(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011023
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】ベンゾオキサジン化合物、およびその利用
(51)【国際特許分類】
C07D 265/14 20060101AFI20240118BHJP
C08G 14/073 20060101ALI20240118BHJP
C08L 61/34 20060101ALI20240118BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240118BHJP
C07D 519/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C07D265/14 CSP
C08G14/073 ZAB
C08L61/34
C08K3/013
C07D519/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112686
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】辻 良太郎
【テーマコード(参考)】
4C072
4J002
4J033
【Fターム(参考)】
4C072MM10
4C072UU03
4J002AB012
4J002CC271
4J002DA016
4J002DA026
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002FA046
4J002GQ01
4J002GQ05
4J033FA01
4J033FA04
4J033FA11
4J033HA28
4J033HB03
4J033HB06
(57)【要約】
【課題】容易に分解可能であり、かつ耐熱性および機械強度に優れるベンゾオキサジン化合物およびその利用技術を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るベンゾオキサジン化合物は、特定の化学式で示されるジアシルヒドラジン構造、およびベンゾオキサジン構造を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるジアシルヒドラジン構造、および下記式(2)で示されるベンゾオキサジン構造を有する、ベンゾオキサジン化合物。
【化1】
(式(1)中、R
1は水素、炭素数1~3のアルキル基、またはフェニル基である。)
【化2】
(式(2)中、ベンゼン環は非置換、または、置換基として1価の有機基を有する。ベンゼン環が1価の有機基を複数有する場合、互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
【請求項2】
下記式(3)~(9)のいずれかで示される、請求項1に記載のベンゾオキサジン化合物(下記式(3)~(9)中、R
1は水素、炭素数1~3のアルキル基、またはフェニル基であり、R
2、R
4、R
5、R
7は直結または2価の有機基であり、R
3とR
6は水素または1価の有機基であり、一分子中のR
1~R
7はそれぞれ同一か、あるいは異なっており、nは2以上の整数である。)。
【化3】
【請求項3】
上記式(3)~(9)においてR1が水素、R2が炭素数1~10の2価の有機基、R3が水素、炭素数1~4のアルキル基、またはフェニル基、R4が直結または炭素数1~20の2価の有機基、R5が直結または炭素数1~6の2価の有機基、R6が炭素数3~10の1価の有機基、R7が炭素数6~20の2価の有機基である、請求項2に記載のベンゾオキサジン化合物。
【請求項4】
上記式(3)~(9)においてR1が水素、R2が芳香族基、R3が水素、R4が炭素数1~10の2価の有機基、R5が直結、R6がアリール基であり、R7が炭素数6~20の2価の有機基である、請求項2に記載のベンゾオキサジン化合物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のベンゾオキサジン化合物と、炭素繊維、ガラス繊維、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、クレイ、黒鉛、シリカからなる群より選ばれる一種以上のフィラーとを含む、ベンゾオキサジン樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のベンゾオキサジン化合物を硬化させてなる、ベンゾオキサジン樹脂。
【請求項7】
請求項6に記載のベンゾオキサジン樹脂に酸化剤を作用させて、当該ベンゾオキサジン樹脂を分解する工程を有する、ベンゾオキサジン樹脂のリサイクル方法。
【請求項8】
上記酸化剤が次亜塩素酸塩である、請求項7に記載のベンゾオキサジン樹脂のリサイクル方法。
【請求項9】
下記式(1)のジアシルヒドラジン構造を形成する工程と、
下記式(2)のベンゾオキサジン構造を形成する工程と、を含む、ベンゾオキサジン化合物の製造方法。
【化4】
(式(1)中、R
1は水素、炭素数1~3のアルキル基、またはフェニル基である。)
【化5】
(式(2)中、ベンゼン環は非置換、または、置換基として1価の有機基を有する。ベンゼン環が1価の有機基を複数有する場合、互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
【請求項10】
上記式(1)のジアシルヒドラジン構造を形成する工程は、アシルヒドラジド同士を酸化カップリングする工程を含む、請求項9に記載のベンゾオキサジン化合物の製造方法。
【請求項11】
上記式(1)のジアシルヒドラジン構造を形成する工程は、カルボン酸エステル、またはアシルハライドとヒドラジン化合物とを反応させる工程を含む、請求項9に記載のベンゾオキサジン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベンゾオキサジン化合物、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境破壊の抑制および資源の有効活用のため、使用済みポリマーをリサイクル利用することが求められている。しかし多くの使用済みポリマーは燃焼して熱エネルギーを回収するサーマルリサイクルに供されており、原料を回収して再使用するケミカルリサイクルは普及しているとは言い難い。一般的に、熱硬化性樹脂では強固な架橋構造が内在するため分解および解重合が困難であるとされるが、熱硬化性樹脂を必要に応じて分解可能とする技術がいくつか開発されている。例えば、特許文献1には、エポキシ樹脂の主鎖中にジアシルヒドラジン構造を組み込むことにより、特定の酸化剤で酸化分解可能とする技術が記載されている。
