(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110213
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】調光装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20240807BHJP
G02F 1/1334 20060101ALI20240807BHJP
G02F 1/133 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1334
G02F1/133 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014664
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀司
(72)【発明者】
【氏名】上村 龍志
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲志
【テーマコード(参考)】
2H088
2H189
2H193
【Fターム(参考)】
2H088EA33
2H088EA34
2H088GA02
2H088GA10
2H088GA13
2H088HA01
2H088HA02
2H088KA26
2H088KA27
2H088MA20
2H189AA04
2H189CA35
2H189HA06
2H189KA15
2H189KA16
2H189KA17
2H189LA01
2H189LA03
2H189MA15
2H193ZB51
2H193ZH18
2H193ZQ07
2H193ZR18
(57)【要約】
【課題】低温環境での光透過率の応答性を高めることができる調光装置を提供する。
【解決手段】調光装置の駆動部は、調光シートを駆動するオン期間に、液晶組成物を垂直配向させるための交流電圧である駆動電圧を調光シートに印加する第1処理と、調光シートの駆動の停止の指示によりオン期間から切り替えられるオフ期間の初期に、駆動電圧よりも高い周波数の交流電圧であって、常温よりも低い温度での印加により液晶組成物の誘電率異方性を負に反転させる交流電圧である高周波電圧を、調光シートに印加する第2処理と、を実行する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温にて正の誘電率異方性を有する液晶組成物を含む調光層、および、前記調光層を挟む一対の透明電極層を備える調光シートと、
前記一対の透明電極層に電圧を印加する駆動部と、を備える調光装置であって、
前記駆動部は、
前記調光シートを駆動するオン期間に、前記液晶組成物を垂直配向させるための交流電圧である駆動電圧を前記調光シートに印加する第1処理と、
前記調光シートの駆動の停止の指示により前記オン期間から切り替えられるオフ期間の初期に、前記駆動電圧よりも高い周波数の交流電圧であって、前記常温よりも低い温度での印加により前記液晶組成物の誘電率異方性を負に反転させる前記交流電圧である高周波電圧を、前記調光シートに印加する第2処理と、を実行する
調光装置。
【請求項2】
前記第2処理では、前記駆動部は、前記オフ期間中において、前記高周波電圧の印加後に前記調光シートへの交流電圧の印加を停止する
請求項1に記載の調光装置。
【請求項3】
前記調光装置は、前記調光シートの付近の温度を検出する温度検出部を備え、
前記高周波電圧の印加により前記液晶組成物の誘電率異方性が負となる温度範囲に閾値が設定され、
前記駆動部は、前記オフ期間が開始されたとき、前記温度検出部が検出した温度が前記閾値以下である場合に、前記第2処理を実行し、前記温度検出部が検出した温度が前記閾値よりも大きい場合、前記オフ期間の開始から前記調光シートへの交流電圧の印加を停止する
請求項1に記載の調光装置。
【請求項4】
前記調光装置は、前記調光シートの付近の温度を検出する温度検出部を備え、
前記駆動部は、前記温度検出部が検出した温度に応じて、前記第2処理における前記高周波電圧の印加期間を変える
請求項1に記載の調光装置。
【請求項5】
前記駆動電圧および前記高周波電圧の各々は、矩形波の交流電圧である
請求項1に記載の調光装置。
【請求項6】
前記駆動電圧および前記高周波電圧の各々は、正弦波の交流電圧である
請求項1に記載の調光装置。
【請求項7】
前記調光層は、複数の空隙を含む透明高分子層と、前記空隙を埋める前記液晶組成物と、を含み、
前記透明高分子層および前記液晶組成物のうちの前記透明高分子層の割合は、20質量%以上80質量%以下である
請求項1に記載の調光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過率の可変な調光シートを備える調光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、液晶組成物を含む調光層と、調光層を挟む一対の透明電極層とを備えている。そして、調光装置は、調光シートと、透明電極層間への駆動電圧の印加によって調光シートを駆動する駆動部とを備えている。駆動電圧の印加の有無に応じて液晶組成物の配向状態が変わることから、調光シートの駆動のオンとオフとの切り替えによって、調光層を光が透過する透明状態と、調光層で光が散乱する不透明状態とを切り替えることが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液晶組成物の性質に起因して、調光シートの駆動のオンとオフとの切り替えに対する光透過率の応答性は、温度に応じて変わる。調光シートの適用対象を、屋外の建物や車両の窓等にまで広げるためには、オンとオフとの切り替えに対して光透過率が迅速に変化する温度範囲が広いことが望ましい。特に、氷点下のような低温環境では、液晶組成物の粘度が大きくなることに起因して光透過率の応答性の低下が顕著であることから、低温環境での光透過率の応答性の向上が重要視されている。
