(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110223
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】非鉄金属圧延模擬試験方法、および、非鉄金属圧延模擬試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 3/08 20060101AFI20240807BHJP
【FI】
G01N3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014683
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】伊東 正登
(72)【発明者】
【氏名】長岡 佑磨
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA05
2G061AB01
2G061AC03
2G061BA11
2G061CA01
2G061CB04
2G061CC01
2G061DA01
2G061EA01
2G061EA02
2G061EA04
2G061EB07
(57)【要約】
【課題】複数パスで圧延する熱間圧延時の各種条件が熱間圧延後の結晶粒構造や集合組織などに与える影響を把握することができる非鉄金属圧延模擬試験方法を提供する。
【解決手段】非鉄金属(アルミニウムあるいはアルミニウム合金を除く)からなり、相対向する一組の押圧面と、該押圧面間に位置して前記押圧面と異なる方向に相対向する一組の延伸面と、前記押圧面と前記延伸面に接続する複数の自由面を有する立体形状をなし、前記押圧面と前記延伸面のうち、少なくとも1つの面に潤滑材収容部を備えた試験体を準備し、前記試験体に対して、前記潤滑材収容部に潤滑材を収容した状態で前記延伸面を拘束しながら前記相対向する一組の押圧面を接近させる方向に段階的に加圧し、前記試験体の前記自由面を互いに離間するように、前記試験体を段階的に延伸し、段階的延伸後の前記試験体の結晶粒構造と集合組織を、段階的圧延後の結晶粒構造と集合組織に模擬する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非鉄金属(アルミニウムあるいはアルミニウム合金を除く)からなり、相対向する一組の押圧面と、該押圧面間に位置して前記押圧面と異なる方向に相対向する一組の延伸面と、前記押圧面と前記延伸面に接続する複数の自由面を有する立体形状の試験体であり、前記押圧面と前記延伸面のうち、少なくとも1つの面に潤滑材収容部を備えた試験体を準備し、
前記試験体に対して、前記潤滑材収容部に潤滑材を収容した状態で前記延伸面を拘束しながら前記相対向する一組の押圧面を接近させる方向に段階的に加圧することにより、前記試験体の前記自由面を互いに離間するように、前記試験体を段階的に延伸し、段階的延伸後の前記試験体の結晶粒構造と集合組織を、多段圧延時の段階的圧延後の結晶粒構造と集合組織に模擬することを特徴とする非鉄金属圧延模擬試験方法。
【請求項2】
前記試験体として、前記押圧面と前記延伸面を90°で交差させ、前記自由面を前記押圧面と前記延伸面に対し90°で交差させた6面体からなる試験体を用いることを特徴とする請求項1に記載の非鉄金属圧延模擬試験方法。
【請求項3】
前記試験体を構成する前記非鉄金属の成分の変更と、前記試験体の前熱処理条件の変更と、前記試験体の加圧温度の変更と、前記試験体の加圧時のひずみ量の変更と、前記試験体の加圧時のひずみ速度の変更のうち、少なくとも1つを変更することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非鉄金属圧延模擬試験方法。
【請求項4】
立体形状の非鉄金属(アルミニウムあるいはアルミニウム合金を除く)からなる試験体を用い、
この試験体の相対向する2つの面をそれらの面が接近する方向に段階的に加圧しながら、この加圧方向に交差する前記試験体の少なくとも2つの面の膨出を拘束し、前記加圧方向に交差する前記試験体の他の少なくとも2つの面を膨出させる方向に前記試験体を段階的に変形させて圧延模擬試験を実施するための非鉄金属圧延模擬試験装置であって、
下部ダイと上部ダイを備えた圧力印加機構と、前記下部ダイと前記上部ダイの間に設置される金型と、前記金型を加熱する加熱手段を備え、
前記金型が、前記試験体を構成する前記非鉄金属より剛性の高い金属材料からなる基体からなり、該基体に前記試験体を収容する孔型の収容部が形成され、前記収容部に前記試験体の少なくとも2つの面の膨出を拘束する内側面が形成され、前記基体に前記収容部に収容した前記試験体の前記2つの面の膨出を許容する横孔が形成されたことを特徴とする非鉄金属圧延模擬試験装置。
【請求項5】
前記試験体が、相対向する一組の押圧面と、該押圧面間に位置して前記押圧面と異なる方向に相対向する一組の延伸面と、前記押圧面と前記延伸面に接続する複数の自由面を有する立体形状の試験体であり、前記押圧面と前記延伸面のうち、少なくとも1つの面に潤滑材収容部を備えた試験体であることを特徴とする請求項4に記載の非鉄金属圧延模擬試験装置。
【請求項6】
前記金型と該金型の周囲に設置された金型加熱用の高周波コイルを収容する収容チャンバーを有し、該収容チャンバーの底部に下部ダイが設けられ、前記収容チャンバーの天井壁を貫通して上下に移動自在に上部ダイが設けられたことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の非鉄金属圧延模擬試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄金属(アルミニウムあるいはアルミニウム合金を除く)の圧延を模擬することが可能な非鉄金属圧延模擬試験方法、および、非鉄金属模擬試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属の板材や箔材の製造方法では、一般的に、溶解鋳造により鋳塊を製造し、均質化処理後、所定の温度に加熱して熱間粗圧延を実施し、熱間仕上げ圧延後、冷間圧延、熱処理、冷間仕上げ圧延を経て板材や箔材を製造している。
上述の製造方法において、熱間圧延における結晶粒制御技術や集合組織制御技術は、板材や箔材の特性を制御する上で重要なファクターとなっている。
【0003】
種々組成の非鉄金属材料に関し、熱間圧延により得られる集合組織について、実機により試験や生産を行う以前に、ラボ試験により集合組織の状態を模擬できることが望ましい。ところが、従来技術において、実機による熱間圧延に近似するラボ圧延技術やラボ試験技術は提供されていない。
