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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110107
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】ウナギ目魚類の養殖方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/10 20170101AFI20240807BHJP
【FI】
A01K61/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014476
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(71)【出願人】
【識別番号】501067850
【氏名又は名称】山田水産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】宮西 弘
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA07
2B104BA06
2B104BA08
2B104EA01
(57)【要約】
【課題】低コストで歩留まりを向上させることができるウナギ目魚類の養殖方法を提供する。
【解決手段】所定以上の期間で淡水である飼育水にて飼育していたウナギ目魚類を、所定以上の期間で所定塩分濃度の飼育水にて馴致させる馴致工程と、馴致工程の後に、淡水である飼育水に戻して飼育する復帰飼育工程と、を備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定以上の期間で淡水である飼育水にて飼育していたウナギ目魚類を、所定以上の期間で所定塩分濃度の飼育水にて馴致させる馴致工程と、
前記馴致工程の後に、淡水である飼育水に戻して飼育する復帰飼育工程と、
を備えることを特徴とするウナギ目魚類の養殖方法。
【請求項2】
前記馴致工程は、3から5週間の期間で行われることを特徴とする請求項1に記載のウナギ目魚類の養殖方法。
【請求項3】
前記馴致工程で用いられる飼育水は、海水と淡水が混合されて構成され、海水が全体量の50%以上含まれていることを特徴とする請求項1に記載のウナギ目魚類の養殖方法。
【請求項4】
前記馴致工程で用いられる飼育水は、海水であることを特徴とする請求項1に記載のウナギ目魚類の養殖方法。
【請求項5】
前記馴致工程は、全体量の50%~80%の割合で海水が含まれる前記海水と淡水が混合されて構成される飼育水である飼育水で飼育される第1海水飼育と、前記第1海水飼育の育成水よりも海水の割合の大きい飼育水で飼育される第2海水飼育と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のウナギ目魚類の養殖方法。
【請求項6】
前記復帰飼育工程は、少なくとも2ヶ月以上行われることを特徴とする請求項1に記載のウナギ目魚類の養殖方法。
【請求項7】
前記馴致工程は、0.5gから13gまでの稚魚に対して行われることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のウナギ目魚類の養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウナギ目魚類の養殖方法に関する。
【0002】
従来からニホンウナギ等のウナギ目魚類の養殖が行われているが、ニホンウナギは淡水魚であることから、その養殖は淡水の流水池や養鰻設備(例えば、特許文献1参照。)などで行われてきた。ウナギの養殖では、成長優良個体や成長不良個体が生じ、成長不良個体は相対的に成長が不良であり、その他の成長優良個体が出荷サイズまで成長する頃に、出荷サイズに満たない。そのため、従来のウナギ養殖では、成長不良個体は処分するか、通常よりも長期間にわたる飼育期間を経ることにより、根気強く出荷サイズまで成長させるという対応がとられている。
【0003】
