θは、0度以上、30度未満、つまり、0度≦θ<30度を満たすことが好ましい。また、Z軸方向に見て+Y方向と曲率軸500とがなす角θは、0度≦θ<15度を満たすことがより好ましく、さらに好ましくは+Y方向と曲率軸500とは略平行である。つまり、なす角θが小さいほど、可撓部における振動板50に加わるY軸方向での外部応力の偏在を抑制しやすくなり、好ましい。なお、+Y方向と曲率軸500とが略並行であるとは、+Y方向と曲率軸500とがなす角θが0度以上、5度未満、つまり、0度≦θ<5度を満たすことを言う。
【0047】
このように曲率軸500の+Y方向に対するなす角θを規定することで、1つの圧力室12に対応する可撓部における振動板50に加わる外部応力がY軸方向に偏在することを抑制できる。ここで、前述のように、1つの圧力室12に対応する可撓部における振動板50は、Y軸方向での外部応力の偏在に対して比較的弱い。このため、曲率軸500の+Y方向に対するなす角θを小さくすることで、振動板50のY軸方向に特定の箇所に振動時の負荷が集中することを抑制し、特定の箇所を起点として振動板のクラックが生じることを低減することができる。
【0048】
本実施形態では、第1圧力室列12Aと第2圧力室列12Bとを有するため、第1圧力室列12Aを構成する圧力室12に対応する振動板50と、第2圧力室列12Bを構成する圧力室12に対応する振動板50との間で、振動特性にばらつきが生じることを抑制できる。このため、第1ノズル列21Aのノズル21と第2ノズル列21Bのノズル21とから噴射されるインク噴射特性、つまり、インクの飛翔速度、インクの重量および噴射タイミングのばらつきを抑制することができる。したがって、ヘッドチップ1から噴射されるインク滴によって媒体上に形成される画像の印刷品質を向上することができる。
【0049】
また、圧力室基板10を湾曲させることで、振動板50の圧力室基板10から受ける応力を分散することができる。ちなみに、例えば圧力室基板10を平坦にすると、振動板50から圧力室基板10を湾曲させようとする応力が分散されることなく振動板50内に留まり、応力が集中することによって圧力室基板10、振動板50および圧電素子300等にクラックが生じることや、圧力室基板10と振動板50と圧電素子300との剥離が生じるなどの不具合が発生する虞がある。圧力室基板10を湾曲させることで、振動板50や圧電素子300に応力集中が生じることを抑制して、圧力室基板10にクラックが生じることや、圧力室基板10と振動板50と圧電素子300との剥離が生じるなどの不具合が発生することを抑制できる。
【0050】
また、図7および図8に示すように、圧力室基板10は、当該圧力室基板10を+X方向に見たときの圧力室基板10の曲率半径r1が、+Y方向に見たときの曲率半径r2よりも大きい。ここで、曲率半径r1、r2とは、それぞれ+X方向に見たときの曲率半径の平均値、+Y方向に見たときの曲率半径の平均値のことを言う。また、曲率半径r1、r2とは、それぞれ圧力室基板10の+X方向に沿った最大の曲率半径、圧力室基板10の+Y方向に沿った最大の曲率半径のことを言う。また、曲率半径r1、r2とは、それぞれ圧力室基板10の+X方向の中心の曲率半径、圧力室基板10の+Y方向の中心の曲率半径のことを言う。
【0051】
このように、圧力室基板10を+X方向に見たときの曲率半径r1を、+Y方向に見たときの曲率半径r2よりも大きくすること、つまり、圧力室基板10を+X方向に沿って大きく湾曲させ、+Y方向に沿って小さく湾曲させることで、1つの圧力室12に対応する振動板50に加わる応力が+Y方向に偏在することを抑制して、振動板50にクラック等の破壊が生じることを抑制できる。また、第1圧力室列12Aと第2圧力室列12Bとを有するため、第1圧力室列12Aを構成する圧力室12に対応する振動板50と、第2圧力室列12Bを構成する圧力室12に対応する振動板50との間で、振動特性にばらつきが生じることを抑制できる。このため、第1ノズル列21Aのノズル21と第2ノズル列21Bのノズル21とから噴射されるインク噴射特性、つまり、インクの飛翔速度、インクの重量および噴射タイミングのばらつきを抑制することができる。したがって、ヘッドチップ1から噴射されるインク滴によって媒体上に形成される画像の印刷品質を向上することができる。
【0052】
また、圧力室基板10を+X方向に沿って大きく湾曲させることで、振動板50の圧力室基板10から受ける応力を分散することができる。したがって、圧力室基板10にクラックが生じることや、圧力室基板10と振動板50と圧電素子300との剥離が生じるなどの不具合が発生することを抑制できる。
【0053】
