(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110115
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20240807BHJP
H01G 9/022 20060101ALI20240807BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240807BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
H01G9/028 Z
H01G9/022
H01G9/028 E
H01G9/028 G
H01G9/00 290H
H01G9/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014487
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】513244753
【氏名又は名称】株式会社カーリット
(72)【発明者】
【氏名】伊賀上 祥汰
(72)【発明者】
【氏名】和田 直人
(72)【発明者】
【氏名】永松 亮太
(72)【発明者】
【氏名】中山 茉初
(57)【要約】
【課題】優れた漏れ電流特性及び等価直列抵抗と高い耐湿特性を具備した固体電解コンデンサの製造方法を提供する。
【解決手段】アニオン部位にリン酸基を有する双性イオン化合物を含む前処理剤を用い、誘電体酸化皮膜が形成された陽極金属上に該双性イオン化合物を保持させる処理を施し、次いで該陽極金属上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成することで、優れた漏れ電流特性及び耐湿特性を示す固体電解コンデンサを提供できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン部位にリン酸基を有する双性イオン化合物を含む前処理剤により、(a)誘電体酸化皮膜が形成された陽極金属上に該双性イオン化合物を保持させる工程、と次いで(b)固体電解質層を形成させる工程、を少なくとも有する固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記前処理剤が、双性イオン化合物1重量部に対し、溶媒0.1~10000重量部にて希釈したものであることを特徴とする、請求項1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記双性イオン化合物が、下記式(1)で表されるアニオン部位を有する、請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【化1】
(式(1)において、Zは炭素数1~8のアルキル基を有するエーテルを表し、Aは連結基を表す)
【請求項4】
前記双性イオン化合物が、下記式(2)~(6)で表される化合物からなる群から選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【化2-6】
(式(2)~(6)中、R
1~R
20は、それぞれ独立して一級アミノ基及び二級アミノ基の一方又は両方を有していてもよい有機基又は水素原子であり、隣接するR同士は連結し、炭素数2~6のアルキレン基を形成してもよく、X
1~X
5はリン酸アニオンを表す)
【請求項5】
前記双性イオン化合物が、1-メチル-3-(2-ホスホエチル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-メチル-3-(3-ホスホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-エチル-3-(2-ホスホエチル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-エチル-3-(3-ホスホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-ブチル-3-(2-ホスホエチル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-ブチル-3-(3-ホスホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-ヘキシル-3-(2-ホスホエチル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-ヘキシル-3-(3-ホスホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-(2-ホスホエチル)ピリジン-1-イウム、1-メチル-2-(2-ホスホエチル)-1H-ピラゾール-2-イウム、1-メチル-1-(2-ホスホエチル)ピペリジン-1-イウム、1-メチル-3-(2-ホスホエチル)イミダゾリン-1-イウムからなる群より選ばれた1種以上の化合物である、請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