【0003】
ところで、例えば特許文献2に記載されている分子構造中にベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂は、耐熱性、難燃性に加え、寸法安定性、電気絶縁性、及び低吸水性等の、他の熱硬化性樹脂には見られない優れた特性を有するため、積層板、半導体封止材等のエレクトロニクス材料、および摩擦材、砥石等の結合材として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-236381号公報
【特許文献2】特開2011-057961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂について、リサイクル可能な技術はいまだ十分に開発されているとはいえず、新たな技術の開発が求められている。
【0006】
また、従来のベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂は、剛直な構造を有し脆いものが多いため、機械強度の観点から改善の余地があった。加えて、従来の機械強度を改善する方法は、耐熱性の観点から改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明の一態様は、容易に分解可能であり、かつ耐熱性および機械強度に優れるベンゾオキサジン化合物およびその利用技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ベンゾオキサジン化合物にジアシルヒドラジン構造を組み合わせることにより、ベンゾオキサジン環の架橋により強固なポリマー骨格を形成する一方、ジアシルヒドラジン結合により、ベンゾオキサジン化合物が容易に分解可能となることを初めて見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
したがって、本発明の一実施形態に係るベンゾオキサジン化合物(以下、本ベンゾオキサジン化合物とも称する)は、下記式(1)で示されるジアシルヒドラジン構造、および下記式(2)で示されるベンゾオキサジン構造を有する。
【0010】
【0011】
(式(1)中、R1は水素、炭素数1~3のアルキル基、またはフェニル基である。)
【0012】
【0013】
(式(2)中、ベンゼン環は非置換、または、置換基として1価の有機基を有する。ベンゼン環が1価の有機基を複数有する場合、互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、容易に分解可能であり、かつ耐熱性および機械強度に優れるベンゾオキサジン化合物およびその利用技術を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、以下に詳細に説明する。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0016】
〔1.ベンゾオキサジン化合物〕
本ベンゾオキサジン化合物は、下記式(1)で示されるジアシルヒドラジン構造、および下記式(2)で示されるベンゾオキサジン構造を有する。
【0017】
【0018】
(式(1)中、R1は水素、炭素数1~3のアルキル基、またはフェニル基である。)
【0019】
【0020】
(式(2)中、ベンゼン環は非置換、または、置換基として1価の有機基を有する。ベンゼン環が1価の有機基を複数有する場合、互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
本ベンゾオキサジン化合物が上記式(1)および(2)で表される構造を含むことにより、得られるベンゾオキサジン樹脂は容易に分解可能であり、かつ耐熱性および機械強度に優れる。より具体的には、例えば次亜塩素酸塩等の酸化剤により、上記式(1)に示されるジアシルヒドラジン構造が酸化され切断されることにより、ベンゾオキサジン樹脂が分解される。さらに、分解されたベンゾオキサジン樹脂より生成されるカルボン酸から、カルボン酸エステル、またはアシルハライド等を経由して再利用することができる。そのため、本ベンゾオキサジン化合物を硬化させたベンゾオキサジン樹脂は、リサイクルが可能である。
【0021】
本明細書において「容易に分解可能である」とは、次亜塩素酸塩等の、ジアシルヒドラジン構造を分解することができる特定の酸化剤を含む溶液に対して、容易に溶解することを意味する。
【0022】
特許文献1では、エポキシ硬化剤としてジアシルヒドラジン構造を有する化合物を使用し、水酸基またはアミノ基をエポキシ化合物と反応させて架橋することにより硬化させている。こうして得られるエポキシ樹脂は含有するジアシルヒドラジン構造を酸化分解することにより容易にリサイクルすることができる。しかし、ジアシルヒドラジン構造を有するエポキシ樹脂は主鎖構造がリニアで分岐がないため機械強度および耐熱性に劣るという問題があった。本発明者らは熱硬化性ポリマーの基本骨格としてベンゾオキサジンを選択し、ジアシルヒドラジン構造を組み込むことにより、機械強度、耐熱性に優れるベンゾオキサジン系樹脂を、分解およびリサイクル可能とすることに成功した。
【0023】
上記式(1)に示されるジアシルヒドラジン構造を有することにより、ベンゾオキサジン化合物を硬化させてベンゾオキサジン樹脂とした場合に、耐熱性および機械強度を向上させることができる。上述した通り、市販のベンゾオキサジン樹脂の多くは剛直で脆い。このようなベンゾオキサジン樹脂の機械強度を向上させる方法としては、メチレン鎖等の柔軟なユニットを導入する方法、ポリシロキサンおよびエポキシ樹脂とのハイブリッドとする方法等が知られていたが、いずれも耐熱性が低下するという問題があった。
【0024】
一方で、ジアシルヒドラジン構造は柔軟性を有する上、水素結合による分子間ネットワークを形成可能であるため、本ベンゾオキサジン化合物を硬化させたベンゾオキサジン樹脂は、優れた機械強度を有しつつ、耐熱性が低下しない。
【0025】
