(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110211
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】固体高分子形電気化学セル
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0228 20160101AFI20240807BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240807BHJP
H01M 8/1004 20160101ALI20240807BHJP
H01M 8/0234 20160101ALI20240807BHJP
H01M 8/0245 20160101ALI20240807BHJP
H01M 8/0247 20160101ALI20240807BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240807BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240807BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240807BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20240807BHJP
C25B 15/00 20060101ALI20240807BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20240807BHJP
C25B 13/05 20210101ALI20240807BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/10 101
H01M8/1004
H01M8/0234
H01M8/0245
H01M8/0247
C25B9/23
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B15/08 302
C25B15/00 304
C25B13/04 302
C25B13/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014662
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】サウラブ シャルマ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 翼
(72)【発明者】
【氏名】柳橋 直毅
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC01
4K021BC03
4K021CA08
4K021CA09
4K021CA10
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB49
4K021DB50
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
5H126AA08
5H126AA12
5H126BB06
5H126EE45
(57)【要約】
【課題】燃料電池において、固体高分子電解質膜に硫酸イオンが発生しても、ガス拡散板が腐食しないようにすること。
【解決手段】固体高分子電解質膜6の両面にカソード側及びアノード側の触媒層7C,7Aが設けられたMEA2と、これを挟んで設けられたカソード側及びアノード側のガス拡散板3C,3Aとを有する単セル1において、少なくともカソード側ガス拡散板3Cの、カソード側触媒層7C側の面に、カソード側腐食防止層10Cを設けた。カソード側触媒層7Cで生成された水と、固体高分子電解質膜6に含まれるスルホン酸基が反応して硫酸イオンが生成されても、カソード側ガス拡散板3Cはカソード側腐食防止層10Cで保護されているので腐食しない。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜と、
前記固体高分子電解質膜の第1面に設けられたカソード側触媒層と、
前記カソード側触媒層の側に設けられたカソード側ガス供給板と、
前記固体高分子電解質膜の第2面に設けられたアノード側触媒層と、
前記アノード側触媒層の側に設けられたアノード側ガス供給板と、
を有する固体高分子型電気化学セルであって、
少なくとも前記カソード側ガス供給板には、前記カソード側触媒層の側の面に、カソード側腐食防止層が設けられていることを特徴とする固体高分子形電気化学セル。
【請求項2】
