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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110212
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】固体高分子形電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20240807BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240807BHJP
   H01M 8/0273 20160101ALI20240807BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240807BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240807BHJP
   C25B 15/00 20060101ALI20240807BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240807BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
H01M8/0273
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B15/00 302Z
C25B9/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014663
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】サウラブ シャルマ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 翼
(72)【発明者】
【氏名】柳橋 直毅
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB50
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
5H126AA02
5H126BB06
5H126DD05
5H126EE45
(57)【要約】
【課題】燃料電池の固体高分子電解質膜にピンホールが形成されるのを防止する。
【解決手段】燃料電池1のMEA2は、固体高分子電解質膜6と、その第1面に設けられたカソード側触媒層7C及びカソード側ガス拡散層9Cと、第2面に設けられたアノード側触媒層7A及びアノード側ガス拡散層9Aを有する。ガス拡散層9C,9A と触媒層7C,7A の間には、それぞれ保護層20C,20A が設けられている。燃料電池の運転により温度が変動して固体高分子電解質膜が拡大、縮小を繰り返しても、固体高分子電解質膜6のうち、触媒層7及びガス拡散層9より外側の部分が、ガス拡散層9に繰り返し押圧されてピンホールPが発生することはない。ピンホールによる水素ガス漏れは起きず、発電性能の低下もない。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜と、
前記固体高分子電解質膜の第1面に設けられたカソード側触媒層と、
前記カソード側触媒層の側に設けられたカソード側ガス拡散層と、
前記固体高分子電解質膜の第2面に設けられたアノード側触媒層と、
前記アノード側触媒層の側に設けられたアノード側ガス拡散層と、
を有する固体高分子形電気化学セルであって、
前記カソード側ガス拡散層と前記カソード側触媒層の間に設けられて前記カソード側触媒層の外縁部を覆うカソード側保護層と、
前記アノード側ガス拡散層と前記アノード側触媒層の間に設けられて前記アノード側触媒層の外縁部を覆うアノード側保護層と、
を有することを特徴とする固体高分子形電気化学セル。
【請求項2】
前記カソード側保護層はカソード開口を有する枠状であり、
前記カソード開口の内形は前記カソード側ガス拡散層の外形よりも小さく、
前記アノード側保護層はアノード開口を有する枠状であり、
前記アノード開口の内形は前記アノード側ガス拡散層の外形よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の固体高分子形電気化学セル。
【請求項3】
前記カソード側ガス拡散層と、前記カソード側触媒層及び前記カソード側保護層との間に設けられたカソード側微小多孔層と、
前記アノード側ガス拡散層と、前記アノード側触媒層及び前記アノード側保護層との間に設けられたアノード側微小多孔層と、
を具備することを特徴とする請求項2に記載の固体高分子形電気化学セル。
【請求項4】
前記カソード側保護層及び前記アノード側保護層は、ポリエチレンナフタレートと、ポリイミドと、カプトンからなる保護材料群から選択された1以上の保護材料からなるフィルムにより構成されたことを特徴とする請求項3に記載の固体高分子形電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池等に用いることができる固体高分子型電気化学セルに係り、特に、燃料電池の運転に伴う温度の変動に起因して固体高分子電解質膜にピンホールが形成されることを防止し、当該ピンホールからの水素ガス漏れによる性能低下を防いだ固体高分子型電気化学セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、燃料電池の膜電極接合体の発明が開示されている。この膜電極接合体は、高分子電解質膜111と、高分子電解質膜111の第1主面及び第2主面のそれぞれに設けられた触媒層112,113と、触媒層112,113より大きい外縁形状に形成されたガス拡散層114,115とを備え、さらに高分子電解質膜111の第1主面上の外縁部又は第2主面上の外縁部の少なくとも一方と、ガス拡散層114,115の少なくとも一方との間に内縁部が延在し、且つ当該内縁部が触媒層112,113に重ならないように設けられた額縁状の防潤層116A,116Bと、ガス拡散層114,115の外縁部の少なくとも一方に、その内縁部が重なるように設けられた額縁状の補強層117A,117Bとを備えている。そして、この膜電極接合体を一対のセパレータ14,15によって挟持固定することにより、燃料電池の単セルが構成されている。この膜電極接合体によれば、電解質膜への水分の浸入を抑制することができるので、この膜電極接合体を含む単セルから構成された燃料電池の性能低下を防止できるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-50089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図5は、本願発明者が本願発明に先だって発明した燃料電池における単セルの積層構造を示すとともに、本願発明者が本願発明の研究開発の過程で発見・認識した当該単セルの問題点を示す図である。
【0005】
図5は、燃料電池の構成要素である単セル1aを示している。図5に示す単セル1aは、固体高分子電解質膜6を中心としたシート状の積層構造物であるMEA(Membrane Electrode Assembly 、膜電極接合体)2を有している。MEA2の中心にある固体高分子電解質膜6の第1面及び第2面には、カソード側触媒層7Cとアノード側触媒層7Aが設けられ、カソード側触媒層7Cとアノード側触媒層7Aには、カソード側微小多孔層8Cとアノード側微小多孔層8Aが設けられ、カソード側微小多孔層8Cとアノード側微小多孔層8Aには、カソード側ガス拡散層9Cとアノード側ガス拡散層9Aが設けられている。