【0005】
例えば、低温での粘度の上昇を抑えた液晶組成物の開発が進められているが、液晶組成物の物性の改良のみによって低温環境での光透過率の応答性を向上させることには限界がある。それゆえ、調光装置において、低温環境での光透過率の応答性を向上可能とする新たな構成が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための調光装置の各態様を記載する。
[態様1]常温にて正の誘電率異方性を有する液晶組成物を含む調光層、および、前記調光層を挟む一対の透明電極層を備える調光シートと、前記一対の透明電極層に電圧を印加する駆動部と、を備える調光装置であって、前記駆動部は、前記調光シートを駆動するオン期間に、前記液晶組成物を垂直配向させるための交流電圧である駆動電圧を前記調光シートに印加する第1処理と、前記調光シートの駆動の停止の指示により前記オン期間から切り替えられるオフ期間の初期に、前記駆動電圧よりも高い周波数の交流電圧であって、前記常温よりも低い温度での印加により前記液晶組成物の誘電率異方性を負に反転させる前記交流電圧である高周波電圧を、前記調光シートに印加する第2処理と、を実行する、調光装置。
【0007】
上記構成によれば、オフ期間の初期に、液晶組成物を水平配向させる方向に分子の向きを変える力が働くため、単なる電圧の印加の停止による向きの変化よりも、垂直配向からの分子の向きの変化が迅速に生じる。そのため、低温環境での光透過率の応答性が高められる。
【0008】
[態様2]前記第2処理では、前記駆動部は、前記オフ期間中において、前記高周波電圧の印加後に前記調光シートへの交流電圧の印加を停止する、[態様1]に記載の調光装置。
【0009】
上記構成によれば、低温でのオフ期間中に、調光シートが、高周波電圧の印加を行わずに交流電圧の印加を停止する常温でのオフ期間と同様の、液晶化合物の向きが不規則な不透明状態となる。また、高周波電圧を印加し続ける場合と比較して液晶組成物にかかる負荷や電力の削減が可能である。
【0010】
[態様3]前記調光装置は、前記調光シートの付近の温度を検出する温度検出部を備え、前記高周波電圧の印加により前記液晶組成物の誘電率異方性が負となる温度範囲に閾値が設定され、前記駆動部は、前記オフ期間が開始されたとき、前記温度検出部が検出した温度が前記閾値以下である場合に、前記第2処理を実行し、前記温度検出部が検出した温度が前記閾値よりも大きい場合、前記オフ期間の開始から前記調光シートへの交流電圧の印加を停止する、[態様1]または[態様2]に記載の調光装置。
【0011】
上記構成によれば、低温環境での光透過率の応答性を向上させつつ、高周波電圧を印加しても液晶組成物の誘電率異方性が正である常温付近の温度において、光透過率の応答性を良好に保つことができる。
【0012】
[態様4]前記調光装置は、前記調光シートの付近の温度を検出する温度検出部を備え、前記駆動部は、前記温度検出部が検出した温度に応じて、前記第2処理における前記高周波電圧の印加期間を変える、[態様1]~[態様3]のいずれか1つに記載の調光装置。
上記構成によれば、高周波電圧が印加される期間を温度に応じて最適な長さに設定することにより、各温度にて好適な光透過率の応答性を得ることができる。
【0013】
[態様5]前記駆動電圧および前記高周波電圧の各々は、矩形波の交流電圧である、[態様1]~[態様4]のいずれか1つに記載の調光装置。
上記構成によれば、交流電圧の生成および周波数の制御が容易である。
【0014】
[態様6]前記駆動電圧および前記高周波電圧の各々は、正弦波の交流電圧である、[態様1]~[態様4]のいずれか1つに記載の調光装置。
上記構成によれば、交流電源からの電圧を有効に利用することも可能である。
【0015】
[態様7]前記調光層は、複数の空隙を含む透明高分子層と、前記空隙を埋める前記液晶組成物と、を含み、前記透明高分子層および前記液晶組成物のうちの前記透明高分子層の割合は、20質量%以上80質量%以下である、[態様1]~[態様6]のいずれか1つに記載の調光装置。
【0016】
上記構成によれば、駆動電圧の非印加時に光の散乱によって不透明状態となる調光シートが好適に実現される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低温環境での光透過率の応答性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】一実施形態の調光装置が実施する処理の手順を示すフローチャート。
【
図4】一実施形態の調光装置における常温での印加電圧を示す図。
【
図5】一実施形態の調光装置における低温での印加電圧を示す図。
【
図6】試験例の調光シートにおける25℃での光透過率の変化を示す図。