圧力室基板10に接合される保護基板30は、本実施形態では、圧力室基板10と同様に曲率軸500周りに湾曲している。ちなみに、保護基板30は、本実施形態では、詳しくは後述する製造方法において、ウエハー状態からヘッドチップ1単位に切り分けられる前に圧力室基板10に接着剤141によって接着されたものである。つまり、圧力室基板10と保護基板30とがウエハー状態で接合された状態で、ヘッドチップ1単位に切り分けられる。
【0054】
もちろん、保護基板30と圧力室基板10とを接着する接着剤141が圧力室基板10の湾曲を吸収して、保護基板30は、圧力室基板10とは異なる湾曲、例えば、圧力室基板10よりも小さく湾曲した状態であっても、湾曲していない平坦な状態であってもよい。
【0055】
また、圧力室基板10に接合された連通板15、ノズル基板20およびコンプライアンス基板45や、ケース部材40等は、詳しくは後述するヘッドチップ1の製造時に、ウエハー状態からヘッドチップ1単位に切り分けられた後に、圧力室基板10等に接着されるものである。このため、圧力室基板10および保護基板30に接着された上記の各部材は、圧力室基板10および保護基板30の湾曲を接着剤140、141、142等が吸収して、圧力室基板10とは異なる湾曲や、湾曲しない平坦な状態となっている。もちろん、ヘッドチップ1を構成する圧力室基板10および保護基板30に接着される上記の各部材は、圧力室基板10と同様に湾曲していてもよい。
【0056】
以下、本実施形態のヘッドチップの製造方法について、図11図17を参照して説明する。なお、図11図17は、ヘッドチップの製造方法を示す断面図である。
【0057】
まず、図11に示すように、複数の圧力室基板10が形成されるシリコンウエハーである圧力室基板用ウエハー110の表面に振動板50と第1電極60とを形成する。本実施形態では、圧力室基板用ウエハー110を熱酸化することによって二酸化シリコンからなる弾性膜51を形成する。もちろん、弾性膜51の材料は、二酸化シリコンに限定されず、窒化シリコン膜、ポリシリコン膜、有機膜(ポリイミド、パリレンなど)等にしてもよい。また、弾性膜51の形成方法は熱酸化に限定されず、スパッタリング法、CVD法、スピンコート法等によって形成してもよい。この弾性膜51上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁膜52を形成する。絶縁膜52は、酸化ジルコニウムに限定されず、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミン酸ランタン(LaAlO)等を用いるようにしてもよい。絶縁膜52を形成する方法としては、スパッタリング法、CVD法、蒸着法等が挙げられる。本実施形態では、この弾性膜51及び絶縁膜52によって振動板50が形成されるが、振動板50として、弾性膜51及び絶縁膜52の何れか一方のみを設けるようにしてもよい。
【0058】
このように形成された振動板50上の全面に第1電極60を形成する。この第1電極60の材料は特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、第1電極60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。また、第1電極60は、例えば、スパッタリング法やPVD法(物理蒸着法)などにより形成することができる。
【0059】
次いで、図12に示すように、第1電極60を所定形状にパターニングした後、振動板50および第1電極60上に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70を形成する。ここで、本実施形態では、金属錯体を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル-ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の製造方法は、ゾル-ゲル法に限定されず、例えば、MOD法などの液相成膜法や、スパッタリング法、物理蒸着法(PVD法)、レーザーアブレーション法等の気相成膜法を用いてもよい。
【0060】
次に、図13に示すように、圧電体層70を所定形状にパターニングする。本実施形態では、圧電体層70上に所定形状に形成した図示しないマスクを設け、このマスクを介して圧電体層70をエッチングする、いわゆるフォトリソグラフィーによってパターニングした。なお、圧電体層70のパターニングとしては、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。この圧電体層70のパターニングによって凹部71が形成される。