特に1970年代に入ってからは、ニホンウナギの養殖に必須な天然シラスウナギの漁獲量は激減しており、食品としてのウナギの価格は高騰傾向にあり、成長不良個体を処分するという対応は適切ではないものの、長期間にわたる飼育はコストがかかり、価格高騰に影響してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実願昭61-110771号(実開昭63-15773号)のマイクロフィルム(第4頁、第1図参照)
【特許文献2】特開2019-180374号公報(第4頁、第1図参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、成長不良個体の成長を促進させ、これまでより短い飼育期間で出荷サイズまで成長させる、つまり歩留まりを向上させる試みが従来から行われてきた。例えば、特許文献2に記載の養鰻設備は、曝気装置に加えて、飼育水に酸素バブルを供給する酸素バブル供給装置を備え、飼育水中の酸素量を増やすことで、成長不良個体の成長を促しているが、設備の導入コストが高く、普及の障壁となる虞があり、低コストで歩留まりを向上させることができる方法が望まれている。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、低コストで歩留まりを向上させることができるウナギ目魚類の養殖方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明のウナギ目魚類の養殖方法は、
所定以上の期間で淡水である飼育水にて飼育していたウナギ目魚類を、所定以上の期間で所定塩分濃度の飼育水にて馴致させる馴致工程と、
前記馴致工程の後に、淡水である飼育水に戻して飼育する復帰飼育工程と、
を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、ウナギ目魚類は、一時的に海水を含む飼育水に馴致させた後に淡水に戻されると、淡水のみで飼育した場合に比べて、摂餌量が増大して成長が促進され、成長不良個体を、これまでより短い飼育期間で出荷サイズまで成長させることができる。つまり、馴致工程に必要な海水を用意できさえすればよく、低コストで歩留まりを向上させることができる。
【0008】
前記馴致工程は、3から5週間の期間で行われることを特徴としている。
この特徴によれば、馴致工程が3から5週間行われた場合に、特にその後の復帰飼育工程での摂餌量の増大が顕著に示された。
【0009】
前記馴致工程で用いられる飼育水は、海水と淡水が混合されて構成され、海水が全体量の50%以上含まれていることを特徴としている。
この特徴によれば、海水が全体量の50%以上含まれている飼育水を用いた場合に、特にその後の復帰飼育工程での摂餌量の増大が顕著に示された。
【0010】
前記馴致工程で用いられる飼育水は、海水であることを特徴としている。
この特徴によれば、海水である飼育水を用いた場合に、特にその後の復帰飼育工程での体重・体長の増大が顕著に示された。
【0011】
前記馴致工程は、全体量の50%~80%の割合で海水が含まれる前記海水と淡水が混合されて構成される飼育水である飼育水で飼育される第1海水飼育と、前記第1海水飼育の育成水よりも海水の割合の大きい飼育水で飼育される第2海水飼育と、を含むことを特徴としている。
この特徴によれば、50%~80%の割合で海水が含まれる飼育水で飼育される第1海水飼育の後に、第1海水飼育の育成水よりも海水の割合の大きい飼育水で飼育される第2海水飼育に移行させることで、飼育水の急激な変化によるストレスを低減でき、生残率を向上できる。
【0012】
前記復帰飼育工程は、少なくとも2ヶ月以上行われることを特徴としている。
この特徴によれば、馴致工程の後、2ヶ月が経過する頃に摂餌量の増大が顕著に示された。
【0013】
前記馴致工程は、0.5gから13gまでの稚魚に対して行われることを特徴としている。
