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  • 特開-金属部材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110194
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】金属部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/352 20140101AFI20240807BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20240807BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
B23K26/352
B23K26/00 N
B23K26/067
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014630
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤笠 雄太
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃司
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AB01
4E168CB02
4E168DA02
4E168DA28
4E168DA43
4E168EA05
4E168JA01
(57)【要約】
【課題】金属部材の外面に複数の凹部を形成する際の時間を短縮する。
【解決手段】金属部材の製造方法では、金属部材の外面における互いに離れている複数の照射領域に対し、同一のレーザ装置から複数のレーザ光を同時に照射することで、それぞれの照射領域に凹部が形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材の製造方法であって、
金属部材の外面における互いに離れている複数の照射領域に対し、同一のレーザ装置から複数のレーザ光を同時に照射することで、それぞれの前記照射領域に凹部を形成すること
を備える金属部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属部材の製造方法であって、
複数の前記レーザ光の照射により複数の前記照射領域に前記凹部を形成する際、ハイ期間とロー期間とが複数回にわたって交互に到来し、
前記ハイ期間では、それぞれの前記レーザ光の強度がハイレベルとなり、前記ロー期間では、それぞれの前記レーザ光の強度が、ハイレベルよりも低いローレベルとなり、
前記ロー期間は、前記ハイ期間よりも長い
金属部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の金属部材の製造方法であって、
複数の前記照射領域は、略円形であり、
隣接する前記照射領域の間隔は、これらの照射領域の直径よりも大きい
金属部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材の外面に多数の凹部を形成し、アンカー効果により、金属部材の外面におけるこれらの凹部が形成された部分と樹脂部材とを接合する技術が知られている。また、特許文献1に記載されているように、アンカー効果により樹脂部材と接合させるため、レーザ光を照射することで、金属部材の外面に多数の凹部を形成する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-100959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された技術では、1つのレーザ光を順次照射することで、金属部材の外面に多数の凹部が形成される。このため、凹部の形成に時間を要していた。
本開示の一態様では、金属部材の外面に複数の凹部を形成する際の時間を短縮するのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、金属部材の製造方法であって、金属部材の外面における互いに離れている複数の照射領域に対し、同一のレーザ装置から複数のレーザ光を同時に照射することで、それぞれの照射領域に凹部を形成することを備える。
【0006】
上記構成によれば、複数のレーザ光を同時に照射することで、金属部材の外面に複数の凹部が形成される。このため、金属部材の外面に複数の凹部を形成する際の時間を短縮できる。
【0007】
本開示の一態様では、複数のレーザ光の照射により複数の照射領域に凹部を形成する際、ハイ期間とロー期間とが複数回にわたって交互に到来してもよい。ハイ期間では、それぞれのレーザ光の強度がハイレベルとなり、ロー期間では、それぞれのレーザ光の強度が、ハイレベルよりも低いローレベルとなってもよい。ロー期間は、ハイ期間よりも長くてもよい。
【0008】
上記構成によれば、複数のレーザ光を照射した際、金属部材における隣接する凹部の間の部分が溶融し、これによりこれらの凹部が潰れてしまうのを抑制できる。
本開示の一態様では、複数の照射領域は、略円形であってもよい。隣接する照射領域の間隔は、これらの照射領域の直径よりも大きくてもよい。
【0009】
上記構成によれば、第1及び第2照射領域の間隔が狭くなるのを抑制できる。このため、複数のレーザ光を照射した際、金属部材における第1及び第2照射領域の間の部分が溶融し、第1及び第2照射領域に形成される凹部が潰れてしまうのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】レーザ装置の説明図である。
