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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110171
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】センサおよびセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20240807BHJP
   H03H 9/24 20060101ALI20240807BHJP
   H03H 3/007 20060101ALI20240807BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
G01N5/02 A
H03H9/24 Z
H03H3/007 Z
H01L29/84 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014585
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 篤志
(72)【発明者】
【氏名】舟山 啓太
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏哉
【テーマコード(参考)】
4M112
5J108
【Fターム(参考)】
4M112AA06
4M112BA08
4M112CA26
4M112CA31
4M112DA03
4M112DA04
4M112EA02
4M112FA20
5J108AA09
5J108BB08
5J108CC04
5J108CC11
5J108EE03
5J108EE04
5J108EE07
5J108EE13
5J108GG03
5J108GG14
5J108KK02
5J108KK03
5J108KK04
5J108MM01
5J108MM04
5J108MM11
(57)【要約】
【課題】流路振動子を備えたセンサを提供する。
【解決手段】センサは、梁形状の振動子と、振動子の第1端部が接続されている第1基部と、振動子の第1端部と反対側の第2端部が接続されている第2基部と、シリコン電極と、を備える。振動子、第1基部、第2基部は、単結晶の第1シリコン層の上面と単結晶の第2シリコン層の下面とが金属層を介して接合されている構造を有している。振動子の内部には、中空の流路が長手方向に延びている。第1基部は、流路の第1端部側に接続している第1接続流路を備えている。第2基部は、流路の第2端部側に接続している第2接続流路を備えている。シリコン電極は、振動子を形成している第1シリコン層の下面と対向して配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁形状の振動子と、
前記振動子の第1端部が接続されている第1基部と、
前記振動子の前記第1端部と反対側の第2端部が接続されている第2基部と、
シリコン電極と、
を備えるセンサであって、
前記振動子、前記第1基部、前記第2基部は、単結晶の第1シリコン層の上面と単結晶の第2シリコン層の下面とが金属層を介して接合されている構造を有しており、
前記振動子の内部には、中空の流路が長手方向に延びており、
前記第1基部は、前記流路の前記第1端部側に接続している第1接続流路を備えており、
前記第2基部は、前記流路の前記第2端部側に接続している第2接続流路を備えており、
前記シリコン電極は、前記振動子を形成している前記第1シリコン層の下面と対向して配置されている、
センサ。
【請求項2】
前記第1基部および前記第2基部は、
前記第1シリコン層の下面に配置されているシリコン酸化膜の第1絶縁層と、
前記第1絶縁層の下面に配置されており、前記第1シリコン層よりも厚いシリコン単結晶層である第1支持層と、
前記第2シリコン層の上面に配置されているシリコン酸化膜の第2絶縁層と、
前記第2絶縁層の上面に配置されており、前記第2シリコン層よりも厚いシリコン単結晶層である第2支持層と、
を備えており、
前記シリコン電極は、前記第1支持層で形成されており、
前記シリコン電極の上面と前記振動子の下面との距離は、第1絶縁層の厚さと略同一である、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記振動子を形成している前記第2シリコン層の上面には、前記第2絶縁層が配置されておらず、
前記振動子を形成している前記第2シリコン層に垂直な方向からみたときに、前記振動子の少なくとも一部が前記第2支持層によって覆われていない、請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記流路は、前記第1シリコン層の前記上面および前記第2シリコン層の前記下面の少なくとも一方に形成されている溝部を備えており、