これは、ラボ圧延において試験中の温度を完全には制御できないこと、加工速度が実機と著しく異なることなどが原因となっている。また、組織模擬を達成し得る多段圧延は、冷却と加熱が繰り返されるので、それらの条件が異なると、全く違う組織となる場合があり、組織を模擬することが不可能となる。
これらの背景から、従来技術では、実機試作による模擬組織の把握しかできず、この把握には非常にコストがかかるため、熱間圧延を支配する多数の因子を完全に最適化することは困難な問題があった。
【0004】
なお、以下の非特許文献1には、水平支持した板状の試料の中央部を上部ダイと下部ダイで上下から押圧して圧縮加工部を形成し、この圧縮加工部を観察して組織を特定する技術が開示されている。
【0005】
また、以下の非特許文献2には、圧延模擬の手法として、高速引張試験機を用いてロール引抜加工した試料を用いて圧延変形中の集合組織発達の過程を系統的に調査する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】鉄と鋼、瀬沼他共著、一般社団法人日本鉄鋼協会、表題「連続熱間加工工程中の冶金現象を考慮した変形抵抗式の開発」、1984年、第10号、P1392~P1399
【非特許文献2】軽金属 高津他共著、一般社団法人軽金属学会、表題「恒温偏心ロール引抜きによるAZ31マグネシウム合金板の圧延集合組織の発達」、2009年、第59巻、第9号、P498~P501
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に記載の技術は、組織の模擬を目的とした技術ではないものの、平板状の試験片の一部を圧縮する平面ひずみ圧縮試験を実施している。非特許文献1に記載の技術では、試験片の一部に圧縮領域を形成して組織を観察するが、著しいひずみ分布が発生するので、観察位置により著しく違う組織を見ることとなり、組織評価の手法には向かない問題がある。
【0008】
非特許文献2に記載の技術は、圧延模擬を行うことで組織を評価しているが、用いる高速引張試験機では、実機圧延と同等レベルのひずみ速度を得ることは難しく、多段試験を行うとしてもロールを複数用意する必要があるなど、実施は容易ではない。また、1段の場合に比べて多段の場合は段数に対応した長い距離の引抜を行う必要が出てくる観点からも、実施は容易ではない問題がある。
【0009】
そこで、本発明者は、試料の幅方向に広がらない平面ひずみ圧縮という条件で加工することで、圧延と同等の結晶粒径及び集合組織を発達させることができると想定した。
また、試料を設置する試験機内で均熱状態を維持できるならば、実機と同等の金属組織を得ることができると想定した。
また、試料に対し適切なひずみとひずみ速度を付与できるならば、実機と同等の金属組織になると想定した。
更に、試験機内において試料に対し多段圧延を施すことができるならば、実機における多段圧延と同等の模擬が可能であると想定した。
【0010】
本願発明は、以上説明の背景に鑑み、複数パスで圧延する熱間圧延を模擬試験することができ、熱間圧延時の各種条件が熱間圧延後の結晶粒構造や集合組織などに与える影響を把握することができる非鉄金属圧延模擬試験方法の提供を目的とする。
本願発明は、複数パスで圧延する熱間圧延を模擬試験する場合に用いて好適な非鉄金属圧延模擬試験装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の態様1の非鉄金属圧延模擬試験方法は、非鉄金属(アルミニウムあるいはアルミニウム合金を除く)からなり、相対向する一組の押圧面と、該押圧面間に位置して前記押圧面と異なる方向に相対向する一組の延伸面と、前記押圧面と前記延伸面に接続する複数の自由面を有する立体形状の試験体であり、前記押圧面と前記延伸面のうち、少なくとも1つの面に潤滑材収容部を備えた試験体を準備し、前記試験体に対して、前記潤滑材収容部に潤滑材を収容した状態で前記延伸面を拘束しながら前記相対向する一組の押圧面を接近させる方向に段階的に加圧することにより、前記試験体の前記自由面を互いに離間するように、前記試験体を段階的に延伸し、段階的延伸後の前記試験体の結晶粒構造と集合組織を、多段圧延時の段階的圧延後の結晶粒構造と集合組織に模擬することを特徴としている。
【0012】
本発明の態様2の非鉄金属圧延模擬試験方法は、本発明の態様1の非鉄金属圧延模擬試験方法において、前記試験体として、前記押圧面と前記延伸面を90°で交差させ、前記自由面を前記押圧面と前記延伸面に対し90°で交差させた6面体からなる試験体を用いることを特徴としている。
【0013】
本発明の態様3の非鉄金属圧延模擬試験方法は、本発明の態様1または態様2の非鉄金属圧延模擬試験方法において、前記試験体を構成する前記非鉄金属の成分の変更と、前記試験体の前熱処理条件の変更と、前記試験体の加圧温度の変更と、前記試験体の加圧時のひずみ量の変更と、前記試験体の加圧時のひずみ速度の変更のうち、少なくとも1つを変更することを特徴としている。
【0014】
本発明の態様4の非鉄金属圧延模擬試験装置は、立体形状の非鉄金属(アルミニウムあるいはアルミニウム合金を除く)からなる試験体を用い、この試験体の相対向する2つの面をそれらの面が接近する方向に段階的に加圧しながら、この加圧方向に交差する前記試験体の少なくとも2つの面の膨出を拘束し、前記加圧方向に交差する前記試験体の他の少なくとも2つの面を膨出させる方向に前記試験体を段階的に変形させて圧延模擬試験を実施するための非鉄金属圧延模擬試験装置であって、下部ダイと上部ダイを備えた圧力印加機構と、前記下部ダイと前記上部ダイの間に設置される金型と、前記金型を加熱する加熱手段を備え、前記金型が、前記試験体を構成する前記非鉄金属より剛性の高い金属材料からなる基体からなり、該基体に前記試験体を収容する孔型の収容部が形成され、前記収容部に前記試験体の少なくとも2つの面の膨出を拘束する内側面が形成され、前記基体に前記収容部に収容した前記試験体の前記2つの面の膨出を許容する横孔が形成されたことを特徴としている。
【0015】
本発明の態様5の非鉄金属圧延模擬試験装置は、本発明の態様4の非鉄金属圧延模擬試験装置において、前記試験体が、相対向する一組の押圧面と、該押圧面間に位置して前記押圧面と異なる方向に相対向する一組の延伸面と、前記押圧面と前記延伸面に接続する複数の自由面を有する立体形状の試験体であり、前記押圧面と前記延伸面のうち、少なくとも1つの面に潤滑材収容部を備えた試験体であることを特徴している。
【0016】
