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特開2024-110097画像処理装置、印刷システムおよび画像処理プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110097
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】画像処理装置、印刷システムおよび画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/12 20060101AFI20240807BHJP
   H04N 1/407 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
G06F3/12 356
G06F3/12 308
G06F3/12 344
G06F3/12 350
G06F3/12 378
H04N1/407
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014456
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 崇廣
(72)【発明者】
【氏名】山下 充裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐子
【テーマコード(参考)】
5C077
【Fターム(参考)】
5C077LL04
5C077PP15
(57)【要約】
【課題】実際の印刷物との見た目の差異を抑制しつつ印刷物を表現可能な技術を提供する。
【解決手段】画像処理装置は、画像データを取得する画像データ取得部と、画像が印刷される印刷媒体の種類を含む印刷条件を取得する印刷条件取得部と、画像データに印刷条件に応じた色変換を施す色変換部と、印刷媒体の性質を表す媒体パラメーターであって、印刷媒体の透光性を表す透光パラメーターと、印刷媒体の浸透性を表す浸透パラメーターとを含む媒体パラメーターを取得するパラメーター取得部と、印刷媒体の表面の形状を表す表面ポリゴンと、印刷媒体の裏面の形状を表す裏面ポリゴンであって、表面ポリゴンと背中合わせに配置されている裏面ポリゴンと、を有する3Dオブジェクトと、色変換が施された画像データと透光パラメーターと浸透パラメーターとを用いてレンダリングを実行するレンダリング部と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データを取得する画像データ取得部と、
画像が印刷される印刷媒体の種類を含む印刷条件を取得する印刷条件取得部と、
前記画像データに前記印刷条件に応じた色変換を施す色変換部と、
前記印刷媒体の性質を表す媒体パラメーターであって、前記印刷媒体の透光性を表す透光パラメーターと、前記印刷媒体の浸透性を表す浸透パラメーターとを含む前記媒体パラメーターを取得するパラメーター取得部と、
前記印刷媒体の表面の形状を表す表面ポリゴンと、前記印刷媒体の裏面の形状を表す裏面ポリゴンであって、前記表面ポリゴンと背中合わせに配置されている前記裏面ポリゴンと、を有する3Dオブジェクトと、前記色変換が施された前記画像データと前記透光パラメーターと前記浸透パラメーターとを用いてレンダリングを実行するレンダリング部と、
を備える、画像処理装置。
【請求項2】
前記媒体パラメーターには、前記印刷媒体の質感を表す質感パラメーターが含まれており、
前記レンダリング部は、前記質感パラメーターを用いてレンダリングを実行する、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記レンダリング部は、前記浸透パラメーターに応じて前記透光パラメーターの適用効果を異ならせる、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記媒体パラメーターには、前記透光性への前記浸透性の影響度が含まれている、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記浸透パラメーターを用いて、前記印刷媒体に印刷される前記画像の裏抜け度を算出する裏抜け度算出部と、
前記色変換が施された前記画像データと前記裏抜け度とを用いて、前記印刷媒体に裏抜けにより形成される裏抜け画像を表す裏抜け画像データを生成する裏抜け画像データ生成部と、
を備え、
前記レンダリング部は、前記表面ポリゴンと前記裏面ポリゴンとの少なくとも一方のポリゴンに前記裏抜け画像データを対応付けて、前記透光パラメーターに応じたレンダリングを実行する、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記浸透パラメーターを用いて、前記印刷媒体に印刷される前記画像の裏抜け度を算出する裏抜け度算出部を備え、
前記レンダリング部は、前記表面ポリゴンと前記裏面ポリゴンとの少なくとも一方のポリゴンに前記色変換が施された前記画像データを対応付け、かつ、前記少なくとも一方のポリゴンと背中合わせに配置されているポリゴンに前記裏抜け度を対応付けてレンダリングを実行する、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の画像処理装置と、
前記画像処理装置によって生成されるレンダリング結果を表示する表示装置と、
前記印刷媒体に前記画像を印刷する印刷装置と、
を備える、印刷システム。
【請求項8】
画像データを取得する画像データ取得機能と、
画像が印刷される印刷媒体の種類を含む印刷条件を取得する印刷条件取得機能と、
前記画像データに前記印刷条件に応じた色変換を施す色変換機能と、
前記印刷媒体の性質を表す媒体パラメーターであって、前記印刷媒体の透光性を表す透光パラメーターと、前記印刷媒体の浸透性を表す浸透パラメーターとを含む前記媒体パラメーターを取得するパラメーター取得機能と、
前記印刷媒体の表面の形状を表す表面ポリゴンと、前記印刷媒体の裏面の形状を表す裏面ポリゴンであって、前記表面ポリゴンと背中合わせに配置されている前記裏面ポリゴンと、を有する3Dオブジェクトと、前記色変換が施された前記画像データと前記透光パラメーターと前記浸透パラメーターとを用いてレンダリングを実行するレンダリング機能と、
をコンピューターに実行させる、画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像処理装置、印刷システムおよび画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
光の透過により、印刷媒体に印刷された画像が印刷面の裏側の面から透けて見える透き通しという現象が生じることがある。透き通しに関して、特許文献1には、表面に画像が印刷されたTシャツを裏面から見た状態を表現した透け画像を生成し、透け画像をディスプレイに表示させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-093923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
印刷物では、透き通しだけではなく、印刷媒体にインクが浸透することにより、印刷媒体に印刷した画像が印刷面の裏側の面に写る裏抜けという現象が生じることがある。特許文献1の技術では、透き通しが表現された透け画像を生成することができるが裏抜けが表現されていないので、透け画像に表された印刷物と実際の印刷物とでは見た目の差異が大きい。したがって、実際の印刷物との見た目の差異を抑制しつつ印刷物を表現可能な技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の形態によれば、画像処理装置が提供される。この画像処理装置は、画像データを取得する画像データ取得部と、画像が印刷される印刷媒体の種類を含む印刷条件を取得する印刷条件取得部と、前記画像データに前記印刷条件に応じた色変換を施す色変換部と、前記印刷媒体の性質を表す媒体パラメーターであって、前記印刷媒体の透光性を表す透光パラメーターと、前記印刷媒体の浸透性を表す浸透パラメーターとを含む前記媒体パラメーターを取得するパラメーター取得部と、前記印刷媒体の表面の形状を表す表面ポリゴンと、前記印刷媒体の裏面の形状を表す裏面ポリゴンであって、前記表面ポリゴンと背中合わせに配置されている前記裏面ポリゴンと、を有する3Dオブジェクトと、前記色変換が施された前記画像データと前記透光パラメーターと前記浸透パラメーターとを用いてレンダリングを実行するレンダリング部と、を備える。
【0006】
本開示の第2の形態によれば、印刷システムが提供される。この印刷システムは、前記第1の形態の前記画像処理装置と、前記画像処理装置によって生成されるレンダリング結果を表示する表示装置と、前記印刷媒体に前記画像を印刷する印刷装置と、を備える。
【0007】