前記流路の内壁の少なくとも一部には、前記金属層が配置されている、請求項1に記載のセンサ。
【請求項5】
前記金属層の少なくとも一部がパターニングされている、請求項1に記載のセンサ。
【請求項6】
前記金属層はAuを含んでいる、請求項1に記載のセンサ。
【請求項7】
単結晶シリコンの第1支持層と、シリコン酸化膜の第1絶縁層と、前記第1支持層よりも薄い単結晶シリコンの第1シリコン層と、がこの順に積層されている第1SOI基板を準備する工程と、
単結晶シリコンの第2支持層と、シリコン酸化膜の第2絶縁層と、前記第2支持層よりも薄い単結晶シリコンの第2シリコン層と、がこの順に積層されている第2SOI基板を準備する工程と、
前記第1SOI基板の前記第1シリコン層に、前記第1シリコン層の表面から前記第1絶縁層まで到達している第1トレンチによって第1梁部を形成する第1形成工程と、
前記第2SOI基板の前記第2シリコン層に、前記第2シリコン層の表面から前記第2絶縁層まで到達している第2トレンチによって第2梁部を形成する第2形成工程であって、前記第2梁部は前記第1梁部と同一形状を有している、前記第2形成工程と、
前記第1梁部および前記第2梁部の少なくとも一方に、流路となる溝部を形成する工程と、
前記第1シリコン層および前記第2シリコン層の少なくとも一方の表面の少なくとも一部に、金属層を形成する工程と、
前記第1梁部と前記第2梁部とが重なるように、前記第1シリコン層と前記第2シリコン層とを貼り合わせる工程と、
前記第1梁部を形成している前記第1絶縁層および前記第2梁部を形成している前記第2絶縁層を等方エッチングにより除去する工程と、
を備える、センサの製造方法。
【請求項8】
前記第1SOI基板の前記第1支持層に、前記第1支持層の表面から前記第1絶縁層まで到達している第3トレンチによってシリコン電極を形成する工程をさらに備え、
前記第1SOI基板に垂直な方向からみたときに、前記第1トレンチと前記第3トレンチとの少なくとも一部が重複している、請求項7に記載のセンサの製造方法。
【請求項9】
前記第2SOI基板の前記第2支持層に、前記第2支持層の表面から前記第2絶縁層まで到達している開口部を形成する工程をさらに備え、
前記第2SOI基板に垂直な方向からみたときに、開口部と前記第2梁部との少なくとも一部が重複している、請求項7に記載のセンサの製造方法。
【請求項10】
前記金属層を形成する工程は、金属層を所定形状にパターニングする工程をさらに備えている、請求項7に記載のセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、センサおよびセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路を備えた流路振動子が知られている。マイクロ流路に試料を流すことで、測定対象となる目的物質がマイクロ流路の内壁に吸着される。目的物質の吸着量に応じて、流路振動子の質量が変化する。この質量変化による、流路振動子の振動周波数の変化を検出することにより、試料中の目的物質の有無や濃度を検知することができる。なお、非特許文献1および2には、関連する技術の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【特許文献1】T. P. Burg et al., "Weighing of biomolecules, single cells and single nanoparticles in fluid," Nature, vol. 446, no. 7139, pp. 1066-9, Apr 26 2007.
【特許文献2】R. A. Barton, B. Ilic, S. S. Verbridge, B. R. Cipriany, J. M. Parpia, and H. G. Craighead, “Fabrication of a nanomechanical mass sensor containing a nanofluidic channel,” Nano Lett, vol. 10, no. 6, pp. 2058-63, Jun 9 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の流路振動子は、2種類以上の材質を用いて作成されていた。製造プロセスが複雑なため、歩留まりの低下や製造コストの増大などが発生していた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示するセンサの一実施形態は、梁形状の振動子と、振動子の第1端部が接続されている第1基部と、振動子の第1端部と反対側の第2端部が接続されている第2基部と、シリコン電極と、を備える。振動子、第1基部、第2基部は、単結晶の第1シリコン層の上面と単結晶の第2シリコン層の下面とが金属層を介して接合されている構造を有している。振動子の内部には、中空の流路が長手方向に延びている。第1基部は、流路の第1端部側に接続している第1接続流路を備えている。第2基部は、流路の第2端部側に接続している第2接続流路を備えている。シリコン電極は、振動子を形成している第1シリコン層の下面と対向して配置されている。