上述したような構成によれば、得られるベンゾオキサジン樹脂は耐久性に優れ、かつ再利用できるため、持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「持続可能な消費生産形態を確保する」等の達成・実現に貢献することができる。
【0026】
本ベンゾオキサジン化合物は、上記式(1)で示されるジアシルヒドラジン構造を有する。本ベンゾオキサジン化合物1分子中に含まれるジアシルヒドラジン構造の数は特に限定されないが、例えば1~1万個であり、好ましくは1~5千個、より好ましくは1~3千個である。
【0027】
上記式(1)において、R1は水素、炭素数1~3のアルキル基、またはフェニル基であり、好ましくは水素、または炭素数1~3のアルキル基、より好ましくは水素である。上記式(1)中のR1は互いに同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0028】
本ベンゾオキサジン化合物は、上記式(2)で示されるベンゾオキサジン構造を有する。本ベンゾオキサジン化合物1分子中に含まれるベンゾオキサジン構造の数は特に限定されないが、例えば2~2万個であり、好ましくは2~1万個、より好ましくは2~6千個である。
【0029】
上記式(2)において、ベンゼン環は非置換、または、置換基として1価の有機基を有する。上記1価の有機基としては特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、アルコキシ基、シアノ基、アリール基(例えば、フェニル基)、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基等が挙げられる。ベンゼン環が1価の有機基を複数有する場合、それらは互いに結合して環状構造を形成してもよい。そのような構造としては例えば、別のベンゾオキサジン環が縮環した構造が挙げられる。これらの中でも、硬化後の機械強度に優れる観点から、ベンゼン環は非置換、あるいは置換基として炭素数1~4のアルキル基、またはフェニル基、および/または別のベンゾオキサジン環が縮環した構造を有することが好ましい。
【0030】
本ベンゾオキサジン化合物は、合成の容易さおよび得られる硬化物の物性の観点から、好ましくは下記式(3)~(9)のいずれかにより示される構造である。下記式(3)~(9)中、R1は水素、炭素数1~3のアルキル基、またはフェニル基であり、R2、R4、R5、R7は直結または2価の有機基であり、R3とR6は水素または1価の有機基であり、一分子中の複数のR1~R7はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。nは2以上の整数である。なお、本明細書において「直結」とは、単結合を意味する。
【0031】
【0032】
合成の容易さおよび得られる硬化物の物性の点で、上記式(3)~(9)において、好ましい組み合わせは、R1が水素、R2が炭素数1~10の2価の有機基、R3が水素、炭素数1~4のアルキル基、またはフェニル基、R4が直結または炭素数1~20の2価の有機基、R5が直結または炭素数1~6の2価の有機基、R6が炭素数3~10の1価の有機基、R7が炭素数6~20の2価の有機基である。
【0033】
また、合成の容易さおよび得られる硬化物の物性の点で、上記式(3)~(9)において、より好ましい組み合わせは、R1が水素、R2が芳香族基、R3が水素、R4が炭素数1~10の2価の有機基、R5が直結、R6がアリール基である。
【0034】
上記1価の有機基は、上述した通りである。また、上記2価の有機基としては、芳香族基、アルキレン基、およびアルケニレン基等が挙げられる。
【0035】
上記アルキレン基としては例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基等が挙げられる。上記アルケニレン基としては、ビニレン基、1-メチルビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基等が挙げられる。上記芳香族基としては、例えば、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、アントラニレン基、フェナンスリレン基、ピレニレン基、コロニレン基、ターフェニレン基、フラニレン基、チエニレン基、またはフルオレニレン基等が挙げられる。
【0036】
本明細書では、上記芳香族基が、それぞれ2以上の同種の基、もしくは2以上の異種の基同士で、1もしくは2以上の2価の連結基によって結ばれた構造も芳香族基に含まれる。また、上記芳香族基には、非ベンゼン系芳香族基、および複素芳香族基も含まれる。上記2価の連結基としては、アルキレン基、エーテル基、カルボニル基、アミド基、イミノ基、アゾ基、スルフィド基、スルホニル基、スルフィド基、イソプロピリデン基、六フッ素化イソプロピリデン基等が挙げられる。非ベンゼン系芳香族基としては、アヌレン、アズレン、トロポン、メタロセン、その他三員環構造、五員環構造、七員環構造を有する芳香族化合物等が挙げられる。
【0037】
前記芳香族基が置換基を有する場合、その置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、アルコキシ基、シアノ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基等が挙げられる。
【0038】
上記式(4)、(6)~(9)中、nは2以上の整数であり、好ましくは2~1万の整数であり、より好ましくは2~5千の整数であり、さらに好ましくは2~3千の整数である。
【0039】
〔2.ベンゾオキサジン化合物の製造方法〕
本ベンゾオキサジン化合物の製造方法は、下記式(1)のジアシルヒドラジン構造を形成する工程と、下記式(2)のベンゾオキサジン構造を形成する工程と、を含む。下記式(1)および(2)について、R1およびベンゼン環は〔1.ベンゾオキサジン化合物〕において説明した通りである。
【0040】
【0041】
【0042】
上記式(1)のジアシルヒドラジン構造を形成する工程は、公知の方法に従って行うことができる。ジアシルヒドラジン構造を形成する工程は、例えば、アシルヒドラジド同士を酸化カップリングする工程、アシルヒドラジドとアシルハライドとを反応させる工程、あるいはアシルハライドまたはカルボン酸エステルとヒドラジン化合物とを反応させる工程を含み得る。
【0043】
