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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110154
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/437 20100101AFI20240807BHJP
   F16H 61/4008 20100101ALI20240807BHJP
【FI】
F16H61/437
F16H61/4008
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014557
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 純弥
(72)【発明者】
【氏名】緒方 永博
【テーマコード(参考)】
3J053
【Fターム(参考)】
3J053AA01
3J053AB07
3J053AB12
3J053AB50
3J053DA02
3J053DA06
3J053DA16
3J053EA14
3J053FB01
3J053FC10
(57)【要約】
【課題】作業機械の組み立て後に、油圧ポンプの応答性を変更することを可能にする。
【解決手段】作業機械は、原動機で駆動する油圧ポンプで圧送される圧油により回転する走行モータと、操作レバーの操作に応じて、原動機で駆動する他のポンプから圧送させる圧油から生成されるパイロット一次圧を減圧してパイロット二次圧を生成するリモコン弁と、パイロット二次圧に基づいて、走行モータの回転速度を制御する制御装置と、を備える。制御装置は、パイロット二次圧が、操作レバーの操作量ごとに設定された最高圧と、最低圧との間で変化するときの、パイロット二次圧の時間に対する変化率を可変にする変化率変更部を有する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機で駆動する油圧ポンプで圧送される圧油により回転する走行モータと、
操作レバーの操作に応じて、前記原動機で駆動する他のポンプから圧送させる圧油から生成されるパイロット一次圧を減圧してパイロット二次圧を生成するリモコン弁と、
前記パイロット二次圧に基づいて、前記走行モータの回転速度を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記パイロット二次圧が、前記操作レバーの操作量ごとに設定された最高圧と、最低圧との間で変化するときの、前記パイロット二次圧の時間に対する変化率を可変にする変化率変更部を有する、作業機械。
【請求項2】
前記変化率変更部は、前記作業機械の走行速度に応じて、前記変化率を変更する、請求項1に記載の作業機械。
【請求項3】
前記走行速度は、前記原動機の回転速度に対応する、請求項2に記載の作業機械。
【請求項4】
前記制御装置は、前記油圧ポンプの流量を制御することにより、前記走行モータの回転速度を制御し、
前記変化率変更部は、前記パイロット一次圧に基づいて前記変化率を変更する、請求項3に記載の作業機械。
【請求項5】
前記変化率変更部は、前記走行速度の減少に伴って、前記変化率の絶対値を大きくする、請求項2から4のいずれかに記載の作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可変容量型の油圧ポンプから走行モータに供給される作動油の吐出流量および吐出方向を制御することにより、走行モータを駆動する作業機械が提案されている(例えば特許文献1参照)。走行モータを駆動する上記油圧ポンプは、HST(Hydro Static Transmission)ポンプとも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-190055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
HSTポンプにおける作動油の吐出流量および吐出方向の制御は、レギュレータを駆動して、HSTポンプの可変斜板の傾斜角を正逆両方向に調整することにより行われる。レギュレータは、油圧供給配管の途中に設けられる。油圧供給配管は、操作レバー(例えば走行レバー)と連動連結されるリモコン弁と、HSTポンプとを連通する。
【0005】