前記アノード側ガス供給板には、前記アノード側触媒層の側の面に、アノード側腐食防止層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子形電気化学セル。
【請求項3】
前記カソード側触媒層に接触するカソード側微小多孔層と、
前記カソード側微小多孔層と前記カソード側腐食防止層の間に設けられたカソード側ガス拡散層と、
前記アノード側触媒層に接触するアノード側微小多孔層と、
前記アノード側微小多孔層と前記アノード側腐食防止層の間に設けられたアノード側ガス拡散層と、
を具備することを特徴とする請求項2に記載の固体高分子形電気化学セル。
【請求項4】
前記カソード側腐食防止層と前記アノード側腐食防止層は、多孔質の炭素コーティング膜であることを特徴とする請求項3に記載の固体高分子形電気化学セル。
【請求項5】
前記カソード側ガス供給板と前記アノード側ガス供給板は、複数の貫通孔が形成されたガス拡散板と、水素の流路と酸素の流路が一方及び他方の面に形成されたセパレータを含む部材群から選択された部材であることを特徴とする請求項4に記載の固体高分子形電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池や水分解装置に用いることができる固体高分子形電気化学セルに係り、特に、アノード側触媒層及びカソード側触媒層を有する固体高分子電解質膜(膜電極接合体、Membrane Electrode Assembly 、以後必要に応じてMEAと略称する。)の両側にそれぞれ設けられた金属製のガス供給板のうち、少なくともカソード側のガス供給板の内面に腐食防止層が設けられた固体高分子形電気化学セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、燃料電池の発明が開示されている。この燃料電池は、イオン交換膜1の両面にアノードとしての水素極とカソードとしての空気極である白金触媒を設けたMEA(M)と、両極の集電体及びガス拡散層を兼ねた集電体3-1、3-2と、三次元網目状構造の平板状の金属多孔体から構成されたガス拡散層4-1-1、4-2-1と、セパレータ4-1、4-2の各層が積層された構成を供えている。この燃料電池によれば、三次元網目構造による高い気孔率を供えた薄い平板状の金属多孔体によってガス拡散層を構成したため、燃料電池の小型化と高出力化を同時に達成できるものとされている。なお、この項で説明に使用した符号は、前記特許文献1において使用されているものをそのまま用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に示したような従来の一般的な燃料電池(単セル)では、MEAのイオン交換膜にはスルホン酸基やテフロン(登録商標)骨格が含まれているため、カソード(空気極)で水が生成されてスルホン酸基やテフロン(登録商標)骨格と反応すると硫酸イオンやフッ化物イオンが生成される場合がある。このため、イオン交換膜のカソード側触媒及びアノード側触媒の側に、多数の貫通孔が形成されたガス拡散板や、水素と酸素を分離して誘導・供給するセパレータのような金属製の部材が設けられている場合には、これらガス拡散板やセパレータの内面が、硫酸イオン等を含む水と接触して腐食する可能性があるという問題点があった。この問題は、特に水が生成されるカソード側において顕著であると考えられる。
【0005】
本発明は、MEAと、MEAを挟んで設けられる金属製のガス供給板を備えた固体高分子形電気化学セル、例えばガスを分散して供給するガス拡散板や、水素と酸素を分離して導く流路が設けられたセパレータ等を有する燃料電池等の固体高分子形電気化学セルにおいて、固体高分子電解質膜において硫酸イオンが発生したとしても、少なくともカソード側のガス供給板が腐食しないようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の目的を達成するため、請求項1に記載された固体高分子形電気化学セルは、
固体高分子電解質膜と、
前記固体高分子電解質膜の第1面に設けられたカソード側触媒層と、
前記カソード側触媒層の側に設けられたカソード側ガス供給板と、
前記固体高分子電解質膜の第2面に設けられたアノード側触媒層と、
前記アノード側触媒層の側に設けられたアノード側ガス供給板と、
を有する固体高分子形電気化学セルであって、
少なくとも前記カソード側ガス供給板には、前記カソード側触媒層の側の面に、カソード側腐食防止層が設けられていることを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載された固体高分子形電気化学セルは、請求項1に記載の固体高分子形電気化学セルにおいて、
前記アノード側ガス供給板には、前記アノード側触媒層の側の面に、アノード側腐食防止層が設けられていることを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載された固体高分子形電気化学セルは、請求項2に記載の固体高分子形電気化学セルにおいて、
