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特開2024-110140臓器線維症の診断を補助する方法、被験者における臓器での強固な線維の構築しやすさを予測する方法、及び、臓器線維症の診断用試薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110140
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】臓器線維症の診断を補助する方法、被験者における臓器での強固な線維の構築しやすさを予測する方法、及び、臓器線維症の診断用試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240807BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014537
(22)【出願日】2023-02-02
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】000173588
【氏名又は名称】公益財団法人がん研究会
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】土屋 淳紀
(72)【発明者】
【氏名】寺井 崇二
(72)【発明者】
【氏名】植田 幸嗣
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045DA36
2G045FB03
(57)【要約】
【課題】臓器における線維化の形成の程度を即時に反映することができるバイオマーカーを用いた臓器線維症の診断を補助する方法、被験者における臓器での強固な線維の構築しやすさを予測する方法、及び臓器線維症の診断用試薬を提供する。
【解決手段】臓器線維症の診断を補助する方法は、被験者由来の生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量を測定することを含む。被験者における臓器での強固な線維の構築しやすさを予測する方法は、前記被験者由来の生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量を測定することを含む。臓器線維症の診断用試薬は、フィブリン-4に特異的に結合する物質を含み、被験者由来の生体試料中の細胞外小胞に対して用いられる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
臓器線維症の診断を補助する方法であって、
被験者由来の生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量を測定することを含む、方法。
【請求項2】
被験者における臓器での強固な線維の構築しやすさを予測する方法であって、
前記被験者由来の生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量を測定することを含む、方法。
【請求項3】
臓器が肝臓である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
フィブリン-4に特異的に結合する物質を含み、
被験者由来の生体試料中の細胞外小胞に対して用いられる、臓器線維症の診断用試薬。
【請求項5】
前記フィブリン-4に特異的に結合する物質が、フィブリン-4に対する抗体である、請求項4に記載の臓器線維症の診断用試薬。
【請求項6】
臓器が肝臓である、請求項4又は5に記載の臓器線維症の診断用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器線維症の診断を補助する方法、被験者における臓器での強固な線維の構築しやすさを予測する方法、及び、臓器線維症の診断用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソームは脂質二重膜で覆われ、内部にタンパク質や核酸等を含む100nm前後の細胞外小胞であり、現在、バイオマーカーとして注目されている。血液中のタンパクでなく、エクソソームそのものを定量することでその時々の病態をより反映しやすくなる側面もある。
【0003】
一方、肝硬変は、B型肝炎、C型肝炎等を引き起こすウイルス、脂肪肝、アルコール摂取等が主な原因で、長期に肝臓が障害を受け、徐々に線維化が進み、黄疸、腹水、肝性脳症、静脈瘤破裂、肝細胞がん等を来す致死的な疾患である。肝硬変は、日本に患者が40万人程度いるとされている。肝臓は、元々障害を受けても再生しやすい臓器として知られている。しかしながら、肝障害が進行し肝硬変の状態に至った肝臓では、その線維を溶かし肝臓の機能を元に戻す非侵襲的な治療法はなく、肝臓そのものを置き換える肝移植しか治療法がないのが現状である。
【0004】