ところで、HSTポンプを用いて走行モータを駆動する作業機械では、走行状態から減速して停止するときに生じるショック(操作者が感じる衝撃、振動)と、作業機械の制動距離とが、トレードオフの関係にある。例えば、作業機械の制動距離が長いと、停止時に生じるショックは小さい(ショックが出にくい)。逆に、作業機械の制動距離が短いと、停止時に生じるショックは大きい(ショックが出やすい)。このことを考慮して、従来、作業機械の組み立てにおいては、停止時のショックと制動距離とが所定のバランスに設定されていた。
【0006】
つまり、停止時のショックと制動距離との関係については、HSTポンプの応答性(操作レバーの操作に応じて可変斜板がどれだけ速く正転動作または逆転動作するか)が大きく影響すると考えられる。このため、従来は、リモコン弁から出力されるパイロット油の油圧(パイロット二次圧)が、最低圧から最高圧(操作レバーの操作量ごとに設定される)まで到達する時間を一定にし、HSTポンプの応答性を一定にしていた。
【0007】
しかし、HSTポンプの応答性が一定であると、作業機械の走行速度によっては、停止時のショックと制動距離とがうまくバランスせず、操作者の走行フィーリングを損なう場合がある。このような不都合を回避する観点では、作業機械の組み立て後に、HSTポンプの応答性を変更できるようにすることが望ましい。しかし、HSTポンプの応答性の変更については、特許文献1では全く検討されていない。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、作業機械の組み立て後に、油圧ポンプの応答性を変更することができる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係る作業機械は、原動機で駆動する油圧ポンプで圧送される圧油により回転する走行モータと、操作レバーの操作に応じて、前記原動機で駆動する他のポンプから圧送させる圧油から生成されるパイロット一次圧を減圧してパイロット二次圧を生成するリモコン弁と、前記パイロット二次圧に基づいて、前記走行モータの回転速度を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記パイロット二次圧が、前記操作レバーの操作量ごとに設定された最高圧と、最低圧との間で変化するときの、前記パイロット二次圧の時間に対する変化率を可変にする変化率変更部を有する。
【発明の効果】
【0010】
上記の構成によれば、作業機械の組み立て後に、油圧ポンプの応答性を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の一形態に係る作業機械の一例であるキャリアの構成を示す側面図である。
図2】上記キャリアの平面図である。
図3】上記キャリアの正面図である。
図4】上記キャリアが有する油圧回路を模式的に示す説明図である。
図5】上記キャリアが有する流量制御部の一例であるニードル弁の外観を示す斜視図である。
図6】上記操作レバーの操作量をゼロと最大との間で変化させたときの、時間に対するパイロット二次圧の変化を模式的に示す説明図である。
図7】上記操作レバーの操作量をゼロと中間との間で変化させたときの、時間に対するパイロット二次圧の変化を模式的に示す説明図である。
図8】上記油圧回路の他の構成を模式的に示す説明図である。
図9A】上記流量制御部の他の例である流量制御弁によって実現される油圧特性の一例を示すグラフである。
図9B】上記油圧特性の他の例を示すグラフである。
図9C】上記油圧特性のさらに他の例を示すグラフである。
図10】上記作業機械の他の例である油圧ショベルの構成を示す側面図である。
図11】上記油圧ショベルの主要部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0013】
〔1.キャリアの構成〕
図1は、本実施形態の作業機械の一例であるキャリア1の構成を示す側面図である。図2は、キャリア1の平面図である。図3は、キャリア1の正面図である。ただし、図2では、便宜的に、運転部21の天板24の図示を省略している。また、図3では、天板24を支持する天板フレーム26の一部(運転座席22の前方に位置する部分)の図示を省略している。以下、図1図3に基づいて、キャリア1の概略の構成について説明する。なお、キャリア1のことを単に「機体」と称する場合もある。
【0014】
なお、以下での説明の便宜上、方向を次のように定義する。キャリア1の運転座席22に着座した操作者(オペレータ、運転手)が正面を向く方向を前方とし、その逆方向を後方とする。そして、運転座席22に着座した操作者から見て左側を「左」とし、右側を「右」とする。さらに、前後方向および左右方向に垂直な重力方向を上下方向とし、重力方向の上流側を「上」とし、下流側を「下」とする。図面では、必要に応じて、前方を「F」、後方を「B」、右方を「R」、左方を「L」、上方を「U」、下方を「D」の記号で示す。