前記カソード側触媒層に接触するカソード側微小多孔層と、
前記カソード側微小多孔層と前記カソード側腐食防止層の間に設けられたカソード側ガス拡散層と、
前記アノード側触媒層に接触するアノード側微小多孔層と、
前記アノード側微小多孔層と前記アノード側腐食防止層の間に設けられたアノード側ガス拡散層と、
を具備することを特徴としている。
【0009】
請求項4に記載された固体高分子形電気化学セルは、請求項3に記載の固体高分子形電気化学セルにおいて、
前記カソード側腐食防止層と前記アノード側腐食防止層は、多孔質の炭素コーティング膜であることを特徴としている。
【0010】
請求項5に記載された固体高分子形電気化学セルは、請求項4に記載の固体高分子形電気化学セルにおいて、
前記カソード側ガス供給板と前記アノード側ガス供給板は、複数の貫通孔が形成されたガス拡散板と、水素の流路と酸素の流路が一方及び他方の面に形成されたセパレータを含む部材群から選択された部材であることを特徴としている。
【0011】
なお、以上説明した各請求項に記載された固体高分子形電気化学セルの発明において、構成要件の一つであるカソード側ガス供給板及びアノード側ガス供給板とは、広い意味において水素又は酸素(空気)を導く機能を備えた金属製の部材を意味しており、実際の単セルや水分解装置の製品における特定の部品名称を特定するものではない。従って、請求項5に記載したように、前記「ガス供給板」には、単セルにおいてMEAを挟んで設けられ、多数の貫通孔が形成された金属板である「ガス拡散板」も含まれるし、また単セルを積層したスタックにおいて単セル間に配置され、各単セルに水素又は酸素(空気)の独立した流路を提供する「セパレータ」と称される金属製の部品も含まれる。
【0012】
なお、各請求項に記載された固体高分子形電気化学セルの発明において、カソードとは燃料電池の空気極であって、電子が外部から流入する電極を意味しているが、固体高分子形電気化学セルが水電解装置である場合には、前記「カソード」とは、外部の電池の陽極に接続される陰極に相当する電極である。
また、アノードとは燃料電池の燃料極であって、電子が外部に流出する電極を意味しているが、固体高分子形電気化学セルが水電解装置である場合には、前記「アノード」とは、外部の電池の陰極から電子が流入する陽極に相当する電極である。
【0013】
本発明の固体高分子形電気化学セルが水電解装置である場合には、燃料電池の場合とは電子の移動方向が逆である。また燃料電池では燃料(水素)と空気(酸素)を供給して電気を得るが、水電解装置では水を供給して電解することで水素と空気が得られ、これを装置外に供給することができる。そこで、本願請求項を水電解装置として解釈するに当たっては、これらの点を踏まえるとともに、前段落で説明した電極名称の対応関係も考慮し、さらに水電解装置に関する公知技術を参酌し、請求項における各構成要件の名称を必要に応じて適宜読み替えるものとする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載された固体高分子形電気化学セルが燃料電池である場合、カソード側触媒層において発生した水と、固体高分子電解質膜に含まれるスルホン酸基が反応して硫酸イオンが生成されたとしても、少なくともカソード側ガス供給板はカソード側腐食防止層によって保護されているため、カソード側ガス供給板が硫酸イオンを含む水によって腐食することはない。
【0015】
請求項2に記載された固体高分子形電気化学セルが燃料電池である場合、さらにアノード側ガス供給板がアノード側腐食防止層によって硫酸イオンから保護されているので、カソード側ガス供給板と同様、アノード側ガス供給板が硫酸イオンによって腐食することは防止される。
【0016】
請求項3に記載された固体高分子形電気化学セルが燃料電池である場合、カソード側触媒層とアノード側触媒層の両方に、微小多孔層とガス拡散層がそれぞれ設けられているので、カソード側ガス供給板及びアノード側ガス供給板に関する電子の授受が良好に行われ、またカソード側触媒層に対する酸素の供給及びアノード側触媒層に対する水素の供給が均一化され、さらにカソードにおいて発生した水をカソード側ガス供給板を経て効果的に外部に排出することができる。
【0017】
請求項4に記載された固体高分子形電気化学セルが燃料電池である場合、カソード側腐食防止層とアノード側腐食防止層が多孔質の炭素コーティング膜から構成されているため撥水性が高く、硫酸イオンを含む水を弾いてカソード側ガス供給板及びカソード側ガス供給板を保護する効果を確実に得ることができる。
【0018】
