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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110183
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】耐電圧検査装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/00 20060101AFI20240807BHJP
   F02P 17/00 20060101ALI20240807BHJP
   H01T 15/00 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
H01F27/00 H
H01F27/00 F
F02P17/00 Y
H01T15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014607
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井本 司
【テーマコード(参考)】
3G019
5E059
【Fターム(参考)】
3G019CA08
3G019KC01
3G019LA14
3G019LA21
5E059AA08
5E059BB15
(57)【要約】
【課題】高電圧コイル装置の耐電圧検査における誤判定を低減する耐電圧検査装置を提供する。
【解決手段】点火コイル70(高電圧コイル装置)は、誘導コイルにより発生させた起電圧を、スプリング75を介して外部に供給可能である。耐電圧検査装置101の金属治具11は、点火コイル70のジョイント74及びプラグキャップ76を収容し、且つ、シールラバー73を介してコイルケース71を支持する。検査用接続部材20は、導電材料で棒状に形成され、頂部21及び柱部22を有し、点火コイル70から検査電圧が印加される。絶縁保護チューブ301は、絶縁材料で中空筒状に形成され、検査用接続部材20の柱部22が内挿され、点火コイル70側の外周面33がプラグキャップ76に挿入されている。絶縁保護チューブ301は、プラグキャップ76に収容される点火コイル70側の外周面33に、径寸法が交互に増減する凹凸形状が形成されている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導コイルを含むコイルケース(71)と、絶縁材料で筒状に形成され、前記コイルケースから一方に延びるジョイント(74)と、前記コイルケースの前記ジョイント側の端面を絶縁するシールラバー(73)と、前記ジョイントの先端に装着された絶縁性の取付キャップ(76)と、前記コイルケース側から前記取付キャップ側へ付勢力を付与する導電性のスプリング(75)と、を備え、前記誘導コイルにより発生させた起電圧を、前記スプリングを介して外部に供給可能な高電圧コイル装置(70)の製造工程で耐電圧検査を行う耐電圧検査装置であって、
前記高電圧コイル装置の前記ジョイント及び前記取付キャップを収容し、且つ、前記シールラバーを介して前記コイルケースを支持する導電性の金属治具(11)と、
導電材料で棒状に形成され、前記取付キャップの内部で前記スプリングの先端に当接する頂部(21)、及び、前記頂部から前記スプリングと反対側に延びる柱部(22)を有し、前記高電圧コイル装置から検査電圧が印加される検査用接続部材(20)と、
絶縁材料で筒状に形成され、前記検査用接続部材の前記柱部が内挿され、前記高電圧コイル装置側の外周面(33)が前記取付キャップに挿入されている絶縁保護チューブ(301)と、
前記検査用接続部材に印加される検査電圧を計測する高電圧プローブ(50)と、
前記高電圧コイル装置から前記検査用接続部材に検査電圧が印加されたとき、前記金属治具に所定値以上の電流が流れる高電圧リークを検出する高電圧リーク検出回路(51)と、
を備え、
前記絶縁保護チューブは、前記取付キャップに収容される前記高電圧コイル装置側の外側面に、径寸法が交互に増減する凹凸形状が形成されている耐電圧検査装置。