【0015】
キャリア1は、左右一対のクローラ式の走行部10を有する。左右の走行部10は、前後方向に延びる走行フレーム11をそれぞれ有する。左右の走行部10の間には、支持フレーム12(図3参照)が配置される。各走行フレーム11は、支持フレーム12の左端部および右端部とそれぞれ連結される。
【0016】
左側の走行フレーム11の前端部には、左側走行用油圧モータMLが設けられる。左側走行用油圧モータMLの駆動軸13には駆動輪14が取り付けられる。左側の走行フレーム11の後端部には、従動輪支軸15を介して従動輪16が取り付けられる。駆動輪14および従動輪16には、履帯17が巻き付けられている。駆動輪14と従動輪16との間には、複数の転動輪18が設けられており、履帯17の内周面と接触している。
【0017】
右側の走行部10の前端部には、右側走行用油圧モータMRが設けられる。右側の走行部10の構成は、左側の走行部10の構成と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0018】
左側走行用油圧モータMLおよび右側走行用油圧モータMRを両方とも正転駆動させることにより、機体を前進走行させることができる。左側走行用油圧モータMLおよび右側走行用油圧モータMRを両方とも逆転駆動させることにより、機体を後進走行させることができる。一方、左側走行用油圧モータMLを正転駆動させ、右側走行用油圧モータMRを停止または逆転駆動させることにより、機体を右側方へ旋回走行(ピボットターン)または急旋回走行(スピンターン)させることができる。右側走行用油圧モータMRを正転駆動させ、左側走行用油圧モータMLを停止または逆転駆動させることにより、機体を左側方へ旋回走行または急旋回走行させることができる。
【0019】
支持フレーム12の上部には、張出基台20が連結されている。張出基台20は、支持フレーム12上で、走行部10の前後方向の中央付近から、走行部10の前方に張り出して位置する。張出基台20の左側上部には、運転部21が設けられる。運転部21には、運転座席22が配置される。運転座席22の周囲には、操作レバー23が配置される。操作レバー23は、機体の走行を指示するための走行レバーを含む。運転座席22の上方には、天板24が配置される。天板24は、運転部21の床面25に立てられた天板フレーム26によって支持される。
【0020】
張出基台20の右側上部には、原動機部27が設けられる。原動機部27の内部には、エンジンE(図4参照)等が配置されている。
【0021】
支持フレーム12の上方において、運転部21および原動機部27の後方には、荷台30が設けられる。荷台30は、上方が開口された箱状に形成されている。荷台30の底面後部は、左右の支持ステー31を介して支持フレーム12に支持される。荷台30の後部下方には、回動軸部(図示せず)が左右方向に延びて位置する。左右の支持ステー31は、上記回動軸部の左右の各端部をそれぞれ支持している。
【0022】
荷台30の底面中央部は、ダンプシリンダ32を介して支持フレーム12に支持されている。ダンプシリンダ32は、例えば油圧シリンダで構成される。ダンプシリンダ用の操作レバー23を操作して、ダンプシリンダ32を図1の状態から伸長させると、荷台30が上記回動軸部を支軸として回動し、荷台30の前部が持ち上がる。これにより、荷台30内の積載物(例えば土砂)を後方へ放出することができる。ダンプシリンダ32を収縮させることにより、荷台30は上記とは逆方向に回動して図1の水平姿勢に戻る。
【0023】
なお、キャリア1は、支持フレーム12に対して旋回台を介して荷台30を支持する構成であってもよい。この場合、例えば、旋回台を右方向に90度旋回させてダンプシリンダ32を伸長させることにより、荷台30内の積載物をキャリア1の左側に放出することができる。逆に、旋回台を左方向に90度旋回させてダンプシリンダ32を伸長させることにより、荷台30内の積載物をキャリア1の右側に放出することができる。なお、荷台30を旋回させる構成では、荷台30の平面視での形状は、旋回時に荷台30の右前部および左前部が運転部21と干渉することを避ける形状に設計されればよい。
【0024】
〔2.油圧回路について〕