また、上記アシルハライドまたはカルボン酸エステルとヒドラジン化合物とを反応させる工程により、上記アシルヒドラジドを得ることもできる。すなわち、例えばアシルハライドまたはカルボン酸エステルとヒドラジン化合物とを反応させて直接ジアシルヒドラジン構造を形成してもよいし、上記方法によりアシルヒドラジドを形成してから、得られたアシルヒドラジドを酸化カップリングしてジアシルヒドラジン構造を形成してもよい。
【0044】
上記アシルヒドラジド同士を酸化カップリングする方法は特に限定されず、各種酸化剤と反応させる方法を採用できる。このような酸化剤としては例えばペルオキシ一硫酸カリウム、ペルオキシ一硫酸カリウム/硫酸水素カリウム/硫酸カリウムの複塩(デュポン社製オキソン(登録商標))、ペルオキソ二硫酸カリウム、硝酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、硝酸セリウムアンモニウム、酸化クロム、二クロム酸カリウム、過酸化水素、オゾンなどを用いることができる。酸化剤としては、反応性に優れる点でペルオキシ一硫酸カリウム、オキソン(登録商標)、ペルオキソ二硫酸カリウム、硝酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムが好ましく、ペルオキシ一硫酸カリウム、オキソン(登録商標)、ペルオキソ二硫酸カリウム、硝酸カリウムがより好ましい。
【0045】
また、取り扱い性の観点から、上記酸化カップリングは溶媒中で実施されることが好ましい。上記酸化カップリングに使用可能な溶媒としては、例えばクロロホルム、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、水等が挙げられる。
【0046】
上記式(2)のベンゾオキサジン構造を形成する方法は公知の方法に従って行うことができる。そのような方法としては例えば、芳香族水酸基含有化合物とアミンとホルムアルデヒド誘導体とを反応させる方法、芳香族水酸基含有化合物とトリアジン誘導体とホルムアルデヒド誘導体とを反応させる方法等が挙げられる。ここで使用可能な溶媒として、例えばトルエン、1,4-ジオキサン、エタノール、クロロホルム、トルエンとメタノールとの混合溶媒、トルエンとエタノールとの混合溶媒、トルエンとイソブタノールとの混合溶媒、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0047】
上記式(1)の構造、および上記式(2)の構造を形成する順番は特に限定されない。すなわち、式(1)の構造を形成してから式(2)の構造を形成してもよいし、式(2)の構造を形成してから式(1)の構造を形成してもよいし、式(1)および(2)の構造を同時に形成してもよい。
【0048】
なお、アシルヒドラジドを経由して本ベンゾオキサジン化合物を製造する場合、まずアシルヒドラジドをジアシルヒドラジンに変換して上記式(1)の構造を形成した後に、上記式(2)の構造を形成することが好ましい。上記の順番であれば、アシルヒドラジド末端のアミノ基が、フェノール性水酸基と反応する等の副反応を抑制できる。
【0049】
上記ヒドラジン化合物としては例えば、例えばヒドラジン(無水)、ヒドラジン一水和物、ヒドラジン一塩酸塩、ヒドラジン二塩酸塩等が挙げられる。上記アシルヒドラジドとしては例えば、4-アミノベンゾヒドラジド、サリチルヒドラジド、4-ヒドロキシベンゾヒドラジド、2-アミノベンゾヒドラジドおよび各種アミノ酸から誘導されるアミノ基含有アシルヒドラジド等が挙げられる。上記アシルハライドとしては例えば、4-アミノ安息香酸クロリド、4-ヒドロキシ安息香酸クロリド、サリチル酸クロリド、5-クロロサリチル酸クロリド、および各種アミノ酸から誘導されるアミノ基含有アシルハライド等が挙げられる。
【0050】
芳香族水酸基含有化合物としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-オクチルフェノール、p-クミルフェノール、ドデシルフェノール、o-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール、1-ナフトール、2-ナフトール、m-メトキシフェノール、p-メトキシフェノール、m-エトキシフェノール、p-エトキシフェノール、3,4-ジメチルフェノール、3,5-ジメチルフェノール、ジヒドロキシジフェニルメタン化合物、ジヒドロキシジフェニルエタン化合物、ジヒドロキシジフェニルプロパン化合物、ジヒドロキシジフェニルブタン化合物、ジヒドロキシジフェニルシクロヘキサン化合物、その他のジヒドロキシフェニル化合物等が挙げられる。
【0051】
上記アミンとしては、アニリン、4,4’-(1、3-フェニレンジオキシ)ジアニリン、4,4’-オキシジアニリン、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、3-(アミノメチル)ベンジルアミン、4-(アミノメチル)ベンジルアミン、3,3’-スルホニルジアニリン、4,4’-スルホニルジアニリン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、および4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン等が挙げられる。
【0052】
上記トリアジン誘導体としては例えば、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリフェニル-1,3,5-トリアジン等、上記アミンから誘導されるヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン化合物が挙げられる。
【0053】
上記ホルムアルデヒド誘導体としては例えば、ホルムアルデヒドの重合体であるパラホルムアルデヒド、または水溶液の形態であるホルマリンなどが挙げられる。
【0054】
なお、式(1)の構造を形成してから式(2)の構造を形成する場合、上記アミンとしてアミノ基を有するジアシルヒドラジンを用いてもよく、上記芳香族水酸基含有化合物として芳香族基および水酸基を有するジアシルヒドラジンを用いてもよい。
【0055】
〔3.ベンゾオキサジン樹脂組成物〕
本発明のベンゾオキサジン化合物は単独で硬化物として使用しても良いが、各種フィラー、繊維、ポリマー等とコンポジット化してベンゾオキサジン樹脂組成物とすると、耐熱性および強度を向上できる点で好ましい。
【0056】