【0061】
次に、図14に示すように、圧電体層70上および振動板50上に亘って、第2電極80を形成し、所定形状にパターニングして圧電素子300を形成する。そして、特に図示しないが、圧力室基板用ウエハー110上に個別リード電極91及び共通リード電極92を形成する。また、上述した図11から図14に示す工程が成膜工程となる。
【0062】
次に、図15に示すように、圧力室基板用ウエハー110の圧電素子300側に、シリコンウエハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウエハー130を接合した後、圧力室基板用ウエハー110を所定の厚みに薄くする。なお、保護基板用ウエハー130には、予め保持部31が形成されている。
【0063】
次に、図16に示すように、圧力室基板用ウエハー110にマスク膜53を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図17に示すように、圧力室基板用ウエハー110を、マスク膜53を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、隔壁11によって区画された圧力室12を形成する。この圧力室12を形成する工程が圧力室形成工程となる。
【0064】
その後は、圧力室基板用ウエハー110および保護基板用ウエハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシングにより切断することによって除去する。また、圧力室基板用ウエハー110と保護基板用ウエハー130とを図1に示すような一つのヘッドチップ1のサイズにダイシングにより分割する(ダイシング工程)。
【0065】
本実施形態においては、成膜工程および圧力室形成工程を経た圧力室基板用ウエハー110であって、ダイシング工程の直前における圧力室基板用ウエハー110を図18に示すように、上述した曲率軸500周りに湾曲させる。なお、図18においては、理解を容易なものとするため、圧力室基板用ウエハー110の湾曲を誇張している。このような圧力室基板用ウエハー110の湾曲は、ダイシング工程によって1つのヘッドチップ1のサイズの圧力室基板10に分割した際に、各圧力室基板10において、圧力室基板用ウエハー110の曲率軸500周りに湾曲した状態が維持される。
【0066】
ここで、圧力室基板用ウエハー110の曲率軸500とは、上述した圧力室基板10の曲率軸500と同様の規定を行うことができる。つまり、曲率軸500とは、圧力室基板用ウエハー110の中心(図19に示すCw)や重心などの代表点を通過する仮想平面IPであって、XY平面に垂直な仮想平面IPによる断面視において圧力室基板用ウエハー110の曲率を算出したとき、曲率のうち曲率が最大となる仮想平面IPに対して垂直な軸である。しかしながら、圧力室基板用ウエハー110の代表点を通過し、XY平面に垂直な仮想平面IPは無数に存在する。よって、簡略化するため、例えば、図19に示すように、互いのなす角が等しい8つの仮想平面IP1~IP8による各断面視において圧力室基板用ウエハー110の8つの曲率を算出し、そのうち曲率が最大となる仮想平面IPに対して垂直な軸を曲率軸500として規定してもよい。当然、仮想平面IPの数が限定されているため、厳密には、曲率が最大となる仮想平面IPが含まれない場合もあるが、仮想平面IPを8つ以上とすることにより、こうした誤差は許容される。なお、圧力室基板用ウエハー110の中心Cwとは、圧力室基板用ウエハー110をZ軸方向に見て、圧力室基板用ウエハー110を内包する最小面積の円の中心のことである。
【0067】
また、各曲率軸の曲率半径rは、図20に示すように、各仮想平面IPにおいて、仮想平面IPと圧力室基板用ウエハー110の端部との一方の交点Ew1(Ew11~Ew18)と、中心Cwまたは代表点と、仮想平面IPと圧力室基板用ウエハー110との他方の交点Ew2(交点Ew21~Ew28)と、の3点の位置から、三角関数や三平方の定理を利用して算出することで求めることができる。なお、仮想平面IP1において、仮想平面IP1と圧力室基板用ウエハー110の端部との一方の交点をEw11とし、他方の交点をEw21としている。例えば、仮想平面IP1の場合には、図20に示すように、仮想平面IP1と圧力室基板用ウエハー110の端部との一方の交点Ew11と、中心Cwと、仮想平面IP1と圧力室基板用ウエハー110の端部との他方の交点Ew21と、の3点の位置から曲率半径rを求める。例えば、交点Ew11と交点Ew12とを結ぶ線と中心Cwへの垂線との交点を点Fwとし、点Fwと中心Cwとの距離を距離L11とする。距離L11は、Z軸方向において交点Ew11および交点Ew12の高さと、中心Cwの高さの差によって求めることができる。この距離L11と、交点Ew11と交点Ew12との間の円弧の距離L12と、交点Ew11と交点Ew12との距離L13と、のうち何れか2つを用いて三角関数や三平方の定理を利用して曲率半径rを算出する。