【0006】
上記の構造によれば、単結晶の第1シリコン層と第2シリコン層とを接合することにより、流路を備えた振動子を形成することができる。加工技術が確立されている単結晶シリコンの単一材料で振動子を作製できるため、製造プロセスを簡略化することができる。歩留まりの向上や製造コストの低減などが可能となる。
【0007】
第1基部および第2基部は、第1シリコン層の下面に配置されているシリコン酸化膜の第1絶縁層を備えていてもよい。第1基部および第2基部は、第1絶縁層の下面に配置されており、第1シリコン層よりも厚いシリコン単結晶層である第1支持層を備えていてもよい。第1基部および第2基部は、第2シリコン層の上面に配置されているシリコン酸化膜の第2絶縁層を備えていてもよい。第1基部および第2基部は、第2絶縁層の上面に配置されており、第2シリコン層よりも厚いシリコン単結晶層である第2支持層を備えていてもよい。シリコン電極は、第1支持層で形成されていてもよい。シリコン電極の上面と振動子の下面との距離は、第1絶縁層の厚さと略同一であってもよい。
【0008】
振動子を形成している第2シリコン層の上面には、第2絶縁層が配置されていなくてもよい。振動子を形成している第2シリコン層に垂直な方向からみたときに、振動子の少なくとも一部が第2支持層によって覆われていなくてもよい。
【0009】
流路は、第1シリコン層の上面および第2シリコン層の下面の少なくとも一方に形成されている溝部を備えていてもよい。流路の内壁の少なくとも一部には、金属層が配置されていてもよい。
【0010】
金属層の少なくとも一部がパターニングされていてもよい。
【0011】
金属層はAuを含んでいてもよい。
【0012】
本明細書が開示するセンサの製造方法の一実施形態は、単結晶シリコンの第1支持層と、シリコン酸化膜の第1絶縁層と、第1支持層よりも薄い単結晶シリコンの第1シリコン層と、がこの順に積層されている第1SOI基板を準備する工程を備える。単結晶シリコンの第2支持層と、シリコン酸化膜の第2絶縁層と、第2支持層よりも薄い単結晶シリコンの第2シリコン層と、がこの順に積層されている第2SOI基板を準備する工程を備える。第1SOI基板の第1シリコン層に、第1シリコン層の表面から第1絶縁層まで到達している第1トレンチによって第1梁部を形成する第1形成工程を備える。第2SOI基板の第2シリコン層に、第2シリコン層の表面から第2絶縁層まで到達している第2トレンチによって第2梁部を形成する第2形成工程を備える。第2梁部は第1梁部と同一形状を有している。第1梁部および第2梁部の少なくとも一方に、流路となる溝部を形成する工程を備える。第1シリコン層および第2シリコン層の少なくとも一方の表面の少なくとも一部に、金属層を形成する工程を備える。第1梁部と第2梁部とが重なるように、第1シリコン層と第2シリコン層とを貼り合わせる工程を備える。第1梁部を形成している第1絶縁層および第2梁部を形成している第2絶縁層を等方エッチングにより除去する工程を備える。
【0013】
第1SOI基板の第1支持層に、第1支持層の表面から第1絶縁層まで到達している第3トレンチによってシリコン電極を形成する工程をさらに備えていてもよい。第1SOI基板に垂直な方向からみたときに、第1トレンチと第3トレンチとの少なくとも一部が重複していてもよい。
【0014】
第2SOI基板の第2支持層に、第2支持層の表面から第2絶縁層まで到達している開口部を形成する工程をさらに備えていてもよい。第2SOI基板に垂直な方向からみたときに、開口部と第2梁部との少なくとも一部が重複していてもよい。
【0015】
金属層を形成する工程は、金属層を所定形状にパターニングする工程をさらに備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】センサ1の平面図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3図1のIII-III線断面図である。
図4】センサ1の製造方法を説明するフローチャートである。
図5A】第1SOI基板SB1の加工工程を説明する図である。
図5B】第1SOI基板SB1の加工工程を説明する図である。
図6A】第1SOI基板SB1の加工工程を説明する図である。
図6B】第1SOI基板SB1の加工工程を説明する図である。
図7A】第2SOI基板SB2の加工工程を説明する図である。
図7B】第2SOI基板SB2の加工工程を説明する図である。
図8A】第2SOI基板SB2の加工工程を説明する図である。