発明者らは、これまでに、インターフェロンγで刺激した間葉系幹細胞の産生するエクソソームがマクロファージを介して肝硬変に対する治療効果を発揮することを明らかにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Takeuchi S et al., “Small extracellular vesicles derived from interferon-γ pre-conditioned mesenchymal stromal cells effectively treat liver fibrosis.”, npj Regenerative Medicine, Vol. 6, No. 19, pp. 1-14, 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、肝硬変等の臓器線維症の病態を即時に反映するバイオマーカーの存在は未だ知られていない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、臓器における線維化の形成の程度を即時に反映することができるバイオマーカーを用いた臓器線維症の診断を補助する方法、被験者における臓器での強固な線維の構築しやすさを予測する方法、及び臓器線維症の診断用試薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、フィブリン-4が肝線維化をはじめ臓器の線維化マーカーとして、検査時点で起きている線維化を反映するマーカーとして広く活用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) 臓器線維症の診断を補助する方法であって、
被験者由来の生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量を測定することを含む、方法。
(2) 被験者における臓器での強固な線維の構築しやすさを予測する方法であって、
前記被験者由来の生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量を測定することを含む、方法。
(3) 前記臓器が肝臓である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) フィブリン-4に特異的に結合する物質を含み、
被験者由来の生体試料中の細胞外小胞に対して用いられる、臓器線維症の診断用試薬。
(5) 前記フィブリン-4に特異的に結合する物質が、フィブリン-4に対する抗体である、(4)に記載の臓器線維症の診断用試薬。
(6) 臓器が肝臓である、(4)又は(5)に記載の臓器線維症の診断用試薬。
【発明の効果】
【0010】
上記態様の方法及び上記態様の臓器線維症の診断用試薬によれば、検査時点での臓器における線維化の形成の程度を反映した診断結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2における健常者、慢性肝疾患患者、及び肝硬変患者(肝癌がある患者を含む)由来のエクソソームでのCD9の発現量に対するフィブリン-4の発現量の比を示すグラフである。
図2】実施例2における健常者と慢性肝疾患患者、慢性肝疾患患者と肝硬変患者、健常者と肝硬変患者を比較した際のROC曲線を示すグラフである。
図3】実施例2における健常者、慢性肝疾患患者、及び肝硬変患者(肝癌がある患者を除く)由来のエクソソームでのCD9の発現量に対するフィブリン-4の発現量の比を示すグラフである。
図4】実施例2における健常者、慢性肝疾患患者及び肝硬変患者以外の疾患の患者、慢性肝疾患患者、肝硬変 Child-Pugh Grade A(LC C-P A)患者(肝癌がある患者を含む)、並びに、肝硬変 Child-Pugh Grade B~C(LC C-P B-C)患者(肝癌がある患者を含む)由来のエクソソームでのCD9の発現量に対するフィブリン-4の発現量の比を示すグラフである。
図5】実施例2における健常者と慢性肝疾患患者、健常者とLC C-P A患者、健常者とLC C-P B-C患者、慢性肝疾患患者とLC C-P A患者、慢性肝疾患患者とLC C-P B-C患者、LC C-P A患者とLC C-P B-C患者を比較した際のROC曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る臓器線維症の診断を補助する方法、被験者における臓器での強固な線維の構築しやすさを予測する方法、及び臓器線維症の診断用試薬について、詳細を説明する。
【0013】
<臓器線維症>
なお、本明細書において、「臓器線維症」とは、臓器に線維が過剰に蓄積して硬くなり、本来の機能が果たせなくなる疾患である。臓器が線維化すると、そこにがんが発生することが多く、臓器線維症は前がん病変としても捉えられている。臓器線維症として具体的には、肝硬変、肺線維症、腎硬化症等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
中でも、本実施形態の臓器線維症の診断を補助する方法、本実施形態の被験者における臓器での強固な線維の構築しやすさを予測する方法、及び、本実施形態の臓器線維症の診断用試薬は、肝臓における線維症、すなわち、肝硬変が特に好ましく適用される。
【0015】
<細胞外小胞>
本明細書において、「細胞外小胞」とは、生細胞から分泌される不均一な脂質二重膜構造を有する小胞の総称を意味する。細胞外小胞としては、例えば、エクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小胞等が挙げられる。中でも、本実施形態の臓器線維症の診断を補助する方法、本実施形態の被験者における臓器での強固な線維の構築しやすさを予測する方法、及び、本実施形態の臓器線維症の診断用試薬は、エクソソームに好ましく適用される。
【0016】
<フィブリン-4>