【0068】
同様に、仮想平面IP2の場合には、仮想平面IP2と圧力室基板用ウエハー110の端部との交点Ew12と、中心Cwまたは代表点と、仮想平面IP2と圧力室基板用ウエハー110の端部との交点Ew22と、の3点の位置から三角関数や三平方の定理を利用して仮想平面IP2に垂直な曲率軸の曲率半径rを求める。そして上述のように各仮想平面IP1~IP8において曲率半径rを求め、曲率半径rが最小となる仮想平面IPに対する垂直な軸を圧力室基板用ウエハー110の曲率軸500とする。
【0069】
ここで、図18に示すように、圧力室基板用ウエハー110を曲率軸500周りに湾曲させるには、例えば、以下の方法によって実施することができる。
【0070】
成膜工程において、振動板50および圧電素子300の各層の成膜時の成膜条件や成膜方法を調整することで、振動板50および圧電素子300の各層の内部応力を調整する。ここで、成膜条件とは、例えば、スパッタリング法におけるプラズマの強度や、振動板50を形成する際の温度、圧電体層70を焼成する際の温度等である。
【0071】
また、成膜工程において、圧力室12の外側、つまり、非可撓部に振動板50および圧電素子300の内部応力を調整するための応力調整膜を積層することで、圧力室基板用ウエハー110が受ける応力を調整する。圧力調整膜は、圧力室12の外側であれば、例えば、振動板50の内部やその上下等、任意の位置に配置することができる。例えば、応力調整膜をY軸方向に亘って連続し、且つ、X軸方向に間隔を空けて複数配置することにより、応力調整膜が梁のように作用して圧力室基板用ウエハー110のX軸周りの湾曲を抑止するため、曲率軸500を+Y方向に近づけることができる。なお、応力調整膜の材料としては、成膜工程で用いられるヘッドチップ1の構成材料を流用することが可能であり、例えば、第2電極80を形成する金属材料を用いることができる。
【0072】
また、成膜工程において、圧力室12の外側、つまり、非可撓部において振動板50や圧電素子300の各層の少なくとも一つに溝を形成することで圧力室基板用ウエハー110が受ける応力を調整する。溝は、Y軸方向に亘って連続したものをX軸方向に間隔を空けて複数配置することで、曲率軸500を+Y方向に近づけることができる。
【0073】
また、圧力室形成工程において、圧力室基板10の圧力室12の外側や、ダイシング工程における分割の境界付近に溝を形成することで、圧力室基板10を特定の方向に湾曲させ易くすることができる。溝は、Y軸方向に亘って連続したものをX軸方向に間隔を空けて複数配置することで、曲率軸500を+Y方向に近づけることができる。
【0074】
成膜工程および圧力室形成工程において、上記の方法を1つまたは複数組み合わせて行うことで、ダイシング工程の直前における圧力室基板用ウエハー110を曲率軸500周りに湾曲させることができる。
【0075】
ちなみに、ダイシング工程の前の圧力室基板用ウエハー110は、約180mmの測定範囲において1μm~1000μm程度の高さ変化、所謂、湾曲を生じる。このため、曲率半径は、4050m~4m程度となる。したがって、本実施形態において、曲率半径が4050mより大きい湾曲については平坦とみなす。つまり、本発明における湾曲の定義は、曲率半径が4050m以下のことを言う。なお、圧力室基板用ウエハー110の過度な湾曲は製造上の観点から好ましくない。例えば、約180mmの測定範囲において2000μm以上の高さ変化が生じると、圧力室基板用ウエハー110を搬送することが困難となる等、様々な不具合が生じる。
【0076】
なお、本実施形態では、圧力室基板用ウエハー110に保護基板用ウエハー130を接合して、圧力室12を形成した際に、保護基板用ウエハー130は、圧力室基板用ウエハー110と同様に曲率軸500周りに湾曲する。つまり、圧力室基板用ウエハー110に保護基板用ウエハー130を接着する際に、圧力室基板用ウエハー110の湾曲を平坦に戻した状態で、両者を所定の圧力で当接させても、圧力室基板用ウエハー110の湾曲しようとする応力によって保護基板用ウエハー130が曲率軸500周りに湾曲する。また、圧力室基板用ウエハー110に保護基板用ウエハー130を接着する接着剤141(図3参照)が圧力室基板用ウエハー110の湾曲を吸収し、保護基板用ウエハー130が湾曲しない平坦な状態で接着されてもよい。つまり、圧力室基板用ウエハー110が湾曲するとは、これに接着されている他の部材、例えば、保護基板用ウエハー130が圧力室基板用ウエハー110と同様に湾曲させたものも、圧力室基板用ウエハー110とは異なる曲率で湾曲したものまたは平坦なものも、含む。