本開示の第3の形態によれば、画像処理プログラムが提供される。この画像処理プログラムは、画像データを取得する画像データ取得機能と、画像が印刷される印刷媒体の種類を含む印刷条件を取得する印刷条件取得機能と、前記画像データに前記印刷条件に応じた色変換を施す色変換機能と、前記印刷媒体の性質を表す媒体パラメーターであって、前記印刷媒体の透光性を表す透光パラメーターと、前記印刷媒体の浸透性を表す浸透パラメーターとを含む前記媒体パラメーターを取得するパラメーター取得機能と、前記印刷媒体の表面の形状を表す表面ポリゴンと、前記印刷媒体の裏面の形状を表す裏面ポリゴンであって、前記表面ポリゴンと背中合わせに配置されている前記裏面ポリゴンと、を有する3Dオブジェクトと、前記色変換が施された前記画像データと前記透光パラメーターと前記浸透パラメーターとを用いてレンダリングを実行するレンダリング機能と、をコンピューターに実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の印刷システムの構成を示す説明図。
図2】第1実施形態の画像処理装置の構成を示す説明図。
図3】第1実施形態のレンダリング部の構成を示す説明図。
図4】片面印刷により画像が印刷された印刷媒体の一例を示す説明図。
図5】両面印刷により画像が印刷された印刷媒体の一例を示す説明図。
図6】画像データ入力用のユーザーインターフェースの第1の例を示す説明図。
図7】画像データ入力用のユーザーインターフェースの第2の例を示す説明図。
図8】裏抜け度算出処理の内容を示すフローチャート。
図9】画素値浸透度テーブルの一例を示す説明図。
図10】媒体浸透度テーブルの一例を示す説明図。
図11】片面印刷時の裏抜け画像データが生成される様子を模式的に示す説明図。
図12】両面印刷時の裏抜け画像データが生成される様子を模式的に示す説明図。
図13】印刷画像の場合の透過度算出処理の内容を示すフローチャート。
図14】媒体透過度テーブルの一例を示す説明図。
図15】インク量テーブルの一例を示す説明図。
図16】インク透過度テーブルの一例を示す説明図。
図17】既成画像の場合の透過度算出処理の内容を示すフローチャート。
図18】既成部透過度テーブルの一例を示す説明図。
図19】ピクセル色決定処理の内容を示すフローチャート。
図20】3Dオブジェクトの表面を観察する様子を模式的に示す説明図。
図21】表面観察時に表示されるレンダリング結果を模式的に示す説明図。
図22】3Dオブジェクトの裏面を観察する様子を模式的に示す説明図。
図23】裏面観察時に表示されるレンダリング結果を模式的に示す説明図。
図24】第2実施形態の画像処理装置の構成を示す説明図。
図25】第3実施形態の影響度データの適用効果を示す説明図。
図26】素材テクスチャーに応じた補正係数を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態の画像処理装置100を備える印刷システム10の構成を示す説明図である。印刷システム10は、画像処理装置100と、入力装置200と、表示装置300と、印刷装置400とを備えている。画像処理装置100は、物理ベースレンダリング(以下、単にレンダリングという)により、画像が印刷された印刷媒体を表すレンダリング画像を生成して、レンダリング画像を表示装置300に表示させる。印刷媒体は、例えば、普通紙や光沢紙やマット紙などの印刷用紙である。印刷媒体は、印刷用紙に限られず、例えば、布などでもよい。表面の質感と裏面の質感とが異なる印刷媒体が用いられてもよいし、表面の質感と裏面の質感とが同じ印刷媒体が用いられてもよい。
【0010】
画像処理装置100は、プロセッサー101と、メモリー102と、入出力インターフェース103と、内部バス104とを備えている。プロセッサー101、メモリー102、および、入出力インターフェース103は、内部バス104を介して、双方向に通信可能に接続されている。入力装置200、表示装置300、および、印刷装置400は、有線通信あるいは無線通信により画像処理装置100の入出力インターフェース103に接続されている。入力装置200は、例えば、キーボードやマウスであり、表示装置300は、例えば、液晶ディスプレイである。入力装置200および表示装置300は、タッチパネルとして一体化されていてもよい。印刷装置400は、例えば、インクジェットプリンターであり、印刷媒体に画像を印刷する。
【0011】
図2は、第1実施形態の画像処理装置100の構成を示す説明図である。本実施形態では、画像処理装置100は、画像データ取得部110と、印刷条件取得部120と、入力プロファイル取得部131と、メディアプロファイル取得部132と、共通色空間プロファイル取得部133と、カラーマネージメントシステム140と、パラメーター取得部150と、裏抜け度算出部160と、裏抜け画像データ生成部170と、レンダリング部180とを備えている。画像データ取得部110、印刷条件取得部120、各プロファイル取得部131~133、カラーマネージメントシステム140、パラメーター取得部150、裏抜け度算出部160、裏抜け画像データ生成部170、および、レンダリング部180は、メモリー102に予め記憶されている画像処理プログラムPGをプロセッサー101が実行することによりソフトウェア的に実現される。なお、カラーマネージメントシステム140のことを色変換部140と呼ぶことがある。
【0012】
画像データ取得部110は、画像データを取得する。本実施形態では、画像データには、表面画像データと、裏面画像データとが含まれる。表面画像データは、印刷媒体の表面に印刷される画像を表す画像データである。裏面画像データは、印刷媒体の裏面に印刷される画像、あるいは、印刷媒体の裏面に予め形成されているロゴなどの画像を表す画像データである。印刷媒体の裏面にロゴなどが表されていない場合には、裏面画像データは、印刷媒体の裏地の色を表す画像であってもよい。以下の説明では、印刷媒体に印刷される画像のことを印刷画像と呼び、印刷媒体に予め形成されている画像のことを既成画像と呼び、印刷画像と既成画像とを特に区別せずに説明する場合には単に画像と呼ぶ。また、表面画像データに表された画像のことを表面画像と呼び、裏面画像データに表された画像のことを裏面画像と呼ぶことがある。画像データ取得部110により取得された画像データは、カラーマネージメントシステム140に送信される。
【0013】
印刷条件取得部120は、印刷媒体の種類を含む印刷条件を取得する。印刷条件には、印刷媒体の種類の他に、例えば、印刷方法や、印刷装置の種類や、インクの種類や、インクの量や、印刷の解像度や、片面印刷で印刷するか両面印刷で印刷するかなどの条件が含まれる。印刷条件取得部120により取得された印刷条件は、各プロファイル取得部131~133、カラーマネージメントシステム140、パラメーター取得部150、裏抜け度算出部160、裏抜け画像データ生成部170、および、レンダリング部180に送信される。
【0014】
入力プロファイル取得部131は、機器に依存する色空間から機器に非依存の色空間への色変換に用いられるICCプロファイルである入力プロファイルを取得する。機器に依存する色空間は、例えば、RGB色空間などである。機器に非依存の色空間は、例えば、L(以下、単にLabと記載する)色空間や、XYZ色空間などである。メディアプロファイル取得部132は、機器に非依存の色空間から印刷用の機器に依存する色空間への色変換に用いられるICCプロファイルであるメディアプロファイルを取得する。印刷用の機器に依存する色空間は、例えば、CMYK色空間などである。共通色空間プロファイル取得部133は、機器に非依存の色空間からレンダリング用の色空間への色変換に用いられるICCプロファイルである共通色空間プロファイルを取得する。レンダリング用の色空間は、例えば、sRGBや、AdobeRGBや、Display-P3などである。各プロファイル取得部131~133は、メモリー102に予め記憶されている各プロファイルを取得する。各プロファイル取得部131~133によって取得された各プロファイルは、カラーマネージメントシステム140に送信される。なお、各プロファイル取得部131~133は、例えば、ネットワークを介して外部サーバーから各プロファイルを取得してもよい。
【0015】
カラーマネージメントシステム140は、印刷画像の画像データには、入力プロファイルを用いた機器に非依存の色空間への色変換、メディアプロファイルを用いた印刷用の機器に依存する色空間への色変換、メディアプロファイルを用いた機器に非依存の色空間への色変換、共通色空間プロファイルを用いたレンダリング用の色空間への色変換の順に、印刷条件に応じた色変換を施す。印刷用の機器に依存する色空間への色変換が施されることにより、画像データの色彩値は、印刷により表現可能な範囲内に収められ、その後、レンダリング用の色空間への色変換が施されることにより、印刷により表現可能な範囲内に収められた画像データの色彩値は、レンダリングで表現可能な範囲内に収められる。本実施形態では、カラーマネージメントシステム140は、既成画像の画像データには、入力プロファイルを用いた機器に非依存の色空間への色変換、共通色空間プロファイルを用いたレンダリング用の色空間への色変換の順に、色変換を施す。すなわち、カラーマネージメントシステム140は、既成画像を表す画像データには、メディアプロファイルを用いた色変換を施さない。なお、既成画像の画像データの色空間が元々レンダリング用の色空間と同じである場合には、既成画像の画像データには、カラーマネージメントシステム140による色変換が施されなくてもよい。以下の説明では、メディアプロファイルを用いた色変換を経てレンダリング用の色空間への色変換が施された画像データのことをマネージド画像データと呼び、メディアプロファイルを用いた色変換を経ずにレンダリング用の色空間への色変換が施された画像データのこと、および、カラーマネージメントシステム140による色変換が施されていない画像データであって、画像データの色空間がレンダリング用の色空間と同じである画像データのことを原画像データと呼び、マネージド画像データと原画像データとを特に区別せずに説明する場合には単に画像データと呼ぶ。マネージド画像データおよび原画像データは、レンダリング部180に送信される。なお、入力プロファイルを用いた色変換前の色空間のことを第1色空間と呼び、印刷用の機器に依存する色空間のことを第2色空間と呼び、レンダリング用の色空間のことを第3色空間と呼ぶことがある。