フィブリン-4(FIBL-4)は、EGF-containing fibulin-like extracellular matrix protein 2(EFEMP2)とも呼ばれ、細胞外マトリックスのフィブリンファミリーの一つであり、タンパク質相互作用に関与していることが知られている。また、フィブリン-4は、弾性線維を形成に不可欠であり、正常な血管、肺、皮膚の発達に必要な成分である。フィブリン-4は、エラスチン分子の架橋を触媒するLysyloxidase(LOX)のpropeptideとの相互作用を介してLOXをtropoelastinにつなぎ、弾性線維の適切な成熟を促進する上で特定の役割を示すと考えられている。
【0017】
発明者らは、後述する実施例に示すように、肝硬変患者において、健常者や慢性肝疾患患者と比較して、フィブリン-4の発現が有意に高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
また、線維化が進行している患者においてフィブリン-4の発現が上昇しており、また、フィブリン-4の発現上昇がみられる患者では強固な線維が構築され、この発現上昇は炎症の影響を受けにくいことも確認している。よって、フィブリン-4は、臓器における線維化の形成の程度を特異的に検出するためのバイオマーカーとして非常に有用である。
【0019】
ヒトフィブリン-4のアミノ酸配列は、例えば、Genbankアクセッション番号NP_058634.4に開示されている。
【0020】
ヒトフィブリン-4をコードする塩基配列は、例えば、Genbankアクセッション番号NM_016938.4に開示されている。
【0021】
<臓器線維症の診断を補助する方法>
本実施形態の臓器線維症の診断を補助する方法(以下、単に「本実施形態の方法」と称する場合がある)は、被験者由来の生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量を測定すること(以下、「測定工程」と称する場合がある)を含む。
【0022】
細胞外小胞は、細胞から産生され、生体内で速やかに細胞に取り込まれていくため、その時々の細胞の状態を反映しやすいことが知られている。本実施形態の方法では、測定対象として細胞外小胞、好ましくはエクソソームを用いることで、検査時の病態を反映した診断結果を得ることができる。
【0023】
また、フィブリン-4は、後述する実施例に示すように、健常者、慢性肝疾患患者、又は、慢性肝疾患患者及び肝硬変患者以外の疾患患者と、肝硬変患者との判別能の指標となるROC曲線のAUC値がそれぞれ0.8以上であった。よって、フィブリン-4は、臓器線維症、特に肝硬変を診断するための、感度及び特異度に優れるバイオマーカーといえる。そのため、本実施形態の方法によれば、臓器線維症、特に肝硬変への罹患の有無を高精度に診断することができる。
【0024】
また、上述したように、線維化が進行している患者においてフィブリン-4の発現が上昇しており、また、フィブリン-4の発現上昇がみられる患者では強固な線維が構築されることが確認されている。よって、本実施形態の方法は、被験者における臓器での強固な線維の構築しやすさを予測する方法ということもできる。
【0025】
次いで、本実施形態の方法の各工程について以下に詳細を説明する。
【0026】
[測定工程]
測定工程では、被験者由来の生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量を測定する。
【0027】
生体試料としては、例えば、体液、細胞培養上清、組織細胞の破砕液等の各種液体が挙げられる。中でも、体液、又は細胞培養上清が好ましい。体液としては、全血、血清、血漿、各種血球、血餅、血小板等の他、尿、精液、母乳、汗、間質液、間質性リンパ液、骨髄液、組織液、唾液、胃液、腸液、関節液、胸水、胆汁、腹水、羊水等が挙げられる。中でも、血清が好ましい。なお、血清は、クエン酸、ヘパリン、EDTA等の抗凝固剤で処理されたものでもよい。
【0028】
生体試料が由来する種は特に限定されず、例えば、ヒト、サル、マーモセット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等の哺乳動物が挙げられる。これらのうち、ヒト由来試料が好ましい。また、種と体液の組み合わせとしては、ヒト由来血清が好ましい。
【0029】
上記生体試料は、公知のバッファーに添加しておく等して予め前処理したものを用いてもよいが、生体から摂取したものをそのまま用いることもできる。
【0030】
生体試料の量は、適宜調整することができるが、例えば、1μL以上1000μL以下であってもよく、例えば、1μL以上500μL以下であってもよく、50μL以上300μL以下あってもよく、100μL以上200μL以下あってもよい。
【0031】
生体試料から細胞外小胞を単離する方法としては、PEG沈殿法、超遠心機等を用いた単離法、細胞外小胞捕捉用分子を用いた免疫沈降法等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、前処理を行わず簡便に、細胞外小胞の選択的な分離を行うことができることから、細胞外小胞捕捉用分子を用いた免疫沈降法を用いることが好ましい。
【0032】
細胞外小胞捕捉用分子は、細胞外小胞に対する特異的結合物質を含む。
【0033】
細胞外小胞に対する特異的結合物質としては、例えば、細胞外小胞を構成するホスファチジルセリン(PS)に結合するPS結合性物質(PS結合タンパク質又はその改変体)等が挙げられる。PS結合性物質としてより具体的には、PSをカルシウムイオン等の金属イオン存在下で捕捉するTim4等が挙げられる。