【
図7】試験例の調光シートにおける0℃での光透過率の変化を示す図。
【
図8】試験例の調光シートにおける-10℃での光透過率の変化を示す図。
【
図9】試験例の調光シートにおける-20℃での光透過率の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照して、調光装置の一実施形態を説明する。
[調光シートの構成]
図1に示すように、調光シート10は、調光層20、第1透明電極層31、第2透明電極層32、第1透明支持層41、および、第2透明支持層42を備えている。調光層20は、第1透明電極層31と第2透明電極層32とに挟まれ、これらの透明電極層31,32に接している。第1透明支持層41は、第1透明電極層31に対して調光層20と反対側で第1透明電極層31を支持し、第2透明支持層42は、第2透明電極層32に対して調光層20と反対側で第2透明電極層32を支持している。
【0020】
調光層20は、透明高分子層と液晶組成物とを含んでいる。透明高分子層は、多数の空隙を有しており、液晶組成物が、この空隙に充填されている。空隙の形状は、球形状、楕円体状、あるいは、不定形状である。
【0021】
調光層20は、例えば、高分子分散型液晶、あるいは、ポリマーネットワーク型液晶の構造を有する。高分子分散型の調光層20は、孤立した多数の空隙を区画する透明高分子層を備え、透明高分子層に分散した空隙のなかに液晶組成物が保持される。ポリマーネットワーク型の調光層20は、3次元の網目状を有したポリマーネットワークを備える。ポリマーネットワークは、透明高分子層の一例であり、ポリマーネットワークにおける相互に連通した網目の空隙のなかに液晶組成物が保持される。
【0022】
透明高分子層は、光重合性化合物の重合体である。光重合性化合物は、紫外線硬化性化合物でもよいし、電子線硬化性化合物でもよい。光重合性化合物は、液晶組成物と相溶性を有する。光重合性化合物が紫外線硬化性化合物であると、空隙の寸法の制御性が高められる。透明高分子層の形成に用いる光重合性化合物は、1種の重合性化合物であってもよいし、2種以上の重合性化合物の組み合わせであってもよい。
【0023】
紫外線硬化性化合物の一例は、分子構造の末端に重合性不飽和結合を含む。紫外線硬化性化合物の他の例は、分子構造の末端以外に重合性の不飽和結合を含む。紫外線硬化性化合物は、例えば、アクリレート化合物、メタクリレート化合物、チオール化合物、スチレン化合物、これらの各化合物のオリゴマーである。アクリレート化合物は、ジアクリレート化合物、トリアクリレート化合物、テトラアクリレート化合物を含む。アクリレート化合物の一例は、ブチルエチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートである。メタクリレート化合物は、ジメタクリレート化合物、トリメタクリレート化合物、テトラメタクリレート化合物を含む。メタクリレート化合物の一例は、N,N‐ジメチルアミノエチルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレートである。チオール化合物の一例は、1,3-プロパンジチオール、1,6-ヘキサンジチオールである。スチレン化合物の一例は、スチレン、メチルスチレンである。
【0024】
透明高分子層および液晶組成物のうちの透明高分子層の割合は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましい。透明高分子層の割合が上記範囲内であると、空隙が適度に確保される。上記範囲内において、透明高分子層の割合が大きいほど、透明高分子層の機械的な強度を高めることが可能であり、透明高分子層の割合が小さいほど、調光シート10の駆動に必要な電圧を低下させることが可能である。
【0025】
液晶組成物は、正の誘電率異方性を有する液晶化合物と、負の誘電率異方性を有する液晶化合物とを含む。液晶化合物が正の誘電率異方性を有する場合、液晶化合物の長軸方向の誘電率は、液晶化合物の短軸方向の誘電率よりも大きく、液晶化合物が負の誘電率異方性を有する場合、液晶化合物の長軸方向の誘電率は、液晶化合物の短軸方向の誘電率よりも小さい。液晶組成物においては、正の誘電率異方性を有する液晶化合物が支配的であり、常温において、液晶組成物全体としての誘電率異方性は正である。なお、本実施形態における常温とは、25℃である。
【0026】
液晶化合物は、例えば、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、ピリダジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ビフェニルシクロヘキサン系、ジシアノベンゼン系、ナフタレン系、ジオキサン系の化合物である。
【0027】
液晶組成物は、例えば、ネマティック液晶である。液晶組成物は、液晶化合物に加えて、二色性色素、粘度低下剤、消泡剤、酸化防止剤、耐候剤等を含有してもよい。耐候剤の一例は、紫外線吸収剤や光安定剤である。
【0028】
また、調光層20は、透明高分子層の全体に渡って分散されたスペーサを含んでいてもよい。スペーサは、スペーサの周辺において調光層20の厚さを定めることにより、調光層20の厚さを均一化する。スペーサは、透光性を有していれば、ビーズスペーサでもよいし、フォトレジストの露光および現像によって形成されるフォトスペーサでもよい。