【0006】
MEA2は、固体高分子電解質膜6の外周縁部との間に枠状のガスケット5を介装した状態で、カソード側ガス拡散板3Cとアノード側ガス拡散板3Aによって挟持されており、これらの構成部品が一体化されることで燃料電池の単セル1aが構成されている。
【0007】
複数の単セル1aを積み重ねてスタックと称される燃料電池を構成する際には、カソード側ガス拡散板3Cとアノード側ガス拡散板3Aの外面側に、アノード側に燃料を供給する供給路15と、カソード側に空気を供給する酸素流路14を構成するセパレータ4を設け、単セル1aとセパレータ4が交互に積み重ねられた構造で、図示しない固定手段によって一体に固定されることで一体構造のスタックを構成する。
【0008】
図5に示した単セルの研究開発の過程において、本願発明者は次に説明するような問題点を発見した。各単セル1aのMEA2の中心にある固体高分子電解質膜6は、樹脂製であるために、燃料電池の動作による温度の変動によって急速な拡大、縮小を繰り返す。固体高分子電解質膜6は、ガスケット5を介してカソード側ガス拡散板3Cとアノード側ガス拡散板3Aにより強固に挟持固定されているため、カソード側ガス拡散層3C及びアノード側ガス拡散層3Aとガスケット5の間で固体高分子電解質膜6が移動すると、図5中に示すように、固体高分子電解質膜6のうち、カソード側触媒層7C及びカソード側ガス拡散層9C、又はアノード側触媒層7A及びアノード側ガス拡散層9Aの各外周縁部よりも外側の部分にピンホールPが発生してしまう。スタックを運転している時にこのようなピンホールPが発生すると、水素ガスの漏れを引き起し、発電性能の低下という問題が発生してしまう。
【0009】
本発明は、以上説明した本願発明者の知見と、これに基づく発見に鑑みてなされたものであって、固体高分子型電気化学セルにおいて、作動時の温度変化に起因する伸縮のために固体高分子電解質膜にピンホールが形成されることを防止し、当該ピンホールに起因する水素ガスの漏れによる発電性能の低下を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の目的を達成するため、請求項1に記載された固体高分子型電気化学セルは、
固体高分子電解質膜と、
前記固体高分子電解質膜の第1面に設けられたカソード側触媒層と、
前記カソード側触媒層の側に設けられたカソード側ガス拡散層と、
前記固体高分子電解質膜の第2面に設けられたアノード側触媒層と、
前記アノード側触媒層の側に設けられたアノード側ガス拡散層と、
を有する固体高分子型電気化学セルであって、
前記カソード側ガス拡散層と前記カソード側触媒層の間に設けられて前記カソード側触媒層の外縁部を覆うカソード側保護層と、
前記アノード側ガス拡散層と前記アノード側触媒層の間に設けられて前記アノード側触媒層の外縁部を覆うアノード側保護層と、
を有することを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載された固体高分子型電気化学セルは、請求項1に記載の固体高分子型電気化学セルにおいて、
前記カソード側保護層はカソード開口を有する枠状であり、
前記カソード開口の内形は前記カソード側ガス拡散層の外形よりも小さく、
前記アノード側保護層はアノード開口を有する枠状であり、
前記アノード開口の内形は前記アノード側ガス拡散層の外形よりも小さいことを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載された固体高分子型電気化学セルは、請求項2に記載の固体高分子型電気化学セルにおいて、
前記カソード側ガス拡散層と、前記カソード側触媒層及び前記カソード側保護層との間に設けられたカソード側微小多孔層と、
前記アノード側ガス拡散層と、前記アノード側触媒層及び前記アノード側保護層との間に設けられたアノード側微小多孔層と、
を具備することを特徴としている。
【0013】
請求項4に記載された固体高分子型電気化学セルは、請求項3に記載の固体高分子型電気化学セルにおいて、
前記カソード側保護層及び前記アノード側保護層は、ポリエチレンナフタレートと、ポリイミドと、カプトンからなる保護材料群から選択された1以上の保護材料からなるフィルムにより構成されたことを特徴としている。
【0014】
なお、以上説明した各請求項に記載された固体高分子型電気化学セルの発明において、カソードとは燃料電池の空気極であって、電子が外部から流入する電極を意味しているが、固体高分子型電気化学セルが水電解装置である場合には、外部の電池の陽極に接続される陰極に相当する電極である。
また、アノードとは燃料電池の燃料極であって、電子が外部に流出する電極を意味しているが、固体高分子型電気化学セルが水電解装置である場合には、外部の電池の陰極から電子が流入する陽極に相当する電極である。
【0015】
本発明の固体高分子形電気化学セルが水電解装置である場合には、燃料電池の場合とは電子の移動方向が逆である。また燃料電池では燃料(水素)と空気(酸素)を供給して電気を得るが、水電解装置では水を供給して電解することで水素と空気が得られ、これを装置外に供給することができる。そこで、本願請求項を水電解装置として解釈するに当たっては、これらの点を踏まえるとともに、前段落で説明した電極名称の対応関係も考慮し、さらに水電解装置に関する公知技術を参酌し、請求項における各構成要件の名称を必要に応じて適宜読み替えるものとする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載された固体高分子型電気化学セルが燃料電池である場合、カソード側触媒層の外縁部はカソード側保護層によって保護されており、アノード側触媒層の外縁部はアノード側保護層によって保護されているので、燃料電池の動作による温度の変動によって固体高分子電解質膜が急速な拡大、縮小を繰り返しても、固体高分子電解質膜のうち、カソード側触媒層及びカソード側ガス拡散層よりも外側の部分、又はアノード側触媒層及びアノード側ガス拡散層よりも外側の部分が、それぞれカソード側ガス拡散層とアノード側ガス拡散層に繰り返し押圧されて弱くなることはなく、ピンホールの発生は未然に防止される。従って、スタックを構成して運転した場合に、固体高分子電解質膜にピンホールに起因する水素ガス漏れが起こることはなく、発電性能が低下することはない。
【0017】
請求項2に記載された固体高分子型電気化学セルが燃料電池である場合、枠状であるカソード側保護層のカソード開口の内形は、カソード側ガス拡散層の外形よりも小さいため、固体高分子電解質膜及びカソード側触媒層の外周縁部はカソード側保護層によって確実に覆われるため、燃料電池の動作による温度の変動によって固体高分子電解質膜が急速な拡大、縮小を繰り返しても、固体高分子電解質膜がカソード側ガス拡散層に繰り返し当たってピンホールが発生する不具合を確実に避けることができる。アノード側も同様である。
【0018】
請求項3に記載された固体高分子型電気化学セルが燃料電池である場合、カソード側触媒層とアノード側触媒層の両方に微小多孔層が設けられているので電子の授受が良好に行われ、またカソードにおいて発生した水をカソード側ガス拡散層を経て効果的に外部に排出することができる。
【0019】
請求項4に記載された固体高分子型電気化学セルが燃料電池である場合、カソード側保護層及びアノード側保護層を、ポリエチレンナフタレートとポリイミドとカプトンの中から任意に選択して構成することができる。