本発明の態様6の非鉄金属圧延模擬試験装置は、本発明の態様4または態様5の非鉄金属圧延模擬試験装置において、前記金型と該金型の周囲に設置された金型加熱用の高周波コイルを収容する収容チャンバーを有し、該収容チャンバーの底部に下部ダイが設けられ、前記収容チャンバーの天井壁を貫通して上下に移動自在に上部ダイが設けられたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数パスで圧延する熱間圧延を模擬試験することができ、熱間圧延時の各種条件が熱間圧延後の結晶粒構造や集合組織などに与える影響を把握することができる非鉄金属圧延模擬試験方法、および、複数パスで圧延する熱間圧延を模擬試験する場合に用いて好適な非鉄金属圧延模擬試験装置の提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る実施形態の模擬試験装置を示す構成図。
【
図2】
図1に示す模擬試験装置に適用する金型の一例を示す斜視図。
【
図4】同金型の圧縮試験前の状態の一部を透視した斜視図。
【
図5】同金型の圧縮試験後の状態の一部を透視した斜視図。
【
図6】同金型を用いて試料を段階的に圧縮(圧延)する状態を示すもので、(a)は圧縮前の状態を示す側面略図、(b)は第1段目の圧縮後の状態を示す側面略図、(c)は第2段目の圧縮後の状態を示す側面略図、(d)は第3段目の圧縮後の状態を示す側面略図。
【
図7】模擬試験の対象の一例であるリバース式熱間圧延装置を示す略図。
【
図8】前記金型に設置する試験体の一例を示す斜視図。
【
図9】前記金型に設置する試験体の他の例を示す斜視図。
【
図10】(a)は模擬試験直前の試験体を示す説明図、(b)は圧縮途中の試験体の一例を示す説明図。
【
図12】比較例(非特許文献1に記載されている技術)の熱間加工試験を実施する状態を示す説明図。
【
図13】比較例(非特許文献1に記載されている技術)の熱間加工試験を実施した試料に対し、EBSDにより観察した部位を示す説明図。
【
図14】本発明例において300℃で圧延模擬試験を実施した試験体の観察写真。
【
図15】本発明例において400℃で圧延模擬試験を実施した試験体の観察写真。
【
図16】本発明例において500℃で圧延模擬試験を実施した試験体の観察写真。
【
図17】比較例において300℃で圧延模擬試験を実施した試験体の観察写真。
【
図18】比較例において400℃で圧延模擬試験を実施した試験体の観察写真。
【
図19】比較例において500℃で圧延模擬試験を実施した試験体の観察写真。
【
図20】本発明例の圧延模擬試験において、圧下率(%)と各種結晶方位の面積率(%)、結晶粒径(μm)、再結晶化率(%)の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
本実施形態は、非鉄金属(アルミニウムあるいはアルミニウム合金を除く)からなる非鉄金属帯板材を熱間圧延装置により段階的に圧延する場合を模擬試験する技術に関する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る非鉄金属模擬試験方法に用いて好適な非鉄金属模擬試験装置1を示すもので、この非鉄金属模擬試験装置1は、金属製の収容チャンバー2と、該収容チャンバー2の内部に収容された金型3と、この金型3の周囲に配置された加熱用の高周波コイル(加熱手段)5と、前記収容チャンバー2の下部側に配置された下部ダイ6と、前記収容チャンバー2の上部側に配置された上部ダイ7を主体として構成されている。
【0021】
収容チャンバー2は、金属製の底壁2aと側壁2bと天井壁2cを有する箱状に構成され、収容チャンバー2の4つの側面のうち3面を占めるように側壁2bが設置され、収容チャンバー2の残り1つの側面に金属製の扉体2Dが開閉自在に設けられている。
【0022】
収容チャンバー2の底壁2aの上に下部ダイ6が設けられ、天井壁2cを上下に貫通するように上部ダイ7が設けられている。下部ダイ6と上部ダイ7には、油圧機構などを備えた図示略の上下昇降機構が接続され、下部ダイ6の上端部に対し、上部ダイ7の下端部を接近または離間できるように上部ダイ7を上下に移動自在に構成されている。前記上下昇降機構に接続された下部ダイ6と上部ダイ7により圧力印加機構が構成されている。
なお、収容チャンバー2の構成は
図1に示す箱型に限らず、開閉扉を有する円筒状の容器の上部と下部に上部ダイと下部ダイを備えた構成でも良い。また、上部ダイ7を昇降する油圧機構は、収容チャンバー2の外部に設けても収容チャンバー2の内部に設けても良い。
【0023】
下部ダイ6の上に
図2~
図5に示す構成の金型3が設置されている。金型3は、下型9と上型10を備え、下型9と上型10の間に試験用の非鉄金属からなる立体形状の試験体11(
図3等参照)が収容される。また、金型3に収容された試験体11の上に直方体形状の圧子12が設置されている。
【0024】
ここで、下型9と上型10と圧子12は、非鉄金属からなる試験体11に比較し、十分に剛性の高い鉄鋼材料あるいは超硬材料などから構成される。例えば、非鉄金属からなる試験体11がマグネシウムあるいはマグネシウム合金である場合には、下型9と上型10と圧子12は、500℃における引張強度が500MPa以上の材料(SCM440,SKD61,SKD7,SKD8,超硬合金のP30等)で構成されることになる。また、非鉄金属からなる試験体11が銅あるいは銅合金、チタンあるいはチタン合金である場合には、下型9と上型10と圧子12は、500℃における引張強度が1000MPa以上の材料(SKD61,SKD7,SKD8,超硬合金のP30等)で構成されることになる。
【0025】
図3~
図5に示すように下型9は、平面視略長方形状のブロック板からなる下部基体13と該下部基体13の上面中央部に突出形成された平板状の受部14を有する。
下部基体13は、底面13aおよび上面13bと側面13c、13dを有する平面視略長方形状であり、受部14は上面14bと側面14c、14dを有する平面視略長方形状の平板状に形成されている。下部基体13の短辺側に側面13cが形成され、長辺側に側面13dが形成されている。受部14も短辺側に側面14cが形成され、長辺側に側面14dが形成されている。下部基体13において、側面13cと側面13dが接するコーナー部分には面取部13eが形成されている。
以下の説明において、金型3の方向を説明する場合、下部基体13の長辺方向に平行な方向をX方向、下部基体13の短辺方向に平行な方向をY方向、下部基体13の厚さ方向をZ方向と規定して適宜説明する。
【0026】