図8B】第2SOI基板SB2の加工工程を説明する図である。
図9A】センサ1の加工工程を説明する図である。
図9B】センサ1の加工工程を説明する図である。
図10A】センサ1の加工工程を説明する図である。
図10B】センサ1の加工工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(センサ1の構造)
図1に、本実施例に係るセンサ1の平面図を示す。図2は、図1のII-II線における断面図である。図3は、図1のIII-III線における断面図である。図2および図3の断面図に示すように、センサ1は、SOI(Silicon on Insulator)ウェハを材料として形成されている。具体的には、各種加工が行われた第1SOI基板SB1および第2SOI基板SB2を互いに貼り合わせて形成されている。第1SOI基板SB1は、単結晶シリコンの第1支持層13と、シリコン酸化膜の第1絶縁層12と、第1支持層13よりも薄い単結晶シリコンの第1シリコン層11と、がこの順に積層されて形成されている。同様に、第2SOI基板SB2は、単結晶シリコンの第2支持層23と、シリコン酸化膜の第2絶縁層22と、第2支持層23よりも薄い単結晶シリコンの第2シリコン層21と、がこの順に積層されて形成されている。
【0018】
第1シリコン層11の表面には、金属層10が配置されている。第2シリコン層21の表面には、金属層20が配置されている。金属層10および20の材料は、第1SOI基板SB1および第2SOI基板SB2を接合する接着層として機能する材料であれば、特に限定されない。本実施例では、金を用いている。
【0019】
金属層20は、任意の2次元パターンが形成されている。なお図2の断面図では、第2シリコン層21の下面の一部に金属層20を記載することで、金属層20が2次元パターンに形成されていることを示している。
【0020】
センサ1は、振動子2、第1基部3、第2基部4、シリコン電極5、を主に備えている。振動子2は、空間に浮かんでいる梁形状の部材である。具体的に説明する。振動子2は、x方向に延びている。振動子2の-x方向の第1端部2e1は、第1基部3に接続されている。第1端部2e1と反対側の第2端部2e2が、第2基部4に接続されている。第1基部3および第2基部4は、第1SOI基板SB1および第2SOI基板SB2によって形成されている。振動子2を形成している第1シリコン層11の下面の全面には、第1絶縁層12が配置されていない。よって振動子2の下側には、スペースSP1が形成されている。同様に、振動子2を形成している第2シリコン層21の上面の全面には、第2絶縁層22が配置されていない。よって振動子2の上側には、スペースSP2が形成されている。また振動子2の幅方向(y方向)の両側には、スペースSP0が形成されている。
【0021】
振動子2は、第1シリコン層11の上面と第2シリコン層21の下面とが、金属層10および20を介して接合されている構造を有している。振動子2を形成している第1シリコン層11の上面には、長手方向(x方向)に延びる溝部TR0が形成されている。これにより、振動子2の内部には、長手方向(x方向)に延びる中空の流路FPが形成されている。
【0022】
流路FPの内壁には、金属層10が配置されている。金属層10の表面には、不図示の感応膜が形成されている。感応膜は、検出対象の目的物質を吸着可能な膜である。感応膜は、例えば、金属層10の表面をペプチド、タンパク質、抗体などで修飾することで形成してもよい。感応膜や目的物質の種類および組み合わせは、様々であってよい。本実施例では、目的物質を、特定のウィルスとしている。
【0023】
振動子2の上方に配置されている第2支持層23には、開口部23wが形成されている。すなわち図1に示すように、振動子2を形成している第2シリコン層21に垂直な方向(+z方向)からみたときに、開口部23wを介して振動子2の一部を観察することができる。
【0024】
第1基部3は、流路FPの第1端部2e1側(-x方向側)に接続している第1接続流路CP1を備えている。第1接続流路CP1は、第1シリコン層11の上面に形成されている溝部TR1によって構成されている。第1接続流路CP1のy方向の幅は、流路FPのy方向の幅以上であってもよい。第1接続流路CP1の-x方向端部には、入口流路IPが形成されている。入口流路IPは、第2支持層23の表面23sに形成された入口開口IAと第1接続流路CP1とを接続している。
【0025】
同様に、第2基部4は、流路FPの第2端部2e2側(+x方向側)に接続している第2接続流路CP2を備えている。第2接続流路CP2は、第1シリコン層11の上面に形成されている溝部TR2によって構成されている。第2接続流路CP2の+x方向端部には、出口流路OPが形成されている。出口流路OPは、第2支持層23の表面23sに形成された出口開口OAと第2接続流路CP2とを接続している。
【0026】