本発明の一実施形態に係るベンゾオキサジン樹脂組成物(以下、本ベンゾオキサジン樹脂組成物とも称する。)は、本ベンゾオキサジン化合物と、炭素繊維、ガラス繊維、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、クレイ、黒鉛、シリカからなる群より選ばれる一種以上のフィラーとを含む。上記フィラーは、1種類のみを配合してもよいし、複数種類を配合してもよい。得られるベンゾオキサジン樹脂の物性が向上する観点から、上記フィラーは、好ましくは炭素繊維、ガラス繊維、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバーであり、より好ましくは炭素繊維である。炭素繊維は高価であるが、本ベンゾオキサジン化合物とコンポジット化させた場合、回収して再利用できる。
【0057】
本ベンゾオキサジン化合物とフィラーとを混合する方法は特に限定されず、例えばベンゾオキサジン化合物を加熱溶融して混合してもよいし、溶媒を用いて、ベンゾオキサジン化合物を溶解させた状態で混合し、後に溶媒を蒸発除去させてもよい。
【0058】
また、フィラーとして炭素繊維を使用する場合、一般的に炭素繊維にはサイジング処理が施されているが、そのまま用いても良く、必要に応じて、サイジング剤使用量の少ない繊維を用いてもよいし、有機溶剤処理、または加熱処理などの既存の方法にてサイジング剤を除去することも出来る。また、あらかじめ炭素繊維の繊維束をエアーまたはローラーなどを用いて開繊し、炭素繊維の単糸間に樹脂を含浸させやすくするような処理を施してもよい。
【0059】
本ベンゾオキサジン化合物は、ベンゾオキサジン構造を有するその他のポリマー(ベンゾオキサジンポリマー)と混合してから硬化させてもよい。本ベンゾオキサジン化合物100重量部に対して、その他のベンゾオキサジンポリマーの含有量は、1~1000重量部が好ましく、10~500重量部がより好ましく、20~200重量部がさらに好ましい。本ベンゾオキサジン化合物は、その他のベンゾオキサジンポリマーと混合することにより、硬化物の物性を向上できる。
【0060】
本ベンゾオキサジン樹脂組成物は、必要に応じて充填材、離型剤、難燃剤、着色剤、カップリング剤等を含んでいてもよい。これらは本ベンゾオキサジン樹脂組成物を製造する際に混合してもよいし、本ベンゾオキサジン樹脂組成物を硬化させる際に混合してもよい。
【0061】
〔4.ベンゾオキサジン樹脂〕
本発明の一実施形態に係るベンゾオキサジン樹脂(以下、本ベンゾオキサジン樹脂とも称する。)は、本ベンゾオキサジン化合物または本ベンゾオキサジン樹脂組成物を硬化させてなる。
【0062】
本ベンゾオキサジン化合物または本ベンゾオキサジン樹脂組成物を硬化させる方法は特に限定されないが、例えば加熱により硬化させて使用することができる。加熱条件は特に制限されないが、ベンゾオキサジンの開環による架橋反応が十分進行する点で100℃~300℃の温度範囲で10分~5時間加熱する方法が好ましく、150℃~250℃の温度範囲で30分~3時間加熱する方法がより好ましい。また、加熱は一度に行ってもよいし、複数回に分けて行ってもよい。加熱を複数回行う場合であっても、加熱温度、および時間は一定である必要はない。
【0063】
本ベンゾオキサジン樹脂の引張破断強度は、20MPa以上が好ましく、25MPa以上がより好ましく、30MPa以上がさらに好ましい。上記引張破断強度は、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0064】
本ベンゾオキサジン樹脂は、電子部品、プリント配線板用積層板およびプリント配線板、半導体封止材料、半導体搭載モジュール等の電子材料、自動車または車輛、航空機部品、建築部材、工作機械等に好適に用いることができる。
【0065】
〔5.リサイクル方法〕
本発明の一態様は、本ベンゾオキサジン樹脂に酸化剤を作用させて、ベンゾオキサジン樹脂を分解する工程を有する、ベンゾオキサジン樹脂のリサイクル方法である。本ベンゾオキサジン樹脂は、酸化剤を作用させることによりジアシルヒドラジン部分を切断することが可能であり、これにより容易に分解することができる。分解された本ベンゾオキサジン樹脂は、溶媒への溶解、加熱溶融等が可能となるため、様々な方法によりリサイクルできる。したがって、「本ベンゾオキサジン樹脂が分解可能である」ことは、「本ベンゾオキサジン樹脂がリサイクル可能である」と換言できる。
【0066】
上記酸化剤としては例えば、過酸化水素、酸化窒素(例えば、一酸化二窒素、一酸化窒素、二酸化窒素)、塩素、酸化塩素(例えば、一酸化二塩素、二酸化一塩素、七酸化二塩素)、次亜塩素酸塩が挙げられる。これらの中でも、次亜塩素酸塩が分解効率の点で好ましい。
【0067】
具体的なリサイクル方法としては例えば、炭素繊維を配合し、炭素繊維強化プラスチックとして使用した本ベンゾオキサジン樹脂を次亜塩素酸塩により分解する。これにより、本ベンゾオキサジン樹脂に含まれる炭素繊維を回収できる。さらに、分解された本ベンゾオキサジン樹脂は、ジアシルヒドラジン部分が切断されているため、カルボキシル基を有する。そのため、本ベンゾオキサジン樹脂が溶解した溶液から炭素繊維を回収した後、カルボン酸からカルボン酸エステル、またはアシルハライド等を経由することにより、再びポリマーとして使用することができる。
【0068】
本ベンゾオキサジン樹脂をリサイクルする場合、再びジアシルヒドラジン結合を有するベンゾオキサジン樹脂としてもよいし、エステル結合を再生してベンゾオキサジン樹脂以外のポリマーとしてもよい。例えば、上述したカルボン酸エステル、またはアシルハライドを生成した後に、ヒドラジン化合物と反応させて、ジアシルヒドラジン結合を再生すると、再びベンゾオキサジン樹脂として利用することができる。また、本ベンゾオキサジン樹脂の分解物から得ることが可能な、ベンゾオキサジン樹脂以外のポリマーとしては例えば、ポリエステルおよびポリアミド等が挙げられる。
【0069】
上記次亜塩素酸塩としては特に制限されず、例えば次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、およびこれらの水溶液が挙げられる。入手性の観点から、好ましくは次亜塩素酸ナトリウム水溶液である。
【0070】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0071】