前記双性イオン化合物の分子量が、200~300であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
前記前処理剤が、コロイダルシリカ及び/又はシリコーン系界面活性剤を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
前記陽極金属が、アルミニウム又はタンタルであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
アニオン部位にリン酸基を有し、式(2)~(6)で表される化合物からなる群から選ばれる1種類以上の化合物である双性イオン化合物を、溶媒にて希釈したものを少なくとも含むことを特徴とする、固体電解コンデンサ用前処理剤。
(式(2)~(6)中、R
1~R
20は、それぞれ独立して一級アミノ基及び二級アミノ基の一方又は両方を有していてもよい有機基又は水素原子であり、隣接するR同士は連結し、炭素数2~6のアルキレン基を形成してもよく、X
1~X
5はリン酸アニオン部位を表す)
【請求項10】
アニオン部位にリン酸基を有する双性イオン化合物を含む前処理剤により、双性イオン化合物が誘電体酸化皮膜を有する陽極金属上に保持され、さらに該陽極金属上に導電性高分子からなる固体電解質層が形成されていることを特徴とする、固体電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子は、優れた安定性及び導電性を有することから、固体電解コンデンサ用電解質に適用されている。
【0003】
これらの導電性高分子は一般に、溶媒に不溶あるいは難溶、かつ、不融であるため、成型、加工が困難である。
【0004】
固体電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜を有する陽極金属上に、陰極として機能する導電性高分子を含有する固体電解質層を形成してなるものが知られている。
【0005】
固体電解質層の形成方法としては、化学酸化重合法が知られており、例えば、誘電体酸化皮膜が形成された陽極金属上にて、モノマー化合物を含む溶液及び酸化剤を付着、接触させることで重合せしめ、前記陽極金属上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成することができる。
【0006】
しかし、この化学酸化重合法では、化学酸化重合時に使用する酸化剤による誘電体酸化皮膜への損傷があるため、固体電解コンデンサの耐電圧や耐久性が低下し、漏れ電流が増大するという問題があった
【0007】
特許文献1には、固体電解質層形成用組成物に、ホウ酸と、3価以上のグリコールを含有しない2価のグリコールを予め添加することで、乾燥固化して固体電解質層を形成する際に、該固体電解質中に、誘電体酸化皮膜修復能を有するホウ酸エステルを生成させ、耐電圧の高いコンデンサを得る手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
固体電解質中にホウ酸エステルを生成させる特許文献1の前記固体電解コンデンサでは、
等価直列抵抗及び耐湿特性が不十分であることが、本発明者らの検討により判明した。
従って、本発明は、等価直列抵抗及び耐湿特性が優れており、かつ、漏れ電流特性が良好な固体電解コンデンサの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、アニオン部位にリン酸基を有する双性イオン化合物を含む前処理剤により、該双性イオン化合物を誘電体酸化皮膜が形成された陽極金属上に保持させる処理を施し、次いで該陽極金属上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成することで、優れた等価直列抵抗及び耐湿特性と低漏れ電流特性を示す固体電解コンデンサを提供できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0012】
[1]アニオン部位にリン酸基を有する双性イオン化合物を含む前処理剤により、(a)誘電体酸化皮膜が形成された陽極金属上に該双性イオン化合物を保持させる工程、と次いで(b)固体電解質層を形成させる工程、を少なくとも有する固体電解コンデンサの製造方法。
【0013】
[2]前記前処理剤が、双性イオン化合物1重量部に対し、溶媒0.1~10000重量部にて希釈したものであることを特徴とする、[1]に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【0014】
[3]前記双性イオン化合物が、下記式(1)で表されるアニオン部位を有する、[1]又は[2]に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【化1】
(式(1)において、Zは炭素数1~8のアルキル基を有するエーテルを表し、Aは連結基を表す)
【0015】
[4]前記双性イオン化合物が、下記式(2)~(6)で表される化合物からなる群から選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【化2-6】