キャリア1は、油圧回路HCを有する。図4は、油圧回路HCの構成を模式的に示す説明図である。エンジンEの駆動軸40には、可変容量型の油圧ポンプである右側走行用ポンプPRと、可変容量型の油圧ポンプである左側走行用ポンプPLと、チャージポンプPcとが直列的に連動連結されている。左側走行用ポンプPLには、走行用油圧配管HPを介して左側走行用油圧モータMLが流体的に接続されて、左側静油圧式無段階変速装置が構成されている。右側走行用ポンプPRには、走行用油圧配管HPを介して右側走行用油圧モータMRが流体的に接続されて、右側静油圧式無段階変速装置が構成されている。左側および右側の各静油圧式無段階変速装置は、それぞれ左右の走行部10の駆動輪14に連動連結されており、これによって、各走行部10を無段階に変速走行可能としている。すなわち、右側走行用ポンプPRおよび左側走行用ポンプPLは、HSTポンプである。チャージポンプPcは、油路に作動油を補給するために設けられる。
【0025】
左側走行用油圧モータMLは、油圧ポンプである左側走行用ポンプPLで圧送される圧油により回転する。右側走行用油圧モータMRは、油圧ポンプである右側走行用ポンプPRで圧送される圧油により回転する。このように、作業機械としてのキャリア1は、原動機(エンジンE)で駆動する油圧ポンプで圧送される圧油により回転する走行モータ(左側走行用油圧モータML、右側走行用油圧モータMR)を備える。
【0026】
上記の走行用油圧配管HPは、第1~第4走行用油圧管41~44、走行用油圧供給管45、および走行用油圧戻し管46を含む。
【0027】
第1走行用油圧管41は、左側走行用ポンプPLの可変斜板である左ポンプ斜板VLを正転制御するために、後述する流量制御部51を介して、走行用のリモコン弁61と、複動型の左斜板シリンダ71(サーボピストン、レギュレータ)の一側端部とを接続している。第2走行用油圧管42は、左側走行用ポンプPLの左ポンプ斜板VLを逆転制御するために、流量制御部51を介して、リモコン弁61と、左斜板シリンダ71の他端部とを接続している。
【0028】
第3走行用油圧管43は、右側走行用ポンプPRの右ポンプ斜板VRを正転制御するために、流量制御部51を介して、リモコン弁61と、複動型の右斜板シリンダ72(サーボピストン、レギュレータ)の一側端部とを接続している。第4走行用油圧管44は、右側走行用ポンプPRの右ポンプ斜板VRを逆転制御するために、流量制御部51を介して、リモコン弁61と、右斜板シリンダ72の他側端部とを接続している。
【0029】
走行用油圧供給管45は、リモコン弁61と、左側走行用ポンプPLおよび右側走行用ポンプPRとを接続している。走行用油圧供給管45には、DA(Direct Action:正作動)弁47が配置される。DA弁47の一次側ポートは、チャージポンプPcと接続される。DA弁47の二次側ポートは、リモコン弁61の一次側ポートと接続される。すなわち、チャージポンプPcから圧送される圧油(作動油)は、DA弁47を介してリモコン弁61に供給される。DA弁47は、エンジンEの回転数に応じて二次圧を変化させる。走行用油圧戻し管46は、リモコン弁61と、作動油タンク48とを接続している。49は、リリーフ弁である。
【0030】
リモコン弁61は、操作レバー23の操作に応じて、原動機で駆動する他のポンプ(例えばチャージポンプPc)から圧送させる圧油から生成されるパイロット一次圧を減圧してパイロット二次圧を生成する。より詳しくは、リモコン弁61には、図1図3で示した操作レバー23(ここでは走行レバーとする)が連動連結されている。操作レバー23を操作すると、リモコン弁61が有する複数の減圧弁のうち、操作方向に対応した減圧弁が操作量に応じた量だけ開き、吐出油(パイロット油)が、第1~第4走行用油圧管41~44の少なくともいずれか、および流量制御部51を介して、サーボピストン(左斜板シリンダ71、右斜板シリンダ72)に供給される。リモコン弁61から出力されるパイロット二次圧に基づいてサーボピストンが動くことにより、左側走行用ポンプPLまたは右側走行用ポンプPRの可変斜板(左ポンプ斜板VLまたは右ポンプ斜板VR)の傾斜が正方向または逆方向に変化する。これにより、左側走行用ポンプPLまたは右側走行用ポンプPRから、左側走行用油圧モータMLまたは右側走行用油圧モータMRへの作動油の吐出流量および吐出方向が変化し、走行部10の走行方向および走行速度が調整される。
【0031】
本実施形態では、リモコン弁61から出力されるパイロット二次圧に基づいて、走行モータの回転速度を制御する制御装置50が設けられる。制御装置50は、油圧ポンプ(左側走行用ポンプPL、右側走行用ポンプPR)の吐出流量を制御することにより、走行モータの回転速度を制御する。このような制御装置50は、流量制御部51と、上記の左斜板シリンダ71と、右斜板シリンダ72と、を有する。