図2】レーザ光のパルス照射の説明図である。
図3】金属部材の外面におけるレーザ光の照射領域の説明図である。
図4】複数の凹部が形成された金属部材の断面図である。
図5】設定(1)~(6)のパルス照射に形成された複数の凹部の評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本開示の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0012】
[1.概要]
本実施形態の製造方法では、レーザ装置1により外面に多数の孔状の凹部4が形成された金属部材2が製造される(図1、3、4参照)。一例として、金属部材2の外面における多数の凹部4が形成された部分は、アンカー効果により接合強度が向上した状態で樹脂部材に接合され、これにより、接合された金属部材2と該樹脂部材とを含む複合部材が構成される。無論、多数の凹部4が形成された金属部材2は、樹脂部材に接合すること以外の他の用途に用いられても良い。
【0013】
[2.レーザ装置]
レーザ装置1は、レーザ発振器10と、光路11と、ヘッド12とを備え、ヘッド12から金属部材2の外面に対し、複数のレーザ光Lを照射するよう構成される(図1参照)。
【0014】
レーザ発振器10は、レーザ媒体を励起させると共に、励起したレーザ媒体が発した光を増幅させることで、レーザ光を生成する。一例として、レーザ発振器10は、光ファイバを増幅媒質として用いるファイバレーザとして構成されていても良い。
【0015】
光路11は、レーザ発振器10により生成されたレーザ光を、ヘッド12に導く。
ヘッド12は、コリメーション部13と、DOE(Diffractive Optical Element)14と、フォーカスレンズ15と、位置補正部16とを有する。なお、ヘッド12は、位置補正部16を有さなくても良い。
【0016】
コリメーション部13は、例えば、レンズ及び/又はミラーにより、レーザ発振器10から導かれたレーザ光の向きを調整する部位である。
DOE14は、光路11を通過したレーザ光Lを分岐させ、複数のレーザ光Lを生成する。DOE14にて生成された複数のレーザ光Lが、ヘッド12から照射される。
【0017】
フォーカスレンズ15は、各レーザ光Lの絞りを調整する部位である。溶接の際には、金属部材2の直前で収束するように各レーザ光Lの絞りが調整される。
位置補正部16は、フォーカスレンズ15を通過した各レーザ光Lが照射される位置を調整する部位である。
【0018】
なお、複数のレーザ光Lは、上記方法に限らず、様々な方法により生成され得る。具体的には、例えば、分岐ミラーを用いて1つのレーザ光を複数に分岐させることで、複数のレーザ光Lが生成されても良い。また、例えば、1本の光ファイバを複数の光ファイバに分岐するPLCスプリッタにより1つのレーザ光を分岐することで、複数のレーザ光Lが生成されても良い。
【0019】
この外にも、例えば、コヒーレントビームコンバイニング技術により複数のレーザ光を結合することで、金属部材2の外面に照射される複数のレーザ光Lのプロファイルを設定しても良い。
【0020】
[3.金属部材の製造方法]
本実施形態の製造方法では、金属部材2の外面における多数の点状の照射領域3の各々に対し、レーザ装置1により複数のレーザ光Lが照射され、これにより、各照射領域3に凹部4が形成される(図1、3、4参照)。該製造方法は、レーザ装置1から照射される複数のレーザ光Lに関する設定が行われる設定工程と、複数のレーザ光Lを金属部材2に照射する照射工程とを有する。
【0021】
[(1)設定工程]
設定工程では、作業者がレーザ装置1を操作することで、照射工程にて照射される複数のレーザ光Lのプロファイルが設定される。具体的には、例えば、複数のレーザ光Lの波長、強度、及び強度の分布や、金属部材2の外面における各レーザ光Lの照射領域3の形状、サイズ、及び位置や、パルス照射を行うか否かや、金属部材2の外面に対する複数のレーザ光Lの角度が設定されても良い。
【0022】
一例として、各照射領域3は、点状の領域として設定される。より詳しくは、各照射領域3は、直径がD1である略円形の領域として設定されても良い(図3参照)。無論、これに限らず、各照射領域3は、略正多角形の領域として設定されても良い。また、各照射領域3は、異なる形状であっても良い。
【0023】
また、一例として、各照射領域3は、行列状に並ぶように設定されても良い。そして、最も近接する2つの照射領域3の距離D2、換言すれば、隣接する2つの照射領域3の間に確保すべき最短の距離D2は、照射領域3の直径であるD1よりも大きな値に設定されても良い(図3、4参照)。無論、これに限らず、D2は、D1以下の値に設定されても良い。また、複数の照射領域3の一部について、D2がD1よりも大きくなるように設定されていても良い。
【0024】
なお、各照射領域3の配置もまた適宜定めることができ、例えば、各照射領域3は一列に並んでいても良いし、不規則に配置されていても良い。無論、このような場合においても、D2は、D1よりも大きな値に設定されても良いし、D1以下の値に設定されても良い。
【0025】