この特徴によれば、馴致工程のストレスによる斃死が少なく、なおかつ期間単位での成長率が比較的大きい状態であるため、成長促進の効果が最も高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明にかかる実施例1のウナギ目魚類の養殖方法を用いた実験結果を示すグラフであり、実験期間中のウナギの摂餌量の変化を示す。
図2】同様に実験期間中のウナギの摂餌量の変化を示すグラフである。
図3】同様に実験結果を示すグラフであり、実験期間中のウナギの体長の変化を示す。
図4】同様に実験結果を示すグラフであり、実験期間中のウナギの体重の変化を示す。
図5】同様に実験結果を示す表図であり、実験期間中のウナギの肥満度を示す。
図6】同様に実験結果を示す表図であり、実験期間中のウナギの瞬間成長率を示す。
図7】同様に実験結果を示す表図であり、実験期間中のウナギの飼料効率を示す。
図8】淡水から50%海水を経て100%海水に移行する実験を別途行った際のウナギの血漿浸透圧の変化を示すグラフである。
図9】海水飼育時のウナギの生残率の推移を示すグラフである。
図10】実施例2のウナギ目魚類の養殖方法を用いた実験結果を示すグラフであり、実験期間中のウナギの摂餌量の変化を示す。
図11】同様に実施例2の実験結果を示すグラフであり、実験期間中のウナギの体長の変化を示すグラフである。
図12】同様に実施例2の実験結果を示すグラフであり、実験期間中のウナギの体重の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るウナギ目魚類の養殖方法を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0016】
本実施例では、養殖用の飼育池に飼育水を流入させ、循環、かけ流し又は汲み置きし、該飼育池内にウナギ目魚類(以下、単に「ウナギ」という。)を収容して飼育を行う。飼育池は、0.1トン程度の小型のものから200トン以上の大型水槽までを含む。
[実験]
【0017】
以降、本方法A、B、C、淡水のみについて行った実験について説明する。日本近海にて漁獲したシラスウナギを、海に近い場所に設置された養鰻場に搬入し、水槽(以後、区別のためにこの水槽を「第1水槽」という。)に移した。漁獲したウナギの稚魚は、体長が5~7cmで重量が0.13から0.2gの、呼称としてはシラスウナギである。本明細書では、ウナギの各個体については、ウナギの成長段階の呼称(シラス、クロコ、養太等)によらず、ウナギ個体という。
【0018】
第1水槽には淡水である飼育水が満たされている。以後、区別のためにこの飼育水での飼育を「第1淡水飼育」という。つまり、ウナギの稚魚は、まず海から淡水(>0.5ヴェニス系psu(以下単に「psu」という。))の第1水槽に移される。この淡水が満たされた第1水槽での第1淡水飼育の期間は1年未満である。この間、ウナギの稚魚は平均体長が約10~24cmで平均体重が0.8~13g程の、呼称としてはクロコを経て、養ビリに成長させる、または選別する。尚、クロコの選別時期は1月~6月の間に1~3回行った。第1淡水飼育で用いられる飼育水は温水ボイラーにより加温し基本水温30℃になるように調節した。
【0019】
その後、ウナギを第1水槽から別の第2水槽に移す。第2水槽内には、淡水と海水(28~38psu)を同量で混合した50%海水条件の飼育水(第1馴致海水:14~19psu)又は淡水と海水を3:7の割合で混合した70%海水条件の飼育水(19~27psu)が満たされている。ここでいう海水は、海から汲み上げて不純物を濾過した、28~38psuの塩分条件の一般的な海水、または人工海水を淡水に溶解させ、28~38psuの塩分条件にしたものである。以後、区別のためにこの飼育水での飼育を「第1海水飼育」(馴致工程)という。
【0020】
本方法Aでは、第1馴致海水は70%海水条件である。海水馴致の第1段階である、この第1馴致海水が満たされた水槽での飼育の期間は約4週間とした。本方法B及びCは、第1馴致海水は50%海水条件であり、この第1馴致海水が満たされた水槽での飼育の期間は約1週間とした。第1馴致海水はウォーターバス方式により水温25~28℃に調節した。
【0021】