請求項5に記載された固体高分子形電気化学セルが燃料電池である場合、腐食防止層によって防護されるガス供給板は、単セルにおいてMEAを挟んで設けられ、多数の貫通孔が形成された金属板である「ガス拡散板」でもよいし、また単セルを積層したスタックにおいて単セル間に配置され、各単セルに水素又は酸素(空気)の独立した流路を提供する「セパレータ」と称される金属製の部品でもよく、実際の燃料電池の構成に応じて必要な構成要素に腐食防止層を設けることができる。
【0019】
請求項1乃至5に記載された固体高分子形電気化学セルが水電解装置である場合には、プロトン及び電子の移動方向は燃料電池の場合とは逆となり、外部の電源から供給された電気によって水を水素と酸素に分解して外部に供給することができるが、その際、供給された水と、固体高分子電解質膜に含まれるスルホン酸基が反応して硫酸イオンが生成されたとしても、少なくとも陰極側ガス供給板(請求項における「カソード側ガス供給板」)は陰極側腐食防止層(請求項における「カソード側触媒層」)によって保護されているため、陰極側ガス供給板が硫酸イオンによって腐食することはない。その他、燃料電池と原理、作用は逆となるが、上述した燃料電池としての効果に対応する効果を水電解装置において得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態の単セルの基本構造を模式的に示す分解拡散斜視図である。
【
図2】実施形態の単セルの積層構造と、水素の供給経路を示すために、各層を分離して示した模式的断面図である。
【
図3】実施形態の単セルの積層構造と、水素及び酸素の供給経路を示す模式的断面図である。
【
図4】分図(a)は、実施形態の単セルのカソード側ガス拡散板の平面図であり、分図(b)は、実施形態の単セルのカソード側ガス拡散板にカソード側腐食防止層を形成した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態として、固体高分子形電気化学セルの一具体例である燃料電池の単セル1を、
図1~
図4を参照して説明する。
【0022】
図1は、単セル1の基本構造を模式的且つ簡略化して示す分解拡散斜視図である。なお、
図1は模式図且つ簡略図であるから、その形状、寸法等は、後述する
図2乃至
図3に示した、より具体的な形状、寸法等とは必ずしも一致するものではない。
【0023】
図1に示すように、単セル1は、カソード側触媒層及びアノード側触媒層が設けられた固体高分子電解質膜を含む多層構造のMEA2(膜電極接合体、Membrane Electrode Assembly )と、MEA2のカソード側及びアノード側にそれぞれ設けられたカソード側ガス拡散板3C及びアノード側ガス拡散板3A(Gas Diffusion Plate 、ガス拡散板3と総称する。)と、カソード側ガス拡散板3C及びアノード側ガス拡散板3Aの外面側にそれぞれ設けられたセパレータ4,4(Separator )と、カソード側及びアノード側の各ガス拡散板3C,3AとMEA2との間にそれぞれ設けられた枠状のガスケット5,5(Gasket)とを有しており、これらの各部材は一体化されて平板状のユニットを構成している。
【0024】
なお、カソード側ガス拡散板3Cと、アノード側ガス拡散板3Aと、セパレータ4は、請求項におけるカソード側ガス供給板の具体例である。
【0025】
図1に示す単セル1は発生可能な電圧が低いため、通常は任意の枚数の単セル1を重ねることにより、一般的な燃料電池の最小単位であるスタックを構成し、必要な電圧を得ている。スタックを構成する場合には、重ねられた単セル1と単セル1の間に1個のセパレータ4が配置されるように構成し、スタックの全体を図示しない一対の押付板により上下から挟んで機械的に固定する。そして、稼働時には、スタックの片面にある押付板の流入口から燃料である水素を注入し、スタック内の各単セル1にセパレータ4を介してこれを供給し、スタックの片面にある押付板の流出口から余剰の水素を還流させるようにしている。
【0026】
図2は、単セル1の積層構造の詳細と、水素の供給経路を示すために、各層を適宜分離して示した模式的断面図であり、アノード極(燃料極)の側にセパレータ4が設けられた状態を示している。
図3は、組み立てられた単セル1の構造と水素の供給経路を示す模式的断面図であり、スタックにおいて単セル1のアノード極(燃料極)側とカソード極(空気極)側の両方にセパレータ4が設けられた状態を示している。以下、これらの図を参照して単セル1の構造等を詳細に説明する。
【0027】
図2及び
図3に示す単セル1は、MEA2を供えている。MEA2は、固体高分子電解質膜6の両面に複数種類の機能層がそれぞれ積層されたシート状の構造体である。すなわち、固体高分子電解質膜6の第1面(