【請求項2】
絶縁材料で形成され、前記金属治具との間に空間を介して配置され、前記検査用接続部材の前記高電圧コイル装置とは反対側の端部を支持する接続部材ホルダ(40)と、
前記検査用接続部材を前記高電圧コイル装置の前記スプリングに所定の相対位置で当接させるように保持する保持アクチュエータ(45)と、
をさらに備える請求項1に記載の耐電圧検査装置。
【請求項3】
前記高電圧コイル装置は、エンジンにおいてスパークプラグ(80)に放電を起こさせる点火コイルである請求項1または2に記載の耐電圧検査装置。
【請求項4】
前記絶縁保護チューブは、二液混合熱硬化性エポキシ樹脂で形成されている請求項1または2に記載の耐電圧検査装置。
【請求項5】
前記保持アクチュエータは、前記高電圧コイル装置の前記スプリングに対する前記検査用接続部材の相対位置を可変の目標値に制御するサーボ機能を有する請求項2に記載の耐電圧検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧コイル装置の耐電圧検査を行う耐電圧検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、誘導コイルにより起電圧を発生させる点火コイル等の高電圧コイル装置において絶縁耐久性を向上させる技術が知られている。例えば特許文献1に開示された点火コイルは、ケースがガラス繊維を添加した材料で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-180947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
点火コイルの製造工程において、耐電圧規格以上の電圧で点火コイルから高電圧リークが発生しないことをチェックする耐電圧検査が必要である。ところで、車両のエンジンのスパークプラグを放電させる点火コイルでは、燃料濃度の低い状態で点火させることで燃費向上を図るため、コイル発生電圧の高電圧化による高エネルギー化が要求されている。それに伴い耐電圧規格は時代に連れて上昇している。しかし、耐電圧検査装置の耐電圧性や絶縁耐久性が十分でないと、検査装置側の要因で高電圧リークが発生し、点火コイルの耐電圧不良と誤判定するおそれがある。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、高電圧コイル装置の耐電圧検査における誤判定を低減する耐電圧検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、高電圧コイル装置(70)の製造工程で耐電圧検査を行う耐電圧検査装置である。高電圧コイル装置は、誘導コイルを含むコイルケース(71)と、ジョイント(74)と、シールラバー(73)と、絶縁性の取付キャップ(76)と、導電性のスプリング(75)と、を備える。
【0007】
ジョイントは、絶縁材料で筒状に形成され、コイルケースから一方に延びる。シールラバーは、コイルケースのジョイント側の端面を絶縁する。取付キャップは、ジョイントの先端に装着されている。スプリングは、コイルケース側から取付キャップ側へ付勢力を付与する。高電圧コイル装置は、誘導コイルにより発生させた起電圧を、スプリングを介して外部に供給可能である。
【0008】
本発明の耐電圧検査装置は、金属治具(11)と、検査用接続部材(20)と、絶縁保護チューブ(301)と、高電圧プローブ(50)と、高電圧リーク検出回路(51)と、を備える。導電性の金属治具は、高電圧コイル装置のジョイント及び取付キャップを収容し、且つ、シールラバーを介してコイルケースを支持する。
【0009】
検査用接続部材は、導電材料で棒状に形成され、取付キャップの内部でスプリングの先端に当接する頂部(21)、及び、頂部からスプリングと反対側に延びる柱部(22)を有し、高電圧コイル装置から検査電圧が印加される。絶縁保護チューブは、絶縁材料で筒状に形成され、検査用接続部材の柱部が内挿され、高電圧コイル装置側の外周面(33)が取付キャップに挿入されている。
【0010】