本方法Aでは行わないが、海水馴致の第2段階として、第2水槽から第3水槽に移す。第3水槽には、70%海水となるように淡水と海水とを混合した飼育水(第2馴致海水:19~27psu)が満たされている。以後、区別のためにこの飼育水での飼育を「第2海水飼育」(馴致工程)という。この第2馴致海水が満たされた第3水槽での飼育の期間は、本方法Bで約1週間、本方法Cで約2週間とした。第2馴致海水はウォーターバス方式により水温25~28℃に調節した。
【0022】
第1海水飼育が完了した後、ウナギを第2水槽から第3水槽に移す。第4水槽には、淡水である飼育水が満たされている。以後、区別のためにこの飼育水での飼育を「第2淡水飼育」(復帰飼育工程)という。尚、本方法Aでは、第2海水飼育は行わず、第1海水飼育から第2淡水飼育に移行する。第2淡水飼育では、適宜200gほどの呼称としては養太まで成長させてから出荷する。
【0023】
全ての段階において、餌料はウナギ用配合飼料を各サイズに応じた給餌率に基づき、毎日2回に分けて投与した。実験中、適時、生残状況等を確認するとともに、随時、体長、体重を測定した。
【0024】
また、本飼育方法と同じ期間かつ、本飼育方法と飼育開始時の体重および個体数が略同じであるウナギを用いて、全て淡水にて飼育する、従来の飼育方法を本飼育方法との比較のために行った。
[結果]
【0025】
結果、本方式A,B,Cの全てで、摂餌量の良化と、体重および体長の増加率の向上が見られ、第2淡水飼育は1年弱行われ(なお、図1~4においては第2淡水飼育は概ね7か月迄の結果を示している)、その結果、斃死した個体以外については、体長が約40~48cmかつ体重が約150~200gのいわゆる養太という呼称になるまで成長するまでに要した期間が、全て淡水にて飼育する従来の飼育方法に比べて短くなった。特に、本方式A,Cにおいては、第2淡水飼育開始から6~7ヶ月の時点までに摂餌量の良化が見られた。また、体重および体長の増加率の向上も見られた。尚、海水経験処理は、トータル1週間では摂餌量の良化、体重および体長の増加率の向上ともに効果が得られず、トータル2、特に3週間で効果が得られたことから、第1海水飼育は3週間以上が好ましい。
【0026】
図1のグラフは、従来の飼育方法と本方法におけるウナギ1尾あたりの摂餌量の変化を示している。ここでは、第1淡水飼育の前半が省略されており、第1淡水飼育から第1海水飼育に移行するタイミングからの摂餌量の変化が示されている。白丸をつなぐ折れ線は従来の飼育方法で飼育されたウナギの摂餌量の変化を示している。黒丸をつなぐ折れ線は本飼育方法(以下、「本方法」という。)で飼育されたウナギの摂餌量の変化を示している。
【0027】
詳しくは、摂餌量が増加に関しては、図1及び図2のグラフに示されるように、本方法Aで飼育されたウナギは、第1海水飼育の中盤まで、従来の飼育方法で飼育されたウナギに比べて摂餌量が減少しているが、それ以降は順調に摂餌量が増大し、第1海水飼育開始から3週間程で淡水のみでの飼育時の摂餌量を超える。
【0028】
尚、「第2淡水飼育」(復帰飼育工程)に移行してから2ヶ月が経過する頃(図1においては10/28)に摂餌量の増大が顕著に示されたことから、復帰飼育工程は少なくとも2ヶ月以上行われることが好ましい。
【0029】
また、本方法Bで飼育されたウナギは、第2淡水飼育(復帰飼育工程)に移行してから5ヶ月が経過する頃(図2においては4月)に摂餌量の増大が顕著に示されたことから、復帰飼育工程は少なくとも5ヶ月以上行われることが好ましい。
【0030】
図3のグラフは、従来の飼育方法と本方法におけるウナギの体長の変化を示している。ここでも図1と同様に、第1淡水飼育の前半が省略されており、第1淡水飼育から第1海水飼育に移行するタイミングからの体長の変化が示されている。白丸をつなぐ折れ線は従来の飼育方法で飼育されたウナギの体長の変化を示している。黒三角をつなぐ折れ線は本方法のうち、本方法B(第1海水飼育(50%海水1週間)+第2海水飼育(70%海水1週間)を経た後の第2淡水飼育)で飼育されたウナギの体長の変化を示している。黒菱形をつなぐ折れ線は本方法のうち、本方法C(第1海水飼育(50%海水1週間)+第2海水飼育(70%海水2週間)を経た後の第2淡水飼育)で飼育されたウナギの体長の変化を示している。
