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  • 特開-仮設建築物設計方法 図1
  • 特開-仮設建築物設計方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110153
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】仮設建築物設計方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/08 20120101AFI20240807BHJP
   E04H 1/00 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
G06Q50/08
E04H1/00 ESW
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014556
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細川 幸哉
(72)【発明者】
【氏名】上野 晃
(72)【発明者】
【氏名】有馬 真人
(72)【発明者】
【氏名】平井 智也
(72)【発明者】
【氏名】若尾 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】西原 慧
(72)【発明者】
【氏名】橋達 大輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC07
5L050CC07
(57)【要約】
【課題】仮設建築物において、ZEBを達成する。
【解決手段】仮設建築物10におけるエネルギー消費量を算出し、算出した前記エネルギー消費量よりも発電量が大きくなるよう、仮設建築物10に設置する太陽光パネル18の容量を算出する。仮設建築物10の屋根11に設置できる太陽光パネル18の容量を算出し、仮設建築物10に設置する太陽光パネル18の容量が、仮設建築物10の屋根11に設置できる太陽光パネル18の容量よりも大きい場合に、仮設建築物10の屋根11に設置できる容量の太陽光パネル18を仮設建築物10の屋根11に設置し、残りの容量の太陽光パネル18を地上に設置してもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮設建築物の外皮の断熱性能と、前記仮設建築物の内部負荷とに基づいて、前記仮設建築物の熱負荷を算出し、
算出した熱負荷に基づいて、前記仮設建築物に設置する空調機の容量を算出する、
仮設建築物設計方法。
【請求項2】
算出した前記熱負荷に基づいて、前記仮設建築物の室内における快適性をシミュレートし、
前記シミュレートの結果に基づいて、前記仮設建築物の室内において快適性指標が所定の範囲内に入る場所の面積の割合を算出し、
算出した面積の割合が所定の閾値以上となる空調機を選定する、
請求項1の仮設建築物設計方法。
【請求項3】
前記仮設建築物におけるエネルギー消費量を算出し、
算出した前記エネルギー消費量よりも発電量が大きくなるよう、前記仮設建築物に設置する太陽光パネルの容量を算出する、
請求項1又は2の仮設建築物設計方法。
【請求項4】
前記仮設建築物の屋根面に設置できる太陽光パネルの容量を算出し、
前記仮設建築物に設置する太陽光パネルの容量が、前記仮設建築物の屋根面に設置できる太陽光パネルの容量よりも大きい場合に、前記仮設建築物の屋根面に設置できる容量の太陽光パネルを前記仮設建築物の屋根面に設置し、残りの容量の太陽光パネルを地上に設置する、
請求項3の仮設建築物設計方法。
【請求項5】
前記仮設建築物の内部の照度として、日本産業規格に定められた推奨照度よりも低い照度を設定し、
設定した照度に基づいて、前記仮設建築物に設置する照明を設計する、
請求項1又は2の仮設建築物設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮設建築物の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に記載されているように、ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(以下「ZEB」という。)とは、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことである。ZEBには、4つのランクがあり、高いほうから、狭義の『ZEB』、ニアリーZEB、ZEBレディ、ZEBオリエンテッドと呼ばれる。
狭義の『ZEB』とは、50%以上の省エネルギーと創エネルギーとを組み合わせることにより、100%以上の一次エネルギー消費量の削減を実現している建物のことである。
「ニアリーZEB」とは、50%以上の省エネルギーと創エネルギーとを組み合わせることにより、75%以上の一次エネルギー消費量の削減を実現している建物のことである。
「ZEBレディ」とは、省エネルギーにより、基準一次エネルギー消費量から50%以上の一次エネルギー消費量の削減を実現している建物のことである。
「ZEBオリエンテッド」とは、延べ面積10000m以上で、省エネルギーにより、用途ごとに規定した一次エネルギー消費量の削減を実現し、更なる省エネに向けた未評価技術を導入している建物のことである。
以下、単に「ZEB」という場合、狭義の『ZEB』の意味で用いることとする。
【0003】
非特許文献2の記載によれば、仮設作業所事務所で「ZEBレディ」を達成している。
非特許文献3の記載によれば、現場事務所で「ニアリーZEB」を達成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】環境省,“ZEBとは?”,[online],インターネット<URL:https://www.env.go.jp/earth/zeb/about/index.html>