シリコン電極5は、第1支持層13で形成されている。シリコン電極5は、振動子2を形成している第1シリコン層11の下面と対向して配置されている。シリコン電極5の上面と振動子2の下面との距離D1は、第1絶縁層12の厚さと略同一である(図2参照)。シリコン電極5は、不図示の電極パッドに接続している。シリコン電極5によって、振動子2に駆動電界を印加することができる。
【0027】
(センサ1の動作)
シリコン電極5の電極パッドに、交流電圧を印加する。これにより、シリコン電極5を介して、振動子2に駆動電界を印加することができる。振動子2を、所定の振動周波数で±z方向に振動させることができる。そして開口部23wを介して、振動子2の振動周波数を測定する(図2および図3、矢印A1参照)。周波数の測定方法は様々であってよい。本実施例では、レーザドップラ振動計を用いた。
【0028】
入口開口IAから試料流体を流入させる(図3、矢印A2参照)。試料流体は、入口流路IP、第1接続流路CP1、流路FP、第2接続流路CP2、出口流路OPを介して出口開口OAから流出する(図3、矢印A3参照)。これにより、流路FP内の金属層10に形成されている感応膜を試料流体に暴露することで、目的物質(例:ウィルス)を感応膜に吸着させることができる。目的物質の吸着量に応じて感応膜の質量が変化するため、振動子2の質量も変化する。この質量変化による、振動子2の振動周波数の変化を検出することにより、試料流体中の目的物質の有無や濃度を検知することができる。
【0029】
(センサ1の製造方法)
図4のフローチャートおよび図5図10の断面図を用いて、センサ1の製造方法を説明する。図5A図10Aは、図2と同一部分の断面図である。図5B図10Bは、図3と同一部分の断面図である。ステップS10において、第1SOI基板SB1および第2SOI基板SB2を準備する。なお以下において、ステップを単に「S」で略記する場合がある。
【0030】
S20-S60において、センサ1の下側半分に対応する、第1SOI基板SB1の加工が行われる。具体的に説明する。S20において、第1支持層13の表面に合わせマークAM1を加工する(図5A参照)。合わせマークAM1は、後述するS110の貼り合わせ工程での位置合わせに用いるマークである。合わせマークAM1は、既知のフォトリソグラフィ技術およびドライエッチング技術によって加工できる。合わせマークAM1の形状や深さは様々であってよい。本実施例では、合わせマークAM1の深さを20μmとした。
【0031】
S30において、第1シリコン層11の表面11sに、溝部TR0、TR1、TR2を形成する(図5参照)。溝部TR0、TR1、TR2は、第1絶縁層12に到達していない。
【0032】
S40において、第1シリコン層11に、第1トレンチT11を形成する(図5A参照)。第1トレンチT11は、第1シリコン層11の表面11sから第1絶縁層12まで到達している。第1トレンチT11は、第1絶縁層12をストッパとしてドライエッチングにより加工することができる。これにより、第1梁部2aが完成する。
【0033】
S50において、第1シリコン層11の上面の全面に、金属層10を形成する。金属層10は、例えばスパッタ法により形成することができる。S60において、金属層10を所定形状にパターニングする(図6参照)。本実施例では第1トレンチT11(図6A)、溝部TR1およびTR2(図6B)の金属層10を除去するようにパターニングした。パターニングは、例えば、金属層10の除去領域が開口しているマスクを金属層10の表面に形成し、マスクを介してドライエッチングすることで行ってもよい。
【0034】
S70-S105において、センサ1の上側半分に対応する、第2SOI基板SB2の加工が行われる。具体的に説明する。S70において、第2支持層23の表面に合わせマークAM2を加工する(図7A参照)。S80において、第2シリコン層21に、第2トレンチT12を形成する(図7A参照)。第2トレンチT12は、第2シリコン層21の表面21sから第2絶縁層22まで到達している。これにより、第2梁部2bが完成する。z方向からみたときに、第1梁部2aと第2梁部2bとは同一形状を有している。
【0035】
S90において、第2シリコン層21の上面の全面に、金属層20を形成する。S100において、金属層20を所定形状にパターニングする(図8参照)。本実施例では、第2トレンチT12、入口流路IP、出口流路OP、の金属層20を除去した。またそれ以外の領域の金属層20には、任意の2次元パターンをパターニングした。
【0036】
S105において、第2絶縁層22を等方エッチングする。これにより、第2トレンチT12の底部の第2絶縁層22を、自己整合的に除去することができる(図8、領域R1参照)。また入口流路IPおよび出口流路OPの第2絶縁層22を、自己整合的に除去することができる(領域R2参照)。なお、等方エッチングの方法は様々であってよい。本実施例では、BHFによるウェットエッチングを行った。