【0031】
詳しくは、図3のグラフに示されるように、第1海水飼育中、第2海水飼育中においては、従来の飼育方法で飼育されたウナギと体長に大差が無い。また、第2淡水飼育が開始されて1月間についても、従来の飼育方法で飼育されたウナギと体長の増大に大差が無い状態が続く。
【0032】
しかし、第2淡水飼育が開始されて5ヶ月を経過した後、体長の増大が顕著になり、従来の飼育方法で飼育されたウナギに対して平均体長が約3%増大しており、特に本方法Cでは、7ヶ月を経過した時点で約6%平均体長が増大している。例えば6月では、70%海水2週間で飼育されたウナギは約2cm大きくなっている。
【0033】
この体長の増大は、第1海水飼育と第2海水飼育における海水馴致により、第2淡水飼育中の摂餌量が増大したことに起因するものと考えられる。また、特に本方法Cでは、第2淡水飼育開始から6ヶ月の時点(5月)では、従来の飼育方法で飼育されたウナギと比べて平均体長が約3%増大しており、7ヶ月の時点(6月)では、約6%増大している。このことから、第2淡水飼育の時間が経過するに従い、平均体長の増大が顕著になると考えられる。これは、ウナギの稚魚が期間単位での成長率が比較的大きい養ビリの状態で海水馴致されることで、第2淡水飼育中おける成長率の増大が成長後半に良い影響をもたらしたと考えられる。
【0034】
図4のグラフは、従来の飼育方法と本方法における体重の変化を示している。ここでも図1と同様に、第1淡水飼育の前半が省略されており、第1淡水飼育から第1海水飼育に移行するタイミングからの体重の変化が示されている。白丸をつなぐ折れ線は従来の飼育方法で飼育されたウナギの体重の変化を示している。黒三角をつなぐ折れ線は本方法Bである第1海水飼育(50%海水1週間)+第2海水飼育(70%海水1週間)を経た後の第2淡水飼育で飼育されたウナギの体重の変化を示している。黒菱形をつなぐ折れ線は本方法Cである第1海水飼育(50%海水1週間)+第2海水飼育(70%海水2週間)を経た後の第2淡水飼育で飼育されたウナギの体重の変化を示している。
【0035】
図4のグラフに示されるように、第1海水飼育中、第2海水飼育中においては、従来の飼育方法で飼育されたウナギと体重に大差が無い。また、第2淡水飼育が開始されて2ヶ月間についても、従来の飼育方法で飼育されたウナギと体重変化に大差が無い状態が続く。
【0036】
しかし、第2淡水飼育が開始されて5ヶ月を経過した後、体重変化が顕著になり、従来の飼育方法で飼育されたウナギに対して平均体重が約14%~17増大している。特に本方法Cでは、例えば(6月)では、本方法で飼育されたウナギが約32%大きくなっている。
【0037】
これは、第1海水飼育と第2海水飼育における海水馴致により、第2淡水飼育中の摂餌量が増大したことに起因するものと考えられる。また、第2淡水飼育の時間が経過するに従い、平均体重の増大が顕著になっている。これは、ウナギの稚魚が期間単位での成長率が比較的大きい養ビリの状態で海水馴致されることで、第2淡水飼育中おける成長率の増大が成長後半に良い影響をもたらしたと考えられる。
【0038】
図5は、従来の飼育方法と本方法C(第1海水飼育(50%海水1週間)+第2海水飼育(70%海水2週間)を経た後の第2淡水飼育)におけるウナギの肥満度の変化を示す表である。この表から、本方法で飼育されたウナギは、従来の飼育方法で飼育されたウナギと比べて肥満度の値が大きいことが分かる。特に、「8月3、4週」の第2海水飼育の後は、概ね肥満度の値が約10%以上大きくなっている。例えば、(9月)では、本方法で飼育されたウナギのCF値が0.11大きくなっている。これについても、第1海水飼育と第2海水飼育における海水馴致により、第2淡水飼育中の摂餌量が増大したことに起因するものと考えられる。
【0039】