【0020】
請求項1乃至4に記載された固体高分子型電気化学セルが水電解装置である場合には、プロトン及び電子の移動方向は燃料電池の場合とは逆となり、外部の電源から供給した電気によって水を水素と酸素に分解することができるが、その際、水電解装置の動作による温度の変動によって固体高分子電解質膜が急速な拡大、縮小を繰り返したとしても、固体高分子電解質膜が他の構成部分に繰り返し押圧されて弱くなり、ピンホールが発生してしまうといった不具合が起きることはなく、水分解性能が低下することはない。その他、上述したように燃料電池と原理は逆となるが、上述した燃料電池としての効果に対応する作用・効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態の単セルの基本構造を模式的に示す分解拡散斜視図である。
図2】実施形態の燃料電池の積層構造を示すために各層を適宜分離して示した模式的断面図である。
図3】実施形態の燃料電池の積層構造と水素と酸素の供給経路を示す模式的断面図である。
図4】実施形態の燃料電池の組み立て前の部品図であって、触媒層が設けられた固体高分子電解質膜と、触媒層の外周を覆って固体高分子電解質膜に設けられた矩形枠状の保護層を示す平面図である。
図5】本願発明者が本願発明に先だって発明した燃料電池における単セルの積層構造を示すとともに、本願発明者が本願発明の研究開発の過程で発見・認識した当該単セルの問題点を示す図でる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態として、固体高分子形電気化学セルの一具体例である燃料電池の単セル1を、図1図4を参照して説明する。
【0023】
図1は、単セル1の基本構造を模式的且つ簡略化して示す分解拡散斜視図である。なお、図1は模式図且つ簡略図であるから、その形状、寸法等は、後述する図2乃至図3に示した、より具体的な単セル1の形状、寸法等と必ずしも一致するものではない。
【0024】
図1に示すように、単セル1は、カソード側触媒層及びアノード側触媒層(触媒層)が設けられた固体高分子電解質膜を含む多層構造のMEA2(膜電極接合体、Membrane Electrode Assembly )と、MEA2のカソード側及びアノード側にそれぞれ設けられたカソード側ガス拡散板3C及びアノード側ガス拡散板3A(Gas Diffusion Plate 、ガス拡散板3と総称する。)と、カソード側ガス拡散板3C及びアノード側ガス拡散板3Aの外面側にそれぞれ設けられたセパレータ4,4(Separator )と、カソード側及びアノード側の各ガス拡散板3C,3AとMEA2との間にそれぞれ設けられた枠状のガスケット5,5(Gasket)とを有しており、これらの各部材は一体化されて平板状のユニットを構成している。なお、MEA2は、図1には示していないが、実際には前記触媒層を含む複数の要素が層状に重ねられた構造を備えており、その構造の詳細については後述する。
【0025】
図1に示す単セル1は発生可能な電圧が低いため、通常は任意の枚数の単セル1を重ねることにより、一般的な燃料電池の最小単位であるスタックを構成し、必要な電圧を得ている。スタックを構成する場合には、単セル1と単セル1の間に1個のセパレータ4が配置されるように複数の単セル1及びセパレータ4を重ねてスタックを構成し、スタックの全体を図示しない一対の押付板により上下から挟んで機械的に固定する。そして、稼働時には、スタックの一方の面にある一方の押付板の流入口から燃料である水素を注入し、スタック内の各単セル1に各セパレータ4を介して水素を順次供給し、スタックの他方の面にある他方の押付板において水素の供給方向を反転させ、一方の面にある一方の押付板の流出口から余剰の水素を還流させるようにしている。
【0026】
図2は、単セル1の積層構造の詳細を示すために、各層を適宜分離して示した模式的断面図であり、アノード極(燃料極)とカソード極(空気極)の側に設けられるセパレータ4は図示していない。図3は、組み立てられた単セル1の構造と水素の供給経路を示す模式的断面図であり、スタックにおいて単セル1のアノード極(燃料極)側とカソード極(空気極)側の両方にセパレータ4が設けられた状態を示している。以下、これらの図を参照して単セル1の構造等を詳細に説明する。
【0027】
図2及び図3に示す単セル1は、MEA2を供えている。MEA2は、固体高分子電解質膜6の両面に複数種類の機能層がそれぞれ積層されたシート状の構造体である。すなわち、固体高分子電解質膜6の第1面(図2及び3において上面)にはカソード側触媒層7C(Catalyst Layer、CL) が設けられ、カソード側触媒層7Cにはカソード側微小多孔層8C(Micro Porous Layer、MPL)が設けられ、カソード側微小多孔層8Cにはカソード側ガス拡散層9C(Gas Diffusion Layer 、GDL)が設けられている。また、固体高分子電解質膜6の第2面(図2及び3において下面)にはアノード側触媒層7A(Catalyst Layer、CL) が設けられ、アノード側触媒層7Aにはアノード側微小多孔層8A(Micro Porous Layer、MPL)が設けられ、アノード側微小多孔層8Aにはアノード側ガス拡散層9A(Gas Diffusion Layer 、GDL)が設けられている。なお、カソード側触媒層7Cとアノード側触媒層7Aを触媒層7と総称し、カソード側微小多孔層8Cとアノード側微小多孔層8Aを微小多孔層8と総称し、カソード側ガス拡散層9Cとアノード側ガス拡散層9Aをガス拡散層9と総称する。
【0028】
図2及び図3に示すように、前記カソード側ガス拡散層3Cと前記カソード側触媒層7Cの間の位置、より詳しくはカソード側ガス拡散層3Cに設けられたカソード側微小多孔層8Cと、カソード側触媒層7Cの間の位置には、カソード側触媒層7Cの外縁部を覆うように矩形枠状のカソード側保護層20Cが設けられている。またカソード側保護層20Cの外縁部は、固体高分子電解質膜6とガスケット5の間に挟持されている。また、前記アノード側ガス拡散層3Aと前記アノード側触媒層7Aの間の位置、より詳しくはアノード側ガス拡散層3Aに設けられたアノード側微小多孔層8Aと、アノード側触媒層7Aの間の位置には、アノード側触媒層7Aの外縁部を覆うように矩形枠状のアノード側保護層20Aが設けられている。アノード側保護層20Aの外縁部は、固体高分子電解質膜6とガスケット5の間に挟持されている。カソード側保護層20Cとアノード側保護層20Aを保護層20と総称する。
【0029】
図4は、MEA2の構成の一部を示す平面図である。図4には、矩形の固体高分子電解質膜6と、固体高分子電解質膜6の表面に固体高分子電解質膜6よりも一回り小さい外形で形成された矩形の触媒層7(カソード側触媒層7C及びアノード側触媒層7A)とが示されており、さらに触媒層7の外縁部を覆って固体高分子電解質膜6の外縁部に前記保護層20(カソード側保護層20C及びアノード側保護層20A)が設けられた構造が示されている。前述した通り、保護層20は矩形枠状であり、その中央には矩形の孔が形成されている。カソード側保護層20Cの矩形の孔の部分をカソード開口21Cと呼び、アノード側保護層20Aの矩形の孔の部分をアノード開口21Aと呼び、これらを総称して開口21と呼ぶ。
【0030】
