(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110139
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
H01L 33/54 20100101AFI20240807BHJP
H01L 33/60 20100101ALI20240807BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20240807BHJP
H01L 33/00 20100101ALI20240807BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
H01L33/54
H01L33/60
H01L33/50
H01L33/00 Z
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014536
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉本 大
【テーマコード(参考)】
2H149
5F142
5F241
【Fターム(参考)】
2H149AA01
2H149AB11
2H149BA04
2H149BA23
5F142AA67
5F142CE04
5F142CE16
5F142CG06
5F142CG07
5F142CG14
5F142CG22
5F142CG26
5F142CG32
5F142DA14
5F142DA73
5F142DB15
5F241AA44
5F241CA40
5F241CB15
5F241CB36
(57)【要約】
【課題】構成部材の経時変化を抑制しつつ高い発光効率を有する発光装置を提供する。
【解決手段】
発光層を有する半導体構造層を含む発光素子と、発光素子上に形成された透光性を有する透光基板、透光基板上に形成され、透光基板よりも小さい屈折率を有する透光層、透光層の上面において各々が周期的に列をなして配された線状の複数の金属体からなるワイヤグリッド及びワイヤグリッドから露出している透光層の上面を覆いかつ透光層よりも大きい屈折率を有する透光性のカバー膜を含む透光部と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層を有する半導体構造層を含む発光素子と、
前記発光素子上に形成された透光性を有する透光基板、前記透光基板上に形成され、前記透光基板よりも小さい屈折率を有する透光層、前記透光層の上面において各々が周期的に列をなして配された線状の複数の金属体からなるワイヤグリッド及び前記ワイヤグリッドから露出している前記透光層の上面を覆いかつ前記透光層よりも大きい屈折率を有する透光性のカバー膜を含む透光部と、
を有することを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記カバー膜の厚みtは、前記ワイヤグリッドの周期を周期P、前記複数の金属体の各々の幅を幅Wmとしたとき、以下の関係式、
0.5≦t≦P/3-Wm/2
又は、
0.5≦t≦Wm/3
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記発光素子は、前記半導体構造層上に設けられた透明基板を有し、
前記発光素子の上面には、前記発光層から放出される光を散乱させる光散乱材を含む光散乱体が形成され、
前記光散乱体の屈折率は、前記透明基板の屈折率よりも小さくかつ前記透光基板の屈折率よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記カバー膜は、前記複数の金属体の各々の形状に沿って前記ワイヤグリッドの表面を覆っていることを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項5】
前記カバー膜は、前記透光層と前記カバー膜とを接着させるSi、Ti又はNiからなる接着層を介して形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項6】
前記透光基板は、上面において前記発光層から放出される光の波長よりも大きい周期で設けられた複数の凹部からなる凹凸構造を有し、
前記透光層は、前記複数の凹部の各々を埋めつつ前記透光基板の上面に亘って形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項7】
前記透光層は、各々が前記透光基板の上面に垂直な方向に対して傾斜している複数の誘電体を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項8】
前記複数の金属体の各々の長手方向は、前記複数の誘電体の各々の傾斜方向と一致していることを特徴とする請求項7に記載の発光装置。