【0077】
その後は、ヘッドチップに連通板15、ノズル基板20、ケース部材40、コンプライアンス基板45等を接合することで、本実施形態のヘッドチップ1とする。
【0078】
このようなヘッドチップ1を具備する液体噴射ヘッド2の一例について、図21および図22を参照して説明する。なお、図21は、液体噴射ヘッド2の分解斜視図であり、図22は、液体噴射ヘッド2の要部断面図である。また、液体噴射ヘッド2の各方向について、当該液体噴射ヘッド2に搭載されたヘッドチップ1の方向、すなわち、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向に基づいて説明する。
【0079】
図21および図22に示すように、液体噴射ヘッド2は、複数のヘッドチップ1と、流路400を有する流路部材200と、中継基板210と、カバーヘッド220と、を具備する。
【0080】
流路部材200は、第1流路401が設けられた第1流路部材201と、第2流路402が設けられた第2流路部材202と、第1流路401と第2流路402とを液密な状態で接続するシール部材203と、を具備する。
【0081】
第1流路部材201と、シール部材203と、第2流路部材202とは、この順に+Z方向に積層されている。
【0082】
第1流路部材201は、本実施形態では、3つの部材がZ軸方向に積層されて構成されている。
【0083】
第1流路部材201は、液体であるインクが貯留された液体貯留部に接続される接続部204を有する。本実施形態では、接続部204として、第1流路部材201の-Z方向の面に、-Z方向に筒状に突出したものとした。この接続部204には、液体貯留部が直接、接続されるものでもよく、チューブ等の供給管などを介して接続されてもよい。このような接続部204の内部には、液体貯留部からのインクが供給される第1流路401が設けられている。なお、液体貯留部は、ヘッドチップ1から噴射される複数種類、例えば、複数色のインクを個別に貯留する。
【0084】
第1流路401は、Z軸方向に延びる流路や、積層された部材の積層界面に沿って延びる流路等で構成されている。また、第1流路401の途中には、他の領域よりも内径が広く拡幅された液体溜まり部401aが設けられており、液体溜まり部401a内には、インクに含まれるゴミや気泡などの異物を捕捉するフィルター401bが設けられている。
【0085】
なお、本実施形態では、1つの第1流路部材201は、4個の接続部204と、4個の独立した第1流路401と、を具備する。もちろん、第1流路401は、途中で分岐していてもよい。
【0086】
第2流路部材202は、第1流路401のそれぞれに連通する第2流路402を有する。第1流路401と第2流路402とは、シール部材203を介して液密に接続されている。シール部材203は、液体噴射ヘッド2に用いられるインク等の液体に対して耐液体性を有し、且つ弾性変形可能な材料、例えば、ゴムやエラストマー等を用いることができる。このようなシール部材203には、Z軸方向に貫通する接続流路403が設けられており、第1流路401と第2流路402とは、接続流路403を介して連通する。つまり、流路部材200の流路400は、第1流路401と第2流路402と接続流路403とを具備する。
【0087】
また、第2流路部材202の+Z方向を向く面に、複数、本実施形態では、2個のヘッドチップ1が保持される。2個のヘッドチップ1は、X軸方向に関して同じ位置となるように、Y軸方向に並設されている。このようなヘッドチップ1の各導入口44に第2流路402が連通する。つまり、流路部材200の流路400は、ヘッドチップ1の複数の圧力室12に共通するマニホールド100に液体を供給する。このため、本実施形態の流路部材200が、「複数の圧力室に液体を供給する流路部材」に相当する。
【0088】
また、第2流路部材202には、ヘッドチップ1の配線基板120を挿通するための配線保持孔205が設けられている。ヘッドチップ1の配線基板120は、配線保持孔205を介して第2流路部材202の-Z方向を向く面側に導出される。
【0089】
また、Z軸方向において、第2流路部材202とシール部材203との間には、複数のヘッドチップ1の配線基板120が共通して接続される中継基板210が設けられている。中継基板210は、リジット基板からなり、不図示の配線や電子部品等が実装されたものである。そして、ヘッドチップ1を制御するための印刷信号等は、中継基板210を介して各ヘッドチップ1に供給される。