図3又は図4に示すように、カソード開口21Cの内形状は、下にあるカソード側触媒層7Cの外形状よりも小さく、また上にあるカソード側ガス拡散層3Cの外形状よりも小さい。そして、カソード側保護層20Cの外形状は、固体高分子電解質膜6の外形状と一致している。従って、カソード側触媒層7Cから露出した固体高分子電解質膜6のカソード側の表面の外縁部は、カソード側ガス拡散層3Cの外縁部(特に固体高分子電解質膜6側の角部)に対してカソード側保護層20Cによって保護されている。
【0031】
同様に、アノード開口21Aの内形状は、上にあるアノード側触媒層7Aの外形状よりも小さく、また下にあるアノード側ガス拡散層3Aの外形状よりも小さい。そして、アノード側保護層20Aの外形状は、固体高分子電解質膜6の外形状と一致している。従って、アノード側触媒層7Aから露出した固体高分子電解質膜6のアノード側の表面の外縁部は、アノード側ガス拡散層3Aの外縁部(特に固体高分子電解質膜6側の角部)に対してアノード側保護層20Aによって保護されている。
【0032】
固体高分子電解質膜6は、例えばスルホ化されたテトラフルオロエチレンを基にしたフッ素樹脂の共重合体である「ナフィオン」(登録商標)を使用することができるが、この物質、材料に限定するものではなく、要するにイオン伝導性を持つポリマーであって、アノードからカソードへプロトンを移動させることができ、かつ電子や気体の輸送を阻止できるような特性を有していればよい。
【0033】
触媒層7は、白金(Pt)系の金属触媒と当該金属触媒を担持する導電性粒子(例えば炭素粒子)を含んでいるが、特にこのような材料や組成に限定するものではなく、カソード側触媒層7Cにおいてはプロトンと電子と酸素から水を作ることができるものであればよく、またアノード側触媒層7Aにおいては水素をプロトンと電子に分解する機能を有するものであればよい。
【0034】
微小多孔層8は、例えば粒径が数nm程度の炭素粒子を固めた撥水性を有する層であって、カソード側微小多孔層8Cは、カソード側のセパレータ4から電子を受けてカソード側触媒層7Cに送るとともに、カソード側触媒層7Cにおいて生成された水を凝集させることなくカソード側ガス拡散層9Cに送る機能を有し、またアノード側微小多孔層8Aは、アノード側触媒層7Aで生成された電子をアノード側のセパレータ4に送る機能を備えている。
【0035】
ガス拡散層9は、例えば粒径が数μm程度の炭素粒子を固めた導電性の層であって、カソード側ガス拡散層9Cは、カソード側のセパレータ4から供給された酸素を広がらせてカソード側触媒層7Cに均一に行き渡らせる機能を備えており、アノード側ガス拡散層9Aは、アノード側のセパレータ4から供給された水素を広がらせてアノード側触媒層7Aに均一に行き渡らせる機能を備えている。
【0036】
保護層20は、燃料電池の一般的な作動温度である80~100℃を越える耐熱性を備えたポリエステル系樹脂であるポリエチレンナフタレート(polyethylene naphthalate、略称PEN )によって構成されている。保護層20を構成する材料としては、この他、PENと同等の耐熱性を有するポリイミドやカプトンなどを採用することもできる。
【0037】
図2及び図3に示す単セル1において、その外周部を保護層20に覆われた固体高分子電解質膜6は、ガスケット5,5を間に介して、カソード側及びアノード側の両側から、カソード側ガス拡散板3C及びアノード側ガス拡散板3Aによって挟持されている。ガスケット5の外形は、固体高分子電解質膜6及び保護層20の外形と同程度の大きさの枠状であり、その枠の開口はMEA2を構成する要素のうち、ガス拡散層9及び触媒層7の外形状よりも若干大きい。またガスケット5は、図2に示すように1枚のガスケット5の両面に保護紙が設けられているが、実際の単セル1の組み立てにおいては保護紙を剥がし、図3に示すように1枚のガスケット5として使用する。従ってこの単セル1は、カソード側ガス拡散板3Cとアノード側ガス拡散板3Aで保護層20を含むMEA2を挟持し、当該挟持部分をガスケット5,5及び保護層20で密封した構造となっている。
【0038】
本実施形態の単セル1によれば、触媒層7の外縁部と、触媒層7に覆われていない固体高分子電解質膜6の外縁部は保護層20によって保護されているので、燃料電池の動作に伴う温度の変動によって固体高分子電解質膜6が急速な拡大、縮小を繰り返しても、固体高分子電解質膜6のうち、触媒層7よりも外側の部分が、ガス拡散層9に繰り返し押圧されて強度が低下し、ピンホールが発生する不具合が生じることはない。従って、スタックを構成して運転した場合に固体高分子電解質膜6に水素ガス漏れが起こることはなく、発電性能の低下は未然に防止される。
【0039】
図2及び図3に示す単セル1のガス拡散板3は、工業材料としては比較的安価で加工も容易なステンレスで構成されている。カソード側ガス拡散板3Cの内面側にはカソード側腐食防止層10Cが設けられており、カソード側ガス拡散層9Cに接している。アノード側ガス拡散板3Cの内面側にはアノード側腐食防止層10Aが設けられており、アノード側ガス拡散層9Aに接している。カソード側腐食防止層10Cとアノード側腐食防止層10Aを腐食防止層10と総称する。
【0040】
ガス拡散板3は、矩形の板状部材であり、複数の貫通孔11が縦横に並んで形成されている。ガス拡散板3の内面(単セル1の内部に向く面)には、腐食防止層10が設けられている。腐食防止層10は、硫酸イオンに対する耐性が高く、かつ材料費が安価なカーボンからなる。腐食防止層10は、カーボン(炭素)を含むコーティング材料を貫通孔11内に充填しないようにガス拡散板3の一方の面に塗布し、放電プラズマ焼結装置によって加圧下で焼成して形成する。このようにして得られた腐食防止層10は、炭素が焼き締まって結晶化が進んでおり、液体に対する高い撥水性を有する炭素コーティング膜となっている。このため、特に水が生成される単セル1のカソード(空気極)側において、カソード側ガス拡散板3Cはステンレス製であるが、その腐食防止層10によって硫酸イオンを含んだ水を弾くため、腐食するおそれが少ない。
【0041】
また、単セル1のアノード(燃料極)側では、固体高分子電解質膜6に含まれるスルホン酸基の影響によってアノード側ガス拡散板3Aが腐食するおそれは小さいが、このアノード側ガス拡散板3Aにも炭素からなる腐食防止層10が設けられているため、仮に硫酸イオン等の腐食性の物質を含んだ水がアノード側に進入したとしても、また他の腐食の原因がアノード側に存在乃至発生したとしても、アノード側ガス拡散板3Aが腐食するおそれは小さい。
【0042】
図3に示すスタックにおいて、単セル1のカソード側ガス拡散板3Cの外面(上面)及びアノード側ガス拡散板3Aの外面(下面)には、それぞれセパレータ4が取りつけられている。セパレータ4には、アノード側ガス拡散板3Aの外面(下面)と対向する面(図中上面)に、水素を供給する多数の溝からなる水素流路13が形成されており、またカソード側ガス拡散板3Cの外面と対向する面(図中下面)に、水素流路13とは直交する向きで、酸素を供給する多数の溝からなる酸素流路14が形成されている。
【0043】
図3において、水素は、破線の矢印で模式的に示すように、スタックの底部にある図示しない一方の押付板の流入口から供給され、セパレータ4の水素入口(H2 in)に入る。そして、単セル1を貫通して設けられた供給路15からセパレータ4の横穴を経て水素流路13に流入し、アノード側ガス拡散板3Aの貫通孔11を通って単セル1内に広がり、MEA2に供給される。さらに水素は、単セル1を貫通して設けられた供給路15から、供給下流側にある隣の単セル1に次々に供給されていく。余剰の水素は、スタックの頂部にある図示しない他方の押付板の水素流路を経て方向を変え、単セル1を貫通して設けられた他方の供給路15からセパレータ4の水素出口(H2 out )を経て、スタックの底部にある前述した一方の押付板の流出口に還流する。また、酸素は、一点鎖線の矢印で模式的に示すように、セパレータ4の酸素流路14からカソード側ガス拡散板3Cの貫通孔11を通って単セル1内に広がる。