【0016】
パラメーター取得部150は、レンダリングに用いられる各種パラメーターを取得する。パラメーター取得部150は、メモリー102に予め記憶されている各種パラメーターを取得する。パラメーター取得部150によって取得された各種パラメーターは、レンダリング部180に送信される。なお、パラメーター取得部150は、例えば、ネットワークを介して外部サーバーから各種パラメーターを取得してもよい。
【0017】
レンダリングに用いられる各種パラメーターには、例えば、3Dオブジェクト情報や、カメラ情報や、照明情報や、媒体パラメーターなどが含まれる。3Dオブジェクト情報は、仮想空間に配置される3Dオブジェクトに関するパラメーターである。3Dオブジェクトは、印刷媒体の形状を模擬して予め作成されている。3Dオブジェクトは、複数のポリゴンによって構成されている。本実施形態では、3Dオブジェクトは、印刷媒体の表面の形状を表す表面ポリゴンと、印刷媒体の裏面の形状を表しており、表面ポリゴンと背中合わせに配置されている裏面ポリゴンとを備えている。各ポリゴンは、表面と裏面とを有している。ポリゴンの表面とは、ポリゴンの法線ベクトルが向く側の面である。表面ポリゴンの表面は、裏面ポリゴンとは反対側を向いており、表面ポリゴンの裏面および裏面ポリゴンの裏面は、向かい合っており、裏面ポリゴンの表面は、表面ポリゴンとは反対側を向いている。表面ポリゴンの表面により、3Dオブジェクトの表面が構成されており、裏面ポリゴンの表面により、3Dオブジェクトの裏面が構成されている。カメラ情報は、仮想空間に配置されたカメラの位置および向きに関するパラメーターである。照明情報は、仮想空間に配置された光源の種類や位置や向きや色や光度(光量)に関するパラメーターである。光源の種類には、例えば、蛍光灯や、白熱電球などが含まれる。なお、レンダリングに用いられる各種パラメーターには、3Dオブジェクトの背景色に関するパラメーターである背景色情報が含まれてもよい。
【0018】
媒体パラメーターは、印刷媒体の性質を表すパラメーターである。本実施形態では、媒体パラメーターには、印刷媒体の質感を表す質感パラメーターと、印刷媒体の浸透性を表す浸透パラメーターと、印刷媒体の透光性を表す透光パラメーターとが含まれている。質感パラメーターには、表面質感パラメーターと、裏面質感パラメーターとが含まれている。表面質感パラメーターは、印刷媒体の表面の質感を表す質感パラメーターであり、裏面質感パラメーターは、印刷媒体の裏面の質感を表す質感パラメーターである。表面の質感と裏面の質感とが異なる印刷媒体が用いられる場合には、表面質感パラメーターの内容と裏面質感パラメーターの内容とは、少なくとも一部が互いに異なる。表面の質感と裏面の質感とが同じ印刷媒体が用いられる場合には、表面質感パラメーターの内容と裏面質感パラメーターの内容とが同じであることが好ましい。この場合、表面質感パラメーターと裏面質感パラメーターとが別々ではなく一纏めにされていてもよい。
【0019】
各質感パラメーターには、例えば、印刷媒体の地色に関するベースカラー(Base Color)や、印刷媒体の滑らかさ(Smoothness)や、印刷媒体の金属性(Metallic)や、法線マップ(Normal Map)や、高さマップ(Height Map)などが含まれる。金属性が高いと、周囲の風景が印刷媒体に映り込みやすくなる。各質感パラメーターには、印刷媒体の滑らかさに代えて、印刷媒体の粗さ(Roughness)が含まれてもよい。法線マップ、および、高さマップは、光の反射に影響する印刷媒体の微小な凹凸面(マイクロファセット)を表現するために用いられる。法線マップは、微小な凹凸面の法線ベクトルの分布を表すテクスチャーであり、高さマップは、微小な凹凸面の高さの分布を表すテクスチャーである。微小な凹凸を表現するために3Dオブジェクトを構成するポリゴンのサイズを小さくすると、ポリゴンの数が膨大になり、レンダリングの計算負荷が大きくなる。法線マップや高さマップを用いることにより、ポリゴンのサイズを小さくしなくても、微小な凹凸面による光の反射への影響を表現することが可能になる。
【0020】
本実施形態では、透光パラメーターには、印刷媒体の光の透過度(透明度)を表す媒体透過度が含まれている。なお、透光パラメーターには、印刷媒体の光の不透過度(不透明度)を表す媒体不透過度が含まれてもよいし、媒体透過度や媒体不透過度の補正係数が含まれてもよい。
【0021】
浸透パラメーターには、表面浸透パラメーターと、裏面浸透パラメーターとが含まれている。各浸透パラメーターには、印刷媒体の性質に依存する印刷媒体へのインクの浸透度を表す媒体浸透度が含まれている。表面浸透パラメーターの媒体浸透度は、印刷媒体の表面から裏面へのインクの浸透度を表しており、裏面浸透パラメーターの媒体浸透度は、印刷媒体の裏面から表面へのインクの浸透度を表している。表面から裏面へのインクの浸透度と裏面から表面へのインクの浸透度とが異なる印刷媒体が用いられる場合には、表面浸透パラメーターの内容と裏面浸透パラメーターの内容とが互いに異なる。表面から裏面へのインクの浸透度と裏面から表面へのインクの浸透度とが同じ印刷媒体が用いられる場合には、表面浸透パラメーターの内容と裏面浸透パラメーターの内容とが同じであることが好ましい。この場合、表面浸透パラメーターと裏面浸透パラメーターとが別々ではなく一纏めにされていてもよい。各浸透パラメーターは、裏抜け度算出部160に送信される。
【0022】
裏抜け度算出部160は、浸透パラメーターを用いて、裏抜け画像データを生成するための裏抜け度を算出する。裏抜けとは、印刷面から印刷面の裏側の面にインクが浸透することにより、印刷面に印刷した画像が裏側の面からも見えることである。裏抜け度とは、裏抜けの度合いのことを意味する。裏抜け度の算出方法の詳細については後述する。裏抜け度は、裏抜け画像データ生成部170に送信される。
【0023】
裏抜け画像データ生成部170は、画像データと裏抜け度とを用いて、裏抜けにより印刷媒体に形成される裏抜け画像を表す裏抜け画像データを生成する。本実施形態では、片面印刷の場合には、裏抜け画像データ生成部170は、表面の印刷画像のマネージド画像データを裏抜け度に応じて裏面の既成画像の原画像データに合成することにより、裏面に形成される裏抜け画像の裏抜け画像データを生成する。両面印刷の場合には、裏抜け画像データ生成部170は、表面の印刷画像のマネージド画像データを裏抜け度に応じて裏面の印刷画像のマネージド画像データに合成することにより、裏面に形成される裏抜け画像の裏抜け画像データを生成し、裏面用の印刷画像のマネージド画像データを裏抜け度に応じて表面の印刷画像のマネージド画像データに合成することにより、表面に形成される裏抜け画像の裏抜け画像データを生成する。以下の説明では、印刷媒体の表面に形成される裏抜け画像の裏抜け画像データのことを裏抜け表面画像データと呼び、印刷媒体の裏面に形成される裏抜け画像の裏抜け画像データのことを裏抜け裏面画像データと呼び、裏抜け表面画像データと裏抜け裏面画像データとのことを特に区別せずに説明する場合には単に裏抜け画像データと呼ぶ。また、裏抜け画像データとマネージド画像データと原画像データとを特に区別せずに説明する場合には単に画像データと呼ぶ。裏抜け画像データは、レンダリング部180に送信される。
【0024】
レンダリング部180は、画像データと各種パラメーターとを用いたレンダリングを実行することにより、画像が印刷された印刷媒体を表すレンダリング画像を生成する。本実施形態では、レンダリング部180は、質感パラメーターと浸透パラメーターと透光パラメーターとを加味したレンダリングを実行する。具体的には、片面印刷の場合には、レンダリング部180は、表面の印刷画像のマネージド画像データと表面質感パラメーターとを3Dオブジェクトの表面ポリゴンに対応付け、かつ、浸透パラメーターに応じた裏抜け裏面画像データと裏面質感パラメーターとを3Dオブジェクトの裏面ポリゴンに対応付けて、透光パラメーターに応じたレンダリングを実行する。両面印刷の場合には、レンダリング部180は、浸透パラメーターに応じた裏抜け表面画像データと、表面質感パラメーターとを3Dオブジェクトの表面ポリゴンに対応付け、かつ、浸透パラメーターに応じた裏抜け裏面画像データと、裏面質感パラメーターとを3Dオブジェクトの裏面ポリゴンに対応付けて、透光パラメーターに応じたレンダリングを実行する。
【0025】