高電圧プローブは、検査用接続部材に印加される検査電圧を計測する。高電圧リーク検出回路は、高電圧コイル装置から検査用接続部材に検査電圧が印加されたとき、金属治具に所定値以上の電流が流れる高電圧リークを検出する。
【0011】
絶縁保護チューブは、取付キャップに収容される高電圧コイル装置側の外側面に、径寸法が交互に増減する凹凸形状が形成されている。これにより、検査用接続部材の頂部から絶縁保護チューブの外周面に沿って進む経路の沿面距離が延長し、高電圧リークが起こりにくくなる。よって、高電圧コイル装置の耐電圧検査における誤判定を低減することができる。
【0012】
好ましくは、本発明の耐電圧検査装置は、接続部材ホルダ(40)と、保持アクチュエータ(45)と、をさらに備える。接続部材ホルダは、絶縁材料で形成され、金属治具との間に空間を介して配置され、検査用接続部材の高電圧コイル装置とは反対側の端部を支持する。保持アクチュエータは、検査用接続部材を高電圧コイル装置のスプリングに所定の相対位置で当接させるように保持する。
【0013】
これにより、接続部材ホルダと金属治具との間で沿面放電リークが空中放電リークに置き換えられるため、耐電圧性が向上する。また、絶縁保護チューブから金属治具へ至る高電圧リークを直接視認可能となるため不具合箇所の特定が容易になり、メンテナンス時間が短縮する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】点火コイルがエンジンブロックに搭載された状態を示す断面図。
図2】比較例の耐電圧検査装置に点火コイルをセットした状態の断面図。
図3】比較例の耐電圧検査装置における高電圧リークの発生経路を説明する図2の検査用接続部材周辺の拡大断面図。
図4】比較例の絶縁保護チューブの模式図。
図5】一実施形態の耐電圧検査装置に点火コイルをセットした状態の断面図。
図6図5の検査用接続部材周辺の拡大断面図。
図7】一実施形態の絶縁保護チューブの模式図。
図8】(a)比較例、(b)一実施形態の接続部絶縁保護チューブの沿面距離を示す模式図。
図9】絶縁保護チューブから金属治具へ至る高電圧リークの視認状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態による耐電圧検査装置を図面に基づいて説明する。本発明の耐電圧検査装置は、誘導コイルにより発生させた起電圧を外部に供給可能な高電圧コイル装置の製造工程で耐電圧検査を行う装置である。一実施形態では、「高電圧コイル装置」の一例として、車両等のエンジンにおいてスパークプラグに放電を起こさせる点火コイルを耐電圧検査の対象製品として説明する。ここで、「誘導コイル」が巻線部品のみを指すのに対し、「高電圧コイル装置」は誘導コイルを含み高電圧を外部に供給する装置全体を表すことを明示する目的で、末尾に「装置」を付ける。一方、「点火コイル」は、巻線部品のみではなく装置全体を表す用語として慣用的に用いられるため、「点火コイル装置」とせず、「点火コイル」と記載する。
【0016】
図1を参照し、点火コイル70の概略構成、及び、エンジンブロック90への搭載形態について説明する。エンジンブロック90には点火コイル70が挿入される搭載穴92が形成されており、搭載穴92の底にはスパークプラグ80が設置されている。以下、便宜上、図1の上側を「上」、図1の下側であるエンジンの気筒側を「下」として記載する。
【0017】
点火コイル70は、誘導コイルを含むコイルケース71と、ジョイント74と、シールラバー73と、絶縁性の「取付キャップ」としてのプラグキャップ76と、導電性のスプリング75と、を備える。
【0018】
コイルケース71は絶縁材料(例えば二液混合熱硬化性エポキシ樹脂)で略直方体状に形成され、内部に誘導コイルが収容されている。電源からコネクタ72を介して誘導コイルの一次巻線に断続的に通電されると、誘導作用によって二次巻線に起電圧が発生する。この起電圧は数十kVであり、慣用的に「高電圧」という。ジョイント74は、絶縁材料(樹脂)で筒状に形成され、コイルケース71から下方に延びる。シールラバー73は、ゴム材で形成され、コイルケース71のジョイント74側の端面を絶縁する。