図2及び3において上面)にはカソード側触媒層7C(Catalyst Layer、CL) が設けられ、カソード側触媒層7Cにはカソード側微小多孔層8C(Micro Porous Layer、MPL)が設けられ、カソード側微小多孔層8Cにはカソード側ガス拡散層9C(Gas Diffusion Layer 、GDL)が設けられている。また、固体高分子電解質膜6の第2面(
図2及び3において下面)にはアノード側触媒層7A(Catalyst Layer、CL) が設けられ、アノード側触媒層7Aにはアノード側微小多孔層8A(Micro Porous Layer、MPL)が設けられ、アノード側微小多孔層8Aにはアノード側ガス拡散層9A(Gas Diffusion Layer 、GDL)が設けられている。なお、カソード側触媒層7Cとアノード側触媒層7Aを触媒層7と総称し、カソード側微小多孔層8Cとアノード側微小多孔層8Aを微小多孔層8と総称し、カソード側ガス拡散層9Cとアノード側ガス拡散層9Aをガス拡散層9と総称する。
【0028】
固体高分子電解質膜6は、例えばスルホ化されたテトラフルオロエチレンを基にしたフッ素樹脂の共重合体である「ナフィオン」(登録商標)を使用することができるが、この物質、材料に限定するものではなく、要するにイオン伝導性を持つポリマーであって、アノードからカソードへプロトンを移動させることができ、かつ電子や気体の輸送を阻止できるような特性を有していればよい。
【0029】
触媒層7は、白金(Pt)系の金属触媒と当該金属触媒を担持する導電性粒子(例えば炭素粒子)を含んでいるが、特にこのような材料や組成に限定するものではなく、カソード側触媒層7Cにおいてはプロトンと電子と酸素から水を作ることができるものであればよく、またアノード側触媒層7Aにおいては水素をプロトンと電子に分解する機能を有するものであればよい。
【0030】
微小多孔層8は、例えば粒径が数nm程度の炭素粒子を固めた撥水性を有する層であって、カソード側微小多孔層8Cは、カソード側のセパレータ4から電子を受けてカソード側触媒層7Cに送るとともに、カソード側触媒層7Cにおいて生成された水を凝集させることなくカソード側ガス拡散層9Cに送る機能を有し、またアノード側微小多孔層8Aは、アノード側触媒層7Aで生成された電子をアノード側のセパレータ4に送る機能を備えている。
【0031】
ガス拡散層9は、例えば粒径が数μm程度の炭素粒子を固めた導電性の層であって、カソード側ガス拡散層9Cは、カソード側のセパレータ4から供給された酸素を広がらせてカソード側触媒層7Cに均一に行き渡らせる機能を備えており、アノード側ガス拡散層9Aは、アノード側のセパレータ4から供給された水素を広がらせてアノード側触媒層7Aに均一に行き渡らせる機能を備えている。
【0032】
図2及び
図3に示す単セル1において、MEA2の固体高分子電解質膜6は、ガスケット5,5を間に介して、カソード側及びアノード側の両側から、カソード側ガス拡散板3C及びアノード側ガス拡散板3Aによって挟持されている。ガスケット5の外形は、固体高分子電解質膜6と同程度の枠状であり、枠の開口はMEA2よりも若干大きい。またガスケット5は、
図2に示すように1枚のガスケット5の両面に保護紙が設けられているが、実際の単セル1の組み立てにおいては保護紙を剥がし、
図3に示すように1枚のガスケット5として使用する。従ってこの単セル1は、カソード側ガス拡散板3Cとアノード側ガス拡散板3AでMEA2を挟持し、当該挟持部分をガスケット5,5で密封した構造となっている。
【0033】
図2及び
図3に示す単セル1のガス拡散板3は、工業材料としては比較的安価で加工も容易なステンレスで構成されている。カソード側ガス拡散板3Cの内面側にはカソード側腐食防止層10Cが設けられており、カソード側ガス拡散層9Cに接している。アノード側ガス拡散板3Cの内面側にはアノード側腐食防止層10Aが設けられており、アノード側ガス拡散層9Aに接している。カソード側腐食防止層10Cとアノード側腐食防止層10Aを腐食防止層10と総称する。
【0034】
図4(a)に示すように、ガス拡散板3は、矩形の板状部材であり、複数の貫通孔11が縦横に並んで形成されている。
図4(b)に示すように、ガス拡散板3の内面(単セル1の内部に向く面)に腐食防止層10が設けられている。腐食防止層10は、硫酸イオンに対する耐性が高く、かつ材料費が安価なカーボンを採用した。
【0035】
図4(a)に示すガス拡散板に、
図4(b)に示すように腐食防止層10を形成する方法を説明する。
90重量%のカーボン(炭素)と10重量%のセルロースを含むコーティング材料を作製し、ガス拡散板3の一方の面に塗布する。コーティング材料は、貫通孔11が形成されている範囲にはすべて均一に塗布するものとし、また各貫通孔11内には充填せず、貫通孔11が板を貫通している状態を維持することが好ましい。
【0036】