図6は、所定の期間ごとの瞬間成長率を示す表である。この表から、「8月3、4週」の第2海水飼育の期間で、本方法で飼育されたウナギの瞬間成長率は、従来の飼育方法で飼育されたウナギの瞬間成長率の237%に達し、その後も瞬間成長率は従来の飼育方法で飼育されたウナギよりも概ね大きくなっていることが分かる。例えば、(10月)では、本方法で飼育されたウナギのSGR値が0.446大きくなっている。これについても、第1海水飼育と第2海水飼育における海水馴致により、第2淡水飼育中の摂餌量が増大したことに起因するものと考えられる。
【0040】
図7は、総体重増加量を1ヶ月の総摂取量で除算し、1ヶ月あたりの餌料効率を示す表である。この表から分かるように、餌料効率については、本方法で飼育されたウナギと従来の飼育方法で飼育されたウナギとの間に顕著な差を発見しなかった。つまり、飼料単位から得られる成長の効率が向上したわけではなく、第1海水飼育と第2海水飼育における海水馴致を経たことによる食欲の向上が、ウナギの成長に好影響を与えたと考えられる。
【0041】
図8は、淡水から50%海水を1日経て100%海水に移行する実験を別途行った際のウナギの血漿浸透圧の変化を示すグラフである。この実験で用いるウナギの稚魚は、平均体長が約10~24cmで平均体重が0.8~13g程の、呼称としては養ビリである。白丸をつなぐ折れ線は従来の飼育方法で飼育されたウナギの血漿浸透圧の変化を示している。黒丸をつなぐ折れ線は本方法で飼育されたウナギの血漿浸透圧の変化を示している。
【0042】
このグラフでは、50%海水及び100%海水移行後の1日目で血漿浸透圧が上昇しているが、その後、日数の経過と共に血漿浸透圧が減少し、淡水の場合の血漿浸透圧に近い生理的範囲に戻っている。この結果及び前期実施例から、本来であれば淡水で生育することが多いとされる大きさのウナギの稚魚であっても、70~100%海水で長期的に問題なく飼育できることが分かる。
【0043】
図9は、海水飼育時のウナギの生残数の推移を示すグラフである。黒丸、黒四角、黒菱形は、それぞれ50%海水の第1馴致海水で1日飼育する第1海水飼育を行った後に100%海水に移行した場合、50%海水の第1馴致海水で3日飼育する第1海水飼育を行った後に100%海水に移行した場合、50%海水の第1馴致海水で5日飼育する第1海水飼育を行った後に100%海水に移行した場合、のウナギの生残数を示す。黒三形は、50%海水の第1馴致海水で7日飼育する第1海水飼育を行った後に100%海水に移行した場合のウナギの生残数を示す。白丸、白四角、白菱形は、それぞれ50%海水の第1馴致海水における海水馴致を経ていないものを100%海水に移行した場合、50%海水の第1馴致海水で6時間飼育する第1海水飼育を行った後に100%海水に移行した場合、50%海水の第1馴致海水で12時間飼育する第1海水飼育を行った後に100%海水に移行した場合、のウナギの生残数を示す。
【0044】
このグラフにおいて、50%海水の第1馴致海水で12時間飼育する第1海水飼育を行ったものと、50%海水の第1馴致海水で1日飼育する第1海水飼育を行ったものの間で生残率に大きく差が出ている。言い換えると、50%海水に1日以上馴致すれば、ほとんどの個体が100%海水に適応可能である。このことから、飼育水の急激な変化によるストレスが生残率の低下を招くと推測でき、50%海水の第1馴致海水で少なくとも1日間飼育した後に100%海水の第2馴致海水に移行することが好ましいこと分かった。
【0045】
以上の実験結果から、ウナギ目魚類の稚魚は、一時的に海水を含む飼育水に馴致させた後に淡水に戻されると、淡水のみで飼育した場合に比べて、摂餌量が増大して成長が促進され、成長不良個体をこれまでより短い飼育期間で出荷サイズまで成長させることができることがわかった。つまり、馴致工程に必要な海水を用意できさえすれば、低コストで歩留まりを向上させることができるため、海水馴致させる本方法の普及が容易である。
【0046】
本方法では、養鰻の全行程において短期間である第1海水飼育と第2海水飼育とを経た後に、淡水に戻して長期飼育する、つまり海水環境では長期飼育しないことで、このように良好な結果になった。
【実施例0047】