(式(2)~(6)中、R
1~R
20は、それぞれ独立して一級アミノ基及び二級アミノ基の一方又は両方を有していてもよい有機基又は水素原子であり、隣接するR同士は連結し、炭素数2~6のアルキレン基を形成してもよく、X
1~X
5はリン酸アニオン部位を表す)
【0016】
[5]前記双性イオン化合物が、1-メチル-3-(2-ホスホエチル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-メチル-3-(3-ホスホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-エチル-3-(2-ホスホエチル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-エチル-3-(3-ホスホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-ブチル-3-(2-ホスホエチル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-ブチル-3-(3-ホスホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-ヘキシル-3-(2-ホスホエチル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-ヘキシル-3-(3-ホスホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-(2-ホスホエチル)ピリジン-1-イウム、1-メチル-2-(2-ホスホエチル)-1H-ピラゾール-2-イウム、1-メチル-1-(2-ホスホエチル)ピペリジン-1-イウム、1-メチル-3-(2-ホスホエチル)イミダゾリン-1-イウムからなる群より選ばれた1種以上の化合物である、[1]又は[2]に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【0017】
[6]前記双性イオン化合物の分子量が、200~300であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【0018】
[7]前記前処理剤が、コロイダルシリカ及び/又はシリコーン系界面活性剤を含むことを特徴とする、[1]又は[2]に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【0019】
[8]前記陽極金属が、アルミニウム又はタンタルであることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【0020】
[9]アニオン部位にリン酸基を有し、式(2)~(6)で表される化合物からなる群から選ばれる1種類以上の化合物である双性イオン化合物を、溶媒にて希釈したものを少なくとも含むことを特徴とする、固体電解コンデンサ用前処理剤。
(式(2)~(6)中、R
1~R
20は、それぞれ独立して一級アミノ基及び二級アミノ基の一方又は両方を有していてもよい有機基又は水素原子であり、隣接するR同士は連結し、炭素数2~6のアルキレン基を形成してもよく、X
1~X
5はリン酸アニオン部位を表す)
【0021】
[10]アニオン部位にリン酸基を有する双性イオン化合物を含む前処理剤により、双性イオン化合物が誘電体酸化皮膜を有する陽極金属上に保持され、さらに該陽極金属上に導電性高分子からなる固体電解質層が形成されていることを特徴とする、固体電解コンデンサ。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、漏れ電流が大きく低下し、等価直列抵抗及び耐湿特性に優れた固体電解コンデンサの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明について説明する。
【0024】
本発明によって製造される固体電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜を形成させた陽極金属上に、固体電解質層が形成されてなる固体電解コンデンサである。
【0025】
[誘電体酸化皮膜を形成させた陽極金属]
陽極金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン等を例示することができ、微細な粒子を焼結させた焼結体、エッチング等により粗面化処理した箔状あるいは板状で用いられる。
これらの陽極金属の中でも、本発明の作用効果を呈し易いという面から、エッチング等により粗面化処理した箔状のアルミニウムが極めて好適である。
【0026】
陽極金属に公知の化成処理を施すことによって、陽極金属の表面に誘電体酸化皮膜を形成することができる。例えば、アジピン酸二アンモニウム等の水溶液中で陽極酸化処理を行うことで、陽極金属上に誘電体酸化皮膜を形成することができる。
【0027】
[双性イオン化合物]