【非特許文献2】大成建設株式会社,“国内初 仮設作業所事務所としてZEB Ready認証を取得”,[online],2020年3月16日,インターネット<URL:https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2020/200316_4898.html>
【非特許文献3】五洋建設株式会社,“現場事務所のZEB化、「Nearly ZEB」の認証取得”,[online],2022年5月31日,インターネット<URL:https://www.penta-ocean.co.jp/news/2022/220531.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
常設の建築物であっても、ZEBを達成することは難しく、建築現場に建設される仮設事務所などの仮設建築物では、建設から撤去までの期間が比較的短いので、採用できる技術に制約が多く、ZEB達成が更に難しい。
この発明は、例えばこのような課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
仮設建築物におけるエネルギー消費量を算出し、算出した前記エネルギー消費量よりも発電量が大きくなるよう、前記仮設建築物に設置する太陽光パネルの容量を算出する。
前記仮設建築物の屋根面に設置できる太陽光パネルの容量を算出し、前記仮設建築物に設置する太陽光パネルの容量が、前記仮設建築物の屋根面に設置できる太陽光パネルの容量よりも大きい場合に、前記仮設建築物の屋根面に設置できる容量の太陽光パネルを前記仮設建築物の屋根面に設置し、残りの容量の太陽光パネルを地上に設置してもよい。
前記仮設建築物の外皮の断熱性能と、前記仮設建築物の内部負荷とに基づいて、前記仮設建築物の熱負荷を算出し、算出した熱負荷に基づいて、前記仮設建築物に設置する空調機の容量を算出してもよい。
算出した熱負荷に基づいて、前記仮設建築物の室内における快適性をシミュレートし、前記シミュレートの結果に基づいて、前記仮設建築物の室内において快適性指標が所定の範囲内に入る場所の面積の割合を算出し、算出した面積の割合が所定の閾値以上となる空調機を選定してもよい。
前記仮設建築物の内部の照度として、日本産業規格に定められた推奨照度よりも低い照度を設定し、設定した照度に基づいて、前記仮設建築物に設置する照明を設計してもよい。
【発明の効果】
【0007】
この設計方法によれば、100%以上の一次エネルギー消費量の削減を実現することができ、ZEBを達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】仮設建築物の一例を示す概略図。
図2】仮設建築物設計処理の一例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1を参照して、仮設建築物10について説明する。
仮設建築物10は、例えば建設現場に設置される現場事務所など、比較的短期間で撤去されることが予定される建築物である。
仮設建築物10は、例えば、外皮と、照明設備と、給湯設備と、空調設備と、太陽光発電設備と、表示システム21とを有する。
【0010】
外皮とは、仮設建築物10の構造のうち、外気に接する部分のことであり、例えば、屋根11、外壁12、窓13、床14などである。
屋根11は、例えば、断熱材として、押出法ポリスチレンフォーム保温板6mmと、グラスウール100mm(24kg/m)とを有する。これにより、断熱性能が向上し、消費エネルギーを抑えることができる。
外壁12は、例えば、断熱材として、硬質ウレタンフォーム保温板43mmと、グラスウール50mm(24kg/m)とを有する。これにより、断熱性能が向上し、消費エネルギーを抑えることができる。
窓13は、例えば、アルミサッシと、単板ガラス3~4mmと、単板ガラスに貼り付けられた遮熱フィルムと、日射を抑制するブラインドとを有する。これにより、断熱性能が向上し、消費エネルギーを抑えることができる。
床14は、例えば、断熱材として、押出法ポリスチレンフォーム保温板65mmを有する。
【0011】
照明設備としては、例えば、照明器具15がある。
照明器具15は、例えば、発光ダイオード(LED)と、在室感知センサとを有し、在室感知センサが人を感知した場合にLEDを点灯する。人がいない場合は消灯することにより、消費エネルギーを抑えることができる。
【0012】
給湯設備としては、例えば、給湯器16がある。
給湯器16は、例えば、国土交通省エコ住宅設備基準に定められた「高効率ガス給湯器」であり、例えば潜熱回収型であって、給湯熱効率が94%以上である。これにより、エネルギー消費を抑えることができる。
【0013】
空調設備としては、例えば、空調機17がある。
空調機17は、例えば、経済産業省が定めた「高効率空調機」であり、省エネ法基準値を通年エネルギー消費効率(APF)が満たす。これにより、エネルギー消費を抑えることができる。
【0014】
太陽光発電設備としては、例えば、太陽光パネル18、蓄電池19などがある。
太陽光パネル18は、原則として、屋根11の上に設置される。ただし、屋根11の上だけでは足りない場合は、地上にも設置してもよい。
蓄電池19は、夜間や停電時などのために、太陽光パネル18が発電した電力を蓄える。これにより、再生可能エネルギーを無駄なく使用することができる。
【0015】
表示システム21は、太陽光発電設備が発電した発電量や、仮設建築物における電気やガスなどの使用量、二酸化炭素排出量などをリアルタイムで表示する。これにより、省エネ意識を向上することができる。
【0016】
図2を参照して、仮設建築物設計処理80について説明する。
仮設建築物設計処理80では、仮設建築物10を設計する。
仮設建築物設計処理80は、例えば、外皮設計工程81と、照明設計工程82と、給湯設計工程83と、空調設計工程84と、太陽光発電設計工程85とを有する。
【0017】
外皮設計工程81において、仮設建築物10の外皮を設計する。