〔6.その他〕
本発明は以下の構成を含む。
<1>下記式(1)で示されるジアシルヒドラジン構造、および下記式(2)で示されるベンゾオキサジン構造を有する、ベンゾオキサジン化合物。
【0072】
【0073】
(式(1)中、R1は水素、炭素数1~3のアルキル基、またはフェニル基である。)
【0074】
【0075】
(式(2)中、ベンゼン環は非置換、または、置換基として1価の有機基を有する。ベンゼン環が1価の有機基を複数有する場合、互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
<2>下記式(3)~(9)のいずれかで示される、請求項1に記載のベンゾオキサジン化合物(下記式(3)~(9)中、R1は水素、炭素数1~3のアルキル基、またはフェニル基であり、R2、R4、R5、R7は直結または2価の有機基であり、R3とR6は水素または1価の有機基であり、一分子中のR1~R7はそれぞれ同一か、あるいは異なっており、nは2以上の整数である。)。
【0076】
【0077】
<3>上記式(3)~(9)においてR1が水素、R2が炭素数1~10の2価の有機基、R3が水素、炭素数1~4のアルキル基、またはフェニル基、R4が直結または炭素数1~20の2価の有機基、R5が直結または炭素数1~6の2価の有機基、R6が炭素数3~10の1価の有機基、R7が炭素数6~20の2価の有機基である、<2>に記載のベンゾオキサジン化合物。
<4>上記式(3)~(9)においてR1が水素、R2が芳香族基、R3が水素、R4が炭素数1~10の2価の有機基、R5が直結、R6がアリール基であり、R7が炭素数6~20の2価の有機基である、<2>または<3>に記載のベンゾオキサジン化合物。
<5><1>~<4>のいずれかに記載のベンゾオキサジン化合物と、炭素繊維、ガラス繊維、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、クレイ、黒鉛、シリカからなる群より選ばれる一種以上のフィラーとを含む、ベンゾオキサジン樹脂組成物。
<6><1>~<4>のいずれかに記載のベンゾオキサジン化合物、または<5>に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物を硬化させてなる、ベンゾオキサジン樹脂。
<7><6>に記載のベンゾオキサジン樹脂に酸化剤を作用させて、当該ベンゾオキサジン樹脂を分解する工程を有する、ベンゾオキサジン樹脂のリサイクル方法。
<8>上記酸化剤が次亜塩素酸塩である、<7>に記載のベンゾオキサジン樹脂のリサイクル方法。
<9>下記式(1)のジアシルヒドラジン構造を形成する工程と、下記式(2)のベンゾオキサジン構造を形成する工程と、を含む。
【0078】
【0079】
(式(1)中、R1は水素、炭素数1~3のアルキル基、またはフェニル基である。)
【0080】
【0081】
(式(2)中、ベンゼン環は非置換、または、置換基として1価の有機基を有する。ベンゼン環が1価の有機基を複数有する場合、互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
<10>上記式(1)のジアシルヒドラジン構造を形成する工程は、アシルヒドラジド同士を酸化カップリングする工程を含む、<9>に記載のベンゾオキサジン化合物の製造方法。
<11>上記式(1)のジアシルヒドラジン構造を形成する工程は、カルボン酸エステル、またはアシルハライドとヒドラジン化合物とを反応させる工程を含む、<9>に記載のベンゾオキサジン化合物の製造方法。
【実施例0082】
以下に本発明の一実施形態を説明するための実施例および比較例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。実施例中、ベンゾオキサジン化合物、またはベンゾオキサジン樹脂組成物を硬化させたベンゾオキサジン樹脂を、「硬化フィルム」と記載する。また、ベンゾオキサジン化合物を単に「化合物」と記載する場合がある。
【0083】
〔試験方法〕
(引張試験)
硬化フィルムの力学特性は引張試験装置(島津製作所社製、EZ-SX)を用いて評価した。試験温度は室温とし、引張速度5mm/min、試験片形状は長さ40mm、幅3mm、厚さ0.1mmとした。10サンプルを測定して平均値をとり、引張弾性率(tensile modulus)、引張破断強度(tensile strength)、引張破断伸び率(elongation)を求めた。
【0084】
(熱分析)
硬化フィルムの熱分析は示差走査熱量測定装置(DSC、日立ハイテクサイエンス社製、DSC7000X)を用いて行った。窒素流量40mL/minの下、5℃/minの昇温条件で400℃まで加熱し、DSC曲線におけるベースラインシフトから硬化フィルムのガラス転移温度(Tg)を算出した。Tgが高いほど硬化フィルムの耐熱性が高いと言える。
【0085】
〔実施例1〕
サリチルヒドラジド(0.500g)、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリフェニル-1,3,5-トリアジン(0.330g)、パラホルムアルデヒド(0.096g)、トルエン(7.14g)を50mLナス型フラスコに入れ、ナス型フラスコに還流冷却管を装着した。ナス型フラスコ内の混合物をマグネチックスターラーで撹拌しながら115℃/20時間加熱した。これにより、ベンゾオキサジン環を有するアシルヒドラジドを得た。溶媒を減圧除去した後、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)(2.8g)、アセトニトリル(2.8g)、水(2.8g)、オキソン(登録商標)一過硫酸塩化物(1.725g)(デュポン社製)を加え室温で8時間撹拌した。得られた沈殿をろ過、水で洗浄し、減圧乾燥して上記アシルヒドラジドの酸化カップリング体、すなわちジアシルヒドラジン構造と2つのベンゾオキサジン環を有する化合物1(0.503g)を褐色粉末として得た。化合物1を得るための具体的な反応式を、下記式(10)に示す。
【0086】
【0087】
得られた化合物1の粉末を、190℃/2MPa/1時間、その後220℃/2MPa/30分の条件でホットプレスし、硬化フィルムを作製した。得られた硬化フィルムのTgは210℃であった。この硬化フィルムを1,4-ジオキサンに入れ、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えると、硬化フィルムは泡を出しながら溶解した。