【0029】
第1透明電極層31および第2透明電極層32の各々は、導電性を有し、可視領域の光に対して透明である。透明電極層31、32の材料は、例えば、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)、銀、銀合金等である。
【0030】
第1透明支持層41および第2透明支持層42の各々は、可視領域の光に対して透明な基材である。透明支持層41,42の材料は、例えば、合成樹脂や無機化合物である。合成樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリオレフィン等である。無機化合物は、例えば、二酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素等である。
【0031】
調光シート10はさらに、第1透明電極層31を電源と電気的に接続するための第1配線部51、および、第2透明電極層32を電源と電気的に接続するための第2配線部52を備えている。
【0032】
調光シート10の端部において、第1透明電極層31は、調光層20と第2透明電極層32および第2透明支持層42とから露出しており、この露出した第1透明電極層31の表面に、第1配線部51が接続されている。また、調光シート10の端部において、第2透明電極層32は、調光層20と第1透明電極層31および第1透明支持層41とから露出しており、この露出した第2透明電極層32の表面に、第2配線部52が接続されている。
【0033】
第1配線部51および第2配線部52の各々は、例えば、導電性接着層と、配線基板とを備える。導電性接着層は、例えば、異方性導電フィルム(ACF : Anisotropic Conductive Film)、異方性導電ペースト(ACP : Anisotropic Conductive Paste)、等方性導電フィルム(ICF : Isotropic Conductive Film)、等方性導電ペースト(ICP : Isotropic Conductive Paste)等から形成される。配線基板は、例えば、フレキシブルプリント基板(FPC : Flexible Printed Circuits)である。
あるいは、第1配線部51および第2配線部52の各々は、導電性テープ等の導電性材料と導線とがはんだ付けによって接合された構造を有していてもよい。
【0034】
なお、調光シート10は、取付対象物である透明板に貼り付けられる。透明板は、ガラス基板や樹脂基板である。透明板の一例は、車両や航空機等の移動体が搭載する窓ガラス、建物に設置された窓ガラス、車内や屋内に配置された間仕切りである。調光シート10が貼り付けられる面は、平面状あるいは曲面状である。また、調光シート10は、2つの透明板によって挟まれてもよい。
【0035】
[調光装置の構成]
図2に示すように、調光装置100は、上述した調光シート10と、駆動部60と、操作部70と、温度検出部80とを備えている。
【0036】
駆動部60は、配線部51,52を通じて、調光シート10の透明電極層31,32と電気的に接続されている。駆動部60は、交流電圧を生成して、当該交流電圧を調光シート10に印加する。
【0037】
操作部70は、スイッチやタッチセンサを含み、調光シート10の駆動のオンまたはオフを指示するユーザの操作を受け付ける。操作部70は、ユーザの操作に応じた信号を駆動部60に出力する。
【0038】
温度検出部80は、調光シート10の付近に配置される。温度検出部80は、温度センサを含み、周囲の温度を検出する。温度検出部80は、検出した温度に応じた信号を駆動部60に出力する。
【0039】
上記駆動部60の構成をさらに説明する。駆動部60は、制御部61と、交流電圧生成部62とを備えている。
制御部61は、例えば、CPU等の演算処理装置とメモリとを備える。また、制御部61は、各種の処理を全てソフトウェアで処理するように構成されていなくてもよく、例えば、各種の処理のうちの少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェアである特定用途向け集積回路(ASIC)を備えてもよい。制御部61は、ASICなどの1つ以上の専用のハードウェア回路、コンピュータプログラムであるソフトウェアに従って動作する1つ以上のプロセッサであるマイクロコンピュータ、あるいは、これらの組み合わせ、を含む回路として構成されてもよい。
【0040】
制御部61は、操作部70および温度検出部80からの信号に基づいて、交流電圧生成部62による交流電圧の生成を制御する。
交流電圧生成部62は、交流と直流との変換回路、変圧回路、フルブリッジ回路等を含み、電源から入力された電圧から、制御部61からの信号に従った周波数の交流電圧を生成する。具体的には、交流電圧生成部62は、制御部61からの制御信号に従ったフルブリッジ回路のスイッチングによって、矩形波の波形を有する交流電圧を生成する。
【0041】
[調光装置の動作]
調光シート10は、透明電極層31,32間の電位差の変化に伴う液晶組成物の配向状態の変化に基づいて、透明状態と不透明状態とのうちの一方から他方へ切り替わる。透明状態は、光透過率、すなわち平行線透過率が相対的に高い状態であり、不透明状態は、光透過率が相対的に低い状態である。また、透明状態は、ヘイズが相対的に低い状態であり、不透明状態は、ヘイズが相対的に高い状態である。