外皮設計工程81では、標準的な仕様よりも外皮の断熱性能を高くする。これにより、外気温や日射の影響が小さくなり、エネルギー消費を抑えることができる。また、室温のムラが抑えられるので、快適性が向上する。
例えば、屋根11の断熱材として、標準仕様では、押出法ポリスチレンフォーム保温板6mmを用いる場合において、グラスウール100mm(24kg/m)を追加することにより、断熱性能を向上する。
また、例えば、外壁12の断熱材として、標準仕様では、硬質ウレタンフォーム保温板43mmを用いる場合において、グラスウール50mm(24kg/m)を追加することにより、断熱性能を向上する。
また、例えば、窓13として、標準仕様では、アルミサッシ及び単板ガラス3mm~4mmを用いる場合において、遮熱フィルムを追加することにより、断熱性能を向上する。
【0018】
照明設計工程82において、仮設建築物10の照明設備を設計する。
照明設計工程82では、標準的な仕様よりも照明の照度を低くする。
日本産業規格(JIS)Z9110:2010「照明基準総則」によれば、事務室における推奨照度は750ルクス(lx)である。しかし、すべての作業において750lxが必要なわけではなく、一般的な事務作業であれば500lxで十分である。そこで、例えば、照度750lxが必要な場所を厳選し、それ以外の場所は500lxとなるよう、照明の数及び配置を設計する。これにより、エネルギー消費を抑えることができる。
【0019】
給湯設計工程83において、仮設建築物10の給湯設備を設計する。
給湯設計工程83では、標準的な仕様よりも効率の高い給湯設備を用いる。これにより、エネルギー消費を抑えることができる。
【0020】
空調設計工程84において、仮設建築物10の空調設備を設計する。
空調設計工程84では、仮設建築物10における熱負荷を詳細に計算し、それを満たすために最低限必要な容量に空調設備を設計する。
熱負荷の計算にあたり、外皮設計工程81で設計した外皮の断熱性能や、仮設建築物10の内部負荷を考慮する。内部負荷とは、仮設建築物10のなかにいる人の人体や、照明設計工程82で設計した照明設備やその他の設備などによる発熱のことである。室面積から大まかに算出するのではなく、これらを考慮することにより、熱負荷を正確に算出することができる。
そして、このようにして算出した熱負荷に基づいて、適切な能力の空調機17を選定する。これにより、オーバースペックを防ぐことができ、エネルギー消費を抑えることができる。
空調機17の選定にあたり、室内の快適性をシミュレートし、シミュレートの結果に基づいて、快適性指標(PMV)が所定の範囲(例えば、-0.5以上0.5以下)内である場所の面積の割合を算出し、算出した割合が所定の閾値(例えば、80%)を下回らないものを選定してもよい。
【0021】
太陽光発電設計工程85において、仮設建築物10の太陽光発電設備を設計する。
太陽光発電設計工程85では、仮設建築物10に設けられる設備が消費するエネルギーの総合計を算出し、それを発電量が上回るよう、太陽光発電設備を設計する。
例えば、照明設計工程82で設計した照明設備、給湯設備設計工程83で設計した給湯設備、空調設計工程84で設計した空調設備などが消費するエネルギーを合計することにより総消費エネルギーを算出する。そして、算出した総消費エネルギーに基づいて、設置する太陽光パネル18の数を決定する。
次に、仮設建築物10の屋根11の面積に基づいて、屋根11の上に設置できる太陽光パネル18の数を算出する。そして、必要な太陽光パネル18がすべて屋根11の上に設置できない場合は、屋根11の上に最大限の太陽光パネル18を配置した上で、残りを地上など他の場所に配置する。なお、屋根11以外の配置場所については、例えば、現場動線を避けた位置とする。
【0022】
このような設計に基づいて、仮設建築物10を建設することにより、50%以上の省エネルギーと、100%以上の一次エネルギー消費量の削減とを実現することができる。
【0023】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例である。本発明は、これに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される範囲から逸脱することなく様々に修正し、変更し、追加し、又は除去したものを含む。これは、以上の説明から当業者に容易に理解することができる。
【0024】
日本は2050年までにカーボンニュートラルの実現を宣言しており、建築物においても抜本的な脱炭素化が求められている。ZEBは、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことで、その達成は非常に難しいものの、脱炭素化に向け期待度は高まってきている。
ZEBを達成するため、ZEB化に用いる技術を整理し、パッケージ化する。パッケージ化した技術を用いれば、仮設事務所のZEB化を推進する手助けとなる。
【0025】
例えば、プレハブ業者の標準的な仕様に対し、ZEB仕様の省エネ手段を追加する。これらの技術をベースに、地域や事務所の規模に応じて多少の変更を行えば、ZEB達成できるものと考えられる。
年間発電量が現場事務所のエネルギー消費量を上回ることができ、省エネ化につながる。また、夏期・冬期ともに、断熱性の高い『ZEB』仕様のほうが、外気温や日射の影響が小さくなり、室温のムラを抑えられ、快適性がよくなることがシミュレーションによりわかった。
イニシャルコストは増額となるが、建物の省エネ化が進むため、ランニングコストは小さくなる。したがって、施工期間が長い現場であれば、省エネ効果は高くなる。
【符号の説明】
【0026】
10 仮設建築物、11 屋根、12 外壁、13 窓、14 床、15 照明器具、16 給湯器、17 空調機、18 太陽光パネル、19 蓄電池、21 表示システム、80 仮設建築物設計処理、81 外皮設計工程、82 照明設計工程、83 給湯設計工程、84 空調設計工程、85 太陽光発電設計工程。
図1
図2