双性イオン化合物とは、同一分子内にカチオン部位とアニオン部位とを有し、カチオン部位とアニオン部位はそれぞれ共有結合により、分子内のいずれかの原子と結合している化合物である。双性イオン化合物は、例えば、X--A-Y+などで表される。Aは、アニオン部位(X-)とカチオン部位(Y+)を共有結合で結ぶ連結基である。なお、連結基Aは通常、単結合又は炭素数1~20の有機基である。
【0028】
双性イオン化合物は、カチオン部位とアニオン部位が共有結合により同一分子内に存在するため、電極近傍の電場によるイオンの拡散が生じ難く、これにより、固体電解コンデンサの耐湿特性、漏れ電流特性及び等価直列抵抗が良好になるものと推察される。
【0029】
本発明で使用することができる双性イオン化合物は、アニオン部位にリン酸基を有する双性イオン化合物である。アニオン部位にリン酸基を有することで、固体電解コンデンサの耐電圧特性、静電容量、等価直列抵抗、tanδ、漏れ電流特性及び耐湿特性が良好となる。特に、下記式(1)で表されるアニオン部位を有することが好ましい。
【化1】
式(1)において、Zは炭素数1~8のアルキル基を有するエーテルを表し、Aは連結基を表す。
【0030】
本発明の双性イオン化合物は、下記式(2)~(6)で表される少なくともいずれか1種の化合物を含むことが好ましい。
【化2-6】
式(2)~(6)中、R
1~R
20は、それぞれ独立して一級アミノ基及び二級アミノ基の一方又は両方を有していてもよい有機基又は水素原子であり、隣接するR同士は連結し、炭素数2~6のアルキレン基を形成してもよい。X
1~X
5はリン酸アニオン部位であり、中でも上記式(1)で表されるアニオン部位であることが好ましく、さらに、式(1)におけるZは炭素数2~3のアルキル基を有するエーテルであることがより好ましい。
【0031】
本発明に用いられる双性イオン化合物は、1-メチル-3-(2-ホスホエチル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-メチル-3-(3-ホスホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-エチル-3-(2-ホスホエチル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-エチル-3-(3-ホスホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-ブチル-3-(2-ホスホエチル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-ブチル-3-(3-ホスホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-ヘキシル-3-(2-ホスホエチル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-ヘキシル-3-(3-ホスホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム、1-(2-ホスホエチル)ピリジン-1-イウム、1-メチル-2-(2-ホスホエチル)-1H-ピラゾール-2-イウム、1-メチル-1-(2-ホスホエチル)ピペリジン-1-イウム、1-メチル-3-(2-ホスホエチル)イミダゾリン-1-イウムを例示することができる。双性イオン化合物の分子量は、200~300であることが好ましい。中でも、固体電解コンデンサの等価直列抵抗、漏れ電流特性及び耐湿特性を良好とする観点から、カチオン部位にイミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン及びピラゾリウムイオンを有することがより好ましい。
【0032】
[前処理剤の溶媒]
本発明の前処理剤には、溶媒として水又は有機溶媒を用いることができる。
【0033】
有機溶媒は、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、セロソルブ類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、スルホン類等を用いることができる。
【0034】
アルコール類は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、n-アミルアルコール、s-アミルアルコール、t-アミルアルコール、アリルアルコール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、2-エチルブタノール、2-オクタノール、n-オクタノール、シクロヘキサノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、フルフリルアルコール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、ベンジルアルコール、メチルシクロヘキサノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0035】
ケトン類は、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチル-n-プロピルケトン等が挙げられる。