【0088】
〔実施例2〕
サリチルヒドラジド(0.500g)をNMP(2.0g)、アセトニトリル(2.0g)、純水(2.0g)の混合溶媒に溶解し、オキソン(登録商標)一過硫酸塩化合物(2.21g)を加えて室温で24時間撹拌した。得られた混合物をろ過し、ろ紙上の固体を水およびメタノールで洗浄後、減圧乾燥した。これにより、サリチルヒドラジドの酸化カップリング体を粉末として得た。得られた粉末(0.200g)を50mL3つ口フラスコに入れ、トルエン(2.0g)、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリフェニル-1,3,5-トリアジン(0.155g)、パラホルムアルデヒド(0.045g)を添加し、110℃で3時間加熱撹拌したところ、反応混合物である、ゼリー状の化合物2が得られた。化合物2を得るための具体的な反応式を、下記式(11)に示す。
【0089】
【0090】
得られた化合物2をテフロン(登録商標)シート上に取り出し、ホットプレートで60℃/7時間加熱し、さらに減圧乾燥してトルエンを揮発させた。乾燥させた化合物2を、190℃/2MPa/1時間、その後220℃/2MPa/30分の条件でホットプレスし、硬化フィルムを作製した。得られた硬化フィルムのTgは212℃であった。この硬化フィルムを1,4-ジオキサンに入れ、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えると泡を出しながら溶解した。
【0091】
〔実施例3〕
4-ヒドロキシベンゾヒドラジド(0.500g)をNMP(2.0g)、アセトニトリル(2.0g)、純水(2.0g)の混合溶媒に入れ、撹拌しながらオキソン(登録商標)一過硫酸塩化合物(2.02g)を添加し、室温で24時間撹拌して反応混合物を得た。反応混合物をろ過し、ろ紙上の固体を水およびメタノールで洗浄し、減圧乾燥した。これにより、4-ヒドロキシベンゾヒドラジドの酸化カップリング体を固体として得た。得られた固体(0.137g)を50mLナス型フラスコに入れ、NMP(2.0g)、1,4-ジオキサン(6.7g)、4,4’-(1、3-フェニレンジオキシ)ジアニリン(0.146g)、パラホルムアルデヒド(0.061g)を加えて60℃で12時間加熱撹拌した。反応混合物を純水50mLに加えて得られた白色沈殿をろ過し、水で洗浄後、減圧乾燥して、化合物3を得た。化合物3の具体的な反応式を、下記(12)に示す。
【0092】
【0093】
得られた化合物3の固体を190℃/2MPa/1時間、その後220℃/2MPa/30分の条件でホットプレスし、硬化フィルムを作製した。得られた硬化フィルムを1,4-ジオキサンに入れ、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えると泡を出しながら溶解した。この硬化フィルムの力学特性評価を引張試験により実施した。引張弾性率1.27GPa、引張破断強度39.5MPa、引張破断伸び率2.3%であった。硬化フィルムのTgは238℃であった。
【0094】
〔実施例4〕
4-アミノベンゾヒドラジド(0.500g)をナス型フラスコに入れ、NMP(6.08g)を加えて溶解させた。ここにオキソン(登録商標)一過硫酸塩化合物(1.97g)を純水(7.11g)に溶解させた液を添加し、室温で3時間撹拌して反応混合物を得た。反応混合物に純水(50mL)加えてろ過し、沈殿をさらに純水で洗浄後、減圧乾燥することにより、4-アミノベンゾヒドラジドの酸化カップリング体を黄褐色粉末として得た(0.412g、収率92.2%)。得られた粉末(0.410g)をナス型フラスコに入れDMSO(18.0g)を加えて溶解させた。ここにパラホルムアルデヒド(0.186g)とフェノール(0.290g)を加え、70℃で15時間加熱撹拌した。反応混合物をテフロン(登録商標)シート上に移して150℃/3時間加熱して黒褐色固体の化合物4を得た。化合物4を得るための具体的な反応式を、下記式(13)に示す。
【0095】
【0096】
得られた化合物4の固体をさらに190℃/2MPa/1時間、その後220℃/2MPa/30分の条件でホットプレスし、硬化フィルムを作製した。得られた硬化フィルムを1,4-ジオキサンに入れて次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えたところ発泡しながら溶解した。この硬化フィルムの力学特性評価を引張試験により実施した。引張弾性率1.18GPa、引張破断強度46.2MPa、引張破断伸び率2.5%であった。硬化フィルムのTgは229℃であった。
【0097】
〔実施例5〕
4-アミノベンゾヒドラジド(0.503g)をスクリュー管に入れ、NMP(2.02g)、アセトニトリル(2.01g)を加えて溶解させた。ここにオキソン(登録商標)一過硫酸塩化合物(1.98g)を純水(3.99g)に懸濁させた液を添加し、室温で24時間撹拌して反応混合物を得た。反応混合物に純水(36mL)を加えてろ過し、沈殿をさらに純水で洗浄後、減圧乾燥することにより、4-アミノベンゾヒドラジドの酸化カップリング体を黄褐色粉末として得た(0.411g、収率94.2%)。得られたカップリング体の粉末(0.403g)をナス型フラスコに入れクロロホルム(16.6g)を加えて溶解させた。ここにパラホルムアルデヒド(0.178g)とフェノール(0.283g)を加え、室温で1時間、55℃で16時間加熱撹拌した。反応混合物をテフロン(登録商標)シート上に移して60℃にて5時間加熱して、化合物5の黒褐色固体を得た。化合物5を得るための具体的な反応式は、上記式(13)と同一である。
【0098】
化合物5の固体をさらに190℃/2MPa/1時間、その後220℃/2MPa/30分の条件でホットプレスし、硬化フィルムを作製した。得られた硬化フィルムを1,4-ジオキサンに入れて次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えたところ発泡しながら溶解した。この硬化フィルムの力学特性評価を引張試験により実施した。引張弾性率1.75GPa、引張破断強度45.5MPa、引張破断伸び率2.1%であった。硬化フィルムのTgは226℃であった。
【0099】
(製造例1)