【請求項9】
前記発光素子の外側面、前記光散乱体の外側面、前記透光基板の外側面及び前記透光層の外側面を覆う光反射性を有する被覆部材を有することを特徴とする請求項3に記載の発光装置。
【請求項10】
前記光散乱体は、前記光によって励起されて蛍光を発する蛍光体を含むことを特徴とする請求項3に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子を含む発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の光を透過させる偏光子が開示されている。例えば、特許文献1には、透明基板と当該透明基板の上面に形成され、透明基板よりも屈折率が低い多孔質材料からなる反射防止層と、当該反射防止層の上面に形成されたワイヤグリッドとからなるワイヤグリッド型偏光子が開示されている。また、特許文献1には、ワイヤグリッド型偏光子を備える発光装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のワイヤグリッド型偏光子を備える発光装置において、多孔質材料からなる反射防止層は外気に曝されているため、時間経過と共に空気中の水分を吸収していくことで本来得られるべき偏光が得られにくくなり、発光装置の発光効率が低下してしまうという問題点が挙げられる。
【0005】
本発明は、上記した点に鑑みてなされたものであり、構成部材の経時変化を抑制しつつ高い発光効率を有する発光装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る発光装置は、発光層を有する半導体構造層を含む発光素子と、前記発光素子上に形成された透光性を有する透光基板、前記透光基板上に形成され、前記透光基板よりも小さい屈折率を有する透光層、前記透光層の上面において各々が周期的に列をなして配された線状の複数の金属体からなるワイヤグリッド及び前記ワイヤグリッドから露出している前記透光層の上面を覆いかつ前記透光層よりも大きい屈折率を有する透光性のカバー膜を含む透光部と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】透光層の有無による偏光の透過率を示すグラフである。
【
図4】実施例1に係る発光装置における偏光の入射角度に対する透過率を示すグラフである。
【
図5】実施例1に係る発光装置における偏光の入射角度に対する透過率を示すグラフである。
【
図6】実施例1に係る発光装置における偏光の入射角度に対する透過率を示すグラフである。
【
図7】実施例1に係る発光装置における偏光の入射角度に対する透過率を示すグラフである。
【
図8】実施例1の変形例1に係る発光装置の断面図である。
【
図9】実施例1の変形例2に係る発光装置の断面図である。
【
図10】実施例1の変形例3に係る発光装置の断面図である。
【
図11】実施例1の変形例4に係る発光装置における透光層の断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施例について詳細に説明する。なお、以下の説明及び添付図面においては、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符号を付している。
【実施例0009】
図1及び
図2を参照しつつ、実施例1に係る発光装置100の構成について説明する。
図1は、実施例1に係る発光装置100の上面図である。
図2は、
図1に示した発光装置100の2-2線に沿った断面図である。なお、
図1においては、図の煩雑化を避けるためにカバー膜22を省略して示している。
【0010】
[発光装置の概要]
本実施例における発光装置100は、発光素子11と光散乱体12と透光部13と被覆部材14とを含んで構成される。
【0011】
[発光素子]
まず、発光素子11の構成について説明する。発光素子11は、上面形状が矩形の発光ダイオード(LED:Light Emission Diode)である。発光素子11は、半導体構造層16と透明基板17とを含んで構成される。
【0012】
半導体構造層16は、各々が窒化ガリウム(GaN)を主材料とするn型半導体層、発光層及びp型半導体層(いずれも図示せず)からなる半導体積層体である。発光装置100の駆動時には、半導体構造層16の発光層から450nmをピーク波長とする青色光が放出される。
【0013】
透明基板17は、半導体構造層16上に設けられている平板状の基板である。透明基板17は、サファイア(Al2O3)などの、半導体構造層16の発光層から放出される青色光に対して透光性を有する材料からなる。また、透明基板17は、上述した半導体構造層16となる半導体結晶を成長させる成長基板でもある。
【0014】