【0042】
透明電極層31,32間の電位差が0であるとき、液晶化合物の長軸方向の向きは不規則である。そのため、液晶化合物の複屈折率や液晶化合物と透明高分子層との屈折率差に起因して、調光シート10に入射した光は、調光層20にて様々な方向に散乱される。したがって、調光シート10は、不透明状態となる。
【0043】
一方、透明電極層31,32間に所定値以上の電圧が印加されると、誘電率異方性が正である液晶化合物は、その長軸方向が電界方向に沿う向きに配向される。すなわち、調光層20の厚さ方向に長軸方向が沿うように、液晶化合物の向きが変わる。その結果、調光層20での光の散乱が抑えられ、調光シート10を光が透過しやすくなる。したがって、調光シート10は、透明状態となる。
【0044】
ここで、不透明状態から透明状態への切り替えに要する時間、すなわち、電圧の印加のオンに対する光透過率の応答の立上り時間τrは、下記(式1)にて規定される。また、透明状態から不透明状態への切り替えに要する時間、すなわち、電圧の印加のオフに対する光透過率の応答の立下り時間τfは、下記(式2)にて規定される。下記(式1)および(式2)において、ηは液晶組成物の粘度であり、dは液晶領域の厚さ、具体的には調光層20が含む空隙であるドメインの径であり、Δεは液晶組成物の誘電率であり、ε0は真空中の誘電率であり、Vは印加電圧であり、Vcは液晶組成物の配向状態が変わる閾値電圧であり、Kは液晶組成物の弾性定数である。
τr=ηd2/{ε0Δε(V-Vc)2-Kπ2} ・・・(式1)
τf=ηd2/Kπ2 ・・・(式2)
【0045】
上記(式1)および(式2)に示されるように、立上り時間τrおよび立下り時間τfのいずれも、液晶組成物の粘度ηが大きいほど長くなる。低温環境では、液晶組成物の粘度ηが著しく上昇するため、不透明状態と透明状態との切り替えに時間がかかりやすくなる。
【0046】
この問題に対し、立上り時間τrは、印加電圧Vを大きくすることで短くすることができる。印加電圧Vの大きさ、すなわち駆動部60にて生成される電圧の大きさは、調光シート10の構成とは別に設定することが可能であるため、調整の自由度は高い。
【0047】
一方、立下り時間τfは、液晶組成物の粘度ηの他、液晶領域の厚さdおよび液晶組成物の弾性定数Kによって決まる。こうした調光層20自体の物性は、材料による制約が大きく、また、調光シート10に要求される光学特性等の他の物性にも関与するため、調整の自由度は小さい。
【0048】
したがって、従来の構成では、低温環境における透明状態から不透明状態への切り替えに要する時間を短縮することが困難であった。本実施形態では、温度と印加電圧の周波数とに依存した液晶組成物の誘電率異方性の特性に着目することで、この課題の解決を図っている。
【0049】
液晶組成物の誘電率異方性は、温度および印加電圧の周波数に応じて変わる。印加電圧の周波数が、例えば50Hz程度の低周波数であるとき、常温にて正である液晶組成物の誘電率異方性は、温度が下がるにつれてやや大きくなる。こうした低温での誘電率異方性の増大は、低温では液晶組成物の性質が結晶に近づくことに起因すると考えられる。
【0050】
一方、印加電圧の周波数が、例えば1kHz程度の高周波数であるとき、常温にて正である液晶組成物の誘電率異方性は、温度が下がるにつれて大きく低下し、例えば0℃未満の低温にて誘電率異方性は負になる。印加電圧の周波数が高いと、短周期での電圧の変化に対する液晶化合物の長軸方向の分極の遅れが生じる結果、低温では短軸方向の分極が支配的となって、液晶組成物の誘電率異方性の正負の反転が起こると考えられる。
【0051】
このように、低温にて液晶組成物の誘電率異方性が周波数分散を起こすことを利用して、調光シート10への印加電圧が制御される。以下、
図3~
図5を参照して、その詳細を説明する。
【0052】
まず、調光シート10のオン期間が開始されると、制御部61からの指示に基づき、交流電圧生成部62にて矩形波の交流電圧である駆動電圧が生成される。これにより、調光シート10に駆動電圧が印加される。このオン期間に駆動電圧を印加する駆動部60の処理が、第1処理である。
【0053】
駆動電圧の大きさは、液晶組成物の配向状態が変わる閾値電圧よりも大きく、駆動電圧の周波数は、例えば、30Hz以上120Hz以下である。駆動電圧は、液晶組成物を垂直配向させるための交流電圧であり、また、温度の低下に伴って液晶組成物の誘電率異方性を増大させる交流電圧であると言える。
【0054】
なお、調光シート10のオン期間は、調光シート10の駆動のオンが指示されている期間であり、具体的には、制御部61が、調光シート10の駆動のオンを指示する信号を操作部70から受けてから、調光シート10の駆動のオフを指示する信号を操作部70から受けるまでの期間である。また、調光シート10のオフ期間は、調光シート10の駆動のオフが指示されている期間であり、具体的には、制御部61が、調光シート10の駆動のオフを指示する信号を操作部70から受けてから、調光シート10の駆動のオンを指示する信号を操作部70から受けるまでの期間である。すなわち、調光シート10の駆動の停止の指示によって、オン期間がオフ期間に切り替わり、調光シート10の駆動の開始の指示によって、オフ期間がオン期間に切り替わる。
【0055】