【0037】
S110において、接合が行われる(図9Aおよび図9B参照)。具体的には、基板からセンサ1となる領域をダイシングにより切り出す。合わせマークAM1とAM2とが一致するように、第1シリコン層11と第2シリコン層21とを貼り合わせる。これにより、第1梁部2aと第2梁部2bとが重なるように貼り合わせることができる。貼り合わせ後に昇温および加圧することで、接合強度を高めることができる。
【0038】
S120において、第2支持層23に、第2支持層23の表面23sから第2絶縁層22まで到達している開口部23wを形成する(図10参照)。開口部23wは、第2SOI基板SB2に垂直な方向(+z方向)からみたときに、開口部23wと第2梁部2bとの少なくとも一部が重複するように、形成される。また、第2支持層23の表面23sから第2絶縁層22まで到達している入口流路IPおよび出口流路OPを形成する(図10B参照)。
【0039】
S130において、第1支持層13に、第1支持層13の表面13sから第1絶縁層12まで到達している第3トレンチT13を形成する(図10A参照)。第3トレンチT13は、第1SOI基板に垂直な方向(-z方向)からみたときに、第1トレンチT11と第3トレンチT13との少なくとも一部が重複するように、形成される。
【0040】
S140において、絶縁層を等方エッチングする。本実施例では、BHFによるウェットエッチングを行った。第1梁部2aおよび第2梁部2bのy方向の幅W1(図10A参照)は、他の部位の幅に比して十分に小さい。従って、等方エッチングのエッチング時間を適宜に設定することで、第1梁部2aを形成している第1絶縁層12および第2梁部2bを形成している第2絶縁層22を、選択的かつ自己整合的に除去することができる。これにより、図2および図3に示す構造が完成する。
【0041】
(効果)
単結晶の第1シリコン層11と第2シリコン層21とを接合することにより、流路FPを備えた振動子2を形成することができる。加工技術が確立されている単結晶シリコンの単一材料で振動子2を作製できるため、製造プロセスを簡略化することができる。センサ1の歩留まりの向上や製造コストの低減などが可能となる。
【0042】
振動子2を、単一材料(単結晶シリコン)の貼り合わせによって形成することができる。異種材料の貼り合わせによって振動子を形成する場合に比して、応力の制御や共振周波数の設計を簡易にすることができる。センサ1の精度を高めることが可能となる。
【0043】
本明細書の技術では、接着層として機能する金属層20に、任意の2次元パターンを形成している。これにより、金属層10と20との接合時に、2次元パターン部分に応力集中させることができる。パターンが形成されていない場合に比して、金属層10と20との接合面の接触圧力を高めることができるため、接着力を高めることが可能となる。
【0044】
金属層10および20を、流路FPの内壁にも配置することができる(S50、S90)。そして金属層10および20を各種物質で修飾することで、感応膜を形成することができる。接着層である金属層10および20を、感応膜を形成するための下地として流用できるため、製造コスト削減が可能となる。
【0045】
第1SOI基板SB1および第2SOI基板SB2を用いて、センサ1を構成している。これにより、第1絶縁層12や第2絶縁層22をエッチングで除去することにより、振動子2を自己整合的に形成することができる。センサ1の製造プロセスの簡略化が可能となる。また振動子2のz方向の厚さを、第1シリコン層11および第2シリコン層21の厚さによって規定することができる。加工ばらつきの影響を抑制できるため、振動子2の加工精度を高めることが可能となる。
【0046】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0047】
(変形例)
振動子2の数は1本に限られず、複数でもよい。例えば、複数の振動子2を平行に並べてもよい。また複数の振動子2の各々に対応して、入口開口IA、第1接続流路CP1、第2接続流路CP2、出口開口OAが複数備えられていてもよい。
【0048】
振動子2、第1接続流路CP1および第2接続流路CP2の形状は様々であってよい。例えばカーブしていてもよい。
【0049】
シリコン電極5の形状は様々であってよい。
【0050】
流路FP内に供給する試料流体は、液体に限られず、気体であってもよい。
【0051】
なお本明細書においては、ウィルス検出を基本としたバイオセンサ実施例を挙げてその動作を説明したが、この形態に限られない。各種の物質を検出する一般的なセンサに対しても、本明細書の技術を適用および展開することができる。
【0052】
以下に、本技術の態様を列挙する。
[態様1]
梁形状の振動子と、