【0034】
或いは、細胞外小胞は、その表面に各種抗原を有することから、当該抗原に対する特異的結合物質を用いることで、細胞外小胞を捕捉することができる。
【0035】
細胞外小胞、好ましくはエクソソーム表面に発現する抗原としては、例えば、CD9、CD63、CD81が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
これら抗原に特異的に結合する物質としては、例えば、抗体、アプタマー等が挙げられる。
【0037】
抗体としては、抗原配列(エピトープ)に対する結合能を有するものであればよく、具体的には、例えば、抗CD9抗体、抗CD63抗体、抗CD81抗体が挙げられる。これらの抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。さらに、これらの抗体は、二重特異性抗体であってもよい。抗体のクラスとしては、例えば、IgG、IgMが挙げられるが、IgGがより好ましい。また、抗体は、ヒト化抗体等のキメラ抗体であってもよい。抗体は、例えば、マウス、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の哺乳動物、ニワトリ等の鳥類、ヒト等の動物種由来のものでもよく、特に制限されない。抗体は、例えば、前記動物種由来の血清から、従来公知の方法により調製してもよく、公知の抗体遺伝子配列情報を用いて合成したベクターから抗体を調製してもよく、市販の抗体を使用してもよい。
【0038】
また、抗体として抗体断片を用いることもできる。抗体断片としては、例えば、Fv、Fab、Fab'、F(ab')2、rIgG、scFv等が挙げられる。
【0039】
アプタマーとは、標的物質に対する特異的結合能を有する物質である。アプタマーとしては、核酸アプタマー、ペプチドアプタマー等が挙げられる。抗原に特異的結合能を有する核酸アプタマーは、例えば、systematic evolution of ligand by exponential enrichment(SELEX)法により選別することができる。また、抗原に特異的結合能を有するペプチドアプタマーは、例えば酵母を用いたTwo-hybrid法により選別することができる。
【0040】
細胞外小胞捕捉用分子は、固相担体に固定されていることが好ましい。
【0041】
固相担体の材質としては、例えば、ポリスチレン類、ポリエチレン類、ポリプロピレン類、ポリエステル類、ポリ(メタ)アクリロニトリル類、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、フッ素樹脂、架橋デキストラン、ポリサッカライド等の高分子化合物;ガラス;金属;磁性体;磁性体を含む樹脂組成物;これらの組み合わせが挙げられる。
【0042】
また、固相担体の形状は特に限定されるものではなく、例えば、トレイ状、球状、粒子状、繊維状、棒状、盤状、容器状、セル、マイクロプレート、マイクロ流体デバイス、試験管が挙げられる。
【0043】
測定工程においては、固液分離や洗浄の容易性の観点から、固相担体としてマイクロプレートを用いることが好ましい。
【0044】
抗原に対する特異的結合物質を固相担体に結合する方法としては、物理的吸着法や、共有結合法、イオン結合法といった化学的に結合する方法等が用いられる。物理的吸着法としては、固相担体に抗原に対する特異的結合物質を直接固定する方法、アルブミン等の他のタンパク質に化学的に結合させてから吸着させて固定する方法等が挙げられる。化学的に結合させる方法としては、固相担体表面に導入した、抗原に対する特異的結合物質と反応可能な官能基を利用して、固相担体上に直接結合する方法、固相担体と抗原に対する特異的結合物質との間にスペーサー分子(カルボジイミド化合物等)を化学結合で導入してから結合する方法、アルブミン等の他のタンパク質に抗原に対する特異的結合物質を結合させた後、そのタンパク質を固相担体に化学結合する方法等が挙げられる。
【0045】
また、固相担体に固定された捕捉用分子としては、例えば、PS CaptureTM エクソソームELISAキット(ストレプトアビジンHRP)(富士フイルム和光純薬社製)等の市販の細胞外小胞捕捉及び検出用のキットを用いてもよい。
【0046】
細胞外小胞捕捉用分子を用いた免疫沈降法は、上記各成分の他に、必要に応じて、塩類や、アルブミン等のタンパク質、界面活性剤等を用いて行ってもよい。
【0047】
細胞外小胞捕捉用分子を用いた免疫沈降法における反応温度は、通常2℃以上37℃以下、好ましくは2℃以上30℃以下の範囲内であり、反応時間は、通常0.5時間以上24時間以下、好ましくは1時間以上20時間以下、より好ましくは1時間以上12時間以下である。
【0048】
細胞外小胞捕捉用分子を用いた免疫沈降法において、系中のpHは特に限定されないが、好ましくはpH7.0以上8.0以下の範囲、より好ましくはpH7.2以上7.6以下の範囲である。目的のpHを維持するために、通常、緩衝液が用いられる。当該緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液、HEPES緩衝液、MES緩衝液が挙げられ、トリス緩衝生理食塩水(TBS)、HEPES緩衝生理食塩水(HBS)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)が好ましい。
【0049】