受部14の上面14bを平面視した幅(Y方向幅)および長さ(X方向長さ)は、下部基体13の上面13bを平面視した幅(Y方向幅)および長さ(X方向長さ)の数分の一程度に形成されている。また、受部14の厚さ(Z方向高さ)は、下部基体13の厚さ(Z方向高さ)の数分の一程度に形成されている。受部14は下部基体13の上面中央部に突出するように一体に形成され、受部14の長さ方向と下部基体13の長さ方向は
図2~
図5に示すように同じ向きに揃えられている。
【0027】
上型10は、下部基体13と同じ平面視形状を有するブロック板状の上部基体15からなる。上部基体15は、下部基体13と類似する概形を有する。上部基体15は、底面15aと上面15bと側面15c、15dを有する。上部基体15においても下部基体13と同様に、上面15bが平面視略長方形状であり、その短辺側に側面15cが形成され、長辺側に側面15dが形成されている。上部基体15において、側面15cと側面15dが接するコーナー部分には面取部15eが形成されている。
【0028】
上部基体15には、その底面側から上面側に至るように上部基体15を貫通し、上部基体15の底面を下部基体13の上面に被せた場合に受部14を挿入できる大きさの平面視長方形状の貫通孔型の収容部17が形成されている。
上部基体15の厚さ(高さ)は、下部基体13の厚さと同等程度に形成されているので、上部基体15の底面を下部基体13の上面に被せて収容部17に受部14を挿入した場合、収容部17の深さの数分の一程度を受部14が占めるように受部14が収容部17に挿入される。
【0029】
上部基体15において、一方の側面15cの中央部から、前記収容部17の一側に至るように横孔18が形成され、収容部17において他方の側面15cの中央部から、前記収容部17の他側に至るように横孔18が形成されている。これら横孔18の横幅(Y方向幅)は、収容部17の内幅(Y方向幅)と同じ幅に形成されている。また横孔18のY方向幅は、受部14のY方向幅と同一に形成されている。
【0030】
また、横孔18の形成位置は、下部基体13の上面13bに上基板15の底面15aを位置合わせして収容部17に受部14を挿入した場合、受部14の上面14bと横孔18の底面が面一位置となるように形成されている。
圧子12は、平面視長方形状の直方体であり、上部基体15の上方から収容部17の上面開口部に対し隙間無く挿入可能な平面視形状を有する。
なお、上部基体15あるいは下部基体13の一部に熱電対を設け、圧縮加工中の試験体11の温度を計測できるように構成することが望ましい。
【0031】
高周波コイル5は、下部ダイ6の上に設置されている金型3を取り囲むように配置され、図示略の電源設備に接続されている。この電源設備から高周波コイルに通電し、金型3を所望の温度に高周波加熱できるように構成されている。金型3を介し試験体11を加熱する機構は、直接加熱機構である高周波加熱機構だけでなく、赤外炉による直接加熱機構、電気炉による間接加熱機構のいずれであっても良い。なお、粗圧延板の組織から変化させないためには、急速加熱できる直接加熱機構を採用することが好ましい。
【0032】
例えば、一般的な熱間圧延装置を用いて、銅または銅合金の熱間圧延を実施する場合、200℃~1000℃に加熱しながら圧延することがある。
また、一般的な熱間圧延装置を用いて、マグネシウムまたはマグネシウム合金の熱間圧延を実施する場合、200℃~600℃に加熱しながら圧延することがある。
さらに、一般的な熱間圧延装置を用いて、チタンまたはチタン合金の熱間圧延を実施する場合、400℃~1000℃に加熱しながら圧延することがある。
よって、高周波コイル5を用いて金型3と金型3にセットした試験体11を加熱することにより、圧延模擬試験の対象となる非鉄金属に応じた所定の温度範囲の温度とすることができる。
【0033】
図8に試験体11の概形を示す。この試験体11は、模擬試験の対象とする非鉄金属からなる立方体状に形成されている。
図8に示す試験体11は、各面を正方形状とした6面体であるが、6面のうち、4面にざぐり部(潤滑材収容部)11aが形成されている。ざぐり部11aは試験体各面の周縁部を除く位置に各面より若干小さい矩形状の凹部として形成されている。このため、ざぐり部11aの周縁にはざぐり部11aが形成されていない幅狭の周縁部11bが形成されている。
なお、ざぐり部11aの形状は潤滑材収容量が十分であれば、矩形状でなくとも良く、潤滑材収容量が十分であれば、ざぐり部11aの内側に周縁部11bの高さ以下の突起などを有していても良い。
ここで、圧縮中に試験体11にバリが生じると、試験体11の不均一変形、加工荷重の増大、試験体11の取り出し困難、といった問題が生じるおそれがある。そこで、本実施形態においては、試験体11の辺の部分をC面取り(C:0.1~0.4)を行うことが好ましい。
【0034】
図9は試験体の他の例を示すもので、試験体は
図9に示すように直方体状でも良い。
図9に示す試験体30は、正方形状の底面30Aおよび上面30Bと、縦長の長方形状の4つの側面30Cを具備する6面体形状である。
図9に示す試験体30は、底面30Aと上面20Bを正方形状とし、側面20Cを長方形状とした6面体であるが、6面のうち、4面にざぐり部(潤滑材収容部)30aが形成されている。ざぐり部30aは試験体各面の周縁部を除く位置に各面より若干小さい矩形状に形成される。このため、ざぐり部30aの周縁にはざぐり部30aが形成されていない幅狭の周縁部30bが形成されている。
なお、試験体30に形成するざぐり部30aの個数は任意で良い。勿論、試験体11の場合もざぐり部11aの個数も任意で良い。
【0035】
図4に示すように、上部基体15の底面を下部基体13の上面に被せて収容部17に受部14を挿入した場合、収容部17の内底部側を受部14が占めるように受部14が収容部17に挿入される。また、収容部17の内上部側には、試験体11を収容可能な凹部が形成される。収容部17の内上部側に試験体11を収容した状態を
図4に示す。
【0036】
図4に示す状態において、収容部17の相対向する内側面17aに試験体11の側面が接触した状態となり、試験体11の両側面は各々の側面より外側に膨出できないような拘束状態とされる。なお、収容部17の長さ方向両端側には、横孔18が配置されているので、横孔18に面する側の試験体11の両端部(X方向両端部)は横孔18に沿ってX方向に延出することが可能となる。横孔18は、試験体11が変形してその両端部が延伸することを許容する位置に形成されている。
【0037】
収容部17の内上部側に試験体11を収容する場合、ざぐり部11aを設けた側の面が圧子12の下面と収容部17の内側面17aと受部14の上面に接するように、試験体11を配置することが好ましい。このような配置することで、ざぐり部11aに収容した潤滑材を収容部17の内面側あるいは圧子12の底面側に効率良く供給して潤滑できるようになる。潤滑材として、硫化モリブデン系のペースト状潤滑剤を用いることができるが、試験体11の表面潤滑性が十分であれば、その他の潤滑材を用いても良いし、潤滑材を略してもよい。