図3は、レンダリング部180の構成を示す説明図である。レンダリング部180は、頂点パイプラインVPLと、ラスタライザーRRZと、ピクセルパイプラインPPLと、ポスト処理部PSTとを備えている。本実施形態では、頂点パイプラインVPLは、頂点シェーダーVSと、ジオメトリーシェーダーGSとを備えており、ピクセルパイプラインPPLは、ピクセルシェーダーPSと、透過度算出部TCと、レンダーバックエンドRBEとを備えている。
【0026】
頂点シェーダーVSは、3Dオブジェクト情報とカメラ情報と照明情報とを用いて、3Dオブジェクトを構成する各ポリゴンの頂点の座標変換や、各ポリゴンの法線ベクトルの算出や、陰影処理や、テクスチャーマッピング座標(UV座標)の算出などを実行する。座標変換には、3Dオブジェクトの座標系であるローカル座標系(モデル座標系ともいう)から仮想空間の座標系であるワールド座標系(グローバル座標系ともいう)への座標変換であるモデル変換と、ワールド座標系から仮想空間に配置されたカメラの座標系であるビュー座標系(カメラ座標系ともいう)への座標変換であるビュー変換と、ビュー座標系からカメラから視たシーンが投影されるスクリーンの座標系であるスクリーン座標系(クリッピング座標系ともいう)への座標変換である投影変換とが含まれる。上述した座標変換の一部は、ジオメトリーシェーダーGSによって実行されてもよい。頂点シェーダーVSの処理結果は、ジオメトリーシェーダーGSに送信される。
【0027】
ジオメトリーシェーダーGSは、3Dオブジェクトの頂点の集合を加工する。ジオメトリーシェーダーGSは、頂点数を増減させることにより、ポリゴンを点や線に変換したり、点や線をポリゴンに変換したりすることができる。ジオメトリーシェーダーGSの処理結果は、ラスタライザーRRZに送信される。なお、他の実施形態では、レンダリング部180にジオメトリーシェーダーGSが設けられていなくてもよい。この場合、頂点シェーダーVSの処理結果がラスタライザーRRZに送信される。
【0028】
ラスタライザーRRZは、ラスタライズ処理を実行することにより、頂点パイプラインVPLの処理結果からピクセルごとの描画情報を生成する。ラスタライザーRRZの処理結果は、ピクセルシェーダーPSに送信される。
【0029】
ピクセルシェーダーPSは、ラスタライズ処理が施された3Dオブジェクトと画像データと質感パラメーターとを用いてライティング処理を実行することにより、各ピクセルに対応する表面ポリゴンの色および裏面ポリゴンの色を算出する。ライティング処理において光の反射を計算するための関数には、例えば、ディスニー原則BRDFを用いることができる。本実施形態では、レンダリング部180は、カメラに裏面を向けているポリゴンを描画対象から除外する背面カリング機能を有している。ピクセルシェーダーPSの処理結果は、レンダーバックエンドRBEに送信される。
【0030】
透過度算出部TCは、印刷媒体の透光性を表す透光パラメーターを用いて、印刷媒体上での画像の透過度を算出する。画像の透過度とは、画像が反対側の面から透けて見える度合いのことを意味する。透過度が大きいほど、画像が反対側の面から透けて見える。透過度算出部TCの処理結果は、レンダーバックエンドRBEに送信される。
【0031】
レンダーバックエンドRBEは、ピクセルシェーダーPSにより生成されたピクセルデータをメモリー102の表示用領域に書き込むか否かを判断する。レンダーバックエンドRBEがメモリー102に書き込むと判断した場合には、ピクセルデータは描画対象として保存され、レンダーバックエンドRBEがメモリー102に書き込むと判断しなかった場合には、ピクセルデータは描画対象として保存されない。書き込むか否かの判断には、例えば、アルファテストや、深度テストや、ステンシルテストなどが用いられる。本実施形態では、ピクセルデータには、表面ポリゴンの色の情報と裏面ポリゴンの色の情報とが含まれる。レンダーバックエンドRBEは、例えば、デプスソート法により、カメラに対して奥側のポリゴンの色から順に書き込む。レンダーバックエンドRBEは、奥側のポリゴンの色を書き込んだ後、手前側のポリゴンの色を書き込むときに、例えば、アルファブレンドにより、手前側のポリゴンの透過度に応じて、奥側のポリゴンの色と手前側のポリゴンの色とを合成する。なお、透過度がゼロである場合、手前側のポリゴンの色が書き込まれるときに、手前側のポリゴンの色で奥側のポリゴンの色が上書きされる。ピクセルデータがメモリー102に書き込まれることにより、パイプライン処理は終了する。
【0032】
ポスト処理部PSTは、メモリー102に保存されたピクセルデータからなるレンダリング画像に対して、例えば、アンチエイリアスや、アンビエントオクルージョンや、スクリーンスペースリフレクションや、被写界深度の処理などのポスト処理を実行することにより、レンダリング画像の見た目の改善を図る。
【0033】
図4は、片面印刷により画像が印刷された印刷媒体の一例を示す説明図である。図5は、両面印刷により画像が印刷された印刷媒体の一例を示す説明図である。図4および図5の上段には印刷画像が表されており、下段には印刷後の印刷媒体が表されている。図4および図5の例では、印刷前の印刷媒体の両面は白紙である。図4に示すように、印刷媒体の表面に印刷画像を印刷した場合、裏抜けや透き通しが生じることにより、表面に印刷された印刷画像が裏面から見えることがある。図5に示すように、印刷媒体の表面と裏面とに印刷画像を印刷した場合、裏抜けや透き通しが生じることにより、表面に印刷された印刷画像が裏面から見えることがあり、裏面に印刷された印刷画像が表面から見えることがある。なお、図4および図5におけるドットパターンは、印刷媒体の微小な凹凸面や滑らかさのムラを表している。
【0034】
図6は、画像データ入力用のユーザーインターフェースの第1の例を示す説明図である。図6のユーザーインターフェースUI1は、例えば、表示装置300に表示される。ユーザーインターフェースUI1は、片面印刷用である。ユーザーインターフェースUI1には、画像データを入力するための入力領域が1つ設けられている。画像データ取得部110は、ユーザーインターフェースUI1に入力された印刷画像の画像データを表面画像データとして取得し、印刷媒体の種類に応じた既成画像の画像データを裏面画像データとして取得する。
【0035】
図7は、画像データ入力用のユーザーインターフェースの第2の例を示す説明図である。図7のユーザーインターフェースUI2は、例えば、表示装置300に表示される。ユーザーインターフェースUI2は、片面印刷にも両面印刷にも用いることができる。ユーザーインターフェースUI2には、画像データを入力するための領域が2つ設けられている。画像データ取得部110は、2つの領域のうち、左側の領域に入力された画像の画像データを表面画像データとして取得し、右側の領域に入力された画像の画像データを裏面画像データとして取得する。したがって、片面印刷の場合には、左側の領域を介して、印刷媒体の表面に印刷される印刷画像の画像データを入力することができ、右側の領域を介して、印刷媒体の裏面に形成されている既成画像の画像データを入力することができる。両面印刷の場合には、左側の領域を介して、印刷媒体の表面に印刷される印刷画像の画像データを入力することができ、右側の領域を介して、印刷媒体の裏面に印刷される印刷画像の画像データを入力することができる。
【0036】
図8は、裏抜け度を算出するための裏抜け度算出処理の内容を示すフローチャートである。図9は、裏抜け度算出処理に用いられる画素値浸透度テーブルTB1の一例を示す説明図である。図10は、裏抜け度算出処理に用いられる媒体浸透度テーブルTB2の一例を示す説明図である。裏抜け度算出処理は、レンダリングに先立って、裏抜け度算出部160により実行される。裏抜け度算出処理が開始されると、まず、ステップS110にて、裏抜け度算出部160は、カラーマネージメントシステム140から、印刷用の機器に依存する色空間への色変換が施された画像データを取得する。裏抜け度算出部160は、片面印刷の場合は、表面画像データを取得し、両面印刷の場合は、表面画像データと裏面画像データとを取得する。
【0037】
次に、ステップS120にて、裏抜け度算出部160は、画像データの画素ごとの画素値から画素ごと画素値浸透度を算出する。画素値浸透度は、画素値に依存する印刷媒体へのインクの浸透度を表している。本実施形態では、裏抜け度算出部160は、メモリー102に予め記憶されている画素値浸透度テーブルTB1を用いて画素値浸透度を算出する。図9に示すように、画素値浸透度テーブルTB1には、R,G,Bそれぞれの画素値と画素値浸透度との関係が表されており、裏抜け度算出部160は、R,G,Bそれぞれの画素値浸透度を算出する。画素値浸透度テーブルTB1には、256階調の画素値が0~1までの値で表されている。画素値浸透度が0~1までの値で表されており、画素値浸透度の値が大きいほどインクが印刷媒体に浸透しやすい。
【0038】
ステップS130にて、裏抜け度算出部160は、浸透パラメーターに含まれている媒体浸透度を取得する。本実施形態では、媒体浸透度は、図10に示す媒体浸透度テーブルTB2に表されている。媒体浸透度テーブルには、印刷媒体の表面の媒体浸透度と裏面の媒体浸透度とが、それぞれ、1つのスカラー量で表されている。媒体浸透度は、0~1までの値で表されており、媒体浸透度の値が大きいほどインクが印刷媒体に浸透しやすい。
【0039】