[光散乱体]
次に、光散乱体12の構成について説明する。光散乱体12は、透明基板17の上面に設けられている上面形状が矩形の板状体である。光散乱体12は、光散乱体12を上から見た平面視において透明基板17と略同一形状を有している。
【0015】
光散乱体12は、透明基板17の屈折率よりも屈折率が小さくなるような材料構成を有している。具体的には、光散乱体12は、互いに屈折率が異なる2種の光散乱材と当該光散乱材を保持する母材とを含み、これらの材料を所定の比率で混合した際の平均屈折率が透明基板17の屈折率よりも小さくなるように構成されている。
【0016】
例えば、上記した2種の光散乱材のうち相対的に屈折率が高い高屈折率散乱材としては、発光層から放出された青色光によって励起されて黄色蛍光を発する、セリウム(Ce)を賦活剤としたイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:Ce)の蛍光体粒子が用いられる。
【0017】
また、上記した2種の光散乱材のうち相対的に屈折率が低い低屈折率散乱材としては、シリカ(SiO2)粒子が用いられる。また、上述した低屈折率散乱材と高屈折率散乱材とを保持する母材としては、透明なシリコーン樹脂が用いられる。また、高屈折率散乱材は、屈折率が母材の屈折率より高い材料を選択することができ、低屈折率散乱材は、屈折率が母材の屈折率より低い材料を選択することができる。
【0018】
光散乱体12は、例えば、低屈折率散乱材(SiO2粒子)、高屈折率散乱材(YAG:Ce蛍光体粒子)及び母材(シリコーン樹脂)を1:20:30の比率で混合することによって形成される。例えば、サファイアからなる透明基板17の屈折率は1.76であり、上記材料を上記比率で混合することで形成された光散乱体12の屈折率は1.6である。
【0019】
光散乱体12の上面からは、蛍光の発生に寄与せずに光散乱体12を通過した青色光と、青色光により励起された高屈折率散乱材(蛍光体)から放出された黄色光とが出射される。これにより、発光装置100からは青色光と黄色蛍光とが混じり合った白色光が取り出される。
【0020】
[透光部]
次に、透光部13の構成について説明する。透光部13は、透光基板18と透光層19とワイヤグリッド21とカバー膜22とを含んで構成される。
【0021】
透光基板18は、光散乱体12の上面に設けられている上面形状が矩形の基板である。透光基板18は、透光基板18を上から見た平面視において光散乱体12と同一形状を有している。
【0022】
透光基板18は、ガラスなどの、発光層から放出される青色光に対して透光性を有しかつ光散乱体12よりも屈折率が小さい材料からなる。例えば、ガラスからなる透光基板18の屈折率は1.5である。透光基板18は、透光層19およびワイヤグリッド21を支持する機能を有する。
【0023】
透光層19は、透光基板18の上面に亘って形成されている光学層である。透光層19は、例えば、シロキサンポリマーや中空シリカ、ポーラスシリカなどの、シリカを主材料としかつ発光層から放出される青色光に対して透光性を有する材料からなる。透光層19は、このような材料構成により表面に多数の細孔を有する多孔質な層となっており、細孔内に空気を含むために屈折率が透光基板18よりも小さくなっている。例えば、シロキサンポリマーからなる透光層19の屈折率は1.05である。
【0024】
ワイヤグリッド21は、透光層19の上面において各々が周期的に列をなして配されかつ線状を有する複数の金属体から構成される。ワイヤグリッド21は、
図1に示すように、金属体の各々が透光層19の矩形状の上面の互いに対向する2辺の一方から他方まで伸張して構成される。例えば、ワイヤグリッド21はアルミニウム(Al)からなり、複数の金属体の各々の幅W
mは60nmであり、高さHは165nmである。
【0025】
ワイヤグリッド21の周期Pは、発光層から放出される青色光の波長よりも十分短く設定される。例えば、周期Pは150nmである。周期Pをこのように設定することにより、発光層から放出された青色光のうち、ワイヤグリッド21の長手方向に直交する電場ベクトルを有する成分であるTM偏光はワイヤグリッド21を透過し、ワイヤグリッド21の長手方向に平行な電場ベクトルを有する成分であるTE偏光はワイヤグリッド21によって反射される。すなわち、透光部13は、特定の方向のみに振動する光だけを透過し、それ以外の方向に振動する光を反射する偏光子として機能する。
【0026】
カバー膜22は、ワイヤグリッド21から露出している透光層19の上面に形成されかつ金属体の各々の形状に沿ってワイヤグリッド21の表面を覆っている透明な薄膜である。カバー膜22は、SiO2や酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)などの、発光層から放出される青色光に対して透光性を有する材料からなる。