また、一例としてパルス照射が行われても良く、パルス照射が行われる場合には、凹部4を形成するために複数のレーザ光Lを照射する際、各レーザ光Lはハイ状態とロー状態とを交互に繰り返す(図2参照)。ハイ状態とは、予め定められた強度(以後、ハイレベル)のレーザ光が照射された状態であり、ロー状態とは、レーザ光の強度がハイレベルよりも低い強度(以後、ローレベル)となった状態を意味する。一例として、本実施形態では、ロー状態である場合には、レーザ光の強度が0になり、レーザ光が照射されない。また、パルス照射が行われる場合には、ハイ状態が継続するハイ期間の長さと、ロー状態が継続するロー期間の長さとが設定されても良く、また、パルス照射の回数、換言すれば、各凹部4を形成するために各レーザ光をハイ状態とする回数が設定されても良い。
【0026】
なお、一例として、ロー期間はハイ期間よりも長くなるように設定されても良い。無論、これに限らず、ロー期間の長さがハイ期間の長さ以下となるように設定されても良い。
また、パルス照射が行われない場合には、照射工程では、各レーザ光のハイ状態とロー状態とを切り替えず、各レーザ光Lの照射期間中にハイ状態を維持することで、凹部が形成されても良い。
【0027】
また、一例として、金属部材2の外面に対する複数のレーザ光Lの角度は、略90°に設定されると共に、略円錐形の凹部4が形成されるよう、各レーザ光Lの強度と、各照射領域3におけるレーザ光Lの強度の分布が設定される(図4参照)。しかし、これに限らず、金属部材2の外面に対する複数のレーザ光Lの角度は、略90°とは異なる角度であっても良い。また、凹部4の形状は、略円錐形に限らず、例えば、金属部材2の外面に直交する断面において四角形や楕円形の形状を有する凹部4が形成されても良い。
【0028】
[(2)プロファイルの詳細]
各レーザ光Lの波長は、一例として1070nmであっても良い。無論、これに限らず、各レーザ光Lの波長は適宜設定される。
【0029】
また、隣接する2つの照射領域3の距離D2は、適宜設定される。
また、略円形である各照射領域3の直径D1もまた、適宜設定される。
また、パルス照射により凹部4を形成する際のパルスが発生する回数は、適宜設定される。
【0030】
また、パルス照射の際、ハイ状態である場合に各照射領域3に照射されるレーザ光Lの強度(W)をPとし、ハイ期間の長さをThi(ms)とし、ロー期間の長さをTlow(ms)とする。そして、以下の式に従い、評価指標Iを算出する。
【0031】
I=P×Thi/Tlow
図5の表における(1)~(6)に従ってP、Thi、及びTlowを設定した場合のパルス照射により形成された各凹部4を確認した。設定(4)である場合には、各凹部4は良好に形成されなかった。一方、設定(6)である場合には、各凹部4が良好に形成され、設定(1)~(3)、(5)である場合には、各凹部4がさらに良好に形成された。
【0032】
したがって、Iが40.06667以下、換言すれば、Iが約40以下となるように、P、Thi、及びTlowを設定しても良い。これにより、各凹部4が良好に形成され得る。また、Iが21.46429以下、換言すれば、Iが約21以下となるようにP、Thi、及びTlowを設定されても良い。これにより、各凹部4がさらに良好に形成され得る。
【0033】
[(3)照射工程]
照射工程は、1回又は複数回の照射サイクルを有する。各照射サイクルでは、レーザ装置1のヘッド12から金属部材2の外面に向けて、設定工程で設定されたプロファイルを有する複数のレーザ光Lが同時に照射される。これにより、金属部材2の外面における各レーザ光Lの照射領域3に、凹部4が形成される(図4参照)。
【0034】
なお、金属部材2の外面における凹部4の面積は、該凹部4が形成された照射領域3の面積よりも大きい(図3、4参照)。つまり、各照射領域3は、金属部材2の外面における凹部4が形成された領域の内側に位置する。
【0035】
複数の照射サイクルが実施される場合、各照射サイクルが終了し、金属部材2の外面に複数の凹部4を形成されると、ヘッド12及び金属部材2の双方又は一方を移動させ、金属部材2の外面における新たな領域が対象領域として設定される。その後、次の照射サイクルが開始され、新たな対象領域に対し複数のレーザ光Lを照射することで、凹部4が形成される。そして、必要とされる回数の照射サイクルが終了されると、照射工程が終了する。
【0036】
一方、1回の照射サイクルが実施される場合には、1回の照射サイクルが終了すると、照射工程が終了する。
[4.効果]
(1)上記実施形態によれば、レーザ装置1のヘッド12から金属部材2の外面に対し、複数のレーザ光Lを同時に照射することで、該外面に複数の凹部4が形成される。このため、金属部材2の外面に複数の凹部4を形成する際の時間を短縮できる。
【0037】
(2)また、パルス照射におけるロー期間は、ハイ期間よりも長いため、パルス照射の際に金属部材2に与えられる熱量を抑制できる。このため、パルス照射により金属部材2における隣接する凹部4の間の部分が溶融し、これによりこれらの凹部4が潰れてしまうのを抑制できる。
【0038】
(3)また、隣接する照射領域3の間隔D2は、略円形の照射領域3の直径D1よりも大きいため、隣接する照射領域3の間隔が狭くなるのを抑制できる。このため、複数のレーザ光Lを照射した際、金属部材2における隣接する照射領域3の間の部分が溶融し、該照射領域に形成される凹部4が潰れてしまうのを抑制できる。
【0039】
[5.他の実施形態]
上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1…レーザ装置、10…レーザ発振器、11…光路、12…ヘッド、13…コリメーション部、14…DOE、15…フォーカスレンズ、16…位置補正部、2…金属部材、3…照射領域、4…凹部。
図1
図2
図3
図4
図5