前記振動子の第1端部が接続されている第1基部と、
前記振動子の前記第1端部と反対側の第2端部が接続されている第2基部と、
シリコン電極と、
を備えるセンサであって、
前記振動子、前記第1基部、前記第2基部は、単結晶の第1シリコン層の上面と単結晶の第2シリコン層の下面とが金属層を介して接合されている構造を有しており、
前記振動子の内部には、中空の流路が長手方向に延びており、
前記第1基部は、前記流路の前記第1端部側に接続している第1接続流路を備えており、
前記第2基部は、前記流路の前記第2端部側に接続している第2接続流路を備えており、
前記シリコン電極は、前記振動子を形成している前記第1シリコン層の下面と対向して配置されている、
センサ。
[態様2]
前記第1基部および前記第2基部は、
前記第1シリコン層の下面に配置されているシリコン酸化膜の第1絶縁層と、
前記第1絶縁層の下面に配置されており、前記第1シリコン層よりも厚いシリコン単結晶層である第1支持層と、
前記第2シリコン層の上面に配置されているシリコン酸化膜の第2絶縁層と、
前記第2絶縁層の上面に配置されており、前記第2シリコン層よりも厚いシリコン単結晶層である第2支持層と、
を備えており、
前記シリコン電極は、前記第1支持層で形成されており、
前記シリコン電極の上面と前記振動子の下面との距離は、第1絶縁層の厚さと略同一である、態様1に記載のセンサ。
[態様3]
前記振動子を形成している前記第2シリコン層の上面には、前記第2絶縁層が配置されておらず、
前記振動子を形成している前記第2シリコン層に垂直な方向からみたときに、前記振動子の少なくとも一部が前記第2支持層によって覆われていない、態様2に記載のセンサ。
[態様4]
前記流路は、前記第1シリコン層の前記上面および前記第2シリコン層の前記下面の少なくとも一方に形成されている溝部を備えており、
前記流路の内壁の少なくとも一部には、前記金属層が配置されている、態様1-3の何れか1項に記載のセンサ。
[態様5]
前記金属層の少なくとも一部がパターニングされている、態様1-4の何れか1項に記載のセンサ。
[態様6]
前記金属層はAuを含んでいる、態様1-5の何れか1項に記載のセンサ。
[態様7]
単結晶シリコンの第1支持層と、シリコン酸化膜の第1絶縁層と、前記第1支持層よりも薄い単結晶シリコンの第1シリコン層と、がこの順に積層されている第1SOI基板を準備する工程と、
単結晶シリコンの第2支持層と、シリコン酸化膜の第2絶縁層と、前記第2支持層よりも薄い単結晶シリコンの第2シリコン層と、がこの順に積層されている第2SOI基板を準備する工程と、
前記第1SOI基板の前記第1シリコン層に、前記第1シリコン層の表面から前記第1絶縁層まで到達している第1トレンチによって第1梁部を形成する第1形成工程と、
前記第2SOI基板の前記第2シリコン層に、前記第2シリコン層の表面から前記第2絶縁層まで到達している第2トレンチによって第2梁部を形成する第2形成工程であって、前記第2梁部は前記第1梁部と同一形状を有している、前記第2形成工程と、
前記第1梁部および前記第2梁部の少なくとも一方に、流路となる溝部を形成する工程と、
前記第1シリコン層および前記第2シリコン層の少なくとも一方の表面の少なくとも一部に、金属層を形成する工程と、
前記第1梁部と前記第2梁部とが重なるように、前記第1シリコン層と前記第2シリコン層とを貼り合わせる工程と、
前記第1梁部を形成している前記第1絶縁層および前記第2梁部を形成している前記第2絶縁層を等方エッチングにより除去する工程と、
を備える、センサの製造方法。
[態様8]
前記第1SOI基板の前記第1支持層に、前記第1支持層の表面から前記第1絶縁層まで到達している第3トレンチによってシリコン電極を形成する工程をさらに備え、
前記第1SOI基板に垂直な方向からみたときに、前記第1トレンチと前記第3トレンチとの少なくとも一部が重複している、態様7に記載のセンサの製造方法。
[態様9]
前記第2SOI基板の前記第2支持層に、前記第2支持層の表面から前記第2絶縁層まで到達している開口部を形成する工程をさらに備え、
前記第2SOI基板に垂直な方向からみたときに、開口部と前記第2梁部との少なくとも一部が重複している、態様7または8に記載のセンサの製造方法。
[態様10]
前記金属層を形成する工程は、金属層を所定形状にパターニングする工程をさらに備えている、態様7-9の何れか1項に記載のセンサの製造方法。
【符号の説明】
【0053】
1:センサ 2:振動子 3:第1基部 4:第2基部 5:シリコン電極 10、20:金属層 11:第1シリコン層 12:第1絶縁層 13:第1支持層 21:第2シリコン層 22:第2絶縁層 23:第2支持層 23w:開口部 FP:流路 CP1:第1接続流路 CP2:第2接続流路
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B