【0027】
カバー膜22は、透光層19よりも緻密性が高くなっており、結果として透光層19よりも屈折率が大きくなっている。例えば、ZrO2からなるカバー膜22の屈折率は2.0である。
【0028】
カバー膜22は、透光層19の上面及びワイヤグリッド21の表面を一様な厚みtで覆っている。ここで、ワイヤグリッド21における金属体の幅と当該金属体を覆うカバー膜22の厚みの和である全体幅Wtは、以下の関係式1によって表される。
【0029】
【0030】
このとき、全体幅Wtは、ワイヤグリッド21の周期Pを用いて、以下の関係式2を満たす。
【0031】
【0032】
ここで、透光層19の上面及びワイヤグリッド21の表面を覆うことが可能なカバー膜22の最小の厚みを0.5nmとしたとき、カバー膜22の厚みtは、関係式1及び関係式2より、以下の関係式3又は関係式4を満たす。なお、本関係式を導出するに至ったカバー膜22の厚みtの具体的な検証については後述する。
【0033】
【0034】
【0035】
[被覆部材]
次に、被覆部材14の構成について説明する。被覆部材14は、発光素子11の外側面、光散乱体12の外側面、透光部13の透光基板18及び透光層19の外側面を連続して覆っている樹脂部材である。
【0036】
被覆部材14は、例えばマトリクス材としての透光性のシリコーン樹脂と、当該マトリクス材内に分散された光散乱性粒子である白色のTiO2粒子とを含んで構成される。被覆部材14は、青色光や黄色光などの、被覆部材14に入射する可視光帯域の光を反射させる。
【0037】
本実施例において、透光層19の上面には、ワイヤグリッド21と共にワイヤグリッド21から露出している領域を覆うカバー膜22が形成されている。また、透光層19の側面は被覆部材14によって覆われている。すなわち、透光層19の表面はいずれも外部に露出されていない。
【0038】
透光層19は、上述したように表面に多数の細孔を有する多孔質な層となっている。例えば、透光層19の表面が外気に曝されるような環境下にある場合、空気中の水分が透光層19の表面の細孔内に入り込んでいくと共に透光層19中のシリカが当該水分を吸着する。それ故、透光層19は高い吸湿性を有する。
【0039】
時間の経過と共に透光層19の吸湿が進行していくと、透光層19内に空気よりも屈折率が大きい水分を含むために、透光層19の吸湿が進行する前と比べて層全体としての屈折率が大きくなっていく。
【0040】
透光層19の屈折率が大きくなると、上述したTM偏光のうち透光層19の上面に垂直な方向に対して高角度で当該上面に入射する成分(以下、高角度成分とも称する)がワイヤグリッド21を透過しにくくなる。言い換えれば、TM偏光の高角度成分が透光層19とワイヤグリッド21との界面で反射しやすくなる。
【0041】
これにより、透光部13を介して透過するTM偏光の透過率が低下してしまうために、発光装置100の発光効率が低下し得る。また、透光層19の吸湿が進行することにより、透光層19の機械的強度も低下し得る。
【0042】
上述したように、カバー膜22は透光層19よりも緻密な膜であり、結果として透光層19よりも高い屈折率を有する。本実施例においては、透光層19よりも緻密なカバー膜22が透光層19の上面およびワイヤグリッド21の表面を覆うことにより、透光層19が直接外気に曝されることを抑制している。
【0043】
従って、カバー膜22によって空気中の水分が透光層19に吸収されることを防ぐことができ、吸湿による透光層19の屈折率の増加を抑制することができる。よって、本実施例によれば、透光層19の屈折率増加に伴うTM偏光の透過率の低下を抑制することができ、発光装置における発光効率の低下を抑制することができる。また、透光層19の機械的強度が低下することを防ぐことができる。
【0044】
また、本実施例において、カバー膜22は、上述した関係式3及び関係式4を満たす厚みtを有している。これにより、透光層19の上面及びワイヤグリッド21の表面がカバー膜22に覆われている場合であっても、当該カバー膜22を有しない場合と遜色のないTM偏光の透過率を得ることができる。
【0045】
従って、本実施例の発光装置によれば、透光層19の上面に所定の膜厚でカバー膜22を設けることにより、透光層19の経時変化を抑制すると共にTM偏光の透過率を高く維持することができる。
【0046】
また、本実施例において、光散乱体12、透明基板17及び透光基板18の各々の屈折率の関係は、光散乱体12の屈折率(n=1.6)が透明基板17の屈折率(n=1.76)よりも小さくかつ透光基板18の屈折率(n=1.5)よりも大きくなっている。本実施例においては、発光装置100がこのような構成を有することにより、発光装置100から出射される光の光束を向上させることができる。