ステップS140にて、裏抜け度算出部160は、画素ごとの画素値浸透度と媒体浸透度とを用いて、画素ごとの裏抜け度を算出する。本実施形態では、裏抜け度算出部160は、下式(1A)を用いて表面の裏抜け度を算出し、下式(1B)を用いて裏面の裏抜け度を算出する。表面の裏抜け度とは、表面から裏面への裏抜けの度合いのことを意味しており、裏面の裏抜け度とは、裏面から表面への裏抜けの度合いのことを意味している。裏抜け度は、0~1までの値で表される。裏抜け度算出部160は、R,G,Bそれぞれの裏抜け度を算出する。その後、裏抜け度算出部160は、この処理を終了する。
表面の裏抜け度=表面の画素値浸透度×表面の媒体浸透度 ・・・(1A)
裏面の裏抜け度=裏面の画素値浸透度×裏面の媒体浸透度 ・・・(1B)
【0040】
図11は、片面印刷時の裏抜け画像データが生成される様子を模式的に示す説明図である。図12は、両面印刷時の裏抜け画像データが生成される様子を模式的に示す説明図である。裏抜け画像データ生成部170は、裏抜け度算出処理により算出された画素ごとの裏抜け度を用いて、裏抜け画像データを生成する。裏抜け画像データ生成部170は、片面印刷の場合には、裏抜け裏面画像データを生成し、両面印刷の場合には、裏抜け裏面画像データと裏抜け表面画像データとを生成する。裏抜け画像データ生成部170は、下式(2A)を用いて裏抜け表面画像データの画素値を算出し、下式(2B)を用いて裏抜け裏面画像データの画素値を算出する。裏抜け画像データ生成部170は、R,G,Bそれぞれの画素値を算出する。
裏抜け表面画像の画素値=1-((1-表面画像の画素値)+(1-裏面画像の画素値)×裏面の裏抜け度) ・・・(2A)
裏抜け裏面画像の画素値=1-((1-裏面画像の画素値)+(1-表面画像の画素値)×表面の裏抜け度) ・・・(2B)
ここで、裏抜け表面画像の画素値は、裏抜け表面画像データの画素値であり、裏抜け裏面画像の画素値は、裏抜け裏面画像データの画素値であり、表面画像の画素値は、表面画像のマネージド画像データの画素値であり、裏面画像の画素値は、裏面画像のマネージド画像データの画素値である。
【0041】
図13は、印刷画像の透過度を算出する場合の透過度算出処理の内容を示すフローチャートである。図14は、媒体透過度テーブルTB3の一例を示す説明図である。図15は、インク量テーブルTB4の一例を示す説明図である。図16は、インク透過度テーブルTB5の一例を示す説明図である。透過度算出処理は、レンダリング中に、透過度算出部TCにより実行される。透過度算出処理が開始されると、まず、ステップS210にて、透過度算出部TCは、透光パラメーターとして、印刷媒体の光の透過度を表す媒体透過度を取得する。本実施形態では、透過度算出部TCは、メモリー102に予め記憶されている媒体透過度テーブルTB3を用いて、媒体透過度を取得する。図14に示すように、媒体透過度テーブルTB3には、印刷媒体の種類と媒体透過度との関係が表されている。媒体透過度は、0~1までの値で表されている。媒体透過度が1である場合には印刷媒体は光を全て通し、媒体透過度が0である場合には印刷媒体は光を全く通さない。媒体透過度が0よりも大きく、かつ、1よりも小さい場合には、印刷媒体は光を一部通す。
【0042】
ステップS220にて、透過度算出部TCは、印刷画像の画像データの画素値に応じたインク量を算出する。本実施形態では、透過度算出部TCは、メモリー102に予め記憶されているインク量テーブルTB4を用いて、画像データの画素値からインク量を算出する。図15に示すように、インク量テーブルTB4には、画素値とインク量との関係が表されている。透過度算出部TCは、画像データの画素ごとのインク量を算出する。
【0043】
ステップS230にて、透過度算出部TCは、インクの光の透過度を表すインク透過度を算出する。本実施形態では、透過度算出部TCは、メモリー102に予め記憶されているインク透過度テーブルTB5を用いて、インク量からインク透過度を算出する。図16に示すように、インク透過度テーブルTB5には、インク量とインク透過度との関係が表されている。インク透過度は、0~1までの値で表されている。インク透過度が1である場合にはインクは光を全て通し、インク透過度が0である場合にはインクは光を全く通さない。インク透過度が0よりも大きく、かつ、1よりも小さい場合には、インクは光を一部通す。Kインクの遮光性は高いため、印刷時に印刷媒体に供給されるインクに占めるKインクの割合が高い領域では、インク透過度が低い。Yインクの遮光性は低いため、印刷時に印刷媒体に供給されるインクに占めるYインクの割合が高い領域では、インク透過度が高い。インクの遮光性はインクの種類によって異なるので、メモリー102には、インクの種類ごとのインク透過度テーブルTB5が予め記憶されている。透過度算出部TCは、印刷条件に適合するインク透過度テーブルTB5を用いてインク透過度を算出する。透過度算出部TCは、画像データの画素ごとのインク透過度を算出する。
【0044】
ステップS240にて、透過度算出部TCは、媒体透過度とインク透過度とを加味した、印刷媒体上での印刷画像の透過度を算出する。本実施形態では、透過度算出部TCは、下式(3A)により、印刷画像の透過度を算出する。
透過度=媒体透過度×インク透過度 ・・・(3A)
透過度算出部TCは、画像データの画素ごとの透過度を算出する。その後、透過度算出部TCは、この処理を終了する。なお、印刷画像の透過度の算出には、インク透過度に代えて、インクの光の不透過度を表すインク不透過度が用いられてもよい。インクの透光性に関する情報、つまり、インク透過度や、インク不透過度や、インク透過度やインク不透過度の補正係数のことをインク透光性情報と呼ぶことがある。
【0045】
図17は、既成画像の透過度を算出する場合の透過度算出処理の内容を示すフローチャートである。図18は、既成部透過度テーブルTB6の一例を示す説明図である。透過度算出処理が開始されると、まず、ステップS310にて、透過度算出部TCは、印刷画像の画像データの場合の透過度算出処理と同様に、媒体透過度を取得する。
【0046】
ステップS320にて、透過度算出部TCは、既成画像が形成されている箇所の光の透過度を表す既成部透過度を算出する。本実施形態では、透過度算出部TCは、メモリー102に予め記憶されている既成部透過度テーブルTB6を用いて、画像データの画素ごとの明度から既成部透過度を算出する。図18に示すように、既成部透過度テーブルTB6には、明度と既成部透過度との関係が表されている。既成部透過度は、0~1までの値で表されている。既成部透過度が1である画素にあたる箇所は光を全て通し、既成部透過度が0である画素にあたる箇所は光を全く通さない。既成部透過度が0よりも大きく、かつ、1よりも小さい画素にあたる箇所は光を一部通す。透過度算出部TCは、画像データの画素ごとの既成部透過度を算出する。
【0047】
ステップS330にて、透過度算出部TCは、媒体透過度と既成部透過度とを加味した、印刷媒体上での既成画像の透過度を算出する。本実施形態では、透過度算出部TCは、下式(3B)により、既成画像の透過度を算出する。
透過度=媒体透過度×既成部透過度 ・・・(3B)
透過度算出部TCは、画像データの画素ごとの透過度を算出する。その後、透過度算出部TCは、この処理を終了する。なお、既成画像の透過度の算出には、既成部透過度に代えて、既成画像が形成されている面の光の不透過度を表す既成部不透過度を算出してもよい。既成画像が形成されている面の透光性に関する情報、つまり、既成部透過度や、既成部不透過度や、既成部透過度や既成部不透過度の補正係数のことを既成部透光性情報と呼ぶことがある。
【0048】
図19は、レンダリング画像のピクセル色決定処理の内容を示すフローチャートである。ピクセル色決定処理は、レンダリング部180がレンダリング画像を生成する際に、ピクセルパイプラインPPLにより実行される。ピクセル色決定処理が開始されると、ステップS410にて、ピクセルパイプラインPPLは、リソースデータを取得する。リソースデータには、表面画像データ、裏面画像データ、表面質感パラメーター、裏面質感パラメーター、透光パラメーターが含まれる。片面印刷の場合には、表面画像データは、表面画像のマネージド画像データであり、裏面画像データは、裏抜け裏面画像データである。両面印刷の場合には、表面画像データは、裏抜け表面画像データであり、裏面画像データは、裏抜け裏面画像データである。
【0049】
ステップS420にて、ピクセルパイプラインPPLのピクセルシェーダーPSは、3Dオブジェクトの表面(すなわち、表面ポリゴンの表面)に表面画像データと表面質感パラメーターとを対応付け、3Dオブジェクトの裏面(すなわち、裏面ポリゴンの表面)に裏面画像データと裏面質感パラメーターとを対応付けて、3Dオブジェクトにライティング処理を実行し、レンダリング画像の各ピクセルに対応する表面ポリゴンの色および裏面ポリゴンの色を算出する。
【0050】
ステップS430にて、ピクセルパイプラインPPLの透過度算出部TCは、上述した透過度算出処理を実行することにより、表面画像および裏面画像の透過度を算出する。なお、ステップS420とステップS430との順序は逆でもよい。
【0051】
ステップS440にて、ピクセルパイプラインPPLのレンダーバックエンドRBEは、ピクセルシェーダーPSにより算出された表面ポリゴンの色と裏面ポリゴンの色とを合成して、レンダリング画像の各ピクセルの色を決定する。その後、ピクセルパイプラインPPLは、この処理を終了する。