【0090】
第2流路部材202の+Z方向を向く面には、カバーヘッド220が固定されている。カバーヘッド220は、本実施形態では、2個のヘッドチップ1を覆う大きさを有する。カバーヘッド220には、ノズル21を+Z方向に向かって露出する露出開口部221がヘッドチップ1毎に独立して設けられている。露出開口部221から露出されたノズル21からインクが+Z方向に向かって噴射される。
【0091】
このような液体噴射ヘッド2を具備する液体噴射装置Iの一例について、図23を参照して説明する。なお、図23は、液体噴射装置Iの概略構成を示す図である。また、液体噴射装置Iの各方向について、液体噴射装置Iに搭載された液体噴射ヘッド2の方向、すなわち、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向に基づいて説明する。
【0092】
図23に示すように、液体噴射装置Iは、液体噴射ヘッド2と、液体貯留部3と、媒体Sを送り出す搬送機構4と、制御部である制御ユニット5と、移動機構6と、を具備する。
【0093】
液体貯留部3は、液体噴射ヘッド2から噴射される複数種類、例えば、複数色のインクを個別に貯留する。液体貯留部3としては、例えば、液体噴射装置Iに着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、インクを補充可能なインクタンクなどが挙げられる。本実施形態では、液体貯留部3と液体噴射ヘッド2とは、供給管3aを介して接続される。
【0094】
制御ユニット5は、特に図示していないが、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の制御装置と半導体メモリー等の記憶装置とを含んで構成される。制御ユニット5は、記憶装置に記憶されたプログラムを制御装置が実行することで液体噴射装置Iの各要素、すなわち、搬送機構4、移動機構6、液体噴射ヘッド2等を統括的に制御する。本実施形態の制御ユニット5が、圧電素子300の駆動を制御する「駆動制御部」に相当する。
【0095】
搬送機構4は、制御ユニット5によって制御されて媒体SをX軸方向に搬送するものであり、例えば、搬送ローラー4aを有する。なお、媒体Sを搬送する搬送機構4は、搬送ローラー4aに限らず、ベルトやドラムによって媒体Sを搬送するものであってもよい。
【0096】
移動機構6は、制御ユニット5によって制御されて液体噴射ヘッド2をY軸方向に沿って+Y方向および-Y方向に往復させる。
【0097】
具体的には、本実施形態の移動機構6は、搬送体7と搬送ベルト8とを具備する。搬送体7は、液体噴射ヘッド2を収容する略箱形の構造体、所謂、キャリッジであり、搬送ベルト8に固定される。搬送ベルト8は、X軸方向に沿って架設された無端ベルトである。制御ユニット5による制御のもとで搬送ベルト8が回転することで液体噴射ヘッド2が搬送体7と共に+Y方向および-Y方向に図示しないガイドレールに沿って往復移動する。なお、液体貯留部3を液体噴射ヘッド2と共に搬送体7に搭載することも可能である。
【0098】
液体噴射ヘッド2は、制御ユニット5による制御のもとで、液体貯留部3から供給されたインクを複数のノズル21のそれぞれからインク滴として+Z方向に媒体Sに噴射する。この液体噴射ヘッド2からのインク滴の噴射が、搬送機構4による媒体Sの搬送と移動機構6による液体噴射ヘッド2の往復移動とに平行して行われることにより、媒体Sの表面にインクによる画像が形成される、所謂、印刷が行われる。
【0099】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0100】
例えば、上述した一実施形態では、圧力室基板10が、-Z方向に位置する曲率軸500周りに湾曲する構成、つまり、圧力室基板10の+Z方向を向く面が凸となり、-Z方向を向く面が凹となるように湾曲するものとしたが、特にこれに限定されず、圧力室基板10の+Z方向を向く面が凹となり、-Z方向を向く面が凸となるように湾曲、すなわち、圧力室基板10の+Z方向に曲率軸500が位置するものであってもよい。
【0101】
また、上述した一実施形態の液体噴射装置Iでは、液体噴射ヘッド2が搬送体7に搭載されて主走査方向であるY軸方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、液体噴射ヘッド2が固定されて、媒体Sを副走査方向であるX軸方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0102】