【0038】
図4に示すように試験体11を設置する場合、
図8に示すように圧子12に接する試験体11の上面と受部14に接する試験体11の下面が一組の押圧面11Aとなる。収容部17の内側面17a、17aに接する試験体11の一組の側面が延伸面11Bとされる。
収容部17のX方向両側の横孔18に面する試験体11の一組の側面が自由面11Cとされる。試験体11では、上下の押圧面11A、11Aの間に延伸面11Bが配置され、押圧面11Aと延伸面11Bに接続するように自由面11Cが配置されている。
試験体11において、押圧面11Aに対し延伸面11Bと自由面11Cは90°で交差される面とされ、延伸面11Bと自由面11Cも互いに90°で交差される面とされている。
【0039】
次に、
図1に示す模擬試験装置1と
図8に示す試験体11を用いて行う熱間圧延の模擬試験について説明する。
図8に示す試験体11は、試験対象とする非鉄金属から形成する。試験対象とする非鉄金属の成分(組成)に合わせて溶解鋳造により鋳塊を作成し、鋳塊に例えば800~1000℃程度で均質化処理を施す。この鋳塊に対し熱間粗圧延を400~1000℃の範囲で行い、この熱間粗圧延板から
図8に示す形状に切り出したものを試験体11とすることができる。ここで行う均質化処理条件や熱間粗圧延の条件は、試験体11に対する前熱処理条件となる。
【0040】
次に、圧延模擬試験(熱間圧延模擬試験)を実施するため、熱間圧延の条件を決定する必要がある。
例えば、第1段目のパスと第2段目のパスと第3段目のパスにより3段の熱間圧延を実施する場合を想定する。
第1段目のパスでは、例えば、加圧時の温度600℃、圧下率50%、ひずみ速度10/sec、保持時間3分などの条件に設定できる。第2段目のパスでは、例えば、加圧時の温度650℃、圧下率46%、ひずみ速度40/sec、保持時間3分などの条件に設定できる。第3段目のパスでは、例えば、加圧時の温度700℃、圧下率42%、ひずみ速度150/sec、保持時間20分などの条件に自在に設定できる。
【0041】
下部基体13と上部基体15は、
図4に示すように下部基体13の上面13bに上部基体15の底面15aを位置合わせすることで受部14を収容部17に挿入することができる。更に、収容部17の内部に試験体11を挿入し、試験体11の上に圧子12を設置することで
図4に示すように金型3と試験体11を試験準備状態とすることができる。
試験体11に設けたざぐり部11aに潤滑油などの潤滑材を収容させておき、潤滑油付きの試験体11を金型3に設置することが好ましい。
【0042】
模擬試験装置1の扉体2Dを開放し、試験体11を収容した金型3を下部ダイ6の上に設置し、扉体2Dを閉めた後、高周波コイル5で金型3を目的の圧延温度に加熱する。
続いて上部ダイ7を下降させて
図5に示すように圧子12を介し、試験体11に圧力を印加する。圧力の印加方向は、
図5の場合、Z方向下向きであり、試験体11の相対向する上面と下面(一組の押圧面)を接近させる方向に試験体11を加圧する。
【0043】
圧力の印加は、
図6(a)~(d)に示す如く、上部ダイ7による圧子12の下降量を調節し、
図6(a)から
図6(b)に示す状態とする第1段目の熱間圧延パスの模擬試験を実施する。
引き続き、
図6(c)に示す状態とする第2段目の熱間圧延パスの模擬試験を実施し、次いで、
図6(d)に示す状態とする第3段目の熱間圧延パスの模擬試験を実施する。
第1段目の熱間圧延パスの模擬試験後、試験体11は、
図6(b)に示すように厚さを若干減じた試験体11Eとなり、第2段目の熱間圧延パスの模擬試験後、試験体11Eは、
図6(c)に示すように厚さを若干減じた試験体11Fとなる。第3段目の熱間圧延パスの模擬試験後、試験体11Fは、
図6(d)に示すように厚さを減じた試験体11Gとなる。
【0044】
なお、
図6(d)は、略図であるため、試験体11が圧子12と受部14の間に存在するように描かれている。しかし、圧子12と受部14により加圧された試験体11Gは加工率が高い場合、例えば、
図10(a)に示す状態から
図10(b)に示す状態を経て
図11に示す状態となるようにその両端部を圧子12と受部14の間から外側にはみ出させるように変形する場合がある。圧子12と受部14の間から外側にはみ出した部分は延伸部11Hと表記できる。
【0045】
図6(a)~(d)に示すように、試験体11は、その押圧面11A、11Aを互いに接近させるように、その自由面11Cを互いに離間する方向に、その延伸面11BをX方向に延伸するように変形される。
図6(b)~(d)に示すように、試験体11を3段階に延伸するので、
図6(a)~(b)を第1段目のパス、
図6(b)~(c)を第2段目のパス、
図6(c)~(d)を第3段目のパスと見立てて3段パスによる多段圧延の模擬試験を実施できる。
【0046】
前述の圧縮を行う場合、一例として、圧下率65%までは圧子12によって試験体11の全面を圧縮する。この方法で均一にひずみを付与することが可能であるが、全面圧縮のまま、例えば圧下率を90%にすると、試料長さが10倍にもなってしまい、更に、必要荷重も10倍となってしまう。そこで、圧下率65%以上では、金型3から意図的にはみ出させ、部分的に圧縮することが好ましい。例えば、圧下率65%未満では
図10(a)に示す状態から
図10(b)に示す状態で加工が終了するので、圧子12と受部14の間に挟まれている鎖線領域Rを観察対象とすることができる。圧下率65%を超えると、
図11に示すように金型3から試験体1がはみ出すが、圧子12と受部14の間に挟まれている鎖線領域Rを観察対象とすることができる。
【0047】
上述のように変形できるのは、試験体11の両側面がY方向に膨出できないように収容部17の内側面17aで拘束され、試験体11の両端(X方向両端)がX方向に膨出できるように横孔18、18が配置されていることによる。
図6(d)に示すように第3段目の熱間圧延パスの模擬試験が終了したならば、変形後の試験体11Gを取り出し、圧子12と受部14の間に挟まれていた
図11に示す鎖線領域Rの結晶粒観察を実施し、
図11に示す鎖線領域Rの集合組織の観察を行う。
【0048】