次いで、単離された細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量を測定する。
【0050】
フィブリン-4の発現量の測定方法としては、質量分析法、免疫測定法等により行うことができる。
【0051】
質量分析法を用いる場合、質量分析の前に細胞外小胞に存在する物質を分離するための前処理を行ってもよい。分離方法としては、各種クロマトグラフィー分離技術を用いることができ、より具体的には、例えば、液体クロマトグラフィー(Liquid chromatography;LC)、高速液体クロマトグラフィー(High performance liquid chromatography;HPLC)、ガスクロマトグラフィー(Gas chromatography;GC)、薄層クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーが挙げられるが、これらに限定されない。中でも、液体クロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィーが好ましい。
【0052】
質量分析法としては、タンデム四重極型質量分析(MS/MS)法、直接注入質量分析法、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(Fourier transform ion cyclotron resonance mass spectrometry;FT-ICR-MS)法、キャピラリー電気泳動質量分析(Capillary Electrophoresis mass spectrometry;CE-MS)法、誘導結合プラズマ質量分析(Inductively Coupled Plasma mass spectrometry;ICP-MS)法、熱分解質量分析(Pyrolysis Mass Spectroscopy;Py-MS)法、イオン移動度質量分析法、飛行時間型質量分析(Time-of-Flight mass spectromete;TOF MS)法等が挙げられる。
【0053】
フィブリン-4の発現量は、例えば、質量分析法においてDIA(data-independent acquisition)法を用いた解析により、決定することができる。DIA法は、データ非依存的解析法であり、ある一定の質量範囲に含まれるイオンを全てMS/MS分析する網羅的な解析法である。
【0054】
免疫測定法しては、例えば、酵素免疫測定法(EIA)、ELISA、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、放射線免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法、イムノブロット法、ウェスタンブロット法が挙げられ、特異的結合物質が抗体である場合に、簡便に感度よく抗体を検出できる点から、CLEIA法又はELISA法が好ましい。ELISA法としては、競合法、サンドイッチ法等が挙げられる。
【0055】
免疫測定法では、細胞外小胞と細胞外小胞捕捉用分子からなる複合体と、フィブリン-4に対する特異的結合物質及び標識物質を含む検出用分子とを接触させる。この接触により、前記複合体中の細胞外小胞のうち、その表面にフィブリン-4が発現しているものに前記検出用分子を結合させる。その結果、フィブリン-4が発現している細胞外小胞を検出用分子で検出し、検出用分子に含まれる標識物質を測定することで、フィブリン-4の発現量を間接的に測定することができる。
【0056】
検出用分子は、フィブリン-4に対する特異的結合物質及び標識物質を含む。中でも、検出用分子は、標識物質が結合した、フィブリン-4に対する特異的結合物質を含むことが好ましい。
【0057】
フィブリン-4に対する特異的結合物質としては、例えば、抗体、アプタマー等が挙げられる。抗体、アプタマーの詳細については、上記捕捉工程において説明したとおりである。中でも、フィブリン-4に対する特異的結合物質としては、抗フィブリン-4抗体を用いることが好ましい。
【0058】
また、前記捕捉用分子が有する特異的結合物質が、Tim4であり、前記検出用分子が有する特異的結合物質が、抗フィブリン-4抗体であることが好ましい。捕捉用分子が有する特異的結合物質と、検出用分子が有する特異的結合物質とが上記組み合わせであることで、後述する実施例に示すように、表面にフィブリン-4が発現している細胞外小胞を高い精度で検出することができる。
【0059】
標識物質としては、例えば、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラビジン、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、グルタチオン、アルカリホスファターゼ(ALP)、蛍光色素、ポリエチレングリコール、メリト酸等の電荷分子等が挙げられる。標識物質がALPである場合には、ALP発光基質を添加することで、細胞外小胞を高い精度で検出することができる。ALP発光基質としては、例えば、p-ニトロフェニルリン酸(PNP)、4-メチルウンベリフェリルリン酸(4MUP)、3-(2'-spiroadamantane)4-methoxy-4-(3’’-phosphoryloxy)phenyl-1,2-dioxetane(AMPPD)、Disodium 3-(4-methoxyspiro{1,2-dioxetane-3,2’-(5’-chloro)tricyclo[3.3.1.13,7]decan}-4-yl)phenyl phosphate(CSPD)、2-クロロ-5-(4-メトキシスピロ{1,2-ジオキセタン-3,2’-(5’-クロロ)-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}-4-イル)-1-フェニルホスフェート・二ナトリウム(CDP-Star)が挙げられる。