【0044】
このセパレータ4は、水素流路13と酸素流路14を共通の部品に作り込むこともできるし、水素流路13と酸素流路14を別々の部品として製作し、組み合わせて使用することもできる。セパレータ4は、工業材料としては比較的安価で加工も容易なステンレスで構成することができる。
【0045】
セパレータ4は、その機能において、また金属製である点においても、上述した腐食防止層10が設けられたガス拡散板3と類似乃至共通している。従って、前述した硫酸イオンが混合した水によって腐食する可能性があるのであれば、特にカソード側のセパレータ4の内面側に腐食防止層10を形成してもよい。
【0046】
以上説明した実施形態は、本願発明の固体高分子形電気化学セルが、燃料電池である場合に関するものであった。しかしながら、本願発明の固体高分子形電気化学セルは、電気のエネルギで水を水素と酸素に分解する水分解装置に適用することもできる。その場合には、燃料電池におけるカソード(空気極)は、外部の電池の陽極に接続される水分解装置の陰極に相当し、また燃料電池におけるアノード(燃料極)は、外部の電池の陰極から電子が流入する水電解装置の陽極に相当し、プロトン及び電子の移動方向は燃料電池の場合とは逆となり、外部の電源から供給された電気によって水を水素と酸素に分解することになるが、その場合においても燃料電池の実施形態の場合に対応した技術的効果が得られる。
【符号の説明】
【0047】
1…単セル
2…MEA
3…ガス供給板としてのガス拡散板
3C…ガス供給板としてのカソード側ガス拡散板
3A…ガス供給板としてのアノード側ガス拡散板
4…ガス供給板としてのセパレータ
6…固体高分子電解質膜
7…触媒層
7C…カソード側触媒層
7A…アノード側触媒層
8…微小多孔層
7C…カソード側微小多孔層
7A…アノード側微小多孔層
9…ガス拡散層
9C…カソード側ガス拡散層
9A…アノード側ガス拡散層
10…腐食防止層
10C…カソード側腐食防止層
10A…アノード側腐食防止層
20…保護層
20C…カソード側保護層
20A…アノード側保護層
21…開口
21C…カソード側開口
21A…アノード側開口
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2023-02-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池等に用いることができる固体高分子電気化学セルに係り、特に、燃料電池の運転に伴う温度の変動に起因して固体高分子電解質膜にピンホールが形成されることを防止し、当該ピンホールからの水素ガス漏れによる性能低下を防いだ固体高分子電気化学セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、燃料電池の膜電極接合体の発明が開示されている。この膜電極接合体は、高分子電解質膜111と、高分子電解質膜111の第1主面及び第2主面のそれぞれに設けられた触媒層112,113と、触媒層112,113より大きい外縁形状に形成されたガス拡散層114,115とを備え、さらに高分子電解質膜111の第1主面上の外縁部又は第2主面上の外縁部の少なくとも一方と、ガス拡散層114,115の少なくとも一方との間に内縁部が延在し、且つ当該内縁部が触媒層112,113に重ならないように設けられた額縁状の防潤層116A,116Bと、ガス拡散層114,115の外縁部の少なくとも一方に、その内縁部が重なるように設けられた額縁状の補強層117A,117Bとを備えている。そして、この膜電極接合体を一対のセパレータ14,15によって挟持固定することにより、燃料電池の単セルが構成されている。この膜電極接合体によれば、電解質膜への水分の浸入を抑制することができるので、この膜電極接合体を含む単セルから構成された燃料電池の性能低下を防止できるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-50089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図5は、本願発明者が本願発明に先だって発明した燃料電池における単セルの積層構造を示すとともに、本願発明者が本願発明の研究開発の過程で発見・認識した当該単セルの問題点を示す図である。
【0005】
図5は、燃料電池の構成要素である単セル1aを示している。図5に示す単セル1aは、固体高分子電解質膜6を中心としたシート状の積層構造物であるMEA(Membrane Electrode Assembly 、膜電極接合体)2を有している。MEA2の中心にある固体高分子電解質膜6の第1面及び第2面には、カソード側触媒層7Cとアノード側触媒層7Aが設けられ、カソード側触媒層7Cとアノード側触媒層7Aには、カソード側微小多孔層8Cとアノード側微小多孔層8Aが設けられ、カソード側微小多孔層8Cとアノード側微小多孔層8Aには、カソード側ガス拡散層9Cとアノード側ガス拡散層9Aが設けられている。
【0006】
MEA2は、固体高分子電解質膜6の外周縁部との間に枠状のガスケット5を介装した状態で、カソード側ガス拡散板3Cとアノード側ガス拡散板3Aによって挟持されており、これらの構成部品が一体化されることで燃料電池の単セル1aが構成されている。
【0007】
複数の単セル1aを積み重ねてスタックと称される燃料電池を構成する際には、カソード側ガス拡散板3Cとアノード側ガス拡散板3Aの外面側に、アノード側に燃料を供給する供給路15と、カソード側に空気を供給する酸素流路14を構成するセパレータ4を設け、単セル1aとセパレータ4が交互に積み重ねられた構造で、図示しない固定手段によって一体に固定されることで一体構造のスタックを構成する。
【0008】
図5に示した単セルの研究開発の過程において、本願発明者は次に説明するような問題点を発見した。各単セル1aのMEA2の中心にある固体高分子電解質膜6は、樹脂製であるために、燃料電池の動作による温度の変動によって急速な拡大、縮小を繰り返す。固体高分子電解質膜6は、ガスケット5を介してカソード側ガス拡散板3Cとアノード側ガス拡散板3Aにより強固に挟持固定されているため、カソード側ガス拡散層3C及びアノード側ガス拡散層3Aとガスケット5の間で固体高分子電解質膜6が移動すると、図5中に示すように、固体高分子電解質膜6のうち、カソード側触媒層7C及びカソード側ガス拡散層9C、又はアノード側触媒層7A及びアノード側ガス拡散層9Aの各外周縁部よりも外側の部分にピンホールPが発生してしまう。スタックを運転している時にこのようなピンホールPが発生すると、水素ガスの漏れを引き起し、発電性能の低下という問題が発生してしまう。
【0009】
本発明は、以上説明した本願発明者の知見と、これに基づく発見に鑑みてなされたものであって、固体高分子電気化学セルにおいて、作動時の温度変化に起因する伸縮のために固体高分子電解質膜にピンホールが形成されることを防止し、当該ピンホールに起因する水素ガスの漏れによる発電性能の低下を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の目的を達成するため、請求項1に記載された固体高分子電気化学セルは、
固体高分子電解質膜と、