上述のように圧下率65%以上という条件下であれば、試験体11の長さ/厚さ比が十分大きいため、また潤滑が維持されているため、部分的な圧縮でも試験体11を均一に加工できる。部分的な圧縮は強加工付与には有効な手段であるが、下降途中からではなく、加工初期から部分的な圧縮を施してしまうと、せん断帯やデッドメタルゾーンができ、著しいひずみ分布ができてしまうので、長所だけを取り入れる上述の手法を採用した。
このように、金型3内で途中から部分的に圧縮することで、加工荷重や金型サイズを実現可能な範囲に収めつつ、最大95%の高圧下率まで均一にひずみを付与し、模擬することが可能となる。なお、金型の横孔18は、はみ出した試料の収容スペースとなる役割もある。
【0049】
図7は、一般的なリバース式の熱間圧延装置20を示すもので、上下に配置されたワークロール21、22と、それらワークロール21、22の上下に配置されたバップアップロール23、24を備えている。ワークロール21、22の入口側には巻取供給ロール25が設けられ、ワークロール21、22の出口側には巻取供給ロール26が設けられている。ワークロール21、22の入り口側には搬送ローラ27が設けられ、ワークロール21、22の出口側にも搬送ローラ28が設けられている。
上述の熱間圧延装置20を用いて第1段目の圧延パスと第2段目の圧延パスと第3段目の圧延パスにより3段の熱間圧延を実施する結果に得られる金属組織について、上述の模擬試験装置1を用いて模擬試験ができる。
なお、熱間圧延機として一般にタンデム式熱間圧延機も知られており、本模擬試験技術によりタンデム式熱間圧延機による圧延の模擬も可能と考えられる。また、3段の圧延のみならず、1段やその他の複数段の圧延を対象として本模擬試験技術を適用することも可能であるが、本実施形態では、上述の熱間圧延装置20を用いて3段の圧延を模擬する場合を一例とし、説明している。
【0050】
前述の模擬試験装置1と金型3を用いて模擬試験することにより、
図7に示す一般的な熱間圧延装置20を用いて多段熱間圧延処理した非鉄金属からなる圧延材の平均結晶粒(結晶粒構造)と、集合組織を模擬し、予測することができる。
模擬試験においては、前熱処理条件、上述の非鉄金属の成分、加圧時の温度、圧下率、ひずみ速度、保持時間などの条件を適宜変更し、条件に応じて生成した金属組織の平均結晶粒径と集合組織について把握する。
模擬試験装置1を用いて金型3内の試験体11を上述の如く模擬試験することにより、一般的な熱間圧延装置20を用いて実際に多段熱間圧延を施す以前に、非鉄金属からなる圧延材の平均結晶粒径と集合組織について、予想できるようになる。
【0051】
この模擬試験の結果に応じ、目的の平均結晶粒径と集合組織が得られた前述の模擬試験条件(前熱処理条件、合金成分、圧延温度、圧下率、ひずみ速度、保持時間)を参考に、実際の熱間圧延装置20を用いて行う圧延条件を決定することができる。
これにより、模擬試験結果に応じた平均結晶粒径(結晶粒構造)と集合組織を有する圧延材を熱間圧延装置20で製造できるようになる。
本実施形態の構造を採用することで、試験中の温度・ひずみ・ひずみ速度を正確に制御できる。
【0052】
従来は、熱間圧延装置20を実機として使用し、実機による模擬試験を行わなければ、非鉄金属からなる多段圧延材の平均結晶粒径と集合組織を模擬できなかった。これに対し、本実施形態では、模擬試験装置1を用いて金型3に収容可能な小さい試験体11を用いた複数段の加圧により模擬試験を実施可能となる。
このため、従来、大がかりで費用もかかる模擬試験でしか模擬できなかった多段圧延材の平均結晶粒の予測と集合組織の予測が低コストで正確かつ簡便にできるようになる。
【0053】
以下、上述した模擬試験を実施する手順について留意点を例示し、説明を追加する。
前述の模擬試験において、熱間仕上げ圧延が評価対象であれば、その前工程の熱間粗圧延板を作製/準備することが好ましい。
熱間粗圧延は、非鉄金属が銅または銅合金の場合には200~1000℃、非鉄金属がチタンまたはチタン合金の場合には400~1000℃、非鉄金属がマグネシウムまたはマグネシウム合金の場合には200~600℃で実施するとして、水などによる急冷で、仕上げ圧延直前の状態に組織を凍結することが好ましい。さらには、熱間粗圧延板の圧延(長手)方向をX方向、圧延板幅方向をY方向、板厚方向をZ方向に一致させて、模擬試験の試験体を採取することが好ましい。熱間加工における変形と再結晶挙動は、前工程の履歴の影響を受けるためである。上述の実施形態では全て前述の好ましい条件を採用できる。なお、前述の詳細な手順は、模擬試験の意図に応じて変更することが可能である。
【0054】
試験体11のZ方向の試料厚みをマイクロメータで正確に計測することが望ましい。
試験体11には、ざぐり部11aが形成されているので、
図8に示す延伸面11Bの中央位置で厚みtの実績を圧縮前後で測定する。潤滑材収容部のための表面の加工は、座ぐり以外に多重の溝なども考えられるので、各面で形状が統一されていれば、座ぐりや溝の底ではなく溝の上の部分で厚みを測定しても構わない。
【0055】
熱電対を取り付ける場合、X方向に垂直な面(先の実施形態ではざぐり部11aを設けていない面)に熱電対を取り付け、試料温度を計測することが好ましい。金型3にも熱電対を取り付け、金型3の温度を試験体11の温度と認識して模擬試験を制御しても構わない。
後述する実施例の場合では、試験体温度-金型温度=-10℃(±5℃)であった。なお、均熱は重要なので(温度制御が悪いと結果が安定しない)、試験体温度-金型温度の絶対値は50℃以内が好ましい。後述する実施例では、20℃以内に制御できた。
【0056】
前述の模擬試験装置において、圧子12に圧力を印加するための圧力印加機構は、ひずみ速度が0.5以上の速度で圧縮を実施できる装置であれば問題ない。圧力印加機構に、アキュムレーターという作動油の流体エネルギーを蓄積しておく(蓄圧しておく)機構とサーボ弁という油の流量と圧力を調整する機構を有することが好ましい。これらの機構により、高速の試験でもデータが尻切れ状態とならず、初めから終わりまで所定の速度で制御することができる。狙いのひずみ量およびひずみ速度を得るには、変位制御による圧力印加が好ましいが、荷重制御による圧力印加としても構わない。
本実施形態において、収容チャンバー2内は大気雰囲気で実施できるが、不活性ガス雰囲気や真空雰囲気としても構わない。
【0057】
高周波誘導加熱で金型と試料を加熱する場合、昇温速度は2~2000℃/minとすることができる。同程度の昇温速度が得られる加熱機構であれば、赤外炉加熱や管状電気炉加熱などでも構わない。所定温度到達後、圧縮前に30sec~3minの均熱のための保持を行う。模擬試験の目的に応じ、所定温度到達後の圧縮前の保持時間は0~120min程度に設定にすることが出来る。
【0058】