【0036】
エステル類は、アセト酢酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸メチル、蟻酸イソブチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸メチル、酢酸イソブチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸メチル、サリチル酸メチル、シュウ酸ジエチル、酒石酸ジエチル、酒石酸ジブチル、フタル酸エチル、フタル酸メチル、フタル酸ブチル、γ-ブチロラクトン、マロン酸エチル、マロン酸メチル等が挙げられる。
【0037】
セロソルブ類は、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等が挙げられる。
【0038】
芳香族炭化水素類は、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0039】
脂肪族炭化水素類は、ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0040】
スルホン類は、スルホラン、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、3-メチルスルホラン等が挙げられる。
【0041】
前記溶媒は単独で用いる他、混合して用いることができる。
【0042】
前記溶媒の中でも特に、水、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ガンマブチロラクトン、スルホランからなる群から選ばれる少なくとも一つであることが、好ましく挙げられる。
【0043】
[前処理剤]
本発明の前処理剤は、前記双性イオン化合物を前記溶媒にて所定濃度に希釈することで得られる。該前処理剤は、双性イオン化合物1重量部に対し、溶媒0.1~10000重量部で希釈したものが好ましく、双性イオン化合物1重量部に対し、溶媒0.5~5000重量部であることがより好ましく、双性イオン化合物1重量部に対し、溶媒1.0~1000重量部であることが特に好ましく挙げられる。該範囲にすることで、双性イオン化合物を陽極金属に効率よく保持させることができ、特に高い耐湿特性と低漏れ電流特性を有する固体電解コンデンサを製造することができる。
【0044】
本発明の前処理剤には、さらにコロイダルシリカ及び/又はシリコーン系活性剤を含有させてもよい。コロイダルシリカ及び/又はシリコーン系活性剤を含有させた前処理剤を陽極金属の前処理に用いることで、固体電解コンデンサの耐電圧特性を向上させることができる。
【0045】
<コロイダルシリカ>
コロイダルシリカとは、SiO2又はその水和物のコロイドで、粒径が1~300nmで一定の構造をもたないものである。ケイ酸塩に希塩酸を作用させた後、透析で得ることができる。粒径が小さくなるほどゲル化が進行しやすくなり、粒径が大きくなるほどゲル化しにくくなる。本発明に用いるコロイダルシリカの粒径は、10~50nmが好ましく挙げられ、10~30nmがより好ましく挙げられる。該粒径のコロイダルシリカを用いることで、ゲル状になりにくく、前処理剤使用時にも安定に分散した状態を維持することができる。
【0046】
コロイダルシリカは、水又は有機溶媒にほとんど溶解せず、一般に適当な分散溶媒中に分散させたコロイド溶液として前処理剤に添加した状態で用いることができる。
【0047】
本発明に用いるコロイダルシリカは、ナトリウム安定型コロイダルシリカでも、酸性コロイダルシリカでも、アンモニア安定型コロイダルシリカでもよい。
ナトリウム安定型コロイダルシリカは、コロイダルシリカの表面がONa基となっている。酸性コロイダルシリカは、コロイダルシリカの表面がNaを除去したOH基となっているコロイダルシリカであり、アンモニア安定型コロイダルシリカは、Naを除去してOH基にした後、アンモニアを含有させて安定化させたコロイダルシリカである。
これらの中でも、ナトリウムイオンの含有量が少ない酸性コロイダルシリカ又はアンモニア安定型コロイダルシリカが好ましく挙げられる。
【0048】
前処理剤中におけるコロイダルシリカの含有量は、0.01~20質量部、より好ましくは0.03~15質量部が挙げられ、特に好ましくは0.05~10質量部が挙げられる。該範囲では、前処理剤を用いた陽極金属の前処理により、電解コンデンサの耐電圧特性が向上する。
【0049】
コロイダルシリカの平均粒径は、いずれのものでもよく、好ましくは1~100nmであり、より好ましくは10~50nmであり、特に好ましくは10~30nmである。前記平均粒径にすることで、溶媒における分散性に優れた前処理剤を得ることができる。
【0050】
コロイダルシリカの形状は、球状タイプ、鎖状タイプ、コロイダルシリカが環状に凝集して溶媒に分散した環状タイプのいずれであってもよい。
【0051】
<シリコーン系界面活性剤>