【0019】
プラグキャップ76は、ゴム材で形成され、ジョイント74の先端に装着されている。エンジンブロック90への搭載時、プラグキャップ76は、スパークプラグ80のコルゲーション部82に圧入組付される。このとき、組付性向上のため、プラグキャップ76の内壁にタルク粉の塗布が必要である。
【0020】
スプリング75は、鋼材で形成され、コイルケース71側からプラグキャップ76側へ(すなわち図1の上側から下側に)付勢力を付与する。スプリング75は、下端が上端よりも小径のテーパ状であり、ジョイント74の穴に上方から挿入されている。ジョイント74の下端側の穴内径がスプリング75上部の外径よりも小さいため、スプリング75が下方に落下することが防止される。スプリング75の下端は、スパークプラグ80のターミナル81に当接する。点火コイル70は、誘導コイルにより発生させた起電圧を、スプリング75を介してスパークプラグ80のターミナル81に供給可能である。
【0021】
ここで、点火コイル70では、以下のような要因により、製品内部での高電圧リークやエンジンブロック90への高電圧リークが発生する可能性がある。
・コイルケース71の割れ
・シールラバー73のピンホール、亀裂
・ジョイント74のピンホール、割れ
・プラグキャップ76のピンホール、亀裂 等
【0022】
点火コイル70の高電圧リークが発生すると、スパークプラグ90の電極部で失火(ミスファイヤ)に至り、エンジン停止につながる。したがって、点火コイル70をエンジンブロック90に取り付ける前に、製造工程での耐電圧検査において、「耐電圧規格以上の電圧で高電圧リークが検出されないこと」のチェックが必要となる。本実施形態の耐電圧検査装置は、そのチェックを行うための装置である。
【0023】
(比較例)
まず図2図4を参照し、比較例の耐電圧検査装置109の構成、及び、比較例の耐電圧検査装置109で発生する課題について説明する。比較例の絶縁保護チューブの符号を「309」とし、後述する一実施形態の絶縁保護チューブの符号「301」と区別する。比較例の耐電圧検査装置109は、金属治具11、検査用接続部材20、接続部材ホルダ40、絶縁スペーサ18、絶縁保護チューブ309、高電圧プローブ50、高電圧リーク検出回路51等を備える。金属治具11、検査用接続部材20、接続部材ホルダ40、絶縁スペーサ18及び絶縁保護チューブ309を含めて「検査治具」という。
【0024】
金属治具11は、点火コイル70が実際に搭載されるエンジンブロック90と同じ材質である導電性の金属(例えば鉄又はアルミニウム)で、また、実際の搭載穴92と同じ深さ寸法で形成されている。金属治具11は、点火コイル70のジョイント74及びプラグキャップ76を収容し、且つ、シールラバー73を介してコイルケース71を支持する。
【0025】
検査用接続部材20は、導電材料(例えば黄銅)で棒状に形成され、頂部21及び柱部22を有する。頂部21は柱部22よりも大径の鍔状に形成されており、プラグキャップ76の内部でスプリング75の先端に当接する。柱部22は頂部21からスプリング75と反対側に延びる。検査用接続部材20は、点火コイル70から耐電圧規格以上の電圧が検査電圧として印加される。
【0026】
接続部材ホルダ40は、絶縁材料(例えば布入りベークライト又はガラス布入りエポキシ樹脂)で多段の円柱状に形成され、中心軸に沿って挿通穴42及びチューブ収容穴43が形成されている。検査用接続部材20の頂部21とは反対側の端部である下端部23は、接続部材ホルダ40の挿通穴42を挿通し、ワッシャ25で抜け止めされている。こうして接続部材ホルダ40は、検査用接続部材20の下端部23を支持する。
【0027】
絶縁スペーサ18は、絶縁材料(例えばモノマーキャストナイロン又は6ナイロン)で筒状に形成され、金属治具11と接続部材ホルダ40との間に挟持されている。接続部材ホルダ40と絶縁スペーサ18、絶縁スペーサ18と金属治具11とは、樹脂ボルト19を用いて締結される。これにより、検査用接続部材20を接続部材ホルダ40側に押し付けたとき、点火コイル70のスプリング75との相対位置が決まるため、スプリング75を過剰に圧縮させることによる破損が防止される。
