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特開2024-110229リチウム分離方法、リチウム分離装置
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  • 特開-リチウム分離方法、リチウム分離装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110229
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】リチウム分離方法、リチウム分離装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/12 20060101AFI20240807BHJP
   C22B 3/02 20060101ALI20240807BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20240807BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20240807BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20240807BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20240807BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240807BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20240807BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B3/02
C22B3/04
C22B3/22
C22B3/44 101Z
C22B1/02
C22B7/00 C
C22B1/00 101
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014695
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】林 浩志
(72)【発明者】
【氏名】村岡 弘樹
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA09
4K001CA11
4K001DB01
4K001DB03
4K001DB16
4K001DB22
5H031EE01
5H031EE03
5H031EE04
5H031HH03
5H031HH06
5H031HH09
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】フッ素を含むリチウム含有材料からリチウムを効率的に進出することが可能で、またコストも低減できるリチウム分離方法、およびリチウム分離装置を提供する。
【解決手段】水易溶性カルシウム化合物、または水易溶性カルシウム化合物を含む溶液を用いて、フッ素を含むリチウム含有材料からリチウムを浸出させる浸出工程を有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水易溶性カルシウム化合物、または水易溶性カルシウム化合物を含む溶液を用いて、フッ素を含むリチウム含有材料からリチウムを浸出させる浸出工程を有することを特徴とするリチウム分離方法。
【請求項2】
前記浸出工程は、前記リチウムを水溶性リチウム化合物にして液相に移行させるとともに、前記フッ素をカルシウム化合物にして固相に移行させる工程であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム分離方法。
【請求項3】
前記浸出工程で得られた固液混合物を固液分離して、水溶性リチウム化合物を含む液相と、フッ化カルシウムを含む固相とを互いに分離する固液分離工程を更に有することを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム分離方法。
【請求項4】
前記液相は、フッ素濃度が0.1g/L以下であることを特徴とする請求項3に記載のリチウム分離方法。
【請求項5】
前記水易溶性カルシウム化合物は、塩化カルシウム、または硝酸カルシウムであることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム分離方法。
【請求項6】
前記フッ素を含むリチウム含有材料は、リチウムイオン電池を400℃以上、600℃以下の温度範囲で焼成した焼成物を破砕して分級することで得られる、粒度が1mm以下の電池焼成破砕物であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム分離方法。
【請求項7】
前記浸出工程の前工程であって、水難溶性カルシウム化合物と塩酸、または硝酸とを反応させて、前記水易溶性カルシウム化合物を生成する浸出剤生成工程を更に有することを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム分離方法。
【請求項8】