シリコーン系界面活性剤は、シロキサン結合(Si-O-Si)を主骨格にもつとともにSi-Cの結合を有する化合物を含み、具体的には、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、クロロフェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、フェノール変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、脂肪酸エステル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。
【0052】
シリコーン系界面活性剤の分子量は、100~100000が好ましく挙げられる。該範囲の分子量のシリコーン系界面活性剤を用いることで、コロイダルシリカの電荷バランスが崩れることを防止できるため、長期に渡って前処理剤のゲル化が抑制される。そのため、前処理剤による陽極金属の前処理が十分に施され、より高い耐電圧特性を有した固体電解コンデンサが得られる。
【0053】
アルキル変性シリコーンとは、炭素数6以上のアルキル基や2-フェニルプロピル基等を有する変性シリコーンであり、アルコール変性シリコーンとは、アルコール性水酸基を有する変性シリコーンであり、エポキシ変性シリコーンとは、グリシジル基又は脂環式エポキシ基等を有する変性シリコーンであり、アミノ変性シリコーンとは、アミノプロピル基やN-(2-アミノエチル)アミノプロピル基等のアミノ基を有する変性シリコーンであり、脂肪酸エステルシリコーンとは、脂肪酸のエステル基を有する変性シリコーンであり、ポリエーテル変性シリコーンとは、ポリオキシアルキレン基(例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシエチレンオキシプロピレン基等)を有する変性シリコーンである。
【0054】
シリコーン系界面活性剤は、単独又は2種類以上併用して用いることができる。これらの中でも特に、前処理剤のゲル化を防止する点より、ポリエーテル変性シリコーンが好ましく挙げられる。
【0055】
ポリエーテル変性シリコーンには、ペンダント型ポリマー、ABA型ポリマー、(AB)n型ポリマー、枝分かれ型ポリマー等が挙げられるが、これらの中でもペンダント型ポリマー又はABA型ポリマーが好ましく挙げられる。
【0056】
ペンダント型は典型的には式(A)で表される化合物であり、ABA型は典型的には式(B)で表される化合物である。
【化A-B】
上記式(A)、(B)で表される化合物中のR
A又はR
Bは、炭素数1~20のアルキル基を示し、Z
A又はZ
Bは、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を示す。mは0~1000の整数であり、n又はPは1~1000の整数である。a、b、c、dはそれぞれ独立に0~100の整数である。
【0057】
[(a)陽極金属上に双性イオン化合物を保持させる工程]
上述した双性イオン化合物を陽極金属上に保持させる工程を次に述べる。上述した前処理剤を、陽極金属誘電体酸化皮膜を有する陽極金属に接触させた後、乾燥し溶媒除去させることで、双性イオン化合物を保持させることができる。接触させる方法は任意の方法でよいが、好ましくは誘電体酸化皮膜を有する陽極金属を前処理剤中に浸漬させる方法が挙げられる。
【0058】
つまり、誘電体酸化皮膜を有する陽極金属を上述した前処理剤に浸漬し、引き上げた後乾燥して、該陽極金属上に双性イオン化合物を付着させる工程を有することが好ましく挙げられる。
【0059】
誘電体酸化皮膜を有する陽極金属を、上記前処理剤に浸漬し、引き上げた後乾燥する工程は、複数回繰り返してもよい。
【0060】
乾燥は室温での自然乾燥から加熱乾燥までのいずれでもよいが、80℃以上に加熱して乾燥させることが好ましく挙げられる。
【0061】
より具体的な工程の一例として、前処理剤中に誘電体酸化皮膜を有する陽極金属を30秒間浸漬後、155℃にて30分間乾燥する工程を例示することができる。
【0062】
上述した双性イオン化合物を保持させる工程として、誘電体酸化皮膜を有する陽極金属に双性イオン化合物を蒸着する方法や、誘電体酸化皮膜を有する陽極金属を、融解した双性イオン化合物に接触させた後冷却する方法も挙げられる。
【0063】
[固体電解質層]
前記固体電解質層を形成させる工程に用いられる導電性高分子は、好ましくはドーパントをドープした重合体である。重合体を製造するのに用いるモノマー化合物は、特に限定されず、例えば、ピロール類、チオフェン類、アニリン類等を用いることができるが、導電性に優れることから、下記式(7)で表されるチオフェン化合物であることがより好ましい。
【化7】
上記式(7)中、R
21は水素原子又は炭素数1~6の直鎖又は分岐状のアルキル基を示し、Xはそれぞれ同一又は異なってもよい酸素原子又は硫黄原子を示す。
【0064】