【0028】
絶縁保護チューブ309は、絶縁材料で筒状に形成され、中心穴32に検査用接続部材20の柱部22が内挿される。比較例の絶縁保護チューブ309はガラス布入りエポキシ樹脂で、図4に示すように、単純な円筒状に形成されている。絶縁保護チューブ309の点火コイル70側の外周面39はプラグキャップ76に挿入されており、接続部材ホルダ40側の外周面34が接続部材ホルダ40のチューブ挿入穴43に挿入されている。
【0029】
検査用接続部材20の下端面24には、シリンダ59により押圧された導通ピン58が当接している。高電圧プローブ50は、導通ピン58の電圧を計測することにより、検査用接続部材20に印加される検査電圧を計測する。高電圧リーク検出回路51は、点火コイル70から検査用接続部材20に検査電圧が印加されたとき、金属治具11に所定値以上の電流が流れる高電圧リークを検出する。
【0030】
判定部60は、高電圧プローブ50及び高電圧リーク検出回路51からの信号を受信し、点火コイル70の製品不良を判定する。高電圧プローブ50で検出された電圧が規格値以上であり、且つ、高電圧リーク検出回路51で高電圧リークが検出されないとき、判定部60は、点火コイル70が良品であると判定する。一方、高電圧リーク検出回路51で高電圧リークが検出されたとき、または、高電圧プローブ50で検出された電圧が規格値未満のとき、判定部60は、点火コイル70の製品不良であると判定する。高電圧リークが検出された場合は耐電圧不良であると考えられる。また、高電圧リークが検出されず、検出電圧が規格値未満の場合、点火コイル70の誘導コイルの断線、接触不良や内部漏電等による出力不足の可能性が考えられる。
【0031】
ところが耐電圧検査装置109の検査治具の内部でリークが生じると、点火コイル70が良品であるにもかかわらず製品不良であると誤判定される。特に車両エンジン用の点火コイル70の耐電圧規格は時代に連れて上昇しており、従来では例えば33kV程度であった耐電圧規格が最近では40kV以上にまで上昇している。そのため、例えば絶縁保護チューブ309の絶縁耐久性が不足し、長時間(例えば約1000Hr)の使用により、筒の内外を貫通するピンホールPH(図4に破線で図示)が発生する場合がある。このように検査治具の内部でのリーク発生による誤判定が増加することが懸念される。
【0032】
図3において、検査治具の内部でのリーク発生経路を太破線矢印で示す。リーク発生頻度が多い順に経路[1]、[2]、[3]と記す。経路[1]は、検査用接続部材20の頂部21から絶縁保護チューブ309の点火コイル70側の外周面39に沿って進み、プラグキャップ76の底面、外周面を回って金属治具11に至る経路である。
【0033】
なお、絶縁保護チューブ309の外周面39とプラグキャップ76の内壁との間には環状の隙間がある。そのため、絶縁保護チューブ309付きの検査用接続部材20に代え、スパークプラグ80相当の形状をした接続部材を用いて隙間を無くすように密閉化する方が実際の搭載形態に近づき好ましいとも思われる。しかし、スパークプラグ80のコルゲーション部82と嵌合するプラグキャップ76の内壁には組付時にタルク粉を塗布する必要があり、検査工程後の工程でプラグキャップ76の内壁のタルク粉が取れる不都合が生じる。この不都合を回避するため、プラグキャップ76の内壁に検査治具が触れない状態での検査が必要となる。
【0034】
経路[2]は、検査用接続部材20の柱部22の途中から絶縁保護チューブ309の接続部材ホルダ40側の外周面34に沿って進み、プラグキャップ76の底面、外周面を回って金属治具11に至る経路である。絶縁保護チューブ309の絶縁耐久性の不足によりピンホールPHが発生すると、経路[2]はピンホールPHを通るようにショートカットされる。
【0035】
経路[3]は、接続部材ホルダ40から絶縁スペーサ18を経由して金属治具11に至る経路である。
【0036】