【0032】
流量制御部51は、パイロット二次圧が、操作レバー23の操作量ごとに設定された最高圧と、最低圧(例えばゼロ)との間で変化するときの、パイロット二次圧の時間に対する変化率を可変にする変化率変更部である。このような流量制御部51は、例えばニードル弁52によって構成される。ニードル弁52は、第1~第4走行用油圧管41~44のそれぞれに設けられる。図5は、ニードル弁52の外観を示す斜視図である。操作者は、ニードル弁52のハンドル52aを回すことにより、上記ニードル弁52に対応する走行用油圧管の絞り開口の大きさ(絞り径)を変化させて、上記変化率を変更することができる。
【0033】
図6は、操作レバー23の操作量をゼロと最大との間で変化させたときの、時間に対するパイロット二次圧の変化を模式的に示している。ニードル弁52により、絞り量をゼロから大に変化させると(絞り開口の大きさを小さくすると)、加速時は、パイロット二次圧が最低圧(ゼロ)から最高圧P1maxまで到達する時間が、Δt1、Δt2、Δt3の順に長くなる。このため、パイロット二次圧の時間に対する変化の割合、つまり、変化率RCは、RC1、RC2、RC3の順に小さくなる。言い換えれば、パイロット二次圧の時間に対する変化の仕方(グラフの傾き)が緩やかになる。この場合、油圧ポンプ(左側走行用ポンプPL、右側走行用ポンプPR)の応答性は低くなる。したがって、キャリア1の起動時(走行開始時)は、キャリア1を緩やかに加速させて、加速時に生じる走行ショックを低減することができる。
【0034】
また、ニードル弁52により、絞り量をゼロから大に変化させると、減速時は、パイロット二次圧が最高圧P1maxから最低圧に到達する時間が、Δt4、Δt5、Δt6の順に長くなる。このため、パイロット二次圧の時間に対する変化率RC(絶対値とする)は、RC4、RC5、RC6の順に小さくなる。言い換えれば、パイロット二次圧の時間に対する変化の仕方(グラフの傾き)が緩やかになる。したがって、この場合も、油圧ポンプの応答性は低くなる。よって、キャリア1の走行停止時は、キャリア1を緩やかに減速させて、減速時に生じる走行ショックを低減することができる。
【0035】
図7は、操作レバー23の操作量をゼロと中間との間で変化させたときの、時間に対するパイロット二次圧の変化を模式的に示している。ここで、操作レバー23の操作量が中間であるとは、上記操作量がゼロと最大との間の中間であることを示す。ニードル弁52により、絞り量を大から小に変化させると(絞り開口を大きくしていくと)、パイロット二次圧が最高圧P2max(<P1max)から最低圧まで到達する時間が、Δt9、Δt8、Δt7の順に短くなる。このため、パイロット二次圧の時間に対する変化率RCは、RC9、RC8、RC7の順に大きくなる。言い換えれば、パイロット二次圧の時間に対する変化の仕方(グラフの傾き)が急になる。この場合、油圧ポンプの応答性は高くなる。したがって、加速時には、短時間で所定の走行速度に到達させることができる。
【0036】
また、ニードル弁52により、絞り量を大から小に変化させると、減速時は、パイロット二次圧が最高圧P2maxから最低圧に到達する時間が、Δt12、Δt11、Δt10の順に短くなる。このため、パイロット二次圧の時間に対する変化率RC(絶対値とする)は、RC12、RC11、RC10の順に小さくなる。言い換えれば、パイロット二次圧の時間に対する変化の仕方が急になる。この場合、油圧ポンプの応答性は高くなる。したがって、操作レバー23の操作量が小さく、キャリア1の走行速度が低速である場合には、停止時の走行ショックは元々少ないため、上記のように油圧ポンプの応答性を高くする方向に調整することにより、停止時に、(少ない走行ショックで)制動距離を短くすることができる。
【0037】
以上のように、流量制御部51の変化率変更部としてニードル弁52を用いることにより、操作レバー23の操作に応じて、パイロット二次圧が、操作レバー23の操作量ごとに設定された最高圧と、最低圧との間で変化するときの、パイロット二次圧の時間に対する変化率RCを可変にすることができ、例えばオペレータの嗜好に合った所定の変化率に設定することができる。したがって、キャリア1の組み立て後であっても、上述のように、走行モータを駆動する油圧ポンプの応答性を変更することができる。
【0038】
〔3.油圧回路の他の構成〕
図8は、キャリア1が有する油圧回路HCの他の構成を模式的に示す説明図である。図8に示すように、流量制御部51は、変化率変更部として、流量制御弁53を有していてもよい。なお、流量制御弁53以外の構成は、図4と同様である。