水易溶性カルシウム化合物、または水易溶性カルシウム化合物を含む溶液を用いて、フッ素を含むリチウム含有材料からリチウムを浸出させる浸出槽と、リチウム浸出後の固液混合物を固液分離する固液分離槽と、を有することを特徴とするリチウム分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素を含むリチウム含有材料からリチウムを分離させるリチウム分離方法、およびリチウム分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池の需要の高まりによって、リチウム資源の逼迫が懸念されている。このため、リチウムイオン電池が廃棄された際に、電極活物質などに含まれるリチウムを回収して再利用することが望まれている。
【0003】
リチウムイオン電池からリチウムなどの資源を回収する際には、リチウムイオン電池を焼成、粉砕したリチウムイオン電池粉砕物、いわゆるブラックマスと称される再生原料を用いることが一般的である。
【0004】
こうしたブラックマスからリチウムを分離する方法として、例えば、特許文献1では、ブラックマスを水に浸けることによって、リチウムを含む浸出液を得る方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ブラックマスを水に浸けるとともに、この浸出液に更に水酸化カルシウムを添加することで、浸出液に含まれる炭酸リチウムを水酸化リチウムにすることでリチウムを浸出する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、ブラックマスからリチウムを硫酸あるいは水浸出する際に、水酸化カルシウムなどの水に難溶性のカルシウム化合物を添加することで、フッ化カルシウム沈殿を形成させてリチウムの浸出率を向上させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6963135号公報
【特許文献2】特開2019-178395号公報
【特許文献3】国際公開第2022/085635号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されたリチウム回収方法は、ブラックマスに含まれるリチウムが水に難溶性の化合物として含まれているため、水による浸出ではリチウムの浸出率が低いという課題があった。また、リチウム浸出時に水酸化カルシウムを添加しているが、これはブラックマスに含まれるフッ素をフッ化カルシウムとして沈殿させるためのものであり、リチウムの浸出率の向上には寄与していない。
【0009】
また、特許文献2や特許文献3に開示されたリチウム回収方法は、リチウムの浸出時に加える水酸化カルシウムのような水に難溶性のカルシウム化合物は、水に易溶性のカルシウム化合物に比べると反応効率が低いため、リチウムの浸出率が低いという課題があった。また、リチウム含有物の粒度が大きい場合には、水に難溶性のカルシウム化合物との接触効率が悪化するため、リチウム浸出率がさらに低下するという課題がある。
【0010】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、フッ素を含むリチウム含有材料からリチウムを効率的に進出することが可能で、またコストも低減できるリチウム分離方法、およびリチウム分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
(1)本発明の第1態様に係るリチウム分離方法は、水易溶性カルシウム化合物、または水易溶性カルシウム化合物を含む溶液を用いて、フッ素を含むリチウム含有材料からリチウムを浸出させる浸出工程を有することを特徴とする。
【0012】
(2)本発明の第2態様に係るリチウム分離方法は、第1態様において、前記浸出工程は、前記リチウムを水溶性リチウム化合物にして液相に移行させるとともに、前記フッ素をカルシウム化合物にして固相に移行させる工程であることを特徴とする。
【0013】
(3)本発明の第3態様に係るリチウム分離方法は、第1又は第2態様において、前記浸出工程で得られた固液混合物を固液分離して、水溶性リチウム化合物を含む液相と、フッ化カルシウムを含む固相とを互いに分離する固液分離工程を更に有することを特徴とする。
【0014】
(4)本発明の第4態様に係るリチウム分離方法は、第3態様において、前記液相は、フッ素濃度が0.1g/L以下であることを特徴とする。
【0015】
(5)本発明の第5態様に係るリチウム分離方法は、第1から第4のいずれか1つの態様において、前記水易溶性カルシウム化合物は、塩化カルシウム、または硝酸カルシウムであることを特徴とする。
【0016】
(6)本発明の第6態様に係るリチウム分離方法は、第1から第5のいずれか1つの態様において、前記フッ素を含むリチウム含有材料は、リチウムイオン電池を400℃以上、600℃以下の温度範囲で焼成した焼成物を破砕して分級することで得られる、粒度が1mm以下の電池焼成破砕物であることを特徴とする。
【0017】
(7)本発明の第7態様に係るリチウム分離方法は、第1から第6のいずれか1つの態様において、前記浸出工程の前工程であって、水難溶性カルシウム化合物と塩酸、または硝酸とを反応させて、前記水易溶性カルシウム化合物を生成する浸出剤生成工程を更に有することを特徴とする。