【0060】
ELISA法を使用する場合の分離及び検出方法の一例を示す。まず、Tim4を固相担体に結合して捕捉用分子を固定させた後、生体試料を接触させて複合体を形成させる。そこに、標識物質を結合させた抗フィブリン-4抗体を含む検出用分子を添加して、さらなる複合体を形成させる。そして、形成された複合体中の標識量を検出することにより、生体試料に含まれる、表面にフィブリン-4が発現している細胞外小胞由来のシグナルを測定することができる。
【0061】
なお、質量分析法及び免疫測定法のいずれを用いた場合においても、生体試料に含まれる細胞外小胞量の違いを平準化するために、対照として、細胞外小胞に特異的に発現する抗原を上記フィブリン-4と同様の方法を用いて測定し、当該測定値に対するフィブリン-4の発現量の比([フィブリン-4の発現量]/[細胞外小胞に特異的に発現する抗原発現量])を最終的な評価対象の値として用いてもよい。細胞外小胞に特異的に発現する抗原としては、特に限定されるものではなく、例えば、CD9、CD63、CD81等が挙げられる。
【0062】
本実施形態の方法では、測定されたフィブリン-4の発現量を基づいて、評価対象の生体試料の由来となる被験者における臓器線維症、特に肝硬変の罹患の有無を予測する。
【0063】
或いは、本実施形態の方法では、測定されたフィブリン-4の発現量を基づいて、評価対象の生体試料の由来となる被験者における臓器での強固な線維の構築しやすさを予測する。
【0064】
具体的には、フィブリン-4の発現量が予め設定された基準値以下である場合に、評価対象の生体試料の由来となる被験者は、臓器線維症に罹患していない、或いは、臓器線維症を発症していないと評価又は予測することができる。一方、フィブリン-4の発現量が、予め設定された基準値超である場合には評価対象の生体試料の由来となる被験者は、臓器線維症に罹患している、或いは、臓器線維症を発症していると評価又は予測することができる。当該基準値は、臓器線維症患者群と臓器線維症非患者群を識別するための基準値である。
【0065】
或いは、フィブリン-4の発現量が予め設定された基準値以下である場合に、評価対象の生体試料の由来となる被験者は、臓器において強固な線維が構築されにくいと評価又は予測することができる。一方、フィブリン-4の発現量が、予め設定された基準値超である場合には評価対象の生体試料の由来となる被験者は、臓器において強固な線維が構築されやすいと評価又は予測することができる。当該基準値は、臓器において強固な線維が構築されやすい群と臓器において強固な線維が構築されにくい群を識別するための基準値である。
【0066】
当該基準値は、例えば、臓器線維症患者群(又は臓器において強固な線維が構築されやすい群)と臓器線維症非患者群(又は臓器において強固な線維が構築されにくい群)の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量を測定し、両群を区別することができる閾値として実験的に求めることができる。本実施形態の方法におけるフィブリン-4の発現量の基準値の決定方法としては特に限定されず、例えば、一般的な統計学的手法を用いて決定することができる。
【0067】
基準値の決定方法として具体的には、例えば、一般的に行われている血液検査や画像診断等の方法によって臓器線維症であると診断されている患者(又は臓器において強固な線維が構築されていることが確認されている被験者)について、予め採集しておいた生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量を測定する。複数の患者について測定した後に、その平均値又は中央値等からこれらの生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量を算出し、これが含まれる数値を基準値とすることができる。また、該評価又は予測方法に関するキットの説明書等に当該基準値が記載されていることが好ましい。
【0068】
また、複数の臓器線維症患者群(又は臓器において強固な線維が構築されやすい群)と複数の臓器線維症非患者群(又は臓器において強固な線維が構築されにくい群)に対して、それぞれ予め採集しておいた生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量を測定し、平均値又は中央値等から臓器線維症患者群(又は臓器において強固な線維が構築されやすい群)と臓器線維症非患者群(又は臓器において強固な線維が構築されにくい群)の生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量とそのばらつきをそれぞれ算出した後、ばらつきも考慮して両数値が区別されるような閾値を求めて、これを基準値とすることができる。
【0069】
(その他の工程)
本実施形態の方法は、上記測定工程に加えて、その他の工程を備えることができる。
【0070】
例えば、上述した細胞外小胞の捕捉の後であって、上述したフィブリン-4の発現量の測定の前に、洗浄工程を備えてもよい。
【0071】