また、上述した一実施形態の液体噴射装置Iでは、液体貯留部3が搬送体7に搭載されていないものを例示したが、特にこれに限定されず、液体貯留部3が搬送体7に液体噴射ヘッド2と共に搭載されるものであってもよい。
【0103】
なお、本発明は広く液体噴射ヘッドに用いられるヘッドチップ全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射するヘッドチップ、液体噴射ヘッド、液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドに用いられるヘッドチップおよび液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【0104】
(付記)
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0105】
好適な態様である態様1に係るヘッドチップは、圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、前記振動板の振動によって液体に圧力を付与する圧力室が設けられる圧力室基板と、前記圧力室と連通するノズルが形成されるノズル基板と、が積層方向に積層され、前記圧力室は、前記積層方向と直交する流路方向に沿って延設され、当該圧力室および前記ノズルは、前記積層方向に直交すると共に前記流路方向と交差する配列方向に沿って複数設けられ、前記圧力室基板は、曲率軸周りに湾曲しており、前記積層方向に見たとき、前記流路方向と前記曲率軸とのなす角θは、0度≦θ<45度を満たす。これによれば、圧力室基板は、積層方向に見たとき、圧力室の流路方向とのなす角が0度≦θ<45度を満たす回転軸周りに湾曲することで、1つの圧力室12に対応する振動板に加わる外部応力が流路方向に偏在するのを抑制することができる。これにより、振動板の流路方向において特定の箇所に振動時の負荷が集中することを抑制し、特定の箇所を起点として振動板のクラックが生じるのを低減することができる。また、圧力室基板が回転軸周りに湾曲することで、振動板や圧電素子に応力が集中するのを抑制して、応力を分散することができる。したがって、圧力室基板、振動板および圧電素子にクラックが生じることや、圧力室基板、振動板および圧電素子の剥離が生じるのを抑制することができる。
【0106】
態様1の具体例である態様2において、前記積層方向に見たとき、前記流路方向と前記曲率軸とのなす角θは、0度≦θ<30度を満たす。これによれば、さらに圧力室に対応する振動板に加わる外部応力が流路方向に偏在するのを抑制することができ、振動板の破壊を抑制することができる。
【0107】
態様1の具体例である態様3において、前記積層方向に見たとき、前記流路方向と前記曲率軸とのなす角θは、0度≦θ<15度を満たす。これによれば、さらに圧力室に対応する振動板に加わる外部応力が流路方向に偏在するのを抑制することができ、振動板の破壊を抑制することができる。
【0108】
態様1の具体例である態様4において、前記流路方向と前記曲率軸とは略平行である。さらに圧力室に対応する振動板に加わる外部応力が流路方向に偏在するのを抑制することができ、振動板の破壊を抑制することができる。
【0109】
好適な態様である態様5のヘッドチップは、圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、前記振動板の振動によって液体に圧力を付与する圧力室が設けられた圧力室基板と、前記圧力室と連通するノズルが形成されたノズル基板と、が積層方向に積層され、前記圧力室は、前記積層方向と直交する流路方向に沿って延設され、当該圧力室および前記ノズルは、前記積層方向に直交すると共に前記流路方向と交差する配列方向に沿って複数設けられ、前記配列方向に沿って見たときの曲率半径が、前記流路方向に沿って見たときの曲率半径よりも大きい。これによれば、圧力室基板は、配列方向に見たときの曲率半径が、流路方向に見たときの曲率半径よりも大きく湾曲することで、1つの圧力室12に対応する振動板に加わる外部応力が流路方向に偏在するのを抑制することができる。これにより、振動板の流路方向において特定の箇所に振動時の負荷が集中することを抑制し、特定の箇所を起点として振動板のクラックが生じるのを低減することができる。また、圧力室基板が回転軸周りに湾曲することで、振動板や圧電素子に応力が集中するのを抑制して、応力を分散することができる。したがって、圧力室基板、振動板および圧電素子にクラックが生じることや、圧力室基板、振動板および圧電素子の剥離が生じるのを抑制することができる。
【0110】