【0052】
図20は、3DオブジェクトOBJの表面を観察する様子を模式的に示す第1の説明図であり、図21は、3DオブジェクトOBJの表面観察時に表示装置300に表示されるレンダリング結果を模式的に示す第1の説明図である。図22は、3DオブジェクトOBJの裏面を観察する様子を模式的に示す第1の説明図であり、図23は、3DオブジェクトOBJの裏面観察時に表示装置300に表示されるレンダリング結果を模式的に示す第1の説明図である。ここでは、印刷前には両面が白紙で、片面印刷により表面に印刷画像が印刷されており、裏面に印刷画像の裏抜けが生じている印刷媒体を表現する場合を例にして説明する。なお、図20から図23におけるドットパターンは、印刷媒体の微小な凹凸面や滑らかさのムラを表しており、図20および図22におけるスラッシュパターンは、完全に透明であることを表している。
【0053】
図20および図22に示すように、本実施形態では、3DオブジェクトOBJは、3DオブジェクトOBJの表面を構成する表面ポリゴンPLsと、3DオブジェクトOBJの裏面を構成し、表面ポリゴンPLsと背中合わせに配置されている裏面ポリゴンPLbとを備えている。表面ポリゴンPLsの法線ベクトルNpsが向く側の面である表面ポリゴンPLsの表面は、3DオブジェクトOBJの外側を向いており、表面ポリゴンPLsの裏面は、3DオブジェクトOBJの内側を向いている。裏面ポリゴンPLbの法線ベクトルNpbが向く側の面である裏面ポリゴンPLbの表面は、3DオブジェクトOBJの外側を向いており、裏面ポリゴンPLbの裏面は、3DオブジェクトOBJの内側を向いている。
【0054】
図20および図22では、1枚の表面ポリゴンPLsにより表面が構成され、1枚の裏面ポリゴンPLbにより裏面が構成されている3DオブジェクトOBJが図示されているが、3DオブジェクトOBJは、複数枚の表面ポリゴンPLsにより表面が構成され、複数枚の裏面ポリゴンPLbにより裏面が構成されてもよい。また、図20および図22では、便宜上、表面ポリゴンPLsと裏面ポリゴンPLbとの間の距離が大きく描かれているが、実際の表面ポリゴンPLsと裏面ポリゴンPLbとの間の距離は、印刷媒体の厚みと同程度の距離である。図20および図22では、3DオブジェクトOBJが背中合わせに配置された2枚の板によって構成されているように描かれているが、3DオブジェクトOBJは、2枚の板同士を接続する側面部分を有していてもよい。図20および図22には、カメラCMの視線が破線の矢印で表されている。図20および図22には図示されていないが、3DオブジェクトOBJは、光源からの光に照らされている。
【0055】
図20および図22に示すように、片面印刷の場合、レンダリング部180は、表面ポリゴンPLsの表面に印刷画像のマネージド画像データと表面質感パラメーターとを対応付け、かつ、裏面ポリゴンPLbの表面に裏抜け裏面画像データと裏面質感パラメーターとを対応付けて、透過度に応じたレンダリングを実行する。両面印刷の場合には、レンダリング部180は、表面ポリゴンPLsの表面に裏抜け表面画像データと表面質感パラメーターとを対応付け、かつ、裏面ポリゴンPLbの表面に裏抜け裏面画像データと裏面質感パラメーターを対応付けて、透過度に応じたレンダリングを実行する。片面印刷であるか両面印刷であるかにかかわらず、レンダリング部180は、表面ポリゴンPLsおよび裏面ポリゴンPLbに対して背面カリング機能をオフにしてレンダリングを実行する。そのため、表面ポリゴンPLsおよび裏面ポリゴンPLbは、カメラCMに裏面を向けていても描画対象から除外されない。加えて、レンダリング部180は、表面ポリゴンPLsの裏面における画像データが対応付けられていない領域、および、裏面ポリゴンPLbの裏面における画像データが対応付けられていない領域の透過度を1にしてレンダリングを実行する。
【0056】
図20に示すように、3DオブジェクトOBJの表面にカメラCMを向けると、レンダリング部180は、カメラCMを通して3DオブジェクトOBJの表面を観察した場合のレンダリング画像を生成して、図21に示すように、レンダリング画像を表示装置300に表示させる。図22に示すように、カメラCMを3DオブジェクトOBJの裏面に向けると、レンダリング部180は、カメラCMを通して3DオブジェクトOBJの裏面を観察した場合のレンダリング画像を生成して、図23に示すように、レンダリング画像を表示装置300に表示させる。片面印刷の場合、レンダリング部180は、3DオブジェクトOBJの表面レンダリング時には、下式(4A)を用いてレンダリング画像の画素値を算出し、3DオブジェクトOBJの裏面レンダリング時には、下式(4B)を用いてレンダリング画像の画素値を算出する。下式(4A)および下式(4B)には、透き通しの効果を説明するために、物理ベース計算によらない計算方法を示している。実際には、レンダリング部180は、双方向反射率分布関数(BRDF)などを用いた物理ベース計算により画素値を算出する。レンダリング部180は、R,G,Bそれぞれの画素値を算出する。
レンダリング画像の画素値(表面レンダリング時)=表面画像の画素値×(1-Tmi)+背景の画素値×Tmi ・・・(4A)
レンダリング画像の画素値(裏面レンダリング時)=裏面画像の画素値×(1-Tm)+表面画像の画素値×(1-Ti)×Tm+背景の画素値×Tmi ・・・(4B)
ここで、表面画像の画素値は、表面ポリゴンPLsに対応付けられている表面画像データの画素値であり、裏面画像の画素値は、裏面ポリゴンPLbに対応付けられている裏面画像データの画素値である。Tmは媒体透過度であり、Tiはインク透過度であり、Tmiは媒体透過度とインク透過度とを乗じて得られる印刷画像の透過度である。
【0057】
両面印刷の場合には、レンダリング部180は、3DオブジェクトOBJの表面レンダリング時には、下式(4C)を用いてレンダリング画像の画素値を算出し、3DオブジェクトOBJの裏面レンダリング時には、下式(4D)を用いてレンダリング画像の画素値を算出する。下式(4C)および下式(4D)には、透き通しの効果を説明するために、物理ベース計算によらない計算方法を示している。
レンダリング画像の画素値(表面レンダリング時)=表面画像の画素値×(1-Tmi_f)+裏面画像の画素値×Tmi_f×(1-Ti_b)+背景の画素値×Tmi_f×Ti_b ・・・(4C)
レンダリング画像の画素値(裏面レンダリング時)=裏面画像の画素値×(1-Tmi_b)+表面画像の画素値×Tmi_b×(1-Ti_f)+背景の画素値×Tmi_b×Ti_f ・・・(4D)
ここで、表面画像の画素値は、表面ポリゴンPLsに対応付けられている表面画像データの画素値であり、裏面画像の画素値は、裏面ポリゴンPLbに対応付けられている裏面画像データの画素値である。Ti_fは表面のインク透過度であり、Ti_bは裏面のインク透過度であり、Tmi_fは媒体透過度と表面のインク透過度とを乗じて得られる表面の印刷画像の透過度であり、Tmi_bは媒体透過度と裏面のインク透過度とを乗じて得られる裏面の印刷画像の透過度である。
【0058】
本実施形態では、レンダリング部180は、各ポリゴンPLs,PLbの裏面を描画する際には、表面質感パラメーターの滑らかさを0にして計算を実行するか、あるいは、鏡面反射成分の計算を実行せずに拡散反射成分の計算のみを実行する。これにより、背中合わせに配置されているポリゴン越しに透けて見える各ポリゴンPLs,PLbの裏面が鏡面反射しないようにできる。また、レンダリング部180は、各ポリゴンPLs,PLbの裏面を描画する際には、法線マップや高さマップを適用しない。すなわち、レンダリング部180は、各ポリゴンPLs,PLbの表面と裏面とで質感パラメーターの適用効果を異ならせる。これにより、表面ポリゴンPLsに付与された質感と裏面ポリゴンPLbに付与された質感とが重なって見えることを防止できる。
【0059】
以上で説明した本実施形態の画像処理装置100によれば、印刷装置400による印刷に先立って、印刷装置400により画像が印刷された状態の印刷媒体を表すレンダリング画像を生成して、レンダリング画像を表示装置300に表示させることができる。レンダリング画像の生成に浸透パラメーターおよび透光パラメーターが用いられるため、裏抜けおよび透き通しが生じている状態の印刷媒体をレンダリング画像に表現することができる。本実施形態では、レンダリング画像の生成には、さらに、質感パラメーターが用いられるため、印刷媒体の質感を伴ったリアルな表現で、画像が印刷されている状態の印刷媒体をレンダリング画像に表現することができる。したがって、リアルな表現のレンダリング画像を用いて印刷プレビューを行うことができる。
【0060】
また、本実施形態では、質感パラメーターには、印刷媒体の表面の質感を表す表面質感パラメーターと、印刷媒体の裏面の質感を表す裏面質感パラメーターとが含まれている。したがって、表面と裏面とで質感の異なる印刷媒体をリアルな質感で表現することができる。
【0061】