【0047】
例えば、比較例として、本実施例における光散乱体12に替えて屈折率が1.8のYAG蛍光体からなるセラミック蛍光体プレートを用いた発光装置を用いた場合、すなわちセラミック蛍光体プレートが透明基板17の屈折率(n=1.76)よりも大きい場合、本実施例における発光装置100から得られる光束は比較例の発光装置から得られる光束よりも1.8倍大きくなる。
【0048】
従って、本実施例によれば、光散乱体12の屈折率を透明基板17の屈折率よりも小さくかつ透光基板18の屈折率よりも大きくなるように調整することにより、高い光束を有する光を出射する発光装置100を得ることができる。よって、本実施例によれば、構成部材の経時変化を抑制しつつ高い発光効率を有する発光装置100を得ることができる。
【0049】
なお、光散乱体12は、上述したように透明基板17の屈折率よりも小さくかつ透光基板18の屈折率よりも大きくなるような屈折率を有する材料構成であればよく、例えば互いに屈折率が異なる3種以上の光散乱材を含んでいてもよい。また、例えば、発光装置100から単に青色光を出射させる場合には、蛍光体粒子に替えて他の光散乱材を用いてもよい。
【0050】
[透光部の作製方法]
以下に、発光装置100における透光部13の作製方法について説明する。まず、ガラスからなる透光基板18の上面に、スピンコート及びベークによりシロキサンポリマーからなる透光層19を形成する。
【0051】
次に、イオンビーム蒸着により透光層19の上面全体にAlからなる金属膜を165nmの厚みで形成し、ワイヤグリッド21となる金属膜の各々の上面にレジストマスクを形成する。その後、ドライエッチングによりワイヤグリッド21となる領域以外の金属膜を除去する。これにより、透光層19の上面にワイヤグリッド21が形成される。
【0052】
次に、原子層堆積(ALD: Atomic Layer Deposition)法によりワイヤグリッド21から露出している透光層19の上面及びワイヤグリッド21の表面に対してZrO2からなるカバー膜22を形成する。これにより、透光部13を作製することができる。なお、カバー膜22の形成に際してはALD法に替えてスパッタ法やCVD法を用いてもよい。
【0053】
[検証]
以下に、
図3~
図7を用いて、本発明の発光装置100に対して行った検証及びその検証結果について説明する。
【0054】
まず、
図3を用いて、発光装置100における透光層19の有無によるTM偏光の透過率の変化について説明する。
図3は、透光層19の上面に入射するTM偏光の入射角度とTM偏光の透過率の関係を示すグラフである。
【0055】
図3においては、横軸が透光層19の上面に垂直に入射するTM偏光の角度を0°としたときのTM偏光の入射角度を示しており、縦軸がTM偏光の透過率を示している。また、
図3においては、透光層19がないときのTM偏光の透過率を破線で示しており、透光層19があるときのTM偏光の透過率を実線で示している。
【0056】
図3より、透光層19がないときに比べて、透光層19があるときのTM偏光の方がより高い角度範囲で透過させることが可能なことがわかる。一方、発光素子から出射される光は、ランバーシアン配光で、角度の低い成分から高い成分まで含んでいる。従って、本実施例における発光装置100のように、透光基板18上に透光層19を設けることによってTM偏光の透過率を向上させることができる。
【0057】
次に、
図4~
図6を用いて、発光装置100におけるカバー膜22の好ましい厚みの範囲について説明する。
図4~
図6においては、上述した周期Pが150nm、幅W
mが60nm、高さHが165nmであるAlからなるワイヤグリッド21にZrO
2からなるカバー膜22が形成された透光部13をモデルとして用いている。
【0058】
図4は、カバー膜22の厚みtを0nm(カバー膜なし)、5nm、10nm、20nm及び40nmとしたときのそれぞれの入射角度に対するTM偏光の透過率の変化を示すグラフである。
図4においても、
図3と同様に、横軸が透光層19の上面に垂直に入射するTM偏光の角度を0°としたときのTM偏光の入射角度を示しており、縦軸がTM偏光の透過率を示している。
【0059】
図4より、ワイヤグリッド21に形成されるカバー膜22の厚みtを40nmとした場合のTM偏光の透過率は、当該厚みtを0~20nmとした場合のTM偏光の透過率よりも大きく低下していることがわかる。従って、上記条件においては、カバー膜22の厚みtを40nmよりも小さくすることが好ましく、特に20nmよりも小さくすることが好ましい。
【0060】
図5は、上述した関係式1によって示される全体幅W
tのワイヤグリッド21の周期Pに対する比率とTM偏光の積分透過率との関係を示すグラフである。また、