図3は、調光シート10のオン期間の開始後に、制御部61が実行する処理の流れを示す。
まず、ステップS10の処理として、制御部61は、調光シート10の駆動のオフを指示する操作が行われたか、すなわち、当該操作に対応する信号が操作部70から入力されたかを判定する。
【0056】
駆動のオフを指示する操作が行われていない場合(ステップS10にて否定判定)、制御部61は、ステップS11の駆動継続処理として、交流電圧生成部62に駆動電圧の生成を継続させる。これにより、調光シート10への駆動電圧の印加が継続される。駆動継続処理が実施された場合には、ステップS10以降の処理が繰り返される。
【0057】
駆動のオフを指示する操作が行われた場合(ステップS10にて肯定判定)、制御部61は、ステップS12の処理として、温度検出部80が検出した温度が閾値以下であるかを判定する。閾値は、高周波数の電圧の印加時に液晶組成物の誘電率異方性が負となる温度であり、例えば、-10℃である。
【0058】
温度が閾値より大きい場合(ステップS12にて否定判定)、制御部61は、ステップS13の通常オフ処理を行う。具体的には、制御部61は、調光シート10に対する交流電圧の印加を停止する。
【0059】
図4は、通常オフ処理が実施された場合の調光シート10への印加電圧を示す。オン期間Tnにおいては、矩形波の交流電圧である駆動電圧が印加されており、時刻t1にてオフ期間Tfが開始されるとともに、交流電圧の印加が停止される。言い換えれば、オフ期間Tfの印加電圧は常に0Vである。
【0060】
図3に戻り、温度が閾値以下である場合(ステップS12にて肯定判定)、制御部61は、ステップS14の低温オフ処理を行う。具体的には、制御部61は、オフ期間の開始から一時的に、駆動電圧よりも周波数の大きい矩形波の交流電圧である高周波電圧を交流電圧生成部62に生成させる。これにより、高周波電圧が調光シート10に印加される。その後、制御部61は、調光シート10に対する交流電圧の印加を停止する。
【0061】
高周波電圧の周波数は、液晶組成物の組成に応じて、誘電率異方性が負に反転される高さに設定されればよい。例えば、高周波電圧の周波数は、1kHz以上である。高周波電圧は、温度の低下に伴って液晶組成物の誘電率異方性を減少させる交流電圧であると言える。
【0062】
図5は、低温オフ処理が実施された場合の調光シート10への印加電圧を示す。オン期間Tnにおいては駆動電圧が印加されており、時刻t1にてオフ期間Tfが開始されると、時刻t1から時刻t2までの第1オフ期間Tf1には、高周波電圧が印加される。そして、時刻t2以降の第2オフ期間Tf2には、交流電圧の印加が停止される。すなわち、オフ期間Tf内において、オフ期間Tfの開始からの一部の期間にのみ、高周波電圧が印加され、その後、印加電圧は0Vになる。駆動電圧と高周波電圧との大きさは同じである。このオフ期間Tfの初期のみに高周波電圧を印加する駆動部60の処理が、第2処理である。
【0063】
上述したように、オン期間Tnにて駆動電圧が印加されているとき、調光シート10の液晶組成物は、液晶化合物の長軸方向が調光層20の厚さ方向に沿うように透明電極層31,32に対して垂直に配向されている。そして、低温オフ処理が実施される低温環境では、高周波電圧の印加時に液晶組成物の誘電率異方性が負となる。したがって、第1オフ期間Tf1にて高周波電圧が印加されると、液晶化合物の短軸方向が電界方向に沿う向きに、言い換えれば、液晶化合物の長軸方向が透明電極層31,32に対して水平となる向きに、液晶化合物の向きを変えようとする力が働く。こうした力がオフ期間Tfの初期にかかることによって、単なる電圧の印加の停止による液晶化合物の向きの変化よりも、垂直配向からの液晶化合物の向きの変化が迅速に生じる。そのため、低温環境における透明状態から不透明状態への切り替えに要する時間を短縮することができる。
【0064】
[試験例]
上述した低温オフ処理を実施した時の調光シート10の光透過率の変化を、試験例を用いて説明する。
【0065】
初めに、試験例の調光シート10の製造方法を説明する。まず、第1透明電極層31と第1透明支持層41との積層体である第1シートと、第2透明電極層32と第2透明支持層42との積層体である第2シートとを用意する。透明電極層31,32の材料は酸化インジウムスズであり、透明支持層41,42の材料はポリエチレンテレフタレートである。さらに、調光層20の形成のための塗液を生成する。塗液は、光重合性化合物、液晶組成物、光重合開始剤、および、スペーサを含む。液晶組成物としては、シアノ系液晶化合物およびフッ素系液晶化合物を主として含む混合物を用いた。光重合性化合物および液晶組成物のうちの液晶化合物の割合は52質量%である。
【0066】
続いて、上記塗液を第1シート上に滴下し、ラミネート加工によって、第1シートと第2シートとの透明電極層31,32間に上記塗液からなる塗膜が挟まれるように、第1シートと第2シートとを貼り合わせた積層体を得る。そして、上記積層体に向けて紫外線を照射して光重合性化合物を重合させることによって、調光層20を形成する。紫外線の中心波長は360nmであり、紫外線の強度は、2mW/cm2以上12mW/cm2以下の範囲から選択した。これによって、試験例の調光シート10を得た。調光層20の厚さは20μmである。
【0067】