上記式(7)で表されるチオフェン化合物として、具体的には、3,4-エチレンジオキシチオフェン、メチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、エチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、プロピル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン、メチル-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、エチル-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、プロピル-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、3,4-エチレンジチアチオフェン、メチル-3,4-エチレンジチアチオフェン、エチル-3,4-エチレンジチアチオフェン、プロピル-3,4-エチレンジチアチオフェン、3,4-プロピレンジチアチオフェン、メチル-3,4-プロピレンジチアチオフェン、エチル-3,4-プロピレンジチアチオフェン、プロピル-3,4-プロピレンジチアチオフェン等が挙げられる。
【0065】
これらの中でも、特に固体電解コンデンサにおける電気特性に優れる点より、3,4-エチレンジオキシチオフェン、メチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、エチル-3,4-エチレンジオキシチオフェンが特に好ましく挙げられる。
【0066】
本発明に用いることができる導電性高分子は、上記式(7)で表されるチオフェン化合物等のモノマー化合物を、ドーパントの存在下で化学酸化重合することによって得ることができる。化学酸化重合のための酸化剤は、例えば特開2010-31160号公報記載の公知の酸化剤を用いることができる。
【0067】
前記ドーパントは、高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基を有していればよく、硫酸エステル基、リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシル基、スルホ基等が好ましく挙げられる。これらの中でも、ドープ効果の点より、硫酸エステル基、カルボキシル基、スルホ基がより好ましく挙げられ、スルホ基が特に好ましく挙げられる。
【0068】
ドーパントとして、例えば、ヨウ素、臭素、塩素等のハロゲンイオン、ヘキサフルオロリン、ヘキサフルオロヒ素、ヘキサフルオロアンチモン、テトラフルオロホウ素、過塩素酸等のハロゲン化物イオン、又はメタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸等のアルキル置換有機スルホン酸イオン、カンファースルホン酸イオン等の環状スルホン酸イオン、又はベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸等のアルキル置換もしくは無置換のベンゼンモノもしくはジスルホン酸イオン、2-ナフタレンスルホン酸、1,7-ナフタレンジスルホン酸等のスルホン酸基を1~4個置換したナフタレンスルホン酸のアルキル置換もしくは無置換イオン、アントラセンスルホン酸イオン、アントラキノンスルホン酸イオン、アルキルビフェニルスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸等のアルキル置換もしくは無置換のビフェニルスルホン酸イオン、ポリスチレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合体等の高分子スルホン酸イオン等、又はモリブドリン酸、タングストリン酸、タングストモリブドリン酸等のヘテロポリ酸イオン、メトキシベンゼンスルホン酸、エトキシベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸が挙げられる。これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メトキシベンゼンスルホン酸、エトキシベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸から選ばれる少なくとも一種がより好ましく挙げられ、パラトルエンスルホン酸が特に好ましく挙げられる。
【0069】
[(b)陽極金属上に固体電解質層を形成させる工程]
前記固体電解質層を陽極金属上に形成させる工程を次に述べる。上述したモノマー化合物とドーパント及び酸化剤を含む混合溶液を、双性イオン化合物を保持した陽極金属に接触させた後、重合させることで、該陽極金属上に固体電解質層を形成させたコンデンサ素子を作製できる。接触させる方法は任意の方法でよいが、好ましくは上述したモノマー化合物とドーパント及び酸化剤を含む混合溶液に浸漬させる方法が挙げられる。
【0070】
つまり、双性イオン化合物を保持した陽極金属を、上述したモノマー化合物とドーパントを含む溶液に浸漬し引き上げた後加熱して、該陽極金属上で化学酸化重合し固体電解質層を形成させる工程を有することが好ましく挙げられる。
【0071】
双性イオン化合物を保持した陽極金属を、上述したモノマー化合物とドーパント及び酸化剤を含む混合溶液に浸漬し、引き上げた後乾燥する工程は、複数回繰り返してもよい。
【0072】