【0018】
(8)本発明の第8態様に係るリチウム分離装置は、水易溶性カルシウム化合物、または水易溶性カルシウム化合物を含む溶液を用いて、フッ素を含むリチウム含有材料からリチウムを浸出させる浸出槽と、リチウム浸出後の固液混合物を固液分離する固液分離槽と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、フッ素を含むリチウム含有材料からリチウムを効率的に進出することが可能で、またコストも低減できるリチウム分離方法、およびリチウム分離装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態のリチウム分離方法を段階的に示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態のリチウム分離方法、リチウム分離装置について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0022】
なお、本発明においては、水易溶性(化合物)といった場合、水に対する溶解度が1g/100mL(液温20℃)以上であり、水難溶性(化合物)といった場合、水に対する溶解度が1g/100mL(液温20℃)未満であることをそれぞれ示している。参考として、いくつかのカルシウム化合物の液温20℃における水に対する溶解度を以下に例示する。
水酸化カルシウム(Ca(OH)):0.17g/100mL → 水難溶性
塩化カルシウム(CaCl):74.5g/100mL → 水易溶性
硝酸カルシウム(Ca(NO):121.2g/100mL → 水易溶性
【0023】
(リチウム分離装置)
本実施形態のリチウム分離装置は、浸出槽と固液分離槽と、を少なくとも有している。
浸出槽は、水易溶性カルシウム化合物、または水易溶性カルシウム化合物を含む溶液を用いて、フッ素を含むリチウム含有材料からリチウムを浸出させる反応容器であればよい。また、固液分離槽は、浸出槽において行ったリチウム浸出後の固液混合物を固液分離する分離装置、例えば、濾過装置であればよい。
【0024】
(リチウム分離方法)
図1は、本発明の一実施形態のリチウム分離方法を段階的に示したフローチャートである。
本実施形態のリチウム分離方法は、例えば、上述したリチウム分離装置を用いて行うことができる。
まず、フッ素を含むリチウム含有材料を用意する。こうしたフッ素を含むリチウム含有材料としては、例えば、リサイクル原料として回収されたリチウムイオン電池を用いて形成された電池焼成破砕物(ブラックマス)を挙げることができる。
【0025】
本実施形態で用いるブラックマスは、例えば、以下の方法で得ることができる。
リチウムイオン電池の正極活物質には、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)などのリチウム化合物が含まれている。また、負極活物質には、チタン酸リチウムなどのリチウム化合物が含まれているものがある。更に、電解液には、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)や四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)などのリチウム化合物が含まれている。
【0026】
まず、リチウムイオン電池を熱分解炉に入れ、好ましくは、過熱水蒸気雰囲気または不活性ガス雰囲気などの非酸化性雰囲気下で、例えば、400℃~600℃程度の温度範囲で、30分~5時間程度加熱し、リチウムイオン電池を熱分解する(熱分解工程S1)。こうした熱分解によって、リチウムイオン電池に含まれるフッ素成分である有機フッ素化合物は熱分解してフッ化水素を生成する。また、電解質の六フッ化リン酸リチウムや四フッ化ホウ酸リチウムなどは熱分解してフッ化水素とリン酸を生成する。
【0027】
そして、生成したフッ化水素と、電極活物質に含まれるリチウム化合物、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどは、それぞれ酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化コバルトなどの金属酸化物と、フッ化リチウム(LiF)が生成される。
【0028】
また、熱分解によって生じたリン酸もリチウム化合物と反応して、リン酸リチウム(LiPO)が生成する。また、熱分解の過程で生成した二酸化炭素とリチウム化合物が反応して炭酸リチウム(LiCO)なども生成する。
【0029】
このように、リチウムイオン電池に含まれる電極活物資や電解質の熱分解によって、フッ化リチウム、リン酸リチウム、炭酸リチウムなどのリチウム化合物が生成される。
【0030】
次に、上述したリチウムイオン電池の熱分解物を破砕する(破砕工程S2)。破砕によって、集電体に付着している熱分解後の電極活物質は、概ね粒径が1mm未満の微細な破砕物にされる。破砕工程S2には、例えば、二軸剪断破砕機やハンマーミルを用いることができる。
【0031】
次に、リチウムイオン電池の熱分解物の破砕物を、適切な目開きの篩を用いて分級して、例えば、1mm未満、好ましくは0.5mm以下の細粒物と、これより大きい粗粒物とに篩分けする(分級工程S3)。分級には、例えば、目開き0.1mm~1.0mm、好ましくは目開き0.1mm~0.5mm程度の振動篩などを用いて篩分けすればよい。こうした分級によって、粗粒物に含まれる集電体の金属箔と、細粒物に含まれる電極活物質の熱分解物とを分級することができる。