図6は、全体幅W
tから金属体の幅W
mを引いたカバー膜22の厚み(2t)の金属体の幅W
mに対する比率とTM偏光の積分透過率との関係を示すグラフである。
図5及び
図6においては、カバー膜22を設けていない場合のTM偏光の積分透過率を1としている。
【0061】
図5より、周期Pに対する全体幅W
tの比率が66%以下である場合には、TM偏光の透過率に大きな変化はなく、当該比率が66%を超えると透過率が低下していくことがわかる。同様に、
図6より、金属体の幅W
mに対するカバー膜22の厚み(2t)の比率が66%以下である場合には、TM偏光の透過率に大きな変化はなく、当該比率が66%を超えると透過率が低下していくことがわかる。
【0062】
従って、
図4~
図6より、カバー膜22の厚みtは、透光層19の上面及びワイヤグリッド21の表面を覆うことが可能なカバー膜22の最小の厚みを0.5nmとしたとき、上述した関係式3又は関係式4で示される範囲の厚みを有することが好ましい。例えば、周期Pが150nm、金属体の幅W
mが60nmである場合、カバー膜22の厚みtは0.5nm≦t≦20nmの範囲であることが好ましい。
【0063】
最後に、
図7を用いて、発光装置100におけるカバー膜22の材料依存性について説明する。
図7は、透光層19の上面に入射するTM偏光の入射角度とTM偏光の透過率の関係を示すグラフである。
図7においては、カバー膜22の材料をSiO
2、Al
2O
3、TiO
2、HfO
2、ZrO
2とした際のTM偏光の透過率を示しており、図中破線はカバー膜を設けていないときのTM偏光の透過率を示している。
【0064】
図7においては、カバー膜22の厚みtを10nm、ワイヤグリッド21の周期Pに対する全体幅W
tの比率を47%、金属体の幅W
mに対するカバー膜22の厚み(2t)の比率を17%とした透光部13をモデルとして用いている。
【0065】
図7より、カバー膜22の材料にSiO
2、Al
2O
3、TiO
2、HfO
2、ZrO
2のいずれを用いた場合であっても、TM偏光の透過率は、カバー膜22を設けていないときと同様の変化を示すことがわかる。
【0066】
従って、透光層19の上面及びワイヤグリッド21の表面を、上記材料からなりかつ上述した厚みtの条件を満たすカバー膜22で覆うことにより、透光層19の経時変化を防ぐと共にTM偏光の透過率が低下することを抑制することができる。
【0067】
[変形例1]
次に、
図8を用いて、発光装置100の変形例1について説明する。
図8は、変形例1に係る発光装置110の断面図である。発光装置110は、透光部13の構成が実施例1と異なっており、それ以外の点は実施例1と同様である。
【0068】
発光装置110において、カバー膜22は、ワイヤグリッド21から露出している透光層19の上面のみに形成されている。言い換えれば、カバー膜22は、ワイヤグリッド21の表面全体に亘っては形成されていない。
【0069】
本変形例によれば、このような構成においても、実施例1と同様の効果を得ることができる。すなわち、カバー膜22によって透光層19が吸湿することを抑制することができ、発光装置110の発光効率の低下及び機械的強度の低下を防ぐことができる。また、カバー膜22が上述した厚みtの条件を満たすことにより、TM偏光の透過率が低下することを抑制することができる。
【0070】
本変形例に係る発光装置110の透光部13の作製方法としては、まず、透光層19の上面に亘ってカバー膜22となるZrO2膜を成膜する。次に、ワイヤグリッド21のマスクを用いてZrO2膜のうちカバー膜22の形成領域以外をエッチングし、当該マスクを除去する。そして、実施例1に示した方法と同様の方法でワイヤグリッド21を形成する。これにより、本構成の透光部13を得ることができる。
【0071】
[変形例2]
次に、
図9を用いて、発光装置100の変形例2について説明する。
図9は、変形例2に係る発光装置120の断面図である。発光装置120は、透光部13の構成が実施例1と異なっており、それ以外の点は実施例1と同様である。
【0072】
発光装置120において、透光層19とカバー膜22との間には、透光層19とカバー膜22とを接着する接着層23が形成されている。接着層23は、例えば、所定濃度以上を有するケイ素(Si)、チタン(Ti)及びニッケル(Ni)などを含み、0.5nm~数nmの厚みを有している。
【0073】
本変形例においては、カバー膜22が接着層23を介して透光層19の上面に形成されていることにより、カバー膜22と透光層19との接着が強固となり、空気中の水分が透光層19に進行することをより抑制することができる。従って、本変形例によれば、透光層19の吸湿に伴う屈折率の変化による発光装置120の発光効率の低下を防ぐことができる。また、透光層19の吸湿に伴う機械的強度の低下を防ぐことができる。