前述の第1段目のパスの圧縮は、圧縮初期から狙いのひずみ速度を出すために0.05~5mmの空走(助走)を入れることが好ましい。または、ひずみ速度算出への影響は軽微として空走は無くても構わない。
前述の第2段目のパスの圧縮を開始するまでの間、3min程度待機することが好ましい。
試験の目的に応じ、各パス間の待機時間は0.1sec~120min程度に設定することができる。なお、待機中に熱間圧延での加熱や冷却を模擬するために、温度を変更しても良い。温度を上げるか、もしくは、温度を保持する場合は、高周波誘導加熱の出力で制御できる。
温度を下げる場合は、高周波誘導加熱の出力で制御するか、下げ幅が大きい場合は高周波誘導加熱の出力をゼロとし、ガスなどの冷却媒体で金型3と試験体11の温度を下げることができる。
所望の温度が近づけば、高周波誘導加熱の出力調整で所望の温度に制御する。なお、圧延が1パスで終わりであれば、20min程度の温度保持を行ない、組織凍結のために、ガスや水などを用いて急冷することが好ましい。
【0059】
上述の20minの温度保持は圧縮時と同じ温度でも良いし、目的に応じ、より高温にするか、低温にしても構わない。また、この20minの温度保持は目的に応じ0~120min程度に調整することができる。
第2段目のパス以降(~第4段目のパスまで)の圧縮を行う。パス間や最終パス後の取扱いは上述の通りとすることができる。
圧縮後、試験体の厚みをマイクロメータなどで計測する。前述のように試験体の中央部で計測することが望ましい。圧下率65%以上の場合は、受部14と圧子12間で挟まれた部位の厚さを計測する。
【0060】
圧縮後、試験体をXZ面観察用にY方向中央で切断する。切断し得られたXZ面を研磨し、次の手順の観察に供する。なお、後述の実施例と同程度の観察面積が得られれば、XZ面で無くても構わない。
受部14と圧子12間で挟まれた部位をEBSD法(Electron BackScatter Diffraction method、電子線後方散乱回折法)で観察することにより組織観察する。
【0061】
模擬試験での測定視野広さは、一例として、厚みが1mmの場合は600μm×厚み1000μm×5視野とすることができる。厚みが1mm以外の場合は600μm×厚み×5視野とすることができる。
表面近傍(肉厚×5%程度)は除外しても構わないが、本実施形態のように均一に変形していれば除外する必要はない。また、結晶粒径によって、評価する広さは変えても構わなく、250個以上の結晶粒を評価すればよい、望ましくは500個以上評価すれば、更によい。さらに望ましくは1000個以上評価すればよく、最も望ましくは2000個以上の結晶粒を評価すればよい。
【0062】
測定のピッチは1.25μmもしくは2.5μmとすることができるが、少なくとも1視野以上は1.25μmピッチとし、それ以外を2.5μmピッチとすることができる。測定のピッチは、0.1~40μmに変更し、結晶方位の面積率を評価しても良いが、細かい方が精度良い。実施例で後述する粒径の評価と再結晶の程度の評価は、1.25μmピッチの結果を用いた。
模擬試験体の測定位置は圧子12と受部14で挟まれている範囲内であれば、どの位置を選択しても差し支えない。
【0063】
後述する実施例では、以上の手順で得た結果から、下記のパラメータを評価した。
再結晶の程度を以下のように評価できる。KAM(Kernel Average Misorientation:EBSDによるスキャン測定画像において隣り合うピクセルとの方位差、KAMが小さいとひずみが少ないとされる)の値が1.0度以内のピクセルを再結晶領域とみなし、その面積率を評価できる。
【0064】
なお、後述の実施例においてKAMの評価は上述の通り、1.25μmピッチの測定データを用い、600μm×厚み×1視野以上の結果を用いた。
1.25μmピッチのデータを使うこと、および、KAMが1.0度以内のピクセルを再結晶領域とみなすという条件に関しては、これらを変更すると再結晶領域の面積率の値が変わるため、固定することが望ましい。1.25μm-1.0度の組合せより、より好ましい条件を試行錯誤によって見つけた上で、条件固定し、計測を実施することにしても良い。
【0065】
後述する実施例では、結晶粒径を線分法で評価した。結晶方位差5度以上を、粒界粒界とし、圧縮方向に平行な線を全測定視野に対し計20本以上引き、粒径を算出した。1.25μmピッチの測定データを用い、600μm×厚み×1視野以上の結果を用いた。
粒径の算出方法は結晶粒の面積に対し等価直径を求める方法など他の算出方法を用いても良い。解析条件を揃えて、比較&検討することが肝要である。
【0066】
後述する実施例では、各結晶方位面積率を評価した。優先方位に対し、15度以内を閾値とし、15度以内の面積率を評価した。閾値以内の優先方位が2つある場合は、より近い方の優先方位の面積率にのみ計上した。また、閾値は10度以内でもいいし、20度以内としてもよい。解析条件を揃えて、比較&検討することが肝要である。
なお、優先方位の定量的表記の一つとして、{hkl}<uvw>があり、{hkl}は板面に平行な面の指数(Z方向に垂直な結晶面の指数)、<uvw>は圧延方向に平行な結晶軸の指数(X方向に平行な結晶軸の指数)を表す。
【0067】
Cube方位は{001}<100>、Goss方位は{011}<100>、Cu方位は{112}<111>、S方位は{123}<634>、Brass方位{011}<211>である。Cube方位とGoss方位は再結晶で形成する優先方位、Cu、S、Brass方位は圧延での加工集合組織の優先方位として知られる。
【0068】
「パラメータの定義」
後の実施例で用いた模擬試験の総圧下率は(総圧下率=(マイクロメータ計測の元の厚さーマイクロメータ計測の圧縮後の厚さ)÷元の厚さ×100)で算出した。複数パスの場合の各パスの圧下率や、ひずみ速度は次のように算出した。
まず、圧縮中の圧力印加機構に設けられているシリンダーの変位を計測しているので、これを利用して圧縮中の圧下率やひずみ速度を求めることが出来る。シリンダーの変位は、金型などの変形による変位も含んでいるので、(元の厚さ-圧縮後の厚さ)で圧縮の変位のストローク量を線形補正することが好ましい。
模擬試験装置+金型だけの時の荷重に対応する変位を事前に計測しておき、試験時の変位から引き算することで、試験体の変形だけによる変位を評価してもよい。または、ひずみ速度算出への影響は軽微として補正しなくてもよい。
【0069】
後述する実施例では、前述の変位データを用いて、各パスの圧縮前の厚さ、圧縮中の厚さ、圧縮後の厚さを算出した。
各パスの圧下率は、圧下率=(圧縮前の厚さ-圧縮後の厚さ)÷圧縮前の厚さ×100)で算出し、後述する表1に記した。