表1に、試験例の調光シート10に用いた液晶組成物について、各温度および各周波数の印加電圧での誘電率異方性を示す。
【0068】
【0069】
表1に示すように、低周波数の電圧を印加した場合には、液晶組成物の誘電率異方性は、温度が下がるにつれてやや大きくなり、常に正である。一方、高周波数の電圧を印加した場合には、0℃から-10℃の温度範囲にて誘電率異方性の正負が反転し、-10℃以下での誘電率異方性は負となる。
【0070】
試験例の調光シート10に対し、25℃、0℃、-10℃、-20℃の各温度について、試験条件1として、オフ期間Tfの開始から印加電圧を0Vとする場合、試験条件2として、オフ期間Tfの初期に高周波電圧の印加を実施する場合のそれぞれの光透過率の変化を測定した。測定対象の光透過率は、平行線透過率である。試験条件1の印加電圧は
図4に示した通常オフ処理の実施時の印加電圧に相当し、試験条件2の印加電圧は
図5に示した低温オフ処理の実施時の印加電圧に相当する。オン期間Tnに印加する駆動電圧は、50Hz,40Vの矩形波交流電圧である。高周波電圧は、1kHz,40Vの矩形波交流電圧であり、高周波電圧を印加する第1オフ期間Tf1の長さは、1000msである。
【0071】
図6は25℃での測定結果を示し、
図7は0℃での測定結果を示し、
図8は-10℃での測定結果を示し、
図9は-20℃での測定結果を示す。
図6~
図9の各々において、波形W1は、試験条件1の光透過率の変化を示し、波形W2は、試験条件2の光透過率の変化を示す。光透過率は、試験条件1におけるオン期間Tnの光透過率を100とした相対値で示す。
【0072】
図6に示すように、25℃においては、試験条件2で高周波電圧が印加されている第1オフ期間Tf1にて、試験条件2の光透過率は、試験条件1の光透過率よりも大きい。25℃においては、高周波電圧を印加した場合の液晶組成物の誘電率異方性は、駆動電圧の印加時よりは小さいものの、正である。すなわち、試験条件2では、第1オフ期間Tf1の間も、液晶組成物を垂直配向させる交流電圧が印加され続けていることになるため、光透過率が高く保たれた状態となる。これに対し、試験条件1では、オフ期間Tfの開始時から印加電圧が0Vになるため、光透過率が急速に低下している。そして、試験条件2でも、第2オフ期間Tf2にて印加電圧が0Vになると、試験条件1と同程度まで光透過率が低下する。
このように、25℃では、高周波電圧を印加しない試験条件1の方が、透明状態から不透明状態への迅速な切り替えが可能である。
【0073】
図7に示すように、0℃においても、高周波電圧を印加した場合の液晶組成物の誘電率異方性は正であるため、第1オフ期間Tf1における試験条件2の光透過率は、試験条件1の光透過率よりも大きい。また、25℃と比較すると、液晶組成物の粘度が大きくなることに起因して、第1オフ期間Tf1にて試験条件1の光透過率はやや下がりにくくなってはいるが、十分に低下していると言える。
このように、0℃でも、高周波電圧を印加しない試験条件1の方が、透明状態から不透明状態への迅速な切り替えが可能である。
【0074】
図8に示すように、-10℃では、液晶組成物の粘度がさらに大きくなるため、第1オフ期間Tf1にて試験条件1の光透過率がさらに下がりにくくなっている。一方で、高周波電圧を印加した場合の液晶組成物の誘電率異方性は負になるため、液晶組成物を水平配向させようとする力が働く結果、粘度が高い状態であっても、第1オフ期間Tf1における試験条件2の光透過率は、試験条件1の光透過率よりも小さくなっている。第2オフ期間Tf2では、試験条件1および試験条件2のいずれでも印加電圧は0Vであるから、液晶化合物の向きが不規則となるように変化していき、試験条件1および試験条件2の光透過率は同程度の大きさに収束していく。
このように、-10℃では、高周波電圧を印加する試験条件2の方が、透明状態から不透明状態への迅速な切り替えが可能である。
【0075】
図9に示すように、-20℃では、液晶組成物の粘度がさらに大きくなること、および、高周波電圧の印加時の液晶組成物の誘電率異方性が負の方向により大きくなることに起因して、第1オフ期間Tf1における試験条件2と試験条件1との光透過率の差が広がっている。
このように、-20℃でも、高周波電圧を印加する試験条件2の方が、透明状態から不透明状態への迅速な切り替えが可能である。
【0076】
以上のように、高周波電圧の印加によって液晶組成物の誘電率異方性が負となる温度では、オフ期間Tfの初期に高周波電圧を印加することで、透明状態から不透明状態への迅速な切り替えが可能であり、これにより、低温環境での光透過率の応答性を向上させることができる。また、高周波電圧を印加しても液晶組成物の誘電率異方性が正である常温付近の温度では、高周波電圧の印加を行わず、オフ期間Tfの初期から印加電圧を0Vとすることで、光透過率の応答性を良好に保つことができる。
【0077】
なお、
図8と
図9とを比較すると、印加電圧を0Vとすることにより光透過率が収束する値をオフ到達値としたとき、試験条件1では、-10℃よりも-20℃の方が、オフ期間Tfの開始から光透過率がオフ到達値まで低下することに要する時間が長い。具体的には、-10℃では2秒程度であり、-20℃では2秒よりも長い。これは、上述のように、温度の低下によって液晶組成物の粘度が大きくなるためである。
【0078】