前記固体高分子電解質膜の第1面に設けられたカソード側触媒層と、
前記カソード側触媒層の側に設けられたカソード側ガス拡散層と、
前記固体高分子電解質膜の第2面に設けられたアノード側触媒層と、
前記アノード側触媒層の側に設けられたアノード側ガス拡散層と、
を有する固体高分子電気化学セルであって、
前記カソード側ガス拡散層と前記カソード側触媒層の間に設けられて前記カソード側触媒層の外縁部を覆うカソード側保護層と、
前記アノード側ガス拡散層と前記アノード側触媒層の間に設けられて前記アノード側触媒層の外縁部を覆うアノード側保護層と、
を有することを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載された固体高分子電気化学セルは、請求項1に記載の固体高分子電気化学セルにおいて、
前記カソード側保護層はカソード開口を有する枠状であり、
前記カソード開口の内形は前記カソード側ガス拡散層の外形よりも小さく、
前記アノード側保護層はアノード開口を有する枠状であり、
前記アノード開口の内形は前記アノード側ガス拡散層の外形よりも小さいことを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載された固体高分子電気化学セルは、請求項2に記載の固体高分子電気化学セルにおいて、
前記カソード側ガス拡散層と、前記カソード側触媒層及び前記カソード側保護層との間に設けられたカソード側微小多孔層と、
前記アノード側ガス拡散層と、前記アノード側触媒層及び前記アノード側保護層との間に設けられたアノード側微小多孔層と、
を具備することを特徴としている。
【0013】
請求項4に記載された固体高分子電気化学セルは、請求項3に記載の固体高分子電気化学セルにおいて、
前記カソード側保護層及び前記アノード側保護層は、ポリエチレンナフタレートと、ポリイミドと、カプトンからなる保護材料群から選択された1以上の保護材料からなるフィルムにより構成されたことを特徴としている。
【0014】
なお、以上説明した各請求項に記載された固体高分子電気化学セルの発明において、カソードとは燃料電池の空気極であって、電子が外部から流入する電極を意味しているが、固体高分子電気化学セルが水電解装置である場合には、外部の電池の陽極に接続される陰極に相当する電極である。
また、アノードとは燃料電池の燃料極であって、電子が外部に流出する電極を意味しているが、固体高分子電気化学セルが水電解装置である場合には、外部の電池の陰極から電子が流入する陽極に相当する電極である。
【0015】
本発明の固体高分子形電気化学セルが水電解装置である場合には、燃料電池の場合とは電子の移動方向が逆である。また燃料電池では燃料(水素)と空気(酸素)を供給して電気を得るが、水電解装置では水を供給して電解することで水素と空気が得られ、これを装置外に供給することができる。そこで、本願請求項を水電解装置として解釈するに当たっては、これらの点を踏まえるとともに、前段落で説明した電極名称の対応関係も考慮し、さらに水電解装置に関する公知技術を参酌し、請求項における各構成要件の名称を必要に応じて適宜読み替えるものとする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載された固体高分子電気化学セルが燃料電池である場合、カソード側触媒層の外縁部はカソード側保護層によって保護されており、アノード側触媒層の外縁部はアノード側保護層によって保護されているので、燃料電池の動作による温度の変動によって固体高分子電解質膜が急速な拡大、縮小を繰り返しても、固体高分子電解質膜のうち、カソード側触媒層及びカソード側ガス拡散層よりも外側の部分、又はアノード側触媒層及びアノード側ガス拡散層よりも外側の部分が、それぞれカソード側ガス拡散層とアノード側ガス拡散層に繰り返し押圧されて弱くなることはなく、ピンホールの発生は未然に防止される。従って、スタックを構成して運転した場合に、固体高分子電解質膜にピンホールに起因する水素ガス漏れが起こることはなく、発電性能が低下することはない。
【0017】
請求項2に記載された固体高分子電気化学セルが燃料電池である場合、枠状であるカソード側保護層のカソード開口の内形は、カソード側ガス拡散層の外形よりも小さいため、固体高分子電解質膜及びカソード側触媒層の外周縁部はカソード側保護層によって確実に覆われるため、燃料電池の動作による温度の変動によって固体高分子電解質膜が急速な拡大、縮小を繰り返しても、固体高分子電解質膜がカソード側ガス拡散層に繰り返し当たってピンホールが発生する不具合を確実に避けることができる。アノード側も同様である。
【0018】
請求項3に記載された固体高分子電気化学セルが燃料電池である場合、カソード側触媒層とアノード側触媒層の両方に微小多孔層が設けられているので電子の授受が良好に行われ、またカソードにおいて発生した水をカソード側ガス拡散層を経て効果的に外部に排出することができる。
【0019】
請求項4に記載された固体高分子電気化学セルが燃料電池である場合、カソード側保護層及びアノード側保護層を、ポリエチレンナフタレートとポリイミドとカプトンの中から任意に選択して構成することができる。
【0020】
請求項1乃至4に記載された固体高分子電気化学セルが水電解装置である場合には、プロトン及び電子の移動方向は燃料電池の場合とは逆となり、外部の電源から供給した電気によって水を水素と酸素に分解することができるが、その際、水電解装置の動作による温度の変動によって固体高分子電解質膜が急速な拡大、縮小を繰り返したとしても、固体高分子電解質膜が他の構成部分に繰り返し押圧されて弱くなり、ピンホールが発生してしまうといった不具合が起きることはなく、水分解性能が低下することはない。その他、上述したように燃料電池と原理は逆となるが、上述した燃料電池としての効果に対応する作用・効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態の単セルの基本構造を模式的に示す分解拡散斜視図である。
図2】実施形態の燃料電池の積層構造を示すために各層を適宜分離して示した模式的断面図である。
図3】実施形態の燃料電池の積層構造と水素と酸素の供給経路を示す模式的断面図である。
図4】実施形態の燃料電池の組み立て前の部品図であって、触媒層が設けられた固体高分子電解質膜と、触媒層の外周を覆って固体高分子電解質膜に設けられた矩形枠状の保護層を示す平面図である。
図5】本願発明者が本願発明に先だって発明した燃料電池における単セルの積層構造を示すとともに、本願発明者が本願発明の研究開発の過程で発見・認識した当該単セルの問題点を示す図でる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態として、固体高分子形電気化学セルの一具体例である燃料電池の単セル1を、図1図4を参照して説明する。
【0023】
図1は、単セル1の基本構造を模式的且つ簡略化して示す分解拡散斜視図である。なお、図1は模式図且つ簡略図であるから、その形状、寸法等は、後述する図2乃至図3に示した、より具体的な単セル1の形状、寸法等と必ずしも一致するものではない。
【0024】