洗浄工程では、上記捕捉で形成された細胞外小胞と捕捉用分子との複合体を洗浄する。これによって、未反応の成分等の夾雑物が除去される。
【0072】
上記洗浄工程は、通常、捕捉用分子の構成成分である固相担体の形状により異なる方法がある。固相担体がウェルプレートのような形態である場合には、プレートに洗浄液の分注及び吸引を繰り返して洗浄する方法が挙げられる。
【0073】
洗浄液としては、界面活性剤と緩衝液を含む洗浄液が好ましい。洗浄液のpHは、通常7.0以上8.0以下、好ましくは7.2以上7.6以下の範囲である。界面活性剤としては、Tween20、Tween80、Triton-X等の汎用されている界面活性剤を用いることができる。例えば、界面活性剤としてTween20を用いる場合、洗浄液の界面活性剤の濃度は、溶液の総質量に対して通常0.00001質量%以上0.2質量%以下、好ましくは0.0005質量%以上0.1質量%以下とすることができる。当該緩衝液としては、上記捕捉工程で挙げたものを用いることができ、例えばTBS、HBS、PBS等が挙げられる。
【0074】
また、上述したフィブリン-4の発現量の測定において、前記複合体と、フィブリン-4に対する特異的結合物質及び標識物質を含む検出用分子とを接触させた後、洗浄液を添加して、前記検出用分子が結合した前記複合体を洗浄することもできる。これにより、未反応の物質や試料中の夾雑物を除去することができ、前記複合体を前記検出用分子でより高感度で検出することができる。
【0075】
<臓器線維症の診断用試薬>
本実施形態の臓器線維症の診断用試薬(以下、単に「本実施形態の診断用試薬」と称する場合がある)は、フィブリン-4に特異的に結合する物質を含み、被験者由来の生体試料中の細胞外小胞に対して用いられる。
【0076】
本実施形態の診断用試薬によれば、検査時点での臓器における線維化の形成の程度を反映した診断結果を得ることができる。
【0077】
フィブリン-4に特異的に結合する物質としては、上記臓器線維症の診断を補助する方法においてフィブリン-4に対する特異的結合物質として例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、抗フィブリン-4抗体を用いることが好ましい。
【0078】
本実施形態の診断用試薬において、フィブリン-4に特異的に結合する物質は、標識物質が結合していることが好ましい。標識物質としては、上記臓器線維症の診断を補助する方法において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0079】
また、本実施形態の診断用試薬は、上述した細胞外小胞捕捉用分子と組み合わせて、臓器線維症の診断用キットとすることもできる。
【0080】
すなわち、一実施形態において、本発明は、細胞外小胞捕捉用分子と、検出用分子と、を備え、
前記細胞外小胞捕捉用分子は、細胞外小胞に対する特異的結合物質を含み、
前記検出用分子は、フィブリン-4に対する特異的結合物質及び標識物質を含む、臓器線維症の診断用キットを提供する。
【0081】
細胞外小胞捕捉用分子及び検出用分子としては、上記臓器線維症の診断を補助する方法に例示されたものと同様である。
【0082】
本実施形態の臓器線維症の診断用キットは、捕捉用分子と、検出用分子とに加えて、洗浄液を更に備えることができる。洗浄液としては、上記臓器線維症の診断を補助する方法に例示されたものと同様である。
【0083】
<他の実施形態>
一実施形態において、本発明は、フィブリン-4からなる、臓器線維症、特に肝硬変の罹患の有無を診断するためのバイオマーカーを提供する。
【0084】
一実施形態において、本発明は、臓器線維症、特に肝硬変の罹患の有無を診断する方法であって、
被験者由来の生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量を測定することを含む、方法を提供する。
【0085】
また、治療(患部切除等の外科的治療又は投薬等の内科的治療)前後の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量を測定することにより、患者における治療の効果(投薬治療の場合には薬効)を評価することができる。
【0086】
すなわち、一実施形態において、本発明は、治療前(又は治療薬の投与前)及び治療後(又は治療薬の投与後)の被検者より採取した生体試料を用いて、上記臓器線維症の診断を補助する方法で測定されたフィブリン-4の発現量について、治療後(又は治療薬の投与後)の被検者より採取した生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量が、治療前(又は治療薬の投与前)の被検者より採取した生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量よりも低い場合に、該治療が有効ある(又は治療薬が薬効を示している)可能性が高いと評価する評価工程を含む、臓器線維症の治療効果の評価方法(又は治療薬の薬効評価方法)を提供する。
【0087】