一方、試験条件2では、-10℃よりも-20℃の方が、オフ期間Tfの開始から光透過率がオフ到達値まで低下することに要する時間が短い。具体的には、-10℃では0.2秒程度であり、-20℃では0.1秒よりも短い。これは、温度の低下による液晶組成物の粘度の増大、すなわち液晶化合物の向きの変化を抑える力の増大と、温度の低下による液晶組成物の負の誘電率異方性の増大、すなわち液晶化合物の向きの変化を促進する力の増大とのうち、負の誘電率異方性の増大の作用の方が大きいためである。
【0079】
粘度の増大と負の誘電率異方性の増大とのどちらの作用が大きいかは、温度帯域や液晶組成物の組成によって変わる。したがって、温度が低くなるほど、光透過率がオフ到達値に達するまでの時間が短くなるとは限らない。
【0080】
また、低温環境におけるオフ期間Tfの初期にて、液晶組成物が完全に水平配向するまで高周波電圧を印加する必要はない。高周波電圧の印加により液晶化合物がどの程度まで向きを変えるかは、所望の光透過率の低下の程度に応じて、第1オフ期間Tf1の長さや高周波電圧の大きさの調整により、制御されればよい。
【0081】
以上、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)調光装置100において、低温環境でのオフ期間の初期に、高周波電圧の印加によって液晶組成物の誘電率異方性が負に反転される。これにより、液晶組成物を水平配向させる方向に力が働くため、単なる電圧の印加の停止による液晶化合物の向きの変化よりも、垂直配向からの液晶化合物の向きの変化が迅速に生じる。そのため、低温環境での光透過率の応答性の向上が可能である。
【0082】
(2)オフ期間の初期に高周波電圧が印加された後、調光シート10への交流電圧の印加が停止される。これにより、調光シート10が、通常オフ処理を実施した場合と同様の、液晶化合物の向きが不規則な不透明状態となる。また、高周波電圧を印加し続ける場合と比較して液晶組成物にかかる負荷や電力の削減が可能である。
【0083】
(3)温度検出部80の検出した温度が閾値以下であるとき、オフ期間の初期に高周波電圧を印加し、温度検出部80の検出した温度が閾値よりも大きいとき、オフ期間の開始から交流電圧の印加を停止する。これにより、低温環境での光透過率の応答性を向上させつつ、高周波電圧を印加しても液晶組成物の誘電率異方性が正である常温付近の温度において、光透過率の応答性を良好に保つことができる。
【0084】
(4)駆動電圧および高周波電圧が矩形波の交流電圧であるため、これらの生成および周波数の制御が容易である。
【0085】
[変形例]
上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。また、以下の変形例は互いに組み合わせて実施してもよい。
・駆動電圧の大きさと高周波電圧の大きさとは、互いに異なっていてもよい。例えば、駆動電圧の大きさは、オン期間への切り替え時の光応答率の応答性が所望の程度となるように設定され、高周波電圧の大きさは、オフ期間への切り替え時の光応答率の応答性が所望の程度となるように設定されてもよい。一方、駆動電圧と高周波電圧との大きさが一致していれば、駆動部60の構成が複雑になることを抑えることができる。
【0086】
・温度検出部80が検出した温度に応じて、第1オフ期間Tf1の長さが変更されてもよい。上述したように、低温環境にてオフ期間Tfの初期に高周波電圧を印加した場合、光透過率の低下に要する時間は、液晶組成物の粘度の増大と負の誘電率異方性の増大との作用の程度によって変わり、この作用の程度は、温度や液晶組成物の組成によって変わる。したがって、高周波電圧が印加される第1オフ期間Tf1を温度に応じて最適な長さに設定することにより、各温度にて好適な光透過率の応答性を得ることができる。具体的には、粘度の増大の作用が大きく液晶化合物の向きが変わりにくい温度では、第1オフ期間Tf1を長くし、負の誘電率異方性の増大の作用が大きく液晶化合物の向きが変わりやすい温度では、第1オフ期間Tf1を短くすることが好ましい。
【0087】
・調光シート10に印加する交流電圧は、矩形波の交流電圧に限らず、正弦波の交流電圧であってもよい。
・調光装置100が常に低温環境で使用される場合、すなわち、高周波電圧の印加により液晶組成物の誘電率異方性が負となる温度範囲でのみ使用される場合、オン期間からオフ期間への切り替え時には、温度を判定することなく常に低温オフ処理が実施され、通常オフ処理は実施されなくてよい。この場合、調光装置100は、温度検出部80を備えていなくてもよい。あるいは、温度検出部80の検出温度は、高周波電圧の周波数、大きさ、印加期間等を決定するために用いられてもよい。
【0088】
・オン期間からオフ期間への切り替えは、操作部70に対するユーザの操作に限らず、例えば、オン期間が所定時間以上続いた場合等に、制御部61の判断によって自動で行われてもよい。
【0089】
・調光層20の構成は、上記実施形態に記載の構成に限られない。常温にて正の誘電率異方性を有する液晶組成物を用い、電圧印加による液晶組成物の配向状態の変化によって光透過率を変える調光装置であれば、上記実施形態における低温オフ処理を同様に適用し得る。
【符号の説明】
【0090】
10…調光シート
20…調光層
31,32…透明電極層
41,42…透明支持層
51,52…配線部
60…駆動部
70…操作部
80…温度検出部
100…調光装置