模擬試験におけるひずみ速度は、各パスの圧縮中の厚さと圧縮後の厚さから、圧縮中の圧縮方向対数ひずみの絶対値を=|ln(圧縮中の厚さ/元の厚さ)|で求め、単位時間(1sec)当たりの増分で求めた。
Misesモデルによる相当塑性ひずみに対し単位時間(1sec)当たりの増分でひずみ速度とする考え方もあり得て、その場合、上記の値を2/√3(≒1.15)倍することで求められるが今回は単純に圧縮方向対数ひずみに対する速度としている。
【0070】
後述する実施例ではひずみ速度一定となるようにストロークを制御したが、ストローク速度一定でも構わない。
なお、実機圧延のひずみ速度の求め方は次の通りとしている。
厚さh1[mm]の板に対し、h2[mm]まで圧下し、その際の圧延ロール半径がR[mm]でロール周速がVr[mm/sec]とする。まず、圧縮方向の対数ひずみの絶対値は|εZ|=|ln(h2/h1)|と求められる。この変形が何秒間で行われるかでひずみ速度を出す。ロールと材料の前後厚さから幾何学的関係によって、ロールへの噛み込み角度はθ=acos(1-(h1-h2)/2/R)[radian]、ロールへの材料の接触弧長はRθ[mm]と計算できる。よって、ロールによって材料がつぶされる間の接触時間はtc=Rθ/Vr[sec]と求められる。以上より、ひずみ速度は|εZ|/tc[sec-1]と求められる。
後述する実施例では、加熱や温度保持には誘導加熱電流を流し、パス間では必要に応じガスなどで冷却し、最後は水冷しているがガス急冷でも構わない。
【0071】
ところで、上述した実施形態では、金型3を下部基体13と上部基体15からなる分割構造としたが、下部基体13と上部基体15を一体化した構造としても良い。
下部基体13と上部基体15をからなる分割構造の金型3とした方が、模擬試験後の試験体11Gを取り出しやすいという利点はある。模擬試験後の試験体11Gが取り出しやすい形状であれば、金型3を一体構造とすることもできる。
模擬試験後の試験体11Gを取り出し易くするために、横孔18のX方向幅とZ方向高さを十分に大きく形成しておくことができる。
【0072】
また、以上の説明では、
図8に示す試験体11を用いた場合について説明したが、
図9に示す試験体30を用いる場合は、試験体30の底面30Aと上面30Bを一組の押圧面として圧子12と受部14の間に配置する。試験体30のうち、ざぐり部30aを形成した側面を収容部17の内側面17aに接する側に延伸面として配置し、ざぐり部30aを形成していない側の側面を自由面として横孔18に対向する側に配置する。この状態から、上述の試験体11と同様に、圧子12と受部14で試験体30を加圧する模擬試験を実施すれば良い。
【実施例0073】
(実施例1)
本発明例として、無酸素銅からなり、
図8に示す形状の試験体を準備し、
図1~5に示す圧延模擬試験装置を用いて、以下の条件にて圧延模擬試験を実施した。
パス回数:1パス
圧下率:75%
ひずみ速度:80/秒
保持時間:20分
冷却方法:水冷
圧延温度:300℃、400℃、500℃
【0074】
比較例として、無酸素銅からなる試験体を準備し、
図12に示す熱間加工試験を以下の条件で実施した。
パス回数:1パス
圧下率:45%
ひずみ速度:80/秒
保持時間:20分
冷却方法:ガス急冷
圧延温度:300℃、400℃、500℃
【0075】
上述のようにして圧延模擬試験を行った試験体の結晶組織を、EBSD装置を用いて観察した。なお、比較例においては、
図13に示す部位を観察した。
本発明例の観察結果を
図14から
図16に、比較例の観察結果を
図17から
図19に示す。
また、6視野で結晶組織を観察した際の結晶方位の分布を評価した。本発明例の評価結果を表1~3に、比較例の評価結果を表4~6に示す。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
比較例においては、どの温度条件でも、結晶組織のばらつきが大きく、結晶粒径、結晶方位を十分に評価することができなかった。
これに対して、本発明例においては、どの温度条件でも、結晶組織のばらつきが小さく抑えられており、結晶粒径や結晶方位を十分に評価することが可能であった。
【0083】
(実施例2)
次に、無酸素銅からなり、
図8に示す形状の試験体を準備し、
図1~5に示す圧延模擬試験装置を用いて、表7に示す各条件にて圧延模擬試験を実施した。
そして、圧延模擬試験を行った試験体の結晶組織を、EBSD装置を用いて観察した。結晶方位、結晶粒径の評価結果を表8に示す。
また、表7に示す条件1~5(1パス圧下量変量)による各種結晶方位の面積率の変化、結晶粒径の変化、再結晶化率の変化を
図20に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
表8および
図14~16、
図20に示すように、圧下率が上昇するとともにS方位が増えるとともに結晶粒径が小さくなること、高圧下率でCube方位が増加すること、が確認されており、圧延時の結晶組織の特徴を十分に再現できている。
なお、再結晶化率は、圧下率に対して単調に変化していない。これは、低圧下率では加工量自体が小さいので加工によるKAM値の上昇量が小さく、中程度の圧下率ではKAM値が加工によって上昇するのに対してそれほど再結晶が起こらなく、高圧下率では再結晶によってKAM値が減少するためである。
【0087】
(実施例3)
次に、マグネシウム合金(AZ31)およびチタン(工業用純チタン2種)からなり、
図8に示す形状の試験体を準備し、
図1~5に示す圧延模擬試験装置を用いて、表9に示す各条件にて圧延模擬試験を実施した。
そして、圧延模擬試験を行った試験体の結晶組織を、EBSD装置を用いて観察した。結晶方位、結晶粒径の評価結果を表10に示す。
【0088】
【0089】
【0090】
マグネシウム合金およびチタンは六方晶金属であり、立方晶金属とは優先方位が異なる。六方晶金属の代表的な優先方位は、{0 0 0 1}<1 0 -1 0>、{1 1 -2 2}<-1 1 0 0>、{1 0 -1 0}<1 -2 1 0>、{1 1 -2 3}<-1 1 0 0>、{1 0 -1 3}<1 -2 1 0>である。いずれの結晶方位も条件に依存し発達する場合があり、圧延時の結晶組織の特徴を再現できている。
【0091】
以上の確認実験の結果、本発明によれば、複数パスで圧延する熱間圧延を模擬試験することができ、熱間圧延時の各種条件が熱間圧延後の結晶粒構造や集合組織などに与える影響を把握することができる非鉄金属圧延模擬試験方法、および、非鉄金属圧延模擬試験装置を提供可能であることが確認された。