【0032】
以上の工程によって、本実施形態のフッ素を含むリチウム含有材料の一例である、リチウムイオン電池を400℃以上、600℃以下の温度範囲で焼成した焼成物を破砕して分級することで得られる、粒度が1mm以下の電池焼成破砕物(ブラックマス)を得ることができる。なお、ブラックマスに含まれるフッ素の割合は、例えば、1.0質量%~5.0質量%、リチウムの割合は、例えば、2.0質量%~8.0質量%程度である。
【0033】
本実施形態のリチウム分離方法では、上述したようなフッ素を含むリチウム含有材料、例えば、電池焼成破砕物であるブラックマスを原料として用いる。
本実施形態では、上述したブラックマスを浸出槽、例えば樹脂製の容器に入れ、更にこの容器に水と粉状の水易溶性カルシウム化合物、または水易溶性カルシウム化合物を溶解した水溶液を入れた後、この容器を振盪させる(浸出工程S4)。なお、浸出を行っている間に、湿式粉砕機の中でブラックマスの破砕を行っても良い。
【0034】
水易溶性カルシウム化合物としては、塩化カルシウム(溶解度:74.5g/100mL(20℃))、または硝酸カルシウム(溶解度:121.2g/100mL(20℃))を用いればよい。本実施形態では、水易溶性カルシウム化合物として塩化カルシウムを用いた。
【0035】
なお、この浸出工程S4で用いる硫酸カルシウムは、水難溶性カルシウム化合物と塩酸、または硝酸とを反応させて、塩化カルシウムや硝酸カルシウムを生成する浸出剤生成工程によって予め生成しておくことができる。ここで用いる水難溶性カルシウム化合物としては、例えば、水酸化カルシウム(Ca(OH))が挙げられる。水酸化カルシウムは消石灰として容易に入手できるため、これらを用いて塩化カルシウムや硝酸カルシウムを生成しておくことで、本実施形態のリチウム分離方法における処理コストの低減に寄与する。
【0036】
こうした浸出工程S4によって、下記の式(1)に示すように、ブラックマスに含まれるフッ素(主にフッ化リチウム)は、塩化カルシウムと反応して、水に不溶性のフッ化カルシウム(CaF)(溶解度:0.0016g/100mL(20℃))が生成され、ブラックマスに含まれるフッ素成分の大部分(95wt%以上)が固形物(固相)として沈殿する。一方、ブラックマスに含まれるリチウムは、水に易溶性の塩化リチウム(溶解度:84.5g/100mL(25℃))として水に溶解し、液相に移行する。
2LiF+CaCl→2LiCl(液相)+CaF(固相)・・・(1)
なお、固相には、フッ素成分以外にも、ブラックマスに含まれるマンガン、コバルト、ニッケル、アルミニウムなどの金属の不溶性化合物(例えば金属酸化物)も含まれている。
【0037】
また、浸出工程S4において硝酸カルシウムを用いた場合、ブラックマスに含まれるフッ素(主にフッ化リチウム)との反応は、下記の式(2)に示すようになる。
2LiF+Ca(NO→2LiNO(液相)+CaF(固相)・・・(2)
【0038】
浸出工程S4における塩化カルシウムの添加量は、反応等量の0.5倍以上、2倍以下の範囲であればよい。例えば、水50mLに対して、1.0g以上、3.0g以下の範囲であればよい。塩化カルシウムの添加量が水50mLに対して1.0g未満であると、ブラックマスに含まれるフッ素のうち、フッ化カルシウムとならずに液相に移行するフッ素の量が多くなる懸念がある。また、塩化カルシウムの添加量が水50mLに対して3.0gを超えると、未反応の塩化カルシウムが多くなり、処理コストが増大する懸念がある。
また、スラリー濃度は、100~350g/Lの範囲にあることが望ましい。100g/L未満では浸出液中のリチウム濃度が薄くなり、350g/L以上ではハンドリングが難しくなる。
【0039】
浸出工程S4における反応時の液温は、例えば、10℃以上、80℃以下の範囲であればよい。液温が10℃未満では、反応性が低くなりすぎる懸念がある。また、液温が80℃を超えると、振盪時に水の蒸発量が多くなりすぎる懸念がある。
【0040】
浸出工程S4における浸出槽の振盪時間は、例えば、30分以上、20時間以下の範囲であればよい。振盪時間が30分未満では、ブラックマスに含まれるフッ素が塩化カルシウムと十分に反応しない懸念がある。また、振盪時間を20時間を超えるようにしても、それ以上反応が進まず、処理効率が低下する懸念がある。
【0041】
浸出工程S4における浸出液のpHは、例えば、7.0以上の中性~アルカリ性に保つことが好ましい。pHが7.0未満の酸性になると、固相に含まれる水に不溶性の金属化合物中の金属が液相に溶出する懸念がある。
【0042】
次に、浸出工程S4で得られた反応物の固相と液相とを分離する(固液分離工程S5)。
固液分離は、例えば、濾過装置を用いて、浸出工程S4で得られた固液混合物を濾過することにより、固相と液相とを濾別すればよい。こうした固液分離工程S5によって、ブラックマスに含まれるフッ素の大部分が移行したフッ化カルシウム、およびブラックマスに含まれるマンガン、コバルト、ニッケル、アルミニウムなどの金属の不溶性化合物からなる固相と、フッ素成分を殆ど含まない塩化リチウムが溶解した液相と、をそれぞれ得ることができる。