【0074】
[変形例3]
次に、
図10を用いて、発光装置100の変形例3について説明する。
図10は、変形例3に係る発光装置130の断面図である。発光装置130は、透光部13の構成が実施例1と異なっており、それ以外の点は実施例1と同様である。
【0075】
発光装置130において、透光基板24は、上面において発光層から放出される青色光の波長よりも大きい周期Psで設けられた複数の凹部からなる凹凸構造24Uを有している。例えば、透光基板24における凹部の周期Psは450~780nmである。
【0076】
発光装置130において、透光層19は、透光基板24の凹凸構造24Uにおける凹部の各々を埋めつつ透光基板24の上面に亘って形成されている。
【0077】
上述したように、ワイヤグリッド21の長手方向に平行な電場ベクトルを有する成分であるTE偏光やTM偏光の高角度成分は、ワイヤグリッド21によって反射される。本変形例においては、透光基板24が凹凸構造24Uを有していることにより、ワイヤグリッド21によって反射された上記偏光成分が、透光層19と透光基板24の凹凸構造24Uとの界面で反射しやすくなる。
【0078】
このような構成により、透光層19と透光基板24の凹凸構造24Uとの界面で反射された偏光成分は、例えば、当該反射を経て入射角度を変えて再びワイヤグリッド21に進行する。偏光成分の入射角度が変化することにより、当該偏光成分はワイヤグリッド21を透過することが可能となり得る。従って、本変形例によれば、TM偏光の取出し効率の向上が見込まれる。
【0079】
[変形例4]
次に、
図11を用いて、発光装置100の変形例4について説明する。
図11は、透光層19の構成の一部を模式的に示す断面図である。変形例4においては、透光層19の構成のみが実施例1と異なっており、それ以外の点は実施例1と同様である。なお、
図11においては、透光基板18の上面に垂直な方向に沿った軸を軸VAとして示している。
【0080】
本変形例において、透光層19は、各々が軸VAに対して傾斜している誘電体からなるナノサイズの複数の微小柱状体19Dを含む第1の誘電体膜19L1及び第1の誘電体膜19L1上に形成された第2の誘電体膜19L2によって構成されている。微小柱状体19Dは、例えばSiO2からなる。
【0081】
透光層19において、第2の誘電体膜19L2における微小柱状体19Dの軸VAに対する傾きは、第1の誘電体膜19L1における微小柱状体19Dの軸VAに対する傾きよりも大きくなっている。また、第2の誘電体膜19L2における微小柱状体19Dは、第1の誘電体膜19L1における微小柱状体19Dよりも数が少なく形成されている。
【0082】
これにより、第2の誘電体膜19L2における微小柱状体19D間の空隙AGは、第1の誘電体膜19L1における微小柱状体19D間の空隙AGよりも大きくなっている。従って、透光層19の層全体としての屈折率は、下方から、すなわち透光基板18の上面から上方に向かうほど小さくなっていく。
【0083】
本変形例においては、透光層19の屈折率が透光基板18の上面から上方に向かうほど小さくなることにより、透光層19の材料として上述したシロキサンポリマーや中空シリカ、ポーラスシリカなどを用いる場合に比べて、直線偏光の取出し効率を向上させることができる。
【0084】
本変形例において、透光層19における微小柱状体19Dの各々の傾斜方向、すなわち
図11中左右方向と上述したワイヤグリッド21における金属体の各々の長手方向は一致していることが好ましい。これにより、上述したシロキサンポリマーや中空シリカ、ポーラスシリカなどを用いる場合に比べて、直線偏光の取り出し効率を向上させることができる。
【0085】
本変形例における透光層19は、例えば、斜め蒸着法によって透光基板18の上面に対してSiO2の蒸着を行うことにより形成できる。具体的には、まず、真空蒸着器内において透光基板18の設置角度又は軸VAに対するソースビームが出る角度を設定して第1の誘電体膜19L1を形成する。
【0086】
次に、第1の誘電体膜19L1の形成にて設定した角度よりもさらに角度を付けた状態で第2の誘電体膜19L2を形成する。このとき、第2の誘電体膜19L2における微小柱状体19Dの数は、第1の誘電体膜19L1における微小柱状体19Dの数よりも少なくなり、第2の誘電体膜19L2における空隙AGが第1の誘電体膜19L1における空隙AGよりも大きくなる。このような工程により、本変形例における透光層19が得られる。
【0087】
なお、本変形例において説明した透光層19の構成は例示であり、例えば、透光層19は複数の微小柱状体19Dからなる1層の誘電体膜によって構成されてもよく、また、3層以上の誘電体膜によって構成されてもよい。