固体電解質層を陽極金属上に形成させる工程は、モノマー化合物とドーパントを含む酸化剤溶液を交互に接触させる化学重合法や、電解重合法や、導電性高分子分散液を陽極金属に接触させる方法も挙げられる。
【0073】
乾燥は室温での自然乾燥から加熱乾燥までのいずれでもよいが、導電性高分子分散液に高沸点有機溶媒を含有させている場合には、150℃以上に加熱して乾燥させることが好ましく挙げられる。
【0074】
[固体電解コンデンサ]
固体電解コンデンサは、用いる陽極金属の種類、形状により、チップ型、巻回型とすることができる。
【実施例0075】
(実施例1)
陽極金属として大きさが7×100mmのアルミニウム陽極箔を準備し、セパレータ紙を介して対向させた陰極箔とともに巻回し、陽極箔、陰極箔にそれぞれリードを取り付けることでコンデンサ素子を準備した。なお、アルミニウム陽極箔には誘電体酸化皮膜を形成するために、予め化成処理を施した。
【0076】
(前処理剤の製造)
双性イオン化合物1-メチル-3-(2-ホスホエチル)-1H-イミダゾール-3-イウム(分子量206.14)5重量部を、ポリエチレングリコール5重量部と水90重量部で希釈し、前処理剤を得た。
【0077】
(導電性高分子モノマーとドーパント及び酸化剤を含む混合溶液の製造)
4部の2-エチル-2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-1,4-ジオキシン(2-エチル-EDOT)と10部の50%パラトルエンスルホン酸第二鉄/エタノール溶液を混合し、導電性高分子モノマーとドーパント及び酸化剤を含む混合溶液を得た。
【0078】
((a)陽極金属上に双性イオン化合物を保持させる工程)
次に、上記前処理剤に、上記コンデンサ素子を5分間浸漬し、素子をゆっくり引き上げた後、155℃で30分間送風乾燥させた。
【0079】
((b)陽極金属上に固体電解質層を形成する工程)
次に、上記で得られた導電性高分子モノマーとドーパント及び酸化剤を含む混合溶液に、上記コンデンサ素子を3分間浸漬し、65℃で30分間乾燥させた後、もう一度導電性高分子モノマーとドーパント及び酸化剤を含む混合溶液に1分間浸漬し、85℃で20分間乾燥させた後、さらに180℃で3分間熱処理を行って固体電解質層を形成し、固体電解コンデンサを製造した。
【0080】
(実施例2)
双性イオン化合物として1-ブチル-3-(2-ホスホエチル)-1H-イミダゾール-3-イウム(分子量248.22)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0081】
(実施例3)
双性イオン化合物として1-ヘキシル-3-(3-ホスホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム(分子量290.30)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0082】
(実施例4)
前処理剤の製造において、ポリエーテル変性シリコーン(モメンティブ社製、「SilwetL-7657」、分子量5000)を5質量部、及びコロイダルシリカ(日産化学工業社製、スノーテックスN-40、水分散液、固形分40%、平均粒径20~30nm、pH9.0~10)5質量部を加えた以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0083】
(比較例1)
実施例1に記載の陽極金属上に双性イオン化合物を保持させる工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0084】
(比較例2)
双性イオン化合物として1-ブチル-3-(4-スルホナトブチル)-1H-イミダゾール-3-イウム(分子量260.35)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0085】
<固体電解コンデンサの評価>
実施例1~4及び比較例1、2より得られた固体電解コンデンサについて、アジレント・テクノロジー株式会社製プレシジョンLCRメーターE4980Aを使用して、120Hzにおける静電容量(μF)及びtanδを測定し、100kHzにおける等価直列抵抗(mΩ)を測定した。
【0086】
<固体電解コンデンサの耐湿性試験>
実施例1~4及び比較例1、2より得られた固体電解コンデンサを、85℃、85%RHの恒温槽中に、印加電圧なしの条件で100時間静置し、試験前後の固体電解コンデンサの120Hzにおける静電容量(μF)及びtanδを測定し、100kHzにおける等価直列抵抗(mΩ)を測定した。また、株式会社アドバンテスト製直流電圧・電流源/モニタR6243を使用して、固体電解コンデンサの両電極に直流電圧を印加し、1V/10秒の速度で昇圧させて、漏れ電流(mA)と耐電圧(V)を測定した。
【0087】
評価結果を表1に示す。なお、耐電圧及び漏れ電流は耐湿性試験後に測定したため、初期値は取得していない。また、昇圧10秒経過後の電流値を漏れ電流、電流が0.5Aになったときの電圧値を耐電圧とした。
【表1】
【0088】
上記のとおり、実施例においては、優れた等価直列抵抗及び耐湿特性と低漏れ電流特性をもつ固体電解コンデンサを得ることができた。