図1に示すように、単セル1は、カソード側触媒層及びアノード側触媒層(触媒層)が設けられた固体高分子電解質膜を含む多層構造のMEA2(膜電極接合体、Membrane Electrode Assembly )と、MEA2のカソード側及びアノード側にそれぞれ設けられたカソード側ガス拡散板3C及びアノード側ガス拡散板3A(Gas Diffusion Plate 、ガス拡散板3と総称する。)と、カソード側ガス拡散板3C及びアノード側ガス拡散板3Aの外面側にそれぞれ設けられたセパレータ4,4(Separator )と、カソード側及びアノード側の各ガス拡散板3C,3AとMEA2との間にそれぞれ設けられた枠状のガスケット5,5(Gasket)とを有しており、これらの各部材は一体化されて平板状のユニットを構成している。なお、MEA2は、図1には示していないが、実際には前記触媒層を含む複数の要素が層状に重ねられた構造を備えており、その構造の詳細については後述する。
【0025】
図1に示す単セル1は発生可能な電圧が低いため、通常は任意の枚数の単セル1を重ねることにより、一般的な燃料電池の最小単位であるスタックを構成し、必要な電圧を得ている。スタックを構成する場合には、単セル1と単セル1の間に1個のセパレータ4が配置されるように複数の単セル1及びセパレータ4を重ねてスタックを構成し、スタックの全体を図示しない一対の押付板により上下から挟んで機械的に固定する。そして、稼働時には、スタックの一方の面にある一方の押付板の流入口から燃料である水素を注入し、スタック内の各単セル1に各セパレータ4を介して水素を順次供給し、スタックの他方の面にある他方の押付板において水素の供給方向を反転させ、一方の面にある一方の押付板の流出口から余剰の水素を還流させるようにしている。
【0026】
図2は、単セル1の積層構造の詳細を示すために、各層を適宜分離して示した模式的断面図であり、アノード極(燃料極)とカソード極(空気極)の側に設けられるセパレータ4は図示していない。図3は、組み立てられた単セル1の構造と水素の供給経路を示す模式的断面図であり、スタックにおいて単セル1のアノード極(燃料極)側とカソード極(空気極)側の両方にセパレータ4が設けられた状態を示している。以下、これらの図を参照して単セル1の構造等を詳細に説明する。
【0027】
図2及び図3に示す単セル1は、MEA2を供えている。MEA2は、固体高分子電解質膜6の両面に複数種類の機能層がそれぞれ積層されたシート状の構造体である。すなわち、固体高分子電解質膜6の第1面(図2及び3において上面)にはカソード側触媒層7C(Catalyst Layer、CL) が設けられ、カソード側触媒層7Cにはカソード側微小多孔層8C(Micro Porous Layer、MPL)が設けられ、カソード側微小多孔層8Cにはカソード側ガス拡散層9C(Gas Diffusion Layer 、GDL)が設けられている。また、固体高分子電解質膜6の第2面(図2及び3において下面)にはアノード側触媒層7A(Catalyst Layer、CL) が設けられ、アノード側触媒層7Aにはアノード側微小多孔層8A(Micro Porous Layer、MPL)が設けられ、アノード側微小多孔層8Aにはアノード側ガス拡散層9A(Gas Diffusion Layer 、GDL)が設けられている。なお、カソード側触媒層7Cとアノード側触媒層7Aを触媒層7と総称し、カソード側微小多孔層8Cとアノード側微小多孔層8Aを微小多孔層8と総称し、カソード側ガス拡散層9Cとアノード側ガス拡散層9Aをガス拡散層9と総称する。
【0028】
図2及び図3に示すように、前記カソード側ガス拡散層3Cと前記カソード側触媒層7Cの間の位置、より詳しくはカソード側ガス拡散層3Cに設けられたカソード側微小多孔層8Cと、カソード側触媒層7Cの間の位置には、カソード側触媒層7Cの外縁部を覆うように矩形枠状のカソード側保護層20Cが設けられている。またカソード側保護層20Cの外縁部は、固体高分子電解質膜6とガスケット5の間に挟持されている。また、前記アノード側ガス拡散層3Aと前記アノード側触媒層7Aの間の位置、より詳しくはアノード側ガス拡散層3Aに設けられたアノード側微小多孔層8Aと、アノード側触媒層7Aの間の位置には、アノード側触媒層7Aの外縁部を覆うように矩形枠状のアノード側保護層20Aが設けられている。アノード側保護層20Aの外縁部は、固体高分子電解質膜6とガスケット5の間に挟持されている。カソード側保護層20Cとアノード側保護層20Aを保護層20と総称する。
【0029】
図4は、MEA2の構成の一部を示す平面図である。図4には、矩形の固体高分子電解質膜6と、固体高分子電解質膜6の表面に固体高分子電解質膜6よりも一回り小さい外形で形成された矩形の触媒層7(カソード側触媒層7C及びアノード側触媒層7A)とが示されており、さらに触媒層7の外縁部を覆って固体高分子電解質膜6の外縁部に前記保護層20(カソード側保護層20C及びアノード側保護層20A)が設けられた構造が示されている。前述した通り、保護層20は矩形枠状であり、その中央には矩形の孔が形成されている。カソード側保護層20Cの矩形の孔の部分をカソード開口21Cと呼び、アノード側保護層20Aの矩形の孔の部分をアノード開口21Aと呼び、これらを総称して開口21と呼ぶ。
【0030】
図3又は図4に示すように、カソード開口21Cの内形状は、下にあるカソード側触媒層7Cの外形状よりも小さく、また上にあるカソード側ガス拡散層3Cの外形状よりも小さい。そして、カソード側保護層20Cの外形状は、固体高分子電解質膜6の外形状と一致している。従って、カソード側触媒層7Cから露出した固体高分子電解質膜6のカソード側の表面の外縁部は、カソード側ガス拡散層3Cの外縁部(特に固体高分子電解質膜6側の角部)に対してカソード側保護層20Cによって保護されている。
【0031】
同様に、アノード開口21Aの内形状は、上にあるアノード側触媒層7Aの外形状よりも小さく、また下にあるアノード側ガス拡散層3Aの外形状よりも小さい。そして、アノード側保護層20Aの外形状は、固体高分子電解質膜6の外形状と一致している。従って、アノード側触媒層7Aから露出した固体高分子電解質膜6のアノード側の表面の外縁部は、アノード側ガス拡散層3Aの外縁部(特に固体高分子電解質膜6側の角部)に対してアノード側保護層20Aによって保護されている。
【0032】
固体高分子電解質膜6は、例えばスルホ化されたテトラフルオロエチレンを基にしたフッ素樹脂の共重合体である「ナフィオン」(登録商標)を使用することができるが、この物質、材料に限定するものではなく、要するにイオン伝導性を持つポリマーであって、アノードからカソードへプロトンを移動させることができ、かつ電子や気体の輸送を阻止できるような特性を有していればよい。
【0033】
触媒層7は、白金(Pt)系の金属触媒と当該金属触媒を担持する導電性粒子(例えば炭素粒子)を含んでいるが、特にこのような材料や組成に限定するものではなく、カソード側触媒層7Cにおいてはプロトンと電子と酸素から水を作ることができるものであればよく、またアノード側触媒層7Aにおいては水素をプロトンと電子に分解する機能を有するものであればよい。
【0034】
微小多孔層8は、例えば粒径が数nm程度の炭素粒子を固めた撥水性を有する層であって、カソード側微小多孔層8Cは、カソード側のセパレータ4から電子を受けてカソード側触媒層7Cに送るとともに、カソード側触媒層7Cにおいて生成された水を凝集させることなくカソード側ガス拡散層9Cに送る機能を有し、またアノード側微小多孔層8Aは、アノード側触媒層7Aで生成された電子をアノード側のセパレータ4に送る機能を備えている。
【0035】
ガス拡散層9は、例えば粒径が数μm程度の炭素粒子を固めた導電性の層であって、カソード側ガス拡散層9Cは、カソード側のセパレータ4から供給された酸素を広がらせてカソード側触媒層7Cに均一に行き渡らせる機能を備えており、アノード側ガス拡散層9Aは、アノード側のセパレータ4から供給された水素を広がらせてアノード側触媒層7Aに均一に行き渡らせる機能を備えている。