【0039】
流量制御弁53は、例えば油圧弁で構成され、DA弁47から出力される油圧信号を受付可能に構成される。つまり、図8の構成では、DA弁47から出力される油圧信号(パイロット一次圧)を、パイロット二次圧の変化率RCを制御する信号として利用する。このため、流量制御弁53は、上記油圧信号を受け付ける受付部53aを有する。
【0040】
上述したように、DA弁47は、エンジンEの回転数に応じて作動油の二次圧(パイロット一次圧)を変化させる。例えば、エンジンEの回転数が上がると、上記回転数に比例して上記二次圧が上がる。逆に、エンジンEの回転数が下がると、上記回転数に比例して上記二次圧が下がる。
【0041】
図9Aは、流量制御弁53によって実現される油圧特性の一例(第1油圧特性)を示すグラフである。図9Bは、上記油圧特性の他の例(第2油圧特性)を示すグラフである。図9Cは、上記油圧特性のさらに他の例(第3油圧特性)を示すグラフである。流量制御弁53において、DA弁47の二次圧を、パイロット二次圧の変化率RCを制御する信号として利用することにより、図9A図9Cに示すように、エンジンEの回転数に応じて、油圧ポンプの応答性が変化する油圧特性を実現することができる。
【0042】
図9A図9Cに示す各油圧特性は、いずれも、エンジンEの回転数(=走行速度)が小さい領域RAでは、流量制御弁53の絞り開口を大きくすることにより(絞り量は小)、変化率RCを大きくして、油圧ポンプの応答性を高くし、エンジンEの回転数が大きい領域RBでは、上記絞り開口を小さくすることにより(絞り量は大)、変化率RCを小さくして、油圧ポンプの応答性を低くした特性である。なお、流量制御弁53の絞り開口は、第1~第4走行用油圧管41~44のそれぞれに対応して設けられる。
【0043】
図9A図9Cに示すように、エンジンEの回転数が小さい領域RAでは、上記油圧ポンプの応答性を高くすることにより、停止時のショックを抑えつつ、制動距離を短くすることが可能となる。また、エンジンEの回転数が大きい領域RBでは、上記油圧ポンプの応答性を低くすることにより、制動距離を長くして停止時のショックを出にくくすることができる。
【0044】
以上のように、キャリア1の走行速度に合った油圧ポンプの応答性を実現して、走行速度ごとに、制動距離と走行ショックとのバランスを良好にする点では、変化率変更部としての流量制御弁53は、キャリア1の走行速度に応じて、変化率RCを変更することが望ましい。
【0045】
特に、キャリア1の走行速度は、原動機の回転速度に対応していることが望ましい。本実施形態のように、エンジンEの回転数に応じた二次圧(パイロット一次圧)を出力するDA弁47の上記二次圧を、流量制御弁53にてパイロット二次圧の変化率RCを変更するための制御信号として用いることにより、原動機の回転速度に対応したキャリア1の走行速度に応じて、変化率RCを変更することができる。つまり、上記走行速度に応じて変化率RCを変更することを可能にする点では、変化率変更部としての流量制御弁53は、パイロット一次圧に基づいて、変化率RCを変更することが望ましい。
【0046】
また、走行停止時に、少ない走行ショックで、かつ、短い制動距離で停止する特性を重視する場合は、変化率変更部としての流量制御弁53は、走行速度の減少に伴って、変化率RCの絶対値を大きくする(最高圧から最低圧に到達するまでの時間を短くする)ことが望ましい。
【0047】
また、図9Bで示すように、曲線形状が上方に向かって凸となる非線形の油圧特性では、エンジンEの回転数が小さい領域RAにおいて、上記油圧ポンプの応答性が緩やかに変化(低下)し、エンジンEの回転数が大きい領域RBにおいて、上記油圧ポンプの応答性が急激に変化(低下)する。エンジンEの回転数が小さい領域RAでは、全体的に上記油圧ポンプの高い応答性が維持される。このため、領域RAの全体にわたって、制動距離を短くすることを重視する場合には、図9Bで示した油圧特性となるように、変化率RCを制御することが望ましい。
【0048】
また、図9Cで示すように、曲線形状が下方に向かって凸となる非線形の油圧特性では、エンジンEの回転数が小さい領域RAにおいて、上記油圧ポンプの応答性が急激に変化(低下)し、エンジンEの回転数が大きい領域RBにおいて、上記油圧ポンプの応答性が緩やかに変化(低下)する。エンジンEの回転数が大きい領域RBでは、全体的に上記油圧ポンプの低い応答性が維持される。このため、領域RBの全体にわたって、停止時のショックを低減することを重視する場合には、図9Cで示した油圧特性となるように、変化率RCを制御することが望ましい。