また、本実施形態では、片面印刷の場合には、レンダリング部180は、印刷媒体の表面に印刷される印刷画像のマネージド画像データを3DオブジェクトOBJの表面に対応付け、かつ、印刷媒体の裏面に裏抜けにより形成される裏抜け画像の裏抜け画像データを3DオブジェクトOBJの裏面に対応付けて、レンダリングを実行する。したがって、片面印刷により表面に印刷画像が印刷されており、かつ、裏面に裏抜け画像が形成されている印刷媒体を表すレンダリング画像を生成することができる。両面印刷の場合には、レンダリング部180は、印刷媒体の表面に裏抜けにより形成される裏抜け画像データを3DオブジェクトOBJの表面に対応付け、かつ、印刷媒体の裏面に裏抜けにより形成される裏抜け画像データを3DオブジェクトOBJの裏面に対応付けて、レンダリングを実行する。したがって、両面印刷により表面と裏面とのそれぞれに裏抜け画像が形成されている印刷媒体を表すレンダリング画像を生成することができる。
【0062】
また、本実施形態では、レンダリング部180は、透過度に応じたレンダリングを実行するため、カメラCMを裏面ポリゴンPLbの表面に向けると、裏面ポリゴンPLb越しに、表面ポリゴンPLsの裏面に描画された画像が透けて見え、カメラCMを表面ポリゴンPLsの表面に向けると、表面ポリゴンPLs越しに、裏面ポリゴンPLbの裏面に描画された画像が透けて見える。したがって、透き通しが生じている状態の印刷媒体を表現することができる。
【0063】
また、本実施形態では、透過度算出部TCは、印刷媒体の透光性を表す媒体透過度と、インクの透光性を表すインク透過度とを用いて、印刷画像の透過度を算出する。したがって、印刷媒体の透光性だけではなく、インクの透光性をも加味できるため、透き通しが生じている状態の印刷媒体をよりリアルに表現できる。加えて、透過度算出部TCは、画像データの画素値からインク量を算出し、インク量からインク透過度を算出するので、インク量によって透き通しの状態が異なるという現象を表現できる。
【0064】
また、本実施形態では、表面ポリゴンPLsにより3DオブジェクトOBJの表面が構成されており、表面ポリゴンPLsと背中合わせに配置されている裏面ポリゴンPLbにより3DオブジェクトOBJの裏面が構成されているので、印刷媒体の厚みを表現することができる。
【0065】
B.第2実施形態:
図24は、第2実施形態の画像処理装置100bの構成を示す説明図である。本実施形態では、画像処理装置100bに裏抜け画像データ生成部170が設けられておらず、裏抜け度算出部160により算出された裏抜け度は、レンダリング部180に送信され、レンダリング部180が裏抜け度および透過度に応じたレンダリングを実行することが第1実施形態とは異なる。その他については、特に説明しない限り第1実施形態と同じである。
【0066】
本実施形態では、図19に示したピクセル色決定処理のステップS410にて、ピクセルシェーダーPSは、決定対象部位に対応する表面画像データの画素値と、裏面画像データの画素値と、表面質感パラメーターと、裏面質感パラメーターと、表面画像の透過度と、裏面画像の透過度とに加えて、表面画像の裏抜け度と、裏面画像の裏抜け度とを取得する。
【0067】
ピクセル色決定処理のステップS440にて、ピクセルシェーダーPSは、浸透の影響と透過の影響と質感の影響とを加味して、レンダリング画像のピクセル色を決定する。まず、ピクセルシェーダーPSは、下式(5A)および下式(5B)を用いて、決定対象部位に浸透の影響を加味する。
表面からの裏抜け画素値=1-(1-表面画像の画素値)×(1-表面の裏抜け度) ・・・(5A)
裏面からの裏抜け画素値=1-(1-裏面画像の画素値)×(1-裏面の裏抜け度) ・・・(5B)
ここで、表面画像の画素値は、3DオブジェクトOBJの表面に対応付けられている画像データの画素値であり、裏面画像の画素値は、3DオブジェクトOBJの裏面に対応付けられている画像データの画素値である。
【0068】
次に、ピクセルシェーダーPSは、決定対象部位に浸透の影響を加味する。ピクセルシェーダーPSは、片面印刷の場合には、下式(6A)および下式(6B)を用いて透過の影響を考慮し、両面印刷の場合には、下式(6C)および下式(6D)を用いて透過の影響を考慮する。下式(6A)~(6D)では、物理ベース計算によらない計算方法を示している。実際には、ピクセルシェーダーPSは、双方向反射率分布関数(BRDF)などを用いた物理ベース計算により画素値を算出する。ピクセルシェーダーPSは、R,G,Bそれぞれの画素値を算出する。
PS出力(表面レンダリング時)=表面画像の画素値×(1-Tmi) ・・・(6A)
PS出力(裏面レンダリング時)=表面からの裏抜け画素値×(1-Tm)+表面画像の画素値×(1-Ti)×Tm ・・・(6B)
ここで、PS出力はピクセルシェーダーPSにより算出される画素値であり、Tmは媒体透過度であり、Tiはインク透過度であり、Tmiは媒体透過度とインク透過度とを乗じて得られる印刷画像の透過度である。
PS出力(表面レンダリング時)=表面画像の画素値×(1-Tmi_f)+裏面からの裏抜け画素値×Tmi_f×(1-Ti_b) ・・・(6C)
PS出力(裏面レンダリング時)=裏面画像の画素値×(1-Tmi_b)+表面からの裏抜け画素値×Tmi_b×(1-Ti_f) ・・・(6D)
ここで、PS出力はピクセルシェーダーPSにより算出される画素値であり、Ti_fは表面のインク透過度であり、Ti_bは裏面のインク透過度であり、Tmi_fは媒体透過度と表面のインク透過度とを乗じて得られる表面の印刷画像の透過度であり、Tmi_bは媒体透過度と裏面のインク透過度とを乗じて得られる裏面の印刷画像の透過度である。
【0069】
以上で説明した本実施形態の画像処理装置100bによれば、第1実施形態の効果と同様の効果を得ることができる。特に、本実施形態では、レンダリング部180は、予め生成された裏抜け画像データを3DオブジェクトOBJに対応付けるのではなく、式(5A)および式(5B)を用いて、3DオブジェクトOBJに対応付けられた画像データの画素値が裏抜け画像データの画素値と同様になるように変換し、その後、式(6A)および式(6B)、あるいは、式(6C)および式(6D)を用いて、レンダリング画像の画素値を算出する。したがって、予め生成された裏抜け画像データをレンダリング部180に入力しなくても、レンダリング部180が裏抜け度を用いてレンダリングを実行することにより、印刷媒体における裏抜けを表現することができる。
【0070】
C.第3実施形態:
第3実施形態の画像処理装置100cでは、レンダリング部180が浸透パラメーターに応じて透光パラメーターの適用効果を異ならせることが第1実施形態とは異なる。その他については、特に説明しない限り第1実施形態と同じである。
【0071】
本実施形態では、媒体パラメーターには、印刷媒体へのインクの浸透の程度が印刷媒体における光の透過の程度に与える影響度を表す影響度データが含まれている。影響度は、0~1までの値で表される。影響度データは、予め行われる試験により浸透と透過との関係を調べることで作成することができる。一般的に、印刷媒体へのインクの浸透の程度が大きくなるほど、インクにより光が遮られるため、光が印刷媒体を透過しにくくなる。透過度算出部TCは、透過度算出処理に先立って、影響度データを用いて媒体透過度を補正する。本実施形態では、透過度算出部TCは、下式(7)により媒体透過度を補正する。透過度算出部TCは、画素ごとに媒体透過度を補正する。
媒体透過度B=媒体透過度A×(1-裏抜け度×影響度) ・・・(7)
ここで、媒体透過度Aは、補正前の媒体透過度であり、メモリー102に予め記憶されている媒体透過度である。媒体透過度Bは、補正後の媒体透過度であり、透過度算出処理に用いられる媒体透過度である。印刷媒体にインクが全く浸透しない場合には、裏抜け度が0であるため、媒体透過度Bは、媒体透過度Aと同じになる。裏抜け度が0よりも大きい場合には、媒体透過度Bは、媒体透過度Aよりも小さくなる。その後、透過度算出部TCは、透過度算出処理において、媒体透過度Bを用いて画像の透過度を算出する。
【0072】
図25は、影響度データの適用効果を示す説明図である。図25の上段の左側には、画像処理装置100に入力される入力画像が表されており、上段の右側には、透光パラメーターを用いて生成されたレンダリング画像が表されており、中段の左側には、浸透パラメーターを用いて生成されたレンダリング画像が表されており、中段の右側および下段には、浸透パラメーターと透光パラメーターとを用いて生成されたレンダリング画像が表されている。中段の右側には、媒体透過度が補正されなかった場合のレンダリング画像が表されており、下段には、媒体透過度が補正された場合のレンダリング画像が表されている。媒体透過度が補正された場合には、印刷媒体にインクが浸透することにより光が印刷媒体を透過しにくくなる現象が表現されるので、媒体透過度が補正されなかった場合に比べて、画像が印刷される領域の色が濃く表現される。
【0073】
以上で説明した本実施形態の画像処理装置100cによれば、印刷媒体にインクが浸透するほど光が印刷媒体を透過しにくくなるという現象を表現することができる。したがって、レンダリング結果と実物との差異をさらに小さくすることができる。
【0074】
D.他の実施形態:
(D1)図26は、素材テクスチャーの画素値と補正係数との関係を示す説明図である。上述した各実施形態の画像処理装置100~100cの透過度算出部TCは、印刷媒体の地模様を表現した素材テクスチャーが用いられる場合には、透過度算出処理において、素材テクスチャーの画素値に応じた補正係数を用いて、画像の透過度を算出してもよい。この場合、透過度算出部TCは、式(3A)に代えて下式(8A)により、式(3B)に代えて下式(8B)により、画像の透過度を算出してもよい。
透過度=1-(1-媒体透過度×インク透過度)×補正係数 ・・・(8A)
透過度=1-(1-媒体透過度×既成部透過度)×補正係数 ・・・(8B)
図26に示すように、素材テクスチャーは、グレースケールで表されたカラーマップである。素材テクスチャーの白色の領域では、補正係数は1.0であり、黒色の領域では、補正係数は0.0である。グレーの領域では、補正係数は0.0より大きく1.0より小さい値であり、白に近付くほど値が大きい。また、透過度算出部TCは、下式(9)により補正された媒体透過度を用いて、画像の透過度を算出してもよい。
Tmt=1-(1-Tm)×補正係数 ・・・(9)
ここで、Tmtは素材テクスチャーを考慮した補正後の媒体透過度であり、Tmは素材テクスチャーを考慮した補正前の媒体透過度である。
【0075】
(D2)上述した各実施形態の画像処理装置100~100cは、質感パラメーターと浸透パラメーターと透光パラメーターとを用いてレンダリング画像を生成する。これに対して、画像処理装置100~100cは、質感パラメーターを用いずに、浸透パラメーターと透光パラメーターとを用いてレンダリング画像を生成してもよい。この場合であっても、裏抜けと透き通しとが表現されたレンダリング画像を生成することができる。
【0076】
(D3)上述した各実施形態の画像処理装置100~100cでは、インクジェットプリンターなどの印刷装置により画像が直接印刷された印刷媒体を表すレンダリング画像が生成される。これに対して、画像処理装置100~100cは、例えば、印刷装置により画像が印刷された転写紙から熱転写により画像が転写される媒体を表すレンダリング画像を生成してもよい。この場合、転写紙から熱転写により画像が転写される媒体のことを印刷媒体と呼ぶ。
【0077】
E.他の形態:
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本開示は、以下の形態によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0078】
(1)本開示の第1の形態によれば、画像処理装置が提供される。この画像処理装置は、画像データを取得する画像データ取得部と、画像が印刷される印刷媒体の種類を含む印刷条件を取得する印刷条件取得部と、前記画像データに前記印刷条件に応じた色変換を施す色変換部と、前記印刷媒体の性質を表す媒体パラメーターであって、前記印刷媒体の透光性を表す透光パラメーターと、前記印刷媒体の浸透性を表す浸透パラメーターとを含む前記媒体パラメーターを取得するパラメーター取得部と、前記印刷媒体の表面の形状を表す表面ポリゴンと、前記印刷媒体の裏面の形状を表す裏面ポリゴンであって、前記表面ポリゴンと背中合わせに配置されている前記裏面ポリゴンと、を有する3Dオブジェクトと、前記色変換が施された前記画像データと前記透光パラメーターと前記浸透パラメーターとを用いてレンダリングを実行するレンダリング部と、を備える。
この形態の画像処理装置によれば、浸透パラメーターにより印刷媒体における裏抜けを表現することができ、かつ、透光パラメーターにより印刷媒体における透き通しを表現することができる。したがって、実際の印刷物との見た目の差異を抑制しつつ、画像が印刷されている印刷媒体を表現することができる。
【0079】
(2)上記形態の画像処理装置において、前記媒体パラメーターには、前記印刷媒体の質感を表す質感パラメーターが含まれており、前記レンダリング部は、前記質感パラメーターを用いてレンダリングを実行してもよい。
この形態の画像処理装置によれば、レンダリング結果に印刷媒体の質感を加味することができるので、画像が印刷された状態の印刷媒体を、さらにリアルな表現で表すことができる。
【0080】
(3)上記形態の画像処理装置において、前記レンダリング部は、前記浸透パラメーターに応じて前記透光パラメーターの適用効果を異ならせてもよい。
この形態の画像処理装置によれば、印刷媒体にインクが浸透するほど、印刷媒体を光が透過しにくくなるという現象を表現することができるので、画像が印刷された状態の印刷媒体を、さらにリアルな表現で表すことができる。
【0081】
(4)上記形態の画像処理装置において、前記媒体パラメーターには、前記透光性への前記浸透性の影響度が含まれてもよい。
この形態の画像処理装置によれば、媒体パラメーターにより、印刷媒体にインクが浸透するほど、印刷媒体を光が透過しにくくなるという現象を表現することができる。
【0082】
(5)上記形態の画像処理装置は、前記浸透パラメーターを用いて、前記印刷媒体に印刷される前記画像の裏抜け度を算出する裏抜け度算出部と、前記色変換が施された前記画像データと前記裏抜け度とを用いて、前記印刷媒体に裏抜けにより形成される裏抜け画像を表す裏抜け画像データを生成する裏抜け画像データ生成部と、を備え、前記レンダリング部は、前記表面ポリゴンと前記裏面ポリゴンとの少なくとも一方のポリゴンに前記裏抜け画像データを対応付けて、前記透光パラメーターに応じたレンダリングを実行してもよい。
この形態の画像処理装置によれば、レンダリングに先立って生成された裏抜け画像データを用いて、印刷媒体における裏抜けを表現することができる。
【0083】
(6)上記形態の画像処理装置は、前記浸透パラメーターを用いて、前記印刷媒体に印刷される前記画像の裏抜け度を算出する裏抜け度算出部を備え、前記レンダリング部は、前記表面ポリゴンと前記裏面ポリゴンとの少なくとも一方のポリゴンに前記色変換が施された前記画像データを対応付け、かつ、前記少なくとも一方のポリゴンと背中合わせに配置されているポリゴンに前記裏抜け度を対応付けてレンダリングを実行してもよい。
この形態の画像処理装置によれば、レンダリング部が裏抜け度を用いてレンダリングを実行することにより、印刷媒体における裏抜けを表現することができる。
【0084】
(7)本開示の第2の形態によれば、印刷システムが提供される。この印刷システムは、上記第1の形態の画像処理装置と、前記画像処理装置によって生成されるレンダリング結果を表示する表示装置と、前記印刷媒体に前記画像を印刷する印刷装置と、を備える。
この形態の印刷システムによれば、画像処理装置により生成されるレンダリング結果を用いて、印刷装置により画像が印刷された状態の印刷媒体をプレビューすることができる。
【0085】
(8)本開示の第3の形態によれば、画像処理プログラムが提供される。この画像処理プログラムは、画像データを取得する画像データ取得機能と、画像が印刷される印刷媒体の種類を含む印刷条件を取得する印刷条件取得機能と、前記画像データに前記印刷条件に応じた色変換を施す色変換機能と、前記印刷媒体の性質を表す媒体パラメーターであって、前記印刷媒体の透光性を表す透光パラメーターと、前記印刷媒体の浸透性を表す浸透パラメーターとを含む前記媒体パラメーターを取得するパラメーター取得機能と、前記印刷媒体の表面の形状を表す表面ポリゴンと、前記印刷媒体の裏面の形状を表す裏面ポリゴンであって、前記表面ポリゴンと背中合わせに配置されている前記裏面ポリゴンと、を有する3Dオブジェクトと、前記色変換が施された前記画像データと前記透光パラメーターと前記浸透パラメーターとを用いてレンダリングを実行するレンダリング機能と、をコンピューターに実行させる。
この形態の画像処理プログラムによれば、浸透パラメーターにより印刷媒体における裏抜けを表現することができ、かつ、透光パラメーターにより印刷媒体における透き通しを表現することができる。したがって、実際の印刷物との見た目の差異を抑制しつつ、画像が印刷されている印刷媒体を表現することができる。
【0086】
本開示は、画像処理装置、印刷システム、および、画像処理プログラム以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、画像処理方法等の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0087】
10…印刷システム、100…画像処理装置、101…プロセッサー、102…メモリー、103…入出力インターフェース、104…内部バス、110…画像データ取得部、120…印刷条件取得部、131…入力プロファイル取得部、132…メディアプロファイル取得部、133…共通色空間プロファイル取得部、140…カラーマネージメントシステム、150…パラメーター取得部、160…裏抜け度算出部、170…裏抜け画像データ生成部、180…レンダリング部、200…入力装置、300…表示装置、400…印刷装置、GS…ジオメトリーシェーダー、PG…画像処理プログラム、PPL…ピクセルパイプライン、PS…ピクセルシェーダー、PST…ポスト処理部、RBE…レンダーバックエンド、RRZ…ラスタライザー、TC…透過度算出部、UI1~UI2…ユーザーインターフェース、VPL…頂点パイプライン、VS…頂点シェーダー
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