【0036】
保護層20は、燃料電池の一般的な作動温度である80~100℃を越える耐熱性を備えたポリエステル系樹脂であるポリエチレンナフタレート(polyethylene naphthalate、略称PEN )によって構成されている。保護層20を構成する材料としては、この他、PENと同等の耐熱性を有するポリイミドやカプトンなどを採用することもできる。
【0037】
図2及び図3に示す単セル1において、その外周部を保護層20に覆われた固体高分子電解質膜6は、ガスケット5,5を間に介して、カソード側及びアノード側の両側から、カソード側ガス拡散板3C及びアノード側ガス拡散板3Aによって挟持されている。ガスケット5の外形は、固体高分子電解質膜6及び保護層20の外形と同程度の大きさの枠状であり、その枠の開口はMEA2を構成する要素のうち、ガス拡散層9及び触媒層7の外形状よりも若干大きい。またガスケット5は、図2に示すように1枚のガスケット5の両面に保護紙が設けられているが、実際の単セル1の組み立てにおいては保護紙を剥がし、図3に示すように1枚のガスケット5として使用する。従ってこの単セル1は、カソード側ガス拡散板3Cとアノード側ガス拡散板3Aで保護層20を含むMEA2を挟持し、当該挟持部分をガスケット5,5及び保護層20で密封した構造となっている。
【0038】
本実施形態の単セル1によれば、触媒層7の外縁部と、触媒層7に覆われていない固体高分子電解質膜6の外縁部は保護層20によって保護されているので、燃料電池の動作に伴う温度の変動によって固体高分子電解質膜6が急速な拡大、縮小を繰り返しても、固体高分子電解質膜6のうち、触媒層7よりも外側の部分が、ガス拡散層9に繰り返し押圧されて強度が低下し、ピンホールが発生する不具合が生じることはない。従って、スタックを構成して運転した場合に固体高分子電解質膜6に水素ガス漏れが起こることはなく、発電性能の低下は未然に防止される。
【0039】
図2及び図3に示す単セル1のガス拡散板3は、工業材料としては比較的安価で加工も容易なステンレスで構成されている。カソード側ガス拡散板3Cの内面側にはカソード側腐食防止層10Cが設けられており、カソード側ガス拡散層9Cに接している。アノード側ガス拡散板3Cの内面側にはアノード側腐食防止層10Aが設けられており、アノード側ガス拡散層9Aに接している。カソード側腐食防止層10Cとアノード側腐食防止層10Aを腐食防止層10と総称する。
【0040】
ガス拡散板3は、矩形の板状部材であり、複数の貫通孔11が縦横に並んで形成されている。ガス拡散板3の内面(単セル1の内部に向く面)には、腐食防止層10が設けられている。腐食防止層10は、硫酸イオンに対する耐性が高く、かつ材料費が安価なカーボンからなる。腐食防止層10は、カーボン(炭素)を含むコーティング材料を貫通孔11内に充填しないようにガス拡散板3の一方の面に塗布し、放電プラズマ焼結装置によって加圧下で焼成して形成する。このようにして得られた腐食防止層10は、炭素が焼き締まって結晶化が進んでおり、液体に対する高い撥水性を有する炭素コーティング膜となっている。このため、特に水が生成される単セル1のカソード(空気極)側において、カソード側ガス拡散板3Cはステンレス製であるが、その腐食防止層10によって硫酸イオンを含んだ水を弾くため、腐食するおそれが少ない。
【0041】
また、単セル1のアノード(燃料極)側では、固体高分子電解質膜6に含まれるスルホン酸基の影響によってアノード側ガス拡散板3Aが腐食するおそれは小さいが、このアノード側ガス拡散板3Aにも炭素からなる腐食防止層10が設けられているため、仮に硫酸イオン等の腐食性の物質を含んだ水がアノード側に進入したとしても、また他の腐食の原因がアノード側に存在乃至発生したとしても、アノード側ガス拡散板3Aが腐食するおそれは小さい。
【0042】
図3に示すスタックにおいて、単セル1のカソード側ガス拡散板3Cの外面(上面)及びアノード側ガス拡散板3Aの外面(下面)には、それぞれセパレータ4が取りつけられている。セパレータ4には、アノード側ガス拡散板3Aの外面(下面)と対向する面(図中上面)に、水素を供給する多数の溝からなる水素流路13が形成されており、またカソード側ガス拡散板3Cの外面と対向する面(図中下面)に、水素流路13とは直交する向きで、酸素を供給する多数の溝からなる酸素流路14が形成されている。
【0043】
図3において、水素は、破線の矢印で模式的に示すように、スタックの底部にある図示しない一方の押付板の流入口から供給され、セパレータ4の水素入口(H2 in)に入る。そして、単セル1を貫通して設けられた供給路15からセパレータ4の横穴を経て水素流路13に流入し、アノード側ガス拡散板3Aの貫通孔11を通って単セル1内に広がり、MEA2に供給される。さらに水素は、単セル1を貫通して設けられた供給路15から、供給下流側にある隣の単セル1に次々に供給されていく。余剰の水素は、スタックの頂部にある図示しない他方の押付板の水素流路を経て方向を変え、単セル1を貫通して設けられた他方の供給路15からセパレータ4の水素出口(H2 out )を経て、スタックの底部にある前述した一方の押付板の流出口に還流する。また、酸素は、一点鎖線の矢印で模式的に示すように、セパレータ4の酸素流路14からカソード側ガス拡散板3Cの貫通孔11を通って単セル1内に広がる。
【0044】
このセパレータ4は、水素流路13と酸素流路14を共通の部品に作り込むこともできるし、水素流路13と酸素流路14を別々の部品として製作し、組み合わせて使用することもできる。セパレータ4は、工業材料としては比較的安価で加工も容易なステンレスで構成することができる。
【0045】
セパレータ4は、その機能において、また金属製である点においても、上述した腐食防止層10が設けられたガス拡散板3と類似乃至共通している。従って、前述した硫酸イオンが混合した水によって腐食する可能性があるのであれば、特にカソード側のセパレータ4の内面側に腐食防止層10を形成してもよい。
【0046】
以上説明した実施形態は、本願発明の固体高分子形電気化学セルが、燃料電池である場合に関するものであった。しかしながら、本願発明の固体高分子形電気化学セルは、電気のエネルギで水を水素と酸素に分解する水分解装置に適用することもできる。その場合には、燃料電池におけるカソード(空気極)は、外部の電池の陽極に接続される水分解装置の陰極に相当し、また燃料電池におけるアノード(燃料極)は、外部の電池の陰極から電子が流入する水電解装置の陽極に相当し、プロトン及び電子の移動方向は燃料電池の場合とは逆となり、外部の電源から供給された電気によって水を水素と酸素に分解することになるが、その場合においても燃料電池の実施形態の場合に対応した技術的効果が得られる。
【符号の説明】
【0047】
1…単セル
2…MEA
3…ガス供給板としてのガス拡散板
3C…ガス供給板としてのカソード側ガス拡散板
3A…ガス供給板としてのアノード側ガス拡散板
4…ガス供給板としてのセパレータ
6…固体高分子電解質膜
7…触媒層
7C…カソード側触媒層
7A…アノード側触媒層
8…微小多孔層
7C…カソード側微小多孔層
7A…アノード側微小多孔層
9…ガス拡散層
9C…カソード側ガス拡散層
9A…アノード側ガス拡散層
10…腐食防止層
10C…カソード側腐食防止層
10A…アノード側腐食防止層
20…保護層
20C…カソード側保護層
20A…アノード側保護層
21…開口
21C…カソード側開口
21A…アノード側開口