評価工程では、上記臓器線維症の診断を補助する方法で測定されたフィブリン-4の発現量について、治療前(又は治療薬の投与前)の被検者より採取した生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量に基づいて統計学的な解析を行って比較を行う。解析方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。また、その後の判定は、例えば、治療後(又は治療薬の投与後)の被検者より採取した生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量が、治療前(又は治療薬の投与前)の被検者より採取した生体試料中の細胞外小胞に存在するフィブリン-4の発現量と比べて低い場合に、該治療が有効ある(又は該治療薬が臓器線維症の進行を抑制する、或いは、臓器線維症の症状を改善する効果を有している)可能性が高いと評価することができる。
【実施例0088】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
[実施例1]
(バイオマーカーの選定)
以下に示す被験者の血清を試料として使用した。
・Leaky Gut Syndrome(LGS)患者(Child-Pugh Grade B~C):5名
・Non-LGS患者(Child-Pugh Grade A):5名
・健常者:5名
【0090】
まず、MagCaptureTM エクソソームアイソレーションキット PS(富士フイルム和光純薬社製)を用いて、各血清からエクソソームを回収した。次いで、以下の装置、ソフトウェア及びデータベースを用いたプロテオミクス解析を行った結果、総タンパク数2384個、健常者で発現しているタンパク数2068個、Non-LGS患者で発現しているタンパク数2198個、LGS患者で発現しているタンパク数2182個を同定した。
【0091】
(プロテオミクス解析の測定条件)
装置:Orbitrap Fusion Lumos-FAIMS Pro(Thermo Scientific社製)
ソフトウェア:Proteome Discoverer 3.0ソフトウェア
データベース:SwissProt Database
【0092】
上記同定されたタンパク質のうち、LGS患者で特異的に発現が変動していたタンパク質を、線維化のバイオマーカーの候補タンパク質として選定した。次いで、候補タンパク質を検出するための抗体の選定を行った。選定された抗体を用いて、189の血清検体で検証を実施し、解析した結果、線維化のバイオマーカーとして、フィブリン-4を同定した。
【0093】
[実施例2]
(フィブリン-4と慢性肝疾患及び肝硬変との関係)
【0094】
以下に示す被験者の血清を試料として使用した。
・健常者(No disease):7名
・慢性肝疾患及び肝硬変以外の疾患(早期胃癌、早期食道癌、胆石症、膵炎、サルコイドーシス、間質性肺炎等)の患者:16名
・慢性肝疾患(CLD)患者:38名
・肝硬変(LC)患者:130名(肝癌がある患者を含む)
75名(肝癌がある患者を除く)
・肝硬変 Child-Pugh Grade B~C(LC C-P B-C)患者:64名(肝癌がある患者を含む)
・肝硬変 Child-Pugh Grade A(LC C-P A)患者:66名(肝癌がある患者を含む)
【0095】
PS CaptureTM エクソソームELISAキット(ストレプトアビジンHRP)(富士フイルム和光純薬社製)をプロトコールに従い用いて、各血清に含まれるエクソソームを捕捉し、次いで、ビオチン標識抗フィブリン-4抗体(Polyclonal Anti-EFEMP2、antibody produced in mouse、purified immunoglobulin(SIGMA-ALDRICH社製、#SAB1400526-50UG)をビオチン標識用キット-NH(同仁化学研究所社製、#LK03)でプロトコールに従って、ビオチン標識したものを使用。希釈倍率:1000倍。ビオチン標識抗フィブリン-4抗体の濃度:50ng/mL以上100ng/mL以下(推定値))及び上記キットに付属のHRP標識ストレプトアビジンをプロトコールに従い用いて、エクソソーム表面に発現しているフィブリン-4を検出した。対照として、ビオチン標識抗CD9抗体を用いて同様に検出を行なった。結果を図1図5に示す。図1図3図4において、各検体におけるエクソソームの量を平準化するために、エクソソームのマーカーであるCD9における測定結果で、フィブリン-4における測定結果を除した数値を縦軸に示した。
【0096】
図1図3図4に示すように、肝硬変患者において、健常者、慢性肝疾患及び肝硬変以外の疾患の患者、及び慢性肝疾患患者と比較して、フィブリン-4の発現が有意に上昇していた。
【0097】
図2及び図5に示すように、肝硬変患者と、健常者、慢性肝疾患及び肝硬変以外の疾患の患者、又は慢性肝疾患患者を比較した場合に、ROC曲線下面積(AUC:area under the curve)が0.8以上と適度(moderate)な精度となっていた。さらに、肝硬変患者と健常者の比較、肝硬変 Child-Pugh Grade A患者と健常者の比較、肝硬変 Child-Pugh Grade Bと健常者の比較、及び、肝硬変 Child-Pugh Grade Bと慢性肝疾患患者の比較では、AUCが0.9以上と特に高精度であった。
【0098】
以上の結果から、フィブリン-4が臓器線維症、特に肝硬変における線維化の形成の程度を即時に反映することができるバイオマーカーとして有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本実施形態の方法及び本実施形態の臓器線維症の診断用試薬によれば、検査時点での臓器における線維化の形成の程度を反映した診断結果を得ることができる。
図1
図2
図3
図4
図5