態様1または5の具体例である態様6において、前記配列方向に沿って設けられる複数の前記圧力室で構成される第1圧力室列と、前記第1圧力室列とは前記流路方向で異なる位置において、前記配列方向に沿って設けられる複数の前記圧力室で構成される第2圧力室列と、を具備し、前記第1圧力室列と前記第2圧力室列とは前記流路方向に互いに隣接する。これによれば、第1圧力室列と第2圧力室とを有するため、第1圧力室列を構成する圧力室に対応する振動板と、第2圧力室列を構成する圧力室に対応する振動板との間で、振動特性にばらつきが生じるのを抑制することができる。このため、第1圧力室列に連通するノズルと第2圧力室列に連通するノズルとから噴射される液体の噴射特性、つまり、液滴の飛翔速度、液滴の重量および噴射タイミングのばらつきを抑制することができる。したがって、媒体上に形成される画像の印刷品質を向上することができる。
【0111】
態様1または5の具体例である態様7において、前記振動板は、前記圧力室基板から圧縮応力または引張応力を受けている。これによれば、振動板の内部応力を調整して圧力室基板の湾曲を制御することができる。
【0112】
好適な態様である態様8の液体噴射ヘッドは、態様1または5に記載のヘッドチップと、複数の前記圧力室に共通して液体を供給する流路部材と、を有する。これによれば、振動板の破壊を抑制して信頼性を向上した液体噴射ヘッドを実現できる。
【0113】
好適な態様である態様9の液体噴射装置は、態様8に記載の液体噴射ヘッドと、電気信号を発生し、前記電気信号によって前記圧電素子の駆動を制御する駆動制御部と、を有する。これによれば、振動板の破壊を抑制して信頼性を向上した液体噴射装置を実現できる。
【0114】
好適な態様である態様10のヘッドチップの製造方法は、圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、前記振動板の振動によって液体に圧力を付与する圧力室が設けられる圧力室基板と、前記圧力室と連通するノズルが形成されるノズル基板と、が積層方向に積層され、前記圧力室は、前記積層方向と直交する流路方向に沿って延設され、当該圧力室および前記ノズルは、前記積層方向に直交すると共に前記流路方向と交差する配列方向に沿って複数設けられる、ヘッドチップの製造方法であって、ウエハー状の前記圧力室基板に前記圧電素子を形成する成膜工程と、ウエハー状の前記圧力室基板に前記圧力室を形成する圧力室形成工程と、前記成膜工程と前記圧力室形成工程よりも後の工程であって、複数のチップ状に前記圧力室基板を切断するダイシング工程と、を含み、前記ダイシング工程の直前において、ウエハー状の前記圧力室基板は曲率軸まわりに湾曲しており、前記積層方向に見たとき、前記流路方向と前記曲率軸とのなす角θが、0度≦θ<45度を満たす。これによれば、圧力室基板は、ダイシング工程によって分割される前のウエハー状態の湾曲による影響を受けるため、ウエハー状態で湾曲させることで、圧力室基板を湾曲した状態で製造することができる。
【符号の説明】
【0115】
I…液体噴射装置、1…ヘッドチップ、2…液体噴射ヘッド、3…液体貯留部、3a…供給管、4…搬送機構、4a…搬送ローラー、5…制御ユニット、6…移動機構、7…搬送体、8…搬送ベルト、10…圧力室基板、11…隔壁、12…圧力室、12A…第1圧力室列、12B…第2圧力室列、15…連通板、16…ノズル連通路、17…第1マニホールド部、18…第2マニホールド部、19…供給連通路、20…ノズル基板、20a…液体噴射面、21…ノズル、21A…第1ノズル列、21B…第2ノズル列、30…保護基板、31…保持部、32…貫通孔、40…ケース部材、41…凹部、42…第3マニホールド部、43…接続口、44…導入口、45…コンプライアンス基板、46…封止膜、47…固定基板、48…開口部、49…コンプライアンス部、50…振動板、51…弾性膜、52…絶縁膜、53…マスク膜、60…第1電極、70…圧電体層、71…凹部、80…第2電極、91…個別リード電極、92…共通リード電極、100…マニホールド、110…圧力室基板用ウエハー、120…配線基板、121…駆動回路、130…保護基板用ウエハー、140…接着剤、141…接着剤、142…接着剤、200…流路部材、201…第1流路部材、202…第2流路部材、203…シール部材、204…接続部、205…配線保持孔、210…中継基板、220…カバーヘッド、221…露出開口部、300…圧電素子、310…活性部、400…流路、401…第1流路、401a…液体溜まり部、401b…フィルター、402…第2流路、403…接続流路、500…曲率軸、S…媒体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23