【0043】
この後、固液分離工程S5によって得られた液相は、水分を蒸発させるなどによって、リチウムイオン電池を製造する際の活物質の原料となる塩化リチウムを製造することができる。
【0044】
一方、固液分離工程S5によって得られた固相は、この後、硫酸および過酸化水素等を用いて浸出を行うことにより、固相に含まれるコバルト、ニッケル、マンガン、銅などの不溶性化合物から、それぞれの金属を溶出させて、回収することができる。
【0045】
以上のように、本実施形態のリチウム分離方法、リチウム分離装置によれば、フッ素を含むリチウム含有材料からリチウムを浸出させる際に、塩化カルシウムや硝酸カルシウムのような水易溶性カルシウム化合物を用いて浸出を行うことによって、水に難溶性のカルシウム化合物を用いた場合と比較して、リチウムの浸出率が高く、効率的にリチウムを浸出させることが可能である。
【0046】
また、リチウム含有材料に含まれるフッ素は、カルシウムと反応して水に不溶性のフッ化カルシウムとして沈殿する。これにより、リチウムが浸出された浸出液(液相)には、フッ素は殆ど含まれないため、後工程でこの液相からリチウムを分離回収する際に、フッ素の混入を低減して、高品位なリチウムを回収することができる。
【0047】
更に、浸出工程において、従来のように水酸化カルシウムを用いた場合、リチウム含有材料にアルミニウムが含まれていると、このアルミニウムが液相に溶出していたが、塩化カルシウムや硝酸カルシウムのような水易溶性カルシウム化合物を用いて浸出を行うことによって、アルミニウムが液相に溶出することを抑制し、高品位なリチウムを回収することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これら実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0049】
本発明のリチウム分離方法の効果を検証した。
フッ素を含むリチウム含有材料として、リサイクル原料として回収されたリチウムイオン電池を焼成後、粉砕、分級して得られたブラックマスを用意した。表1に、本検証例で用いたブラックマスの化学組成(質量%)を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
以下の各試料について、容量100mLの蓋付き樹脂容器にブラックマス7.3g、蒸留水50mLを入れ、更にカルシウム化合物を加えて振盪させた(浸出工程)。その後、容器内の混合物の固液分離を行った(固液分離工程)。そして、分離した沈殿(固相)を蒸留水50mLでケーキ洗浄を行った後、乾燥させて得られた固形分に含まれる元素成分を測定した。元素成分の測定には、iCAP7600Duo(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用いた。
【0052】
(本発明例1)
カルシウム化合物として塩化カルシウムを1.2g添加し、振盪を15時間行った。
(本発明例2)
カルシウム化合物として塩化カルシウムを1.9g添加し、振盪を15時間行った。
(本発明例3)
カルシウム化合物として塩化カルシウムを2.5g添加し、振盪を15時間行った。
(本発明例4)
カルシウム化合物として塩化カルシウムを1.9g添加し、振盪を1時間行った。
(本発明例5)
カルシウム化合物として塩化カルシウムを1.9g添加し、振盪を3時間行った。
(本発明例6)
カルシウム化合物として塩化カルシウムを1.9g添加し、振盪を7.5時間行った。
【0053】
(比較例1)
カルシウム化合物として水酸化カルシウムを0.8g添加し、振盪を15時間行った。
(比較例2)
カルシウム化合物として水酸化カルシウムを1.2g添加し、振盪を15時間行った。
(比較例3)
カルシウム化合物として水酸化カルシウムを1.7g添加し、振盪を15時間行った。
【0054】
本発明例1~6、比較例1~3の固液分離後の液相の元素分析結果を表2に示す。また、本発明例1~6、比較例1~3の固液分離後の固相のケーキ洗浄後の洗浄液の元素分析結果を表3に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
表2、表3に示す結果によれば、カルシウム化合物として水易溶性の塩化カルシウムを用いて浸出を行った本発明例1~6は、固液分離後の液相にフッ素が殆ど含まれておらず、カルシウムと結合して固相として沈殿したことが確認された。一方、水難溶性の水酸化カルシウムを用いて浸出を行った比較例1~3は、固液分離後の液相にフッ素が残留していた。
【0058】
こうした結果から、リチウムを浸出させる際に、本発明のように水易溶性の塩化カルシウムを用いれば、フッ素成分とリチウム成分とを固液分離することができ、後工程での分離が難しいフッ素の含有量が少ないリチウム浸出液が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のリチウム分離方法は、例えば、使用済みのリチウムウムイオン電池に含まれるリチウムを効率的に分離、回収することを可能にし、これにより、リチウムウムイオン電池の製造に必要なリチウム資源をリサイクル利用することができる。従って、産業上の利用可能性を有する。
図1