ビスフェノールA(BPA)(10.0g)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)(18.0g)、パラホルムアルデヒド(5.8g)を100mLナス型フラスコに入れ、クロロホルム(60mL)を加えて50℃で8時間撹拌した。クロロホルムを減圧除去し、BPAとBAPPがオキサジン環で結合したベンゾオキサジンポリマーを白色固体として得た(29.0g、収率86.5%)。上記ベンゾオキサジンポリマーを得るための具体的な反応式を、下記式(14)に示す。
【0100】
【0101】
〔実施例6〕
4-ヒドロキシベンゾヒドラジド(2.00g)を100mLナス型フラスコに入れ、N-メチル-2-ピロリドン(8.0g)、アセトニトリル(8.0g)を加えて室温で撹拌した。ここに純水(8.0g)を入れ、オキソン(登録商標)一過硫酸塩化合物(8.08g)を固体のままゆっくり加えた。室温で8時間撹拌した後、溶媒を減圧除去することにより、4-ヒドロキシベンゾヒドラジドの酸化カップリング体を黄白色固体として得た。得られた黄白色固体に1,4-ジオキサン(60.1g)を入れて撹拌しながらパラホルムアルデヒド(1.58g)とアニリン(2.48g)を添加して、80℃で7時間撹拌した。室温まで冷却後、内容物を純水(300mL)で2回洗浄し、得られた橙色固体を減圧乾燥して、化合物6を得た。化合物6を得るための具体的な反応式を、下記式(15)に示す。
【0102】
【0103】
得られた化合物6(0.16g)と製造例1のベンゾオキサジンポリマー(0.60g)を固体のまま乳鉢で混合し、さらに190℃/2MPa/1時間、その後220℃/2MPa/30分の条件でホットプレスし、硬化フィルムを作製した。得られた硬化フィルムを1,4-ジオキサンに入れて次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えたところ発泡しながら溶解した。この硬化フィルムの力学特性評価を引張試験により実施した。引張弾性率1.86GPa、引張破断強度31.2MPa、引張破断伸び率1.8%であった。硬化フィルムのTgは232℃であった。
【0104】
〔実施例7〕
実施例6で合成した化合物6(0.30g)と製造例1のベンゾオキサジンポリマー(0.50g)を固体のまま乳鉢で混合し、さらに190℃/2MPa/1時間、その後220℃/2MPa/30分の条件でホットプレスし、硬化フィルムを作製した。得られた硬化フィルムを1,4-ジオキサンに入れて次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えたところ発泡しながら溶解した。この硬化フィルムの力学特性評価を引張試験により実施した。引張弾性率1.98GPa、引張破断強度37.8MPa、引張破断伸び率2.1%であった。硬化フィルムのTgは230℃であった。
【0105】
〔実施例8〕
実施例6で合成した化合物6(0.50g)と製造例1のベンゾオキサジンポリマー(0.50g)を固体のまま乳鉢で混合し、さらに190℃/2MPa/1時間、その後220℃/2MPa/30分の条件でホットプレスし、硬化フィルムを作製した。得られた硬化フィルムを1,4-ジオキサンに入れて次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えたところ発泡しながら溶解した。この硬化フィルムの力学特性評価を引張試験により実施した。引張弾性率1.27GPa、引張破断強度39.5MPa、引張破断伸び率2.3%であった。硬化フィルムのTgは225℃であった。
【0106】
〔比較例1〕
市販品のベンゾオキサジンモノマーP-d(四国化成工業(株)製)(0.90g)を100℃/10分加熱した後、すぐに190℃/2MPa/1時間、その後220℃/2MPa/30分の条件でホットプレスし、硬化フィルムを作製した。得られた硬化フィルムを1,4-ジオキサンに入れて次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えたが変化は認められなかった。この硬化フィルムの力学特性評価を引張試験により実施した。引張弾性率2.17GPa、引張破断強度11.7MPa、引張破断伸び率0.6%であった。硬化フィルムのTgは181℃であった。比較例1の化合物の化学式は下記式(16)に示す。
【0107】
【0108】
〔比較例2〕
4-ヒドロキシベンズアルデヒド(0.367g)、パラホルムアルデヒド(0.090g)、4,4’-(1、3―フェニレンジオキシ)ジアニリン(0.439g)を1,4-ジオキサン(4mL)に加えて室温で5時間撹拌し、その後80℃で5時間加熱して懸濁液を得た。得られた懸濁液をテフロン(登録商標)シート上で乾燥させ、さらに190℃/2MPa/1時間、その後220℃/2MPa/30分の条件でホットプレスし、硬化フィルムを作製した。得られた硬化フィルムを1,4-ジオキサンに入れて次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えたが変化は認められなかった。この硬化フィルムの力学特性評価を引張試験により実施した。引張弾性率0.51GPa、引張破断強度5.6MPa、引張破断伸び率0.6%であった。硬化フィルムのTgは201℃であった。比較例2の化合物の化学式は下記式(17)に示す。
【0109】
【0110】
実施例1~8、および比較例1、2の試験結果を表1に示す。なお、表1中の「-」とは、試験を実施しなかったことを意味する。
【0111】
【0112】
表1より、比較例1および2の硬化フィルムは、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸しても溶解しなかった。一方で実施例1~8の硬化フィルムはいずれも次亜塩素酸ナトリウム水溶液に対して溶解した。また、実施例1~8の硬化フィルムは、ジアシルヒドラジン構造を有さない比較例1、2に対して、引張破断強度、引張破断伸び率において優れており、引張弾性率についても高い値を示した。さらに、実施例1~8の硬化フィルムは、比較例1~2に対して、Tgについても高い値を示した。したがって、本ベンゾオキサジン樹脂は容易に分解可能であり、かつ耐熱性および機械強度に優れることがわかった。
本発明は、電子部品、プリント配線板用積層板およびプリント配線板、半導体封止材料、半導体搭載モジュール等の電子材料、自動車または車輛、航空機部品、建築部材、工作機械等に好適に利用することができる。