次に、コーティング材料を塗布したガス拡散板3を、放電プラズマ焼結装置の焼成室に収納し、5KNの加圧下において、焼成室内の焼成温度を次の手順で制御することにより焼成を行う。第1工程において、焼成温度を30分かけて室温(20℃)から700℃まで上昇させる。第2工程において、焼成温度を700℃で10分間保持する。第3工程において、加熱を終了(電源をOFF)し、焼成室内の温度が室温(20℃)になるまで放置する。
【0037】
以上の工程により得られた腐食防止層10は、炭素が焼き締まって結晶化が進んでおり、液体に対する高い撥水性を有する炭素コーティング膜となっている。このため、特に水が生成される単セル1のカソード(空気極)側において、カソード側ガス拡散板3Cはステンレス製であるが、その腐食防止層10によって硫酸イオンを含んだ水を弾くため、腐食するおそれが少ない。
【0038】
また、単セル1のアノード(燃料極)側では、固体高分子電解質膜6に含まれるスルホン酸基の影響によってアノード側ガス拡散板3Aが腐食するおそれは小さいが、このアノード側ガス拡散板3Aにも炭素からなる腐食防止層10が設けられているため、仮に硫酸イオン等の腐食性の物質を含んだ水がアノード側に進入したとしても、また他の腐食の原因がアノード側に存在乃至発生したとしても、アノード側ガス拡散板3Aが腐食するおそれは小さい。
【0039】
図2及び
図3に示すように、この単セル1のアノード側ガス拡散板3Aの外面(下面)には、ガスケット12を介してセパレータ4が取りつけられている。セパレータ4には、アノード側ガス拡散板3Aの外面(下面)と対向する面(図中上面)に、水素を供給する多数の溝からなる水素流路13が形成されており、また隣接する他の単セル1のカソード側ガス拡散板3Cの外面と対向する面(図中下面)に、水素流路13とは直交する向きで、酸素を供給する多数の溝からなる酸素流路14が形成されている。
【0040】
図3において、水素は、破線の矢印で模式的に示すように、スタックの底部にある図示しない一方の押付板の流入口から供給され、セパレータ4の水素入口(H
2 in)に入る。そして、単セル1を貫通して設けられた供給路15からセパレータ4の横穴を経て水素流路13に流入し、アノード側ガス拡散板3Aの貫通孔11を通って単セル1内に広がり、MEA2に供給される。さらに水素は、単セル1を貫通して設けられた供給路15から、供給下流側にある隣の単セル1に次々に供給されていく。余剰の水素は、スタックの頂部にある図示しない他方の押付板の水素流路13を経て方向を変え、単セル1を貫通して設けられた他方の供給路15からセパレータ4の水素出口(H
2 out )を経て、スタックの底部にある図示しない一方の押付板の流出口に還流する。また、酸素は、一点鎖線の矢印で模式的に示すように、セパレータ4の酸素流路14からカソード側ガス拡散板3Cの貫通孔11を通って単セル1内に広がる。
【0041】
このセパレータ4は、水素流路13と酸素流路14を共通の部品に作り込むこともできるし、水素流路13と酸素流路14を別々の部品として製作し、組み合わせて使用することもできる。セパレータ4は、工業材料としては比較的安価で加工も容易なステンレスで構成することができる。
【0042】
セパレータ4は、その機能において、また金属製である点においても、上述した腐食防止層10が設けられたガス拡散板3と類似乃至共通している。従って、前述した硫酸イオンが混合した水によって腐食する可能性があるのであれば、特にカソード側のセパレータ4の内面側に腐食防止層10を形成してもよい。
【0043】
以上説明した実施形態は、本願発明の固体高分子形電気化学セルが、燃料電池である場合に関するものであった。しかしながら、本願発明の固体高分子形電気化学セルは、電気のエネルギで水を水素と酸素に分解する水分解装置に適用することもできる。その場合には、燃料電池におけるカソード(空気極)は、外部の電池の陽極に接続される水分解装置の陰極に相当し、また燃料電池におけるアノード(燃料極)は、外部の電池の陰極から電子が流入する水電解装置の陽極に相当し、プロトン及び電子の移動方向は燃料電池の場合とは逆となり、外部の電源から供給された電気によって水を水素と酸素に分解することになるが、その場合においても燃料電池の実施形態の場合に対応した技術的効果が得られる。
【符号の説明】
【0044】
1…単セル
2…MEA
3…ガス供給板としてのガス拡散板
3C…ガス供給板としてのカソード側ガス拡散板
3A…ガス供給板としてのアノード側ガス拡散板
4…ガス供給板としてのセパレータ
6…固体高分子電解質膜
7…触媒層
7C…カソード側触媒層
7A…アノード側触媒層
8…微小多孔層
7C…カソード側微小多孔層
7A…アノード側微小多孔層
9…ガス拡散層
9C…カソード側ガス拡散層
9A…アノード側ガス拡散層
10…腐食防止層
10C…カソード側腐食防止層
10A…アノード側腐食防止層