【0049】
以上では、流量制御弁53が油圧弁(油圧式)で構成される例について説明したが、流量制御弁53は電子式で構成されてもよい。この場合、流量制御弁53の受付部53aは、例えば電磁弁(電磁比例弁)で構成される。例えば、エンジンEの回転数を検知するセンサからの電気的な出力信号を、受付部53aとしての電磁弁で受け付けることにより、流量制御弁53が駆動される。このような電子式の流量制御弁53を用いた構成であっても、エンジンEの回転数に応じてパイロット二次圧の変化率RCを制御して、上記油圧ポンプの応答性を上記回転数に応じて変化させることができる。
【0050】
〔4.他の作業機械〕
図10は、作業機械の他の例である油圧ショベル2の側面図である。本実施形態で説明した構成(特に流量制御部51)は、油圧ショベル2にも適用可能である。図11は、油圧ショベル2の主要部の構成を示すブロック図である。同図に示すように、走行モータMMに供給する作動油の流量および流れ方向を制御するコントロールバルブCVを備えた構成において、本実施形態で説明した流量制御部51(ニードル弁52、流量制御弁53)を、リモコン弁61とコントロールバルブCVとの間の油路に設けることにより、本実施形態と同様の、パイロット二次圧の変化率RCの変更を実現して、油圧ポンプの応答性を変更した場合と同等の効果を得ることができる。
【0051】
以上では、作業機械として、建設機械であるキャリア1および油圧ショベル2を例に挙げて説明したが、作業機械はこれらには限定されず、ホイルローダなどの他の建設機械であってもよい。また、本実施形態で説明した構成および配置は、作業機械の中でも特に走行車両呼ばれる建設機械に好適である。
【0052】
本実施形態では、原動機として、エンジンEを用いているが、原動機は電動モータであってもよい。
【0053】
〔6.付記〕
本実施形態で説明した作業機械は、以下のように表現することもできる。
【0054】
付記(1)の作業機械は、
原動機で駆動する油圧ポンプで圧送される圧油により回転する走行モータと、
操作レバーの操作に応じて、前記原動機で駆動する他のポンプから圧送させる圧油から生成されるパイロット一次圧を減圧してパイロット二次圧を生成するリモコン弁と、
前記パイロット二次圧に基づいて、前記走行モータの回転速度を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記パイロット二次圧が、前記操作レバーの操作量ごとに設定された最高圧と、最低圧との間で変化するときの、前記パイロット二次圧の時間に対する変化率を可変にする変化率変更部を有する。
【0055】
付記(2)の作業機械は、付記(1)に記載の作業機械において、
前記変化率変更部は、前記作業機械の走行速度に応じて、前記変化率を変更する。
【0056】
付記(3)の作業機械は、付記(2)に記載の作業機械において、
前記走行速度は、前記原動機の回転速度に対応する。
【0057】
付記(4)の作業機械は、付記(3)に記載の作業機械において、
前記制御装置は、前記油圧ポンプの流量を制御することにより、前記走行モータの回転速度を制御し、
前記変化率変更部は、前記パイロット一次圧に基づいて前記変化率を変更する。
【0058】
付記(5)の作業機械は、付記(2)から(4)のいずれかに記載の作業機械において、
前記変化率変更部は、前記走行速度の減少に伴って、前記変化率の絶対値を大きくする。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で拡張または変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、例えば建設機械、農業機械などの作業機械に利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 キャリア(作業機械)
2 油圧ショベル(作業機械)
23 操作レバー
50 制御装置
51 流量制御部
52 ニードル弁(変化率変更部)
53 流量制御弁(変化率変更部)
61 リモコン弁
71 左斜板シリンダ
72 右斜板シリンダ
E エンジン(原動機)
ML 左側走行用油圧モータ(走行モータ)
MR 右側走行用油圧モータ(走行モータ)
PL 左側走行用ポンプ(油圧ポンプ)
PR 右側走行用ポンプ(油圧ポンプ)
Pc チャージポンプ(他の油圧ポンプ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11