次に、実施例2に係るウナギ目魚類の養殖方法につき、図10から図12を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成を省略する。
【0048】
本実施例では、本方法D(海水飼育を50%海水に3週間、海水馴致させた後に第2淡水飼育で飼育)したウナギと、本方法E(第1海水飼育を50%海水に1日海水馴致させた後、第2海水飼育を100%海水に移行させて20日飼育した後に第2淡水飼育で飼育)したウナギと、を従来の飼育方法で飼育されたウナギと比較する実験結果を示す。
[結果]
【0049】
本方法Dである海水飼育にて50%海水に3週間の海水馴致を経た後の第2淡水飼育と、本方法Eである第1海水飼育にて50%海水に1日海水馴致させた後、第2海水飼育にて100%海水に移行させて20日飼育した場合とのいずれにおいても、摂餌量の良化と、体重および体長の増加率の向上が見られた。詳しくは、体長が約40~48cmかつ体重が約150~200gのいわゆる養太という呼称になるまで成長するまでに要した期間が、全て淡水にて飼育する従来の飼育方法に比べて短くなった。
【0050】
特に、図10に示されるように、本方法Eである第1海水飼育にて50%海水に1日の海水馴致を経た後に第2海水飼育にて100%海水に20日飼育し、その後に第2淡水飼育に移行した場合の摂餌量は、約1ヶ月後に従来の飼育方法で飼育されたウナギに比べて約46%の増加となった。
【0051】
また、図11に示されるように、本方法Eである第1海水飼育にて50%海水に1日の海水馴致を経た後に第2海水飼育にて100%海水に20日飼育し、その後に第2淡水飼育に移行した場合では、第2淡水飼育が開始されて1ヶ月が経過した時点で、従来の飼育方法で飼育されたウナギに対して平均体長が約5%増大している。
【0052】
また、図12に示されるように、本方法Eでは、第2淡水飼育が開始されて1ヶ月が経過した時点で、体重の増大が顕著になり、従来の飼育方法で飼育されたウナギに対して平均体重が約24%増大している。
【0053】
このように、第2海水飼育において1日の50%海水の海水馴致を経た後に100%海水に移行することで、摂餌量、体長、体重のいずれも良化が見られた。
【0054】
以上、本発明の実施例と変形例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0055】
例えば、前記実施例において海水馴致の工程は、第1海水飼育を4週間又は第1海水飼育を1週間及び第2海水飼育を1~2週間の期間で行う例で実験を行い、良好な結果が得られたが、正確に4週間行う態様に限らず、3から5週間の期間で行われれば、摂餌量の増大において良好な結果が得ることができる。例えば、第1海水飼育が1日以上であれば良好な結果を得ることができるため、1日~1週間の間で自由に設定できる。仮に第1海水飼育が1日である場合には、第1淡水飼育時の淡水の水槽に、海の海水を半量入れて、1日飼育し、次の日から海水を注水して海水移行させるだけで良くなり、オペレーションが簡単になる。
【0056】
また、方法B,Cのように、海水馴致の工程は50%海水の第1海水飼育と、70%海水の第2海水飼育とを組み合わせて行う態様に限らず、例えば60%海水もしくは80%海水のみで行われてもよいし、50%海水から80%海水の範囲で、複数の海水割合の飼育水を組み合わせて行われてもよい。尚、第2海水飼育では、実施例2にて100%海水でも良好な結果を得られている。また、第2海水飼育は70%以上海水であることが好ましい。
【0057】
また、前記実施例において海水馴致は、0.5gから13gまでの稚魚(養ビリ)に対して行われて最良の結果が得られた。このことから、養ビリに該当するサイズの稚魚が、海水馴致のストレスによる斃死が少なく、なおかつ期間単位での成長率が比較的大きい状態であるため、成長促進の効果が最も高いと考えられるが、更に小さいクロコやシラスウナギの状態で海水馴致を行ってもよいし、養中以上のサイズのウナギに対して行われても良好な結果が得られる。
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