このように検査治具の内部で発生した高電圧リークに基づき製品不良と誤判定すると、点火コイル70の製造工程における直行率が低下する。また、製品不良であるか検査治具の不具合であるかの判別や、検査治具の不具合の場合にリーク箇所の特定やメンテナンスに時間がかかるという問題がある。
【0037】
(一実施形態)
次に図5図9を参照し、一実施形態による耐電圧検査装置101の構成及び作用効果を説明する。図5図7に示すように、一実施形態の耐電圧検査装置101は、比較例の耐電圧検査装置109に対し以下の点が異なる。
(a)絶縁保護チューブの材質、及び、点火コイル70側の外周面の形状。
(b)金属治具11と接続部材ホルダ40とが空間を介して配置された分離構成。
(c)検査用接続部材20の高さ(すなわち、点火コイル70のスプリング75に対する相対位置)を保持する機構。
(d)接続部材ホルダ40に収容される絶縁保護チューブの外周面34の長さ。
【0038】
これらの相違点を除き、金属治具11、検査用接続部材20、接続部材ホルダ40、高電圧プローブ50、高電圧リーク検出回路51及び判定部60については比較例の耐電圧検査装置109の構成と同様であるため説明を省略する。相違点(a)~(d)について順に説明する。
【0039】
(a)絶縁保護チューブの材質、形状
一実施形態の絶縁保護チューブ301は、二液混合熱硬化性エポキシ樹脂で形成されている。例えば点火コイル70のコイルケース71等に用いられる材料と同じ材料が用いられる。二液混合熱硬化性エポキシ樹脂は、比較例で用いられるガラス布入りエポキシ樹脂に比べて絶縁耐久性に優れ、長時間の使用でもピンホールが発生しない。また、二液混合熱硬化性エポキシ樹脂は切削性が良いため複雑な形状の加工にも適している。
【0040】
図7等に示すように、一実施形態の絶縁保護チューブ301は、プラグキャップ76に収容される点火コイル70側の外側面33に、径寸法が交互に増減する凹凸形状が形成されている。交互に配置される大径部及び小径部の数や間隔、径寸法の比は適宜設定されてよい。中心穴32に検査用接続部材20が内挿される点は比較例と同様である。
【0041】
図8(a)、(b)を参照し、比較例及び一実施形態の絶縁保護チューブ309、301における点火コイル70側の外周面39、33での沿面放電リーク時の沿面距離を対比する。沿面放電リークは絶縁物の表面に沿って電流が流れる現象であり、湿度や面粗度の影響を受ける。誘電率が高い絶縁物ほど起こりやすく、また、絶縁物の背後に導体がある場合に起こりやすい。
【0042】
比較例の絶縁保護チューブ309では単一径の外周面39に沿った直線状の最短ルート(図3の経路[1]に相当)で沿面放電リークが起きる。それに対し、一実施形態の絶縁保護チューブ301では凹凸形状が形成された外周面33に沿って沿面距離が延長するため、沿面放電リークが起きにくくなり、耐電圧性が向上する。
【0043】
(b)金属治具と接続部材ホルダとの分離構成
比較例では金属治具11と接続部材ホルダ40との間に絶縁スペーサ18が設けられ、互いの間隔が規制されているのに対し、一実施形態では絶縁スペーサ18が無く、金属治具11と接続部材ホルダ40とが空間を介して分離配置されている。そのため、接続部材ホルダ40から金属治具11に放電リークが起きる場合、比較例では絶縁スペーサ18を経由する沿面放電リークとなるが、一実施形態では空中放電リークとなる。
【0044】
空中放電リークは、大気中で分離した二つの導体間に印加される電圧が限界を超えたとき火花を伴った放電が生じる現象である。同じ印加電圧により放電リークが起きる最小距離は、沿面放電リークよりも空中放電リークの方が長い。絶縁スペーサ18を無くして金属治具11と接続部材ホルダ40とを分離することで沿面放電リークが空中放電リークに置き換えられる。つまり図3の経路[3]が無くなり、耐電圧性が向上する。
【0045】
また図9に示すように、絶縁保護チューブ301から金属治具11へ至る経路(図3の経路[2]に相当)での高電圧リークによる放電発光Lを作業者が直接視認可能となる。したがって、ピンホール等の不具合箇所の特定が容易になり、メンテナンス時間の短縮が図られる。
【0046】
(c)検査用接続部材の高さ保持機構
絶縁スペーサ18を無くすと、検査用接続部材20をスプリング75側に押し付けたとき、スプリング75を過剰に圧縮させることによる破損防止のためのストッパ機能が得られなくなる。そのため、検査用接続部材20をスプリング75に所定の相対位置で当接させるように保持する保持アクチュエータ45が備えられている。保持アクチュエータ45は、接続部材ホルダ40を支持し、検査用接続部材20の軸方向に往復駆動する。
【0047】
一実施形態の保持アクチュエータ45は、サーボモータ46を用いて構成されており、点火コイル70のスプリング75に対する検査用接続部材20の相対位置を可変の目標値に制御するサーボ機能を有する。例えばサイズの異なる複数機種の点火コイルに対して一台の耐電圧検査装置101を共用する場合、サーボモータ46の制御目標値の設定を変更することで、治具を交換しなくても共用可能となる。
【0048】
(d)絶縁保護チューブの長さ
接続部材ホルダ40の全高は比較例と一実施形態とで同じである。しかし、一実施形態におけるチューブ収容穴43の深さH1(図6)は、比較例のチューブ収容穴43の深さH9(図3)よりも深く形成されている。その分、一実施形態の絶縁保護チューブ301では、接続部材ホルダ40に収容される外周面34の長さが比較例よりも長くなる。これにより外周面34の沿面距離が長くなり、絶縁性が向上する。
【0049】
なお、接続部材ホルダ40側の外周面34にも点火コイル70側の外周面33と同様に凹凸形状を形成することも可能であるが、保持強度が低下するというデメリットがある。そのため、接続部材ホルダ40側の外周面34には保持強度の確保の観点から凹凸形状は形成されず、軸長自体を伸ばすことで沿面距離が延長されている。
【0050】
(効果)
本実施形態の耐電圧検査装置101では、絶縁保護チューブ301の絶縁耐久性を向上させ、さらに接続部材ホルダ40を金属治具11と分離して耐電圧性を向上させることで検査装置側の要因による高電圧リークの発生を低減することができる。したがって、点火コイル70の耐電圧検査における誤判定を低減することができる。
【0051】
(その他の実施形態)
・本発明の検査対象である「高電圧コイル装置」は、エンジンに搭載される点火コイルに限らず、誘導コイルにより発生させた起電圧を外部に供給可能な、どのような用途のコイル装置であってもよい。点火コイル70におけるプラグキャップ76に対し、一般化された高電圧コイル装置では「取付キャップ」という。
【0052】
・上記実施形態における保持アクチュエータ45は、サーボ機能を有するサーボモータ等のアクチュエータに限らない。検査用接続部材20のセット高さが異なる複数機種を切り替える必要がなくセット高さが一定の機種のみを検査対象とする場合には、例えば一般シリンダのストロークエンドで検査用接続部材20を保持するようにしてもよい。
【0053】
・本発明の耐電圧検査装置は、少なくとも絶縁保護チューブ301の高電圧コイル装置側の外側面に凹凸形状が形成されていることが要件である。金属治具11と接続部材ホルダ40とが間に空間を介して配置されることは必須ではない。例えば複数のスリットを有する柵状の絶縁スペーサを用いることで、検査用接続部材20の高さを規制しつつ、高電圧リークを直接視認可能な効果が部分的に得られる。
【0054】
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0055】
101・・・耐電圧検査装置、
11 ・・・金属治具、
20 ・・・検査用接続部材、 21・・・頂部、 22・・・柱部、
301・・・絶縁保護チューブ、
33 ・・・(高電圧コイル装置側)外周面、
40 ・・・接続部材ホルダ、 45 ・・・保持アクチュエータ、
50 ・・・高電圧プローブ、 51 ・・・高電圧リーク検出回路、
70 ・・・点火コイル(高電圧コイル装置)、
71 ・・・コイルケース、 73・・・シールラバー、 74・・・ジョイント、
75 ・・・スプリング、 76・・・プラグキャップ(取付キャップ)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9